説明

パンの製造方法及びパン用コク味付与剤

【課題】ふっくらとした食感で、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンの製造方法及びパン用コク味付与剤を提供する。
【解決手段】卵、有機酸及び食用油脂を含有した乳化液状物であって、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であり、前記卵と有機酸の合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部である乳化液状物を生地に添加し、該生地を焼成するパンの製造方法。卵、有機酸及び食用油脂を含有した乳化液状物であって、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であり、前記卵と有機酸の合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部である乳化液状物を有効成分とするパン用コク味付与剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふっくらとした食感で、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンの製造方法及びパン用コク味付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パンの風味は、酵母の代謝等により生じた発酵風味成分に影響されるため、伝統的には、パン生地に使用する酵母や発酵方法の違いにより風味のコントロールがされている。しかしながら、使用する酵母や発酵方法は、パン生地の発酵状態にも影響を与え、最終的にはパンの食感にも影響を与える。したがって、パンにおいては、ふっくらとした食感に影響を与えずに好みの風味にコントロールするのは困難である。
【0003】
一方、食品の美味しさを増す風味としては、コク味が挙げられるが、近年は、コク味がありながらもすっきりとした後味の味付けが好まれるようになってきている。そこで、パンにおいても、このようなコク味がありながらもすっきりとした後味の味付けのものを提供することが望まれる。
【0004】
従来、パンの風味を改善する方法としては、特開2008−263833号公報(特許文献1)には、小麦粉を原料とする生地に小麦本来が有する美味しさを付与することを目的とした、小麦由来原料並びに水を含む混合物を酵素処理酵素処理風味材が提案されている。特開平10−4862号公報(特許文献2)には、強い発酵風味をパンに付与することを目的とした油相と水相からなる混合液の発酵物からなる発酵風味付与剤が提案されている。また、特開2003−33153号公報(特許文献3)ではアミノ酸類を含む水相と油相からなる混合液のイースト発酵物を含んでなる発酵風味付与剤が提案されている。しかしながら、これらの技術はいずれも、すっきりとした後味を有するものではなく、また、添加剤の影響により、パンの食感に影響がでる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−263833号公報
【特許文献2】特開平10−4862号公報
【特許文献3】特開2003−33153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、ふっくらとした食感で、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンの製造方法及びパン用コク味付与剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべくパンに付与する調味料の組成や性状について鋭意研究を重ねた。その結果、特定の組成に調整した乳化液状物を添加したパン生地を焼成すると、ふっくらとした食感で、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンが得られることを見出し遂に本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)、卵、有機酸及び食用油脂を含有した乳化液状物であって、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であり、前記卵と有機酸の合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部である乳化液状物を生地に添加し、該生地を焼成するパンの製造方法、
(2)、前記乳化液状物を生地に対して0.01〜10%添加する(1)記載のパンの製造方法、
(3)、卵、有機酸及び食用油脂を含有した乳化液状物であって、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であり、前記卵と有機酸の合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部である乳化液状物を有効成分とするパン用コク味付与剤、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ふっくらとした食感で、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンを提供することができる。したがって、パン市場において、新しい美味しさを提供することができ、更なる需要の拡大が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明において、パンとは、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉を主原料とし、これに水と、酵母等の膨化源を添加して混捏・発酵した生地を焼成等により加熱したものであれば特に制限はない。このような本発明のパンとしては、具体的には、例えば、クロワッサン、テーブルロール、バターロール、コッペパン、ジャムパン、アンパン、クリームパン、フランスパン、山型食パン、プルマン型食パン、バンズパン、フォカッチャ、べーグル、ブリオッシュ及び蒸しパン等が挙げられる。
【0012】
本発明の乳化液状物に用いる卵としては、生液全卵、生液卵黄、生液卵白及びこれらの混合物、並びにこれらに、殺菌処理、冷凍処理、乾燥処理、ホスフォリパーゼ又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。
【0013】
本発明の乳化液状物に用いる有機酸とは、構造内に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有し、酸性を呈し、食用の酸材として用いられている有機化合物をいう。本発明で用いる有機酸としては、食用として供されるものであれば特に限定するものではないが、例えば、1個のカルボキシル基を有する有機酸としては、酢酸、乳酸、プロピオン酸、グルコン酸などが挙げられ、2個以上のカルボキシル基を有する有機酸としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸などが挙げられ、本発明ではこれらの1種または2種以上を用いるとよい。また、本発明では、これらの有機酸を直接用いてもよいが、有機酸を含有した液状の食材である、例えば、リンゴ酢、ワインビネガー、モルトビネガー、米酢、粕酢などの醸造酢、レモン、かぼすなどの柑橘果汁又はこれらの濃縮物などを用いてもよい。
【0014】
本発明の乳化液状物においては、前記有機酸の一部又は全部として乳酸を用いることが好ましい。これにより後述のようにパン生地に乳化液状物を添加して焼成した場合に、コク味とすっきりとした後味のバランスのとれた風味のパンが得られやすい。乳酸としては、天然の乳酸、あるいは合成の乳酸のいずれであっても良いが、一般的に食品に用いられる天然の乳酸、例えば発酵乳酸を用いると良い。市販されている50%発酵乳酸、あるいは乳酸に賦形剤を添加して乾燥させた粉末乳酸などを使用しても良い。乳酸の含有量は、有機酸全体に対して好ましくは10〜100%、より好ましくは30〜100%である。
【0015】
本発明の乳化液状物に用いる食用油脂としては、食用に供されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、ゴマ油、魚油、卵黄油等の動植物油及びこれらの精製油、並びにMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリドなどのように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる油脂などが挙げられる。
【0016】
本発明パンの製造方法においては、特定の乳化液状物、つまり、卵、有機酸及び食用油脂を含有し、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7、好ましくは9:1〜1:1であり、前記卵と有機酸合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部、好ましくは5〜80部、より好ましくは5〜50部である乳化液状物を用いることを特徴とする。このように卵、有機酸及び食用油脂を前記特定割合で含有する乳化液状物を後述のようにパン生地に添加して焼成することにより、ふっくらとした食感で、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンを製造することができる。
【0017】
これに対して、乳化液状物における卵と有機酸の含有割合が前記範囲から外れるた場合は、乳化液状物を添加したパン生地を焼成しても、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンは得られない。また、乳化液状物における卵と有機酸の合計含有量に対する食用油脂の含有割合が前記範囲から外れた場合も同様に、乳化液状物を添加したパン生地を焼成しても、コク味がありながらもすっきりとした後味を有するパンは得られない。更に、食用油脂により乳化状としなかった場合は、ふっくらとしたパンの食感が損なわれ易く好ましくない。
【0018】
上述した本発明の乳化液状物の粘度は、好ましくは0.1〜5Pa・s、より好ましくは0.3〜5Pa・sである。乳化液状物の粘度が前記特定範囲であることにより、乳化液状物をパン生地に加えた場合にパン生地中に乳化液状物を容易に分散させることができ好ましい。なお、本発明における前記液状調味料の粘度は、BH形粘度計で、品温20℃、回転数:10rpmの条件で、粘度が0.75Pa・s未満のときは、ローターNo.1、粘度が0.75Pa・s以上1.5Pa・s未満のときはローターNo.2、粘度が1.5Pa・s以上3Pa・s未満のときはローターNo.3、粘度が3Pa・s以上のときはローターNo.4を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により算出した値である。
【0019】
乳化液状物の粘度の調整方法は、特に制限はないが、上述した卵、食用油脂含有量及び増粘材の含有量により調整できる。乳化液状物の粘度を前記範囲に調整する卵の含有量は、その他の原料の含有量などにもよるが、乳化液状物に対して、固形分換算で好ましくは4〜20%であり、より好ましくは5〜20%である。また、乳化液状物の粘度を前記範囲に調整する食用油脂の含有量は、その他の原料の含有量などにもよるが、乳化液状物に対して、好ましくは1〜50%、より好ましくは5〜40%、更に好ましくは10〜30%である。増粘材を用いる場合、液状調味料の粘度を前記範囲に調整する増粘材の含有量は、増粘材の種類や後述する液状調味料の脂質含有量などにもよるが、液状調味料に対して、好ましくは0.001〜5.0%、より好ましくは0.01〜3.0%である。増粘材としては、例えば、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、アラビアガム、サイリュームシードガムなどのガム質、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、これらの澱粉をアルファ化、架橋などの処理を施した加工澱粉、並びに湿熱処理澱粉などの澱粉類などが挙げられる。
【0020】
前記乳化液状物には、上述の原料以外に本発明の効果を損なわない範囲で各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、グルタミン酸ナトリウム、砂糖、醤油、味噌などの各種調味料、各種エキス、澱粉分解物、デキストリン、デキストリンアルコール、オリゴ糖、オリゴ糖アルコールなどの糖類、レシチン、リゾレシチン、ラクトアルブミン、カゼインナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉などの乳化材、アスコルビン酸又はその塩、ビタミンEなどの酸化防止剤、からし粉、胡椒などの香辛料、各種蛋白質やこれらの分解物などが挙げられる。
【0021】
本発明のパン製造方法は、上述した特定の乳化液状物をパン生地に全体に略均一に分散されるように添加する以外は、従来の一般的なパンの製造方法に準じて製造することができる。
【0022】
すなわち、まず、公知の直捏法(ストレート法)や中種法等に準じて原料を混捏・発酵して上述した本発明の乳化液状物を添加した生地を調製する。
【0023】
前記乳化液状物のパン生地に対する添加量は、パン生地に対して好ましくは0.01〜10%、より好ましくは0.01〜8%、更に好ましくは0.01〜5%である。乳化液状物の添加量が前記範囲よりも少ないと、パン生地に乳化液状物を添加して焼成した場合に、コク味とすっきりとした後味のバランスのとれた風味のパンが得られ難い。一方、乳化液状物の添加量が前記範囲よりも多いと、パン生地がふっくらとした食感が得られ難い傾向がある。
【0024】
次に、製するパンの種類により、例えば、山型食パンの等の場合は、生地を型に入れた後、必要に応じて最終発酵(ホイロ)してからオーブン等で焼成してパンを製造すればよい。
【0025】
続いて、本発明のパン用コク味付与剤について説明する。上述したとおり本発明で用いる乳化液状物は、パンにコク味を付与することができる。つまり、本発明パン用コク味付与剤は、卵、有機酸及び食用油脂を含有した乳化液状物であって、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であり、前記卵と有機酸の合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部である乳化液状物を有効成分とすることを特徴とする。このような本発明のパン用コク味付与剤は、上述したようにパン生地に添加して焼成することで、ふっくらとした食感を損なわずに、コク味がありながらもすっきりとした後味を有する風味をパンに付与することができる。
【0026】
以下、本発明のパンの製造方法及びパン用コク味付与剤について、実施例、及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0027】
[実施例1]パン用コク味付与剤
下記に示す配合割合でパン用コク味付与剤を製した。つまり、食酢、発酵乳酸、生卵黄、ホスホリパーゼA処理卵黄、食塩、グルタミン酸ソーダ、清水をミキサーに入れ、攪拌しながら植物油を徐々に添加して粗乳化し、更にコロイドミルに通して仕上げ乳化を施し、パン用コク味付与剤を製した。なお、得られたパン用コク味付与剤は、パン用コク味付与剤に対し卵黄(固形分換算)を6%、有機酸を3.2%、乳酸を1.8%、食用油脂を20%含有し、卵と有機酸の含有割合が固形分換算で7:3であり、卵と有機酸の固形分換算した合計含有量10部に対して食用油脂の含有量が22部である。また、得られたパン用コク味付与剤の粘度は1Pa・sであった。
【0028】
<パン用コク味付与剤の配合割合>
(油相)
植物油 20%
(水相)
食酢(酸度10%) 14%
発酵乳酸(酸度50%) 3.6%
生卵黄 4%
ホスホリパーゼA処理卵黄 8%
食塩 3%
グルタミン酸ソーダ 0.3%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0029】
[実施例2]パン用コク味付与剤
下記に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様にしてパン用コク味付与剤を製した。なお、得られたパン用コク味付与剤は、パン用コク味付与剤に対し卵黄(固形分換算)を5%、有機酸を3.2%、乳酸を1.8%、食用油脂を40%含有し、卵と有機酸の含有割合が固形分換算で6:4であり、卵と有機酸の固形分換算した合計含有量10部に対して食用油脂の含有量が49部である。また、得られたパン用コク味付与剤の粘度は2Pa・sであった。
【0030】
<パン用コク味付与剤の配合割合>
(油相)
植物油 40%
(水相)
食酢(酸度10%) 14%
発酵乳酸(酸度50%) 3.6%
生卵黄 2%
ホスホリパーゼA処理卵黄 8%
食塩 3%
グルタミン酸ソーダ 0.3%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0031】
[実施例3]山型食パン
実施例1で得られたパン用コク味付与剤を用い、ホームベーカリー(象印マホービン(株)社製、BB−HA10)で常法により山型食パンを得た。つまり、ホームベーカリーのパンケースに、清水210gを投入した後、パン用コク味付与剤7g、強力粉290g、上白糖16g、脱脂粉乳6g及び食塩5gと、無塩バター15gとを投入し、更に、ドライイースト4.5gを投入して均一に混捏した後発酵して生地を得た。続いて、得られた生地を焼成して本発明の山型食パンを得た。なお、得られた山型食パンのパン用コク味付与剤の添加量量は、生地に対して1.2%であった。
【0032】
得られた山型食パンを喫食したところ、ふっくらとした食感であり、また、コク味がありながらもすっきりとした後味を有する大変好ましいものであった。
【0033】
[試験例1]
パン用コク味付与剤における卵と有機酸の含有割合が、パンの風味に与える影響を調べるために以下の試験を行った。具体的には、まず、実施例1において、食酢由来の酢酸、及び発酵乳酸由来の乳酸の含有量と、卵の含有量を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で6種類のパン用コク味付与剤を製した。次いで、得られたパン用コク味付与剤を用いて、実施例2と同様の方法で6種類のパンを製造し、得られたそれぞれのパンを喫食して風味を下記評価基準により評価した。なお、得られた各パン用コク味付与剤の粘度は実施例1と略同じであった。結果を表1に示す。
【0034】
「パンの風味」の評価
ランク:基準
A:コク味が充分感じられ、また、すっきりとした後味であり大変好ましい。
B:若干弱いがコク味があり、また、すっきりとした後味であり好ましい。
C:コク味が感じられない。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であるパン用コク味付与剤(No.2〜5)を添加したパンは、コク味がありながらもすっきりとした後味を有し好ましいことが理解される。更に、卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜1:1であるパン用コク味付与剤(No.2〜4)を添加したパンは、コク味が充分感じられ、また、すっきりとした後味であり特に好ましかった。なお、卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であるパン用コク味付与剤(No.2〜5)を添加したパンは、いずれもふっくらとした食感を有していて好ましいものであった。
【0037】
[比較例1]
下記に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様にして比較例1のパン用コク味付与剤を製した。なお、得られた比較例1のパン用コク味付与剤は、パン用コク味付与剤に対し卵黄(固形分換算)を5%、有機酸を0.5%、食用油脂を70%含有し、卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1であり、卵と有機酸の固形分換算した合計含有量10部に対して食用油脂の含有量が130部である。次に、この比較例1のパン用コク味付与剤を用いた以外は、実施例3と同様にして山型食パンを製して喫食したところ、コク味があまり感じられず、しかも、後味もすっきりしておらず好ましくなかった。
【0038】
<パン用コク味付与剤の配合割合>
(油相)
植物油 70%
(水相)
食酢(酸度10%) 5%
生卵黄 10%
食塩 3%
グルタミン酸ソーダ 0.3%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0039】
[比較例2]
実施例1において、食用油脂の配合量を3%に減らした以外は、実施例1と同様にしてパン用コク味付与剤を製した。なお、得られた比較例2のパン用コク味付与剤は、パン用コク味付与剤に対し卵黄(固形分換算)を6%、有機酸を3.2%、乳酸を1.8%、食用油脂を3%含有し、卵と有機酸の含有割合が固形分換算で7:3であり、卵と有機酸の固形分換算した合計含有量10部に対して食用油脂の含有量が3部である。次に、この比較例2のパン用コク味付与剤を用いた以外は、実施例3と同様にして山型食パンを製して喫食したところ、ふっくらした食感に乏しく重たい食感であり好ましくなかった。
【0040】
[比較例3]
実施例3において、実施例1のパン用コク味付与剤原料を乳化せずにそのまま生地に添加して山型食パンを製した。つまり、ホームベーカリーのパンケースに、清水、強力粉、上白糖、脱脂粉乳、食塩、無塩バター、及びドライイーストを投入し、更に、実施例1のパン用コク味付与剤原料である、食酢、発酵乳酸、生卵黄、ホスホリパーゼA処理卵黄、食塩、グルタミン酸ソーダ、清水をを投入して均一に混捏した後発酵して生地を得た。続いて、得られた生地を焼成して山型食パンを得た。得られた山型食パンを製して喫食したところ、ふっくらした食感に乏しく好ましくなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵、有機酸及び食用油脂を含有した乳化液状物であって、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であり、前記卵と有機酸の合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部である乳化液状物を生地に添加し、該生地を焼成することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
前記乳化液状物を生地に対して0.01〜10%添加する請求項1記載のパンの製造方法。
【請求項3】
卵、有機酸及び食用油脂を含有した乳化液状物であって、前記卵と有機酸の含有割合が固形分換算で9:1〜3:7であり、前記卵と有機酸の合計含有量(固形分換算)10部に対して食用油脂の含有量が5〜100部である乳化液状物を有効成分とすることを特徴とするパン用コク味付与剤。