説明

パン類

【課題】多量のカテキン類を含有しているにもかかわらず、食感、明度、風味の良好なパン類を提供する。
【解決手段】穀粉類100重量部に対してカテキン類が0.2〜0.5重量部配合されるようカテキン類含有植物抽出精製物を添加して製造されたパン類であって、カテキン類含有植物抽出精製物中のカテキン類/タンニン重量比が0.81〜1.10であるパン類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカテキンを配合したパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
カテキンには一般に広く知られている酸化防止剤としての機能の他に、α−アミラーゼ活性阻害作用、コレステロール吸収阻害作用等の生理作用があることが知られており(特許文献1、2参照)、種々の食品に配合することが近年検討さている。当該カテキンとしては、食品に添加するものであることから、茶、ブドウ、リンゴ、大豆等の植物由来のものが広く用いられている。
【0003】
一方、食パン等のパン類においては、軽く、体積膨張率が高く、食感が良いものが求められており、そのための技術として、乳化剤、油脂、糖質等の配合又はこれらの材料からなる乳化物の配合や酵素の配合等が行なわれている。
【0004】
このような状況のため、これまで茶抽出物等を配合したパン類が種々提案されてきたが、上記生理機能が期待できる程度にカテキン類を高濃度配合し、且つ食感を含む品質面で良好なものを作ることは困難であった。なぜなら、パンはイーストが発生するガスをその内部に保持することで膨らむために、小麦粉を主原料とする原材料を水と捏ねて粘弾性を有する生地を調製する必要がある。その粘弾性発現には小麦粉の主成分である不溶性蛋白(グルテン)が重要な役割を果たしている。一方で、カテキン類を含む茶抽出物や茶タンニン類は、自身の有する還元力のためグルテンの粘弾性発現に重要な役割を果たすS−S結合を還元してしまったり、S−S結合促進のために配合されているアスコルビン酸等の酸化剤と先に反応してしまうため、高濃度で配合すると生地の粘弾性を著しく低下させてしまい製パンを困難にするという欠点がある。
事実、パンにカテキンを配合することを記載した特許文献においても、カテキン類の添加量は製パン用穀粉100gに対して0.001〜0.005gと非常に低いものである(特許文献3)。
また、特許文献4には、タンニン類(カテキン、タンニン酸、フラボン、アントシアンなどのポリフェノール類)をパン生地中の小麦粉100重量部に対して0.05〜1.0重量部となるように添加したパン組成物配合する技術が開示されている。なお、特許文献4は具体的にはタンニン酸を配合した場合の電子レンジ加熱後のパンの品質向上についての言及しかなく、カテキン類を配合した場合についての言及はなされていない(特許文献4)。
【特許文献1】特開昭60−156614号公報
【特許文献2】特開平3−133928号公報
【特許文献3】特開2005−269996号公報
【特許文献4】特開平10−313768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、カテキン類の生理作用を得るべく、例えば前述のような茶抽出物を、小麦粉を主体とする穀粉類100重量部に対し、カテキン類として0.2重量部以上となるよう多量に配合してパン類を製造すると、当該抽出物由来の苦味、渋味等が生じるため風味が低下してしまう。また得られたパン類が硬く、食感が悪くなってしまい、明度も低いものとなってしまうという問題が生じることが判明した。
従って、本発明の目的は、小麦粉を主体とする穀粉類100重量部に対し、カテキン類として0.2重量部以上という生理活性的に好ましい量のカテキン類が配合され、かつ食感、明度、体積、風味の良好なパン類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々のカテキン類含有物を用いてパン類を製造し、その食感、風味等について鋭意検討してきたところ、全く意外にも穀粉類100重量部に対してカテキン類が0.2〜0.5重量部配合されるようカテキン類含有植物抽出精製物を添加して製造されたパン類であって、カテキン類含有植物抽出精製物中のカテキン類/タンニン重量比が0.81〜1.10であれば、カテキン類/タンニン重量比が低いものを用いた場合に比べて、パン類へのカテキン類の配合量が同量であっても、明度が高く、ソフトでしっとりとした食感で、風味も良好なパン類が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、穀粉類100重量部に対してカテキン類が0.2〜0.5重量部配合されるようカテキン類含有植物抽出精製物を添加し、焼成して製造されたパン類であって、該カテキン含有植物抽出精製物における高速液体クロマトグラフィーで測定したカテキン類含有量と酒石酸鉄法で測定したタンニン含有量の比(以下、カテキン類/タンニン重量比という)が0.81〜1.10であるパン類を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパン類は、多量のカテキン類が配合されているにもかかわらず、苦味、渋味、収斂味の出方が少なく、明度も高く、ソフトな食感で、風味も良好であるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のパン類は、穀粉類(A)を主原料とし、穀粉類(A)100重量部に対してカテキン類が0.2〜0.5重量部配合されることとなるよう副原料のひとつであるカテキン類含有植物抽出精製物(B)を添加し、焼成して製造される。なお、本発明ではカテキン類含有植物抽出精製物(B)のカテキン類/タンニン重量比は0.81〜1.10であることを特徴とする。
【0010】
本発明においてカテキン類とは、非重合体カテキン類を意味し、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類;及びエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類をあわせての総称である。
また、本発明においてタンニンとは上述のカテキン類に加えて、縮合型タンニン、加水分解性タンニンを含むものである。
本発明におけるカテキン類量は、実施例記載の条件における高速液体クロマトグラフィーによる測定値であり、タンニン量は、実施例記載の条件における酒石酸鉄法による測定値である。
【0011】
本発明のパン類は、カテキン類が穀粉類100重量部に対して0.2〜0.5重量部配合されるよう(B)カテキン類含有植物抽出精製物を添加して製造されたものであるが、この量は、風味、生理効果、明度、体積膨張及び食感等の点から、0.25〜0.5重量部、特に0.3〜0.5重量部であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、カテキン類/タンニン重量比が0.81〜1.10のカテキン類含有植物抽出精製物を用いる。当該精製物を用いると、カテキン類/タンニン重量比が0.81〜1.10の範囲外のもの等を用いた場合に比べて、パン類の明度が高く、体積膨張率が良く、ソフトな食感となり、さらに苦味、渋味等も低減され、風味が良好となるからである。
【0013】
本発明のパン類に配合されるカテキン類含有植物抽出精製物(B)のカテキン類/タンニン重量比率は、特に風味、色調の点から0.81〜1.10であり、0.82〜1.10が好ましく、さらに0.85〜1.10が好ましい。カテキン類/タンニン重量比が0.81より低い場合、カテキン類を配合するために他の共雑物を多量に配合することになり、作業性及びパンの品質、特に風味に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0014】
また、カテキン類含有植物抽出精製物(B)はガレート体率が75重量%以下であることが好ましい。ここで、ガレート体率とは、全カテキン類中のガレート体の量を重量%で表したものであり、全カテキン類中には、前記の如く、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートといったガレート体と、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン及びエピガロカテキンといった非ガレート体とが存在することから計算される。当該ガレート体が75重量%以下のカテキン類を用いることによって、明度が高く、体積膨張率が良好で、食感が良好で、風味が良いパン類を得ることが容易になる。より好ましいガレート体率は、5〜70重量%であり、さらに好ましくは10〜65重量%であり、特に20〜60重量%の範囲が好ましく、さらに20〜45重量%が好ましく、20〜40重量%が特に好ましい。
【0015】
また、カテキン類含有植物抽出精製物(B)のカテキン類濃度は40重量%以上が好ましく、より好ましくは41〜95重量%であり、さらに好ましくは45〜90重量%、特に好ましくは50〜85重量%である。
【0016】
さらにまた、カテキン類含有植物抽出精製物(B)は、パンのカフェイン由来風味を低減させる点からカフェイン含有量が少ないものが好ましく、従って、そのカフェイン/カテキン類比(重量比)は、0.20以下、さらに0.10以下、特に0.06以下が好ましい。
【0017】
さらにまた、カテキン類含有植物抽出精製物(B)としては、茶、ブドウ、リンゴ、大豆等の抽出物の精製物が挙げられるが、このうち緑茶抽出物の精製物が好ましく、例えば緑茶抽出物や緑茶抽出物の濃縮物を精製することにより得ることができる。ここで緑茶抽出物の濃縮物とは具体的には、緑茶抽出物の濃縮物の水溶液、当該緑茶抽出物の濃縮物に緑茶抽出液を配合したもの、あるいは緑茶抽出物の粉末等が挙げられる。ここでいう緑茶抽出物の濃縮物とは、緑茶葉から熱水もしくは水溶性有機溶媒により抽出した溶液から水分を一部除去することによりカテキン類濃度を高めたものであり、形態としては、固体、水溶液、スラリー状など種々のものが挙げられる。また、緑茶抽出物とは濃縮や精製操作を行わない抽出液のことをいう。緑茶抽出物の濃縮物の市販品としては三井農林(株)「ポリフェノン」、伊藤園(株)「テアフラン」、太陽化学(株)「サンフェノン」などが挙げられる。
【0018】
これら緑茶抽出物の濃縮物を精製してカテキン類含有植物抽出精製物(B)を調製する方法としては緑茶抽出物の濃縮物を水又は水とエタノールなどの有機溶媒の混合物に懸濁して生じた沈殿を除去し、次いで水や有機溶媒を留去する方法が挙げられる。
また、上述の沈殿除去処理の他に、(i)緑茶抽出物に、活性炭、酸性白土及び活性白土から選ばれる少なくとも1種を添加して処理する方法;(ii)緑茶抽出物をタンナーゼ処理する方法、及び;(iii)緑茶抽出物を合成吸着剤により処理する方法等を挙げることができる。
カテキン類含有植物抽出精製物(B)としては、更に、茶葉から熱水もしくはエタノールなどの水溶性有機溶媒により抽出した抽出物を濃縮したものをさらに精製したもの、あるいは抽出物を直接精製したものであってもよい。
【0019】
カテキン類含有植物抽出精製物(B)の形態としては、液状、スラリー状、粉末状等のいずれでもよいが、パン類においてはカテキン類含有植物抽出精製物と小麦粉中の蛋白とを長時間接触させたくないため、例えば中種製法であれば本捏工程で配合するのが好ましい。この本捏工程では加水量を極めて少なくする必要がある場合もあり、よって、水分率10重量%未満の粉末形態のものを用いるのが好ましい。
【0020】
本発明のパン類は、主原料として穀粉類(A)が用いられ、副原料としてカテキン類含有植物抽出精製物(B)以外に、油脂(C)、糖類(D)、イースト、イーストフード、水、乳製品、食塩、調味料(グルタミン酸ソーダ類や核酸類)、保存剤、ビタミン、カルシウム等の強化剤、蛋白質、乳化剤、アミノ酸、化学膨張剤、フレーバー、色素、レーズン等の乾燥果実、ナッツ、小麦ふすま、全粒粉、チョコ及びチョコレート類等を適宜使用できる。また、増粘多糖類も適宜使用できる。
【0021】
本発明に用いられる穀粉類(A)としては、通常パン類に用いられるものであれば配合することができ、小麦粉、米、とうもろこし、モチとうもろこし(ワキシーコーン)、タピオカ等由来のでんぷん類及びこれらの加工でんぷん等が挙げられる。小麦粉としては、強力粉、準強力粉が主に用いられ、食感改善等の観点より、中力粉及び薄力粉が一部用いられる。一般には上記分類は小麦粉中蛋白量で定義され、強力粉は11.5〜13.0%、準強力粉は10.5〜12.5%、中力粉は7.5〜9.0%、薄力粉は6.5〜8.0%と規定される。
【0022】
油脂(C)としては、通常パン類に用いられるものであれば配合することができ、動物性、植物性のいずれでも良く、バター、ラード、マーガリン、ショートニングなどの可塑性を持ったもの、液状油、又はそれらに水素添加をした硬化油(固体脂)、エステル交換油等幅広いものを単独又は複数用いることができる。油脂(C)の配合量は穀粉類100重量部に対して0.5〜70重量部が好ましく、さらに1〜60重量部、特に3〜50重量部とすることが製パン作業性及び風味の点から好ましい。
【0023】
糖類(D)としては、通常パン類に用いられるものであれば配合することができる。具体的にはグルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類;マルトース、ショ糖、麦芽糖、水飴、異性化糖、転化糖、サイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリン、デキストリンなどの二糖類ないし多糖類;澱粉加水分解物などの還元糖を使用することができる。これらは1種又は2種以上を組み合せて使用することができる。本発明における糖類(D)の配合量は、穀粉類100重量部に対して0.5〜30重量部が好ましく、さらに1〜27重量部、特に2〜25重量部とすることが作業性及び風味の点から好ましい。
また、その他の甘味料として、ソルビトール、マルチトール、キシリトールなどの糖アルコール類;スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウムなどを使用することができる。
【0024】
蛋白質は栄養強化や食感改善のために配合することが好ましい。蛋白質としては食感改善の観点より、水に溶解した時、粘性を呈するものであれば良く、乳蛋白質及び動植物性蛋白質等が挙げられる。乳蛋白質としてはナトリウムカゼイン、カルシウムカゼイン、レンネットカゼイン、ミルクカゼイン、ミルクホエー、ラクトアルブミン、ラクトグロブリン等が挙げられる。これら蛋白質は単独で用いても、これらから選択された2種以上の混合系で用いても良い。本発明における蛋白質の配合量は、穀粉類100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましく、さらに0.1〜15重量部、特に0.5〜10重量部とすることが食感及び風味の点から好ましい。
【0025】
乳化剤としては、通常パン類に用いられるものであれば配合することができ、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、レシチン誘導体等が挙げられる。また、これらから選択された2種以上の混合系で用いられることが乳化剤自身の分散性を向上させ、かつ作業性向上及び食感、特に保存時の老化防止を達成するという理由により好ましい。特に製パン作業性及び老化防止の観点からグリセリン脂肪酸エステルの使用が好ましい。本発明における乳化剤の配合量は、穀粉類100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、さらに0.1〜10重量部、特に0.2〜7重量部とすることが作業性向上及び保存時の老化防止の点から好ましい。
【0026】
本発明のパン類としては、食パン(角型、山型)、マフィン等の特殊パン、調理パン、菓子パン及びこれらのパンにフィリングなどの詰め物をしたものが挙げられる。具体的には、食パンとしては白パン、黒パン、フランスパン、バラエティーブレッド、ロール(テーブルロール、バンズ、バターロールなど)が挙げられる。特殊パンとしてはマフィンなど、調理パンとしてはホットドック、ハンバーガーなど、菓子パンとしてはジャムパン、あんパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スィートロール、リッチグッズ(クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュペストリー)などが挙げられる。
【0027】
本発明のパン類の製造方法としては特に限定されず、ストレート法(直捏法)、中種法、ベーシック・スイート・ドウ法が挙げられる。その焼成条件は、前記パンの種類によって適宜決定される。
【実施例】
【0028】
(非重合体カテキン類の測定方法)
カテキン製剤中の非重合体カテキン類の測定は、カテキン製剤を蒸留水で希釈し、フィルター(孔径:0.8μm)でろ過後、島津製作所社製、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム L−カラムTM ODS(4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度35℃で、A液及びB液を用いたグラジエント法によって行った。移動相A液は酢酸0.1mol/L含有の蒸留水溶液、B液酢酸0.1mol/L含有のアセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。
【0029】
(タンニンの測定方法)
タンニンの測定は酒石酸鉄法により、標準液として没食子酸エチルを用い、没食子酸の換算量として求める。(参考文献:「緑茶ポリフェノール」飲食料品用機能性素材有効利用技術シリーズNO.10)。試料5mLを酒石酸鉄標準液5mLで発色させ、リン酸緩衝液で25mLに定溶し、540nmで吸光度を測定し、没食子酸エチルによる検量線からタンニンを求める。
酒石酸鉄標準液の調製:硫酸第一鉄・7水和物100mgと酒石酸ナトリウム・カリウム500mgを蒸留水で100mLとする。
リン酸緩衝液の調製:1/15mol/Lリン酸水素二ナトリウム溶液と1/15mol/Lリン酸二水素ナトリウム溶液を混合しpH7.5に調整する。
【0030】
(カフェインの測定方法)
下記の装置を使用した。
HPLC(日立製作所社製)
プロッター:D−2500,ディティクター:L−4200
ポンプ:L−7100,オートサンプラー:L−7200
カラム:lnertsil ODS−2、内径2.1mm×長さ250mm
【0031】
分析条件は下記の通りである。
サンプル注入量:10μL,流量:1.0mL/min
紫外線吸光光度計検出波長:280nm
溶離液A:0.1mol/L酢酸水溶液,溶離液B:0.1mol/L酢酸アセトニトリル溶液
濃度勾配条件(体積%)
時間(分) 溶離液A 溶離液B
0 97 3
5 97 3
37 80 20
43 80 20
43.5 0 100
48.5 0 100
49 97 3
62 97 3
【0032】
カフェインのリテンションタイムは27.2分であった。
ここで求めたエリア%から標準物質により重量%を求めた。
【0033】
(カテキン製剤水分率の測定方法)
カテキン製剤を2〜3g秤量し、105℃に設定した恒温槽に2時間入れた前後の重量差を水分量として、入れる前のカテキン製剤重量で水分量を割った値の百分率をカテキン製剤水分率とした。
【0034】
製造例
(緑茶抽出物の濃縮物:ポリフェノンHG)
固形分中における非重合体カテキン類濃度は33.7重量%であった。
ガレート体率51重量%であった。
非重合カテキン類濃度/タンニン重量比は0.69であった。
【0035】
(カテキン製剤(i)三井農林社製 POL−JK)
固形分中における非重合体カテキン類濃度は30.6重量%であった。
ガレート体率50重量%であった。
非重合カテキン類濃度/タンニン重量比は0.80であった。
カテキン製剤(i)の水分率は6.8重量%であった。
【0036】
(カテキン製剤(ii)の製造)
緑茶抽出物の濃縮物(ポリフェノンHG、東京フードテクノ社製)200gを常温、250r/min攪拌条件下の68重量%エタノール水溶液800g中に分散させ、酸性白土
ミズカエース#600(水澤化学社製)35gを投入後、約10分間攪拌を続けた。その後、2号ろ紙でろ過した。その後、活性炭20gを添加し再び2号ろ紙でろ過した。次に孔径0.2μmメンブランフィルターによって再ろ過を行った。イオン交換水200gをろ過液に添加して、40℃、0.0272kg/cm2でエタノールを留去し、イオン交換水でカテキン類濃度を調整して緑茶抽出物の濃縮物の精製物を得た。さらにこれを凍結乾燥し、粉末状のカテキン製剤(ii)を得た。
カテキン製剤(ii)の固形分中における非重合体カテキン類濃度は42.3重量%であった。
カテキン製剤(ii)の非重合カテキン類濃度/タンニン重量比は0.81であった。
カテキン製剤(ii)のガレート体率は51重量%であった。
カテキン製剤(ii)の水分率は5.4重量%であった。
【0037】
(カテキン製剤(iii)の製造)
緑茶抽出物の濃縮物(ポリフェノンHG、東京フードテクノ社製)200gを常温、250r/min攪拌条件下の95重量%エタノール水溶液800g中に分散させ、酸性白土
ミズカエース#600(水澤化学社製)100gを投入後、約10分間攪拌を続けた。その後、2号ろ紙でろ過した。その後、活性炭20gを添加し再び2号ろ紙でろ過した。次に孔径0.2μmメンブランフィルターによって再ろ過を行った。イオン交換水200gをろ過液に添加して、40℃、0.0272kg/cm2でエタノールを留去し、イオン交換水でカテキン類濃度を調整して緑茶抽出物の濃縮物の精製物を得た。さらにこれを凍結乾燥し、粉末状のカテキン製剤(iii)を得た。
カテキン製剤(iii)の固形分中における非重合体カテキン類濃度は62.5重量%で
あった。
カテキン製剤(iii)の非重合カテキン類濃度/タンニン重量比は0.94であった。
カテキン製剤(iii)のガレート体率は51重量%であった。
カテキン製剤(iii)の水分率は3.2%重量%であった。
【0038】
(カテキン製剤(iv)の製造)
緑茶葉(ケニア産、大葉種)3kgに88℃の熱水45kgを添カロし、60分間攪拌バッチ抽出したのち、100メッシュ金網で粗ろ過後、抽出液中の微粉を除去する為に遠心分離操作を行い、「緑茶抽出液」36.8kg(pH5.3)を得た(緑茶抽出液中の非重合体カテキン類濃度=0.88重量%、緑茶抽出液のガレート体率=51.6重量%、カフェイン0.17重量%)。緑茶抽出液の一部を凍結乾燥し、カテキン製剤(iv)を得た。カテキン製剤(iv)中の固形分中における非重合体カテキン類濃度=32.8質量%、カテキン製剤(iv)のガレート体率は51.6質量%、カテキン製剤(iv)のカフェイン/カテキン比=0.193であった。
【0039】
(カテキン製剤(v)の製造)
緑茶葉(ケニア産、大葉種)3kgに88℃の熱水45kgを添加し、60分間攪拌バッチ抽出したのち、100メッシュ金網で粗ろ過後、抽出液中の微粉を除去する為に遠心分離操作を行い、「緑茶抽出液」36.8kg(pH5.3)を得た(緑茶抽出液中の非重合体カテキン類濃度=0.88重量%、緑茶抽出液のガレート体率=51.6重量%、カフェイン0.17重量%)。この緑茶抽出液を温度15℃に保持し、タンナーゼ(キッコーマン社製タンナーゼKTFH、500U/g)を緑茶抽出液に対して430ppmとなる濃度で添カロし、55分間保持し、90℃に溶液をカロ熱して、2分間保持し酵素を失活させ、反応を止めた(pH5.2)。次いで70℃、6.7kpaの条件下で、減圧濃縮でBrix濃度20%まで濃縮処理を行い、更に噴霧乾燥して粉末状のタンナーゼ処理したカテキン製剤(v)1.0kgを得た。カテキン製剤(v)中の固形分中における非重合体カテキン類含有量30.5重量%、カテキン製剤(v)のガレート体率31.6重量%、カテキン製剤(v)のカフェイン/カテキン比=0.183であった。
【0040】
(カテキン製剤(vi)の製造)
酸性白土(ミズカエース#600、水澤化学社製)100gを常温、250r/min攪拌条件下の92質量%エタノール水溶液800g中に分散させ、約10分間攪拌を行った後、カテキン製剤(iv)120g、カテキン製剤(v)80gの混合物を投入し、室温のまま約3時間の攪拌を続けた(pH4.1)。その後、生成している沈殿および酸性白土を2号ろ紙で濾過した。得られたろ液にイオン交換水を417g添加し、15℃、100r/min攪拌条件下で約5分間攪拌を行った。その混合溶液を小型冷却遠心分離機を用い(日立工機社製)、操作温度15℃で析出した濁り成分を分離した(6000rpm、5分)。分離した溶液を活性炭(クラレコールGLC、クラレケミカル社製)30gと接触させ、続けて0.2μmメンブランフィルターによってろ過を行った。その後、凍結乾燥してカテキン製剤(vi)を得た。
カテキン製剤(vi)中には固形分中における非重合体カテキン類59.5重量%が含まれており、ガレート体率は44.1重量%、カテキン/タンニン比=0.928、水分率は4.6重量%であった。
【0041】
(カテキン製剤(vii)の製造)
カテキン製剤(v)85gを、脱イオン水8415gに25℃で30分間撹枠溶解した(タンナーゼ処理液)。ステンレスカラム1(内径110mm×高さ230mm、容積2185mL)に合成吸着剤SP−70(三菱化学(株)製)を2048mL充填した。タンナーゼ処理液8200g(4倍容積対合成吸着剤)をSV=1(h-1)でカラム1に通液し透過液は廃棄した。次いでSV=1(h-1)で2048mL(1倍容積対合成吸着剤)の水で洗浄した。水洗後、50質量%エタノール水溶液をSV=1(h-1)で4096mL(2倍容積対合成吸着剤)を通液し、「樹脂処理品1」4014g(pH4.58)を得た。この抽出物中には非重合体カテキン類1.89質量%が含まれており、非重合体カテキン類組成物のガレート体率は36.2%であった。又、カフェイン0.281質量%であった。茶抽出物の固形分中の非重合体カテキン類60.1質量%であった。次いで、ステンレスカラム2(内径22mm×高さ145mm、容積55.1mL)に粒状活性炭太閤SGP(フタムラ化学(株)製)を8.5g充填した。「樹脂処理品1」1000gをSV=1(h-1)でカラム2に通液した(活性炭の量はタンナーゼ処理した緑茶抽出物に対して0.4)。さらに凍結乾燥してカテキン製剤(vii)を得た。このカテキン製剤(vii)には固形分中における非重合体カテキン類77.6重量%が含まれており、ガレート体率は26.1重量%、カテキン/タンニン比=1.072、水分率は3.7重量%であった。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜6、比較例1及び2
<食パンの製造条件>
表1記載の分量の原材料を用い、下記の方法により実施例1〜6、比較例1及び2のパンを調製した。
1.中種生地調製条件
縦型ミキサー(関東ミキサー10コート)、フックを用い、中種配合材料をミキサーに入れ、低速3分、中高速2分で混捏し捏上温度を24.0±0.5℃とし、中種生地とした。次にこれを発酵(中種発酵)させた。この時の条件を下記に示す。
中種発酵温度 28℃
中種発酵相対湿度 80%
中種発酵時間 4時間30分
中種発酵終了温度 29.5℃
【0044】
2.本捏生地調製条件
縦型ミキサー(カントーミキサー 型式SS型 10コート、フック使用)に中種発酵生地を入れたところへ本捏配合材料(ショートニングを除く全材料:この際カテキン製剤は砂糖と混ぜて配合した)を添加し、低速3分、中高速3分で混捏後に、ショートニングを添加し、低速3分、中低速3〜5分、高速1〜7分で混捏し、本捏生地とした。本捏生地の捏上温度は26.0〜26.5℃である。
次に、混捏でダメージを受けた生地を回復させるために28.0℃にてフロアータイムを20分とり、この後に225gの生地に分割する。分割での生地ダメージを回復させるためにベンチタイムを28.0℃で20分とり、モルダーで成型する。成型物6個を角食のパン型に入れ発酵(ホイロ)を行なった。ホイロの条件を以下に示す。
ホイロ温度 38℃
相対湿度 80%RH
ホイロ時間 60分
上記条件において調製したパン生地を210℃のオーブンで40分間焼成した。焼成後、20℃において60分間冷却後、ポリエチレン袋に入れ、密閉化し、さらに20℃において3日間保存を行い、スライサーを用いて厚み20mmにカットしたものを評価用サンプルとした。結果を表2に示す。
【0045】
<評価方法>
(1)色差測定
スライスした食パンのクラム部の中心部の色の評価を行うため、分光式色差計(Spectro Color Meter SE2000 :NIPPON DENSHOKU社製)を用いて色
差を測定した。
【0046】
(2)体積測定
厚み20mmにスライスした食パンにおいて、パンの端から3,7,10,14,17枚目をサンプリングした。
「レーザー体積計測機WinVM200」(ASTEX社製)を用い、予め重量を測定したパンの体積を測定し、得られた体積を重量で割ることによりパン比容積を算出した。測定モードは2CCD精度計測にて行った。
【0047】
(3)圧縮応力測定
スライスした食パンのクラム中心部より厚み20mm×縦30mm×横30mmの片を切り出し、測定試料とした。
上記試料について島津製作所製テクスチャーアナライザーEZTestを用い、厚み方向へ50%圧縮した際の応力を測定した。
【0048】
【表2】

【0049】
<製パン作業性評価>
作業性評価については、捏上直後の本捏生地のべたつきの無さ及びフロアータイム後の生地分割時の生地べたつきの無さをカテキン無添加の場合と比較して評価した。
◎:カテキン無添加の食パンと同様にほとんど問題無く良好である。
○:カテキン無添加の食パンと比較して、若干劣るがまだ良好なレベルである。
△:カテキン無添加の食パンと比較して、劣るがまだ作業可能なレベルである。
×:カテキン無添加の食パンと比較して、非常に劣り、作業困難なレベル。
【0050】
<食感・風味官能評価>
◎:カテキン無添加の食パンと同様にほとんど問題無く良好である。
○:カテキン無添加の食パンと比較して、若干劣るがまだ良好なレベルである。
△:カテキン無添加の食パンと比較して、劣るがまだ食べることができるレベルである。
×:カテキン無添加の食パンと比較して、非常に劣り、食べることができないレベルである。
【0051】
表1及び2から明らかなとおり、カテキン製剤(ii)、(iii)、(vi)、及び(vii)をそれぞれパンに配合したものは、カテキン配合量を同一にするよう比較カテキン製剤(カテキン製剤(i))を配合したものと比較してパン内相の本来の明るい色を維持し、体積の向上が確認できた。
物性においても比較カテキン製剤(カテキン製剤(i))に見られる硬さの増加がなく、比較カテキン製剤を配合したパンと比較して柔らかさが向上した。さらに食感においてはしとり感及び口の中でかたまりになり飲み込みにくくなる傾向が抑えられ、口どけ感の向上が確認できた。
さらに、パン本来の風味である発酵風味が維持された。
カテキン由来の風味においても比較カテキン製剤(カテキン製剤(i))と比較して、苦味、渋味、収斂味の出方が少なく、風味上好ましかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類100重量部に対してカテキン類が0.2〜0.5重量部配合されるようカテキン類含有植物抽出精製物を添加し、焼成して製造されたパン類であって、該カテキン含有植物抽出精製物における高速液体クロマトグラフィーで測定したカテキン類含有量と酒石酸鉄法で測定したタンニン含有量の比が0.81〜1.10であるパン類。
【請求項2】
カテキン類含有植物抽出精製物が緑茶抽出物の精製物である請求項1記載のパン類。
【請求項3】
カテキン類含有植物抽出精製物を水分率10重量%未満の粉末形態で添加して得られたものである、請求項1又は2記載のパン類。
【請求項4】
パン類が食パン、調理パン、菓子パン、特殊パン及び前記パンにフィリングを詰め物したパンからなる群より選択されるものである請求項1〜3の何れか一項に記載のパン類。

【公開番号】特開2008−200032(P2008−200032A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330620(P2007−330620)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】