説明

パン類の製造方法

【課題】 しっとり感を有するフィリングを内包したパン類を提供すること。即ち、本発明は焼成時に内包されたフィリングがパン生地から流れて漏れ出ず、そのため非常にしっとり感を有し、且つ外観を損なわないパン類及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 スポンジ状の食品に油脂類を吸収させたフィリングを内包させてパン類を製造すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フィリングを内包したパン類において、内包されたフィリングがしっとりした食感を有するパン類及びパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィリングを内包したパン類は多く存在するものの、充分にしっとりした食感のフィリングを内包したパン類は見当たらない。スポンジ生地を内包したパン類はあるものの、スポンジ生地を作製後に油脂類を吸収させていないし、その含有量も少ないため、しっとりした食感は得られていない。
【0003】
またこれまで、パン生地にしっとり感を有するフィリングを内包し焼成すると、耐熱性が無く、フィリングが流れ出たりして外観を損なうという欠点があった。一方、流れ出ないように耐熱性を付与するとしっとり感を損なうという欠点があった。更に、耐熱性を付与した食感外観にも優れるフラワーペーストやカスタードクリーム等の耐熱性フィリングがあるが(特許文献1)、耐熱性は付与されているものの、均一に混合されたものであり、フィリング中に含有する油脂量が少ないため、しっとりさを得られるものではなかった。
【特許文献1】特開2005−102617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しっとり感を有するフィリングを内包したパン類を提供すること。即ち、本発明は焼成時に内包されたフィリングがパン生地から流れて漏れ出ず、そのため非常にしっとり感を有し、且つ外観を損なわないパン類及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、内包するフィリングに油脂類を吸収させたスポンジ状の食品を内包することにより、課題であったしっとり感を有するフィリングを内包したパン類を製造できるという知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一は、フィリングを内包したパン類において、フィリングがスポンジ状の食品に油脂類を吸収させたものであることを特徴とするパン類の製造方法に関する。本発明の第二は、油脂類を吸収させたスポンジ状の食品をフィリングとして内包したパン類に関する。
【発明の効果】
【0007】
しっとり感を有するフィリングを内包したパン類を提供すること。即ち、本発明は焼成時に内包されたフィリングがパン生地から流れて漏れ出ず、そのため非常にしっとり感を有し、且つ外観を損なわないパン類及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のフィリングを内包したパン類とは、フィリングをパン生地の間に挟んだり、詰めたり、凹みに入れた後、焼成したものである。
【0009】
本発明のスポンジ状の食品は、穀粉を用いた液状の物質を吸収できる食品であれば特に限定はないが、例えばカステラ、シフォン、バターケーキ、パウンドケーキ、フルーツケーキ、蒸しケーキ等のケーキスポンジ、ケーキクラム、食パン、フランスパン、菓子パン、クロワッサン、デニッシュ、イーストドーナツ、ケーキドーナツ等のパンクラム、クッキー、ビスケット等が挙げられる。
【0010】
本発明の油脂類とは、食用油脂であれば特に限定はないが、例えば大豆油、カノーラ油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サフラーワー油、パーム油、ヤシ油、等の植物油、牛脂、ラード、魚油、乳脂、等の動物油、バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレット、バタークリームなどの油脂加工品が挙げられ、それらの内少なくとも1種を用いることができる。それらの油脂類の中では、風味や作業性の観点から、バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレット、バタークリームが好ましい。
【0011】
そして、それらは液体状態にしてスポンジ状の食品に吸収させる。作業時の温度帯で液体の油類の場合はそのまま使用できるが、作業時の温度での各温度帯即ち10℃、15℃、20℃、25℃、30℃のSFC(固体脂含量)が10%以上の油脂類の場合は、30℃〜90℃で加熱して液状にしてから、スポンジ状の食品に吸収させてもいいし、スポンジとパン生地に包む際に同時に内包させてもよい。スポンジ状の食品に吸収させる油脂類の量は、スポンジ状の食品全体中15〜85重量%が好ましい。15重量%より少ないとしっとり感がでない場合があり、85重量%より多いと脂っこくなり風味が悪くなる場合がある。
【0012】
本発明におけるフィリングを内包するパン類の配合、捏捏方法ついて特に限定はない。配合については例えば、食パン生地配合、フランスパン生地配合、イギリスパン生地配合、ライ麦パン生地配合、バターロール生地配合、ブリオッシュ生地配合、デニッシュペストリー生地配合、パイ生地配合、スイートロール生地配合、イーストドーナツ生地配合、デニッシュドーナツ生地配合、コーヒーケーキ生地配合、パネトーネ生地配合、ケーキドーナツ生地配合、クイックブレッド生地配合、イングリッシュマフィン生地配合、天然酵母パン生地配合、サワー種生地配合、中華まん生地配合などが挙げられる。また混捏方法については例えば、ストレート法、中種法では50%中種法、70%中種法、100%中種法、ノータイム法、液種法、サワー種法、水種法、再捏法、冷凍生地法、冷蔵生地法、湯種法などが挙げられる。なお、フィリングのパンに対する重量は、パン100重量部に対しフィリング20重量部〜200重量部が好ましい。その範囲であれば、充分なしっとり感のあるパン類を得ることができる。
【0013】
本発明のフィリングを内包したパン類の製造例は、特に限定するわけではないが以下に例示する。まずスポンジ状の食品は、一般的な製法により作製する。そのスポンジ状食品を所望の形状にカッティングした後、所定量の油脂類を入れた容器内に入れて、油脂類を吸収するまで適当な時間浸しておく。その際、油脂類によっては、液体状態を維持するために加熱しながら浸しておく。その後、油脂類を吸収したスポンジ状食品を、一般的な製法により作製したパン生地で包み、焼成することで本発明のフィリングを内包したパン類を得ることができる。
【実施例】
【0014】
以下に本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら事例に限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0015】
<ケーキスポンジの作製>
表1の配合に従い、次のようにケーキスポンジを作製した。まず、表1の配合をミキサーボールに入れホイッパーを用いて比重0.45までホイップさせる。次に6号デコ缶適当なケースに入れ170℃のオーブンで35分間焼成し、ケーキスポンジを得た。得られたケーキスポンジは、各実施例で使用した。
【0016】
【表1】

【0017】
<パン生地の作製>
表2の配合に従い、次のようにパン生地を作製した。表2の配合をミキサーにて混捏する。混捏後、30℃にて30分間醗酵しパン生地を得た。得られたパン生地は、各実施例・比較例で使用した。
【0018】
【表2】

【0019】
<パンの作業性評価>
実施例・比較例を実施する際に作業性の良さについて評価した。その際の評価基準については以下の通りである。◎:非常に作業しやすい、○:作業しやすい、△:作業しにくい、×:なんとか作業が出来る。
【0020】
<パンの食感評価>
実施例・比較例で得られたフィリング入りのパンを、食感という観点で熟練のパネラー10人により、5点満点で官能評価を行った。その際の評価基準については以下の通りであり、10人のパネラーの平均点を評価値とした。5点:非常にしっとり、4点:しっとり、3点:ややしっとり、2点:ややパサつく、1点:パサつくの5段階で評価し、その平均点を評価の点数とした。
【0021】
<パンの外観評価>
実施例・比較例で得られたフィリング入りのパンの外観を、目視で評価した。その際の評価基準については以下の通りである。○:フィリングがパン生地の外に全く流れ出していない、△:フィリングがパン生地の外に少し流れ出している、×:フィリングがパン生地の外にかなり流れ出している。
【0022】
(実施例1)
ケーキスポンジ10gを40℃で溶かしたバター2gに浸して吸収させた後、50gのパン生地に内包後、35度で60分間醗酵を取り、200℃のオーブンにて10分間焼成して、フィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0023】
【表3】

【0024】
(実施例2)
バターの量を5gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0025】
(実施例3)
バターの量を10gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0026】
(実施例4)
バターの量を20gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0027】
(実施例5)
バターの量を30gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0028】
(実施例6)
ケーキスポンジの量を3gに、バターの量を4.5gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0029】
(実施例7)
ケーキスポンジ10gを食パン(商品名:デコレーションスポンジ台、(株)サンラヴィアン社製)10gに、バターの量を20gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0030】
(実施例8)
バターを40℃で溶かさなかったこと以外は、実施例7と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0031】
(比較例1)
ケーキスポンジを用いず、バター20gを直接50gのパン生地に内包後、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0032】
(比較例2)
バターを用いず、20gを50gのパン生地に内包後、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0033】
(比較例3)
ケーキスポンジ、バターを用いず、食パン(商品名:サンロイヤル、山崎製パン社製)20gを50gのパン生地に内包後、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0034】
実施例1〜8は非常にしっとりした食感であり、かつ焼成時にフィリングが流れ出なく外観を損なうことはなかった。比較例1はしっとりした食感はやや残るもの、フィリングが流れ出し、外観を損なった。比較例2、3は外観を損なわなかったもののしっとり感はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィリングを内包したパン類において、フィリングがスポンジ状の食品に油脂類を吸収させたものであることを特徴とするパン類の製造方法。
【請求項2】
油脂類を吸収させたスポンジ状の食品をフィリングとして内包したパン類。