説明

パルス幅拡張装置

【課題】
部品点数の増加を抑えて小型に形成可能なパルス幅拡張装置を提供する。
【解決手段】
入射したパルスレーザを分割する偏光ビームスプリッター1と、印加された電圧に応じて入射したパルスレーザを偏光する電気光学素子2a,2bと、前記電気光学素子に電圧を印加するとともにその電圧を制御することで、前記電気光学素子に入射したパルスレーザの偏光を制御する偏光制御手段3と、前記電気光学素子を通過したパルスレーザを反射し、前記偏光ビームスプリッターに入射させる複数のミラー4a,4b,4cを備え、パルスレーザを再度前記電気光学素子に入射させる光路を形成する光路形成手段4と、を含んで構成され、前記偏光ビームスプリッターにより分割されたパルスレーザを、前記光路を周回させて位相をずらし、この位相のずれたパルスレーザを重ね合わせることでパルス幅を拡張するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザのパルス幅を拡張するパルス幅拡張装置に関し、詳しくは、偏光ビームスプリッターにより分割されたパルスレーザ間の位相のずれを、偏光制御手段による電気光学素子への印加電圧の制御によって生じさせることにより、部品点数の増加を抑えて小型に形成可能なパルス幅拡張装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のパルス幅拡張装置として、入射されたパルスレーザを2つのパルスレーザに分岐する第1のビームスプリッターと、この第1のビームスプリッターで分岐された一方のパルスレーザが入射される遅延光学系と、この遅延光学系を通過した一方のパルスレーザおよび他方のパルスレーザを合成する第2のビームスプリッターとを有するものがあった(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなパルス幅拡張装置は、第1のビームスプリッターで分岐されたパルスレーザのうち、遅延光学系に入射して光路長を延長されたパルスレーザと他方のパルスレーザとを第2のビームスプリッターで合成することにより、位相のずれたパルスレーザを重ね合わせ、パルスレーザのパルス幅を拡張するものであった。
【0004】
また、従来の他のパルス幅拡張装置として、図8に示すように、レーザ発振器10から入射されたパルスレーザを反射して光路を形成する、対向して配置された複数の全反射ミラー21と、対向して配置されたそれぞれの全反射ミラー21間の光路の中間に配置された複数の部分透過ミラー22と、を備えたものがあった。
【0005】
このようなパルス幅拡張装置20に入射されたパルスレーザは、複数の部分透過ミラー22において、部分透過ミラー22を透過するパルスレーザと反射されるパルスレーザとに分割される。このようなパルスレーザの分割は、複数の部分透過ミラー22ごとに生じる。これらの分割された複数のパルスレーザは、分割が生じた部分透過ミラー22の位置に応じて光路長がそれぞれ異なるため、これらのパルスレーザの位相は異なったものとなる。したがって、このようなパルス幅拡張装置20から出力されるパルスレーザは、位相のずれたパルスレーザが重ね合わされたものとなり、パルスレーザのパルス幅は拡張して出力される。
【0006】
例えば、このようなパルス幅拡張装置20に、図9(a)に示すようなパルスレーザが入射された場合、出力されるパルスレーザは、図9(b)に示すように、時間的遅延が加えられた複数の位相の異なるパルスレーザが重ね合わされたものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−142524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図8に示すパルス幅拡張装置20においては、図9(b)に示すような、パルスレーザのパルス幅、複数の位相の異なるパルスレーザの数(すなわち重ね合わされるパルスレーザの数)、それらのパルスレーザ間の時間的遅延(位相のずれ)、及びそれぞれのパルスレーザのピークエネルギーは、対向して配置された全反射ミラー21間の距離や、全反射ミラー21及び部分透過ミラー22を配置する個数に応じて変化する。そのため、パルスレーザのパルス幅を拡張するために、全反射ミラー21及び部分透過ミラー22を配置する個数を増加させる必要が生じ、パルス幅拡張装置20の外形サイズが大きくなるおそれがあった。
【0009】
そこで、このような問題点に対処し、本発明が解決しようとする課題は、部品点数の増加を抑えて小型に形成可能なパルス幅拡張装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明によるパルス幅拡張装置は、入射したパルスレーザの偏光成分のうち、入射面に対して垂直な偏光成分を反射し、水平な偏光成分を通過させることによって、パルスレーザを分割する偏光ビームスプリッターと、前記偏光ビームスプリッターを通過して入射したパルスレーザを、印加された電圧に応じて偏光する電気光学素子と、前記電気光学素子に電圧を印加するとともにその電圧を制御することで、前記電気光学素子に入射したパルスレーザの偏光を制御する偏光制御手段と、前記電気光学素子を通過したパルスレーザを反射し、前記偏光ビームスプリッターに入射させる複数のミラーを備え、この偏光ビームスプリッターに入射したパルスレーザのうち、偏光ビームスプリッターに反射されたパルスレーザを再度前記電気光学素子に入射させる光路を形成する光路形成手段と、を含んで構成され、前記偏光ビームスプリッターにより分割されたパルスレーザを、前記光路を周回させて位相をずらし、この位相のずれたパルスレーザを重ね合わせることでパルス幅を拡張するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるパルス幅拡張装置によれば、偏光ビームスプリッターにより分割されたパルスレーザを、光路形成手段により形成された光路を周回させて位相をずらし、この位相のずれたパルスレーザを重ね合わせて出力することによりパルスレーザのパルス幅を拡張することができる。
【0012】
この際、重ね合わせられるパルスレーザの位相のずれは、偏光制御手段による電気光学素子への印加電圧の制御によって生じるので、パルスレーザのパルス幅を拡張するために部品点数を増加させる必要がない。したがって、パルス幅拡張装置の外形サイズを小型に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるパルス幅拡張装置の実施形態を示す概略図である。
【図2】レーザ発振器と前記パルス幅拡張装置の制御を示すブロック図である。
【図3】図2の制御信号を示すタイミングチャートである。
【図4】前記パルス幅拡張装置のポッケルスセルへの印加電圧をパルスレーザがポッケルスセルに入射するタイミングと関係づけて示すグラフであり、(a)は第1ポッケルスセルへの印加電圧、(b)は第2ポッケルスセルへの印加電圧、(c)はそれらの合計電圧を示すグラフである。
【図5】前記ポッケルスセルへ印加した合計電圧を示すグラフである。
【図6】図5に示す合計電圧を前記ポッケルスセルへ印加した際に、前記パルス幅拡張装置からの出力パルスを示すグラフであって、(a)は実際の出力パルス、(b)は(a)の出力パルスを位相の異なるパルスごとに示したグラフである。
【図7】本発明によるパルス幅拡張装置の他の実施形態を示す概略図である。
【図8】従来のパルス幅拡張装置の一例を示す概略図である。
【図9】パルスレーザのパルス形状を示すグラフであって、(a)は前記従来のパルス幅拡張装置への入力パルス、(b)は前記従来のパルス幅拡張装置からの出力パルスを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明によるパルス幅拡張装置の実施形態を示す図である。このパルス幅拡張装置は、入射したパルスレーザを分割して位相をずらし、この位相のずれたパルスレーザを重ね合わせることでパルス幅を拡張するもので、偏光ビームスプリッター1と、第1ポッケルスセル2aと、第2ポッケルスセル2bと、偏光制御手段3と、光路形成手段4とからなる。
【0015】
前記偏光ビームスプリッター1は、入射したパルスレーザの偏光成分のうち、入射面に対して垂直な偏光成分(以下「s偏光」という。)を反射し、水平な偏光成分(以下「p偏光」という。)を通過させるものであって、パルス幅拡張装置に入射したパルスレーザの光軸L上に設けられている。この偏光ビームスプリッター1として、図1に示すように、直角プリズムを2つ貼り合わせ、それらの接合面に誘電体多層膜や金属薄膜のコーティングを施したキューブ型の偏光ビームスプリッター1が使用されている。
【0016】
図1に示すように、偏光ビームスプリッター1のパルスレーザが通過する側の光軸L上には、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bが設けられている。この第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bは、印加された電圧に応じてパルスレーザを偏光する電気光学素子であって、図1の左側から第1ポッケルスセル2a、第2ポッケルスセル2bの順に配置されている。第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bは、電圧を印加されない状態ではパルスレーザを偏光せず、電圧を印加されると、印加された電圧に応じてパルスレーザを偏光する。この第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに所定の電圧を印加することにより、例えば、パルスレーザを180°(π)偏光させることができる。
【0017】
この第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bには、偏光制御手段3が電気的に接続されている。この偏光制御手段3は、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに電圧を印加するとともに印加する電圧を制御することで、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射したパルスレーザの偏光を制御するものであって、図1に示すように、第1電圧印加回路3aと、第2電圧印加回路3bと、パルスジェネレータ3cとから構成されている。
【0018】
前記第1電圧印加回路3aは、第1ポッケルスセル2aに電圧を印加するものであって、第1ポッケルスセル2aに電気的に接続されている。また、前記第2電圧印加回路3bは、第2ポッケルスセル2bに電圧を印加するものであって、第2ポッケルスセル2bに電気的に接続されている。
【0019】
そして、前記パルスジェネレータ3cは、前記第1電圧印加回路3a及び第2電圧印加回路3bに、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bそれぞれへの電圧の印加を開始させる、又は終了させる信号を送信するものであって、第1電圧印加回路3a及び第2電圧印加回路3bに電気的に接続されている。このパルスジェネレータ3cは、前記信号を第1電圧印加回路3a及び第2電圧印加回路3bにそれぞれ別個に送信可能であり、例えば、電圧の印加を開始させる信号を、第1電圧印加回路3a及び第2電圧印加回路3bにタイミングをずらして送信することができる。
【0020】
また、このパルスジェネレータ3cは、図2に示すように、パルス幅拡張装置に入射されるパルスレーザを出力するレーザ発振器6、及びレーザ発振器6を制御するために外部から信号を入力するコントロールパネル5に電気的に接続されており、コントロールパネル5から入力された信号に基づき、レーザ発振器6の発振動作と第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bへの電圧の印加のタイミングを同期させることができる。
【0021】
前記第2ポッケルスセル2bのパルスレーザが通過側の光軸L上には、光路形成手段4が設けられている。この光路形成手段4は、第2ポッケルスセル2bを通過したパルスレーザを反射し、前記偏光ビームスプリッター1に入射させ、この偏光ビームスプリッター1に入射したパルスレーザのうち、偏光ビームスプリッター1に反射されたパルスレーザを再度前記第1ポッケルスセル2aに入射させる光路を形成するものであって、図1に示すように、3つの全反射ミラー4a,4b,4cと前記偏光ビームスプリッター1から構成されている。
【0022】
前記3つの全反射ミラー4a,4b,4cは、いずれもパルスレーザの入射角φが45°になるように、光軸Lに対して傾いて配置されており、この3つの全反射ミラー4a,4b,4cと前記偏光ビームスプリッター1とを頂点とする矩形の光路を形成する位置に配置されている。すなわち、偏光ビームスプリッター1から全反射ミラー4aまでの光路長と全反射ミラー4bから全反射ミラー4cまでの光路長とが等しく、全反射ミラー4aから全反射ミラー4bまでの光路長と全反射ミラー4cから偏光ビームスプリッター1までの光路長とが等しい矩形の光路を形成するように3つの全反射ミラー4a,4b,4cが配置される。
【0023】
なお、光路形成手段4は3つの全反射ミラー4a,4b,4cと偏光ビームスプリッター1とからなるものに限られず、前記第2ポッケルスセル2bを通過したパルスレーザを反射し、偏光ビームスプリッター1に入射させ、この偏光ビームスプリッター1に入射したパルスレーザのうち、偏光ビームスプリッター1に反射されたパルスレーザを再度前記第1ポッケルスセル2aに入射させる光路を形成するものであればよく、例えば、多角形の光路を形成するように複数の全反射ミラーを備えたものであってもよい。
【0024】
次に、このように構成されたパルス幅拡張装置の使用態様について、図1〜図6を参照して説明する。
パルス幅拡張装置を使用する際、まず、図2に示すコントロールパネル5からパルスジェネレータ3cに、レーザ発振器6により出力されるパルスレーザや、パルス幅拡張装置により拡張され出力されるパルスレーザのパラメータが入力される。パラメータの入力は予め行われていてもよく、またレーザ発振器6の性能等により所定の値が予め定められていることから入力が不要な場合には、入力されなくてもよい。
【0025】
次に、コントロールパネル5からパルスジェネレータ3cに、レーザ発振器6のレーザ発振を開始させるための信号Sが入力される。パルスジェネレータ3cは、信号Sを入力されると、コントロールパネル5より入力されたパラメータに基づいてレーザ発振器6がレーザ発振を行うように、レーザ発振器6にレーザ発振を開始させる信号Sを入力する。
【0026】
レーザ発振器6は信号Sを入力されると、レーザ発振を開始し、前記パラメータやレーザ発振器6自体の性能に応じたパルス幅やピークエネルギーを有したパルスレーザを出力する。
【0027】
レーザ発振器6からパルスレーザの出力が開始されると、図1,2に示すように、出力されたパルスレーザは矢印Aの方向に進行し、パルス幅拡張装置の偏光ビームスプリッター1に入射し、入射面に対して垂直な偏光成分であるs偏光は反射され、入射面に対して平行な偏光成分であるp偏光のみがこの偏光ビームスプリッター1を通過し、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射する。
【0028】
パルスジェネレータ3cは、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射したパルスレーザを偏光するため、レーザ発振器6に信号Sを入力した後、第1電圧印加回路3aに信号Sを、第2電圧印加回路3bに信号Sを、それぞれ入力する。信号Sは、第1電圧印加回路3aに第1ポッケルスセル2aへの電圧の印加を開始させる信号であり、信号Sは、第2電圧印加回路3bに第2ポッケルスセル2bへの電圧の印加を開始させる信号である。第1電圧印加回路3a及び第2電圧印加回路3bは、信号S及び信号Sをそれぞれ入力されると、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに電圧の印加を開始する。
【0029】
ここで、信号Sと信号Sとは、図3に示すように、遅延時間Tだけずらして第1電圧印加回路3a及び第2電圧印加回路3bにそれぞれ入力される。この遅延時間Tは、前記光路形成手段4により形成された光路を、パルス幅拡張装置に入射したパルスレーザが一周するまでに要する時間に基づいて決定される。例えば、前記光路形成手段4により形成された光路が長いほど、遅延時間Tは長くなる。
【0030】
図4(a)に示すように、第1ポッケルスセル2aに印加される電圧は、パルス幅拡張装置に入射したパルスレーザが1回目に第1ポッケルスセル2aに入射するときに、入射したパルスレーザを180°(π)偏光させる電圧、すなわち第1ポッケルスセル2aがλ/2波長板として機能する電圧(以下「λ/2電圧」という。)とされ、以後λ/2電圧で一定とされる。もしくは、レーザ発振器6から次のパルスが入力される前に一度電圧の印加をやめ、改めてλ/2電圧を印加することとしてもよい。
【0031】
図4(b)に示すように、第2ポッケルスセル2bに印加される電圧は、信号Sが信号Sより遅延時間Tだけずれて入力されることにより、第1ポッケルスセル2aに印加される電圧より遅延時間Tだけずれて印加を開始される。
したがって、第2ポッケルスセル2bに印加される電圧は、パルス幅拡張装置に入射したパルスレーザが1回目に第2ポッケルスセル2bに入射するときには印加されておらず、パルスレーザが光路形成手段4により形成された光路をさらに一周して2回目に第2ポッケルスセル2bに入射するときに、0kVから前記λ/2電圧までの間の所定の値の電圧とされ、以後徐々に低い電圧とされる。そして、レーザ発振器6から次のパルスが入力された際には、改めて同様の電圧制御が行われる。
【0032】
このとき、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bには、それぞれ反対方向に電圧が印加される。したがって、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに印加される合計電圧は、図4(c)に示すように、第1ポッケルスセル2aに印加された電圧から第2ポッケルスセル2bに印加された電圧を引いた電圧となる。すなわち、前記合計電圧は、パルス幅拡張装置に入射したパルスレーザが1回目に第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射するときにはλ/2電圧であり、パルスレーザが光路形成手段4により形成された光路をさらに一周して2回目に第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射するときに、λ/2電圧から第2ポッケルスセル2bに印加された0kVからλ/2電圧までの間の所定の値の電圧を引いた値の電圧、以後第2ポッケルスセル2bに印加された電圧の低下に合わせて徐々に電圧が上昇し、λ/2電圧に近づいていく。
【0033】
このように、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに印加される電圧は、パルスレーザが第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射するごとに変化し、これに応じて入射したパルスレーザの偏光の度合いは、パルスレーザが第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射するごとに変化する。
【0034】
レーザ発振器6から出力されたパルスレーザのうち、偏光ビームスプリッター1を通過して1回目に第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射したパルスレーザ(p偏光)は、図4に示すように、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに印加された合計電圧がλ/2電圧であるため、180°(π)偏光される。このとき、ほとんどのp偏光はs偏光に偏光されるが、ポッケルスセルの性能に応じて、p偏光の一部はs偏光に偏光されずに残る。すなわち、パルスレーザは第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bを通過した後、p偏光とs偏光とが混在した状態となる。
【0035】
このパルスレーザは、第2ポッケルスセル2bを通過した後、図1に示すように、3つの全反射ミラー4a,4b,4cに反射され、光路形成手段4により形成された光路を通って再度偏光ビームスプリッター1に入射し、p偏光は偏光ビームスプリッター1を通過して出力され、s偏光は偏光ビームスプリッター1に反射されて再度第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射する。
【0036】
再度第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射したs偏光は、図4に示す2回目に第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bに入射した際の、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bへの合計電圧に応じて、少なくとも一部がp偏光に偏光される。従って、パルスレーザは第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bを通過した後、p偏光とs偏光とが混在した状態となる。
【0037】
このパルスレーザは、第2ポッケルスセル2bを通過した後、上記の過程と同じ過程をたどり、その一部であるp偏光が偏光ビームスプリッター1から出力される。パルスレーザは、以下同様の過程をたどり、偏光ビームスプリッター1から出力される。
【0038】
光路形成手段4により形成される光路の光路長が4mであり、第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bとして前記λ/2電圧が−6.4kVであるポッケルスセルを使用したこのパルス幅拡張装置に、パルスエネルギーが100mJでパルス幅(半値全幅)が20nsのパルスレーザを入射させ、偏光制御手段3による第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bへの合計電圧の制御を図5に示すように行った場合、出力されるパルスレーザのパルス幅(半値全幅)は、図6(a)に示すように、約450nsに拡張される。
【0039】
この出力パルスは、図6(b)に示すように、位相のずれた複数のパルスレーザが重ね合わされて形成されたものであり、位相のずれたそれぞれのパルスレーザは、光路形成手段4により形成される光路の光路長が4mの場合、約13nsずつ位相がずれており、これは前記光路をパルスレーザが周回するのに要する時間に等しい。
【0040】
図7は、本発明によるパルス幅拡張装置の他の実施形態を示す概略図である。この実施形態は、前記偏光ビームスプリッター1として、上記キューブ型の偏光ビームスプリッター1にかえて、ガラス製やプラスチック製のプレート型(平面型)偏光ビームスプリッターを使用したものである。この場合、図7に示すように、2枚のプレート型偏光ビームスプリッター1a,1bをパルスレーザの光軸L上に互いに逆方向に傾けて配置し、それぞれパルスレーザの入射角θが、p偏光の反射率が0になるブリュースター角となるように配置するのが好ましい。このようにプレート型偏光ビームスプリッター1a,1bを配置することで、パルスレーザがプレート型偏光ビームスプリッター1aに入射して屈折することにより、プレート型偏光ビームスプリッター1aの前後で光軸Lの位置がずれることを防止することができる。したがって、パルス幅拡張装置の構成部材の位置決めが容易になり、パルス幅拡張装置のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0041】
以上の通り、本発明によるパルス幅拡張装置によれば、重ね合わせられるパルスレーザの位相のずれは、偏光制御手段によるポッケルスセルへの印加電圧の制御によって生じるため、パルスレーザのパルス幅を拡張するために、部品点数を増加させる必要がない。したがって、パルス幅拡張装置の外形サイズを小型に形成することができる。また、部品点数が少ないため、使用の際やメンテナンスの際に行う部品の調整、特に、パルスレーザの光路上に配置される偏光ビームスプリッター1、第1ポッケルスセル2a、第2ポッケルスセル2b、及び全反射ミラー4a,4b,4cの位置や角度の調整が容易になる。
【0042】
さらに、パルス幅拡張装置に入射されるパルスレーザの波長や、パルスレーザを発振するレーザ発振器6の仕様が変更された場合であっても、偏光ビームスプリッター1や第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bを適当な仕様のものに変更することで対応することができる。
【0043】
またさらに、光路形成手段4により形成される光路の光路長や、偏光制御手段3による第1ポッケルスセル2a及び第2ポッケルスセル2bへの印加電圧の制御を偏光することで、出力されるパルスレーザのパルス形状を任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…キューブ型偏光ビームスプリッター
1a,1b…プレート型偏光ビームスプリッター
2a…第1ポッケルスセル
2b…第2ポッケルスセル
3…偏光制御手段
3a…第1電圧印加回路
3b…第2電圧印加回路
3c…パルスジェネレータ
4…光路形成手段
4a,4b,4c…全反射ミラー
5…コントロールパネル
6…レーザ発振器
A…パルスレーザの進行方向を示す矢印
L…光軸
T…遅延時間
θ…プレート型偏光ビームスプリッターへの入射角
φ…全反射ミラーへの入射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射したパルスレーザの偏光成分のうち、入射面に対して垂直な偏光成分を反射し、水平な偏光成分を通過させることによって、パルスレーザを分割する偏光ビームスプリッターと、
前記偏光ビームスプリッターを通過して入射したパルスレーザを、印加された電圧に応じて偏光する電気光学素子と、
前記電気光学素子に電圧を印加するとともにその電圧を制御することで、前記電気光学素子に入射したパルスレーザの偏光を制御する偏光制御手段と、
前記電気光学素子を通過したパルスレーザを反射し、前記偏光ビームスプリッターに入射させる複数のミラーを備え、この偏光ビームスプリッターに入射したパルスレーザのうち、偏光ビームスプリッターに反射されたパルスレーザを再度前記電気光学素子に入射させる光路を形成する光路形成手段と、
を含んで構成され、前記偏光ビームスプリッターにより分割されたパルスレーザを、前記光路を周回させて位相をずらし、この位相のずれたパルスレーザを重ね合わせることでパルス幅を拡張することを特徴とするパルス幅拡張装置。
【請求項2】
前記偏光制御手段は、前記電気光学素子に印加する電圧を、パルスレーザが前記電気光学素子に入射するごとに変化させることを特徴とする請求項1に記載のパルス幅拡張装置。
【請求項3】
前記電気光学素子は、ポッケルスセルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のパルス幅拡張装置。
【請求項4】
前記ポッケルスセルは、前記偏光ビームスプリッターを通過したパルスレーザの光軸上に2つ設けられたことを特徴とする請求項3に記載のパルス幅拡張装置。
【請求項5】
前記2つのポッケルスセルは、それぞれ反対方向に電圧を印加されることを特徴とする請求項4に記載のパルス幅拡張装置。
【請求項6】
前記光路形成手段は、3つのミラーを備え、この3つのミラーと前記偏光ビームスプリッターとを頂点とする矩形の光路を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のパルス幅拡張装置。
【請求項7】
前記偏光ビームスプリッターは、キューブ型偏光ビームスプリッターであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のパルス幅拡張装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−40980(P2013−40980A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175826(P2011−175826)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】