説明

パルス電源回路

【課題】残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができ、安定したパルス出力を得ることができるパルス電源回路を提供する。
【解決手段】直流電源部12の両端に直列接続されたトランス14及びスイッチSWを有し、スイッチSWのオン動作に伴うトランス14への誘導エネルギーの蓄積と、スイッチSWのオフ動作に伴うトランス14の二次側での高電圧パルスの発生とを1つのサイクルとしたとき、前記サイクルを繰り返して複数の高電圧パルスを連続して出力する第1パルス電源回路10Aであって、トランス14の一次側に流れる電流I1のピーク値Ip1が一定となるように制御する。具体的には、トランス14の一次側に流れる電流I1を検知する電流検知手段22と、該電流検知手段22にて検知された電流I1の値がピーク値Ip1となった段階でスイッチSWをオフにする第3回路24cとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な回路構成にて、低い電圧の直流電源部からトランスに蓄積させた電磁エネルギーを開放することにより、極めて短い立ち上がり時間と極めて狭いパルス幅とを有する高電圧パルスを供給できるパルス電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、ワークを放電加工する際に、例えば微細な加工等を行う場合は、高電圧の極めて幅の狭いパルスを供給できる高電圧パルス発生回路が必要となる。また、高電圧パルスの放電によるプラズマにより、脱臭、殺菌、有害ガスの分解等を行う技術が適用されるようになってきたが、このプラズマを発生させるためにも、高電圧の極めて幅の狭いパルスを供給できる高電圧パルス発生回路が必要となる。
【0003】
そこで、従来においては、例えば特許文献1に示すような高電圧パルス発生回路を用いたパルス電源回路が提案されている。
【0004】
従来のパルス電源回路によれば、高電圧が印加される半導体スイッチを複数個使用することなく、簡単な回路構成で、急峻な立ち上がり時間と極めて狭いパルス幅を有する高電圧を供給することができる。
【0005】
そして、従来のパルス電源回路では、入力電圧に高価な直流安定化電源を使用して、電圧を一定に保持し、且つ、励磁インダクタンスへの充電時間を一定に制御することにより、安定したパルス出力を得ていた。
【0006】
【特許文献1】特許第3811681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のパルス電源回路は、高価な直流安定化電源を使用する必要があった。その理由は、直流電圧が変動すると、充電エネルギーも変動してしまうからである。
【0008】
また、励磁インダクタンスに残留電流があると、次回の誘導エネルギーが1つの前の誘導エネルギーよりも増加するという現象がある。この現象が連続的に発生すると、パルス電源回路が過電流保護により停止したり、内部素子が過電流によって破壊するおそれがある。これは、パルス電源回路の稼働率の低下、信頼性の低下につながる。
【0009】
ここで、励磁インダクタンスへの残留電流による影響を図8〜図10を参照しながら説明する。
【0010】
従来例に係るパルス電源回路200は、図8に示すように、直流電源部202の両端に直列接続されたトランス204及びスイッチ206と、スイッチのON/OFFを制御する制御回路208とを有する。トランス204の二次側には、電流I2を一方向に流すためのダイオード210が接続されている。また、トランス204の二次側には、負荷212が接続されている。
【0011】
そして、このパルス電源回路200は、スイッチ206のオン動作に伴うトランス204への誘導エネルギーの蓄積と、スイッチ206のオフ動作に伴うトランス204の二次側での高電圧の発生とが行われるようになっている。
【0012】
通常は、図9に示すように、時点t0において、スイッチ206をオンにすると、トランス204に直流電源部202の電圧Eとほぼ同じ電圧が印加され、トランス204の一次インダクタンスをL1としたとき、トランス204の一次巻線214に流れる電流I1は勾配(E/L1)で時間の経過に伴って直線状に増加し、トランス204への誘導エネルギーの蓄積が行われる。
【0013】
このとき、スイッチ206がオンとなっている期間T1においては、二次側にダイオード210が接続されて電流の流れが遮断されていることから、負荷212へは0Vが印加されたままとなっている。
【0014】
その後、時点t1において、スイッチ206をオフにすると、負荷212への高電圧パルス電圧の供給が開始される。すなわち、スイッチ206をオフにすることによってトランス204にパルス状の負極性の誘導起電力Vp1が発生し、これに伴って、二次側の電流I2がダイオード210の順方向に急激に流れ、負荷212には前記誘導起電力に応じたパルス状の負極性の高電圧Vp2が印加されることになる。
【0015】
高電圧Vp2のピークの時点t2を過ぎると、負荷212においてエネルギーが消費されることから、二次側の電流I2は徐々に減衰し、スイッチ206が予め決められたオフ期間T2が経過する前の時点t3で基準レベル(0(A))になる。
【0016】
そして、図10に示すように、何らかの原因で、二次側の電流I2の減衰が進まず、予め決められたオフ期間T2が経過しても基準レベル(0(A))にならず、残留電流Δiが残ってしまった場合は、次のスイッチ206がオンする期間T1の開始時点において、残留電流Δiに応じた電流が加わった状態で誘導エネルギーの蓄積が開始されてしまい、前回の誘導エネルギーよりも大きな誘導エネルギーが蓄積されてしまうことになる。
【0017】
一方、直流電源部202として、整流回路等の安価な直流電源を用いた場合においては、誘導エネルギーの蓄積期間にトランス204の一次巻線214に印加される電圧が変動することになるが、スイッチ206をオンにしている期間T1を一定にした場合、期間T1の経過時点での一次側の電流I1の値も変動することになり、それに応じて誘導エネルギーも変動することになる。従って、従来においては、高価な直流安定化電源を使用するしかなかった。
【0018】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができ、安定したパルス出力を得ることができ、稼働率の向上、信頼性の向上を図ることができ、しかも、安価な直流電源を使用することができるパルス電源回路を提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明の他の目的は、プラズマCVD、プラズマPVD、プラズマエッチング、プラズマイオン注入、プラズマ表面改質、プラズマ放電加工等において、真空から大気圧の環境下で安定したパルスプラズマを得ることができると共に、出力電流のパルス幅をワークに応じて任意に制御することができ、上記各プロセスにおけるワークの更なる品質向上を図ることができるパルス電源回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係るパルス電源回路は、直流電源部の両端に直列接続されたトランス及びスイッチを有し、前記スイッチのオン動作に伴う前記トランスへの誘導エネルギーの蓄積と、前記スイッチのオフ動作に伴う前記トランスの二次側での高電圧パルスの発生とを1つのサイクルとしたとき、前記サイクルを繰り返して複数の前記高電圧パルスを連続して出力するパルス電源回路であって、複数のサイクルにわたる誘導エネルギーの累積的蓄積を回避するように、前記トランスの一次側に流れる電流を制御する電流制御回路を有することを特徴とする。
【0021】
これにより、安価な直流電源を使用しても誘導エネルギーの変動がなく、しかも、残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができ、安定したパルス出力を得ることができる。電源変動や残留エネルギー等の影響を受けにくくなるため、このパルス電源回路を用いて加工を行ったワークの品質も向上させることができる。また、過電流故障を回避することができるため、設備の稼働率の向上を図ることができる。
【0022】
そして、本発明において、前記電流制御回路は、前記トランスの一次側に流れる電流のピーク値が一定となるように制御するようにしてもよい。
【0023】
この場合、前記トランスの一次側に流れる電流を検知する電流検知手段と、前記電流検知手段にて検知された電流値が前記ピーク値となった段階で前記スイッチをオフにする制御手段とを有するようにしてもよい。前記電流検知手段は、非接触型の直流電流計を使用するようにしてもよい。
【0024】
また、本発明において、前記トランスの二次側に電流を一方向に流すための整流回路が接続され、前記トランスの二次側の両極間であって、且つ、前記整流回路の接続位置よりも前記トランス寄りの位置に接続された第2スイッチと、前記スイッチのオフ時点から一定時間経過後に、前記第2スイッチをオンにするスイッチング制御手段とを有するようにしてもよい。
【0025】
これにより、プラズマを使ってワークを処理する場合、例えばプラズマCVD、プラズマPVD、プラズマエッチング、プラズマイオン注入、プラズマ表面改質、プラズマ放電加工等において、安定したパルス出力、すなわち、パルスプラズマを得ることができると共に、出力電流のパルス幅をワークに応じて任意に制御することができ、ワークの更なる品質向上を図ることができる。
【0026】
また、本発明において、前記トランスの二次側に電流を一方向に流すための整流回路が接続され、前記トランスの一次側の両極間であって、且つ、前記スイッチの接続位置よりも前記トランス寄りの位置に接続された第2スイッチと、前記スイッチのオフ時点から一定時間経過後に、前記第2スイッチをオンにするスイッチング制御手段とを有するようにしてもよい。
【0027】
また、本発明において、前記トランスの二次側に電流を一方向に流すための整流回路が接続され、前記電流制御回路は、前記トランスの二次側に、二次巻線とは別に、前記トランスの一次側に対して加極性となるように巻かれた巻線と、前記巻線に直列に接続された第2スイッチと、前記スイッチのオフの時点から一定時間経過後に、前記第2スイッチをオンにするスイッチング制御手段とを有するようにしてもよい。
【0028】
また、本発明において、前記第2スイッチのオン時の電圧を前記整流回路の順方向電圧よりも小さく設定することが好ましい。なお、前記第2スイッチは、半導体スイッチと該半導体スイッチに対して順方向に接続された第2整流回路とを有する直列回路で構成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明に係るパルス電源回路によれば、安価な直流電源を使用しても誘導エネルギーの変動がなく、しかも、残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができ、安定したパルス出力を得ることができ、稼働率の向上、信頼性の向上を図ることができる。また、このパルス電源回路を用いて加工を行ったワークの品質も向上させることができる。
【0030】
また、本発明に係るパルス電源回路によれば、プラズマを使ってワークを処理する場合、例えばプラズマCVD、プラズマPVD、プラズマエッチング、プラズマイオン注入、プラズマ表面改質、プラズマ放電加工等において、安定したパルス出力、すなわち、パルスプラズマを得ることができると共に、出力電流のパルス幅をワークに応じて任意に制御することができ、ワークの更なる品質向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係るパルス電源回路の実施の形態例を、図1〜図7を参照しながら説明する。
【0032】
先ず、第1の実施の形態に係るパルス電源回路(以下、第1パルス電源回路10Aと記す)は、図1に示すように、直流電源部12の両端に直列接続されたトランス14及びスイッチSWと、スイッチSWのON/OFFを制御する制御回路16とを有する。トランス14の二次側には、電流I2を一方向に流すための整流回路18が接続されている。また、トランス14の二次側には、負荷20が接続されている。
【0033】
この第1パルス電源回路10Aは、1つサイクルで、スイッチSWのオン動作に伴うトランス14への誘導エネルギーの蓄積と、スイッチSWのオフ動作に伴うトランス14の二次側での高電圧の発生とが行われるようになっており、さらに、前記サイクルが繰り返し行われるようになっている。サイクル周期は例えば100μsec(10kHz)である。
【0034】
そして、この第1パルス電源回路10Aは、トランス14の一次側に流れる電流I1を検知する電流検知手段22を有する。
【0035】
また、制御回路16は、例えば起動信号(図示せず)の入力に基づいてスイッチSWをオンにする第1回路24aと、スイッチSWのオフ時点から予め決められたオフ時間Toffの経過時点でスイッチSWをオンにする第2回路24bと、電流検知手段22にて検知された電流I1の値が予め決められたピーク値Ip1となった段階でスイッチSWをオフにする第3回路24cとを有する。第1回路24a〜第3回路24cからのオン及びオフの制御信号は、制御回路16からスイッチング制御信号Scとして出力され、スイッチSWに供給されるようになっている。
【0036】
電流検知手段22としては、トランス14の一次側に流れる電流I1を検知することができるものであれば手段は問わないが、例えばDCCT(直流電流トランス)等で構成された非接触型の直流電流計が好ましい。
【0037】
つまり、電流検知手段22と第3回路24cは、トランス14の一次側に流れる電流I1のピーク値Ip1が一定となるように制御する電流制御回路を構成する。
【0038】
次に、第1パルス電源回路10Aの回路動作について図2及び図3を参照しながら説明する。
【0039】
先ず、サイクル1の開始時点t0において、例えば起動信号の入力に基づいて、スイッチSWがオンになると、トランス14に直流電源部12の電圧Eとほぼ同じ電圧が印加され、トランス14の一次インダクタンスをL1としたとき、トランス14の一次巻線26に流れる電流I1は勾配(E/L1)で時間の経過に伴って直線状に増加し、トランス14への誘導エネルギーの蓄積が行われる。
【0040】
このとき、スイッチSWがオンとなっている期間(オン期間T1)においては、二次側に整流回路18が接続されて電流の流れが遮断されていることから、負荷へは0Vが印加されたままとなっている。
【0041】
その後、一次側の電流I1の値が予め決められたピーク値Ip1となった時点t1において、スイッチSWがオフになると、負荷20への高電圧パルス電圧の供給が開始される。ここで、直流電源部12の電圧Eを100(V)、通常のオン期間T1を20(μsec)、トランス14の一次インダクタンスL1を20(μH)としたとき、ピーク値Ip1は、
Ip1=E×T1/L1
=100(V)×20(μsec)/20(μH)
=100(A)
となる。
【0042】
そして、スイッチSWがオフになることによってトランス14にパルス状の負極性の誘導起電力Vp1(例えば−数100(V)〜−4(kV))が発生し、これに伴って、二次側の電流I2が整流回路18の順方向に急激に流れ、負荷20には前記誘導起電力に応じたパルス状の負極性の高電圧Vp2(例えば数〜20(kV))が印加されることになる。
【0043】
なお、二次側の電流I2のピーク値Ip2は、一次巻線26と二次巻線28の巻線比1:Nを1:5とし、スイッチングロスによる減衰分αを考慮したとき、
Ip2=(Ip1/N)−α
=(100A/5)−2
=18A
となる。なお、単に巻線比というときは、巻線比Nと記す。
【0044】
その後、高電圧Vp2のピークの時点t2を過ぎると、負荷20においてエネルギーが消費されることから、二次側の電流I2は徐々に減衰し、スイッチSWが予め決められたオフ期間T2が経過する前の時点t3で基準レベル(0(A))になる。
【0045】
オフ期間T2が経過した時点でサイクル2が開始され、上述したサイクル1と同様の動作が繰り返される。
【0046】
そして、図3に示すように、何らかの原因で、二次側の電流I2の減衰が進まず、予め決められたオフ期間T2が経過しても基準レベル(0A)にならず、残留電流Δiが残ってしまった場合は、次のスイッチSWがオンする期間T1の開始時点において、残留電流Δiに応じた電流が加わった状態で誘導エネルギーの蓄積が開始されることになる。
【0047】
しかし、この第1パルス電源回路10Aでは、一次側の電流I1の値がピーク値Ip1になった時点でスイッチSWをオフにしているため、スイッチSWのオン期間T1において蓄積される誘導エネルギーが前回の誘導エネルギーよりも大きくなるということが回避される。
【0048】
このように、第1パルス電源回路10Aは、トランス14の一次側に流れる電流I1を検知する電流検知手段22と、該電流検知手段22にて検知された電流I1の値がピーク値Ip1となった段階でスイッチSWをオフにする第3回路24cとを有するようにしたので、安価な直流電源を使用しても誘導エネルギーの変動がなく、しかも、残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができ、安定したパルス出力を得ることができ、稼働率の向上、信頼性の向上を図ることができる。もちろん、この第1パルス電源回路10Aを用いて加工を行ったワークの品質も向上させることができる。
【0049】
次に、第2の実施の形態に係るパルス電源回路(以下、第2パルス電源回路10Bを記す)について図4及び図5を参照しながら説明する。
【0050】
この第2パルス電源回路10Bは、図4に示すように、上述した第1パルス電源回路10Aと同様に、直流電源部12の両端に直列接続されたトランス14及び第1スイッチSW1と、第1スイッチSW1のON/OFFを制御する制御回路16と、トランス14の一次側に流れる電流I1を検知する電流検知手段22とを有する。トランス14の二次側には、電流I2を一方向に流すための第1整流回路30が接続されている。
【0051】
そして、この第2パルス電源回路10Bは、トランス14の二次側の両極間であって、且つ、第1整流回路30の接続位置よりもトランス14寄りの位置に第2スイッチSW2が接続されている。第2スイッチSW2は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:以下、バイポーラトランジスタ32と記す)と該バイポーラトランジスタ32に対して順方向に接続された第2整流回路34とを有する直列回路36である。具体的には、バイポーラトランジスタ32のコレクタが、トランス14の二次巻線28のうち、負の極性となる端子に接続され、バイポーラトランジスタ32のエミッタと、トランス14の二次巻線28のうち、正の極性となる端子との間に第2整流回路34が接続されている。第2整流回路34を1以上のダイオードを直列に接続して構成する場合は、ダイオードのカソードが二次巻線28の正の極性となる端子に接続され、ダイオードのアノードがバイポーラトランジスタ32のエミッタに接続される。また、第2スイッチSW2が高い電圧に耐えられるように、複数のバイポーラトランジスタ32を直列に接続することも好ましく採用することができる。
【0052】
さらに、この第2パルス電源回路10Bでは、第2スイッチSW2の両端電圧VF3であって、特に、第2スイッチSW2のオン時の電圧(バイポーラトランジスタ32がオンとなっているときの直列回路36の順方向電圧:以下、両端電圧VF3(オン時電圧)と記す)が、第1整流回路30の両端電圧VF2であって、特に、第1整流回路30の順方向電圧(以下、両端電圧VF2(順方向電圧)と記す)よりも小さく設定されている(両端電圧VF3(オン時電圧)<VF2(順方向電圧))。第1整流回路30と直列回路36に順方向に例えば10Aの電流を流したとき、第1整流回路30の両端電圧VF2(順方向電圧)は20V程度、直列回路36の両端電圧VF3(オン時電圧)は5V程度とされる。
【0053】
直列回路36の両端電圧VF3(オン時電圧)を第1整流回路30の両端電圧VF2(順方向電圧)よりも小さく設定する方法としては、例えば第1整流回路30が複数のダイオードを直列接続して構成される場合、直列接続されるダイオードの数を調整して、両端電圧VF3(オン時電圧)<両端電圧VF2(順方向電圧)としてもよい。
【0054】
なお、図4の例では、第1整流回路30を二次巻線28の負の極性となる端子と負荷20との間に接続しているが、その他、第1整流回路30を二次巻線28の正の極性となる端子と負荷20との間に接続するようにしてもよい。
【0055】
さらに、この第2パルス電源回路10Bは、制御回路16内に、上述した第1パルス電源回路10Aと同様の第1回路24a〜第3回路24cと、第1スイッチSW1のオフ時点から予め設定された任意の時間T3経過後に、第2スイッチSW2をオンにする第11回路38aと、第1スイッチSW1のオン時点にて第2スイッチSW2をオフにする第12回路38bとが組み込まれている。任意の時間T3は、加工するワークに合った条件(出力電流のパルス幅)を予め見つけておき、第11回路38aに組み込まれた例えば遅延回路の遅延量等を前記条件に従って決定することによって設定することができる。
【0056】
第11回路38a及び第12回路38bからのオン及びオフの制御信号は、制御回路16から第2スイッチング制御信号Sc2として出力されて、第2スイッチSW2(この場合、バイポーラトランジスタ32のゲート)に供給されるようになっている。
【0057】
次に、第2パルス電源回路10Bの回路動作について図5を参照しながら説明する。
【0058】
先ず、サイクル1の開始時点t0において、例えば起動信号の入力に基づいて、第1スイッチSW1がオンになると、トランス14に直流電源部12の電圧Eとほぼ同じ電圧が印加され、トランス14の一次インダクタンスをL1としたとき、トランス14の一次巻線26に流れる電流I1は勾配(E/L1)で時間の経過に伴って直線状に増加し、トランス14への誘導エネルギーの蓄積が行われる。このとき、第2スイッチSW2を構成する直列回路36の両端電圧VF3も電圧Eに巻線比Nを乗算した電圧(例えば500(V))となる。
【0059】
第1スイッチSW1のオン時点t0から一定期間(オン期間T1)、例えば一次側の電流I1の値が規定のピーク値Ip1となるまでの期間(例えば20μsec)が経過した時点t1において、第1スイッチSW1がオフになると、負荷20への高電圧パルス電圧の供給が開始される。
【0060】
第1スイッチSW1がオフになることによって、トランス14にパルス状の負極性の誘導起電力Vp1が発生し、これに伴って、二次側の電流I2がダイオードの順方向に急激に流れ、負荷20には前記誘導起電力に応じたパルス状の負極性の高電圧Vp2が印加されることになる。このとき、第2スイッチSW2を構成する直列回路の両端電圧も高電圧Vp2となる。
【0061】
その後、高電圧Vp2のピークの時点t2を過ぎると、負荷20においてエネルギーが消費されることから、二次側の電流I2は徐々に減衰する。そして、第1スイッチSW1のオフ時点t1から一定時間、例えばパルス状の負極性の高電圧Vp2が出力されて、出力電流I2が流れている期間で任意の時間T3(例えば1μsec)が経過した時点t3において、第2スイッチSW2がオンとされる。
【0062】
第2スイッチSW2がオンとなることによって、二次側の電流I2は、第1整流回路30よりも低抵抗の第2スイッチSW2を通じて流れることになる。すなわち、二次側の電流I2は、負荷20を経由することなく、第2スイッチSW2→トランス14の二次巻線28→第2スイッチSW2という短い経路を電流I3として流れるようになり、負荷20を経由する場合よりも、エネルギー減衰が小さくなる。従って、励磁インダクタンスに残留電流が生じるおそれがあるが、電流検知手段22と第3回路24cで、トランス14の一次側に流れる電流I1のピーク値Ip1が一定となるように制御することから、残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができる。
【0063】
このように、第2パルス電源回路10Bは、トランス14の二次側の両極間であって、且つ、第1整流回路30の接続位置よりもトランス14寄りの位置に第2スイッチSW2を接続し、第1スイッチSW1のオフ時点から任意の時間T3経過後に、第2スイッチSW2をオンにするようにしたので、プラズマを使ってワークを処理する場合、例えばプラズマCVD、プラズマPVD、プラズマエッチング、プラズマイオン注入、プラズマ表面改質、プラズマ放電加工等において、出力電流のパルス幅(=時間T3)をワークに応じて任意に制御することができ、ワークの更なる品質向上を図ることができる。また、第1パルス電源回路10Aと同様に、誘導エネルギーに変動があったとしても、残留電流の発生をなくして安定したパルス出力を得ることができ、稼働率の向上、信頼性の向上を図ることができ、しかも、安価な直流電源を使用することができる。
【0064】
次に、第3の実施の形態に係るパルス電源回路(以下、第3パルス電源回路10Cと記す)について図6を参照しながら説明する。
【0065】
この第3パルス電源回路10Cは、図6に示すように、上述した第2パルス電源回路10Bとほぼ同様の構成を有するが、第2スイッチSW2を、トランス14の一次側の両極間であって、且つ、第1スイッチSW1の接続位置よりもトランス14寄りの位置に接続した点で異なる。
【0066】
この場合も、第2スイッチSW2の両端電圧VF3(オン時電圧)が、第1整流回路30の両端電圧VF2(順方向電圧)よりも小さく設定されている(両端電圧VF3(オン時電圧)<VF2(順方向電圧))。
【0067】
第2スイッチSW2がオンになると、一次側の電流I1は、第2スイッチSW2→トランス14の一次巻線26→第2スイッチSW2という短い経路で電流I3として流れるようになる。この場合も、エネルギー減衰が小さく、励磁インダクタンスに残留電流が生じるおそれがあるが、電流検知手段22と第3回路24cで、トランス14の一次側に流れる電流I1のピーク値Ip1が一定となるように制御することから、残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができる。
【0068】
この第3パルス電源回路10Cにおいても、プラズマを使ってワークを処理する場合、例えばプラズマCVD、プラズマPVD、プラズマエッチング、プラズマイオン注入、プラズマ表面改質、プラズマ放電加工等において、出力電流のパルス幅T3をワークに応じて任意に制御することができ、ワークの更なる品質向上を図ることができる。また、誘導エネルギーに変動があったとしても、残留電流の発生をなくして安定したパルス出力を得ることができ、稼働率の向上、信頼性の向上を図ることができ、しかも、安価な直流電源を使用することができる。
【0069】
次に、第4の実施の形態に係るパルス電源回路(以下、第4パルス電源回路10Dと記す)について図7を参照しながら説明する。
【0070】
この第4パルス電源回路10Dは、図7に示すように、上述した第2パルス電源回路10Bとほぼ同様の構成を有するが、トランス14の二次側に、二次巻線28とは別に、トランス14の一次側に対して加極性となるように巻かれた巻線40が設けられ、この巻線40に直列に第2スイッチSW2が接続されている点で異なる。
【0071】
この場合も、第2スイッチSW2の両端電圧VF3(オン時電圧)が、第1整流回路30の両端電圧VF2(順方向電圧)よりも小さく設定されている。
【0072】
第2スイッチSW2がオンになると、第2スイッチSW2→トランス14の巻線40→第2スイッチSW2という短い経路で電流I3が流れるようになる。この場合も、エネルギー減衰が小さく、励磁インダクタンスに残留電流が生じるおそれがあるが、電流検知手段22と第3回路24cで、トランス14の一次側に流れる電流I1のピーク値Ip1が一定となるように制御することから、残留電流による誘導エネルギーの累積的蓄積の発生をなくすことができる。
【0073】
この第4パルス電源回路10Dにおいても、プラズマを使ってワークを処理する場合、例えばプラズマCVD、プラズマPVD、プラズマエッチング、プラズマイオン注入、プラズマ表面改質、プラズマ放電加工等において、出力電流のパルス幅T3をワークに応じて任意に制御することができ、ワークの更なる品質向上を図ることができる。また、誘導エネルギーに変動があったとしても、残留電流の発生をなくして安定したパルス出力を得ることができ、稼働率の向上、信頼性の向上を図ることができ、しかも、安価な直流電源を使用することができる。
【0074】
なお、本発明に係るパルス電源回路は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1パルス電源回路の構成を示す回路図である。
【図2】第1パルス電源回路の通常の回路動作を示すタイミングチャートである。
【図3】残留電流が発生した場合の回路動作を示すタイミングチャートである。
【図4】第2パルス電源回路の構成を示す回路図である。
【図5】第2パルス電源回路の回路動作を示すタイミングチャートである。
【図6】第3パルス電源回路の構成を示す回路図である。
【図7】第4パルス電源回路の構成を示す回路図である。
【図8】従来例に係るパルス電源回路の構成を示す回路図である。
【図9】従来例に係るパルス電源回路の通常の回路動作を示すタイミングチャートである。
【図10】残留電流が発生した場合の従来例に係るパルス電源回路の回路動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0076】
10A〜10D…第1パルス電源回路〜第4パルス電源回路
12…直流電源部 14…トランス
16…制御回路 18…整流回路
20…負荷 22…電流検知手段
26…一次巻線 28…二次巻線
30…第1整流回路 32…バイポーラトランジスタ
34…第2整流回路 36…直列回路
40…巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源部の両端に直列接続されたトランス及びスイッチを有し、
前記スイッチのオン動作に伴う前記トランスへの誘導エネルギーの蓄積と、前記スイッチのオフ動作に伴う前記トランスの二次側での高電圧パルスの発生とを1つのサイクルとしたとき、前記サイクルを繰り返して複数の前記高電圧パルスを連続して出力するパルス電源回路であって、
複数のサイクルにわたる誘導エネルギーの累積的蓄積を回避するように、前記トランスの一次側に流れる電流を制御する電流制御回路を有することを特徴とするパルス電源回路。
【請求項2】
請求項1記載のパルス電源回路において、
前記電流制御回路は、前記トランスの一次側に流れる電流のピーク値が一定となるように制御することを特徴とするパルス電源回路。
【請求項3】
請求項2記載のパルス電源回路において、
前記トランスの一次側に流れる電流を検知する電流検知手段と、
前記電流検知手段にて検知された電流値が前記ピーク値となった段階で前記スイッチをオフにする制御手段とを有することを特徴とするパルス電源回路。
【請求項4】
請求項1記載のパルス電源回路において、
前記トランスの二次側に電流を一方向に流すための整流回路が接続され、
前記トランスの二次側の両極間であって、且つ、前記整流回路の接続位置よりも前記トランス寄りの位置に接続された第2スイッチと、
前記スイッチのオフ時点から一定時間経過後に、前記第2スイッチをオンにするスイッチング制御手段とを有することを特徴とするパルス電源回路。
【請求項5】
請求項1記載のパルス電源回路において、
前記トランスの二次側に電流を一方向に流すための整流回路が接続され、
前記トランスの一次側の両極間であって、且つ、前記スイッチの接続位置よりも前記トランス寄りの位置に接続された第2スイッチと、
前記スイッチのオフ時点から一定時間経過後に、前記第2スイッチをオンにするスイッチング制御手段とを有することを特徴とするパルス電源回路。
【請求項6】
請求項1記載のパルス電源回路において、
前記トランスの二次側に電流を一方向に流すための整流回路が接続され、
前記トランスの二次側に、二次巻線とは別に、前記トランスの一次側に対して加極性となるように巻かれた巻線と、
前記巻線に直列に接続された第2スイッチと、
前記スイッチのオフ時点から一定時間経過後に、前記第2スイッチをオンにするスイッチング制御手段とを有することを特徴とするパルス電源回路。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のパルス電源回路において、
前記第2スイッチのオン時の電圧が前記整流回路の順方向電圧よりも小さいことを特徴とするパルス電源回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−5498(P2009−5498A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163974(P2007−163974)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】