説明

ヒトグリオームを阻害するための、ラミニン−8発現のアンチセンス阻害

【課題】特定のRNA配列を結合し、かつこれを不活化するアンチセンスオリゴヌクレオチドを提供すること。
【解決手段】遺伝子アレイ技術を用いて、脳グリオームを有する患者についてのよくない予後に関連する、α4鎖を含むラミニン−8の増加を観察した。ラミニン−8の鎖に対して非常に特異的でかつ安定なアンチセンスオリゴヌクレオチド(MorpholinoTM)の新規の生成によりラミニン−8の発現を阻害することで、グリオームの拡延が遅延または停止し得ることが立証された。これは、ヒトの正常な脳の微小血管内皮細胞(HBMVEC)と共培養されるヒト多形グリア芽細胞腫細胞株M059KおよびU−87MGを用いて、インビトロのモデルにおいて示された。Westernブロット分析および免疫組織化学を用いて、アンチセンス処理が効果的にラミニン−8タンパク質合成を遮断することが確かめられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年9月12日に出願された米国仮特許出願60/502,729に基づき、これから優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
(イントロダクション)
神経膠性腫瘍は、小児の癌死亡の主要な原因である[非特許文献1]。概して、神経膠性腫瘍は、すべての癌の1.4%を占め、そしてすべての癌死亡の2.4%を占める。低悪性度星状細胞腫患者または希突起神経膠腫患者の平均的な生存期間は、6年〜8年である。この生存期間は、未分化星状細胞腫を有する患者に関しては、3年に減少し、そして多形性膠芽腫(GBM)については、12カ月〜18ヶ月に落ちる。現在、これらの腫瘍は、外科手術による除去、放射線療法、化学療法またはこれらの治療法の組み合わせにより処置される。大多数のGBMは、非常に浸潤性であり、そして原発部位(primary site)において急速に再発を進展させる。治療に対する腫瘍の予後および応答は、同一の組織学的な診断をした場合でさえ、大幅に異なり得る[非特許文献2]。神経膠細胞性腫瘍についての、予後の改善、処置に対する応答の予測、および新規の有効な治療上のアプローチの開発は、異なるグリオームの発現およびこれらの後の再発に関与する、種々のグリオームおよびその後の再発を伴う新規の特異的マーカーの診療(clinical practice)への導入に大きく依存し得るということが一般的に認識されている。
【0003】
多くのグリオームマーカー(例えば、グリア線維酸性タンパク質、ビメンチン、シナプトフィジンおよびネスチン)を確立し、そして特徴付けるための試みが行われている。しかし、グリオームにおけるこれらのマーカーの特異な発現の決定(イムノフェノタイピング(immunophenotyping))は、現存する治療上のアプローチ、処置の成功率、または疾患の転帰の予測を変化させなかった[非特許文献2,非特許文献3]。次に、研究者は、強力な遺伝子アレイ技術を用いて、新規のグリオームマーカーを同定しようとした[非特許文献4〜7]。最近、本発明者らのグループは、神経膠細胞性腫瘍の新規の分子マーカー、ラミニン−8(これは、良性腫瘍および正常な脳組織と比較して、悪性腫瘍において差次的に発現された)を記述した[非特許文献5]。
【0004】
すべてのラミニンは、共有結合された3種の鎖、α、β、γからなる。最近、別個の基底膜(BM)に存在するこのファミリーの15のメンバー(イソ型)が記載されている[非特許文献8〜10]。ラミニンは、種々のレセプターを介して、細胞と相互作用する。これらのレセプターのほとんどは、インテグリンのヘテロダイマーのファミリーに属するが、他の分子(ジストログリカン複合体およびLutheran血液型糖タンパク質)もまた、ラミニンに結合することが示されている。異なる細胞の類型において、インテグリンαβ、αβ、αβ、αβ、αβ、αβが、ラミニンに結合する能力を有することが報告されている。特定のラミニンのイソ型は、これらの別個のインテグリンのいくつかを結合するが、すべてを結合するわけではなく、そして各インテグリンは、1種より多くのラミニンのイソ型に結合し得る[非特許文献10,非特許文献11]。
【0005】
IV型コラーゲン、ニドジェンおよびパールカンに加えて、ラミニンファミリーの糖タンパク質は、脳微小血管BMの主要な構成物である[非特許文献8,非特許文献12,非特許文献13]。これらのBMは、複雑な構造を有し、そして内皮細胞およびグリア細胞の両方により生み出される[非特許文献13]。内皮細胞は、α4鎖およびα5鎖を含むラミニンがこれらのBMに寄与し、その一方で、グリア細胞は、α1鎖およびα2鎖を含むラミニンを合成する[非特許文献13]。ヒトの脳の毛細血管BMにおいて、本発明者らは、最近、α4鎖を含むラミニン−9の弱い発現を観察した。興味深いことに、ヒトのグリオームの進行の間に、α4鎖を含む毛細血管BMラミニンの発現が、優勢のラミニン−9(α4β2γ1)からラミニン−8(α4β1γ1)へとスイッチする[非特許文献5]。ラミニン−8およびそのレセプター、インテグリンαβおよびαβは、内皮細胞BMが機能するのに重要であると考えられ、この内皮細胞BMは、血液脳関門の維持に役割を果たす[非特許文献14,非特許文献15]。最近、ラミニンα4鎖と新脈管形成との関連が、インビボおよびインビトロで証明された[非特許文献16]。いくつかの培養されたグリオーム細胞株はまた、α4を含むラミニンを産生し得る。ラミニン−8は、発生の期間、創傷の治癒の期間、および新脈管形成の期間に、細胞移動(cell migration)に役割を果たすと考えられている[非特許文献8,非特許文献10,非特許文献14]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】American Cancer Society:Brain and Spinal Cord Tumors in Adults(2003).
【非特許文献2】Shapiro WR,Shapiro JR.Biology and treatment of malignant glioma.Oncology,12:233−240,1998.
【非特許文献3】Kaye AH,Laws ER.(編).Brain Tumors,pp.990.Churchill Livingstone,1997.
【非特許文献4】Ljubimova JY,Khazenzon NM,Chen Z,Neyman YI,Turner L,Riedinger MS,Black KL.Gene array analysis of differentially expressed genes in human glial tumors.Int J Oncol,18:287−295,2001.
【非特許文献5】Ljubimova JY,Lakhter AJ,Loksh A,Yong WH,Riedinger MS,Miner JH,Sorokin ML,Ljubimov AV,Black KL.Overexpression of α4 chain−containing laminins in human glial tumors identified by gene microarray analysis.Cancer Res,61:5601−5610,2001.
【非特許文献6】Sehgal A.Molecular changes during the genesis of human gliomas.Seminars Surg Oncol,14:3−12,1998.
【非特許文献7】Lal A,Lash AE,Altschul SF,Velculescu V,Zhang L,McLendon RE,Marra MA,Prange C,Morin PJ,Polyak K,Papadopoulos N,Vogelstein B,Kinzler KW,Strausberg RL,Riggins GJ.A public database for gene expression in human cancers.Cancer Res,59:5403−5407,1999.
【非特許文献8】Miner JH,Patton BL,Lentz SI,Gilbert DJ,Snider WD,Jenkins NA,Copeland NG,Sanes JR.The laminin alpha chains:expression,developmental transitions,and chromosomal locations of α1−5,identification of heterotrimeric laminins 8−11,and cloning of a novel α3 isoform.J Cell Biol,137:685−701,1997.
【非特許文献9】Colognato H,Yurchenco PD.Form and function:The laminin family of heterotrimers.Dev Dyn,218:213−234,2000.
【非特許文献10】Patarroyo M,Tryggvason K,Virtanen I.Laminin isoforms in tumor invasion,angiogenesis and metastasis.Semin Cancer Biol,12;197−207,2002.
【非特許文献11】Belkin AM,Stepp MA.Integrins as receptors for laminins.Microsc Res Tech,51:280−301,2000.
【非特許文献12】Kulla A,Liigant A,Piirsoo A,Rippin G,Asser T.Tenascin expression patterns and cells of monocyte lineage:relationship in human gliomas.Mod Pathol,13:56−67,2000.
【非特許文献13】Sixt M,Engelhardt B,Pausch F,Hallmann R,Wender O,Sorokin LM.Endothelial cell laminin isoforms,laminin 8 and 10,play decisive roles in T cell recruitment across the blood−brain barrier in experimental autoimmune encephalomyelitis.J Cell Biol,153:933−946,2001.
【非特許文献14】Thyboll J,Kortesmaa J,Cao R,Soininen R,Wang L,Iivanainen A,Sorokin L,Risling M,Cao Y,Tryggvason K.Deletion of the laminin α4 chain leads to impaired microvessel maturation.Mol Cell Biol,22:1194−1202,2002.
【非特許文献15】Fujiwara H,Kikkawa Y,Sanzen N,Sekiguchi K.Purification and characterization of human laminin−8.Laminin−8 stimulates cell adhesion and migration through α3β1 and α6β1 integrins.J Biol Chem,276:17550−17558,2001.
【非特許文献16】Gonzalez AM,Gonzalez M,Herron GS,Nagavarapu U,Hopkinson SB,Tsuruta D,Jones JC.Complex interactions between the laminin α4 subunit and integrins regulate endothelial cell behavior in vitro and angiogenesis in vivo.Proc Natl Acad Sci USA,99:16075−16080,2002.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の詳細な説明)
ラミニン−8は、インビボでのGBMの再発に関連するので、本発明者らは、ラミニン−8が腫瘍の浸潤に役割を果たし得ると仮説を立てた。インビボでの実験が複雑であるために、本発明者らは、まず、脳の微小血管内皮細胞の、単一培養物および共培養物、正常な胎児の脳の星状細胞ならびにいくつかのGBMを用いて、この可能性をインビトロで調査した。本発明者らは、細胞培養物におけるラミニン鎖発現のパターンが、正常な脳およびグリオームに見られるものと類似するか否か、ならびにアンチセンスアプローチによるラミニン−8の発現の阻害が、再構成されたBM(Matrigel)を介して、グリオームの浸潤に変調をきたすかを分析する。
【0008】
特定のRNA配列を結合し、かつこれを不活化するアンチセンスオリゴヌクレオチド(オリゴ)は、遺伝子の機能、遺伝子の発現の調節、および遺伝子産物間の相互作用を研究するための最良のツールであり得る。RNA産生に関して、相補的RNAに結合し、そしてタンパク質の翻訳を妨害するための、DNAテンプレートに擬した非常に特異的なアンチセンスオリゴが使用される[17,18]。アンチセンスオリゴは、薬物の開発に関して、治療上の新規の標的を試験するための、最速で、最も単純でかつ最も費用効果の優れたツールである。このアンチセンスアプローチが、本研究において使用され、細胞培養物におけるラミニン−8の発現を阻害した。
【0009】
発明者らの結果は、正常に培養された星状細胞および内皮細胞が、正常な脳組織において見られるように、ラミニン−9を主として発現する。グリオーム細胞は、ラミニン−8を優勢に発現し、インビボの状況においても同様に発現する。最も重要なことには、ラミニン−8鎖の発現のアンチセンス遮断により、Matrigelを介したグリオームの浸潤が阻害された。これらのデータは、ラミニン−8が、グリオームの浸潤のために重要であり、そして抗腫瘍治療にとって有効な標的であることを示す。つまり、ラミニン−8鎖の発現の違いは、単に悪性の細胞の指標であるだけでなく、悪性腫瘍の浸潤に事実上関連している。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒトグリオームの浸潤を減少するための方法であって、該方法は、該グリオームによるラミニン−8の発現を阻害する組成物と該グリオームとを接触させる工程を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、ここで、ラミニン−8発現が、ラミニンα4鎖の発現を阻害することにより阻害される、方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、ここで、ラミニン−8発現が、ラミニンβ1鎖の発現を阻害することにより阻害される、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、ここで、ラミニン−8発現が、ラミニンα4鎖およびラミニンβ1鎖の両方の発現を阻害することにより、阻害される、方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、ここで、前記組成物が、アンチセンスポリヌクレオチド、モノクローナル抗体および小さな干渉RNAからなる群より選択される組成物を含む、方法。
(項目6)
項目5に記載の方法であって、ここで、前記ポリヌクレオチドが、モルホリノポリヌクレオチドである、方法。
(項目7)
項目5に記載の方法であって、ここで、前記アンチセンスポリヌクレオチドが、ラミニンα4鎖のアンチセンスを含む、方法。
(項目8)
項目7に記載の方法であって、ここで、前記ラミニンα4鎖のアンチセンスが、5’〜3’配列AGCTCAAAGCCATTTCTCCGCTGACを含む、方法。
(項目9)
項目5に記載の方法であって、ここで、前記アンチセンスポリヌクレオチドが、ラミニンβ1鎖のアンチセンスを含む、方法。
(項目10)
項目9に記載の方法であって、ここで、前記ラミニンβ1鎖のアンチセンスが、5’〜3’配列CTAGCAACTGGAGAAGCCCCATGCCを含む、方法。
(項目11)
項目5に記載の方法であって、ここで、前記アンチセンスポリヌクレオチドが、ラミニンα4鎖のアンチセンスおよびラミニンβ1鎖のアンチセンスの両方を含む、方法。
(項目12)
項目11に記載の方法であって、ここで、前記アンチセンスポリヌクレオチドが、5’〜3’配列CTAGCAACTGGAGAAGCCCCATGCCおよび5’〜3’配列AGCTCAAAGCCATTTCTCCGCTGACを含むポリヌクレオチドを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、種々の培養および共培養によるAc−LDLの取り込みを示し;内皮細胞(HBMVEC)は、ポジティブ(緑色蛍光)であるが、グリオーム細胞(M59K)および正常な星状細胞(HAST 040)は、ネガティブであり;共培養(HBMVEC+M059K、およびHBMVEC+HAST040)においては、内皮細胞は、ポジティブであるが、他の細胞は、ネガティブである(DAPIを、細胞核を染色するために使用した(青色蛍光))。
【図2A】図2は、細胞および調整された培地の純粋な培養物の中でのラミニンのα4鎖、β1鎖、およびβ2鎖の発現を示す:図2A 細胞内のラミニン鎖の免疫局在決定(ここで、正常な脳の内皮(HBMVEC)は、α4鎖およびβ2鎖(ラミニン−9、α4β2γ1と一致)を発現し、その一方で、星状細胞(HAST 040)は、これらのラミニン鎖を発現しない;しかし、M059Kグリオーム細胞は、ラミニン−8(α4β1γ1)と一致するα4鎖およびβ1鎖を発現する)。間接免疫染色法。
【図2B】図2は、細胞および調整された培地の純粋な培養物の中でのラミニンのα4鎖、β1鎖、およびβ2鎖の発現を示す:図2B 調整された培地のWesternブロット分析は、内皮細胞(HBMVEC)が、ラミニン−9の鎖(α4およびβ2)を分泌し、星状細胞(HAST 040)が、まったく無し〜ごくわずかの量の、任意の研究された鎖の分泌を示し、そしてM059Kグリオーム細胞が、ラミニン−8の鎖(α4およびβ1)を分泌する(T98G、ラミニン−8の鎖(α4およびβ1)のみを発現するT98Gグリオーム細胞の溶解産物を、ポジティブのコントロールとして使用した;等量の調整された培地タンパク質を、各レーンにアプライした。免疫染色の結果(図2A)とWesternブロッティングの結果(図2B)との完全な一致に注目すること)ことを示す。
【図3】図3は、共培養物のラミニンα4鎖、β1鎖、およびβ2鎖の染色を示す;生きた共培養物を、Ac−LDL(緑色、内皮細胞を明らかにする)に曝し、次いで、固定し、そして選択したラミニン鎖(赤色)および核(DAPI、青色)に対して同時に染色した;内皮−星状細胞共培養物(HBMVEC+HAST040)のα4鎖およびβ2鎖が、Ac−LDLポジティブ内皮細胞においてのみ発現され、Ac−LDLネガティブ星状細胞(矢印)は発現されず;β1鎖は、大部分が存在せず;内皮−グリオーム共培養物(HBMVEC+M059K)において、α4鎖は、両方の細胞の類型により発現され、そしてβ2鎖は、内皮細胞によってのみ発現された;重要なことに、β1鎖は、Ac−LDLネガティブなグリオーム細胞(矢印)により発現されるだけでなく、Ac−LDL−ポジティブな内皮細胞によってもまた発現される。
【図4】図4は、細胞生育可能アッセイを示し;モルホリノセンスオリゴまたはモルホリノアンチセンスオリゴおよび送達因子を用いた処理の後のグリオーム細胞株M059KおよびU−87MGならびに正常な内皮細胞株HBMVECの生育可能性は90%よりも高く;いかなる処置をしても、対応する未処理のコントロールの培養物から、有意な差異が、検出されなかった(処理なしの場合の細胞生育性を100%とみなし、細胞数を、MTSアッセイを用いて決定した)ことを示す。
【図5】図5は、アンチセンス処理した共培養物のラミニンのα4およびβ1の間接免疫蛍光染色を示し;ラミニンのα4鎖およびβ1鎖のセンスオリゴで5日間処理した、M059KまたはU−87MGとHBMVECとの共培養物、ならびにラミニン鎖の発現パターンは、未処理の培養物と類似している(上列、図3を参照のこと)一方で、ラミニンα4鎖(アンチセンスα4鎖)またはラミニンβ1鎖(アンチセンスβ1鎖)のいずれかアンチセンスオリゴを用いた処理は、α4鎖およびβ1鎖の両方の発現を部分的に阻害した(中列);最終的に、両鎖についてのアンチセンスオリゴ(アンチセンスα4+β1)を用いた処理は、染色を台無しにする(下列)。
【図6】図6は、共培養されたM059K細胞およびHBMVEC細胞の調整された培地中での、ラミニン−8のα4鎖およびβ1鎖のWesternブロット分析を示し、ここで、モルホリノセンスオリゴおよびモルホリノアンチセンスオリゴを用いたインキュベーションは、3日間または6日間であった。図6A 第3日および第6日の、ラミニンα4鎖に対応する200−kDaのバンドであり、免疫反応性のα4ラミニンの量は、アンチセンスオリゴ(α4もしくはβ1のいずれか、または、特にα4+β1)により減少した。図6B 第3日および第6日の、共培養物中のラミニンβ1鎖に対応する230−kDaのバンド、ならびにアンチセンスオリゴの組み合わせ(α4+β1)は、両時点での免疫反応性のβ1鎖のバンドの量を減少させるのに効率的であった。図6Cおよび図6D フィブロネクチンに関して、各膜をα4鎖およびβ1鎖の検出ならびにこれらの再プローブ化から取り去った後の、第6日のフィブロネクチン(240kDaのバンド)のWesternブロット(これらのレーンは、コントロールの目的でローディングする目的で示される)、ヒトのフィブロネクチン(血清ではない)のみがこの抗体により検出された:レーン1、α4鎖+β1鎖についてのセンスオリゴ;レーン2、α4鎖のセンスオリゴ;レーン3、β1鎖のアンチセンスオリゴ;レーン4、α4鎖+β1鎖のアンチセンスオリゴ。
【図7】図7は、アンチセンス処理した培養物において、Matrigelを通って浸潤した細胞の画分の有意な減少を実証する、Matrigel浸潤アッセイを用いたアンチセンス処理後の共培養物中の浸潤の測定を示す(より一層明白な効果は、アンチセンスオリゴの組み合わせを用いて見られる;類似の結果が、M059KおよびU−87MGグリオーム細胞株を用いて得られた;センス処理した培養物における浸潤を100%とみなす場合に、ANOVAにより,p<0.04;**p<0.001)。
【実施例】
【0011】
(グリオーム、星状細胞および脳内皮細胞株の共培養)
2つの型のヒトGBM細胞株(ATCC、Rockville,MDから;M059KおよびU−87MG)、正常なヒトの脳微小血管内皮細胞株(日本のDr.Ken Samotoから取得したHBMVEC)、および正常なヒト胎児の脳の星状細胞HAST 040(Clonexpress,Inc.,Gaithersburg,MDから)を使用した。U−87MG細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、L−グルタミン、炭酸水素ナトリウム、非必須アミノ酸、抗生物質、およびピルビン酸ナトリウムを含有するEagle’s MEM中で培養した。M059K細胞株を、DMEM/F12培地(FCS、サプリメントおよび抗生物質は上記の通り)において維持した。星状細胞を通常通り維持する間に、上記HAST 040細胞株を、5%FCSおよび抗生物質(25μg/mlのゲンタマイシンおよび2.5μg/mlのファンギゾン(fungizone))が補充された50:50 DMEM/F12中で培養した。この培地を、3日ごとに新しい培地と置き換え、最適な増殖を維持した。HBMVECを、10%FCS、10%NU−血清、ピルビン酸ナトリウム、L−グルタミン、非必須アミノ酸、および抗生物質を含有するRPMI 1640培地中で培養した。細胞株を、37℃で維持し、加湿した5%COインキュベーター中で維持し、そして3日〜4日ごとにトリプシン−EDTAで植え継ぎ培養した。細胞株を、4−ウェルチャンバー中で5:1のグリオーム:内皮細胞の比で培養し、そして異なる時点(24時間、第3日、第5日)で検査した。正常なヒト星状細胞HAST 040細胞およびHBMVEC細胞の共培養を、4−ウェルチャンバーにおいて、5:1の同一の比率で培養し、そして異なる時点(24時間、第3日、第5日)で検査した。
【0012】
(グリオーム−内皮共培養のアンチセンス処理)
ラミニンα 鎖およびラミニンβ1鎖についてGene Tools,Inc.(St.Louis,MO)によりカスタムメイドされるMorpholinoTM(ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー)オリゴは、以下:
【0013】
【数1】

の通りであった。
【0014】
会社の推薦に従って、Gene Toolsのプロトコールを使用した。新規のSpecial Delivery Formulationは、Morpholinoオリゴと部分的に相補的なDNAオリゴとの予め対合された二重鎖、および、弱く塩基性の送達試薬、エトキシル化ポリエチレンイミン(EPEI)からなる。モルホリノオリゴは、安定でかつ完全にヌクレアーゼ抵抗性であり、その結果、再送達の必要性がない。グリオーム細胞と正常な脳の内皮細胞との共培養を、選択された時間間隔(3日および6日)で、ラミニン−8(α4鎖およびβ1鎖)のアンチセンスオリゴで、単独でか、または組み合わせて、処理した。送達混合物を作製するために、0.5mMのアンチセンスオリゴ(α4もしくはβ1のラミニン鎖)または0.5mMのセンスオリゴ(ネガティブコントロール)のモルホリノ/DNAストック溶液(Gene Tools)をHOに添加し、そして混合した。200μMのEPEI Special Delivery溶液を添加し、ボルテックスし、そして20分間室温でインキュベートし、完全な送達溶液を生成した。培地を、24時間の共培養物から除去し、そして新鮮な培地中に特定のオリゴを含有する溶液を、細胞に添加し、そしてCOインキュベーターへと設置した。3時間後、送達溶液を吸引し、そして新しい血清含有培地で置き換えた。培地を、2日ごとに交換した。各オリゴを、4つのインキュベーション時点にて評価した;第2日、第4日、第6日、第8日(共培養時間は、それぞれ3日、5日、7日、9日であった)。コントロールの別のセットは、内皮細胞のみまたはグリオーム細胞のみを含んだ。
【0015】
(免疫組織化学)
細胞を、モルホリノを含む培養中またはモルホリノを含まない培養中で培養し、そして選択された時間にて、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.2%のTriton X−100で透過し、そしてラミニン鎖および内皮細胞マーカーについて、免疫染色した。これらのマーカーとしては、von Willebrand因子(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)、CD31(クローンHC1/6、Cymbus Biotechnology/Chemicon International,Temecula,CA、およびクローンJC70A、Dako,Carpinteria,CA)、CD34(クローンQBEnd 10,Dako)、ならびにCD105(クローンP3D1、Chemicon)が挙げられた。Alexa Fluor488−標識アセチル化低密度リポタンパク質(Ac−LDL,Molecular Probes,Eugene,OR)をまた、内皮細胞を同定するために使用した。手短に言えば、細胞を、5μg/mlの標識化Ac−LDLを含有する培地中で24時間インキュベートし、次いで洗浄し、固定し、そして透過した。次いで、細胞を、10ng/mlの4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI,Sigma)で対比染色し、核を視覚化し、そして選択されたラミニン鎖についてさらに免疫染色した。一次モノクローナル抗体(mAb)およびポリクローナル抗体(pAb)を、α4ラミニン鎖(mAb
FC10[19]、およびpAb 377[5])、β1ラミニン鎖(mAb LT3;Upstate Biotechnology,Lake Placid,NY)、ならびにβ2ラミニン鎖(Developmental Studies Hybridoma Bank,Department of Biology,University
of Iowa City,IAより取得したmAb C4)に使用した。
【0016】
(Westernブロット分析)
血清フリーに調整した培地を、同一の期間培養した共培養物に由来する同一容積の培地中の同一数の細胞から得た。共培養物から調製した培地を、Centriplus濾過デバイス(Millipore,Bedford,MA)を通して濾過することにより、10倍に濃縮し、そしてタンパク質を、還元条件下で、3%〜8%勾配のトリス−酢酸SDS−PAGE(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて分離した。ヒトグリオームT98Gの溶解産物(これは、ラミニン−8を発現することが公知である[15])を、ポジティブのコントロールとして使用した。このゲルを、ニトロセルロース膜(Invitrogen,Carlsbad,CA)上にブロットした。この膜を、mAbでプローブ化し、続いて、アルカリホスファターゼ結合型二次抗体(Bio−Rad,Hercules,CA)を有するImmune−Starキットを用いて化学発光検出を行った。抗体を、ラミニンα4鎖(mAb 8B12[15])およびβ1鎖(mAb LT3)に使用した。第八のフィブロネクチンのIII型リピート(mAb 568[20])を使用し、ゲルのレーンの負荷(loading)が等しくなるように制御した。
【0017】
(細胞生育可能性アッセイ)
細胞数を、CellTiter96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation Assayキット(Promega,Madison,WI)を用いて測定した。CellTiter96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation Assayキット(Promega,Madison,WI)は、MTSダイ[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、分子内塩]を用いて、生育可能な細胞の数を決定するために設計された。製造業者の使用説明書に従い、少量のCellTiter96(登録商標)AQueous One Solution Reagentを、培養ウェルに直接的に添加し、そして3時間のインキュベーションの後、490nmでの吸光度を、ELISA読み取り機、Spectra Max Plus 384(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)を用いて記録した。490nmの吸収量により測定されるホルマザン産物の量は、培養物中の生きた細胞数に直接的に比例する。すべての細胞株を、「グリオーム−内皮共培養物のアンチセンス処理」の節において上に記載されるように正確に処理した。生育可能性のアッセイについては、モルホリノセンスオリゴおよびアンチセンスオリゴならびに/または送達因子(delivery
factor)を用いた3日間(これは、発明者らの実験に使用する平均的な時点である)の処理の後に、細胞をインキュベートした。各実験が3通りで遂行され、そして2回繰り返された。
【0018】
(インビトロでの浸潤アッセイ)
浸潤研究が、腫瘍細胞の浸潤の定量的測定のために開発されたMatrigelTM BMマトリックスアッセイを用いて行われた。インビボで浸潤性かつ転移性とみなされたほとんどの試験済みの細胞は、インビトロでMatrigelに浸入し得る[21,22,23]。本発明者らは、BioCoatTMMatrigelTM浸潤チャンバー(Becton Dickinson,Bedford,MAからのMatrigelの一定の層を有する8.0μmのPET膜を含有する12−ウェル細胞培養挿入物)を使用した。被覆したフィルターを、暖かい血清フリーなDMEM(チャンバーあたり2ml)で再度水和した。上方のチャンバーを、血清フリーの培地中の2.5×10の細胞で満たした。下方のチャンバーを、化学吸引物質(これに向かって上記細胞が移動する)として5%FCSを含有するDMEMで満たした。これらのチャンバーを、37℃で22時間、5%COの大気中でインキュベートした。このフィルターの上方表面からの細胞を、綿棒で洗い落とし、そしてこのフィルターの下部表面に移動するものを固定し、そしてヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。フィルターを通過した細胞の数を、イメージ加工および測定システムに接続されたZeiss Axiophot microscope(浜松、日本)を用いて、各フィルターの10の顕微鏡の視野において、×200の倍率の下で、カウントした。浸潤百分率を、製造者の使用説明書に従って、コントロールチャンバーからの平均細胞数に対する、浸潤チャンバーからの平均細胞数として表現した。アッセイを、3通りに実行した。各類型の共培養物について、4つの独立した実験を、各処理について実行した。
【0019】
(統計的分析)
細胞の生育可能性のアッセイおよび浸潤の実験からのデータを、GraphPad Prism 3ソフトウェアプログラム(GraphPad Software,San Diego,CA)を用いて、ANOVA試験により統計的に評価した。Pが0.05未満である場合に、有意であるとみなした。
【0020】
(未処理の培養物における内皮マーカーおよびラミニン鎖の発現の免疫組織化学)
最良の内皮マーカーを選択するために、いくつかの内皮マーカーを試験し、この最良の内皮マーカーを、共培養物中の正常星状細胞および悪性星状細胞から内皮細胞を確実に区別するために使用し得た。予備的な実験において、蛍光Ac−LDLは、抗体がvon Willebrand細胞、CD31、CD34、またはCD105に対してするよりも、ずっと均一に内皮細胞を標識した[24]。
【0021】
従って、後の実験において、蛍光Ac−LDLの取り込みを、内皮細胞を同定するために共培養物と共に使用した。純粋な内皮の培養物では、すべての細胞ではなくとも、ほとんどの細胞が、核の周囲に点状の蛍光が優勢に分布するのを示した(図1)。正常な星状細胞およびグリオーム細胞株の培養物は、主としてネガティブであるが(図1)、いくつかの細胞は、低バックグランドの蛍光を示した。Ac−LDLの取り込みのおかげで、共培養物においても、ポジティブな内皮細胞の同定が可能になった。
【0022】
次いで、培養物を、ラミニン−8およびラミニン−9の鎖に対して免疫染色した。インビボでの状況に従い、α4およびβ2の鎖に対して陽性に染色されて培養された正常な内皮細胞は、ラミニン−9の存在と矛盾し得ない(図2A)。同時に、ラミニン−8のβ1鎖に対する染色は、大部分がネガティブであった(図2A)。正常な胎児の星状細胞は、試験済みの任意のラミニン鎖に対して、ほとんど染色しなかった(図2A)。対照的に、グリオームU−87MG(図示せず)およびM059K細胞は、ラミニン−8のα4鎖およびβ1鎖に対して陽性であるが、ラミニン−9のβ2鎖に対しては主としてネガティブであった(図2A)。これらの結果を、タンパク質の充填量の等しい培養物から調整された培地をWesternブロット分析することにより、十分に確認した(図2B)。
【0023】
正常な星状細胞とHBMVECとの共培養物において、大部分がα4鎖およびβ2鎖が観察され得、β1鎖の発現は非常にわずかしかなかった(図3)。しかし、グリオーム細胞とHBMVECとの共培養物では、α4鎖およびβ1鎖は、優勢に発現された(図3)。重要な発見は、HBMVECが、悪性の星状細胞と共培養された場合に、ラミニンβ1鎖の発現を開始したことであり、これは、内皮細胞単独の場合においてラミニンβ1鎖の発現が存在しない場合または正常な星状細胞と共培養した場合においてラミニンβ1鎖の発現が存在しない場合と対照的であった(図3)。
【0024】
これらのデータは、正常星状細胞と内皮細胞との共培養物が、発明者らの以前のインビボでの結果[5]に従い、大部分がラミニン−9を発現したことを示している。さらに、インビボでの状況と同様に、グリオーム細胞単独で、および内皮細胞との共培養物は、大部分がラミニン−8を発現した。従って、確立した共培養システムは、正常な脳環境および腫瘍脳環境の両方において、インビボでの場合と類似する。従って、ラミニン発現データは、グリオーム−内皮共培養物が、腫瘍の進行および再発発生に関連する新規のグリオームマーカーとしてのラミニン−8の発現のさらなる阻害を研究するための妥当なモデルであるという仮説を強力に支持する。
【0025】
(細胞生育可能性アッセイ)
モルホリノのセンスオリゴおよびアンチセンスオリゴならびに送達因子EPEIの潜在的毒性を試験するために、MTS−ベースのCellTiter96アッセイを用いて、細胞生育可能性を測定した。3種の細胞株(U−87MG、M059KおよびHBMVEC)の生育可能な細胞(これらは、オリゴおよび/または送達因子で処理された)の相対的な数を、いかなる処置もしていない対応する細胞株の複製培養物の細胞数(100%ととられる)と比較した。2つの別個の実験についてのオリゴ処理後の各細胞株についての細胞の生育可能性は、90%よりも高かった(図4)。これは、未処理のコントロールとは有意には異ならかった(p>0.05)。これらのデータに基づき、本発明者らは、モルホリノオリゴおよび/または送達因子が、任意の重大な毒性効果をいかなる細胞株にも及ぼさないと結論付けた。
【0026】
(アンチセンス処理培養物におけるラミニン鎖発現の免疫組織化学)
グリオーム−内皮共培養物は、大部分がラミニン−8のα4鎖およびβ1鎖を発現するので(しかし、ラミニン−9のβ2鎖は発現しない)、アンチセンスオリゴを、ラミニン−8発現を遮断する目的でのみ使用した。α4アンチセンスを用いた処理は、この鎖に対する染色の顕著な減少をもたらし、そしてβ1鎖に対する染色の減少をもたらした(図5)。同様の結果が、β1アンチセンス処理を用いて観察され、これは、ラミニンのトリマーの組み立てにおけるこの鎖の役割と矛盾しない。図5の下の列において示されるように、2つのオリゴの組み合わせは、すべての時点において、α4鎖およびβ1鎖に対する染色を劇的に減少した。
【0027】
(純粋な培養物および共培養物のウェスタンブロット分析)
培養物および共培養された細胞の溶解産物において、ラミニンα4鎖およびβ1鎖のシグナルは、非常に弱く、そして培養または共培養の第5日から第7日にのみ、検出可能であった(データは示さず)。従って、総タンパク質およびフィブロネクチンの含有量により実質的に等倍の濃度に正規化した後、調整した培地中のこれらの鎖の量を、さらに分析した。
【0028】
図6に示されるように、α4鎖およびβ1鎖の両方を、第3日〜第6日のセンス処理した培養物、およびポジティブコントロール(T98Gグリオーム細胞溶解産物[15])において検出し得る。いずれかの鎖のアンチセンス処理により、両鎖のシグナルが低減した。さらに、両鎖に対する最大阻害を、α4+β1のアンチセンス処理(各オリゴの濃度0.25mMにした)の組み合わせにより達成した(図6B)。これらのデータは、細胞の免疫染色のデータと完全に一致した。
【0029】
図6Cおよび図6Dは、フィブロネクチンを検出する膜の、再度のプローブ化を示す。ヒトのフィブロネクチンのみを検出した。T98G、ラミニン−8を発現するGBM細胞株T98Gの細胞溶解産物を、ポジティブコントロールとして使用した。酷似した結果を、HBMVECと別のグリオーム細胞株、U−87MGとの共培養物を用いて得た(データは示さず)。
【0030】
(Matrigel浸潤アッセイ)
Matrigel浸潤アッセイを使用して、共培養物の浸潤パラメーターに対する、ラミニン−8のα4鎖およびβ1鎖のアンチセンスオリゴの影響を研究した。コントロールチャンバーにおいて対応するセンスオリゴを使用した。別のセットのコントロールは、内皮細胞を単独でか、またはグリオーム細胞を単独で含んだ。
【0031】
2種のグリオーム細胞株、U−87MGおよびM059K(これらには、α4鎖およびβ1鎖に対するセンスオリゴを、単独でかまたは組み合わせてのいずれかで、処理を施したか、または施さなかった)は、それぞれ、91%および76%の浸潤ポテンシャルを単独で有した。HMBVEC細胞は、11%の浸潤しか示さなかった。各実験を、3連で3回繰り返した。
【0032】
次の段階の実験において、グリオーム細胞と内皮細胞との共培養物を、α4アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびβ1アンチセンスオリゴヌクレオチド(単独または組み合わせて)で3日間処理した。この研究で使用した各アンチセンスは、2種の別個の共培養物の類型の浸潤を有意に阻害した(図7)。この研究では、総計64,276個の細胞を有する842の顕微鏡視野を評価した。特定の内皮染色は、内皮細胞およびグリオーム細胞の両方が、グリオーム細胞の清澄さが流布した状態で、Matrigelを通して移動することを示した(データは示さず)。ラミニン−8のα4鎖およびβ1鎖のセンスオリゴで処理した共培養物を、100%であるコントロールとみなした。共培養物をα4アンチセンスオリゴで処理した場合、センスオリゴで処理した培養物に比較して、U−87MG細胞株に関しては、浸潤を40%だけ遮断し(図7右;、p<0.02対コントロール)、M059K細胞株に関しては、浸潤を41%だけ遮断した(図7左;p<0.03)。β1アンチセンスオリゴはまた、U−87MG共培養物に関しては、浸潤を40%だけ遮断し(p<0.04)、そしてM059K共培養物に関しては、浸潤を約47%だけ遮断した(p<0.001)。共培養物をα4鎖に対するアンチセンスオリゴおよびβ1鎖に対するアンチセンスオリゴの両方で処理した場合、浸潤は、U−87MG共培養物に関しては、平均して62%減少し(p=0.0005)、そしてM059K共培養物に関しては、53%減少した(p<0.0001)。5つの実験のうち2つの実験において、この阻害は、75%を超えた(ここには示さず)。
【0033】
U−87MG細胞において、α4アンチセンス+β1アンチセンスの組み合わせは、α4アンチセンスまたはβ1アンチセンスよりも効率的にラミニンの発現を阻害し、そしてM059K細胞におけるβ1アンチセンスとほぼ等しかった。興味深いことに、α4鎖およびβ1鎖の発現を、より低濃度のアンチセンスオリゴ(0.25+0.25mM)で、より高濃度のアンチセンスオリゴ(0.5+0.5mM)より効率的に阻害した。これは、モルホリノオリゴの濃度を注意深く最適化することが、インビトロおよびインビボの研究において重要であることを示している。生きた細胞のみが浸潤アッセイにおいてMatrigelを通過し得るという事実を強調することもまた重要である。
【0034】
(考察)
これは、この複合三量体タンパク質の合成を遮断するアンチセンスインヒビターを用いて、ヒト腫瘍細胞におけるラミニン−8の役割を試験するための最初の研究である。本発明者らは、正常な脳の内皮細胞が、ラミニン−9の少量の鎖、α4およびβ2を発現することを示した。しかし、ラミニン−8の鎖、β1の発現は、検出されなかった。正常な星状細胞は、これらの鎖のいずれをも発現しなかった。このインビトロでの系は、インビボでの正常な脳に類似しており、正常な脳では、優勢なラミニン−9の発現が低かった[5]。同時に、グリオーム細胞は、培養物中で、本発明者らの以前のインビボのデータ[5]に従い、ラミニン−8の鎖を発現した。さらに、グリオーム細胞との共培養物において、脳内皮細胞はまた、(ラミニン−8の産生と両立する)ラミニンβ1鎖の発現を開始し、これは、インビボでのGBMにおけるラミニン−8の過剰発現の発見と一致した(図3)。
【0035】
これらのデータは、α4鎖を含むラミニンのイソ型発現の、正常なパターンおよび腫瘍のパターンが、培養物のセッティングにおいて保持されたことを明確に示している。従って、発明者らは、インビボ(正常な脳組織において、そしてグリオームの増殖の間の両方)で観察される発現パターンに系として類似する、ラミニン鎖の発現のパターンに関するそれぞれの共培養物を確証し得た。グリオームの進行(progression)に関連するいくつかの新規の、十分に特徴付けられたタンパク質(例えば、テネイシン−C、MMP−2およびMMP−9、[5,12,25−29])と組み合わせれば、ラミニン−8は、グリオームの潜在的な診断または処置のための有力なツールである。以前、ラミニン−5のみが、黒色腫の浸潤に役割を果たすことが示された[30]。現在の本発明者らのデータは、「脈管性」ラミニン−8もまた、グリオーム細胞の浸潤性に重要な役割を果たすことを示す。マトリックス−崩壊プロテイナーゼはまた、グリオームの浸潤にとって重要であり[31]、将来のリサーチは、ラミニンのタンパク質分解が、グリオームの浸潤にとって必要とされるか否かを探求するべきである。
【0036】
グリオームの浸潤におけるラミニン−8の役割を精査するために、本発明者らは、ラミニン−8の発現を遮断するためにアンチセンスオリゴを使用した。アンチセンスの潜在的可能性は、広く認識されているが、大部分は、十分に力を発揮していないままであり、なぜなら、つい最近まで、利用可能なオリゴは、乏しい特異性、不安定性、および望ましくない非アンチセンス効果を被ったからである[32,33]。これらの問題は、種々の疾患(癌を含む)に対して安全でかつ有効な治療を提供するアンチセンスオリゴの新規の生成により、主として解決されている[33,34]。最も有望な類型のオリゴは、モルホリノおよびペプチド核酸(PNA;これは、中性の「ペプチド様」バックボーンに結合された核酸塩基)オリゴである[32,34]。モルホリノオリゴは、RNaseHとは独立して機能し、そして水性溶液中で可溶性である。これらは、血清の存在下または非存在下で十分に作用し、そしてヌクレアーゼに対して完全に抵抗性であり、培養培地および細胞中で無期限にインタクトなままである。モルホリノオリゴは、RNAに対して高い親和性を有し、そしてmRNAのまったく安全な二次構造をさえ効果的に浸潤する。モルホリノオリゴは、非常に広範な濃度範囲にわたって、すべてのアンチセンスの類型の、最も高い配列特異性を有し、そして非アンチセンス効果はないと考えられる[34,35]。モルホリノオリゴは、細胞フリーの翻訳系を有し、そして培養細胞における標的タンパク質の産生を遮断し得る[36]。モルホリノはまた、インビボにおいても有効である[37]。これらの特性を考慮し、モルホリノは、ラミニン−8鎖の発現を阻害するために本発明に選択された。特別の実験は、モルホリノ処理が、使用されたいかなる細胞株の生育可能性にも影響しなかったことを示した。
【0037】
最近、グリオーム細胞においてアンチセンステクノロジーの使用に関する前途有望なデータが得られた。マトリックスメタロプロテナーゼ−9のブロッキングが、インビトロでのグリオーム細胞の浸潤性を減少した[31,38]。インビトロでのグリオームの増殖および(ヌードマウスの異種移植片としての)インビボでのグリオームの増殖を、テロメラーゼに対するアンチセンスにより阻害し得た[39]。最近のパイロット研究は、IGF−1レセプターのアンチセンスが、グリオーム細胞のアポトーシスを誘導し、そして患者の臨床的改善をもたらしたことを示した[40]。いくつかの臨床的試行は、現在、他の癌の処置についてのアンチセンスオリゴを用いる[41]。
【0038】
グリオーム浸潤におけるラミニン−8の関与を試験するために、本発明者らは、浸潤速度を定量化し得、かつアンチセンスラミニンオリゴの投薬量を最適化し得る確実なシステムを必要とした。本発明者らは、細胞培養システムを使用し、これらの重要な必要性を満たした。グリオーム培養物は、潜在的に使用され得る。しかし、インビボの状況をよりよく模倣するために、そしてラミニン−8がグリオーム細胞および内皮細胞の両方により産生されると考えられる[15,図3]ので、本発明者らは、グリオーム細胞と脳の内皮とを共培養物中で組み合わせる必要があった[44]。このような状況において、内皮細胞は、毛細血管様の構造を発達させ、そしてこのプロセスは、内皮細胞を腫瘍星状細胞とともに培養する場合には、正常な胚の脳の星状細胞とともに培養する場合よりも迅速である[45]。本発明者らは、グリオーム−内皮共培養物において、ラミニン−8がより多く産生されること、およびこのラミニンが、Matrigelアッセイにおいてグリオームの浸潤を増加し得ることを仮定した。これらの問題への調査は、脳腫瘍患者の、GBM診断および予後の両方を促進し、そして脳腫瘍患者の生存を増加する。
【0039】
Matrigel浸潤アッセイが、BMマトリックスを通した腫瘍細胞の浸潤の定量的測定のために開発された。インビボにおいて浸潤性かつ転移性とみなされたほとんどの試験済みの細胞は、インビトロでMatrigelを浸潤し得、このMatrigelは、マウスのEngelbreth−Holm−Swarm腫瘍からのBM様材料である[21,22]。
【0040】
グリオーム−内皮共培養物を、アンチセンスにより処置した場合、Matrigelに対する浸潤性の阻害は、U−87G+HBMVECについては、対応するセンスオリゴヌクレオチドで処理されたコントロール細胞において観察されるものの62%であり、そしてM059K+HBMVECについては、53%であった。本発明者らの実験では、低濃度のアンチセンスオリゴ(0.25+0.25mM)で阻害した場合に、より高濃度のアンチセンスオリゴ(0.5+0.5mM)で阻害した場合より効率的に、α4およびβ1の発現を阻害したが、いずれの濃度においても、明らかな毒性は認められなかった。これらのデータは、前の発見により説明され得、ここで、HepG2細胞の膜上のオリゴヌクレオチドレセプターが遮断された。比較的高いオリゴヌクレオチド濃度では、これらのレセプターは飽和され、そして飲作用のプロセスがより大きな重要性を帯びることが示された[46]。類似のメカニズムが、本発明の系に生じ得、これが、得られた結果を説明し得る。
【0041】
アンチセンス技術の使用は、その効率、特異性および腫瘍細胞への送達の容易性のために、有効な将来の腫瘍処置法を提供する[42,43]。この技術は、薬物の検証および診断の目的のためだけではなく、将来の処置法の開発を目的として、持続的に開発され、そして能率化される。本発明の結果は、ラミニン−8を脳グリオームの処置のための標的として使用するアンチセンスアプローチの有効性を実証する。ラミニン−8アンチセンスによる腫瘍浸潤の減少は、攻撃的なGBMの増殖および伝播を遅延する。他の処置方法または他の標的(EGFR、MMP)のブロッキングと組み合わせて、それは、疾患フリーの期間を延長し、そしてグリオーム患者の生存を増加する。治療上の目的のためのラミニン−8のブロッキングはまた、特定のモノクローナル抗体および/または小さな干渉RNA(siRNA)および/またはラミニン−8の産生に特異的な他の薬物の使用を含む。
【0042】
ラミニン−8がグリオーム浸潤をいかに促進するかが立証されないままである。可能性のある一つの機序が、細胞移動の刺激化であり得る。ラミニン−8を含むα4Aスプライス改変体の少なくとも一つの形態は、非常に弱く細胞接着を支持し、そしてラミニン−5またはラミニン−10/11と比較して、拡延性(spreading)であることが示された[15,47]。同時に、ラミニン−8は、いくつかの他のラミニンのイソ型よりも細胞移動をより良好に刺激した[15]。グリオーム細胞およびグリオーム隣接毛細血管内皮細胞の両方におけるラミニン−8の発現の増加[5,15、本明細書]は、グリア細胞の接着を減少し得、そして移動を増強し得る。これは、腫瘍の局所的な浸潤性のために必要である。
【0043】
多くの変更および改変が、当業者によりなされ得る。従って、この例示された実施形態が、例示の目的でのみ記載されていること、および例示された実施形態が、添付の特許請求の範囲により規定される通りに本発明を限定するものとしてみなされてはならないことが理解されねばならない。本発明およびその種々の実施形態を記載するために本明細書中で使用される用語は、一般的に規定される意味の意味で理解されるだけではなく、一般的に規定される意味の範囲を超えて、この明細書中の構造、材料または作用の特別の定義により包含されるべきである。従って、ある要素が、この明細書の文脈において、一つより多くの意味を包含するものとして理解され得る場合、特許請求におけるその要素の使用は、本明細書およびその単語自体により支持される、すべての可能な意味に包括的なものとして理解されねばならない。特許請求される要素の等価物に加えて、現在公知であるか、または後に当業者に公知になる明白な置換物は、規定された要素の範囲内であることが規定される。従って、特許請求の範囲は、上に具体的に例示し、そして記載したもの、概念的に等価であるもの、および明らかに置換され得るものを包含するものと理解されるべきである。
【0044】
【数2】

【0045】
【数3】

【0046】
【数4】

【0047】
【数5】

【0048】
【数6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−242428(P2009−242428A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167047(P2009−167047)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【分割の表示】特願2006−526391(P2006−526391)の分割
【原出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】