説明

ヒト化抗グレリン抗体

ヒト化モノクローナル抗体及びその抗原結合部分を提供する。抗原結合部分はアシル化及び非アシル化ヒト化グレリンと結合する。当該抗体はグレリン活性の中和及びグレリン活性が有害な障害、肥満及び関連障害、並びにガンの治療に対して有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒトグレリンは、血中を循環し、配列GSSFLSPEHQRVQQRKESKKPPAKLQPR(並列番号:1)を有する28アミノ酸ペプチドホルモンである。アミノ酸位置3のセリン(Ser)がn−オクタノイル基(「C8」又は「C8アシル化グレリン」)でアシル化されると、これは下垂体内の成長ホルモン分泌促進物質受容体(GHS−R1a)と結合し、成長ホルモンが放出される。動物に食物が欠乏するとグレリンの血漿濃度は上昇し、食前に最大となり、摂食することで減少する。食欲を制御できずに重症の肥満を引き起こす遺伝子障害であるプラダー・ウィリー症候群の人々は、グレリンのレベルが極めて高い。こうした結果からグレリンが食事の動機づけに重要な役割を果たしていることが示された。
【背景技術】
【0002】
摂食障害における役割に加えて、グレリンはHepG2細胞系及び前立腺ガン細胞系において増殖効果を有することも示した。グレリンにより成長を増強される他の細胞系としては、H9C2心筋細胞、膵臓腺ガン、副腎細胞、下垂体成長ホルモン分泌細胞、脂肪細胞、造骨細胞、乳ガン細胞系が挙げられる。
【0003】
従って、グレリンの活性を調節する薬剤は、例えば、非インシュリン依存性糖尿病肥満及び肥満関連障害、並びに特定のガン等、哺乳類における種々の疾病又は障害の治療に可能性のあることを表しており、グレリン濃度又は活性の低下は望ましい治療効果に貢献する。
【0004】
PCT国際特許出願WO2006/019577(PCT/US2005/023968)は、ヒトグレリンC末端に対する種々のマウスモノクローナル抗体のFab部位を開示し、Fab3281、4731及び4281が命名されている(マウスD4 Fab)。これらのFabは、ヒトグレリンのアシル化及び非アシル化形態の両者と、このペプチドのアミノ酸14−27の範囲内に位置する抗原エピトープで結合する。全長(1−28)C8アシル化ヒトグレリンに対するこれらのFabのアフィニティ(KD)は、4.36×10−9から8.62×10−11M(4360pMから86.2pM)の範囲である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
肥満、肥満関連障害及び疾病、他の摂食障害、及びグレリン濃度上昇に関連する障害を治療するための、安全で効果的な手段への差し迫った需要がある。摂食を誘導する役割、及びある種の細胞系への増殖効果があることから、グレリンはこのような治療介入のための好適な目標である。本願明細書に開示のヒト化モノクローナル抗体及びその抗原結合部分には結合及び生物学的特性の範囲を示し、これは例えば、アシル化及び脱アシル化ヒトグレリンに対するK、kon及びkoff、安定的に形質転換しヒトグレリン受容体GHS−R1aを発現するハムスターAV12細胞の細胞内カルシウムにおけるアシル化ヒトグレリン媒介増加の阻害のIC50値等であり、国際出願PCT第WO2006/019577号(PCT/US2005/023968)に開示のマウスD4 Fabのものとは異なる。これらの特性により、本発明が想定する治療アプリケーションのための至適な抗体薬剤の選択が容易になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明の第1の態様は、ヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分を提供し、これはアシル化及び脱アシル化ヒトグレリンのいずれにも選択的に結合し:
a)アシル化ヒトグレリンに対して約1730pMから約11pMの範囲の平衡解離定数Kを示し、
b)アシル化ヒトグレリンに対して約4.44×10(1/Ms)から約4.89×10(1/Ms)の範囲のkon値を示し、
c)アシル化ヒトグレリンに対して約4.98×10−5(1/s)から約2.58×10−2(1/s)の範囲のkoff値を示し、
前記K、kon及びkoff値は表面プラズモン共鳴により計測され;
d)ヒト成長ホルモン分泌促進物質受容体1aを発現するよう安定的に形質転換されたハムスターAV12細胞において、細胞内カルシウムのアシル化ヒトグレリン媒介増加を、インビトロFLIPRカルシウムアッセイによる測定としてIC50が約10nM以下で阻害する。
【0007】
別の態様において、ヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4から選ばれる重鎖定常領域、又はヒトカッパ又はラムダから選ばれる軽鎖定常領域を含みうる。ヒトIgG1及びIgG4が好適である。
別の態様において、ヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4から選ばれる重鎖定常領域、又はヒトカッパ又はラムダから選ばれる軽鎖定常領域を含みうる。ヒトIgG1及びIgG4が好適である。
別の態様において、ヒト化抗原結合部分は、Fab断片、F(ab’)断片、及び単鎖Fv断片からなる群から選ばれる。
【0008】
別の態様において、前述のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分の任意の1つは以下のものでありうる:軽鎖可変領域は配列番号4で示される配列を有するペプチドを含み、重鎖可変領域は配列番号5で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号32で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号45で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号33で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号46で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号34で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号47で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号35で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号48で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号36で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号49で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号37で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号50で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号38で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号51で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号39で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号52で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号40で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号53で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号41で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号54で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号42で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号55で示される配列を有するペプチドを含み;軽鎖可変領域は配列番号43で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号56で示される配列を有するペプチドを含み;又は、軽鎖可変領域は配列番号44で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号57で示される配列を有するペプチドを含む。
【0009】
別の態様において、本発明は、前述のいずれか1つのヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分、及び薬理学的に許容できるキャリア、希釈剤又は賦形剤を含んでなる医薬品組成物を提供する。
別の態様において、本発明は、医薬品として用いるための、前述のいずれか1つのヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分を提供する。
別の態様において、本発明は、哺乳類、好適にはヒトにおける肥満、非インシュリン依存性糖尿病、プラダー・ウィリー症候群、過食症、障害性の満腹、又はガンからなる群から選ばれる疾病又は障害の治療のための、前述のいずれか1つのヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分の使用を提供する。
別の態様において、本発明は、前述のいずれか1つのヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分の有効量を、これを必要とするヒトに投与することを含んでなる、
ヒトにおける肥満、非インシュリン依存性糖尿病、プラダー・ウィリー症候群、過食症、障害性の満腹、又はガンを治療する方法を提供する。肥満の治療法は、治療的でも、又は例えば美容、美観等の非治療的でもありうる。
【0010】
さらなる態様において。本発明は、前述のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分の有効量を、これを必要とするヒトに投与することを含んでなる、活性がアシル化グレリンか又は脱アシル化グレリン(又は両者)から生じるものであっても、ヒトにおけるグレリン活性を中和又は阻害する、あるいは活性グレリン濃度を低下させる方法を提供する、グレリン活性を中和又は阻害する方法は、治療的でも、又は例えば美容、美観等のための非治療的でもありうる。
本発明の適用性のさらなる態様は、以下の詳細な記載及び実施例により明らかであり、これらは非限定的な例示のためのみである。
本発明は、タンパク工学を用いてげっ歯類の抗体定常領域及び可変ドメインフレームワーク領域をヒト抗体に見出された配列で入れ替えることにより、異質タンパク配列を低減し、ヒトグレリンに対して治療的に用いるためのヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願明細書に開示のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分は、ヒトアシル及び脱アシルグレリンに対してある範囲の解離定数(アフィニティ又はK)を示し、ヒトグレリン受容体GHS−R1aを発現するよう安定的に形質転換されたハムスターAV12細胞での、ヒトグレリン媒介による細胞内カルシウム増加の阻害において、kon及びkoffのユニークな組み合わせ及び種々のIC50値を含んでなり、国際特許出願PCT国際広報WO第2006/019577号(PCT/US2005/023968)に開示のマウスD4 Fabのものとは異なっている。例えば、K、kon、koff及びIC50値等、本発明の抗体及び断片の結合及び生物学的特性は、その範囲及び組み合わせによって、本発明が想定する治療的応用に対する至適な抗体薬剤の選択が容易になる。
【0012】
本発明の抗グレリンモノクローナル抗体は肥満、肥満関連障害、NIDDM(II型糖尿病)、プラダー・ウィリー症候群、摂食障害、過食症、障害性の満腹、不安、胃の運動性障害(例えば、過敏性腸症候群及び機能性消化不良を含む)、インスリン抵抗性シンドローム、メタボリックシンドローム、異脂肪血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧、アンドロゲン過多症、多嚢胞卵巣シンドローム、種々のガン及び心血管性障害の治療又は予防に有用でありうる。加えて、本発明の抗グレリンモノクローナル抗体は、グレリンのアシル化又は非アシル化形態のいずれか、あるいは両者の濃度低下又は活性低下が役立つ任意の疾病又は症状の治療又は予防に有用でありうる。
本発明のヒト化抗グレリンモノクローナル抗体(その抗原結合部分を含む)は、ヒトグレリンへの特異的結合が可能である。好適な抗グレリンモノクローナル抗体は、グレリンに付随する生物学的活性を調節することが可能であり、これにより肥満及び肥満関連疾病を含んでなる種々の疾病及び病理学的症状の治療又は予防に有用である。
【0013】
用語「アシル化ヒトグレリン」は、配列番号:1に示す配列を有し、Serをオクタノイル化された28アミノ酸ペプチド;オクタノイルグレリン(1−27);デカノイルグレリン(1−28);デカノイルグレリン(1−27);及びデセノイルグレリン(1−28)を含んでなる。脱アシルグレリン(1−28)及び脱アシル化グレリン(1−27)は成長ホルモン分泌促進物質受容体1aには結合しない。これらのグレリンの分子形態は全てヒト血漿中、並びに胃の中に見出される。本発明のモノクローナル抗体及びその抗原結合部分は、アシル化ヒトグレリンの全長(1−28)及び切断形態(1−27)に特異的に結合し、これらにはSern−オクチル、n−デカノイル、又はn−デカノイル基、又は他の脂肪酸、あるいは脱アシルグレリンを含んでなる。
【0014】
用語「抗原結合部分」又は「抗原結合断片」は、抗原と相互作用し、抗体上で抗原に対するその特異性及びアフィニティを与えるアミノ酸残基を含む抗体分子の一部を指す。この抗体部分は、抗原結合残基の適切なコンホメーションを維持するために必要な「フレームワーク」アミノ酸残基を含む。本発明のモノクローナル抗体の抗原結合領域のCDRは、マウス又は実質的にマウス期限のCDRのヒト化バージョンである。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ジアボディ;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された複数特異的抗体を含んでなる。
【0015】
本願明細書に用いる用語「特異的結合」又は「特異的に結合する」は、抗体又はその抗原結合部位が、その特異的結合パートナー、すなわち抗原エピトープを含むペプチド以外の分子に顕著な結合を示さない状況(すなわち、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%又は1未満)を指す。当該用語は、例えば本発明の抗体の抗原結合領域が数多くの抗原に含まれる特定のエピトープに対して特異的である場合にも使用可能であり、この場合、抗原結合領域を担持する特定の抗体は、そのエピトープを含んでなる種々の抗原に結合しうる。本発明のモノクローナル抗体は、上述の配列番号:1及びその変異形を含んでなるグレリン分子に選択的に結合し、非グレリンタンパクには結合しない(又は結合が弱い)。
【0016】
本発明の抗体を参照する際の用語「生物学的特性」「生物的特徴」「生物学的活性」又は「生物活性」は、交換可能に用いられ、アシル化又は脱アシル化グレリンの1以上の活性、グレリン濃度、又はグレリン活性を調節する、例えば少なくとも1つのタイプの哺乳類細胞において細胞内カルシウム濃度を変化させる当該抗体の能力;エピトープ/抗原におけるアフィニティ及び特異性(例えばグレリンに結合する抗グレリンモノクローナル抗体);アシル化又は脱アシル化グレリンの活性とインビボ、インビトロ、又はインシチュにおいて拮抗(antagonize)する能力;抗体のインビボ安定性;及び抗体の免疫特性を含んでなるが、これらに限定しない。上述の特性又は特徴は、ELISA、競合ELISA、BIAcore(登録商標)表面プラズモン共鳴分析、インビトロ及びインビボ中和アッセイ、及びヒト、霊長類、又は必要により任意の他の生成源を含む異なる起源の組織切片を用いる免疫組織化学を含んでなる当業に公知の技法を用いて観察又は測定されうるが、これらに限定しない。
【0017】
用語「阻害」又は「阻害する」は、生物学的活性又は特性、若しくは疾病又は症状を含んでなる、阻害されるものの進行又は重症度の中和、拮抗、抑制、妨害、制止、減速、崩壊、停止、又は逆転を意味するが、これらに限定しない。本発明の抗ヒトグレリン(又は抗グレリン)モノクローナル抗体を参照する用語「中和」又は「拮抗」、若しくは「グレリン活性に拮抗(中和)する抗体」又は「グレリンに拮抗(中和)する」という語句は、ヒトグレリンへの結合又は接触によりアシル化又は脱アシル化ヒトグレリンが誘起する生物学的活性の阻害が生じる抗体を指すことを意図する。ヒトグレリンの生物学的活性は、体重減少の誘発、摂食の変質、受容体結合の阻害(受容体結合アッセイの例示としてはWO 01/87335を参照)、又はグレリン受容体結合アッセイにおける信号伝達を含んでなるが限定しない、ヒトグレリンの生物学的活性の、1以上のインビトロ又はインビボの指標を測定することにより評価しうる。グレリンの生物学的活性の指標は、当業に公知の1以上の種々のインビトロ又はインビボのアッセイにより評価しうる。例えば、グレリン活性に中和又は拮抗する抗グレリン抗体の能力は、本願明細書の実施例4に記載のFLIPRアッセイを用いて評価する。
【0018】
用語「個人」「被験者」「患者」はヒトを指す。
本発明は、アシル化ヒトグレリン及び脱アシル化ヒトグレリンの両者に特異的に結合する、ヒト化モノクローナル抗体及びその抗原結合部分の提供に関する。このような抗体は、アシル化ヒトグレリンでも脱アシルヒトグレリンでも、あるいは両者であっても、ヒトグレリン又はヒトグレリンの生物学的活性を中和する。阻害される活性は:(i)受容体GHS−R1aに対するアシル化ヒトグレリンの結合;(ii)GHS−R1aに結合するアシル化ヒトグレリンにより促進される情報伝達;(iii)特異的結合箇所を有する結合パートナーに対する脱アシル化ヒトグレリンの結合、又は(iv)特異的結合箇所を有する結合パートナーに結合する脱アシル化ヒトグレリンにより促進される情報伝達、でありうる。本発明のヒト化モノクローナル抗体及びその抗原結合部分の、アシル化及び脱アシル化の両形態のヒトグレリンに対する特異的結合により、当該分子は、グレリン付随疾病及び症状、すなわち被験者内に存在するグレリンの生物活性又は活性グレリン濃度の低下又は阻害が役立つ疾病又は症状の治療薬又は予防薬として用いうる。
【0019】
好適な実施形態において、本発明は、アシル化及び脱アシルヒトグレリンの両者に結合する、単離されたヒト化抗ヒトグレリンモノクローナル抗体及びその抗原結合部分を提供する。当該抗体は、平衡解離定数Kが約1730pM〜約11pMの範囲(固相BIAcore(登録商標)表面プラズモン共鳴分析により室温で計測)でアシル化グレリンに結合し、ヒトグレリン受容体GHS−R1aを発現するよう安定的に形質転換されたハムスターAV12細胞における細胞内カルシウムのアシル化ヒトグレリン媒介による増加が、約10nM以下のIC50値となるように、ヒトグレリンの活性に拮抗(antagonize)する。
【0020】
本発明の抗体の軽鎖可変領域に対する好適なヒトフレームワークアミノ酸配列は以下の配列を含んでなり、これは例示を目的としてFab 3a(太字及び下線)のCDRと共に本願明細書に開示する。

【0021】
本発明の抗体の重鎖可変領域に対する好適なヒトフレームワークアミノ酸配列は以下の配列を含んでなり、これは例示を目的としてFab 3a(太字及び下線)のCDRと共に本願明細書に開示する。

【0022】
ヒト定常領域配列は当業に公知であり、文献に報告されている。好適なヒト定常軽鎖配列はカッパ及びラムダ定常軽鎖配列を含んでなる。好適なヒト定常重鎖配列は、ヒトガンマ1、ヒトガンマ2、ヒトガンマ3、ヒトガンマ4、及び、例えばインビボ半減期の増強、Fc受容体結合の低減等、変質した効果又は機能を提供するこれらの変異体を含んでなる。ヒトガンマ1及びヒトガンマ4、並びにこれらの変異体は当業に公知であり、特に好適である。
【0023】
いくつかの例において、ヒトグレリンのアミノ酸14−27に結合する抗体から、選択したヒトフレームワーク上に非ヒトCDRを移植することにより生成したヒト化抗体は、ヒトグレリンに対して所望のアフィニティを有するヒト化抗体を提供する。しかしながら、抗原結合を増強するために、選択したヒトフレームワーク又は1以上のCDRの特定の残基をさらに修飾することが必要であるか又は好ましい。好適には、結合部位の構造を維持するか又は影響を及ぼす親抗体のフレームワーク残基は保存される。このような残基は、親抗体又はFab断片のX線結晶学により同定可能であり、これにより抗原結合部位の3次元構造が同定される。
本発明は、さらに、アフィニティ又は特異性に悪影響を及ぼさない、CDR内の1又は2の保守的なアミノ酸置換変異体を含んでなる、本願明細書に開示のヒト化抗体及び抗体断片に対して実質的に相同な変異体及び等価物を提供することに関する。
このような変異体又は等価物はCDRの末端アミノ酸の欠失も含んでなる。
【0024】
(診断利用)
本発明のヒト化抗体は、アシル化又は脱アシルのいずれかの形態においてヒトグレリンの発現に付随する疾病又は症状の診断に用いることが可能であり、あるいはグレリン関連症状に対して治療が行われる又は治療が考慮される被験者内のグレリン濃度をモニターすることが可能である。診断アッセイは、本発明の抗体及びヒト体液、細胞又は組織抽出物等の試料中のアシル化グレリン及び/又は脱アシルグレリンを検出するための標識を利用する方法を含んでなり、例えばELISA、RIA及びFACS等のプロトコルを含んでなる。
【0025】
(治療利用)
本発明のモノクローナル抗体を含む医薬品組成物は、肥満症及び/又は肥満関連障害、例えば非インスリン依存型糖尿病(NIDDM;II型糖尿病)、プラダー・ウィリー症候群、障害性の満腹、過食症、不安、胃の自動運動性障害(例えば、過敏性腸症候群及び機能性消化不良が挙げられる)、インスリン抵抗性症候群、メタボリック初稿群、異脂肪血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧、アンドロゲン過多症、多嚢胞の子房のシンドローム、心血管性の障害及び種々のガン、例えば肝ガン、前立腺ガン、心臓ガン、膵臓ガン、副腎ガン、下垂体ガン、骨ガン及び乳ガン等の障害の治療又は予防に用いてもよい。当該抗体は、食欲亢進、神経性食欲不振及び過食症を含む摂食障害の治療又は予防に用いてもよいが、これらに限定しない。
グレリン(アシル化又は脱アシル、若しくは両者)活性が有害である前述の障害の少なくとも1以上を治療又は予防するための医薬品としての本発明の抗ヒトグレリンモノクローナル抗体も、本願明細書の想定範囲にある。加えて、グレリン活性が有害である前述の障害の少なくとも1以上の治療用医薬品の製造において、本発明の抗グレリンモノクローナル抗体を使用することも、想定範囲にある。
本願明細書に用いるように、「治療」「治療する」等の用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的作用を得ることを指す。用語「治療」は、疾病の阻害、すなわち疾病又は障害を退行させ、若しくは症候又はその合併症を軽減する目的のために、哺乳類、特にヒトに本発明の化合物の投与することを含んでなる。この効果は、疾病に対する部分的又は完全な治療法、及び/又は疾病に起因する影響の逆行の場合がある。治療は、摂食制限及びエクササイズ等、行動の改良と組み合わせてもよい。そのため、肥満治療には、摂食抑制、体重増加の抑制を含んでなり、及び/又は必要であれば被験者の体重減少を含んでなる。治療効果は予防的であってもよく、すなわち、疾病を被るかもしれないが、疾病を有するという診断をまだ受けていない被験者に、疾病又は症候が発生する前に完全に又は部分的に発生を防ぐことでもよい。
薬剤投与計画は、最適な所望の反応(例えば治療又は予防の反応)を提供するように調節してもよい。例えば、単一のボーラス投与を行ってもよく、いくつかの分割服用量を経時的に投与してもよく、又は服用量は治療状況の緊急性の度合いに応じて減少又は増加してもよい。
【0026】
(医薬品組成物)
本発明のヒト化抗体及び抗原結合部分は、被験者への投与に適切な医薬品組成物に組み込まれうる。当該抗体化合物の投与は単独でもよく、単一又は複数の服用において薬理学的に許容できるキャリア、希釈液又は賦形剤と組み合わせてもよい。医薬品組成物は、本願明細書に開示の抗体の組み合わせを含みうる。このような医薬品組成物は、選択された投与モード又は経路に適切であるようn設計され、薬理学的に許容できる希釈剤、キャリア、及び/又は分散剤、バッファ、界面活性剤、保存剤、可溶化剤、等張力剤、安定化剤等の賦形剤が適宜用いられる。このような組成物は、例えば、Remington、The Science and Practice of Pharmacy”、第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co.、Easton、PA、1995年、に開示のように、通常の技法に従って設計しうる。医薬品組成物のための適切なキャリアは、本発明のモノクローナル抗体に組み合わされるときには、分子の活性を保持し、被験者の免疫系に反応性でない任意の材料を含んでなる。
本発明の抗ヒトグレリンモノクローナル抗体を含む医薬品組成物は、肥満又は関連障害、若しくは種々のガンに付随する病理の危険にある又は表している被験者に、本願明細書に記載のように、経口、非経口、吸引、又は局所(静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻腔内、口内、舌下、座薬(経直腸又は経膣)を含む)投与を含んでなる通常の投与技法を用いて投与されうる。静脈内、腹腔内、又は皮下注射による周辺性の全身輸送が好適である。
このような医薬品組成物は、好適には本発明の1以上の抗体の「有効量」又は「治療上有効量」又は「予防的有効量」を含有する。「有効量」又は「治療上有効量」は、服用に対して及び必要期間の間に、所望の治療上の結果を成し遂げるのに効果的な量を指す。抗体の有効量又は治療上有効量は、疾病状態、年齢、性別及び個人の体重等の要因、及び所望の反応を個人に誘発する抗体又は抗体部分の能力に従って変化しうる。
有効量又は治療上有効量は、いかなる抗体の毒性又は有害な作用よりも治療上の有益な効果が上回るものである。「予防的有効量」は、服用に対して及び必要期間の間に、所望の予防上の結果を成し遂げるのに効果的な量を指す。典型的には、予防的投与量は、被験者が病気になる前に、又は病気の初期段階において用いるので、予防的有効量は、治療上有効量よりも少ないであろう。
有効量又は治療上有効量は、被験者に治療上の利点をもたらすのに必要な活性薬剤の、少なくとも最小量であるが有毒量未満である。換言すると、肥満症治療のためのこうした量は、例えばボディー・マス・インデックス(BMI)の減少等により、哺乳類の肥満状態に改良を誘導、回復、さもなければ発生する量である。
医療技術において周知のように、任意の被験者に対する服用量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与する特定の化合物、性別、投与時間及び投与経路、一般的健康状態、及び同時に投与される他の薬剤を含んでなる多くの要因に依存する。本発明の抗体又は抗原結合部分のための典型定期な服用量は、例えば、約0.001から約1000μgの範囲でありうるが、しかしながら、特に前述の要因を考慮し、この例示を下回る又は上回る服用量も考えられる。1日あたりの非経口投与基準は全体重の約0.1μg/kgから約100mg/kgの範囲、好適には約0.3μg/kgから約10mg/kg、より好適には約1μg/kgから約1mg/kg、さらにより好適には1日あたり体重の約0.5から約10mg/kgである。患者の経過記録を周期的な評価によりモニタし、これによって投与量を調節しうる。
以下の実施例は、例示のためのみに提示し、いかなる点においても本発明の範囲を制限する意図はない。
【実施例】
【0027】
<実施例1>
(マウスD4 Fab3281のヒト化)
PCT国際特許出願第WO 2006/019577 (PCT/US2005/023968)号は、Fab3281、4731、及び4281と名付けられた、ヒト化グレリンC末端への種々のマウスモノクローナル抗体を開示している。これらのFabは、当該ペプチドのアミノ酸14−27内に位置する抗原エピトープでヒトグレリンのアシル化及び脱アシル化形態の両者に結合する。これらのFabのC8アシル化ヒトグレリン全長(1−28)に対するアフィニティ(K)は、4.36×10−9から8.62×10−11M(4360pMから86.2pM)の範囲にある。
マウスD4 Fab3281軽鎖及び重鎖可変領域アミノ酸配列を、CDR領域を太字及び下線付きとして、以下に示す。
【0028】
(マウスD4 Fab3281)
(軽鎖)

【0029】
(重鎖)

マウスD4 Fab3281の軽鎖及び重鎖可変領域の両者のCDRにアミノ酸の変化を導入することは、通常の分子生物学の技法を介してコード化DNA内の適切なコドンを変更することにより実施される。表1に、本発明のヒト化Fab内CDRのアミノ酸配列を示す。
【0030】
表1。ヒト化D4 FabのCDRアミノ酸配列
【表1】




* D4 7.1 LCVR及びHCVR CDRは、それぞれ適切なマウスLCVR及びHCVRフレームワーク内のマウスに最適化した配列である。
表1の全体を通じて用いるように:
はQ又はDであり;
はS又はHであり;
はN、S、T、又はDであり;
はN、F、Y、又はHであり;
はH又はSであり;
はS又はDであり;
はY、T、又はGであり;
はN又はDであり;
はE、Y、又はFである。
軽鎖又は重鎖可変領域の全体は、適切なCDRをヒト軽鎖及び重鎖フレームワークアミノ酸配列中に取り入れることにより生成される。
本発明の抗体の軽鎖可変領域のための好適なヒトフレームワークアミノ酸配列は、次の配列を含んでなり、本願明細書に開示のFab 3a(太字及び下線)と共に図示を目的として当該配列を表す。

本発明の抗体の重鎖可変領域のための好適なヒトフレームワークアミノ酸配列は、次の配列を含んでなり、本願明細書に開示のFab 3a(太字及び下線)と共に図示を目的として当該配列を表す。

表2に、本発明のFabの軽鎖可変領域アライメントを示す。
【0031】
表2.Fab軽鎖可変領域アライメント
【表2】








表3に、本発明のFabの重鎖可変領域アライメントを示す。
【0032】
表3.Fab重鎖可変領域アライメント
【表3】








マウスに最適化したFab D4 7.1のLVCR及びHCVRの配列は、CDRに太字及び下線を付し、以下に示す。
Fab D4 7.1 LCVR

Fab D4 7.1 HCVR

【0033】
<実施例2>
(アシル化ヒトグレリンに対するヒト化D4 Fabのアフィニティ)
実施例1に開示の、C−8アシル化ヒトグレリン(1−28)に対するヒト化/最適化抗グレリンFabのアフィニティ(K)は、CM5センサチップを装備するBIAcore(登録商標)2000装置を用いて測定した。記載の場合を除き、全ての試薬及び材料はBIAcore(登録商標)AB社(Upsala、スウェーデン)から購入した。測定は約25℃で実施した。ヒトグレリンを含む試料は、HBS−EPバッファ(150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、0.005%(w/v)界面活性剤P−20、及び10mM HEPES pH7.4)に溶解した。捕獲抗体は、D4及びD4 7.1Fabに対してはヤギ抗マウスカッパ(Southern Biotechnology, Inc.)であり、他の全てのFabに対してはヤギ抗ヒトカッパ(Jackson ImmunoResearch)であり、以後「捕獲抗体」と称するこれらのものを、アミン結合を用いるフローセル上に固定化した。フローセル(1−4)は、0.1M N−ヒドロキシスクシンイミド及び0.1M 3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル−N−エチルカルボジイミドの1:1混合物で7分間、流速10μL/分にて活性化した。ヤギ抗マウスカッパ又はヤギ抗ヒトカッパ(10mM酢酸ナトリウム中30μg/mL、pH4.5)は、流速10μL/分にて4つのフローセルに手操作で注入した。表面密度をモニタし、必要ならば全てのフローセルの表面密度が4500−5000反応単位(RU)となるまで追加の捕獲抗体を個々の細胞に注入した。表面は、1Mエタノールアミン−塩酸、pH8.5(10μL/分)を7分間注入してブロックした。共有結合的に結合しなかった全ての捕獲抗体が完全に除去されたことを確認するために、10mMグリシン15μL、pH1.5を2回注入した。
動態試験用に用いたランニングバッファは、10mM HEPES、pH7.4、150mM塩化ナトリウム、0.005% P20を含んでなる。
【0034】
動態結合データの収集は、大量輸送効果を最小にするために、最大流速(100μL/分)かつ低表面密度で実施した。各分析サイクルは次からなる:(i)異なるFabに対して流速10μL/分でフローセル2、3及び4に5μg/mL溶液1−10μLを注入することにより、Fab(BioSite)300−350RUを捕獲する、(ii)フローセル1を参照フローセルとして全ての4つのフローセルにヒトグレリン(2回希釈増量して50nMから0.39nMの濃度範囲)200μLを注入(2分)、(iii)20分間解離(バッファフロー)、(iv)15秒間10mMグリシン、pH1.5で捕獲抗体表面を再生成、(v)30秒間ランニングバッファのブランク注入、及び(vi)次のサイクル開始前、2分間の安定化時間。信号は、フローセル2からフローセル1を減算し、フローセル3からフローセル1を減算し、フローセル4からフローセル1を減算してモニタした。試料及びブランクバッファは、ランダムな順番で2重に注入した。データはBIAevaluating v3.1ソフトウェアを用いて処理し、BIAevaluating v3.1又はCLAMPグローバルアナリシスソフトウェアのいずれかの1:1結合モデルにフィットさせた。
【0035】
本願明細書に開示のヒト化Fabは、C−8アシル化ヒトグレリン全長に対し、BIAcore表面プラズモン共鳴による計測で1730pMから20pMのアフィニティを示した。例えば、Fab A2のKは43pMを示し、一方Fab T32YのKは1000pMを示した。本発明のFabに対するkon値は5×10(1/Ms)から3.05×10(1/Ms)の範囲を示した。例えば、Fab A2のkon値は6.34×10(1/Ms)であり、一方Fab S28Dが示すkon値は3×10(1/Ms)であった。本発明のFabに対するkoff値は1.88×10−4(1/s)から1.90×10−2(1/s)の範囲だった。例えば、Fab A2のkoff値は2.7×10−4(1/s)を示し、一方Fab T32Yのkoff値は8.75×10−3(1/s)を示した。最終的には、本発明のFabのt1/2は分単位において0.6から61を示した。例えば、Fab T32Yのt1/2は1分を示し、一方Fab A2のt1/2は43分を示した。
【0036】
<実施例3>
(ヒト化D4モノクローナル抗体の種々のグレリンに対するアフィニティ)
アシル化ヒトグレリンに対するヒト化D4モノクローナル抗体のアフィニティ(KD)は、CM5センサチップを装備するBIAcore(登録商標)2000装置を用いて測定した。
このモノクローナル抗体は、ラット軽鎖カッパ定常ドメイン及びラットIgG1重鎖定常ドメインのそれぞれに融合した、Fabの軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の配列を含んでなる。
使用したラット軽鎖カッパ定常ドメインのアミノ酸配列は次の通りである。
【0037】
(ラット軽鎖カッパ定常ドメイン)

使用したラット重鎖定常ドメインのアミノ酸配列は次の通りである。
【0038】
(ラット重鎖カッパ定常ドメイン)

記載の場合を除き、全ての試薬及び材料はBIAcore(登録商標)AB社(Upsala、スウェーデン)から購入した。全ての測定は約25℃で実施した。ヒトグレリン(全長、C−8アシル化又は脱アシル)を含む全ての試料及び抗グレリンMabは、HBS−EPバッファ(150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、0.005%(w/v)界面活性剤P−20、及び10mM HEPES pH7.4)で希釈した。全てのMabに対し、後述のアミン結合を用いて抗体をCM5チップに直接結合して、表面密度が800−1000反応単位(RU)となるようにした。フローセル(1−4)は、0.1M N−ヒドロキシスクシンイミド及び0.1M 3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル−N−エチルカルボジイミドの1:1混合物で7分間、流速10μL/分にて活性化した。Mabは10mM酢酸ナトリウム中、pH4.5で10μg/mLに希釈し、流速10μL/分にて4つのフローセルに手操作で注入した。表面密度をモニタし、必要ならば全てのフローセルの表面密度が800−1000RUとなるまで追加の捕獲抗体を個々の細胞に注入した。表面は、1Mエタノールアミン−塩酸、pH8.5(10μL/分)を7分間注入してブロックした。共有結合的に結合しなかった全ての捕獲抗体が完全に除去されたことを確認するために、10mMグリシン15μL、pH1.5を2回注入した。動態試験用に用いたランニングバッファは、HBS−EPバッファ(150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、0.005%(w/v)界面活性剤P−20、10mM HEPES、pH7.4)である。
【0039】
動態結合データの収集は、大量輸送効果をを最小化するために、最大流速(100μL/分)かつ低表面密度で実施した。各分析サイクルは次からなる:(i)フローセル1を参照フローセルとして全ての4つのフローセルにグレリン(2回希釈増量して50nMから0.39nMの濃度範囲)200μLを注入(2分)、(ii)20分間解離(バッファのみのフロー)、(iii)15秒間10mMグリシン、pH1.5で捕獲抗体表面を再生成、及び(iv)次のサイクル開始前に2分間の安定化時間。信号は、フローセル2からフローセル1を減算し、フローセル3からフローセル1を減算し、フローセル4からフローセル1を減算してモニタした。試料及びブランクバッファは、ランダムな順番で2重に注入した。データはBIAevaluating v3.1ソフトウェアを用いて処理し、BIAevaluating v3.1又はCLAMPグローバルアナリシスソフトウェアのいずれかの1:1結合モデルにフィットさせた。
【0040】
本願明細書に開示のヒト化/アフィニティ成熟した抗体は、C−8アシル化ヒトグレリンに対し、BIAcore(登録商標)2000表面プラズモン共鳴分析の計測で931pMから11pMの範囲のアフィニティを示す。例えば、Mab A4のKは74pMを示し、一方Mab S34HのKは400pMを示した。本発明のMabに対するkon値は4.44×10(1/Ms)から4.89×10(1/Ms)の範囲を示した。例えば、Mab A2のkon値は4.44×10(1/Ms)であり、一方Mab S34Hが示すkon値は4.24×10(1/Ms)であった。本発明のMabに対するkoff値は4.98×10−5(1/s)から2.58×10−2(1/s)の範囲だった。例えば、Mab A5のkoff値は5.74×10−5(1/s)を示し、一方Mab S34Hのkoff値は1.69×10−2(1/s)を示した。最終的には、本発明のMabのt1/2は分単位において0から232を示した。例えば、Mab S34Hのt1/2は1分を示し、一方Mab A5のt1/2は201分を示した。t1/2は次式から計算した。t1/2(秒)=(ln0.5)/(koff(1/秒))この値を60で除して分に変換し、抗体:抗原複合体の理論的な半減値と考えた。これらの結合の動態は、上記改良されたFabとMabの間のアフィニティにおける類似性から示差されるように、定常領域(マウス又はラット)の付加によるものではない。
【0041】
本発明のモノクローナル抗体は、ヒト脱アシル化グレリンに対して、BIAcore(登録商標)2000表面プラズモン共鳴分析の計測で1320pMから14.1pMの範囲のアフィニティを示す。例えば、Mab D52NのKはヒト脱アシル化グレリンに対して1050pMを示し、一方Mab D27QのKは176pMを示した。本発明のMabにおけるヒト脱アシル化グレリンに対するkon値は4.32×10(1/Ms)から7321×10(1/Ms)の範囲を示した。例えば、Mab A4のkon値は4.56×10(1/Ms)であり、一方Mab D52Nが示すkon値は3.26×10(1/Ms)であった。本発明のMabにおけるヒト脱アシル化グレリンに対するkoff値は2.57×10−5(1/s)から9.53×10−2(1/s)の範囲だった。例えば、Mab A5のkoff値は6.67×10−5(1/s)を示し、一方Mab D52Nのkoff値は3.43×10−2(1/s)を示した。
【0042】
<実施例4>
(インビトロFLIPRアッセイにおけるヒト化D4 Mabの活性)
インビトロFLIPRカルシウムアッセイシステム(Molecular Devices)は、GHS−R1a(ヒトグレるん受容体)を発現するために安定的に形質転換したハムスターAV12細胞と共に用いた。このアッセイは、グレリン/GHS−R1a結合及び本発明のヒト化Mabの存在又は不在におけるシグナリングを検出する手段として、細胞内カルシウムの変化を評価する。
【0043】
形質転換したAV12細胞は、成長培地(DMEM/F12(3:1)、5%ウシ胎児血清、50μg/mLハイグロマイシン、及び50μg/mLゼオシン)中、T−150フラスコあたり約50−90×10細胞まで成長させた。次いで細胞をトリプシン処理し、洗浄し、BiocoatブラックポリD−リジンコートプレート(ウェルあたり100μL成長培地内に60000細胞)に分配した。5%CO下、37℃で約20分間、細胞をインキュベートした。培地をプレートから除去し、150μL HBSS(Gibco 14025−037)を各ウェルに加えてから除去した。次いで、各ウェルに50μLのローディングバッファ(5μM Fluo−4AM(Molecular Devices))、FLIPRバッファ(カルシウム含有Hanks平衡塩(HBSS、Gibco 14025−092))中0.05% Pluronic及び0.75% BSAを加えることにより、細胞中に色素をローディングした。プレートをさらに5%CO下、37℃で1時間インキュベートした。次いでウェルをHBSSで2回洗浄し、次いでウェルあたり50μL FLIPRバッファを添加した。
【0044】
試料は、7.2μLカルシウム濃縮液(CaCl−2HO 3.7mg/mL水溶液をHBSSとの1:1混合し、フィルタ滅菌)、実施例3(種々の濃度)に開示のMab 30μL、及び3.75%BSA/50%HBSS中C−8アシル化1−28ヒトグレリン(2.5μLストック)16.8μLを組み合わせて調製した。試料溶液の最終濃度は0.75%BSA、及びFLIPRバッファとほぼ同一濃度のカルシウムとなった。AV12細胞を有するウェル中にて、試料溶液50μLに50μLFLIPRバッファを添加した。ヒトグレリンの最終濃度は0.83nMである。細胞プレートは、FLIPR装置中へのローディング前に約15分間振とうした。試験試料又は対照試料を各ウェルに加え、蛍光イメージングプレート読取機(Molecular Devices)で読み取った。
【0045】
溶液中にMabが無いか、又は関連しない抗体が存在するならば、アシル化された全長ヒトグレリンはAV12細胞上のGHS−R1a受容体に自由に結合し、情報伝達が発生して、アッセイ中に比較的高い値を生じる。溶液無いに全長ヒトグレリンと結合するMabが存在するならば、GHS−R1a受容体への全長ヒトグレリンの結合は阻害され、情報伝達が阻害され、アッセイ中に比較的低い値を生じる。用いたMab濃度は、1nMヒトグレリン活性を約95%阻害する濃度に滴定して計測した。
本願明細書に開示のMabのIC50値は0.55nMから6.49nMの範囲を示した。例えば、Mab D27QのIC50値は1.12nMを示し、一方Mab S34NのIC50値は2.55nMを示した。
【0046】
<実施例5>
(食餌負荷肥満オスラットの体重におけるキメラのマウスD4グレリン抗体の効果)
本研究は、食餌負荷肥満(DIO)ラットの体重減少におけるD4型抗体の投与効果を計測するために設計した。
離乳以来、高カロリー食餌負荷(TD95217、Teklad、Madison米ウィスコンシン州)に維持した食餌負荷肥満(DIO)オスLong−Evansラット(Harlan、米バージニア州)を用いた。DIOは、少なくとも7週間、40%脂質、39%炭水化物、及び21%タンパクカロリー内容(TD95217)を含んでなる餌を随意に給餌して確立した。動物は、12時間の明暗サイクル(光照射2200時間)を有する温度制御(24℃)した施設内に固体別に収容し、自由に食餌(TD95217)及び水にアクセスさせた。この施設に2週間順化した後、動物をランダム化し、体重ごとにグループ試験した。
【0047】
処理開始の1日前及び処理終了時に、QNMRにて身体組成を測定した。0、7、14日目の毎週、対照同位体又はキメラなマウスD4抗グレリン抗体(10又は30mg/kg)を皮下投与した。21日間、明暗期間の暗周期前の毎朝、動物の1日の摂食及び体重をモニタした。キメラのD4抗グレリン抗体は、上述の実施例3に開示のように、マウスD4 Fab3281軽鎖及び重鎖可変領域にそれぞれ配列番号2及び3を含んでなり、ラット軽鎖カッパ定常ドメイン及びラットIgG1重鎖定常ドメインに対してそれぞれ配列番号60及び61が融合する。
【0048】
マウス/ラットのキメラマウスD4グレリン抗体の投与により、21日処理後の食餌負荷肥満オスLong−Evansラットにおいて、累積的な摂食、累積的な体重変化、及び脂質量の低下のそれぞれにおける減少という顕著な服用応答が生じた。これらの結果は、当該肥満ラットモデルにおいて、D4型の抗グレリン抗体が摂食及び肥満に関連する生理学的パラメータの減少に有効であることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル化及び脱アシル化ヒトグレリンのいずれにも特異的に結合し:
a)アシル化ヒトグレリンに対して約1730pMから約11pMの範囲の平衡解離定数Kを示し、
b)アシル化ヒトグレリンに対して約4.44×10(1/Ms)から約4.89×10(1/Ms)の範囲のkon値を示し、
c)アシル化ヒトグレリンに対して約4.98×10−5(1/s)から約2.58×10−2(1/s)の範囲のkoff値を示し、
前記K、kon及びkoff値は表面プラズモン共鳴により計測され;
d)ヒト成長ホルモン分泌促進物質受容体1aを発現するよう安定的に形質転換されたハムスターAV12細胞において、細胞内カルシウムのアシル化ヒトグレリン媒介増加を、インビトロFLIPRカルシウムアッセイによる測定としてIC50が約10nM以下で阻害する、ヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項2】
細胞内カルシウムのアシル化ヒトグレリン媒介増加をIC50が約5nM以下で阻害する請求項1に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項3】
細胞内カルシウムのアシル化ヒトグレリン媒介増加をIC50が約2.5nM以下で阻害する請求項1又は2に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項4】
細胞内カルシウムのアシル化ヒトグレリン媒介増加を阻害する、IC50が約1nM以下の、請求項1から3のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項5】
IgG1及びIgG4からなる群から選ばれる重鎖定常領域を含んでなる、請求項1から4のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項6】
カッパ及びラムダからなる群から選ばれる軽鎖定常領域を含んでなる、請求項1から5のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項7】
前記抗原結合部分はFab断片、F(ab’)断片、及び単鎖Fv断片からなる群から選ばれる、請求項1から6のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項8】
軽鎖可変領域は配列番号4で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号5で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号32で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号45で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号33で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号46で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号34で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号47で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号35で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号48で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号36で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号49で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号37で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号50で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号38で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号51で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号39で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号52で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号40で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号53で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号41で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号54で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号42で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号55で示される配列を有するペプチドを含み;
軽鎖可変領域は配列番号43で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号56で示される配列を有するペプチドを含み;又は、
軽鎖可変領域は配列番号44で示される配列を有するペプチドを含み、かつ重鎖可変領域は配列番号57で示される配列を有するペプチドを含む;
請求項1から7のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分、及び薬理学的に許容できるキャリア、希釈剤又は賦形剤を含んでなる医薬品組成物。
【請求項10】
医薬品として用いるための、請求項1から8のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項11】
ヒトにおける肥満、非インシュリン依存性糖尿病、プラダー・ウィリー症候群、過食症、障害性の満腹、及びガンからなる群から選ばれる疾病又は障害の治療のための、請求項1から8のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分の使用。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分の有効量を、これを必要とするヒトに投与することを含んでなる、ヒトの肥満を治療する非治療的方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか1項に記載のヒト化モノクローナル抗体又はその抗原結合部分の有効量を、これを必要とするヒトに投与することを含んでなる、ヒトにおける、グレリン活性を中和又は阻害する、あるいは活性グレリン濃度を低下させる、非治療的方法。

【公表番号】特表2009−529000(P2009−529000A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556519(P2008−556519)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/062459
【国際公開番号】WO2007/101021
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】