説明

パン類の冷却方法

【課題】 パン類に焼成等の最終加熱処理工程を実施し、その後に行われる冷却処理工程に用いられる設備の省エネルギー化、設備規模の縮小・簡素化、及び省スペース化と、焼成パンの歩留まり向上と商品価値の向上、及び製品の品質劣化を防止する。
【解決手段】 パン類を最終加熱処理する加熱工程と、最終加熱処理されたパン類の表面に水を付着させる第1冷却工程と、パン類を付着された水の蒸発潜熱を利用して冷却を促進させる第2冷却工程と、前記第2冷却工程で冷却されたパン類をその表面温度より高い露点温度でかつ前記第2冷却工程より高湿度の雰囲気中に保持して、パン類の表面、表層に水分を吸着させる第3冷却工程とを少なくとも具備する。各冷却工程において、パン類を取り巻く雰囲気で風速0.1〜2m/秒の気流を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食パンなどのパン類に焼成の最終加熱処理工程を実施し、その後に行われる冷却処理工程において、冷却速度を高めて冷却時間の短縮化を達成するとともに、食品の歩留まり及び品質の向上と冷却設備の縮小化、省エネルギー化を可能とした冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食パンなどパン類を焼成の最終加熱処理し、その後冷却する目的は、食パンを例に取ると、食パンを工場でスライスするとき、食パンの品温が高いと切断面が滑らかな面とならない、また食パンの包装に際し、食パンの品温が包装室室温より高いと包材内部に結露を生じる、等の不具合を回避するためである。
これらの問題点を解決する為、パン類の焼成工程終了後の冷却方法として、製造室内で棚台車に積載したり、又は天井近くにバーコンベア、スパイラルコンベア等を設置し、移動または運行させ、一般的に自然冷却と呼ばれ、製造室室温で2〜3時間かけ、中心温度を25℃付近のスライス、包装室の作業室温まで冷却している。
【0003】
この方法では、製造室の温度、湿度が制御されていないため、季節、一日の内の時刻、その他の製造工程との関係でパン類の品温、水分蒸散(歩留り)のばらつきが発生し、冷却終了時の品温、水分蒸散のばらつきを少なくする、より進んだ方法として棚台車、コンベア等を冷却室に設け、製品にあたる風速と温度又は温度と湿度を制御しながら冷却を行う方法が考案され、一部で採用されている。
【0004】
温度及び湿度を制御する方法として、冷却室を一室とし温度又は温度及び湿度を制御する方法と、冷却室を高温サイドと低温サイドの2室を設け、それぞれの室温及び湿度を高温側で25〜40℃及び湿度70パーセント前後(±10%)、低温側で20〜25℃及び湿度60%(±10%)に制御し、冷却を行っている。製品は高温側から低温側に移行する。対製品風速はいずれも0.1〜2m/秒である。
しかしこれらの方法は、いずれも冷却終了後の品温に重点が置かれ、冷却室内条件も室温に重きが置かれていたため、製品の水分蒸散は成り行きとされていた。
【0005】
この改善案として、特許文献1(特開昭62−53142号公報)及び特許文献2(特開平8−70837号公報)には、冷却室の雰囲気を食品より低い温度で、かつ相対湿度を飽和湿度まで高くして、冷却速度を速めるとともに、食品からの水分蒸散を抑制し、これによって冷却時間の短縮を図るとともに、歩留まりと食感を改善する方法も開示されているが、冷却空気の温度と水蒸気圧は食品より低いため、食品からの水分蒸散を避けることが出来ない。
【0006】
また湿度とは空気中に水蒸気の状態で分離している状態で、食品の冷却のために接触熱交換させても、水蒸気であるため、食品から蒸発潜熱を奪うことは期待できず、また雰囲気空気が飽和湿度であるため、食品からの水分蒸発による蒸発潜熱が抑制されるため、冷却時間の短縮を達成することができず、このため冷却に要する平面スペース、容積は工場内有効スペースに大きな割合を占め、消費エネルギーも大きい。
また高湿度のため、冷却装置内に増殖する微生物対策等の問題が発生する。
【0007】
より効率的に冷却する手段として、特許文献3(特開平8―103256号公報)には、食品表面に水と空気又は水を噴霧し食品表面を湿潤にし、次工程で冷風により冷却した後、乾燥した冷風により冷却と余剰水分の除去を図る方法が開示されている。
この発明では、冷却速度は速められるが食品表面湿潤後の冷風による冷却と、冷乾燥空気による余剰水除去の2工程での食品表面からの水分の蒸散があり、歩留り率が低減するという問題がある。
【0008】
焼成または半焼成したパン類を冷凍するに際し、パン表皮の剥離、ひび割れ防止と食感の向上の為、特許文献4(特公昭55−34656号公報)では、焼成後冷凍前、特許文献5(特開2003−21974号公報)には、焼成後冷凍前、冷凍中、又は冷凍後いずれかの工程で、水をパン表面に噴霧、刷毛、浸漬等の方法で付与(付加)する方法が開示されている。
更にブルマンタイプのパン上側表面の外観改良、及びカッピング(上側表面の落ち窪み現象)の防止法として、特許文献6(特公平8−29045号公報)には、焼成後、パン中心温度が80℃未満に低下する前に、油/水エマルジョン又は水を付着させる方法が開示されている。
【0009】
上記従来の冷却方法では、いずれも食品の表面温度が雰囲気露点温度より高いため、食品の水分蒸散は避けられない。また食品歩留り率は不安定となり、表層部の乾燥によるしわやひびわれ、内層部の乾燥によるパサツキ感等の食品品質の劣化は避けられない。
このため食感の問題として、例えば焼成パンでは、サンドイッチの製造、トーストでの喫食時等に、所謂パンの耳といわれる硬い表層部を切落とし廃棄する方法もしばしば行われ、不必要な工程と資源の無駄が発生する。
これらの方法では歩留まり率は成り行きとなり不安定である。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−53142号公報
【特許文献2】特開平8−70837号公報
【特許文献3】特開平8−103256号公報
【特許文献4】特公昭55−34656号公報
【特許文献5】特開2003−21974号公報
【特許文献6】特公平8−29045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、パン類に対し焼成の最終加熱処理工程を実施した後、冷却処理工程を行なうに際し、従来の手段及び方法においては、歩留まり率を向上させるとともに、冷却工程に要する設備の簡素化、省スペース化、省エネルギー化を図り、かつ製品表面の剥離、ひび割れを防止して製品の品質を向上させるとともに、食感を向上させる手段及び方法は実現されていないのが現状である。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、食パンなどパン類に対し焼成の最終加熱処理工程を実施し、その後に行われる冷却処理工程に用いられる設備の省エネルギー化、設備規模の縮小・簡素化、及び省スペース化を図ることにより、環境の保全に貢献するとともに、焼成パンの歩留まり向上と歩留まり率の安定化、商品価値の向上、及び製品の品質劣化を防止する冷却方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の冷却方法は、かかる目的を達成するもので、パン類を最終加熱処理して冷却する方法において、パン類を最終加熱処理する加熱工程と、最終加熱処理されたパン類の表面に水を付着させる第1冷却工程と、パン類を付着された水の蒸発潜熱を利用して冷却を促進させる第2冷却工程と、前記第2冷却工程で冷却されたパン類をその表面温度より高い露点温度でかつ前記第2冷却工程より高湿度の雰囲気中に保持して水分を吸着させる第3冷却工程とを少なくとも具備することを特徴とする。
【0014】
本発明方法においては、最終加熱処理工程後の冷却工程を少なくとも3段階とし、各段階のパン類を取り巻く雰囲気と時間とをコントロールする。パンをオーブンから取り出した時通常95〜98℃程度の温度を有する。第1冷却工程では、最終加熱処理工程終了後、速やかにパン類の表面に水をたとえばスプレーで噴霧したり、又は刷毛などで薄い膜状に塗布することにより、最終加熱処理直後の高温雰囲気及びその後の第2冷却工程において、パン類に付着された水の蒸発潜熱により冷却が促進され、塗布された水の量に相当するパン類が含有する水分の蒸発が抑えられ、これが歩留り率向上に寄与する。
【0015】
第1冷却工程では、雰囲気温度が低いと、パン類の表層部近くに内部から蒸発した水分が過度に凝縮してスポンジ状組織に吸着され、いわゆるホワイトリングと呼ばれる多水分の層が発現し、商品価値を減じるため、雰囲気温度は、かかる多水分層等が生じない温度とする必要がある。
第1冷却工程は、最終加熱処理工程直後であり、パン類の温度が高いため、雰囲気温度湿度が高くても、パン類からの水分蒸散量が多いため、第1冷却工程で水を付着させることはパン類の冷却促進につながり、有効である。
【0016】
このように第1冷却工程では、雰囲気温度湿度が高くてもパン類に付着した水分は蒸散し、水の蒸発潜熱でパン類から多量の熱を奪うため、雰囲気温度湿度を低くするための空調設備などを必要とせず、通常の作業室内環境又は外気環境で済む。たとえば温度は、好ましくは、15〜40℃の範囲内とすればよい。
【0017】
パン類が第2冷却工程に投入されるときの最も高い部分の温度は50〜95℃である。第2冷却工程では、パン類を低温度及び低湿度の雰囲気中に保持して冷却を促進させるとともに、パン類の表面に付着した水分の蒸散と内層部からの水分の蒸散を防ぐ。このパン類の表層部は早く冷却されるため、表層からの水分蒸散が押えられ、内部の飽和状態が保持されながら冷却されるため、内部からの水分蒸散が抑制される。
しかし温度を下げすぎると、パン類と雰囲気温度との差が大きいためにパン類の表層部付近のスポンジ状組織に水分を多く含む、いわゆるホワイトリングと呼ばれる多水分層が発現して、品質の劣化を来たすため、このような層が発現しない温度とする必要がある。
好ましくは、第2冷却工程での雰囲気温度を5〜15℃、相対湿度を30〜60%に設定する。
【0018】
第3冷却工程では、前記第2冷却工程で冷却されたパン類を、その表面温度より高い露点温度でかつ高湿度の雰囲気中、好ましくは、温度が10〜20℃、相対湿度が60〜90%の雰囲気中に保持することにより、パン類は、冷却されながら、空気中の水分が凝縮して、その表層部に均一に適度に吸着される。即ち第2冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度及び湿度を第3冷却工程より低くすることが好ましい。
これによって前記第2冷却工程で蒸散した表層部の水分が復旧される。吸着した水分は消費者が喫食するまで蒸散し続けるが、最終加熱処理直後の水分の蒸散量の大部分を占める冷却工程の段階で水分の蒸散を押えることは、パン類の歩留りを向上させ、乾燥による劣化を防止する上で有効な手段である。
【0019】
また本発明方法において、好ましくは、前記第1冷却工程、第2冷却工程及び第3冷却工程において、パン類を取り巻く雰囲気で風速0.1〜2m/秒の気流を生じさせる。この気流によって、各冷工程においてパン類を取り巻く雰囲気を攪拌し、冷却効果を高める。
図1は、本発明方法を図式化して示す説明図である。
また好ましくは、第2冷却工程のパン類の滞留時間は、パン類の表面温度がパン類を取り巻く雰囲気の温度と近似した温度となるまで滞留させる。冷却促進工程である第2冷却工程で、パン類の表面温度がパン類を取り巻く雰囲気の温度と近似した温度まで冷却することにより、パン類の表面に付着した水分の蒸散と内層部からの水分の蒸散を確実に防ぐようにする。
【0020】
また好ましくは、第1冷却工程において、最終加熱工程を終了した直後のパン類の露出した表面に水の均一な膜が形成されるように水を付着する。
また好ましくは、1回当たりの付着水量は、パン重量の0.15〜2%の範囲とし、水を付着する回数は1〜3回とする。
また好ましくは、パン類の凍結は、冷却後速やかに裸のまま又は水蒸気の透過性の少ない包装材で密封包装して行う。
【0021】
また好ましくは、パン類の冷凍保管は、水蒸気の透過性の少ない包装材で密封包装して行う。
また好ましくは、包装されたパン類が凍結工程終了後、冷凍保管、冷凍輸送等解凍工程に至るまでの工程中の温度変化は、−15℃以下で設定温度に対するパン類の温度変化は、±1℃の範囲とする。
なお本発明においては、ひとつのゾーン(空間)で時系列的に前記第1冷却水工程、第2冷却工程及び第3冷却工程を行ってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の冷却方法によれば、パン類を最終加熱処理する加熱工程と、最終加熱処理されたパン類の表面に水を付着させる第1冷却工程と、パン類を付着された水の蒸発潜熱を利用して冷却を促進させる第2冷却工程と、前記第2冷却工程で冷却されたパン類をその表面温度より高い露点温度でかつ前記第2冷却工程より高湿度の雰囲気中に保持して水分を吸着させる第3冷却工程とを少なくとも具備することにより、パン類の冷却速度を速め、所定温度、たとえば25℃までの冷却時間を短縮することができるとともに、冷却工程の各段階で水分の蒸散を押えることができ、また第3冷却工程でパン類の表面に水分を吸着させるため、パン類の歩留まりを向上させ、表層部の乾燥によるしわやひびわれ、内層部の乾燥によるパサツキ感等の食品品質の劣化を効果的に防止することができる。
【0023】
このように冷却時間を短縮できるため、冷却設備が縮小でき、設備コストを低減できるとともに、冷却に要するエネルギーの省エネ化を達成できる。また乾燥による劣化を効果的に押えることができるため、パン類の性状を長く保持でき、パン類の販売に当たっては、在庫時間の延長によって、受注生産から計画生産への移行が可能となり、また長期保存が可能となるため、販路の拡大も期待できる。
さらには品質劣化が少ないため、場合によっては再加工時に、食パンの耳を切り取る必要がなくなり、廃却ロスがなくなるとともに、消費者側からみても、長期保存も可能となるとともに、見た目がよく、ソフトでしっとりしたパン類を提供できる。
【0024】
また好ましくは、前記第1冷却工程、第2冷却工程及び第3冷却工程において、パン類を取り巻く雰囲気で風速0.1〜2m/秒の気流を生じさせることにより、各冷却工程においてパン類を取り巻く雰囲気を攪拌し、冷却効果を高めることができる。
また好ましくは、前記第2冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度及び湿度を前記第3冷却工程より低くし、具体的には、前記第1冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度を15〜40℃及び相対湿度を20〜80%の範囲とし、前記第2冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度を5〜15℃及び相対湿度を30〜60%の範囲とし、かつ前記第3冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度を10〜20℃及び相対湿度を60〜90%の範囲とすることにより、品質の劣化を来たす前述のホワイトリングと呼ばれる多水分層の発現を防止できるとともに、前述の本発明の効果を一層発揮させることができる。
【0025】
また好ましくは、前記第2冷却工程のパン類の滞留時間は、パン類の表面温度がパン類を取り巻く雰囲気の温度と近似した温度となるまで滞留させることにより、前述の第2冷却工程の作用効果が一層確実に発揮される。すなわち冷却促進工程である第2冷却工程においてパン類の表層部は早く冷却されるため、表層からの水分蒸散が押えられ、内部の飽和状態が保持されながら冷却されるため、内部からの水分蒸散が抑制される。
【0026】
また好ましくは、パン類の冷凍保管は、水蒸気の透過性の少ない包装材で密封包装して行うことを特徴とすることにより、保管中のパン類の水分蒸散による重量減少を防ぎ、歩留まり率を向上させることができる。
なお水分の蒸散をより効果的に防止するためには、包装材が小さいほどよく、また食品に密着しているほどよい。
【0027】
また発明方法において、好ましくは、ひとつのゾーン(空間)で時系列的に前記第1冷却工程、第2冷却工程及び第3冷却工程を行うことにより、冷却設備の簡素化、縮小化、省エネルギー化及び省資源化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
図2は、本発明の第1実施例の斜視図、図3は、前記第1実施例の実験結果を比較例とともに示す図表、図4は、前記第1実施例の官能評価を比較例とともに示す図表、図5は、前記第1実施例の温度降下状況を比較例とともに示すグラフ、図6は、前記第1実施例の製品の歩留まりを比較例とともに示すグラフ、図7は、前記第1実施例の官能評価を比較例とともに示すグラフである。
【実施例1】
【0029】
パン工場で、常法にしたがって製造されている工程において焼成と、それに続いて行われる型はずし直後の山形蜂蜜入り全粒小麦粉食パンPの中から任意にサンプルとして6個を抽出する(以下「サンプル」という)。サンプルは、29±0.5℃・相対湿度70±5%の第一冷却ゾーンであるオーブン出口が開口している製造室内で、オーブンの輻射熱の影響しない区域で、図2の如く目の粗いステンレス製針金の角枠付きバー網2枚にそれぞれ3個ずつ載せる。
抽出後、可及的速やかに、サンプルの載った金網2枚のうちの1枚のサンプルに、微細な霧状の水を可能な限りパン以外に飛散しないよう均一にパン表面にパン重量の0.50±5%の水が付着するよう散布する。
【0030】
サンプル表面は、表層部の膨潤や水滴が形成されない、均一に薄い水の膜が形成されている常態とする。微細な霧を散布しないサンプルの載った他の金網は散布する霧が飛散しない距離に置く。
霧散布処理直後、霧を散布しないサンプルと霧を散布したサンプルをそれぞれ1個ずつ前述の異なる3枚の目の粗いステンレス製針金の角枠付きバー網に長手方向に平行に50mmの間隔をおいて載せグループ1、グループ2、グループ3の3グループを作る。
各グループの水を散布したほうのサンプルを1−1,2−1,3−1とし、水を散布しないほうを1−2,2−2,3−2とする。
【0031】
グループ1は、従来の冷却方法の一方法で、一次冷却室(室内空気条件:温度29±0.5℃、相対湿度RH70±5%、対製品風速0.6m/sec)で105分間冷却を行った。
グループ2は、グループ1より冷却速度を速めるための従来の冷却方法の一方法で、一次冷却室(室内空気条件:温度29±0.5℃、相対湿度RH70±5%、対製品風速0.6m/sec)で5分冷却後、雰囲気温度が任意に設定できる室内で二次冷却条件(室内空気条件:温度15±1℃、相対湿度RH70±10%、対製品風速0.6m/sec)で50分、三次冷却条件(室内空気条件:温度10±1℃、相対湿度RH50±10%、対製品風速0.6m/sec)で50分冷却を行った。
【0032】
グループ3は、本発明の冷却方法で、三次冷却の温度・湿度を二次冷却より高く設定している。冷却条件は一次冷却室(室内空気条件:温度29±0.5℃、相対湿度RH70±5%、対製品風速0.6m/sec)で5分冷却後、雰囲気温度が任意に設定できる室内で二次冷却条件(室内空気条件:温度10±1℃、相対湿度RH50±10%、対製品風速0.6m/sec)で50分、三次冷却条件(室内空気条件:温度15±1℃、相対湿度RH70±10%、対製品風速0.6m/sec)で50分冷却を行った。
各サンプルは幾何学的中心に温度センサを挿入し、冷却開始より終了までのサンプル中心温度の時系列的変化を測定した。サンプル重量は全サンプルともサンプル抽出時と、水の微細な霧を散布したものは散布直後、冷却終了時に測定した。
【0033】
一サンプル毎に冷却終了時の重量測定後、直ちに機械式スライサーで10枚の等分の厚さにスライスし、樹脂フイルムで密閉含気包装し、包装後、常温(25℃)で48時間保管し、官能検査を行った。
以上の冷却試験を5回実施し、サンプル初期温度、付加水重量、冷却雰囲気空気条件、冷却時間等の5回平均値を図3に示し、官能検査結果を図4に示す。
官能検査の評価方法は、20名のパネラーがグループ1、グループ2、グループ3のサンプルを同一オーブン・同一時刻に焼成されたもの(以下同一サンプル群と云う)から採取し、それぞれの冷却方法により冷却を行う。
【0034】
保管後これらサンプルをブラインド(冷却方法を明示しない)で20名のパネラーが図4に記載の評価項目に従い良いものから順位をつけ、順位に従い評価の高いほうから6・5・4・3・2・1と点数をつける。図4は以上の評価を5回のサンプル群で実施した評価の合計値である。評価は各々の評価項目毎に最も良い6、やや良い5、良い4、少々難あり3、悪い2、最も悪い1、の6段階とする。
【0035】
以下本官能検査の評価の考え方を説明する。
サンプルの順位により評価を6段階の点数付けとしたのは、食品は同一設備といえども全く同じ製品が出来上がる事はない。例としてミキサーで混練された1バッチのパン生地が成形される時最初に成形された製品と最後に成形される時では生地の発酵度が異なり密度が異なる。オーブンもその日の朝一番に焼き上げたものと、2番目では焼き上がりが異なる等、焼成直後の状態が異なる。
【0036】
このため官能検査において、パン表面にしわが一つなら6点、6つ以上なら1点とか、しわの大きさでの評価点数を決めるとか、絶対数で決めることは困難である。すなわちサンプル群が焼成直後のサンプル採取時点でそれぞれ固体差を持っている。このため同一サンプル群の中で各々の評価項目毎に順位付けにより評価したほうがより公正な評価が出来ると考えられる。
このため本評価方法を採用する。
【0037】
本発明方法を実施したグループ3の3−1は、3−2と比べ、図3及び該図3に基づいて作成した図6より、歩留まりが上昇し、図3に基づいて作成した図5より、同じ時間でサンプル中心温度は約2℃下がっていることがわかる。
一定時間冷却後、中心温度が低く、すなわち冷却速度が速く、歩留まりがよいものは、各グループとも霧をサンプル表面に均一に散布し水を付着させたものであった。水を散布したサンプルの冷却速度が速いのは、水の散布により表面に付着した水分がパンの熱量により蒸発し、蒸発潜熱を奪うためである。
【0038】
水の蒸発による製品の温度降下を計算より求めると、大気圧・気温・水の温度により相違するが、大気圧下では水1gあたり略2,218.6Jの熱量がサンプルより奪われることになる。このため雰囲気空気がサンプルからの表面熱伝達で取り去る熱量・サンプルからの放射による熱量の減少に散布した水の蒸発潜熱が同時に加算される。
一例として、サンプルの比熱が2.930235J/g・重量700g/1個のパンに5gの水を散布した場合、水の蒸発潜熱により次の平均温度降下が見込める。
5g×2,218.6J/g=11,093J(水の蒸発潜熱)
11,093J÷(700g×2.930235J/℃g)=5.4℃(温度降下)
【0039】
平均温度降下とはサンプル全体の温度の平均である。サンプルの熱伝達率により非常に長時間経過すればサンプルの温度は各部分すべて等しくなるが、本実施例の冷却時間内では、冷却中の表面温度と中心温度は当然異なる。このため中心温度においては、噴霧し付着した水分の蒸発潜熱に相当する温度降下は現れない。
歩留まりについては、図3より導かれた図6より、各グループとも微細水をパン表面に散布したサンプルの歩留まり率が高い。すなわち水分蒸散が低いことになる。これは、同一の冷却条件(温度・湿度・対製品風速・冷却時間)では、噴霧によりサンプル表面に付着した水が蒸発した後にサンプルの水分が蒸散するためである。
【0040】
更に、3グループ中、歩留まり率が高いグループは本発明の冷却方法を実施したグループ3である。
この要因は、2次冷却でサンプルの表層部が2次冷却の露点温度以下に冷却され、3次冷却で2次冷却時の露点温度より高くしたため、3次冷却時に雰囲気空気中の水蒸気が表層部に吸着されたからである。
【0041】
本発明方法を実施したグループ3の2次冷却条件の雰囲気空気温度・湿度については、10℃以下の高湿度(60%以上)、又は低湿度(40パーセント以下)の雰囲気を維持することは、技術の難易度が高く、設備建設コストが高額になること、冷却室内の壁・床・天井並びに室内に設置されている機器器具類の表面に結露しやすく、これが原因で微生物の繁殖があること、散布した水分によりサンプル表面に付着した水が、低温・高湿度では蒸発しにくいため表層部に膨潤の恐れがあること、低温(サンプルの種類により異なる)ではサンプルの内部に包含する水分が内部から蒸発し、表面に移動している水蒸気が表層近くで凝縮し冷却終了時に不可逆な水分の多く含む層(前述のホワイトリング)が発現する危険がある。このため設備建設コストの低減と、品質を考慮し、2次冷却の雰囲気空気条件を設定した。
【0042】
上記各グループの製品を冷却後直ちにスライス・包装後常温(25℃)で48時間保管し、官能評価を行った。官能評価項目は、外観として表面及び切断面の常態、パンを手で押え離した時の復元性、香りはパン特有の香りとパンに好ましくない臭いの有無と強さ、食味は噛み切りの容易さ(処理が悪いと表層部、表層部近くがゴム上になりスムースな噛み切りが出来ないか、ぼろぼろと崩れる)、口腔中でのしっとり感と口溶・ボソボソ感、歯にまとわりつくべたつき感等を各パネラーが6段階で評価する。
図4は官能検査パネラー20人が冷却方法の異なる各回の6個サンプルについて、6段階評価を5回実施し、冷却方法、評価項目ごとに合計した。図7は、図4の結果をグラフ化したものである。
【0043】
図4から、水を噴霧し、サンプル表面に均一に付着させたサンプルは、各冷却方法とも、官能評価は優れていた。最も優れていた冷却方法は1次冷却で水を表面に散布し、冷却雰囲気空気については、2次冷却の温度湿度が最も低く、3次冷却が2次冷却の露点以上の冷却方法、すなわち本発明の冷却方法を実施したグループ3であった。
このことは商品として、本発明による冷却方法は、従来の冷却方法に比較し、高歩留まり・高品質な製品が短時間で冷却されるため、省エネ、省スペース・省食材が計られることから、コスト削減でより良い製品が生産されることがわかる。
【実施例2】
【0044】
次に本発明方法の第2実施例について説明する。
実施例1と同様な方法で冷却・スライス・包装されたサンプルを−25℃の冷凍室内で24時間放置凍結後、14日間−20℃の冷凍保管庫で保管し、常温の室内(20℃)放置で包装のまま自然解凍(12時間)後、サンプル中心温度が18℃以上に達した時点で重量測定と官能評価を行った。
【0045】
保管中の重量減少は全サンプルとも計量器の計測では認められなかった。また包材内部に結露も認められないため、凍結・冷凍保管・解凍中のサンプルの水分減少は無いものと断定できる。
また官能評価の結果について、凍結したグループ3の水噴霧したサンプル(G3−1)は、凍結・冷凍・解凍しない第1実施例のグループ3の水噴霧したサンプル(G3−1)との差は微小で、パネラーの識別能力によっては認識できない程度で殆ど差は認められない。
凍結したグループ2の水噴霧したサンプル(G2−1)は凍結・冷凍・解凍しない第1実施例のグループ2の水噴霧したサンプル(G2−1)との差は各パネラーとも認識できた。
凍結したグループ1の水噴霧したサンプル(G1−1)、は凍結・冷凍・解凍しない第1実施例のグループ1の水噴霧したサンプル(G1−1)との差は各パネラーとも明確に認識できた。
【0046】
第2実施例の凍結した水噴霧無しサンプルのグループ1(G1−2)、グループ2(G2−2)、グループ3(3−2)は、表面に皺、ひび割れ、表皮の剥離、表層部の肥厚が凍結・冷凍・解凍しない第1実施例の同グループに比べ、これらの発生がG1−2、G2−2、G3−2の順に多かった。
第2実施例の凍結した水噴霧したサンプルグループ1とグループ2については表面の皺、ひび割れ、表皮の剥離、表層部の肥厚の発生は見られるが、水散布しないサンプルに比較し程度と発生は少ない。
【0047】
第2実施例の凍結したグループ3は表面の皺、ひび割れ、表皮の剥離、表層部の肥厚は見られない。
第2実施例において、第1実施例の冷却後48時間室温(20℃)保管サンプルとの官能評価に関する相違点は、グループ3の(3−1)を除いて、全般的に弾力の低下、粒状組織の発生、表面の皺・われの発生とつやの消失、口どけの悪さの助長が見られた。
第2実施例の重量検査及び官能評価の結果については、第1実施例の冷却後48時間室温(20℃)保管サンプルと同様、水を噴霧しサンプル表面に均一に付着させたサンプルについては、各冷却方法とも、官能評価が最も優れていた冷却方法は、一次冷却で水を散布し、2次冷却の温度湿度が最も低く、3次冷却が2次冷却の露点以上の本発明による冷却方法であった。
【0048】
このことより、1次冷却の段階で、水噴霧により表面に均一に水膜を形成し、冷却雰囲気空気の温湿度が2次冷却の温度湿度が最も低く、3次冷却が2次冷却の露点以上でかつ第2冷却工程より高湿度の雰囲気に保持してパン類の表面及び表層に雰囲気中の水分を吸着させる、本発明による冷却方法が冷凍パンの製法に有効であり、従来の冷却方法に比較し、高歩留まり・高品質な製品が短時間で冷却されることがわかる。
【0049】
従って本発明の冷却方法によれば、方法省エネ、省スペース・省食材と、更に冷凍による受注生産から計画生産への改善による生産効率と生産設備の規模縮小、経時劣化による商品廃棄の削減、資源の有効利用が計られることから、コスト削減でより良い製品が生産され、常時高品質の商品を消費者に提供するとともに、環境負荷の低減が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、焼成パンの最終加熱処理工程後の冷却工程において、水を付着して水の蒸発潜熱により冷却速度を速め、次の工程で食品内部の水分の蒸散を防ぐ雰囲気とし、その後の工程で食品に水分を吸着させることにより、冷却時間の短縮とそれによる設備の縮小化を達成できるとともに、食品の歩留まり向上及び品質向上を可能とする有益な冷却方法及び冷却システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明を図式化して示す説明図である。
【図2】本発明の第1実施例の斜視図である。
【図3】前記第1実施例の実験結果を比較例とともに示す図表である。
【図4】前記第1実施例の官能評価を比較例とともに示す図表である。
【図5】前記第1実施例の温度降下状況を比較例とともに示すグラフである。
【図6】前記第1実施例の製品の歩留まりを比較例とともに示すグラフである。
【図7】前記第1実施例の官能評価を比較例とともに示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン類を最終加熱処理して冷却する方法において、パン類を最終加熱処理する加熱工程と、最終加熱処理されたパン類の表面に水を付着させる第1冷却工程と、パン類を付着された水に蒸発潜熱を利用して冷却を促進させる第2冷却工程と、前記第2冷却工程で冷却されたパン類をその表面温度より高い露点温度でかつ前記第2冷却工程より高湿度の雰囲気中に保持して水分を吸着させる第3冷却工程とを少なくとも具備することを特徴とするパン類の冷却方法。
【請求項2】
前記第1冷却工程のパン類を取り囲む雰囲気は、通常の作業室内環境又は外気環境とすることを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項3】
前記第2冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度及び湿度を前記第3冷却工程より低くすることを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項4】
前記第1冷却工程、第2冷却工程及び第3冷却工程において、パン類を取り巻く雰囲気で風速0.1〜2m/秒の気流を生じさせることを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項5】
前記第1冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度を15〜40℃及び相対湿度を20〜80%の範囲とし、前記第2冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度を5〜15℃及び相対湿度を30〜60%の範囲とし、かつ前記第3冷却工程のパン類を取り巻く雰囲気の温度を10〜20℃及び相対湿度を60〜90%の範囲とすることを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項6】
前記第2冷却工程のパン類の滞留時間は、パン類の表面温度がパン類を取り巻く雰囲気の温度と近似した温度となるまで滞留させることを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項7】
前記第1冷却工程において、最終加熱工程を終了した直後のパン類の露出した表面に水の均一な膜が形成されるように水を付着することを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項8】
パン類に付着させる1回当たりの水量は、パン類の0.15〜2%の範囲であり、かつパン類に水を付着する回数は1〜3回であることを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項9】
パン類の凍結は、冷却後速やかに裸のまま行うことを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項10】
パン類の凍結は、水蒸気の透過性の少ない包装材で密封包装して行うことを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項11】
パン類の冷凍保管は、水蒸気の透過性の少ない包装材で密封包装して行うことを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項12】
包装されたパン類が凍結工程終了後、冷凍保管、冷凍輸送等解凍工程に至るまでの工程中の温度変化は、−15℃以下であり、かつ設定温度に対するパン類の温度変化は、±1℃の範囲とすることを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。
【請求項13】
ひとつのゾーンで時系列的に前記第1冷却工程、第2冷却工程及び第3冷却工程を行うことを特徴とする請求項1記載のパン類の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−51010(P2006−51010A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316390(P2004−316390)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【出願人】(000115924)レオン自動機株式会社 (98)
【Fターム(参考)】