説明

パターン認識による反応解析装置、反応解析方法及びプログラム

【課題】作業者の有する専門知識に左右されることなく、多変量の環境変化による影響にも対応した解析結果を得る技術を提供する。
【解決手段】本発明の反応解析装置は、LIBSを用いた分光測定装置により反応条件を規定する条件属性と属性値が特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータに基づいて求められる、前記条件属性と前記属性値とをパラメータとしてもつ収録データを格納する収録データ記憶部と、スペクトルデータが入力されるスペクトルデータ入力部と、前記収録データ記憶部に格納された収録データを用いて前記スペクトルデータに対して所定のパターン認識をするパターン認識処理部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ誘起ブレークダウン分光法(以下、「LIBS」とも標記する)による反応条件の解析方法及びその解析方法を利用した装置に関する。一例では、LIBSにおける解析装置及び計測システムを構成し、燃焼反応、プラズマ反応などの反応(以下、
単に反応と呼ぶ)の状態またはエアロゾル濃度、煤、NOxの発生を計測し、解析する方法及び解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、反応条件を解析する装置として、LIBSによる反応解析装置が開発販売されている。例えば、各種燃焼器の燃焼状態の診断システムやエアロゾル濃度分析装置としてのLIBSによる反応解析装置が開発販売されている。これらの反応解析装置に用いられている従来の解析手法として、以下の特許文献や非特許文献で挙げられるような反応解析方法が知られている。
【0003】
以下の特許文献や非特許文献で挙げられるような反応解析方法では、反応解析装置は、LIBSを用いた分光測定装置によって光の波長と強さの関係を示すスペクトルデータ(光の波長と強さの関係を表したもの。または、光の波長と強さの関係を時間軸において表したもの。光のプロフィールデータ)を取得する。そして、当該反応解析装置は、取得したスペクトルデータの中から、2点ないし3点の特定波長成分(HやO、N、Cなどの波長成分)を抽出し、その強度または強度比により、当量比や物質の状態を解析する。
【0004】
なお、LIBSを用いた分光測定装置は、当該スペクトルデータを得るために、レーザの照射により、原子がイオンと電子に分離したプラズマ状態を発生させる。そして、当該分光測定装置は、発生させたプラズマ状態において励起状態にある原子が基底状態に戻るときに発する原子固有の波長の光(蛍光)を分光分析することによって、スペクトルデータを取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−226893号公報
【特許文献2】国際公開第2008/059976号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】宮本登、小川英之、城戸章宏、吉岡悟、高橋智也、「LIBS法による炭化水素混合気の高速局所当量比計測」、日本機械学會論文集. B編 67(658), 1494-1499, 2001-06-25、社団法人日本機械学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、従来における反応解析装置は、HやO、N、Cなどの特定の波長成分のみを解析の対象とし、スペクトルデータが有する、特定の波長成分以外の多くの情報量(変化成分)を解析の対象としていない。そのため、反応解析装置によって解析されない変化成分が、有意な変化成分であるのか、それとも、ノイズのような変化成分であるのかの判断は、作業者に委ねられていた。そして、当該変化成分を考慮した上で、どの波長成分を選択するかの選択も作業者に委ねられていた。
【0008】
このような判断や選択には高度な専門知識を必要としたため、従来における反応解析装
置では、作業者の熟練度合い等に解析結果が左右されてしまうという問題点があった。そして、従来における反応解析装置では、同一の反応条件に対する作業者の認識がばらついてしまい、定量的な解析結果が得られないという問題点があった。
【0009】
また、LIBSを用いた分光測定装置が行う分光分析では、分析元素の形状、化合形態、主成分化合物や共存元素の種類や測定物質の供給量などが変化すると、同一分析条件下でも得られるスペクトルデータが変化してしまう。
【0010】
そのため、従来における反応解析装置には、温度や圧力など多変量の環境変化による影響が同時に存在するスペクトルデータには対応困難という問題点があった。
【0011】
これらの問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、作業者の有する専門知識に左右されることなく、多変量の環境変化による影響にも対応した解析結果を得る反応解析装置及び反応解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の反応解析装置は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0013】
すなわち、本発明の反応解析装置は、LIBSを用いた分光測定装置により反応条件を規定する条件属性と属性値が特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータに基づいて求められる、前記条件属性と前記属性値とをパラメータとしてもつ収録データを格納する収録データ記憶部と、スペクトルデータが入力されるスペクトルデータ入力部と、前記収録データ記憶部に格納された収録データを用いて前記スペクトルデータに対して所定のパターン認識をするパターン認識処理部と、を備える。
【0014】
また、本発明の反応解析装置は、更に、2つのスペクトルデータのマハラノビス距離の値(MD値)を算出するMD値算出部を備えてもよい。
【0015】
また、前記収録データはスペクトルデータを含んでもよい。そして、前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値が未知の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであってもよい。このとき、本発明の反応解析装置の前記パターン認識処理部は、前記条件属性に対する属性値が未知である入力されたスペクトルデータの条件属性と同一の条件属性に対して既知の属性値をパラメータとしてもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、取得した前記収録データ記憶部に格納された前記収録データに含まれたスペクトルデータと、前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、算出されるMD値が最近傍である収録データのパラメータに含まれた属性値に基づいて前記未知である属性値を推定する手段と、を備えてもよい。
【0016】
また、前記収録データはスペクトルデータを含んでもよい。そして、前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値が未知の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであってもよい。このとき、本発明の反応解析装置の前記パターン認識処理部は、前記条件属性に対する属性値が未知である入力されたスペクトルデータの条件属性と同一の条件属性をパラメータとしてもつ複数の収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値について、前記入力されたスペクトルデータと前記複数の収録データに含まれたスペクトルデータ及び前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、算出したMD値から前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値を変数とする近似式を所定の近似式導出方法により求め、該近似式に前記MD値算出部により算出した前記入力されたスペクトルデータと前記入力されたスペクトルデータとのMD値
を代入することにより、前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値を推定する手段と、を備えてもよい。
【0017】
また、前記反応条件を規定する条件属性と属性値とが特定された物体の反応条件は、属性値が固定された1つ以上の第1反応条件と、1つの条件属性に対して複数の属性値を有する第2反応条件と、を含んでもよい。そして、前記収録データは、前記条件属性と属性値とが特定された物体を前記分光測定装置により計測することで得られた複数のスペクトルデータのうちの1つのスペクトルデータと、前記1つのスペクトルデータを単位空間として前記複数のスペクトルデータ間相互のMD値を算出し、算出した複数のMD値から前記第2反応条件の属性値を変数とする近似式を所定の近似式導出法で求めることにより得られる第2反応条件の属性値と前記MD値との関係式と、を含んでもよい。また、前記入力されたスペクトルデータは、1つの条件属性に対する属性値が未知であり、1つ以上の条件属性に対するそれぞれの属性値が特定された物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであってもよい。このとき、本発明の反応解析装置の前記パターン認識処理部は、1つ以上の属性値が特定された条件属性及び当該条件属性に対する属性値と前記第1反応条件の条件属性及び当該条件属性に対する属性値とが一致し、前記属性値が未知である条件属性と前記第2反応条件の条件属性とが一致するパラメータをもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、前記収録データ記憶部から取得した前記収録データに含まれる前記1つのスペクトルデータと前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、前記収録データ記憶部から取得した収録データに含まれる関係式に算出したMD値を代入することで得られる値を前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値と推定する手段と、を備えてもよい。
【0018】
また、前記収録データは、スペクトルデータを含んでもよい。そして、前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値を監視する対象の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであってもよい。このとき、本発明の反応解析装置の前記パターン認識処理部は、前記条件属性に対する属性値について、入力されたスペクトルデータの属性値と同一の属性値をパラメータとしてもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、取得した前記収録データ記憶部に格納された前記収録データに含まれたスペクトルデータと、前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、算出されるMD値が所定の値を超えたかどうかを判定することにより、前記監視する対象の物体の条件属性に対する属性値がずれたことを検出する手段と、を備えてもよい。
【0019】
また、前記反応条件を規定する条件属性と属性値とが特定された物体の反応条件は、属性値が固定された1つ以上の第1反応条件と、1つの条件属性に対して複数の属性値を有する第2反応条件と、を含んでもよい。そして、前記収録データは、前記条件属性と属性値が特定された物体を前記分光測定装置により計測することで得られた複数のスペクトルデータのうちの1つのスペクトルデータと、前記1つのスペクトルデータを単位空間として前記複数のスペクトルデータ間相互のMD値を算出し、算出した複数のMD値から前記第2反応条件の属性値を変数とする近似式を所定の近似式導出方法で求めることにより得られる第2反応条件の属性値と前記MD値との関係式と、を含んでもよい。また、前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値を監視する対象の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであってもよい。このとき、本発明の反応解析装置の前記パターン認識処理部は、前記入力されたスペクトルデータの条件属性が当該条件属性に対する属性値が一致した上で第1反応条件の条件属性を含み、前記入力されたスペクトルデータの第1反応条件の条件属性以外の条件属性と前記第2反応条件の条件属性とが一致するパラメータをもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、前記収録データ記憶部から取得した前記収録データに含まれる前記1つのスペクトルデータと前記計測対象の物体のスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出
部により算出し、前記収録データ記憶部から取得した収録データに含まれる関係式に算出したMD値を代入することで得られる値が前記入力されたスペクトルデータの第1反応条件の条件属性以外の条件属性に対する属性値から所定の値ずれたかどうかを判定することにより、前記監視する対象の物体の反応条件の属性値がずれたことを検出する手段と、を備えてもよい。
【0020】
また、本発明の反応解析装置は、更に、波長領域が分割された二つのスペクトルデータの間のMD値を前記MD値算出部により直交表に従って算出すること求められる静特性の値に基づいて、前記二つのスペクトルデータの間の、前記波長領域の各領域についての有効性を示す有効性分析部を備えてもよい。
【0021】
また、本発明の反応解析装置は、更に、あるスペクトルデータに対して求められるMD値と他のスペクトルデータに対して求められるMD値との比率を用いて、他のスペクトルデータに対して前記MD値算出部により求められるMD値を補正するデータ補正部を更に備えてもよい。
【0022】
また、本発明の反応解析装置は、更に、あるスペクトルデータのある波長のピーク値と他のスペクトルデータの当該ある波長のピーク値の比率を用いて、他のスペクトルデータに対して前記MD値算出部により求められるMD値を補正するデータ補正部を備えてもよい。
【0023】
なお、本発明の別態様としては、以上の何れかの構成を実現する方法であってもよいし、プログラムであってもよいし、このようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、作業者の有する専門知識に左右されることなく、多変量の環境変化による影響にも対応した解析結果を得る反応解析装置及び反応解析方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を実施する計測システムの全体構成を例示する図。
【図2】本発明を実施する反応解析装置のハードウェア構成を例示する図。
【図3】分光測定装置により取得される光の画像例。
【図4】図3に示される光の画像例の各波長における光の強さを示すスペクトルデータ例。
【図5】分光測定装置により取得される、時間変化を考慮した光の画像例。
【図6】図5に示される光の画像例の各波長及び各時間における光の強さを示すスペクトルデータ例。
【図7】本発明を実施する反応解析装置の機能構成を例示する図。
【図8】収録データのデータ構造例(1)。
【図9】図8に示されるデータ構造例の具体例。
【図10】収録データと反応条件との関係を示す図。
【図11】収録データのデータ構造例(2)の具体例。
【図12】図11に示される関係式(近似式)のグラフを示す図。
【図13】収録データのパラメータを管理するパラメータ管理テーブルの構成を例示する図。
【図14】圧力Pと当量比φの属性値が未知である計測対象の物体を分光測定装置2により測定することで得られるスペクトルデータについて計測準備部10が前処理を行った後のスペクトルデータ例を示す図。
【図15】図9に示されるスペクトルデータと図14に示されるスペクトルデータとの間のMD値の計算結果例を示す図。
【図16】図14に示されるスペクトルデータと圧力Pと当量比φをパラメータとしてもつ収録データとの間のMD値の計算結果例を示す図。
【図17】圧力一定(P1)の収録データと計測データとのMD値の計算結果例を示す図。
【図18】MD値と当量比φの関係式を算出した例を示す図。
【図19】図11の収録データを用いた当量比φの推定を表現したグラフ。
【図20】計測対象の物体の監視する反応条件の属性値の例を示す図(1)。
【図21】計測対象の物体の監視する反応条件の属性値と処理の例を示す図。
【図22】有効性分析部60が用いる直交表の例。
【図23】有効性分析部60が作成する要因効果図の例。
【図24】MD値の比率を利用して補正する処理の例を示す図。
【図25】ある波長のピーク値の比率を利用して補正する処理の例を示す図。
【図26】反応解析装置1の動作例を示すフローチャート。
【図27】従来例による当量比φの計測例を示すグラフ。
【図28】スペクトルデータの応用例を示す図。
【図29】時間領域を考慮してMD値を算出した計算結果例を示すグラフ。
【図30】図29のスペクトルデータを用いて図11の収録データを作成した際のデータ構造例。
【図31】図29のスペクトルデータを用いて図11の収録データを作成した際のMD値と圧力Pの関係式を表現するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態としての反応解析装置を備える計測システム(以下、単に「本システム」とも表記する)について具体例を挙げて説明する。以下に挙げる実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0027】
なお、以下に挙げる実施形態において、コンピュータが処理するデータをグラフや自然言語を用いて例示しているが、より具体的には、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメータ、マシン語、配列等で指定される。本発明は、データの表現方法を限定するものではない。
【0028】
§1 システム構成
図1は、実施形態における計測システムの全体構成を例示する。本システムは、反応解析装置1、分光測定装置2、センサ3、センサアンプ4等を備える。以下、本システムが備える各ノードの構成についてそれぞれ説明する。
【0029】
<反応解析装置1>
反応解析装置1は、後述する分光測定装置2によって得られるスペクトルデータ及びセンサ3によって得られる反応条件を規定する条件属性及び当該条件属性に対する属性値に基づいて、計測対象の物体の反応条件の属性値を所定のパターン認識により解析する。つまり、反応解析装置1は、本発明を実施するための形態としての反応解析装置にあたる。
【0030】
図2は、本実施形態における反応解析装置1の構成を例示する。図2に示されるように、反応解析装置1のハードウェア構成の一例は、バス205で接続される、外部機器接続インタフェース200、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only
Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、ハードディスクドライブ2
04等既存のハードウェアを備える。
【0031】
外部機器接続インタフェース200は、分光測定装置2及びセンスアンプ4等の外部からの入力を受け取る。CPU201は、1又は複数のプロセッサであり、RAM203に展開されるプログラムを実行する。ROM202は、反応解析装置1を起動するためのブートアッププログラム等を記憶する。RAM203は、プログラム命令、システムプログラム、及び作業データ(スペクトルデータや収録データ)等を記憶する。ハードディスク204は、外部記憶装置であり、プログラム命令、システムプログラム、及び作業データ(スペクトルデータや収録データ)等を記憶する。
【0032】
また、バス205には、入力装置206及び出力装置207が接続される。入力装置206は、具体的にはマウスやキーボード等であり、作業者の操作に応じた命令を反応解析装置1に入力する。出力装置207は、具体的にはディスプレイ等であり、反応解析装置1の処理結果等を表示する。
【0033】
なお、反応解析装置1は、PC(Personal Computer)等のような汎用コンピュータで構
成されてもよいし、ネットワーク接続ストレージ(NAS)のような専用コンピュータで構
築されてもよい。また、反応解析装置1は、複数台のコンピュータで構築されてもよい。更に、反応解析装置1は、ローカルエリアネットワーク(LAN)への接続を提供するネットワークアダプターボードを備えてもよいし、DVD(Digital Video Disc)等のリムーバルメディアを再生するためのドライブを備えてもよい。本発明は、反応解析装置1のハードウェア構成を限定するものではない。
【0034】
<分光測定装置2>
分光測定装置2は、レーザ誘起ブレークダウン分光法によって光の波長と強さの関係を示すスペクトルデータを取得する。スペクトルデータを取得するため、分光測定装置2は、図1に示されるとおり、レーザ100、光学素子102、分光器104、CCDカメラ105等を備える。
【0035】
レーザ100は、測定領域101においてレーザ誘起ブレークダウンを発生させるためのレーザを照射する。光学素子102は、測定領域101に存在する励起状態の原子が基底状態に戻る時に発する原子固有の波長の光を受け取る。光学素子102が受け取った光は、光ファイバ103を通して分光器104に入力される。分光器104は、入力される光を分光する。そして、CCDカメラ105は、分光器104により分光された光の画像を取得する。CCDカメラ105により取得された光の画像はデータ処理部108に出力される。データ処理部108は、光の画像から光のスペクトルデータを生成する。
【0036】
取得または生成される画像例を図3及び図4に示す。図3は、分光器104により分光され、CCDカメラ105により取得された光の画像例である。図4は、図3に示される光の画像例の各波長における光の強さを示すスペクトルデータ例である。
【0037】
なお、分光された光の各波長における光の強さと時間変化との関係を取得したい場合は、図1に示されるストリークカメラ106を用いる。取得される画像例を図5及び図6に示す。図5は、分光器104により分光され、ストリークカメラ106及びCCDカメラ105により取得された光の画像例である。図6は、図5に示される光の画像例の各波長及び各時間における光の強さを示すスペクトルデータ例である。
【0038】
ディレイユニット107は、パルス信号によりレーザ100とカメラ(CCDカメラ105、ストリークカメラ106)との動作タイミングを制御する。なお、分光測定装置2は、図3から図6までの光の画像またはスペクトルデータを表示するための不図示のモニタを備えてもよい。
【0039】
なお、図1に示される分光測定装置2は、レーザ誘起ブレークダウン分光法によって光の波長と強さの関係を示すスペクトルデータを取得する分光測定装置の一例であり、本発明は、分光測定装置2のハードウェア構成を限定するものではない。
【0040】
<センサ3及びセンサアンプ4>
センサ3は、測定領域101における反応条件を規定する条件属性に対する属性値を取得するためのセンサ群である。反応条件を規定する条件属性は、測定領域101に存在する物体の状態を示す物理的な属性であり、例えば、当量比、圧力、温度、位置、進路、高度、姿勢、方向、寸法、体積、角度、流量、密度、線速度、角速度、加速度、機械的力、応力、流体圧力(気圧)、トルク、振幅、周波数、位相、数量、物理化学的変量、成分、混合比率、空燃比、燃空比、湿度、粘度、光量、色、電荷、電圧、電流、磁束密度及び線量、レーザエネルギ、光路構成、吸気量、吸気湿度、酸化剤の供給圧力、酸化剤中の成分の混合比率、燃料供給量、燃料供給速度、燃料供給位置、燃料供給方向、燃料供給タイミング、燃料粒径、燃料貫通度、混合度、バルブタイミング、バルブ間での開閉の相対時間差、着火タイミング、着火のための投入エネルギ、スワール強さ、タンブル強さ、点火プラグ近傍の作動流体の乱れの強さ、稼働させる計器の種類、稼働させる計器の数量、稼働させる計器の配置、排気再循環量、再循環される排気の温度、排気管圧力、後燃え、排気の定性的成分、排気の定量的成分及び圧力波の振動等である。また、属性値は、条件属性の値、すなわち、測定領域101に存在する物体の状態を示す物理的な数値である。センサ3は、上記各条件属性に対するセンサ(例えば、圧力センサ、温度センサ等)を1つ以上備える。
【0041】
センサ3により取得される条件属性に対する属性値はセンサアンプ4に信号として出力される。そして、センサアンプ4は、入力される信号の増幅及びフィルタリング処理をし、反応解析装置1に当該処理後の信号を出力する。
【0042】
なお、以下、条件属性の単位を省略する。条件属性の単位は任意でよい。ただし、一連の処理において、条件属性に用いられる単位は統一されているものとする。
【0043】
§2 機能構成
図7は、反応解析装置1の機能構成を例示する図である。反応解析装置1は、計測準備部10、収録データ記憶部20、データベース構成部30、パターン認識処理部40、MD値算出部50、有効性分析部60及びデータ補正部70等を備える。収録データ記憶部20は、例えばハードディスク204に格納されることで実現される。また、計測準備部10、データベース構成部30、パターン認識処理部40、MD値算出部50、有効性分析部60及びデータ補正部70は、例えば、ハードディスク204に格納されたプログラムがRAM203に展開されてCPU201により実行されることにより実現される。
【0044】
以下、反応解析装置1が備える各ノードについてそれぞれ説明する。なお、本実施形態における反応解析装置1は、MT(Mahalanobis Taguchi)システムに準ずる方法によっ
て計測対象の物体のスペクトルデータをパターン認識する装置であるとして説明する。ただし、パターン認識の種類は本発明を限定するものではない。
【0045】
§2−1 計測準備部10
計測準備部10は、分光測定装置2及びセンサ3により取得される各データに対して、反応解析装置1が行う処理の前処理を行う。
【0046】
本実施形態において、反応解析装置1は、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理、反応条件を規定する条件属性と属性値とが特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータから収録データを作成し、収録データ記
憶部20に作成した収録データを格納する処理、及び、計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理を実行する。ただし、本発明は、実行する処理によって限定されない。本実施形態の反応解析装置1は、その他の処理を実行してもよい。
【0047】
計測準備部10は、反応解析装置1が行う処理の前処理を行うために、信号入力部11、スペクトルデータ構成設定部12、及び処理選択部13を備える。信号入力部11、スペクトルデータ構成設定部12、及び処理選択部13は、上述の計測準備部10と同様に、例えば、ハードディスク204に格納されたプログラムがRAM203に展開されてCPU201により実行されることにより実現される。
【0048】
信号入力部11は、分光測定装置2及びセンサアンプ4から計測対象の物体のスペクトルデータ及び条件属性に対する属性値の入力を受け取る。スペクトルデータ構成設定部12は、信号入力部11が受け取ったデータを反応解析装置1が行う上記各処理に適合するデータに変換する。そして、変換したデータは、処理選択部13によって反応解析装置1が行う上記各処理を行うデータベース構成部30またはパターン認識処理部40に入力される。
【0049】
具体的なデータの変換例は図14に示す。図14については後述する。
【0050】
§2−2 収録データ記憶部20
収録データ記憶部20は、パターン認識処理部40が計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理及び計測対象の物体についてある条件属性に対する属性値について監視する処理を実行するときに行う所定のパターン認識に用いる収録データを格納する。
【0051】
収録データは、パターン認識処理部40が行うパターン認識によって色々考えられるが、本実施形態では、以下の二つの例を想定する。ただし、以下の二つの例は本発明を限定するものではない。
【0052】
<収録データとしてスペクトルデータを記憶する場合>
収録データの一例として、図8に示されるとおり、収録データが分光測定装置2によって取得されるスペクトルデータそのものを含む例を挙げる。
【0053】
図8は、スペクトルデータそのものを収録データとして収録データ記憶部20に格納する時のデータ構造例である。図8に示される収録データは、スペクトルデータをk(kは1以上の自然数)等分の波長領域に分けて、光の強さ(x11〜xnk)、光の強さの平均値(下記の数1)、光の強さの標準偏差の値(下記の数2)、後述する有効性分析の結果を格納するフィールドを有する。なお、xijは波長「(j−1)n+m+i−1」の光の強さを示す。ここで、mはスペクトルデータ内の始点となる波長を意味し、1以上の自然数である。nはk等分した波長領域に含まれるデータの個数を意味し、2以上の自然数である。jは波長領域の番号(1からnまで)が入力される変数である。つまり、xijは、j番目の波長領域におけるi個目の波長の光の強さを示す。j番目の波長領域における始点となる波長は波長「(j−1)n+m」であり、その始点からi個目の波長は「(j−1)n+m+i−1」である。したがって、xijは波長「(j−1)n+m+i−1」の光の強さを示す。
【0054】
【数1】

【0055】
【数2】

【0056】
条件属性に対する属性値が圧力P=1、当量比φ=3(以下、このような条件属性と属性値との関係を「P1φ3」と表現する。)である時の収録データ例を図9に示す。図9のデータ例は、条件属性に対する属性値「P1φ3」をパラメータとしてもつ収録データ例である。また、図9のグラフは、各ノードに該当する条件属性に対する属性値「Pyφx」(xとyは任意の実数)をパラメータとしてもつ収録データが収録データ記憶部20に格納されていることを示す。図8では収録データの汎用的なデータ構造を示したが、以下の説明においては、図9に示されるように、k=11、n=93、m=1として説明する。また、以下の説明においては、収録データのパラメータとして条件属性と属性値との関係を示す場合は、「P1」のように条件属性の後に属性値を記載した表現を用いる。
【0057】
<収録データとして1つの条件属性に対する属性値を変数とする関係式を記憶する場合>
収録データのその他の一例として、収録データが単位空間としての1つのスペクトルデータと、当該単位空間であるスペクトルデータと他のスペクトルデータとのマハラノビス距離の値(以下、「MD値」と表記する)を計算することで求められる1つの条件属性に対する属性値を変数とする当該条件属性に対する属性値とMD値との関係式とを含む例を挙げる。
【0058】
本収録データの例を図10と図11を用いて説明する。図10及び図11の例では、属性値が固定された1つ以上の第1反応条件が圧力PとレーザエネルギEであり、1つの条件属性に対して複数の属性値を有する第2反応条件が当量比φであると想定する。
【0059】
図10は、第1反応条件間の関係、つまり、圧力PとレーザエネルギEとの関係を示す。当量比φの属性値とMD値との関係式は、図10における各ノード、つまり、第1反応条件「PyEx」における当量比φの属性値が異なる複数のスペクトルデータを用いることで算出することができる。
【0060】
以下、第2反応条件の属性値を変数とする当該第2反応条件の属性値とMD値との関係式の導出例を説明するために、第1反応条件「P1E1」における第2反応条件の条件属性である当量比φの属性値とMD値との関係式の導出例を説明する。前提として、第1反応条件「P1E1」における当量比φの各属性値のスペクトルデータが与えられており、「P1E1φ20」のスペクトルデータが単位空間に設定されているとする。なお、第1反応条件、及び、第2反応条件は任意に定められるものとする。本発明は、第1反応条件、及び、第2反応条件を限定するものではない。
【0061】
[MD値の算出]
上記関係式を導出するために、反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータと各スペクトルデータ間でMD値を計算する必要がある。したがって、まず、2つのスペクトルデータ間のMD値の算出例を説明する。スペクトルデータとして図8で示したデータ構造が与えられているとする。
【0062】
まず、MD値を求める前段階として、スペクトルデータの基準化を行う(数3)。
【0063】
【数3】

【0064】
次に、片方のスペクトルデータについて、基準化されたスペクトルデータの波長領域に基づいて、相関行列を計算する(数4及び数5)。相関行列は、k×kの正方行列であり、成分ruwは波長領域uと波長領域wの相関係数である(u,wは1からkまでの自然数
)。なお、以下、相関行列が計算されたスペクトルデータかどうかを明らかにするため、相関行列が計算されるスペクトルデータをX(Xij)、相関行列が計算されないスペクトルデータをY(Yij)で標記する。
【0065】
【数4】

【0066】
【数5】

【0067】
続いて、相関行列Rの逆行列A(=R−1)を計算する(数6)。
【0068】
【数6】

【0069】
以上により計算されるAを用いて、各波長領域におけるXとYの間のMD値(D)を算出する(数7)。
【0070】
【数7】

【0071】
最後に、以上により計算される各波長領域におけるXとYの間のMD値(D)の感度(数8)または、ばらつき(数9)等の値を計算し、XとYの間のMD値とする。
【0072】
【数8】

【0073】
(Dの平均値)
【0074】
【数9】

【0075】
(Dの標準偏差)
以上までの計算により、2つのスペクトルデータ間のMD値を算出することができる。そして、例えば、反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータをXとし、各スペクトルデータをYとしてMD値を求めることで、「P1E1φ20」のスペクトルデータと各
スペクトルデータ間のMD値を算出することができる。以下、特に記載しない限りMD値はばらつきを用いるものとする。
【0076】
[関係式の算出]
次に、上記MD値を用いて、第1反応条件「P1E1」における当量比φの属性値とMD値との関係式を算出する例を示す。図11は、反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータと各スペクトルデータ間のMD値の計算結果と当該MD値に基づいて計算される第1反応条件「P1E1」における当量比φの属性値とMD値との関係式の算出結果を示す。
【0077】
第1反応条件「P1E1」における当量比φの属性値とMD値との関係式は、反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータと各スペクトルデータ(反応条件「P1E1φr」、rは各スペクトルデータの当量比φの属性値)間のMD値の計算結果を所定の近似式導出方法によって導き出される任意の近似式を求めることで算出される。
【0078】
以下、所定の近似式導出方法は回帰分析であり、導き出される近似式は線形近似式である例を示す。つまり、線形近似式「Y=AX+B」のAとBを回帰分析により求める例を示す。前提として、YとXのデータ(x, y)(v=1,2,・・・,h)が与え
られているとする。
【0079】
まず、XとYの平均値(数10)、分散(数11)、共分散(数12)を求める。
【0080】
【数10】

【0081】
【数11】

【0082】
【数12】

【0083】
YとXのデータと線形近似式「Y=AX+B」の誤差分散をS(数13)とし、Sが最小となるようにAとBを決定すると、それぞれA(数14)とB(数15)は以下のとおりに求められる。
【0084】
【数13】

【0085】
【数14】

【0086】
【数15】

【0087】
上記の近似式導出方法は、線形近似式以外の近似式にも適用できる。例えば、以下の例で用いる、対数近似式(数16)や累乗近似式(数17)にも適用することが出来る。
【0088】
【数16】

【0089】
【数17】

【0090】
上記の近似式導出方法を対数近似式に適用する場合は、線形近似式「Y=AX+B」のXに数16のln(x)を、Yに数16のyを代入すればよい。
【0091】
また、上記の近似式導出方法を累乗近似式に適用する場合は、累乗近似式の両辺の対数をとると下記数18となるので、線形近似式「Y=AX+B」のXに数18のln(x)を、
Yに数18のln(y)を、Bに数18のln(b)を代入すればよい。
【0092】
【数18】

【0093】
以上までの方法において、YをMD値、Xを当量比φとして当てはめることにより、反応条件「P1E1φ20」である物体のスペクトルデータと各スペクトルデータ間のMD値の計算結果から、当該MD値に基づいて計算される第1反応条件「P1E1」における
当量比φの属性値とMD値との関係式(近似式)を導出することができる。
【0094】
図11における各反応条件における関係式の計算結果(単位空間:φ20)は、近似式として上記対数近似式を用いた場合の計算結果である。関係式(変数:当量比)は、当量比φの属性値を求める関係式となるように関係式(近似式)を式変形した式である。なお、図11の計算結果(図11以下の図面についても同様)は、周知の表計算ソフトの機能を用いて計算したものである。
【0095】
図11における関係式(近似式)をグラフ化したものを図12に示す。図12(a)は、近似式として対数近似式を用いた場合のグラフであり、図12(b)は、近似式として累乗近似式を用いた場合のグラフである。このように、近似式は任意のものを利用すればよい。本発明は用いる近似式に限定されない。
【0096】
なお、以上において所定の近似式導出法は回帰分析である例を示したが、所定の近似式導出方法はフーリエ級数展開や重回帰分析等の周知の方法でよい。本発明は、所定の近似式導出方法により限定されるものではない。
【0097】
また、所定の近似式導出方法により導き出される任意の近似式として、線形近似式、累乗近似式、対数近似式の例を示したが、当該任意の近似式はその他多項式近似式や指数近似式等の周知の近似式でよい。本発明は、所定の近似式導出方法により導き出される任意の近似式により限定されるものではない。
【0098】
<収録データについてのまとめ>
本実施形態における収録データ記憶部20は、以上の二つの例で示されるような収録データを格納する。ただし、上述のとおり、本発明は以上の二つの例によって限定されない。
【0099】
なお、収録データは、以上の二つの例における途中の計算結果を含んでもよい。例えば、収録データは、基準化した値(数3)、相関行列R(数4、数5)、相関行列の逆行列A(数6)等を含んでもよい。
【0100】
<収録データのパラメータの管理について>
上記のような収録データは、例えば上述の反応条件「P1E1φ20」のように、条件属性と属性値をパラメータとして持つ。当該パラメータは、例えば、収録データのタグとして格納されることで管理されてもよいし、パラメータ管理テーブルによって管理されてもよい。
【0101】
以下、パラメータ管理テーブルによって収録データのパラメータを管理する方法を説明する。図13は、収録データのパラメータを管理するパラメータ管理テーブルのデータ構成例を示す。
【0102】
図13に示されるパラメータ管理テーブルは、条件属性を格納するフィールド(ガス種類、圧力P、当量比φ、温度T等)、条件属性に対する属性値の設定範囲を格納するフィールド(「P1〜P10」等)、属性値を格納するフィールド(P1、φ1、T1等)、各反応条件に対応する登録ナンバーを格納するフィールドを有する。この各反応条件に対応する登録ナンバーに対応して、図9や図11で示される収録データが格納される(したがって、図13の例では2000個の収録データが格納されていることになる。)。これにより、反応条件を規定する条件属性と属性値を指定することにより収録データ記憶部20から収録データを取得することができる。
【0103】
ただし、本発明は、収録データのパラメータの管理方法により限定されるものではない。収録データのパラメータは任意の方法で管理されればよい。
【0104】
§2−3 データベース構成部30
データベース構成部30は、反応条件を規定する条件属性と属性値とが特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータから収録データを作成し、収録データ記憶部20に作成した収録データを格納する処理を実行する。
【0105】
データベース構成部30は、図7に示されるとおり、当該処理を行うために、収録データ作成部31及び関係式算出部32を備える。収録データ作成部31及び関係式算出部32は、上述のデータベース構成部30と同様に、例えば、ハードディスク204に格納されたプログラムがRAM203に展開されてCPU201により実行されることにより実現される。
【0106】
収録データ作成部31は、計測準備部10が前処理を行った分光測定装置2及びセンサ3により取得される各データから図9または図11で示される収録データを作成する。そして、収録データ作成部31は、作成した収録データを収録データ記憶部20に格納する。
【0107】
まず、収録データが、上述の、分光測定装置2によって取得されるスペクトルデータそのものを含む例である場合の収録データ作成部31の動作について説明する。
【0108】
収録データ作成部31は、計測準備部10が前処理を行った分光測定装置2により取得される各データに対して数1及び数2の計算を行い、図8に示されるデータ構造にそれぞれの値を格納し、収録データを作成する。そして、全ての値の格納が完了すると、収録データ作成部31は、作成した収録データのパラメータとしてセンサ3により取得される条件属性と当該条件属性に対する属性値を登録する。その後、収録データ作成部31は、作成した収録データを収録データ記憶部20に格納する。
【0109】
次に、収録データが、上述の、単位空間としての1つのスペクトルデータと、1つの条件属性に対する属性値を変数とする当該条件属性に対する属性値とMD値との関係式とを含む例である場合の収録データ作成部31の動作について説明する。
【0110】
収録データ作成部31は、複数のスペクトルデータのうちの1つを単位空間としたMD値の計算を後述するMD値算出部50に要求する。
【0111】
このMD値の計算に用いるスペクトルデータは、収録データ格納部20に格納されている収録データであってもよいし、RAM203やハードディスク204に記憶されているスペクトルデータであってもよいし、計測準備部10が前処理を行った分光測定装置2により取得されるスペクトルデータであってもよい。
【0112】
また、この複数のスペクトルデータは、属性値が固定された1つ以上の反応条件を規定する条件属性と属性値をパラメータとしてもつスペクトルデータであり、1つの条件属性に対して属性値が固定されていないスペクトルデータである。
【0113】
具体的には、上述の図10及び図11で示した例でいうところの反応条件「圧力P」と「レーザエネルギE」とは属性値が固定された条件属性にあたり、「当量比φ」は属性値が固定されていない条件属性にあたる。また、「P1E1」や「P1E2」のスペクトルデータが「属性値が固定された1つ以上の反応条件を規定する条件属性と属性値をパラメータとしてもつスペクトルデータであり、1つの条件属性に対して属性値が固定されてい
ないスペクトルデータ」にあたる。更に、反応条件「P1E1φ20」や「P1E2φ20」のスペクトルデータが単位空間のスペクトルデータにあたる。
【0114】
MD値算出部50により複数のスペクトルデータに対するMD値が算出されると、収録データ作成部31は、関係式算出部32に対して、属性値が固定されていない条件属性の属性値とMD値との関係式の算出を要求する。
【0115】
関係式算出部32は、収録データ作成部31から与えられる属性値が固定されていない条件属性の属性値とMD値から、例えば、上記[関係式の算出]に記載の方法によって属性値が固定されていない条件属性の属性値とMD値との関係式を算出する。
【0116】
なお、上述のとおり、関係式算出部32は、所定の近似式導出方法で、任意の近似式を導出することで、属性値が固定されていない条件属性の属性値とMD値との関係式を算出すればよい。本発明は、関係式算出部32が関係式を算出する方法によって限定されない。
【0117】
関係式算出部32によって関係式が算出されると、収録データ作成部31は図11に示されるような収録データを作成する。図11に示されるとおり、収録データ作成部31は、属性値が固定されていない条件属性の属性値とMD値との関係式(近似式)から、属性値が固定されていない条件属性の属性値を求める関係式を求めてもよい。
【0118】
収録データ作成部31は、以上により求めた関係式と単位空間のスペクトルデータとから収録データを作成する。そして、収録データ作成部31は、作成した収録データのパラメータとしてセンサ3により取得される条件属性と当該条件属性に対応する属性値を登録する。その後、収録データ作成部31は、作成した収録データを収録データ記憶部20に格納する。
【0119】
なお、収録データ作成部31は、上述のような収録データを作成する際、処理に係る複数のスペクトルデータや既に収録データ記憶部20に格納されている収録データとの間の有効性分析を後述する有効性分析部60に要求してもよい。そして、有効性分析部60の結果に応じて、収録データ作成部31は、MD値の算出に有意ではない波長領域のデータを削除してもよいし、有効性フィールドに当該結果を格納してもよい。
【0120】
また、収録データ作成部31は、作成した収録データに対するデータ補正を後述するデータ補正部70に要求してもよい。これらの処理は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって、設定される。詳細については、後述する。
【0121】
§2−4 パターン認識処理部40
パターン認識処理部40は、所定のパターン認識により、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理、または、計測対象の物体のある条件属性に対する属性値ついて監視する処理を実行する。なお、上述のとおり、本実施形態において所定のパターン認識は、MTシステムに準ずる方法を想定する。
【0122】
パターン認識処理部40は、図7に示されるとおり、当該処理を行うために、データ読出部41及びパターン認識部43を備える。データ読出部41及びパターン認識部43は、上述のパターン認識処理部40と同様に、例えば、ハードディスク204に格納されたプログラムがRAM203に展開されてCPU201により実行されることにより実現される。
【0123】
データ読出部41は、パターン認識部43が行うパターン認識に必要な収録データを収録データ記憶部20から読み出す。そして、読み出した収録データを用いてパターン認識部43がパターン認識を実行することで、上記二つの処理を実現する。以下、具体例を挙げて本処理について説明する。
【0124】
§2−4−1 計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理について
以下、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理について具体例を挙げて説明する。
【0125】
<具体例1>
収録データとして図9に示されるスペクトルデータを含むデータが収録データ格納部20に格納されており、図14で示される圧力Pと当量比φの属性値が未知である計測データ(スペクトルデータ)が計測準備部10からパターン認識処理部40に与えられるとする。図14は、圧力Pと当量比φの属性値が未知である計測対象の物体を分光測定装置2が測定したスペクトルデータについて計測準備部10が前処理を行った後のスペクトルデータ例を示す。
【0126】
計測準備部10からパターン認識処理部40にスペクトルデータが入力されると、データ読出部41は、属性値が未知である条件属性、つまり、圧力Pと当量比φをパラメータとしてもつ収録データを収録データ記憶部20から読み出す。読み出される収録データは、図9のグラフにおける各ノードに該当する収録データである。上述のとおり、図9に示される収録データは、反応条件「P1φ3」をパラメータとしてもつ収録データの例である。
【0127】
パターン認識部43は、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータと、データ読出部41が読み出したスペクトルデータ(収録データ)間のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。具体的な計算処理は、上述の[MD値の算出]のとおりである。例えば、MD値算出部50は、データ読出部41が読み出したスペクトルデータをXとし、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータをYとしてMD値を算出する。
【0128】
図15に、計算結果例を示す。図15は、図9に示される反応条件「P1φ3」をパラメータとしてもつ収録データと、図14に示される計測準備部10から受け取ったスペクトルデータとのMD値の計算結果例を示す図である。なお、図15に示されるMD値の計算結果例は、感度またはばらつき等の値に変換する前の値である。当該値を数9に代入するとMD値は6.7と算出される。MD値算出部50の処理により、このようなMD値が各収録データに対して算出される。
【0129】
図16に、MD値算出部50が算出したMD値の計算結果例を示す。図16は、図14に示される計測準備部10から受け取ったスペクトルデータと、圧力Pと当量比φをパラメータとしてもつ収録データ間のMD値の算出結果例を示す図である。
【0130】
MD値が算出されると、パターン認識部43は、MD値が一番小さい、つまり、図14に示される計測準備部10から受け取ったスペクトルデータに最近傍である収録データを検索する。
【0131】
図16のようにMD値が算出された場合、MD値が一番小さい収録データは、反応条件「P2φ2」をパラメータとしてもつ収録データである。この場合、パターン認識部43は、計測対象の物体の圧力Pと当量比φの各属性値を「P2φ2」であると推定してもよい。また、パターン認識部43は、周知の数学的手法によりMD値が0となる推定計測点
を算出し、当該推定計測点の各条件属性の属性値(図16では、反応条件「P2.14φ2.04」)を計測対象の物体の各条件属性に対する属性値であると推定してもよい。
【0132】
パターン認識部43は、以上のような方法を一例として、計測対象の物体の属性値が不明である条件属性に対する属性値を推定してもよい。
【0133】
<具体例2>
収録データとして図9に示されるスペクトルデータを含むデータが収録データ格納部20に格納されており、圧力Pの属性値が1と特定されており、当量比φの属性値が未知である計測データ(スペクトルデータ)が計測準備部10からパターン認識処理部40に与えられるとする。
【0134】
計測準備部10からパターン認識処理部40にスペクトルデータが入力されると、データ読出部41は、属性値が特定されている条件属性と当該条件属性に対する属性値及び属性値が未知である条件属性、つまり、圧力P1と当量比φをパラメータとしてもつ収録データを収録データ記憶部20から読み出す。読み出される収録データは、図9のグラフにおける圧力P1の横軸のノードに該当する収録データである。
【0135】
パターン認識部43は、上述の<具体例1>と同様に、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータと、データ読出部41が読み出したスペクトルデータ(収録データ)間のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。図17に、計算結果例を示す。図17は、圧力一定(P1)の収録データと計測データとのMD値の計算結果例を示す図である。
【0136】
上記MD値が算出されると、パターン認識部43は、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータ自身のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。すなわち、パターン認識部43は、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータをX及びYとしてMD値の算出をMD値算出部50に要求する。本具体例では、当該MD値は0.716と算出されたものとする。
【0137】
各MD値が算出されると、パターン認識部43は、所定の近似式導出方法、例えば上記[関係式の算出]における方法によって、MD値と当量比φの属性値との関係式を算出する。そして、算出した関係式のMD値に計測準備部10から受け取ったスペクトルデータ自身のMD値を代入することで、計測対象の物体の当量比φの属性値を推定する。
【0138】
図18は、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータ自身のMD値が極小値になるだろう当量比φの属性値において図17に示されるMD値を2等分し、各領域についてMD値と当量比φの属性値との関係式(累乗近似式)を算出した例を示す図である。
【0139】
なお、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータ自身のMD値が極小値になるだろう当量比φの属性値は任意の数学的手法や作業者による入力装置206の操作によって設定されればよい。図18では、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータ自身のMD値が極小値になるだろう当量比φの属性値は0.40から2までの間の値であると設定されているものとする。
【0140】
このように、パターン認識部43は、求めたMD値を属性値が未知である条件属性に対する属性値の範囲で分割した後に、各範囲において、MD値と属性値が未知である条件属性に対する属性値との関係式を算出してもよい。当該分割方法は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって設定されればよい。
【0141】
以上のように複数の関係式が求められる場合、例えば、図18の場合、各関係式のMD値に計測準備部10から受け取ったスペクトルデータ自身のMD値を代入することで、計測対象の物体の当量比φの属性値の推定値が算出される。この場合、パターン認識部43は、当該計測対象の物体の当量比φの属性値の複数の推定値に対して、平均値やいずれか1つを選択すること等によって、当該計測対象の物体の当量比φの属性値の推定値を決定する。
【0142】
パターン認識部43が、当該計測対象の物体の当量比φの属性値の複数の推定値に対して、平均値を算出することで、当該計測対象の物体の当量比φの属性値の推定値を決定する具体例について図18を用いて説明する。
【0143】
図18では、MD値と当量比φの関係式として、数19と数20がパターン認識部43によって算出されている(xは当量比φ、yはMD値)。
【0144】
【数19】

【0145】
【数20】

【0146】
それぞれの関係式に、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータ自身のMD値(0.716)を代入すると、計測データの当量比φの属性値について、二つの推定値が算出される(数21及び数22)。
【0147】
【数21】

【0148】
【数22】

【0149】
パターン認識部43は、この二つの推定値の平均値(1.06)を計測データの当量比φの属性値として推定する。
【0150】
パターン認識部43は、以上のような方法を一例として、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定してもよい。
【0151】
<具体例3>
収録データとして図11に示される反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータと反応条件「P1E1」におけるMD値と当量比φの属性値の関係式を含むデータが格納されているとする。そして、反応条件「P1E1」が特定されており、当量比φの属性値が未知である計測データ(スペクトルデータ)が計測準備部10からパターン認識処理部40に与えられるとする。
【0152】
計測準備部10からパターン認識処理部40にスペクトルデータが入力されると、データ読出部41は、属性値が特定されている条件属性と当該条件属性に対する属性値及び属性値が未知である条件属性、つまり、「P1E1」と当量比φをパラメータとしてもつ収録データを収録データ記憶部20から読み出す。読み出される収録データは、図11に示される反応条件「P1E1」の関係式と、当量比20のスペクトルデータを含むデータである。
【0153】
パターン認識部43は、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータと、データ読出部41が読み出した収録データに含まれるスペクトルデータ(単位空間は反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータ)間のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。本具体例では、当該MD値は4.5505と算出されたものとする。
【0154】
上記MD値が算出されると、パターン認識部43は、収録データに含まれる関係式に代入することで、計測対象の物体の当量比φの属性値を推定する(数23)。本具体例では、計測対象の物体の当量比φの属性値は1.5と推定される。
【0155】
【数23】

【0156】
図19は、本具体例についてグラフを用いて表現した図である。図19において、反応条件「P1E1」におけるMD値と当量比φの属性値との関係式上における上記MD値が代入される位置が表現されている。
【0157】
パターン認識部43は、以上のような方法を一例として、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定してもよい。
【0158】
<まとめ>
以上、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理について、具体例を3つ説明した。これらの処理は、与えられる収録データや計測対象の物体の属性値が未知である条件属性によって選択されてもよい。その際、当該選択は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって実現される。
【0159】
§2−4−2 計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理について
計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理は、上述の計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理と共通する点が多い。以下、計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理を上記<具体例1>及び<具体例3>に準ずる方法によって実現する例について説明する。
【0160】
<具体例4>
計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理を上記<具体例1>に準ずる方法によって実現する例について説明する。
【0161】
図20は、計測対象の物体の監視する条件属性に対する属性値の例を示す図である。図
20における計測対象の物体の監視する各条件属性に対する属性値は「P1φ3」である。収録データとして図9に示されるスペクトルデータを含むデータが収録データ格納部20に格納されており、反応条件が「P1φ3」であるだろう計測データ(スペクトルデータ)が計測準備部10からパターン認識処理部40に与えられるとする。
【0162】
計測準備部10からパターン認識処理部40に上記スペクトルデータが入力されると、データ読出部41は、監視する属性値、つまり、反応条件「P1φ3」をパラメータとしてもつ収録データを収録データ記憶部20から読み出す。
【0163】
パターン認識部43は、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータと、データ読出部41が読み出したスペクトルデータ(収録データ)間のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。上記<具体例1>と同様である。
【0164】
MD値算出部50により算出されるMD値は、反応条件(つまり、条件属性と当該条件属性に対する属性値)が等しいスペクトルデータ間のMD値であるため、0に近い値になるはずである。このとき、測定領域101において異常状態が発生すると、つまり、監視する条件属性のなかのある条件属性に対する属性値が監視する属性値からずれると、MD値算出部50により算出されるMD値は0に近い値から変動する。なお、この変動は、上記属性値のずれが大きければ大きいほど、大きいものと思われる。
【0165】
パターン認識部43は、MD値算出部50により算出されるMD値が所定の閾値を超えた場合に、計測対象の物体の監視する条件属性に対する属性値がずれ、測定領域101において異常状態が発生したと判定する。なお、「異常状態」とは、例えば、NOxや煤などが発生する場合を指す。
【0166】
<具体例5>
計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理を上記<具体例3>に準ずる方法によって実現する例について説明する。
【0167】
図21は、計測対象の物体の監視する条件属性に対する属性値の例と、本具体例の処理を示す図である。図21における計測対象の物体の監視する各条件属性に対する属性値は「P1E1φ1」である。収録データとして図11に示される反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータと反応条件「P1E1」におけるMD値と当量比φの属性値との関係式を含むデータが格納されているとする。そして、条件属性に対する属性値が「P1E1φ1」であるだろう計測データ(スペクトルデータ)が計測準備部10からパターン認識処理部40に与えられるとする。
【0168】
計測準備部10からパターン認識処理部40にスペクトルデータが入力されると、データ読出部41は、計測対象の物体の監視する反応条件のうちの1つの反応条件(第2反応条件)の条件属性とその他の反応条件(第1反応条件)の条件属性及び属性値、例えば、当量比φ(第2反応条件)と、「P1E1」(第2反応条件)をパラメータとしてもつ収録データを収録データ記憶部20から読み出す。読み出される収録データは、上記<具体例3>と同様、図11に示される反応条件「P1E1」の関係式と、当量比20のスペクトルデータを含むデータである。
【0169】
パターン認識部43は、計測準備部10から受け取ったスペクトルデータと、データ読出部41が読み出した収録データに含まれるスペクトルデータ(単位空間は反応条件「P1E1φ20」のスペクトルデータ)間のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。
【0170】
MD値算出部50により算出されるMD値は、本具体例の場合、反応条件「P1E1φ
1」の5.374であるはずである(図21参照)。このとき、測定領域101において異常状態が発生すると、つまり、監視する条件属性に対する属性値から値がずれると、MD値算出部50により算出されるMD値は5.374から変動する。
【0171】
パターン認識部43は、MD値算出部50により算出されるMD値が監視する反応条件「P1E1φ1」に対応するMD値である5.374から所定の閾値分ずれた場合、計測対象の物体の監視する条件属性に対する属性値がずれ、測定領域101において異常状態が発生したと判定する。
【0172】
または、パターン認識部43は、MD値算出部50により算出されるMD値を上記関係式に代入することにより求められる当量比φの属性値の推定値が監視する属性値である「φ1」から閾値分ずれた場合、計測対象の物体の監視する条件属性に対する属性値がずれ、測定領域101において異常状態が発生したと判定する。
【0173】
<まとめ>
以上、計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理について具体例を2つ説明した。これらの処理は、与えられる収録データや計測対象の物体の監視する条件属性によって選択されてもよい。その際、当該選択は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって実現される。
【0174】
§2−4−3 まとめ
以上のとおり、パターン認識処理部40は、所定のパターン認識により、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理、または、計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理を実行する。
【0175】
なお、パターン認識部43は、上述のようなパターン認識を行う際、処理に係る複数のスペクトルデータ間の有効性分析を後述する有効性分析部60に要求してもよい。そして、有効性分析部60の結果に応じて、パターン認識部43は、MD値の算出に有意ではない波長領域のデータを省略して、MD値算出部50にMD値の算出を要求してもよい。
【0176】
また、パターン認識部43は、パターン認識に用いたMD値に対するデータ補正を後述するデータ補正部70に要求してもよい。これらの処理は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって、設定される。詳細については、後述する。
【0177】
§2−5 MD値算出部50
MD値算出部50は、各処理部(例えば、データベース構成部30、パターン認識処理部40)から与えられる二つのスペクトルデータ間のMD値の算出を行う。MD値算出部50が行う処理は、上記[MD値の算出]に記載したMD値の計算処理である。よって、ここでは説明を省略する。
【0178】
§2−6 有効性分析部60
有効性分析部60は、各処理部(例えば、データベース構成部30、パターン認識処理部40)から与えられる二つのスペクトルデータ間の有効性の分析を行う。当該有効性の分析は、MTシステムに準ずるものである。以下、有効性分析部60の処理について説明する。
【0179】
本実施形態におけるスペクトルデータは波長領域において11等分されている。有効性分析部60は、各処理部から与えられる二つのスペクトルデータ間の直交表L12に基づ
いたMD値の算出をMD値算出部50に要求する。図22は、スペクトルデータの各波長領域と直交表L12との対応関係を示す。
【0180】
有効性分析部60は、図22に示される直交表L12の各行に従ったMD値D´(qは1から12までの自然数)の計算をMD値算出部50に要求する。具体的には、有効性分析部60は、図22に示される直交表L12の各行について「1」が格納されている波長領域のデータを用いたMD値の算出をMD値算出部50に要求する。そして、「2」が格納されている波長領域のデータはMD値の算出に用いない。言い換えると、有効性分析部60は、数3から数7の数式におけるjの値に図22に示される直交表L12の各行について「1」が格納されている波長領域の値を代入することにより求められるMD値の算出をMD値算出部50に要求する。
【0181】
例えば、図22に示される直交表L12の1行目(No.1)に従ったMD値D´は、数3から数7の数式におけるjの値に1から11までの値を代入することにより求められる。また、例えば、図22に示される直交表L12の3行目(No.3)に従ったMD値D´は、数3から数7の数式におけるjの値に1、2、6、7、8の値を代入することにより求められる。
【0182】
MD値算出部50により直交表L12の各行に従ったMD値D´が計算されると、有効性分析部60は、直交表L12の各行に対応する静特性の値、ここでは、望大特性η(数24)を算出する。静特性の値は、望大特性に代えて、いわゆる望小特性や望目特性であってもよい。本発明は、有効性分析に用いる値によって限定されるものではない。
【0183】
【数24】

【0184】
有効性分析部60は、求めた望大特性を用いて、波長領域k(kは1から11までの自然数)について第一水準の平均ηk1、第一水準の平均ηk2を求める。第一水準の平均ηk1、第一水準の平均ηk2について波長領域1の例を数25及び数26に示す。波長領域kの第一水準の平均ηk1または第一水準の平均ηk2はそれぞれ、直交表L12における波長領域kの各列について「1」が格納されている行の望大特性の平均値または「2」が格納されている行の望大特性の平均値である。
【0185】
【数25】

【0186】
【数26】

【0187】
有効性分析部60は、第一水準の平均ηk1と第一水準の平均ηk2とを比較することにより、当該波長領域kがMD値算出に有意であるかどうかの判定を行う。例えば、有効
性分析部60は、第一水準の平均ηk1が第一水準の平均ηk2よりも所定の閾値分大きければ、当該波長領域kがMD値算出に有意であると判定する。また、例えば、有効性分析部60は、第一水準の平均ηk1が第一水準の平均ηk2よりも大きく、第一水準の平均ηk1と第一水準の平均ηk2との差が大きいものを上から3つ選択して、当該波長領域kがMD値算出に有意であると判定する。
【0188】
また、有効性分析部60は、求めた第一水準の平均ηk1と第一水準の平均ηk2とをまとめた要因効果図を出力装置207に出力してもよい。要因効果図の例を図23に示す。
【0189】
図23は、有効性分析部60が、図9で示される反応条件「P1φ3」の収録データ(スペクトルデータ)と図14で示される計測データ(スペクトルデータ)に対して上記有効性分析を行った時の要因効果図である。図23に示される要因効果図からは、波長領域x、x、x等がMD値の計算に影響の大きい波長領域であることが分かる。
【0190】
なお、有効性分析部60は、スペクトルデータの波長領域の分割個数(k)に応じて直交表を選択すればよい。本発明は、直交表の種類によって限定されるものではない。
【0191】
§2−7 データ補正部70
データ補正部70は、MD値算出部50によって求められるMD値の補正処理を行う。以下にデータ補正部70が行う補正例を2つ示す。
【0192】
§2−7−1 MD値の比率を利用して補正する
ある1つのスペクトルデータに対して求められるMD値を基準として、他のスペクトルデータに対して求められるMD値を補正する例を図24に基づいて説明する。図24は、反応条件「φ3」をパラメータとしてもつ収録データ(補正の基準とするスペクトルデータ)と任意のスペクトルデータ間のMD値(感度)を用いて、他のスペクトルデータと当該任意のスペクトルデータとの間のMD値を補正する前後のMD値(ばらつき)を表わすグラフである。なお、当該任意のスペクトルデータはどのようなスペクトルデータであってもよい。したがって、ここでは特に指定しない。以下、当該任意のスペクトルデータが単位空間であるとして、補正の基準となるスペクトルデータや他のスペクトルデータのMD値が算出されるものとする。
【0193】
図24において、当該他のスペクトルデータとして、反応条件が「レーザ150mJ、レン
ズf80」である物体のスペクトルデータ、反応条件が「レーザ100mJ、レンズf100」である物体のスペクトルデータ、反応条件が「レーザ80mJ、レンズf100」である物体のスペクトルデータを想定する。
【0194】
以下、反応条件「φ3」をパラメータとしてもつ収録データ(補正の基準とするスペクトルデータ)に対して求められるMD値(感度)をSで表わす。反応条件が「レーザ150mJ、レンズf80、当量比φ」である物体のスペクトルデータに対して求められるMD値(感度)をS1,φ、MD値(ばらつき)をσ1,φで表わす。反応条件が「レーザ100mJ、レン
ズf100、当量比φ」である物体のスペクトルデータに対して求められるMD値(感度)をS2,φ、MD値(ばらつき)をσ2,φで表わす。反応条件が「レーザ80mJ、レンズf100、当量比φ」である物体のスペクトルデータに対して求められるMD値(感度)をS3,
φ、MD値(ばらつき)をσ3,φで表わす。また、補正した後のMD値(ばらつき)を
σ´で表現する。
【0195】
データ補正部70は、当該他のスペクトルデータに対して求められるMD値(ばらつき)について、数27で示される補正処理を行う。
【0196】
【数27】

【0197】
以上により、データ補正部70は、図24に示される補正処理を実現する。
【0198】
§2−7−2 ある波長のピーク値の比率を利用して補正する
ある1つのスペクトルデータに含まれるある波長のピーク値を基準として、他のスペクトルデータに対して求められるMD値を補正する例を図25に基づいて説明する。図25は、反応条件が「レーザ150mJ、レンズf80」である物体のスペクトルデータにおける波長747(窒素原子の発する光に該当する)のピーク値を用いて、他のスペクトルデータに対して求められるMD値を補正する前後のMD値(ばらつき)を表わすグラフである。
【0199】
なお、各符号は、上述の「§2−7−1 MD値の比率を利用して補正する」と同様のものを用いる。また、反応条件が「レーザ150mJ、レンズf80、当量比φ」である物体のスペクトルデータにおける波長747のピーク値をPN1,φで表わす。反応条件が「レー
ザ100mJ、レンズf100、当量比φ」である物体のスペクトルデータにおける波長747の
ピーク値をPN2,φで表わす。反応条件が「レーザ100mJ、レンズf80、当量比φ」であ
る物体のスペクトルデータにおける波長747のピーク値をPN3,φで表わす。
【0200】
データ補正部70は、各スペクトルデータに対して求められるMD値(ばらつき)について、数28で示される補正処理を行う。
【0201】
【数28】

【0202】
以上により、データ補正部70は、図24に示される補正処理を実現する。
【0203】
§2−7−3 まとめ
以上の方法例により、データ補正部70は、MD値算出部50によって求められるMD値の補正処理を行う。
【0204】
なお、以上の方法例の補正の基準となるスペクトルデータや他のスペクトルデータは、データベース構成部30やパターン認識処理部40の処理過程で登場するスペクトルデータや収録データ記憶部20に格納される収録データのいずれかでよい。また、補正の基準となるスペクトルデータに対するMD値や他のスペクトルデータに対するMD値は、データベース構成部30やパターン認識処理部40の処理過程でMD値算出部50によって算出されたMD値であってもよいし、当該補正時にMD値算出部50に算出を要求することで求められたMD値であってもよい。
【0205】
§3 動作例
本実施形態における反応解析装置1の動作について説明する。図26は、反応解析装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0206】
まず、信号入力部11は、分光測定装置2及びセンサアンプ4から計測対象の物体のスペクトルデータ並びに条件属性及び当該条件属性に対する属性値の入力を受け取る(S1000)。そして、スペクトルデータ構成部12は、信号入力部11が受け取ったデータを反応解析装置1が行う処理に適合するスペクトルデータに変換する(S1001)。変換したスペクトルデータは、処理選択部13によって反応解析装置1が行う各処理を実行するデータベース構成部30またはパターン認識処理部40に入力される(S1002)。
【0207】
反応解析装置1が行う処理が、条件属性に対する属性値が特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータから収録データを作成し、収録データ記憶部20に作成した収録データを格納する処理である場合、上記変換したスペクトルデータは、データベース構成部30に入力される。
【0208】
収録データ作成部31は、上記スペクトルデータが入力されると、収録データの作成を行う(S1003)。収録データの作成は、「§2−3 データベース構成部30」で説明したとおりである。
【0209】
収録データ作成部31は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって、作成した収録データと処理に係ったスペクトルデータまたは既に収録データ記憶部20に格納されている収録データとの間の有効性分析を有効性分析部60に要求する(S1004)。有効性分析を要求されると、有効性分析部60は、有効性分析に係る二つのスペクトルデータ間の有効性分析を行う(S1005)。当該処理は、「§2−6 有効性分析部60」において説明したとおりである。
【0210】
収録データ作成部31は、有効性分析の結果、MD値の算出に有意である波長領域を選択した後、再度、収録データの作成を行う。或いは、収録データ作成部31は、当該有効性分析の結果を作成した収録データに付加しまたは付加せず、当該作成した収録データを収録データ記憶部20に格納する(S1006)。
【0211】
反応解析装置1が行う処理が、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理である場合、上記変換したスペクトルデータ(計測データ)は、パターン認識処理部40に入力される。
【0212】
上記スペクトルデータがパターン認識処理部40に入力されると、パターン認識処理部40は、パターン認識処理の前処理を行う(S1007)。具体的には、データ読出部41がパターン認識部43の行うパターン認識に必要な収録データを収録データ記憶部20から読み出す。そして、パターン認識部43は、「§2−4−1 計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理について」で記載したように、計測データと収録データとの間のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。
【0213】
このMD値算出部50により算出されるMD値に対して、パターン認識部43は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって、計測データと収録データとの間の有効性分析を有効性分析部60に要求する(S1008)。有効性分析を要求されると、有効性分析部60は、有効性分析に係る二つのスペクトルデータ間の有効性分析を行う(S1009)。当該処理は、「§2−6 有効性分析部60」において説明したとおりである。
【0214】
パターン認識部43は、有効分析の結果、MD値の算出に有意である波長領域を選択した後、再度、計測データと収録データとの間のMD値の算出を行う。或いは、パターン認
識部43は、「§2−4−1 計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理について」で記載したような方法で計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する(S1010)。
【0215】
反応解析装置1が行う処理が、計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理である場合、上記変換したスペクトルデータ(計測データ)は、パターン認識処理部40に入力される。
【0216】
上記スペクトルデータがパターン認識処理部40に入力されると、パターン認識処理部40は、パターン認識により、計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理を行う(S1011)。具体的には、データ読出部41が監視する条件属性及び当該条件属性に対する属性値をパラメータとしてもつ収録データを収録データ記憶部20から読み出す。そして、パターン認識部43は、「§2−4−2 計測対象の物体のある条件属性に対する属性値について監視する処理について」で記載したように、計測データと収録データとの間のMD値の算出をMD値算出部50に要求する。
【0217】
このMD値算出部50により算出されるMD値に対して、パターン認識部43は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって、計測データと収録データとの間の有効性分析を有効性分析部60に要求する(S1012)。有効性分析を要求されると、有効性分析部60は、有効性分析に係る二つのスペクトルデータ間の有効性分析を行う(S1013)。当該処理は、「§2−6 有効性分析部60」において説明したとおりである。
【0218】
パターン認識部43は、MD値算出部50により算出されるMD値によりパターン認識部43は、測定領域101において異常状態が発生したかどうかの判定を行う(S1014)。異常状態が発生している場合に上述の有効性分析が行われていると、当該異常状態に関連の高い波長領域を知ることができる。
【0219】
以上の各処理の結果が出力装置207に出力される(S1015)。この出力装置207に出力される上記の各処理の結果について、データ補正部70は、RAM203等に格納されるプログラムのパラメータ設定や作業者による入力装置206の操作によって、データの補正処理を行う(S1016、S1017)。当該処理は、「§2−7 データ補正部70」において説明したとおりである。
【0220】
<実施形態の作用及び効果>
本実施形態における反応解析装置1は、以上のような動作を行う。
【0221】
このように、本実施形態によれば、作業者による作業を必要とすることなく反応条件の属性値の推定が行われるため、作業者の有する専門知識に左右されることのない反応の解析結果を得ることができる。また、多変量のパラメータをもつスペクトルデータによりパターン認識を行うことができるため、多変量の環境変化による影響にも対応した解析結果を得ることができる。
【0222】
また、本実施形態によれば、パターン認識に用いる収録データは予め収録データ記憶部20に格納されていてもよいため、当該収録データを他の作業者に提供することができる。
【0223】
また、本実施形態によれば、パターン認識に用いる収録データを計測データから作成することができるため、作業者は必要に応じて収録データを用意することができる。
【0224】
また、本実施形態によれば、単位空間であるスペクトルデータと計測データとのMD値を計算し、計算したMD値を関係式に代入することにより、計測対象の物体の反応条件の属性値を推定する。これによって、複雑な計算処理を必要とすることなく、計測対象の物体の反応条件の属性値を推定することができる。
【0225】
また、本実施形態によれば、有効性分析部60により二つのスペクトルデータ間の有効性に係る波長領域を判定することができる。これによって、MD値の算出に有意な波長領域のみを選択してMD値を算出することができる。また、異常状態に関係する波長領域を知ることができる。
【0226】
また、本実施形態によれば、データ補正部70の処理により、各処理部が算出したMD値について補正をすることができる。
【0227】
なお、従来例における当量比の計測例を図27に示す。図27は、従来例における当量比φの計測例を示すグラフである。この図27では、当量比φ5を過ぎると各波長のピーク値の比率に変化が生じなくなるため、当量比φ5を超える物体について反応の解析をすることができなかった。これに対して、本実施形態によれば、例えば図12に示されるように当量比φ20程度まで解析することができる可能性があるため、従来よりも広い範囲について反応条件の属性値を解析することができる。
【0228】
§4 補足
分光測定装置2によって得られるスペクトルデータは、同一の反応条件について繰り返し計測したスペクトルデータであってもよい。また、分光測定装置2によって得られるスペクトルデータは、ストリークカメラ106を用いることで得られる時間変化を含んだスペクトルデータであってもよい。
【0229】
これらのデータ構成例を図28に示す。図28は、同一反応条件でL回繰り返して分光測定装置2によりスペクトルデータを取得した時のデータ構成例、及び、ストリークカメラ106を用いて得られる時間変化tを含んだスペクトルデータである時のデータ構成例を示す。
【0230】
ストリークカメラ106を用いて得られる時間変化tを含んだスペクトルデータについて、例えば、スペクトルデータ構成設定部12が、各時間領域におけるMD値の平均値等を求め、複数のMD値(図29においては5つ)を1つのMD値に変換するとする。このようにすれば、上述の処理(例えば、計測対象の物体の属性値が未知である条件属性に対する属性値を推定する処理)と同様の処理をこの場合にも適用することができる。図30は、図11に対応する収録データ例を示し、図31は、図19に対応する反応条件の属性値の推定例を示す。
【0231】
なお、図29に示されるMD値の差分を、MD値(ばらつき)に代えて上述の処理に用いられてもよい。
【0232】
また、本実施形態における反応解析装置1が行うパターン認識はMTシステムに準ずるものである。しかしながら、本発明は、当該パターン認識処理によって限定されない。例えば、ニューラルネットワークやサポートベクターマシン等の識別器を用いてもよい。この場合、収録データ記憶部20は、入力をスペクトルデータの光の強さとし、出力を反応条件の属性値とする教師データにより学習した識別器を収録データとして格納する。
【符号の説明】
【0233】
1. 反応解析装置
2. 分光測定装置
3. センサ
4. センサアンプ
10. 計測準備部
11. 信号入力部
12. スペクトルデータ構成設定部
13. 処理選択部
20. 収録データ記憶部
30. データベース構成部
31. 収録データ作成部
32. 関係式算出部
40. パターン認識処理部
41. データ読出部
43. パターン認識部
50. MD値算出部
60. 有効性分析部
70. データ補正部
100. レーザ
101. 測定領域
102. 光学素子
103. 光ファイバ
104. 分光器
105. CCDカメラ
106. ストリークカメラ
107. ディレイユニット
108. データ処理部
200. 外部機器接続インタフェース
201. CPU
202. ROM
203. RAM
204. ハードディスク
205. バス
206. 入力装置
207. 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ誘起ブレークダウン分光法(LIBS)を用いた分光測定装置により反応条件を規定する条件属性と属性値が特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータに基づいて求められる、前記条件属性と前記属性値とをパラメータとしてもつ収録データを格納する収録データ記憶部と、
スペクトルデータが入力されるスペクトルデータ入力部と、
前記収録データ記憶部に格納された収録データを用いて前記入力されたスペクトルデータに対して所定のパターン認識を実行するパターン認識処理部と、
を備えることを特徴とする反応解析装置。
【請求項2】
2つのスペクトルデータのマハラノビス距離の値(MD値)を算出するMD値算出部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の反応解析装置。
【請求項3】
前記収録データは、スペクトルデータを含み、
前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値が未知の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであり、
前記パターン認識処理部は、
前記条件属性に対する属性値が未知である入力されたスペクトルデータの条件属性と同一の条件属性に対して既知の属性値をパラメータとしてもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、
取得した前記収録データ記憶部に格納された前記収録データに含まれたスペクトルデータと、前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、算出されるMD値が最近傍である収録データのパラメータに含まれた属性値に基づいて前記未知である属性値を推定する手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の反応解析装置。
【請求項4】
前記収録データは、スペクトルデータを含み、
前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値が未知の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであり、
前記パターン認識処理部は、
前記条件属性に対する属性値が未知である入力されたスペクトルデータの条件属性と同一の条件属性をパラメータとしてもつ複数の収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、
前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値について、前記入力されたスペクトルデータと前記複数の収録データに含まれたスペクトルデータ及び前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、算出したMD値から前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値を変数とする近似式を所定の近似式導出方法により求め、該近似式に前記MD値算出部により算出した前記入力されたスペクトルデータと前記入力されたスペクトルデータとのMD値を代入することにより、前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値を推定する手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の反応解析装置。
【請求項5】
前記反応条件を規定する条件属性と属性値とが特定された物体の反応条件は、
属性値が固定された1つ以上の第1反応条件と、
1つの条件属性に対して複数の属性値を有する第2反応条件と、を含み、
前記収録データは、
前記条件属性と属性値とが特定された物体を前記分光測定装置により計測することで得られた複数のスペクトルデータのうちの1つのスペクトルデータと、
前記1つのスペクトルデータを単位空間として前記複数のスペクトルデータ間相互のM
D値を算出し、算出した複数のMD値から前記第2反応条件の属性値を変数とする近似式を所定の近似式導出法で求めることにより得られる第2反応条件の属性値と前記MD値との関係式と、を含み、
前記入力されたスペクトルデータは、1つの条件属性に対する属性値が未知であり、1つ以上の条件属性に対するそれぞれの属性値が特定された物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであり、
前記パターン認識処理部は、
1つ以上の属性値が特定された条件属性及び当該条件属性に対する属性値と前記第1反応条件の条件属性及び当該条件属性に対する属性値とが一致し、前記属性値が未知である条件属性と前記第2反応条件の条件属性とが一致するパラメータをもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、
前記収録データ記憶部から取得した前記収録データに含まれる前記1つのスペクトルデータと前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、前記収録データ記憶部から取得した収録データに含まれる関係式に算出したMD値を代入することで得られる値を前記入力されたスペクトルデータの未知である属性値と推定する手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の反応解析装置。
【請求項6】
前記収録データは、スペクトルデータを含み、
前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値を監視する対象の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであり、
前記パターン認識処理部は、
前記条件属性に対する属性値について、入力されたスペクトルデータの属性値と同一の属性値をパラメータとしてもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、
取得した前記収録データ記憶部に格納された前記収録データに含まれたスペクトルデータと、前記入力されたスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、算出されるMD値が所定の値を超えたかどうかを判定することにより、前記監視する対象の物体の条件属性に対する属性値がずれたことを検出する手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の反応解析装置。
【請求項7】
前記反応条件を規定する条件属性と属性値とが特定された物体の反応条件は、
属性値が固定された1つ以上の第1反応条件と、
1つの条件属性に対して複数の属性値を有する第2反応条件と、を含み、
前記収録データは、
前記条件属性と属性値が特定された物体を前記分光測定装置により計測することで得られた複数のスペクトルデータのうちの1つのスペクトルデータと、
前記1つのスペクトルデータを単位空間として前記複数のスペクトルデータ間相互のMD値を算出し、算出した複数のMD値から前記第2反応条件の属性値を変数とする近似式を所定の近似式導出方法で求めることにより得られる第2反応条件の属性値と前記MD値との関係式と、を含み、
前記入力されたスペクトルデータは、条件属性に対する属性値を監視する対象の物体を前記分光測定装置により計測することで得られたスペクトルデータであり、
前記パターン認識処理部は、
前記入力されたスペクトルデータの条件属性が当該条件属性に対する属性値が一致した上で第1反応条件の条件属性を含み、前記入力されたスペクトルデータの第1反応条件の条件属性以外の条件属性と前記第2反応条件の条件属性とが一致するパラメータをもつ収録データを前記収録データ記憶部から取得する手段と、
前記収録データ記憶部から取得した前記収録データに含まれる前記1つのスペクトルデータと前記計測対象の物体のスペクトルデータとのMD値を前記MD値算出部により算出し、前記収録データ記憶部から取得した収録データに含まれる関係式に算出したMD値を
代入することで得られる値が前記入力されたスペクトルデータの第1反応条件の条件属性以外の条件属性に対する属性値から所定の値ずれたかどうかを判定することにより、前記監視する対象の物体の反応条件の属性値がずれたことを検出する手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の反応解析装置。
【請求項8】
波長領域が分割された二つのスペクトルデータの間のMD値を前記MD値算出部により直交表に従って算出すること求められる静特性の値に基づいて、前記二つのスペクトルデータの間の、前記波長領域の各領域についての有効性を示す有効性分析部を更に備えることを特徴とする請求項3から7いずれか1項に記載の反応解析装置。
【請求項9】
あるスペクトルデータに対して求められるMD値と他のスペクトルデータに対して求められるMD値との比率を用いて、他のスペクトルデータに対して前記MD値算出部により求められるMD値を補正するデータ補正部を更に備えることを特徴とする請求項3から8いずれか1項に記載の反応解析装置。
【請求項10】
あるスペクトルデータのある波長のピーク値と他のスペクトルデータの当該ある波長のピーク値の比率を用いて、他のスペクトルデータに対して前記MD値算出部により求められるMD値を補正するデータ補正部を更に備えることを特徴とする請求項3から8いずれか1項に記載の反応解析装置。
【請求項11】
LIBSを用いた分光測定装置により反応条件を規定する条件属性と属性値が特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータに基づいて求められる、前記条件属性と前記属性値とをパラメータとしてもつ収録データを格納する収録データ記憶部を備えるコンピュータを用いた反応解析方法において、
スペクトルデータを取得するステップと、
前記収録データ記憶部に格納された収録データを用いて前記取得したスペクトルデータに対して所定のパターン認識をするステップと、
を含むことを特徴とする反応解析方法。
【請求項12】
LIBSを用いた分光測定装置により反応条件を規定する条件属性と属性値が特定された物体を計測することで得られたスペクトルデータに基づいて求められる、前記条件属性と前記属性値とをパラメータとしてもつ収録データを格納する収録データ記憶部を備えるコンピュータに、
スペクトルデータの入力を受け付けるステップと、
前記収録データ記憶部に格納された収録データを用いて前記入力のスペクトルデータに対して所定のパターン認識を実行するステップと、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−47592(P2012−47592A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189913(P2010−189913)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】