説明

パルプ、紙及びパルプの製造方法

【課題】セルロース廃繊維材料を溶解するなどの複雑な化学反応操作を必要とせず、且つ、色分けや染料種別による制限をすることなく、あらゆるセルロース廃繊維材料に利用できるパルプの製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース廃繊維材料をアルカリ金属水酸化物溶液中で浸漬処理し、その廃繊維材料をアルカリ金属水酸化物溶液が含まれた状態で粉砕処理することによりパルプを製造する。また、当該パルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなる紙を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを含有する廃繊維材料を原料としたパルプ、当該パルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなる紙及び当該パルプの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維製品の製造工程で廃棄される繊維材料や衣料等の繊維製品に利用された後に廃棄される繊維材料は、その一部が、反毛という操作により、再度、新たな繊維材料に加工されている。しかし、その大部分は、再利用されずに廃棄されているのが現状である。また、衣料等に利用された繊維材料は染色等がなされており、そのままでは再利用できない場合が多い。
【0003】
しかし、資源保護の観点から、これらの有効な再利用が望まれる。特に、セルロースを含有する廃繊維材料(以下、セルロース廃繊維材料という。)の再利用は、バイオマス資源としても重要である。
【0004】
そこで、染色されたセルロース廃繊維材料を有効な資源として再利用する方法が提案されている。例えば、下記特許文献1には、染色されたセルロース廃繊維材料を原料として再利用し、化学反応によりレーヨン繊維やセロファンフィルム等の再生セルロース材料として利用するビスコースの製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開平8−239504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記製造方法は、セルロース廃繊維材料をビスコースという化学物質に溶解してから利用するものであり、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状をそのまま利用するものではない。
【0006】
また、上記製造方法では、セルロース廃繊維材料をビスコースに溶解するために、複雑な化学反応操作を必要とする。
【0007】
更に、上記製造方法では、脱色操作のために色分けしたセルロース廃繊維材料を使用しなければならず、且つ、還元性硫黄化合物を用いる脱色操作においては、特定の染料種別であるビニルスルホン型反応染料で染色されたセルロース廃繊維材料しか使用できない。
【0008】
従って、上記製造方法は、再利用するセルロース廃繊維材料に対する制限も多く、あらゆるセルロース廃繊維材料に利用できるものではない。
【0009】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、セルロース廃繊維材料を有効に再利用して、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状をそのまま利用したパルプ及び当該パルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなる紙を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、セルロース廃繊維材料を溶解するなどの複雑な化学反応操作を必要とせず、且つ、色分けや染料種別による制限をすることなく、あらゆるセルロース廃繊維材料に利用できるパルプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、鋭意研究の結果、セルロース廃繊維材料をアルカリ金属水酸化物溶液中で浸漬処理すると、セルロース廃繊維材料に染料、樹脂及び仕上剤等が付与されていた場合にもこれらが除去され、また、その後に粉砕処理すると、紡績による撚りや製布による織編組織があった場合にもこれらが解除されてパルプが得られ、上記目的を達成できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明に係るパルプは、セルロース廃繊維材料を原料としたことを特徴とする。また、本発明に係る紙は、セルロース廃繊維材料を原料としたパルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、セルロース廃繊維材料を有効に再利用して、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状をそのまま利用したパルプ及び当該パルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなる紙を提供することができる。
【0014】
一方、本発明に係るパルプの製造方法は、セルロース廃繊維材料をアルカリ金属水酸化物溶液中で浸漬処理する工程と上記廃繊維材料を上記アルカリ金属水酸化物溶液が含まれた状態で粉砕処理する工程とを有することを特徴とする。
【0015】
上記製造方法によれば、セルロース廃繊維材料を溶解するなどの複雑な化学反応操作を必要とせず、且つ、色分けや染料種別による制限をすることなく、あらゆるセルロース廃繊維材料に利用できるパルプの製造方法を提供することができる。
【0016】
上記パルプは、セルロース廃繊維材料が染色されていた場合には、当該染料が脱色されており、また、樹脂や仕上剤等も除去されているので、通常のパルプとして製紙材料等に使用することができる。
【0017】
更に、上記パルプの状態は、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状をそのまま残しており、そのセルロース繊維が分割細分化し、また、フィブリル化しており、製紙材料としての叩解パルプに酷似した形状を持っている。
【0018】
即ち、上記パルプは、通常の製紙材料であるパルプとその形状、性質において何ら変わることなく、製紙材料の少なくとも一部としてそのまま使用することができる。
【0019】
ここで、パルプとは、木材等から繊維状物を取り出した、セルロースを主成分とする素材の総称であり、特に製紙材料としてのパルプは、木材繊維を主要な原料とするが、ムギワラ、イネワラ、アシ、ヨシ等の維管束繊維や、コウゾ、ミツマタ、ガンピ等の靭皮繊維等の非木材繊維も使用される。
【0020】
本発明において、セルロースを含有する廃繊維材料(セルロース廃繊維材料)とは、綿、麻、カポック、ケナフ、竹等の天然セルロース繊維(木材繊維、維管束繊維及び靭皮繊維を含む)、或いは、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、テンセル等の再生セルロース繊維を含有するワタ、糸、織物、編物、不織布又は紙等の廃繊維材料であって、繊維製品の製造工程や繊維製品の使用後に廃棄された廃繊維材料をいう。これらには、和紙等の紙をスリットした後に糸にして織編した素材の廃繊維材料も含まれる。上記セルロース廃繊維材料の中で、本発明の目的には、特に天然セルロース繊維を含有する廃繊維材料が好ましく、更に、綿を含有する廃繊維材料が特に好ましい。
【0021】
上記セルロース廃繊維材料は、セルロース繊維の単独からなるものであってもよく、又は、混紡、交織、交編等により羊毛等のタンパク繊維や合成繊維等の他の繊維と混用されているものであってもよい。
【0022】
本発明は、セルロース資源の再利用をはかる目的からは、一般には、廃棄されるセルロース廃繊維材料を対象とする。しかし、廃棄されるものに限られるものではなく、新しいセルロース繊維材料であっても使用されることのない繊維材料、或いは、廃棄されたセルロース廃繊維材料と新しいセルロース繊維材料が混ざった状態の繊維材料にも利用することができる。
【0023】
上記セルロース廃繊維材料には、紡績工程で生じる落綿や廃棄糸、製布工程で生じる廃棄糸やハギレ、染色工程で生じる染色ハギレ、縫製工程で生じる裁断ハギレ、及び、流通、消費段階で衣料等として使用された後の廃棄衣料等がある。
【0024】
これらのセルロース廃繊維材料の状態はどのようであってもよく、染色、樹脂加工又は仕上加工、或いは、裁断や縫製がなされているものであってもよい。更に、本発明においては、特に、紡績による撚りや製布による織編組織があっても、これらを簡単に解除することができるので、セルロース廃繊維材料が紡績糸、織物又は編物であっても有効に再利用することができる。
【0025】
上記セルロース廃繊維材料は、セルロース染色用染料で染色されていてもよい。当該セルロース染色用染料は、一般に使用される染料でよく、例えば、反応染料、直接染料、スレン染料、アゾイック染料、硫化染料等がある。また、反応染料においては、セルロースと反応する反応基の種別は何であってもよく、例えば、ビニルスルホン型、トリアジン型又はピリミジン型等、どのような反応基を有する染料であってもよい。一方、セルロース系繊維と混紡等されている他の繊維も当該繊維用染料で染色されていてもよい。
【0026】
また、本発明において、アルカリ金属水酸化物溶液とは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム及び水酸化フランシウムの水溶液をいう。これらの中で、本発明の目的には、特に水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カリウム水溶液が好ましく、更に、水酸化ナトリウム水溶液がより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本第1実施形態は、染色工程で廃棄される工程間ハギレを再利用して、パルプを製造するものである。
【0028】
上記ハギレは、綿100(%)織物に捺染、樹脂加工及び仕上加工が施されたものであり、目付け80(g/m2)〜200(g/m2)のものが混在している。捺染は、主にモノクロルトリアジン型反応染料とビニルスルホン型反応染料を使用している。
【0029】
以下に本第1実施形態を図1の各工程に従って説明する。
【0030】
1.廃繊維材料の細断工程S1
この細断工程S1においては、必要により上記ハギレを細かく細断する。当該ハギレは、その幅、長さが不揃いであり、次工程以下での取り扱い上の便宜から、細片にしてサイズをほぼ統一した方が好ましい。
【0031】
細断は、一般的な方法でよく、各種切断機が使用できる。例えば、シュレッダーやカッティングミル等が使用できる。本第1実施形態においては、具体的には、加藤製作所製産業廃棄物処理切断機K−500を使用して、当該切断機で2回処理することにより、約1(cm)角の繊維細片を得た。
【0032】
2.廃繊維材料の浸漬工程S2
この浸漬工程S2においては、上記細断工程S1で得られた繊維細片を水酸化ナトリウム水溶液中で浸漬処理する。
【0033】
ここで、上記水酸化ナトリウム水溶液のセルロース廃繊維材料に対する作用を説明する。一般に、セルロース繊維に高濃度のアルカリが作用すると、セルロースがアルカリセルロースという状態になり、繊維が膨潤し非晶化する。この膨潤し非晶化したセルロース繊維は、分子間及び分子内の水素結合が切られており、物性が低下し、繊維表面に付着した樹脂や仕上剤等が除去されやすい状態になっている。
【0034】
また、セルロースに染着した反応染料の反応基も切断されやすく、セルロース繊維の脱色が進んでいる。更に、セルロース繊維の膨潤により紡績の撚りが戻り、織編組織がほつれ、糸の撚りや布組織が解除されやすい状態になっている。
【0035】
本浸漬工程S2において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、一般には、10(重量%)〜30(重量%)の範囲以内、好ましくは、15(重量%)〜26(重量%)の範囲以内であることがよい。この範囲以内にあることにより、セルロースがアルカリセルロースに変化しやすく、セルロース繊維が膨潤し非晶化しやすくなる。
【0036】
また、本浸漬工程S2において、処理温度は、一般に、10(℃)〜90(℃)の範囲以内、好ましくは、30(℃)〜70(℃)の範囲以内であることがよい。処理温度がこれらの範囲以内にあることにより、水酸化ナトリウム水溶液がセルロース繊維に容易に浸透し、その結果、セルロースがアルカリセルロースに変化しやすく、セルロース繊維が膨潤し非晶化しやすくなる。
【0037】
また、本浸漬工程S2において、処理時間は、セルロース廃繊維の状態及び処理温度との関係で適宜選択されるものであり、特に限定するものではない。一般には、高温での処理においては短時間でよく、低温での処理においては長時間を必要とする。
【0038】
例えば、綿を含有するセルロース廃繊維の場合、90(℃)の高温においては30分程度の時間でよく、一方、50(℃)の中温においては48時間程度を要し、更に、30(℃)の低温においては1週間程度を要する。
【0039】
本第1実施形態においては、具体的には、上記細断工程S1で細断された10(g)の繊維細片を90(g)の水酸化ナトリウム水溶液(20(重量%)水溶液)に浸漬した。浸漬処理における処理液の温度は50(℃)、処理時間は72時間であった。本浸漬工程S2においては、特に攪拌等の操作は行わなかった。
【0040】
浸漬処理後の繊維細片は、水酸化ナトリウム水溶液中でセルロース繊維が膨潤し非晶化して織組織の一部がほつれ、糸の撚りが一部戻り、布組織が解除されやすい状態であった。また、染料がある程度脱色され、水酸化ナトリウム水溶液が着色された状態であった。
【0041】
3.廃繊維材料の粉砕工程S3
この粉砕工程S3においては、上記浸漬工程S2で得られた浸漬処理後の繊維細片を粉砕装置により粉砕し、パルプの状態にする。
【0042】
ここで、本粉砕工程S3の作用を説明する。上記浸漬工程S2でセルロースがアルカリセルロースに変化し、膨潤し非晶化した状態のセルロース繊維は、上述のように分子間及び分子内の水素結合が切られ、物性が低下しており、粉砕処理により容易にセルロース繊維が分割細分化し、フィブリル化する。しかし、この状態においても、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状は保たれる。
【0043】
また、繊維表面に付着した樹脂や仕上剤等が完全に除去され、セルロースに染着した反応染料の反応基も切断され、セルロース繊維の脱色が十分に進行する。更に、セルロース繊維の膨潤と粉砕処理の機械力により、糸の撚りや織編組織が完全に解除される。
【0044】
この状態のセルロース繊維は、製紙材料としての叩解パルプに酷似した形状を持っている。即ち、上記パルプは、通常の製紙材料としてのパルプとその形状、性質において何ら変わることがない。
【0045】
更に、本粉砕工程S3における粉砕の程度を調整することにより、セルロース繊維の繊維長を自由にコントロールすることができる。
【0046】
粉砕は、一般的な方法でよく、各種粉砕機が使用できる。例えば、ボールミル等のミル装置、アイリッヒクラッシャー、グラインダー、リファイナー等が使用できる。本実施形態においては、フリッチュ社製遊星型ボールミルP−6を使用した。
【0047】
本第1実施形態においては、具体的には、上記浸漬工程S2で浸漬処理して膨潤した繊維細片(10(g)の繊維細片と90(g)の水酸化ナトリウム水溶液が混合された状態)に更に50(g)の水酸化ナトリウム水溶液(20(重量%)水溶液)を追加して全量を150(g)とした。これを500(ミリリットル)のステンレス製容器に入れ、外径30(mm)のスレンレス製ボール10個及び外径25(mm)のスレンレス製ボール5個を投入して、上記フリッチュ社製遊星型ボールミルP−6にセットし、回転数を300(rpm)として10分間粉砕した。粉砕処理開始温度は25(℃)であったが、粉砕処理終了後の温度は40(℃)であった。
【0048】
粉砕処理後においては、上記繊維細片は、織物又は糸としての形状を留めず、膨潤した繊維微細片が水酸化ナトリウム水溶液中で分散したスラリを得た。上記膨潤した繊維微細片は、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状を保ち、分割細分化し、フィブリル化している。また、染料は十分に脱色されていた。
【0049】
4.廃繊維材料の洗浄工程S4
この洗浄工程S4においては、上記粉砕工程S3で得られた繊維微細片のスラリから余剰の水酸化ナトリウム水溶液を脱液し、必要により中和をした後、当該繊維微細片を洗浄する。また、必要により漂白する。
【0050】
中和をする際には、酸を使用するが、硫酸等の鉱酸又は酢酸等の有機酸が使用できる。中和後、過剰の酸を洗浄して、パルプを得る。更に、必要により脱水及び乾燥を行う。
【0051】
更に、パルプは、必要により漂白される。上記中和、洗浄されたパルプにおいては、染料は十分に脱色されているが、若干、青みがかった色を残している。そこで、漂白紙の製紙材料とする場合には、更に、上記パルプの漂白が必要である。漂白は、一般的な還元漂白及び/又は酸化漂白でよい。
【0052】
本第1実施形態においては、中和及び洗浄を行わずに漂白を行った。具体的には、パルプから余剰の水酸化ナトリウム水溶液を遠心脱水機で脱液し、この固形分が約10(g)のパルプを浴比1:50の還元浴(10(g/リットル)のハイドロサルファイトを含む)中で、90(℃)で45分間、還元漂白を行った。
【0053】
続いて、洗浄後、浴比1:50の酸化浴(10(g/リットル)の過酸化水素水(35(重量%)水溶液)及び1.4(g/リットル)の水酸化ナトリウムを含む)で、90(℃)で45分間、酸化漂白を行った。漂白後、洗浄し脱水して漂白パルプを得た。得られた漂白パルプは、十分な白度を有していた。
【0054】
本第1実施形態により得られたパルプは、セルロース廃繊維材料を有効に再利用して、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状をそのまま利用したものである。
【0055】
図2に本第1実施形態により製造されたパルプを写した電子顕微鏡写真を示す。図2から明らかなように、本第1実施形態で得られた上記パルプは、セルロース繊維が、分割細分化し、フィブリル化し、製紙材料としての叩解パルプに酷似した形状を持っている。即ち、上記パルプは、通常の製紙材料としてのパルプとその形状、性質において何ら変わることがなく、製紙されて紙になった後も、通常の紙の再パルプ化のリサイクルシステムにより、複数回再利用することも可能である。
【0056】
更に、本第1実施形態の構成によれば、セルロース廃繊維材料を溶解するなどの複雑な化学反応操作を必要とせず、且つ、色分けや染料種別による制限をすることなく、あらゆるセルロース廃繊維材料に利用できるパルプの製造方法を提供することができる。
【0057】
また、ビスコース製造設備のような大規模な設備を必要とせず、製造装置は実情により小規模設備から大規模設備まで、任意に選定して実施することができる。
【0058】
また、上記浸漬工程S2で使用する水酸化ナトリウム水溶液は、例えば、染色工程で廃棄される廃アルカリ(主に水酸化ナトリウム水溶液)を使用することができる。この場合には、コストメリットを有すると共に、資源の有効利用が更に図られる。
【0059】
更に、上記洗浄工程S4で脱液された使用済み水酸化ナトリウム水溶液は、不足の水酸化ナトリウムを追加することにより、何度でも繰り返し使用することができる。
【0060】
この場合、繰り返し使用した後の水酸化ナトリウム水溶液中には、可溶化したアルカリセルロースや分解有機化合物が多く含まれており、これを濃縮することで、木材原料をパルプ化する際の蒸解排液(通称、黒液という。)と同等の発熱量を有する燃料として利用することもできる。
(第2実施形態)
本第2実施形態は、上記第1実施形態で得られた漂白パルプを製紙材料として紙を製造するものである。従って、上記漂白パルプを得る方法は、上記第1実施形態において説明した方法と同様である。
【0061】
上記漂白パルプを製紙材料として使用する場合には、上記漂白パルプを100(%)使用してもよく、また、製紙材料の一部に上記漂白パルプを使用してもよい。好ましくは、通常の製紙工程の製紙材料の一部に上記漂白パルプを混入させることにより、通常工程の製紙工程を変化させることなく、且つ、セルロース廃繊維材料の有効な再利用が図られる。
【0062】
製紙工程は、通常に行われる製紙方法のいずれの方法で行ってもよい。本第2実施形態においては、以下の方法で製紙した。
【0063】
具体的には、上記第1実施形態の上記洗浄工程S4で得られた10(g)の漂白パルプと2(g)の針葉樹漂白パルプとを混合した製紙材料及び製紙用粘質物として50(g)のアルコックスK−2(明成化学工業株式会社製ポリエチレンオキサイド)を2(リットル)の水に分散する。これを3等分し、タッピ手漉き装置を用いて製紙し、プレス絞り後、120(℃)で5分間プレス乾燥して、500(cm2)の漂白紙3枚を得た。
【0064】
図3に本第2実施形態により製造された紙の表面形状を写した電子顕微鏡写真を示す。図3に示される本第2実施形態で得られた紙の表面形状は、一般的な市販の上質紙の表面形状と類似しており、また、その物性、性能においても何ら変わるものではなかった。
【0065】
本第2実施形態により得られた紙は、セルロース廃繊維材料を有効に再利用して、セルロース繊維が本来有している繊維状物としての形状をそのまま利用したものである。
【0066】
また、上記紙に含有されるパルプは、通常の紙のリサイクルシステムにより、複数回再利用することも可能である。
【0067】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)本発明に係るパルプは、上記第1実施形態の製造方法で作られたものに限定されるものではない。即ち、セルロース廃繊維材料を原料として得られ、セルロース繊維が、分割細分化し、フィブリル化しているパルプであればよい。
(2)本発明に係る紙は、上記第2実施形態の製造方法で作られたものに限定されるものではない。即ち、セルロース廃繊維材料を原料として得られ、セルロース繊維が、分割細分化し、フィブリル化しているパルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなる紙であればよい。
(3)本発明に係るパルプは、上記各実施形態の製紙用パルプに限定されるものではなく、溶解パルプ等の他の用途にも使用できる。
(4)本発明に係るパルプは、上記各実施形態の漂白パルプに限定されるものではなく、漂白を行わない未晒パルプの状態であってもよい。
(5)本発明に係るセルロース廃繊維材料は、上記各実施形態の綿100(%)織物に限定されるものではなく、ワタ、糸、編物又は不織布等のセルロース廃繊維材料も使用することができる。
(6)本発明に係るセルロース廃繊維材料が、綿を含有するものである場合、当該綿は未精練の状態であってもよい。即ち、コットンワックス等の不純物が除去されていない原綿の状態であっても、本発明により十分に精練されるからである。
(7)本発明は、通常の紙の再生利用に対しても同様の作用効果を有する。即ち、上質紙、再生紙の他、各種塗工紙にも本発明を実施することができる。各種塗工紙の場合にも、塗工材料の除去が容易で、紙が速やかに製紙用パルプに再生される。
(8)本発明に係るセルロース廃繊維材料は、上記各実施形態の綿100(%)織物に限定されるものではなく、混紡、交織、交編等により綿等のセルロース繊維と羊毛等のタンパク繊維や合成繊維等の他の繊維とが混用されているセルロース廃繊維材料も使用することができる。
【0068】
この場合には、上記タンパク繊維やポリエステル等の上記合成繊維は、浸漬工程において、水酸化ナトリウム水溶液で加水分解され、セルロース繊維からなるパルプと容易に分離することができる。この場合には、上記加水分解の必要から水酸化ナトリウム水溶液の温度を高くする場合もある。
(9)本発明に係るセルロース廃繊維材料は、上記各実施形態の綿100(%)織物に捺染、樹脂加工及び仕上加工が施されたものに限定されるものではなく、上記樹脂加工の代わりに撥水加工がなされているものであってもよい。この場合においても、上記第1実施形態の製造方法により、当該撥水加工の撥水剤は完全に除去されるものである。
(10)上記第1実施形態においては、浸漬工程S2の後に粉砕工程S3を行っているが、粉砕工程S3は、浸漬工程S2と同時に行ってもよい。セルロース繊維の膨潤は、比較的短時間から始まるからである。
【0069】
また、粉砕工程S3を浸漬工程S2と同時に行った後に、更に浸漬工程S2を継続して行ってもよい。粉砕処理後にセルロース繊維の膨潤が更に進行し、また、脱色が進むからである。
(11)上記第1実施形態における洗浄工程S4の代わりに、粉砕工程S3を終えた繊維微細片のスラリを通常のパルプ又は再生パルプの漂白工程にその一部として直接組み込んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のパルプの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
【図2】上記第1実施形態により製造されたパルプの形状を写した電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態により製造された紙の表面形状を写した電子顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
S1…細断工程、S2…浸漬工程、S3…粉砕工程、S4…洗浄工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含有する廃繊維材料を原料としたパルプ。
【請求項2】
セルロースを含有する廃繊維材料を原料としたパルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなる紙。
【請求項3】
セルロースを含有する廃繊維材料をアルカリ金属水酸化物溶液中で浸漬処理する工程と、
前記廃繊維材料を前記アルカリ金属水酸化物溶液が含まれた状態で粉砕処理する工程とを有することを特徴とするパルプの製造方法。
【請求項4】
前記セルロースを含有する廃繊維材料が、セルロース染色用染料で染色されている請求項3に記載のパルプの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースを含有する廃繊維材料が、紡績糸、織物又は編物の中から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項3又は4に記載のパルプの製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属水酸化物溶液が、10(重量%)〜30(重量%)の水酸化ナトリウム水溶液である請求項3〜5のいずれか1つに記載のパルプの製造方法。
【請求項7】
前記浸漬処理において、処理液の温度が10(℃)〜90(℃)の範囲以内の温度である請求項3〜6のいずれか1つに記載のパルプの製造方法。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1つに記載のパルプの製造方法により製造したパルプを製紙材料の少なくとも一部として製紙されてなる紙。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−308816(P2007−308816A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137177(P2006−137177)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】