説明

パルプの製造方法

【課題】 パルプおよびリグニンの収率を高める。使用する高沸点有機溶剤を再利用して、経済性を高めるとともに、パルプ化工程での圧力を低くして、設備費、運転コストの軽減を図ることができるパルプの製造方法を提供する。
【解決手段】 木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料(パルプ原料)と、アルコール類に可溶であってかつ常圧での沸点が150〜290℃の高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒とを耐圧容器に充填して加熱処理し、パルプ化する。パルプ化後の蒸解液からパルプ(粗パルプ)と廃液とを分離し、分離されたパルプを高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄して、パルプを取得する。パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄排出液とに水を加えてリグニンを沈殿させ、リグニン分離後の濾液から高沸点有機溶剤を含む溶剤を回収し、回収した高沸点有機溶剤を、パルプ化工程および/またはパルプ洗浄工程において再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料(パルプ原料)から、パルプを製造する方法としては、化学パルプ化法、および溶剤パルプ化法が知られている。化学パルプ化法には、クラフトパルプ化法、および亜硫酸によるパルプ化法があるが、いずれも比較的高い設備費がかゝるうえに、設備汚染という問題があった。
【0003】
このような化学パルプ化法の代替方法として、溶剤パルプ化法が現在、注目されてきている。溶剤パルプ化法は、植物バイオマス原料(パルプ原料)を、水溶性有機溶剤で処理して、パルプ原料から、リグニン、ヘミセルロース、糖、およびセルロース分を分離するものである。このようなパルプの製造方法としては、従来、つぎのような特許文献がある。
【特許文献1】米国特許第4,100,016号公報 特許文献1に開示されているパルプの製造方法では、有機溶剤・水−黒液からリグニンの回収に、水による希釈方法を採用している。
【0004】
また、溶剤パルプ化法によるパルプの製造方法において、高沸点有機溶剤を用いる方法も公知である。
【特許文献2】特開2001−89986号公報 特許文献2に開示されているパルプの製造方法では、水溶性の高沸点有機溶剤を用いており、また、パルプ化工程および洗浄工程において水を用いている。
【特許文献3】米国特許第2,772,968号公報(1950年) Grondal、B.L.et.alによるこの特許文献3には、トリエチレングリコール−AlCl3によるパルプ化方法が開示されている。
【非特許文献1】Pap.Puu.69(1987)、(6)、500−504 Johason et.alによるこの非特許文献1には、THFA−HClによるパルプ化方法が開示されている。
【非特許文献2】Appita 3(11)29(1977) Nelsonによるこの非特許文献2には、エチレングリコール−サリチル酸によるパルプ化方法が開示されている。
【非特許文献3】Chemtech 132(8)490(1874) Scheersによるこの非特許文献3には、フェノールによるパルプ化方法が開示されている。
【非特許文献4】Japan Tappi、42(1988)(5),487−496 Sano et.alによるこの非特許文献4には、クレゾールによるパルプ化方法が開示されている。
【非特許文献5】Holzforshung、53(1999)411−415 Sano and Urakiによるこの非特許文献5には、多価アルコール−HClによる常圧パルプ化方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来法によれば、有機溶剤・水−黒液からリグニンの回収に、水による希釈方法が採用されているが、効率が良いものではなかった。そこで、改良法として、酸を加えた水を用いた希釈方法も、従来より提案されているが、酸を添加するために、溶剤の利用に不都合が生じるという問題があった。
【0006】
また、水溶性の高沸点有機溶剤を用いた特許文献2のパルプの製造方法では、パルプ化工程および洗浄工程において水を用いているので、高沸点有機溶剤に水を加えた高沸点有機溶媒は、パルプ化工程において非常に高圧であるという問題があった。なお、特許文献2のパルプの製造方法では、パルプ化工程および洗浄工程において水を用いているだけで、アルコールに関しては、何も記載されていない。
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、パルプを効率よく取得することができるとともに、リグニンをも効率よく取得することができ、しかも使用する高沸点有機溶剤を再利用することができて、非常に経済的であるうえに、パルプ化工程での圧力が非常に低くてすみ、設備費、および運転コストが非常に安くつく、パルプの製造方法を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、使用する高沸点有機溶剤および廃液、パルプ洗浄液などから、リグニンの回収、並びに高沸点有機溶剤の効率的な再利用を組み合わせたパルプ化方法を検討する中で、高沸点有機溶剤を効率的に再利用する方法を見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1のパルプの製造方法の発明は、木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料と、アルコール類に可溶であってかつ常圧での沸点が150〜290℃の高沸点有機溶剤を50〜80重量%含むアルコール性溶媒とを、液比4〜10で耐圧容器に充填し、180〜230℃に加熱処理するパルプ化工程と、パルプ化工程後の蒸解液からパルプ(粗パルプ)と廃液とを分離する工程と、分離されたパルプ(粗パルプ)を高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄して、パルプを取得するパルプ洗浄工程と、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液とに水を加えてリグニンを沈殿させ、濾過してリグニンを取得する工程と、リグニン分離後の濾液から所定のアルコールおよび水を除去して、高沸点有機溶剤を含む溶剤を回収し、回収した高沸点有機溶剤を、パルプ化工程および/またはパルプ洗浄工程において再利用する工程とを含むことを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のパルプの製造方法であって、高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄したパルプ洗浄工程からのパルプを、さらに水で洗浄し、この水洗浄液を希釈水としてリグニン取得工程において利用し、この水洗浄液を、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液との混合物よりなるパルプ廃液に攪拌下に加え、必要に応じて、さらに少量の水を加えて、リグニンを沈殿させることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のパルプの製造方法であって、高沸点有機溶剤が、グリセリン、およびエチレングリコールの単体、または混合物であることを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のパルプの製造方法であって、アルコールが、低沸点アルコールであることを特徴としている。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のパルプの製造方法であって、アルコール性溶媒が、低沸点アルコールと高沸点有機溶剤との混合物であり、230℃における蒸気圧が1.0MPa以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1のパルプの製造方法の発明は、木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料と、アルコール類に可溶であってかつ常圧での沸点が150〜290℃の高沸点有機溶剤を50〜80重量%含むアルコール性溶媒とを、液比4〜10で耐圧容器に充填し、180〜230℃に加熱処理するパルプ化工程と、パルプ化工程後の蒸解液からパルプ(粗パルプ)と廃液とを分離する工程と、分離されたパルプ(粗パルプ)を高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄して、パルプを取得するパルプ洗浄工程と、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液とに水を加えてリグニンを沈殿させ、濾過してリグニンを取得する工程と、リグニン分離後の濾液から所定のアルコールおよび水を除去して、高沸点有機溶剤を含む溶剤を回収し、回収した高沸点有機溶剤を、パルプ化工程および/またはパルプ洗浄工程において再利用する工程とを含むもので、本発明によれば、パルプを効率よく取得することができるとともに、パルプ化工程を、180〜230℃に設定することにより、リグニンの収率を高めることができ、それ以上のエネルギー使用量は、軽減することができるという優れた効果を奏する。
【0015】
また、高沸点有機溶剤にアルコールを加えたアルコール性溶媒を用いるため、パルプ化工程での圧力を、1.0MPa以下に非常に低く設定することができて、設備費、および運転コストが非常に安くつくという効果を奏する。
【0016】
そのうえ、使用する高沸点有機溶剤を再利用することができて、非常に経済的であるという効果を奏する。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1に記載のパルプの製造方法であって、高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄したパルプ洗浄工程からのパルプを、さらに水で洗浄し、この水洗浄液を希釈水としてリグニン取得工程において利用し、この水洗浄液を、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液との混合物よりなるパルプ廃液に攪拌下に加え、必要に応じて、さらに少量の水を加えて、リグニンを沈殿させるもので、本発明の方法によれば、アルコール性溶媒で洗浄後のパルプに水を加えて、水洗しているため、より高純度のパルプを取得することができるうえに、水洗浄液を希釈水として利用し、パルプ廃液に加えて、リグニンを沈殿させているため、洗浄水の再利用を図ることができて、運転コストが安くつき、非常に経済的であるという効果を奏する。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のパルプの製造方法であって、高沸点有機溶剤が、グリセリン、およびエチレングリコールの単体、または混合物であるもので、本発明によれば、これらの高沸点有機溶剤は、アルコールに可溶であるとともに、回収が容易で、有効に再利用することができて、運転コストが非常に安くつくという効果を奏する。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のパルプの製造方法であって、アルコールが、低沸点アルコールであるもので、本発明によれば、低沸点アルコールは、コストが安くつくだけでなく、高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒を用いるため、パルプ化工程での圧力が非常に低くてすみ、設備費、および運転コストが非常に安くつくという効果を奏する。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のパルプの製造方法であって、アルコール性溶媒が、低沸点アルコールと高沸点有機溶剤との混合物であり、230℃における蒸気圧が1.0MPa以下であるもので、本発明によれば、パルプ化工程での圧力を、このように非常に低く設定することができて、設備費、および運転コストが非常に安くつくという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明によるパルプの製造方法の第1実施形態を示すブロック図である。
【0023】
同図を参照すると、本発明によるパルプの製造方法の発明は、まず、パルプ化工程において、木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料(パルプ原料)と、アルコール類に可溶であってかつ常圧での沸点が150〜290℃の高沸点有機溶剤を50〜80重量%含むアルコール性溶媒とを、液比4〜10で耐圧容器に充填し、180〜230℃に加熱処理する。
【0024】
ここで、アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、またはブタノールよりなる低沸点アルコールを使用するのが、好ましい。このような低沸点アルコールは、コストが安くつくものである。
【0025】
また、高沸点有機溶剤としては、グリセリン、およびエチレングリコール等の多価アルコール類の単体、または混合物を用いるのが好ましい。
【0026】
つぎに、パルプ分離工程において、パルプ化工程後の蒸解液からパルプ(粗パルプ)と廃液とを分離する。
【0027】
ついで、パルプ洗浄工程において、分離されたパルプ(粗パルプ)を高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で、60〜80℃で洗浄して、パルプを取得する。
【0028】
そして、リグニン取得工程において、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液とに水を加えてリグニンを沈殿させ、濾過してリグニンを取得する。
【0029】
最後に、リグニン分離後の濾液から所定のアルコールおよび水を除去して、高沸点有機溶剤を含む溶剤を回収し、回収した高沸点有機溶剤を、パルプ化工程および/またはパルプ洗浄工程において再利用するものである。
【0030】
本発明のパルプの製造方法によれば、パルプを効率よく取得することができるとともに、パルプ化工程を、180〜230℃に設定することにより、リグニンの収率を高めることができ、それ以上のエネルギー使用量は、軽減することができるという優れた効果を奏する。
【0031】
また、高沸点有機溶剤にアルコールを加えたアルコール性溶媒を用いるため、パルプ化工程での圧力を、1.0MPa以下に非常に低く設定することができて、設備費、および運転コストが非常に安くつく。
【0032】
そのうえ、使用する高沸点有機溶剤を再利用することができて、非常に経済的である。
【0033】
図2は、本発明によるパルプの製造方法の第2実施形態を示すブロック図である。ここで、上記第1実施形態の場合と異なる点は、パルプ洗浄工程において、分離されたパルプ(粗パルプ)を高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で、60〜80℃で洗浄して、パルプを取得した後、この洗浄後のパルプに水を加えて、水洗する操作を加えた点にある。そして、この水洗浄液を希釈水としてリグニン取得工程において利用し、この水洗浄液を、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液との混合物よりなるパルプ廃液に攪拌下に加え、必要であれば、さらに少量の水を加えて、リグニンを沈殿させるものである。
【0034】
この第2実施形態による本発明パルプの製造方法によれば、アルコール性溶媒で洗浄後のパルプに水を加えて、水洗しているため、より高純度のパルプを取得することができるうえに、水洗浄液を希釈水として利用し、パルプ廃液に加えて、リグニンを沈殿させているため、洗浄水の再利用を図ることができて、運転コストが安くつき、非常に経済的である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例1〜3
まず、パルプ化工程において、スギのチップをオートクレーブに入れる。液比4〜10になるように、常圧での沸点が290℃のグリセリン(高沸点有機溶剤)を60〜80重量%加え、さらにプロパノールを加える。ついで、60〜120分かけて、オートクレーブ内の温度を、実施例1では180℃、実施例2では200℃、実施例3では220℃に、それぞれ昇温し、この温度で1〜2時間保持し、パルプ化する。なお、パルプ化工程でのオートクレーブ内の圧力を、0.5MPa〜1.0MPaに設定した。
【0037】
ついで、パルプ化工程後の蒸解液からパルプ(粗パルプ)と廃液とを分離する。さらに、分離したパルプ(粗パルプ)を、いわゆる新規のグリセリン、または廃液などから回収した回収グリセリンを加えるとともに、プロパノールを加えて、60〜80℃の温度で洗浄する工程を、3回繰り返す。
【0038】
前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液とを混合して、パルプ廃液とする。
【0039】
ついで、図2に示されるように、グリセリンを含むアルコール性溶媒で洗浄した後のパルプに、水を加えて、洗浄する操作を3回繰り返す。この水洗浄液を希釈水として利用し、パルプ廃液に攪拌下に加えた。必要であれば、さらに少量の水を加えて、リグニンを沈殿させた。
【0040】
つぎに、リグニンを吸引濾過して、取得した後、少量の水で洗浄し、分離した。リグニン分離後の濾液から所定のアルコールおよび水を除去して、グリセリンを含む溶剤を回収し、回収したグリセリンを、パルプ化工程および/またはパルプ洗浄工程において再利用した。こうして得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表1に示した。
【0041】
比較例1〜2
比較のために、上記実施例1の場合と同様に実施するが、異なる点は、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、比較例1では本発明の範囲外である160℃とし、比較例2では本発明の範囲外である240℃とした点にある。その他の点は、上記実施例1の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表1にあわせて示した。
【0042】
比較例3
比較のために、上記実施例3の場合と同様に実施するが、異なる点は、プロパノールを用いなかった点にある。その他の点は、上記実施例3の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表1にあわせて示した。
【表1】

【0043】
上記表1の結果から、明らかなように、本発明の実施例1〜3によれば、パルプ収率が良好であり、しかもパルプ化工程を、180〜230℃に設定することにより、リグニンの収率を高めることができ、それ以上のエネルギー使用量は、軽減することができる。
【0044】
また、グリセリン(高沸点有機溶剤)に、プロパノール(アルコール)を加えたので、パルプ化工程での圧力を、1.0MPa以下に非常に低く設定することができて、設備費、および運転コストが非常に安くつくものである。
【0045】
さらに、使用するグリセリン(高沸点有機溶剤)を再利用することができて、非常に経済的である。
【0046】
これに対し、比較例1では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である160℃に設定しているため、パルプの収率は比較的良好であるが、リグニンの収率が不良であった。また、比較例2では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である240℃に設定しているため、逆に、リグニンの収率は比較的良好であるが、パルプの収率が不良であった。
【0047】
さらに、比較例3では、高沸点有機溶剤のグリセリンを用いているだけで、低沸点アルコールであるプルパノールを使用していないので、パルプの収率はかなり良好であるが、リグニンの収率が不良であった。
【0048】
実施例4〜6
上記実施例1〜3の場合と同様に実施するが、異なる点は、パルプ化工程において、高沸点有機溶剤として、グリセリンの代わりに、エチレングリコールを用いた点にある。その他の点は、上記実施例1の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表2に示した。
【0049】
比較例4〜5
比較のために、上記実施例4の場合と同様に実施するが、異なる点は、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、比較例4では本発明の範囲外である160℃とし、比較例5では本発明の範囲外である240℃とした点にある。その他の点は、上記実施例4の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表2にあわせて示した。
【0050】
比較例6
比較のために、上記実施例6の場合と同様に実施するが、異なる点は、プロパノールを用いなかった点にある。その他の点は、上記実施例6の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表2にあわせて示した。
【表2】

【0051】
上記表2の結果から、明らかなように、本発明の実施例4〜6によれば、パルプ収率が良好であり、しかもパルプ化工程を、180〜230℃に設定することにより、リグニンの収率を高めることができ、それ以上のエネルギー使用量は、軽減することができる。
【0052】
また、グリセリン(高沸点有機溶剤)に、プロパノール(アルコール)を加えたので、パルプ化工程での圧力を、1.0MPa以下に非常に低く設定することができて、設備費、および運転コストが非常に安くつくものである。
【0053】
さらに、使用するグリセリン(高沸点有機溶剤)を再利用することができて、非常に経済的である。
【0054】
これに対し、比較例4では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である160℃に設定しているため、パルプの収率は比較的良好であるが、リグニンの収率が不良であった。また、比較例5では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である240℃に設定しているため、逆に、リグニンの収率は比較的良好であるが、パルプの収率が不良であった。
【0055】
さらに、比較例6では、高沸点有機溶剤のエチレングリコールを用いているだけで、低沸点アルコールであるプルパノールを使用していないので、パルプの収率はかなり良好であるが、リグニンの収率が不良であった。
【0056】
実施例7〜9
上記実施例1〜3の場合と同様に実施するが、異なる点は、パルプ原料として、スギのチップの代わりに、トドマツのチップを用いた点にある。その他の点は、上記実施例1の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表3に示した。
【0057】
比較例7〜8
比較のために、上記実施例7の場合と同様に実施するが、異なる点は、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、比較例7では本発明の範囲外である160℃とし、比較例8では本発明の範囲外である240℃とした点にある。その他の点は、上記実施例7の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表3にあわせて示した。
【表3】

【0058】
上記表3の結果から、明らかなように、本発明の実施例7〜9によれば、パルプ収率が良好であり、しかもパルプ化工程を、180〜230℃に設定することにより、リグニンの収率を高めることができ、それ以上のエネルギー使用量は、軽減することができる。
【0059】
また、グリセリン(高沸点有機溶剤)に、プロパノール(アルコール)を加えたので、パルプ化工程での圧力を、1.0MPa以下に非常に低く設定することができて、設備費、および運転コストが非常に安くつくものである。
【0060】
さらに、使用するグリセリン(高沸点有機溶剤)を再利用することができて、非常に経済的である。
【0061】
これに対し、比較例7では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である160℃に設定しているため、パルプの収率は比較的良好であるが、リグニンの収率が不良であった。また、比較例8では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である240℃に設定しているため、逆に、リグニンの収率は比較的良好であるが、パルプの収率が不良であった。
【0062】
実施例10〜12
上記実施例4〜6の場合と同様に実施するが、異なる点は、パルプ原料として、スギのチップの代わりに、トドマツのチップを用いた点にある。その他の点は、上記実施例4の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表4に示した。
【0063】
比較例9〜10
比較のために、上記実施例10の場合と同様に実施するが、異なる点は、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、比較例9では本発明の範囲外である160℃とし、比較例10では本発明の範囲外である240℃とした点にある。その他の点は、上記実施例10の場合と同様に実施し、得られたパルプとリグニンの収率を、下記の表4にあわせて示した。
【表4】

【0064】
上記表4の結果から、明らかなように、本発明の実施例10〜12によれば、パルプ収率が良好であり、しかもパルプ化工程を、180〜230℃に設定することにより、リグニンの収率を高めることができ、それ以上のエネルギー使用量は、軽減することができる。
【0065】
また、グリセリン(高沸点有機溶剤)に、プロパノール(アルコール)を加えたので、パルプ化工程での圧力を、1.0MPa以下に非常に低く設定することができて、設備費、および運転コストが非常に安くつくものである。
【0066】
さらに、使用するグリセリン(高沸点有機溶剤)を再利用することができて、非常に経済的である。
【0067】
これに対し、比較例9では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である160℃に設定しているため、パルプの収率は比較的良好であるが、リグニンの収率が不良であった。また、比較例10では、パルプ化工程においてオートクレーブ内の温度を、本発明の範囲外である240℃に設定しているため、逆に、リグニンの収率は比較的良好であるが、パルプの収率が不良であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明によるパルプの製造方法の第1実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明によるパルプの製造方法の第2実施形態を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料と、アルコール類に可溶であってかつ常圧での沸点が150〜290℃の高沸点有機溶剤を50〜80%含むアルコール性溶媒とを、液比4〜10で耐圧容器に充填し、180〜230℃に加熱処理するパルプ化工程と、パルプ化工程後の蒸解液からパルプ(粗パルプ)と廃液とを分離する工程と、分離されたパルプ(粗パルプ)を高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄して、パルプを取得するパルプ洗浄工程と、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液とに水を加えてリグニンを沈殿させ、濾過してリグニンを取得する工程と、リグニン分離後の濾液から所定のアルコールおよび水を除去して、高沸点有機溶剤を含む溶剤を回収し、回収した高沸点有機溶剤を、パルプ化工程および/またはパルプ洗浄工程において再利用する工程とを含むことを特徴とする、パルプの製造方法。
【請求項2】
高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄したパルプ洗浄工程からのパルプを、さらに水で洗浄し、この水洗浄液を希釈水としてリグニン取得工程において利用し、この水洗浄液を、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液との混合物よりなるパルプ廃液に攪拌下に加え、必要に応じて、さらに少量の水を加えて、リグニンを沈殿させることを特徴とする、請求項1に記載のパルプの製造方法。
【請求項3】
高沸点有機溶剤が、グリセリン、およびエチレングリコールの単体、または混合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のパルプの製造方法。
【請求項4】
アルコールが、低沸点アルコールであることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のパルプの製造方法。
【請求項5】
アルコール性溶媒が、低沸点アルコールと高沸点有機溶剤との混合物であり、230℃における蒸気圧が1.0MPa以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のパルプの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−45223(P2008−45223A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219252(P2006−219252)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】