パルスEPR検出
パルス電子磁気共鳴を実行する方法およびシステムが開示される。該方法は、プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生することと、励起パルス列に誘導されるエコー応答をプローブから検出することとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子常磁性共鳴の分野に関する。特に、本発明は、パルス電子常磁性共鳴を適用する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴の技術は広く普及し、特に検出や画像化に応用を見出している。連続動作は、磁場走査中の多くの時間、ベースラインデータが共鳴応答の間で記録されるので、しばしば非効率的になるが、パルス磁気共鳴は、典型的には測定時間をより効率的に使用する。パルス磁気共鳴においては、インパルス励起が共鳴周波数で印加され、得られた自由誘導減衰信号のフーリエ変換がスペクトルを明らかにする。パルス電子磁気共鳴技術は、有利な感度が得られる。パルス電子常磁性共鳴(EPR)測定において、プローブの磁化測定後、ショートパルスがプローブに印加される。
【0003】
パルスEPRの1つの問題は、スピンのディフェーズ(dephase)により生じるアンテナのリングダウン(ring-down)が、自由誘導減衰(FID)、即ちプローブから到来する検出信号より長い時間続くことである。プローブの線幅が小さいほど、FIDは長くなる。その結果、パルスEPRは3MHzより小さい線幅を有するプローブに限定すべきこと、またはパルスEPRにおいて、横緩和時間は線幅に逆比例するため、非常に狭いシングルラインスペクトルを持つスピンプローブを有することが望ましいことが既に判明している。広い線幅を有するプローブについてのパルスEPRの問題が図1に示されている。図1(a)は、Z軸に沿った静磁場中の初期のスピン配列を示し、図1(b)は、π/2パルスの後のY軸に沿った後続のスピン配列を示し、これはアンテナによりプローブ信号の取得を可能にするものであり、図1(c)は、利用できないプローブ信号を生じさせるスピンのディフェーズを表す。
【0004】
アンテナのリングダウン時間に影響されずに、短いプローブ信号を測定するいくつかの解決方法が提供されている。1つの既知のテクニックは、ハーン(Hahn)エコーの使用である。ハーンエコーを用いて、第1パルスはスピンを静磁場に対して90°倒すようになる。一定時間、傾いたスピンは、(それぞれ自己の固有振動数で)ディフェーズし、その後第2パルスがスピンを180°傾ける。このパルスによって、スピンはリフェーズ(rephase)する。スピンは、パルス間の時間に等しい時間後、正確にリフェーズするようになる。この時点でエコーが測定できる。
【0005】
実験の準備テクニックとして、パルス列を用いることも知られている。物質の特性を取得するいくつかの方法が知られており、最初に1組3パルスが誘発エコー(stimulated echo)を作成するのに用いられ、リフェーズパルスによって物質の応答が誘導される。他のテクニックは、パルスまたはパルス列の印加のバリエーションを用いているが、これらはすべて、物質の応答を誘導するためにリフェーズパルスを用いる。
【0006】
比較的広帯域に渡ってより均一な電力励起を達成するために、整形したシンク(sinc)パルスを用いることが知られている。例えば、先端が切り取られたシンクパルスは、アンテナのQ形状(Q-profile)を補償するために用いられる。
【0007】
パルスシーケンスを印加する技術において、入力シーケンスと測定結果を相関させることが知られている。これを実行する1つの方法は、多重パルスシーケンス後の信号の重複を排除するために、パルス間で位相を変化させることである。もう1つの例は、FIDと入力シーケンスとを相関させて、全取得時間を短縮し、FID信号の信号対雑音比を改善することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、パルス電子常磁性共鳴(EPR)を適用する良好な方法およびシステムを提供することである。本発明に係る実施態様の利点は、広い線幅を有するプローブでのパルスEPR検出を可能にする方法およびシステムが得られることである。本発明に係る実施態様の利点は、超常磁性ナノ粒子とともに用いられ、その超常磁性ナノ粒子の広範囲の共鳴の完全な利用を可能にする方法およびシステムが提供されることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る実施態様の利点は、電力がパルスシーケンスに分配されて、各パルス間でスピンを徐々に傾斜させ、大きな総電力が検出用に印加できることである。
【0010】
本発明に係る実施態様の利点は、個々の周波数に対する電力が、アンテナシステムおよび/またはプローブの共鳴に適合できることである。
【0011】
本発明の実施態様の利点は、パルスシーケンスが、広帯域プローブの特定の周波数を選択的に励起するために使用され、プローブから到来するエコーシーケンスを作成することである。プローブから到来するエコーシーケンスは、それゆえに正の干渉をベースとする。
【0012】
本発明に係る実施態様の利点は、物体の画像化を可能にするパルスEPRの方法およびシステムが提供されることである。本発明に係る実施態様の利点は、良好な画像化技術、例えば生体内(in-vivo)画像化技術が得られることである。後者は、パルス列を用いてエコーを発生させ、画像化のためにそのエコーを用いることによって得られる。
【0013】
本発明に係る実施態様の利点は、パルスシーケンスを用いる既知のシステムに対して、検出または画像化のために、正のスピン干渉を利用することである。正の干渉は、周期的な基準で発生するように誘導できる。
【0014】
本発明に係る実施態様の利点は、広帯域共鳴の限られた数の周波数のみが活性化されることである。
【0015】
本発明に係る実施態様の利点は、パルス列を用いて、画像化のためのエコーを発生させる方法とシステムが提供されることである。上記目的は、本発明に係る方法および装置によって達成される。
【0016】
本発明は、パルス電子常磁性共鳴を実行する方法に関し、該方法は、プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生すること、および該プローブから励起パルス列によって誘導されるエコー応答を検出することを含む。本発明に係る実施態様の利点は、リフェーズパルスの必要性はないが、応答はパルス列によって直接誘導できることである。
【0017】
励起パルスを発生することは、エコー応答を形成するプローブの応答の間で、正の干渉効果を誘導する励起パルスを発生することを含んでもよい。
【0018】
エコー応答を検出することは、物体内に分布したプローブからエコー応答を、位相幾何学的に(topologically)画像化することを含んでもよい。
【0019】
励起パルスを発生することは、興味ある広帯域プローブの所定の周波数を選択的に励起することを含んでもよい。
【0020】
エコー応答を検出することは、単磁区粒子からのエコー応答を検出することを含んでもよい。
【0021】
エコー応答を検出することは、広帯域共鳴超常磁性粒子からのエコー応答を検出することを含んでもよい。プローブの共鳴応答は、広い帯域、例えば3MHzから400MHzの間で起こりうる。トランスミッタから到来する広帯域信号は、応答が起こる周波数範囲が、60MHzと500MHzの間で変化しうる中心周波数の20%より大きい場合に、広帯域であるとみなしてもよい。
【0022】
励起パルス列を発生することは、異なるEPRパルスの形状が、物体内のスピンプローブ共鳴の周波数依存性を少なくとも部分的に補償するよう適合したEPRパルスシーケンスを発生することを含んでもよい。本発明に係る実施態様の利点は、スピンプローブ共鳴の周波数依存性の補償が得られることであり、その周波数依存性は、広い線幅を有するプローブに特に関連するようになる。
【0023】
励起パルス列を発生することは、EPRパルスシーケンスを発生することを含んでもよく、それによって、異なるEPR周波数の強度は、物体内のスピンプローブの共鳴または検出システムの電力依存性を少なくとも部分的に補償するように適合する。
【0024】
該方法は、スピンの初期配列を付与するために、スピンを有する物体に印加する静磁場を発生することも含んでもよく、その場合、励起パルス列を発生することは、静磁場とは実質的に異なる向きを有するパルスを発生することを含む。
【0025】
本発明はまた、パルス電子常磁性共鳴を実行するためのシステムに関し、該システムは、プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生させる励起パルス列発生器と、該プローブから励起パルス列に誘導されたエコー応答を検出するための検出手段とを備える。
【0026】
励起パルス列発生器は、興味ある広帯域プローブの所定の周波数を選択的に励起するため、および、エコー応答を形成するために、プローブの応答の間での励起パルス列の正の干渉効果を発生するためのコントローラを備えてもよい。
【0027】
検出手段は、物体内に分布するプローブからのエコー応答を位相幾何学的に画像化するように適合してもよい。
【0028】
本発明は、さらに、パルス電子常磁性共鳴測定を準備するための方法に関し、該方法は、プローブ、例えば広い線幅を有するプローブからのエコー応答を誘導するために、プローブの個々の応答の間の正の干渉をベースとして、励起パルス列の個々の周波数に適合した励起パルス列を設計することを含む。
【0029】
本発明はまた、コンピュータ装置上で実行した場合、上記のような方法を実行するためのコンピュータプログラム製品に関する。さらに、上記のようなコンピュータプログラム製品を備えるデータ記録媒体(carrier)、および/またはネットワークを通じたそのようなコンピュータプログラム製品の送信もまた想定している。
【0030】
本発明の特別かつ好ましい態様は、添付した独立および従属の請求項に記述している。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と、適切および単に請求項に明記されただけでないものとして組み合わせてもよい。
【0031】
本発明の実施態様について、図面と関連して詳細な説明で説明する。図面は概略的に過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかの要素のサイズが説明目的のため誇張したり、縮尺どおりに描かれていない。請求項のどの参照符号も、範囲を限定するものと解釈すべきでない。異なる図面において、同じ参照符号は、同一または類似の要素を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】先行技術から知られる、スピンのディフェーズの問題および検出されるプローブ信号に対するそれの影響を示す。
【図2】本発明の一実施態様に従ってパルス電子常磁性共鳴を実行する方法のフローチャートを表す。
【図3】本発明の一実施態様に従ってパルス電子常磁性共鳴を実行する方法において使用可能な励起パルス列の例を表す。
【図4】図3に示す励起パルス列のフーリエ変換を示す。
【図5】励起パルスおよび対応するプローブのエコー応答を、振幅および生じる向きの両方で表す。
【図6】励起パルスおよび対応するプローブのエコー応答を、振幅および生じる向きの両方で表す。
【図7】本発明の実施態様において使用可能な、異なる周波数に異なる電力を供給するように適合した励起パルス列の例を表す。
【図8】図7に示す励起パルス列のフーリエ変換を表す。
【図9】本発明の実施態様に従ってパルス電子常磁性共鳴を実行するシステムを表す。
【図10】パルス列を用いた例示のEPR検出実験において使用されるシーケンスの組み合わせの例を表す。
【図11a】EPR検出に対する、図10に示すようなパルスシーケンスの組み合わせの効果を表すそのバックグラウンドを示す。
【図11b】リゾビスト(resovist)に対する、図10に示すようなパルスシーケンスの組み合わせの効果を表す。
【図11c】25nmの超常磁性粒子に対する、図10に示すようなパルスシーケンスの組み合わせの効果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の詳細な記載において、発明、およびそれが特定の実施形態においてどのように実践されうるかの完全な理解を提供するために、多くの具体的詳細を示す。一方、本発明は、これらの具体的詳細がなくても実践しうる、ということが理解されるだろう。よく知られた方法である他の例では、手順および技術は、本発明を不透明にしないために、詳細には記載されていない。本発明は、特定の実施態様に関して、および特定の図面に関して記載されているが、これに限定する意味ではない。
【0034】
さらに、明細書および特許請求の範囲における用語「第1」「第2」などは、類似の要素間を区別するために用いられ、必ずしもシーケンスを時間的、空間的に、序列で、または他のどの様式で表したものでもない。用いられている用語は、適切な状況下置き換え可能であり、この中で記載される本発明の実施態様は、ここで記載または表示されるものより、むしろ他のシーケンスにおいて実施されうることが理解される。
【0035】
さらに、明細書および特許請求の範囲における、「上(top)」、「下(bottom)」、「の上に(over)」、「の下に(under)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を表すとは限らない。用いられている用語は、適切な状況下置き換え可能であり、この中で記載される本発明の実施態様は、ここで記載または表示されるものより、むしろ他の配列において実施されうることが理解される。
【0036】
特許請求の範囲において用いられる「備える、含む」(comprising)いう用語は、その後記載されるステップや構成要素に限定されると解すべきでない。つまり、他の要素やステップを除外するものではない。それはしたがって、規定した特徴、整数、ステップ、もしくは上記構成要素の存在を明確にするものと解されるべきであり、1またはそれより多くの他の特徴、整数、ステップ、または構成要素、およびそれらのグループの存在を除外するものでなはい。したがって、「AおよびBを備える装置」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなる装置に限定されるべきでない。「〜から成る」(consist of)という用語に言及する場合、後者は他のどの構成要素も存在しないことを暗示する。
【0037】
本願の実施態様において、ナノ微粒子という用語が用いられる場合、限界寸法、例えば直径が1nmから1000nmの範囲を有する粒子を参照する。特定の実施態様は、単磁区粒子の磁化を利用する。単磁区粒子は、単磁区領域内で生じる、所定の物質に対して最大保磁力を有する粒子と定義される。より大きい粒子サイズを有する場合、保磁力は、粒子が磁区に分割されるにしたがって減少する。より小さい粒子サイズでは、保磁力は再び減少するが、この場合は熱エネルギーのランダム化効果が原因である。単磁区の振る舞いをするための臨界サイズは、飽和磁化および粒子の形状を含むさまざまなファクターに依存する。単磁区粒子において、局所磁化は飽和するが、必ずしも平行とは限らない。磁区は原子間距離より大きく、典型的には1〜100nmの間である。
【0038】
超常磁性粒子は、特定の種類の単磁区粒子である。単磁区領域内で粒子のサイズが減少し続けると、残留磁気および保磁力が0になる。これが起こると、粒子は超常磁性となる。
【0039】
体積vの単一粒子が、磁化容易軸に沿って均一に磁化する。vが充分小さい場合、または温度が充分高い場合、熱エネルギー(kT)は、(+)と(−)の磁化状態を分離する異方性エネルギーを超えるのに充分となり、磁化の自発的反転を引き起こす。
【0040】
そのような単磁区共鳴粒子の測定信号は磁化に比例する。それゆえに、飽和磁化より小さい磁化で、電子常磁性共鳴(EPR)を示す物質からなる粒子を用いることは有益である。
【0041】
この本文において、広い線幅と言う場合、3MHzまたはそれより大きい線幅、例えば、3MHzから400MHzの範囲内の線幅を参照する。
【0042】
本発明に係る実施態様の利点は、広い線幅、例えば3MHzまたはそれより大きい線幅を有するプローブを用いて良好な動作を提供するパルス電子常磁性共鳴の方法およびシステムが得られることである。
【0043】
第1の態様において、本発明は、パルス電子常磁性共鳴(EPR)を実行する方法およびシステムに関する。本発明の実施態様は、広い線幅を持つプローブを使用した場合でも、画像化の目的に特に適しているであろう。本発明の実施態様は、単磁区粒子、例えば超常磁性粒子の、例えば超常磁性ナノ粒子の、広範囲の共鳴を利用するのに特に適しているであろう。パルスEPRを実行する方法は、プローブを備える物体に印加するパルス列を発生することと、プローブを備える物体からのパルス列に誘導されたエコー応答を検出することを含む。例えば、パルスを向けることによって、その方向にパルス列を物体に印加する実際のステップは、方法の一部であってもなくてもよい。例として、本発明はそれに限定されないが、異なった基準および任意ステップについて、図2に示すように、本発明の一実施態様に係る例示の方法のフローチャートを参照して、より詳細に記載している。
【0044】
最初の任意ステップ210は、物体にパルスEPRを実行する方法の一部でない外部ステップでもよく、物体に対するプローブ投与が実行される。後者は、例えば、造影(contrast)液を介して投与するような従来技術を用いて実行してもよい。検出および/または画像化に用いられるプローブは、例えば上述の超常磁性粒子のような単磁区粒子でもよいが、本発明はそれに限定されない。有利な実施態様において、プローブは静脈に投与される。そのようなプローブは、到達すべきターゲットに依存して、さまざまな種類の分子でコーティング可能である。その一例は、肝臓を目標にできるデキストラン(Dextran)を用いてのコーティングであるが、興味あるターゲットを目標とするそれぞれの適切な粒子が使用できることは、当業者にとって明らかである。選択は、想定される応用に基づくものでもよい。使用可能な造影剤の1つの例は、レゾビスト(resovist)である。この造影剤は、例えば0.5mmol Fe/mlの濃度を有してもよい。
【0045】
測定に関して、ステップ220に示すように、該方法は、典型的には、静磁場を発生することを含んでもよい。発生する静磁場は、静磁場発生器、または、例えば永久磁石、または電磁石などを用いた静磁場発生手段によって発生してもよい。発生する静磁場は、こうした静磁場を物体に印加するためのものでもよく、物体中のプローブは、静磁場の方向に沿って配向しうる。例として、本発明はそれに限定されないが、以下の記載の中で、静磁場は、Z方向に沿ったプローブの初期配列を生じさせると仮定している。印加される静磁場の典型的な大きさは、例えば下限1ガウスおよび上限300ガウスを有する範囲内でもよい。さらに、追加の磁場勾配が印加可能である。これは、異なる位置では静磁場は異なることを意味し、これによりプローブ間の空間分解能が得られる。
【0046】
該方法は、励起磁気パルス列を発生し、プローブを備える物体に仕向けること(ステップ230)をさらに含む。励起磁気パルスは、磁気パルス発生器、または、例えば電磁石、可動永久磁石などの磁気パルス発生手段を用いて誘導できる。パルスは、いくつかの実施態様では、増幅してもよく、その後、例えばコイルアンテナなどのアンテナを用いて送信される。励起パルス列は、それゆえに2つより多いパルス、好都合には3つより多いパルスを含んでもよい。パルスの総数は、好都合には、スピンを傾斜するために要求される電力に依存する。それ自体、それは1つのパルスにおいて利用できる電力、およびプローブ自体に依存する。パルスは、XY平面内で配向する(スピンの元の配列は、Z軸に沿っている)。これらのパルスの重要な成分は、プローブの、ラーモア周波数に対応する周波数でのXY平面内での回転である。電子スピンを倒すのはこの成分である。異なる励起パルス高さは、下限1mWおよび上限10MWを有する範囲内でもよい。使用するパルス形状は、例えばシンク(sinc)パルスや修正シンクパルスなどの任意の適切なパルス形状でもよい。他の例は、ブロックパルス、またはプローブからのエコー信号を発生させるのに最も適した個々の周波数を合算することによって形成される他の任意の形状である。そのようなパルス列を発生することは、一組の個々の周波数を足し合わせることで実現できる。パルス列は、プローブ、例えば広帯域プローブの特定の周波数が選択的に励起されるようにして発生できる。時間領域のパルス列は、周波数領域での周波数格子と対応してもよい。パルス間の距離は、周波数間の間隔に反比例してもよい。パルスの典型的な長さは、下限10nsおよび上限1msを有する範囲内でもよい。
【0047】
該方法はまた、プローブからの応答を検出するステップ(240)を含む。そのような応答が、検出手段および検出器、例えば受信アンテナを用いて検出できる。物体中のプローブスピンは、発生するパルス列への応答として、同様の特性を有するパルス列をその後送信する。特に、同じ周波数および同じ位相関係を有するパルス列は、検出ユニット、例えば受信アンテナによって検出できる。周波数領域の幅は、それゆえに、パルス列におけるパルス幅に反比例するようになる。応答パルス列は同じ周波数および位相関係を有するので、それはエコー応答と呼ばれる。応答は、個々の出力周波数間で正の干渉によって誘導されうる。応答は、励起パルス列の印加から構築されるようになり、励起パルス列が終わったあとも続くことになる。
【0048】
最後の刺激パルスとエコー信号の間の時間は、周波数ステップに反比例する。この時間は、エコー信号を検出することを可能にする受信システムの不感時間より大きくすべきである。広い線幅を有する粒子を使用するため、この原理は、受信機の不感時間後、粒子の緩和時間の前でエコー信号の取得を可能にする。
【0049】
エコー応答の検出時またはそれ以降、該方法は、プローブの特性を導出するためのエコー応答を処理すること(ステップ250)を任意に含んでもよい。そのような特性は、例えばプローブの存在、存在するプローブの数などでもよい。好都合な実施態様において、エコー応答の検出は、プローブの位置の関数として実行され、プローブ画像の生成を可能にする。換言すると、エコー応答は、位相幾何学的に一貫した方法で記録でき、物体内のプローブの分布画像を作成できる。そのような検出は、例えば受信アンテナを用いて物体を走査することで実行できる。その代替または追加で、場の勾配を有する静磁場が使用できる。静磁場の場勾配を別々の方向に印加することによって、プローブはその位置に依存して、異なる周波数応答を有するようになる。さらに、多重アンテナが使用でき、アンテナの位置は可変であり、磁場勾配の配向も可変である。これらの後者の方法は、高速な画像化技術をもたらすという利点を提供する。
【0050】
追加の任意ステップは、該方法の一部でもよく、または明確に方法の一部でなくてもよく、得られる画像を評価および/または解釈すること(ステップ260)を含んでもよい。後者は、例えば物体の状態を導出するため、物体の評価を監視するため等で実行することでもよい。
【0051】
例として、本発明はそれに限定されないが、本発明の一実施態様に係る典型的な方法を実行する場合に印加され取得されるパルス列の例について、さらに検討する。例として、図3は、発生しうるパルス列を示し、図4はそのフーリエ変換を示す。この例では、パルス列は50MHzの総帯域幅を有し、周波数間隔は1MHzである。これにより、パルス間は1μsとなる。
【0052】
図5において、印加したパルス列とプローブの初期応答が、例として示されているが、本発明はそれに限定されない。図5(a)において、パルス510は、物体に印加するために生成したパルスである。一方、パルス520は、プローブからのエコー応答である。図は例示であり、縮尺は現実と一致しないことに留意する。上述のように、パルス間の距離は、周波数間隔の逆数である。図5(b)において、プローブの初期応答が見える。プローブ応答の時間変化が左から右に示されている。左の図において、静磁場の初期配向を示し、これはプローブが配向することになる方向である。この例では、最初に、プローブはZ方向、即ち静磁場が供給する配向に沿って配向するのがわかる。次の図は、各時間で、生じる電子スピンの磁気モーメントを表す。誘導されるパルスに応じて、プローブは、xy平面に向かって傾き始める。パルス間で、スピンは、異なる周波数が励起されるので、ディフェーズする。各パルスの後、スピンは、xy平面に向かってより傾き、リフェーズする。これは、各パルスの後、スピンがより大きな信号を生成することを意味する。パルス列は、スピンが90°傾くまで続く。さらに、スピンは、軸に沿った静磁場と整列しようとする。更なるパルスが印加されない場合、スピンはZ軸と整列するようになり、整列時にスピンからの信号は減少して0になる。初期印加されたパルス列の終了後、プローブからのさらに生じる応答信号を、図6に示す。再び、全体応答を、図6(a)のパルス520で図示している。一方、対応する特定のプローブ配向は、図6(b)に図示しており、スピン磁気モーメントおよびそのディフェーズとリフェーズを示している。理解できるように、プローブの応答は、初期印加したパルス列と類似の周波数および位相を有するパルス列である。
【0053】
一実施態様において、励起パルス列の特性は、信号対雑音比を向上または最適化するよう選択される。周波数間のステップサイズを増加させることで、パルスの繰り返しレートがより速くなる。これは、短い時間間隔でより大きなパワーをシステムに投入にすることを可能にする。しかしながら、周波数ステップを増加させると、活性化されるプローブがより少なくなる。信号対雑音比は、プローブの緩和時間を考慮して、良好で改良または最適化されたステップサイズを選択することで改良または最適化できる。例として、周波数ステップは、周波数格子とも呼ばれており、パルス列のあとの最初のエコーが、アンテナのリングダウンが終わったすぐ後に生じるように選択できる。リングダウンは、Z軸との整列のための時間よりも小さく選択される。リングダウンの後および整列の前に、最適な信号対雑音比が得られる。
【0054】
一実施態様において、パルス列におけるパルスの形状が、プローブの応答を改良または最適化するように適合できる。このことは、広い線幅を有するプローブに特に適しているであろう。パルスを整形することによって、励起パルスによって励起する個々の周波数の各々の振幅および/または位相は、各プローブ、例えばスピンが、良好で改良または最大の信号を生成できるように変更できる。一実施態様において、複数または個々の構成周波数に付与される励起電力に対応する振幅は、個々のプローブに整合するよう別々に変更できる。例として、図7および図8は、低周波でプローブスピンの90°回転を誘導するのに要求される電力が少なく、高周波ではより大きい電力が要求される状況での励起パルス列およびそのフーリエ変換を表す。時間領域においてパルス形状を調整することで、対応する周波数領域の励起が適切な励起電力を供給することがわかる。一実施態様において、励起パルス列は、その代替または追加で、エコー応答を検出するために用いられるアンテナの伝達関数に誘起される影響を補償するように適合してもよい。
【0055】
一実施態様において、測定されるプローブのパルス幅に依存して、パルス列の最適幅を選択することで最適化が可能である。
【0056】
一実施態様において、本発明は、上述のような方法とシステムに関するものであり、さらに励起パルス列は、励起パルスとエコー応答との間の相関関係を利用するように適合している。周波数の数、周波数の間隔、各周波数の振幅および位相が特に調整できる。パルス列中の励起パルスとエコー応答におけるエコーパルスの特徴は同じであるが、信号対雑音比は、スペクトル拡散技術を用いることで増加できる。それゆえに、異なる形状を有するパルスを用いてもよい。どの周波数も特定の振幅/位相を有してもよい。一例では、生じる伝送シーケンスは、プローブに印加できる。伝送信号とプローブから到来する受信信号とを相関付けた場合、得られる信号は、対応のパルス列で励起されるそれらのプローブにとって最大になる。多重アンテナの設定では、これは、異なるアンテナ間で区別するために使用できる。異なるパルス形状が、より良好な空間分解能を取得するためにも使用できる。
【0057】
いくつかの実施態様において、本発明は、パルス電子常磁性共鳴を実行するシステムに関する。該システムは、好都合には、詳細に上述したような方法を実行するように適合できる。システム900は、図9に示す一実施態様に係る例であり、典型的には、静磁場発生器902を備える。その静磁場発生器または発生手段902は、例えば永久磁石や電磁石など、任意のタイプの磁場発生器でもよい。システム900は、磁気励起パルス列を発生するように適合した励起パルス列発生器または発生手段904を備える。こうした励起パルス列発生器904は、例えば電磁石アンテナなど、任意の適切な手段でもよい。磁気励起パルス列発生器904は、応答間の正の干渉をベースとするプローブによってエコー応答が発生するように、励起パルス列を発生するように適合してもよい。磁気パルス列発生器904は、磁気励起パルス列発生器904を相応に制御するように適合したコントローラ906を備えてもよい。こうしたコントローラ906は、例えばプロセッサ上で実行されるソフトウェアまたはハードウェアとして実装できる。代わりに、該コントローラは、励起パルス列発生器904と連携する分離したコンポーネントでもよい。システム900は、調査対象の物体からのエコー応答を検出するように適合した検出手段または検出器908をさらに備える。こうした検出器908は、受信アンテナでもよい。システムは、例えば物体テーブルなど、1つまたはそれ以上の物体ホルダ910と、トポロジー的方法で情報を検出する走査システム912と、検出器908を用いて取得した結果を処理するプロセッサ914などをさらに備えてもよい。他の特徴は、既知のパルス電子常磁性共鳴システムで知られるものでもよく、上記のパルスEPR方法についての上述のような機能性を表す特徴でもよい。
【0058】
第2の態様において、本発明は、パルス電子常磁性共鳴測定を準備する方法に関する。該方法は、励起パルス列によって励起される個々の周波数間の正の干渉をベースとするプローブ、例えば広い線幅を有するブローブからのエコー応答を誘導するように適合した励起パルス列を設計することを含んでもよい。設計は、それゆえに、例えば励起パルス列に用いられる周波数間の適切なステップサイズを選択することによって、信号対騒音比を向上または最適化するために励起パルス列の特性を調節または選択することを考慮してもよい。設計は、その追加または代替として、特定のパルス形状を調整または選択すること、例えば、励起パルス列において用いられる周波数の1つまたはそれ以上または各々について適切な振幅または位相を選択することを含んでもよい。設計は、その追加または代替として、測定されるプローブの線幅に依存して、最適帯域幅を選択することを含んでもよい。上述のように、一例では、周波数は、パルス列の後の最初のエコー信号が、アンテナのリングダウンの直後であり、測定可能な最も最適な信号が得られるように選択できる。
【0059】
例として、本発明の実施態様はそれに限られないが、典型的な実験を検討し、受信されるEPR応答へのパルス列の影響を説明している。パルス列の影響であって、シングルパルスに対しては発生しない応答が得られることがわかる。
【0060】
実験において、レゾビスト粒子、および直径25nmの超常磁性粒子への影響を評価している。実験は、シーケンス1と呼ばれる最初のシーケンスがパルス列を含み、シーケンス2と呼ばれるその次のシーケンスがシングルパルスであるシーケンスの組み合わせを印加することにより実行される。。シーケンス1の後だけエコーが予想される。シーケンス1がシーケンス2と比較して位相シフトπを有するように、シーケンス1とシーケンス2を交互に行い、データを平均化することによって、得られる結果は、シーケンス1において印加されるパルス列の影響を示す。サンプリング用のトリガーは、それぞれのシーケンスにおいて、シーケンスの終わりを基準として同時期に供給される。図10は、印加されたシーケンスの組み合わせを示し、トリガーの時期を示している。図11a〜図11cは、得られるEPR応答を表す。図11aは、別々の測定値を評価する場合に訂正および/または考慮するために用いられるバックグラウンド測定値を示す。図11bは、レゾビストを用いたEPR応答を表し、100nsでの応答の延長を示す。図11cは、25nmの超常磁性粒子を利用したEPR応答を表し、200nsの応答の延長をもたらす。各図は、3つの曲線を示す。実線は、50ガウスの静磁場に対応し、破線は、90ガウスの静磁場に対応し、点線は1500ガウスの静磁場に対応する。さらに、追加の影響が、これら25nmの粒子に対するパルスの後に見られる。その影響は、より大きな静磁場に対してより顕著でなくなる。
【0061】
更なる態様において、本発明の実施態様は、パルスEPRを実行し、上記のように、または上記システムにより機能的に得られるパルスEPRを設計するためのコンピュータに備えられた方法に関する。本発明の実施態様は、対応するコンピュータプログラム製品またはパルスEPRを実行するためのシステムを制御するためのコントローラ、若しくは上記のパルスEPR実験の設計に関する。そのような方法は、例えば汎用コンピュータのようなコンピュータシステムにおいて実行してもよい。コンピュータシステムは、入力手段、および、単一のデータプロセッサまたは複数のプロセッサとして設置されるデータプロセッサでもよい。コンピュータシステムは、プロセッサ、例えばROMまたはRAMを含む記憶システム、例えばCD−ROMまたはDVDドライブのような出力システム、ネットワーク上で情報を出力する手段を備えてもよい。従来のコンピュータ構成要素、例えばキーボード、ディスプレイ、ポインティングデバイスなども含んでもよい。データの移送は、データバスをベースとして行われる。コンピュータシステムの記憶装置は、コンピュータシステム上で実行される場合、上述したような方法の標準ステップ、および必要に応じて上述したような任意ステップを実施する1組の命令を含んでもよい。それゆえに、パルスEPRを実行し、設計する方法を実施する命令を含むコンピュータシステムは、先行技術の一部でない。
【0062】
本発明の実施形態の更なる態様は、コンピュータ装置上で実行するための機械読み取り可能なコードを運ぶキャリア媒体に埋め込まれたコンピュータプログラム製品を包含する。コンピュータプログラム製品自体は、データ記録媒体、例えば、dvdまたはcd−romまたはメモリ装置などである。従って、実施形態の態様は、コンピュータプログラム製品、およびそれに対応する伝送信号を、ネットワーク、例えば、ローカルネットワークまたはワイドエリアネットワークなどを通じて送信することも包含する。
【0063】
本発明は、図面および前述の説明において詳細に図示し、記載したが、その図示および記載は、説明的または例示的で限定的なものではないと考えるべきである。本発明は、開示した実施形態に限定されない。開示した実施形態に対する他の変形が、図面、開示内容および添付した請求項の研究から、請求項の発明を実施する際に、当業者によって理解され実施される。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子常磁性共鳴の分野に関する。特に、本発明は、パルス電子常磁性共鳴を適用する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴の技術は広く普及し、特に検出や画像化に応用を見出している。連続動作は、磁場走査中の多くの時間、ベースラインデータが共鳴応答の間で記録されるので、しばしば非効率的になるが、パルス磁気共鳴は、典型的には測定時間をより効率的に使用する。パルス磁気共鳴においては、インパルス励起が共鳴周波数で印加され、得られた自由誘導減衰信号のフーリエ変換がスペクトルを明らかにする。パルス電子磁気共鳴技術は、有利な感度が得られる。パルス電子常磁性共鳴(EPR)測定において、プローブの磁化測定後、ショートパルスがプローブに印加される。
【0003】
パルスEPRの1つの問題は、スピンのディフェーズ(dephase)により生じるアンテナのリングダウン(ring-down)が、自由誘導減衰(FID)、即ちプローブから到来する検出信号より長い時間続くことである。プローブの線幅が小さいほど、FIDは長くなる。その結果、パルスEPRは3MHzより小さい線幅を有するプローブに限定すべきこと、またはパルスEPRにおいて、横緩和時間は線幅に逆比例するため、非常に狭いシングルラインスペクトルを持つスピンプローブを有することが望ましいことが既に判明している。広い線幅を有するプローブについてのパルスEPRの問題が図1に示されている。図1(a)は、Z軸に沿った静磁場中の初期のスピン配列を示し、図1(b)は、π/2パルスの後のY軸に沿った後続のスピン配列を示し、これはアンテナによりプローブ信号の取得を可能にするものであり、図1(c)は、利用できないプローブ信号を生じさせるスピンのディフェーズを表す。
【0004】
アンテナのリングダウン時間に影響されずに、短いプローブ信号を測定するいくつかの解決方法が提供されている。1つの既知のテクニックは、ハーン(Hahn)エコーの使用である。ハーンエコーを用いて、第1パルスはスピンを静磁場に対して90°倒すようになる。一定時間、傾いたスピンは、(それぞれ自己の固有振動数で)ディフェーズし、その後第2パルスがスピンを180°傾ける。このパルスによって、スピンはリフェーズ(rephase)する。スピンは、パルス間の時間に等しい時間後、正確にリフェーズするようになる。この時点でエコーが測定できる。
【0005】
実験の準備テクニックとして、パルス列を用いることも知られている。物質の特性を取得するいくつかの方法が知られており、最初に1組3パルスが誘発エコー(stimulated echo)を作成するのに用いられ、リフェーズパルスによって物質の応答が誘導される。他のテクニックは、パルスまたはパルス列の印加のバリエーションを用いているが、これらはすべて、物質の応答を誘導するためにリフェーズパルスを用いる。
【0006】
比較的広帯域に渡ってより均一な電力励起を達成するために、整形したシンク(sinc)パルスを用いることが知られている。例えば、先端が切り取られたシンクパルスは、アンテナのQ形状(Q-profile)を補償するために用いられる。
【0007】
パルスシーケンスを印加する技術において、入力シーケンスと測定結果を相関させることが知られている。これを実行する1つの方法は、多重パルスシーケンス後の信号の重複を排除するために、パルス間で位相を変化させることである。もう1つの例は、FIDと入力シーケンスとを相関させて、全取得時間を短縮し、FID信号の信号対雑音比を改善することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、パルス電子常磁性共鳴(EPR)を適用する良好な方法およびシステムを提供することである。本発明に係る実施態様の利点は、広い線幅を有するプローブでのパルスEPR検出を可能にする方法およびシステムが得られることである。本発明に係る実施態様の利点は、超常磁性ナノ粒子とともに用いられ、その超常磁性ナノ粒子の広範囲の共鳴の完全な利用を可能にする方法およびシステムが提供されることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る実施態様の利点は、電力がパルスシーケンスに分配されて、各パルス間でスピンを徐々に傾斜させ、大きな総電力が検出用に印加できることである。
【0010】
本発明に係る実施態様の利点は、個々の周波数に対する電力が、アンテナシステムおよび/またはプローブの共鳴に適合できることである。
【0011】
本発明の実施態様の利点は、パルスシーケンスが、広帯域プローブの特定の周波数を選択的に励起するために使用され、プローブから到来するエコーシーケンスを作成することである。プローブから到来するエコーシーケンスは、それゆえに正の干渉をベースとする。
【0012】
本発明に係る実施態様の利点は、物体の画像化を可能にするパルスEPRの方法およびシステムが提供されることである。本発明に係る実施態様の利点は、良好な画像化技術、例えば生体内(in-vivo)画像化技術が得られることである。後者は、パルス列を用いてエコーを発生させ、画像化のためにそのエコーを用いることによって得られる。
【0013】
本発明に係る実施態様の利点は、パルスシーケンスを用いる既知のシステムに対して、検出または画像化のために、正のスピン干渉を利用することである。正の干渉は、周期的な基準で発生するように誘導できる。
【0014】
本発明に係る実施態様の利点は、広帯域共鳴の限られた数の周波数のみが活性化されることである。
【0015】
本発明に係る実施態様の利点は、パルス列を用いて、画像化のためのエコーを発生させる方法とシステムが提供されることである。上記目的は、本発明に係る方法および装置によって達成される。
【0016】
本発明は、パルス電子常磁性共鳴を実行する方法に関し、該方法は、プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生すること、および該プローブから励起パルス列によって誘導されるエコー応答を検出することを含む。本発明に係る実施態様の利点は、リフェーズパルスの必要性はないが、応答はパルス列によって直接誘導できることである。
【0017】
励起パルスを発生することは、エコー応答を形成するプローブの応答の間で、正の干渉効果を誘導する励起パルスを発生することを含んでもよい。
【0018】
エコー応答を検出することは、物体内に分布したプローブからエコー応答を、位相幾何学的に(topologically)画像化することを含んでもよい。
【0019】
励起パルスを発生することは、興味ある広帯域プローブの所定の周波数を選択的に励起することを含んでもよい。
【0020】
エコー応答を検出することは、単磁区粒子からのエコー応答を検出することを含んでもよい。
【0021】
エコー応答を検出することは、広帯域共鳴超常磁性粒子からのエコー応答を検出することを含んでもよい。プローブの共鳴応答は、広い帯域、例えば3MHzから400MHzの間で起こりうる。トランスミッタから到来する広帯域信号は、応答が起こる周波数範囲が、60MHzと500MHzの間で変化しうる中心周波数の20%より大きい場合に、広帯域であるとみなしてもよい。
【0022】
励起パルス列を発生することは、異なるEPRパルスの形状が、物体内のスピンプローブ共鳴の周波数依存性を少なくとも部分的に補償するよう適合したEPRパルスシーケンスを発生することを含んでもよい。本発明に係る実施態様の利点は、スピンプローブ共鳴の周波数依存性の補償が得られることであり、その周波数依存性は、広い線幅を有するプローブに特に関連するようになる。
【0023】
励起パルス列を発生することは、EPRパルスシーケンスを発生することを含んでもよく、それによって、異なるEPR周波数の強度は、物体内のスピンプローブの共鳴または検出システムの電力依存性を少なくとも部分的に補償するように適合する。
【0024】
該方法は、スピンの初期配列を付与するために、スピンを有する物体に印加する静磁場を発生することも含んでもよく、その場合、励起パルス列を発生することは、静磁場とは実質的に異なる向きを有するパルスを発生することを含む。
【0025】
本発明はまた、パルス電子常磁性共鳴を実行するためのシステムに関し、該システムは、プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生させる励起パルス列発生器と、該プローブから励起パルス列に誘導されたエコー応答を検出するための検出手段とを備える。
【0026】
励起パルス列発生器は、興味ある広帯域プローブの所定の周波数を選択的に励起するため、および、エコー応答を形成するために、プローブの応答の間での励起パルス列の正の干渉効果を発生するためのコントローラを備えてもよい。
【0027】
検出手段は、物体内に分布するプローブからのエコー応答を位相幾何学的に画像化するように適合してもよい。
【0028】
本発明は、さらに、パルス電子常磁性共鳴測定を準備するための方法に関し、該方法は、プローブ、例えば広い線幅を有するプローブからのエコー応答を誘導するために、プローブの個々の応答の間の正の干渉をベースとして、励起パルス列の個々の周波数に適合した励起パルス列を設計することを含む。
【0029】
本発明はまた、コンピュータ装置上で実行した場合、上記のような方法を実行するためのコンピュータプログラム製品に関する。さらに、上記のようなコンピュータプログラム製品を備えるデータ記録媒体(carrier)、および/またはネットワークを通じたそのようなコンピュータプログラム製品の送信もまた想定している。
【0030】
本発明の特別かつ好ましい態様は、添付した独立および従属の請求項に記述している。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と、適切および単に請求項に明記されただけでないものとして組み合わせてもよい。
【0031】
本発明の実施態様について、図面と関連して詳細な説明で説明する。図面は概略的に過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかの要素のサイズが説明目的のため誇張したり、縮尺どおりに描かれていない。請求項のどの参照符号も、範囲を限定するものと解釈すべきでない。異なる図面において、同じ参照符号は、同一または類似の要素を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】先行技術から知られる、スピンのディフェーズの問題および検出されるプローブ信号に対するそれの影響を示す。
【図2】本発明の一実施態様に従ってパルス電子常磁性共鳴を実行する方法のフローチャートを表す。
【図3】本発明の一実施態様に従ってパルス電子常磁性共鳴を実行する方法において使用可能な励起パルス列の例を表す。
【図4】図3に示す励起パルス列のフーリエ変換を示す。
【図5】励起パルスおよび対応するプローブのエコー応答を、振幅および生じる向きの両方で表す。
【図6】励起パルスおよび対応するプローブのエコー応答を、振幅および生じる向きの両方で表す。
【図7】本発明の実施態様において使用可能な、異なる周波数に異なる電力を供給するように適合した励起パルス列の例を表す。
【図8】図7に示す励起パルス列のフーリエ変換を表す。
【図9】本発明の実施態様に従ってパルス電子常磁性共鳴を実行するシステムを表す。
【図10】パルス列を用いた例示のEPR検出実験において使用されるシーケンスの組み合わせの例を表す。
【図11a】EPR検出に対する、図10に示すようなパルスシーケンスの組み合わせの効果を表すそのバックグラウンドを示す。
【図11b】リゾビスト(resovist)に対する、図10に示すようなパルスシーケンスの組み合わせの効果を表す。
【図11c】25nmの超常磁性粒子に対する、図10に示すようなパルスシーケンスの組み合わせの効果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の詳細な記載において、発明、およびそれが特定の実施形態においてどのように実践されうるかの完全な理解を提供するために、多くの具体的詳細を示す。一方、本発明は、これらの具体的詳細がなくても実践しうる、ということが理解されるだろう。よく知られた方法である他の例では、手順および技術は、本発明を不透明にしないために、詳細には記載されていない。本発明は、特定の実施態様に関して、および特定の図面に関して記載されているが、これに限定する意味ではない。
【0034】
さらに、明細書および特許請求の範囲における用語「第1」「第2」などは、類似の要素間を区別するために用いられ、必ずしもシーケンスを時間的、空間的に、序列で、または他のどの様式で表したものでもない。用いられている用語は、適切な状況下置き換え可能であり、この中で記載される本発明の実施態様は、ここで記載または表示されるものより、むしろ他のシーケンスにおいて実施されうることが理解される。
【0035】
さらに、明細書および特許請求の範囲における、「上(top)」、「下(bottom)」、「の上に(over)」、「の下に(under)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を表すとは限らない。用いられている用語は、適切な状況下置き換え可能であり、この中で記載される本発明の実施態様は、ここで記載または表示されるものより、むしろ他の配列において実施されうることが理解される。
【0036】
特許請求の範囲において用いられる「備える、含む」(comprising)いう用語は、その後記載されるステップや構成要素に限定されると解すべきでない。つまり、他の要素やステップを除外するものではない。それはしたがって、規定した特徴、整数、ステップ、もしくは上記構成要素の存在を明確にするものと解されるべきであり、1またはそれより多くの他の特徴、整数、ステップ、または構成要素、およびそれらのグループの存在を除外するものでなはい。したがって、「AおよびBを備える装置」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなる装置に限定されるべきでない。「〜から成る」(consist of)という用語に言及する場合、後者は他のどの構成要素も存在しないことを暗示する。
【0037】
本願の実施態様において、ナノ微粒子という用語が用いられる場合、限界寸法、例えば直径が1nmから1000nmの範囲を有する粒子を参照する。特定の実施態様は、単磁区粒子の磁化を利用する。単磁区粒子は、単磁区領域内で生じる、所定の物質に対して最大保磁力を有する粒子と定義される。より大きい粒子サイズを有する場合、保磁力は、粒子が磁区に分割されるにしたがって減少する。より小さい粒子サイズでは、保磁力は再び減少するが、この場合は熱エネルギーのランダム化効果が原因である。単磁区の振る舞いをするための臨界サイズは、飽和磁化および粒子の形状を含むさまざまなファクターに依存する。単磁区粒子において、局所磁化は飽和するが、必ずしも平行とは限らない。磁区は原子間距離より大きく、典型的には1〜100nmの間である。
【0038】
超常磁性粒子は、特定の種類の単磁区粒子である。単磁区領域内で粒子のサイズが減少し続けると、残留磁気および保磁力が0になる。これが起こると、粒子は超常磁性となる。
【0039】
体積vの単一粒子が、磁化容易軸に沿って均一に磁化する。vが充分小さい場合、または温度が充分高い場合、熱エネルギー(kT)は、(+)と(−)の磁化状態を分離する異方性エネルギーを超えるのに充分となり、磁化の自発的反転を引き起こす。
【0040】
そのような単磁区共鳴粒子の測定信号は磁化に比例する。それゆえに、飽和磁化より小さい磁化で、電子常磁性共鳴(EPR)を示す物質からなる粒子を用いることは有益である。
【0041】
この本文において、広い線幅と言う場合、3MHzまたはそれより大きい線幅、例えば、3MHzから400MHzの範囲内の線幅を参照する。
【0042】
本発明に係る実施態様の利点は、広い線幅、例えば3MHzまたはそれより大きい線幅を有するプローブを用いて良好な動作を提供するパルス電子常磁性共鳴の方法およびシステムが得られることである。
【0043】
第1の態様において、本発明は、パルス電子常磁性共鳴(EPR)を実行する方法およびシステムに関する。本発明の実施態様は、広い線幅を持つプローブを使用した場合でも、画像化の目的に特に適しているであろう。本発明の実施態様は、単磁区粒子、例えば超常磁性粒子の、例えば超常磁性ナノ粒子の、広範囲の共鳴を利用するのに特に適しているであろう。パルスEPRを実行する方法は、プローブを備える物体に印加するパルス列を発生することと、プローブを備える物体からのパルス列に誘導されたエコー応答を検出することを含む。例えば、パルスを向けることによって、その方向にパルス列を物体に印加する実際のステップは、方法の一部であってもなくてもよい。例として、本発明はそれに限定されないが、異なった基準および任意ステップについて、図2に示すように、本発明の一実施態様に係る例示の方法のフローチャートを参照して、より詳細に記載している。
【0044】
最初の任意ステップ210は、物体にパルスEPRを実行する方法の一部でない外部ステップでもよく、物体に対するプローブ投与が実行される。後者は、例えば、造影(contrast)液を介して投与するような従来技術を用いて実行してもよい。検出および/または画像化に用いられるプローブは、例えば上述の超常磁性粒子のような単磁区粒子でもよいが、本発明はそれに限定されない。有利な実施態様において、プローブは静脈に投与される。そのようなプローブは、到達すべきターゲットに依存して、さまざまな種類の分子でコーティング可能である。その一例は、肝臓を目標にできるデキストラン(Dextran)を用いてのコーティングであるが、興味あるターゲットを目標とするそれぞれの適切な粒子が使用できることは、当業者にとって明らかである。選択は、想定される応用に基づくものでもよい。使用可能な造影剤の1つの例は、レゾビスト(resovist)である。この造影剤は、例えば0.5mmol Fe/mlの濃度を有してもよい。
【0045】
測定に関して、ステップ220に示すように、該方法は、典型的には、静磁場を発生することを含んでもよい。発生する静磁場は、静磁場発生器、または、例えば永久磁石、または電磁石などを用いた静磁場発生手段によって発生してもよい。発生する静磁場は、こうした静磁場を物体に印加するためのものでもよく、物体中のプローブは、静磁場の方向に沿って配向しうる。例として、本発明はそれに限定されないが、以下の記載の中で、静磁場は、Z方向に沿ったプローブの初期配列を生じさせると仮定している。印加される静磁場の典型的な大きさは、例えば下限1ガウスおよび上限300ガウスを有する範囲内でもよい。さらに、追加の磁場勾配が印加可能である。これは、異なる位置では静磁場は異なることを意味し、これによりプローブ間の空間分解能が得られる。
【0046】
該方法は、励起磁気パルス列を発生し、プローブを備える物体に仕向けること(ステップ230)をさらに含む。励起磁気パルスは、磁気パルス発生器、または、例えば電磁石、可動永久磁石などの磁気パルス発生手段を用いて誘導できる。パルスは、いくつかの実施態様では、増幅してもよく、その後、例えばコイルアンテナなどのアンテナを用いて送信される。励起パルス列は、それゆえに2つより多いパルス、好都合には3つより多いパルスを含んでもよい。パルスの総数は、好都合には、スピンを傾斜するために要求される電力に依存する。それ自体、それは1つのパルスにおいて利用できる電力、およびプローブ自体に依存する。パルスは、XY平面内で配向する(スピンの元の配列は、Z軸に沿っている)。これらのパルスの重要な成分は、プローブの、ラーモア周波数に対応する周波数でのXY平面内での回転である。電子スピンを倒すのはこの成分である。異なる励起パルス高さは、下限1mWおよび上限10MWを有する範囲内でもよい。使用するパルス形状は、例えばシンク(sinc)パルスや修正シンクパルスなどの任意の適切なパルス形状でもよい。他の例は、ブロックパルス、またはプローブからのエコー信号を発生させるのに最も適した個々の周波数を合算することによって形成される他の任意の形状である。そのようなパルス列を発生することは、一組の個々の周波数を足し合わせることで実現できる。パルス列は、プローブ、例えば広帯域プローブの特定の周波数が選択的に励起されるようにして発生できる。時間領域のパルス列は、周波数領域での周波数格子と対応してもよい。パルス間の距離は、周波数間の間隔に反比例してもよい。パルスの典型的な長さは、下限10nsおよび上限1msを有する範囲内でもよい。
【0047】
該方法はまた、プローブからの応答を検出するステップ(240)を含む。そのような応答が、検出手段および検出器、例えば受信アンテナを用いて検出できる。物体中のプローブスピンは、発生するパルス列への応答として、同様の特性を有するパルス列をその後送信する。特に、同じ周波数および同じ位相関係を有するパルス列は、検出ユニット、例えば受信アンテナによって検出できる。周波数領域の幅は、それゆえに、パルス列におけるパルス幅に反比例するようになる。応答パルス列は同じ周波数および位相関係を有するので、それはエコー応答と呼ばれる。応答は、個々の出力周波数間で正の干渉によって誘導されうる。応答は、励起パルス列の印加から構築されるようになり、励起パルス列が終わったあとも続くことになる。
【0048】
最後の刺激パルスとエコー信号の間の時間は、周波数ステップに反比例する。この時間は、エコー信号を検出することを可能にする受信システムの不感時間より大きくすべきである。広い線幅を有する粒子を使用するため、この原理は、受信機の不感時間後、粒子の緩和時間の前でエコー信号の取得を可能にする。
【0049】
エコー応答の検出時またはそれ以降、該方法は、プローブの特性を導出するためのエコー応答を処理すること(ステップ250)を任意に含んでもよい。そのような特性は、例えばプローブの存在、存在するプローブの数などでもよい。好都合な実施態様において、エコー応答の検出は、プローブの位置の関数として実行され、プローブ画像の生成を可能にする。換言すると、エコー応答は、位相幾何学的に一貫した方法で記録でき、物体内のプローブの分布画像を作成できる。そのような検出は、例えば受信アンテナを用いて物体を走査することで実行できる。その代替または追加で、場の勾配を有する静磁場が使用できる。静磁場の場勾配を別々の方向に印加することによって、プローブはその位置に依存して、異なる周波数応答を有するようになる。さらに、多重アンテナが使用でき、アンテナの位置は可変であり、磁場勾配の配向も可変である。これらの後者の方法は、高速な画像化技術をもたらすという利点を提供する。
【0050】
追加の任意ステップは、該方法の一部でもよく、または明確に方法の一部でなくてもよく、得られる画像を評価および/または解釈すること(ステップ260)を含んでもよい。後者は、例えば物体の状態を導出するため、物体の評価を監視するため等で実行することでもよい。
【0051】
例として、本発明はそれに限定されないが、本発明の一実施態様に係る典型的な方法を実行する場合に印加され取得されるパルス列の例について、さらに検討する。例として、図3は、発生しうるパルス列を示し、図4はそのフーリエ変換を示す。この例では、パルス列は50MHzの総帯域幅を有し、周波数間隔は1MHzである。これにより、パルス間は1μsとなる。
【0052】
図5において、印加したパルス列とプローブの初期応答が、例として示されているが、本発明はそれに限定されない。図5(a)において、パルス510は、物体に印加するために生成したパルスである。一方、パルス520は、プローブからのエコー応答である。図は例示であり、縮尺は現実と一致しないことに留意する。上述のように、パルス間の距離は、周波数間隔の逆数である。図5(b)において、プローブの初期応答が見える。プローブ応答の時間変化が左から右に示されている。左の図において、静磁場の初期配向を示し、これはプローブが配向することになる方向である。この例では、最初に、プローブはZ方向、即ち静磁場が供給する配向に沿って配向するのがわかる。次の図は、各時間で、生じる電子スピンの磁気モーメントを表す。誘導されるパルスに応じて、プローブは、xy平面に向かって傾き始める。パルス間で、スピンは、異なる周波数が励起されるので、ディフェーズする。各パルスの後、スピンは、xy平面に向かってより傾き、リフェーズする。これは、各パルスの後、スピンがより大きな信号を生成することを意味する。パルス列は、スピンが90°傾くまで続く。さらに、スピンは、軸に沿った静磁場と整列しようとする。更なるパルスが印加されない場合、スピンはZ軸と整列するようになり、整列時にスピンからの信号は減少して0になる。初期印加されたパルス列の終了後、プローブからのさらに生じる応答信号を、図6に示す。再び、全体応答を、図6(a)のパルス520で図示している。一方、対応する特定のプローブ配向は、図6(b)に図示しており、スピン磁気モーメントおよびそのディフェーズとリフェーズを示している。理解できるように、プローブの応答は、初期印加したパルス列と類似の周波数および位相を有するパルス列である。
【0053】
一実施態様において、励起パルス列の特性は、信号対雑音比を向上または最適化するよう選択される。周波数間のステップサイズを増加させることで、パルスの繰り返しレートがより速くなる。これは、短い時間間隔でより大きなパワーをシステムに投入にすることを可能にする。しかしながら、周波数ステップを増加させると、活性化されるプローブがより少なくなる。信号対雑音比は、プローブの緩和時間を考慮して、良好で改良または最適化されたステップサイズを選択することで改良または最適化できる。例として、周波数ステップは、周波数格子とも呼ばれており、パルス列のあとの最初のエコーが、アンテナのリングダウンが終わったすぐ後に生じるように選択できる。リングダウンは、Z軸との整列のための時間よりも小さく選択される。リングダウンの後および整列の前に、最適な信号対雑音比が得られる。
【0054】
一実施態様において、パルス列におけるパルスの形状が、プローブの応答を改良または最適化するように適合できる。このことは、広い線幅を有するプローブに特に適しているであろう。パルスを整形することによって、励起パルスによって励起する個々の周波数の各々の振幅および/または位相は、各プローブ、例えばスピンが、良好で改良または最大の信号を生成できるように変更できる。一実施態様において、複数または個々の構成周波数に付与される励起電力に対応する振幅は、個々のプローブに整合するよう別々に変更できる。例として、図7および図8は、低周波でプローブスピンの90°回転を誘導するのに要求される電力が少なく、高周波ではより大きい電力が要求される状況での励起パルス列およびそのフーリエ変換を表す。時間領域においてパルス形状を調整することで、対応する周波数領域の励起が適切な励起電力を供給することがわかる。一実施態様において、励起パルス列は、その代替または追加で、エコー応答を検出するために用いられるアンテナの伝達関数に誘起される影響を補償するように適合してもよい。
【0055】
一実施態様において、測定されるプローブのパルス幅に依存して、パルス列の最適幅を選択することで最適化が可能である。
【0056】
一実施態様において、本発明は、上述のような方法とシステムに関するものであり、さらに励起パルス列は、励起パルスとエコー応答との間の相関関係を利用するように適合している。周波数の数、周波数の間隔、各周波数の振幅および位相が特に調整できる。パルス列中の励起パルスとエコー応答におけるエコーパルスの特徴は同じであるが、信号対雑音比は、スペクトル拡散技術を用いることで増加できる。それゆえに、異なる形状を有するパルスを用いてもよい。どの周波数も特定の振幅/位相を有してもよい。一例では、生じる伝送シーケンスは、プローブに印加できる。伝送信号とプローブから到来する受信信号とを相関付けた場合、得られる信号は、対応のパルス列で励起されるそれらのプローブにとって最大になる。多重アンテナの設定では、これは、異なるアンテナ間で区別するために使用できる。異なるパルス形状が、より良好な空間分解能を取得するためにも使用できる。
【0057】
いくつかの実施態様において、本発明は、パルス電子常磁性共鳴を実行するシステムに関する。該システムは、好都合には、詳細に上述したような方法を実行するように適合できる。システム900は、図9に示す一実施態様に係る例であり、典型的には、静磁場発生器902を備える。その静磁場発生器または発生手段902は、例えば永久磁石や電磁石など、任意のタイプの磁場発生器でもよい。システム900は、磁気励起パルス列を発生するように適合した励起パルス列発生器または発生手段904を備える。こうした励起パルス列発生器904は、例えば電磁石アンテナなど、任意の適切な手段でもよい。磁気励起パルス列発生器904は、応答間の正の干渉をベースとするプローブによってエコー応答が発生するように、励起パルス列を発生するように適合してもよい。磁気パルス列発生器904は、磁気励起パルス列発生器904を相応に制御するように適合したコントローラ906を備えてもよい。こうしたコントローラ906は、例えばプロセッサ上で実行されるソフトウェアまたはハードウェアとして実装できる。代わりに、該コントローラは、励起パルス列発生器904と連携する分離したコンポーネントでもよい。システム900は、調査対象の物体からのエコー応答を検出するように適合した検出手段または検出器908をさらに備える。こうした検出器908は、受信アンテナでもよい。システムは、例えば物体テーブルなど、1つまたはそれ以上の物体ホルダ910と、トポロジー的方法で情報を検出する走査システム912と、検出器908を用いて取得した結果を処理するプロセッサ914などをさらに備えてもよい。他の特徴は、既知のパルス電子常磁性共鳴システムで知られるものでもよく、上記のパルスEPR方法についての上述のような機能性を表す特徴でもよい。
【0058】
第2の態様において、本発明は、パルス電子常磁性共鳴測定を準備する方法に関する。該方法は、励起パルス列によって励起される個々の周波数間の正の干渉をベースとするプローブ、例えば広い線幅を有するブローブからのエコー応答を誘導するように適合した励起パルス列を設計することを含んでもよい。設計は、それゆえに、例えば励起パルス列に用いられる周波数間の適切なステップサイズを選択することによって、信号対騒音比を向上または最適化するために励起パルス列の特性を調節または選択することを考慮してもよい。設計は、その追加または代替として、特定のパルス形状を調整または選択すること、例えば、励起パルス列において用いられる周波数の1つまたはそれ以上または各々について適切な振幅または位相を選択することを含んでもよい。設計は、その追加または代替として、測定されるプローブの線幅に依存して、最適帯域幅を選択することを含んでもよい。上述のように、一例では、周波数は、パルス列の後の最初のエコー信号が、アンテナのリングダウンの直後であり、測定可能な最も最適な信号が得られるように選択できる。
【0059】
例として、本発明の実施態様はそれに限られないが、典型的な実験を検討し、受信されるEPR応答へのパルス列の影響を説明している。パルス列の影響であって、シングルパルスに対しては発生しない応答が得られることがわかる。
【0060】
実験において、レゾビスト粒子、および直径25nmの超常磁性粒子への影響を評価している。実験は、シーケンス1と呼ばれる最初のシーケンスがパルス列を含み、シーケンス2と呼ばれるその次のシーケンスがシングルパルスであるシーケンスの組み合わせを印加することにより実行される。。シーケンス1の後だけエコーが予想される。シーケンス1がシーケンス2と比較して位相シフトπを有するように、シーケンス1とシーケンス2を交互に行い、データを平均化することによって、得られる結果は、シーケンス1において印加されるパルス列の影響を示す。サンプリング用のトリガーは、それぞれのシーケンスにおいて、シーケンスの終わりを基準として同時期に供給される。図10は、印加されたシーケンスの組み合わせを示し、トリガーの時期を示している。図11a〜図11cは、得られるEPR応答を表す。図11aは、別々の測定値を評価する場合に訂正および/または考慮するために用いられるバックグラウンド測定値を示す。図11bは、レゾビストを用いたEPR応答を表し、100nsでの応答の延長を示す。図11cは、25nmの超常磁性粒子を利用したEPR応答を表し、200nsの応答の延長をもたらす。各図は、3つの曲線を示す。実線は、50ガウスの静磁場に対応し、破線は、90ガウスの静磁場に対応し、点線は1500ガウスの静磁場に対応する。さらに、追加の影響が、これら25nmの粒子に対するパルスの後に見られる。その影響は、より大きな静磁場に対してより顕著でなくなる。
【0061】
更なる態様において、本発明の実施態様は、パルスEPRを実行し、上記のように、または上記システムにより機能的に得られるパルスEPRを設計するためのコンピュータに備えられた方法に関する。本発明の実施態様は、対応するコンピュータプログラム製品またはパルスEPRを実行するためのシステムを制御するためのコントローラ、若しくは上記のパルスEPR実験の設計に関する。そのような方法は、例えば汎用コンピュータのようなコンピュータシステムにおいて実行してもよい。コンピュータシステムは、入力手段、および、単一のデータプロセッサまたは複数のプロセッサとして設置されるデータプロセッサでもよい。コンピュータシステムは、プロセッサ、例えばROMまたはRAMを含む記憶システム、例えばCD−ROMまたはDVDドライブのような出力システム、ネットワーク上で情報を出力する手段を備えてもよい。従来のコンピュータ構成要素、例えばキーボード、ディスプレイ、ポインティングデバイスなども含んでもよい。データの移送は、データバスをベースとして行われる。コンピュータシステムの記憶装置は、コンピュータシステム上で実行される場合、上述したような方法の標準ステップ、および必要に応じて上述したような任意ステップを実施する1組の命令を含んでもよい。それゆえに、パルスEPRを実行し、設計する方法を実施する命令を含むコンピュータシステムは、先行技術の一部でない。
【0062】
本発明の実施形態の更なる態様は、コンピュータ装置上で実行するための機械読み取り可能なコードを運ぶキャリア媒体に埋め込まれたコンピュータプログラム製品を包含する。コンピュータプログラム製品自体は、データ記録媒体、例えば、dvdまたはcd−romまたはメモリ装置などである。従って、実施形態の態様は、コンピュータプログラム製品、およびそれに対応する伝送信号を、ネットワーク、例えば、ローカルネットワークまたはワイドエリアネットワークなどを通じて送信することも包含する。
【0063】
本発明は、図面および前述の説明において詳細に図示し、記載したが、その図示および記載は、説明的または例示的で限定的なものではないと考えるべきである。本発明は、開示した実施形態に限定されない。開示した実施形態に対する他の変形が、図面、開示内容および添付した請求項の研究から、請求項の発明を実施する際に、当業者によって理解され実施される。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス電子常磁性共鳴を実施する方法であって、
プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生することと、
励起パルス列によって誘導されるエコー応答を該プローブから検出することとを含む方法。
【請求項2】
励起パルスを発生することは、エコー応答を形成するプローブの応答間で、正の干渉効果を誘導する励起パルスを発生することを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
エコー応答を検出することは、物体内で分布するプローブからのエコー応答を位相幾何学的に画像化することを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
励起パルスを発生することは、興味ある広帯域プローブの、所定の周波数を選択的に励起することを含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
エコー応答を検出することは、単磁区粒子からのエコー応答を検出することを含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
エコー応答を検出することは、広帯域共鳴超常磁性粒子からのエコー応答を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
励起パルス列を発生することは、異なるEPRパルスの形状が、物体のスピンプローブの共鳴の周波数依存性を少なくとも部分的に補償するように適合したEPRパルスシーケンスを発生することを含む請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
励起パルス列を発生することは、異なるEPR周波数の強度が、物質中のスピンプローブの共鳴または検出システムの電力依存性を少なくとも部分的に補償するように適合したEPRパルスシーケンスを発生することを含む請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
スピンの初期配列を付与するために、スピンを有する物体に印加する静磁場を発生することをさらに含み、励起パルス列を発生することは、静磁場とは実質的に異なる向きを有するパルスを発生することを含む請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
パルス電子常磁性共鳴を実施するシステム(900)であって、
プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生する励起パルス発生器(904)と、
励起パルス列によって誘導されるエコー応答を該プローブから検出する手段(908)とを備えるシステム。
【請求項11】
励起パルス列発生器(904)は、興味ある広帯域プローブの所定の周波数を選択的に励起し、エコー応答を形成するプローブの応答間の励起パルス列の正の干渉効果を発生するためのコントローラ(906)を備える請求項10記載のシステム。
【請求項12】
検出手段は、物体内で分布したプローブからのエコー応答を位相幾何学的に画像化するように適合している請求項10または11記載のシステム(900)。
【請求項13】
パルス電子常磁性共鳴測定を準備する方法であって、励起パルス列の個々の周波数に対するプローブの個々の応答間の正の干渉をベースとして、プローブ、例えば広い線幅を有するプローブからのエコー応答を誘導するように適合した励起パルス列を設計することを含む方法。
【請求項14】
コンピュータ装置上で実行した場合、請求項1〜9または13のいずれかに記載された方法を実施するためのコンピュータプログラム製品。
【請求項15】
請求項14記載のコンピュータプログラム製品を備えるデータ記録媒体。
【請求項1】
パルス電子常磁性共鳴を実施する方法であって、
プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生することと、
励起パルス列によって誘導されるエコー応答を該プローブから検出することとを含む方法。
【請求項2】
励起パルスを発生することは、エコー応答を形成するプローブの応答間で、正の干渉効果を誘導する励起パルスを発生することを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
エコー応答を検出することは、物体内で分布するプローブからのエコー応答を位相幾何学的に画像化することを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
励起パルスを発生することは、興味ある広帯域プローブの、所定の周波数を選択的に励起することを含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
エコー応答を検出することは、単磁区粒子からのエコー応答を検出することを含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
エコー応答を検出することは、広帯域共鳴超常磁性粒子からのエコー応答を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
励起パルス列を発生することは、異なるEPRパルスの形状が、物体のスピンプローブの共鳴の周波数依存性を少なくとも部分的に補償するように適合したEPRパルスシーケンスを発生することを含む請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
励起パルス列を発生することは、異なるEPR周波数の強度が、物質中のスピンプローブの共鳴または検出システムの電力依存性を少なくとも部分的に補償するように適合したEPRパルスシーケンスを発生することを含む請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
スピンの初期配列を付与するために、スピンを有する物体に印加する静磁場を発生することをさらに含み、励起パルス列を発生することは、静磁場とは実質的に異なる向きを有するパルスを発生することを含む請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
パルス電子常磁性共鳴を実施するシステム(900)であって、
プローブを備える物体に印加するための励起パルス列を発生する励起パルス発生器(904)と、
励起パルス列によって誘導されるエコー応答を該プローブから検出する手段(908)とを備えるシステム。
【請求項11】
励起パルス列発生器(904)は、興味ある広帯域プローブの所定の周波数を選択的に励起し、エコー応答を形成するプローブの応答間の励起パルス列の正の干渉効果を発生するためのコントローラ(906)を備える請求項10記載のシステム。
【請求項12】
検出手段は、物体内で分布したプローブからのエコー応答を位相幾何学的に画像化するように適合している請求項10または11記載のシステム(900)。
【請求項13】
パルス電子常磁性共鳴測定を準備する方法であって、励起パルス列の個々の周波数に対するプローブの個々の応答間の正の干渉をベースとして、プローブ、例えば広い線幅を有するプローブからのエコー応答を誘導するように適合した励起パルス列を設計することを含む方法。
【請求項14】
コンピュータ装置上で実行した場合、請求項1〜9または13のいずれかに記載された方法を実施するためのコンピュータプログラム製品。
【請求項15】
請求項14記載のコンピュータプログラム製品を備えるデータ記録媒体。
【図2】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2012−504247(P2012−504247A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529548(P2011−529548)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062723
【国際公開番号】WO2010/037801
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062723
【国際公開番号】WO2010/037801
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
[ Back to top ]