ヒト前立腺ガンの進行の動物モデル
【課題】
本発明は、局所的に進行した、または転移性のヒト前立腺ガン異種移植片を有する、免疫欠損マウスを提供する。
【解決手段】
局所進行性もしくは転移性前立腺癌のヒト患者のために個別化された治療を選択する方法であって:
a.患者から得られた局所進行性もしくは転移性前立腺癌組織又は当該組織の懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスに移植し;
b.処置を上記SCIDマウスに施し;
c.処置されたSCIDマウスにおける異種移植片の成長を、処置を施していない対照SCIDマウスにおける異種移植片の成長と比較し;そして
d.処置により、対照マウスに比較して処置マウスにおける異種移植片の成長の速度又は範囲が減少したなら、処置を患者のために選択する
ことを含む前記方法に関する。
本発明は、局所的に進行した、または転移性のヒト前立腺ガン異種移植片を有する、免疫欠損マウスを提供する。
【解決手段】
局所進行性もしくは転移性前立腺癌のヒト患者のために個別化された治療を選択する方法であって:
a.患者から得られた局所進行性もしくは転移性前立腺癌組織又は当該組織の懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスに移植し;
b.処置を上記SCIDマウスに施し;
c.処置されたSCIDマウスにおける異種移植片の成長を、処置を施していない対照SCIDマウスにおける異種移植片の成長と比較し;そして
d.処置により、対照マウスに比較して処置マウスにおける異種移植片の成長の速度又は範囲が減少したなら、処置を患者のために選択する
ことを含む前記方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願を通して種々の刊行物が括弧内で参照されるが、それらの刊行物は本明細書の最後、請求項の直前に完全な形で引用される。それらの刊行物の開示は本明細書中では参考文献としてそのまま含まれる。
発明の背景
前立腺ガンは男性のガンの原因としては最多のものである。1996年には31万7千人の新規の前立腺ガン患者が診断され、41400人以上が死亡した(Karpら,1996)。それ以上の死亡率であるのは肺癌のみである。男性が一生の間に浸潤性前立腺ガンを発症する確率は、6人に1人、すなわち15.4%である。50歳の男性の前立腺ガン発症率は42%、前立腺ガンによる死亡率は2.9%である。局所的な腫瘍の早期診断および治療が現在までに進歩しているにも関わらず、前立腺ガンは一度転移すれば治癒不可能である。転移性前立腺ガンのホルモン治療を行うと結果的に患者はアンドロゲン不応性(アンドロゲン被依存性)状態となり、それによって疾病が進行し、死に至る。
【0002】
前立腺ガンの罹患率および死亡率の主な原因は、アンドロゲン被依存性の転移性腫瘍の成長の結果である。そのため、疾患の進行した状態の分子的基盤の知識はその患者の治療の選択を改善し得ると期待され、多大な関心が持たれている。しかしながら、この分野の進歩は種々の理由のために困難である。例えば多くの前立腺組織は小さいため、前立腺組織が分子的研究に利用できる場合は限られている。さらに、外科的な前立腺切除による腫瘍試料には少なからぬ不均一性が存在するため、前立腺ガン外植片をin vitroで減数分裂的に培養することは困難であり、また不死化した前立腺ガン細胞系列は少数しか存在しない。
【0003】
そのため、前立腺ガン組織の安定した成長を可能とし、それによって前立腺ガンの進行をin vivoで研究することを可能とし、前立腺ガン組織の安定した供給を提供し、前立腺ガンの生物学を正確にシミュレーションまたは模倣する疾患の転移性増殖のモデルを提供する他の方法を発見することに関心が持たれている。
【0004】
また、進行した前立腺ガンの処置に際して、より信頼性の高い、より情報量の多い進行度診断および予後法が必要とされている。前立腺ガンの臨床的な進行度の診断は、前立腺嚢の境界内に腫瘍が残存している(局所的に限定されている)か、境界を越えて増殖している(局所的に進行している)かを決定するための直腸診断と、血清中PSAの決定および直腸横断超音波誘導生検との組み合わせによっている。しかし、これらの方法の何れも、この疾患の進行の予測に際しての信頼性は証明されていない。
【0005】
前立腺ガン転移の一次部位は局部リンパ節および骨である。骨転移は造血の活発な赤色骨髄中の、腰椎脊柱、肋骨、骨盤、中央長骨、胸骨および頭蓋骨を含む部位に起きる。前立腺ガンの骨転移は、通常骨中にコロニー形成する他の腫瘍の場合とは異なり、肺癌および黒色腫の骨転移における骨吸収ではなく、骨形成の実質的な増大(造骨細胞性)という特徴を有する。
【0006】
最近まで、骨転移は疾患の進行の末期であると考えられていた。しかし、前立腺ガン細胞を検出するための高感度技術(前立腺特異的遺伝子のRT-PCRのような)の最近の発展により、この考えは改められた。PSA mRNAのRT-PCR試験を用い(Ghosseinら,1995; Seidenら,1994; Woodら,1994; Katzら,1994)、またPSAタンパク質の免疫磁性ビーズセレクションにより(Brandtら,1996)、疾病の進行した段階の患者の末梢血および骨髄中で前立腺ガン細胞が検出されてきた。陽性である場合、これらの検査は前立腺ガン細胞が循環血球の0.1-1.0%を占めることを示している。さらに早期の低危険率の患者においても、すでに少数の前立腺ガン細胞が末梢血中を循環し、骨髄中に定着していることが今や明らかになっている(Olssonら,1997; Deguchiら,1997; Katzら,1996)。興味深いことに、完全な前立腺切除の後これらの細胞は多くの患者において消失する(Melchoirら,1997)。これらの結果から、一次腫瘍部位が骨髄への連続的な転移源であること、および転移病巣に成長する能力はそれらの細胞のごく一部が有することが示唆される。この考えは、循環癌細胞の1万分の1のみが他器官に定着して活発にコロニー形成するという、他の種類の腫瘍の動物モデルからの予測と一致する(Fidlerら,1990)。
【0007】
進行した前立腺ガンが骨転移に発展することに関与する因子は、ほとんど分かっていない。解剖学的に、局部の骨/骨髄および腫瘍細胞因子は全て関与すると考えられている。Bastonは、脊椎に平行して存在し、肋骨、骨盤および脳の静脈と直接に吻合する縦走無弁静脈のネットワークからなる拡張性椎骨静脈系を記載している(Baston,1942)。前立腺静脈に侵入している前立腺癌細胞は、肺を通る下方大静脈に入ることなく、この網状構造を介して直接これらの器官に輸送され得る。他の腫瘍と比較した前立腺癌の転移のパターンの臨床記録および、腫瘍細胞の尾部静脈への注入の際に下方大静脈の閉鎖が、脊椎への転移の発生率を上昇させたという動物モデルにより、転移の機構についての上記仮説が立てられた(Nishijima et al.,1992; Coman and DeLong, 1951)。
【0008】
血管の解剖学的構造は前立腺癌の骨への拡大の基本的な要素であるが、全ての骨転移の選択的なパターンを完全に説明することは出来ない。心臓の出力のの5-10%を受容している骨は、血流の観点から期待され得るよりも高頻度な転移部位である(Berettoni and Carter,1986)。骨髄は二つの明確に同定され得る成分、即ち、細胞性の要素の大部分を構成する造血細胞および、高度に管状の結合組織を形成する基質成分を含む。造血細胞は一時的に骨髄に存在し、成熟と共に血流中へと移動する。しかしながら、基質は残留し、その上で造血細胞の分化および成熟が行われ得る足場として働く。これらの部位にとどまる前立腺癌細胞における重要な因子の一つは、それらの骨髄基質への接着性で有り得る。腫瘍細胞は転移していく器官の基質細胞に対して選択的に接着することが、in vitroおよびin vivoの両方で示されている(Haq et al.,1992; Netland and Zetter, 1985;Zetter et al., 1992)。ラット前立腺癌(MatLyLu)細胞が、同系のラットの左心室に対して注入された場合、椎体転移が発生した。これらの転移は採集され、脱凝集され、再び注入された。動物内で同様の継代を6回経た後の細胞株は骨髄基質および内皮細胞に対して強く選択的に接着した(Haq et al,1992)。同様の手法は、免疫欠損マウス中での、LNCaP前立腺癌細胞株からの転移の頻度を上昇させた(Thalmann et al.,1994)。
【0009】
前立腺癌の骨への転移の適切なin vivoモデルが形成されることは、この過程のメカニズム的な側面をより完全に探索するために重要である。現在まで、この分野におけるほとんどの研究はPC-3、DU-145およびLNCaPという3つのヒト前立腺癌細胞株について行われてきた(Lee etal., 1993)。これら3種類は全て、免疫欠損マウス中で皮下結節を発生させ、これらから、多様な転移特性を有する派生株が得られた(Shervin et al.,1988, 1989; Wang and Sterarns,1991; Kozlowski et al., 1988)。しかしながら、これらの派生株はどれも、前立腺癌に典型的な造骨細胞の損傷を再現性良く形成しない。DU-146およびPC-3細胞株の主要な限界は、臨床的な前立腺癌との関連性を生ずる、前立腺特異的抗原(PSA)およびアンドロゲン受容体(AR)の発現が無いこと(Kaighn et al.,1979; Gleave et al., 1992)である。LNCaP細胞株はアンドロゲン反応性であり、PSAを発現するが、アンドロゲン受容体にリガンド特異性を変更する突然変異を有する。
発明の概要
本発明は、一次腫瘍の発生、微小組織転移、およびヒト前立腺ガンの後期に特徴的な骨芽細胞損傷をシミュレーションまたは模倣することができるヒト前立腺ガンの進行の動物異種移植片モデルを提供する。このモデルは、前立腺ガンの段階ごとの進行を研究するために用いられ得る。この観点から、一次腫瘍部位から遠位の微小組織転移部位(骨髄を含む)への細胞移動の過程、および微小組織転移前駆体からの微小組織転移性骨芽損傷の発生を本発明は再現する。またこのモデルは、アンドロゲン除去治療を受けている、進行した前立腺ガン患者に特徴的なアンドロゲン依存性腫瘍成長から被依存性成長への臨床的な推移を再現し得る。さらに、種々の段階の前立腺ガンの前立腺ガン細胞の増殖法、および段階特異的前立腺ガン細胞集団の単離および増殖法が提供される。さらに、PSA、野生型アンドロゲン受容体、および前立腺酸フォスファターゼを発現する独自の連続継代・アンドロゲン感受性前立腺ガン細胞系列を本発明は提供する。本発明の方法およびモデルは、前立腺ガンの分子生物学を研究し、種々の遺伝子および治療試薬が疾病の進行の異なる段階に与える影響を評価し、前立腺癌細胞の転移能を検査し、患者に特異的な治療法を設計する系を提供する。
発明の詳細な説明
免疫欠損動物宿主
重度の複合免疫欠損(SCID)マウスは、本発明の実施において用いられる好ましい宿主動物である。他にも、天然のまたは誘導され得る遺伝的欠陥の結果欠損を有する、種々の免疫欠損マウス、げっ歯類または動物(例えばヌードマウス、Rag1および/またはRag2マウスなど、およびそれらのマウスと交雑されて免疫上寛容の存在するマウス)が用いられ得る。この欠損は、例えば組み換えの遺伝的欠陥、遺伝的に欠陥のある胸腺または不全なT細胞受容体領域の結果であり得る。誘導された免疫欠損は、サイクロスポリンのような免疫抑制剤の投与、胸腺の切除などの結果であり得る。種々の組み換え免疫欠損マウスが現在入手可能であり、また慣習的な方法によって作製され得る。理想的には、免疫欠損マウスはリンパ球の成熟を阻害する欠損を有し、特にT細胞受容体領域の組み換え能を欠失するものである。腫瘍増殖の過程にアンドロゲンの使用が与える効果を研究する際の興味に従って、雌、雄、去勢されたマウス、または去勢されていないマウスが利用され得る。本明細書に記載する特定の好ましい態様においては、C.B.17scid/scidマウスが使用される。マウスに加えて、免疫欠損ラットまたは同様のげっ歯類が、本発明の実施において使用され得る。
進行した前立腺ガンをシミュレーションするモデル
本発明の一つの態様は、一次腫瘍形成からヒト前立腺ガンをシミュレーションまたは模倣するネズミ異種移植片モデルを提供する。また、免疫欠損マウス中で、進行した段階のヒト前立腺ガン組織を皮下異種移植片として増殖させる方法が提供される。本発明の実施に際して、前立腺ガン異種移植片は、局所的に進行した時期または転移期の前立腺ガン患者から外科的に切除された新鮮なヒト前立腺ガン外植片を免疫欠損マウス中に皮下移植することによって確立され得る。移植部位は、血液供給が移植片に到達できるようないずれの皮下部位(例えば宿主動物の横腹)でもよい。一次前立腺ガン由来、およびリンパ節、肺、骨、および他器官への転移由来の組織が、本発明の前立腺ガン異種移植片を確立するために用いられ得る。前立腺ガン外植片は、マトリゲル(米国特許第5508188号)のような基底膜組成物、上皮腫瘍(前立腺ガン細胞を含む)のin vivoでの増殖を増強することが示されている細胞外マトリクス調製物(Limら,1993; Noelら,1992; Pretlowら,1991)、または他の同様な組成物とともに導入され得る。一度確立されると、異種移植片腫瘍は相当のサイズに成長し、さらなる利用のための実質的な組織量を提供する。本発明の異種移植片は、ヒトβ-グロビンの発現により決定されるヒトの表現型を保持し、ヒト前立腺特異的抗原(PSA)を発現し、臨床条件を反映しているアンドロゲン感受性および転移増殖特性を保持する。
【0010】
本明細書で使用される場合、「局所的に進行した前立腺ガン」および「局所的に進行した疾患」という用語は、前立腺嚢から出て拡張した前立腺ガンを意味し、American Urological Association (AUA) 系でのC段階疾患、Whitmore-Jewett系でのC1-C2段階疾患、およびTNM (tumor, node,metastasis)系でのT3-T4段階およびN+疾患を含む。総じて、局所的に進行した疾患の患者については外科処置は好ましくなく、臨床的に限定された(器官特異的な)前立腺ガンの患者と比較して、それらの患者は実質的に好ましくない結果となっている。局所的に進行した疾患は、臨床的には前立腺の側部境界外の触診可能な硬化の存在、または前立腺基部上の非対称性または硬化によって同定される。病理学的には、局所的に進行した前立腺ガンは、腫瘍が前立腺嚢に浸潤または侵入し、外科領域周辺部に拡張、または精嚢に侵入した場合に、完全な前立腺切除後に診断される。
【0011】
本明細書で用いられる場合、「転移前立腺ガン」または「転移疾患」という用語は、局部リンパ節または遠位へ広がった前立腺ガンを意味し、AUA系でのD段階疾患、およびTNM系でのTxNxM+を含む。局所的に進行した前立腺ガンの場合と同様に、転移疾患の患者には外科処置は一般的に行われず、ホルモン(アンドロゲン除去)治療が好まれる治療法である。転移前立腺ガン患者は、結果的に治療開始後12から18カ月でアンドロゲン不応答の状態となり、それらの患者の約半数はその後6カ月以内に死亡する。前立腺ガンの転移の最も一般的な部位は骨である。前立腺ガンの骨転移の特性は、骨吸収性ではなく骨再生性である(つまり、実質的な骨形成を引き起こす)。骨転移は脊柱に最も多く、次に大腿骨、骨盤、肋骨、頭蓋骨および上腕骨に見られる。他の一般的な転移部位には、リンパ節、肺、肝臓および脳が含まれる。転移前立腺ガンは典型的には、開腹または腹腔鏡による骨盤リンパ節切除、全身放射性核種スキャン、骨格放射線診断、および/または骨損傷生検によって診断される。
【0012】
本明細書で記載される本発明のこれらの態様は、進行した前立腺ガンの病理および治療を研究する方法を提供する。例えば、皮下(または他)に異種移植片を有する免疫欠損マウスが、種々の前立腺ガン治療(例えば治療組成物、遺伝子治療、免疫治療など)の、腫瘍の増殖または疾患の進行に対する効果を評価するために用いられ得る。異種移植片細胞は、新規の遺伝子および前立腺ガン細胞で発現が異なる遺伝子を同定するため、または前立腺ガンの進行に対するそれらの遺伝子の効果を分析するために使用され得る。例えば、異なるアンドロゲン感受性を有する(例えばアンドロゲン依存性対非依存性)異種移植片由来の前立腺ガン細胞の遺伝子組成が、互いに、または正常な前立腺細胞の遺伝子組成に対して比較され得る。同様に、微小組織転移前立腺ガン細胞の遺伝子組成が、転移前立腺ガン細胞の遺伝子組成と比較され得る。種々の核酸サブトラクションおよび試料抽出法(例えば、representational difference analysis(RDA)法を含む)がこの目的のために利用され得る。さらに、前立腺ガン異種移植片細胞は、種々の遺伝的能力の導入(種々の遺伝子の導入、アンチセンス配列、リボザイム、制御配列などを含む)に用いられ得る。
【0013】
さらに、本発明のこの態様は、ヒト前立腺ガン生検材料に典型的な不均質な細胞混合物から前立腺ガン細胞を精製する方法を提供し、さらにさらなる利用および解析のための大量の腫瘍細胞を生成する方法を提供する。ある態様においては、前立腺ガン細胞を精製する方法は、ヒト前立腺ガン生検材料をSCIDまたは他の免疫欠損マウスに移植し、移植材料を異種移植片としてマウス中で成長させることからなる。精製されたヒト前立腺ガン細胞は、異種移植片を回収することで得られる。別の免疫欠損マウス中で連続的に増殖させ、または短時間の細胞培養によって増殖させることによって、異種移植片はさらに増殖させられ、精製され得る。異種移植片腫瘍組織または培養細胞からの単一細胞懸濁液は、前立腺内腫瘍、骨腫瘍、または他の器官の腫瘍を移植するために用いられ得る。異種移植片腫瘍組織および細胞調製物は凍結され、後の使用時には生きた状態で回復され得る。
【0014】
本発明はまた、SCIDマウス中での複数の継代を通して安定な前立腺ガン細胞の表現型を保持する皮下前立腺ガン異種移植片を提供する。種々の態様が提供され、これらにはアンドロゲン依存性および非依存性異種移植片、前立腺特異的抗原(PSA)を臨床を反映するレベルで発現する異種移植片、野生型アンドロゲン受容体(AR)を発現する異種移植片、および染色体異常を示す異種移植片が含まれる。さらなる態様は、前述の特性全てを保持する異種移植片、およびアンドロゲン非依存性疾患に至る過程のモデルとなる異種移植片を含む。本発明のこれらおよび他の態様は、以下の実施例でより詳しく記載される。実施例1に記載されたように、CまたはD段階の前立腺ガン患者の前立腺および骨、リンパ節および肺転移から得られた腫瘍組織外植片から、多数の皮下異種移植片が首尾よく確立された。これらの異種移植片は、SCIDマウス中で成長し高頻度で継代し、後期の継代でもヒト前立腺ガンの明確な特性を保持している。LAPC-4と命名した異種移植片は安定な細胞系列として組織培養に順応し、18カ月間連続して培養されている。
【0015】
実施例1に記載したLAPC-4異種移植片のような異種移植片は特に興味深い。患者から直接単離した前立腺腫瘍と同様に、LAPC-4細胞は前立腺特異的抗原(PSA)、アンドロゲン受容体(AR)、および前立腺酸フォスファターゼの発現が、20継代以上保持される。さらに、LAPC-4異種移植片は、そのARがDNAまたは因子の結合領域にまったく変異を持たないこと、およびアンドロゲン非依存性LAPC-4同系列においてAR発現が見られる点において独特である。さらに、LAPC-4異種移植片はアンドロゲン依存性からアンドロゲン非依存性疾患への変換や、微小組織転移症の発生をモデルする。例えば、オスマウスにおけるLAPC-4腫瘍の継代はアンドロゲン依存性成長特性路保持するが、去勢したオスまたはメスのマウスにおける腫瘍の継代は安定なアンドロゲン非依存性の表現型を与える。このような副家系はよういに本発明の方法を用い増殖されることができ、アンドロゲン非依存性成長に関わる事象の分子および生化学的解析に対し十分な組織を提供する。アンドロゲン依存性前立腺が成長の実験モデルは他にほとんど存在しない。出版された報告は、広く利用されているLNCaP 細胞株(Lim etal.,1993;Geleave et al.,1992)および2つの最近記述された異種移植片CWR22(Weinstein et al.,1994)およびLuCaP23(Lin etal.,1996)を含む。LAPC-4異種移植片はアンドロゲン除去の選択圧下におかれた腫瘍はアンドロゲン非依存性状態に成長するため独特であり、時系列でのアンドロゲン非依存性に関わる分子変化の評価および機能的重要性の直接的試験の機会を与える。
【0016】
発明のこの様態は前立腺癌細胞に対する様々な遺伝子の機能または効果の決定の検定を提供する。ある様態においては、検定は前立腺癌異種移植片(例えば皮下、前立腺内)から前立腺癌細胞を単離し、形質転換した細胞が発現または過剰発現するように興味の遺伝子を形質転換し、SCIDまたは他の免疫欠損マウスにおいて、皮下、または前立腺内異種移植片を確立し、その結果できた異種移植片の成長を評価することを含む。発現している遺伝子の異種移植片の成長に対する効果は非形質転換前立腺癌細胞から確立した対照異種移植片との比較により決定される。好ましくは細胞は同じ異種移植片から単離される。別の様態においては、検定は前立腺癌異種移植片(例えば皮下、前立腺内)を産生し、in vivoで興味の遺伝子を異種移植片の細胞に形質導入し、異種移植片の成長を評価することを含む。ここにおいて発現している遺伝子の異種移植片の成長に対する効果は対照異種移植片との比較により決定される。
【0017】
同様に、本発明は治療的化合物または治療法の候補の前立腺癌細胞の増殖に対する効果の決定のための試験試験を提供する。ある様態において、この試験は皮下にヒト前立腺癌異種移植片を有するSCIDまたは他の免疫欠損マウスに対する化合物または治療、および異種移植片の成長に対する治療の効果の決定を含む。また別の様態において、前立腺異種移植片を有するSCIDまたは他の免疫欠損マウスが化合物または治療の効果の決定に用いられる。
【0018】
本発明のこの様態は、局所的進行性または転移性前立腺癌の患者の予後診断法におけるモデルの使用を含む、様々な臨床的適用を有し得る。例えばある様態においては、患者由来の前立腺癌試料の免疫欠損マウスへの皮下移植、およびマウス中で異種移植片として移植した試料を成長させることを含む。異種移植片の成長率は診断用指標として用いられる。そのような解析は、どのように患者を治療すべきか決定するとき、腫瘍学者の助けとなり得る。
微小前立腺癌組織転移のシミュレーションモデル
本発明の別の様態はヒト前立腺癌における微小組織転移の過程の研究およびシュミレーションの方法およびモデルを提供する。皮下に前立腺癌異種移植片を有するSCIDマウスは循環前立腺癌細胞の存在を示す。ゆえに、このモデルは一次癌細胞から骨髄および、他の微小組織転移の離れた部位への移転過程を複製する。実施例3に詳細に記すように、LAPC-4細胞異種移植片を皮下移植した雄マウスの100%は、骨髄への転移の証拠は見られなかったが、4から6週間中に局所的皮下腫瘍が見られるようになった。しかしこれらの動物が微小組織転移症の存在を試験されたとき、50%までのマウスは骨髄または血液中に検出可能な前立腺癌細胞が見られた。同一の半定量的RT-PCR試験を用いて、前立腺癌患者の多くの調査に適用されている。微小組織転移前立腺癌細胞は全マウス骨髄のおよそ0.1から1.0%のレベルで見られた。同様の結果はPSAの発現に対する免疫組織化学解析からも得られた。故に、前立腺癌異種移植片の皮下成長は疾病の初期段階でさえも血中、および骨髄腔中を前立腺癌細胞は循環するという診療結果を模倣する。ある様態において、前立腺癌微小組織転移のシミュレーションまたは模倣はSCIDまたは他の免疫欠損マウス中の皮下前立腺癌異種移植片を確立し、マウスの末梢血中の前立腺癌細胞の検出を可能にするのに十分の時間腫瘍を成長させることを含む。微小組織転移の存在はリンパおよび/または血管系、骨、肺、肝臓、および/または他の一次異種移植片部位から離れた部位への転移をした前立腺腫瘍の検出によりモニターされる。そのような細胞の検出は、例えばPSAmRNAに対するRT-PCRによる末梢血中の(実施例3に記載した試験試験など)ヒトPSAmRNAの存在の試験などにより達成され得る。
【0019】
別の様態において、前立腺癌微小組織転移のシミュレーションは、SCID(または他の免疫欠損)マウス中で成長した皮下移植腫瘍片からの前立腺癌細胞の単一細胞懸濁の調製、その後の他のSCID(または他の免疫欠損)マウスへの単一細胞懸濁の前立腺内(直生)注入を含む。前立腺内腫瘍は末梢血中または直生腫瘍から離れたほかの部位での前立腺癌細胞の検出を許すのに十分な時間成長させられる。培養異種移植片細胞由来の単一細胞懸濁液は前立腺内(直生)移植にも用いられる。
【0020】
本発明のこの様態は微小組織転移の発達に対する、ある変数の効果の試験の枠組みを提供する。そのような変数は腫瘍の周辺環境中のホルモンまたは他の成長調節因子の存在または不存在、腫瘍細胞中の様々な遺伝子の発現状態などを含む。例えばアンドロゲン依存性およびアンドロゲン非依存性の異種移植片保持体の微小組織転移の割合は評価された。そのような評価は、アンドロゲン依存性および非依存性の系統のLAPC-4異種移植片を用い、アンドロゲン非依存性LAPC-4異種移植片を有するマウスにおいて有意に高い割合を示すことを実施例3に記載される。
【0021】
この点において、本発明は前立腺癌微小組織転移の進行に対する様々な遺伝子の機能または効果を決定するための試験法を提供する。ある様態において、試験は前立腺癌異種移植片(例えば皮下、または前立腺内)から前立腺癌細胞を単離し、形質転換され、細胞が発現または過剰発現するように興味の遺伝子を細胞へ形質転換し、SCIDまたは他の免疫欠損マウス中において皮下または前立腺内異種腫瘍移植片確立するために形質転換細胞を使用し、血中、骨髄、リンパ腺、および/または他の一次異種移植片から離れた部位における前立腺癌細胞の検出によって微小組織転位症の存在およびレベルを評価することを含む。微小組織転移の割合に対する遺伝子発現の影響は対照の非形質転換前立腺細胞で構築した異種移植片と対比することで決められる。別の様態においては、試験は、前立腺癌異種移植片(例えば、皮下、前立腺内)を産生し、in vivoで興味の遺伝子を異種移植片細胞に形質転換し、微小組織転移の存在またはレベルを評価することを含む。ここにおいて微小組織転移の割合は提唱の異種移植片と比較することで決定され得る。
【0022】
同様に、本発明は微小組織転位症の進行に対する治療的化合物または治療の候補の効果を決定するための試験を提供する。ある様態においては、試験は化合物または治療の皮下ヒト前立腺癌異種移植片を有するSCIDマウスに対する適用、末梢血、リンパ節、骨髄、および/または他の異種移植片から離れた部位における前立腺癌細胞の存在またはレベルをモニターすることによる微小組織転移に対する治療の効果の決定が含まれる。別の様態において前立腺内異種移植片保有SCIDまたは他の免疫欠損マウスが微小組織転移に対する治療の効果の決定に用いられる。
【0023】
本発明のこの様態は、局所的進行性または微小組織転移前立腺癌の患者の診断法におけるモデルの使用を含む様々な臨床的適用を有し得る。例えばある様態における方法は患者からの前立腺癌試料の免疫不全マウス皮下への移植、および移植試料のマウス中で異種移植片として成長させることを含む。異種移植片の成長率および微小組織転移の発達は診断用指標として用いられる。このような解析の結果は腫瘍学者が患者の治療法を決定するときの助けとなり得る。
前立腺癌微小組織転移を擬態するモデル
本発明の別の様態は、前立腺癌における組織転移造骨細胞病変(骨転移)の発達の模倣および研究のモデルおよび方法を提供する。異種移植腫瘍片の皮下成長は検出できる微小組織転移につながり、SCIDマウス中の異種移植腫瘍片由来の細胞が一次腫瘍増殖の部位から出て、血中および骨髄腔を循環することを示しており、ヒトの臨床的状況を反映している。ある様態においては、前立腺癌骨転移の発達のシミュレーションは、SCIDマウス(または他の免疫欠損マウス)中で成長した前立腺癌皮下異種移植片から調製した前立腺癌細胞の単一細胞懸濁液を別のSCIDマウス(または他の免疫欠損マウス)へ注入すること、および、直生腫瘍のマウス中での骨転移が検出できるのに十分な時間の間の成長させることを含む。または、皮下前立腺癌異種移植片はそのような単一細胞調製物で確立され、成長させられる。骨転移の検出は、組織学、免疫組織化学、放射線学などを含む様々な方法で達成され得る。
【0024】
皮下および直生腫瘍は概して成長が速く、ある大きさまで達すると宿主動物はおよそ4-6週間以内で死亡する。故に骨髄中の前立腺癌細胞数を増加させ、この制限を回避する別の方法が提供される。ある様態において、異種移植腫瘍細胞または組織培養中の異種移植組織片から調製した単一細胞懸濁液はSCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄腔(例えば、脛骨)に直接注入される。微小組織転移の発生、骨髄腫瘍成長、および造骨活性は、免疫組織化学、および骨切片の組織内ハイブリッド形成法、または放射線映写法を含む様々な方法でモニターされる。
【0025】
実施例6に記載されるように、皮下腫瘍より調製された10,000異種腫瘍移植片細胞の単一細胞懸濁液は、SCIDマウスの脛骨に注入された。注入した細胞の一部は2週間目で検出可能でになり、4週間目で数個の領域中の骨腫瘍成長の小さなフォーカスが生じ、6-8週間目で目に見える骨腫瘍成長、骨皮質の破壊、および正味の新生骨形成が生じた。結果として、本発明のヒト前立腺癌異種移植片より単離した細胞はSCIDマウスの骨髄腔の微小環境中で増殖可能である。
【0026】
前述の方法は造骨細胞骨障害の形成および疾病のこの段階手の進行の優れた擬態モデルを提供する。このモデルは前立腺癌のこの段階への進行に関わる分子的、細胞的出来事の研究だけでなく、様々な治療的遺伝子、タンパク質、および他の化合物の候補の効果の試験にも用いられ得る。さらに、ヒト患者より得られた前立腺癌細胞の転移能および造骨能の診断の試験に用いられ得る。
【0027】
結果として、本発明はまた、前立腺癌骨転移の進行に対する様々な遺伝子機能または効果の決定の試験法を提供する。ある様態において、試験は前立腺癌異種移植片(例えば、皮下、前立腺内、骨)からの前立腺癌細胞の単離、形質転換した細胞が発現または過剰発現するような目的遺伝子の細胞への形質転換、SCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄腔への形質転換した細胞の導入、および造骨細胞転移病変の存在およびレベルのモニターを含む。骨転移の発達および成長に対する遺伝子発現の効果は、好ましくは同じ親の異種移植片の非形質転換細胞を用いた対照動物との比較で決定される。別の様態において試験は、別のSCID(または他の免疫欠損)マウス中で確立した皮下または前立腺内異種移植片より単離した前立腺細胞の単一細胞懸濁を注入することによりSCID(または他の免疫欠損)マウス中で骨髄異種移植片を合成すること、骨髄異種移植片の細胞にin vivoで目的遺伝子を形質転換すること、および造骨細胞転移病変の存在およびレベルに対する遺伝子の効果の評価を含む。
【0028】
さらに、本発明は治療的化合物または治療の候補の前立腺癌骨転移に対する効果を決定するための試験法を提供する。ある様態において、試験は前立腺癌異種移植片細胞の脛骨内注入したSCIDまたは他の免疫欠損マウスに化合物または治療を適用すること、前立腺癌細胞および/または造骨細胞転移病変の存在またはレベルの脛骨髄におけるモニターによる骨転移の進行に対する治療の効果の決定を含む。骨髄中の前立腺癌細胞の存在は組織学、免疫化学、またはPSA mRNAまたはタンパク質の存在の試験を含む様々な方法で検出され得る。造骨細胞転移病変は組織学、放射線学、または他の映写技術により検出される。
【0029】
本発明のこの様態は、局所的進行前立腺癌患者の診断法、および特に患者の転移症の進行を予測法における、本モデルの使用を含む、様々な臨床的適用を有する。例えば、ある様態において方法は患者の前立腺生検物質から調製した単一細胞懸濁液の免疫欠損マウスの骨髄への直接注入、そして骨病変の発達の骨髄のモニターを含む。骨病変成長の割合および造骨活性は診断の指標として用いられ得る。そのような解析の結果は局所進行症の患者を治療法を決める際、治療にあたる腫瘍学者の助けとなり得る。
【0030】
同様に、患者における局所的進行症または転位症の管理の様々な治療的方法の効果は予測され得る。例えば治療法の効果は患者の前立腺癌細胞を骨髄に注入した免疫欠損マウスへの治療の適用により予測され得る。治療の効果は試験マウス中の骨病変成長量および造骨活性の割合の、対応する骨髄注入を施した未治療対照マウスとの比較でモニターされ得る。さらに、患者の腫瘍物質中のアンドロゲン非依存性クローンを選択するためメスまたは去勢したオス免疫欠損マウスを用いて、この方法はアンドロゲン非依存性性前立腺癌細胞に対して治療の効果を試験するために用いられ得る。このような試験結果はいくつかの代替的治療のどれが特に患者の疾病に対し用いるべきか決めるとき腫瘍学者の助けとなり得る。
異種移植片腫瘍細胞の短時間培養
異種移植腫瘍細胞は、該当技術分野において通常の知識を有するものに知られる短時間癌組織培養技術を用い増殖され得る。さらに、異種移植片腫瘍からの異なるクローンは組織培養技術により単離される。この点において、本発明は異種移植片腫瘍組織試料より単一細胞懸濁液を調製する方法を提供する。ある様態において、実施例2に記載する方法または同様の方法により、異種移植片腫瘍組織は外科的に皮下異種移植腫瘍より除去され、分離拡散され、タンパク質消化酵素的に消化される。次に細胞はマトリゲル、他の基底膜化合物、塩溶液、他の緩衝液の溶液に懸濁される。例えば皮下埋込、前立腺内注射、または骨髄系への直接的注入などにより、SCIDまたは他の免疫欠損マウス中で新たな腫瘍を確立させるのに、このような調製物は有用である。細胞懸濁液はSCIDまたは他の免疫欠損マウス中で成長する、皮下、前立腺内、骨、または他の直生腫瘍成長から調製される。
前立腺癌細胞量の増殖および精製法
発明の別の様態は進行した段階の前立腺癌細胞を増殖する方法、異成分からなる細胞から比較的純粋な前立腺癌細胞を調製する方法、およびin vivoまたはin vitroで段階特異的前立腺癌細胞を増殖させる方法を提供する。一次腫瘍試料の細胞組成中は不均質であり、正常細胞やストローマ細胞が混合している。さらに、ヒト組織生検物質から前立腺癌細胞の一部分を得ることは困難である。反対に、SCIDマウス中で成長した皮下前立腺腫瘍から集めた細胞はもともと優位に前立腺癌細胞を含む。ゆえに、発明のモデルは不均質な生検物質から進行した段階のヒト前立腺癌細胞を精製する方法を提供する。
【0031】
さらなるマウス中での異種移植腫瘍の連続的継代は、異種移植細胞の組成の前立腺癌特異性を増強するのに用いられる。同様に連続的増殖などにより、比較的純粋なヒト前立腺癌細胞を連続的な増殖等により、免疫欠損マウス中で連続増殖させる能力は、大量の限定した前立腺癌細胞を得る方法を提供する。
【0032】
ある様態において、異種移植腫瘍から回収した組織は更なるSCIDまたは他の免疫欠損マウス中での連続的継代により増幅される。別の様態において、異種移植腫瘍からの細胞はin vitroで培養される。また別の様態においては、前立腺癌細胞の単一細胞懸濁液はそのような培養した細胞または異種食腫瘍組織から直接調製される。タンパク質分解酵素で消化した皮下異種移植腫瘍片から調製した単一細胞懸濁液は、もとの腫瘍の生物学的特性を保持する。単一細胞懸濁は、例えば新たな皮下腫瘍、前立腺内腫瘍、または骨腫瘍などの確立に用いられる。
【0033】
腫瘍細胞増殖は特定の表現型を持つ細胞が増殖するように設定された環境に選択因子は添加され得る。たとえば、in vivo環境のアンドロゲンの存在は、アンドロゲン依存性または非依存性前立腺癌細胞の選択のために、該当技術分野で通常に用いられる化学的または外科的去勢法により制御される。同様にin vitroの環境中で成長培地中のアンドロゲンの不在はアンドロゲン非依存性性前立腺癌細胞の選択のため用いられる。さらに皮下異種移植片の腫瘍細胞上の細胞表面タンパク質の存在は他の細胞からヒト前立腺癌細胞の区別および単離に用いられる。特に前立腺癌細胞上に特異的に発現している表面タンパク質(ネズミ骨髄細胞上におけるそれらの発現に関し)に対する抗体は、抗体に基づく細胞選別または親和性精製技術を用いて、異種移植腫瘍組織、培養中の細胞などから前立腺癌細胞を単離するのに用いられる。抗体に基づく細胞選別にもっとも好ましいのは、細胞表面タンパク質に対する抗体がヒト前立腺癌特異的であることである。しかし他のヒトタンパク質に対する抗体は、ネズミ類似タンパク質と交差反応性を示さない条件であるなら、効果的に用いられる。そのようなタンパク質の例は、ヒトゲラクチン-6である。
【0034】
大量の比較的純粋な進行した段階のヒト前立腺癌細胞の合成は、組織培養中でまたはSCIDまたは他の免疫欠損マウス中で異種移植腫瘍片として増殖可能であり、例えば様々な形質転換遺伝子または治療的化合物の同量の前立腺癌細胞に関し、成長または他の表現型的特性に対する相対的評価をゆるすなど、多くの有益点を提供する。さらに、発明のこの特徴は、様々な分子操作に対し十分な量のヒト前立腺癌特異的核酸の高純度調製の単離を許可する。例えば、そのような大量の核酸調製は前立腺癌疾患進行に生物学的に関連したまれな遺伝子の同定を助けとなり得る。
【0035】
他の発明のこの様態の有益な適用は、個々の局所的に進行した、または転移症を伴う患者からの生きた純粋前立腺腫瘍細胞クローンの調製を用いて、解析および試験する能力である。この方法において、例えば個々の患者の前立腺癌細胞は限られた生検試料から増殖され、診断的および予後的遺伝子、タンパク質、染色体異常の存在、遺伝子発現状態、または他の異常なゲノム型および表現型的特徴について、混乱を引き起こし得る様々な細胞の混合なしに試験される。さらにそのような細胞は、本発明の皮下、直生、および骨腫瘍モデルにおいて、新生物形成の侵略性および転移能について評価され得る。発明のこの様態は、最適な患者特異的治療養生法の設定を視野に入れた代替的治療様式の試験法を提供する。同様に、患者特異的前立腺癌ワクチンおよび細胞性免疫治療はそのような細胞調製から作られ得る。本発明の前立腺癌モデルはさらに、微小組織転移および造骨細胞前立腺癌細胞を含む段階特異的前立腺癌細胞の単離法を提供する。ある様態において、微小組織転移細胞は骨髄などのような造血組織または血液から抗体に基づく細胞選別または親和性精製技術を用いて、単離される。他の様態において、造骨前立腺癌細胞は、骨病変を有するSCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄より単離される。そのような骨病変の存在は組織学、免疫組織化学、または放射線学的に検出され得る。段階特異的前立腺癌細胞はさらに続くSCIDまたは他の免疫欠損マウスへの再移植により増殖および精製される。例えば、造骨前立腺癌細胞は骨髄への再注入によりin vivoで副培養されるか、または成長基質として骨基質を用いてin vitroで副培養される。
【0036】
実施例3に示した実験手順に示すように、少数の微小組織転移前立腺癌細胞は検出可能であり、皮下前立腺癌異種移植片を有するSCIDマウスの骨髄から単離できる。これらの前立腺癌細胞は宿主マウスの骨髄のおよそ1%以下の細胞しか存在しないが、前述のような細胞精製法を用いてそれらは単離され、増殖される。ある様態において、皮下異種移植片を有するマウスから集めた骨髄は、ガレクチン-6に対するヒト特異的モノクローナル抗体および磁気ビーズを結合した2次抗体とともに保温される。前立腺癌細胞はミルテニル磁気ミニマックスカラム(Sunnyvale,CA)を用いて、磁気的に抗体陽性細胞はカラム中にとどめ、一方抗体陰性細胞は流れ出て通過することを許可することで、単離される。この方法で単離された少数の微小組織転移前立腺癌細胞はSCIDまたは他の免疫欠損マウス中へのマトリゲル懸濁液の皮下埋伏により成体内増殖がされる。造骨前立腺癌細胞は同様に骨髄病変より直接単離される。
【0037】
段階特異前立腺癌細胞の精製および増殖能力は様々な臨床的適用を有し得る。例えば、臨床器具中の段階特異的前立癌細胞は細胞選別または精製技術を用い単離され、SCIDまたは他の免疫欠損マウス中において、特異的目的に応じて皮下、前立腺内、または骨腫瘍として増殖される。ある様態において微小組織転移は患者の血清より単離され、単一細胞懸濁に処方され、これらの細胞の増殖のため皮下に注射される。他の様態において、微小組織転移細胞はこれらの造骨特性を伴う細胞の増殖の目的で、SCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄に注入される。このような方法の前立腺癌細胞の培養は骨髄中の微小環境中の様々な因子により調和された状態となり、造骨病変を形成し、更なる使用または解析のために回収される。
連続的細胞系
本発明はまた、異種移植片細胞調製の培養により確立した、ヒト前立腺癌連続的細胞株を提供する。ある様態において、細胞株は皮下異種移植片から培養したヒト前立腺癌細胞を含む。実施例9の方法に記載した特異的様態において、LAPC-4細胞株はLAPC-4異種移植片から調製した単一細胞調製の培養により確立された。LAPC-4細胞株系はPSA、アンドロゲン受容体(AR)を発現し、アンドロゲン依存性である。LAPC-4細胞系は連続培養中で1.5年間成長し続け、他のいかなる利用可能なヒト前立腺癌細胞株よりもヒト臨床的状況に近い表現型的特徴を示す。
【0038】
発明の細胞株は多くの目的で利用され得る。これらに限定することを意図するものではないが例えば、細胞系は大量の核酸およびタンパク質の提供源として、および治療的形質転換遺伝子、タンパク質、および化合物の候補の検索および評価に、および前立腺特異的または差異のある発現をする遺伝子の同定および単離の道具として用いられ得る。前立腺癌細胞の成長を制御する遺伝子はin vitroまたはin vivoにおいて形質転換体内で過剰発現することで評価されることができる。遺伝子の微小組織転移、および造骨細胞骨病変の発達に対する効果はin vivoで、皮下、前立腺内、または脛骨内への形質転換細胞の埋伏により評価され得る。
実施例
以下の実施例の方法およびそこにある実験的詳細により、発明はさらに記載および説明される。この節は発明の理解の助けを目的とし、主張に発明を限定することを意図するものでなく、そのような解釈をすべきでない。
実施例1 前立腺ガン進行を刺激する皮下ヒト前立腺ガン異種移植片の産生
材料及び方法
患者:全ての臨床材料はIRB認証プロトコールに基づいたインフォームドコンセントを得た後、局部的進行または転移(CまたはD段階)患者より得た。大部分の患者は何らかの形態のアンドロゲン除去療法(薬理的または外科的)をすでに受けており、組織試料採取時には進行性疾病を示していた。
動物:C.B.17 scid/scid(SCID)マウスは以前に記載された(Aldrovandiら.,Nature 363:732-736(1993))無菌的条件の元、UCLAで飼育された。外科手術時に得た生体組織材料は氷上に置かれ、即座にSCIDマウス設備に移植のために移送された。外科用メスで組織を2-3mm3断片に細切し、SCIDマウスの横腹に皮下移植した。マウスは移植前にメトキシフルランにより麻酔された。最初の移植は100-200μlのマトリゲル(Collaborative Research,Bedford,MA)を移植片周辺に注射し、行われた。マトリゲルは細胞外マトリックス調製物で、上皮腫瘍の生育をin vivoで増強するのに役立つ(Pretlow(1993),上述: Noelら., BiochemicalPharmacology 43:1263-1267(1992) andLimら., Prostate 22:109-118(1993))。一つの異種移植片を2-3回継代後は、マトリゲルは連続増殖のためには用いなかった。アンドロゲン除去は麻酔下における外科的去勢により行われた。腫瘍の大きさは週ごとにカリパスで高さ、幅、深さを計測することにより決定された。実験の一部では、持続放出性テストステロンペレット(Innovative Research ofAmerica, Sarasota, FL)を、製造者が推奨のように皮下移植した。異種移植片は生育可能なように、DMSOを含む培地中で1-2mm3の細切された組織断片を凍結することにより、液体窒素内に保存した。
【0039】
PCR解析、組織学及び免疫化学:腫瘍組織由来のDNAは、Sambrookら., Molecular Cloning: A Laboratory Manual. Cold Spring HarborLaboratory Press.第2版(1989)により示されたように、SDS界面活性剤抽出及びプロテイナーゼK消化を用いて調製された。RNAはグアニジンチオシアネートおよびβ-メルカプトエタノールを含む商業的に入手可能なキットを用いて抽出された(RNAgents トータルRNAアイソレーションシステム Promega)。粗組織片の汚染を避けるため、剖検時に用いられた組織ホモゲナイザー及び全ての外科器具は、塩酸、DEPC処理水、及びエタノールによる洗浄により連続洗浄された。ヒトβ-グロビンに対するDNA-PCR解析(Aldrovandi ら.,上述および Saikiら., Science230:1350-1354(1985))及びPSAに対するRT-PCR解析(Pang ら,. Hum. GaneTher. 6:1417-1426(1995))は以前に記載されたように行った。簡略には、ヒトβ-グロビン遺伝子特異的プライマーを用いたPCR解析は、LAPC異種移植片から単離された100ngのゲノムDNAにより30サイクル行われた。各反応混合物の十分の一がアガロースゲル電気泳動により解析され、臭化エチジウム染色により視覚化された。ネズミ3T3細胞は負の対照として用いた。全RNA試料の質は、リボソームRNAの臭化エチジウム染色及び、β-アクチンプライマー(Pang ら,.上述)をコントロールとして用いたRT-PCRにより確認した。プライマー配列の詳細は参考文献中にある。PSA発現のRT-PCR解析はヒトPSA特異的プライマーを用い、100ngの全RNAで行った。同一のRNA試料はゲルに同量泳動されているかを確認するために、ヒトまたはネズミβ-アクチンを認識するプライマーを用いて解析された。PSAに対する免疫組織化学的染色は記載されたように(Hau ら., Am.J. Clin.Path. 75:734-738(1981)) 、PSAに対するポリクローナル抗血清を用いて行った。
【0040】
アンドロゲン受容体DNAの配列決定:アンドロゲン受容体のエクソン2-8がイントロン特異的PCRプライマー(Marcelliら., Mol.Endocrinol. 90:1105-1116(1990))を用いて、ゲノムDNAより配列決定された。PCR産物はまず、記載された通りの適切な正及び負の対照(Sutherlandら., J. Urol.156:828-831(1996))を用いたSSCPにより選別された。この技術は、腫瘍細胞がゲノムDNAを作成するために使用した集団中20%しか占めない場合でも、前立腺癌臨床組織標本中の変異を検出することが示されている。全てのSSCP異常は配列決定により解析された。二つの独立のDNA試料が二つの独立の研究室において何らかの変異の存在を除外するために解析された。
【0041】
細胞遺伝学:腫瘍組織は無菌的に、10%ウシ胎児血清を加えたDMEM増殖培地中で、一晩でユタ大学に細胞遺伝学的調製と解析のために輸送された。簡潔には、組織は細切され、Hanks平衡塩溶液中(Ca++及びMg++を含まない)で洗浄され、ウシ胎児血清を加えたRPMI培地に再懸濁され、細胞は16hの0.001μg/mlコルセミド処理により分裂中期で停止させられた。細胞遺伝学的細胞回収は標準的な方法を用い、低張の(0.075M)KC処理及び3:1メタノール/酢酸固定の後切片が調製され染色体はトリパイン/ライツ染色によりG-バンド化された。
結果:
進行段階前立腺癌外植片はSCIDマウスで連続的に増殖可能である:局所進行性または転移性腫瘍組織の生体組織検査は、疾病の合併に起因する緩和性外科的手法を経験した局所進行性または転移性(C、D1またはD2段階)の前立腺癌を有する合計15人の患者から得た。生体組織材料は外科施設からSCIDマウス施設に直ちに輸送され、2-3mm3断片に細切され、マトリゲル存在下でSCIDマウスの皮下に移植された。腫瘍の成長は、大きさで2-3倍の増加を維持した場合にのみ陽性とされた。組織学的研究に加え、各異種移植片がヒト由来の腫瘍であることを証明するために二つの分子的解析が行われた。これは、ヒトβ-グロビン遺伝子特異的プライマーを用いたゲノムDNAのPCR、及びヒトPSA遺伝子特異的プライマーを用いた腫瘍由来RNAの定量的RT-PCRを含む。PSA発現分析は外植片が前立腺由来であることを証明するためにも用いた。
【0042】
二つの独立した一連のこれら15人の患者由来の腫瘍組織試料の皮下移植により得られた結果は、以下に個別に記載する(即ち、LAPC-1からLAPC-8シリーズ及びLAPC-9からLAPC-15シリーズ)。
LAPC-1からLAPC-8シリーズ:
8人中6人の患者由来の外植片(ロサンゼルス前立腺癌の意でLAPC 1-8と名付けた)は2-10ヶ月の間の潜伏期の後腫瘍を形成した(表1)。成長した6種の外植片は、恒久的異種移植片を確立するために二次受容者に移植された。これらのうち2種(LAPC-1及びLAPC-5)は、腫瘍におけるヒトDNAまたはPSAの発現を検出することが不可能であったため、3-4回の移植で終了した。これらの外植片はLAPC-5の初期の段階ではヒトDNA内容物を含みPSAを発現していたので、おそらくネズミ由来の細胞が増殖しすぎたのであろう(表1、カラム6、7)。
【0043】
残る4種の外植片(LAPC-3,4,7及び8)は皮下異種移植片として二次移植者において4ないし20回(またはそれ以上)の継代回数で、首尾よく増殖した。RT-PCRを用いて、PSAのmRNA発現量を測定して、PSAのmRNA及びタンパク質を発現することが知られている前立腺癌細胞系統であるLNCaPと比較した。この分析は半定量的であり、105のマウス細胞に希釈(1000中の1、または0.1%)された100のLNCaP細胞から発現されるPSAのmRNAを検知可能である(図1B、上パネル)。6種の異種移植片のうち4種(LAPC-3,4,5,8)は、ヒトPSAをLNCaP細胞から検出される量の1%から100%の幅の量で発現した(図1B、上パネル)。同時に行ったβ-アクチンプライマーを用いたRT-PCR解析により、各反応において同量のRNAが存在することが確認された(図1B、下パネル)。図2は、オスマウスにおける異種移植片として継代した後のものと、手術後の時点で得られた元のLAPC-4腫瘍試料との組織学的比較を示す。ヘマトキシリン及びエオシンにより染色した切片(図2、左パネル)は免疫組織化学的解析を用いたPSA染色陽性の均一な未分化細胞集団を示す(図2、右パネル)。これらの発見により進行段階の前立腺癌外植片がSCIDマウスにおいて連続的に増殖可能であり、限定的組織特異的遺伝子の発現を保つことが示される。
【0044】
【表1】
【0045】
これらのシリーズにおける2種の異種移植片、LAPC-3及びLAPC-4は、各々6及び8回以上の継代を経ても前立腺癌の組織学的及び分子的特徴を保持し続けた。両異種移植片は腫瘍外植片として生育可能であるよう凍結され、100%近い高率で解凍により復帰させることが可能である。LAPC-4異種移植片由来の細胞系列は、20%ウシ胎児血清を加えたIscovの増殖培地における細切された異種移植片組織を、トリプシン処理して連続継代することにより確立された。LAPC-4細胞系列は20回以上の継代の後にも確立状態を持続し、18ヶ月以上連続的に培養されている。これらの細胞はPSAの発現、SCIDマウスにおける腫瘍の形成、アンドロゲン感受性を継続した。
LAPC-9からLAPC15シリーズ
異種移植実験の第2シリーズは追加の7種の進行性段階(CまたはD)疾病の前立腺癌の患者由来の組織試料の移植により実施された(表2)。これら7種の移植片うち4種は、追加的マウスにおいて、PSAを発現し連続的増殖が可能なアンドロゲン感受性異種移植片を生成する結果を残した(LAPC-9,12,14,15)。ホルモン不応答性転移疾病を有する患者の骨腫瘍生体組織検査より生成されたLAPC-9異種移植片は、極度のアンドロゲン感受性表現型(PSAレベルは、去勢の後0に落ちる)を示し、継代され1年程度生存状態で維持された。転移性疾病を有する患者の前立腺腫瘍生体組織検査より生成されたLAPC-14異種移植片は、精力的増殖の特徴を示し、高度のアンドロゲン感受性を示した(テストステロンの添加により生育が十分に増強される)。
【0046】
【表2】
【0047】
LAPC-3及びLAPC-4異種移植片は染色体異常を含む:
ヒト前立腺癌の広範囲の細胞遺伝学的研究は、手術により得られる臨床素材の不均一性、及びin vitroでの前立腺腫瘍細胞の限定的生育により、困難であった。SCIDマウスにおける前立腺腫瘍組織の継代が核型の解析を促進するかを決定するために、LAPC-3及びLAPC-4異種移植片由来の初期継代腫瘍は、標準的細胞遺伝学的技術を用いて解析された。高度の細胞分裂収量は両者の異種移植片由来の腫瘍試料より得られ、及び全ての分裂中期細胞はヒト染色体を含んでいた。詳細な混合核型は表3に示した。LAPC-4の形態上染色体数は89であった、これは低4倍体であることを支持する、一方LAPC-3の形態上染色体数は69であった、これはこの系列は3倍体近傍であることを示す、しかし多くの染色体が4コピー存在することは4倍体から減少した可能性を高めている。両異種移植片は以前報告された、Y及び16の欠損等の計算上及び構造上の染色体異常を示した。加えて、両異種移植片は染色体12p12の欠損という前立腺癌において以前報告されていなかった核型異常を含む。
【0048】
【表3】
【0049】
LAPC-4異種移植片のアンドロゲン非依存性の進行:
前立腺癌細胞はアンドロゲンの増殖刺激効果に非常に感受性である、しかしアンドロゲン枯渇の選択圧の元にある患者においてはアンドロゲン非依存的疾病が結果的に発達する。このアンドロゲン非依存的成長への移行の機構は不明である。疾病のこの段階がSCIDマウスにおいてモデル化可能であるかという疑問は、オスマウスにおける連続継代で100%の頻度で腫瘍を再現的に形成するLAPC-4異種移植片を用いることにより決定された。異種移植片のアンドロゲン依存性は、健全なオスマウスにおける移植後の成長率と、去勢オスマウスまたはメスマウスから得られる成長率を比較することによりin vivoで計測された。LAPC-4では、去勢オスマウスまたはメスマウス(n=10)では腫瘍形成の平均時間が13.4週間であるのに対し、健全なオスマウス(n=14)では4.3週間であった(図3)。メスマウスでの遅い成長は、90日間除放性のテストステロンペレットのを移植すると逆転した( 図3)。メスマウスまたは去勢オスマウスにおけるアンドロゲン非依存性腫瘍成長は二次的移植実験により確認された。一度確立されると、これらの腫瘍はオス、メス及び去勢オスマウスにおいて4-6週間以内に成長した。
【0050】
LAPC-3異種移植片はLAPC-4のアンドロゲン非依存的副系列に類似の成長特徴を示した。第1継代の最初の潜伏期の後、LAPC-3腫瘍は受容者のホルモン背景に関わらず7-8週間以内に成長し、明らかにこの異種移植片はアンドロゲン非依存的であると確定した。
【0051】
臨床的には、抗アンドロゲン療法は多くの進行前立腺癌患者において一時的な疾病の抑制効果がある。マウスモデルにおいて同様の効果が観察できるか決定するために、オスマウスにおいて成長している確立した腫瘍への急激なアンドロゲン除去効果を検査した。同一の大きさのLAPC-4異種移植片を14のオスマウスの一群に移植した、これら全ては4週間後には簡単に計測できる腫瘍を形成した。これらのマウスのうち半分は去勢を行った、その後各群の3次元方向における腫瘍直径のカリパスでの計測を週ごとに行った。非去勢マウスにおける腫瘍は、2-3週間の時点で大きさが倍になった(図4)。これに対し、去勢マウスでは、2-3週間持続する約50%の腫瘍の大きさの減少が一週間後には示された。これらの腫瘍は様々な潜伏期(3-8週間)の後再び成長を始め、結果的には非去勢マウスにおいて観察されるのと同じ大きさに成長した。これらの結果によりLAPC-4異種移植片はアンドロゲン依存的成長を示すこと、アンドロゲン非依存的副系列が発生しうること、及びこの異種移植片はアンドロゲン感受性からアンドロゲン非依存的疾病への臨床的移行を疑似することが示された。
LAPC-3及びLAPC-4は野生型アンドロゲン受容体を発現する:
同様の変異がLAPC-3及びLAPC-4に存在するかを決定するために、アンドロゲン受容体遺伝子のDNA結合及びリガンド結合領域にわたる、エクソン2-8が配列決定された。一本鎖構造多型(SSCP)解析も同様に行われた。各エクソンは、初期及び後期継代腫瘍のゲノムDNAよりPCRにより増幅され、以前に同定された変異型及び野生型アンドロゲン受容体DNA(Sutherlandら., 1996)を正の対照として使用し、解析された。結果によりLAPC-3及びLAPC-4両者がエクソン2-8において野生型配列を有することが示される。さらに、これらの配列はアンドロゲン非依存的LAPC-4副系列においても保持される。免疫ブロット解析により、適切な大きさのアンドロゲン受容体タンパク質が確認された。これらの結果はアンドロゲン非依存的前立腺癌進行は、アンドロゲン受容体のDNAまたはリガンド結合領域における変異なしで起きることを提供する。
LAPC-4細胞は効率的にレトロウイルスを導入可能である:LAPC-4異種移植片細胞は両親媒性エンベロープタンパク質と共に293T細胞に一時的にパッケージされたレトロウイルスにより首尾よく導入可能である。LAPC-4細胞を細胞表面にThy-1タンパク質発現するレトロウイルス系統に感染させ、発現はThy-1に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより検知した。その結果、Thy-1発現は感染後48hで50%の細胞にのぼった、これはThy-1遺伝子がLAPC-4細胞にレトロウイルスを介し首尾よく導入できたことを示す。
実施例2:異種移植片細胞の単一細胞懸濁液の調製
材料及び方法
皮下LAPC-4腫瘍の単一細胞懸濁液は以下のように調製された。SCIDマウスから異種移植片組織を除去した後、組織は1×のIscov培地に浸している間に組織を1-2mm3の断片に細切され、その後細切した組織に1.3K rpm、4分の遠心分離を行ない、上清は10mlの氷上で冷やした1×のIscov培地に再懸濁し、1.3K rpm、4分の遠心分離を行った。沈澱は0.1%のプロネースEを含む1×のIscov培地に再懸濁し、氷上で2-4分間の保温の後室温で18分間保温した。混合物は200μmナイロンメッシュフィルターを用いて濾過した。濾過は1.3K rpm、4分の遠心分離で行われ、上清を吸引後の沈殿を10mlのIscovへ再懸濁し、及び再遠心分離して、プロナーゼを吸引除去した。最終的な沈澱は37℃で前保温されたPrEMGに再懸濁した。細胞数を決定し、限界希釈を図5に示されるよう調製した。
結果:
LAPC-4異種移植片の単一細胞再懸濁液を用いた腫瘍移植の限界希釈解析の結果は図5に示される。結果により、異種移植片細胞の単一細胞再懸濁液は10個程度のLAPC-4細胞の注入後のオスマウスにおいて皮下腫瘍を形成可能であること、これらの細胞は元の腫瘍のアンドロゲン感受性を保持することが示された。
実施例3:皮下腫瘍を保持するSCIDマウスにおける微小転移の進行のシミュレーション
材料及び方法
LAPC-4異種移植片を本研究において用いた。この異種移植片は転移前立腺癌細胞を含むリンパ節に由来し、皮下にLAPC-4細胞を接種されたオスマウスの100%が骨転移の証拠を有することなく4-6週間後には局部腫瘍を形成する。LAPC-4腫瘍を移植されたSCIDマウスにおける微小転移の存在は末梢血の前立腺癌細胞はPSAのmRNAのRT-PCR解析することにより決定された。同時に行ったβ-アクチンプライマーを用いたRNA-PCR実験により同量のRNAを泳動したことが確認された。PSA
mRNA陽性シグナルは、RNA調製中の剖検操作中の腫瘍細胞の汚染によるものではないことを確認するため、試料は異種移植片を移植されていない対照マウスから同時に調製された。オートラジオグラフの露光時間延長の後でさえ、対照マウスからはPSAの発現は検知不可能であった(図6)。LAPC-4腫瘍を皮下移植されたマウス由来の骨髄、脾臓、肝臓、肺及び腎臓組織についても、PSAのmRNAを検知するためのRT-PCRを用いることにより前立腺癌細胞の存在が解析された。
結果
二種のマウス(図6A、マウスnos 213及び241)由来の解析の実施例は血液におけるPSAのmRNAを0.1-1.0%のレベルで検知する、これは臨床実験において報告されたレベルに匹敵する。他の組織は、骨髄(マウス213,241)、肺(マウス214)及び脾臓(データは示さない)を含め、数匹のマウスにおいて陽性であった。LAPC-4異種移植片を有する12匹(表4)由来の結果により、マウスの50%は、末梢血、骨髄または脾臓においてPSAのmRNA陽性細胞を有していることが示された(RT-PCRによるPSA発現量は0.1%またはそれ以上)。発現量は、ネズミ繊維芽細胞中に希釈した、一連のLNCaP細胞との比較により概算的に定量化され、0.1%から1.0%の間で分散した。微小転移性疾病を検知する頻度は、健全なオスマウス(27%)と比較すると、メスマウスまたは移植前に去勢されたオスマウスでは高かった(80%)。これらの結果により、アンドロゲン非依存的疾病への移行は高度な転移率を伴うことを示唆し、この仮説は臨床実験によっても支持される。
【0052】
【表4】
【0053】
実施例4:異種移植片細胞による前立腺内腫瘍の発生
材料及び方法
単一細胞懸濁液は実施例2において記載されたとおり皮下異種移植片より調製された。SCIDマウスは移植に先立ち、ケタミン/キシラジンで麻酔した。マウスの下部腹腔において横断切開を行い、腹壁筋を切開し、膀胱及び貯精嚢を背面前立腺露出の切開により導出した。10μlのPrEGMに懸濁した約10,000細胞のLAPC-4を、30ゲージの針により膜下の腹部前立腺に緩やかに注入し、切開部を走性縫合により封止した。
結果
LAPC-4及びLAPC-9異種移植片、及びLAPC-4細胞系統より調製された単一細胞懸濁液の前立腺内注入により、受容者SCIDマウスにおいて100%の効率で直生腫瘍(orthotopic tumor)が生じた。
実施例5:前立腺内腫瘍を有するSCIDマウスにおける前立腺癌の転移性段階への進行のシミュレーション
材料及び方法
LAPC-4異種移植片細胞の単一細胞懸濁液を調製し、一連の実施例において記載されたとおりSCIDマウスの前立腺内の直生腫瘍の確立のために使用した。転移の存在は組織学的実験及び注入後8-12週の間のPSAのmRNAを検知するためのRT-PCRにより確認した。
結果
下記表5に示される結果により、骨髄転移形成の重度の頻度と同様に、リンパ及び肺への高頻度での転移が示される。高頻度の骨転移は、線照射及びNK細胞除去の組み合わせで前処理を行った一群のマウスにおいて観察された。LAPC-9異種移植片を用いても同様の結果が得られた。
【0054】
【表5】
【0055】
実施例6:異種移植片細胞の単一細胞懸濁液を脛骨内接種したSCIDマウスにおけ
る骨髄造骨細胞への進行のシミュレーション
材料及び方法
脛骨注入分析:前立腺癌細胞は皮下LAPC-4異種移植片から単離され、実施例2において記載されたように単一細胞懸濁液として調製した。1μlのマトリゲルに懸濁した1万のLAPC-4細胞は、一群のSCIDマウスの各隣接脛骨転移に27ゲージの針により外科的に注入された。各注入の2、4、6、8及び12週間後に3匹のマウスを犠牲にした。血清PSAレベルは定期的にELISAにより解析された。2週間後凍結骨切片は、ヒトのサイトケラチン-18特異的抗体または同型のコントロール抗体を用いたサイトケラチン-18染色により免疫組織化学的に解析された。4、6、及び8週間後に用いたネズミ由来の脛骨縦切片は脱石灰パラフィルム断片のヘマトキシリン及びエオシン(H+E)染色により腫瘍成長を解析された。マウスのラジオグラフは造骨病巣の証拠を確認するための剖検時に行われた。
結果
2週間後、少数のヒト前立腺癌細胞が抗サイトケラチン-18抗体による免疫組織化学的染色により視覚化された(図7)。サイトケラチン-18陽性細胞は髄腔中に散在して観察された。このデータにより、大部分のマウス脛骨に注入されたLAPC-4細胞は、注入された細胞のごく一部のみが検知できるため、この時点では死んだか他の位置に移動したと示される。
【0056】
4週間後、一般に正常骨片に隣接する少数の点在領域において、H+E組織学(図8)により腫瘍成長の小フォーカスが観察され、PSAが血清より検出された。6及び8週間後の時点で、髄腔でのさらに拡張的な腫瘍成長が、周囲の腫瘍細胞に反応した髄腔内の造骨活性により示される新骨形成の進行的増加とともに観察された(図8B及びC)。血清PSAレベルはこの時点で顕著に増加した。
【0057】
8週間後まで、骨病巣は、ラジオグラフにより、ヒト前立腺癌において臨床的に観察されるのと同様の優性骨形成を伴う、造骨及び破骨病巣の混合物として観察できた。図9を参照すると、左パネルは正常マウス脛骨のラジオグラフを示し、充分明確に認定できる皮質及び相対的に放射線非透過性の髄腔が示される。右パネルはLAPC-4異種移植片細胞を注入した脛骨髄腔のラジオグラフであり、造骨活性による骨密度の不均一な増加及び皮質の一部の欠落が示されている。これらの結果によりLAPC-4異種移植片細胞はネズミ骨において増殖可能であることが示され、これにより種を越えた骨肉腫と前立腺癌細胞との交わりが起こり得ることが示される。
実施例7:皮下異種移植片を有するSCIDマウスの骨髄由来前立腺癌細胞の単離
LACP-4細胞における細胞表層タンパク質ガレクチン-6の存在は、ヒト特異的ガレクチン-6モノクローナル抗体あるいは同型の対照と共にインキュベートした完全なLAPC-4細胞から確認された。この抗体はFITC結合二次抗体と共にインキュベートした後、フローサイトメトリーにより視覚化された。フローサイトメトリーの結果により、少なくとも背景の強度を一オーダー上回る量のガレクチン-6の発現が示された(図10)。マウスの骨髄における同様の実験はガレクチン染色を示さなかった。
【0058】
実施例3において記載されたように、少数の前立腺癌細胞が接種後4-6週間の皮下異種移植片を有するSCIDマウスの骨髄において検出でき、髄における細胞の1%以下程度と示される。この前立腺癌細胞の集団は、抗体に基づくアフィニティー精製系であるミリテニルマグネティックミニマックス(Sunnyvale,CA)及び以下に述べる抗ガレクチン-6抗体を用いて、骨髄から単離できる。皮下にLAPC-4腫瘍を有する20匹のマウスは異種移植片の移植の後4-6週間で安楽死させた。骨髄は、塩水で骨髄を洗浄することにより脛骨及び大腿骨の髄腔から得る。髄をプールし、ガレクチン-6に対するヒト特異的モノクローナル抗体及び磁気ビーズ結合二次抗体と共にインキュベートし、製造者が推奨のようにミニマックスカラムを通過させた。マウス骨髄細胞はカラムを通過するが、LAPC-4細胞はカラムに保持される。次いで、精製されたLAPC-4細胞をカラムから回収し、SCIDマウスにおいて皮下腫瘍に種苗することにより増殖させた。
実施例8:異種移植片細胞を脛骨内に注入したSCIDマウスの骨髄由来の前立腺癌細胞の単離
脛骨内腫瘍は実施例6において記載されたようにLAPC-4細胞を用いて、SCIDマウスにおいて確立された。骨髄において成長するLAPC-4細胞は、12週間後の剖検マウスから、脛骨髄腔を塩水で洗浄し細胞を増殖させることにより回収した。注入後12週間では、回収細胞の約90%は前立腺腫瘍細胞と幾分かの残存したネズミ骨髄細胞である。この一群の細胞から、実施例7において記載されたようにガレクチン-6抗体/磁気アフィニティー精製法を用いることにより、前立腺癌細胞を更に精製可能である。
実施例9:LAPC-4細胞系統は複数の移植を通じPSA、アンドロゲン受容体、及び前立腺の酸ホスファターゼの発現能を保持する。
材料及び方法
継代細胞系統は、20%ウシ胎児血清を加えたIscovの成長培地中でトリプシン処理され、細切された異種移植片組織の連続継代により、LAPC-4異種移植片より確立された。
結果
in vitroでの継代培養において成長するLAPC-4細胞は20回以上の継代を通じてPSA、アンドロゲン受容体、及び前立腺酸ホスファターゼの発現を維持する。加えて、LAPC-4細胞は、アンドロゲン受容体のDNAまたはリガンド結合領域のいずれにおいても変異を含まない、これは既知の前立腺癌モデルと比べ、新規の特徴である。その他唯一のPSA発現細胞系統であるLNCaPは、リガンド結合領域における点変異を有するアンドロゲン受容体を発現する。加えて、LAPC-4細胞は、アンドロゲン非依存性副系統においてもアンドロゲン受容体を発現し続け、これは臨床材料の解析より得られる結果と類似である。LAPC-4細胞系統は、腫瘍がオスマウスにおいては速やかに成長するが、メスまたは去勢オスマウスにおいては成長しないため、アンドロゲン依存性である。LAPC-4細胞系統は20回以上の継代を通じて確立され続け、18ヶ月以上継代培養された。これらの細胞は、PSAの発現、SCIDマウスにおける腫瘍形成、及びアンドロゲン感受性の保持を持続した。
実施例10:in vivoでのアンドロゲン非依存性増殖に対する候補遺伝子の生物学的効果の確認
ホルモン不応答性前立腺癌における何らかの遺伝子の上方制御が、アンドロゲン非依存性の発病に寄与する可能性がある。例えば、多くの進行前立腺癌において上方制御されるBcl-2は、アンドロゲン依存性のLNCaP前立腺癌細胞系統にアンドロゲン非依存性を与える(Raffo ら., 1995)。本実施例によれば、in vivoで、アンドロゲン非依存性表現型に寄与する候補遺伝子を探索できる。
LAPC-4アンドロゲン依存性腫瘍外植片は組織培養培地中で増殖し、SCIDマウスに再注入するとアンドロゲン依存性腫瘍を形成する
現在のアンドロゲン依存性及び非依存性成長の生体分析は、唯一のアンドロゲン依存性の特徴を示す入手可能な細胞系統であるため、ほとんどLNCaP前立腺癌細胞系統に独占的に依存している。in vitroでの多重変異の可能性を有する長期間経過した細胞系統の問題を回避するために、LAPC-4異種移植片を短期間の培養で成長させ、マウスに再注入して腫瘍を形成させた。外植片腫瘍は後に遺伝学的に扱われ、これらの操作の効果はin vivoで計測された。
【0059】
LAPC-4腫瘍は小片に細切され、15%ウシ胎児血清を含む培地で培養された。2-3日後に上皮細胞及び繊維芽細胞の両者の増殖(outgrowth) が観察された。後に細胞は、コンフルエントに成長し、首尾よく継代して元の腫瘍片を除去することができた。RT-PCRにより持続的なPSA発現が確認された。1×107細胞をその後、健全なオスまたは去勢したSCIDマウスに再注入した。最初の実験と同様、注入された細胞はアンドロゲン依存性の特徴を有する腫瘍を形成し、去勢マウスにおいてはより長い時間を腫瘍形成に必要とした。
培養LAPC-4はレトロウイルスにより形質導入可能である。
【0060】
外植されたLAPC-4細胞のレトロウイルス感染能を検査するために、これらの細胞を欠損型神経成長因子受容体遺伝子を有するレトロウイルスベクターで形質導入した。テナガザル白血病ウイルス(GALV)のエンベロープを有するPG13パッケージ細胞系統を、高力価ウイルスを生成するために使用した。この方法で生産されたレトロウイルス粒子はヒト細胞に感染しネズミ細胞にはしないユニークな特徴を有し、ゆえにマウス基質細胞への遺伝子導入は避けられる(Bauer ら., 1995)。感染の後、細胞をNGFRに対する直接抗体で染色し、FACS解析により解析した。5-10%の細胞が遺伝子導入されていた。ネズミ繊維芽細胞の負の対照は全く感染せず、一方ヒト293T細胞は効率的に遺伝子導入された。
アンドロゲン非依存性前立腺癌におけるcDNA上方制御の生物学的分析
候補cDNAは、我々の研究所で広く用いられるレトロウイルスベクターpSRalpha(Afarら., 1994)の5'位置にクローンできた。レポーター遺伝子として、NGFR、LacZ、またはヒトコドンに最適化した緑色蛍光タンパク質(GFP)のいずれかを下流に挿入してもよい。プラスミドはPG13梱包細胞系統に感染させること、ウイルスを集めること、及び力価を計測することが可能である。LAPC-4細胞は最初の継代の後に感染可能であり、その後十分量が注入に利用できるまで選別なしに増殖できる。導入遺伝子の発現はFACS解析またはRDAのcDNAをプローブとして用いるノザンブロットのいずれかにより確認できる。
【0061】
二つの異なる型の実験が行われる。まず、感染細胞を健全なオスSCIDマウスの脇腹に注入した。各マウスの両脇腹に腫瘍を形成した後、ひとつの腫瘍を除去し、その後マウスを去勢した。外植された腫瘍は注入された細胞のパーセンテージを計量する解析を行った。この解析はLacZ染色または、GFPまたはNGFRのFACS解析により行える。我々は6-10%の細胞が導入遺伝子を保有すると予期する。残存した腫瘍は復活及び再成長の後(すなわち去勢後約4-8週間後)に同様の解析を行える。もし導入遺伝子により生存における優位な立場、またはアンドロゲン非依存性が注入細胞に与えられるならば、ホルモン除去の後に導入遺伝子保有細胞のパーセンテージが増加することが期待できる。複数のマウスに各構造を注入でき、陽性結果を追試により得ることができる。
【0062】
第二の実験においては、感染頻度を定量化した後、健全な及び去勢マウスに平行して注入細胞を移植できる。結果的に得られる腫瘍(各4及び12週間時点)は上記に記載した挿入頻度を解析される。この場合も"アンドロゲン非依存性"遺伝子はこの腫瘍におけるアンドロゲン非依存的な成長における優位な立場及び優先性を提供すると期待できる。加えて、与えられた候補遺伝子が去勢オスにおける腫瘍形成に要する時間を短縮する可能性がある。これも測定可能である。最後に、与えられた遺伝子は侵襲的なアンドロゲン依存的成長を与える可能性もある。これは腫瘍形成に要する時間及び健全なオスマウスへの注入前及び後の挿入頻度を比較することにより、本解析において定量化もできる。
【0063】
これらの解析は正の対照とともに確認できる。特に、bcl-2、c-myc、及びc-met、の3種は一貫してアンドロゲン非依存性を伴うため、用いることができる。
本発明は、本明細書中において記載された態様により範囲内に限定されず、これらは本発明の個々の側面の単一の描画として意図され、その各々は本発明の範囲内では機能的に同等である。本明細書中において記載されたものに加えた、本研究のモデル及び方法に対するさまざまな修飾は、当業者には明らかであり、本発明の範囲内に収まることを同様に意図される。これら修飾または他の態様は本発明の真の範囲及び精神より解離することなく、実施される。
参照文献
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】前立腺ガン異種移植片の、ヒトDNA含量および前立腺特異的抗原(PSA)の発現の分子的解析。図1A: ヒトβ-グロビン遺伝子特異的プライマーを用いた、異種移植片から単離されたゲノムDNAのDNA-PCR分析。示された各試料は継代の後期の異種移植片から得られた。LAPC-5試料は、ネズミ由来の腫瘍がヒト腫瘍よりも増大した継代4の時点で得られた。2つのLAPC-4試料はアンドロゲン依存性(ad)および被依存性(ai)サブ系列から得られた。図1B: ヒトまたはネズミβ-アクチンおよびヒトPSA特異的プライマーを用いた、全RNAのRT-PCR分析(%ヒト細胞とは、10万のマウス細胞中に希釈されたLNCaP細胞の%を示す)。ネズミNIH 3T3細胞によるヒト前立腺ガンLNCaP細胞の希釈シリーズは図の左側に示される(LNCaP細胞の%は0.0%から100%)。3つのLAPC異種移植片の結果は右側に示される。
【図2】PSAの発現を示す、LAPC-4異種移植片の免疫組織化学分析の写真。外科処置時に得られた一次腫瘍試料由来のホルマリン固定した組織(上)およびLAPC-4異種移植片(下)のパラフィン切片が、ヘマトキシリンおよびエオシン(左)、対照の抗体(中)、およびヒトPSA特異的抗体(右)で染色された。
【図3】in vivoでのLAPC-3およびLAPC-4異種移植片のアンドロゲン感受性を示す棒グラフ。等しいサイズのLAPC-3およびLAPC-4移植片は雄または雌のマウスに同時に導入され、腫瘍形成について週毎に検査された。
【図4】去勢後のLAPC-4腫瘍の退行および再増殖。図4A: 腫瘍サイズが4週目で等しかった集団の2匹の動物の典型的な結果を示す線グラフ。雌マウス中での腫瘍成長の時間経過が比較として示される。図4B: 無処理および去勢された雄マウスの集団全体の平均腫瘍サイズ(+/-標準誤差)を示す棒グラフ。各動物のデータは、4週目の時点に比較した腫瘍サイズとして表現される。
【図5】雄マウス中のLAPC-4移植片の限界希釈分析を示す線グラフ。
【図6】LAPC-4異種移植片を有するマウスにおける微小組織転移疾患を示す写真。図に示す組織から全RNAが単離され、RT-PCRを用いてPSA(a)およびβ-アクチン(b)の発現が分析された。腫瘍および3匹の代表的なマウスの種々の組織の結果を示す。4番目のマウス(対照SCID)由来の組織は負の対照として分析された。シグナルはLNCaP(レーン1)との比較によって定量され得る。負の対照試料にはRNAが加えられなかった(レーン2)。
【図7】免疫組織化学による、2週目の骨中のLAPC-4細胞の検出を示す写真。LAPC-4細胞を注入されたマウスの脛骨の凍結断面が、サイトケラチン-18の抗体(下)またはアイソタイプの対照抗体(上)で染色された。赤く染色された4つの細胞はLAPC-4細胞である。
【図8】LAPC-4が骨損傷を起こすことを示す写真。LAPC-4細胞を脛骨内注射した後4、6、8週目の脛骨のヘマトキシリンおよびエオシン切片。パネルAは正常な骨および造血細胞に隣接した腫瘍形成の小さいフォーカスを示す。パネルBおよびCは周囲の腫瘍細胞に応答した新骨形成の漸進的な増大を示す。
【図9】骨芽細胞骨損傷がLAPC-4によって誘導されることの、放射線写真による証明。マウスのX線撮影は脛骨中へのLAPC-4細胞の注射後8週目に行われた(右)。骨芽細胞の活性化のために骨髄腔中の骨髄の密度が高まり、骨が皮質腐食の兆候を示している。
【図10】抗ガレクチン-6抗体で染色されたLAPC-4細胞のフローサイトメトリー分析。アイソタイプの対照抗体と比較した発現レベルを示す。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願を通して種々の刊行物が括弧内で参照されるが、それらの刊行物は本明細書の最後、請求項の直前に完全な形で引用される。それらの刊行物の開示は本明細書中では参考文献としてそのまま含まれる。
発明の背景
前立腺ガンは男性のガンの原因としては最多のものである。1996年には31万7千人の新規の前立腺ガン患者が診断され、41400人以上が死亡した(Karpら,1996)。それ以上の死亡率であるのは肺癌のみである。男性が一生の間に浸潤性前立腺ガンを発症する確率は、6人に1人、すなわち15.4%である。50歳の男性の前立腺ガン発症率は42%、前立腺ガンによる死亡率は2.9%である。局所的な腫瘍の早期診断および治療が現在までに進歩しているにも関わらず、前立腺ガンは一度転移すれば治癒不可能である。転移性前立腺ガンのホルモン治療を行うと結果的に患者はアンドロゲン不応性(アンドロゲン被依存性)状態となり、それによって疾病が進行し、死に至る。
【0002】
前立腺ガンの罹患率および死亡率の主な原因は、アンドロゲン被依存性の転移性腫瘍の成長の結果である。そのため、疾患の進行した状態の分子的基盤の知識はその患者の治療の選択を改善し得ると期待され、多大な関心が持たれている。しかしながら、この分野の進歩は種々の理由のために困難である。例えば多くの前立腺組織は小さいため、前立腺組織が分子的研究に利用できる場合は限られている。さらに、外科的な前立腺切除による腫瘍試料には少なからぬ不均一性が存在するため、前立腺ガン外植片をin vitroで減数分裂的に培養することは困難であり、また不死化した前立腺ガン細胞系列は少数しか存在しない。
【0003】
そのため、前立腺ガン組織の安定した成長を可能とし、それによって前立腺ガンの進行をin vivoで研究することを可能とし、前立腺ガン組織の安定した供給を提供し、前立腺ガンの生物学を正確にシミュレーションまたは模倣する疾患の転移性増殖のモデルを提供する他の方法を発見することに関心が持たれている。
【0004】
また、進行した前立腺ガンの処置に際して、より信頼性の高い、より情報量の多い進行度診断および予後法が必要とされている。前立腺ガンの臨床的な進行度の診断は、前立腺嚢の境界内に腫瘍が残存している(局所的に限定されている)か、境界を越えて増殖している(局所的に進行している)かを決定するための直腸診断と、血清中PSAの決定および直腸横断超音波誘導生検との組み合わせによっている。しかし、これらの方法の何れも、この疾患の進行の予測に際しての信頼性は証明されていない。
【0005】
前立腺ガン転移の一次部位は局部リンパ節および骨である。骨転移は造血の活発な赤色骨髄中の、腰椎脊柱、肋骨、骨盤、中央長骨、胸骨および頭蓋骨を含む部位に起きる。前立腺ガンの骨転移は、通常骨中にコロニー形成する他の腫瘍の場合とは異なり、肺癌および黒色腫の骨転移における骨吸収ではなく、骨形成の実質的な増大(造骨細胞性)という特徴を有する。
【0006】
最近まで、骨転移は疾患の進行の末期であると考えられていた。しかし、前立腺ガン細胞を検出するための高感度技術(前立腺特異的遺伝子のRT-PCRのような)の最近の発展により、この考えは改められた。PSA mRNAのRT-PCR試験を用い(Ghosseinら,1995; Seidenら,1994; Woodら,1994; Katzら,1994)、またPSAタンパク質の免疫磁性ビーズセレクションにより(Brandtら,1996)、疾病の進行した段階の患者の末梢血および骨髄中で前立腺ガン細胞が検出されてきた。陽性である場合、これらの検査は前立腺ガン細胞が循環血球の0.1-1.0%を占めることを示している。さらに早期の低危険率の患者においても、すでに少数の前立腺ガン細胞が末梢血中を循環し、骨髄中に定着していることが今や明らかになっている(Olssonら,1997; Deguchiら,1997; Katzら,1996)。興味深いことに、完全な前立腺切除の後これらの細胞は多くの患者において消失する(Melchoirら,1997)。これらの結果から、一次腫瘍部位が骨髄への連続的な転移源であること、および転移病巣に成長する能力はそれらの細胞のごく一部が有することが示唆される。この考えは、循環癌細胞の1万分の1のみが他器官に定着して活発にコロニー形成するという、他の種類の腫瘍の動物モデルからの予測と一致する(Fidlerら,1990)。
【0007】
進行した前立腺ガンが骨転移に発展することに関与する因子は、ほとんど分かっていない。解剖学的に、局部の骨/骨髄および腫瘍細胞因子は全て関与すると考えられている。Bastonは、脊椎に平行して存在し、肋骨、骨盤および脳の静脈と直接に吻合する縦走無弁静脈のネットワークからなる拡張性椎骨静脈系を記載している(Baston,1942)。前立腺静脈に侵入している前立腺癌細胞は、肺を通る下方大静脈に入ることなく、この網状構造を介して直接これらの器官に輸送され得る。他の腫瘍と比較した前立腺癌の転移のパターンの臨床記録および、腫瘍細胞の尾部静脈への注入の際に下方大静脈の閉鎖が、脊椎への転移の発生率を上昇させたという動物モデルにより、転移の機構についての上記仮説が立てられた(Nishijima et al.,1992; Coman and DeLong, 1951)。
【0008】
血管の解剖学的構造は前立腺癌の骨への拡大の基本的な要素であるが、全ての骨転移の選択的なパターンを完全に説明することは出来ない。心臓の出力のの5-10%を受容している骨は、血流の観点から期待され得るよりも高頻度な転移部位である(Berettoni and Carter,1986)。骨髄は二つの明確に同定され得る成分、即ち、細胞性の要素の大部分を構成する造血細胞および、高度に管状の結合組織を形成する基質成分を含む。造血細胞は一時的に骨髄に存在し、成熟と共に血流中へと移動する。しかしながら、基質は残留し、その上で造血細胞の分化および成熟が行われ得る足場として働く。これらの部位にとどまる前立腺癌細胞における重要な因子の一つは、それらの骨髄基質への接着性で有り得る。腫瘍細胞は転移していく器官の基質細胞に対して選択的に接着することが、in vitroおよびin vivoの両方で示されている(Haq et al.,1992; Netland and Zetter, 1985;Zetter et al., 1992)。ラット前立腺癌(MatLyLu)細胞が、同系のラットの左心室に対して注入された場合、椎体転移が発生した。これらの転移は採集され、脱凝集され、再び注入された。動物内で同様の継代を6回経た後の細胞株は骨髄基質および内皮細胞に対して強く選択的に接着した(Haq et al,1992)。同様の手法は、免疫欠損マウス中での、LNCaP前立腺癌細胞株からの転移の頻度を上昇させた(Thalmann et al.,1994)。
【0009】
前立腺癌の骨への転移の適切なin vivoモデルが形成されることは、この過程のメカニズム的な側面をより完全に探索するために重要である。現在まで、この分野におけるほとんどの研究はPC-3、DU-145およびLNCaPという3つのヒト前立腺癌細胞株について行われてきた(Lee etal., 1993)。これら3種類は全て、免疫欠損マウス中で皮下結節を発生させ、これらから、多様な転移特性を有する派生株が得られた(Shervin et al.,1988, 1989; Wang and Sterarns,1991; Kozlowski et al., 1988)。しかしながら、これらの派生株はどれも、前立腺癌に典型的な造骨細胞の損傷を再現性良く形成しない。DU-146およびPC-3細胞株の主要な限界は、臨床的な前立腺癌との関連性を生ずる、前立腺特異的抗原(PSA)およびアンドロゲン受容体(AR)の発現が無いこと(Kaighn et al.,1979; Gleave et al., 1992)である。LNCaP細胞株はアンドロゲン反応性であり、PSAを発現するが、アンドロゲン受容体にリガンド特異性を変更する突然変異を有する。
発明の概要
本発明は、一次腫瘍の発生、微小組織転移、およびヒト前立腺ガンの後期に特徴的な骨芽細胞損傷をシミュレーションまたは模倣することができるヒト前立腺ガンの進行の動物異種移植片モデルを提供する。このモデルは、前立腺ガンの段階ごとの進行を研究するために用いられ得る。この観点から、一次腫瘍部位から遠位の微小組織転移部位(骨髄を含む)への細胞移動の過程、および微小組織転移前駆体からの微小組織転移性骨芽損傷の発生を本発明は再現する。またこのモデルは、アンドロゲン除去治療を受けている、進行した前立腺ガン患者に特徴的なアンドロゲン依存性腫瘍成長から被依存性成長への臨床的な推移を再現し得る。さらに、種々の段階の前立腺ガンの前立腺ガン細胞の増殖法、および段階特異的前立腺ガン細胞集団の単離および増殖法が提供される。さらに、PSA、野生型アンドロゲン受容体、および前立腺酸フォスファターゼを発現する独自の連続継代・アンドロゲン感受性前立腺ガン細胞系列を本発明は提供する。本発明の方法およびモデルは、前立腺ガンの分子生物学を研究し、種々の遺伝子および治療試薬が疾病の進行の異なる段階に与える影響を評価し、前立腺癌細胞の転移能を検査し、患者に特異的な治療法を設計する系を提供する。
発明の詳細な説明
免疫欠損動物宿主
重度の複合免疫欠損(SCID)マウスは、本発明の実施において用いられる好ましい宿主動物である。他にも、天然のまたは誘導され得る遺伝的欠陥の結果欠損を有する、種々の免疫欠損マウス、げっ歯類または動物(例えばヌードマウス、Rag1および/またはRag2マウスなど、およびそれらのマウスと交雑されて免疫上寛容の存在するマウス)が用いられ得る。この欠損は、例えば組み換えの遺伝的欠陥、遺伝的に欠陥のある胸腺または不全なT細胞受容体領域の結果であり得る。誘導された免疫欠損は、サイクロスポリンのような免疫抑制剤の投与、胸腺の切除などの結果であり得る。種々の組み換え免疫欠損マウスが現在入手可能であり、また慣習的な方法によって作製され得る。理想的には、免疫欠損マウスはリンパ球の成熟を阻害する欠損を有し、特にT細胞受容体領域の組み換え能を欠失するものである。腫瘍増殖の過程にアンドロゲンの使用が与える効果を研究する際の興味に従って、雌、雄、去勢されたマウス、または去勢されていないマウスが利用され得る。本明細書に記載する特定の好ましい態様においては、C.B.17scid/scidマウスが使用される。マウスに加えて、免疫欠損ラットまたは同様のげっ歯類が、本発明の実施において使用され得る。
進行した前立腺ガンをシミュレーションするモデル
本発明の一つの態様は、一次腫瘍形成からヒト前立腺ガンをシミュレーションまたは模倣するネズミ異種移植片モデルを提供する。また、免疫欠損マウス中で、進行した段階のヒト前立腺ガン組織を皮下異種移植片として増殖させる方法が提供される。本発明の実施に際して、前立腺ガン異種移植片は、局所的に進行した時期または転移期の前立腺ガン患者から外科的に切除された新鮮なヒト前立腺ガン外植片を免疫欠損マウス中に皮下移植することによって確立され得る。移植部位は、血液供給が移植片に到達できるようないずれの皮下部位(例えば宿主動物の横腹)でもよい。一次前立腺ガン由来、およびリンパ節、肺、骨、および他器官への転移由来の組織が、本発明の前立腺ガン異種移植片を確立するために用いられ得る。前立腺ガン外植片は、マトリゲル(米国特許第5508188号)のような基底膜組成物、上皮腫瘍(前立腺ガン細胞を含む)のin vivoでの増殖を増強することが示されている細胞外マトリクス調製物(Limら,1993; Noelら,1992; Pretlowら,1991)、または他の同様な組成物とともに導入され得る。一度確立されると、異種移植片腫瘍は相当のサイズに成長し、さらなる利用のための実質的な組織量を提供する。本発明の異種移植片は、ヒトβ-グロビンの発現により決定されるヒトの表現型を保持し、ヒト前立腺特異的抗原(PSA)を発現し、臨床条件を反映しているアンドロゲン感受性および転移増殖特性を保持する。
【0010】
本明細書で使用される場合、「局所的に進行した前立腺ガン」および「局所的に進行した疾患」という用語は、前立腺嚢から出て拡張した前立腺ガンを意味し、American Urological Association (AUA) 系でのC段階疾患、Whitmore-Jewett系でのC1-C2段階疾患、およびTNM (tumor, node,metastasis)系でのT3-T4段階およびN+疾患を含む。総じて、局所的に進行した疾患の患者については外科処置は好ましくなく、臨床的に限定された(器官特異的な)前立腺ガンの患者と比較して、それらの患者は実質的に好ましくない結果となっている。局所的に進行した疾患は、臨床的には前立腺の側部境界外の触診可能な硬化の存在、または前立腺基部上の非対称性または硬化によって同定される。病理学的には、局所的に進行した前立腺ガンは、腫瘍が前立腺嚢に浸潤または侵入し、外科領域周辺部に拡張、または精嚢に侵入した場合に、完全な前立腺切除後に診断される。
【0011】
本明細書で用いられる場合、「転移前立腺ガン」または「転移疾患」という用語は、局部リンパ節または遠位へ広がった前立腺ガンを意味し、AUA系でのD段階疾患、およびTNM系でのTxNxM+を含む。局所的に進行した前立腺ガンの場合と同様に、転移疾患の患者には外科処置は一般的に行われず、ホルモン(アンドロゲン除去)治療が好まれる治療法である。転移前立腺ガン患者は、結果的に治療開始後12から18カ月でアンドロゲン不応答の状態となり、それらの患者の約半数はその後6カ月以内に死亡する。前立腺ガンの転移の最も一般的な部位は骨である。前立腺ガンの骨転移の特性は、骨吸収性ではなく骨再生性である(つまり、実質的な骨形成を引き起こす)。骨転移は脊柱に最も多く、次に大腿骨、骨盤、肋骨、頭蓋骨および上腕骨に見られる。他の一般的な転移部位には、リンパ節、肺、肝臓および脳が含まれる。転移前立腺ガンは典型的には、開腹または腹腔鏡による骨盤リンパ節切除、全身放射性核種スキャン、骨格放射線診断、および/または骨損傷生検によって診断される。
【0012】
本明細書で記載される本発明のこれらの態様は、進行した前立腺ガンの病理および治療を研究する方法を提供する。例えば、皮下(または他)に異種移植片を有する免疫欠損マウスが、種々の前立腺ガン治療(例えば治療組成物、遺伝子治療、免疫治療など)の、腫瘍の増殖または疾患の進行に対する効果を評価するために用いられ得る。異種移植片細胞は、新規の遺伝子および前立腺ガン細胞で発現が異なる遺伝子を同定するため、または前立腺ガンの進行に対するそれらの遺伝子の効果を分析するために使用され得る。例えば、異なるアンドロゲン感受性を有する(例えばアンドロゲン依存性対非依存性)異種移植片由来の前立腺ガン細胞の遺伝子組成が、互いに、または正常な前立腺細胞の遺伝子組成に対して比較され得る。同様に、微小組織転移前立腺ガン細胞の遺伝子組成が、転移前立腺ガン細胞の遺伝子組成と比較され得る。種々の核酸サブトラクションおよび試料抽出法(例えば、representational difference analysis(RDA)法を含む)がこの目的のために利用され得る。さらに、前立腺ガン異種移植片細胞は、種々の遺伝的能力の導入(種々の遺伝子の導入、アンチセンス配列、リボザイム、制御配列などを含む)に用いられ得る。
【0013】
さらに、本発明のこの態様は、ヒト前立腺ガン生検材料に典型的な不均質な細胞混合物から前立腺ガン細胞を精製する方法を提供し、さらにさらなる利用および解析のための大量の腫瘍細胞を生成する方法を提供する。ある態様においては、前立腺ガン細胞を精製する方法は、ヒト前立腺ガン生検材料をSCIDまたは他の免疫欠損マウスに移植し、移植材料を異種移植片としてマウス中で成長させることからなる。精製されたヒト前立腺ガン細胞は、異種移植片を回収することで得られる。別の免疫欠損マウス中で連続的に増殖させ、または短時間の細胞培養によって増殖させることによって、異種移植片はさらに増殖させられ、精製され得る。異種移植片腫瘍組織または培養細胞からの単一細胞懸濁液は、前立腺内腫瘍、骨腫瘍、または他の器官の腫瘍を移植するために用いられ得る。異種移植片腫瘍組織および細胞調製物は凍結され、後の使用時には生きた状態で回復され得る。
【0014】
本発明はまた、SCIDマウス中での複数の継代を通して安定な前立腺ガン細胞の表現型を保持する皮下前立腺ガン異種移植片を提供する。種々の態様が提供され、これらにはアンドロゲン依存性および非依存性異種移植片、前立腺特異的抗原(PSA)を臨床を反映するレベルで発現する異種移植片、野生型アンドロゲン受容体(AR)を発現する異種移植片、および染色体異常を示す異種移植片が含まれる。さらなる態様は、前述の特性全てを保持する異種移植片、およびアンドロゲン非依存性疾患に至る過程のモデルとなる異種移植片を含む。本発明のこれらおよび他の態様は、以下の実施例でより詳しく記載される。実施例1に記載されたように、CまたはD段階の前立腺ガン患者の前立腺および骨、リンパ節および肺転移から得られた腫瘍組織外植片から、多数の皮下異種移植片が首尾よく確立された。これらの異種移植片は、SCIDマウス中で成長し高頻度で継代し、後期の継代でもヒト前立腺ガンの明確な特性を保持している。LAPC-4と命名した異種移植片は安定な細胞系列として組織培養に順応し、18カ月間連続して培養されている。
【0015】
実施例1に記載したLAPC-4異種移植片のような異種移植片は特に興味深い。患者から直接単離した前立腺腫瘍と同様に、LAPC-4細胞は前立腺特異的抗原(PSA)、アンドロゲン受容体(AR)、および前立腺酸フォスファターゼの発現が、20継代以上保持される。さらに、LAPC-4異種移植片は、そのARがDNAまたは因子の結合領域にまったく変異を持たないこと、およびアンドロゲン非依存性LAPC-4同系列においてAR発現が見られる点において独特である。さらに、LAPC-4異種移植片はアンドロゲン依存性からアンドロゲン非依存性疾患への変換や、微小組織転移症の発生をモデルする。例えば、オスマウスにおけるLAPC-4腫瘍の継代はアンドロゲン依存性成長特性路保持するが、去勢したオスまたはメスのマウスにおける腫瘍の継代は安定なアンドロゲン非依存性の表現型を与える。このような副家系はよういに本発明の方法を用い増殖されることができ、アンドロゲン非依存性成長に関わる事象の分子および生化学的解析に対し十分な組織を提供する。アンドロゲン依存性前立腺が成長の実験モデルは他にほとんど存在しない。出版された報告は、広く利用されているLNCaP 細胞株(Lim etal.,1993;Geleave et al.,1992)および2つの最近記述された異種移植片CWR22(Weinstein et al.,1994)およびLuCaP23(Lin etal.,1996)を含む。LAPC-4異種移植片はアンドロゲン除去の選択圧下におかれた腫瘍はアンドロゲン非依存性状態に成長するため独特であり、時系列でのアンドロゲン非依存性に関わる分子変化の評価および機能的重要性の直接的試験の機会を与える。
【0016】
発明のこの様態は前立腺癌細胞に対する様々な遺伝子の機能または効果の決定の検定を提供する。ある様態においては、検定は前立腺癌異種移植片(例えば皮下、前立腺内)から前立腺癌細胞を単離し、形質転換した細胞が発現または過剰発現するように興味の遺伝子を形質転換し、SCIDまたは他の免疫欠損マウスにおいて、皮下、または前立腺内異種移植片を確立し、その結果できた異種移植片の成長を評価することを含む。発現している遺伝子の異種移植片の成長に対する効果は非形質転換前立腺癌細胞から確立した対照異種移植片との比較により決定される。好ましくは細胞は同じ異種移植片から単離される。別の様態においては、検定は前立腺癌異種移植片(例えば皮下、前立腺内)を産生し、in vivoで興味の遺伝子を異種移植片の細胞に形質導入し、異種移植片の成長を評価することを含む。ここにおいて発現している遺伝子の異種移植片の成長に対する効果は対照異種移植片との比較により決定される。
【0017】
同様に、本発明は治療的化合物または治療法の候補の前立腺癌細胞の増殖に対する効果の決定のための試験試験を提供する。ある様態において、この試験は皮下にヒト前立腺癌異種移植片を有するSCIDまたは他の免疫欠損マウスに対する化合物または治療、および異種移植片の成長に対する治療の効果の決定を含む。また別の様態において、前立腺異種移植片を有するSCIDまたは他の免疫欠損マウスが化合物または治療の効果の決定に用いられる。
【0018】
本発明のこの様態は、局所的進行性または転移性前立腺癌の患者の予後診断法におけるモデルの使用を含む、様々な臨床的適用を有し得る。例えばある様態においては、患者由来の前立腺癌試料の免疫欠損マウスへの皮下移植、およびマウス中で異種移植片として移植した試料を成長させることを含む。異種移植片の成長率は診断用指標として用いられる。そのような解析は、どのように患者を治療すべきか決定するとき、腫瘍学者の助けとなり得る。
微小前立腺癌組織転移のシミュレーションモデル
本発明の別の様態はヒト前立腺癌における微小組織転移の過程の研究およびシュミレーションの方法およびモデルを提供する。皮下に前立腺癌異種移植片を有するSCIDマウスは循環前立腺癌細胞の存在を示す。ゆえに、このモデルは一次癌細胞から骨髄および、他の微小組織転移の離れた部位への移転過程を複製する。実施例3に詳細に記すように、LAPC-4細胞異種移植片を皮下移植した雄マウスの100%は、骨髄への転移の証拠は見られなかったが、4から6週間中に局所的皮下腫瘍が見られるようになった。しかしこれらの動物が微小組織転移症の存在を試験されたとき、50%までのマウスは骨髄または血液中に検出可能な前立腺癌細胞が見られた。同一の半定量的RT-PCR試験を用いて、前立腺癌患者の多くの調査に適用されている。微小組織転移前立腺癌細胞は全マウス骨髄のおよそ0.1から1.0%のレベルで見られた。同様の結果はPSAの発現に対する免疫組織化学解析からも得られた。故に、前立腺癌異種移植片の皮下成長は疾病の初期段階でさえも血中、および骨髄腔中を前立腺癌細胞は循環するという診療結果を模倣する。ある様態において、前立腺癌微小組織転移のシミュレーションまたは模倣はSCIDまたは他の免疫欠損マウス中の皮下前立腺癌異種移植片を確立し、マウスの末梢血中の前立腺癌細胞の検出を可能にするのに十分の時間腫瘍を成長させることを含む。微小組織転移の存在はリンパおよび/または血管系、骨、肺、肝臓、および/または他の一次異種移植片部位から離れた部位への転移をした前立腺腫瘍の検出によりモニターされる。そのような細胞の検出は、例えばPSAmRNAに対するRT-PCRによる末梢血中の(実施例3に記載した試験試験など)ヒトPSAmRNAの存在の試験などにより達成され得る。
【0019】
別の様態において、前立腺癌微小組織転移のシミュレーションは、SCID(または他の免疫欠損)マウス中で成長した皮下移植腫瘍片からの前立腺癌細胞の単一細胞懸濁の調製、その後の他のSCID(または他の免疫欠損)マウスへの単一細胞懸濁の前立腺内(直生)注入を含む。前立腺内腫瘍は末梢血中または直生腫瘍から離れたほかの部位での前立腺癌細胞の検出を許すのに十分な時間成長させられる。培養異種移植片細胞由来の単一細胞懸濁液は前立腺内(直生)移植にも用いられる。
【0020】
本発明のこの様態は微小組織転移の発達に対する、ある変数の効果の試験の枠組みを提供する。そのような変数は腫瘍の周辺環境中のホルモンまたは他の成長調節因子の存在または不存在、腫瘍細胞中の様々な遺伝子の発現状態などを含む。例えばアンドロゲン依存性およびアンドロゲン非依存性の異種移植片保持体の微小組織転移の割合は評価された。そのような評価は、アンドロゲン依存性および非依存性の系統のLAPC-4異種移植片を用い、アンドロゲン非依存性LAPC-4異種移植片を有するマウスにおいて有意に高い割合を示すことを実施例3に記載される。
【0021】
この点において、本発明は前立腺癌微小組織転移の進行に対する様々な遺伝子の機能または効果を決定するための試験法を提供する。ある様態において、試験は前立腺癌異種移植片(例えば皮下、または前立腺内)から前立腺癌細胞を単離し、形質転換され、細胞が発現または過剰発現するように興味の遺伝子を細胞へ形質転換し、SCIDまたは他の免疫欠損マウス中において皮下または前立腺内異種腫瘍移植片確立するために形質転換細胞を使用し、血中、骨髄、リンパ腺、および/または他の一次異種移植片から離れた部位における前立腺癌細胞の検出によって微小組織転位症の存在およびレベルを評価することを含む。微小組織転移の割合に対する遺伝子発現の影響は対照の非形質転換前立腺細胞で構築した異種移植片と対比することで決められる。別の様態においては、試験は、前立腺癌異種移植片(例えば、皮下、前立腺内)を産生し、in vivoで興味の遺伝子を異種移植片細胞に形質転換し、微小組織転移の存在またはレベルを評価することを含む。ここにおいて微小組織転移の割合は提唱の異種移植片と比較することで決定され得る。
【0022】
同様に、本発明は微小組織転位症の進行に対する治療的化合物または治療の候補の効果を決定するための試験を提供する。ある様態においては、試験は化合物または治療の皮下ヒト前立腺癌異種移植片を有するSCIDマウスに対する適用、末梢血、リンパ節、骨髄、および/または他の異種移植片から離れた部位における前立腺癌細胞の存在またはレベルをモニターすることによる微小組織転移に対する治療の効果の決定が含まれる。別の様態において前立腺内異種移植片保有SCIDまたは他の免疫欠損マウスが微小組織転移に対する治療の効果の決定に用いられる。
【0023】
本発明のこの様態は、局所的進行性または微小組織転移前立腺癌の患者の診断法におけるモデルの使用を含む様々な臨床的適用を有し得る。例えばある様態における方法は患者からの前立腺癌試料の免疫不全マウス皮下への移植、および移植試料のマウス中で異種移植片として成長させることを含む。異種移植片の成長率および微小組織転移の発達は診断用指標として用いられる。このような解析の結果は腫瘍学者が患者の治療法を決定するときの助けとなり得る。
前立腺癌微小組織転移を擬態するモデル
本発明の別の様態は、前立腺癌における組織転移造骨細胞病変(骨転移)の発達の模倣および研究のモデルおよび方法を提供する。異種移植腫瘍片の皮下成長は検出できる微小組織転移につながり、SCIDマウス中の異種移植腫瘍片由来の細胞が一次腫瘍増殖の部位から出て、血中および骨髄腔を循環することを示しており、ヒトの臨床的状況を反映している。ある様態においては、前立腺癌骨転移の発達のシミュレーションは、SCIDマウス(または他の免疫欠損マウス)中で成長した前立腺癌皮下異種移植片から調製した前立腺癌細胞の単一細胞懸濁液を別のSCIDマウス(または他の免疫欠損マウス)へ注入すること、および、直生腫瘍のマウス中での骨転移が検出できるのに十分な時間の間の成長させることを含む。または、皮下前立腺癌異種移植片はそのような単一細胞調製物で確立され、成長させられる。骨転移の検出は、組織学、免疫組織化学、放射線学などを含む様々な方法で達成され得る。
【0024】
皮下および直生腫瘍は概して成長が速く、ある大きさまで達すると宿主動物はおよそ4-6週間以内で死亡する。故に骨髄中の前立腺癌細胞数を増加させ、この制限を回避する別の方法が提供される。ある様態において、異種移植腫瘍細胞または組織培養中の異種移植組織片から調製した単一細胞懸濁液はSCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄腔(例えば、脛骨)に直接注入される。微小組織転移の発生、骨髄腫瘍成長、および造骨活性は、免疫組織化学、および骨切片の組織内ハイブリッド形成法、または放射線映写法を含む様々な方法でモニターされる。
【0025】
実施例6に記載されるように、皮下腫瘍より調製された10,000異種腫瘍移植片細胞の単一細胞懸濁液は、SCIDマウスの脛骨に注入された。注入した細胞の一部は2週間目で検出可能でになり、4週間目で数個の領域中の骨腫瘍成長の小さなフォーカスが生じ、6-8週間目で目に見える骨腫瘍成長、骨皮質の破壊、および正味の新生骨形成が生じた。結果として、本発明のヒト前立腺癌異種移植片より単離した細胞はSCIDマウスの骨髄腔の微小環境中で増殖可能である。
【0026】
前述の方法は造骨細胞骨障害の形成および疾病のこの段階手の進行の優れた擬態モデルを提供する。このモデルは前立腺癌のこの段階への進行に関わる分子的、細胞的出来事の研究だけでなく、様々な治療的遺伝子、タンパク質、および他の化合物の候補の効果の試験にも用いられ得る。さらに、ヒト患者より得られた前立腺癌細胞の転移能および造骨能の診断の試験に用いられ得る。
【0027】
結果として、本発明はまた、前立腺癌骨転移の進行に対する様々な遺伝子機能または効果の決定の試験法を提供する。ある様態において、試験は前立腺癌異種移植片(例えば、皮下、前立腺内、骨)からの前立腺癌細胞の単離、形質転換した細胞が発現または過剰発現するような目的遺伝子の細胞への形質転換、SCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄腔への形質転換した細胞の導入、および造骨細胞転移病変の存在およびレベルのモニターを含む。骨転移の発達および成長に対する遺伝子発現の効果は、好ましくは同じ親の異種移植片の非形質転換細胞を用いた対照動物との比較で決定される。別の様態において試験は、別のSCID(または他の免疫欠損)マウス中で確立した皮下または前立腺内異種移植片より単離した前立腺細胞の単一細胞懸濁を注入することによりSCID(または他の免疫欠損)マウス中で骨髄異種移植片を合成すること、骨髄異種移植片の細胞にin vivoで目的遺伝子を形質転換すること、および造骨細胞転移病変の存在およびレベルに対する遺伝子の効果の評価を含む。
【0028】
さらに、本発明は治療的化合物または治療の候補の前立腺癌骨転移に対する効果を決定するための試験法を提供する。ある様態において、試験は前立腺癌異種移植片細胞の脛骨内注入したSCIDまたは他の免疫欠損マウスに化合物または治療を適用すること、前立腺癌細胞および/または造骨細胞転移病変の存在またはレベルの脛骨髄におけるモニターによる骨転移の進行に対する治療の効果の決定を含む。骨髄中の前立腺癌細胞の存在は組織学、免疫化学、またはPSA mRNAまたはタンパク質の存在の試験を含む様々な方法で検出され得る。造骨細胞転移病変は組織学、放射線学、または他の映写技術により検出される。
【0029】
本発明のこの様態は、局所的進行前立腺癌患者の診断法、および特に患者の転移症の進行を予測法における、本モデルの使用を含む、様々な臨床的適用を有する。例えば、ある様態において方法は患者の前立腺生検物質から調製した単一細胞懸濁液の免疫欠損マウスの骨髄への直接注入、そして骨病変の発達の骨髄のモニターを含む。骨病変成長の割合および造骨活性は診断の指標として用いられ得る。そのような解析の結果は局所進行症の患者を治療法を決める際、治療にあたる腫瘍学者の助けとなり得る。
【0030】
同様に、患者における局所的進行症または転位症の管理の様々な治療的方法の効果は予測され得る。例えば治療法の効果は患者の前立腺癌細胞を骨髄に注入した免疫欠損マウスへの治療の適用により予測され得る。治療の効果は試験マウス中の骨病変成長量および造骨活性の割合の、対応する骨髄注入を施した未治療対照マウスとの比較でモニターされ得る。さらに、患者の腫瘍物質中のアンドロゲン非依存性クローンを選択するためメスまたは去勢したオス免疫欠損マウスを用いて、この方法はアンドロゲン非依存性性前立腺癌細胞に対して治療の効果を試験するために用いられ得る。このような試験結果はいくつかの代替的治療のどれが特に患者の疾病に対し用いるべきか決めるとき腫瘍学者の助けとなり得る。
異種移植片腫瘍細胞の短時間培養
異種移植腫瘍細胞は、該当技術分野において通常の知識を有するものに知られる短時間癌組織培養技術を用い増殖され得る。さらに、異種移植片腫瘍からの異なるクローンは組織培養技術により単離される。この点において、本発明は異種移植片腫瘍組織試料より単一細胞懸濁液を調製する方法を提供する。ある様態において、実施例2に記載する方法または同様の方法により、異種移植片腫瘍組織は外科的に皮下異種移植腫瘍より除去され、分離拡散され、タンパク質消化酵素的に消化される。次に細胞はマトリゲル、他の基底膜化合物、塩溶液、他の緩衝液の溶液に懸濁される。例えば皮下埋込、前立腺内注射、または骨髄系への直接的注入などにより、SCIDまたは他の免疫欠損マウス中で新たな腫瘍を確立させるのに、このような調製物は有用である。細胞懸濁液はSCIDまたは他の免疫欠損マウス中で成長する、皮下、前立腺内、骨、または他の直生腫瘍成長から調製される。
前立腺癌細胞量の増殖および精製法
発明の別の様態は進行した段階の前立腺癌細胞を増殖する方法、異成分からなる細胞から比較的純粋な前立腺癌細胞を調製する方法、およびin vivoまたはin vitroで段階特異的前立腺癌細胞を増殖させる方法を提供する。一次腫瘍試料の細胞組成中は不均質であり、正常細胞やストローマ細胞が混合している。さらに、ヒト組織生検物質から前立腺癌細胞の一部分を得ることは困難である。反対に、SCIDマウス中で成長した皮下前立腺腫瘍から集めた細胞はもともと優位に前立腺癌細胞を含む。ゆえに、発明のモデルは不均質な生検物質から進行した段階のヒト前立腺癌細胞を精製する方法を提供する。
【0031】
さらなるマウス中での異種移植腫瘍の連続的継代は、異種移植細胞の組成の前立腺癌特異性を増強するのに用いられる。同様に連続的増殖などにより、比較的純粋なヒト前立腺癌細胞を連続的な増殖等により、免疫欠損マウス中で連続増殖させる能力は、大量の限定した前立腺癌細胞を得る方法を提供する。
【0032】
ある様態において、異種移植腫瘍から回収した組織は更なるSCIDまたは他の免疫欠損マウス中での連続的継代により増幅される。別の様態において、異種移植腫瘍からの細胞はin vitroで培養される。また別の様態においては、前立腺癌細胞の単一細胞懸濁液はそのような培養した細胞または異種食腫瘍組織から直接調製される。タンパク質分解酵素で消化した皮下異種移植腫瘍片から調製した単一細胞懸濁液は、もとの腫瘍の生物学的特性を保持する。単一細胞懸濁は、例えば新たな皮下腫瘍、前立腺内腫瘍、または骨腫瘍などの確立に用いられる。
【0033】
腫瘍細胞増殖は特定の表現型を持つ細胞が増殖するように設定された環境に選択因子は添加され得る。たとえば、in vivo環境のアンドロゲンの存在は、アンドロゲン依存性または非依存性前立腺癌細胞の選択のために、該当技術分野で通常に用いられる化学的または外科的去勢法により制御される。同様にin vitroの環境中で成長培地中のアンドロゲンの不在はアンドロゲン非依存性性前立腺癌細胞の選択のため用いられる。さらに皮下異種移植片の腫瘍細胞上の細胞表面タンパク質の存在は他の細胞からヒト前立腺癌細胞の区別および単離に用いられる。特に前立腺癌細胞上に特異的に発現している表面タンパク質(ネズミ骨髄細胞上におけるそれらの発現に関し)に対する抗体は、抗体に基づく細胞選別または親和性精製技術を用いて、異種移植腫瘍組織、培養中の細胞などから前立腺癌細胞を単離するのに用いられる。抗体に基づく細胞選別にもっとも好ましいのは、細胞表面タンパク質に対する抗体がヒト前立腺癌特異的であることである。しかし他のヒトタンパク質に対する抗体は、ネズミ類似タンパク質と交差反応性を示さない条件であるなら、効果的に用いられる。そのようなタンパク質の例は、ヒトゲラクチン-6である。
【0034】
大量の比較的純粋な進行した段階のヒト前立腺癌細胞の合成は、組織培養中でまたはSCIDまたは他の免疫欠損マウス中で異種移植腫瘍片として増殖可能であり、例えば様々な形質転換遺伝子または治療的化合物の同量の前立腺癌細胞に関し、成長または他の表現型的特性に対する相対的評価をゆるすなど、多くの有益点を提供する。さらに、発明のこの特徴は、様々な分子操作に対し十分な量のヒト前立腺癌特異的核酸の高純度調製の単離を許可する。例えば、そのような大量の核酸調製は前立腺癌疾患進行に生物学的に関連したまれな遺伝子の同定を助けとなり得る。
【0035】
他の発明のこの様態の有益な適用は、個々の局所的に進行した、または転移症を伴う患者からの生きた純粋前立腺腫瘍細胞クローンの調製を用いて、解析および試験する能力である。この方法において、例えば個々の患者の前立腺癌細胞は限られた生検試料から増殖され、診断的および予後的遺伝子、タンパク質、染色体異常の存在、遺伝子発現状態、または他の異常なゲノム型および表現型的特徴について、混乱を引き起こし得る様々な細胞の混合なしに試験される。さらにそのような細胞は、本発明の皮下、直生、および骨腫瘍モデルにおいて、新生物形成の侵略性および転移能について評価され得る。発明のこの様態は、最適な患者特異的治療養生法の設定を視野に入れた代替的治療様式の試験法を提供する。同様に、患者特異的前立腺癌ワクチンおよび細胞性免疫治療はそのような細胞調製から作られ得る。本発明の前立腺癌モデルはさらに、微小組織転移および造骨細胞前立腺癌細胞を含む段階特異的前立腺癌細胞の単離法を提供する。ある様態において、微小組織転移細胞は骨髄などのような造血組織または血液から抗体に基づく細胞選別または親和性精製技術を用いて、単離される。他の様態において、造骨前立腺癌細胞は、骨病変を有するSCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄より単離される。そのような骨病変の存在は組織学、免疫組織化学、または放射線学的に検出され得る。段階特異的前立腺癌細胞はさらに続くSCIDまたは他の免疫欠損マウスへの再移植により増殖および精製される。例えば、造骨前立腺癌細胞は骨髄への再注入によりin vivoで副培養されるか、または成長基質として骨基質を用いてin vitroで副培養される。
【0036】
実施例3に示した実験手順に示すように、少数の微小組織転移前立腺癌細胞は検出可能であり、皮下前立腺癌異種移植片を有するSCIDマウスの骨髄から単離できる。これらの前立腺癌細胞は宿主マウスの骨髄のおよそ1%以下の細胞しか存在しないが、前述のような細胞精製法を用いてそれらは単離され、増殖される。ある様態において、皮下異種移植片を有するマウスから集めた骨髄は、ガレクチン-6に対するヒト特異的モノクローナル抗体および磁気ビーズを結合した2次抗体とともに保温される。前立腺癌細胞はミルテニル磁気ミニマックスカラム(Sunnyvale,CA)を用いて、磁気的に抗体陽性細胞はカラム中にとどめ、一方抗体陰性細胞は流れ出て通過することを許可することで、単離される。この方法で単離された少数の微小組織転移前立腺癌細胞はSCIDまたは他の免疫欠損マウス中へのマトリゲル懸濁液の皮下埋伏により成体内増殖がされる。造骨前立腺癌細胞は同様に骨髄病変より直接単離される。
【0037】
段階特異前立腺癌細胞の精製および増殖能力は様々な臨床的適用を有し得る。例えば、臨床器具中の段階特異的前立癌細胞は細胞選別または精製技術を用い単離され、SCIDまたは他の免疫欠損マウス中において、特異的目的に応じて皮下、前立腺内、または骨腫瘍として増殖される。ある様態において微小組織転移は患者の血清より単離され、単一細胞懸濁に処方され、これらの細胞の増殖のため皮下に注射される。他の様態において、微小組織転移細胞はこれらの造骨特性を伴う細胞の増殖の目的で、SCIDまたは他の免疫欠損マウスの骨髄に注入される。このような方法の前立腺癌細胞の培養は骨髄中の微小環境中の様々な因子により調和された状態となり、造骨病変を形成し、更なる使用または解析のために回収される。
連続的細胞系
本発明はまた、異種移植片細胞調製の培養により確立した、ヒト前立腺癌連続的細胞株を提供する。ある様態において、細胞株は皮下異種移植片から培養したヒト前立腺癌細胞を含む。実施例9の方法に記載した特異的様態において、LAPC-4細胞株はLAPC-4異種移植片から調製した単一細胞調製の培養により確立された。LAPC-4細胞株系はPSA、アンドロゲン受容体(AR)を発現し、アンドロゲン依存性である。LAPC-4細胞系は連続培養中で1.5年間成長し続け、他のいかなる利用可能なヒト前立腺癌細胞株よりもヒト臨床的状況に近い表現型的特徴を示す。
【0038】
発明の細胞株は多くの目的で利用され得る。これらに限定することを意図するものではないが例えば、細胞系は大量の核酸およびタンパク質の提供源として、および治療的形質転換遺伝子、タンパク質、および化合物の候補の検索および評価に、および前立腺特異的または差異のある発現をする遺伝子の同定および単離の道具として用いられ得る。前立腺癌細胞の成長を制御する遺伝子はin vitroまたはin vivoにおいて形質転換体内で過剰発現することで評価されることができる。遺伝子の微小組織転移、および造骨細胞骨病変の発達に対する効果はin vivoで、皮下、前立腺内、または脛骨内への形質転換細胞の埋伏により評価され得る。
実施例
以下の実施例の方法およびそこにある実験的詳細により、発明はさらに記載および説明される。この節は発明の理解の助けを目的とし、主張に発明を限定することを意図するものでなく、そのような解釈をすべきでない。
実施例1 前立腺ガン進行を刺激する皮下ヒト前立腺ガン異種移植片の産生
材料及び方法
患者:全ての臨床材料はIRB認証プロトコールに基づいたインフォームドコンセントを得た後、局部的進行または転移(CまたはD段階)患者より得た。大部分の患者は何らかの形態のアンドロゲン除去療法(薬理的または外科的)をすでに受けており、組織試料採取時には進行性疾病を示していた。
動物:C.B.17 scid/scid(SCID)マウスは以前に記載された(Aldrovandiら.,Nature 363:732-736(1993))無菌的条件の元、UCLAで飼育された。外科手術時に得た生体組織材料は氷上に置かれ、即座にSCIDマウス設備に移植のために移送された。外科用メスで組織を2-3mm3断片に細切し、SCIDマウスの横腹に皮下移植した。マウスは移植前にメトキシフルランにより麻酔された。最初の移植は100-200μlのマトリゲル(Collaborative Research,Bedford,MA)を移植片周辺に注射し、行われた。マトリゲルは細胞外マトリックス調製物で、上皮腫瘍の生育をin vivoで増強するのに役立つ(Pretlow(1993),上述: Noelら., BiochemicalPharmacology 43:1263-1267(1992) andLimら., Prostate 22:109-118(1993))。一つの異種移植片を2-3回継代後は、マトリゲルは連続増殖のためには用いなかった。アンドロゲン除去は麻酔下における外科的去勢により行われた。腫瘍の大きさは週ごとにカリパスで高さ、幅、深さを計測することにより決定された。実験の一部では、持続放出性テストステロンペレット(Innovative Research ofAmerica, Sarasota, FL)を、製造者が推奨のように皮下移植した。異種移植片は生育可能なように、DMSOを含む培地中で1-2mm3の細切された組織断片を凍結することにより、液体窒素内に保存した。
【0039】
PCR解析、組織学及び免疫化学:腫瘍組織由来のDNAは、Sambrookら., Molecular Cloning: A Laboratory Manual. Cold Spring HarborLaboratory Press.第2版(1989)により示されたように、SDS界面活性剤抽出及びプロテイナーゼK消化を用いて調製された。RNAはグアニジンチオシアネートおよびβ-メルカプトエタノールを含む商業的に入手可能なキットを用いて抽出された(RNAgents トータルRNAアイソレーションシステム Promega)。粗組織片の汚染を避けるため、剖検時に用いられた組織ホモゲナイザー及び全ての外科器具は、塩酸、DEPC処理水、及びエタノールによる洗浄により連続洗浄された。ヒトβ-グロビンに対するDNA-PCR解析(Aldrovandi ら.,上述および Saikiら., Science230:1350-1354(1985))及びPSAに対するRT-PCR解析(Pang ら,. Hum. GaneTher. 6:1417-1426(1995))は以前に記載されたように行った。簡略には、ヒトβ-グロビン遺伝子特異的プライマーを用いたPCR解析は、LAPC異種移植片から単離された100ngのゲノムDNAにより30サイクル行われた。各反応混合物の十分の一がアガロースゲル電気泳動により解析され、臭化エチジウム染色により視覚化された。ネズミ3T3細胞は負の対照として用いた。全RNA試料の質は、リボソームRNAの臭化エチジウム染色及び、β-アクチンプライマー(Pang ら,.上述)をコントロールとして用いたRT-PCRにより確認した。プライマー配列の詳細は参考文献中にある。PSA発現のRT-PCR解析はヒトPSA特異的プライマーを用い、100ngの全RNAで行った。同一のRNA試料はゲルに同量泳動されているかを確認するために、ヒトまたはネズミβ-アクチンを認識するプライマーを用いて解析された。PSAに対する免疫組織化学的染色は記載されたように(Hau ら., Am.J. Clin.Path. 75:734-738(1981)) 、PSAに対するポリクローナル抗血清を用いて行った。
【0040】
アンドロゲン受容体DNAの配列決定:アンドロゲン受容体のエクソン2-8がイントロン特異的PCRプライマー(Marcelliら., Mol.Endocrinol. 90:1105-1116(1990))を用いて、ゲノムDNAより配列決定された。PCR産物はまず、記載された通りの適切な正及び負の対照(Sutherlandら., J. Urol.156:828-831(1996))を用いたSSCPにより選別された。この技術は、腫瘍細胞がゲノムDNAを作成するために使用した集団中20%しか占めない場合でも、前立腺癌臨床組織標本中の変異を検出することが示されている。全てのSSCP異常は配列決定により解析された。二つの独立のDNA試料が二つの独立の研究室において何らかの変異の存在を除外するために解析された。
【0041】
細胞遺伝学:腫瘍組織は無菌的に、10%ウシ胎児血清を加えたDMEM増殖培地中で、一晩でユタ大学に細胞遺伝学的調製と解析のために輸送された。簡潔には、組織は細切され、Hanks平衡塩溶液中(Ca++及びMg++を含まない)で洗浄され、ウシ胎児血清を加えたRPMI培地に再懸濁され、細胞は16hの0.001μg/mlコルセミド処理により分裂中期で停止させられた。細胞遺伝学的細胞回収は標準的な方法を用い、低張の(0.075M)KC処理及び3:1メタノール/酢酸固定の後切片が調製され染色体はトリパイン/ライツ染色によりG-バンド化された。
結果:
進行段階前立腺癌外植片はSCIDマウスで連続的に増殖可能である:局所進行性または転移性腫瘍組織の生体組織検査は、疾病の合併に起因する緩和性外科的手法を経験した局所進行性または転移性(C、D1またはD2段階)の前立腺癌を有する合計15人の患者から得た。生体組織材料は外科施設からSCIDマウス施設に直ちに輸送され、2-3mm3断片に細切され、マトリゲル存在下でSCIDマウスの皮下に移植された。腫瘍の成長は、大きさで2-3倍の増加を維持した場合にのみ陽性とされた。組織学的研究に加え、各異種移植片がヒト由来の腫瘍であることを証明するために二つの分子的解析が行われた。これは、ヒトβ-グロビン遺伝子特異的プライマーを用いたゲノムDNAのPCR、及びヒトPSA遺伝子特異的プライマーを用いた腫瘍由来RNAの定量的RT-PCRを含む。PSA発現分析は外植片が前立腺由来であることを証明するためにも用いた。
【0042】
二つの独立した一連のこれら15人の患者由来の腫瘍組織試料の皮下移植により得られた結果は、以下に個別に記載する(即ち、LAPC-1からLAPC-8シリーズ及びLAPC-9からLAPC-15シリーズ)。
LAPC-1からLAPC-8シリーズ:
8人中6人の患者由来の外植片(ロサンゼルス前立腺癌の意でLAPC 1-8と名付けた)は2-10ヶ月の間の潜伏期の後腫瘍を形成した(表1)。成長した6種の外植片は、恒久的異種移植片を確立するために二次受容者に移植された。これらのうち2種(LAPC-1及びLAPC-5)は、腫瘍におけるヒトDNAまたはPSAの発現を検出することが不可能であったため、3-4回の移植で終了した。これらの外植片はLAPC-5の初期の段階ではヒトDNA内容物を含みPSAを発現していたので、おそらくネズミ由来の細胞が増殖しすぎたのであろう(表1、カラム6、7)。
【0043】
残る4種の外植片(LAPC-3,4,7及び8)は皮下異種移植片として二次移植者において4ないし20回(またはそれ以上)の継代回数で、首尾よく増殖した。RT-PCRを用いて、PSAのmRNA発現量を測定して、PSAのmRNA及びタンパク質を発現することが知られている前立腺癌細胞系統であるLNCaPと比較した。この分析は半定量的であり、105のマウス細胞に希釈(1000中の1、または0.1%)された100のLNCaP細胞から発現されるPSAのmRNAを検知可能である(図1B、上パネル)。6種の異種移植片のうち4種(LAPC-3,4,5,8)は、ヒトPSAをLNCaP細胞から検出される量の1%から100%の幅の量で発現した(図1B、上パネル)。同時に行ったβ-アクチンプライマーを用いたRT-PCR解析により、各反応において同量のRNAが存在することが確認された(図1B、下パネル)。図2は、オスマウスにおける異種移植片として継代した後のものと、手術後の時点で得られた元のLAPC-4腫瘍試料との組織学的比較を示す。ヘマトキシリン及びエオシンにより染色した切片(図2、左パネル)は免疫組織化学的解析を用いたPSA染色陽性の均一な未分化細胞集団を示す(図2、右パネル)。これらの発見により進行段階の前立腺癌外植片がSCIDマウスにおいて連続的に増殖可能であり、限定的組織特異的遺伝子の発現を保つことが示される。
【0044】
【表1】
【0045】
これらのシリーズにおける2種の異種移植片、LAPC-3及びLAPC-4は、各々6及び8回以上の継代を経ても前立腺癌の組織学的及び分子的特徴を保持し続けた。両異種移植片は腫瘍外植片として生育可能であるよう凍結され、100%近い高率で解凍により復帰させることが可能である。LAPC-4異種移植片由来の細胞系列は、20%ウシ胎児血清を加えたIscovの増殖培地における細切された異種移植片組織を、トリプシン処理して連続継代することにより確立された。LAPC-4細胞系列は20回以上の継代の後にも確立状態を持続し、18ヶ月以上連続的に培養されている。これらの細胞はPSAの発現、SCIDマウスにおける腫瘍の形成、アンドロゲン感受性を継続した。
LAPC-9からLAPC15シリーズ
異種移植実験の第2シリーズは追加の7種の進行性段階(CまたはD)疾病の前立腺癌の患者由来の組織試料の移植により実施された(表2)。これら7種の移植片うち4種は、追加的マウスにおいて、PSAを発現し連続的増殖が可能なアンドロゲン感受性異種移植片を生成する結果を残した(LAPC-9,12,14,15)。ホルモン不応答性転移疾病を有する患者の骨腫瘍生体組織検査より生成されたLAPC-9異種移植片は、極度のアンドロゲン感受性表現型(PSAレベルは、去勢の後0に落ちる)を示し、継代され1年程度生存状態で維持された。転移性疾病を有する患者の前立腺腫瘍生体組織検査より生成されたLAPC-14異種移植片は、精力的増殖の特徴を示し、高度のアンドロゲン感受性を示した(テストステロンの添加により生育が十分に増強される)。
【0046】
【表2】
【0047】
LAPC-3及びLAPC-4異種移植片は染色体異常を含む:
ヒト前立腺癌の広範囲の細胞遺伝学的研究は、手術により得られる臨床素材の不均一性、及びin vitroでの前立腺腫瘍細胞の限定的生育により、困難であった。SCIDマウスにおける前立腺腫瘍組織の継代が核型の解析を促進するかを決定するために、LAPC-3及びLAPC-4異種移植片由来の初期継代腫瘍は、標準的細胞遺伝学的技術を用いて解析された。高度の細胞分裂収量は両者の異種移植片由来の腫瘍試料より得られ、及び全ての分裂中期細胞はヒト染色体を含んでいた。詳細な混合核型は表3に示した。LAPC-4の形態上染色体数は89であった、これは低4倍体であることを支持する、一方LAPC-3の形態上染色体数は69であった、これはこの系列は3倍体近傍であることを示す、しかし多くの染色体が4コピー存在することは4倍体から減少した可能性を高めている。両異種移植片は以前報告された、Y及び16の欠損等の計算上及び構造上の染色体異常を示した。加えて、両異種移植片は染色体12p12の欠損という前立腺癌において以前報告されていなかった核型異常を含む。
【0048】
【表3】
【0049】
LAPC-4異種移植片のアンドロゲン非依存性の進行:
前立腺癌細胞はアンドロゲンの増殖刺激効果に非常に感受性である、しかしアンドロゲン枯渇の選択圧の元にある患者においてはアンドロゲン非依存的疾病が結果的に発達する。このアンドロゲン非依存的成長への移行の機構は不明である。疾病のこの段階がSCIDマウスにおいてモデル化可能であるかという疑問は、オスマウスにおける連続継代で100%の頻度で腫瘍を再現的に形成するLAPC-4異種移植片を用いることにより決定された。異種移植片のアンドロゲン依存性は、健全なオスマウスにおける移植後の成長率と、去勢オスマウスまたはメスマウスから得られる成長率を比較することによりin vivoで計測された。LAPC-4では、去勢オスマウスまたはメスマウス(n=10)では腫瘍形成の平均時間が13.4週間であるのに対し、健全なオスマウス(n=14)では4.3週間であった(図3)。メスマウスでの遅い成長は、90日間除放性のテストステロンペレットのを移植すると逆転した( 図3)。メスマウスまたは去勢オスマウスにおけるアンドロゲン非依存性腫瘍成長は二次的移植実験により確認された。一度確立されると、これらの腫瘍はオス、メス及び去勢オスマウスにおいて4-6週間以内に成長した。
【0050】
LAPC-3異種移植片はLAPC-4のアンドロゲン非依存的副系列に類似の成長特徴を示した。第1継代の最初の潜伏期の後、LAPC-3腫瘍は受容者のホルモン背景に関わらず7-8週間以内に成長し、明らかにこの異種移植片はアンドロゲン非依存的であると確定した。
【0051】
臨床的には、抗アンドロゲン療法は多くの進行前立腺癌患者において一時的な疾病の抑制効果がある。マウスモデルにおいて同様の効果が観察できるか決定するために、オスマウスにおいて成長している確立した腫瘍への急激なアンドロゲン除去効果を検査した。同一の大きさのLAPC-4異種移植片を14のオスマウスの一群に移植した、これら全ては4週間後には簡単に計測できる腫瘍を形成した。これらのマウスのうち半分は去勢を行った、その後各群の3次元方向における腫瘍直径のカリパスでの計測を週ごとに行った。非去勢マウスにおける腫瘍は、2-3週間の時点で大きさが倍になった(図4)。これに対し、去勢マウスでは、2-3週間持続する約50%の腫瘍の大きさの減少が一週間後には示された。これらの腫瘍は様々な潜伏期(3-8週間)の後再び成長を始め、結果的には非去勢マウスにおいて観察されるのと同じ大きさに成長した。これらの結果によりLAPC-4異種移植片はアンドロゲン依存的成長を示すこと、アンドロゲン非依存的副系列が発生しうること、及びこの異種移植片はアンドロゲン感受性からアンドロゲン非依存的疾病への臨床的移行を疑似することが示された。
LAPC-3及びLAPC-4は野生型アンドロゲン受容体を発現する:
同様の変異がLAPC-3及びLAPC-4に存在するかを決定するために、アンドロゲン受容体遺伝子のDNA結合及びリガンド結合領域にわたる、エクソン2-8が配列決定された。一本鎖構造多型(SSCP)解析も同様に行われた。各エクソンは、初期及び後期継代腫瘍のゲノムDNAよりPCRにより増幅され、以前に同定された変異型及び野生型アンドロゲン受容体DNA(Sutherlandら., 1996)を正の対照として使用し、解析された。結果によりLAPC-3及びLAPC-4両者がエクソン2-8において野生型配列を有することが示される。さらに、これらの配列はアンドロゲン非依存的LAPC-4副系列においても保持される。免疫ブロット解析により、適切な大きさのアンドロゲン受容体タンパク質が確認された。これらの結果はアンドロゲン非依存的前立腺癌進行は、アンドロゲン受容体のDNAまたはリガンド結合領域における変異なしで起きることを提供する。
LAPC-4細胞は効率的にレトロウイルスを導入可能である:LAPC-4異種移植片細胞は両親媒性エンベロープタンパク質と共に293T細胞に一時的にパッケージされたレトロウイルスにより首尾よく導入可能である。LAPC-4細胞を細胞表面にThy-1タンパク質発現するレトロウイルス系統に感染させ、発現はThy-1に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより検知した。その結果、Thy-1発現は感染後48hで50%の細胞にのぼった、これはThy-1遺伝子がLAPC-4細胞にレトロウイルスを介し首尾よく導入できたことを示す。
実施例2:異種移植片細胞の単一細胞懸濁液の調製
材料及び方法
皮下LAPC-4腫瘍の単一細胞懸濁液は以下のように調製された。SCIDマウスから異種移植片組織を除去した後、組織は1×のIscov培地に浸している間に組織を1-2mm3の断片に細切され、その後細切した組織に1.3K rpm、4分の遠心分離を行ない、上清は10mlの氷上で冷やした1×のIscov培地に再懸濁し、1.3K rpm、4分の遠心分離を行った。沈澱は0.1%のプロネースEを含む1×のIscov培地に再懸濁し、氷上で2-4分間の保温の後室温で18分間保温した。混合物は200μmナイロンメッシュフィルターを用いて濾過した。濾過は1.3K rpm、4分の遠心分離で行われ、上清を吸引後の沈殿を10mlのIscovへ再懸濁し、及び再遠心分離して、プロナーゼを吸引除去した。最終的な沈澱は37℃で前保温されたPrEMGに再懸濁した。細胞数を決定し、限界希釈を図5に示されるよう調製した。
結果:
LAPC-4異種移植片の単一細胞再懸濁液を用いた腫瘍移植の限界希釈解析の結果は図5に示される。結果により、異種移植片細胞の単一細胞再懸濁液は10個程度のLAPC-4細胞の注入後のオスマウスにおいて皮下腫瘍を形成可能であること、これらの細胞は元の腫瘍のアンドロゲン感受性を保持することが示された。
実施例3:皮下腫瘍を保持するSCIDマウスにおける微小転移の進行のシミュレーション
材料及び方法
LAPC-4異種移植片を本研究において用いた。この異種移植片は転移前立腺癌細胞を含むリンパ節に由来し、皮下にLAPC-4細胞を接種されたオスマウスの100%が骨転移の証拠を有することなく4-6週間後には局部腫瘍を形成する。LAPC-4腫瘍を移植されたSCIDマウスにおける微小転移の存在は末梢血の前立腺癌細胞はPSAのmRNAのRT-PCR解析することにより決定された。同時に行ったβ-アクチンプライマーを用いたRNA-PCR実験により同量のRNAを泳動したことが確認された。PSA
mRNA陽性シグナルは、RNA調製中の剖検操作中の腫瘍細胞の汚染によるものではないことを確認するため、試料は異種移植片を移植されていない対照マウスから同時に調製された。オートラジオグラフの露光時間延長の後でさえ、対照マウスからはPSAの発現は検知不可能であった(図6)。LAPC-4腫瘍を皮下移植されたマウス由来の骨髄、脾臓、肝臓、肺及び腎臓組織についても、PSAのmRNAを検知するためのRT-PCRを用いることにより前立腺癌細胞の存在が解析された。
結果
二種のマウス(図6A、マウスnos 213及び241)由来の解析の実施例は血液におけるPSAのmRNAを0.1-1.0%のレベルで検知する、これは臨床実験において報告されたレベルに匹敵する。他の組織は、骨髄(マウス213,241)、肺(マウス214)及び脾臓(データは示さない)を含め、数匹のマウスにおいて陽性であった。LAPC-4異種移植片を有する12匹(表4)由来の結果により、マウスの50%は、末梢血、骨髄または脾臓においてPSAのmRNA陽性細胞を有していることが示された(RT-PCRによるPSA発現量は0.1%またはそれ以上)。発現量は、ネズミ繊維芽細胞中に希釈した、一連のLNCaP細胞との比較により概算的に定量化され、0.1%から1.0%の間で分散した。微小転移性疾病を検知する頻度は、健全なオスマウス(27%)と比較すると、メスマウスまたは移植前に去勢されたオスマウスでは高かった(80%)。これらの結果により、アンドロゲン非依存的疾病への移行は高度な転移率を伴うことを示唆し、この仮説は臨床実験によっても支持される。
【0052】
【表4】
【0053】
実施例4:異種移植片細胞による前立腺内腫瘍の発生
材料及び方法
単一細胞懸濁液は実施例2において記載されたとおり皮下異種移植片より調製された。SCIDマウスは移植に先立ち、ケタミン/キシラジンで麻酔した。マウスの下部腹腔において横断切開を行い、腹壁筋を切開し、膀胱及び貯精嚢を背面前立腺露出の切開により導出した。10μlのPrEGMに懸濁した約10,000細胞のLAPC-4を、30ゲージの針により膜下の腹部前立腺に緩やかに注入し、切開部を走性縫合により封止した。
結果
LAPC-4及びLAPC-9異種移植片、及びLAPC-4細胞系統より調製された単一細胞懸濁液の前立腺内注入により、受容者SCIDマウスにおいて100%の効率で直生腫瘍(orthotopic tumor)が生じた。
実施例5:前立腺内腫瘍を有するSCIDマウスにおける前立腺癌の転移性段階への進行のシミュレーション
材料及び方法
LAPC-4異種移植片細胞の単一細胞懸濁液を調製し、一連の実施例において記載されたとおりSCIDマウスの前立腺内の直生腫瘍の確立のために使用した。転移の存在は組織学的実験及び注入後8-12週の間のPSAのmRNAを検知するためのRT-PCRにより確認した。
結果
下記表5に示される結果により、骨髄転移形成の重度の頻度と同様に、リンパ及び肺への高頻度での転移が示される。高頻度の骨転移は、線照射及びNK細胞除去の組み合わせで前処理を行った一群のマウスにおいて観察された。LAPC-9異種移植片を用いても同様の結果が得られた。
【0054】
【表5】
【0055】
実施例6:異種移植片細胞の単一細胞懸濁液を脛骨内接種したSCIDマウスにおけ
る骨髄造骨細胞への進行のシミュレーション
材料及び方法
脛骨注入分析:前立腺癌細胞は皮下LAPC-4異種移植片から単離され、実施例2において記載されたように単一細胞懸濁液として調製した。1μlのマトリゲルに懸濁した1万のLAPC-4細胞は、一群のSCIDマウスの各隣接脛骨転移に27ゲージの針により外科的に注入された。各注入の2、4、6、8及び12週間後に3匹のマウスを犠牲にした。血清PSAレベルは定期的にELISAにより解析された。2週間後凍結骨切片は、ヒトのサイトケラチン-18特異的抗体または同型のコントロール抗体を用いたサイトケラチン-18染色により免疫組織化学的に解析された。4、6、及び8週間後に用いたネズミ由来の脛骨縦切片は脱石灰パラフィルム断片のヘマトキシリン及びエオシン(H+E)染色により腫瘍成長を解析された。マウスのラジオグラフは造骨病巣の証拠を確認するための剖検時に行われた。
結果
2週間後、少数のヒト前立腺癌細胞が抗サイトケラチン-18抗体による免疫組織化学的染色により視覚化された(図7)。サイトケラチン-18陽性細胞は髄腔中に散在して観察された。このデータにより、大部分のマウス脛骨に注入されたLAPC-4細胞は、注入された細胞のごく一部のみが検知できるため、この時点では死んだか他の位置に移動したと示される。
【0056】
4週間後、一般に正常骨片に隣接する少数の点在領域において、H+E組織学(図8)により腫瘍成長の小フォーカスが観察され、PSAが血清より検出された。6及び8週間後の時点で、髄腔でのさらに拡張的な腫瘍成長が、周囲の腫瘍細胞に反応した髄腔内の造骨活性により示される新骨形成の進行的増加とともに観察された(図8B及びC)。血清PSAレベルはこの時点で顕著に増加した。
【0057】
8週間後まで、骨病巣は、ラジオグラフにより、ヒト前立腺癌において臨床的に観察されるのと同様の優性骨形成を伴う、造骨及び破骨病巣の混合物として観察できた。図9を参照すると、左パネルは正常マウス脛骨のラジオグラフを示し、充分明確に認定できる皮質及び相対的に放射線非透過性の髄腔が示される。右パネルはLAPC-4異種移植片細胞を注入した脛骨髄腔のラジオグラフであり、造骨活性による骨密度の不均一な増加及び皮質の一部の欠落が示されている。これらの結果によりLAPC-4異種移植片細胞はネズミ骨において増殖可能であることが示され、これにより種を越えた骨肉腫と前立腺癌細胞との交わりが起こり得ることが示される。
実施例7:皮下異種移植片を有するSCIDマウスの骨髄由来前立腺癌細胞の単離
LACP-4細胞における細胞表層タンパク質ガレクチン-6の存在は、ヒト特異的ガレクチン-6モノクローナル抗体あるいは同型の対照と共にインキュベートした完全なLAPC-4細胞から確認された。この抗体はFITC結合二次抗体と共にインキュベートした後、フローサイトメトリーにより視覚化された。フローサイトメトリーの結果により、少なくとも背景の強度を一オーダー上回る量のガレクチン-6の発現が示された(図10)。マウスの骨髄における同様の実験はガレクチン染色を示さなかった。
【0058】
実施例3において記載されたように、少数の前立腺癌細胞が接種後4-6週間の皮下異種移植片を有するSCIDマウスの骨髄において検出でき、髄における細胞の1%以下程度と示される。この前立腺癌細胞の集団は、抗体に基づくアフィニティー精製系であるミリテニルマグネティックミニマックス(Sunnyvale,CA)及び以下に述べる抗ガレクチン-6抗体を用いて、骨髄から単離できる。皮下にLAPC-4腫瘍を有する20匹のマウスは異種移植片の移植の後4-6週間で安楽死させた。骨髄は、塩水で骨髄を洗浄することにより脛骨及び大腿骨の髄腔から得る。髄をプールし、ガレクチン-6に対するヒト特異的モノクローナル抗体及び磁気ビーズ結合二次抗体と共にインキュベートし、製造者が推奨のようにミニマックスカラムを通過させた。マウス骨髄細胞はカラムを通過するが、LAPC-4細胞はカラムに保持される。次いで、精製されたLAPC-4細胞をカラムから回収し、SCIDマウスにおいて皮下腫瘍に種苗することにより増殖させた。
実施例8:異種移植片細胞を脛骨内に注入したSCIDマウスの骨髄由来の前立腺癌細胞の単離
脛骨内腫瘍は実施例6において記載されたようにLAPC-4細胞を用いて、SCIDマウスにおいて確立された。骨髄において成長するLAPC-4細胞は、12週間後の剖検マウスから、脛骨髄腔を塩水で洗浄し細胞を増殖させることにより回収した。注入後12週間では、回収細胞の約90%は前立腺腫瘍細胞と幾分かの残存したネズミ骨髄細胞である。この一群の細胞から、実施例7において記載されたようにガレクチン-6抗体/磁気アフィニティー精製法を用いることにより、前立腺癌細胞を更に精製可能である。
実施例9:LAPC-4細胞系統は複数の移植を通じPSA、アンドロゲン受容体、及び前立腺の酸ホスファターゼの発現能を保持する。
材料及び方法
継代細胞系統は、20%ウシ胎児血清を加えたIscovの成長培地中でトリプシン処理され、細切された異種移植片組織の連続継代により、LAPC-4異種移植片より確立された。
結果
in vitroでの継代培養において成長するLAPC-4細胞は20回以上の継代を通じてPSA、アンドロゲン受容体、及び前立腺酸ホスファターゼの発現を維持する。加えて、LAPC-4細胞は、アンドロゲン受容体のDNAまたはリガンド結合領域のいずれにおいても変異を含まない、これは既知の前立腺癌モデルと比べ、新規の特徴である。その他唯一のPSA発現細胞系統であるLNCaPは、リガンド結合領域における点変異を有するアンドロゲン受容体を発現する。加えて、LAPC-4細胞は、アンドロゲン非依存性副系統においてもアンドロゲン受容体を発現し続け、これは臨床材料の解析より得られる結果と類似である。LAPC-4細胞系統は、腫瘍がオスマウスにおいては速やかに成長するが、メスまたは去勢オスマウスにおいては成長しないため、アンドロゲン依存性である。LAPC-4細胞系統は20回以上の継代を通じて確立され続け、18ヶ月以上継代培養された。これらの細胞は、PSAの発現、SCIDマウスにおける腫瘍形成、及びアンドロゲン感受性の保持を持続した。
実施例10:in vivoでのアンドロゲン非依存性増殖に対する候補遺伝子の生物学的効果の確認
ホルモン不応答性前立腺癌における何らかの遺伝子の上方制御が、アンドロゲン非依存性の発病に寄与する可能性がある。例えば、多くの進行前立腺癌において上方制御されるBcl-2は、アンドロゲン依存性のLNCaP前立腺癌細胞系統にアンドロゲン非依存性を与える(Raffo ら., 1995)。本実施例によれば、in vivoで、アンドロゲン非依存性表現型に寄与する候補遺伝子を探索できる。
LAPC-4アンドロゲン依存性腫瘍外植片は組織培養培地中で増殖し、SCIDマウスに再注入するとアンドロゲン依存性腫瘍を形成する
現在のアンドロゲン依存性及び非依存性成長の生体分析は、唯一のアンドロゲン依存性の特徴を示す入手可能な細胞系統であるため、ほとんどLNCaP前立腺癌細胞系統に独占的に依存している。in vitroでの多重変異の可能性を有する長期間経過した細胞系統の問題を回避するために、LAPC-4異種移植片を短期間の培養で成長させ、マウスに再注入して腫瘍を形成させた。外植片腫瘍は後に遺伝学的に扱われ、これらの操作の効果はin vivoで計測された。
【0059】
LAPC-4腫瘍は小片に細切され、15%ウシ胎児血清を含む培地で培養された。2-3日後に上皮細胞及び繊維芽細胞の両者の増殖(outgrowth) が観察された。後に細胞は、コンフルエントに成長し、首尾よく継代して元の腫瘍片を除去することができた。RT-PCRにより持続的なPSA発現が確認された。1×107細胞をその後、健全なオスまたは去勢したSCIDマウスに再注入した。最初の実験と同様、注入された細胞はアンドロゲン依存性の特徴を有する腫瘍を形成し、去勢マウスにおいてはより長い時間を腫瘍形成に必要とした。
培養LAPC-4はレトロウイルスにより形質導入可能である。
【0060】
外植されたLAPC-4細胞のレトロウイルス感染能を検査するために、これらの細胞を欠損型神経成長因子受容体遺伝子を有するレトロウイルスベクターで形質導入した。テナガザル白血病ウイルス(GALV)のエンベロープを有するPG13パッケージ細胞系統を、高力価ウイルスを生成するために使用した。この方法で生産されたレトロウイルス粒子はヒト細胞に感染しネズミ細胞にはしないユニークな特徴を有し、ゆえにマウス基質細胞への遺伝子導入は避けられる(Bauer ら., 1995)。感染の後、細胞をNGFRに対する直接抗体で染色し、FACS解析により解析した。5-10%の細胞が遺伝子導入されていた。ネズミ繊維芽細胞の負の対照は全く感染せず、一方ヒト293T細胞は効率的に遺伝子導入された。
アンドロゲン非依存性前立腺癌におけるcDNA上方制御の生物学的分析
候補cDNAは、我々の研究所で広く用いられるレトロウイルスベクターpSRalpha(Afarら., 1994)の5'位置にクローンできた。レポーター遺伝子として、NGFR、LacZ、またはヒトコドンに最適化した緑色蛍光タンパク質(GFP)のいずれかを下流に挿入してもよい。プラスミドはPG13梱包細胞系統に感染させること、ウイルスを集めること、及び力価を計測することが可能である。LAPC-4細胞は最初の継代の後に感染可能であり、その後十分量が注入に利用できるまで選別なしに増殖できる。導入遺伝子の発現はFACS解析またはRDAのcDNAをプローブとして用いるノザンブロットのいずれかにより確認できる。
【0061】
二つの異なる型の実験が行われる。まず、感染細胞を健全なオスSCIDマウスの脇腹に注入した。各マウスの両脇腹に腫瘍を形成した後、ひとつの腫瘍を除去し、その後マウスを去勢した。外植された腫瘍は注入された細胞のパーセンテージを計量する解析を行った。この解析はLacZ染色または、GFPまたはNGFRのFACS解析により行える。我々は6-10%の細胞が導入遺伝子を保有すると予期する。残存した腫瘍は復活及び再成長の後(すなわち去勢後約4-8週間後)に同様の解析を行える。もし導入遺伝子により生存における優位な立場、またはアンドロゲン非依存性が注入細胞に与えられるならば、ホルモン除去の後に導入遺伝子保有細胞のパーセンテージが増加することが期待できる。複数のマウスに各構造を注入でき、陽性結果を追試により得ることができる。
【0062】
第二の実験においては、感染頻度を定量化した後、健全な及び去勢マウスに平行して注入細胞を移植できる。結果的に得られる腫瘍(各4及び12週間時点)は上記に記載した挿入頻度を解析される。この場合も"アンドロゲン非依存性"遺伝子はこの腫瘍におけるアンドロゲン非依存的な成長における優位な立場及び優先性を提供すると期待できる。加えて、与えられた候補遺伝子が去勢オスにおける腫瘍形成に要する時間を短縮する可能性がある。これも測定可能である。最後に、与えられた遺伝子は侵襲的なアンドロゲン依存的成長を与える可能性もある。これは腫瘍形成に要する時間及び健全なオスマウスへの注入前及び後の挿入頻度を比較することにより、本解析において定量化もできる。
【0063】
これらの解析は正の対照とともに確認できる。特に、bcl-2、c-myc、及びc-met、の3種は一貫してアンドロゲン非依存性を伴うため、用いることができる。
本発明は、本明細書中において記載された態様により範囲内に限定されず、これらは本発明の個々の側面の単一の描画として意図され、その各々は本発明の範囲内では機能的に同等である。本明細書中において記載されたものに加えた、本研究のモデル及び方法に対するさまざまな修飾は、当業者には明らかであり、本発明の範囲内に収まることを同様に意図される。これら修飾または他の態様は本発明の真の範囲及び精神より解離することなく、実施される。
参照文献
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】前立腺ガン異種移植片の、ヒトDNA含量および前立腺特異的抗原(PSA)の発現の分子的解析。図1A: ヒトβ-グロビン遺伝子特異的プライマーを用いた、異種移植片から単離されたゲノムDNAのDNA-PCR分析。示された各試料は継代の後期の異種移植片から得られた。LAPC-5試料は、ネズミ由来の腫瘍がヒト腫瘍よりも増大した継代4の時点で得られた。2つのLAPC-4試料はアンドロゲン依存性(ad)および被依存性(ai)サブ系列から得られた。図1B: ヒトまたはネズミβ-アクチンおよびヒトPSA特異的プライマーを用いた、全RNAのRT-PCR分析(%ヒト細胞とは、10万のマウス細胞中に希釈されたLNCaP細胞の%を示す)。ネズミNIH 3T3細胞によるヒト前立腺ガンLNCaP細胞の希釈シリーズは図の左側に示される(LNCaP細胞の%は0.0%から100%)。3つのLAPC異種移植片の結果は右側に示される。
【図2】PSAの発現を示す、LAPC-4異種移植片の免疫組織化学分析の写真。外科処置時に得られた一次腫瘍試料由来のホルマリン固定した組織(上)およびLAPC-4異種移植片(下)のパラフィン切片が、ヘマトキシリンおよびエオシン(左)、対照の抗体(中)、およびヒトPSA特異的抗体(右)で染色された。
【図3】in vivoでのLAPC-3およびLAPC-4異種移植片のアンドロゲン感受性を示す棒グラフ。等しいサイズのLAPC-3およびLAPC-4移植片は雄または雌のマウスに同時に導入され、腫瘍形成について週毎に検査された。
【図4】去勢後のLAPC-4腫瘍の退行および再増殖。図4A: 腫瘍サイズが4週目で等しかった集団の2匹の動物の典型的な結果を示す線グラフ。雌マウス中での腫瘍成長の時間経過が比較として示される。図4B: 無処理および去勢された雄マウスの集団全体の平均腫瘍サイズ(+/-標準誤差)を示す棒グラフ。各動物のデータは、4週目の時点に比較した腫瘍サイズとして表現される。
【図5】雄マウス中のLAPC-4移植片の限界希釈分析を示す線グラフ。
【図6】LAPC-4異種移植片を有するマウスにおける微小組織転移疾患を示す写真。図に示す組織から全RNAが単離され、RT-PCRを用いてPSA(a)およびβ-アクチン(b)の発現が分析された。腫瘍および3匹の代表的なマウスの種々の組織の結果を示す。4番目のマウス(対照SCID)由来の組織は負の対照として分析された。シグナルはLNCaP(レーン1)との比較によって定量され得る。負の対照試料にはRNAが加えられなかった(レーン2)。
【図7】免疫組織化学による、2週目の骨中のLAPC-4細胞の検出を示す写真。LAPC-4細胞を注入されたマウスの脛骨の凍結断面が、サイトケラチン-18の抗体(下)またはアイソタイプの対照抗体(上)で染色された。赤く染色された4つの細胞はLAPC-4細胞である。
【図8】LAPC-4が骨損傷を起こすことを示す写真。LAPC-4細胞を脛骨内注射した後4、6、8週目の脛骨のヘマトキシリンおよびエオシン切片。パネルAは正常な骨および造血細胞に隣接した腫瘍形成の小さいフォーカスを示す。パネルBおよびCは周囲の腫瘍細胞に応答した新骨形成の漸進的な増大を示す。
【図9】骨芽細胞骨損傷がLAPC-4によって誘導されることの、放射線写真による証明。マウスのX線撮影は脛骨中へのLAPC-4細胞の注射後8週目に行われた(右)。骨芽細胞の活性化のために骨髄腔中の骨髄の密度が高まり、骨が皮質腐食の兆候を示している。
【図10】抗ガレクチン-6抗体で染色されたLAPC-4細胞のフローサイトメトリー分析。アイソタイプの対照抗体と比較した発現レベルを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所進行性もしくは転移性前立腺癌のヒト患者のために個別化された治療を選択する方法であって:
a.患者から得られた局所進行性もしくは転移性前立腺癌組織又は当該組織の懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスに移植し;
b.処置を上記SCIDマウスに施し;
c.処置されたSCIDマウスにおける異種移植片の成長を、処置を施していない対照SCIDマウスにおける異種移植片の成長と比較し;そして
d.処置により、対照マウスに比較して処置マウスにおける異種移植片の成長の速度又は範囲が減少したなら、処置を患者のために選択する
ことを含む前記方法。
【請求項2】
移植が皮下である、請求項1の方法。
【請求項3】
移植が前立腺内である、請求項1の方法。
【請求項4】
移植が骨内である、請求項1の方法。
【請求項5】
局所進行性もしくは転移性前立腺癌の処置のために利用可能な複数の別の治療を受けている患者のために個別化された治療を選択する方法であって:
a.患者から得られた局所進行性もしくは転移性前立腺癌組織又は当該組織の懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスの一群に移植し;
b.複数の上記治療の各々を移植されたSCIDマウスの別の亜群に施し;
c.別に処置された移植SCIDマウスの間で異種移植片の成長を比較し;そして
d.処置された亜群の間で異種移植片の成長の速度又は範囲がもっとも減少した上記複数から治療を選択する
ことを含む前記方法。
【請求項6】
移植が皮下である、請求項5の方法。
【請求項7】
移植が前立腺内である、請求項5の方法。
【請求項8】
移植が骨内である、請求項5の方法。
【請求項9】
複数の治療の一つのメンバーが対照治療である、請求項5の方法。
【請求項10】
局所進行性前立腺癌に関してより攻撃的に治療されるべきヒト患者を同定する方法であって:
a.局所進行性前立腺癌組織の前立腺癌生検材料から調製された単一細胞懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスの骨髄に注射し;
b.骨の損傷の発生に関して骨髄を監視する
ことを含む前記方法。
【請求項11】
骨の損傷の成長が予後の指標である、請求項10の方法。
【請求項12】
骨芽活性が予後の指標である、請求項10の方法。
【請求項1】
局所進行性もしくは転移性前立腺癌のヒト患者のために個別化された治療を選択する方法であって:
a.患者から得られた局所進行性もしくは転移性前立腺癌組織又は当該組織の懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスに移植し;
b.処置を上記SCIDマウスに施し;
c.処置されたSCIDマウスにおける異種移植片の成長を、処置を施していない対照SCIDマウスにおける異種移植片の成長と比較し;そして
d.処置により、対照マウスに比較して処置マウスにおける異種移植片の成長の速度又は範囲が減少したなら、処置を患者のために選択する
ことを含む前記方法。
【請求項2】
移植が皮下である、請求項1の方法。
【請求項3】
移植が前立腺内である、請求項1の方法。
【請求項4】
移植が骨内である、請求項1の方法。
【請求項5】
局所進行性もしくは転移性前立腺癌の処置のために利用可能な複数の別の治療を受けている患者のために個別化された治療を選択する方法であって:
a.患者から得られた局所進行性もしくは転移性前立腺癌組織又は当該組織の懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスの一群に移植し;
b.複数の上記治療の各々を移植されたSCIDマウスの別の亜群に施し;
c.別に処置された移植SCIDマウスの間で異種移植片の成長を比較し;そして
d.処置された亜群の間で異種移植片の成長の速度又は範囲がもっとも減少した上記複数から治療を選択する
ことを含む前記方法。
【請求項6】
移植が皮下である、請求項5の方法。
【請求項7】
移植が前立腺内である、請求項5の方法。
【請求項8】
移植が骨内である、請求項5の方法。
【請求項9】
複数の治療の一つのメンバーが対照治療である、請求項5の方法。
【請求項10】
局所進行性前立腺癌に関してより攻撃的に治療されるべきヒト患者を同定する方法であって:
a.局所進行性前立腺癌組織の前立腺癌生検材料から調製された単一細胞懸濁液を免疫欠損SCIDのメスマウス又は去勢されたマウスの骨髄に注射し;
b.骨の損傷の発生に関して骨髄を監視する
ことを含む前記方法。
【請求項11】
骨の損傷の成長が予後の指標である、請求項10の方法。
【請求項12】
骨芽活性が予後の指標である、請求項10の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−17879(P2009−17879A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173119(P2008−173119)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【分割の表示】特願平10−518512の分割
【原出願日】平成9年10月15日(1997.10.15)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【分割の表示】特願平10−518512の分割
【原出願日】平成9年10月15日(1997.10.15)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
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