説明

パーフルオロエラストマー組成物及びシール材

【課題】基材への固着を容易に防止することができるエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)パーフルオロエラストマー及び(B)フルオロシラン化合物を含むパーフルオロエラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーフルオロエラストマー組成物及びシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロエラストマーは、その優れた耐プラズマ性・耐熱性により、半導体製造装置(たとえば、ドライエッチング装置、ケミカルベーパーデポジション(CVD)装置など)のシール材として使用されている。近年、半導体製造装置では、200℃以上の温度に加熱されるなどの過酷な製造条件が使用されるようになっている。そのため、パーフルオロエラストマーの基材(たとえば、金属)への固着が生じ、問題となっている。このため、パーフルオロエラストマーの非粘着処理を行い、固着を防止することが求められている。
【0003】
従来のエラストマーの表面改質方法には以下に示すものが挙げられる。
第一の方法はエラストマーを膨潤させることができる溶剤に対して表面改質剤を溶解させた溶液中に、エラストマーを浸漬させ、膨潤したエラストマー中に表面改質剤を染み込ませることである。このような方法は特許文献1(特開2006−117878号公報)に開示されている。これにより、表面改質を行うことが可能であるが、成形加工(2次加硫)後に処理工程が必要となる。
第二の方法はエラストマーと類似の構造を有する表面処理剤で被覆することを含む方法である。このような方法は特許文献2(特開2006−36884号公報)に開示されている。開示された表面処理剤は自己架橋性官能基を有するパーフルオロエーテル骨格を備えた化合物を含み、パーフルオロエラストマーを表面処理剤で被覆し、加熱することでパーフルオロエーテル骨格を備えた化合物を高分子化させる。かかる方法では被覆工程及び加熱工程が必要とされる。
【0004】
パーフルオロエラストマーの基材への固着を容易に防止することができる方法が望まれており、さらに、その方法が、組成物の改質による場合は、パーフルオロエラストマーの基材の一般特性を変化させぬように、パーフルオロエラストマー中への添加剤の添加量は少量であることが望まれ、一方、その組成物の改質を行うことで新たな工程追加にならないことが望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−117878号公報
【特許文献2】特開2006−36884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、基材への固着を容易に防止することができるエラストマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
(1)(A)パーフルオロエラストマー及び(B)フルオロシラン化合物を含むパーフルオロエラストマー組成物。
(2)前記フルオロシラン化合物はパーフルオロポリエーテル骨格を有する上記(1)のパーフルオロエラストマー組成物。
(3)前記フルオロシラン化合物はジシラン化合物である上記(1)又は(2)のパーフルオロエラストマー組成物。
(4)前記フルオロシラン化合物は前記パーフルオロエラストマー100質量部当たりに0.2〜1質量部の量で含む上記(1)〜(3)のいずれかのパーフルオロエラストマー組成物。
(5)上記(1)、(2)、(3)又は(4)のパーフルオロエラストマー組成物を成形したシール材。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパーフルオロエラストマー組成物では、少量のフルオロシラン化合物を含むことで、基材(金属)に対する固着を防止することができる。したがって、追加の工程を新たに設けること必要なく、単純な操作で固着防止効果を達成でき、また、少量含むために、エラストマー材料としてのシール特性を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
パーフルオロエラストマー
本発明のパーフルオロエラストマー組成物に使用できるパーフルオロエラストマーは、特に限定されるものではなく、一般的なパーフルオロエラストマーである。パーフルオロエラストマーを構成する主要モノマー単位は、好ましくはパーフルオロオレフィン類とパーフルオロビニルエーテル類との組合せである。
【0010】
パーフルオロオレフィン類としては、例えばテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、それらの混合物等が挙げられ、特にテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0011】
パーフルオロビニルエーテル類は、典型的には、次式(1)で表わされるパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル類またはパーフルオロ(アルコキシビニル)エーテル類である。
CF2=CFO(R’fO)n(R”fO)mf (1)
[式中、R’f およびR”f は、2〜6個の炭素原子を有する同じかまたは異なる直鎖状または分岐状パーフルオロアルキレン基であり、mおよびnは、独立して、0〜10の整数であり、Rf は、1〜6個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル基である。]
【0012】
好ましいパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル類には、次式(2)の化合物が含まれる。
CF2=CFO(CF2CFXO)nf (2)
〔式中、XはFまたはCF3であり、nは0〜5であり、Rf は、1〜6個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル基である。〕
【0013】
最も好ましいパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルは、上記の式(2)において、nが0または1であり、かつRf が1〜3個の炭素原子を含有する化合物である。そのようなパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニル)エーテル、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル、およびパーフルオロ(プロピルビニル)エーテルが挙げられる。
【0014】
本発明に有用な他のパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルモノマーには、次式(3)で表される化合物が含まれる。
CF2=CFO[(CF2mCF2CFZO]nf (3)
〔式中、Rfは、1〜6個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、mは0または1であり、nは0〜5であり、ZはFまたはCF3である。〕
このクラスで好ましいのは、Rf がC37 であり、mが0であり、かつnが1である化合物である。
【0015】
本発明に有用な他のパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルモノマーには、次式(4)で表される化合物が含まれる。
CF2=CFO[(CF2CFCF3O)n(CF2CF2CF2O)m(CF2p]Cx2x+1 (4)
〔式中、mおよびnは、それぞれ、0または1〜10の整数であり、pは0〜3であり、xは0〜5である。〕
【0016】
本発明に有用なパーフルオロ(アルコキシビニル)エーテルには、次式(5)で表される化合物が含まれる。
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1 (5)
〔式中、nは1〜5、好ましくは1であり、mは1〜3である。〕
【0017】
本発明に有用なパーフルオロ(アルコキシビニル)エーテルの代表的な例としては、CF2=CFOCF2OCF2CF2CF3 、CF2=CFOCF2OCF3 、CF2=CFO(CF23OCF3 、およびCF2=CFOCF2CF2OCF3 等が挙げられる。
【0018】
パーフルオロ(アルキルビニル)エーテルとパーフルオロ(アルコキシビニル)エーテルとの混合物を使用することも可能である。
【0019】
パーフルオロエラストマーには架橋部位モノマーが導入され、架橋構造を形成し、エラストマー性を発揮する。架橋部位モノマーはパーオキシド硬化反応に関与することができるものである。一般的に、最も好ましい架橋部位モノマーは、1個以上の臭素(Br)基またはヨウ素(I)基を含有するものであるが、ニトリル(CN)基のように架橋反応に関与できる他の官能基も使用し得る。
【0020】
好ましいBrまたはI基含有架橋部位モノマーの例としては、ブロモジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ヨードトリフルオロエチレン、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1、CF2=CFOCF2CF2Br、CF2=CFOCF2CF2CF2Br、CF2=CFOCF2CF2CF2OCF2CF2Br が挙げられる。
【0021】
好ましいCN含有架橋部位モノマーとしては、次式の化合物が挙げられる。
CF2=CFO(CF2nCN (6)
CF2=CFO[CF2CFCF3O]pCF2CF(CF3)CN (7)
CF2=CF[OCF2CFCF3xO(CF2mCN (8)
〔式中、n=2〜12、p=0〜4、x=1〜2、およびm=1〜4である。〕
好ましいCN含有架橋部位モノマーの例は、パーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)である。
【0022】
本発明に使用する架橋部位モノマーとして特に有用なのはブロモトリフルオロエチレンである。
【0023】
パーフルオロエラストマーとして特に好ましいのは、CF2=CF2 約50〜約85モル%、CF2=CF(OCF3)約15〜約50モル%、架橋部位モノマー約0.2〜約5モル%からなる三元共重合体を架橋して得られるパーフルオロエラストマーである。
【0024】
フルオロシラン化合物
フルオロシラン化合物はパーフルオロエラストマー中に少量で添加されて、エラストマーが金属などの基材に対して固着するのを防止するものである。パーフルオロエラストマーへのフルオロシラン化合物の添加は、カーボンブラックなどの他のフィラーと同時にエラストマーのコンパウンド時に投入することができ、既存の加工機器類用いて特別な工程なしに行える。このため、従来の表面処理による方法よりも、低コストで容易に作業を行なうことができる。また、フルオロシラン化合物は極少量の添加で効果を発揮するので、本来のシール材等のエラストマーの機能(たとえば、耐熱性/圧縮永久歪)を損なうことがない。
【0025】
フルオロシラン化合物は好ましくはパーフルオロポリエーテル骨格を有し、また、このようなフルオロシラン化合物は、たとえば、下記式(E)
Rf−(Si(OR)3n (Rfはパーフルオロポリエーテル基を主骨格とした構造であり、Rはアルキルであり、nは1又は2である。)
の構造を含むパーフルオロポリエーテル骨格を有するフルオロシラン化合物である。フルオロシラン化合物は、好ましくは、パーフルオロエラストマー100質量部当たりに0.2〜1質量部の量で添加される。フルオロシラン化合物の量が少なすぎると、十分な効果を発揮せず、多量でありすぎると、良好なシール特性、良好な耐プラズマ特性面で、エラストマーの特性を維持できなくなることがあるからである。
【0026】
エラストマーの製造
本発明のエラストマー組成物は、パーフルオロエラストマー、フルオロシラン化合物のほか、カーボンブラックやシリカなどのフィラー、加硫用触媒などの成分を含んでよい。この組成物成分をコンパウンダーに投入し、一次加硫・二次加硫などの従来の方法で加硫成形することでエラストマー成形体を製造することができる。
【0027】
本発明のエラストマー組成物から得られたエラストマー成形体は、半導体製造装置(ドライエッチング装置、CVD装置など)のためのシール材料などとして使用できる。処理されたエラストマーは表面が非粘着化されるので、エラストマーシール材料が接触している表面に粘着することを防止でき、粘着によるシール材の破損を防げる。
【実施例】
【0028】
実施例1
パーフルオロエラストマー(PFE131T(商品名)ダイニオン社製)100質量部、添加剤PFE01C((商品名)、ダイニオン社製)7.5質量部、補強材としてMTカーボン(N990(商品名)CANCARB社製)15質量部及びシリカ(Aerosil R-972(商品名)日本アエロジル社製)1質量部とともに、パーフルオロエーテル骨格を有するフルオロジシラン化合物(ECC−1000(商品名)、3Mカンパニー社製)0.25質量部を配合し、コンパウンドを得た。このコンパウンドに対し188℃で15分間の一次加硫を行なった。次いで、200℃で16時間及び250℃で8時間の二次加硫の条件で加硫成形を行い、2mm厚さのシートを作成した。
【0029】
実施例2
フルオロジシラン化合物(ECC−1000(商品名)、3Mカンパニー社製)の量を0.5質量部とした以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0030】
実施例3
フルオロジシラン化合物(ECC−1000(商品名)、3Mカンパニー社製)の量を0.75質量部とした以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0031】
実施例4
フルオロジシラン化合物(ECC−1000(商品名)、3Mカンパニー社製)の量を1.0質量部とした以外は実施例1と同様の操作を行った。また、シート作成と同一の条件でリング直径25.7mm(内径)、線径3.5mmのOリングを作成した。
【0032】
比較例
フルオロジシラン化合物(ECC−1000(商品名)、3Mカンパニー社製)を添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。また、シート作成と同一の条件でリング直径25.7mm(内径)、線径3.5mmのOリングを作成した。
【0033】
1.エラストマーの配合比及び加硫特性
配合比及び一次加硫後の特性を下記の表1に示す。
【表1】

【0034】
上記の表中、MHは、トルク最大値を意味し、MLは、トルク最小値を意味する。Ts2は、2ポイント上昇するのに要した時間を意味し、T50は、50%加硫時間(加硫反応の中間点)を意味し、T90は、90%加硫時間(最適加硫点)を意味する。
【0035】
2.エラストマーシートの金属に対する固着・剥離試験
サンドペーパーを用いて表面を研磨し、そして脱脂したステンレススチール(SUS)プレート上に、10mm×70mmにカットした上記の2mm厚さのシートサンプルを載せ、ジグに挟んで加圧した(シート圧縮率20%)。加圧状態のまま、100℃のオーブン中で48時間圧着させた。ジグをオーブンから取り出し、加圧状態のまま室温まで冷却した後に開放し、剥離試験に供した。剥離試験には引張試験機を用い、50mm/分の速度でゴムシートと金属基材との剥離強度を測定した。この測定は各サンプルで3回ずつ行い、平均値を求めた。結果を下記の表2に示す。
【0036】
3.O−リングの圧縮永久歪試験
実施例4及び比較例において、O−リングを、25%圧縮下、200℃で48時間加熱した後に開放し、開放の0.5時間後の歪を圧縮永久歪として測定した。結果を下記の表2に示す。
【0037】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)パーフルオロエラストマー及び(B)フルオロシラン化合物を含むパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項2】
前記フルオロシラン化合物はパーフルオロポリエーテル骨格を有する請求項1記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項3】
前記フルオロシラン化合物はフルオロジシラン化合物である請求項1又は2記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項4】
前記フルオロシラン化合物は前記パーフルオロエラストマー100質量部当たりに0.2〜1質量部の量で含む請求項1〜3のいずれか1項記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のパーフルオロエラストマー組成物を成形したシール材。

【公開番号】特開2008−266364(P2008−266364A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107167(P2007−107167)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】