説明

パワー電子機器

【課題】風冷式電子機器の回路組立体に搭載したコイル部品について、通電に伴う局所的な温度の過度上昇を抑制して効果的に風冷冷却できるようにコイル導体の巻回構造,配置を改良してコイル部品が熱劣化するのを防止する。
【解決手段】コア部材1aにコイル導体1bを巻回したインダクタ,トランスなどの発熱コイル部品(縦型トロイダルコイル)1を他の回路部品2,3と組み合わせてプリント配線基板4に並置実装した回路組立体になり、該回路組立体に冷却風を導風して発熱回路部品を冷却する風冷式のパワー電子機器において、前記コイル部品1については、当該コイル部品を含む回路組立体に送風する冷却風の風量分布に合わせて、風量「大」の通風領域Aに面する範囲にはコイル導体1bを「密」に巻回し、風量「小」の通風領域Bに面する範囲にはコイル導体を「疎」に巻回する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はスイッチング電源、インバータなどを対象とする風冷式のパワー電子機器を対象に、その回路組立体に搭載したトランス,インダクタなどの発熱磁気部品の局所的な温度上昇を抑えて風冷性能を高めるようにした磁気部品の構造,配置に係わる。
【背景技術】
【0002】
頭記したスイッチング電源,インバータなどのパワー電子機器は、IGBTなどのスイッチング素子に高周波トランス,インダクタなどの磁気部品,および整流ダイオード,平滑コンデンサを組み合わせ、これらの回路部品をプリント配線基板上に並置実装してなる回路組立体を筐体に収容した上で、この筐体内部に冷却風を導風して発熱回路部品を風冷冷却するようにしている(例えば、特許文献1,非特許文献1参照)。
【0003】
ここで、前記磁気部品(例えば、インダクタ)は、環状のフェライトコアにコイル導体を巻回したトロイダルコイルが一般的であり、かつ回路組立体を小形化するには配線基板上に寝かせた姿勢で実装する横型トロイダルコイルに比べて所要実装面積が少なくて済む縦型トロイダルコイル(例えば、特許文献2参照)が多用されている。
【0004】
次に、前記磁気部品1を含む回路組立体の従来構造を図2,図3に示す。なお、図2は回路組立体の模式平面図、図3は図2におけるコイル部品の正面図であり、各図において、1はインダクタなどのコイル部品(起立姿勢で実装する縦型トロイダルコイル(特許文献2の図3,図7参照))、1aはコイル部品の磁性コア(環状フェライトコア)、2bは磁性コア1aの周上に巻回したコイル導体、2,3はコイル部品1と組み合わせてプリント配線基板4に並置実装したスイッチング素子,コンデンサなどの回路部品であり、図2の回路組立体は送風ファン(不図示)と組み合わせて筐体(シャーシ)に収容し、図示矢印のように冷却風を送風して発熱回路部品を一括して風冷冷却するようにしている。
【特許文献1】特開平11−346069号公報
【特許文献2】特開2005−286066号公報(図3,図7,図15)
【非特許文献1】製品カタログ“スイッチングパワーサプライ”、[online]、富士電機テクニカ株式会社、[平成20年5月12日検索]、インターネット<URL:http://www.fe-technica.co.jp/html/company/catalog/pdf/HS010a.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図2に示した回路組立体のように、コイル端面を通風路に向けて起立姿勢に配置した磁気部品(コイル部品1;縦型トロイダルコイル)を挟んでその前後に回路部品2,3を右側に寄せてレイアウトした回路組立体に対して冷却風を図示矢印方向に送風すると、コイル部品1の左側半分の面域は他の回路部品2,3に阻害されることなく冷却風が通風するのに対して、コイル部品1の右側半分はその前後に近接して並ぶ回路部品2,3が通風の障害物として干渉し、そのためにこの部分を通風する風量が左側半分域に比べて大幅に減少する。すなわち、コイル部品1の左側半分に対応する通風領域Aは風量「大」であるが、右側半分に対応する通風領域は風量「小」となる。
【0006】
一方、コイル部品1は、通電に伴い磁性コア1aに鉄損が生じ、また導体(コイル導体1b)には銅損が生じて加熱昇温する。この場合にコイル導体の温度が過度に上昇すると、エナメル銅線などの素線に施した絶縁被膜が熱劣化するほか、フェライトコアは高温で飽和磁束密度が急減して磁気特性が変化する問題があり、仕様面からも実使用の許容温度が規制されている。
【0007】
このことから、図3のように環状磁性コア1の全周域に亙ってコイル導体1bを均等に巻回した構成の縦型トロイダルコイルになるコイル部品1を、図2のように他の回路部品2,3と組み合わせて配線基板上にレイアウトした回路組立体に冷却風を送風すると、コイル部品1の右側半分域を通風する冷却風の風量が不足してこの部分でコイル部品の温度が局部的に過度上昇し、これが原因でコイル部品1が熱劣化して電子機器の動作が正常に機能しなくなるおそれがある。
【0008】
かかる点、コイル部品1の全体に充分な風量の冷却風が通流するように、他の回路部品2,3と引き離してプリント配線基板4上にレイアウトすることが考えられるが、このようなレイアウトでは回路部品の実装所要面積が増大して電子機器が大型化してしまう。また、コイル部品1を小形化して冷却風が全体に当たるように磁性コア1aのサイズを縮小すると、コアの体積に反比例して温度が高くなる。さらに、ヒートシンク,ヒートパイプなどの冷却部材を追加すると回路組立体が大型化,コスト高となる。
【0009】
この発明は上記の点に鑑みなされたものであり、電子機器の回路組立体に搭載したコイル部品について、従来と同様な回路部品のレイアウトのままでも通電に伴うコイル部品の温度が局所的に過度上昇するのを抑制し、規定の許容温度範囲内に維持して風冷冷却できるようにコイル導体の巻回構造,配置を改良した高信頼性のパワー電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明によれば、コア部材に導体(コイル導体)を巻回したインダクタ,トランスなどの磁気部品(コイル部品)を他の回路部品と組み合わせてプリント配線基板に並置実装した回路組立体からなり、該回路組立体に冷却風を導風して発熱回路部品を冷却する風冷式のパワー電子機器において、
前記磁気部品(コイル部品)については、当該コイル部品を含む回路組立体に通風する冷却風の風量分布に合わせて風量の多い通風領域に面するコアの範囲にコイル導体を密に巻回し、風量の少ない通風領域に面するコアの範囲にはコイル導体を疎に巻回する(請求項1)。
【0011】
また、回路組立体に搭載するコイル部品が、コイル導体を密に巻回した範囲と疎に巻回した範囲を有した構成であるものについては、回路組立体に通風する冷却風の風量分布に合わせてコイル導体の密巻回範囲を風量の多い通風領域に向け、コイル導体の疎巻回範囲を風量の少ない通風領域に向けて配置する(請求項2)。
【0012】
なお、前記回路組立体に搭載するコイル部品には、コイル端面を通風路に向けて配線基板上に起立実装した縦型トロイダルコイルが好適に適用される(請求項3)。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、回路組立体のコイル部品については、コイル銅損による発熱がコイル導体を密に巻回した範囲に集中して発生するようになるが、この密巻回範囲には充分な風量の冷却風が通流するので過度に温度上昇することはない。一方、コイル導体を疎に巻回した範囲を通流する風量はコイル部品に並置した他の回路部品との干渉により減少するが、この部分にはコイル導体が疎に巻回されているので銅損による発熱量も少なく、したがって過度な温度上昇を抑制できる。
【0014】
これにより、各回路部品を高密度に並置実装して回路組立体の小形化を図りつつ、冷却風の送風によりコイル部品を規定の許容温度内に抑えて高い信頼性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を図1(a),(b)に示す実施例に基づいて説明する。なお、実施例の図中で図2,図3に対応する部材には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0016】
図示実施例の回路組立体(図1(a)参照)は、コイル部品1,他の回路部品2,3を含む各回路部品が図2に示した回路組立体と同様にレイアウトされているが、ここでコイル部品1は、その磁性コア1aに巻回したコイル導体1bの巻回構造,配置を次記のように定めて回路組立体を構成している。
【0017】
すなわち、冷却風の通風路に対して回路部品2と3の間のスペースに配置してプリント配線基板4に並置実装したコイル部品1(縦型トロイダルコイル(特許文献2の図3参照))について、図示実施例では図1(b)で示すように環状のフェライトコア1aをコイル導体1bの「密」巻回範囲N1と「疎」巻回範囲N2とに区分けした上で、「密」巻回範囲N1はコイル導体1bを密に巻回し、「疎」巻回範囲N2にはコイル導体1bを疎に巻回する。そして、このコイル部品1を他の回路部品2,3と組み合わせ部品組立体の配線基板上に実装するに際には、図1(a)で表すようにコイル部品1の左側半分の「密」巻回範囲N1が風量「大」の通風領域Aに、右側半分の「疎」巻回範囲N2が風量「小」の通風領域Bに向くように配置する。なお、コイル部品のメーカーで製作したコイル部品には、コイル導体1bのリード引出し範囲をあらかじめ「疎」に巻回している製品があり、このようなコイル部品を採用して回路組立体に搭載する場合には、前記と同様にコイル導体の「疎」巻回範囲を図1(a)の風量「小」の通風領域に向けて位置するようにコイル部品1の向き,姿勢を定めて配線基板上に実装するようにする。
【0018】
前記の巻線構造になるコイル部品1回路組立体に搭載して通電すると、コイル導体の「密」巻回範囲N1には銅損による発熱が集中するが、「密」巻回範囲N1を図1(a)のように冷却風の通風路に対して風量「大」の通風領域Aに配置することにより、この部分には充分な風量の冷却風が通流するので過度な温度上昇はない。一方、風量「小」の通風領域Bに配置されるコイル導体の「疎」巻回範囲N2には冷却風の風量が減少するが、この巻回範囲N2に生じる銅損の発熱も少ないのでこの部分の温度が局部的に過度上昇するおそれもなく、コイル部品1を規定された許容温度範囲に維持して部品の熱劣化を防ぐことができる。
【0019】
これにより、各回路部品を高密度に並置実装して回路組立体および電子機器の小形化を図りつつ、回路組立体に搭載したコイル部品1を規定の許容温度内に抑えて高い信頼性を確保できる。
【0020】
なお、図示実施例ではコイル部品1に縦型トロイダルコイルを使用した場合について述べたが、この発明はトロイダルコイルの採用に限定されるものではなく、トロイダルコアとは異なるタイプの磁性コアにコイル導体を巻回したもの、さらにはコイル導体を空芯コアに巻回した構成のコイル部品についても、同様に実施適用することができる。また、導体は1つに限らず、複数の導体が存在し、各導体が磁気結合して成るトランスにも本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施例の構成図で、(a)は回路組立体の配線基板上に実装した各回路部品のレイアウトを模式的に表した図、(b)は(a)の回路組立体に搭載したコイル部品(縦型トロイダルコイル)の正面図。
【図2】図1(a)に対応する従来例の回路組立体の部品レイアウトを模式的に表した図。
【図3】図2の回路組立体に搭載した従来のコイル部品(縦型トロイダルコイル)の正面図。
【符号の説明】
【0022】
1 コイル部品
1a 磁性コア
1b コイル導体
2,3 他の回路部品
4 プリント配線基板
A 風量「大」の通風領域
B 風量「小」の通風領域
N1 コイル導体の「密」巻回範囲
N2 コイル導体の「疎」巻回範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部材に導体を巻回した磁気部品を他の回路部品と組み合わせてプリント配線基板に並置実装した回路組立体からなり、該回路組立体に冷却風を導風して発熱回路部品を冷却する風冷式のパワー電子機器において、
前記磁気部品については、当該磁気部品を含む回路組立体に通風する冷却風の風量分布に合わせて風量の多い通風領域に面する前記コア部材の範囲に前記導体を密に巻回し、風量の少ない通風領域に面する前記コア部材の範囲には前記導体を疎に巻回したことを特徴とするパワー電子機器。
【請求項2】
コア部材に導体を巻回した磁気部品を他の回路部品と組み合わせてプリント配線基板に並置実装した回路組立体からなり、該回路組立体に冷却風を導風して発熱回路部品を冷却するパワー電子機器であって、前記磁気部品が前記導体を密に巻回した範囲と疎に巻回した範囲を有するものにおいて、
前記磁気部品を、回路組立体に通風する冷却風の風量分布に合わせて前記導体の密巻回範囲を風量の多い通風領域に向け、前記導体の疎巻回範囲を風量の少ない通風領域に向けて配置したことを特徴とするパワー電子機器。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパワー電子機器において、前記磁気部品が配線基板上に起立姿勢で実装した縦型のトロイダルコイルであることを特徴とするパワー電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−289880(P2009−289880A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139323(P2008−139323)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】