説明

パターン自動抽出方法およびパターン自動抽出システム

【課題】特に正常パターンとの照合処理によって異常診断を行う際に用いる膨大な数の正常パターンを自動抽出して容易にパターンライブラリに登録することができるパターン自動抽出方法およびパターン自動抽出システムを提供すること。
【解決手段】入力された時系列データの変化点を抽出し、この変化点をもとに該時系列データを複数のパターンとして切り出すパターン切出し処理部21と、パターン切出し処理部21によって切り出された複数のパターン間の類似度を算出し、該類似度の高い組合せパターンをクラスタリングし、各パターンを登録パターンとして抽出するパターンクラスタリング処理部22と、パターンクラスタリング処理部22によって抽出された登録パターンを正常パターンライブラリに登録する登録処理部23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンライブラリを用いた異常診断方法および異常診断システムに用いるパターンを自動抽出して前記パターンライブラリに登録するパターン自動抽出方法およびパターン自動抽出システムに関し、特に、鉄鋼プラントなどから得られる音響データ、振動データ、温度データなどの時系列データをもとに機械設備やプロセスの状態監視を行うためのパターンを自動抽出するパターン自動抽出方法およびパターン自動抽出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械設備やプロセス操業の異常診断に関する技術が多数知られている。その一例として特許文献1に記載の技術がある。これは、プロセスから得られる時系列データに対して異常発生時に見られる典型的なパターンを予めデータベースに登録し、これと照合することにより、異常診断を行う技術である。すなわち、異常発生時の傾向を事前知識として有することを前提とする技術である。
【0003】
また、機械設備の異常診断を行う実用的な方法として、振動診断や音響診断がある。音響診断は、たとえば特許文献2に記載の技術がある。これは、プランジャーポンプを対象とした異常診断技術であり、異常時の音響の変化が予めわかるので、その変化をとらえようとする技術である。すなわち、特許文献2に記載の技術も、異常発生時の傾向を事前知識として有しることを前提とする技術である。
【0004】
なお、システムの変化点検出などに関する学習理論としては、非特許文献1または2に記載されている部分空間同定法や密度比推定法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−221113号公報
【特許文献2】特開2001−324381号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】河原吉伸著 「確率部分空間同定法に基づく時系列データにおける変化点検知」情報論的学習理論ワークショップ 2007年
【非特許文献2】杉山将著 「密度比推定を用いた特異点検出手法」情報論的学習理論ワークショップ 2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した従来技術は、いずれも異常発生時の傾向を事前知識として有することを前提としているため、過去に前例のない異常を検知することはできないという問題点があった。また、過去に異常の前例があったとしても数例しかない場合にはその異常発生時の傾向を事前知識として有することは困難な場合が多く、この場合、異常の検知を見逃してしまうという問題点があった。
【0008】
たとえば、鉄鋼プロセスでは、ひとたび発生すると長時間工場を停止しなければならないような重大トラブルが少なくない。しかし、このような重大トラブルは、過去に前例が全くなかったり、あったとしても数例しかないということが珍しくない。このようなプロセスでは、異常時の事例やデータが全くない、あるいは、極端に少ないため、特許文献1に記載されているように過去の異常事例をベースとする従来のアプローチでは、異常発生を見逃さざるを得ず、限界がある。
【0009】
そこで本発明者らは、異常診断に際し、過去の正常時における機会設備状態やプロセス操業状態の典型的なパターンを予め抽出し、抽出した正常時の典型パターンを正常パターンライブラリに登録し、診断対象のデータと正常パターンライブラリに登録されているすべての正常パターンとの照合を行って、「いつもと違う状態」を検知し、異常を判定することにより、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、この異常を高確率で検知することを考えた。そのためには、あらゆる正常時の典型パターンを正常パターンライブラリに蓄積登録する必要があるが、この処理は時間と労力とがかかるという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、特に正常パターンとの照合処理によって異常診断を行う際に用いる膨大な数の正常パターンを自動抽出して容易にパターンライブラリに登録することができるパターン自動抽出方法およびパターン自動抽出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるパターン自動抽出方法は、入力された時系列データの変化点を抽出し、この変化点をもとに該時系列データを複数のパターンとして切り出すパターン切出しステップと、前記パターン切出しステップによって切り出された複数のパターン間の類似度を算出し、該類似度の高い組合せパターンをクラスタリングし、各パターンを登録パターンとして抽出するパターン抽出ステップと、前記パターン抽出ステップによって抽出された登録パターンを正常パターンライブラリに登録する登録ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるパターン自動抽出方法は、上記の発明において、前記時系列データは、正常時に採取された時系列データであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるパターン自動抽出方法は、上記の発明において、前記パターン切出しステップは、部分空間同定法により変化点を抽出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるパターン自動抽出方法は、上記の発明において、前記パターン切出しステップは、密度比推定法により変化点を抽出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるパターン自動抽出システムは、入力された時系列データの変化点を抽出し、この変化点をもとに該時系列データを複数のパターンとして切り出すパターン切出し処理部と、前記パターン切出し処理部によって切り出された複数のパターン間の類似度を算出し、該類似度の高い組合せパターンをクラスタリングし、各パターンを登録パターンとして抽出するパターン抽出部と、前記パターン抽出部によって抽出された登録パターンを正常パターンライブラリに登録する登録処理部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるパターン自動抽出システムは、上記の発明において、前記時系列データは、正常時に採取された時系列データであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかるパターン自動抽出システムは、上記の発明において、前記パターン切出し処理部は、部分空間同定法により変化点を抽出することを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかるパターン自動抽出システムは、上記の発明において、前記パターン切出し処理部は、密度比推定法により変化点を抽出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、入力された時系列データの変化点を抽出し、この変化点をもとに該時系列データを複数のパターンとして切り出し、この切り出された複数のパターン間の類似度を算出し、該類似度の高い組合せパターンの各パターンをクラスタリングした上で登録パターンとして抽出し、この抽出された登録パターンを正常パターンライブラリに登録するようにしているので、特に正常パターンとの照合処理によって異常診断を行う際に用いる膨大な数の正常パターンが自動抽出によって容易にパターンライブラリに登録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかるパターン自動抽出システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、制御部によるパターン自動抽出処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、圧延機の概要構成を示す斜視図である。
【図4】図4は、圧延機のスピンドルカップリング部からの異常音を含む時系列データの一例を示す図である。
【図5】図5は、パターンを抽出するための参照区間と評価区間の概念を示す図である。
【図6】図6は、システムの変化点と切出しパターンとの関係を示す図である。
【図7】図7は、パターンクラスタリング処理部による類似度算出結果を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態の応用例であるシステムの構成を示す機能ブロック図である。
【図9】図9は、図8に示した異常診断システムによる異常診断処理手順を示すフローチャートである。
【図10】図10は、図8に示した異常診断システムの外部装置による仮置きライブラリ判定処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明にかかるパターン自動抽出方法およびパターン自動抽出システムの実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態であるパターン自動抽出システムの構成を示す機能ブロック図である。図1において、このパターン自動抽出システム1は、パターン抽出処理部20を含む制御部Cに、入力部11、出力部12、記憶部13、および外部装置14が接続される。制御部Cは、CPUなどによって実現され、入力部11は、データ収集装置やポインティングデバイスなどによって実現され、出力部12は、液晶ディスプレイなどによって実現され、記憶部13は、ハードディスク装置などによって実現される。なお、外部装置14は、通信インターフェースを介して制御部Cと通信が可能である。
【0023】
記憶部13は、多数の過去の正常時の正常パターンを予め格納した正常パターンライブラリ41と、正常パターンか異常時の異常パターンかが不明な複数のパターンを格納した仮置きライブラリ43とを有する。
【0024】
なお、外部装置14は、操業データベース(DB)15を有し、この操業DB15は、過去の操業時などに取得した時系列データのうち、正常操業時に取得された時系列データ、すなわち正常時の時系列データが格納されている。
【0025】
パターン抽出処理部20は、パターン切出し処理部21、パターン抽出部としてのパターンクラスタリング処理部22、および登録処理部23を有し、パターン自動抽出処理を行う。このパターン自動抽出処理は、操業DB15に格納されたデータをもとに、正常パターンを抽出して正常パターンライブラリ41に登録するものである。このため、パターン抽出処理部20は、操業DB15にアクセスして、パターン自動抽出処理を行う。
【0026】
ここで、図2に示すフローチャートを参照して、パターン抽出処理部20によるパターン自動抽出処理手順について説明する。まず、パターン抽出処理部20は、入力部11からのパターン自動抽出処理の開始指示を受けると、外部装置14の操業DB15をアクセスし、パターン自動抽出の対象である正常時の時系列データを取得し、正規化処理などの前処理を行う(ステップS101)。
【0027】
その後、パターン切出し処理部21は、取得した時系列データの変化点を抽出し、この変化点によって時系列データを区切り、各区間の時系列データをパターンとして切り出す処理を行う(ステップS102)。
【0028】
その後、パターンクラスタリング処理部22は、変化点で区切られて切り出された複数のパターン間の類似度を算出する(ステップS103)。そして、パターンクラスタリング処理部22は、所定値以上の類似度をもつパターンの組合せがあるか否かを判断する(ステップS104)。所定値以上の類似度をもつパターンの組合せがない場合(ステップS104,No)には、仮置きライブラリ43に登録し(ステップS106)、本処理を終了する。
【0029】
一方、所定値以上の類似度をもつパターンの組合せがある場合(ステップS104,Yes)、登録処理部23は、抽出したパターンを正常パターンライブラリ41に登録し(ステップS105)、本処理を終了する。
【0030】
ここで、パターン自動抽出処理の具体例について説明する。なお、ここでは、説明の都合上、既知の異常パターンを自動抽出する例を示すが、正常パターンについても同様に適用できる。まず、図3は、本発明の実施の形態であるパターン自動抽出方法が適用される異常診断の対象としての圧延機50の概要を示している。この圧延機50は、2本の圧延ロールで被圧延材51としての鋼板を挟み、所定の厚みとなるように圧延する。このとき、圧延ロールはスピンドル52を介して図示しないモータにより回転される。圧延機50では、スピンドルカップリング部53において磨耗が発生し、回転するたびに周期音が発生する。
【0031】
図4は、圧延機50の近傍に設置した集音機によって取得した音圧の時系列データを示している。図4における点線部分で示した箇所がスピンドルカップリング部53の異常音(磨耗音)である。そして、操業DB15には、図3に示した機械設備である圧延機50で過去に発生し、集音された音声データ(図4に示すような時系列データ)が、多数格納されている。
【0032】
パターン自動抽出処理は、まず、パターンの切出し処理が行われる。ところで、正常時の場合も異常時の場合も時系列データ上に、あるパターンが出現するということは、パターンが出現するタイミングで、その背後にあるシステムが変化すると解釈することができる。例えば、鉄鋼プロセスの圧延機に対する音響診断の場合、スラブが搬送される音、冷却水をかける音、回転機器のカップリング磨耗音など様々な音が観測されるが、スラブ搬送音はローラ間隔Lのテーブルローラ上を速度Vで搬送されるスラブが時間周期L/Vでローラに当たることで発生する音の発生システム、冷却水音は高圧水がノズルから空間へ急激に広がることで発生する音の発生システム、カップリング磨耗音はカップリング回転時に磨耗部が回転にあわせて当たることで発生する音の発生システムと、次々とシステムが変化していると解釈することができる。したがって、背後に存在するこのようなシステムの変化を検出することができれば、その時点でパターンが次々と変化するため、パターンを切り出すことが可能となる。
【0033】
このシステムの変化を捉える手段としては、部分空間同定法や密度比推定法などが知られている。まず、これら部分空間同定法や密度比推定法の前提となる参照区間及び評価区間について説明する(非特許文献1参照)。
【0034】
図5に示すように、現在の時刻をt0、それより過去のある2つの時点をtrf及びtte(trf<tte<t0)とし、時刻trfから始まる区間を参照区間、時刻tteから始まる区間を評価区間とする。各時刻tにおいてd次元の時系列サンプルy(t)(t=trf,・・・,t0)が与えられているとする。このとき、次式のように長さkの部分系列ベクトルを考える。
【数1】

ただし、●Tは行列の転置を表す。さらに、部分系列ベクトルを並べて得られるハンケル行列Yk,N(t)を次式のように表す。
【数2】

また、各区間の部分系列ベクトルの数をnrf及びnteとする。
【0035】
ここで、確率部分空間同定法を用いた変化点抽出について説明する。時系列データを生成する背後にあるシステムを考えた場合に、参照区間のデータyk(trf)、yk(trf+1)、・・・の線形結合で張られる空間SSrf(部分空間)に対して、システムに変化がなければ、評価区間のデータyk(tte)、yk(tte+1)、・・・は部分空間Srfに拘束される。システムに変化があれば、部分空間Srfに拘束されない。よって、参照区間のデータで張られる部分空間SSrfに対する評価区間のデータの正準角が、予め設定した閾値を越えたときにシステムの変化として検知することができる。参照区間のデータで張られる部分空間SSrfに対する評価区間のデータyk(tte)、yk(tte+1)、・・・の正準角は、次式により計算することができる。
【数3】

【0036】
参照区間のデータで張られる部分空間SSrfは、参照区間のハンケル行列Yk,nrf(trf)から生成される拡大可観測行列Orfを特異値分解して得られる直交成分Urfとして表現することができる。理由を以下に示す。
時系列データy(t)を生成する背後にあるシステムを次式に示す状態空間モデルで表すと、
【数4】

ここで、
【数5】

とすれば、上式より、
【数6】

となる。上式において、右辺第2項がノイズに起因する項であることから、時系列の部分系列から形成される部分空間と状態空間モデルの拡大可観測行列の部分空間が近似的に等しくなる。
【0037】
さらに、部分空間は、直交成分だけでよいので、拡大可観測行列を次式に示すように特異値分解することにより、直交成分Urfを抽出することができる。
【数7】

【0038】
切り出したパターンは、そのままでもよいが、通常は、ノイズなど余計な成分を含むため、情報量を圧縮することが望ましい。情報量を圧縮する方法として、切出したパターンを上述の直交成分Urfで表す方法がある。パターン切出しにおいて確率部分空間同定法を利用すれば、Urfは計算されるので、この結果を利用することができ、望ましい。
【0039】
以上のようにしてパターンを切り出すことができる。切り出したパターンをそのまま代表(典型)パターンとすると、パターンライブラリが膨大となるので、適当にクラスタリングすることが望ましい。そこで、次に、パターンクラスタリング処理部22によるパターンのクラスタリングについて説明する。
【0040】
クラスタリングの方法として、すべてのパターン間の正準角を求め、予め設定した閾値より低ければ、同一のパターンとして分類することができる。i番目のパターンに対応するUrf(i)とj番目のパターンに対応するUrf(j)間の正準角は以下の式で計算することができる。
【数8】

【0041】
以上説明した確率部分空間同定法を用いて、時系列データのシステム変化度を検出する。図6は、図4で示した時系列データに対して、確率部分空間同定法より検出したシステムの変化度を示している。ここでは閾値を「6」として、8区間(区間E1〜E8)にそれぞれ対応するパターンP1〜P8を切り出すことができた。
【0042】
図7は、切り出した8つパターンP1〜P8に対して、各パターン間の類似度を示した図である。パターン間の正準角を求め、その逆数を類似度としている。その結果、切出しパターンP3とパターンP6との組み合わせが、最も類似度が高いという結果を得た。ここでは、もっとも類似度が高い組み合わせを、典型的なパターンとして抽出する。もちろん、他にも所定値以上の類似度を示す組み合わせを別の典型パターンとして抽出してもよい。なお、切出しパターンP3とパターンP6は、図4に示した時系列データにおける点線部分で示した箇所、すわなち、スピンドルカップリング部53の磨耗音である。これにより、スピンドルカップリング部53の磨耗音を、繰返し出現する異常パターンの代表パターンとして抽出することができたことがわかる。
【0043】
以上により、数少ない既知の異常パターンを自動抽出することができる。同様にして、過去の正常時の操業データからは正常パターンを自動抽出することができるので、本発明を用いれば膨大な正常パターンを正常パターンライブラリ41に蓄積することができる。
【0044】
なお、システムの変化を捉えパターンを切出す別の手段として、密度比推定法がある。以下に、密度比推定法について詳細に説明する(非特許文献2参照)。
【0045】
今、時刻tteにおいて変化点があるかどうかを調べるために、次のような2つの仮説を考える。
【数9】

すなわち、仮説H0は全区間にわたり、ある1つの分布prfから時系列データが生成しているという仮説であり、また、仮説H1はその区間の時刻tteにおいてデータを生成する分布がprfから異なる分布pteへ変化したという仮説である。この2つの仮説のどちらがより確からしいかは、次式で示す尤度比Λを計算することで確認することができる。
【数10】

そして、尤度比Λが高い方の仮説を採用し、仮説H1の尤度比Λが高い場合にシステムの変化点があったものと判定する。
【0046】
(応用例)
上述した実施の形態によって、正常パターンライブラリ41に多数の正常パターンが格納される。このような正常パターンライブラリ41や過去の異常時の異常パターンが格納された異常パターンライブラリを用いることによって、異常診断対象のシステムや機器の異常診断処理を行うことができる。
【0047】
図8は、本発明の実施の形態の応用例であるシステムの構成を示す機能ブロック図であり、このシステムは、図1に示したパターン自動抽出システム1の記憶部13を共用して異常診断処理を行う異常診断システム101が付加されたものである。図8において、この異常診断システム101は、異常診断処理部120を含む制御部CCに、入力部111、出力部112、記憶部13が接続される。制御部CCは、CPUなどによって実現され、入力部111は、データ収集装置やポインティングデバイスなどによって実現され、出力部112は、液晶ディスプレイなどによって実現され、記憶部13は、ハードディスク装置などによって実現される。なお、制御部CCには外部装置114も接続され、通信インターフェースを介して制御部CCと通信が可能である。
【0048】
記憶部13は、パターン自動抽出システム1によって取得された多数の正常時の正常パターンが格納された正常パターンライブラリ41と、過去の異常時の異常パターンが格納された異常パターンライブラリ42と、正常パターンか異常パターンかが不明な複数のパターンを格納した仮置きライブラリ43とを有する。このように、記憶部13に異常パターンライブラリ42を有する点で、上述の図1に示した実施の形態とは異なる。異常パターンライブラリ42は、異常パターンが入手されている場合に異常パターンが格納され、異常がなく異常パターンが入手できない場合に異常パターンは格納されず、空のままとなる。
【0049】
異常診断処理部120は、切出し処理部121、ノイズ判定処理部122、異常パターン照合処理部123、正常パターン照合処理部124、登録処理部125、および警報出力処理部126を有し、異常診断処理を行う。なお、制御部CCは、制御部C内に設けてもよい。
【0050】
ここで、図9に示すフローチャートを参照して、異常診断処理部120による異常診断処理手順について説明する。図9において、たとえば鉄鋼プロセスにおける圧延機50などの機械設備の近く設置した集音機によって取得した音圧の時系列データが入力部111から順次入力されると、切出し処理部121は、この時系列データを、予め設定された時間長の時系列データである部分列として切り出す処理を行う(ステップS201)。なお、この時間長は、正常パターンライブラリ41あるいは異常パターンライブラリ42に格納されているパターンの中で最も長い時間長に設定される。
【0051】
次に、ノイズ判定処理部122が、部分列の信号振幅レベルが所定値以下であるか否か、すなわちノイズレベルか否かを判断する。部分列の信号振幅レベルがノイズレベルである場合(ステップS202,Yes)、ステップS207に移行して「正常」と判定する。
【0052】
一方、部分列の信号振幅レベルがノイズレベルでない場合(ステップS202,No)には、異常パターンあるいは正常パターンが含まれる有意なパターンであるとして、ステップS203に移行する。
【0053】
その後、異常パターン照合処理部123は、切出し処理部121によって切り出された部分列を、異常パターンライブラリ42内の異常パターンと照合する異常パターン照合処理を行う(ステップS203)。この異常パターン照合処理は、部分列に対して、異常パターンライブラリ42に格納されている異常パターンの全てに対して照合処理を行うが、部分列が、少なくとも1つの異常パターンに合致した場合、ステップS204に移行する。なお、異常パターンライブラリ42に異常パターンが格納されていない場合には、この異常パターン照合処理は、スキップされる。
【0054】
この異常パターン照合処理の結果、切り出された部分列に合致する異常パターンがあるか否かを判断し(ステップS204)、合致する場合(ステップS204,Yes)には、ステップS208に移行して「異常」と判定する。
【0055】
一方、切り出された部分列に合致する異常パターンがない場合(ステップS204,No)には、さらに、正常パターン照合処理部124が、切り出された部分列を、正常パターンライブラリ41内の正常パターンと照合する正常パターン照合処理を行う(ステップS205)。この正常パターン照合処理は、異常パターン照合処理と同様に、正常パターンライブラリ41に格納されている正常パターンの全てに対して照合処理を行うが、部分列が、少なくとも1つの正常パターンに合致した場合、ステップS206に移行する。
【0056】
この正常パターン照合処理の結果、切り出された部分列に合致する正常パターンがあるか否かを判断し(ステップS206)、合致する場合(ステップS206,Yes)には、ステップS207に移行して「正常」と判定する。
【0057】
一方、切り出された部分列に合致する正常パターンがない場合(ステップS206,No)には、正常パターン照合処理部124が、この部分列のパターンを「いつもと違う状態」と判定する。そして、警報出力処理部126がいつもと違う状態である旨を適宜な形式で出力部112から警報出力する。また、登録処理部125は、この部分列のパターンを仮置きライブラリ43内に登録する(ステップS209)。なお、この仮置きライブラリ43への登録時に、登録処理部125は、この部分列に、この部分列の発生時間データを対応づけて登録しておくことが好ましい。
【0058】
次に、ステップS208による異常判定あるいはステップS207による正常判定あるいはステップS209による「いつもと違う状態」であるとの判定の後、入力部111から本処理の終了指示があったか否かを判断する(ステップS210)。終了指示があった場合(ステップS210,Yes)には、本処理を終了し、終了指示がない場合(ステップS210,No)には、ステップS201に移行し、次の部分列を切出し、上述した処理を繰り返す。
【0059】
なお、外部装置114は、仮置きライブラリ判定処理システムとして機能し、仮置きライブラリ43に登録された部分列が異常パターンか正常パターンかの詳細判定を行い、この判定結果をもとに正常パターンライブラリ41または異常パターンライブラリ42に登録する仮置きライブラリ判定処理を行う。この外部装置114は、たとえば、過去の操業データや機器の単体テストデータなどが格納されたデータベースを有し、このデータベースをもとに部分列が異常パターンか正常パターンを詳細に照合処理(詳細照合処理)する大型コンピュータなどによって実現される。もちろん、外部装置114による詳細照合処理には、熟練者などの人の判断処理を加えてもよい。
【0060】
ここで、図10に示すフローチャートを参照して、外部装置114による仮置きライブラリ判定処理手順について説明する。異常診断システム101の出力部112から警報通知があった場合(ステップS301,Yes)、仮置きライブラリ43にアクセスして、登録されている部分列を取り出す(ステップS302)。
【0061】
その後、外部装置114は、取り出した部分列のパターンが異常であるか否かの詳細照合処理を行う(ステップS303)。その後、外部装置114は、詳細照合処理が行われた部分列のパターンが異常であるか否かを判断する(ステップS304)。異常と判断された場合(ステップS304,Yes)、登録処理部125は、この部分列を異常パターンライブラリ42に登録する処理を行う(ステップS305)。一方、異常と判断されない場合(ステップS304,No)、登録処理部125は、この部分列を正常パターンライブラリ41に登録する処理を行う(ステップS306)。
【0062】
なお、上記の外部装置114による仮置きライブラリ判定処理は、上述したように、異常診断システム101に対してオンラインで処理してもよいし、オフラインで処理してもよい。たとえば、定期的に仮置きライブラリ43から「いつもと違う状態」の部分列のパターンを取得して所定の記憶媒体内に格納し、この格納された部分列のパターンを外部装置114に入力することによって外部装置114が上述した詳細照合処理を行い、その照合処理結果をもとに、対応する正常パターンライブラリ41あるいは異常パターンライブラリ42に登録するようにしてもよい。
【0063】
この応用例では、少なくとも正常パターンライブラリ41を共有し、パターン自動抽出システム1が正常パターンを自動抽出して正常パターンライブラリ41に順次蓄積され、この蓄積された正常パターンを用いて異常診断システム101が、順次得られる時系列データが正常か異常かを検知するようにしているので、過去に前例のない異常や過去に前例の少ない異常であっても、通常得られる正常パターンのみで、この異常を高確率で検知することができるとともに、正常パターンが順次蓄積されるため、一層高確率で異常を検知することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 パターン自動抽出システム
11,111 入力部
12,112 出力部
13 記憶部
14,114 外部装置
15 操業データベース
20 パターン抽出処理部
21 パターン切出し処理部
22 パターンクラスタリング処理部
23,125 登録処理部
41 正常パターンライブラリ
42 異常パターンライブラリ
43 仮置きライブラリ
101 異常診断システム
120 異常診断処理部
121 切出し処理部
122 ノイズ判定処理部
123 異常パターン照合処理部
124 正常パターン照合処理部
126 警報出力処理部
C,CC 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された時系列データの変化点を抽出し、この変化点をもとに該時系列データを複数のパターンとして切り出すパターン切出しステップと、
前記パターン切出しステップによって切り出された複数のパターン間の類似度を算出し、該類似度の高い組合せパターンをクラスタリングし、各パターンを登録パターンとして抽出するパターン抽出ステップと、
前記パターン抽出ステップによって抽出された登録パターンを正常パターンライブラリに登録する登録ステップと、
を含むことを特徴とするパターン自動抽出方法。
【請求項2】
前記時系列データは、正常時に採取された時系列データであることを特徴とする請求項1に記載のパターン自動抽出方法。
【請求項3】
前記パターン切出しステップは、部分空間同定法により変化点を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載のパターン自動抽出方法。
【請求項4】
前記パターン切出しステップは、密度比推定法により変化点を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載のパターン自動抽出方法。
【請求項5】
入力された時系列データの変化点を抽出し、この変化点をもとに該時系列データを複数のパターンとして切り出すパターン切出し処理部と、
前記パターン切出し処理部によって切り出された複数のパターン間の類似度を算出し、該類似度の高い組合せパターンをクラスタリングし、各パターンを登録パターンとして抽出するパターン抽出部と、
前記パターン抽出部によって抽出された登録パターンを正常パターンライブラリに登録する登録処理部と、
を備えたことを特徴とするパターン自動抽出システム。
【請求項6】
前記時系列データは、正常時に採取された時系列データであることを特徴とする請求項5に記載のパターン自動抽出システム。
【請求項7】
前記パターン切出し処理部は、部分空間同定法により変化点を抽出することを特徴とする請求項5または6に記載のパターン自動抽出システム。
【請求項8】
前記パターン切出し処理部は、密度比推定法により変化点を抽出することを特徴とする請求項5または6に記載のパターン自動抽出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−247696(P2011−247696A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119743(P2010−119743)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】