説明

パルスアーク溶接の終了制御方法

【課題】消耗電極式パルスアーク溶接において、溶接が終了したときに溶接ワイヤの先端に形成される溶融球の底部にスラグが付着しないように制御して、次のアークスタート性を良好にすること。
【解決手段】溶接ワイヤに臨界値以上のピーク電流Ipと臨海地未満のベース電流Ibとを繰り返し通電して溶接するパルスアーク溶接方法にあって、溶接を終了する際に最終ピーク電流LIpの通電を判別すると臨界値未満の範囲で予め定めた最終ベース電流LIbを予め定めた最終ベース期間LTbだけ通電して溶接を終了するパルスアーク溶接の終了制御方法において、前記最終ベース電流LIbは、前記最終ベース期間LTb中の時間経過に伴ってその値が増加する電流である。電流値を増加させることによって、溶融球に持ち上げ力を作用させて、スラグを底部から側部へと移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接終了後のワイヤ先端に形成される溶融球の形状を適正化することができるパルスアーク溶接の終了制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式アーク溶接においては、溶接を終了した後の溶接ワイヤ先端に形成された溶融球の大きさが、次のアークスタートの良否を決める主要因の1つである。消耗電極式パルスアーク溶接も消耗電極式アーク溶接の1つであるので、溶融球の大きさが次のアークスタート性に大きな影響を与えることは同様である。溶融球の大きさをどの程度にすれば、次のアークスタート性が良好になるかは、溶接ワイヤの材質によって異なっている。溶接ワイヤの材質がアルミミウム又はステンレスである場合には、溶融球は小さい方が次のアークスタート性が良好になるので、溶接ワイヤの直径と略同一になるように制御される。他方、溶接ワイヤの材質が鉄鋼である場合には、溶融球がワイヤ直径の1.25倍程度になるように制御される。鉄鋼材の場合、溶融球をあまり小さくするとその底部にスラグが付着した状態になることが多い。スラグは絶縁物であるので、底部にスラグが付着していると、次のアークスタート時にワイヤ先端が母材と接触してもスラグのためにアークが点弧されない状態になる。溶融球が適度な大きさになるように制御されると、スラグは溶融球の底部からずれた側部に付着する確率が高くなる。このようになると、良好なアークスタート性を確保することができるようになる。また、溶融球があまり大きくなると、次のアークスタート性は悪くなる。以下に、鉄鋼材のパルスアーク溶接(パルスマグ溶接と呼ばれる)において、溶融球を適正な大きさに形成するための従来技術の終了制御方法について説明する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、従来技術におけるパルスアーク溶接の終了制御方法を示すタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stを示し、同図(B)は起動信号Onを示し、同図(C)は溶接ワイヤの送給速度Fwを示し、同図(D)は送給停止判別信号Sdを示し、同図(E)は最終ピーク電流判別信号Pdを示し、同図(F)は溶接電流Iwを示し、同図(G)は溶接電圧Vwを示す。上記の溶接開始信号Stは、溶接電源の外部から入力される信号であり、Highレベルになると溶接開始を指令する信号となり、Lowレベルになると溶接終了を指令する信号となる。半自動溶接にあっては、溶接開始信号Stはトーチスイッチのオン/オフに対応する信号であり、ロボット溶接にあっては、ロボット制御装置から送信される信号である。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
時刻t1以前の定常溶接期間中は、同図(A)に示すように、溶接開始信号StはHighレベルになっているので、同図(B)に示すように、起動信号OnはHighレベル(起動)になり、溶接電源から溶接電圧Vw及び溶接電流Iwが出力されてアークが発生している。この期間中は、同図(C)に示すように、送給速度Fwは予め定めた定常送給速度になっている。同図(C)に示すように、破線の送給停止判別基準値Ftは、送給停止を判別するための基準値であり、0よりも少し大きな値(例えば0.5m/min)に設定される。同図(D)に示す送給停止判別信号Sdは、送給速度Fwと送給停止判別基準値Ftとを比較して、Fw<FtのときにHighレベルになる信号である。すなわち、送給速度Fwが略0となった時点で、送給停止判別信号SdがHighレベルに変化する。時刻t1以前の期間では、Fw>Ftであるので、同図(D)に示すように、送給停止判別信号SdはLowレベルの状態にある。また、同図(E)に示すように、最終ピーク電流判別信号Pdは、時刻t1以前の期間中はLowレベルの状態にある。同図(F)に示すように、溶接電流Iwは、ピーク期間Tp中のピーク電流Ipとベース期間Tb中のベース電流Ibとの通電を1パルス周期Tfとして繰り返している。同図(G)に示すように、溶接電圧Vwは、ピーク期間Tp中はピーク電圧となり、ベース期間Tb中はベース電圧となる。上記のピーク電流Ipは臨界値以上の450A程度に設定され、上記のベース電流Ibは臨界値未満の20〜100Aの範囲に設定される。ピーク電圧及びベース電圧は、アーク長に比例した値となる。上記のピーク期間Tp、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは、実験によって溶接ワイヤの材質、直径、定常送給速度等に応じて、いわゆる1パルス周期1溶滴移行となる適正値を算出し、この適正値に設定される。溶接電圧Vwの平均値が予め定めた定常溶接電圧設定値と等しくなるように上記のパルス周期Tfがフィードバック制御されて、アーク長制御が行われる。このアーク長制御の方式を周波数変調制御と呼ぶ。また、パルス周期Tfを固定してピーク期間Tpを変化させるパルス幅変調制御も使用される。
【0005】
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接開始信号StがLowレベルに変化する。しかし、同図(B)に示すように、起動信号Onは、後述する最終ベース電流LIbの通電が終了する時刻t4までHighレベルを継続する。時刻t1〜t4の期間がアンチスティック期間Taとなる。溶接開始信号Stの変化に応動して送給モータへの電力の供給が遮断されるが、慣性によって回転速度はスロープ状に遅くなるので、完全に停止するまでには時間がかかる。したがって、同図(C)に示すように、送給速度Fwは時刻t1からスロープ状に遅くなり、時刻t2において上記の送給停止判別基準値Ft未満となり、その直後に0となる。送給速度Fwが慣性によって0となるまでの期間は、送給モータの種類、定常送給速度等によって変化するが、100ms程度である。同図(D)に示すように、送給停止判別信号Sdは、時刻t2においてFw<FtとなるのでHighレベルとなる。また、同図(F)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1以降もピーク電流Ip及びベース電流Ibの通電を繰り返す。そして、同図(D)に示す送給停止判別信号SdがHighレベルに変化した時点(時刻t2)以降の最初のピーク電流の通電が終了する時刻t3において、同図(E)に示すように、最終ピーク電流判別信号PdがHighレベルに変化する。さらに、時刻t3〜t4の最終ベース期間LTb中は最終ベース電流LIbを通電する。時刻t4において最終ベース電流LIbの通電が終了すると、同図(B)に示す起動信号OnがLowレベルになり、溶接電源の出力は停止されて溶接が終了する。同図(G)に示すように、溶接電圧Vwは、上述したピーク電流Ip及びベース電流Ibの通電に応じたピーク電圧及びベース電圧が繰り返される。アンチスティック期間Ta中は、溶接電圧Vwの平均値が予め定めたアンチスティック用溶接電圧設定値と等しくなるようにパルス周期Tfが制御される。
【0006】
以下、従来技術における溶融球の形成について説明する。時刻t3において、同図(F)に示すように、最終ピーク電流LIpの通電が終了した時点で、最終ピーク電流LIpの通電によって形成された溶滴が溶融池に移行する。したがって、この時点においては、ワイヤ先端の溶融球は形成されていない状態である。最終ベース電流LIbの通電に伴って、ワイヤ先端が溶融されて溶融球が次第に大きくなる。そして、時刻t4において、最終ベース電流LIbの通電が終了すると、それまでに形成された溶融球が冷却されて凝固する。この溶融球の形状の一例を図6に示す。溶接ワイヤ1の先端に形成された溶融球1aは略球形となっており、ワイヤ直径の1.25倍程度の大きさである。溶融球の大きさは、最終ベース電流LIb及び最終ベース期間LTbの値によって定まることになる。最終ベース電流LIbの値が大きくなるとアーク力も大きくなり溶融池からスパッタが発生しやすくなる。逆に、最終ベース電流LIbの値が小さくなるとアーク切れが発生しやすくなる。したがって、最終ベース電流Libの値は、時刻t1以前の定常溶接期間と同程度の20〜100Aの範囲で設定される。直系1.2mmの鉄鋼ワイヤの場合、LIb=50A及び最終ベース期間LTb=50ms程度に設定すると、溶融球は適正サイズである直径の1.25倍程度に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−267171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、鉄鋼ワイヤの場合、溶融球の大きさをワイヤ直径の1.25倍程度に形成することによって、溶融球底部へのスラグの付着を抑制することができ、良好なアークスタート性を得ることができる。しかしながら、このように溶融球の形成を制御しても、ときたま溶融球の底部にスラグが付着することがあり、このような場合にはアークスタート性は悪くなる。短い間隔で断続溶接を繰り返すタック溶接の場合には、1日に数万回のアークスタートを繰り返すことになる。このような溶接では、ときたま生じる溶融球底部のスラグによるアークスタート失敗によって生産効率が低下することになる。
【0009】
そこで、本発明では、溶接終了後の溶融球の大きさを適正化すると共に、溶融球底部へのスラグの付着を防止することができるパルスアーク溶接の終了制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接ワイヤに臨界値以上のピーク電流と臨界地未満のベース電流とを繰り返し通電して溶接するパルスアーク溶接方法にあって、溶接を終了する際に最終ピーク電流の通電を判別すると臨界値未満の範囲で予め定めた最終ベース電流を予め定めた最終ベース期間だけ通電して溶接を終了するパルスアーク溶接の終了制御方法において、
前記最終ベース電流は、前記最終ベース期間中の時間経過に伴ってその値が増加する電流である、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の終了制御方法である。
【0011】
請求項2の発明は、前記最終ベース電流は、増加率が次第に大きくなるように曲線状に増加する電流である、
ことを特徴とする請求項1記載のパルスアーク溶接の終了制御方法である。
【0012】
請求項3の発明は、前記最終ベース電流は、ステップ状に増加する電流である、
ことを特徴とする請求項1記載のパルスアーク溶接の終了制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、最終ベース電流を時間経過に伴って増加するように通電することによって、溶融球の大きさを適正化すると共に、スラグの付着位置を溶融球底部から側部にすることができる。このために、次のアークスタートにおいて、スラグが原因になって失敗することがなくなり、良好なアークスタート性を得ることができる。この結果として、アークスタート失敗に伴うやり直しを行う必要がなくなるので、生産効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の終了制御方法を示すタイミングチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係る最終ベース電流LIbの種々の通電波形を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の終了制御方法によって形成される溶融球の形状を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の終了制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図5】従来技術におけるパルスアーク溶接の終了制御方法を示すタイミングチャートである。
【図6】従来技術におけるパルスアーク溶接の終了制御方法によって形成された溶融球の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の終了制御方法を示すタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stを示し、同図(B)は起動信号Onを示し、同図(C)は溶接ワイヤの送給速度Fwを示し、同図(D)は送給停止判別信号Sdを示し、同図(E)は最終ピーク電流判別信号Pdを示し、同図(F)は溶接電流Iwを示し、同図(G)は溶接電圧Vwを示す。同図は上述した図5と対応しており、時刻t3〜t4の最終ベース電流LIbの波形のみが異なっている。以下、同図を参照して、同一動作の説明は省略して異なる動作について説明する。
【0017】
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接開始信号StがLowレベル(溶接終了指令)になると、同図(C)に示すように、送給モータへの電力供給が遮断されるので送給速度Fwは慣性によって次第に遅くなる。そして、時刻t2において、送給速度Fwが送給停止判別基準値Ft未満になると、同図(D)に示すように、送給停止判別信号SdがHighレベルになる。同図(F)に示すように、時刻t1以降の期間(アンチスティック期間Ta)中の溶接電流Iwは、ピーク電流Ip及びベース電流Ibの通電を上述した周波数変調制御によって定まるパルス周期Tfごとに繰り返す。そして、同図(D)に示す送給停止判別信号SdがHighレベルに変化した時点(時刻t2)移行の最初のピーク電流を最終ピーク電流LIpとして判別する。そして、時刻t3において、この最終ピーク電流LIpの通電終了を判別すると、同図(E)に示すように、最終ピーク電流判別信号PdがHighレベルに変化する。この最終ピーク電流判別信号PdがHighレベルに変化すると、予め定めた最終ベース期間LTbの間予め定めた最終ベース電流LIbを通電する。時刻t4において、最終ベース電流LIbの通電が終了すると、同図(B)に示すように、起動信号OnがLowレベル(停止)に変化し、溶接電源の出力は停止されて溶接が終了する。
【0018】
同図(F)に示すように、最終ベース電流LIbは、最終ベース期間LTb中の時間経過に伴ってその値が増加する波形となる。同図では、直線状に増加する場合を例示している。これに対して、上述した従来技術の図5においては、最終ベース電流LIbは予め定めた一定値である。図2は、本発明の実施の形態における最終ベース電流LIbの種々の通電波形を示す図である。同図の横軸は、図1の時刻t4を0msとした場合の時間経過t(ms)を示す。すなわち、最終ベース期間LTbの時間経過を示す。縦軸は、最終ベース電流値LIb(A)を示す。したがって、同図は、最終ベース電流LIbの通電波形を示すことになる。同図には、3つのパターンの波形L1〜L3が同時に描かれている。まず、実践で示す波形L1は、時間経過に伴い直線状に増加する場合であり、0msのときが30Aとなり50msのときが100Aとなっている。2つ目の波形L2は破線で描かれており、曲線状に増加する場合である。この曲線は、変化率(電流微分値dLIb/dt)が次第に大きくなる曲線である。すなわち、最終ベース期間LTbの後半期間(例えば同図では30ms以降の期間)において電流値が急上昇する波形である。そして、3つ目の波形L3は、一点鎖線で描かれており、ステップ状の波形である。0〜40msの期間中は電流値は30Aとなり、40〜50msの期間中は電流値は100Aとなっている。最終ベース電流LIbとして重要なことは、時間経過に伴い電流値が増加することである。最終ベース電流LIbは臨界値未満に設定され、20〜150A程度の範囲で設定される。
【0019】
最終ベース電流LIbの通電を上記のようにする理由は、以下のとおりである。図1の時刻t3において最終ピーク電流LIpの通電が終了した時点で溶滴が移行するので、ワイヤ先端には溶融球は形成されていない。最終ベース電流LIbの通電によって次第に溶融球は大きくなる。そして、最終ベース電流LIbは時間経過に伴いその値が大きくなるために、アーク力が比例して強くなる。このアーク力の反作用力によって、溶融球の底部から側部への持ち上げ力が強まることになる。この結果、スラグはこの持ち上げ力によって溶融球の底部ではなく側部に形成されるようになる。最終ベース電流LIbを期間の後半において増加させることによって、溶融球の形成の終盤にスラグを底部から側部へと異動させることができる。したがって、スラグが原因となってアークスタート性が悪くなることを改善することができる。従来技術のように一定値の最終ベース電流LIbを通電する場合には、スパッタの発生を抑制し、かつ、適度な大きさの溶融球を形成するためには、電流値を大きくすることができない。したがって、従来技術の場合には、持ち上げ力はあまり作用しないので、スラグが溶融球底部に形成されるケースも生じる。上記のことから、最終ベース電流LIbの波形及び最終ベース期間LTbは、以下のようにして設定される。溶融球の大きさが次のアークスタート性が良好になる適度な大きさになり、かつ、持ち上げ力によってスラグが側部に形成されるように、両値は実験によって設定される。両値は、溶接ワイヤの材質、直径等の溶接条件に応じて適正値になるように変化させることが望ましい。図3は、本実施の形態によって形成される溶融球の形状の一例を示す図である。溶接ワイヤ1の先端に形成される溶融球1aは従来技術のように略球形ではなく先端が鋭角になり側部に変形した形状であり、スラグ1bは側部に付着している。
【0020】
図4は、上述した本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の終了制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0021】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御による出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトルから構成される。溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生して溶接が行われる。
【0022】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して平滑し、溶接電圧検出信号Vdを出力する。溶接電圧設定回路VRは、定常溶接期間中は予め定めた定常溶接電圧設定値となり、アンチスティック期間中は予め定めたアンチスティック用溶接電圧設定値となる溶接電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の溶接電圧設定信号Vrと上記の溶接電圧検出信号Vdとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。V/Fコンバータ回路VFは、この電圧誤差増幅信号Evに比例した周波数の信号に変換して、パルス周期信号Tfsを出力する。したがって、このパルス周期信号Tfsは、パルス周期ごとに短時間Highレベルになる信号である。送給速度検出回路FDは、上記の送給モータWMからの回転速度信号を入力として、送給速度Fwに換算し、送給速度検出信号Fdとして出力する。回転速度の検出は、直流モータにあっては回転速度と比例関係にある電機子電圧を検出することによって行うことができる。また、回転速度に比例した電圧を発生するタコジェネレータを送給モータWMに取り付けることによっても、回転速度を検出することができる。さらに、エンコーダ付き送給モータWMの場合には、エンコーダからのパルス信号によって回転速度を検出することができる。送給停止判別回路SDは、上記の送給速度検出信号Fdを入力として、この送給速度検出信号Fdの値が予め定めた送給停止判別基準値Ft未満になったときはHighレベルになる送給停止判別信号Sdを出力する。ピーク期間回路TPSは、上記のパルス周期信号Tfsを入力として、この信号が短時間Highレベルに変化するごとに予め定めたピーク期間だけHighレベルになり、それ以降は次の短時間のHighレベルの信号が来るまではLowレベルになるピーク期間信号Tpsを出力する。このピーク期間信号Tpsは、ピーク期間中はHighレベルになり、ベース期間中はLowレベルになる信号である。最終ピーク電流判別回路PDは、このピーク期間信号Tps及び上記の送給停止判別信号Sdを入力として、送給停止判別信号SdがHighレベル(送給停止)に変化した時点からピーク期間信号TpsがLowレベルに変化した時点でHighレベルに変化する最終ピーク電流判別信号Pdを出力する。この最終ピーク電流判別信号Pdは、図1において、時刻t2に送給停止判別信号SdがHighレベルになってから、時刻t3において、ピーク期間信号TpsがLowレベルに変化した時点で、Highレベルに変化する信号である。すなわち、最終ピーク電流LIpの通電終了を判別してHighレベルになる信号である。期間設定回路MSは、この最終ピーク電流判別信号Pd及び上記のピーク期間信号Tpsを入力として、以下のような処理を行い期間設定信号Msを出力する。
(1)最終ピーク電流判別信号PdがLowレベル(最終ピーク電流の判別以前)のときは、ピーク期間信号TpsがHighレベルのときその値が1となり、Lowレベルのときその値が2となる期間設定信号Msを出力する。
(2)最終ピーク電流判別信号PdがHighレベル(最終ピーク電流の判別以降)のときは、その値が3となる期間設定信号Msを出力する。
したがって、図1において、この期間設定信号Msは、時刻t3以前のピーク期間Tp中は1となり、ベース期間Tb中は2となり、時刻t3以降は3となる。
【0023】
溶接開始回路STは、溶接開始指令のときはHighレベルになり、溶接終了指令のときはLowレベルになる溶接開始信号Stを出力する。最終ベース期間設定回路LTBRは、予め定めた最終ベース期間設定信号LTbrを出力する。起動回路ONは、上記の溶接開始信号St、上記の最終ピーク電流判別信号Pd及びこの最終ベース期間設定信号LTbrを入力として、溶接開始信号StがHighレベルになるとHighレベルに変化し、最終ピーク電流判別信号PdがHighレベルになった時点から最終ベース期間設定信号LTbrによって定まる期間が経過した後にLowレベルに変化する起動信号Onを出力する。
【0024】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。最終ベース電流設定回路LIBRは、上記の最終ピーク電流判別信号Pdを入力として、最終ピーク電流判別信号PdがHighレベルに変化した時点を経過時間の0秒として、図2で上述したような予め定めた波形関数に従って最終ベース電流設定信号LIbrを出力する。電流設定回路IRは、これらのピーク電流設定信号Ipr、ベース電流設定信号Ibr、最終ベース電流設定信号LIbr及び上記の期間設定信号Msを入力として、期間設定信号Ms=1のときはピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力し、Ms=2のときはベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力し、Ms=3のときは最終ベース電流設定信号LIbrを電流設定信号Irとして出力する。溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irとこの溶接電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、この電流誤差増幅信号Ei及び上記の起動信号Onを入力として、起動信号OnがHighレベルのときは電流誤差増幅信号Eiに基づいてパルス幅変調制御を行い、上記のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、起動信号OnがLowレベルのときは駆動信号Dvの出力を停止する。
【0025】
送給速度設定回路FRは、定常送給速度を設定するための送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Fr及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frによって定まる速度で送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力し、溶接開始信号StがLowレベルのときは送給を停止するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0026】
上記においては、送給速度を検出し、送給が略停止した時点から最初のピーク電流を最終ピーク電流LIpとして判別している。これ以外の最終ピーク電流LIpの判別方法として、以下のような方法もある。図1において、同図(A)に示す溶接開始信号StがLowレベルになった時点(時刻t1)から、予め定めたn会目のピーク電流を最終ピーク電流LIpとして判別する。nは正の整数であり、例えば3〜20の範囲で設定する。このnの設定は、送給モータの種類、溶接ワイヤの材質、直径、定常送給速度等の溶接条件に応じて適正値に設定する。さらに、別の判別方法として、図1において、同図(A)に示す溶接開始信号StがLowレベルになった時点(時刻t1)から所定期間経過した後のピーク電流を最終ピーク電流LIpとして判別する方法もある。この所定期間とは、送給モータが完成によって停止するまでの期間に相当する。したがって、この所定期間は、送給モータの種類、溶接ワイヤの材質、直径、定常送給速度等の溶接条件に応じて適正値に設定する。また、図1においては、時刻t2において送給が略停止した時点から最初のピーク電流を最終ピーク電流LIpとして判別しているが、最初のピーク電流ではなく所定数後のピーク電流を最終ピーク電流LIpとして判別しても良い。所定数としては、例えば、2〜5程度の範囲である。このようにすると、溶接終了時の母材とワイヤ先端との距離を所望値に制御することができる。ワークの形状、溶接姿勢等に応じてこの距離を適正化することによって、ロボットによって溶接トーチが移動したときにワイヤが突出して溶融池と溶着することを防止することができる。
【0027】
上述した実施の形態によれば、最終ベース電流を時間経過に伴って増加するように通電することによって、溶融球の大きさを適正化すると共に、スラグの付着位置を溶融球底部から側部にすることができる。このために、次のアークスタートにおいて、スラグが原因になって失敗することがなくなり、良好なアークスタート性を得ることができる。この結果として、アークスタート失敗に伴うやり直しを行う必要がなくなるので、生産効率が向上する。
【符号の説明】
【0028】
1 溶接ワイヤ
1a 溶融球
1b スラグ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FD 送給速度検出回路
Fd 送給速度検出信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Ft 送給停止判別基準値
Fw 送給速度
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
L1〜L3 波形
LIb 最終ベース電流
LIBR 最終ベース電流設定回路
LIbr 最終ベース電流設定信号
LIp 最終ピーク電流
LTb 最終ベース期間
LTBR 最終ベース期間設定回路
LTbr 最終ベース期間設定信号
MS 期間設定回路
Ms 期間設定信号
ON 起動回路
On 起動信号
PD 最終ピーク電流判別回路
Pd 最終ピーク電流判別信号
PM 電源主回路
SD 送給停止判別回路
Sd 送給停止判別信号
ST 溶接開始回路
St 溶接開始信号
Ta アンチスティック期間
Tb ベース期間
Tf パルス周期
Tfs パルス周期信号
Tp ピーク期間
TPS ピーク期間回路
Tps ピーク期間信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VF V/Fコンバータ回路
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WM 送給モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤに臨界値以上のピーク電流と臨海地未満のベース電流とを繰り返し通電して溶接するパルスアーク溶接方法にあって、溶接を終了する際に最終ピーク電流の通電を判別すると臨界値未満の範囲で予め定めた最終ベース電流を予め定めた最終ベース期間だけ通電して溶接を終了するパルスアーク溶接の終了制御方法において、
前記最終ベース電流は、前記最終ベース期間中の時間経過に伴ってその値が増加する電流である、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の終了制御方法。
【請求項2】
前記最終ベース電流は、増加率が次第に大きくなるように曲線状に増加する電流である、
ことを特徴とする請求項1記載のパルスアーク溶接の終了制御方法。
【請求項3】
前記最終ベース電流は、ステップ状に増加する電流である、
ことを特徴とする請求項1記載のパルスアーク溶接の終了制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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