説明

パンの製造方法

【課題】本願発明の課題は、腎臓病患者であっても安全においしく食することのできるパン、および、このパンの製造方法を提供することとする。
【解決手段】本願発明は、小麦粉、イースト、塩等の材料からなるパン生地本体にイチゴジャム、アンズジャム、オレンジジャム、メープルジャム、ブドウジャム等からなるジャムを混ぜ込み、このジャムが混ぜ込まれた後のパン生地を発酵させ、この発酵させたパン生地を焼成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、パンの製造方法に関するものであり、より詳しくは、腎臓病患者用のパンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の腎臓病患者用のパンは、腎臓病患者が摂取しすぎると問題の生ずる成分を抑えるべく種々のものが考えられているが(たとえば特許文献1)、いずれの腎臓病患者用パンも、通常のパンに比して、おいしくないという問題を有している。
【0003】
特に、この種の腎臓病患者用のパンの材料として、低たんぱく質の小麦粉を使用する場合、味覚の問題のみならず、パン自体の価格が高くなるという問題を有している。
【特許文献1】特開2004−283151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願発明は、上記事情に鑑みて創案されたもので、本願発明の課題は、腎臓病患者であっても安全においしく食することのできるパン、および、このパンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、本願発明に係るパンの製造方法としての特徴は、小麦粉、イースト、塩等の材料からなるパン生地本体にジャムを混ぜ込み、このジャムが混ぜ込まれた後のパン生地を発酵させ、この発酵させたパン生地を焼成することにある。
【0006】
上記構成からなる製造方法によれば、カリウム成分やリン成分の極めて少ないジャムが混ぜ込まれていることによって、最終製品としてのパンに含有されるカリウム成分やリン成分の割合を少なくすることができ、腎臓病患者であっても安全においしく食することができる。
【0007】
また、本願発明にあっては、ジャムとして、イチゴジャム、リンゴジャム、ブルーベリージャム、アンズジャム、オレンジジャム、メープルジャムまたはブドウジャムを採用することが可能である。
【0008】
また、ジャムの割合としては、ジャムを混ぜる前のパン生地本体100gあたり、15〜55gのジャムを混ぜ込むことが好ましい。さらに、このジャムの割合は、ジャムを混ぜる前のパン生地本体100gあたり、25g以上混ぜ込むことが好ましく、さらには30g以上とすることがより好ましい。また、このジャムの割合は、ジャムを混ぜる前のパン生地本体100gあたり、45g以下混ぜ込むことが好ましく、さらには35g以下とすることがより好ましい。
【0009】
また、前記パン生地本体の材料としてのイーストを、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり1.4g以下含有させることが最終製品のカリウム成分やリン成分を少なくする観点から好ましく、より好ましくは1.12g以下である。さらに、イーストを、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.7g以上含有させることがパンを発酵させ十分な食感を得る観点から好ましく、より好ましくは1.11g以上である。
なお、上記各イーストの含有量を採用した場合において、前記パン生地の発酵時間を、60〜90分とすることが好ましい。さらに、パン生地の発酵時間は、70分以上とすることが好ましく、また、80分以下とすることが好ましい。
【0010】
また、前記パン生地の材料としての塩は、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.6g以上とすることが最終製品のパンの見た目等を良くする観点から好ましく、より好ましくは0.65g以上である。なお、塩を上記数値よりも少なくし過ぎると、良好な焼き色がつかず、また、強制的に焼き色をつける手段をとった場合には、水分の飛んだ極めて食感の悪いパンとなってしまうという問題を有する。さらに、塩分が少ないと、塩の殺菌作用が激減するため、最終製品のパンの劣化が早いという問題をも有する。
また、前記塩は、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.9g以下とすることが最終製品のカリウム成分を少なくする観点から好ましく、より好ましくは0.8g以下、さらに好ましくは0.74g以下である。
なお、上記各塩の含有量を採用した場合において、前記パン生地の焼成時間を、40〜60分とすることが好ましい。さらに、パン生地の発酵時間は、45分以上とすることが好ましく、また、50分以下とすることが好ましい。
また、前記塩としては、たとえば精製塩や、並塩などを採用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願発明の実施形態を説明する。
【0012】
<第一実施形態>
本実施形態のパンの製造方法は、小麦粉、イースト、塩等の材料からなるパン生地本体にジャムを混ぜ込む工程、このジャムが混ぜ込まれた後のパン生地を発酵させる工程、この発酵させたパン生地を焼成する工程を備えている。
【0013】
なお、本実施形態においては、前記パン生地本体は、小麦粉、水、油脂、イースト、塩、糖分、および、パン用生地改良製剤を含んでいる。ここで、各材料は、小麦粉55.83%、水34.65%、油脂3.90%、イースト1.39%、塩0.83%、糖分3.35%、パン用生地改良製剤0.05%の割合を混ぜ込んでパン生地本体が作成される(何れも重量パーセント)。
【0014】
また、前記小麦粉としては、成分を強制的に調整した所謂「低蛋白小麦粉」ではなく、一般的な小麦粉を採用している。本実施形態においては、小麦粉として、二等粉ではなく一等粉を用いており、具体的には、商品名「スーパーブレッド200」(協和発酵工業株式会社製)を採用している。
【0015】
また、油脂としては、マーガリンを採用し、具体的には、リン成分・カリウム成分が0である商品名「デリシャスブレッド」(日本油脂株式会社製)を採用している。
【0016】
また、イーストとしては、たとえば、商品名「ダイヤイースト」(協和発酵工業株式会社製)を採用することが可能である。なお、このイーストは、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.7〜1.4g含有せしめることが好ましく、より好ましくは1.11〜1.12gである。
【0017】
また、塩としては、並塩を採用している。なお、この並塩は、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.6〜0.8g含有せしめることが好ましく、より好ましくは0.65〜0.74gである。
【0018】
また、糖分としては、車糖を採用しており、具体的には上白糖を採用している。
【0019】
また、パン用生地改良製剤として、具体的には、商品名「パンダイヤC−100」(協和発酵株式会社製)を採用している。
【0020】
上記各材料を含有するパン生地本体をシート状に伸ばし、このシート状のパン生地本体にシート状のジャムを載せ、これを巻き込むことにより、パン生地本体とジャムとを混ぜ込む。
【0021】
ここで、本実施形態においては、ジャムとして、イチゴジャムを用いたが、その他、リンゴジャム、ブルーベリージャム、アンズジャム、オレンジジャム、メープルジャムまたはブドウジャムを採用することも可能である。また、具体的には、本実施形態においては、ジャムとして、商品名「マーブルシートいちごW」(友栄食品興業株式会社製)を採用している。
【0022】
また、ジャムの含有量としては、本実施形態においては、前記パン生地本体74gに対して26gとなるように混ぜ込まれている。
【0023】
上記のようにジャムが混ぜ込まれたパン生地を、所望の大きさに分割して、型枠に入れて、このパン生地を発酵させる。なお、前記パン生地を分割した分割生地三つを、三つ編み状に絡ませて、この絡ませて一体となったものを一つの枠内に入れて、発酵・焼成することにより、形の整った見た目の美しいパンを製造することができる。
また、パン生地の発酵時間は、従来のパンと異なりイーストの分量を少なくしているため、70〜80分と従来のパンよりも長時間として見た目(焼き目)が良くなるように設定している。また、この発酵に際して、温度を33〜38度に維持することが好ましい。
【0024】
上記のように発酵されたパン生地を次に焼成するのであるが、この焼成時間は、従来のパンと異なり塩の分量を少なくしているため、45〜50分と従来のパンよりも長時間としている。
【0025】
上記製造方法にあっては、発酵前のパン生地(ジャムを含む)100gあたりカリウム成分が46.0mgでリン成分が38.0mgであるため、カリウム成分およびリン成分が少ない最終製品としてのパンを製造することができる。なお、発酵前のパン生地(ジャムを含む)100gあたりカリウム成分は45〜50mg、リン成分は38〜43mgとすることが好ましい。
【0026】
(実験例)
上記製造方法において、ジャムの含有量を変更させた例を図1に示す。ここで、図1の最上段は、ジャムを混ぜ込む前のパン生地本体100gに対して混ぜ込んだジャムのグラム数で、第二段目はパン生地(ジャムを混ぜ込んだもの)におけるジャムの割合を重量パーセントで表している。第三段目は、このパン生地のリン成分の含有量であり、第四段目は、パン生地(ジャムを混ぜ込んだもの)におけるリン成分の割合を重量パーセントで表している。第五段目は、このパン生地のカリウム成分の含有量であり、第六段目は、パン生地(ジャムを混ぜ込んだもの)におけるカリウム成分の割合を重量パーセントで表している。第七段目(最下段)は、各パンの評価を示している。
【0027】
上記実験から、ジャムの含有量は、ジャムを混ぜ込む前のパン生地本体100gに対して少なくとも15g以上、好ましくは25g以上、より好ましくは30g以上である。また、ジャムの含有量は、ジャムを混ぜ込む前のパン生地本体100gに対して少なくとも55g以下、好ましくは45g以下、より好ましくは35g以下である。
【0028】
<第二実施形態>
本実施形態のパンの製造方法は、小麦粉、イースト、塩等の材料からなるパン生地本体にジャムを混ぜ込む工程、このジャムが混ぜ込まれた後のパン生地を発酵させる工程、この発酵させたパン生地を焼成する工程を備えている。
【0029】
なお、本実施形態においては、前記パン生地本体は、小麦粉、水、油脂、イースト、塩、糖分、および、パン用生地改良製剤を含んでいる。ここで、各材料は、小麦粉58.82%、水31.13%、油脂4.11%、イースト1.47%、塩0.90%、糖分3.51%、パン用生地改良製剤0.06%の割合を混ぜ込んでパン生地本体が作成される(何れも重量パーセント)。
【0030】
また、前記小麦粉としては、成分を強制的に調整した所謂「低蛋白小麦粉」ではなく、一般的な小麦粉を採用している。本実施形態においては、小麦粉として、二等粉ではなく一等粉を用いており、具体的には、商品名「スーパーブレッド200」(協和発酵工業株式会社製)を採用している。
【0031】
また、油脂としては、マーガリンを採用し、具体的には、リン成分・カリウム成分が0である商品名「デリシャスブレッド」(日本油脂株式会社製)を採用している。
【0032】
また、イーストとしては、たとえば、商品名「ダイヤイースト」(協和発酵工業株式会社製)を採用することが可能である。なお、このイーストは、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.7〜1.4g含有せしめることが好ましく、より好ましくは1.11〜1.12gである。
【0033】
また、塩としては、精製塩を採用している。なお、この精製塩は、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.6〜0.8g含有せしめることが好ましく、より好ましくは0.65〜0.74gである。
【0034】
また、糖分としては、車糖を採用しており、具体的には上白糖を採用している。
【0035】
また、パン用生地改良製剤として、具体的には、商品名「パンダイヤC−100」(協和発酵株式会社製)を採用している。
【0036】
上記各材料を含有するパン生地本体をシート状に伸ばし、このシート状のパン生地本体にシート状のジャムを載せ、これを巻き込むことにより、パン生地本体とジャムとを混ぜ込む。
【0037】
ここで、本実施形態においては、ジャムとして、イチゴジャムを用いたが、その他、リンゴジャム、ブルーベリージャム、アンズジャム、オレンジジャムまたはブドウジャムを採用することも可能である。また、具体的には、本実施形態においては、ジャムとして、商品名「マーブルシートいちごW」(友栄食品興業株式会社製)を採用している。
【0038】
また、ジャムの含有量としては、本実施形態においては、前記パン生地本体76gに対して24gとなるように混ぜ込まれている。
【0039】
上記のようにジャムが混ぜ込まれたパン生地を、所望の大きさに分割して、型枠に入れて、このパン生地を発酵させる。なお、前記パン生地を分割した分割生地三つを、三つ編み状に絡ませて、この絡ませて一体となったものを一つの枠内に入れて、発酵・焼成することにより、形の整った見た目の美しいパンを製造することができる。
また、パン生地の発酵時間は、従来のパンと異なりイーストの分量を少なくしているため、70〜80分と従来のパンよりも長時間として見た目(焼き目)が良くなるように設定している。また、この発酵に際して、温度を33〜38度に維持することが好ましい。
【0040】
上記のように発酵されたパン生地を次に焼成するのであるが、この焼成時間は、従来のパンと異なり塩の分量を少なくしているため、45〜50分と従来のパンよりも長時間としている。
【0041】
上記製造方法にあっては、発酵前のパン生地(ジャムを含む)100gあたりカリウム成分が48.0mgでリン成分が41.0mgであるため、カリウム成分およびリン成分が少ない最終製品としてのパンを製造することができる。なお、発酵前のパン生地(ジャムを含む)100gあたりカリウム成分は45〜50mg、リン成分は38〜43mgとすることが好ましい。
【0042】
(実験例)
上記製造方法において、ジャムの含有量を変更させた例を図2に示す。ここで、図2の最上段は、ジャムを混ぜ込む前のパン生地本体100gに対して混ぜ込んだジャムのグラム数で、第二段目はパン生地(ジャムを混ぜ込んだもの)におけるジャムの割合を重量パーセントで表している。第三段目は、このパン生地のリン成分の含有量であり、第四段目は、パン生地(ジャムを混ぜ込んだもの)におけるリン成分の割合を重量パーセントで表している。第五段目は、このパン生地のカリウム成分の含有量であり、第六段目は、パン生地(ジャムを混ぜ込んだもの)におけるカリウム成分の割合を重量パーセントで表している。第七段目(最下段)は、各パンの評価を示している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本願発明の第一実施形態の製造方法において、ジャムの含有量を変更した場合の一覧表である。
【図2】本願発明の第二実施形態の製造方法において、ジャムの含有量を変更した場合の一覧表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉、イースト、塩等の材料からなるパン生地本体にジャムを混ぜ込み、このジャムが混ぜ込まれた後のパン生地を発酵させ、この発酵させたパン生地を焼成することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のパンの製造方法であって、
前記ジャムは、イチゴジャム、リンゴジャム、ブルーベリージャム、アンズジャム、オレンジジャム、メープルジャムまたはブドウジャムからなることを特徴とするパンの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のパンの製造方法であって、
ジャムを混ぜる前のパン生地本体100gあたり、15〜55gのジャムを混ぜ込むことを特徴とするパンの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のパンの製造方法であって、
前記パン生地本体の材料としてのイーストを、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.7〜1.4g含有せしめ、
前記パン生地の発酵時間を、60〜90分とすることを特徴とするパンの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のパンの製造方法であって、
前記パン生地本体の材料としての塩を、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.6〜0.8g含有せしめ、
前記パン生地の焼成時間を、40〜60分とすることを特徴とするパンの製造方法。
【請求項6】
小麦粉、イースト、塩等の材料からなるパン生地本体にジャム混ぜ込まれ、このジャムが混ぜ込まれたパン生地を発酵・焼成して製造され、前記パン生地100gあたり、45〜50mgのカリウム成分が含まれることを特徴とするパン。
【請求項7】
小麦粉、イースト、塩等の材料からなるパン生地本体にジャム混ぜ込まれ、このジャムが混ぜ込まれたパン生地を発酵・焼成して製造され、前記パン生地100gあたり、38〜43mgのリン成分が含まれることを特徴とするパン。
【請求項8】
請求項6または7記載のパンであって、
前記ジャムは、前記ジャムは、イチゴジャム、リンゴジャム、ブルーベリージャム、アンズジャム、オレンジジャム、メープルジャムまたはブドウジャムからなることを特徴とするパン。
【請求項9】
請求項6乃至8の何れかに記載のパンであって、
前記パン生地本体には、ジャムを混ぜる前のパン生地本体100gあたり、15〜55gのジャムが混ぜ込まれていることを特徴とするパン。
【請求項10】
請求項6乃至9の何れかに記載のパンであって、
前記パン生地の材料としてのイーストを、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.7〜1.4g含有せしめられていることを特徴とするパン。
【請求項11】
請求項6乃至10の何れかに記載のパンであって、
前記パン生地の材料としての塩を、ジャムを混ぜ込んだパン生地100gあたり0.6〜0.8g含有せしめられていることを特徴とするパン。

【図1】
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【図2】
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