説明

パッキン

【課題】ICチップが内部に設けられ、かつシール性に影響のないパッキンを提供する。
【解決手段】軸300とハウジング400間の環状隙間をシールするパッキン100において、軸300とハウジング400に対してそれぞれ摺動自在に接触する一対のリップ111,112を備えるパッキン本体110と、一対のリップ111,112間であって、各リップ111,112の根元となる位置に嵌め込まれると共に、その内部にICチップ130を保持するOリング120と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製品管理や正規品か否かの判別を目的として、製品に関する各種情報を記憶させたICチップを製品の内部に埋め込んだ技術が知られている。しかしながら、ゴムや樹脂などで構成されるパッキンの場合には、簡単にICチップを埋め込むことができない。何故なら、パッキンの場合、使用時において軸やハウジングと摺動し、摺動時にはパッキンの内部に応力が作用するため、パッキンの内部にICチップを埋め込んだ場合には、ICチップやその周囲に亀裂等が生じやすく破損してしまうおそれがあるからである。
【0003】
なお、関連する技術としては、特許文献1〜3に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−294924号公報
【特許文献2】特開2008−169908号公報
【特許文献3】特許第4480385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ICチップが内部に設けられても、シール性への影響を抑制したパッキンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明のパッキンは、
2部材間の環状隙間をシールするパッキンにおいて、
前記2部材に対してそれぞれ摺動自在に接触する一対のリップを備えるパッキン本体と、
前記一対のリップ間であって、各リップの根元となる位置に嵌め込まれると共に、その内部にICチップを保持するリング部材と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、パッキン本体とは別部材であるリング部材の内部にICチップが保持され、かつリング部材はパッキン本体における一対のリップ間であって、各リップの根元となる位置に嵌め込まれる。従って、リング部材がパッキン本体とは別部材であることと、リング部材は一対のリップ間に挟まれることにより圧縮力が作用しても引っ張り力は殆ど作用しないことと、リング部材がリップの根元の位置に嵌め込まれているのでリップの変形の影響を受けにくいこととが相俟って、一対のリップが2部材に対してそれぞれ摺動している場合でも、ICチップやその周囲に亀裂が生じてしまうことを抑制できる。また、リング部材はリップの根元の位置に嵌め込まれているので、一対のリップはリング部材からの影響をあまり受けないため、シール性への影響は少ない。更に、仮に、リング部材が破損(破断)しても、リング部材はパッキン本体における一対のリップ間に嵌め込まれた状態が維持されるため、シール性への影響は少ない。
【0009】
前記ICチップは、前記リング部材における前記パッキン本体に密着する側面側から形成された切り込みの内部に押し込まれているとよい。
【0010】
これにより、ICチップを簡単にリング部材の内部に配置させることができ、かつリング部材における切り込みが設けられている側の側面はパッキン本体に密着した状態となり、ICチップを安定的に保持させることができる。また、密封対象である各種流体が切り込み内に侵入してしまうことも抑制できる。
【0011】
また、本発明の他のパッキンは、
2部材間の環状隙間をシールするパッキンにおいて、
前記2部材に対してそれぞれ摺動自在に接触する一対のリップを備えるパッキン本体と、
前記パッキン本体における前記一対のリップが設けられている側とは反対側の端面に固定されると共に、前記パッキン本体との密着面側に形成された凹部にICチップが嵌め込まれた金属環と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、パッキン本体とは別部材である金属環に形成された凹部にICチップが嵌め込まれる。従って、金属環は変形しないことと、金属環に形成された凹部にICチップが嵌め込まれるためパッキン本体の変形がICチップに影響を与えないこととが相俟って、一対のリップが2部材に対してそれぞれ摺動している場合でも、ICチップやその周囲に亀裂が生じてしまうことを抑制できる。また、金属環はパッキン本体における一対のリップが設けられている側とは反対側の端面に固定されており、一対のリップは金属環の影響を受けないため、シール性への影響はない。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ICチップが内部に設けられてもシール性への影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施例1に係るパッキンの模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係るパッキン本体の模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例1に係るリング部材の模式的断面図である。
【図4】図4は本発明の実施例2に係るパッキンの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
(実施例1)
<パッキンの構成>
図1〜図3を参照して、本発明の実施例1に係るパッキン100について説明する。パッキン100は、2部材としての軸300とハウジング400(の軸孔401)との間の環状隙間をシールするために用いられる。なお、軸300とハウジング400は相対的に回転するものであってもよいし、相対的に往復移動するものであってもよい。ここで、図1では、軸300については外周面の位置のみを点線で示し、ハウジング400については軸孔401の内周面の位置のみを点線で示している。
【0017】
そして、パッキン100は、ゴムや樹脂などで構成されるパッキン本体110と、同じくゴムや樹脂などで構成されるリング部材としてのOリング120とから構成される。
【0018】
パッキン本体110は、一対のリップ111,112を備えており、断面形状が略U字形状のいわゆるUパッキンである。リップ111は軸300の外周面に対して摺動自在に接触し、リップ112はハウジング400の軸孔401の内周面に対して摺動自在に接触する。これにより、軸300とハウジング400が相対的に回転または往復移動している場合でも、パッキン本体110によって、これらの間の環状隙間がシールされる。
【0019】
Oリング120は、その一側面側から切り込み121が形成されており、この切り込み121の内部にICチップ130が押し込まれている(埋め込まれている)。なお、図1においては、パッキン100において、ICチップ130が配置されている位置を通るように切断された断面図を示している。また、図3においては、Oリング120において、ICチップ130が配置されている位置を通るように切断された断面図を示している。
【0020】
ICチップ130には、製品コードや製品ロットなどの各種製品情報が記憶されている。これにより、製品管理や正規品か否かの判別を容易に行うことができる。なお、ICチップ130として、無線により情報のやり取りが可能なもの(無線ICチップ(RFID))を用いることもできる。この場合には、ICチップ130を取り出すことなく、情報を読み取ることが可能である。また、無線により、パッキン100の使用条件(温度や圧力や使用期間)等の履歴情報を蓄積させるようにすれば、パッキン100がどのように使用されてきたかを確認することも可能である。
【0021】
以上のように構成されたOリング120は、パッキン本体110における一対のリップ111,112間であって、各リップ111,112の根元となる位置(環状溝部113)に嵌め込まれる。このとき、Oリング120は、切り込み121が設けられている側の側面がパッキン本体110の環状溝部113の溝底に密着するように配置される。また、Oリング120は、リップ111とリップ112によって挟み込まれた状態となり、内周側と外周側から圧縮されて変形した状態となる(図1参照)。
【0022】
<本実施例に係るパッキンの優れた点>
本実施例に係るパッキン100によれば、パッキン本体110とは別部材であるOリング120の内部にICチップ130が保持され、かつOリング120はパッキン本体110における一対のリップ111,112間であって、各リップ111,112の根元となる位置(環状溝部113)に嵌め込まれる。
【0023】
従って、Oリング120がパッキン本体110とは別部材であることと、Oリング120は一対のリップ111,112間に挟まれることにより圧縮力が作用しても引っ張り力は殆ど作用しないことと、Oリング120がリップ111,112の根元の位置に嵌め込まれているのでリップ111,112の変形の影響を受けにくいこととが相俟って、一対のリップ111,112が軸300及びハウジング400に対してそれぞれ摺動している場合でも、ICチップ130やその周囲に亀裂が生じてしまうことを抑制できる。
【0024】
また、Oリング120はリップ111,112の根元の位置に嵌め込まれているので、一対のリップ111,112はOリング120からの影響をあまり受けないため、シール性への影響は少ない。更に、仮に、Oリング120が破損(破断)しても、Oリング120はパッキン本体110における一対のリップ111,112間に嵌め込まれた状態が維持されるため、シール性への影響は少ない。
【0025】
また、本実施例に係るパッキン100の場合には、パッキン本体110における一対の
リップ111,112間に嵌め込まれたOリング120内にICチップ130が配置されるため、ICチップ130の位置を特定し易い。すなわち、パッキンの内部にICチップを埋め込む手法としては、金型内にICチップを配置しておき、パッキンを成形することで、パッキン内部にICチップを埋め込ませることも考えられ得る。しかし、この場合には、ICチップを固定させる位置を制御することができず、パッキン内部におけるICチップの位置を特定することができない。これに対して、本実施例に係るパッキン100の場合には、Oリング120内にICチップ130が配置させるため、パッキン100全体に対するICチップ130の位置を比較的狭い範囲内で特定することができる。
【0026】
また、本実施例においては、ICチップ130が、Oリング120におけるパッキン本体110に密着する側面側から形成された切り込み121の内部に押し込まれている構成を採用している。
【0027】
これにより、ICチップ130を簡単にOリング120の内部に配置させることができる。また、Oリング120における切り込み121が設けられている側の側面はパッキン本体110に密着した状態となり、ICチップ130を安定的に保持させることができる。また、密封対象である各種流体が切り込み121内に侵入してしまうことも抑制できる。更に、切り込み121の深さを一定にすることで、Oリング120に対するICチップ130の固定位置を決めることができ、パッキン100全体に対するICチップ130の位置を、より一層狭い範囲内で特定することができる。
【0028】
<その他>
上記実施例では、Oリング120に切り込み121を設けて、この切り込み内にICチップ130を押し込む構成を示したが、例えば、金型内にICチップ130を配置させた状態でOリング120を成形することで、Oリング120の内部にICチップ130を埋め込むことも考えられる。この場合、ICチップ130のOリング120に対する配置位置が特定されないものの、切り込み121を形成する作業や、ICチップ130を押し込む作業を不要とすることができる。
【0029】
(実施例2)
図4を参照して、本発明の実施例2に係るパッキン200について説明する。
【0030】
<パッキンの構成>
パッキン200は、上記実施例1と同様に、2部材としての軸300とハウジング400(の軸孔401)との間の環状隙間をシールするために用いられる。なお、軸300とハウジング400は相対的に回転するものであってもよいし、相対的に往復移動するものであってもよい。ここで、図4では、軸300については外周面の位置のみを点線で示し、ハウジング400については軸孔401の内周面の位置のみを点線で示している。
【0031】
そして、本実施例に係るパッキン200は、ゴムや樹脂などで構成されるパッキン本体210と、金属製の金属環220とから構成される。
【0032】
パッキン本体210は、一対のリップ211,212を備えており、断面形状が略U字形状のいわゆるUパッキンである。リップ211は軸300の外周面に対して摺動自在に接触し、リップ212はハウジング400の軸孔401の内周面に対して摺動自在に接触する。これにより、軸300とハウジング400が相対的に回転または往復移動している場合でも、パッキン本体210によって、これらの間の環状隙間がシールされる。
【0033】
金属環220は、パッキン本体210における一対のリップ211,212が設けられている側とは反対側の端面に固定される。なお、金属環220は、パッキン本体210に
対して接着剤等により固定してもよいし、焼き付けにより固定してもよく、固定方法は特に限定されない。また、金属環220におけるパッキン本体210との密着面側には凹部221が形成されている。そして、この凹部221にICチップ230が嵌め込まれている。本実施例では、金属環220におけるパッキン本体210との密着面とICチップ230の表面が同一面となるように構成しているが、ICチップ230の表面が当該密着面よりも凹むようにしてもよい。なお、図4においては、パッキン200において、ICチップ230が配置されている位置を通るように切断された断面図を示している。
【0034】
また、本実施例に係るICチップ230にも、上記実施例1の場合と同様に、製品コードや製品ロットなどの各種製品情報が記憶されている。これにより、製品管理や正規品か否かの判別を容易に行うことができる。なお、本実施例の場合には、ICチップ230を容易に取り出すことはできないので、無線により情報のやり取りが可能なもの(無線ICチップ(RFID))を用いるのが望ましい。無線により情報のやり取り可能なICチップ230を用いた場合の利点は、上記実施例1で説明した通りである。
【0035】
<本実施例に係るパッキンの優れた点>
本実施例に係るパッキン200によれば、パッキン本体210とは別部材である金属環220に形成された凹部221にICチップ230が嵌め込まれる。
【0036】
従って、金属環220は変形しないことと、金属環220に形成された凹部221にICチップ230が嵌め込まれるためパッキン本体210の変形がICチップ230に影響を与えないこととが相俟って、一対のリップ211,212が軸300及びハウジング400に対してそれぞれ摺動している場合でも、ICチップ230やその周囲に亀裂が生じてしまうことを抑制できる。
【0037】
また、金属環220はパッキン本体210における一対のリップ211,212が設けられている側とは反対側の端面に固定されており、一対のリップ211,212は金属環220の影響を受けないため、シール性への影響はない。
【0038】
また、本実施例に係るパッキン200の場合には、金属環220に形成された凹部221にICチップ230が配置されるため、ICチップ230の位置を特定し易い。
【符号の説明】
【0039】
100 パッキン
110 パッキン本体
111,112 リップ
113 環状溝部
120 Oリング
130 ICチップ
200 パッキン
210 パッキン本体
211,212 リップ
220 金属環
221 凹部
230 ICチップ
300 軸
400 ハウジング
401 軸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2部材間の環状隙間をシールするパッキンにおいて、
前記2部材に対してそれぞれ摺動自在に接触する一対のリップを備えるパッキン本体と、
前記一対のリップ間であって、各リップの根元となる位置に嵌め込まれると共に、その内部にICチップを保持するリング部材と、
を備えることを特徴とするパッキン。
【請求項2】
前記ICチップは、前記リング部材における前記パッキン本体に密着する側面側から形成された切り込みの内部に押し込まれていることを特徴とする請求項1に記載のパッキン。
【請求項3】
2部材間の環状隙間をシールするパッキンにおいて、
前記2部材に対してそれぞれ摺動自在に接触する一対のリップを備えるパッキン本体と、
前記パッキン本体における前記一対のリップが設けられている側とは反対側の端面に固定されると共に、前記パッキン本体との密着面側に形成された凹部にICチップが嵌め込まれた金属環と、
を備えることを特徴とするパッキン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−149677(P2012−149677A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7550(P2011−7550)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】