説明

ヒアルロン酸ナトリウム及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む粘弾性溶液、調製並びに使用

【課題】ヒアルロン酸ナトリウム及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む粘弾性溶液、調製並びに使用の提供。
【解決手段】本発明は、
− ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の混合物に基づく生体適合性及び粘弾性を有する水溶液であって、
+ 平均分子量1×10g/mol〜3.5×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムの少なくとも1つを1〜2重量%、及び、
+ 平均分子量10,000g/mol〜110,000g/molのヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1つを0.2〜1重量%を含むことを特徴とする溶液;
− 上記溶液の調製;並びに、
− 外科用助剤及び/又は一時的インプラントとしての、及び、含水インプラントとしてのその使用:に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む新規粘弾性溶液に関する。これらは生体適合性の水溶液であり、外科用助剤及び/又は一時的インプラントとして非常に好適である。本発明は更に、外科用助剤及び/又は一時的インプラントとしての、及び、含水インプラント(hydration implant)としての上記溶液の調製及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
あらゆる外科的侵入により、組織損害が引き起こされる。とりわけ、組織が特に弱くかつ/又は組織の取り替えのきかない領域においてはとりわけ、上記の損傷を最小限にするために粘弾性溶液を外科用助剤として使用することが知られている。このような溶液によれば、外科器具から組織が保護され、かつ、上記組織の扱いが容易となる。更に、これらを使用すれば、空間又は間隙が保持されることによって、組織が癒着したり組織により上記空間若しくは間隙が破壊されるのが妨げられる。この種の溶液は、非常に特異的には眼科手術において、更に特異的には白内障の手術において使用される。
【0003】
上記白内障の手術に関して、次の商品が下記のように既に提案されている:
− Alcon Surgical社のViscoat(登録商標)(ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)及びコンドロイチン硫酸を含む);この物質が現在のところ市場をリードしている;
− 現在A.M.O.から市販されているHealon(登録商標)及びHealon GV(登録商標)、現在ボシュロム社から市販されているAmvisc(登録商標)及びAmvisc Plus(登録商標)、現在A.M.O.から市販されているVitrax(登録商標)、及び、本出願人により市販のViscorneal(登録商標)及びBiocorneal(登録商標)(これらはヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)を含む);
− Optical Radiation社のOrcolon(登録商標)(ポリアクリルアミドを含む、現在は市販されていない);並びに、
− Storz社のOccucoat(登録商標)(ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む)。
【0004】
これらの商品はいずれも、長所と短所を有する。Viscoat(登録商標)は、組織、特に角膜内皮への付着及びその保護において非常に有用である。しかし、介入後にこの商品を前室から取り除くのは難しく、また、眼内レンズの挿入の際にはViscoat(登録商標)よりも有用な商品がある。
【0005】
同じ種類の商品も報告されている:
− 特許文献1。詳細には、上記文献は、炭素原子3〜20個を有するアシル基で置換されたヒアルロン酸、ヒアルロン酸(HA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)又はこれらの化合物の混合物からなる粘弾性の分画を含む修飾ムコ多糖の点眼剤について報告している。上記分画はコンドロイチン硫酸を含まない。(低分子量又は高分子量の)HA及び(低分子量又は高分子量の)HPMCの溶液、より詳細には、この種の溶液で、HPMCを2重量%及びHAを1重量%含むものが報告されている。これらの溶液は、実験室規模で調製され、試験されている;
− 特許文献2。詳細には、上記文献は、pH及びオスモル濃度が制御された水性媒体中に粘性又は粘弾性の物質を含む溶液について報告している。上記物質は、ヒアルロン酸又はその塩の1つ、及び、ヒアルロン酸又はその塩の1つと修飾セルロース又は修飾コラーゲンとの混合物から選択することができる。ヒアルロン酸又はその塩の1つは0.1〜5%で存在し、分子量0.5×10〜2.5×10を有する;また、修飾セルロース又はコラーゲンも0.1〜5%で存在する。報告されている溶液は正しくは識別されておらず(使用されているであろう修飾コラーゲン又は修飾セルロースの分子量は正確ではなく(本発明者は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの分子量は本発明の溶液の性質(特に光学特性)において重要であるということを実証している(下記の実施例5参照))、実施例3〜6中の関連化合物の真の性質に関しては情報がなく、かつ、上記物質の調製方法及び精製方法に関しても情報がない)、これらは実験規模でしか調製及び試験されていないことは明らかであった。
【0006】
更に、特許文献3は、以下を連続的に使用する外科的方法について報告している:
− 第1の成分(ヒアルロン酸塩)に基づく粘弾性の薬剤、その後、
− 第2の成分を含む超流体灌注液(very fluid irrigating solution)。
上記成分を両方配合した溶液は、上記外科的方法における使用が提案されていない。
【0007】
実施例中で試験された混合物は、自然の状態(眼内)で製造された混合物の典型であり、本発明で言及する溶液ではない(灌注液は粘弾性薬剤の表面特性のみを改変する)。自然の状態で製造された混合物は均一な混合物ではなく、更に、推測では、微小な気泡が粘弾性薬剤/灌注液の界面で発生するのを避けられない。
【0008】
特許文献3の教示は、本発明の主題(成分、濃度及びそれぞれの分子量が特徴的なレディーメイドの溶液(以下参照))を予想させるものでも、これを示唆するものでもない。逆に、客観的には、当業者が上記主題から遠ざかると考えられる。上記教示、すなわち2つの成分の連続使用では、上記成分を両方配合した溶液を(工業的に)調製できないことが示唆される。
【特許文献1】PCT特許出願WO−A−9507085号
【特許文献2】PCT特許出願WO−A−9632929号
【特許文献3】PCT特許WO−A−03059391号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、粘度、弾性、付着性、伸展性及び組織被覆の点で有効であり、かつ、有利な工業的条件下において光学特性の高いものを取得できる、新規粘弾性溶液を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶液は、ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の混合物に基づく生体適合性及び粘弾性を有する水溶液である。これは実際に、所定の平均分子量のヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)の少なくとも1つ、及び、所定の平均分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の少なくとも1つを含む;一般的に、所定の平均分子量のヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)及び所定の平均分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む。
【0011】
典型的には、本発明の生体適合性及び粘弾性を有する水溶液は以下を含む:
− 平均分子量1×10g/mol〜3.5×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムの少なくとも1つを1〜2重量%、有利には1重量%より多く2重量%まで;及び、
− 平均分子量10,000g/mol〜110,000g/molのヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1つを0.2〜1重量%、有利には0.2重量%から1重量%未満。
【0012】
ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)は主にそのレオロジー特性の観点から使用され、一方、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は主にその表面特性の観点から使用される。
【0013】
全く予想外にも、本発明の溶液中において:
− 上記HPMCは、低分子量(≦110,000g/mol)のものを低濃度(≦1重量%、有利には<1重量%)で使用すると、上記表面特性を生じる。上記のような低分子量のHPMCを低濃度で使用すると、本発明の溶液を工業的に容易に得ることができる。ろ過及び物質の光学特性(透明、泡がないこと)の問題は、これらの条件においても十分に処理することができる;
− このようなHPMCによれば、粘度について相乗効果が観察される。これは、空間又は間隙を保持するために上記溶液を使用する場合に特に有用である。実際、物質の粘度が高いほど、間隙を満たすために使用する物質の量は少なくてよい。物質の使用量が少ないほど、介入後に眼内に残留する量も少ないであろう。当業者であれば、眼内に導入した物質を完全に除去しないと本質的に危険であること、特に眼圧が上昇する危険があることを当然承知している。
【0014】
上記の有利な変形形態は、それぞれ独立したものとしても考慮できるし、有利には、その組み合わせとしても考慮できる。
【0015】
本発明の組成物の有用な特性を下記実施例中に示す。
【0016】
好ましくは、本発明の粘弾性水溶液は以下を含む:
− 平均分子量1.6×10g/mol〜3×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムの少なくとも1つを1.2〜1.8重量%;及び、
− 平均分子量10,000g/mol〜50,000g/molのヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1つを0.35〜0.8重量%。
【0017】
一般的に、この好ましい変形形態の範囲内において、最も高い分子量は有利には最も低い濃度と関連しており、逆もまた同様である(従って、平均分子量約3×10g/molのNaHAを濃度1.2%で、かつ、平均分子量約1.6×10g/molのNaHAを濃度1.8%で使用するのが有利である)。
【0018】
ここで指摘されるのは、どのような目的にかなうものであれ、本発明の溶液は、平均分子量の異なる(1×10g/mol〜3.5×10g/molである)少なくとも2つのヒアルロン酸ナトリウム、及び/又は、平均分子量の異なる(10,000g/mol〜110,000g/molである)少なくとも2つのヒドロキシプロピルメチルセルロースを含んでいてよいということである。しかし、これらは一般的に、適切な分子量(1×10g/mol〜3.5×10g/mol、有利には1.6×10/mol〜3×10g/mol)のヒアルロン酸ナトリウム1つ、及び、適切な分子量(10,000g/mol〜110,000g/mol、有利には10,000g/mol〜50,000g/mol)のヒドロキシプロピルメチルセルロース1つを含む。
【0019】
有利な変形形態の範囲内において、本発明の溶液は以下を含む:
平均分子量約3×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムを1.2重量%;又は、
平均分子量2×10g/mol〜3×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムの少なくとも1つを1.37重量%;又は、
平均分子量約1.6×10g/mlのヒアルロン酸ナトリウムを1.8重量%。
【0020】
上記の有利な変形形態とは独立して、又は、これと組み合わせて考慮される、別の有利な変形形態の範囲内において、本発明の溶液は、平均分子量約20,000g/molのヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.57重量%含む。
【0021】
本発明の生体適合性溶液は、生理的pH(pH7)に有利に緩衝される。上記のバッファーは有利にはリン酸バッファーである。
【0022】
下記方法は本発明の溶液の調製にとって好ましい:
− 適切な分子量の精製ヒアルロン酸ナトリウムを調製する;
− 適切な分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロースの、適切な精製溶液(濃度が適切である)を調製する;
− 上記精製ヒアルロン酸ナトリウムの適量(濃度が適切である)を上記溶液中に溶解させる;
− 得られた溶液をホモジナイズする;
− 得られた溶液からろ過によって凝集物を完全に除去する。
【0023】
この方法は、本発明の第2の主題を構成する。
【0024】
ヒアルロン酸ナトリウム(適切な平均分子量1×10g/mol〜3.5×10g/molを有する、又は、少なくとも2つの適切な平均分子量1×10g/mol〜3.5×10g/molを有する)は一般的に繊維状であり、一方、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(適切な平均分子量10,000g/mol〜110,000g/molを有する、又は、少なくとも2つの適切な平均分子量10,000g/mol〜110,000g/molを有する)は一般的に粉末状である。
【0025】
精製は、本発明の方法の範囲内において独立して実施される。目的の物質の性質に特に好適な、上記精製を実施するための有利な変形形態を、以下に示す。
【0026】
混合物のろ過工程は、少なくとも1枚の5μmフィルタ上で有利に実施される。
【0027】
いずれにしても、このろ過工程は、溶液中のヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度の低さ及び分子量の小ささを考慮して、合理的な条件下及び合理的な時間内で実施され得る。
【0028】
精製ヒアルロン酸ナトリウムを得るためには、この物質を含む溶液の粘度が高いために、精製を上流で実施することが推奨される。有利には、下記方法が推奨される。
【0029】
NaHA(適切な分子量)の繊維を低濃度で溶解させる。得られた希薄溶液を、フィルタの目を次第に細かくしてろ過する。とりわけ、フィルタの目を5μm、1μm、0.22μmと連続的に細かくしてろ過することが推奨される。
【0030】
その後、精製された溶液を処理して、精製NaHAを沈殿させる。この沈殿はアルコール中で実施されることが一般的である。精製されたNaHAの繊維は、乾燥させた後に回収する。当業者であれば、このヒアルロン酸ナトリウム精製方法に精通している。
【0031】
この種の方法は、ヒアルロン酸ナトリウムとは溶解特性の異なるヒドロキシプロピルメチルセルロースに適用するのは難しい。沈殿には加熱が必要であり、加熱すると、工業的環境においては、エンドトキシンの発生源である細菌の増殖が引き起こされる場合があるからである。
【0032】
更に、この精製方法によっては乳光現象は解決されない。
【0033】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの精製溶液(前駆溶液)の調製について、本発明が推奨する方法はろ過である。出発原料を溶解させ、得られた溶液をホモジナイズした後、ろ過する。これを、フィルタの目を次第に細かくして連続的にろ過する。ここで指摘されるのは、このような溶液はろ過が難しく、非常に明白なことには、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度によってより難しくなるということである。
【0034】
フィルタの目を5μm、1μm、0.22μmと連続的に細かくしてろ過することが推奨される。
【0035】
従って、特に有利には、本発明の溶液は以下のように得られる:
− 最初に出発原料NaHA(繊維)を精製する(その希薄溶液を5μm、1μm、0.22μmのフィルタ上で順にろ過することによる);
− 出発原料HPMC(粉末)を適切な水溶液中に溶解させる(この溶液を、5μm、1μm、0.22μmのフィルタで順にろ過する);
− 適量の精製NaHAをろ液中に添加し、これをホモジナイズする;
− 最後に、ホモジナイズした溶液を5μmのフィルタ上でろ過する。
【0036】
本発明の溶液を調製するためのこの方法を実施して、特に下記実施例の溶液を調製した。
【0037】
更に、得られた溶液の性質は、上記溶液を脱気することによって有利に改善される場合がある。上記脱気は、得られる粘弾性溶液が含み得る小気泡を除去することを目的とする。
【0038】
得られた溶液をその後、通常は梱包し、続いて殺菌する。梱包は一般的にシリンジ内になされる。
【0039】
ここで着目するべきは、殺菌を実施することによって、溶液中のNaHA及びHPMCの分子量がいくらか変化する可能性があるということである。
【0040】
第三の主題によれば、本発明は、外科用助剤及び/又は一時的インプラントとしての、及び、含水インプラントとしての本発明の溶液の使用に関する。
【0041】
外科用助剤及び/又は一時的インプラントについては、本文の導入部に引用されている。本発明の溶液は、この使用の範囲内において特に有用であり、従って、白内障手術の範囲内において特に有用である。このような使用の範囲内において、本発明の溶液は注射され、その機能を発揮し、その後、介入終了後に回収される。
【0042】
上記溶液を使用する時期はこの範囲に限定されない。更に、これらは、含水インプラントとして、例えばメソリフトの範囲内で、非常に好適である。このような含水インプラントは注射され、その機能を発揮し、その注射位置で消滅して代謝される。
【0043】
本発明の溶液は一般的にそのままの状態で使用されるが、その中に少なくとも1つの添加物を配合すること、又は、少なくとも1つの有効成分を配合すること、は除外されない。従って、上述のインプラント(外科用又は含水インプラント)及び/又は助剤は、本発明の溶液からなる、又は、本発明の溶液から本質的になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
ここで、以下の実施例により本発明について例証し、その有用性を明確にする。
【0045】
実施例1、2及び3は、上述の粘度についての相乗効果を示す。試験したゲルの動粘性係数を、CARIMED CSL 500(圧力制御レオメーター、TA Instruments社)で、温度25℃において、円錐平板計測装置(4cm、2°)を使用して測定した。静置時の動粘性係数は、圧力1Paにおいて平衡状態で測定することによって決定される。
【0046】
実施例4は、HPMC溶液のろ過において生じる問題を例証する。
【0047】
実施例5は、使用されるHPMCの濃度及び分子量パラメータが溶液の光学特性にとって重要であることを示す。
【実施例1】
【0048】
3つの水溶液を、以下の成分から調製した:
− 分子量Mw≒2.5×10g/molのNaHA繊維;
− DOW社より市販され、Methocel(商標)の品番E4Mで知られる、分子量Mw≒86×103g/molのHPMC粉末。
【0049】
NaHAを濃度1.28重量%含む第1の溶液は、静置時の粘度が234±10Pa.sであった。
【0050】
HPMCを濃度2重量%(この濃度より低いと溶液の粘度が低くなり、使用した方法では測定できない)含む第2の溶液は、静置時の粘度が4Pa.sであった。
【0051】
第三の溶液、すなわちNaHAを濃度1.28重量%及びHPMCを濃度0.32%含む本発明の溶液は、静置時の粘度が417±12Pa.sであった。その後+183Pa.sの変動が観察され、一方HPMCは通常は粘度にはあまり影響を及ぼさない(上述の4Pa.sは約6倍高い濃度についてのものである)。
【実施例2】
【0052】
3つの水溶液を、以下の成分から同様に調製した:
− 分子量Mw≒3×10g/molのNaHA繊維;
− DOW社より市販され、Methocel(商標)の品番E50で知られる、分子量Mw≒20×10g/molのHPMC粉末。
【0053】
NaHAを濃度1.21重量%含む第1の溶液は、静置時の粘度が213±9Pa.sであった。
【0054】
HPMCを濃度2重量%含む第2の溶液は、静置時の粘度が0.05Pa.sであった。
【0055】
第三の溶液、すなわちNaHAを濃度1.21重量%及びHPMCを濃度0.47重量%含む本発明の溶液は、静置時の粘度が234±8Pa.sであった。この場合に観察された粘度の増大は依然として予想より大きい(相乗的である)が、上記実施例において観察されたものよりは適度である。
【実施例3】
【0056】
3つの水溶液を、以下の成分から同様に調製した:
− 分子量Mw≒2.5×10g/molのNaHA繊維;
− DOW社より市販され、Methocel(商標)の品番E50で知られる、分子量Mw≒20,000g/molのHPMC粉末。
【0057】
NaHAを濃度1.5重量%含む第一の溶液は、静置時の粘度が161±2Pa.sであった。
【0058】
HPMCを濃度2重量%含む第2の溶液は、静置時の粘度が0.05Pa.sであった。
【0059】
第三の溶液、すなわちNaHAを濃度1.5重量%及びHPMCを濃度0.57重量%含む本発明の溶液は、静置時の粘度が185±7Pa.sであった。相乗効果は、この範囲内において依然として観察される。
【実施例4】
【0060】
均一なHPMC溶液は、適量の粉末(DOWより市販されるMethocel(商標))をリン酸バッファー溶液中に溶解させることによって得られる。
【0061】
ホモジナイズは、室温で機械的に撹拌することによって実施される。48時間撹拌した後、最も細かくて0.2μmのフィルタ上で連続的にろ過することによって溶液を精製する。
【0062】
ろ液の量を経時的に測定した。異なる分子量及び/又は異なる濃度のHPMCについて得られた結果を、下記表中に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
上記の図から、HPMCの濃度及び/又はHPMCの分子量が高くなるとろ過が難しくなるということが確認される。本発明の経済的価値は明らかである。
【0065】
着目すべきは、本発明の範囲内において、最終のろ過操作をNaHA及びHPMCの両方を含む溶液について実際に実施されるべきであるということである。
【実施例5】
【0066】
下記を含む本発明の溶液を調製した:
Mw≒3×10g/molのNaHAを1.2重量%;及び、
Mw≒110,000g/molのHPMCを1重量%。
【0067】
この溶液は乳光現象を示し、これは許容範囲内であるが、避けられない。
【0068】
HPMCについて(濃度及び分子量の上限が)限定された本発明の条件下において、得られた物質は最適な性質のものではない。上記物質は眼科における使用を一般的に意図しているということが指摘される。
【0069】
このことは、本発明の溶液が、文献(PCT特許WO−A−9507085及びPCT特許WO−A−9632929)中に報告される従来技術の、一般的に高濃度のHPMCを含みかつ分子量が大きい可能性のあるもの(実験室規模でしか調製されていない)と比較して、非常に有用であるということを実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の混合物に基づく生体適合性及び粘弾性を有する水溶液であって、
以下:
− 平均分子量1×10g/mol〜3.5×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムの少なくとも1つを1〜2重量%、有利には1重量%より多く2重量%まで;及び、
− 平均分子量10,000g/mol〜110,000g/molのヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1つを0.2〜1重量%、有利には0.2重量%から1重量%未満:を含む
ことを特徴とする溶液。
【請求項2】
以下:
− 平均分子量1.6×10g/mol〜3×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムの少なくとも1つを1.2〜1.8重量%;及び、
− 平均分子量10,000g/mol〜50,000g/molのヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1つを0.35〜0.8重量%:を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
適切な分子量のヒアルロン酸ナトリウム、及び、適切な分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶液。
【請求項4】
平均分子量約3×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムを1.2重量%;又は、平均分子量2×10g/mol〜3×10g/molのヒアルロン酸ナトリウムの少なくとも1つを1.37重量%;又は、平均分子量約1.6×10g/mlのヒアルロン酸ナトリウムを1.8重量%含む
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項5】
平均分子量約20,000g/molのヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.57重量%含む
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項6】
生理的pHに緩衝される
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項7】
リン酸バッファーで緩衝される
ことを特徴とする請求項6に記載の溶液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の溶液の調製方法であって、
以下:
− 適切な分子量の精製ヒアルロン酸ナトリウムを調製し;
− 適切な分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロースの、適切な精製溶液を調製し;
− 前記精製ヒアルロン酸ナトリウムの適量を前記精製溶液中に溶解させ;
− 得られた溶液をホモジナイズし;その後、
− 得られた溶液をろ過する:工程を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
精製ヒアルロン酸ナトリウムの調製は、適切な出発原料を低濃度で溶解させ、得られた溶液を、フィルタの目を次第に細かくしてろ過し、その後、溶解した出発原料がこのように精製された沈殿を、ろ過する
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの精製溶液の調製は、フィルタの目を次第に細かくして連続してろ過することを含む
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
外科用助剤及び/又は一時的インプラントであって、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の溶液、又は、請求項8〜10のいずれか1項に記載のように調製された溶液からなる、又は、この溶液から本質的になる
ことを特徴とする外科用助剤及び/又は一時的インプラント。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の溶液、又は、請求項8〜10のいずれか1項に記載のように調製された溶液からなる、又は、この溶液から本質的になる
ことを特徴とする含水インプラント。

【公表番号】特表2008−521464(P2008−521464A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542074(P2007−542074)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050996
【国際公開番号】WO2006/059029
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(505377267)
【Fターム(参考)】