説明

パッファ形ガス遮断器

【課題】小さな駆動力でも大電流を遮断可能で、中小電流領域においても優れた電流遮断性能を有するパッファ形ガス遮断器を提供する。
【解決手段】熱パッファ室11と圧縮パッファ室12を区画する仕切り板10に逆止弁14bを設ける。逆止弁14bは、通常時はアーク7側においてすぼまった円錐形になっている。大電流遮断時の状態では、熱パッファ室11内部の圧力が高く、分割されている逆止弁14bは互いに隙間なくぴったりと接触している。この状態では熱パッファ室11側からアーク7へ消弧性ガスが流れる。中小電流遮断時に、熱パッファ室11の圧力が圧縮パッファ12の圧力よりも低くなった場合は、この逆止弁14bはアーク7側に開く。逆止弁14が開くと、圧縮パッファ室12と熱パッファ室11との間に流路21が形成される。消弧性ガスは、この流路21を通って、熱パッファ室11を全く経由せずにアーク7近傍へと誘導される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小さな駆動力で大電流を遮断することのできるパッファ形ガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力系統において電流開閉を行うガス遮断器においては、現在パッファ形と呼ばれるタイプが広く普及している。特に近年では電流遮断する際に必要な駆動力を低減することが可能な直列パッファ形とよばれる方式が公知となっている。この型のパッファ形ガス遮断器は、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0003】
図6は公知となっている直列パッファ形遮断器の内部構造を示している。このパッファ形ガス遮断器は、図6の中心線を挟んだ対称形状である。図6において、中心線より右側が閉極状態、すなわち通常時の電流通電状態を示しており、左側が開極途中、すなわち電流遮断動作中の状態を示している。
【0004】
図6に示す内部構造は、消弧性ガス1が充填された図示していない容器内に収納されている。この内部構造において、対向アーク接点2および対向通電接点3が、可動アーク接点4および可動通電接点5と同心軸上に向かい合って配置される。
【0005】
消弧性ガス1としては、アーク遮断性能(消弧性能)および電気絶縁性能ともに優れたSFガスが使用されることが通常であるが、その他の媒体の使用も可能である。
【0006】
図6の右側に図示した閉極状態においては、対向アーク接点2と可動アーク接点4が接触し、対向通電接点3と可動通電接点5とが接触している。そして、これらの接点の接触により電流通電が行なわれる。
【0007】
一方、電流を遮断する必要が生じた際には、可動アーク接点4および可動通電接点5は、中空状の駆動ロッド6により図6において下方向に駆動される。すると、対向アーク電極2と可動アーク電極4の間にアーク放電7が発生する。この場合、対向側の接点は固定されているか、もしくは可動側の接点とは反対方向に駆動される場合もある。
【0008】
この開極動作にともない、後述するメカニズムにより、消弧性ガスが絶縁ノズル8により整流されてアーク放電7に対して強力に吹付けられ、これによりアーク放電7はその導電性を失い、電流は遮断される。一般に高い電流遮断性能を得るためには、高い吹きつけ圧力、および豊富な消弧性ガス流量が必要である。
【0009】
次に、開極動作においてアーク放電7に消弧性ガスが吹付けられるメカニズムについて説明する。前述の可動アーク接点4、可動通電接点5、絶縁ノズル8、およびパッファシリンダ9は一体構造となっており、それらは前述の駆動ロッド6により同時に駆動される。パッファシリンダ9と駆動ロッド6に囲まれた空間は中心軸に垂直に配置された仕切り板10により区切られている。仕切り板10の両側には、アーク放電側の熱パッファ室11とそれとは反対側の圧縮パッファ室12が設けられている。
【0010】
圧縮パッファ室12は、仕切り板10および駆動せず常に静止状態にあるピストン15により囲まれて形成されている。仕切り板10には連通孔13と、それに付随する逆止弁14aが設けられている。圧縮パッファ室12の圧力が熱パッファ室11の圧力よりも高い場合には、圧縮パッファ室12から熱パッファ室11に消弧性ガスが流入する。また、逆に熱パッファ室11の圧力が圧縮パッファ室12の圧力よりも高い場合には、逆止弁14aの作用により熱パッファ室11の圧力の影響が圧縮パッファ室12へと及ばない。
【0011】
ピストン15には排気穴16と吸気穴17が設けられている。圧縮パッファ室12の圧力がある設定値以上にまで上昇すると放圧バルブ18の作用によりガスを放出し、圧縮パッファ室12の過剰な圧力上昇を抑える。開極状態から閉極状態へと変化する際などに、圧縮パッファ室12の圧力が消弧性ガス1の充填圧力よりも低くなる場合には、吸気バルブ19の作用により圧縮パッファ室12に消弧性ガスが吸い込まれてガスを補充する。
【0012】
この直列パッファ遮断器において大電流を遮断する際の動作について説明する。大電流遮断時においてはアーク放電7は非常に高温となるため、周囲の消弧性ガスの温度を著しく上昇させる。この作用により熱パッファ室11の圧力は著しく上昇し、アーク放電7を消弧せしめるに十分な圧力を得ることができる。
【0013】
ピストン15に作用する圧力、すなわち圧縮パッファ室12の圧力は、開極駆動する際の駆動反力として作用する。一方、熱パッファ室11の高い圧力は逆止弁14aの作用により圧縮パッファ室12へ及ばないため、駆動反力として作用することが無い。圧縮パッファ室12においてはピストン15による圧縮動作により圧力が上昇するが、放圧バルブ18の作用によりある設定値以上にまでは上昇することはない。
【0014】
以上のとおり、大電流遮断時においてはアーク放電7の加熱作用により熱パッファ室11の圧力は遮断に十分な圧力にまで上昇する。同時に、逆止弁14aおよび放圧バルブ18の作用により圧縮パッファ室12の圧力の過剰な上昇は回避できるため、小さな駆動力で大電流遮断を行うことが可能である。
【0015】
次に、中小の電流を遮断する際の動作について説明する。中小の電流を遮断する際には、アーク放電7の加熱作用は小さい。そのため、加熱作用による熱パッファ室11の圧力上昇は期待できない。このような場合には、圧縮パッファ室12の圧力の方が熱パッファ室11の圧力よりも相対的に高くなるため、逆止弁14aが開く。すると、ピストン15の圧縮作用により圧縮パッファ室12から前方の熱パッファ室11にガスが流れ込み、電流遮断に必要な圧力と消弧性ガスの流量を確保する。
【0016】
以上のとおり、直列パッファ形の遮断器においては、大電流を遮断する際は、アーク放電7による加熱作用を利用した熱パッファ室11の圧力上昇を主に利用して電流遮断を行う。一方、中小電流を遮断する際にはアーク放電7による加熱作用が期待できないため、ピストン15の圧縮作用により圧縮パッファ室から消弧性ガスを供給して電流遮断を行う。これにより、ピストン15へ作用する過剰な圧力を抑制することができ、小さな駆動力で電流遮断を行うことができる。
【0017】
【特許文献1】特開2001−155595号公報
【特許文献2】特公平07−109744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上説明した通り、直列パッファ形の遮断器は遮断動作に必要となる駆動力を低減することが可能であった。しかし、中小の電流を遮断する際に、必ずしも優れた遮断性能が得られるとは限らなかった。これは、主に以下の理由による。
【0019】
図6に示す通り、圧縮パッファ室12から流入する消弧性ガスは、絶縁ノズル8内部のアーク放電7へと流れ込む前に、必ず熱パッファ室11を経由する必要がある。このため、連通孔13からアーク放電7へといたる流路面積は、熱パッファ室11部分で大きく広がることとなり、スムーズなガスの流れが妨げられる。さらに、圧縮パッファ室12から流れ込んだ消弧性ガスは、熱パッファ室11の圧力を圧縮パッファ室12と同等の圧力にまで上昇させるために消費される。そのため、アーク放電7側へ流れ込むガス流量が少なくなるという問題があった。
【0020】
また、熱パッファ室11の内部は高温のアーク放電7に近いため、一般的に高温になっている。この高温の熱パッファ室11を経由することで、消弧性ガスは高温で低密度状態となり、この消弧性ガスがアーク放電7へと吹付けられる。高温、低密度の消弧性ガスは、その消弧性能、電気絶縁性能が低く、結果的に優れた遮断性能を得ることが困難になる。
【0021】
以上の通り、従来技術においては、主に圧縮パッファ室12から供給される消弧性ガスにより電流遮断が行われる中小電流遮断時においては、必ずしも優れた遮断性能が得られない可能性があった。
【0022】
本発明は、上記のような従来の直列パッファ形遮断器の課題を解決することを目的とする。本発明の具体的な目的は、小さな駆動力でも大電流を遮断可能で、かつ中小電流領域においても優れた電流遮断性能を有するパッファ形ガス遮断器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記の目的を達成するために、本発明のパッファ形ガス遮断器は、次のような構成としたことを特徴とする。
(1) 消弧性ガスが充填された密閉容器内に、対向アーク接点および対向通電接点を、可動アーク接点および可動通電接点と同心軸上に向かい合って配置する。
(2) 可動アーク接点および可動通電接点は、対向アーク接点および対向通電接点に対して接離可能となるように駆動ロッドに取り付ける。
(3) 可動側接点および対向側接点の開離時には可動アーク電極と対向アーク電極の間にアーク放電が発生しうるように構成する。
(4) 前記アーク放電に対して前記消弧性ガスを吹き付けるために、前記アーク放電を囲むように絶縁ノズルを配置する。
(5) 前記可動側接点にはこれと一体となって駆動するパッファシリンダを設け、このパッファシリンダの内部に常に静止状態にあるピストンを設ける。
(6) 前記パッファシリンダとピストンとによって囲まれた空間を、軸に対して垂直に配置された仕切り板により、アーク放電側の熱パッファ室とそれとは反対側の圧縮パッファ室とに区切る。
(7) 前記仕切り板には、前記熱パッファ室と前記圧縮パッファ室とを連通する連通孔と、この連通孔を開閉する逆止弁を設ける。
(8) 前記逆止弁を、熱パッファ室から圧縮パッファ室へのガスの流れは常に制限し、熱パッファ室の圧力が圧縮パッファ室の圧力よりも低い場合にのみその圧力差により開放されるように構成する。この逆止弁の開放時に、圧縮パッファ室からアーク放電近傍まで熱パッファ室を経由せずに通じる流路を形成する。
【0024】
前記のような構成を有する本発明のパッファ形ガス遮断器では、大電流遮断時の状態では、熱パッファ室内部の圧力が高く、逆止弁14bが閉じている。そのため、熱パッファ室からアークへと強力に消弧性ガスが吹付けられる。中小電流遮断時に、熱パッファ室の圧力が圧縮パッファの圧力よりも低くなった場合は、逆止弁はアーク側に開く。逆止弁が開くと、圧縮パッファ室と熱パッファ室との間に流路が形成される。消弧性ガスは、この流路を通って、熱パッファ室を全く経由せずにアーク近傍へと誘導される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、逆止弁によってガスの流れを制御することにより、小さな駆動力でも大電流を遮断可能で、かつ中小電流領域においても優れた電流遮断性能を有するパッファ形ガス遮断器を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(1)第1実施形態
[構成]
以下、本発明の第1実施形態を図1乃至図3を用いて説明する。図1および図2においては、中心線の左側が大電流遮断時における状態を示しており、中心線の右側が中小電流遮断時における状態を示している。図2は図1に図示しているA面での断面図を示している。また、図3は閉極状態を示している。
【0027】
本実施形態における遮断器の基本的な構成は、図6で説明した従来のパッファ形ガス遮断器と同様である。本実施形態のパッファ形ガス遮断器は、熱パッファ室11と圧縮パッファ室12を区画する仕切り板10に逆止弁14bを備えている。この逆止弁14bは、以下のように構成されている。
【0028】
この逆止弁14bは、分割された少なくとも複数枚、例えば3枚以上の板により構成され、熱パッファ室11と同心円筒状に配設されている。逆止弁14bは、それ自体が有するバネ性、あるいは付帯するバネにより、通常時はアーク7側においてすぼまった円錐形になっている。すなわち、逆止弁14bのアーク7と反対側の部分は仕切り板10に固定され、逆止弁14bのアーク7側の部分が駆動ロッド6の外周に接触あるいは開離するようになっている。
【0029】
大電流遮断時の状態では、熱パッファ室11内部の圧力が高く、分割されている逆止弁14bは駆動ロッド6に互いに隙間なく接触している。そのため、この状態では熱パッファ室11側から圧縮パッファ室12側へのガスの流れは制約されている。
【0030】
一方、熱パッファ室11の圧力が圧縮パッファ室12の圧力よりも低くなった場合は、その圧力差によって、この逆止弁14bはストッパ20側に開き、ストッパ20に有する開口部20aをふさぐ。この逆止弁14bの状態は、図1の右側に示されている。この逆止弁14が開いたため、圧縮パッファ室12と熱パッファ室11との間に流路21が形成される。消弧性ガスは、この流路21を通って、熱パッファ室11を全く経由せずにアーク7近傍へと誘導される。
【0031】
この逆止弁14bは、図3に示すように、通常時(閉極時)に円錐状となって閉じているため、逆止弁14bを構成する複数枚の板は互いに隙間なくぴったりと接触している。従って、図2の右側に示すように、逆止弁14bがストッパ20側で開放された場合には、逆止弁を構成する各板の間には隙間が生じる。そこで、開放した逆止弁14bの各板の隙間をふさぐために、ストッパ20が設けられている。
【0032】
このストッパ20は、図2の断面図に示すように、逆止弁14bや駆動ロッド6と同心に設けられた筒状の部材である。この筒状のストッパ20には、開口部20aが設けられている。大電流遮断時には、この開口部20aを通って熱パッファ室11から消弧性ガスがアーク7側に移動する。一方、中小電流遮断時には、この開口部20aを逆止弁14bの各板が塞ぐ。したがって、圧縮パッファ室12から流れ込む消弧性ガスは、熱パッファ室11側に漏れることなく、全てアーク7近傍へと誘導される。
【0033】
[作用]
大電流遮断時においては、熱パッファ室11の圧力はアーク7の加熱作用により著しく上昇する。したがって、図1の左側に示す通り逆止弁14bは開放されず、熱パッファ室11の高い圧力がピストン15に作用することがない。そのため、本実施形態では、従来の直列パッファ形遮断器と同様、小さな駆動力で電流遮断を行うことができる。また、ストッパ20には開口部20aが設けられているため、ストッパ20が熱パッファ室11内のガスの流れを妨げることがないため、熱パッファ室11からの消弧性ガスにより優れた大電流遮断性能を得ることができる。
【0034】
一方、中小電流を遮断する際は、アーク7の加熱作用が小さいため、熱パッファ室11の圧力はさほど上昇しない。したがって逆止弁14bが開放され、圧縮パッファ室から電流遮断に必要となる消弧ガスがアーク7へと供給される。圧縮パッファ室12からアーク7近傍に至る流路21により、消弧性ガスは、圧縮パッファ室12からアーク7へ直接流れる。このとき、消弧性ガスは、容積が大きくかつ高温状態となっている熱パッファ室11を全く経由することがない。そのため、低温状態のままスムーズにアーク空間へと流れ込むので、中小電流においても優れた遮断性能を得ることができる。
【0035】
特に、本実施形態においては、逆止弁14bが、圧縮パッファ室からアーク近傍へ至る前記流路の一部を形成している。そのため、逆止弁14bは簡便な構造であり、複雑な付帯構造や部品を必要としない。さらに、同様な理由から、逆止弁が開放される際には、圧縮パッファ室12から直接アーク放電7近傍に至る流路が極めてスムーズに形成される。
【0036】
[効果]
本実施形態によれは、小さな駆動力でも大電流を遮断可能で、かつ中小電流領域においても優れた電流遮断性能を有するパッファ形ガス遮断器を提供することができる。
【0037】
(2)第2実施形態
第2実施形態について図4及び図5を用いて説明する。図4においては、中心線の左側が大電流遮断時における状態を示しており、中心線の右側が中小電流遮断時における状態を示している。また、図3は、閉極状態を示している。本実施形態における遮断器の基本的な構成は図1乃至図3で説明した第1実施形態と同様である。
【0038】
[構成]
本実施形態における逆止弁14cは、図4及び図5に示すように、アーク7側が細くなった円筒状をしている。逆止弁14cの細くなった先端部は駆動ロッド6の表面に摺動可能な程度に接触し、逆止弁14cの円筒形の部分と駆動ロッド6との間には流路21が形成されている。この逆止弁14cのアーク7と反対側には、外側に広がったフランジ22が設けられている。
【0039】
前記仕切り板10のフランジ22と対向する部分には連通孔13が設けられ、この連通孔13はフランジ22によって開閉される。仕切り板13におけるアーク7側の表面には、フランジ22と係合するL字形のストッパ23が設けられている。このストッパ23は、その係合部が仕切り板10の表面から一定の距離を保って設けられている。従って、逆止弁14cは、仕切り板10の表面からストッパ23に達するまでの距離を移動できる。
【0040】
ストッパ23とフランジ22との間には、逆止弁14cを仕切り板10の表面側に押圧するバネ24が設けられている。逆止弁14cは、通常はこのバネ24により閉じられており、熱パッファ室11の圧力が圧縮パッファ室12の圧力よりも低い場合にのみ、その圧力差により開放される。
【0041】
駆動ロッド6のアーク7側の部分は径が細くなっている。逆止弁14cが開いた状態で、そのアーク7側の先端部分がこの細径部25に入り込み、逆止弁14cの先端と駆動ロッド6の表面との間に隙間が形成される。
【0042】
[作用]
上記のような構成を有する第2実施形態においては、第1実施形態と同様の作用が得られる。すなわち、大電流遮断時においては、熱パッファ室11の圧力はアーク7の加熱作用により著しく上昇する。したがって、図4の左側に示す通り逆止弁14cは開放されず、熱パッファ室11の高い圧力がピストン15に作用することがないので、従来の直列パッファ形遮断器同様、小さな駆動力で電流遮断を行うことができる。
【0043】
円筒状の逆止弁14cは熱パッファ室と同心に配置されており、さらに熱パッファ室11の空間には流れの妨げになるような部材は全く存在しないため、熱パッファ室11内の流れは極めてスムーズである。したがって、熱パッファ室11から吹き出す消弧性ガスの作用で優れた大電流遮断性能を得ることができる。
【0044】
一方、中小電流を遮断する際は、アーク7の加熱作用が小さいため、熱パッファ室11の圧力はさほど上昇しない。したがって、図4の右側に示す通り逆止弁14cが開放され、圧縮パッファ室12から電流遮断に必要となる消弧ガスが供給される。逆止弁14cが開放された状態では、駆動ロッド6の細径部25と逆止弁14cの先端との間の隙間を通じて、圧縮パッファ室12からアーク7近傍に至る流路21が自動的に形成される。
【0045】
この場合、圧縮パッファ室12から流れ込む消弧性ガスは、容積が大きくかつ高温状態となっている熱パッファ室11を全く経由することなく、アーク7近傍へと流れ込む。そのため、消弧性ガスは、低温状態のままスムーズにアーク空間へと流れ込み、中小電流においても優れた遮断性能を得ることができる。
【0046】
本構成においては、前記逆止弁14cの外側が熱パッファ室11の一部を形成し、その内側が圧縮パッファ室からアーク放電へと続く流路の一部を形成している。そのため、パッファ形ガス遮断器を複雑な付帯構造や部品を必要としない簡便な構造とすることができる。さらに、逆止弁が開放される際には、圧縮パッファ室12からアーク放電7近傍に至る流路が極めてスムーズに形成される。
【0047】
[効果]
以上の通り、本実施形態においては、小さな駆動力でも大電流を遮断可能で、かつ中小電流領域においても優れた電流遮断性能を有するパッファ形ガス遮断器を提供することができる。
【0048】
(3)第3実施形態
[構成]
本実施形態においては、消弧性ガス5として、SFガス(六弗化硫黄ガス)よりも地球温暖化係数の小さいガスを使用することを特徴とする。
【0049】
すなわち、絶縁ガスとして、N、O、乾燥空気、CO、CF、c-C、CCl、C、CまたはCFIのうち何れか1つの単体ガス、またはこれらのガスのうち任意の2つ以上のガスを混合させた混合ガスを使用する。
【0050】
[作用]
従来、消弧性ガスとしては、優れた消弧性能および電気絶縁性能を有するSFガスが使用されている。しかしながら、SFガスは二酸化炭素ガスの23900倍の地球温暖化効果を有するといわれており、その使用を避けることが望ましい。
【0051】
しかしながら、環境への影響が小さいガス、具体的にはSFガスよりも地球温暖化係数の小さい空気、窒素、二酸化炭素などを代替として使用すると、消弧性能および電気絶縁性能がSFガスよりも劣るため、遮断性能が劣化することが懸念される。
【0052】
SFガス以外の絶縁ガスを使用して、従来機器と同等の遮断性能を得るためには、パッファシリンダ9やピストン15などの構成部材を大きくしたり、大きな駆動力で可動部分を駆動する必要がでてくる。
【0053】
第1および第2実施形態で説明した構成とすることで、消弧性ガスとしてSFガスよりも地球温暖化係数の小さいガスを使用しながらも、機器の大形化、駆動力の増大を防ぐことができる。
【0054】
[効果]
第3実施形態においては、上記の構成とすることにより、小さな駆動力でも大電流を遮断可能で、かつ中小電流領域においても優れた電流遮断性能を有し、かつ地球温暖化への影響を抑制したパッファ形ガス遮断器を提供することができる。
【0055】
(4)他の実施形態
以上、各種実施形態をとりあげたが、いずれの実施形態も、熱パッファ室から圧縮パッファ室への流れは制約し、熱パッファ室の圧力が圧縮パッファ室の圧力よりも低い場合にのみ開放される逆止弁を有する。そして、この逆止弁が開放される際には、圧縮パッファ室からアーク放電近傍まで通じる同軸上の流路が自動的に形成され、圧縮パッファ室からアーク近傍へ至る前記流路は、熱パッファ室を全く経由しない。本発明は、このような逆止弁による流路が形成されることが特徴であり、これを実現するための構成はこの他にも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態のパッファ形ガス遮断器の開極状態を示す断面図。
【図2】図1のA面における断面図。
【図3】本発明の第1実施形態のパッファ形ガス遮断器の閉極状態を示す断面図。
【図4】本発明の第2実施形態のパッファ形ガス遮断器の開極状態を示す断面図。
【図5】本発明の第2実施形態のパッファ形ガス遮断器の閉極状態を示す断面図。
【図6】従来のパッファ形ガス遮断器の構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0057】
1…消弧性ガス、2…対向アーク接点、
3…対向通電接点、4…可動アーク接点、
5…可動通電接点、6…駆動ロッド、
7…アーク放電、8…絶縁ノズル、
9…パッファシリンダ、10…仕切り板、
11…熱パッファ室、12…圧縮パッファ室、
13…連通孔、14a〜14c…逆止弁、
15…ピストン、16…排気穴、
17…吸気穴、18…放圧バルブ、
19…吸気バルブ、20…ストッパ、
21…流路、22…フランジ、
23…ストッパ、24…バネ、
25…細径部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが充填された密閉容器内に、対向アーク接点および対向通電接点が、可動アーク接点および可動通電接点と同心軸上に向かい合って配置され、
可動アーク接点および可動通電接点は、対向アーク接点および対向通電接点に対して接離可能となるように駆動ロッドに取り付けられ、
可動側接点および対向側接点の開離時には可動アーク電極と対向アーク電極の間にアーク放電が発生しうるように構成され、
前記アーク放電に対して前記消弧性ガスを吹き付けるために、前記アーク放電を囲むように絶縁ノズルが配置され、
前記可動側接点にはこれと一体となって駆動するパッファシリンダが設けられ、このパッファシリンダの内部には常に静止状態にあるピストンが設けられ、
前記パッファシリンダとピストンとによって囲まれた空間が、軸に対して垂直に配置された仕切り板により、アーク放電側の熱パッファ室とそれとは反対側の圧縮パッファ室とに区切られ、
前記仕切り板には、前記熱パッファ室と前記圧縮パッファ室とを連通する連通孔と、この連通孔を開閉する逆止弁が設けられ、
前記逆止弁は、熱パッファ室から圧縮パッファ室へのガスの流れは常に制限し、熱パッファ室の圧力が圧縮パッファ室の圧力よりも低い場合にのみその圧力差により開放されるように構成され、かつ、その開放時に、圧縮パッファ室からアーク放電近傍まで熱パッファ室を経由せずに通じる流路を形成するものであることを特徴とするパッファ形ガス遮断器。
【請求項2】
前記逆止弁が、圧縮パッファ室からアーク近傍へ至る前記流路の少なくとも一部を形成していることを特徴とする請求項1に記載のパッファ形ガス遮断器。
【請求項3】
前記逆止弁が分割された少なくとも3つ以上の板により円筒状に形成され、
前記逆止弁は熱パッファ室と同心に配置され、
前記逆止弁の可動アーク接点側は、通常では中心軸方向にすぼまるように円錐状に維持され、この状態において熱パッファ室から圧縮パッファ室へのガス流を制限するものであり、
熱パッファ室の圧力が圧縮パッファ室の圧力よりも低い場合に、前記逆止弁のアーク放電側のすぼまりが開き、圧縮パッファ室からのアーク放電近傍に至る流路が形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパッファ形ガス遮断器
【請求項4】
前記逆止弁が可動アーク接点側が細くなった円筒状をしており、その細くなった先端部は駆動ロッドの表面に接触し、
前記逆止弁の可動アーク接点側と反対側には、外側に広がったフランジが設けられ、
前記仕切り板のこのフランジと対向する部分にはフランジによって開閉する連通孔が設けられ、
前記仕切り板にはフランジと係合して逆止弁の移動範囲を制限するするストッパが設けられ、
このストッパとフランジとの間には、逆止弁を連通孔を塞ぐ方向に付勢するバネが設けられ、熱パッファ室の圧力が圧縮パッファ室の圧力よりも低い場合にのみ、その圧力差により逆止弁が開放されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパッファ形ガス遮断器
【請求項5】
前記消弧性ガスとして、六弗化硫黄ガスよりも地球温暖化係数の小さいガスを使用したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のパッファ形ガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−294358(P2007−294358A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123534(P2006−123534)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】