説明

パルプ及び紙の黄変/褪色(brightnessreversion)を減少させるためのサイクロデキストリンの使用

本発明は、パルプ又は紙の黄変/褪色を生じさせる紙の生成の間の色形成の問題に関する。この黄変/褪色は、本発明の方法により減少させることができる。この方法はパルプ及び紙の黄変を減少させることに関し、洗浄の前又はその間に、サイクロデキストリンをパルプに添加すること又は生成することを含んで成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙及びパルプの黄変/褪色を防止又は減少させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造は、第一段階として、木材からのパルプの形成を伴う。従来のクラフトパルプ化手順において、未加工又は処理前の木材チップをアルカリ及び硫化物の存在下で高圧力及び高温度下で「加熱」し、個々の木質繊維の間にポリマー木質性(lignaceous)物質を溶解させる。解放された繊維は、多くの従来の漂白作業/化学により様々な程度まで除去することができる繊維壁中の着色した木質性物質を、いまだにかなりの量含んでいる。材種、パルプ化条件及び漂白方法次第で、漂白した木材繊維は、様々な量の残余のリグニン及び抽出物(例えば、樹脂酸、脂肪酸、トリグリセリド、テルペン、テルペノイド、ワックスなど)を含み得る。微量の残余のリグニン及び/又は抽出物を含む漂白繊維から調製した紙及びパルプは、上昇した温度への曝露の際の色/褪色に対する増大した感受性に関連していた。漂白繊維が最終的な紙生成物に変換されるので、従来の輸送及び保管作業又は乾燥セクション内並びに紙リール巻き取り機において、そのような極端な温度に対抗することできる。
【0003】
これらの温度では、発色団の温度感受性前駆体、例えばリグニン、抽出物、並びに炭水化物起源の酸化、縮合及び環化生成物(例えば、2−フルフラール、ヒドロキシメチルフルアルデヒドなど)は発色団に変換され、その結果所望されない最終生成物の黄変(色戻り)/褪色を生み出し得る。従って、このような発色団前駆体は、好ましくはパルプ化、漂白及び紙製造作業を通して洗浄段階においてパルプから除去すべきである。現在、このような色形成成分を除去するためには、より積極的な洗浄計画(regime)が必要であり、新規の装置及び/又は存在する装置の性能向上における投資により達成される。これは一般的に増大した水及びエネルギー消費に対応するだけでなく、更なる洗浄は収率の損失を増大させ得る。発色団前駆体の濃度を減少させる別の手段は、漂白順序に追加の段階を組み入れることであり、これは相当な資本支出を必要とするだけでなく、化学物質の使用の増大を必要とする。処理に関わらず、特定の色形成物質は、いまだ洗浄したパルプ内に残り得る(特に、炭水化物起源のもの)。
【発明の開示】
【0004】
本発明の要約
サイクロデキストリン複合体内に取り込まれた、所望されない発色団前駆体は、パルプ形成の洗浄段階の間に除去することができる。
【0005】
従って、本発明は、パルプ中に存在する発色団前駆体をサイクロデキストリン環内に閉じ込めること、及び例えば従来の洗浄の間に、洗浄の前又はその間にそのサイクロデキストリンを添加又は生成することによって、得られた包接複合体を除去することを含んで成る、従来の使用(例えば、保管、輸送、紙生成、所定期間保存など)に関連する条件の間のパルプ及び紙の黄変/褪色を減少又は防止するための方法に関する。
【0006】
従って、本発明の側面は、サイクロデキストリンのパルプへの直接的な添加又はサイクロデキストリンのin situでの生成、及びその後の形成したサイクロデキストリン包接複合体を除去するための洗浄段階を含んで成る、パルプ及び紙の黄変/褪色を減少させるための方法に関する。
【0007】
本発明の詳細な説明
本発明は、紙の生成及びパルプ又は紙生成物の黄変/褪色の減少に関する。
【0008】
紙の生成における第一段階は、パルプ形成である。パルプは、上記の従来のクラフトパルプ化手順において木材(未使用パルプ)から、或いはリサイクルした紙から調整することができる。しばしば、パルプは2つの繊維源の組み合わせを含んで成る。
【0009】
本発明の目的のために、任意のタイプの紙製造工程が関連し、そして/或いは任意に紙製造パルプを適用することができる。
【0010】
特定の実施態様において、パルプの総量に関するリサイクル紙に基づいたパルプの量は、少なくとも2%、又は少なくとも4%、又は少なくとも6%、又は少なくとも8%、又は少なくとも10%、又は少なくとも15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90又は少なくとも95%である。
【0011】
リサイクル紙由来でないパルプの部分は、機械的パルプ化、化学的パルプ化、及びそれらの任意の混合、例えば化学−機械的パルプ化、熱−機械的パルプ化、化学−熱−機械的パルプ化などから得ることができる。
【0012】
第二の繊維としても知られている、リサイクル(又は廃棄)紙を含んで成る物質からパルプを調製するために、その物質を、水に混合、分散、又は懸濁する。これはパルプ化として知られた工程である。それにより、少なくとも1部分のインク及び他の汚染物質、例えば糊、接着剤、コーティングなどが繊維から解放される。紙製造パルプは、しばしばリサイクル紙及び新しい所謂未使用パルプの双方を含んで成る。
【0013】
リサイクル繊維の起源は、当業界で知られている任意のグレードのリサイクル構成物(furnish)又はそれらの混合物、並びにリサイクル繊維の未使用繊維との混合物であることができる。リサイクル繊維構成物の主なグレードは、例えばMOW(混合オフィス廃棄物)、SOW(分類されたオフィス廃棄物)、ONP(古新聞)、OMG(古雑誌)及びOCC(古段ボール箱)である。
【0014】
パルプ形成の間に、未加工又は処理前の木材チップをアルカリ及び硫化物の存在下で高圧力及び高温度下で「加熱」し、個々の木質繊維の間にポリマー木質性物質を溶解させる。解放された繊維は、多くの従来の漂白作業/化学により様々な程度まで除去することができる繊維壁中の着色した木質性物質を、いまだにかなりの量含んでいる。材種、パルプ化条件及び漂白方法次第で、漂白した木材繊維は、様々な量の残余のリグニン及び抽出物(例えば、樹脂酸、脂肪酸、トリグリセリド、テルペン、テルペノイド、ワックスなど)を含み得る。
【0015】
疎水性脂肪酸及びエステルなどの抽出物は、紙製造工程の間において非常に問題である。それらは、そのプロセス装置上で厳しい堆積物を生じさせ得る。更に、これらの抽出化合物の存在は、熱−黄変に対する感受性の増大に関連していた。リパーゼ処理の後でさえも、新規に形成された長鎖脂肪酸は、いまだ非常に疎水性であるのでそのプロセス水溶解することができない。
【0016】
従来の方法でパルプ化及び漂白された木材構成物中の疑わしい発光団分子の熱感受性前駆体は、残余のリグニン及び抽出物並びに炭水化物起源の酸化、縮合及び環化生成物(例えば、2−フルフラール、ヒドロキシメチルフルアルデヒドなど)を含む。温度の上昇に応答した発光団の形成は、最終生成物の「黄変」又は「褪色」として現れる。多くの場合、発光団前駆体は、プロセス水中で制限された溶解性であると共に親油性である。
【0017】
本状況において、発光団はパルプ又は紙の着色を生じさせるであろう任意の化合物を含んで成る。特に、発光団は、上昇した温度において発光団前駆体から形成することができる。
【0018】
サイクロデキストリンは、発光団及び/又は発光団前駆体を効果的に閉じ込めることができ、それらの水中での溶解性を増大させる。これは、洗浄段階における、パルプからの発光団/発光団前駆体の除去の増大に対応する。更に、多くの前駆体は、紙の特定の物理的特性(すなわち、裂傷性、伸張性、体積など)に不利に影響するが、繊維表面上での吸着を通して繊維間相互作用を物理的に崩壊させる。サイクロデキストリンとの複合体の形成による除去の強化は、任意の数のこれらの影響される特性のある程度の回復を可能にすることができる。
【0019】
サイクロデキストリンの最も重要な特徴は、固体包接複合体(ホスト-ゲスト複合体)を形成する能力である。サイクロデキストリンの親油性空洞は、適切な大きさの非極性部分が入り包接複合体を形成することのできるミクロ−環境を提供する。サイクロデキストリン中の包接は、ゲスト分子をホスト分子の空洞内に一時的に固定又は収容するので、ゲスト分子の物理化学的特性に著しい影響を及ぼし、それはゲスト分子のいくつかの固有の有益な修飾をもたらす。その特性としては、高い不溶性ゲストの溶解性の増大、分解に対する不安定なゲストの安定化、フレーバーのマスキング、並びに薬物及びフレーバーの制御された放出が挙げられる。本発明においては、特に閉じ込められた発光団/発光団前駆体分子の溶解性の増大が利用される。
【0020】
サイクロデキストリンは、効果的にそれらの疎水性物質を閉じ込め、水中でのそれらの溶解性を増大させることができる。サイクロデキストリンは、リパーゼ及び他の酵素と協働して、その有効性を向上させることもできる。
【0021】
本発明の紙製造方法は、以下の段階:
a)木材及び/又はリサイクル紙を含んで成る物質からパルプを調製すること;
b)サイクロデキストリンを添加又はin situで生成すること;
c)洗浄;
d)処理したパルプから紙を製造すること
を含んで成る。
【0022】
段階a)〜d)に加えて、更なる(任意の)段階、例えば以下の段階の1つ以上が含まれ得る:
e)パルプを1つ以上の酵素で処理すること;
f)例えば、過酸化化合物(例えば、過酸化水素)を任意に含むアルカリ水溶液の存在下で繊維をパルプ化することにより、脱インキすること;
g)例えばスクリーニング(粗い及び/又は細かい)することによる、汚染物質からの繊維の分離;
h)遠心分離洗浄;
i)例えば、1以上の界面活性剤を用いたフロテーション(flotation);
j)例えば、1以上の界面活性剤を用いた洗浄;
k)例えば、1以上の界面活性剤を用いた分散;及び/又は
l)必要であれば、例えば熱処理段階による、酵素の不活化。
【0023】
任意の数のこれらの追加の段階を含めることができ、その順序は、示したa−b−c−d−e−f−g−h−i−j−k−lである必要はない。酵素は、パルプ化の前、パルプ化段階の間、ストック調製段階の間もしくは前、好ましくは直前、又はフローテーション若しくは脱インキ段階の後に導入することができる。
【0024】
従って、本発明の目的は、サイクロデキストリンをパルプに添加又はin situで生成すること、その後の形成したサイクロデキストリン包接複合体をパルプから除去するための洗浄段階を含んで成る、パルプ及び紙の黄変を減少するための方法を提供することである。サイクロデキストリン包接複合体の形成は、閉じ込められた発光団前駆体の変換を崩壊することもできる。
【0025】
サイクロデキストリンは、アルファ−、ベータ−、及びガンマ−サイクロデキストリンの形態において用いることができる。
【0026】
1つの特定の実施態様において、サイクロデキストリンはアルファ−サイクロデキストリンである。
【0027】
好ましくは、サイクロデキストリンは、パルプの洗浄の間に存在すべきであるが、より初期の段階に加えることもできる。1つの実施態様において、サイクロデキストリンはパルプ形成の間に添加する。別の実施態様において、サイクロデキストリンはパルプ形成の後で洗浄の前に添加する。更に別の実施態様において、サイクロデキストリンは洗浄の間に添加する。
【0028】
発光団前駆体が脂肪酸である場合、サイクロデキストリンに対する脂肪酸の比率は、1つの実施態様において10:1〜1:100の範囲、特別には5:1〜1:75の範囲、更により特別には2:1〜1:50の範囲である。
【0029】
サイクロデキストリンを添加する代わりに、in situで生成(例えばパルプ中でデンプン及びグリコシルトランスフェラーゼ(CGTase)から生成)することもできる。
【0030】
従って、1つの実施態様において、サイクロデキストリンは、in situでデンプン及びグリコシルトランスフェラーゼから生成する。
【0031】
紙製造の分野において周知である他のタイプの酵素処理を用いることができ、以下の群の酵素から選択される酵素が挙げられる:プロテアーゼ、アミラーゼ、プルラナーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ、エンドグルカナーゼ、クチナーゼ及びペクチナーゼ;並びにそれらの任意の組み合わせ。
【0032】
従って、本発明は、パルプの酵素処理のサイクロデキストリンの添加との組み合わせに関する。適切な酵素は、発光団又は発光団前駆体の放出及び複合体形成を容易にするであろう酵素である。
【0033】
キシラナーゼは、パルプ及び紙の黄変を減少することのできる酵素として当業界で知られている。本発明の特定の実施態様において、パルプのサイクロデキストリン処理は、キシラナーゼとの組み合わせである。
【実施例】
【0034】
実施例1:アルファ−サイクロデキストリンの添加による、漂白したユーカリクラフトパルプ(BEKP)の熱安定性の向上
手順:
1.400gの5%w/w稠度のBEKPを含む、(6)1.2Lステンレス鋼Launder−Ometerビーカー(Launder−Ometer(Atlas Electric Devices Company,Chicago,IL,USA)は、予熱した水で満たしたチャンバー内で逆さまにビーカーを回転させる、繊維工業で用いられる標準的な装置である)を準備した(パルプの初期のpHは、サイクロデキストリンの適用の前に調整した)。
【表1】

2.アルファ−サイクロデキストリンを、上記の表に従って各ビーカーに等分し、所望の最終濃度を得た。
3.次いで、ビーカーを、一定の撹拌の下で、Launder−Ometer中で、120分間、55℃でインキュベートした
4.インキュベーション後に、ビーカー内容物をpH調整し(pH’d)、次いで4Lまで希釈した(0.5%稠度)
5.次いで、パルプスラリーを2分間撹拌した
6.(3)2 odgのハンドシート(handsheet)を各パルプから調製し、TAPPI標準的手順に従って横たえ(couch)、2つの乾燥ブロッターパッド(blotter pad)の間に置いた(この特定のハンドシート調製の間、クロムめっきしたプレートは用いなかった)。
7.シートを、TAPPI条件下で一晩乾燥させた。
8.より積極的な洗浄段階を促進するために、初めのハンドシート形成の後のパルプの残留物を、125Pスクリーンを装着した動的排水ジャー内で洗浄にかけた(10L DI H2O)。洗浄したパルプのpHは、中性に近づくはずである。
9.次いで、前の通り、(3)2 odgのハンドシートを各洗浄パルプから調製し、横たえ、そして乾燥させた。
10.全てのハンドシートを、ISO明度、CIE&Hunter白色度、E313及びDIN6167黄色度、並びにCIE色空間コーディネート、L、a*及びb*に関して、Technidyne ColorTouch PC(Technidyne Corporation,New Albany,IN)を用いて分析した。
11.次いで、ハンドシートを15分間160℃で「熟成(age)」させ、光学的定性測定を繰り返した。
【0035】
試験の結果は表1において与えられ、アルファ−サイクロデキストリンの添加によりBEKPの熱安定性が向上し、パルプパッドの黄変の減少がもたらされたことを示す。
【0036】
表1.洗浄の前後のコントロールと比較した、促進熟成後の黄変減少及び明度損失のパーセンテージ。
【表2】

【0037】
実施例2.アルファ−サイクロデキストリンによる、溶液からの脂肪酸の除去。
アルファ−サイクロデキストリンの添加による溶液からの脂肪酸の除去は、リノール酸の除去により試験した。リノール酸は木材抽出物中の最も豊富な脂肪酸であり、潜在的な発光団を構成する。0.1%のリノール酸懸濁液及び1.0%のアルファ−サイクロデキストリン溶液を、以下のように調製した:
1.250マイクロリットルのリノール酸を、250mlの容量フラスコに移した。
2.回転ミキサー上で撹拌しながら、脱イオン水をゆっくり添加した。
3.撹拌を継続する間、容量フラスコ溶液を懸濁させておいた。
【0038】
2gのアルファ−サイクロデキストリンを200mlの脱イオン水に溶解することにより、1.0%のアルファ−サイクロデキストリン溶液を調製した。
【0039】
0.1%のリノール酸懸濁液を、サイクロデキストリンに対する脂肪酸の異なる比率において、1.0%のサイクロデキストリン溶液と混合し、濁度の増大を測定した。結果を、以下の表2に示す。
【0040】
表2.脂肪酸(FA)及びサイクロデキストリン(CD)の混合物の濁度(NTU、ネフェロ濁度単位)測定。
【表3】

【0041】
濁度の増大は、閉じ込められたFAの沈殿を反映する。
【0042】
結果は、サイクロデキストリンにおける閉じ込めにより、溶液からリノール酸により例示される脂肪酸を除去することが可能であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄の前又はその間に、サイクロデキストリンをパルプに添加すること又は生成することを含んで成る、パルプ及び紙の黄変を減少させるための方法。
【請求項2】
サイクロデキストリンがα−、β−、及びγ−サイクロデキストリンを含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サイクロデキストリンがアルファ−サイクロデキストリンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
サイクロデキストリンがin situでのサイクロデキストリンの酵素的生成により調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酵素がCGTaseを含んで成る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
黄変の減少が、リグニン脂肪酸、樹脂酸、及び/又は糖オリゴマーを含んで成る発光団前駆体の除去により提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
サイクロデキストリン処理がキシラナーゼ処理と組み合わせられる、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−506046(P2008−506046A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520511(P2007−520511)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/024156
【国際公開番号】WO2006/014563
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(500132074)ノボザイムス ノース アメリカ,インコーポレイティド (16)
【Fターム(参考)】