説明

パターヘッド

【課題】ヒットしたボールの直進性が良好なパターヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド本体2の前面(フェース面)に凹部2Hが設けられ、この凹部2H内にフェースインサート3が配置されている。このフェースインサート3は、後面側の高硬度部3aと前面側の低硬度部3bとが交互に上下多段に積層されたものである。高硬度部3a及び低硬度部3bはいずれも前後方向の鉛直断面形状か略直角三角形状である。高硬度部3aの前端はフェースインサート3の前面にまで達している。高硬度部3aと低硬度部3bとの境界面は、後方ほど低位となる斜面となっている。フェースインサートに表面層3cや溝部3gが設けられてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフのパターのパターヘッドに関するものであり、特にヘッド本体のフェース面にフェースインサートを装着したパターヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフのパターは、主としてグリーン上においてボールをヒットしてボールをカップに向けて転がす用途に用いられるクラブである。このパターのヘッドとして、フェース面にフェースインサートを装着して打感を柔らかくすることがある。
【0003】
特開2007−117635には、このフェースインサートを高硬度部と低硬度部とで構成し、かつ、この高硬度部を中央部から周辺部に向かうに従い厚さが小さくなるものとすることが記載されている。このフェースインサートを用いたパターヘッドは、打感が柔らかいと共に、打音が高いという特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−117635
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒットしたボールの直進性が良好なパターヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のパターヘッドは、ヘッド本体のフェース面にフェースインサートを装着したパターヘッドであって、該フェースインサートは、低硬度部と高硬度部とを有しているパターヘッドにおいて、該低硬度部と高硬度部との境界面が、パターヘッドの前後方向に傾斜した斜面となっていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2のパターヘッドは、請求項1において、前記低硬度部と高硬度部とが上下方向に複数段に配置されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3のパターヘッドは、請求項2において、前記フェースインサートの前面に合成樹脂又は金属の表面層が設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4のパターヘッドは、請求項2において、前記高硬度部はフェースインサートの前面から離隔しており、高硬度部よりも上側の低硬度部と下側の低硬度部とが高硬度部の前側を通って一連一体に連なっていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5のパターヘッドは、請求項2において、前記高硬度部の前縁部が低硬度部の前面よりも後退しており、フェースインサートの前面には、該高硬度部の前縁部にまで達する溝部が形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6のパターヘッドは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記斜面は、後方ほど低位になる斜面であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項7のパターヘッドは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記斜面は、後方ほど高位になる斜面であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項8のパターヘッドは、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記ヘッド本体のフェース面に凹部が設けられ、該凹部内に前記フェースインサートが配置されており、該フェースインサートの側面と該凹部の側面とが離隔していることを特徴とするものである。
【0014】
請求項9のパターヘッドは、請求項8において、該フェースインサートの側面と凹部の側面との間に粘弾性材が充填されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパターヘッドのフェースインサートでは、低硬度と高硬度部との境界面が前後方向に傾斜した斜面となっていることにより、ボールに順回転がかかり易いものとなり、ヒットされたボールの直進性が良好となる。
【0016】
請求項2のように、低硬度部と高硬度部とを上下に複数段に配置した場合、上下の打点にバラツキがあっても、順回転の効果のバラツキが少なくなるという効果がある。
【0017】
請求項3のように、フェースインサートの前面に合成樹脂又は金属の表面層を設けた場合、合成樹脂の材質を選択することにより、打感の調節を行うことができる。また、フェース面全体を均一外観とすることが容易である。
【0018】
請求項4のように高硬度部よりも上側の低硬度部と下側の低硬度部とが高硬度部の前側を通って一連一体に連なっている構成とした場合も、同様の効果を得ることができる。
【0019】
請求項5のようにフェースインサートの前面に溝部を形成することにより、ボールにスピンがかかり易くなる。
【0020】
ヘッド本体のフェース面に凹部を設け、この凹部内にフェースインサートを配置した場合、フェースインサートの周囲に空隙を設けたり粘弾性材を配置することにより、高低の硬度差を設け、境界面を傾斜させたフェースインサートの変形を拘束しにくくするという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)図は実施の形態に係るパターヘッドの分解斜視図、(b)図はこのパターヘッドの正面図、(c)図は(b)図のC−C線断面図である。
【図2】図1(a)のII−II線断面図である。
【図3】別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの断面図である。
【図4】別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの断面図である。
【図5】(a)図は別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの斜視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図6】別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの断面図である。
【図7】別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの断面図である。
【図8】別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの断面図である。
【図9】別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの断面図である。
【図10】別の実施の形態に係るパターヘッドのフェースインサートの断面図である。
【図11】異なる実施の形態に係るパターヘッドの断面図である。
【図12】(a)図は、さらに異なる実施の形態に係るパターヘッドの正面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0023】
第1図〜第2図は第1の実施の形態に係るパターヘッド1を示すものである。このパターヘッド1では、ヘッド本体2の前面(フェース面)に凹部2Hが設けられ、この凹部2H内にフェースインサート3が配置されている。この実施の形態では、ヘッド本体2は金属製である。フェースインサート3の前面と、凹部2Hの周囲のヘッド本体2の前面とは面一である。
【0024】
凹部2H及びフェースインサート3は、横長の略長方形状である。凹部2Hの深さは全体として均一であり、フェースインサート3の厚さも全体として均一である。ただし、部分的に深い箇所及び厚い部位を設けたり、逆に部分的に浅い箇所及び薄い部位を設けてもよい。
【0025】
フェースインサート3の左右幅及び上下幅は凹部2Hよりも若干小さいものとなっており、フェースインサート3の上下左右の側面3Sと凹部2Hの周面2Sとの間には若干の空隙4があいている。この空隙4の幅は0.1〜1mm特に0.2〜0.8mm程度が好適である。フェースインサート3の大きさは上下幅が16〜30mm特に18〜25mm、左右幅が50〜150mm特に70〜100mm、厚さが2〜10mm特に3〜6mm程度が好ましいが、これに限定されない。
【0026】
このフェースインサート3は、第2図の通り、後面側の高硬度部3aと前面側の低硬度部3bとを交互に上下多段に積層したものである。この実施の形態では、高硬度部3a及び低硬度部3bがそれぞれ上下4段ずつ、合計で8段に設置されているが、この合計の段数は20以下特に6〜14程度が好適である。
【0027】
この実施の形態では、高硬度部3a及び低硬度部3bはいずれも前後方向の鉛直断面形状が略直角三角形状である。高硬度部3aの前端はフェースインサート3の前面にまで達している。高硬度部3aと低硬度部3bとの境界面は、後方ほど低位となる斜面となっている。この斜面の下り勾配θは20〜86°特に30〜84°程度が好ましい。これにより、通常のパターに比べて、ボールを打ったときのバックスピン(逆回転)が減少し、直進性が良くなる。
【0028】
高硬度部3aの材料としては硬質プラスチック、例えばポリエステル、ナイロン、ウレタンなどの合成樹脂や、アルミニウム、チタニウム、銅およびその合金などの金属が好適である。低硬度部3bの材料としては熱可塑性エラストマーやゴム等弾性を有するものなどが好適である。フェースインサート3は、高硬度部3aと低硬度部3bとを接着、溶着などにより付着させることにより製造することができるが、高硬度部3aを金型内に配置しておき、低硬度部3bの材料を射出するインサート成形などによっても製造することができる。
【0029】
フェースインサート3は、第2図の左側面がパターのフェース前面となるように凹部2H内に配置され、反対側が接着剤によって凹部2Hの奥壁面に接着される。接着剤としては、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤などが好適であるが、これに限定されない。両面テープなどを使用しても良い。
【0030】
このように構成されたパターヘッド1のホゼル部1hにシャフトを連結することによりパターが構成される。このパターでパッティング(グリーン上のボールをフェース面で打つこと)すると、斜面を有することによりボールの上側をこするところから、順回転がかかり易くなり、ヒットされたボールの直進性が良好となる。
【0031】
本発明では、第3図のフェースインサート3Aのように、フェースインサートの前面の全面に薄い合成樹脂の表面層3cを接着、溶着などにより設けてもよい。この表面層3cの合成樹脂としては、エラストマーなどが好適である。合成樹脂の表面層3cの厚さは0.2〜1.0mm程度が好適である。第3図のその他の構成は第2図と同一であり、同一符号は同一部分を示している。この合成樹脂の表面層3cを設けることにより、フェースインサート3Aの前面の全体が均一な外観になる。また、フェースインサートの表面の硬度を所望の硬度とすることができる。
【0032】
本発明では、第4図のフェースインサート3Bのように、高硬度部3dの前端をフェースインサート3Bの前面から離隔させ、1つの高硬度部3dよりも上側の低硬度部3eとそれよりも下側の低硬度部3eとが高硬度部3dの前縁側を通って一連一体に連なっている構成としてもよい。このフェースインサート3Bにおいても、フェース面が低硬度部3eで均一に構成されており、外観が均一になる。なお、高硬度部3dは、高硬度部3aの前端を欠いた台形断面形状となっている他は高硬度部3aと同一の構成を有している。低硬度部3eは、上下に隣接するもの同士が連なっている他は低硬度部3bと同一の構成を有している。
【0033】
本発明では、第5図のフェースインサート3Cのように、フェース面に横長の溝部3gを設けてもよい。この溝部3gは、フェースインサート3Cの左端付近及び右端付近を除いて設けられている。また、フェースインサート3A,3B,3Dに溝部を設けても良い。このフェースインサート3Cは、第4図のフェースインサート3Bにおいて、溝部3gを、フェース面から高硬度部3dの前端に達するように設けたものである。溝部3gは、溝部の入口側の上下幅が大きく、溝部の最奥側(最深部)の上下幅が最も小さい台形断面形状である。この溝部3gを設けたことにより、ボールにスピンがかかり易くなる。フェースインサート3Cのその他の構成はフェースインサート3Bと同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0034】
溝部3gの入口側の上下幅は、0.3〜1.6mm特に0.4〜0.8mm程度が好適であり、溝部の深さは0.05〜1.1mm特に0.07〜0.5mm程度が好適である。溝は同一の溝断面形状のもののみでも良いが、複数種類の溝断面形状のものを入れても良い。
【0035】
上記実施の形態では、フェースインサートはいずれも高硬度部と低硬度部とが上下多段に設けられているが、第6図のフェースインサート3Dのように高硬度部3hと低硬度部3iとが1個ずつ設けられてもよい。高硬度部3h及び低硬度部3iは、いずれも直角三角形状であり、各々の直角三角形の斜面に相当する面同士を重ね合わせて接着又は溶着することにより、直方体形状のフェースインサート3Dとされている。
【0036】
このフェースインサート3Dを備えたパターでボールをヒットした場合、上側ほど低硬度部3iのヘッド前後方向厚さ(第6図における低硬度部3iの左右方向の幅)が小さく、上側ほどボールに強い反発力が与えられ、ボールに順回転がかかり易くなる。
【0037】
上記実施の形態では、いずれも低硬度部と高硬度部との境界面はヘッド後方ほど下位となるように傾いているが、逆に、ヘッド後方ほど高位となるように傾いていてもよい。
【0038】
第7図のフェースインサート3’は、前記第2図のフェースインサート3を上下反転させた構成のものであり、第8図のフェースインサート3C’は第5図のフェースインサート3Cを上下反転させた構成のものであり、いずれもそれ以外の構成は第2図、第5図と同一であり、同一符号は同一部分を示している。前記のその他のフェースインサート3A,3B,3Dを上下反転させたフェースインサートであってもよい。
【0039】
これらのフェースインサート3’,3C’を備えたパターでボールをヒットすると、傾斜面によりロフトが大きくなる効果により逆回転がかかり易くなり、ボールが転がりにくくなる。
【0040】
第9図のフェースインサート3Eは、最も硬度の高い高硬度部5aを最下部に配置し、その上側に順次に硬度が低くなるように、中高硬度部5b、中低硬度部5c、低硬度部5dを配置したものがある。高硬度部5a、中高硬度部5b及び中低硬度部5cの上面は、上方かつ前方に向かって凸となる四分円弧状湾曲面であり、中高硬度部5b、中低硬度部5c及び低硬度部5dの下面は下方かつ後方に向かって凹となる四分円弧状湾曲面である。フェースインサート3Eは前記各フェースインサートと同様に直方体形状である。高硬度部5a〜低硬度部5dの境界面は、後方ほど高位となっている。
【0041】
第10図のフェースインサート3Fは、下側から上側に順次に硬度が低くなるように、高硬度部6a、中高硬度部6b、中低硬度部6c及び低硬度部6dを配置したものである。高硬度部6a及び低硬度部6dは台形断面形状であり、中高硬度部6b及び中低硬度部6cは平行四辺形断面形状である。フェースインサート3Fは、前記各フェースインサートと同様に直方体形状である。高硬度部6a〜低硬度部6dの境界面は、後方ほど高位となっている。
【0042】
この第9,10図のフェースインサート3E,3Fを備えたパターでボールをヒットした場合、ロフト角が大きくなるため、逆回転がかかり易くなり、ボールの直進性が向上する。なお、第9,10図では境界面を後方ほど高位としたが、逆に後方ほど低位としてもよい。
【0043】
第1図では、フェースインサート3の周囲に空隙4を形成しているが、第11図のようにこの空隙に、ゴム、エラストマー、合成樹脂などの粘弾性材8を配材してもよい。また、第12図のパターヘッド1’のように、空隙4が生じないようにフェースインサート3を凹部2Hにぴったりと嵌まるように構成してもよい。
【0044】
第11,12図のその他の構成は第1図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。なお、空隙4や粘弾性材8を設けると、フェースインサートに残留応力が生じることがなく、フェースインサートの反発特性は設計通りになるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0045】
1,1’ パターヘッド
2 ヘッド本体
2H 凹部
3,3A〜3F,3’,3C’ フェースインサート
3a,3d,3h 高硬度部
3b,3e,3i 低硬度部
3c 表面層
3g 溝部
5a,6a 高硬度部
5b,6b 中高硬度部
5c,6c 中低硬度部
5d,6d 低硬度部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体のフェース面にフェースインサートを装着したパターヘッドであって、
該フェースインサートは、低硬度部と高硬度部とを有しているパターヘッドにおいて、
該低硬度部と高硬度部との境界面が、パターヘッドの前後方向に傾斜した斜面となっていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項2】
請求項1において、前記低硬度部と高硬度部とが上下方向に複数段に配置されていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項3】
請求項2において、前記フェースインサートの前面に合成樹脂又は金属の表面層が設けられていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項4】
請求項2において、前記高硬度部はフェースインサートの前面から離隔しており、高硬度部よりも上側の低硬度部と下側の低硬度部とが高硬度部の前側を通って一連一体に連なっていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項5】
請求項2において、前記高硬度部の前縁部が低硬度部の前面よりも後退しており、
フェースインサートの前面には、該高硬度部の前縁部にまで達する溝部が形成されていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記斜面は、後方ほど低位になる斜面であることを特徴とするパターヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記斜面は、後方ほど高位になる斜面であることを特徴とするパターヘッド。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記ヘッド本体のフェース面に凹部が設けられ、該凹部内に前記フェースインサートが配置されており、
該フェースインサートの側面と該凹部の側面とが離隔していることを特徴とするパターヘッド。
【請求項9】
請求項8において、該フェースインサートの側面と凹部の側面との間に粘弾性材が充填されていることを特徴とするパターヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−10767(P2012−10767A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147856(P2010−147856)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】