説明

パーマネントカソードの歪修正装置

【課題】 パーマネントカソードの歪を、表面の平滑性を損なうことなく、短時間で効率よく修正することができる歪修正装置を提供する。
【解決手段】 固定壁2aの上部に設けたハンガー部2b、2bにカソードビーム1aを懸架して、歪の凸部が表面側になるようにパーマネントカソード1を懸垂する懸垂手段2と、そのパーマネントカソード1に歪の凸部側から静荷重を加える押込手段3と、押込手段3の先端部に設けた棒状の押当部材4と、固定壁2aの少なくとも2箇所に取り付けたパーマネントカソード1を受け止める棒状の受止部材5、5と、パーマネントカソード1の裏面側に設置したパーマネントカソード1との距離測定装置6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属を電解精製もしくは電解採取する工程において、パーマネントカソードに発生した歪を修正する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅などの非鉄金属を電解精製又は電解採取する工程においては、乾式製錬によって製造した粗金属アノードとカソードとの間に電解液を介して電流を流すことにより、カソード側に目的金属を電着させる。その際、電解液に対して不溶性のステンレスやチタンなどからなるカソードを使用し、目的金属をカソードから剥ぎ取ると共に、目的金属を剥ぎ取ったカソードを再利用するパーマネントカソード方式と呼ばれる電解精製又は電解採取が広く行なわれている。
【0003】
例えば、パーマネントカソード方式の銅の電解精製では、カソード及びカソードとほぼ同サイズで厚さが40mm程度の粗銅からなるアノードを、面間の距離が20〜25mm程度になるように対面させて、1つの電解槽にそれぞれ数十枚づつ装入する。この電解槽に硫酸酸性溶液の電解液を満たし、カソード表面積1平方メートル当たり300A程度の電流を流してカソード表面に銅を電析させ、数日程度通電した後に電解槽からカソードを引き上げ、カソードから剥ぎ取った電気銅を製品とする。
【0004】
このようにパーマネントカソード方式は、ステンレスやチタンなどからなるパーマネントカソードを使用し、電着した目的金属を剥ぎ取ったパーマネントカソードを繰り返し使用することができるので、省力化しやすく、生産効率が向上するという特徴を有している。
【0005】
尚、一般的な電気銅製造に用いるパーマネントカソードは、横1070mm×縦1050mm程度のサイズの電極部分を持つ厚さ3mm程度のステンレスやチタンの材質で作られることが多い。また、パーマネントカソードの電極部分の上端部には、電解槽に懸架するためのカソードビームが電極板を両側から挟み込むように取り付けられている。
【0006】
ところで、銅などの非鉄金属の電解精製においては、カソードの垂直性を維持することが重要である。垂直性が良好なカソードを電解槽内に懸垂すると、隣接して懸垂されたアノードとの距離のバラツキが少なくなり、アノードとカソード間の平均的な距離、即ち極間距離を小さくした操業が可能となるため、単位面積当たりの生産性が向上する。また、電流密度を高くしてもカソードとアノードの間の電流短絡が起こり難いため、電流ロスを低減することができ、単位時間当たりの生産量を増やすことができる。更に、電着する目的金属の表面状態を平滑にすることができるので、品質の良好な電着金属が得られる。
【0007】
上記カソードの垂直性は、カソードの歪、即ちカソードの曲がりや反りの程度を表す数値で評価される。具体的には、カソードを懸垂した際に、垂直な面との距離が最も近い場所と最も遠い場所の差の絶対値で垂直性を表すことができる。例えば、パーマネントカソードでは、未使用で新品のカソードの垂直性はほぼ5mm以内に調整されて納入されている。
【0008】
しかし、電解槽への装入と電解精製、及び電着金属の剥ぎ取りなどを繰り返し実施する間に、外部からの衝撃や剥ぎ取り機構での曲げの力などを受けてパーマネントカソードに歪が生じ、垂直性が悪化することが避けられない。一般的にはパーマネントカソードでは垂直性が13mmを超えるようになると、生じた歪を除去するための修正が必要となる。
【0009】
垂直性が悪化したパーマネントカソードは、工程から払い出されて歪修正工程に移送される。歪修正工程では、その歪の状況に応じて、ハンマーを用いた手作業で叩いて修正したり、全面押しや部分押しのプレス機やレベラーを用いて機械的に変形させたりすることで修正を施している。一般的に、ハンマーによる手作業及びプレス機やレベラー等の機械によりカソード歪を修正する際には、金属製の台の上にカソード面が上下方向を向くようにパーマネントカソードを載せて作業を行なう。
【0010】
このとき、台上に載せたパーマネントカソードには、本来修正すべき歪だけでなく自重によるたわみも発生するため、歪を修正するために力を加えるべき箇所の特定が困難な場合がある。特にパーマネントカソードは厚みが3mm程度であるため、自重による撓みの影響も大きくなる。そのため、撓みが大きいパーマネントカソードの場合には、歪を修正するための力を外したとき、撓みの戻り分だけ歪の修正が不足するなど、正確な歪の修正が難しいという問題があった。
【0011】
また、ハンマーを用いた手作業によって歪の修正を行なう場合には、衝撃的な荷重が加えられることから、パーマネントカソードの表面に凹凸や傷がついてしまうため、表面の平滑性が損なわれることが多い。表面の平滑性が損なわれたパーマネントカソードをそのまま再使用すると、電着金属を剥ぎ取る際にカソードと密着して剥離性が悪化するなどの問題が生じるため好ましくない。
【0012】
パーマネントカソードのような薄い板に生じた歪を修正する方法として、例えば特許文献1に示される方法がある。この方法は、薄い銅製のカソード種板の反りを検出し、プレスの圧加荷重を制御して、変形し易いカソードコーナー部の反りを解消するものである。しかし、パーマネントカソードは上述するように厚さが3mm程度あるため、部分的な圧加だけで歪を解消することは容易でない。また、操業に伴って生じた歪は必ずしも一定の場所で生じるものではないことから、この方法をそのままパーマネントカソードに適用することは難しい。
【0013】
また、特許文献2には、カソードの歪の修正を容易に行なえる装置が示されている。この装置を用いてカソードの歪を修正する場合、カソードを装置に載せる前に別の測定台に載せ、カソードの縦横方法の位置における測定台とカソードの距離を測定し、距離の大小からカソードの歪の傾向を検出する。その後、カソードをホイストクレーン等で懸垂し、修正が必要な歪の凸部側から油圧シリンダなどの押し込み力のある装置で押すことにより歪を矯正する。
【0014】
しかしながら、上記特許文献2に記載された方法は、パーマネントカソードの表面の一点だけを押し込む「点押し修正」であるため、適切な歪の修正が難しく多大な時間を要するという問題があった。また、修正操作の前に別の測定台でカソードの歪の傾向を検出する必要があるため、操作が煩雑で作業時間が長くなるという問題があった。更に、何回も点押し修正を繰り返すと、同じ場所が部分的に圧延された状態となってパーマネントカソード全体が歪んでしまい、補修できなくなるという欠点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−256387号公報
【特許文献2】特開2010−007106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、煩雑な操作又は作業を必要とせずに、パーマネントカソードの表面の平滑性を損なうことなく、パーマネントカソードに発生した歪を短時間で効率よく且つ適切に修正することができる歪修正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明が提供するパーマネントカソードの歪修正装置は、非鉄金属の電解精製又は電解採取工程での繰り返し使用により発生したパーマネントカソードの歪を修正する装置であって、固定壁の上部に突設したハンガー部にカソードビームを懸架して、歪の凸部が表面側になるように懸垂した状態でパーマネントカソードを支持する懸垂手段と、懸垂状態のパーマネントカソードの表面に対し歪の凸部側から静荷重を加える押込手段と、押込手段の先端部に押込軸に対し直角方向に設けた棒状の押当部材と、押当部材に対向する位置の両側を含む固定壁の少なくとも2箇所に取り付けたパーマネントカソードの裏面を受け止める棒状の受止部材と、パーマネントカソードの裏面側に設置したパーマネントカソードとの距離測定装置とを備えることを特徴とする。
【0018】
上記本発明のパーマネントカソードの歪修正装置は、前記距離測定装置で連続的に測定したパーマネントカソードとの距離に基づいて、その距離の測定値が押込圧力に比例して直線的に変化する領域から外れる変化点を検出する装置を備えることができる。
【0019】
また、上記本発明のパーマネントカソードの歪修正装置においては、前記棒状の押当部材は、パーマネントカソードの電極面の横幅又は縦幅のいずれか長い1辺の0.8〜1.5倍の長さを有し、押込手段の先端部に着脱可能に設けられ且つ押込軸を中心として回転できることが好ましい。
【0020】
上記本発明のパーマネントカソードの歪修正装置において、前記棒状の受止部材は固定壁部に機械的又は磁気的に取り付けられていることが好ましい。また、前記固定壁は前記距離測定装置による測定のための開口部を有すること、並びに、前記固定壁は多数の開口を有するパンチング構造であることが好ましい。更に、前記押込手段は、懸垂した状態のパーマネントカソードの表面に対し並行に、縦方向及び/又は横方向に移動できる構造を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、繰り返し使用により発生したパーマネントカソードの歪を、パーマネントカソードの表面の平滑性を損なうことなく、煩雑な操作を必要とせずに、短時間で効率よく且つ適切に修正することができる。特にパーマネントカソードに局部的に力をかけることがないため、カソード表面の傷付きをなくし且つカソード中心部の塑性変形を防ぐことができ、カソード寿命の延長が期待できる。また、同じ装置で歪修正の程度を測定できるため、作業時間を短縮することができるうえ、的確な歪修正が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるパーマネントカソードの歪修正装置の一具体例を示す概略の正面図である。
【図2】本発明によるパーマネントカソードの歪修正装置の一具体例を示す概略の側面図である
【図3】本発明の歪修正装置により歪修正したパーマネントカソードの修正前後における歪ヒストグラムである。
【図4】本発明の歪修正装置により塑性変形後のパーマネントカソードを歪修正した前後における歪ヒストグラムである。
【図5】特許文献2の従来方法により歪修正したパーマネントカソードの修正前後における歪ヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のパーマネントカソードの歪修正装置は、例えば図1及び図2にの一具体例を示すように、固定壁2aの上部に突設した2個のハンガー部2b、2bにパーマネントカソード1のカソードビーム1aを懸架する懸垂手段2と、懸垂状態のパーマネントカソード1の表面に対し歪の凸部側から静荷重を加える押込手段3と、押込手段3の先端部に押込軸に対し直角方向に設けた棒状の押当部材4と、押当部材4に対向する位置の両側でパーマネントカソード1の裏面を受け止める棒状の受止部材5、5と、パーマネントカソード1との距離を裏面側から測定する距離測定装置6とを備えている。
【0024】
上記懸垂手段2の固定壁2aはほぼ鉛直に設置され、複数の支柱7などで補強されていることが望ましい。また、固定壁2aの上部には、パーマネントカソード1を電解槽に懸架するためのカソードビーム1aを懸架するハンガー部2b、2bが2個突設してある。このハンガー部2b、2bにホイストクレーンなどで吊り上げたパーマネントカソード1のカソードビーム1aを懸架することによって、歪の凸部が表面側になるようにパーマネントカソード1を懸垂した状態で保持することができる。
【0025】
上記懸垂手段2によって歪の凸部が表面側になるようにパーマネントカソード1を懸垂状態で保持した後、そのパーマネントカソード1の表面に対して、歪の凸部側から押込手段3で静荷重を加えることにより歪の修正を行なう。具体的には、懸垂手段2に懸垂状態で保持したパーマネントカソード1の表面の歪が最も大きな箇所、即ち表面側に突き出た歪の凸部に対し、油圧シリンダなどの押込手段3に取り付けた棒状の押当部材4によって静荷重を加えることにより、パーマネントカソード1の歪を修正することができる。
【0026】
このように本発明の歪修正装置では、パーマネントカソード1をホイストクレーンなどで吊り上げた状態で懸垂するのではなく、カソードビーム1aを2個のハンガー部2b、2bに懸架することでパーマネントカソード1を保持しているため、懸垂時のパーマネントカソード1の安定性が増し、歪の修正精度を向上させることができる。尚、懸垂手段2に懸垂した状態のパーマネントカソード1の下部が振れやすい場合には、固定壁2aの下部に押さえ金具などの振れ止め手段を設けてもよい。
【0027】
上記押込手段3の先端部、即ちパーマネントカソード1の表面に当接する部分には、棒状の押当部材4が押込軸に対し直角方向に取り付けてある。この棒状の押当部材4を設けることによって、パーマネントカソード1の横方向ないし縦方向に均一な「線押し修正」を行なうことが可能となる。上述した特許文献2の方法はカソード表面の一点だけを押し込む「点押し修正」であるため歪の修正に多大な時間を要していたが、本発明では「線押し修正」が可能であるため、パーマネントカソード1の歪を効率よく修正することができる。
【0028】
棒状の押当部材4の長さは、「線押し修正」による効率的な歪修正を行なうために、パーマネントカソード1の電極面の横幅又は縦幅のいずれか長い1辺の長さの0.8倍から1.5倍の範囲が好ましく、0.9倍から1.1倍の範囲が更に好ましい。上記押当部材4の長さが0.8倍より短いと、「線押し修正」の効果が十分に得られない。また1.5倍より長くしても、パーマネントカソード1の最大幅となる対角線の長さを超えるため、更なる「線押し修正」の効果は得られないうえ、取り扱いが面倒になるため好ましくない。
【0029】
押当部材4は、パーマネントカソード1の電極面の横幅又は縦幅に応じて交換できるように、押込手段3の先端部に着脱可能に設けることが好ましい。また、押当部材4を押込手段3の押込軸を中心として回転可能な構造とすれば、例えば水平方向から垂直方向の間で回転させることにより、パーマネントカソード1の任意の場所を修正することができる。尚、押当部材4の少なくともカソード表面に直接接する面には、パーマネントカソード1を傷付けないように、柔らかい材質の木材、プラスチック、繊維等を取り付けてもよい。
【0030】
また、棒状の押当部材4で表面側が加圧されるパーマネントカソード1の裏側を受け止めるため、棒状の押当部材4に対向する位置の両側を含む固定壁2aの少なくとも2箇所に、棒状の受止部材5、5が取り付けてある。これら棒状の押当部材4と2個の受止部材5、5によって、パーマネントカソード1にはいわゆる3点曲げ試験と同様の状態で荷重が加えられるため、平坦な状態よりも更に固定壁2a側に押し込まれた状態となるようにパーマネントカソード1を変形させることができる。その結果、押込手段3の加圧を取り去った時にパーマネントカソード1が平坦な状態となりやすく、歪の修正が一層容易になる。
【0031】
棒状の受止部材5は、固定壁2aに設けた穴に引っ掛け又はボルトナットで取り付けるなど機械的に取り付けるか、若しくは受止部材5の一部を磁石で構成して金属製の固定壁2aに吸着させるなど磁気的に取り付けることができる。また、固定壁2aを全面に多数の穴を規則的に開けたいわゆるパンチング構造としておけば、任意の位置に受止部材5を引っ掛けたりボルトナットで取り付けたりできるため便利である。
【0032】
棒状の受止部材5は、棒状の押当部材4と共同して「線押し修正」の効果を高めるため、棒状の押当部材4と同等の長さを有することが好ましいが、分割されていても問題はない。また、パーマネントカソード1への傷付けを防止するために、棒状の押当部材4と同様にパーマネントカソード1の裏面に接する部分に柔らかい材質のプラスチック、木材、繊維等を取り付けてもよい。
【0033】
棒状の押当部材4がパーマネントカソード1の表面を押す位置と、そのパーマネントカソード1の裏面を受け止める2個の棒状の受止部材5、5の設置位置の関係は、例えば実験的に又は実際に修正を繰り返して最適となる位置を選定すればよい。また、パーマネントカソード1の両端部を除いた中央部だけに棒状の押当部材4や棒状の受止部材5、5が当たるように配置し、パーマネントカソード1の両端部に直接荷重がかからないようにすれば、パーマネントカソード1の外周部に配置されているエッジストリップを取り外すことなく、そのまま修正作業をすることができる。
【0034】
更に、本発明のパーマネントカソードの歪修正装置は、パーマネントカソード1の裏面側に、パーマネントカソード1との距離を測定する距離測定装置6を備えている。距離測定装置6を設置することによって、固定壁2aの上部のハンガー部2bで懸垂された状態のパーマネントカソード1との距離を測定し、得られた距離を歪の数値として取り扱うことが可能となる。従って、パーマネントカソード1に発生している歪や、修正途中又は修正後の歪を、従来のように歪修正装置とは別の装置を用いて測定する必要がなくなり、歪修正工程全体を効率化することができる。
【0035】
また、上記距離測定装置6でパーマネントカソード1との距離を連続的に測定すれば、連続的に得られるパーマネントカソード1との距離の変化に基づいて、押込手段3による押込量の目安を知ることができる。例えば、距離測定装置6が連続的に測定した距離を知ることによって、その変化する距離データに基づいて押込手段3による押込圧力を制御し、最適な押込量で押し込むことにより効率的且つ正確な歪の修正が可能となる。
【0036】
特に、上記距離測定装置6と共に、距離測定装置6で連続的に測定したパーマネントカソード1との距離が押込圧力に比例して直線的に変化する領域から外れる変化点を検出する装置を設ければ、パーマネントカソード1の歪が修正された時点を知ることができる。その結果、従来のように歪修正の程度を確認しながら押込操作を繰り返すことなく、パーマネントカソードを確実に塑性変形させて歪を修正することができる。
【0037】
具体的に説明すると、パーマネントカソードの撓みの部分は材料的には弾性領域に相当し、弾性領域では押込長さあるいは押込圧力に比例してパーマネントカソードと距離測定装置との距離が直線的に変化する。一方、歪の部分は材料的には塑性変形領域であり、塑性変形領域ではパーマネントカソードと距離計との間の距離は押込長さあるいは押込圧力に比例しない。従って、パーマネントカソードと距離測定装置との距離が弾性領域での直線状態から外れる変化点を検出することによって歪の修正がなされたと判断することができ、従来のように押込操作を繰り返すことなく、確実に歪を修正することができる。
【0038】
上記距離測定装置6としては、超音波式、接触式、レーザー式など様々な種類のものを用いることができるが、測定精度や耐久性、応答の速さなどの点でレーザー式が最も適している。尚、距離測定装置6の設置位置は、パーマネントカソード1の押し込みの邪魔にならないように固定壁2aの裏側が好ましいが、その場合の固定壁2aにはレーザーや超音波が通過できる開口部を設けるか、若しくは上記パンチング構造の固定壁2aを用いる必要がある。
【0039】
また、パーマネントカソードとの距離を測定する際には、1個の距離測定装置を上下左右に移動させてパーマネントカソード全面を測定しても良いが、効率よく作業を行なうためには、パーマネントカソードに対し上下3点の位置毎に横方向にそれぞれ3個、合計9個の距離測定装置を固定して設置し、同時に変位を測定すれば、測定時間が短縮でき且つ精度も向上するため好ましい。距離測定装置の上下3点の具体的な取付位置については、パーマネントカソードの中央部と1辺の長さの8〜15%程度内側に入った両端部分とに配置するのが好ましい。
【0040】
このように、本発明の歪修正装置を用いることにより、パーマネントカソードの歪が5mm以内となるように修正することができる。また、実質的に静荷重の付加によって歪を修正するため、ハンマー等で打撃して修正する場合に比較して、パーマネントカソードの表面を傷付けたりすることがない。また、プレス機やレベラー等の機械を用いる場合と比較しても、本発明の歪修正装置の機構は簡易であり、設置費用及び設置面積も小さくすることができる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
銅電解工程で繰り返し使用したステンレス製のパーマネントカソード55枚について、図1〜2に示す本発明の歪修正装置を用いて歪の修正を実施した。尚、上記パーマネントカソードは、エッジストリップやカソードビーム及びカソードビームへの接続部分を除く電極部分のサイズが、幅1070mm、縦1050mm、板厚3mmである。また、押込部材及び受止部材は共に長さ1000mmとし、その押込部材と2個の受止部材を原則的に水平方向に配置したが、効果的な修正が得られるように歪の場所や状態に応じ回転させて位置を調整した。
【0042】
本発明の歪修正装置による「線押し修正」の結果、図3に示すように、修正前の歪は平均10.7mmであったが、修正後は歪が全て減少して平均5.2mmの歪となり、大きな修正効果が得られた。また、修正作業は作業者1人で行なったが、パーマネントカソード1枚の修正に要した時間は平均7.6分であった。特に、前記特許文献2に記載の従来の方法では事前の歪の測定にパーマネントカソード1枚につき約2分を要していたが、本発明ではパーマネントカソードを懸垂手段に懸垂すると同時に歪を測定できるので、歪の測定だけのために要する時間は不要となった。
【0043】
次に、前記特許文献2に記載の従来の方法では修正不可と判断されていた14mm程度以上の歪のある塑性変形後のパーマネントカソード33枚(上記と同一寸法)について、本発明の歪修正装置を用いて歪の修正を行った。その結果、図4に示すように、歪を平均5.9mmとなるまで低減することができ、パーマネントカソードを廃棄せずに再利用することができた。
【0044】
[比較例1]
銅電解工程で繰り返し使用した平均10.6mmの歪を持つパーマネントカソード55枚(上記実施例1と同一寸法)について、図1に示す本発明の歪修正装置から押当部材4と距離測定装置6を取り外した装置を使用して、「点押し修正」となる以外は上記実施例1と同様の条件で歪の修正を実施した。
【0045】
その結果、図5に示すように、歪を平均6.4mmまで低減できたが、一方で「点押し修正」であると同時に適正な加圧量ないし押込量が把握できないため、歪のばらつきは修正されず、返って11mm以上と歪が大きくなったパーマネントカソードも発生した。また、修正作業は作業者一人で行なえたが、1枚のパーマネントカソードの修正に要した時間は平均9.6分であった。
【0046】
[比較例2]
銅電解工程で繰り返し使用した平均10.6mmの歪を持つパーマネントカソード55枚(上記実施例1と同一寸法)を、作業者2人がかりで作業台に載せ、ハンマー作業及びプレス作業によって歪の修正を行なった。
【0047】
55枚のパーマネントカソードの全てについて、歪が5mm以下になるまで修正したが、修正作業には2人の作業者が必要であり、しかも1枚のパーマネントカソードの修正に平均28.8分の極めて長い時間が必要であった。
【符号の説明】
【0048】
1 パーマネントカソード
2 懸垂手段
2a 固定壁
2b ハンガー部
3 押込手段
4 押当部材
5 受止部材
6 距離測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属の電解精製又は電解採取工程での繰り返し使用により発生したパーマネントカソードの歪を修正する装置であって、固定壁の上部に突設したハンガー部にカソードビームを懸架して、歪の凸部が表面側になるように懸垂した状態でパーマネントカソードを支持する懸垂手段と、懸垂状態のパーマネントカソードの表面に対し歪の凸部側から静荷重を加える押込手段と、押込手段の先端部に押込軸に対し直角方向に設けた棒状の押当部材と、押当部材に対向する位置の両側を含む固定壁の少なくとも2箇所に取り付けたパーマネントカソードの裏面を受け止める棒状の受止部材と、パーマネントカソードの裏面側に設置したパーマネントカソードとの距離測定装置とを備えることを特徴とするパーマネントカソードの歪修正装置。
【請求項2】
前記距離測定装置で連続的に測定したパーマネントカソードとの距離に基づいて、その距離の測定値が押込圧力に比例して直線的に変化する領域から外れる変化点を検出する装置を備えることを特徴とする、請求項1に記載のパーマネントカソードの歪修正装置。
【請求項3】
前記棒状の押当部材はパーマネントカソードの電極面の横幅又は縦幅のいずれか長い1辺の0.8〜1.5倍の長さを有し、押込手段の先端部に着脱可能に設けられ且つ押込軸を中心として回転できることを特徴とする、請求項1又は2に記載のパーマネントカソードの歪修正装置。
【請求項4】
前記棒状の受止部材は固定壁部に機械的又は磁気的に取り付けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のパーマネントカソードの歪修正装置。
【請求項5】
前記固定壁は前記距離測定装置による測定のための開口部を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のパーマネントカソードの歪修正装置。
【請求項6】
前記固定壁は多数の開口を有するパンチング構造であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のパーマネントカソードの歪修正装置。
【請求項7】
前記押込手段は、懸垂した状態のパーマネントカソードの表面に対し並行に、縦方向及び/又は横方向に移動できる構造を備えていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のパーマネントカソードの歪修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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