説明

パーベンジル化スクロースオリゴ糖の酸加水分解によるベンジル化フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の製造法

【課題】パーベンジル化スクロースオリゴ糖の酸加水分解によるフルクトフラノシル結合の選択的な酸加水分解による3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース、および二糖以上のオリゴ糖を含むベンジル化D-フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の効率良い製造法の提供。
【解決手段】パーベンジル化スクロースオリゴ糖をジオキサン中で75%硫酸水溶液を用いてフルクトフラノシル結合の選択的な加水分解を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
三糖以上のパーベンジル化スクロースオリゴ糖の酸加水分解によるフルクトフラノシル結合の選択的な加水分解による3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース、及びベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクロースオリゴ糖は、スクロースを構成するグルコースあるいはフルクトフラノースに、さらにアルドヘキソースがグリコシド結合で付加した三糖以上のものである。抗酸化活性、酵素阻害剤やビフィズス菌活性化が見られるいくつかのスクロースオリゴ糖は大量生産されている。このスクロースオリゴ糖のすべての水酸基をベンジル基で保護したパーベンジル化スクロースオリゴ糖のフルクトフラノシル結合以外のグリコシル結合を痛めることなく、フルクトフラノシル結合のみを選択的に酸加水分解させることができれば、ベンジル基を有する二糖以上のオリゴ糖を含むフルクトース誘導体とアルドース誘導体を得ることができる。これら糖誘導体は、糖質化学で重要な糖受容体や糖供与体として利用することができ、新たなスクロースオリゴ糖の製造原料中間体や、医薬や農薬としてオリゴ糖の製造原料中間体、さらには酵素反応における有用な基質を合成する原料としての用途が期待される。
【0003】
ところで、二糖からなるスクロースのすべての水酸基をベンジル化したパーベンジル化スクロースでは、酢酸―2M硫酸の酸性条件下、6時間、65℃で加熱し、1,3,4,6-テトラ‐O‐ベンジル‐D‐フルクトフラノースおよび2,3,4,6-テトラ‐O‐ベンジル‐D-グルコピラノースの単糖誘導体の製造法が報告されているが(非特許文献1)、1,3,4,6-テトラ‐O‐ベンジル‐D‐フルクトフラノースの収率は、17%と低収率である。また、この反応条件をパーベンジル化スクロースオリゴ糖に適用した場合には、アルドヘキソースのグリコシド結合も切断されてしまうことが予想される。
【非特許文献1】R. K. Nessら「1,3,4,6-Tetra-O-benzyl-D-fructofuranose and some of its derivatives」、Carbohydrate Research, 1970年, 13巻, 23ページ.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パーベンジル化スクロースオリゴ糖の酸加水分解によるフルクトフラノシル結合の選択的な酸加水分解によって、3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース、及び二糖以上のオリゴ糖を含むベンジル化D-フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体を効率良く製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の事情に鑑み鋭意研究した結果、パーベンジル化スクロースオリゴ糖を酸性条件下、フルクトフラノシル結合以外のグリコシル結合を痛めることなく、速やかにフルクトフラノシル結合のみを選択的に加水分解を行うことができ、3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース、及び二糖以上のオリゴ糖を含むベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体を効率良く得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、三糖以上のパーベンジル化スクロースオリゴ糖のフルクトフラノシル結合の選択的に加水分解による二糖以上のオリゴ糖を含むベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の製造法と3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノースである。
【化3】

(Bnはベンジル基を示す。)
【化4】

(Bnはベンジル基を示す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明は、温和な条件下でスクロースオリゴ糖や医薬や農薬としてオリゴ糖の製造原料、さらには酵素反応における有用な基質として期待される3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース、さらには二糖以上のオリゴ糖を含むベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体を効率良く製造することができる有用な方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の原料として使用するスクロースオリゴ糖は、スクロースを構成するグルコースあるいはフルクトフラノースに、さらにアルドヘキソースがグリコシド結合で付加した三糖以上のものであり、周知のものを使用することができる。例えば、ラフィノース、ラクトスクロースやメレジトースが挙げられる。
【0008】
スクロースオリゴ糖はすべての糖水酸基をベンジル化したパーベンジル化スクロースオリゴ糖を用いるが、周知のベンジル化法を用いることができる。例えば、ジメチルホルムアミド中で水素化ナトリウムと臭化ベンジルを用いる方法で得られる。塩基として水素化ナトリウムの他、水酸化カリウムあるいは水酸化ナトリウム、臭化ベンジルの他に塩化ベンジルが使用できることは言うまでもない。
【0009】
パーベンジル化スクロースオリゴ糖の酸加水分解反応は、有機溶媒存在下で行うことが好ましい。酸には周知の酸を使用することができるが、好ましくは硫酸を用いる。硫酸水溶液の濃度については特に制限はないが、通常、体積百分率で10%から90%、好ましくは、50%から90%で使用する。特に、75%が好ましい。
【0010】
有機溶媒は、周知の有機溶媒を使用することができる。例えば、アルコール、ジオキサン、エーテル、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができるが、好ましくは水との混合性に富んだアルコール、ジオキサン、アセトニトリルやジメチルホルムアミドを使用することが好ましい。酸水溶液と有機溶媒の混合比については、特に制限はないが、体積比で1対100から1対1で使用するが、好ましくは1対2から1対20で使用する。
【0011】
反応温度は特に制限はないが、通常0℃〜60℃で行う。好ましくは、10℃〜40℃の範囲である。反応時間は反応温度、原料の種類等によって異なるが、数分から数時間の範囲である。
【0012】
精製は通常の糖の精製に用いる方法で行う。例えば、シリカゲルによる薄層クロマトグラフィーまたはカラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例により何等の制限をうけるものではない。
【0014】
[実施例1]
パーベンジルラフィノース誘導体 ( 61.5 mg, 4.1 x 10-2 mmol)をジオキサン(3.0 mL)に溶解し、75%(v/v)硫酸水溶液(0.3 mL)を加えて、室温で60 分攪拌した後に、飽和の重曹水と酢酸エチルを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=4:1〜2:1)で単離して、1,3,4,6-テトラ-O-ベンジル−D-フルクトフラノース( 20.2 mg, 収率 91 %) {13C-NMR(150 MHz,CDCl3) C-2β体δ 70.59, 71.89, 72.06, 72.65, 73.48, 73.56, 79.92, 83.40, 83.64, 102.42;C-2α体 δ 70.05, 70.92, 71.82, 72.85, 73.24, 73.76, 81.74, 82.71, 86.33, 105.32}及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース( 34.0 mg, 収率 85 %) {13C-NMR(150 MHz,CDCl3) C-1α体δ 67.59, 69.21, 69.49, 69.50, 70.69, 72.53, 72.95, 73.13, 73.36, 74.68, 74.97, 75.59, 76.66, 77.99, 78.43, 80.30, 81.75, 90.97, 98.36; C-1β体δ 67.78, 69.24, 72.92, 73.09, 73.48, 74.34, 74.65, 74.79, 74.86, 75.10, 75.35, 76.63, 77.84, 78.67, 77.88, 83.47, 84.47, 97.16, 98.26}をオイルとして得た。
【0015】
[実施例2]
パーベンジルラクトスクロース誘導体 (109.9mg, 7.4 x 10-2 mmol)をジオキサン(3 mL)に溶解し、75%(v/v)硫酸水溶液(0.3 mL)を加えて、室温で60分攪拌した後に、飽和の重曹水と酢酸エチルを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1〜3:1)で単離して、1,3,4,6-テトラ-O-ベンジル−D-フルクトフラノース(35.6 mg, 収率90%){13C-NMR(150 MHz,CDCl3) C-2β体δ 70.59, 71.89, 72.06, 72.65, 73.48, 73.56, 79.92, 83.40, 83.64, 102.42; C-2α体δ 70.05, 70.92, 71.82, 72.85, 73.24, 73.76, 81.74, 82.71, 86.33, 105.32}及び4-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-β-D-ガラクトピラノシル)2,3,6-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース(66.1 mg, 収率92%){13C-NMR(150 MHz,CDCl3) C-1βδ 68.02, 68.12, 68.34, 72.56, 72.57, 73.07, 73.23, 73.59, 74.87, 74.88, 75.11, 76.66, 77.35, 79.94, 82.54, 82.66, 82.82, 97.37, 102.81; C-1α体δ 68.03, 68.21, 72.61, 73.08, 73.09, 73.15, 73.42, 73.65, 73.75, 74.70, 75.23, 75.28, 75.41, 76.40, 79.11, 79.95, 82.45, 91.44, 102.86}をオイルとして得た。
【0016】
[実施例3]
パーベンジルメルジトース誘導体 ( 132.9 mg, 8.9 x 10-2 mmol)をジオキサン(3 mL)に溶解し、75%(v/v)硫酸水溶液(0.3 mL)を加えて、室温で 6 時間攪拌した後に、飽和の重曹水と酢酸エチルを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で単離して、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル−D-グルコピラノース( 45.3 mg, 収率94 %) {13C-NMR(150 MHz,CDCl3) C-1β体δ 70.59, 71.89, 72.06, 72.65, 73.48, 73.56, 79.92, 83.40, 83.64, 102.42; C-1α体δ 70.05, 70.92, 71.82, 72.85, 73.24, 73.76, 81.74, 82.71, 86.33, 105.32}及び2-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル−D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース( 66.3 mg, 収率77 %) (13C-NMR(150 MHz,CDCl3) C-2α体δ 68.26, 70.28, 70.83, 71.22, 71.73, 71.74, 73.05, 73.39, 73.44, 73.48, 75.00, 75.61, 77.60, 79.56, 79.78, 81.83, 84.43, 97.99, 102.54; C-2β体δ 70.43, 70.48, 70.86, 71.45, 71.46, 72.95, 73.08, 73.68, 74.90, 75.52, 77.36, 79.15, 81.04, 81.92, 82.28, 82.55, 95.02, 105.68)をオイルとして得た。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、三糖以上のパーベンジル化スクロースオリゴ糖のフルクトフラノシル結合の選択的に加水分解による二糖以上のオリゴ糖を含むベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の製造法と3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース及び6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノースである。本発明によって得られるこれら糖誘導体は、糖質化学で重要な糖受容体や糖供与体として利用することができ、新たなスクロースオリゴ糖の製造原料や、医薬や農薬としてオリゴ糖の製造原料、さらには酵素反応における有用な化合物にも利用することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーベンジル化スクロースオリゴ糖のフルクトフラノシル結合の選択的な酸加水分解によるベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の製造法。
【請求項2】
酸加水分解条件として、ジオキサン中で75%(v/v)硫酸水溶液を用いることを特徴とする特許請求項1記載のベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の製造法。
【請求項3】
スクロースオリゴ糖として、ラクトスクロース、ラフィノースまたはメレジトースを用いることを特徴とする特許請求項1または2に記載のベンジル化D−フルクトフラノース誘導体及びベンジル化アルドース誘導体の製造法。
【請求項4】
下式(1)で示される3-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-1,4,6-トリ-O-ベンジル-D-フルクトフラノース。
【化1】

(Bnはベンジル基を示す。)
【請求項5】
下式(2)で示される6-O-(2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-ガラクトピラノシル)-2,3,4-トリ-O-ベンジル-D-グルコピラノース。
【化2】

(Bnはベンジル基を示す。)

【公開番号】特開2008−222616(P2008−222616A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61100(P2007−61100)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】