説明

ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体

【課題】MCP−1の領域を変異させることで、単球吸引活性の阻害を可能にする。
【解決手段】単球吸引活性の阻害は、次の方法の一つ以上でMCP−1が修飾されるときに成功することが見出された。すなわち、a)28位チロジンをアスパルテートで置換する、b)24位アルギニンをフェニルアラニンで置換する、c)3位アスパルテートをアラニンで置換する、及び/又はd)2〜8位のアミノ酸配列を欠失させる、である。請求項記載のMCP−1誘導体は、MCP−1の単球吸引活性を阻害する必要のある患者に投与することができる。例えば、冠動脈形成手術を受けた患者に普通に生ずる再狭窄を防止するためにこの誘導体を使用することができる。本発明はさらに、この誘導体を用いるMCP−1の単球吸引活性を阻害する組成物及び方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内因性MCP−1、好ましくはヒトMCP−1の単球吸引活性を阻害するように変異させたMCP−1誘導体、並びにそれらの医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケモカイン(chemokines)は、特殊なタイプの白血球の化学吸引物質(chemoattractants)及び活性化因子である前炎症性(proinflammatory)サイトカインである。このファミリーに属するものは、共通の構造上のモチーフ、特に4個のシステインの位置並びに高度に保存されたその他の一次構造を共有している。それらの類似性にもかかわらず、多くのケモカインは標的細胞特異性において重複していない。ケモカインは、構造上及び遺伝上の基準に基づき、ケモカイン−αおよびケモカイン−βタンパク質という二つの下位のファミリーに分類することができる。
【0003】
単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)は、前炎症性サイトカインのケモカイン−βファミリーの1員である。ヒトMCP−1のアミノ酸配列は、非特許文献1に開示されている。MCP−1は、ナノモル濃度以下で好中球を除く単球を吸引しそして活性化する。MCP−1は、好中球特異的な化学−吸引物質でありケモカイン−αファミリーの1員であるインターロイキン−8(IL−8)に構造的及び遺伝的に関係している。
【0004】
単球は、冠動脈血管形成によって生じた損傷などの損傷した冠動脈に吸引され、そして再狭窄を引き起こすのに関与する。
【非特許文献1】ロリン(Rollins), モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー,9巻,11号,4687−4695頁,11月,1989年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内因性ヒト単球化学吸引性タンパク質(monocyte chemoattractant protein)−1(MCP−1)の単球化学吸引活性(monocyte chemoattractant activity)を阻害し、および内因性ヒトMCP−1に対して少なくとも1つの修飾を含むヒトMCP−1誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、
[1] 内因性ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)の単球化学吸引活性を阻害し、および内因性ヒトMCP−1に対して少なくとも1つの修飾を含むヒトMCP−1誘導体であって、該修飾が、MCP−1のN−末端領域における置換、欠失または挿入であり、該N−末端領域が、MCP−1の第1のシステイン間ループ前のアミノ酸残基からなる、ヒトMCP−1誘導体、
[2] 該修飾が2〜8位アミノ酸残基の欠失である、前記[1]記載のヒトMCP−1誘導体、
[3] 該修飾がN−末端グルタミン残基の後におけるアミノ酸の挿入である、前記[1]記載のヒトMCP−1誘導体、
[4] 内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害するヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、該誘導体が野生型MCP−1に対してただ1つの修飾を有し、該修飾が24位アルギニンでのアミノ酸置換である、ヒトMCP−1誘導体、
[5] 内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害するヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、該誘導体が野生型MCP−1に対してただ1つの修飾を有し、該修飾が3位アスパルテートでのアミノ酸置換である、ヒトMCP−1誘導体、
[6] 内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害するヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、該誘導体が野生型MCP−1に対してただ1つの修飾を有し、該修飾が28位チロシンでのアミノ酸置換である、ヒトMCP−1誘導体、
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内因性ヒトMCP−1の単球化学吸引活性を阻害するヒトMCP−1誘導体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の概要
本発明は、内因性MCP−1、好ましくはヒトMCP−1の単球吸引活性を阻害するように変異させたMCP−1誘導体、並びにそれらの医薬組成物を提供する。好ましい態様においては、このMCP−1誘導体は28位チロシン、24位アルギニン、3位アスパルテート及び/又は約2位〜約8位の間のアミノ酸において修飾される。一つの態様においては、変異は28位のチロシンにおいてではない。好ましくは、MCP−1誘導体は28位チロシンをロイシンで置換せず、及び/又は30位アルギニンをバリンで置換しない。吸引活性の阻害はMCP−1が次の方法の一つ以上で修飾されると成功することが見出された、すなわち、a)28位チロシンがアスパルテートで置換される、b)24位アルギニンがフェニルアラニンで置換される、c)3位アスパルテートがアラニンで置換される、及び/又はd)2位〜8位のアミノ酸配列が欠失される、である。
【0009】
請求項に記載のMCP−1誘導体は、MCP−1単球吸引活性を阻害する必要のある患者に投与することができる。この誘導体は、冠動脈形成を受けた多くの患者に典型的に起こるような再狭窄を防止するために使用することができる点で有利である。
【0010】
本発明の上記の及びその他の特徴は、請求の範囲においてより具体的に記述されそして指摘されるであろう。本発明を構成する特定の誘導体は例示の仕方で示され、従って本発明を限定するものではない。本発明の原理及び特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく変わった無数の態様で実施することができる。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、MCP−1の領域を変異させて、内因性MCP−1単球化学吸引活性を阻害することができるという発見に基づく。所望の阻害活性を持つMCP−1変異体が開発された。この活性の阻害は、例えば、ヒトMCP−1が次の方法の一つ以上で修飾されるときに成功することが分かる。すなわち、a)28位チロシンをアスパルテートで置換する、b)24位アルギニンをフェニルアラニンで置換する、c)3位アスパルテートをアラニンで置換する、及び/又はd)2位〜8位のアミノ酸配列を欠失させる、である。上記のうちの唯1個の修飾のみを行って得られた具体的変異体は、Y28D、R24F、D3A、及び7NDとそれぞれ命名された。
【0012】
上記の点変異以外のヒトMCP−1の変異も本発明の範囲内に包含される。さらに、単球化学吸引性タンパク質を有する他の哺乳動物由来のMCP−1変異体であって、内因性MCP−1を阻害するものを開発することが可能である。変異体タンパク質の開発及び開発された変異体のスクリーニング用に本発明で記述される技法を用いて、他の均等な変異体タンパク質を同定し、単離することが可能である。
【0013】
本明細書で用いられるとき「誘導体」という語は、全タンパク質、それらのすべての活性部分、又は親タンパク質のすべての付加産物を包含するものと定義される。
【0014】
請求項記載の本発明の誘導体は、ポリメラーゼ連鎖反応などの現技術水準で知られている方法により作成することができる。ポリメラーゼ連鎖反応はヒトMCP−1のcDNAに点変異を創るために利用することができる。R. Higuchi,“Recombinant PCR”, PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Innis, M. A.編; Gelfand, D. H.; Sninsky, J. J.;およびWhite, T. J., AcademicPress, NY 1990は参照により本明細書に含められる。cDNAは、変異タンパク質を作成するために適当な発現系に一時的にトランスフェクトすることができる。使用することができる適当な発現系としては、原核動物及び真核動物が挙げられる。細菌に誘導されるタンパク質の適切なホールディングを誘導するという問題を避けるために、該タンパク質をCOS細胞中で発現させることが好ましい。
【0015】
例として、エピトープで標識したMCP−1及びMCP−1変異の構築をポリメラーゼ連鎖反応を用いて行うことができる。適当なクローニング・ベクター中のMCP−1のcDNAの適当な資源を鋳型として使用することができる。使用することができるクローニング・ベクターとしては、pGEM−hJE34(pGEM−7中のヒトMCP−1・cDNA(プロメガ、ウイスコンシン))が好ましい。一つの態様においては、組換え体PCRを用いて、FLAGエピトープ(プリケット(Prickett) , バイオテクニークス, 7, pp 580-589,(1989))をコードする30ヌクレオチドを2個のグリシンからなるスペーサーと共に終止コドン(366位)の5’側直前に挿入した。
【0016】
こうして得られたcDNAを適当な発現ベクターであるpmt21(ジェネティックス・インスティチュート)中にクローニングしてpFX2と名付けたプラスミドを得た。
【0017】
同様な技法を用いて、プロセス後のMCP−1のアスパルテート−3に対するコドン(ヌクレオチド146位)の3’側直後にFLAGエピトープ及びスペーサーを挿入した。この発現プラスミドは、pFX3と命名された。pFX2を鋳型として用いて、組換えPCRにより、所望のように終止コドン又は単一アミノ酸の変化を挿入した。
【0018】
このようにして得られたcDNAをpmt21(ジエネティックス・インスティチュート)のような適当な発現ベクターにクローニングして適当なプラスミドを得た。
【0019】
MCP−1及びその誘導体の発現は、既知の技法により達成することができる。広範囲の発現ビーイクルを使用することができる。一つの好ましい発現ビーイクルはCOS細胞株である。このタンパク質の発現は、例えばイミュノブロッティングやレーザーデンシトメトリーのような現行技術の定型的方法により測定し定量することができる。
【0020】
上に述べたように、MCP−1は単球を吸引しそして活性化する。単球は冠動脈形成により生じた損傷のような、損傷を受けた冠動脈に吸引され、そして再狭窄の惹起に関与する。単球の漸増に対する阻害剤の投与は、再狭窄の防止、リウマチ性関節炎、慢性肺炎症(chronic pulmonary inflammation) 及びその他の単球の漸増に関連する諸状態に有用であろう。
【0021】
請求項に記載の本発明の誘導体は、単独で又は適当な医薬組成物の形で投与することができる。投与の方法は、非経口投与のような、現行技術で知られているものである。
【0022】
適当な医薬用担体としては、水、塩溶液、アルコール類、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース又は澱粉のような炭水化物、マグネシウムステアレート、タルク、ケイ酸、粘稠パラフィン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。医薬調製物は殺菌することができ、所望により潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を調整するための塩類、緩衝液、色素、及び/又は芳香性物質などの活性化合物と反応して悪影響を与えない補助剤と混合することができる。これらは、望ましいときは、例えば酵素阻害剤のような他の活性物質と混合して代謝による分解を抑制することもできる。
【0023】
非経口的投与には、注射可能な滅菌溶液、好ましくは油状又は水性の溶液が、懸濁液、乳濁液、又は坐剤などの埋没物(implants) と同様に特に適当である。アンプルは単位投与に便利である。
【0024】
具体的場合におけるMCP−1誘導体の実際の投与量は、例えば、使用される具体的化合物、処方される具体的組成、投与方法、及び患者の年齢、体重及び状態により変動するであろう。具体的な患者に対する投与量は、この分野における通常の熟練者が通常の考慮(例えば、適当な通常の薬学的プロトコールに従うことにより)により決定することができる。
【0025】
本発明は、以下の実施例によりさらに具体的に例示される。
【実施例】
【0026】
エピトープ標識MCP−1及び野生型MCP−1の構築と発現
鋳型としてpGEM−hJE34(pGEM−7中のヒトMCP−1のcDNA(プロメガ、ウイスコンシン))を用いて開始し、組換えPCRはFLAGエピトープ(プリケット,(1989))をコードする30ヌクレオチドを2個のグリシンからなるスペーサーと共に終止コドン(366位)の5’側直前に挿入した。得られたcDNAの配列分析により、他の塩基の変更はないことが明らかになった、そしてこのcDNA全体を発現ベクターpmt21(ジェネティックス・インスティチュート)にクローニングして、pFX2と命名したプラスミドを得た。
【0027】
COS細胞を無血清ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に5×10細胞/mlで懸濁した。4×10細胞(0.8ml)を0.4cmギャップのエレクトロポレーション・キュベットに入れ、10μgのプラスミドDNAを加え、そして細胞に対し0.28kV、960μF(10−13ミリ秒の時定数で発生)でエレクトロポレーションを行った。細胞を室温で10分間キュベット中で回復させ、ついで2枚の100mmディッシュ中の10%子牛血清を含むDMEM中に入れた。24時間後に、培地を無血清DMEMに変えた。さらに24時間後にこの培地を集め、細胞と破砕物を遠心分離により除き、ついでこの条件付きの培地(上清)を−70℃で貯蔵した。
【0028】
野生型のMCP−1も、COS細胞トランスフェクションによって上と同様に作成した。
【0029】
MCP−1変異の構築と発現
上述のヒグチ(Higuchi)によって記載されたと同様の技法を用いてFLAGエピトープ及びスペーサーをプロセス後のMCP−1のアスパルテート−3(ヌクレオチド146位)に対するコドンの3’側直後に挿入した。この発現プラスミドをpFX3と名付けた。他のケモカイン(特にIL−8)からの構造/活性データ並びにモデルの検討に基づき、三つの領域におけるMCP−1変異を構築した。すなわち、N−末端、第1のシステイン間ループ、及びα−ヘリックスから予想されるC−末端である(図2)。pFX2を鋳型として、組換えPCRを用いて終止コドン又は単一アミノ酸変化を挿入した。すべての変異はDNA鎖の両方の配列分析により確認した。
【0030】
イミュノブロッティング
トランスフェクトされたCOS細胞から得た条件付きの培地を試料緩衝液中で煮沸し、そしてSDS中15%ポリアクリルアミドゲルによる電気泳動に付した。培地をまずセントリコン−10装置(アミコン、デンバー,MA)を用いて濃縮した例もある。
【0031】
タンパク質を電気泳動的にニトロセルロースに移転し、そして抗−FLAG M1モノクローナル抗体(インターナショナル・バイオテクノロジース,インク,ニューヘブン,CT)又はウサギ抗MCP−1抗血清のいずれかをプローブとして検出した。
【0032】
ブロットを適当なホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ結合二次抗体及び基質溶液を用いて発色させた(ベクトルラボラトリース,バーリンガム,CA)。
【0033】
MCP−1及びその誘導体の定量
MCP−1を大腸菌中、FLAGバイオシステムを用いてFLAG融合タンパク質として発現させ、そして抗−FLAG親和性カラム(インターナショナル・バイオテクノロジース,インク,ニューヘブン,CT)を用いて精製した。既知量の精製FLAG−MCP−1融合タンパク質をCOS細胞によって産生されたMCP−1の各イミュノブロット中に含ませた。次いで、イミュノブロットをレーザー・デンシトメトリー(ファルマシア,ピスカタウエイ,NJ)で分析し、そしてCOS細胞の産生したタンパク質のそれぞれの量をFLAG−MCP−1融合体の標準品と対比して測定した。COS細胞の上清を、レーザー・デンシトメーターの直線応答領域内の量で、イミュノブロットシグナルを示した各ウエルに入れた。可能なときは、試料を抗−FLAG抗体及び抗−MCP−1抗体の両方を使用して定量した。エピトープの一方が存在しなかった場合を除き、この二つの抗体を用いるタンパク質の量の間には不一致は存在しなかった。
【0034】
単球走化性試験
ヒト末梢血の単核細胞は記載(ロリンス(Rollins, Blood, 78, pp 1112-1116(1989))されたようにボランティアから調製した。走化性試験は、記載されたように5μの孔を有するポリカーボネートフィルターを備えた多孔室を用いて行った。COS細胞の上清のそれぞれを広範囲の希釈にわたって試験した、そして各上清中の単球化学吸引活性(MCA)の濃度を、最大走化性応答の1/2を与える希釈の逆数として定義した。
【0035】
野生型MCP−1及びFX2は同様な用量応答特性を示した、図1。イミュノブロッティングからの定量データを用いて用量応答曲線の分析を行うと、FX2の比活性は408,000U/mlであり、一方野生型MCP−1のそれは442,000U/mlであることが示された。両者の値を精製真核細胞産生組換えMCP−1について測定された比活性と比較すると、エピトープ標識はイン・ビボで単球を吸引するMCP−1の能力を邪魔しないことが示唆される。
【0036】
図2に例示された構築された変異のそれぞれは、同様の方法で単球走化性について試験した。上で述べたように、変異は三つの領域、すなわちN−末端、第1システイン内ループ、及びC−末端で構築された。N−末端では、N−末端グルタミンの直後にFLAGエピトープを挿入すると、このタンパク質の単球化学吸引活性(FX3)が破壊された。この発見と一致して、アミノ酸2〜8の欠失もまた不活性タンパク質を生ずるという事実があった。より詳細なマッピングを作成しようと試みて、この領域の二つの荷電アミノ酸(アスパルテート−3及びアスパラギン−6)をアラニンに変えた。アスパルテート−3を変えるとこのタンパク質の活性を著しく減少させたが、アスパラギン−6を変えても野生型MCP−1の活性の52.9%を保持したタンパク質が生じた。
【0037】
次に、第1のシステイン間ループ中に4種の点変異を構築した。アルギニン−24をフェニルアラニンに、チロシン28をアスパルテートに、そしてアルギニン−30をロイシンに変異させたが、すべて野生型の何分の1かの活性を持つにすぎないタンパク質を生産した。しかしながら、同じ領域の別の極性アミノ酸、すなわちセリン−27を変異させると、野生型の活性の60%を持つタンパク質を生産した。
【0038】
最後に、C−末端のα−ヘリックスを操作すると、なお信号を発することができるが、野生型に比べて能力の劣るタンパク質を生産した。α−ヘリックスの半分(D2)又はすべて(D1)を欠失させると、それぞれ野生型の活性の17%及び11.3%を有するタンパク質を生じた。MCP−1ダイマーの予想されるモデル構造では、アスパルテート−68は2個のα−ヘリックスの間の予想される受容体結合クレフト中に突き出している。このアミノ酸のロイシンへの変異はヘリックス全体の欠失と同じ効果を持っていた。
【0039】
生物学的効果の競合
変異したMCP−1誘導体について、非変異MCP−1に対する応答として生ずるイン・ビトロにおける単球走化性に対するそれらの阻害能を調べた。FX2の固定濃度に対し、変異体タンパク質を発現するCOS細胞によって条件付けられた培地をその量を増加させながら添加した。Y28D、R24F、7ND、及びD3Aのみが野生型MCP−1を阻害する能力を示した。図3は、Y28D及び7NDがFX2による単球走化性を、試験した最高比の場合に約50%阻害することができたことを示す。(この上限は条件付き培地における変異タンパク質の濃度によって決定される。)Y28Dは、10ng/mlの野生型MCP−1の存在下にモルべースで約300ng/mlに相当するID50を持つ7NDよりも僅かにより効果的であった。R24Fは、1対1のモル比で対照の69%にまでMCP−1の化学吸引効果を低下させた。24Fそれ自体は野生型の僅か5%の単球化学吸引活性を有するにすぎないが、野生型に対し1対1のモル比を超えてR24Fを添加すると化学吸引活性の増大を招いた。D3Aは、モル比10対1において対照の80%にMCP−1の活性を低下させた。しかし、それは化学吸引活性も持つので、より高いモル比では阻害の喪失を示した。変異体はホルミル−メチオニル−ロイシル−フェニルアラニン(fMLP)に応答しての単球走化性を阻害しなかったから、阻害活性はMCP−1に特異的であった。
【0040】
均等物
当該技術分野における熟練せる者は、定型的実験にすぎないものを用いて、本明細書において具体的に記載された本発明の具体的態様に対する多くの均等物を認識し、確認することができるであろう。このような均等物は以下の請求の範囲の範囲に包含されるべきものである。
【0041】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1] 内因性単球化学吸引性タンパク質(monocyte chemoattractant protein) −1(MCP−1)の単球化学吸引活性(monocyte chemoattractant activity) を阻害することができるMCP−1誘導体であって、28位チロシンがロイシンによって置換されておらず及び/又は30位アルギニンがバリンによって置換されていないMCP−1誘導体。
[2] ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、該ヒトMCP−1が、
a) 28位チロシンがアスパルテートで置換される、
b) 24位アルギニンがフェニルアラニンで置換される、
c) 3位アスパルテートがアラニンで置換される、及び/又は
d) 2〜8位のアミノ酸配列を欠失させる、
方法の1以上で修飾されているヒトMCP−1誘導体、及びそれらの均等物。
[3] ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)の28位チロシンがアスパルテートで置換されている、ヒトMCP−1誘導体。
[4] ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)の2〜8位のアミノ酸配列が欠失している、ヒトMCP−1誘導体。
[5] ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)の24位アルギニンがフェニルアラニンで置換されている、ヒトMCP−1誘導体。
[6] ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)の3位アスパルテートがアラニンで置換されている、ヒトMCP−1誘導体。
[7] 前記[1]記載のMCP−1誘導体及び薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物。
[8] 前記[2]記載のMCP−1誘導体及び薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物。
[9] 前記[3]記載のMCP−1誘導体及び薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物。
[10] 前記[4]記載のMCP−1誘導体及び薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物。
[11] 前記[5]記載のMCP−1誘導体及び薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物。
[12] 前記[6]記載のMCP−1誘導体及び薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物。
[13] 前記[1]記載のMCP−1誘導体を、それを必要としている患者に投与することにより再狭窄を治療する方法。
[14] 前記[2]記載のMCP−1誘導体を、それを必要としている患者に投与することにより再狭窄を治療する方法。
[15] 前記[3]記載のMCP−1誘導体を、それを必要としている患者に投与することにより再狭窄を治療する方法。
[16] 前記[4]記載のMCP−1誘導体を、それを必要としている患者に投与することにより再狭窄を治療する方法。
[17] 前記[5]記載のMCP−1誘導体を、それを必要としている患者に投与することにより再狭窄を治療する方法。
[18] 前記[6]記載のMCP−1誘導体の有効量を、それを必要としている患者に投与することにより再狭窄を治療する方法。
[19] 前記[1]記載のMCP−1誘導体の有効量を、その治療を必要としている患者に投与することにより、単球の化学吸引活性を阻害する方法。
[20] 前記[2]記載のMCP−1誘導体の有効量を、その治療を必要としている患者に投与することにより、単球の化学吸引活性を阻害する方法。
[21] 前記[3]記載のMCP−1誘導体の有効量を、その治療を必要としている患者に投与することにより、単球の化学吸引活性を阻害する方法。
[22] 前記[4]記載のMCP−1誘導体の有効量を、その治療を必要としている患者に投与することにより、単球の化学吸引活性を阻害する方法。
[23] 前記[5]記載のMCP−1誘導体の有効量を、その治療を必要としている患者に投与することにより、単球の化学吸引活性を阻害する方法。
[24] 前記[6]記載のMCP−1誘導体の有効量を、その治療を必要としている患者に投与することにより、単球の化学吸引活性を阻害する方法。
[25] 変異が28位チロシンでないことを条件に、ヒトMCP−1の1個以上のアミノ酸が欠失、付加又は置換されているヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害することができるヒトMCP−1誘導体。
[26] 24位アルギニンが置換されている、前記[25]記載のヒトMCP−1誘導体。
[27] 3位アスパルテートが置換されている、前記[25]記載のヒトMCP−1誘導体。
[28] 約2位と約8位の間のアミノ酸が欠失している、前記[25]記載のヒトMCP−1誘導体。
[29] ヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、24位アルギニン、3位アスパルテート及び2位〜8位のアミノ酸配列の1以上が欠失し又は1以上のアミノ酸で置換されており、内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害することができるMCP−1誘導体。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、野生型MCP−1及びFLAGエピトープを標識したMCP−1タンパク質の応答曲線を示す図である。
【図2】図2は、調製された変異のチャートおよび変異体の特異的走化性活性を示す図である。
【図3】図3は、請求項に記載の4種の態様のMCP−1阻害に対する用量反応曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性ヒト単球化学吸引性タンパク質(monocyte chemoattractant protein)−1(MCP−1)の単球化学吸引活性(monocyte chemoattractant activity)を阻害し、および内因性ヒトMCP−1に対して少なくとも1つの修飾を含むヒトMCP−1誘導体であって、該修飾が、MCP−1のN−末端領域における置換、欠失または挿入であり、該N−末端領域が、MCP−1の第1のシステイン間ループ前のアミノ酸残基からなる、ヒトMCP−1誘導体。
【請求項2】
該修飾が2位〜8位アミノ酸残基の欠失である、請求項1記載のヒトMCP−1誘導体。
【請求項3】
該修飾がN−末端グルタミン残基の後におけるアミノ酸の挿入である、請求項1記載のヒトMCP−1誘導体。
【請求項4】
内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害するヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、該誘導体が野生型MCP−1に対してただ1つの修飾を有し、該修飾が24位アルギニンでのアミノ酸置換である、ヒトMCP−1誘導体。
【請求項5】
内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害するヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、該誘導体が野生型MCP−1に対してただ1つの修飾を有し、該修飾が3位アスパルテートでのアミノ酸置換である、ヒトMCP−1誘導体。
【請求項6】
内因性MCP−1の単球化学吸引活性を阻害するヒト単球化学吸引性タンパク質−1(MCP−1)誘導体であって、該誘導体が野生型MCP−1に対してただ1つの修飾を有し、該修飾が28位チロシンでのアミノ酸置換である、ヒトMCP−1誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225402(P2006−225402A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136983(P2006−136983)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【分割の表示】特願平7−513955の分割
【原出願日】平成6年11月7日(1994.11.7)
【出願人】(502206795)ダナ−ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】