パターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システム
【課題】過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、この異常を高確率で検知することができるパターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムを提供すること。
【解決手段】異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断システム1であって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納した正常パターンライブラリ42と、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断する正常パターン照合処理部24と、を備える。
【解決手段】異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断システム1であって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納した正常パターンライブラリ42と、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断する正常パターン照合処理部24と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムに関し、特に、鉄鋼プラントなどから得られる音響データ、振動データ、温度データなどの時系列データをもとに機械設備やプロセスの状態監視を行うパターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械設備やプロセス操業の異常診断に関する技術が多数知られている。その一例として特許文献1に記載の技術がある。これは、プロセスから得られる時系列データに対して異常発生時に見られる典型的なパターンを予めデータベースに登録し、これと照合することにより、異常診断を行う技術である。すなわち、異常発生時の傾向を事前知識として有することを前提とする技術である。
【0003】
また、機械設備の異常診断を行う実用的な方法として、振動診断や音響診断がある。音響診断は、たとえば特許文献2に記載の技術がある。これは、プランジャーポンプを対象とした異常診断技術であり、異常時の音響の変化が予めわかるので、その変化をとらえようとする技術である。すなわち、特許文献2に記載の技術も、異常発生時の傾向を事前知識として有しることを前提とする技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−221113号公報
【特許文献2】特開2001−324381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術は、いずれも異常発生時の傾向を事前知識として有することを前提としているため、過去に前例のない異常を検知することはできないという問題点があった。また、過去に異常の前例があったとしても数例しかない場合にはその異常発生時の傾向を事前知識として有することは困難な場合が多く、この場合、異常の検知を見逃してしまうという問題点があった。
【0006】
たとえば、鉄鋼プロセスでは、ひとたび発生すると長時間工場を停止しなければならないような重大トラブルが少なくない。しかし、このような重大トラブルは、過去に前例が全くなかったり、あったとしても数例しかないということが珍しくない。このようなプロセスでは、異常時の事例やデータが全くない、あるいは、極端に少ないため、特許文献1に記載されているように過去の異常事例をベースとする従来のアプローチでは、異常発生を見逃さざるを得ず、限界がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、この異常を高確率で検知することができるパターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断方法であって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断することを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記異常の可能性があると診断された時系列データを仮置きライブラリに格納しておき、その後、該時系列データに対して外部装置が詳細照合処理を行うことによって異常診断を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断することを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記時系列データと前記正常パターンとの合致判断は、パターン一致度をもとに行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記異常診断対象から予め取得された異常状態の時系列パターンである異常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとの照合前に、前記時系列データと前記異常パターンとの照合を行い、前記時系列データと前記異常パターンとが合致しない場合に、前記時系列データと前記正常パターンとの照合を行って、異常診断を行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断システムは、異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断システムであって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納した正常パターンライブラリと、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断する正常パターン照合処理部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断システムは、上記の発明において、前記正常パターン照合処理部は、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断システムは、上記の発明において、前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断するノイズ判定処理部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断方法であって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断するようにしているので、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、この異常を高確率で検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である異常診断システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、制御部による異常診断処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、外部装置による仮置きライブラリ判定処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、正常パターンaを示す波形図である。
【図5】図5は、正常パターンbを示す波形図である。
【図6】図6は、正常パターンcを示す波形図である。
【図7】図7は、異常診断対象から得られた時系列データの一例およびノイズレベル判定結果を示す波形図である。
【図8】図8は、図7に示した時系列データと正常パターンa,b,cとのパターン一致度および総合判定結果を示す波形図である。
【図9】図9は、図7に示した時系列データと正常パターンa,bとのパターン一致度および総合判定結果を示す波形図である。
【図10】図10は、正常パターンdを示す波形図である。
【図11】図11は、時系列データと正常パターンdとのパターン一致度およびその時間平均の時間変化を示す図である。
【図12】図12は、正常時の音のパターンとその発生タイミングとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムの実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態である異常診断システムの構成を示す機能ブロック図である。図1において、この異常診断システム1は、異常診断処理部20を含む制御部Cに、入力部11、出力部12、記憶部13が接続される。制御部Cは、CPUなどによって実現され、入力部11は、データ収集装置やポインティングデバイスなどによって実現され、出力部12は、液晶ディスプレイなどによって実現され、記憶部13は、ハードディスク装置などによって実現される。なお、制御部Cには外部装置14も接続され、通信インターフェースを介して制御部Cと通信が可能である。
【0021】
記憶部13は、過去の異常時の異常パターンを格納した異常パターンライブラリ41と、多数の正常時の正常パターンを予め格納した正常パターンライブラリ42と、正常パターンか異常パターンかが不明な複数のパターンを格納した仮置きライブラリ43とを有する。異常パターンライブラリ41は、異常パターンが入手されている場合に異常パターンが格納され、異常がなく異常パターンが入手できない場合に異常パターンは格納されず、空のままとなる。
【0022】
異常診断処理部20は、切出し処理部21、ノイズ判定処理部22、異常パターン照合処理部23、正常パターン照合処理部24、登録処理部25,および警報出力処理部26を有し、異常診断処理を行う。
【0023】
ここで、図2に示すフローチャートを参照して、異常診断処理部20による異常診断処理手順について説明する。図2において、たとえば鉄鋼プロセスにおける圧延機などの機械設備の近く設置した集音機によって取得した音圧の時系列データが入力部11から順次入力されると、切出し処理部21は、この時系列データを、予め設定された時間長の時系列データである部分列として切り出す処理を行う(ステップS101)。なお、この時間長は、異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に格納されているパターンの中で最も長い時間長に設定される。
【0024】
その後、ノイズ判定処理部22が、部分列の信号振幅レベルが所定値以下であるか否か、すなわちノイズレベルか否かを判断する(ステップS102)。部分列の信号振幅レベルがノイズレベルである場合(ステップS102,Yes)、ステップS107に移行して「正常」と判定する。
【0025】
一方、部分列の信号振幅レベルがノイズレベルでない場合(ステップS102,No)には、異常パターンあるいは正常パターンが含まれる有意なパターンであるとして、ステップS103に移行する。
【0026】
その後、異常パターン照合処理部23は、切出し処理部21によって切り出された部分列を、異常パターンライブラリ41内の異常パターンと照合する異常パターン照合処理を行う(ステップS103)。この異常パターン照合処理は、部分列に対して、異常パターンライブラリ41に格納されている異常パターンの全てに対して照合処理を行うが、部分列が、少なくとも1つの異常パターンに合致した場合、ステップS104に移行する。なお、異常パターンライブラリ41に異常パターンが格納されていない場合には、この異常パターン照合処理は、スキップされる。
【0027】
この異常パターン照合処理の結果、切り出された部分列に合致する異常パターンがあるか否かを判断し(ステップS104)、合致する場合(ステップS104,Yes)には、ステップS108に移行して「異常」と判定する。この「異常」と判定された場合、警報出力処理部26は、その旨を出力部12から警報出力する。
【0028】
一方、切り出された部分列に合致する異常パターンがない場合(ステップS104,No)には、さらに、正常パターン照合処理部24が、切り出された部分列を、正常パターンライブラリ42内の正常パターンと照合する正常パターン照合処理を行う(ステップS105)。この正常パターン照合処理は、異常パターン照合処理と同様に、正常パターンライブラリ42に格納されている正常パターンの全てに対して照合処理を行うが、部分列が、少なくとも1つの正常パターンに合致した場合、ステップS106に移行する。
【0029】
この正常パターン照合処理の結果、切り出された部分列に合致する正常パターンがあるか否かを判断し(ステップS106)、合致する場合(ステップS106,Yes)には、ステップS107に移行して「正常」と判定する。この「正常」と判定された場合、警報出力処理部26は、その旨を出力部12から出力するようにしてもよい。
【0030】
一方、切り出された部分列に合致する正常パターンがない場合(ステップS106,No)には、正常パターン照合処理部24が、この部分列のパターンを、とりあえず異常の可能性もあるため、「仮異常」と判定する。そして、この部分列のパターンは、現時点で正常でも異常でもないため、警報出力処理部26が「いつもと違う状態」である旨を出力部12から警報出力する。また、登録処理部25は、この部分列のパターンを仮置きライブラリ43内に登録する(ステップS109)。なお、この仮置きライブラリ43への登録時に、登録処理部25は、この部分列に、この部分列の発生時間データを対応づけて登録しておくことが好ましい。
【0031】
次に、ステップS108による異常判定あるいはステップS107による正常判定あるいはステップS109による仮異常判定の後、入力部11から本処理の終了指示があったか否かを判断する(ステップS110)。終了指示があった場合(ステップS110,Yes)には、本処理を終了し、終了指示がない場合(ステップS110,No)には、ステップS101に移行し、次の部分列を切出し、上述した処理を繰り返す。
【0032】
なお、外部装置14は、仮置きライブラリ判定処理システムとして機能し、仮置きライブラリ43に登録された部分列のパターンが異常パターンか正常パターンかの詳細判定を行い、この判定結果をもとに異常パターンライブラリ41または正常パターンライブラリ42に登録する仮置きライブラリ判定処理を行う。この外部装置14は、たとえば、過去の操業データや機器の単体テストデータなどが格納されたデータベースを有し、このデータベースをもとに部分列が異常パターンか正常パターンを詳細に照合処理(詳細照合処理)する大型コンピュータなどによって実現される。もちろん、外部装置14による詳細照合処理には、熟練者などの人の判断処理を加えてもよい。
【0033】
ここで、図3に示すフローチャートを参照して、外部装置14による仮置きライブラリ判定処理手順について説明する。外部装置14は、異常診断システム1の出力部12から警報通知があった場合(ステップS201,Yes)、仮置きライブラリ43にアクセスして、登録されている部分列のパターンを取り出す(ステップS202)。
【0034】
その後、外部装置14は、取り出した部分列のパターンが異常パターンか正常パターンかの詳細照合処理を行う(ステップS203)。その後、外部装置14は、詳細照合処理が行われた部分列のパターンが異常であるか否かを判断する(ステップS204)。異常と判断された場合(ステップS204,Yes)、登録処理部25は、この部分列のパターンを異常パターンライブラリ41に登録する処理を行う(ステップS205)。一方、異常と判断されない場合(ステップS204,No)、登録処理部25は、この部分列のパターンを正常パターンライブラリ42に登録する処理を行う(ステップS206)。このようにしていつもと違う状態である「仮異常」の部分列のパターンは、異常あるいは正常と判断され、それぞれ異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録されることによって蓄積され、その後の異常診断処理に利用されることによって、一層、精度の高い異常診断処理を行うことができる。
【0035】
なお、上記の外部装置14による仮置きライブラリ判定処理は、上述したように、異常診断システム1に対してオンラインで処理してもよいし、オフラインで処理してもよい。たとえば、定期的に異常診断システム1の仮置きライブラリ43から「仮異常」の部分列のパターンを取得して所定の記憶媒体内に格納し、この格納された部分列のパターンを外部装置14に入力することによって外部装置14が上述した詳細照合処理を行い、その照合処理結果をもとに、対応する異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録するようにしてもよい。
【0036】
(照合処理例1)
ここで、上述したステップS103による異常パターン照合処理あるいはステップS105による正常パターン照合処理の一例について説明する。この照合処理例1では、次式(1)によって異常パターンあるいは正常パターンをスライディングさせながら時系列データの部分列と相関をとってパターン一致度R1を算出することにより行う。
R1=〈S・P〉/(〈S・S〉・〈P・P〉) …(1)
ただし、Sは、切り出された部分列であり、Pは、異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録されているパターンである。また、〈X・Y〉は、XとYとの内積を示す。このパターン一致度R1は、異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録されているパターンと同じパターンの部分列が出現すると、値が「1」になり、登録されているパターンと部分列とが合致しない場合には値が「0」に近づく。
【0037】
このパターン一致度R1を用いた正常パターン照合処理による連続的な異常診断処理の一例についてさらに説明する。この異常診断処理例では、図4〜図6に示すような、3つの正常パターンa,b,cが正常パターンライブラリ42に格納されており、図7(a)に示すような時系列データに対して異常診断処理を行う。なお、図7(a)に示した時系列データは、複数の部分列からなるデータである。この図7(a)に示した時系列データには、1000秒の時間軸上の各所に正常パターンa,b,cの1以上の組合せが内在している。
【0038】
図8(a)〜図8(c)は、それぞれ図7(a)に示した時系列データに対して正常パターンa,b,cを時間軸上にスライディングさせて相関をとり、時々刻々とパターン一致度R1を算出した結果である。各図8(a)〜図8(c)には、それぞれパターン一致度R1の時間変化を示している。たとえば、図7(a)に示す時系列データでは、100秒付近で正常パターンaが含まれているため、図8(a)に示すパターン一致度R1は、100秒付近で「1」に近いピーク値を示している。
【0039】
図8(a)〜図8(c)において、パターン一致度R1をもとに図7(a)に示した時系列データのパターンの合致を判定するために、たとえば、パターン一致度R1が0.5以上の場合に、合致するとして「1」を出力し、0.5未満の場合に合致しないとして「0」を出力する判定結果をそれぞれ示している。この場合、ある時点で、図8(a)〜図8(c)の判定結果の少なくとも1つが「1」である場合に、時系列データは正常パターンに合致したものと判定され、正常と判定される。また、ある時点で、図8(a)〜図8(c)の判定結果のいずれもが「0」である場合であっても、図7(b)に示すようにノイズレベルが所定値以下、たとえば信号振幅レベルが0.6以下の場合に、有効なパターンが存在しない区間として「1」を出力するようにしている。この結果、図8(d)に示した総合判定結果のように、図8(a)〜図8(c)および図7(b)の判定結果の少なくとも1つが「1」である場合、すなわち論理和演算が「1」である場合、各時点の時系列データは、「正常」であると判定し、論理和演算が「0」である場合、各辞典の時系列データは、その後の詳細照合処理の対象となり、「正常」あるいは「異常」と判定される。なお、図8(d)の総合判定結果では、すべての区間で、「正常」であると判定されている。なお、パターン一致度R1は、所定の時間長を有するため、図8(a)〜図8(c)の判定結果は、パターン長の分が広がった区間となっている。
【0040】
さらに具体的に示すと、図7(a)の正常パターンa,b,cを含む時系列データに対して、正常パターンa,bのみによって異常診断処理を行うと、図9(a),図9(b)に示すように、図8(a),図8(b)と同じパターン一致度R1を得るが、図8(c)に対応するパターンcに対応するパターン一致度R1および判定結果を得ることができないため、たとえ、図7(b)に示したノイズレベルの判定結果が得られても、図9(c)に示すように、総合判定結果が、600秒付近(区間E1)および930秒付近(区間E2)で論理和が「0」となっている。これは、図7(a)に示した時系列データに正常パターンcが含まれる時点に対応した区間E1,E2に、予期しないパターンが現れ、「異常」の可能性があることを精度高く診断したことになる。もちろん、図8に示したように、正常パターンcに対する照合処理を行うことによって、区間E1,E2は、総合判定結果が「1」となり「正常」と判定される。
【0041】
(照合処理例2)
つぎに、正常パターン照合処理の他の例として、次式(2)に示すパターン一致度R2を用い、このパターン一致度R2の変化率をもとに微小変化の異常診断処理を行うようにしてもよい。
R2=〈S・P〉/(〈P・P〉・〈P・P〉) …(2)
【0042】
この照合処理例2では、図10に示した1つの正常パターンdのみを用い、図11(a)に示した時系列データに対して式(2)に示したパターン一致度R2を求めると、図11(b)に示すようなパターン一致度R2の時間変化が得られる。このパターン一致度R2の所定時間幅の時間平均をとると、図11(c)のようになる。
【0043】
ここで、図11(a)に示した時系列データは、650秒付近まで正常パターンdが周期的に出現するが、650秒以降は、正常パターンdが変化したパターンが出現している。このため、図11(c)に示したパターンdに対するパターン一致度R2の時間平均は、650秒付近まで、ほぼ「1」であったが、650秒以降、特に700秒以降は急激に「1.2」に上昇する。したがって、パターン一致度R2の時間平均の閾値を「1.1」とし、この閾値を越えた場合に、時系列データが「正常」から「異常」になったと判定することができる。なお、図2に示す異常診断処理では、各時点でのパターン一致度R2の時間平均の値が閾値を越えた場合に、部分列が正常パターンに合致しないと判断し、閾値を越えない場合に、部分列が正常パターンに合致したと判断する。
【0044】
この比較照合例2では、正常パターンのみを用い、そのパターン一致度の変化をもとに時系列データが正常か異常かを診断している。なお、この比較照合例2では、上述した比較照合例1で示したパターン一致度R1を用いてもよいし、上述した比較照合例1において、パターン一致度R2を用いてもよい。さらに、パターン一致度R1,R2は、パターンと部分列との一致度の一例であり、他のパターン一致度の式を用いてもよい。
【0045】
この実施の形態では、少なくとも正常パターンのみを用いて時系列データが正常か異常かを検知するようにしているので、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、通常得られる正常パターンのみで、この異常を高確率で検知することができる。なお、異常パターンが得られている場合には、異常パターン照合処理を正常パターン照合処理よりも先に行うことによって、迅速かつ効率的な異常診断処理を行うことができる。
【0046】
なお、鉄鋼プロセスにおける圧延機を対象とした音響による異常診断を行う場合、図12に示した正常パターン(正常時の音のパターン)を用いることができる。これらの正常時の音のパターンは、それぞれ対応する発生タイミングで得ることができ、たとえば、工場の定期的な修理期間などにおいて実施される機器単体テストで個別に採取し、あるいは操業時に採取することができる。この採取したパターンをライブラリ化することにより、本発明を適用して異常診断を行うことが可能となる。たとえば、正常時の音のパターンとして「圧延ロール駆動音」は、発生タイミングである「圧延ロール回転時」に採取することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 異常診断システム
11 入力部
12 出力部
13 記憶部
14 外部装置
20 異常診断処理部
21 切出し処理部
22 ノイズ判定処理部
23 異常パターン照合処理部
24 正常パターン照合処理部
25 登録処理部
26 警報出力処理部
41 異常パターンライブラリ
42 正常パターンライブラリ
43 仮置きライブラリ
C 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムに関し、特に、鉄鋼プラントなどから得られる音響データ、振動データ、温度データなどの時系列データをもとに機械設備やプロセスの状態監視を行うパターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械設備やプロセス操業の異常診断に関する技術が多数知られている。その一例として特許文献1に記載の技術がある。これは、プロセスから得られる時系列データに対して異常発生時に見られる典型的なパターンを予めデータベースに登録し、これと照合することにより、異常診断を行う技術である。すなわち、異常発生時の傾向を事前知識として有することを前提とする技術である。
【0003】
また、機械設備の異常診断を行う実用的な方法として、振動診断や音響診断がある。音響診断は、たとえば特許文献2に記載の技術がある。これは、プランジャーポンプを対象とした異常診断技術であり、異常時の音響の変化が予めわかるので、その変化をとらえようとする技術である。すなわち、特許文献2に記載の技術も、異常発生時の傾向を事前知識として有しることを前提とする技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−221113号公報
【特許文献2】特開2001−324381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術は、いずれも異常発生時の傾向を事前知識として有することを前提としているため、過去に前例のない異常を検知することはできないという問題点があった。また、過去に異常の前例があったとしても数例しかない場合にはその異常発生時の傾向を事前知識として有することは困難な場合が多く、この場合、異常の検知を見逃してしまうという問題点があった。
【0006】
たとえば、鉄鋼プロセスでは、ひとたび発生すると長時間工場を停止しなければならないような重大トラブルが少なくない。しかし、このような重大トラブルは、過去に前例が全くなかったり、あったとしても数例しかないということが珍しくない。このようなプロセスでは、異常時の事例やデータが全くない、あるいは、極端に少ないため、特許文献1に記載されているように過去の異常事例をベースとする従来のアプローチでは、異常発生を見逃さざるを得ず、限界がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、この異常を高確率で検知することができるパターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断方法であって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断することを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記異常の可能性があると診断された時系列データを仮置きライブラリに格納しておき、その後、該時系列データに対して外部装置が詳細照合処理を行うことによって異常診断を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断することを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記時系列データと前記正常パターンとの合致判断は、パターン一致度をもとに行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法は、上記の発明において、前記異常診断対象から予め取得された異常状態の時系列パターンである異常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとの照合前に、前記時系列データと前記異常パターンとの照合を行い、前記時系列データと前記異常パターンとが合致しない場合に、前記時系列データと前記正常パターンとの照合を行って、異常診断を行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断システムは、異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断システムであって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納した正常パターンライブラリと、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断する正常パターン照合処理部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断システムは、上記の発明において、前記正常パターン照合処理部は、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断システムは、上記の発明において、前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断するノイズ判定処理部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断方法であって、前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断するようにしているので、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、この異常を高確率で検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である異常診断システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、制御部による異常診断処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、外部装置による仮置きライブラリ判定処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、正常パターンaを示す波形図である。
【図5】図5は、正常パターンbを示す波形図である。
【図6】図6は、正常パターンcを示す波形図である。
【図7】図7は、異常診断対象から得られた時系列データの一例およびノイズレベル判定結果を示す波形図である。
【図8】図8は、図7に示した時系列データと正常パターンa,b,cとのパターン一致度および総合判定結果を示す波形図である。
【図9】図9は、図7に示した時系列データと正常パターンa,bとのパターン一致度および総合判定結果を示す波形図である。
【図10】図10は、正常パターンdを示す波形図である。
【図11】図11は、時系列データと正常パターンdとのパターン一致度およびその時間平均の時間変化を示す図である。
【図12】図12は、正常時の音のパターンとその発生タイミングとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明にかかるパターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムの実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態である異常診断システムの構成を示す機能ブロック図である。図1において、この異常診断システム1は、異常診断処理部20を含む制御部Cに、入力部11、出力部12、記憶部13が接続される。制御部Cは、CPUなどによって実現され、入力部11は、データ収集装置やポインティングデバイスなどによって実現され、出力部12は、液晶ディスプレイなどによって実現され、記憶部13は、ハードディスク装置などによって実現される。なお、制御部Cには外部装置14も接続され、通信インターフェースを介して制御部Cと通信が可能である。
【0021】
記憶部13は、過去の異常時の異常パターンを格納した異常パターンライブラリ41と、多数の正常時の正常パターンを予め格納した正常パターンライブラリ42と、正常パターンか異常パターンかが不明な複数のパターンを格納した仮置きライブラリ43とを有する。異常パターンライブラリ41は、異常パターンが入手されている場合に異常パターンが格納され、異常がなく異常パターンが入手できない場合に異常パターンは格納されず、空のままとなる。
【0022】
異常診断処理部20は、切出し処理部21、ノイズ判定処理部22、異常パターン照合処理部23、正常パターン照合処理部24、登録処理部25,および警報出力処理部26を有し、異常診断処理を行う。
【0023】
ここで、図2に示すフローチャートを参照して、異常診断処理部20による異常診断処理手順について説明する。図2において、たとえば鉄鋼プロセスにおける圧延機などの機械設備の近く設置した集音機によって取得した音圧の時系列データが入力部11から順次入力されると、切出し処理部21は、この時系列データを、予め設定された時間長の時系列データである部分列として切り出す処理を行う(ステップS101)。なお、この時間長は、異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に格納されているパターンの中で最も長い時間長に設定される。
【0024】
その後、ノイズ判定処理部22が、部分列の信号振幅レベルが所定値以下であるか否か、すなわちノイズレベルか否かを判断する(ステップS102)。部分列の信号振幅レベルがノイズレベルである場合(ステップS102,Yes)、ステップS107に移行して「正常」と判定する。
【0025】
一方、部分列の信号振幅レベルがノイズレベルでない場合(ステップS102,No)には、異常パターンあるいは正常パターンが含まれる有意なパターンであるとして、ステップS103に移行する。
【0026】
その後、異常パターン照合処理部23は、切出し処理部21によって切り出された部分列を、異常パターンライブラリ41内の異常パターンと照合する異常パターン照合処理を行う(ステップS103)。この異常パターン照合処理は、部分列に対して、異常パターンライブラリ41に格納されている異常パターンの全てに対して照合処理を行うが、部分列が、少なくとも1つの異常パターンに合致した場合、ステップS104に移行する。なお、異常パターンライブラリ41に異常パターンが格納されていない場合には、この異常パターン照合処理は、スキップされる。
【0027】
この異常パターン照合処理の結果、切り出された部分列に合致する異常パターンがあるか否かを判断し(ステップS104)、合致する場合(ステップS104,Yes)には、ステップS108に移行して「異常」と判定する。この「異常」と判定された場合、警報出力処理部26は、その旨を出力部12から警報出力する。
【0028】
一方、切り出された部分列に合致する異常パターンがない場合(ステップS104,No)には、さらに、正常パターン照合処理部24が、切り出された部分列を、正常パターンライブラリ42内の正常パターンと照合する正常パターン照合処理を行う(ステップS105)。この正常パターン照合処理は、異常パターン照合処理と同様に、正常パターンライブラリ42に格納されている正常パターンの全てに対して照合処理を行うが、部分列が、少なくとも1つの正常パターンに合致した場合、ステップS106に移行する。
【0029】
この正常パターン照合処理の結果、切り出された部分列に合致する正常パターンがあるか否かを判断し(ステップS106)、合致する場合(ステップS106,Yes)には、ステップS107に移行して「正常」と判定する。この「正常」と判定された場合、警報出力処理部26は、その旨を出力部12から出力するようにしてもよい。
【0030】
一方、切り出された部分列に合致する正常パターンがない場合(ステップS106,No)には、正常パターン照合処理部24が、この部分列のパターンを、とりあえず異常の可能性もあるため、「仮異常」と判定する。そして、この部分列のパターンは、現時点で正常でも異常でもないため、警報出力処理部26が「いつもと違う状態」である旨を出力部12から警報出力する。また、登録処理部25は、この部分列のパターンを仮置きライブラリ43内に登録する(ステップS109)。なお、この仮置きライブラリ43への登録時に、登録処理部25は、この部分列に、この部分列の発生時間データを対応づけて登録しておくことが好ましい。
【0031】
次に、ステップS108による異常判定あるいはステップS107による正常判定あるいはステップS109による仮異常判定の後、入力部11から本処理の終了指示があったか否かを判断する(ステップS110)。終了指示があった場合(ステップS110,Yes)には、本処理を終了し、終了指示がない場合(ステップS110,No)には、ステップS101に移行し、次の部分列を切出し、上述した処理を繰り返す。
【0032】
なお、外部装置14は、仮置きライブラリ判定処理システムとして機能し、仮置きライブラリ43に登録された部分列のパターンが異常パターンか正常パターンかの詳細判定を行い、この判定結果をもとに異常パターンライブラリ41または正常パターンライブラリ42に登録する仮置きライブラリ判定処理を行う。この外部装置14は、たとえば、過去の操業データや機器の単体テストデータなどが格納されたデータベースを有し、このデータベースをもとに部分列が異常パターンか正常パターンを詳細に照合処理(詳細照合処理)する大型コンピュータなどによって実現される。もちろん、外部装置14による詳細照合処理には、熟練者などの人の判断処理を加えてもよい。
【0033】
ここで、図3に示すフローチャートを参照して、外部装置14による仮置きライブラリ判定処理手順について説明する。外部装置14は、異常診断システム1の出力部12から警報通知があった場合(ステップS201,Yes)、仮置きライブラリ43にアクセスして、登録されている部分列のパターンを取り出す(ステップS202)。
【0034】
その後、外部装置14は、取り出した部分列のパターンが異常パターンか正常パターンかの詳細照合処理を行う(ステップS203)。その後、外部装置14は、詳細照合処理が行われた部分列のパターンが異常であるか否かを判断する(ステップS204)。異常と判断された場合(ステップS204,Yes)、登録処理部25は、この部分列のパターンを異常パターンライブラリ41に登録する処理を行う(ステップS205)。一方、異常と判断されない場合(ステップS204,No)、登録処理部25は、この部分列のパターンを正常パターンライブラリ42に登録する処理を行う(ステップS206)。このようにしていつもと違う状態である「仮異常」の部分列のパターンは、異常あるいは正常と判断され、それぞれ異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録されることによって蓄積され、その後の異常診断処理に利用されることによって、一層、精度の高い異常診断処理を行うことができる。
【0035】
なお、上記の外部装置14による仮置きライブラリ判定処理は、上述したように、異常診断システム1に対してオンラインで処理してもよいし、オフラインで処理してもよい。たとえば、定期的に異常診断システム1の仮置きライブラリ43から「仮異常」の部分列のパターンを取得して所定の記憶媒体内に格納し、この格納された部分列のパターンを外部装置14に入力することによって外部装置14が上述した詳細照合処理を行い、その照合処理結果をもとに、対応する異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録するようにしてもよい。
【0036】
(照合処理例1)
ここで、上述したステップS103による異常パターン照合処理あるいはステップS105による正常パターン照合処理の一例について説明する。この照合処理例1では、次式(1)によって異常パターンあるいは正常パターンをスライディングさせながら時系列データの部分列と相関をとってパターン一致度R1を算出することにより行う。
R1=〈S・P〉/(〈S・S〉・〈P・P〉) …(1)
ただし、Sは、切り出された部分列であり、Pは、異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録されているパターンである。また、〈X・Y〉は、XとYとの内積を示す。このパターン一致度R1は、異常パターンライブラリ41あるいは正常パターンライブラリ42に登録されているパターンと同じパターンの部分列が出現すると、値が「1」になり、登録されているパターンと部分列とが合致しない場合には値が「0」に近づく。
【0037】
このパターン一致度R1を用いた正常パターン照合処理による連続的な異常診断処理の一例についてさらに説明する。この異常診断処理例では、図4〜図6に示すような、3つの正常パターンa,b,cが正常パターンライブラリ42に格納されており、図7(a)に示すような時系列データに対して異常診断処理を行う。なお、図7(a)に示した時系列データは、複数の部分列からなるデータである。この図7(a)に示した時系列データには、1000秒の時間軸上の各所に正常パターンa,b,cの1以上の組合せが内在している。
【0038】
図8(a)〜図8(c)は、それぞれ図7(a)に示した時系列データに対して正常パターンa,b,cを時間軸上にスライディングさせて相関をとり、時々刻々とパターン一致度R1を算出した結果である。各図8(a)〜図8(c)には、それぞれパターン一致度R1の時間変化を示している。たとえば、図7(a)に示す時系列データでは、100秒付近で正常パターンaが含まれているため、図8(a)に示すパターン一致度R1は、100秒付近で「1」に近いピーク値を示している。
【0039】
図8(a)〜図8(c)において、パターン一致度R1をもとに図7(a)に示した時系列データのパターンの合致を判定するために、たとえば、パターン一致度R1が0.5以上の場合に、合致するとして「1」を出力し、0.5未満の場合に合致しないとして「0」を出力する判定結果をそれぞれ示している。この場合、ある時点で、図8(a)〜図8(c)の判定結果の少なくとも1つが「1」である場合に、時系列データは正常パターンに合致したものと判定され、正常と判定される。また、ある時点で、図8(a)〜図8(c)の判定結果のいずれもが「0」である場合であっても、図7(b)に示すようにノイズレベルが所定値以下、たとえば信号振幅レベルが0.6以下の場合に、有効なパターンが存在しない区間として「1」を出力するようにしている。この結果、図8(d)に示した総合判定結果のように、図8(a)〜図8(c)および図7(b)の判定結果の少なくとも1つが「1」である場合、すなわち論理和演算が「1」である場合、各時点の時系列データは、「正常」であると判定し、論理和演算が「0」である場合、各辞典の時系列データは、その後の詳細照合処理の対象となり、「正常」あるいは「異常」と判定される。なお、図8(d)の総合判定結果では、すべての区間で、「正常」であると判定されている。なお、パターン一致度R1は、所定の時間長を有するため、図8(a)〜図8(c)の判定結果は、パターン長の分が広がった区間となっている。
【0040】
さらに具体的に示すと、図7(a)の正常パターンa,b,cを含む時系列データに対して、正常パターンa,bのみによって異常診断処理を行うと、図9(a),図9(b)に示すように、図8(a),図8(b)と同じパターン一致度R1を得るが、図8(c)に対応するパターンcに対応するパターン一致度R1および判定結果を得ることができないため、たとえ、図7(b)に示したノイズレベルの判定結果が得られても、図9(c)に示すように、総合判定結果が、600秒付近(区間E1)および930秒付近(区間E2)で論理和が「0」となっている。これは、図7(a)に示した時系列データに正常パターンcが含まれる時点に対応した区間E1,E2に、予期しないパターンが現れ、「異常」の可能性があることを精度高く診断したことになる。もちろん、図8に示したように、正常パターンcに対する照合処理を行うことによって、区間E1,E2は、総合判定結果が「1」となり「正常」と判定される。
【0041】
(照合処理例2)
つぎに、正常パターン照合処理の他の例として、次式(2)に示すパターン一致度R2を用い、このパターン一致度R2の変化率をもとに微小変化の異常診断処理を行うようにしてもよい。
R2=〈S・P〉/(〈P・P〉・〈P・P〉) …(2)
【0042】
この照合処理例2では、図10に示した1つの正常パターンdのみを用い、図11(a)に示した時系列データに対して式(2)に示したパターン一致度R2を求めると、図11(b)に示すようなパターン一致度R2の時間変化が得られる。このパターン一致度R2の所定時間幅の時間平均をとると、図11(c)のようになる。
【0043】
ここで、図11(a)に示した時系列データは、650秒付近まで正常パターンdが周期的に出現するが、650秒以降は、正常パターンdが変化したパターンが出現している。このため、図11(c)に示したパターンdに対するパターン一致度R2の時間平均は、650秒付近まで、ほぼ「1」であったが、650秒以降、特に700秒以降は急激に「1.2」に上昇する。したがって、パターン一致度R2の時間平均の閾値を「1.1」とし、この閾値を越えた場合に、時系列データが「正常」から「異常」になったと判定することができる。なお、図2に示す異常診断処理では、各時点でのパターン一致度R2の時間平均の値が閾値を越えた場合に、部分列が正常パターンに合致しないと判断し、閾値を越えない場合に、部分列が正常パターンに合致したと判断する。
【0044】
この比較照合例2では、正常パターンのみを用い、そのパターン一致度の変化をもとに時系列データが正常か異常かを診断している。なお、この比較照合例2では、上述した比較照合例1で示したパターン一致度R1を用いてもよいし、上述した比較照合例1において、パターン一致度R2を用いてもよい。さらに、パターン一致度R1,R2は、パターンと部分列との一致度の一例であり、他のパターン一致度の式を用いてもよい。
【0045】
この実施の形態では、少なくとも正常パターンのみを用いて時系列データが正常か異常かを検知するようにしているので、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、通常得られる正常パターンのみで、この異常を高確率で検知することができる。なお、異常パターンが得られている場合には、異常パターン照合処理を正常パターン照合処理よりも先に行うことによって、迅速かつ効率的な異常診断処理を行うことができる。
【0046】
なお、鉄鋼プロセスにおける圧延機を対象とした音響による異常診断を行う場合、図12に示した正常パターン(正常時の音のパターン)を用いることができる。これらの正常時の音のパターンは、それぞれ対応する発生タイミングで得ることができ、たとえば、工場の定期的な修理期間などにおいて実施される機器単体テストで個別に採取し、あるいは操業時に採取することができる。この採取したパターンをライブラリ化することにより、本発明を適用して異常診断を行うことが可能となる。たとえば、正常時の音のパターンとして「圧延ロール駆動音」は、発生タイミングである「圧延ロール回転時」に採取することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 異常診断システム
11 入力部
12 出力部
13 記憶部
14 外部装置
20 異常診断処理部
21 切出し処理部
22 ノイズ判定処理部
23 異常パターン照合処理部
24 正常パターン照合処理部
25 登録処理部
26 警報出力処理部
41 異常パターンライブラリ
42 正常パターンライブラリ
43 仮置きライブラリ
C 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断方法であって、
前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断することを特徴とするパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項2】
前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする請求項1に記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項3】
前記異常の可能性があると診断された時系列データを仮置きライブラリに格納しておき、その後、該時系列データに対して外部装置が詳細照合処理を行うことによって異常診断を行うことを特徴とする請求項2に記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項4】
前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項5】
前記時系列データと前記正常パターンとの合致判断は、パターン一致度をもとに行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項6】
前記異常診断対象から予め取得された異常状態の時系列パターンである異常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとの照合前に、前記時系列データと前記異常パターンとの照合を行い、前記時系列データと前記異常パターンとが合致しない場合に、前記時系列データと前記正常パターンとの照合を行って、異常診断を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項7】
異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断システムであって、
前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納した正常パターンライブラリと、
前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断する正常パターン照合処理部と、
を備えたことを特徴とするパターンライブラリを用いた異常診断システム。
【請求項8】
前記正常パターン照合処理部は、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする請求項7に記載のパターンライブラリを用いた異常診断システム。
【請求項9】
前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断するノイズ判定処理部を備えたことを特徴とする請求項7,8に記載のパターンライブラリを用いた異常診断システム。
【請求項1】
異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断方法であって、
前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断することを特徴とするパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項2】
前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする請求項1に記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項3】
前記異常の可能性があると診断された時系列データを仮置きライブラリに格納しておき、その後、該時系列データに対して外部装置が詳細照合処理を行うことによって異常診断を行うことを特徴とする請求項2に記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項4】
前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項5】
前記時系列データと前記正常パターンとの合致判断は、パターン一致度をもとに行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項6】
前記異常診断対象から予め取得された異常状態の時系列パターンである異常パターンを格納しておき、前記時系列データと前記正常パターンとの照合前に、前記時系列データと前記異常パターンとの照合を行い、前記時系列データと前記異常パターンとが合致しない場合に、前記時系列データと前記正常パターンとの照合を行って、異常診断を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のパターンライブラリを用いた異常診断方法。
【請求項7】
異常診断対象から得られる時系列データをもとに、前記異常診断対象の異常を検知するパターンライブラリを用いた異常診断システムであって、
前記異常診断対象から予め取得された正常状態の時系列パターンである正常パターンを格納した正常パターンライブラリと、
前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、少なくとも1つの正常パターンに前記時系列データが合致する場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は正常であると診断する正常パターン照合処理部と、
を備えたことを特徴とするパターンライブラリを用いた異常診断システム。
【請求項8】
前記正常パターン照合処理部は、前記時系列データと前記正常パターンとを照合し、全ての正常パターンに前記時系列データが合致しない場合、該時系列データが取得された区間における前記異常診断対象は異常の可能性があると診断することを特徴とする請求項7に記載のパターンライブラリを用いた異常診断システム。
【請求項9】
前記時系列データの信号振幅レベルが所定値以下の場合、該時系列データは正常であると診断するノイズ判定処理部を備えたことを特徴とする請求項7,8に記載のパターンライブラリを用いた異常診断システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−247695(P2011−247695A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119742(P2010−119742)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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