説明

ヒト単核食作用性白血球の製造法

【課題】CNSの軸索再生、創傷治癒、および心筋梗塞の治療を促進するのに有用である細胞療法生成物の提供。
【解決手段】個体の血液試料から単離された単球と同じ個体の皮膚切片とをインキュベートし、インキュベーション混合物から真皮切片を除去し、得られた活性化単核食作用性白血球を遠心分離して沈降させ、洗浄し、活性化食作用性白血球を培地中に再懸濁し、ヒト投与に対する適切性について培養物を評価することを含む、ヒト単核食作用性白血球の製造法により培養物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト単核食作用性白血球の製造法、こうして得られる細胞培養物、およびこれらの使用に関する。
【0002】
損傷組織の治癒は、多くの分子的因子と生理学的因子の間の同調した相互作用に基づく複雑な自然のプロセスである。有効な炎症性応答は、傷害組織の再生と修復を誘導する主要な要素の1つである。これは、再生能力を有する組織の最も初期のかつ最も重要な反応の1つである。動員され、さらにin situで活性化されるマクロファージは、有効な炎症反応の開始段階における重要な物質である。炎症反応は、体のすべての組織における創傷治癒の重要な部分である。
【0003】
哺乳動物の末梢神経系(PNS)のニューロンは、軸索損傷後に、中枢神経系(CNS)より大きな軸索再生能力を有し、マクロファージはPNS軸索再生において主要な役割を果たすことが証明された(シュワルツ(Schwartz)ら、1989、FASEB J., 3:2371-2378)。
【0004】
哺乳動物のCNSは、軸索損傷後に軸索を再生する能力は低い。CNSとPNSの軸索再生の差は主に、ニューロン自体というよりニューロンの細胞環境が原因であるようである。ニューロン損傷後に、PNSニューロンの周りのシュワン細胞は修飾されて軸索再生に対して許容性または支持性となるが、CNSニューロンの周りの星状細胞、乏突起神経膠芽細胞および小神経膠細胞は、そのような修飾は示さず、軸索再生に対して非支持性または阻害性のままである。
【0005】
損傷後の炎症応答の差は、この修飾の欠如に相関する。特に、CNS損傷に応答した単球性食作用の蓄積は、PNS損傷に対する応答と比較して、遅延しており限定されている。
【0006】
CNSでは、内在する組織マクロファージ(小神経膠細胞)の相対的非効率性のために、少なくとも部分的には炎症反応が低下している。創傷治癒が必要な時に、血液由来の単球がCNSに入りこみ、他のすべての損傷組織が通常行うように作用することができないことにより、この欠如が強調される。
【0007】
米国特許第5,800,812号、6,117,424号および6,267,955号(すべて、本出願の出願人のものである)(これらの各およびすべての特許は、参照することにより本明細書に組み込まれる)では、哺乳動物のCNSにおける軸索再生を促進するための、同種異系の単球性食作用の使用についての方法と組成物が開示されている。これらの特許は、成体スプラーグ−ドーレイラットの末梢血からの単球の単離と単離された単球の培養法を記載し、同系のラットの坐骨神経もしくは視神経切片との同時インキュベーションにより、または同系のラットの坐骨神経もしくは視神経により調整された培地を用いる培養による、単離された単球の刺激を記載する。この刺激された単球は次に、食作用および/または亜酸化窒素産生について測定され、視神経離断を受けたラットに、その損傷部位またはその近傍に投与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(発明の要約)
本発明の目的は、ヒト単核食作用性白血球の製造法を提供することである。
本発明の別の目的は、創傷治癒性表現型を発現するそのようなヒト単核食作用性白血球の製造法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、創傷治癒性表現型を発現し、例えば脊髄損傷の症例における軸索再生の促進に適した、そのようなヒト単核食作用性白血球の製造法を提供することである。
本発明の別の目的は、創傷治癒性表現型を発現し、例えば皮膚の創傷、特に慢性皮膚潰瘍の治癒に適した、そのようなヒト単核食作用性白血球の製造法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、創傷治癒性表現型を発現し、例えば心筋梗塞の症例における壊死組織の容量を低下させるのに適した、そのようなヒト単核食作用性白血球の製造法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、創傷治癒性表現型を発現する、本発明の方法により産生されるそのようなヒト単核食作用性白血球の性状解析法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のこれらおよび他の目的は、個体の血液から単球が単離し、単球の培養に適した培地に懸濁し、組織工学により作成した皮膚または同じ個体から採取した皮膚組織(好ましくは真皮)とインキュベートし、次に皮膚断片を除去し、マクロファージを洗浄し、得られた活性化単球食作用性白血球を前に使用したものと同じ適当な培地に再懸濁する、方法により提供される。
【0010】
本発明の好適な実施態様において、ヒト単核食作用性白血球は自己由来であり、すなわちこれらは、個体の末梢血単球から調製され、これらが投与されるものと同じ個体の皮膚組織を用いて活性化される。
【0011】
本発明はさらに、CNS、特にCNS損傷後の軸索再生の促進、創傷治癒、および心筋梗塞の壊死組織の減少のための、細胞療法調製物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1A〜1Bは、それぞれ非顆粒化単球(インキュベーション前)と顆粒化単球食作用性白血球(インキュベーション後)の写真である。
【0013】
(発明の詳細な説明)
食細胞は、微生物やオプソニン処理される他の顆粒性抗原のような顆粒性物質として定義され、マクロファージや単球のような細胞を含む。
単球は単核食作用性白血球である。前単球由来の骨髄中で造血細胞から生成され、単球は血液に入り、最大72時間循環し、次に肺、肝臓のような組織、および疾患組織(例えば、悪性腫瘍およびアテローム斑)に入り、そこでマクロファージとなる。単球からマクロファージへの分化には多くの変化が関与する:形態の変化、サイズの増大、食作用の上昇、細胞マーカーの発現、より高レベルの溶解性酵素、および種々の可溶性因子の分泌。
【0014】
マクロファージは、体全体に分散している。一部は特定の組織に住み着いて固定マクロファージとなり、他のものは運動性を維持し、遊離マクロファージと呼ばれる。
通常は休止状態にあるが、マクロファージは、免疫応答の過程で多くの刺激により活性化される。特定の抗原の食作用が、初期の活性化刺激となる。しかしマクロファージ活性は、活性化Tヘルパー(TH)細胞により分泌されるサイトカイン(例えば、インターフェロンガンマ)により、炎症応答のメディエーターにより、および細菌細胞壁生成物により、さらに増強される。
【0015】
単球は、炎症プロセスに参加する最初の細胞の1つである。これらは、無数の役割を有し、その活性化の程度がおそらくその任務を果たすことを可能にする。単球活性化の過程は全か無の現象ではなく、漸進的な刺激特異的応答である。
【0016】
単球/マクロファージの無数の機能は、その活性化程度と正相関し、免疫、分泌、食作用および他の機能を含む。その活性化の程度に従って、3つの異なる群のマクロファージが一般的に定義される:
(i)創傷治癒マクロファージ、これは主に、炎症反応の最初の見張りとして機能する;
(ii)抗菌および細胞障害性マクロファージ、これは主に、病原性生物や悪性腫瘍細胞に対する体の防御機構として機能する;および
(iii)抗原提示マクロファージ、これは、炎症反応に関与する細胞(特にTH 細胞)の機能を助ける。
【0017】
本出願において「単核食作用性白血球」、「単核白血球」、「単核食細胞」、および「マクロファージ」は、本発明の方法により製造される細胞を示すのに同義で使用される。
【0018】
ある実施態様において本発明は、ヒト単核食作用性白血球の製造法であって:
(i)個体の血液試料から単球を単離し、その単球を適当な培地(本明細書において「培地」)に懸濁する;
(ii)同じ個体から皮膚切片を処理し、表皮を取り出し、真皮切片を培地中で抗生物質の存在下で超音波処理し、超音波処理した真皮切片を、新鮮な培地に抗生物質の存在下で浸漬し、新鮮な培地で抗生物質の非存在下で洗浄する;
(iii)工程(i)の単球と、工程(ii)の洗浄した真皮切片を同時インキュベートする;
(iv)インキュベーション混合物から真皮切片を除去し、得られた活性化単核食作用性白血球を遠心分離により沈降させる;
(v)活性化単核食作用性白血球を培地で洗浄し懸濁する;
(vi)ヒトへの投与の適切性について培養物を評価する、
ことを含む方法を提供する。
【0019】
工程(i)においてヒト単球は任意の従来法により血液試料から単離される。ある実施態様において単球の単離法は以下の工程を含む:
(a)血液の希釈;
(b)工程(a)の希釈血液をフィコールに重層し、次に遠心分離して単球画分を分離する;
(c)工程(b)で分離した細胞を洗浄し、これらをさらにパーコール(Percoll)上の密度勾配遠心分離によりさらに分離する;および
(d)工程(c)の分離した単球濃縮画分を洗浄し、適当な培地にこの細胞を懸濁する。
【0020】
上記工程(a)における全血の希釈、および工程(c)と(d)における細胞の洗浄は、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を用いて行われ、上記工程(d)の単球濃縮画分は、適当な培地に懸濁される。
【0021】
本明細書において「適当な培地」という用語は、単球の培養に適した培地、例えば特に限定されないが、イスコブ改変ダルベッコー培地(IMDM)やRPMI1640を意味する。単球と皮膚切片の処理の両方は、同じ適当な培地で行われる。
【0022】
ヒト単核食作用性白血球の製造法の工程(ii)において、ヒト皮膚切片の処理は、同じ個体からの皮膚断片を凍結し、皮膚断片を融解し、特定の培地(例えば、IMDMまたはRPMI1640)および抗生物質からなる洗浄溶液に浸漬し、こうして約0.1〜5cm2、好ましくは約0.5〜2.0cm2、またはそれ以下の真皮切片を得ることにより行われる。次に真皮切片を、無菌のプラスチック容器に入れ、ここで、抗生物質(特に限定されないが、オルフォキソシン、バンコマイシンおよびゲンタマイシン)を含有する同じ適当な培地に浸漬し、この容器を、脱イオン水を含む超音波浴に導入し、超音波処理する。次に超音波処理した真皮切片を、同じ抗生物質を含有する新鮮な適当な培地に浸漬し、抗生物質の非存在下で新鮮な培地で洗浄する。真皮切片を、例えば周波数35〜40kHzで超音波浴で超音波処理する。
【0023】
インキュベーション工程(iii)において、超音波処理後の真皮切片は、抗生物質を含む新鮮な適当な培地に浸漬し、抗生物質を含まない同じ培地で洗浄し、次に単球と36〜38℃で5%CO2雰囲気で最大38時間インキュベートする。次に真皮切片をインキュベーション混合物から取り出し、活性化した細胞を遠心分離により回収し、新鮮な適当な培地(好ましくはIMDM)で洗浄し、再懸濁する。
【0024】
本発明のある好適な実施態様において、単球の単離用の血液試料と単球の活性化用の皮膚組織は自己由来であり、すなわちこれらは、活性化単核食作用性白血球が投与される患者から得られる。しかし、本発明では同種異系の単球および皮膚組織の使用も企図されるが、好ましくはこれらは同じ個体由来である。
【0025】
本発明の別の実施態様において、工程(ii)の皮膚組織は、組織工学で作成した皮膚で交換することができる。任意の利用可能な組織工学で作成した皮膚または組織工学で作成した皮膚相当物(例えば、人工皮膚)(生きた細胞を含有するものまたは生きた細胞を含有しないもののいずれも)を、本発明では使用することができる。組織工学で作成した皮膚が生きた細胞を含有しない場合、抗生物質を用いる処理工程は行われない。
【0026】
工程(vi)において、ヒト投与に適した細胞を性状解析するために、得られた活性化単核食作用性白血球のバッチの試料について、以下の試験の一部またはすべてが行われる:
(a)無菌性 − 細胞は、細菌、酵母および真菌の汚染があってはならない。無菌性試験のために、21 CFR セクション610.12に従って、細胞をろ過し試験して、細菌および真菌の汚染を検出する;
(b)細胞生存能力 − 培養物生存能力は、好ましくは公知のトリパンブルー染色排除法を使用して試験される;
(c)細菌エンドトキシン試験 − 細胞の培養物を、現在のUSPに従ってリムルスアメーバ試験(LAL)を使用して、グラム陰性菌のエンドトキシンについて定量的に試験する;
(d)グラム染色 − 細菌の有無をグラム染色により試験する;
(e)位相差顕微鏡による形態分析/細胞質顆粒の計数、および真皮切片とのインキュベーション前の単球との比較 − 位相差顕微鏡による細胞の形態分析と細胞質顆粒の計数は、活性化マクロファージの非常に重要な試験である;
(f)単球CD14細胞膜マーカーを検出するモノクローナル抗体を使用するフローサイトメトリーによる、細胞集団の純度の測定;
(g)活性化マクロファージにより高レベルで分泌される、インターロイキン-1β(IL-1β)測定;
(h)活性化マクロファージにより高レベルで発現される、マンノース受容体に対するモノクローナル抗体を使用するフローサイトメトリーによる、インキュベーション後の細胞のマンノース受容体発現の測定、およびインキュベーション前の細胞との比較;
(i)活性化後に細胞膜上に高レベルで発現される、CD54抗体マーカー(ICAM-1)に対するモノクローナル抗体を使用するフローサイトメトリーによる細胞膜上のICAM-1発現の測定;
(j)活性化マクロファージによる脳由来神経栄養性因子(BDNF)分泌の測定;
(k)活性化マクロファージによるIL-6分泌の測定。
結果が満足できるものなら、全バッチの細胞を次に、個体の細胞療法で使用することができる。
【0027】
本発明の方法の工程(ii)を実施して、上記条件下で皮膚組織を超音波処理すると、皮膚組織の汚染が除去されることがわかった。すなわち別の態様において本発明は、皮膚組織(好ましくはヒト皮膚組織、さらに好ましくはヒト真皮切片)の脱汚染法であって、適当な培地中で抗生物質の存在下で皮膚組織を超音波処理することを含む方法を提供する。
【0028】
この方法に従って、ヒト皮膚切片を処理し、次に表皮を除去し、真皮切片を適当な培地(本明細書において「培地」)で抗生物質の存在下で超音波処理し、超音波処理した真皮切片を新鮮な培地に抗生物質の存在下で浸漬し、抗生物質の非存在下で新鮮な培地で洗浄する。ヒト皮膚切片の処理は、皮膚断片を凍結し、皮膚断片を融解し、適当な培地(好ましくはIMDM)および抗生物質からなる洗浄溶液に浸漬し、こうして約0.1〜5cm2、好ましくは約0.5〜2.0cm2、またはそれ以下の真皮切片を得ることにより行われる。超音波処理のために、真皮切片を無菌のプラスチック容器に入れ、ここで、抗生物質(特に限定されないが、オルフォキソシン、バンコマイシンおよびゲンタマイシン)を含有する適当な培地(好ましくはIMDM)に浸漬し、この容器を、脱イオン水を含む超音波浴に導入し、超音波処理し、超音波処理した真皮切片を、同じ抗生物質を含有する新鮮な培地(好ましくはIMDM)に浸漬し、抗生物質の非存在下で新鮮な培地で洗浄する。例えば、真皮切片を周波数35〜40kHzで超音波浴で超音波処理してもよい。
【0029】
本発明の方法により得られるヒト単核食作用性白血球は性状解析されており、これらは、新規細胞集団であり、従って本発明の別の態様を構成する。
【0030】
本発明において、本発明の方法により得られる活性化ヒト単核食作用性白血球の最も重要な特徴は、細胞質顆粒の数であることがわかった。位相差顕微鏡下でこれらの顆粒は、本明細書の図1Bに例示するように容易に計数できる青い色調を有する高屈折率の球として現れる。
【0031】
すなわち別の態様において本発明は、ほとんどの顆粒細胞の少なくとも25%が位相差顕微鏡下で1つの細胞当たり少なくとも4つの顆粒を示す、ヒト単核食作用性白血球の培養物を提供する。ある実施態様において好ましくは、細胞の少なくとも40%、さらに好ましくは60%またはそれ以上は、CD14+である。別の実施態様において細胞により産生されるIL-1βのレベルは、少なくとも17pg/106 CD14+ 細胞である。
【0032】
さらなる実施態様において本発明は、以下のa〜kの特徴からの少なくともa〜gを示す本発明の活性化ヒト単核食作用性白血球の培養物を提供する:
(a)14日間の無菌性;
(b)トリパンブルー染色排除法を使用して、少なくとも80%の培養物生存能力;
(c)細菌エンドトキシン試験で200Eu/ml未満の生成物提供規格;
(d)グラム染色により細菌が存在しない;
(e)形態分析により、ほとんどの顆粒細胞の少なくとも25%は、少なくとも4顆粒/細胞を示す;
(f)少なくとも40%、好ましくは60%またはそれ以上の細胞は、CD14陽性である(CD14+);
(g)細胞により産生されるIL-1βのレベルは、少なくとも17pg/106 CD14+ 細胞である;
(h)活性化細胞は、これらが由来する非活性化単球と比較して、マンノース受容体発現の統計的に有意な上昇を示す;
(i)細胞は、幾何平均蛍光が約200またはそれ以上のICAM-1受容体を発現する;
(j)細胞は、10pg/106CD14+ 細胞より高レベルのBDNFを分泌する;および
(k)活性化細胞によるIL-6の分泌は、これらが由来する非活性化単球によるIL-6分泌と比較して、約4〜15倍である。
【0033】
本発明の別の態様において、皮膚(または真皮のみ)切片と最大5日間、好ましくは最大38時間、およびさらに好ましくは最大24時間インキュベートされているヒト活性化単核食作用性白血球からなる細胞療法生成物が製造される。好適な実施態様において、出発単球と真皮は自己由来であり、その最終生成物が投与される患者から採取される。
【0034】
好適な実施態様において、最終生成物として使用される細胞培養物は、少なくとも40%および一般的には50%以上がマクロファージであるヒト活性化単核食作用性白血球からなる。単球は患者の末梢血から単離され、次に傷害された患者から採取された自己由来皮膚(充分な厚さの皮膚組織から調製された真皮)とインキュベートされる。最終的な細胞療法生成物は、薬剤学的に許容される担体(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS))、または好ましくはIMDMのような培地もしくは任意の他の適当な細胞培地(例えば、RPMI1640)に懸濁された100万〜1000万のマクロファージを含むが、他の適当な薬剤学的に許容される担体は当業者には容易に明らかであろう。
【0035】
本発明の活性化ヒト単核食作用性白血球は創傷治癒性表現型を発現し、特に以下のヒトの症状の治療に有効である:
(i)軸索傷害を引き起こすかまたはこれを伴うCNSの一部に存在する損傷または疾患(例えば、特に限定されないが、脳、脊髄または視神経の損傷)後の、軸索の再増殖の促進。これらの損傷には、脊髄外傷、鈍的外傷、穿通性外傷、脳衝撃または対側衝撃を含む外傷、非外科手術または他の方法中に受けた外傷、および発作(出血性発作または虚血性発作を含む)がある。
(ii)慢性皮膚潰瘍の治癒。創傷組織に存在するマクロファージは、潰瘍の縁の皮膚により充分に活性化されず、正常な皮膚組織と比較して炎症性細胞を活性化する能力が欠如している。創傷への活性化マクロファージの適用は、治癒の確率を改善するであろう。
(iii)心筋梗塞の症例における壊死組織の容量の低下。創傷治癒性表現型を発現する本発明の活性化マクロファージは、心筋梗塞症例の壊死組織の容量の低下に有効であると推定される。心筋への血流の長期の停止または大きな低下は、心筋細胞の死滅を招く。心筋の死は心臓機能の低下を招く。筋細胞は再生不可能なため、死滅した心臓組織は、機能的ではない瘢痕組織に置き換えられる。再生の観点から、筋細胞と中枢神経系軸索の再生能力の欠如の間に強い類似性がある。CNSの軸索について既に記載されているように(例えば、US6,117,424)、心筋細胞が再生できない理由は細胞自体に本質的なものではなく、遅い速度で作用するマクロファージの数が充分ではないために、虚血後の適当な時期に梗塞部位に起きる炎症反応が遅延しており非効率的であることによる。本発明の活性化マクロファージの、梗塞の過程の比較的早期のin situ投与は、壊死の容量を最小にし、従って心臓機能を救う可能性がある。
【0036】
活性化マクロファージは、創傷または梗塞部位でまたはCNSの損傷部位またはその近傍にin situで投与されるが、他の投与モード(特に静脈内投与)も本発明により企図される。
【0037】
従って本発明は、必要な患者に、軸索傷害を引き起こすかまたはこれを伴うCNS損傷部位またはその近傍に、本発明のヒト単核食作用性白血球の有効量を投与することを含む、中枢神経系(CNS)の軸索再生を促進する方法を提供する。
好適な実施態様において、活性化単核食作用性白血球は自己由来であり、損傷は脊髄損傷であり、治療は手術中で行われ、患者に脊髄実質に病変部位に細胞を投与することを含む。
【0038】
本発明はまた、必要な患者に、創傷に本発明の単核食作用性白血球の有効量を投与することを含む、特に糖尿病性創傷潰瘍および慢性足潰瘍のような慢性皮膚潰瘍の創傷治癒方法を提供する。
本発明はさらに、必要な患者に、心筋にin situで、好ましくは梗塞プロセスの比較的早期に、本発明の単核食作用性白血球の有効量を投与することを含む、心筋梗塞の壊死組織の容量を低下させる方法を提供する。
【0039】
本発明を以下の例により例示するが、これらは非限定的である。
【実施例1】
【0040】
患者からの組織試料採取
最終的細胞療法生成物の投与の約1日前に、患者から血液および皮膚試料を採取する。約200〜250mlの血液を、抗凝固剤を含む採血バッグに採取する。同じ患者から完全な厚さの皮膚(表皮と真皮)の約15cm2の切片を採取し、IMDMと抗生物質(16μg/mlのオフロキサシン、20μg/mlのバンコマイシン、および50μg/mlのゲンタマイシン)からなる「洗浄溶液」の容器に移す。血液と皮膚試料を、別々の熱的に隔離したケース(ケースの内部温度:血液について1〜10℃、皮膚について最大38℃)で、細胞処理センター(Cell Processing Center)に移し、専用のクリーンルーム設備(すべての操作は、クラス10,000/ISO クラス7クリーンルームに存在するクラス100/ISO クラス5(連邦基準209E/ISO14644-1)生物学的安全性キャビネット中で行う)で処理する。
【実施例2】
【0041】
単球単離
全血をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で希釈する。希釈した血液を、遠心管中のフィコールパーク(登録商標)プラス(アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)、スエーデン)(密度:20℃で1.076〜1.078g/ml)に重層し、遠心分離して単核細胞画分を得る。次に単核細胞をPBSで3回洗浄する。上清と105 細胞を含有する第1のPBS洗浄液からアリコートを取り、無菌性について試験する。細胞の洗浄画分をパーコール(登録商標)勾配(これは前遠心分離により調製される)に重層する。パーコール勾配により細胞を遠心分離して、単球濃縮画分を得る。この画分をPBSで洗浄し、次にIMDMに再懸濁して、インキュベーション工程に進む。無菌性試験のために、PBS洗浄液(上清と105 細胞を含有する)からアリコートを取る。無菌性試験の他に、品質管理試験[これは、生存細胞計数(トリパンブルー色素排除)、および以下の基準試験を含む:培養純度(%CD14+ 細胞)、マンノース受容体(MR)発現、細胞膜上のIL-1β、ICAM-1発現(すべての3つの試験はフローサイトメトリーにより行われる)、および形態観察/細胞質顆粒計数を含む]を行って、単球単離過程を追跡する。
【実施例3】
【0042】
皮膚組織の処理
細胞処理センター(Cell Processing Center)に到着後、完全な厚さの皮膚組織試料を含む皮膚容器を、少なくとも1時間フリーザー(−18℃)に入れる。その後、皮膚容器をインキュベーター(36〜38℃)に入れて融解し、赤血球の除去を容易にする。融解後、皮膚容器をクラス100 生物学的安全性キャビネットに移す。最初の容器から皮膚試料を取り出し、次に新鮮な洗浄溶液(IMDMと抗生物質を含む、上記実施例1を参照)の容器に短時間浸漬する。新しい容器の洗浄溶液で浸漬を繰り返す。次に皮膚を切断して切片にし、表皮を取り出し、微生物同定のための試料とする(後述)。1つの真皮切片を〜2mm2 片に切断して、無菌性試験のために取る。真皮切片を、新鮮な洗浄溶液を含む容器に浸漬し、容器を周波数35〜40kHzの超音波浴に入れて、約30〜60分間超音波処理する。次に真皮組織を、新鮮な洗浄溶液を含む新しい無菌容器に移し、36〜38℃に少なくとも4.5時間浸漬する。この操作の主な目的は、単球とのインキュベーション中の細菌汚染リスクを最小にすることである。単球との同時インキュベーション前に、真皮切片を、新鮮な培地(抗生物質無し)で2回洗浄する。2つの〜2mm2 片を無菌性試験のために取る。
【実施例4】
【0043】
単離した単球と真皮組織とのインキュベーション
上記実施例2の単球濃縮細胞画分を、無菌50mlチューブまたは組織培養フラスコ中のIMDMに入れる(容器1つ当たり9〜100×106 細胞)。各チューブに2つの真皮切片を入れる。4.5〜5.5×106の細胞を含有する「平行培養」チューブを準備する。すべてのチューブを36〜38℃で静止5%CO2加湿インキュベーターで、最大38時間、好ましくは最大24時間インキュベートする(「平行培養」チューブは16.5〜17.5時間インキュベートする)。約17時間インキュベーション後に、培養進行の最初の評価を行う。インキュベートしたマクロファージと真皮を含有する「平行培養」と書いたチューブをインキュベーションから取り出し、培養を停止させる。真皮を捨て、細胞培養物を培養純度(フローサイトメトリーでの%CD14+細胞)と生存能力(トリパンブルー色素排除法を使用して)について評価する。20.5〜21.5時間インキュベーション後、主培養物を含有するチューブのインキュベーション時間を終わらせる。
インキュベーション期間の終了後、無菌のピンセットを使用して主培養チューブから真皮切片を取り出し、捨てる。インキュベートした細胞を遠心分離により沈降させ、インキュベーション上清の試料を、エンドトキシンについて試験し、細菌の検出のためにグラム染色する。細胞ペレットをプールし、洗浄し、IMDMに再懸濁する。生存能力、顕微鏡的形態、培養物純度(%CD14+細胞)、マンノース受容体発現、ICAM-1 発現、サイトカイン分泌、および顆粒の形態分析/計数を行う。インキュベートした105細胞を含有するアリコートを、無菌性試験のためにインキュベーション上清の試料に加える。上清と5×105細胞を含有する1つの試料を、マイコプラズマ検出のために送る。細胞培養物純度の結果を受け取った後、細胞を計数し、次にフェノールレッドを含まないIMDMを使用して再度洗浄する。次に、フェノールレッドを含まないIMDMを使用して細胞ペレットを再懸濁し、最終容量の細胞調製物とする。患者に投与される最終細胞生成物の条件は、あらかじめ規定されている規格との品質管理試験結果の一致に基づく。
【実施例5】
【0044】
最終的細胞療法生成物の調製
最終的細胞療法生成物は、1μl当たり約15,000〜75,000、好ましくは30,000〜40,000のマクロファージの濃度の、フェノールレッドを含まないIMDMに懸濁された細胞からなる。最終用量は、100万〜1000万、好ましくは500万〜700万のマクロファージからなり、シリンジに充填される。
【実施例6】
【0045】
品質管理法と測定法
6a.原料とパッケージ成分
細胞の製造に使用される原料とパッケージ成分は、標準操作法(SOP)文書に従って適切な品質管理評価を受けた後に、製造プロセスでの使用が許可される。
【0046】
6b.プロセス管理−生物活性と安全性試験
本例は、インキュベートされるヒトマクロファージ培養物の主要な生物学的および安全性の特徴の概説である。ここに示す最終細胞生成物規格は、健常被験体からの自己由来血液および皮膚組織、ならびに今まで治療されている患者からの自己由来組織を使用した、これらの特徴の測定のための測定法で得られる結果に基づく。マクロファージはその多様性で有名であるが、その活性は特定の抗原との相互作用にはおそらく依存せず、傷害の原因に無関係に創傷治癒中にその役割を果たす。
【0047】
製造プロセスを管理し、最終的細胞療法生成物の完全性を確保するために、「プロセス管理計画」が確立された。製造プロセスの種々の段階で細胞培養物をサンプリングし、細菌および真菌汚染について試験する。これらの試験は、細胞療法生成物の無菌性とエンドトキシンレベルを評価する。さらに細胞は、形態的特徴と生存能力について追跡される。細胞培養物は、免疫学的性状解析、培養物純度および生物活性を評価するためにサンプリングされる。製造プロセスの収率も追跡され、記録される。
【0048】
最終的細胞療法生成物は、ロット提供規格をパスしなければならない。各患者の細胞生成物は独立のロットである。この基準は、細胞表面CD14マーカー(フローサイトメトリーにより試験される)、細胞形態(顕微鏡で)と形態的に分析される細胞顆粒性、IL-1βの定量のためのELISA測定法、培養物生存能力(トリパンブルー色素排除法)、エンドトキシンとグラム染色についての規格を含む。プロセス中の試料の一時的な無菌性結果はまた、提供品質管理試験の一部でもある。提供規格を満たすことができないと、ロットは排除される。追加の測定(例えば、フローサイトメトリーで試験されるマンノース受容体およびICAM-1発現、ELISAにより測定されるマクロファージにより分泌されるインターロイキン-6(IL-6)、およびマイコプラズマ検出)が行われる。提供基準は、これらのパラメータの規格を含まない。
【0049】
製品の無菌性を評価するために、製造プロセスの異なる段階からのアリコートを無菌性試験のために取る。無菌性試験インキュベーション期間中に、無菌性−培地容器の内容物の日々の観察を行い、少しでも陽性の結果があれば、これは試料が無菌ではないことを示し、直ちに医師に報告される。
【0050】
微生物検出と同定試験は、皮膚調製中により分離される表皮について行われる。これらの培養物は、汚染(おそらく正常の皮膚細菌叢)を含有すると推定され、これは製品を不適格とする基礎ではない。これらの培養物中で検出される微生物は、単離、同定され、抗生物質に対する感受性について試験される。
以下の段階で、組織、上清および細胞が採取され、無菌性について試験される:真皮切片(調製され、同時インキュベーションの用意ができる);単核細胞単離(パーコール分離後);上清と細胞;インキュベートしたマクロファージ調製物(同時インキュベーション後);上清と細胞。これらの無菌性試験以外に、マイコプラズマ検出のために、患者血液(単離法の前)がサンプリングされる。
【実施例7】
【0051】
品質管理試験の説明
ルーチンの安全性試験
7a.無菌性
21 CFR 610.12[FDA「一般的生物学的製剤基準」]に従って、試料の種類により直接転移法(Direct Transfer Method)とフィルター法(Filter Method)を使用して、試料の無菌性が試験される。
直接転移法では、各試料は2つの部分に分けられる。各部分は、適当な培地(ダイズ−カゼイン消化物培地またはチオグリコール酸液体培地)を含む容器に導入され、適切な温度(ダイズ−カゼイン消化物については20〜25℃、そしてまたは液体チオグリコール酸については30〜35℃)と時間(14日間)インキュベートされる。
【0052】
フィルター法では試料は、カニスター上に取り付けたフィルターユニットを介してろ過される。試料は2つの部分に分けられ、各部分は、別個のフィルターユニットでろ過される。各フィルターは洗浄溶液で洗浄され、適当な培地(ダイズ−カゼイン消化物培地またはチオグリコール酸液体培地)が加えられる(各カニスターに1種類の培地)。各カニスターは密封され、適当な温度と時間(前述)インキュベートされる。
【0053】
無菌性について試験される本発明の試料(「接種物」とも呼ぶ)は、試験培地(チオグリコール酸とダイズ−カゼイン消化物)を含有する容器に接種され、完全に混合され、適切な温度(液体チオグリコール酸については30〜35℃、ダイズ−カゼイン消化物については20〜25℃)で14日間インキュベートされる。単核細胞(+105細胞)の第2のPBS洗浄液の試料を含有する容器、単核細胞濃縮画分(+105細胞)のPBS洗浄液、および同時インキュベーション前に処理した真皮は、接種の1日後に増殖の証拠について視覚的に試験される。この段階での試験培地中の濁りまたは曇りは、微生物汚染の証拠と考えられ、製品は不適格となる。
【0054】
すべての試料は、全14日間のインキュベーション期間中毎日点検することにより、無菌性について評価される。点検時に濁りの兆候が無ければ、培養物は無菌であると考えられる。
微生物汚染が無かった場合のみ、バッチを患者に投与することができる。インキュベーション後に、微生物増殖の証拠について培養物を調べる。コロニーが見られない場合は、グラム染色され、次に特定の生物型を同定するために使用される種々の生化学的試験で試験される。
【0055】
7b.細菌エンドトキシン
凍結乾燥リムルスアメーバ溶解物(LAL)(アソーシエーツ・オブ・ケープコッド(Associates of Cape Cod)、カタログ番号G5003またはG2003(ピロテル(PYROTELL)))および/または凍結乾燥大腸菌(E. coli)対照標準エンドトキシン(アソーシエーツ・オブ・ケープコッド(Associates of Cape Cod)、カタログ番号E005)(実際の値は各バッチについて製造業者が記載する)を使用して、細菌エンドトキシン試験を行う。生成物提供規格は<200Eu/mlである。
【0056】
7c.グラム染色
グラム染色結果が陰性の場合のみ、バッチが患者に投与される。
生物活性試験
【0057】
7d.生存細胞計数
細胞の生存能力を、トリパンブルー色素染色排除法を使用して測定する。この方法は、生きた細胞が色素を取り込まず、死滅した細胞が取り込むという原理に基づく。染色はまた、細胞形態の視覚化を容易にする。トリパンブルー溶液0.4%(w/v)を細胞懸濁液の試料と混合し、血球計算器に移す。細胞を顕微鏡で×400の倍率で計数する。培養物の生存能力が≧80%の場合のみ、バッチは使用に提供される。
【0058】
7e.細胞形態と細胞質顆粒計数
細胞形態は、×400の倍率を使用して顕微鏡により評価される定性的測定法である。調べるパラメータは、サイズ、顆粒性、および培養物中の細胞の不規則性である。パーコール分離と細胞洗浄後(0時間)、および同時インキュベーションの終了後に、顕微鏡観察するための、単球濃縮画分の試料を採取する。インキュベーション期間前後の細胞を比較する。インキュベーション後、細胞は比較的大きく、不規則で、顆粒化して見える。
【0059】
細胞顆粒性は、インキュベーション後の培養物の非常に特異的な特徴であることが観察されている。位相差顕微鏡下ではこれらの顆粒は、容易に計数できる青い色調を有する高屈折率の球として現れる。インキュベーション前には細胞中に顆粒はまれであるが、インキュベーション後は一般的に存在し、おそらく、培養物のインキュベーションと操作により具体的に誘導される。顆粒の分析の目的は、インキュベートしたマクロファージ中の細胞質顆粒の頻度の数値的尺度を得ることである。この分析は、品質管理試験と製品パッケージング操作を行うのに必要な時間以内で得られる充分頑強な結果を示す。
【0060】
顆粒の計数は、コンピューター画像の解析により行われる。まず顆粒性の値を、試料中の1細胞当たりの顆粒の平均数として表す。しかし多数のバッチを解析すると、顆粒は細胞間で正常に分布しておらず、培養物の顆粒性は、25%の最も顆粒性の細胞中の細胞1子当たりの顆粒の数(上の4分位値)により、最もよく表されることがわかった。中央値と他の4分位値を考慮した後に、上の4分位値が選択された。これらのうち、上の4分の1の顆粒性閾値は、バッチ間の変動係数が最も小さく、インキュベーション前後の統計的有意差を示すのに最も高感度であった。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
結果に基づき、上の4分位の1で細胞当たり4以上の顆粒の細胞顆粒性(すなわち、最も顆粒性の細胞中の25%で少なくとも4顆粒)が、患者で使用される最終製品に必要なパラメータとして使用される。この方法により分析されるすべての臨床バッチおよびほとんどの研究バッチは、上の4分の1に1細胞当たり少なくとも4つの顆粒を含有した。測定パラメータとしての上の4分位値の顆粒性閾値の選択と、最小閾値としての1細胞当たり4つの顆粒の選択は、少なくとも60細胞の試料サイズを使用して、インキュベーション前後の細胞の差に対する感度を最大にする必要性に基づく。多くのバッチで調べると、選択されるパラメータは変動係数が最も小さいパラメータである。これは、試料間(例えば、インキュベーション前後の細胞間)の真の差に対する感度を最大にする。
【0063】
顆粒の計数のために、新たに調製した「単球濃縮」画分(インキュベーション前)と1日後の「インキュベートした細胞」画分(インキュベーション後)から、試料を採取する。各画分の顕微鏡観察を、新鮮な試料について行う。試料を顕微鏡スライド上に置き、次に少なくとも15分間放置して細胞を沈降させ、顕微鏡下で得られる焦点を改良する。×100対物レンズと位相差を有する顕微鏡を使用して調べ、デジタルカメラで画像にする。カバーグラス下の試料の領域を4つの四半分に分ける。各四半分を規則的にスキャンして、同じ細胞を2回観察することを避ける。各四半分で細胞が視界に入ったら、15個の細胞の写真を撮るまで写真を撮る。こうして各試料について60細胞の写真が得られる。写真を撮った各視野で、見られる顆粒の数を最大にするように焦点を調整する。デジタル画像を、保存と以後の分析のためにコンピューターに移す。細胞の写真を画像解析ソフトウェアにより解析し顆粒性を評価する。顆粒の計数は、画像解析によりコンピューター画像の解析により行われる。
【0064】
すべてのバッチで真皮とともに細胞をインキュベーションした後に、顆粒が大幅に増加する。結果は、真皮とともにインキュベートした細胞で平均で200%を超える顆粒性上昇を示す。
細胞顆粒性は、インキュベーション中にマクロファージが受ける表現型の変化を反映するパラメータの1つであると結論できる。
図1A〜1Bは、それぞれ非顆粒化単球(インキュベーション前)と顆粒化単球白血球(インキュベーション後)の写真である。
【0065】
7f.培養物純度 − フローサイトメトリーによるCD14測定
細胞培養物の純度を、ヒト単球/マクロファージに特異的な充分確立された細胞表面マーカーであるヒトCD14に対するモノクローナル抗体(mAb)を使用してフローサイトメトリーにより追跡した。市販の蛍光色素結合mAbで刺激して細胞を標識し、次にPBSで洗浄した。CD14が陽性の細胞の画分を培養物純度の尺度と見なした。パラメータは、インキュベーション段階の前と後で測定した。インキュベートしたマクロファージ細胞培養物の純度は、生成物提供基準となり、これは≧40%、好ましくは60%またはそれ以上のCD14+細胞でなければならない。
【0066】
7g.マンノース受容体発現測定法
マンノース受容体(MR)は、炭水化物結合膜タンパク質であり、これは酵母細胞の食作用に関与する。細胞表面上のマンノース受容体の存在は、ヒトマンノース受容体に特異的な市販の蛍光色素結合mAbを使用してフローサイトメトリーにより測定される。細胞はmAbとともにインキュベートされ、前記したように洗浄される。マンノース受容体が陽性の細胞の画分は、細胞の食作用活性ならびに細胞成熟の可能性を示すと考えられる。この測定は、細胞インキュベーションの前と後の両方に行われる。
【0067】
MR発現の小さいが有意な増加を検出する能力を上昇させるために、「単球濃縮画分」(真皮と同時インキュベーションの前)から得られた細胞を三重測定で試験する。真皮と同時インキュベーションの後に得られた細胞を二重測定で試験する。こうして3つおよび2つの測定値の2つの独立したセットを統計解析する。
【0068】
21時間目(同時インキュベーション後)の2つのMR発現測定値を、0時間に行った3つの測定値と比較する。t検定解析を行い、差の有意性(0時間と比較した21時間目の増加)を95-信頼レベルで調べる。インキュベート前のレベルと比較してインキュベート後の細胞に起きるMR発現の統計的に有意な増加は、有意であり、細胞培養物が、必要な特異的刺激作用を受け、インビボで神経再生性表現型が現れることを示す。
【0069】
7h.ICAM-1発現測定法
細胞間の相互作用は、一部は接着分子ファミリーにより仲介される。細胞内接着分子(ICAM)は、構造的に関連した免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーのメンバーであり、白血球上に存在するβ2インテグリン分子のリガンドである。ICAM-1は内皮細胞と一部のリンパ球および単球上に構成的に発現される。その発現はサイトカイン(TNFα、IL-1β、およびIFN-γ)の存在下で有意に増加しており、細胞活性化との相関を示している。さらにICAM-1は、神経損傷後のマクロファージによるミエリン取り込みにおいて、同時刺激シグナルとして作用することが報告されている(ボウギオウカス(Vougioukas)ら、2000、マクロファージによるミエリン認識における細胞内接着分子-1の関与、Acta Neuropathol (Berl), 99:673-79)。
CD14+細胞上のICAM-1受容体の発現は、細胞を市販の特異的mAbで免疫標識し、フローサイトメトリーで分析することにより測定される。ICAM-1受容体の発現は、皮膚と同時インキュベーションした後の細胞で上昇している。
【0070】
7i.インターロイキン-1β測定法
IL-1βの産生は、真皮と単球インキュベーションの直接の結果であり、このサイトカインは、最終生成物中でマクロファージにより分泌される。IL-1βレベルは、以下の方法に従って評価される:1.4×106 個の同時インキュベートした細胞を無菌試験管に移し、遠心分離し、IMDMに再懸濁する。細胞懸濁液を36〜37℃で加湿5%CO2インキュベーター中で30分間インキュベートする。30分間のインキュベーションの最後に試験管を遠心分離し、上清中のIL-1βのレベルを市販のキットを使用してELISAにより測定する。結果は100万のマクロファージについて計算され、CD14+細胞として測定される。少なくとも17pg/106CD14+細胞の結果が許容される。
【0071】
7j.BDNF測定法
BDNFのレベルを、市販のキット(例えば、ヒトBDNFデュオセットELISA発色システム(Human BDNF DuoSet Elisa development System)(アールアンドディー(R&D) カタログ番号DY248)を使用して、ELISAにより、細胞調整培地中で測定した。
ヒト血液由来単球を単離し、前記したように真皮とともにインキュベートした。インキュベーション後、遠心分離(380×g、10分間、10℃)して細胞を採取する。1.4mlの新鮮なIMDM中に140万の採取細胞を再懸濁し、37℃で加湿インキュベーター(5%CO2)中で30分間インキュベートして細胞調整培地を調製した。次に培地を酸性化(1M HClを加えて)して、5分後56μlの1M NaOHで中和した。遠心分離して細胞を沈降後、デカントした調整培地を集め、測定するまで-70℃で凍結した。
他のニュートロフィン(neutrophin)(例えばNT-3とNT-4)は、BNDFキットと同じ業者からの適当な市販のELISA測定キットを使用して、これらの試料中で測定することができる。
【0072】
7k.IL-6測定
IL-6のレベルは市販のキットを使用してELISAにより、インキュベーション前の単球と得られた活性化マクロファージとの上清について測定した。インキュベーション後のマクロファージによるIL-6の分泌は、インキュベート前単球中のレベルに対して4〜16倍増加している。
【実施例8】
【0073】
活性化マクロファージは、完全な脊髄損傷を有するヒトで部分的な感覚と運動機能回復を促進する
フェーズI臨床治験において、完全な脊髄損傷(アメリカ脊髄損傷協会(American Spinal Cord Injury Association)のASIA Aとして分類される)を有する8人の患者に、脊髄病変部位に4,000,000の自己由来マクロファージ(前記したように真皮とインキュベーション後)を直接注射して治療した。これらのうち3人は運動および感覚機能が回復し、ASIA Cとして分類された。損傷の種類に関連する人口統計とデータを表2に示す。運動および感覚スコア、最初に試験に参加した時(初期)と追跡訪問時の、患者のASIA分類を下記表3に示す。軽く触る、刺針試験(痛覚)および運動回復を、初期の調査と比較した上昇%として示す。
今日まで得られた臨床知見では、治療法に関連する副作用は起きていない。
臨床効果の初期の兆候が観察されている。3人の患者で有意な感覚回復とある程度の運動回復が見られ、患者#1では膀胱コントロールも可能になった。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】


初期調査と比較して *
術中の視覚化により脊髄の重傷の液化が見られた **
これらの3人の患者の運動スコアは、脊髄損傷以外に上肢損傷により影響を受ける ***
【0076】
これらの結果は、インビトロ測定法で証明されたように、自己由来の同時インキュベートされたヒトマクロファージが創傷治癒性表現型を示すことを示す。さらにこれらのマクロファージは、これらの細胞が他の組織の創傷治癒を促進する能力の例として、ヒトのCNSの再生を促進することが証明される。
【実施例9】
【0077】
急性心筋梗塞の治療法としての培養マクロファージの投与の有効性
以下のプロトコールを使用して、体重300±20グラムの2群のオスのスプラーグ−ドーレイ(SD)ラット(ハーランラボラトリーズ(Harlan Laboratories)、イスラエル)で、活性化マクロファージの作用を試験する:A群(12匹のラット)は、2.5×106のマクロファージとDCCM1培地を含有する25μlの懸濁液で処理し、B群(6匹のラット)は、25μlのDCCM1培地のみで処理する。
活性化したラットマクロファージは、本明細書のように、または米国特許第5,800,812号、6,117,424号および6,267,955号のように作成される。投与前に、マクロファージ培養物の純度と活性をフローサイトメトリーにより試験する。
冠状動脈を結紮してSDラットで心筋虚血を誘導する。生じる壊死組織は、約50mm3の容量であり、これは、5μlのDCCM1培地中に懸濁される約400,000の活性化マクロファージを用いる他の実験で我々が通常処理する脊髄断端の、約6倍の大きさである。
【0078】
活性化マクロファージは、外科医によりブラインドでSDラットに移植される。脊髄切開後のラットを治療するのに使用される約400,000細胞の量と比較して、約6倍用量の活性化マクロファージが使用される。従って、25μlのDCM1培地中に懸濁される250万の活性化マクロファージの外挿した総有効量を、5つの用量に分割し梗塞の誘導直後に心筋に注入する:梗塞の中心へ1回注入の後に、梗塞と健常組織との境界へさらに4回注入する。注入はハミルトンシリンジで22G針を用いて行う。動物を、餌と飲み物は自由に与え、12/12時間の明/暗サイクルの動物室で回復させる。結果の追跡は6週間行う。この試験では生存率が重要なパラメータである。
【0079】
結果の評価はブランドで行い、組織学的観察は、梗塞面積を評価するための左心室(LV)からの断片、LV腔直径、およびLVマス面積について、マッソン(Masson)3色染色スライドを使用して行う。TUNEL染色スライドを使用して、アポトーシス細胞死を評価する。マクロファージの特異的染色を行って、正常、境界、または梗塞心筋内のマクロファージの存在と局在を評価する。増殖細胞核抗原(PCNA)の特異的モノクローナル抗体を用いる免疫組織学的染色により、有糸分裂指数を測定する。データ解析のために、各パラメータについて統計解析を行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化ヒト単核食作用性白血球の培養物の製造法であって:
(i)ヒト個体の血液試料から単球を単離し、その単球を細胞培養に適した培地(本明細書において「培地」)に懸濁する;
(ii)同じヒト個体から得られた皮膚切片を処理し、表皮を取り出し、得られたヒト真皮切片を、抗生物質を加えた工程(i)と同じ培地中で超音波処理し、超音波処理した真皮切片を、抗生物質を加えた工程(i)の培地と同一の新鮮な培地に浸漬し、真皮切片を該新鮮な培地で抗生物質の非存在下で洗浄する;
(iii)工程(i)の単球と工程(ii)の洗浄した真皮切片を同時インキュベートし、そのようにして活性化ヒト単核食作用性白血球を含むインキュベーション混合物を得る;
(iv)インキュベーション混合物から真皮切片を除去し、得られたヒト活性化単核食作用性白血球を遠心分離により沈降させる;
(v)ヒト活性化単核食作用性白血球を工程(i)と同一の新鮮な培地で洗浄し、再懸濁し、そのようにして活性化ヒト単核食作用性白血球を得る;
(vi)少なくとも以下の全ての試験、(a)無菌性;(b)細胞生存能力;(c)細菌エンドトキシン試験;(d)グラム染色;(e)形態分析による細胞質顆粒の計数;(f)CD14細胞の存在;及び(g)IL−1βの分泌レベル、の結果を評価することにより、活性化ヒト単核食作用性白血球の培養物を、ヒトへの投与の適切性について評価し、
その活性化ヒト単核食作用性白血球(本明細書において「活性化細胞」)は、少なくとも以下の特徴、
(a)14日間の無菌性;
(b)トリパンブルー染色排除法を使用して、少なくとも80%の培養物生存能力;
(c)細菌エンドトキシン試験で200Eu/ml未満;
(d)グラム染色により細菌が存在しない;
(e)形態分析により、最も顆粒性の活性化細胞の少なくとも25%は、少なくとも1細胞当たり4顆粒を示す;
(f)少なくとも40%の活性化細胞は、CD14陽性である(CD14);及び
(g)活性化細胞により産生されるIL−1βのレベルは、少なくとも17pg/10CD14細胞である、の全てを示す、
ことを含む方法。
【請求項2】
工程(ii)において、ヒト皮膚切片の処理は、
ヒト個体からの皮膚断片を凍結し、
皮膚断片を、融解し、抗生物質を添加した請求項1の工程(i)の前記培地からなる洗浄溶液に浸漬し、
表皮を除去する前に前記皮膚断片を切片に切断し、0.5〜2.0cmの真皮切片を得て、
真皮切片を無菌容器に入れ、抗生物質を添加した工程(i)の培地と同一の新鮮な培地に浸漬し、
この容器を脱イオン水を含む超音波浴に導入して、超音波浴中で35〜40kHzの周波数で超音波処理し、
超音波処理した真皮切片を、同じ抗生物質を添加した同じ新鮮な培地に浸漬し、
抗生物質の非存在下の同じ新鮮な培地で洗浄する、
ことにより行われる、請求項1の方法であって、
該培地は、IMDM又はRPMI1640であり、該抗生物質はオフロキサシン、バンコマイシン及びゲンタマイシンである、上記方法。
【請求項3】
工程(iii)において、単球の真皮切片とのインキュベーションは、36〜38℃で5%CO雰囲気で最大24又は38時間行われる、請求項1の方法。
【請求項4】
活性化ヒト単核食作用性白血球のヒト投与に対する適切性は、以下の試験:マンノース受容体発現、ICAM−1発現及びIL−6とBDNF分泌の1以上の試験によりさらに評価され、
その活性化ヒト単核食作用性白血球(本明細書で「活性化細胞」)は、以下の特徴:
(h)活性化細胞は、工程(i)で血液サンプルから当初単離された単球と比較して、マンノース受容体発現の統計的に有意な上昇(95−信頼レベル)を示す;
(i)活性化細胞は、幾何平均蛍光が200又はそれ以上のICAM−1受容体を発現する;
(j)活性化細胞により分泌されるBDNFのレベルは、少なくとも10pg/10CD14細胞であり;及び
(k)活性化細胞によるIL−6の分泌は、工程(i)で血液サンプルから当初単離された単球によるIL−6分泌と比較して、4〜15倍である、
の一つ以上の特徴を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞の60%以上がCD14である、請求項1〜4のいずれか一項の方法により得られる活性化ヒト単核食作用性白血球の培養物。
【請求項6】
請求項5の活性化ヒト単核食作用性白血球の培養物と薬剤学的に許容される担体とを含む、脊髄における損傷での軸索再生促進のための細胞療法調製物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−100653(P2010−100653A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18379(P2010−18379)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【分割の表示】特願2003−545673(P2003−545673)の分割
【原出願日】平成14年11月21日(2002.11.21)
【出願人】(500370311)イエダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド (30)
【Fターム(参考)】