説明

パン粉組成物及びパン粉

【課題】フライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させることができ、さらにフライ食品の衣を薄く均一にでき、パン粉比率(フライ食品の重量に対するパン粉の重量)を低減できるため、衣が保持する油脂の絶対量を従来のパン粉に比べて格段に減少でき、この結果、フライ食品の油脂によるカロリーを大幅に低減できるパン粉組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のパン粉組成物は、小麦粉を主原料とするパン粉組成物であって、小麦粉の8〜50wt%好ましくは10〜25wt%より好ましくは10〜20wt%が、アミロペクチン含有率77〜100wt%好ましくは80〜100wt%の澱粉を含有した米、もち性小麦、低アミロース小麦、タピオカ、さつまいも、小豆、じゃがいも、とうもろこしの粉又は澱粉若しくはこれらの加工品等の高アミロペクチン粉で置き換えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉を主原料とするパン粉組成物及びそれを原料として製造されたパン粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、パン粉は小麦粉を主原料とする原料粉を、イースト発酵させてパン生地を調製し、焼成して得たパンを粉砕したものが多く用いられている。パン粉は、揚げ物素材に付けて、油で揚げて得られるフライ食品の材料として利用されている。このようなフライ食品は、油で揚げる際に、パン粉が多量の油脂を吸油して保持してしまうため、高カロリー食品となり易い問題があった。近年、健康に対する関心が高まるにつれ、油脂によるカロリー摂取を控える傾向が強くなっており、吸油量の少ないパン粉が求められている。
従来の技術としては、(特許文献1)に「パン生地原料に豆類から抽出した食物繊維細胞膜を配合し、製パンした後に粉砕して得られたパン粉」が開示されている。
(特許文献2)には、「とうもろこしの外皮、ふすま等から調製された食物繊維をパン生地に配合し、製パンした後に粉砕して得られたパン粉」が開示されている。
(特許文献3)には、「パン生地原料にプロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される1種又は2種以上の酵素を添加し、製パンした後に粉砕するパン粉の製造方法」が開示されている。
(特許文献4)には、「主原料として大豆粉及び加工澱粉を添加した穀物類のパン生地を、パンの比容積が2.8〜3.6ml/gになるように発酵を抑制して焼成を行うパン粉の製造方法」が開示されている。
(特許文献5)には、「糖アルコール及びセルロースを添加した穀物粉を主原料として製造されたパン粉」が開示されている。
(特許文献6)には、「パン生地原料に水溶性食物繊維を配合し、製パンした後に粉砕して得られたパン粉」が開示されている。
(特許文献7)には、水蒸気の吸着阻害効果を有し、製造後長期間が経過しても揚げたて直後と同様のサク味を保つ電子レンジ対応フライを製造できるパン粉を、「小麦粉100gに対して米粉5gを目標値(その±20%を許容範囲)として配合してパン生地を作り、焼成・粉砕して得ること」が記載されている。
【特許文献1】特開平2−20258号公報
【特許文献2】特開平5−51号公報
【特許文献3】特開平6−169717号公報
【特許文献4】特開平7−250641号公報
【特許文献5】特開平7−284372号公報
【特許文献6】特開2006−271329号公報
【特許文献7】特開平8−154596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示の技術は、豆類から抽出した食物繊維細胞膜をパン生地に配合したことにより、フライを揚げた際に衣への吸油率が少なくなるという効果が認められるが、その効果を十分に得るためには食物繊維細胞膜を多量に添加しなければならず、添加量が増えるにつれて食感が低下するという課題を有していた。
(2)(特許文献2)に開示の技術は、とうもろこしの外皮、ふすま等から調製された食物繊維をパン生地に配合したことにより、フライを揚げた際の衣への吸油率が低くなるという効果が認められるが、その効果は、食物繊維を添加しない場合の80%程度にしかならず、吸油率の減少効果が乏しいという課題を有していた。
(3)(特許文献3)に開示の技術は、プロテアーゼ及びアミラーゼを添加しパン生地中のグルテン及び澱粉を一部酵素分解させて吸油率を低くしているが、酵素を利用しているため、毎回安定した生成物が得られ難い問題があり、吸油率の抑制効果も不安定であるという課題を有していた。
(4)(特許文献4)に開示の技術は、大豆粉及び加工澱粉を添加したパン生地の発酵を制御して、パンの比容積を制御するものであるため、製造工程管理が煩雑化するという課題を有していた。また、製造条件のばらつきが吸油量のばらつきに直結し、吸油率の抑制効果も不安定であるという課題を有していた。
(5)(特許文献5)に開示の技術は、糖アルコール及びセルロースをパン生地に配合したことにより吸油率が低くなるという効果が認められるが、その効果は、糖アルコール及びセルロースを添加しない場合の60%程度にしかならず、吸油率の減少効果は不十分であった。
(6)(特許文献6)に開示の技術は、水溶性食物繊維をパン生地に配合したことにより吸油率が低くなるという効果が認められるが、その効果は、水溶性食物繊維を添加しない場合の50〜60%程度であり、吸油率の減少効果はまだ十分なものとはいえなかった。
(7)特許文献1乃至6に開示された食物繊維細胞膜、食物繊維、大豆粉、セルロース等の添加量が増えると、剣立ち(揚げられたパン粉が針状に立った状態になること)性が失われて外観的にのっぺりした状態になり、美味しそうに見えないためフライの商品価値が低下し、さらに揚げたフライの食感が硬くなるという課題を有していた。
(8)(特許文献7)には、小麦粉100gに対し米粉(もち米の粉)5g±20%を配合しパン生地を作ることが記載されている。これは、小麦粉の3.8〜5.6wt%が米粉で置き換えられていることに相当する。特許文献7には吸油率については記載も示唆もされていないが、本発明者らが行った実験では、小麦粉の3.8〜5.6wt%が米粉で置き換えられた程度では、吸油率は米粉無添加の場合の90%程度にしかならず、吸油率を低下させることはできないという課題を有していた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、揚げ物素材にパン粉を付けて油脂で揚げたときのフライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させるパン粉組成物及びパン粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明のパン粉組成物及びパン粉は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載のパン粉組成物は、小麦粉を主原料とするパン粉組成物であって、前記小麦粉の8〜50wt%好ましくは10〜25wt%より好ましくは10〜20wt%が、アミロペクチン含有率77〜100wt%好ましくは80〜100wt%の澱粉を含有した高アミロペクチン粉で置き換えられた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)小麦粉の8〜50wt%が、アミロペクチン含有率77〜100wt%の澱粉を含有した高アミロペクチン粉で置き換えられたパン粉組成物でパン生地を作り焼成・粉砕して得られたパン粉は、揚げ物素材に付けて油脂で揚げたときのフライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させられることがわかった。この詳しいメカニズムは不明であるが、アミロースとともに澱粉を構成するアミロペクチンは、分岐構造をもつ難水溶性の高分子多糖であり疎油性を発現すると考えており、このため小麦粉の一部を高アミロペクチン粉で置き換えたパン粉組成物で製造したパン粉の吸油率を低下させると考えている。
(2)製パン原料として通常用いられている小麦粉を用いて、その一部を高アミロペクチン粉で置き換えればよいため、吸油率が低いパン粉を安定して量産することができる。
(3)製造されたパン粉は、満遍なく均一に揚げ物素材に付着し易くなるので、フライ食品の衣を薄く均一にでき、パン粉比率(フライ食品の重量に対するパン粉の重量)を低減できため、衣が保持する油脂の絶対量を従来のパン粉に比べて格段に減少できる。このため、フライ食品の油脂によるカロリーを大幅に低減できる。
【0006】
ここで、小麦粉としては、特に制限されるものではなく、製パン原料として通常用いられている小麦粉を用いることができる。
【0007】
アミロペクチンの定量方法としては、例えば、日本バイオコン株式会社のConA(コンカナバリンA)を用いたものが好適である。ConAはアミロースと複合体を形成しないので、アミロペクチン−ヨウ素複合体を用いた方法より正確に定量できるからである。
定量方法の手順は、まず高アミロペクチン粉を試験管に入れ、振とうしながらDMSO(ジメチルスルホキシド)を加えて加熱する。放冷後、エタノールを加えて澱粉を沈殿させる。沈殿を液体と分離した後、沈殿にDMSOを加えてサンプル溶液を得る。これにより、高アミロペクチン粉を溶解し脂質を取り除くことができる。
次に、サンプル溶液を二つに分け、一方のサンプル溶液にConA溶液を加え、アミロペクチンを沈殿させて取り除く。上澄みに酢酸ナトリウム緩衝液を加えた後、加熱してConAを変性させる。アミログルコシダーゼ/α−アミラーゼ溶液を加え、インキュベート後、遠心分離する。上澄みにグルコース測定試薬(GOPOD)を加え、インキュベート後、吸光度測定により上澄み中のアミロースを定量する。
別のサンプル溶液に酢酸ナトリウム緩衝液を加えた後、アミログルコシダーゼ/α−アミラーゼ溶液を加え、インキュベートする。次いで、グルコース測定試薬(GOPOD)を加え、インキュベート後、サンプル溶液中の総澱粉量を定量する。これにより、高アミロペクチン粉の澱粉のうちのアミロペクチンの割合を定量できる。
【0008】
高アミロペクチン粉の澱粉中のアミロペクチン含有率が80wt%より少なくなるにつれ、製パン原料として通常用いられる小麦粉の澱粉のアミロペクチン含有率に近づき、高アミロペクチン粉の配合効果が得られなくなり吸油率の低下が乏しくなる傾向がみられる。特に、77wt%より少なくなると、この傾向が著しいため、好ましくない。
【0009】
小麦粉に対する高アミロペクチン粉の置換量が10wt%より少なくなるにつれ、吸油率の低下効果が減少する傾向がみられ、特に置換量が8wt%より少なくなると、吸油率の低下効果が乏しくなるため好ましくない。また、小麦粉に対する高アミロペクチン粉の置換量が20wt%より多くなるにつれ、剣立ち性や食感が次第に低下する傾向がみられ、25wt%より多くなるにつれ、吸油率は低いが、剣立ち性や食感が従来のパン粉より低下する傾向がみられる。特に、置換量が50wt%より多くなると、剣立ちがほとんどみられなくなるとともに製パンが困難になるため好ましくない。
【0010】
パン粉組成物には、イーストの他、パン粉の製造に通常用いられているショートニング等の油脂類、食塩、糖類、イーストフード、乳化剤等の副原料を必要に応じて、適宜配合することができる。
【0011】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のパン粉組成物であって、前記高アミロペクチン粉が、米、もち性小麦、低アミロース小麦、タピオカ、さつまいも、小豆、じゃがいも、とうもろこしの粉又は澱粉若しくはこれらの加工品の1種若しくは複数種である構成を有している。
この構成により、請求項2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)高アミロペクチン粉が、米、もち性小麦、低アミロース小麦、タピオカ、さつまいも、小豆、じゃがいも、とうもろこしの粉又は澱粉若しくはこれらの加工品の1種若しくは複数種なので、安定供給ができ低原価で量産できる。
【0012】
ここで、高アミロペクチン粉としては、米、もち性小麦、低アミロース小麦、タピオカ、さつまいも、小豆、じゃがいも、とうもろこしの粉又は澱粉が用いられる。いずれの澱粉も、主原料の小麦粉の澱粉よりアミロペクチン含有率が高いからである。
また、加工品としては、米、もち性小麦、低アミロース小麦、タピオカ、さつまいも、小豆、じゃがいも、とうもろこしの澱粉をα化処理したもの、エステル化やエーテル化、酸処理等の通常の加工が施されたものが用いられる。
【0013】
米としては、もち米、うるち米を用いることができる。なかでも、もち米が好適に用いられる。アミロースを含まずアミロペクチン含有率が高いからである。
とうもろこしとしては、アミロースを含まないワキシーコーンや通常のとうもろこしが用いられる。
これらの高アミロペクチン粉の内、米粉が好適に用いられる。澱粉のアミロペクチン含有率がうるち米では83wt%、もち米では100wt%と高いため添加効果が高く、さらに安定して入手可能だからである。
【0014】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のパン粉組成物であって、前記高アミロペクチン粉が、目開き53〜106μm好ましくは63〜106μmのふるいを通過した構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)目開き53〜106μmのふるいを通過した高アミロペクチン粉が配合されているので、小麦粉とのなじみが良く、フライにしたときに剣立ちがよくサクサクとした食感が得られるとともに、吸油率も低くすることができる。
【0015】
ここで、高アミロペクチン粉が通過するふるいの目開きが63μmより小さくなるにつれ、剣立ち性は良好だが食感が低下する傾向がみられ、特に53μmより小さくなると、サクサク感が乏しくなり小麦粉ばかりで作ったパン粉と同様の食感に近づくため、好ましくない。また、高アミロペクチン粉が通過するふるいの目開きが106μmより大きくなると、パン粉の吸油率が次第に高くなり、得られるフライ食品が油っぽく感じられるようになるとともに、フライ食品の衣が硬くなり食感が低下するため好ましくない。
【0016】
本発明の請求項4に記載のパン粉は、請求項1乃至3の内いずれか1に記載のパン粉組成物を原料として製造された構成を有している。
(1)本発明のパン粉組成物を原料として製造されているので、パン粉は、揚げ物素材に付けて油脂で揚げたときのフライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させることができる。
【0017】
パン粉は、パン粉組成物を用いたパン生地を、直捏法や中種法等の公知の方法を用いて製パンした後、粉砕して得ることができる。パンの粉砕後、パン粉を乾燥してもよく、また乾燥しないで生パン粉としてもよい。また、製パンの際の焼成は、オーブン等を用いる焙焼式でも電極を用いる通電式(電極式)でもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明のパン粉組成物及びパン粉によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)揚げ物素材に付けて油脂で揚げたときのフライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させられるパン粉を提供できる。このため、油脂によるカロリー摂取量の少ないフライ食品を作ることができる。さらに、パン粉が吸油し保持する油脂の量が少なくなるため、フライ食品等を生産する食品工場や食堂等で使用する揚げ物用油脂を約半分に削減することができ、フライ食品等の生産コストも大幅に削減できるパン粉組成物を提供できる。
(2)製パン原料として通常用いられている小麦粉を用いて、その一部を高アミロペクチン粉で置き換えればよいため、吸油率が低いパン粉を安定して量産することができるパン粉組成物を提供できる。
(3)製造されたパン粉は、満遍なく均一に揚げ物素材に付着し易くなるので、フライ食品の衣を薄く均一にでき、パン粉比率(フライ食品の重量に対するパン粉の重量)を低減できる。また、これにより、衣が保持する油脂の絶対量を従来のパン粉に比べて格段に減少でき、この結果、フライ食品の油脂によるカロリーを大幅に低減できるパン粉組成物を提供できる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)高アミロペクチン粉が、米、もち性小麦、低アミロース小麦、タピオカ、さつまいも、小豆、じゃがいも、とうもろこしの粉又は澱粉若しくはこれらの加工品の1種若しくは複数種なので、安定供給ができ低原価でパン粉を量産できるパン粉組成物を提供できる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)小麦粉とのなじみが良く、フライにしたときに剣立ちがよくサクサクとした食感が得られるとともに、吸油率も低くすることができるパン粉組成物を提供できる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)揚げ物素材に付けて油脂で揚げたときのフライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させられるパン粉を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実験例1)
小麦粉90重量部、うるち米の米粉10重量部、ショートニング1重量部、食塩1重量部、イースト2重量部、イーストフード0.1重量部を配合したパン粉組成物に、水64重量部を加えて混練し、発酵させパン生地を調製した後、パンを焼成した(電極式、通電200V、15分間)。放冷後、低温庫で24時間冷蔵保管し老化させた。次に、粉砕機で直径6mmの開孔を通過する程度の大きさに粉砕し、水分約11wt%まで乾燥させて、実験例1のパン粉を得た。米粉は、目開き75μmのふるいを通過した粒度のものを用いた。
なお、小麦粉の澱粉中のアミロペクチン含有率は76%であり、米粉の澱粉中のアミロペクチン含有率は83wt%であった。
【0023】
(実験例2)
小麦粉80重量部、米粉20重量部にした以外は実験例1と同様にして、実験例2のパン粉を得た。
(実験例3)
小麦粉70重量部、米粉30重量部にした以外は実験例1と同様にして、実験例3のパン粉を得た。
(実験例4)
小麦粉60重量部、米粉40重量部にした以外は実験例1と同様にして、実験例4のパン粉を得た。
(実験例5)
小麦粉50重量部、米粉50重量部にした以外は実験例1と同様にして、実験例5のパン粉を得た。
(実験例6)
小麦粉95重量部、米粉5重量部にした以外は実験例1と同様にして、実験例6のパン粉を得た。
(比較例)
米粉は配合せずに小麦粉100重量部にした以外は実験例1と同様にして、比較例のパン粉を得た。
【0024】
(実験例7)
目開き45μmのふるいを通過した粒度の米粉を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例7のパン粉を得た。
(実験例8)
目開き53μmのふるいを通過した粒度の米粉を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例8のパン粉を得た。
(実験例9)
目開き63μmのふるいを通過した粒度の米粉を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例9のパン粉を得た。
(実験例10)
目開き106μmのふるいを通過した粒度の米粉を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例10のパン粉を得た。
(実験例11)
目開き150μmのふるいを通過した粒度の米粉を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例11のパン粉を得た。
(実験例12)
目開き300μmのふるいを通過した粒度の米粉を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例12のパン粉を得た。
【0025】
(吸油率の測定)
実験例1〜12及び比較例の各パン粉10gを茶こしにとり、175℃で3分間揚げた後、濾紙(東洋濾紙製、定性濾紙No.2、φ125)上に展開し、1分間放置した。1分間放置後の濾紙及びパン粉の質量をW1(g)とした。次いで、濾紙からパン粉を除去した後の濾紙(油を含む)の質量をW2(g)とした。W1−W2−10をパン粉の吸油量(g)(パン粉が吸油して保持した油脂の質量)とした。
次に、米粉の置換量と吸油率の関係を、吸油率(%)=(実験例1〜12の各パン粉の吸油量)÷(比較例のパン粉の吸油量)×100(%)により求め、比較例のパン粉の場合を吸油率100%として相対評価した。
また、米粉の粒度と吸油率の関係を、吸油率(%)=(実験例1、実験例7〜11の各パン粉の吸油量)÷(実験例12のパン粉の吸油量)×100(%)により求め、実験例12のパン粉の場合を吸油率100%として相対評価した。
(剣立ちの評価)
豚カツ用肉に小麦粉をまぶし、卵液に浸した後、実験例1〜12及び比較例の各パン粉を付けて、同一の条件で揚げて豚カツを作成した。これを、パネラー20名(社員及びパートタイマー)に目視確認してもらった。揚げられたパン粉が針状に立った状態になっており美味しそうに感じられた場合は5点、のっぺりした状態で美味しくなさそうに感じられた場合は0点として、各パネラーが0〜5点の点数付けを行い、パネラー20名の合計得点を剣立ちの評価点とした。
(食感の評価)
剣立ちを評価した豚カツを、同じパネラーに試食してもらった。衣にサクサク感があり食べ易く美味しいと感じた場合は5点、衣が硬くて食べ難く美味しくないと感じた場合は0点として、各パネラーが0〜5点の点数付けを行い、パネラー20名の合計得点を食感の評価点とした。
【0026】
図1は実験例1〜6及び比較例のパン粉について、米粉の置換量と吸油率、剣立ち及び食感の評価点との関係を示す図であり、図2は実験例1、実験例7〜12のパン粉について、米粉の粒度と吸油率、剣立ち及び食感の評価点との関係を示す図である。
図1から、吸油率は、米粉の置換量が増えるにつれ、比較例のパン粉(米粉の置換量0wt%)より少なくなることがわかった。特に、米粉の置換量が5wt%を超えるあたりから激減し、置換量8wt%で60%、置換量10wt%以上で50%以下の吸油率が達成できることがわかった。食感及び剣立ちは、米粉の置換量が増えるにつれ、比較例のパン粉(米粉の置換量0wt%)より向上するが、置換量10wt%付近でピークを迎え、置換量20wt%を超えるあたりから低下傾向が顕著になり、置換量が25wt%より多くなると比較例のパン粉より悪化することがわかった。また、置換量が50wt%より多くなると、製パンが困難になるとともに剣立ち性がほぼ失われることがわかった。
【0027】
また、卵液に浸した豚カツ用肉にパン粉を付けるときにわかったことであるが、米粉で小麦粉の一部を置換したパン粉は、米粉を加えないで製造したパン粉に比べて、パン粉を満遍なく均一に付着させ易くなる傾向がみられた。この傾向は、米粉の置換量が多くなるにつれて顕著になった。これは、小麦粉の一部を米粉で置換したパン粉は、米粉を加えないで製造したパン粉に比べて弾力が若干乏しく、解れ易いためであると推察された。さらに、米粉の置換量8〜50wt%のパン粉で作ったフライ食品は、パン粉比率(フライ食品の重量に対するパン粉の重量)を比較例のパン粉の場合の10〜15%低減できることがわかった。このことから、小麦粉の一部を米粉で置換したパン粉は、フライ食品の衣を薄く均一にできるとともに剣立ち性に優れるため、フライ食品の外観を美味しそうに整えられることがわかった。
さらに、従来のパン粉では、揚げ物素材にパン粉が付きすぎて衣ばかり大きくなってしまい、衣が多量の油脂を吸収し脂っこくなることがあるが、小麦粉の一部を米粉で置換したパン粉は、それ自体の吸油率が従来のパン粉の約半分以下であることに加え、パン粉比率を従来のパン粉の10〜15%低減できるため、衣が保持する油脂の絶対量を、従来のパン粉に比べて格段に減少できることが明らかになった。また、衣が薄くてもサクサクとした軽い食感が得られるため、飽きずに食することができ胃にもたれることのないフライ食品を製造できることがわかった。
【0028】
また、図2から、米粉の粒度が小さくなって細粒化するにつれて吸油率の低下が鈍化し、同時に剣立ち及び食感の評価点が高くなることがわかった。特に、目開き63〜106μmのふるいを通過した米粉を用いた場合は、吸油率が50%以下で、剣立ち及び食感の評価点が100点満点で80点以上になることがわかった。しかし、目開き63μm未満のふるいを通過した米粉を用いることで、吸油率は40%以下と低く、剣立ち性の評価点も80点以上と高いのだが、食感の評価点が低下する傾向がみられた。
【0029】
なお、うるち米の米粉に代えて、もち性小麦粉(澱粉中のアミロペクチン含有率100wt%)、低アミロース小麦粉(澱粉中のアミロペクチン含有率90wt%)、もち米粉(澱粉中のアミロペクチン含有率100wt%)、タピオカ澱粉(澱粉中のアミロペクチン含有率83wt%)、さつまいも澱粉(澱粉中のアミロペクチン含有率82wt%)、小豆澱粉(澱粉中のアミロペクチン含有率78wt%)、じゃがいも澱粉(澱粉中のアミロペクチン含有率78wt%)、とうもろこし澱粉(澱粉中のアミロペクチン含有率77wt%)を使って行った実験でも、同様の傾向が得られた。
以上のことから、アミロペクチン含有率77〜100wt%の澱粉を含有した高アミロペクチン粉で小麦粉の8〜50wt%を置き換えたパン粉組成物でパン生地を作り、焼成・粉砕して得られたパン粉は、揚げ物素材に付けて油脂で揚げたときのフライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させられることがわかった。特に、アミロペクチン含有率77〜100wt%の澱粉を含有した高アミロペクチン粉で小麦粉の8〜25wt%を置き換えた場合は、吸油率の低下に加え、さらに剣立ちもよくサクサクとした食感が得られることがわかった。
また、高アミロペクチン粉が目開き63〜106μmのふるいを通過したものを用いることで、吸油率が低いだけでなく、剣立ちもよくサクサクとした食感も得られるパン粉を製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、小麦粉を主原料とするパン粉組成物及びパン粉に関し、揚げ物素材にパン粉を付けて油脂で揚げたときのフライ食品の油切れを向上させて吸油率を低下させることができ、さらにフライ食品の衣を薄く均一にでき、パン粉比率(フライ食品の重量に対するパン粉の重量)を低減できるため、衣が保持する油脂の絶対量を従来のパン粉に比べて格段に減少でき、この結果、フライ食品の油脂によるカロリーを大幅に低減できるパン粉組成物及びパン粉を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】米粉の置換量と吸油率、剣立ち及び食感の評価点との関係を示す図
【図2】米粉の粒度と吸油率、剣立ち及び食感の評価点との関係を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を主原料とするパン粉組成物であって、前記小麦粉の8〜50wt%が、アミロペクチン含有率77〜100wt%の澱粉を含有した高アミロペクチン粉で置き換えられていることを特徴とするパン粉組成物。
【請求項2】
前記高アミロペクチン粉が、米、もち性小麦、低アミロース小麦、タピオカ、さつまいも、小豆、じゃがいも、とうもろこしの粉又は澱粉若しくはこれらの加工品の1種若しくは複数種であることを特徴とする請求項1に記載のパン粉組成物。
【請求項3】
前記高アミロペクチン粉が、目開き53〜106μmのふるいを通過したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のパン粉組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3の内いずれか1に記載のパン粉組成物を原料として製造されたパン粉。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−211995(P2008−211995A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50258(P2007−50258)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(591040177)クラウン・フーヅ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】