説明

パイ菓子およびその製造方法

【課題】
各層の厚さが一定であるパイ生地を使用して、層断面が放射状であるパイ菓子を作ることができるパイ菓子の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明にかかるパイ菓子の製造方法は、焼型5に多層のパイ生地1を配置する配置工程と、焼型に配置されたパイ生地1を焼型5ごとオーブンで焼く焼成工程とを備えたパイ菓子の製造方法である。そして、焼型5は上部が開口しており、所定縦断面に表れる内壁面の形状が弧状である。配置工程においては、焼型5の所定縦断面に、積層方向が水平方向に略一致するパイ生地層断面が表れるように、パイ生地1を焼型5に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイ菓子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイ菓子の魅力の1つは、その食感にある。特に折パイと呼ばれるパイ菓子は、薄いパイ組織が何重にも積層することで形成されており、パイ組織が壊れることにより独特の食感を得ることができる。折パイは、小麦粉、塩、および水を混ぜて作ったデトランプにバターを塗り、何層にも重ねてパイ生地を作り、これをオーブンで焼いて作ることができる。パイ生地は、デトランプが平行に並んで層を形成していることから、これをオーブンで焼くと、そのまま積層方向にパイ生地が膨らみ、パイ組織が平行に並んだ状態になる。このように、通常のパイ菓子(特に折パイ)はパイ組織が平行に積層されている。つまり、バイ菓子の独特の食感は、パイ組織が平行に並んでいるからこそ得られるものである(特許文献1参照)。
【特許文献1】実開2005−333847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
換言すれば、パイ菓子のパイ組織が平行に積層していなければ、従来のパイ菓子と異なる食感を得ることができる。例えば、パイ組織が放射状に並ぶパイ菓子によれば、今までにない食感を得ることができる。ここで、パイ組織が放射状に積層するパイ菓子を作る方法として、一端側から他端側に厚さの勾配を設けたデトランプを積層して扇状のパイ生地を作り、これを通常の方法で焼成するという方法が考えられる。ところが、折パイのパイ生地は、数百層にもなるデトランプから構成されており、各デトランプの厚さを調節するのは、現実的には不可能である。
【0004】
そこで本発明は、各層の厚さが一定であるパイ生地を使用して、層断面が放射状であるパイ菓子を作ることができるパイ菓子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明にかかるパイ菓子の製造方法は、焼型に多層のパイ生地を配置する配置工程と、該焼型に配置された該パイ生地を該焼型ごとオーブンで焼く焼成工程とを備えたパイ菓子の製造方法であって、該焼型は上部が開口しており、該焼型の所定縦断面に表れる内壁面の形状が弧状であり、該配置工程においては、該焼型の該所定縦断面に、積層方向が水平方向に略一致するパイ生地層断面が表れるように、該パイ生地を該焼型に配置する(請求項1)。
【0006】
かかる構成によれば、焼型の内壁面側からパイ生地に熱が加えられることにより、パイ生地の焼型の内壁面に近い部分を大きく膨らませることができる。そのため、内壁面から最も遠い焼型の上部を要とする扇状にパイ生地を膨らませることができる。
【0007】
また、上記パイ菓子の製造方法において、該配置工程において、該パイ生地を、該焼型の該所定縦断面における水平方向略中央部に配置するようにしてもよい(請求項2)。かかる構成によれば、所定断面において、パイ生地を左右対称に膨らませることができる。よって、左右の密度が均一で、見た目にもきれいなパイ菓子にすることができる。
【0008】
また、上記パイ菓子の製造方法において、該焼型の内壁面形状が略半球面形状としてもよい(請求項3)。かかる構成によれば、パイ生地を略半球面形状に膨らませることができる。よって、焼き上がったパイ菓子の外形を半球状にすることができる。
【0009】
また、上記パイ菓子の製造方法において、該焼型が合成樹脂製の焼型としてもよい(請求項4)。かかる構成によれば、焼型が断熱材の役割を果たすことができる。よって、パイ生地に熱を加えつつ、焼型に接する部分を焦がさないようにすることができる。
【0010】
また、上記パイ菓子の製造方法において、該焼成工程においては、該焼型の上部の開口を、下面が平面状の蓋で塞いだ状態で、該パイ生地を焼くようにしてもよい(請求項5)。かかる構成によれば、蓋によって焼型の上部を超えて膨らもうとするパイ生地が抑えられ、蓋に接するパイ生地を平面状にすることができる。よって、パイ菓子の焼型の上部に対応する部分が、いびつな形状になるのを防ぐことができる。
【0011】
さらに、上記課題を解決するため、本発明にかかるパイ菓子は、上記パイ菓子の製造方法によって製造し(請求項6)、又は/及び、層断面が放射状に形成されるようにしてもよい(請求項7)。
【発明の効果】
【0012】
本願発明にかかるパイ菓子の製造方法は、内壁面から最も遠い焼型の上部を要とする扇状にパイ生地を膨らませることができる。そのため、各層の厚さが一定であるパイ生地を使用して、層断面が放射状であるパイ菓子を作ることができるパイ菓子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明にかかるパイ菓子1Aの製造方法を実施するための最良の形態について、図1〜8を参照しつつ以下に説明する。
【0014】
本実施形態にかかるパイ菓子1Aの製造方法は、準備工程と、配置工程と、焼成工程と、仕上げ工程とを備えている。各工程について以下に説明する。
【0015】
準備工程は、パイ生地1を所定の形状に形成する工程である。まず、通常の折パイ生地を作る要領でパイ生地1を作っていく。パイ生地1はデトランプが432層になるように折込んでいく。パイ生地1を作った後は、1日冷蔵庫に入れて休ませる。1日休ませたパイ生地1を冷蔵庫から取り出し、ローラーで数回に分けて、厚さが11mmになるまで伸ばす。パイ生地1の厚さは、焼型5の大きさによって調整する。例えば、焼型5が大きくなれば、パイ生地1も厚くしなければならない。パイ生地1を伸ばした後は、1時間以上休ませる。図1及び2は、パイ生地1を形成する工程を示した図である。休ませたパイ生地1は、図1に示すように丸型2で抜いていく。抜いたパイ生地1は、図2に示すように2つに切って、半円状になるようにする。このとき、断裁面3、4をつぶさないように注意する。断裁面3、4がつぶれて、上下のデトラップが一体となってしまえば、パイ生地1がうまく膨らまなくなるからである。なお、パイ生地1の重さは、1個あたりおよそ15gになるようにする。パイ生地1を形成した後は、パイ生地1を中心が凍るまで冷凍庫で休ませる。以上が準備工程である。
【0016】
配置工程は、準備工程で作った多層のパイ生地1を焼型5に配置する工程である。図3は、焼型5にパイ生地1を配置した図である。図3に示すように、パイ生地1の平面状の断裁面3が、焼型5の上部に位置するように、かつ、曲面状の断裁面4が焼型5の内壁面6に当接するようにパイ生地1を焼型5に配置する。なお、パイ生地1の中心は凍ったままである。焼型5は、内壁面6が略半球面形状であって、上部が開口している。また、焼型5は合成樹脂で作られており、耐熱効果を発揮することができる。本実施形態では、焼型5としてフレキシパンを使用する。フレキシパンは、お菓子作りに使用される型で、耐熱性のゴムで作られている。焼型5の直径は60mmのものを使用する。パイ生地の直径が60mmであるため、パイ生地1を焼型5の内壁面6にぴったりと配置することができる。図4は、図3の状態のパイ生地1の中央縦断面図であって、そこにパイ生地1の層断面が現れている。図4に示すように、焼型5の縦断面に表れる内壁面6の形状が弧状(半円状)となっている。また、積層方向が水平方向に略一致するパイ生地層断面が表れるように、パイ生地1を焼型5に配置されている。さらに、パイ生地1は水平方向略中央部に配置されている。
【0017】
図5は、オーブンに入れる前の焼型5の状態を表わした図である。パイ生地1を焼型5に配置した後は、図5に示すように、焼型5をセルクル7に乗せ、蓋8をかぶせて上部の開口を塞いだ状態にする。セルクル7は金属製であって、その形状は直径60mmで高さが40mmの円筒形状である。焼型5の深さは、およそ30mmであるため、高さ40mmのセルクル7に乗せると焼型5の底は浮いた状態になる。また、蓋8は厚さ約3mmのアルミ板であって、蓋8の下面は平面状になっている。なお、本実施形態では、パイ生地1を配置した後に焼型5をセルクル7に乗せるようにしているが、焼型5をセルクル7に乗せるのはパイ生地1を配置する前でもよい。以上が配置工程である。
【0018】
焼成工程は、焼型5に配置されたパイ生地1を焼型5ごとオーブンで焼く工程である。オーブンは電子オーブンを使用し、図5の状態で電子オーブンに入れる。このとき、パイ生地1の中心は凍ったままである。電子オーブンの上火を180°Cにし、下火を160°Cにして、パイ生地1の中心が焼けるまで60分かけてじっくり焼成する。なお、焼型5の底の部分はセルクル7に囲まれているため、真下から上に向かって熱が伝わりやすくなっている。
【0019】
図6は、パイ生地1と焼型5の概略縦断面図であって、(a)〜(d)はパイ生地1が膨らんでいく様子を時間経過毎に示した図である。
【0020】
図6(a)は、前述の図4に蓋8が加わったものであって、オーブンからの熱がパイ生地1に伝わる前の状態を示している。図6(a)に示すように、熱が伝わる前は、パイ生地1は変形しておらず、積層方向が水平方向に略一致している。
【0021】
図6(b)は、パイ生地1に徐々に熱が加わり始めた状態を示している。パイ生地1に熱が加わると、パイ生地1に含まれるバターが溶け出し、全体が柔らかくなって、下方へわずかに沈み込む。特に焼型5の内壁面6に近い部分に熱が伝わりやすいため、パイ生地1の下の部分が広がる。このとき、パイ生地1自体が倒れてしまうと、うまくパイ生地1が膨らまなくなってしまう。そのため、パイ生地1はある程度の厚さを確保し、倒れにくくする必要がある。また、本実施形態では、パイ生地1の中心が凍った状態から焼き始めているため、中心部分はもとの形状を維持し、パイ生地1の下の部分のみが広がることで倒れにくくなっている。
【0022】
図6(c)は、パイ生地1が膨らんできた状態を示している。図6(c)に示すように、熱の伝わりやすい焼型5の内壁面6近くのパイ生地1が、内壁面6に当接しつつ大きく膨らんでいく。逆に、熱の伝わりにくい焼型5の内壁面6から遠いパイ生地1はあまり膨らまない。そのため、内壁面6から最も遠い焼型5の上部を要とする扇状にパイ生地1が膨らんでゆき、パイ生地1の層断面が放射線状に形成されていく。なお、焼型5は合成樹脂製でできているため、オーブンからの熱を和らげてパイ生地1に伝わる。これにより、パイ生地1の焼型5に接する部分が焦げるのを防止できる。
【0023】
図6(d)は、図6(c)の状態からさらに加熱した状態を示している。図6(d)に示すように、図6(c)では存在していた上部の隙間9がなくなっている。これは、膨らみが少なかった焼型5の内壁面6から遠い部分が膨らむのに加え、左右に広がっていたパイ生地1が中央付近まで回り込み、隙間9を埋めたためである。また、パイ生地1の膨らみが進むと、焼型5の内壁面6に近い部分のパイ生地1が、焼型5の上部を超えて膨らもうとする。これに対して、焼型5にアルミ板の蓋8をかぶせることで、パイ生地1の膨らみが抑えられ、パイ生地1が焼型5の上部を超えて膨らむのを防止することができる。この蓋8の下面は平面状であるため、パイ生地1がこの蓋8の下面に当接することで、焼型5の上部に対応する部分が平らになる。以上が焼成工程である。焼成工程を経ることにより、パイ生地1が焼き上がって、パイ菓子1Aとなる。
【0024】
仕上げ工程は、焼き上がったパイ菓子1Aをコーティングし、乾燥させる工程である。まず、コーティングのためのシロップを作る。シロップは、蜂蜜、水飴、砂糖、および香料を混ぜ合わせ、80°Cに温める。このとき、分量を調節して糖度が85%になるようにする。シロップの糖度が85%以下の場合、パイ菓子1Aはシロップをはじくため、きれいにコーティングすることができないからである。一方、焼成されたパイ菓子1Aを焼型5からはずし、熱があるうちに表面に砂糖をつけ、その後作ったシロップをかける。パイ菓子1Aの表面に砂糖が付着していることで、シロップの流れにくくすることができ、また、砂糖によってできた皮膜がシロップの内部への侵入を防ぎ、シロップを薄く綺麗にコーティングすることができる。コーディング後、上火を180°Cにし、下火を160°Cにした電子オーブンの中にパイ菓子1Aを入れ、7分間乾燥焼を行う。このとき、シロップが落ちるので、パイ菓子1Aは網に乗せる。乾燥焼が終われば、電子オーブンからパイ菓子1Aを取り出す。以上が仕上げ工程である。これにより、パイ菓子1Aの製造工程が完了する。
【0025】
以上がパイ菓子1Aの製造方法である。図7は本実施形態にかかるパイ菓子1Aの製造方法で製造したパイ菓子1Aの斜視図であって、(a)は外観図であり、(b)は半分に切った状態の図である。図7(a)に示すように、本実施形態にかかるパイ菓子1Aは、半球の形状を有しており、その表面は、前面側から背面側へ延びる縞模様10が形成されている。また、図7(b)に示すように、本実施形態にかかるパイ菓子1Aの断面は、底面部分の中央から放射線状に縞模様11が形成されている。これらの縞模様10、11は、パイ菓子1Aを形成するパイ組織が重なることによって形成されている。つまり、本実施形態にかかるパイ菓子1Aの製造方法によれば、層断面が放射状であるパイ菓子1Aを作ることができる。また、このパイ菓子1Aは、各層の厚さがそれぞれ一定であるパイ生地1を使用して作ることができる。これによって、従来と同じく層の厚さが一定であるパイ生地1を使用しつつも、従来のパイ菓子とは異なる食感を有するパイ菓子1Aを作ることができる。
【0026】
なお、パイ生地1を上記で説明したとおりに焼型に配置しても、焼き上がったパイ菓子1Aの層断面が左右対称で、中心の位置が常に一定になるとは限らない。焼成工程の初期段階において、パイ生地1が僅かに傾くことがあるからである。例えば、その傾きの状況によって、図8(a)〜(c)に示すように、パイ菓子1Aの層断面は中心位置がずれたり、歪んだりする。この場合であっても、層断面は放射状になっており、パイ組織は平行には並んでおらず、従来のパイ菓子とは異なる食感を得ることができる。
【0027】
以上、本願発明にかかるパイ菓子1Aの製造方法を実施するための最良の形態について、図1〜8を参照しつつ説明した。以上では、焼型5の形状が半球状である場合について説明したが、これに代えて、図9に示すように、焼型5の形状を半円柱としてもよい。かかる構成によれば、半円柱の外形を有したパイ菓子を作ることができる。かかる構成であっても、層断面が放射線状となるため、従来のパイ菓子とは異なる食感を有するパイ菓子を作ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、各層の厚さがそれぞれ一定であるパイ生地を使用して、層断面が放射状であるパイ菓子を作るための製造方法を提供することができる。よって、パイ菓子の技術分野において有益である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】パイ生地を形成する工程を示した図である。
【図2】パイ生地を形成する工程を示した図である。
【図3】焼型にパイ生地を配置した図である。
【図4】図3のパイ生地の中央縦断面図である。
【図5】オーブンに入れる前の焼型の状態を表わした図である。
【図6】パイ生地と焼型の概略縦断面図であって、(a)〜(d)はパイ生地が膨らんでいく様子を時間経過毎に示した図である。
【図7】本実施形態にかかるパイ菓子の製造方法で製造したパイ菓子の斜視図であって、(a)は外観図であり、(b)は半分に切った状態の図である。
【図8】本実施形態にかかるパイ菓子の層断面を例示した図である。
【図9】他の実施形態を示した図である。
【符号の説明】
【0030】
1 パイ生地
1A パイ菓子
5 焼型
6 内壁面
7 セルクル
8 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼型に多層のパイ生地を配置する配置工程と、該焼型に配置された該パイ生地を該焼型ごとオーブンで焼く焼成工程とを備えたパイ菓子の製造方法であって、
該焼型は上部が開口しており、
該焼型の所定縦断面に表れる内壁面の形状が弧状であり、
該配置工程においては、該焼型の該所定縦断面に、積層方向が水平方向に略一致するパイ生地層断面が表れるように、該パイ生地を該焼型に配置する、パイ菓子の製造方法。
【請求項2】
該配置工程において、該パイ生地を、該焼型の該所定縦断面における水平方向略中央部に配置する、請求項1記載のパイ菓子の製造方法。
【請求項3】
該焼型の内壁面形状が略半球面形状である、請求項1又は2記載のパイ菓子の製造方法。
【請求項4】
該焼型が合成樹脂製の焼型である、請求項1乃至3のいずれか一の項に記載のパイ菓子の製造方法。
【請求項5】
該焼成工程においては、該焼型の上部の開口を、下面が平面状の蓋で塞いだ状態で、該パイ生地を焼く、請求項1乃至4のいずれか一の項に記載のパイ菓子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一の項に記載のパイ菓子の製造方法によって製造された、パイ菓子。
【請求項7】
層断面が放射状に形成されたパイ菓子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−54582(P2008−54582A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235500(P2006−235500)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(399018312)株式会社クールアース (1)
【Fターム(参考)】