説明

パラメータ算出装置、パラメータ算出方法、およびパラメータ算出プログラム

【課題】より正確な燃料の固有反応性を、燃焼シミュレーションを通して算出する。
【解決手段】燃焼シミュレーションシステムのパラメータ算出方法であって、燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と活性化エネルギー値との初期パラメータ値の入力を受付け、パラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、パラメータ値を中心点として予め定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値とのパラメータ候補値を算出し、パラメータ候補値に基づくシミュレーション結果データと実機による実験データとを比較して、差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定し、データ比較手段が判定した第2のパラメータ値をパラメータ算出手段に入力し、初期パラメータ値と、第2のパラメータ値との平均値を、固有反応性を示す値として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するパラメータ算出装置、パラメータ算出方法、およびパラメータ算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定のボイラーで特定の燃料物を効率良く燃焼させるために、そのボイラーの最適な運転状態を指標するための指標値が計測される。このような指標値を計測するためには、各種燃焼条件を設定して様々な燃焼実験を行う必要があり、多大な労力および費用が必要となる。このため、実験データをもとに、コンピュータを用いて燃焼状態のシミュレーションを行う方法が提案されている。例えば、燃焼特性を数値によって表現し燃焼をシミュレートするCFD(Computational Fluid Dynamics)の発展による燃焼シミュレーションシステムがある。
【0003】
このような燃焼シミュレーションシステムでは、構造モデルや燃焼モデルの選択、選択したモデルの各種パラメータ、境界条件、初期条件などの入力を行った後、それらの設定値に基づいた燃焼シミュレーションが行われる。このようなパラメータの組み合わせは膨大であり、各パラメータを最適な値に調整するための装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2688558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようにして算出されるシミュレーション結果値と、実機による実験データとの間には、特にボイラーの形状やサイズ等によって、乖離が生じることとなる。図1に示すように、実験により得られる実験データは、実機の空間性、サイズ、バーナー数などの装置構造と、粒径分布、酸素濃度、圧力、温度、速度、乱流速度などの操作条件と、燃料の構造、成分などの固有反応性との条件が混じり合った実験反応性としての実験結果となるからである。ここで、信頼性の高い汎用的なシミュレーションを行うためには、装置構造、操作条件を除いた、燃料の固有反応性が適切に算出されることが望ましい。
【0005】
また、従来、算出されたシミュレーション結果に基づいて、ノウハウや経験によってパラメータを修正し、修正したパラメータを用いてさらにシミュレーションを行うことで、最適と思われるパラメータを算出してきた。しかしながら、新規炭種を扱う場合には、このようなノウハウや経験があったとしても、誤差を修正することは非常に困難である。また、燃料の粒径、分布などがシミュレーション結果に大きく影響する場合において、従来の石炭におけるノウハウを例えば微粉炭のシミュレーションにそのまま適用することはできない。微粉炭の粒径分布は石炭の特性及び粉砕システムにより異なるものであるし、揮発分の燃焼モデルとチャーの燃焼モデルの分布なども異なるからである。
【0006】
このような燃料の固有反応性は、石炭の構造と化学組成から決められるものであり、一定の燃焼システムと操作条件で測定可能である。従って、上述のような装置構造と操作条件とからの影響を充分に考慮した上で、石炭の固有反応性を求めることが望ましい。例えば、単一平均石炭粒径を仮定し、アレニウスプロット方法によるDTF(管状型燃焼炉:Drop Tube Furnace)の実験データに基づいて石炭の固有反応性を求める方法がある。
【0007】
しかしながら、近年のバレスターらの論文(J.Ballester&S.Jimenez,Combustion and Flame 142(2005)210-222)では、単一平均石炭粒径を仮定したアレニウスプロット方法による固有反応性の計測は精度が非常に低いことが示唆されている。バレスターらは、実際の石炭粒径分布を考慮し、全実験データに基づいて、層流DTF理論解析から石炭の固有反応性(頻度因子Ac、活性化エネルギーEc)を求めた。
【0008】
ここで、燃焼モデルを特定する際には、DTF内の流れが層流であるか乱流であるかの判断が必要である。非反応流体の場合は入口条件から初期のレイノルズ数で層流領域であると判断できるが、反応流体の場合は初期のレイノルズ数だけでは判断できない。さらに、微粉炭燃焼実験では、層流で投入した石炭粒子が高昇温率で加熱すると揮発分が内部から強く噴出される。これは流れを強く撹乱し、乱流になる。しかし、上述のような理論解析では、このような現象を考慮した解析をすることはできない。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するパラメータ算出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、燃焼シミュレーションシステムを用いて固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するパラメータ算出装置であって、予め定められた条件下での燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と活性化エネルギー値との値である第1のパラメータ値の入力を受付ける入力手段と、入力手段に入力される第1のパラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出するパラメータ算出手段と、パラメータ算出手段が算出したパラメータ候補値に基づいて燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと、条件下での実機による実験データとを比較して、パラメータ候補値のうち、シミュレーション結果データと実験データとの差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定するデータ比較手段と、第2のパラメータ値と、実験データとの差が、予め定められた数値以下であるか否かを判定する判定手段と、判定手段が、第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下であると判定した場合に、第2のパラメータ値を、固有反応性を示す値として出力する固有反応性値出力手段と、判定手段が、第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下でないと判定した場合に、第2のパラメータ値を、入力手段に第1のパラメータ値として入力し、入力手段と、パラメータ算出手段と、データ比較手段と、固有反応性値出力手段とを、固有反応性値出力手段が固有反応性を示す値を出力するまで繰り返して動作させるパラメータ回帰手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上述のパラメータ算出装置が、複数の条件のそれぞれについて、入力手段と、パラメータ算出手段と、データ比較手段と、固有反応性値出力手段と、パラメータ回帰手段とを動作させ、複数の条件のそれぞれについて出力された固有反応性値の全ての平均値を、固有反応性値として出力する平均固有反応性値出力手段を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上述のパラメータ算出手段は、第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の4点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、燃焼シミュレーションシステムを用いて固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するパラメータ算出方法であって、入力手段が、予め定められた条件下での燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と活性化エネルギー値との値である第1のパラメータ値の入力を受付けるステップと、パラメータ算出手段が、入力手段に入力される第1のパラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出するステップと、データ比較手段が、パラメータ算出手段が算出したパラメータ候補値に基づいて燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと、条件下での実機による実験データとを比較して、パラメータ候補値のうち、シミュレーション結果データと実験データとの差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定するステップと、判定手段が、第2のパラメータ値と、実験データとの差が、予め定められた数値以下であるか否かを判定するステップと、判定手段によって、第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下であると判定された場合に、固有反応性値出力手段が、第2のパラメータ値を、固有反応性を示す値として出力するステップと、パラメータ回帰手段が、判定手段が第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下でないと判定した場合に、第2のパラメータ値を、入力手段に第1のパラメータ値として入力し、入力手段と、パラメータ算出手段と、データ比較手段と、固有反応性値出力手段とを、固有反応性値出力手段が固有反応性を示す値を出力するまで繰り返して動作させるステップと、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、燃焼シミュレーションシステムを用いて固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するコンピュータに、入力手段が、予め定められた条件下での燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と活性化エネルギー値との値である第1のパラメータ値の入力を受付けるステップと、パラメータ算出手段が、入力手段に入力される第1のパラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出するステップと、データ比較手段が、パラメータ算出手段が算出したパラメータ候補値に基づいて燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと、条件下での実機による実験データとを比較して、パラメータ候補値のうち、シミュレーション結果データと実験データとの差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定するステップと、判定手段が、第2のパラメータ値と、実験データとの差が、予め定められた数値以下であるか否かを判定するステップと、判定手段によって、第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下であると判定された場合に、固有反応性値出力手段が、第2のパラメータ値を、固有反応性を示す値として出力するステップと、パラメータ回帰手段が、判定手段が第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下でないと判定した場合に、第2のパラメータ値を、入力手段に第1のパラメータ値として入力し、入力手段と、パラメータ算出手段と、データ比較手段と、固有反応性値出力手段とを、固有反応性値出力手段が固有反応性を示す値を出力するまで繰り返して動作させるステップと、を実行させるためのパラメータ算出プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、燃料の固有反応性を示す頻度因子値と活性化エネルギー値とを、燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと実機による実験データとに基づいて回帰させて算出するようにしたので、実験反応性に基づいて、信頼性の高い固有反応性を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図2は、本実施形態によるパラメータ算出装置100の構成を示すブロック図である。
パラメータ算出装置100は、入力部101と、パラメータ算出部102と、データ比較部103と、シミュレーション実行部104と、パラメータ回帰部105と、固有反応性値出力部106とを備えている。
【0017】
入力部101は、燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と、燃料の活性化エネルギー値とのパラメータ値の入力や、ボイラーの実機による燃焼実験結果である実験データなどの入力を受付ける。
パラメータ算出部102は、入力部101に入力されるパラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、パラメータ値に対応する点から定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出する。例えば、パラメータ算出部102は、入力部101から入力されるパラメータ値を、図3に示すような頻度因子値(Ac)と活性化エネルギー値(Ec)とを二軸とする二次元空間に点Pとして配し、点Pの周囲に、点PN―nを定め、点PN―nに対応する頻度因子値(Ac)と活性化エネルギー値(Ec)との値をパラメータ候補値として算出する。本実施形態では、図3に示すように、パラメータ値の周囲4点をパラメータ候補値として選択する4点接近法によって、パラメータ候補値を算出する。
【0018】
データ比較部103は、パラメータ算出部102が算出したパラメータ候補値に基づいて、燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと、実機による実験データとを比較して、パラメータ候補値のうち、シミュレーション結果データと実験データとの差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定する。さらに、データ比較部103は、第2のパラメータ値と、実験データとの差が、予め定められた数値(例えば、10−6)以下であるか否かを判定する。
【0019】
シミュレーション実行部104は、燃焼シミュレーションシステム200と通信可能であり、ユーザに設定された燃焼モデル、各種パラメータに基づいて燃焼シミュレーションシステム200を動作させ、燃焼シミュレーションシステム200が出力するシミュレーション結果値を取得する。
燃焼シミュレーションシステム200は、数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)に従った複数の燃焼モデル、計算式を予め記憶しており、ユーザから燃焼モデルの選択、選択したモデルの各種パラメータ、境界条件、初期条件などの設定値の入力を受け付け、数値流体力学の燃焼モデルを用いて、設定値に基づいた燃焼を計算によって予測し、未燃焼率などのシミュレーション結果値を出力する。
【0020】
パラメータ回帰部105は、データ比較部103が、第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下でないと判定した場合に、第2のパラメータ値を、入力部101に入力し、固有反応性値出力部106が固有反応性を示す値を出力するまで、パラメータ算出処理を繰り返す。
固有反応性値出力部106は、データ比較部103が、第2のパラメータ値と、実験データとの差が予め定められた数値以下であると判定した場合に、第2のパラメータ値を、固有反応性を示す値として出力する。さらに、固有反応性値出力部106は、複数の条件に基づいてパラメータ算出処理が行われた場合には、その条件のそれぞれについて出力された固有反応性値の全ての平均値を、固有反応性値として出力する。
【0021】
次に、本発明によるパラメータ算出装置100が、最適なパラメータを算出する動作例を説明する。
まず、ユーザは、パラメータを算出する反応速度などの条件を決定する。ユーザは、DTF数値シミュレーションの際、燃焼シミュレーションシステム200に予め記憶された微粉炭燃焼モデルを選択する。例えば、揮発分の燃焼モデルとして、以下式(1)を選択する。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、Kvは石炭揮発速度(1/S)、T、V、Vは、それぞれ粒子の表面温度(K)、石炭中の全揮発分量(kg)、および放出された揮発分量(kg)であり、Rはガス定数(Universal gas constant)(J/(molK))である。AvとEvは揮発分放出速度パラメータである頻度因子と活性化エネルギーである。
また、チャー燃焼モデルとして、以下式(2)を選択する。
【0024】
【数2】

【0025】
ここで、Cはチャーの質量(kg)、PO2は燃焼ガス中酸素の分圧(Pa)であり、Kd、Krはそれぞれ、チャー表面での化学反応速度((kg/ms)/Pa)、および酸素のチャー表面への拡散速度((kg/mS)/Pa)である。Tg、C1およびDpはそれぞれ雰囲気ガス温度(K)、ガス拡散係数、および粒子の直径(m)である。Ac、Ecはそれぞれチャー燃焼速度定数の頻度因子((kg/mS)/Pa)、および活性化エネルギー(J/mol)である。
【0026】
また、微粉炭燃焼モデルの初期パラメータの特定が必要である。一般的に、新規炭の固有反応性は未知であるため、初期パラメータを予測しなければならない。予測したものが新規炭の固有反応性に接近するほど、DTF数値シミュレーションの無駄な仕事量が減少し、予測精度が高くなる。従って、初期パラメータを正しく設定することは、DTFシステムおよび既設火力燃焼システムに関する数値シミュレーションの効率と精度を大きく左右する。このような初期パラメータは、実験データに基づいて設定するか、または、DTFでの実験未燃焼率に基づいて理論解析プログラムによって算出されたパラメータ値を利用する。また、ユーザは、このような条件に基づいてボイラーの実機による実験を行い、実験データを取得しておくこととする。ここで、実験データは、例えば、特定の反応距離を特定の条件とした場合の、未燃焼率を示す値である。
【0027】
以上のような条件設定の下、本発明によるパラメータ算出装置100が、最適なパラメータを算出する動作例を、図4を参照して説明する。
ユーザは、入力部101に、特定の条件下でのボイラー実機による実験データを入力する(ステップS1)。そして、ユーザは、上述のように決定した初期パラメータ値P(Ac、0;Ec、0)を、パラメータ算出装置100の入力部101に入力する。シミュレーション実行部104は、入力された初期パラメータ値を燃焼シミュレーションシステム200に入力し、シミュレーションを実行させる(ステップS2)。そして、データ比較部103は、燃焼シミュレーションシステム200が出力するシミュレーション結果値と、ステップS1で入力された実験データ値と比較する(ステップS3)。
【0028】
データ比較部103が、ステップS3で、シミュレーション結果値と実験データ値との誤差が、予め定められた範囲以内であると判定すれば(ステップS3−YES)、固有反応性値出力部106は、ステップS2で入力された初期パラメータ値を、固有反応性値として出力する(ステップS7)。一方、データ比較部103が、ステップS3で、シミュレーション結果値と実験データ値との誤差が、予め定められた範囲以内でないと判定すれば(ステップS3−NO)、パラメータ算出部102は、図3に示すように、パラメータ算出装置100に入力された初期パラメータ値Pを、Acを縦軸、Ecを横軸とする座標に点Pとしてプロットする。そして、パラメータ算出部102は、ユーザの入力に従って、点Pの周囲4点(P0−1、P0−2、P0−3、P0−4)に対応するパラメータ値(Ac値、Ec値)を算出する(ステップS4)。そして、シミュレーション実行部104は、周囲4点のそれぞれに対応するパラメータ値を設定して燃焼シミュレーションシステム200にシミュレーションを実行させ、シミュレーション結果値(収束解)を求める(ステップS5)。
【0029】
そして、データ比較部103が、シミュレーション実行部104にシミュレーションされたこれら4点のうち、シミュレーション結果値と実験データとの差が最も小さい点PN−n(図3では、点P0−2)を特定する(ステップS6)。そして、データ比較部103は、ステップS6で特定された点(PN−n)に対応するシミュレーション結果値と、ステップS1で入力された実験データ値と比較する(ステップS3)。ここで、データ比較部103が、ステップS6で特定された点(PN−n)に対応するシミュレーション結果値と実験データ値との誤差が、予め定められた範囲以内であると判定すれば(ステップS3−YES)、固有反応性値出力部106は、ステップS2で入力されたステップS6で特定された点(PN−n)に対応するパラメータ値(Ac、N;Ec、N)を、固有反応性値として出力する(ステップS7)。
【0030】
一方、データ比較部103が、ステップS3で、シミュレーション結果値と実験データ値との誤差が、予め定められた範囲以内でないと判定すれば、パラメータ回帰部105が、ステップS6で特定された点(PN−n)(図3では、点P)に対応するパラメータ値(Ac、N;Ec、N)(図3では、(Ac、1;Ec、1))を、入力部101に入力する。
【0031】
そして、上述したように、パラメータ算出部102は、入力されたパラメータ値P(Ac、N;Ec、N)を、Acを縦軸、Ecを横軸とする座標にプロットし、パラメータ算出部102が、点Pの周囲4点(PN−1、PN−2、PN−3、PN−4)に対応するパラメータ値(Ac値、Ec値)を算出し(ステップS4)、シミュレーション実行部104が、周囲4点のそれぞれに対応するパラメータ値を設定して燃焼シミュレーションシステム200にシミュレーションを実行させ、シミュレーション結果値(収束解)を求める(ステップS5)。そして、データ比較部103が、シミュレーション実行部104にシミュレーションされたこれら4点のうち、シミュレーション結果値と実験データとの差が最も小さい点PN−nを特定して、その差が予め定められた範囲内であればその点PN−nに対応するパラメータ値(Ac、N;Ec、N)を、固有反応性値として出力し、予め定められた範囲外であれば、再度ステップS4からステップS6までの処理を繰り返して行う。
【0032】
なお、本実施形態では、ステップS4で、パラメータ算出部102は、点Pの周囲4点をパラメータ候補値として選択することとしたが、このようなパラメータ候補値は、4点でなく、1点でも良いし、3点でも良いし、その他の複数点でも良い。
また、パラメータ算出装置100は、このようなパラメータ算出処理を、複数の条件についてそれぞれ行い、複数回のパラメータ算出結果の平均値を、固有反応性値として出力するようにしても良い。この場合、固有反応性値出力部106が、以下式(3)を用いて、各パラメータ値(P(Ac、0;Ec、0)、P(Ac、1;Ec、1)、P(Ac、2;Ec、2))の平均値を算出し、固有反応性値として出力する。
【0033】
【数3】

【0034】
このようにして求めた固有反応性値は、装置構造、操作条件などの影響を可能な限り排し、精度の高い値となる。例えば、図5は、本発明によりブレアソール(BA)炭の燃焼シミュレーションを行った結果を示す図である。従来技術による解析手法で得られたチャーの燃焼性は、固有のものでなく、いろいろな燃焼システムや操作条件などの影響を受けているために、このような解析手法によるシミュレーション結果は、実験値から大きく外れている。一方、本実験による有効データは、従来技術と比べて精度の高いものとなっている。
このように算出された固有反応性値を用いれば、ボイラーの特性とその運転条件に影響されない固体燃料の反応定数を求めることができ、その実験装置以外の燃焼装置においても、その固体燃料反応性の適切な評価を行うことができる。
【0035】
なお、本発明における処理部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによりパラメータ算出を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0036】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】燃焼実験における実験反応性、装置構造、操作条件、固有反応性との相関関係を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態によるパラメータ算出装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態によるパラメータ算出に用いる二次元空間を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態によるパラメータ算出装置の動作例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
100 パラメータ算出装置
101 入力部
102 パラメータ算出部
103 データ比較部
104 シミュレーション実行部
105 パラメータ回帰部
106 固有反応性値出力部
200 燃焼シミュレーションシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼シミュレーションシステムを用いて固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するパラメータ算出装置であって、
予め定められた条件下での燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と活性化エネルギー値との値である第1のパラメータ値の入力を受付ける入力手段と、
前記入力手段に入力される第1のパラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、前記第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出するパラメータ算出手段と、
前記パラメータ算出手段が算出した前記パラメータ候補値に基づいて前記燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと、前記条件下での実機による実験データとを比較して、前記パラメータ候補値のうち、前記シミュレーション結果データと前記実験データとの差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定するデータ比較手段と、
前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が、予め定められた数値以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段が、前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が予め定められた数値以下であると判定した場合に、前記第2のパラメータ値を、固有反応性を示す値として出力する固有反応性値出力手段と、
前記判定手段が、前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が予め定められた数値以下でないと判定した場合に、前記第2のパラメータ値を、前記入力手段に前記第1のパラメータ値として入力し、前記入力手段と、前記パラメータ算出手段と、前記データ比較手段と、前記固有反応性値出力手段とを、前記固有反応性値出力手段が前記固有反応性を示す値を出力するまで繰り返して動作させるパラメータ回帰手段と、
を備えることを特徴とするパラメータ算出装置。
【請求項2】
複数の前記条件のそれぞれについて、前記入力手段と、前記パラメータ算出手段と、前記データ比較手段と、前記固有反応性値出力手段と、前記パラメータ回帰手段とを動作させ、複数の前記条件のそれぞれについて出力された前記固有反応性値の全ての平均値を、固有反応性値として出力する平均固有反応性値出力手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のパラメータ算出装置。
【請求項3】
前記パラメータ算出手段は、前記第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の4点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出すること
を特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のパラメータ算出装置。
【請求項4】
燃焼シミュレーションシステムを用いて固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するパラメータ算出方法であって、
入力手段が、予め定められた条件下での燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と活性化エネルギー値との値である第1のパラメータ値の入力を受付けるステップと、
パラメータ算出手段が、前記入力手段に入力される第1のパラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、前記第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出するステップと、
データ比較手段が、前記パラメータ算出手段が算出した前記パラメータ候補値に基づいて前記燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと、前記条件下での実機による実験データとを比較して、前記パラメータ候補値のうち、前記シミュレーション結果データと前記実験データとの差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定するステップと、
判定手段が、前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が、予め定められた数値以下であるか否かを判定するステップと、
前記判定手段によって、前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が予め定められた数値以下であると判定された場合に、固有反応性値出力手段が、前記第2のパラメータ値を、固有反応性を示す値として出力するステップと、
パラメータ回帰手段が、前記判定手段が前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が予め定められた数値以下でないと判定した場合に、前記第2のパラメータ値を、前記入力手段に前記第1のパラメータ値として入力し、前記入力手段と、前記パラメータ算出手段と、前記データ比較手段と、前記固有反応性値出力手段とを、前記固有反応性値出力手段が前記固有反応性を示す値を出力するまで繰り返して動作させるステップと、
を備えることを特徴とするパラメータ算出方法。
【請求項5】
燃焼シミュレーションシステムを用いて固体燃料の燃焼に及ぼす固有反応性のパラメータを算出するコンピュータに、
入力手段が、予め定められた条件下での燃料の燃焼速度定数を示す頻度因子値と活性化エネルギー値との値である第1のパラメータ値の入力を受付けるステップと、
パラメータ算出手段が、前記入力手段に入力される第1のパラメータ値を、頻度因子値と活性化エネルギー値とを二軸とする二次元空間に配し、前記第1のパラメータ値に対応する点から定められた範囲内の点に対応する頻度因子値と活性化エネルギー値との値であるパラメータ候補値を算出するステップと、
データ比較手段が、前記パラメータ算出手段が算出した前記パラメータ候補値に基づいて前記燃焼シミュレーションシステムが実行したシミュレーション結果データと、前記条件下での実機による実験データとを比較して、前記パラメータ候補値のうち、前記シミュレーション結果データと前記実験データとの差が最も小さいパラメータ候補値を第2のパラメータ値として判定するステップと、
判定手段が、前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が、予め定められた数値以下であるか否かを判定するステップと、
前記判定手段によって、前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が予め定められた数値以下であると判定された場合に、固有反応性値出力手段が、前記第2のパラメータ値を、固有反応性を示す値として出力するステップと、
パラメータ回帰手段が、前記判定手段が前記第2のパラメータ値と、前記実験データとの差が予め定められた数値以下でないと判定した場合に、前記第2のパラメータ値を、前記入力手段に前記第1のパラメータ値として入力し、前記入力手段と、前記パラメータ算出手段と、前記データ比較手段と、前記固有反応性値出力手段とを、前記固有反応性値出力手段が前記固有反応性を示す値を出力するまで繰り返して動作させるステップと、
を実行させるためのパラメータ算出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−97806(P2009−97806A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270428(P2007−270428)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】