説明

パーフルオロコンパウンドの分解処理装置及び分解処理方法

【課題】高濃度のHFを含有する高温ガスの冷却装置において、装置部材のHF腐食を緩和するパーフルオロコンパウンドの分解処理装置及びそれを用いた処理方法を提供する。
【解決手段】被処理ガス中のパーフロオロコンパウンドを分解する分解装置と、前記パーフルオロコンパウンドを分解した後のガスを湿式方法により冷却する冷却装置と、前記パーフルオロコンパウンドを分解した後に生成するHFを含む酸性ガスを除去する酸性ガス除去装置と、を具備するパーフルオロコンパウンドの分解処理装置において、前記冷却装置において、HF中和剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体,液晶製造工場から排出されるパーフルオロコンパウンド等のフッ素化合物を含む排ガスを分解処理するパーフルオロコンパウンドの分解処理装置及び分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体或いは液晶の製造プロセスでは、エッチング或いはクリーニングを行うにあたり、通常、フッ素化合物ガス、特にパーフルオロコンパウンド(Perfluorocoupound、以下PFCという)を用いる。PFCの一例を示すと、CF4,C26,C38,CHF3,C48,SF6及びNF3等がある。PFCは二酸化炭素(CO2)の数千倍から数万倍の赤外線吸収度を持つ地球温暖化ガスであり、2005年2月に発行された京都議定書で全世界的に排出が制限された。エッチング或いはクリーニング工程では、導入したPFCの一部しか使用されず、大部分は排ガスとして排出される。このように大気に排出されるPFCは除去或いは分解してから排気されることが必要になる。
【0003】
PFCの処理方法としては、触媒法,燃焼法,プラズマ法等が知られている。いずれのPFC分解方法においても、PFC分解後にはSOx,NOx及びHF等の酸性ガスが生成する。これらの酸性ガスは排ガスを大気に放出する前に除去する必要がある。また、上記いずれの方法でも700℃以上の高温でPFCを分解している。そのため、PFC分解後の排ガス温度も高く、大気放出前に冷却する必要がある。PFC分解後の酸性ガス除去、及び排ガス冷却方法としては、特許文献1にあるように、一般的には湿式除去装置が用いられている。
【0004】
特許文献1の方法では、酸性ガス除去及びガス冷却に多量の水を必要とするため、処理後に多量に廃液が生成する。そのため、廃液処理に多額のコストがかかると同時に環境汚染のリスクが高い。したがって、ゼロエミッションの観点から、PFC分解装置からの廃液量を削減するニーズが高まっている。
【0005】
500℃以上の高温ガス廃熱方法として、水の蒸発潜熱のみを利用した方法とすることで冷却に必要な工業用水量及びガス冷却後に発生する排水量を大幅に低減することができる(特許文献2)。しかし、蒸発潜熱のみを利用した方法では、蒸発潜熱と顕熱を利用したスクラバータイプの冷却方法に比べて、ガスの冷却時間がかかり、そのため、装置中に500℃以上の高温領域と100℃以下の低温領域が混在する。
【0006】
また、本発明で取り扱う、排ガス中にHF等の酸性ガスが高濃度(1vol%以上)で混入するケースにおいては、冷却装置の部材に耐酸性が要求される。したがって、例えば減温塔のような蒸発潜熱のみを利用した冷却装置を酸性ガスが高濃度に含有したシステムに適用するためには、部材の選定が重要なファクターとなり、その部材に要求されるスペックとして、広い温度領域、特に水分凝縮が懸念される200℃以下の低温領域で耐酸性を有することが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−75743号公報
【特許文献2】特開平11−37449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高濃度のHFを含有する高温ガスの冷却装置において、装置部材のHF腐食を緩和するパーフルオロコンパウンドの分解処理装置及びそれを用いた処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のパーフルオロコンパウンドの分解処理装置は、被処理ガス中のパーフロオロコンパウンドを分解する分解装置と、前記パーフルオロコンパウンドを分解した後のガスを湿式方法により冷却する冷却装置と、前記パーフルオロコンパウンドを分解した後に生成するHFを含む酸性ガスを除去する酸性ガス除去装置と、を具備するパーフルオロコンパウンドの分解処理装置において、前記冷却装置において、HF中和剤を添加することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のパーフルオロコンパウンドの分解処理方法は、被処理ガス中のパーフロオロコンパウンドを分解する分解工程と、前記パーフルオロコンパウンドを分解した後のガスを湿式方法により冷却する冷却工程と、前記パーフルオロコンパウンドを分解した後に生成するHFを含む酸性ガスを除去する酸性ガス除去工程と、を有するパーフルオロコンパウンドの分解処理方法において、前記冷却工程において、HF中和剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PFC分解後の排ガス中の酸性ガス濃度を低減でき、冷却装置のHF腐食を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の処理方法の一例を示すシステムフロー図である。
【図2】本発明の処理装置の一例を示すシステム構成図である。
【図3】(試験例1)に使用した試験装置図である。
【図4】(試験例2)に使用した試験装置図である。
【図5】(試験例2)の試験結果である。
【図6】(試験例2)の試験結果である。
【図7】(試験例2)の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の処理方法の一例を示したシステムフローである。本システムはPFC分解工程,ガス冷却工程,酸性ガス除去工程から構成される。半導体或いは液晶の製造プロセスから排出されたPFCを含む被処理ガスはPFC分解工程に送られてPFCが分解除去される。PFC分解後の排ガスはガス冷却工程に送られ500℃以上の高温ガスが冷却される。その際、ガス冷却工程で噴霧する水中にHF中和剤を添加する。最後に、排ガスは酸性ガス除去工程に送られ、冷却工程で除去されなかった酸性ガスが中和除去され、無害化された後、大気に排出される。
【実施例1】
【0015】
図2は本発明の処理装置の一例を示したシステム構成図である。本システムは湿式除去装置200,触媒式反応槽210,減温塔装置220,酸性ガス除去装置230,排気設備240及び中和剤供給工程250から構成される。PFC含有ガスは、湿式除去装置200に送られ、固形物やSiF4等のエッチング排ガス中の酸性ガスが除去される。湿式除去装置200から排出されたガスは触媒式反応槽210に送られ、被処理ガス中のPFCが分解除去される。その際、反応助剤として反応水30,空気11を供給する。PFCを分解すると、酸性ガスのHF,SOx及びNOxが生成する。触媒式反応槽210通過後のガスは400〜700℃と高温である。次に触媒式反応槽210通過後のガスは減温塔装置220に送られ、そこで、約200℃に冷却される。この際、減温塔装置220から噴霧されるスプレーは中和剤供給工程250から供給され、HF中和剤を含んだ水を噴霧する。減温塔装置220から排出されたガスは酸性ガス除去装置230に送られ、無害化された後排出される。
【0016】
減温塔装置から噴霧するHF中和剤としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物,炭酸塩及び酸化物やアンモニア及び尿素が使用できるが、水への溶解度が低い化合物ではガス中のHFを除去するだけの物質量を溶解することができず、また、溶解せずに噴霧されるとスプレーの目詰まり等を引き起こす可能性があるので、なるべく溶解度が高い化合物を選定するのが好ましい。
【0017】
また、HF中和剤としては、HFとの反応性が高い化合物が望ましい。下記にHF中和剤としてNaOH,アンモニア,尿素を選定した場合のHF中和反応を示し、それぞれの反応のギブスエネルギー(ΔG)を付記した。
【0018】
NaOH+HF→NaF+H2O ΔG=−196kJ/mol (1)
NH3+HF→NH4F ΔG=−95kJ/mol (2)
(NH2)2CO+2HF+H2O→2NH4F+CO2 ΔG=5kJ/mol (3)
【0019】
ギブスエネルギーが負に大きいほど反応は進行し易いことを意味しており、HF中和剤としては上記アンモニアのようにΔG値が−50kJ/molよりも小さい化合物が好ましい。
【0020】
本実施例では減温塔装置220の後段に酸性ガス除去装置230を設置しているが、減温塔装置220内で噴霧するHF中和剤によりガス中HF濃度が除去できれば、酸性ガス除去装置230は設置しなくてもよい。しかし、減温塔装置で完全にHF除去ができなかったことを考え、酸性ガス除去装置を設置する方が安全サイドでの設計といえる。
【0021】
本実施例では湿式除去装置として充填塔型除去装置を例示しているが、充填塔型以外の湿式処理装置として、スプレー型,棚段型気液接触装置,スクラバ等がある。いずれも気液の接触が十分であることが望ましい。また、装置の内径が小さいと、装置内のガス線速度が大きくなり、ガスに同伴するミスト量も多くなる。したがって、装置内のガス流速が10m/min以上18m/min以下となるように設計することが望ましい。また、湿式処理装置への流入水として、水道水或いは装置内の循環水を使用することができるが、循環水のみを使用すると、循環水に溶解した固形物や酸性成分がミストとして多く排出される可能性がある。したがって、充填塔やスプレー塔に設置する場合、最上段のノズルからは水道水を流入し、棚段,スクラバからの流入水には水道水も流入させ、流入水中の酸性成分、及び固形物の濃度を低くすることが望ましい。また、流入水としては、水道水,循環水以外に、アルカリ水溶液等を用いてもよい。
【0022】
PFCは触媒上で加水分解される。下記に代表的なPFCの分解反応を示す。
【0023】
CF4+2H2O→CO2+4HF (4)
26+3H2O→CO+CO2+6HF (5)
48+4H2O→4CO+8HF (6)
CHF3+H2O→CO+3HF (7)
SF6+3H2O→SO3+6HF (8)
2NF3+3H2O→NO+NO2+6HF (9)
【0024】
式(5),(6),(7)の反応ではCOが生成するが、反応助剤として空気を供給することでCO2となる。
【0025】
PFCの分解に使用される触媒は、加水分解用あるいは酸化分解用の触媒であり、例えばAlとZn,Ni,Ti,Fe,Sn,Co,Zr,Ce,Si,W,Pt,Pdから選ばれた少なくとも1種を含む触媒である。触媒成分は酸化物,金属,複合酸化物等の形で含まれる。特にAlとNi,Zn,Ti,W,Co,Pdから選ばれた少なくとも1種との触媒が高いPFC分解性能を持つので好ましい。
【0026】
PFCは式(1)〜(6)に示したように加水分解によって処理される。供給する水量が少ないとPFCの分解反応が進行せず、また、PFC分解後の排ガス中から凝縮させる水分が少なくなるため、ガス冷却及び酸性ガス除去性能が低下する。また、供給水量が多い場合はPFC分解,凝縮水生成ともに好ましい状態となるが、水が多量に含まれるとガスが所定温度まで昇温できなくなる。したがって、PFCの加水分解に際して反応塔に添加される水蒸気の量は、加水分解に必要とされる理論水蒸気量の2〜50倍、通常は3〜30倍が好ましい。
【0027】
PFCの加水分解温度は500〜850℃が好ましい。PFC濃度が高い場合には反応温度を高めにし、PFC濃度が1%以下の場合には反応温度を低めにするのがよい。反応温度が850℃よりも高くなると触媒が劣化しやすくなり、反応塔材料も腐食しやすくなる。反対に反応温度が500℃よりも低くなるとPFCの分解率が低下する。
【0028】
酸性ガス除去装置230としては一般的な湿式及び乾式除去装置を使用することができる。湿式の例としてはスプレー塔のほか、充填塔,スクラバ,棚段型気液接触装置がある。また、乾式の例として、酸性ガス中和剤による固定層,移動層,流動層型乾式除去装置がある。また、バグフィルタ方式もよい。酸性ガス除去剤としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属の塩基性塩、例えば水酸化カルシウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化マグネシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸カルシウム,酸化カルシウム、またはアンモニアや尿素等の塩基性物質が使用できる。
【0029】
酸性ガス除去装置の後段に排気設備240を設置することが望ましい。多流量のPFCを処理する際はできるだけ線速度を大きくすることが望ましいが、線速度を大きくするためにガス流量を増やすと装置内の圧力損失が大きくなる。排気設備としては一般的なエジェクタ、及びブロアが使用できるが、これ以外でも装置系内を負圧に保てるものであればどのような方法でもよい。
【0030】
〔試験例1〕
本試験例は、PFC分解排ガス中に中和剤を添加した場合のHF除去効果について評価した結果である。PFC分解排ガス中にHF中和剤を添加することでガス中HF濃度を低減させ、その結果、部材の腐食を抑制できると考えた。
【0031】
試験装置の概略図を図3に示す。本試験装置はガス供給ライン,中和剤供給ライン,反応管100,反応水供給ライン,酸性ガス吸収槽120からなる。反応管内にPFC分解触媒104を設置する。供給ガスは反応管上部から供給され、電気炉101によって外側から加熱されて触媒層に流入する。供給ガスの組成は、N2:1250ml/min,Air:125ml/min,C24:13ml/minとした。また、触媒上でのC26分解に必要な反応水はマイクロチューブポンプ110を介し、物質量比でC26の25倍供給した。また、C26分解後に生成するHFを除去するために中和剤を添加した。中和剤はマイクロチューブポンプ140を介して、触媒層の下部に供給した。尚、中和剤としては、アンモニア,尿素及びNaOHの水溶液を用いた。中和剤添加量は、C26分解によって生成するHF量と同物質量とした。反応管の下部にガスサンプル装置150を設置し、テトラバックに排ガスを採取できるようにした。中和剤の添加効果はガスサンプル装置150から採取したガス中のHF濃度により比較した。結果を表1に示す。中和剤添加無しの場合は、ガス中にHFが5.7vol%含まれていたが、中和剤を添加することでガス中HF濃度は低下し、序列は、添加無し>尿素>NH3>NaOHとなった。したがって、中和剤添加によりガス中HF濃度が低下することが確認され、中和剤添加の有用性が確認できた。
【0032】
【表1】

【0033】
本試験例では、(1)〜(3)式における理論当量比を添加したにも関わらず、いずれの中和剤でも完全にHFを除去することはできなかった。この原因として、HF−中和剤の反応速度の影響、HF−中和剤の混合不十分の影響が考えられる。HF−中和剤の反応速度の影響評価として、式(1)〜(3)反応のギブスエネルギー(ΔG)値とHF除去性能を比較すると、HF除去性能とΔG値の大きさには相関関係が確認され、ΔG値が小さい中和剤ほどHF除去性能が高いことが判った。したがって、HF中和剤の選定指標としては、HFとの反応におけるΔG値が小さいものほど好ましく、更に好ましくはΔG値が−50kJ/mokよりも小さい化合物が望ましい。本実施例で挙げた3種中和剤以外の化合物でもΔG値が−50kJ/molよりも小さい化合物であったら何でもよい。
【0034】
また、本試験例で最もHF除去性能が高かったNaOHでも完全にHFを除去することができていないことから、HF−中和剤の混合状態を改善する必要があると考えられる。中和剤添加法を実際の減温塔に適用する場合には、例えば旋回流動方式によるガス対流拡散の促進や減温塔本体のベンチュリ構造化等を実践することで混合が促進され、反応率が向上すると考えられる。その他、ガスの混合を促進させる構造であれば適用できる。
【0035】
〔試験例2〕
本試験例は、PFC分解排ガス中に金属試験片を設置し、中和剤有無の2条件において300hの連続試験を実施して金属の耐HF性を評価した結果である。
【0036】
試験装置の概略図を図4に示す。本試験装置はガス供給ライン,反応管100,反応水供給ライン,酸性ガス吸収槽120からなる。反応管内にPFC分解触媒104を設置する。ガス供給条件は試験例1と同様である。また、PFC分解触媒104の下段に金属試験片130を5種設置した。尚、金属試験片は同種のものを3つ直列に設置し、腐食温度に傾斜をつけた。腐食温度としては、低温側から200℃,400℃,600℃とした。また、本試験で用いた金属試験片種としては、Fe基合金のSUS304,SUS310S及びNi基合金であるインコネル600(スペシャルメタル社製),インコロイ800(スペシャルメタル社製),ハステロイC−276(ヘインズ社製)の5種とした。本試験に用いた金属試験片の組成を表2に示す。また、本試験例は中和剤有無2条件で実施し、中和剤有無による金属試験片の腐食挙動を評価した。上記条件で300hの連続試験を実施し、金属試験片の重量を測定し、得られた重量から腐食厚を推算した。
【0037】
【表2】

【0038】
300h連続試験後の各試験片の重量変化を図4及び図5に示す。試験片種によっては、連続試験後の重量の方が初期重量よりも増加していたが、これは酸化皮膜等の形成によるものであると推測した。即ち、腐食による減肉は起こっていないと判断し、その場合の重量減少率は0.0%として表記した。試験前後の重量変化に関しては、インコネル600,インコロイ825及びハステロイC−276は中和剤有無に関わらず200〜600℃の温度域において高い耐HF性を有し、重量減少率は0.0%であった。しかし、SUS304及びSUS310Sでは、中和剤有無に関わらず温度が低くなると重量減少率は高くなることが判った。しかしながら、中和剤の添加効果で見ると、中和剤を添加した条件の方が重量減少率は低減されており、中和剤添加による腐食の抑制効果が認められた。
【0039】
インコネル600とSUS304試験片の試験後の断面状態をSEMで観察した結果、インコネル600の試験片表面には母材上にCr酸化物の皮膜が生成していることが確認されたが、SUS304の表面には確認されず、材料内部への腐食が進行していることが確認された。インコネル600以外のNi基合金にも同様の皮膜生成が確認されたことから、Ni基合金の高い耐食性はCr酸化物皮膜の生成によると推測された。したがって、金属試験片上へのCr酸化物皮膜の生成により腐食は抑制できる知見を得た。
【0040】
部材を加工する前に予め熱処理を施し、酸化クロム皮膜を形成させることが望ましい。皮膜形成方法の一例を示すと、例えばAr気流中にH22を約3vol%添加し、この気流中に、800℃で24h処理する方法がある。但し、上記以外の方法でも、酸化クロム皮膜を形成できる方法であれば適用できる。
【0041】
Ni基合金上に形成される酸化クロム皮膜の厚さとして効果的な条件は、0.3μm以上である。材料中のCr量が少ないと十分な厚さの皮膜を形成することができない。
【0042】
次に、300h連続試験の結果から、1年間運転後の腐食厚を推定した。尚、推算条件は、温度は、最も腐食が進行していた200℃、腐食は均一腐食で進行するとした。また、多くの材料における腐食量の経時変化の特徴として、腐食初期に比較的大きな速度で腐食が進行し、形成する皮膜によってしだいに、あるいはごく短時間に腐食速度が低下することが知られている。しかしながら、本実施例では、安全サイドの厳しい評価とするため、腐食速度は一定値のまま維持し、腐食量は時間に比例して増大するとして推算した。腐食厚の推算には下記(10)式を用いた。
【0043】
腐食厚(mm/year)=試験片元厚(mm)×減肉重量(g/year)
/試験片元重量(g) (10)
【0044】
腐食厚推算結果を表3に示す。インコネル600,インコロイ825,ハステロイC−276の腐食厚は中和剤有無に関わらず0.00mm/yearと推算された。しかしながら、SUS304とSUS310Sは腐食厚が中和剤有条件においてもそれぞれ4.97,2.45mm/yearとなり、減温塔材料としては不適であると判断された。今回検討した5種の材料の腐食強度の違いについて、材料の組成から考察した。
【0045】
【表3】

【0046】
図7に各材料の腐食厚と材料中Cr/Ni比の関係を示す。ここで、Cr及びNiに着目した理由は、今回検討した5種材料の耐食性の傾向として、Ni基合金ほど耐食性が高く、また、耐食性に寄与しているのはCr酸化物の皮膜生成であるという知見が得られたためである。図7から、各材料の腐食厚とCr/Ni比には相関関係が認められ、Cr/Ni比が小さい材料ほど高い耐HF性を有すことが判った。
【0047】
本試験例から次に示す指標を満たす材料が低温域における耐HF性材料として有効であることが判った。
【0048】
HFを含む腐食性ガスにさらされる部材において、200〜600℃の温度の前記腐食性ガスにさらされる部材がCr10〜25wt%,Fe5〜45wt%,C0.2〜1.0wt%,Mn0.2〜1.5wt%を含むNi基合金が好ましく、更に前記Ni基合金中のCr/Ni組成比が0.7以下となる部材から形成される材料が耐HF性材料として好ましい。
【0049】
また、Cr/Ni比が0.7以下となる部材中のNi含有量が30wt%以上且つCr含有量が10〜25wt%となるNi基合金であることが望ましい。本試験例で使用した部材で判断すると、インコネル600,インコロイ800,ハステロイC−276が好ましいが、特に好ましいのはモリブデン及び炭素の含有量が少ないインコロイ800である。また、本試験例で示した材料でも上記指標に合うものであれば使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、500℃以上の高温域と200℃以下の低温域が混在し、且つ、HF腐食環境下に晒される部材の耐食性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
100 反応管
101 電気炉
103 アルミナウール
105 ガラスウール
110 マイクロチューブポンプ
120 酸性ガス吸収
150 ガスサンプル装置
201 スプレーノズル
213 PFC分解触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理ガス中のパーフロオロコンパウンドを分解する分解装置と、
前記パーフルオロコンパウンドを分解した後のガスを湿式方法により冷却する冷却装置と、
前記パーフルオロコンパウンドを分解した後に生成するHFを含む酸性ガスを除去する酸性ガス除去装置と、
を具備するパーフルオロコンパウンドの分解処理装置において、
前記冷却装置において、HF中和剤を添加することを特徴とするパーフルオロコンパウンドの分解処理装置。
【請求項2】
前記冷却装置は、水の蒸発潜熱を利用したガス減温塔であることを特徴とする請求項1に記載のパーフルオロコンパウンドの分解処理装置。
【請求項3】
前記HF中和剤が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物,炭酸塩及び酸化物,アンモニア,尿素のいずれか一つ以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のパーフルオロコンパウンド分解処理装置。
【請求項4】
前記分解装置が、触媒法によるパーフルオロコンパウンド分解装置であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のパーフルオロコンパウンドの分解処理装置。
【請求項5】
被処理ガス中のパーフロオロコンパウンドを分解する分解工程と、
前記パーフルオロコンパウンドを分解した後のガスを湿式方法により冷却する冷却工程と、
前記パーフルオロコンパウンドを分解した後に生成するHFを含む酸性ガスを除去する酸性ガス除去工程と、
を有するパーフルオロコンパウンドの分解処理方法において、
前記冷却工程において、HF中和剤を添加することを特徴とするパーフルオロコンパウンドの分解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−179249(P2010−179249A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25497(P2009−25497)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】