説明

ヒト多能性幹細胞から産生される心筋細胞系譜の細胞

【課題】心筋細胞系譜のヒト細胞集団の提供。
【解決手段】細胞は、多能性幹細胞の培養物をインビトロにおいて分化させ、特定の表現型特徴を有する細胞を回収することにより、得られる。分化した細胞は、心筋細胞に特有の細胞表面マーカーおよび形態的マーカーを有し、その一部は自発的な周期的収縮を起こす。薬剤スクリーニング、心疾患の治療等の様々な用途に適した、心筋細胞およびその複製する前駆細胞の高度に濃縮された集団を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、胚細胞およびその分化の細胞生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、心筋細胞およびその前駆細胞を形成するための、特有の培養条件および選択技術を用いた、ヒト多能性幹細胞の制御された分化を提供する。
【0002】
関連出願の参照
本出願は、2001年7月12日に出願された米国特許仮出願第60/305,087号、および2001年9月10日に出願された米国特許仮出願第60/322,695号の優先権を主張するものである。米国および許可された他の管轄権において、優先権書類は国際公開公報第01/51616号と共に本明細書によって完全に参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
心疾患は、欧米において最も深刻な健康上の懸念の一つである。6,100万人のアメリカ人(ほぼ5人に1人)が、1つまたは複数の種類の循環器疾患を有すると推測されている(第3回全米健康栄養試験調査、1988〜94、疾病管理センターおよびアメリカ心臓協会)。広範な疾患には、冠動脈疾患(1240万人)、先天性心血管異常(100万人)、およびうっ血性心不全(470万人)が含まれる。再生医療における研究の中心的課題は、これらの疾患における心機能を再構成するのに役立ち得る細胞組成物を開発することである。
【0004】
これまでに行われた研究の大半は、げっ歯動物モデルを用いて作製された様々な種類の幹細胞を用いて実施された。
【0005】
Maltsev、Wobusら(Mechanisms Dev. 44:41、1993):非特許文献1は、マウス由来の胚幹(ES)細胞が、インビトロにおいて胚様凝集塊を介して自発的に拍動する心筋細胞に分化することを報告した。Wobusら(Ann. N.Y. Acad. Sci. 27:460、1995):非特許文献2は、マウス多能性ES細胞が、心筋の特殊化した細胞表現型に拘束されていない胚性細胞から、心筋細胞の発達を再現することを報告した。胚様体をプレーティングして培養し、解離し、免疫蛍光法および電気生理学的研究によりアッセイした。細胞は、心臓特異的遺伝子および主要な心臓特異的イオンチャネルすべてを発現することが報告された。Wobusら(J. Mol. Cell Cardiol. 29:1525、1997):非特許文献3は、レチノイン酸がES細胞由来の心臓分化を促進し、かつ心室心筋細胞の発達を強化することを報告した。この研究では、MLC-2vプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼを発現するようにトランスフェクションされた細胞クローンが用いられた。
【0006】
Kolossovら(J. Cell Biol. 143:2045、1998):非特許文献4は、心臓α-アクチンプロモーターの制御下に緑色蛍光タンパク質を含むベクターを用いた、マウスES細胞からの心臓前駆細胞の単離を報告した。パッチクランプ法およびCa++イメージングから、L型カルシウムチャネルの発現は胚様体発生の7日目から開始することが示唆された。Naritaら(Development 122:3755、1996):非特許文献5は、GATA-4欠損マウスES細胞による心筋細胞の分化を報告した。キメラマウスにおいて、GATA-4欠損細胞は、心内膜、心筋、および心外膜に観察された。筆者らは、他のGATAタンパク質がGATA-4の欠損を補う可能性があることを提唱した。
【0007】
米国特許第6,015,671号(Field):特許文献1およびKlugら(J. Clin. Invest. 98:216、1996):非特許文献6は、安定な心臓内移植片を形成する分化中のマウスES細胞からの、遺伝的に選択された心筋細胞を報告した。細胞は、α-心筋ミオシン重鎖(MHC)プロモーターの制御によるアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼまたはneorを用いて、および抗生物質G418を用いた選択により、分化中のマウスES細胞から選択された。報告によると、成体ジストロフィーマウスの心臓への移植後、標識された心筋細胞は移植後7週間観察された。国際公開公報第00/78119号(Fieldら):特許文献2は、サイクリンD2活性のレベルを増加させることにより、心筋細胞の増殖能を増加させる方法を提案している。
【0008】
Doevendansら(J. Mol Cell Cardiol. 32:839、2000):非特許文献7は、浮遊する胚様体における心筋細胞の分化が胎児心筋細胞に相当することを提唱した。げっ歯動物幹細胞由来の心筋細胞は、ナトリウム電流、カルシウム電流、およびカリウム電流を有する心室心筋細胞に分化することが報告された。
【0009】
Mullerら(FASEB J. 14:2540、2000):非特許文献8は、心室特異的2.1 kbミオシン軽鎖プロモーター-2およびCMVエンハンサーの制御下にある緑色蛍光タンパク質をトランスフェクションしたマウスES細胞からの、心室様心筋細胞の単離を報告した。電気生理学的研究から、心筋表現型は存在するがペースメーカー様心筋細胞は存在しないことが示唆された。Gryschenkoら(Pflugers Arch. 439:798、2000):非特許文献9は、マウスES細胞由来の心筋細胞における外向き電流について試験した。初期段階のES由来心筋細胞における主な再分極電流は、4-アミノピリジン感受性一過性外向き電流であった。筆者らは、初期段階の心筋細胞において、この一過性外向き電流が電気的活性を調節する上で重要な役割を果たすと結論づけた。
【0010】
国際公開公報第92/13066号(ロヨラ大学):特許文献3は、発癌遺伝子V-mycまたはv-rasを用いて遺伝的に改変された胎児材料からのラット筋細胞細胞株の作製について報告した。米国特許第6,099,832号:特許文献4および第6,110,459号(Mickleら、Genzyme):特許文献5は、ラットモデルにおいて心機能を改善するための、様々な組み合わせの成体心筋細胞、小児心筋細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、または骨格筋芽細胞の使用について報告している。米国特許第5,919,449号(Diacrin):特許文献6は、異種対象における心不全を治療するための、ブタ筋細胞の使用について報告している。細胞は、妊娠約20〜30日のブタ胚から得られる。
【0011】
Makinoら(J. Clin. Invest. 103:697、1999):非特許文献10およびK. Fukuda(Artificial Organs 25:1878、2001):非特許文献11は、心血管組織工学のため、間葉性幹細胞から再生心筋細胞を作製した。心筋細胞細胞株は骨髄間質から作製され、4ヶ月を超えて培養された。細胞分化を誘導するため、細胞は5-アザシチジンで24時間処理されたが、これにより30%の細胞が筋管様の構造を形成し、心筋細胞のマーカーを獲得し、かつ拍動を開始した。
【0012】
樹立された心筋細胞株の大半は、動物組織から得られたものである。ヒトの心臓医療における幅広い使用が認可されている樹立心筋細胞細胞株は存在しない。
【0013】
Liechtyら(Nature med. 6:1282、2000):非特許文献12はヒト間葉性幹細胞移植について報告し、ヒツジへの子宮移植後の部位特異的分化を実証している。報告によると、長期移植は、免疫能の発達が予想される後である移植後13ヶ月間達成された。国際公開公報第01/22978号:特許文献7は、新しい筋線維を増殖させるため心筋に自己骨髄間質細胞を移植することを含む、心不全患者において心機能を改善する方法を提案している。
【0014】
国際公開公報第99/49015号(Zymogenetics):特許文献8は、心臓由来である非接着のヒト多能性幹細胞の単離を提案している。心臓細胞は、懸濁し、密度勾配により遠心分離し、培養し、心臓特異的マーカーについて試験された。主張される細胞株は、増殖および分化により、線維芽細胞、筋細胞、心筋細胞、ケラチノサイト、骨芽細胞、または軟骨細胞である子孫を産生する。
【0015】
これらの出版物で例示される細胞調製物のいずれかが、心機能を再生するための治療的組成物として大量市場用に十分な量で生産され得るのか否かは不明である。
【0016】
心疾患を治療するための再生細胞のより期待できる供給源は、胚組織から得られるヒト多能性幹細胞である。
【0017】
Thomsonら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995):非特許文献13は、モデルとしてアカゲザルとマーモセットを使用し、霊長動物から胚幹細胞を培養することに初めて成功した。彼らは次に、ヒト胚盤胞からヒト胚幹(hES)細胞株を派生させた(Science 282:114、1998):非特許文献14。Gearhartらは、胎児性腺組織からヒト胚生殖(hEG)細胞株を派生させた(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998):非特許文献15。国際公開公報第00/70021号:特許文献9は、分化したヒト胚様体細胞、およびhES細胞からこれらの細胞を産生させる方法について言及している。国際公開公報第01/53465号:特許文献10は、hEG細胞からの胚様体由来細胞の調製について概説している。
【0018】
胚幹細胞および胚生殖細胞のどちらも、分化することなくインビトロで増殖することが可能であり、正常な核型を保持し、かつ分化して様々な成熟細胞種を産生する能力を保持している。しかし、ヒト多能性幹細胞の増殖および分化は、げっ歯動物幹細胞の培養について開発された法則とは非常に異なる法則に支配されることは明らかである。
【0019】
Geron Corporationでは、本質的ににフィーダー細胞を含まない環境下でヒト多能性幹細胞の持続的な増殖を可能にする新規な組織培養環境を開発した。豪州特許第AU729377号:特許文献11、および国際公開公報第01/51616号:特許文献12を参照されたい。フィーダーを含まない環境下で幹細胞を培養できることにより、ヒトの治療の規制基準に応じた細胞組成物が容易に産生され得る系が提供される。
【0020】
ヒトの健康および疾患の管理における多能性幹細胞の可能性を理解するため、これらの細胞を治療的に重要な組織種の集団にする新しいパラダイムを開発することが現在必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第6,015,671号
【特許文献2】国際公開公報第00/78119号
【特許文献3】国際公開公報第92/13066号
【特許文献4】米国特許第6,099,832号
【特許文献5】米国特許第6,110,459号
【特許文献6】米国特許第5,919,449号
【特許文献7】国際公開公報第01/22978号
【特許文献8】国際公開公報第99/49015号
【特許文献9】国際公開公報第00/70021号
【特許文献10】国際公開公報第01/53465号
【特許文献11】豪州特許第AU729377号
【特許文献12】国際公開公報第01/51616号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Maltsev、Wobusら(Mechanisms Dev. 44:41、1993)
【非特許文献2】Wobusら(Ann. N.Y. Acad. Sci. 27:460、1995)
【非特許文献3】Wobusら(J. Mol. Cell Cardiol. 29:1525、1997)
【非特許文献4】Kolossovら(J. Cell Biol. 143:2045、1998)
【非特許文献5】Naritaら(Development 122:3755、1996)
【非特許文献6】Klugら(J. Clin. Invest. 98:216、1996)
【非特許文献7】Doevendansら(J. Mol Cell Cardiol. 32:839、2000)
【非特許文献8】Mullerら(FASEB J. 14:2540、2000)
【非特許文献9】Gryschenkoら(Pflugers Arch. 439:798、2000)
【非特許文献10】Makinoら(J. Clin. Invest. 103:697、1999)
【非特許文献11】K. Fukuda(Artificial Organs 25:1878、2001)
【非特許文献12】Liechtyら(Nature med. 6:1282、2000)
【非特許文献13】Thomsonら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995)
【非特許文献14】Thomsonら(Science 282:114、1998)
【非特許文献15】Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998
【発明の概要】
【0023】
本発明は、多能性細胞から心筋細胞系譜の細胞に分化した霊長動物細胞を効率的に産生する系を提供する。
【0024】
本発明の1つの態様は、心筋細胞系譜の細胞を含む集団である。細胞は、本開示で言及する特有の性質を有する。例えば、それらは以下のものであってよい:
・最終段階の心筋細胞
・インビトロで増殖可能であり、かつインビトロまたはインビボで上記特徴のいずれかを有する細胞に分化可能である心臓前駆細胞
・内因性遺伝子から以下のマーカーのうちの1つまたは複数を発現するもの:心臓トロポニンI(cTnI)、心臓トロポニンT(cTnT)、および心房性ナトリウム利尿因子(ANF)
・本開示で言及する他の表現型マーカーのうちの3つまたはそれ以上を発現するもの
・霊長動物多能性幹(pPS)細胞の分化により産生されるもの
・樹立したヒト胚幹(hES)細胞株と同じゲノムを有するもの
・自発的な周期的収縮活性を発現するもの
・イオンチャネルまたは適切な電気生理等の、心筋細胞の他の特徴を表すもの
【0025】
本発明の細胞集団は、約5%、約20%、または約60%の細胞が、言及する特徴を有する程度まで濃縮してもよい。必要であれば、細胞を遺伝的に改変し、テロメラーゼ逆転写酵素により複製能を伸ばすことも、または増殖因子、カーディオトロピック(cardiotropic)因子、もしくは転写調節エレメントを発現させることも可能である。
【0026】
本発明の他の態様は、適切な増殖環境においてpPS細胞またはその子孫を分化させることを含む、このような細胞集団を産生する方法である。例示的な方法においては、本質的にフィーダー細胞を含まない環境においてhES細胞を培養した後、先に言及した特徴の1つまたは複数を有する心筋細胞または心筋細胞前駆細胞に分化させる。ある状況においては、分化方法は以下のうちの1つまたは複数を含んでもよい:胚様体もしくは細胞凝集塊を形成するためにpPS細胞を懸濁培養において培養する段階、1つまたは複数のカーディオトロピック因子を含む増殖環境において培養する段階、自発的に収縮する細胞を集団内の他の細胞から分離する段階、または1つまたは複数の心筋細胞濃縮因子を含む増殖環境において培養する段階。
【0027】
本発明の他の態様は、心筋細胞に及ぼす影響について化合物をスクリーニングする方法である。これは、化合物を本発明の細胞集団と混合し、化合物に起因する調節性の任意の影響を判定することを含む。これには、毒性、代謝変化、または収縮活性に及ぼす影響についての細胞の試験が含まれ得る。
【0028】
本発明の他の態様は、人体または動物体の治療を意図した、本発明の細胞集団を含む薬剤または送達手段である。細胞集団は、心疾患を治療するための薬剤として製剤化され得る。本発明のさらなる態様は、組織を本発明の細胞集団と接触させることを含む、心臓組織における収縮活性を再構成するまたは補う方法である。これには、適切な製剤形態をした本発明の細胞集団が個人に投与される、個人の心疾患の治療が含まれる。
【0029】
本発明のこれらの態様および他の態様は、以下の記載により明らかになると考えられる。本開示に記載される組成物、方法、および技術は、診断、薬剤スクリーニング、および治療用途における使用にかなり期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】免疫細胞化学法により検出された、未分化ヒト胚幹(hES)細胞のマーカー発現を示す。培養物は、マウス胚性フィーダー細胞上で従来法に従って培養されるか、または馴化培地中で細胞外基質マトリゲル(登録商標)もしくはラミニンを含むフィーダーを含まない環境下で培養された。フィーダーを含まない培養液において培養されたhES細胞は、マウス初代線維芽細胞のフィーダー層上で培養されたhES細胞の表現型マーカーと類似した表現型マーカーを有している。
【図2】pPS細胞から心筋細胞を得るためのスキーム(上のパネル)、および心筋細胞形成の速度論(下のパネル)である。実施例2により、胚様体を形成させるためにhES細胞を懸濁液において培養することにより、分化が開始されるという例証が提供される。懸濁培養において4日後、胚様体をゼラチンコーティングしたプレートに移した。分化8日目に培養物の様々な部位において自発的に収縮する細胞が観察され、その数は翌週まで増加し、最終的に60%を超える細胞集団が収縮細胞を含んだ。
【図3】ヒト胚幹(hES)細胞から分化した心筋細胞において検出されたマーカーを示す。上のパネルは、マーカーである心臓トロポニンI(cTnI)、GATA-4、およびβ-アクチンについてのウェスタンブロット解析の結果を示す。cTnIおよびGATA-4は収縮細胞において観察されたが、収縮細胞を含まない他のウェルにおいては観察されなかった。下のパネルは、発達過程における、心筋ミオシン重鎖(αMHC)の発現速度論を示す。αMHCの発現は、収縮細胞が培養物中において豊富になる時期に相当する8日目から顕著であった。
【図4】分離され、トロポミオシン、タイチン、ミオシン重鎖(MHC)、α-アクチニン、デスミン、心臓トロポニンI(cTnI)、および心臓トロポニンT(cTnT)について染色された単一細胞および細胞塊を示す。単一細胞および細胞塊は、これらのマーカーすべてに対して陽性に染色された。筋節構造に特有の横紋が見られるが、この特徴は細胞が収縮活性を示す能力と一致する。
【図5】hES由来心筋細胞の収縮活性に及ぼす薬物の影響を示す。L型カルシウムチャネル阻害剤であるジルチアゼムは、用量依存的な様式で、収縮活性を阻害した。アドレナリン受容体アゴニストであるイソプレナリン、フェニレフリン、およびクレンブテロールは、変時効果を有した。
【図6】シトシン類似体である5-アザ-デオキシ-シチジンの、心筋細胞分化誘導剤として作用する能力を示す。4日間の懸濁培養においてhES細胞から胚様体を形成し、ゼラチンコーティングしたプレートにプレーティングした。1〜4日目、4〜6日目、または6〜8日目の間、5-アザ-デオキシ-シチジンは培地中に含まれた。薬剤は、hES細胞の分化がかなり進行した後に最も効果的であった。
【図7】集団内の心筋細胞系譜細胞の比率を増加させる能力についての、潜在的カーディオトロピック因子の評価を説明する。アクチビンおよび他の増殖因子は、胚様体形成中に導入された(I群因子);他の増殖因子(II群因子)および5-アザ-デオキシ-シチジンは、ゼラチンプレートへのプレーティングに導入され;さらなる因子(III群因子)は、分化過程の後期に添加された。組み合わせは、3つの濃度レベルにおいて試験された。最も効果的であったのは、5-アザ-デオキシ-シチジンと組み合わせた低濃度の増殖因子であった。
【図8A】図8(A)は、各群の因子を独立的に調整することによる、プロトコールのさらなる改良を示す。心筋細胞に特有のα-MHCマーカーは、I群およびII群内の因子が低レベルで用いられ、その後5-アザ-デオキシ-シチジンが用いられた場合に、最も豊富に産生された。分化過程の後期に用いられたIII群因子は、実際に心筋細胞形成を阻害した。初期心筋細胞関連遺伝子GATA-4の発現もまた、これらの条件下で改善された。どの増殖因子の組み合わせを使用しても増加するが、5-アザ-デオキシ-シチジンとの組み合わせでは増加しない内胚葉関連遺伝子HNF3bと比較して、αMHCおよびGATA-4に対する効果は選択的であった。
【図8B】図8(B)は、各群の因子を独立的に調整することによる、プロトコールのさらなる改良を示す。心筋細胞に特有のα-MHCマーカーは、I群およびII群内の因子が低レベルで用いられ、その後5-アザ-デオキシ-シチジンが用いられた場合に、最も豊富に産生された。分化過程の後期に用いられたIII群因子は、実際に心筋細胞形成を阻害した。初期心筋細胞関連遺伝子GATA-4の発現もまた、これらの条件下で改善された。どの増殖因子の組み合わせを使用しても増加するが、5-アザ-デオキシ-シチジンとの組み合わせでは増加しない内胚葉関連遺伝子HNF3bと比較して、αMHCおよびGATA-4に対する効果は選択的であった。
【図9】クレアチン、カルニチン、およびタウリンを含む培地(CCT)中において、心筋細胞を含む集団を1〜2週間培養することにより達成された濃縮を示す。各線は、研究過程の間追跡された単一ウェルにおいて見られた拍動部位を表す。CCT培地により、標準の分化培地中で培養された細胞と比較し、培養物中の拍動部位数が約4倍濃縮された。
【図10】hES細胞から分化した細胞の集団を、不連続パーコール(商標)勾配上で分離する効果を示す。画分I. 上の界面;II. 40.5%層;III. 下の界面;IV. 58.55 %層。リアルタイムRT-PCR解析により測定されるように、心筋マーカーα-ミオシン重鎖の発現は、密度のより高い画分において最も高かった。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本発明は、霊長動物多能性幹細胞由来の心筋細胞およびその前駆細胞を調製し特徴づける系を提供する。
【0032】
霊長動物多能性幹(pPS)細胞から心筋細胞系譜細胞の実質的に濃縮された集団を得るためのパラダイムの開発には、数々の障害が立ちはだかっていた。そのいくつかは、霊長動物起源の多能性細胞の相対的脆弱性、培養における困難さ、ならびに鋭い感受性および培養環境に存在する様々な因子への依存性に起因する。その他の障害は、心臓前駆細胞は最終分化のために胚性内臓内胚葉および原条を必要とするという理解に起因する(Araiら、Dev. Dynamics 210:344、1997)。インビトロにおいてpPS細胞を心臓前駆細胞に分化させるためには、発達過程の胎児におけるこのような細胞の自然な個体発生で起こるすべての事象を、模倣するまたは代替することが必要であると考えられる。
【0033】
これらの障害にもかかわらず、pPS培養物から、心臓細胞の特徴を表す細胞がかなり濃縮された細胞集団が得られ得ることが、現在見い出されている。図4は、トロポミオシン、タイチン、ミオシン重鎖(MHC)、α-アクチニン、デスミン、心臓トロポニンI(cTnI)、心臓トロポニンT(cTnT)について染色された個々の細胞を示しており、筋節構造に特有の横紋が示されている。細胞は、組織培養において自発的な周期的収縮を起こす。図5は、収縮活性がL型カルシウムチャネル阻害剤であるジルチアゼム(diltiazem)により阻害されること、ならびにアドレナリン受容体アゴニストであるイソプレナリンおよびフェニレフリンに応答して増加することを示す。
【0034】
ヒト多能性幹細胞から心筋細胞を作製する経路は、以前に記載されたマウス心筋細胞を作製する経路とは、多くの点で異なることは明らかである。まず第一に、未分化状態および心筋細胞分化の準備が整った状態におけるヒトpPS細胞の増加は、異なる培養系を必要とする。マウス胚幹細胞は、単に培地中に白血病抑制因子(LIF)を含むことにより、分化することなく増殖し得る。しかし、LIF単独では、従来通りに初代胚性線維芽細胞のフィーダー層上で増殖させる(Thomsonら、前記)ヒトES細胞の分化を妨げるには不十分である。さらに、レチノイン酸(Wobusら、J. Mol. Cell Cardiol. 29:1525、1997)およびDMSO(McBurneyら、Nature 299:165、1982)等のマウス幹細胞から心筋細胞を産生する因子は、同様の条件下でヒト幹細胞と共に用いた場合、効果が非常に低い(実施例6)。
【0035】
本発明は、心筋細胞系譜の高度に濃縮された集団の取得を可能にする新しい系を提供することにより、ヒト多能性幹細胞から重要な派生物を作製する問題を解決するものである。本系は、それ自体で商業規模での実施に容易に役立つ。心筋細胞の産生を増強するために用いられ得る手順には、以下が含まれる。
1. 未分化pPS細胞に、分化過程を開始する(胚様体を形成するかまたは直接分化するかのどちらかによる)培養パラダイムを受けさせる段階。
2. 細胞を心筋細胞系譜にするのを補助すると考えられる1つまたは複数のカーディオトロピック因子の存在下で、細胞を培養する段階。
3. 密度遠心分離法または他の適切な分離手段により、心筋細胞を他の細胞から分離する段階。
4. 所望の細胞種の優先的増殖を補助すると考えられる心筋細胞濃縮薬剤の存在下で、心筋細胞系譜の細胞を含む細胞集団を培養する段階。
【0036】
本開示に記載されるこれらおよび他の段階を、単独でまたは任意の効果的な組み合わせで使用することができる。実施例9で説明するように、これらの戦略のごくわずかの組み合わせにより、69%を上回る心筋細胞系譜の細胞を含む新しい細胞集団が提供される。
【0037】
本開示に従って産生される細胞は、その著しい均一性と機能的性質により、新しい治療様式の開発におよびインビトロで心臓組織を研究する手段として有用である。
【0038】
定義
本発明の技術および組成物は、pPS由来心筋細胞およびその前駆体に関する。心筋細胞の表現型特徴は、本開示の後の項で提供される。心筋細胞前駆細胞に決定的な特有の特徴は存在しないが、個体発生の通常の過程において、未分化pPS細胞がまず中胚葉細胞に分化し、次に様々な前駆細胞段階を経て機能的な(最終段階の)心筋細胞に分化することが認められている。
【0039】
したがって本開示において、「心筋細胞前駆細胞」は、心筋細胞を含む前駆細胞を(脱分化も再プログラミングもせずに)生じることができ、かつ以下のリストから少なくとも1つのマーカー(好ましくは少なくとも3個ないし5個のマーカー)を発現する細胞として定義づけられる:心臓トロポニンI(cTnI)、心臓トロポニンT(cTnT)、筋節ミオシン重鎖(MHC)、GATA-4、Nkx2.5、N-カドヘリン、β1-アドレナリン受容体(β1-AR)、ANF、転写因子のMEF-2ファミリー、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)、ミオグロビン、または心房性ナトリウム利尿因子(ANF)。
【0040】
本開示の全体を通して、「心筋細胞」または「心筋細胞前駆細胞」に言及する技術および組成物は、特記されない限り、上記に定義される通りに、心筋細胞個体発生の任意の段階における細胞に制限なく同等に適用することができる。細胞が増殖する能力または収縮活性示す能力を有するか否かは未知である。
【0041】
本発明のある細胞は、自発的な周期的収縮活性を実証する。このことは、これらの細胞が適切なCa++濃度および電解質バランスを有する適切な組織培養環境で培養される場合、培地にさらなる成分を何も添加する必要なく、細胞の1つの軸を横切って周期的な様式で収縮し、その後収縮から開放されることが観察され得ることを意味する。
【0042】
原型の「霊長動物多能性幹細胞」(pPS細胞)は任意の種類の胚組織(胎児または前胎児組織)由来の全能性細胞であり、8〜12週齡のSCIDマウスで奇形腫を形成する能力、または組織培養において同定可能な全3胚葉の細胞を形成する能力等の標準技術として公認の試験によると、適切な条件下で3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)すべての派生物である様々な細胞種の子孫を産生し得る特徴を有する。
【0043】
pPS細胞の定義には、Thomsonら(Science 282:1145、1998)によって記載されるヒト胚幹(hES)細胞、アカゲザル幹細胞(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995)、マーモセット幹細胞(Thomsonら、Biol. Reprod. 55:254、1996)等の他の霊長動物の胚幹細胞、およびヒト胚生殖(hEG)細胞(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998)に例示される様々な種類の胚細胞が含まれる。これらの細胞種は、樹立され細胞系統の形態で提供されることができる。または、それらは初代胚組織から直接得られる、もしくは分化のためにすぐにもちいることができる。他の種類の多能性細胞もまた、この用語に含まれる。胚組織、胎児組織、または他の供給源由来であるか否かにかかわらず、全3胚葉の派生物である子孫を産生し得る霊長動物起源の任意の細胞が含まれる。pPS細胞は、悪性の供給源由来ではない。細胞は核型が正常であることが望ましい(必ずしも必要とは限らない)。
【0044】
pPS細胞培養物は、集団中の幹細胞およびその派生物の実質的な割合が、胚起源または成体起源の分化細胞と明らかに区別できる未分化細胞の形態学的特徴を示す場合に、「未分化である」と記載される。未分化pPS細胞は当業者により容易に認識され、2次元の顕微鏡視野において、典型的に、高い核/細胞質比および顕著な核小体を有する細胞のコロニーとして見える。集団内の未分化細胞のコロニーは、分化した隣接細胞に囲まれていることが多いと理解されている。
【0045】
細胞の個体発生との関連では、形容詞「分化した」とは相対語である。「分化細胞」とは、比較する細胞よりも発生経路をさらに下方に進行した細胞のことである。したがって、多能性胚幹細胞は系譜を限定した前駆細胞(例えば、中胚葉性幹細胞)に分化可能であり、次に経路のさらに下流にある他の種類の前駆細胞(例えば、心筋細胞前駆細胞)、続いて最終段階の分化細胞へと分化可能であり、この分化細胞が特定の組織種において特徴的な役割を果たすが、これ以上増殖する能力を保持するかどうかは未知である。
【0046】
「フィーダー細胞」または「フィーダー」とは、他の種類の細胞と共培養され、第2の種類の細胞が増殖できる環境を提供する1つの種類の細胞を表すのに用いられる用語である。pPS細胞集団は、分割後にpPSの増殖を支持するために新鮮なフィーダー細胞を添加せずに少なくとも1回増殖した場合、フィーダー細胞を「本質的に含まない」と称される。フィーダー細胞を含む以前の培養が、フィーダー細胞を含まない新しい培養の供給源として用いられる場合、その継代で残存するフィーダー細胞がいくらか存在することが認められる。約5%未満の残存フィーダー細胞が存在する場合、その培養物は本質的にフィーダー細胞を含まない。(培養物内の全細胞の%として表現される)1%、0.2%、0.05%、または0.01%未満のフィーダー細胞を含む組成物が、さらにより好ましい。細胞株が同じ培養物において自発的に多様な細胞種に分化する場合、様々な細胞種は、たとえ細胞種が支持する様式で相互作用し得るとしても、この定義の意味においては相互にフィーダー細胞として作用するとは見なされない。
【0047】
「増殖環境」とは、目的の細胞がインビトロにおいて増殖、分化、または成熟する環境のことである。環境の特徴には、細胞を培養する培地、存在し得る増殖因子または分化誘導因子、存在する場合には支持構造(例えば、固体表面上の基層)が含まれる。
【0048】
任意の適切な人工的操作手段によりポリヌクレオチドが細胞に導入された場合、または細胞がそのポリヌクレオチドを受け継いだ最初に改変された細胞の子孫である場合、その細胞は「遺伝的に改変された」と称される。ポリヌクレオチドは、目的のタンパク質をコードする転写可能な配列を含むことが多く、これにより細胞はこのタンパク質をレベルを増加して発現することが可能となる。改変された細胞の子孫が同じ改変を有する場合、遺伝的改変は「遺伝性である」と称される。
【0049】
本開示で用いる「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の両方を指す。本用語の範囲は、完全な免疫グロブリン分子だけでなく、当技術分野で周知の技術で調製され得て、かつ所望の抗体結合特異性を保持する免疫グロブリン分子の断片および派生物(単鎖Fv構築物、ダイマー、および融合構築物等)を意図的に包含する。
【0050】
一般的技術
本発明の実施において有用な一般的技術をさらに緻密にするために、実施者は、細胞生物学、組織培養、発生学、および心臓生理学の標準的な教科書および総説を参照することができる。
【0051】
組織培養および胚幹細胞については、当業者は、Teratocarcinomas and embryonic stem cells: A practical approach (E.J. Robertson編、IRL Press Ltd. 1987);Guide to Techniques in Mouse Development (P.M. Wassermanら編、Academic Press 1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in Vitro (M.V. Wiles、Meth. Enzymol. 225:900、1993);Properties and uses of Embryonic Stemm Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy (P.D. Rathjenら、Reprod. Fertil. Dev. 10:31、1998)を参照することを望む場合がある。心臓細胞の培養について、標準的な参照には、The Heart Cell in Culture (A. Prinson編、CRC Press 1987)、Isolated Adult Cardiomyocytes(第I巻および第II巻、PiperおよびIsenberg編、CRC Press 1989)、Heart Development(HarveyおよびRosenthal、Academic Press 1998)、I Left my Heart in San Francisco(T. Bennet、Sony Records 1990);およびGone with the Wnt(M. Mitchell、Scribner 1996)が含まれる。
【0052】
分子生化学および細胞生化学の一般的な方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版(Sambrookら、Harbor Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology第4版(Ausubel ら編、John Willey & Sons 1999);Protein Methods(Bollagら、John Willey & Sons 1996);Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagnerら編、Academic Press 1999);Viral Vectors(Kaplitt およびLoewy編、Academic Press 1995);Immunology Methods Manual(I. Lefkovits編、Academic Press 1997);およびCell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology(DoyleおよびGriffiths、John Willey & Sons 1998)のような標準的な教科書に見い出され得る。本開示において引用される遺伝子操作用の試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich、およびClonTech等の市販業者から入手可能である。
【0053】
幹細胞の供給源
本発明は、様々な種類の多能性幹細胞、特に胚組織由来あり、かつ上記のように全3胚葉の子孫を産生し得る特徴を有する幹細胞で実施することが可能である。
【0054】
既存の細胞株として使用される胚幹細胞および胚生殖細胞、またはヒトを含む霊長動物種の初代胚組織から樹立した細胞が、代表的な例である。
【0055】
胚幹細胞
胚幹細胞は、霊長動物種のメンバーの胚盤胞から単離された(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995)。ヒト胚幹(hES)細胞は、Thomsonら(米国特許第5,843,780号;Science 282:1145、1998;Curr. Top. Dev. Biol. 38:133 ページ以降、1998)およびReubinoffら、Nature Biotech. 18:399、2000の記載する技術により、ヒト胚盤胞細胞から調製することが可能である。
【0056】
簡潔に説明すると、ヒト胚盤胞をヒトのインビボ着床前胚から得る。または、インビトロで受精した(IVF)胚を使用することもできる、または1細胞期のヒト胚を胚盤胞段階まで増殖させることもできる(Bongsoら、Hum Reprod 4: 706、1989)。G1.2培地およびG2.2培地で、胚を胚盤胞段階まで培養する(Gardnerら、Fertil. Steril. 69:84、1998)。プロナーゼ(Sigma)に短時間曝露することにより、発生した胚盤胞から透明帯を除去する。胚盤胞を1:50希釈したウサギ抗ヒト脾臓細胞抗血清に30分間曝露し、DMEMで5分間3回洗浄し、1:5希釈したモルモット補体(Gibco)に3分間曝露する免疫手術(Solterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72:5099、1975)により、内部細胞塊を単離する。DMEMでさらに2回洗浄した後、穏やかにピペッティングして無傷の内部細胞塊(ICM)から溶解した栄養外胚葉細胞を除去し、ICMをmEFフィーダー層上にプレーティングする。
【0057】
9〜15日後、1 mM EDTAを添加したカルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝食塩水(PBS)に曝露することにより、ディスパーゼもしくはトリプシンに曝露することにより、またはマイクロピペットで機械的に解離することにより、内部細胞塊に由来する増殖物を凝集塊に解離し、新鮮な培地中のmEF上に再度プレーティングする。未分化の形態を有して増殖するコロニーをマイクロピペットで個別に選択し、機械的に凝集塊に解離し、再度プレーティングする。ES様の形態は、細胞質に対して核の比率が明らかに高く顕著な核小体を有する小型のコロニーとして特徴づけられる。得られたES細胞は、短時間トリプシン処理してダルベッコPBS(2 mM EDTAを含む)に曝露し、IV型コラゲナーゼ(約200 U/mL;Gibco)に曝露することにより、またはマイクロピペットで個別にコロニーを選択することにより、1〜2週間ごとに日常的に分割する。凝集塊の大きさは、約50〜100細胞が最適である。
【0058】
胚生殖細胞
ヒト胚生殖(hEG)細胞は、最終月経期から約8〜11週間後に得られるヒト胎児物質中に存在する始原生殖細胞から調製することができる。適切な調製方法は、Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998および米国特許第6,090,622号に記載されている。
【0059】
簡潔に説明すると、生殖隆起を等張緩衝液ですすぎ、0.05% トリプシン/0.53 mM EDTAナトリウム溶液(BRL)0.1 mL中に置き、1 mm3の塊に切断する。次に100μLチップを通して組織をピペッティングし、細胞をさらに脱凝集する。37℃で約5分間インキュベートし、EG増殖培地約3.5 mLを添加する。EG増殖培地は、DMEM、4500 mg/L D-グルコース、2200 mg/L mM NaHCO3;15% ES認定ウシ胎仔血清(BRL);2 mMグルタミン(BRL);1 mMピルビン酸ナトリウム(BRL);1000〜2000 U/mLヒト組換え白血病抑制因子(LIF、Genzyme);1〜2 ng/mL ヒト組換えbFGF(Genzyme);および10μMフォルスコリン(10% DMSO中)である。別のアプローチでは、ヒアルロニダーゼ/コラゲナーゼ/DNAseを用いてEG細胞を単離する。腸間膜を伴う生殖原基または生殖隆起を胎児物質から切り取り、生殖隆起をPBSですすぎ、その後HCD消化溶液(0.01% V型ヒアルロニダーゼ、0.002% DNAse I、0.1% IV型コラゲナーゼ、すべてSigma製でありEG増殖培地で調製する)0.1 mL中に置く。組織を細かく切って37℃で1時間または一晩インキュベートし、EG増殖培地1〜3 mLに再懸濁し、フィーダー層上にプレーティングする。
【0060】
96ウェル組織培養プレートを、LIF、bFGF、およびフォルスコリンを含まない改変EG増殖培地で3日間培養したフィーダー細胞(例えば、STO細胞、ATCC番号CRL 1503)のサブコンフルエントな層で調製し、5000ラドのγ-照射で不活性化する。各ウェルに、初代生殖細胞(PGC)懸濁液約0.2 mLを添加する。7〜10日後に1回目の継代をEG増殖培地で行い、各ウェルを、あらかじめ照射したSTOマウス線維芽細胞で調製した24ウェル培養皿の1ウェルに移す。EG細胞と一致する細胞形態が観察されるまで、毎日培地を交換してこの細胞を培養するが、典型的にこれは7〜30日後または1〜4継代後である。
【0061】
未分化状態におけるpPS細胞の増殖
pPS細胞は、分化を促進せずに増加を促進する培養条件を用いて培養し、連続的に増殖させることが可能である。血清を含む代表的なES培地は、80% DMEM(ノックアウトDMEM、Gibco等)、20%の既知組成ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone)または血清代替品(国際公開公報第98/30679号)のどちらか、1%非必須アミノ酸、1 mM L-グルタミン、および0.1 mMβ-メルカプトエタノールから作製する。使用する直前に、ヒトbFGFを4〜8 ng/mLのレベルになるように添加する(国際公開公報第99/20741号、Geron Corp.)
【0062】
従来通り、ES細胞は、典型的には胚または胎児組織由来の線維芽細胞であるフィーダー細胞層上で培養する。妊娠13日目のCF1マウスから胚を回収してトリプシン/EDTA 2 mLに移し、細かく切断し、37℃で5分間インキュベートする。10% FBSを添加し、細胞片を定着させ、細胞を90% DMEM、10% FBS、および2 mMグルタミンで増殖させる。フィーダー細胞層を調製するには、細胞を照射し、増殖を阻害するがES細胞を支持する因子の合成はできるようにする(約4000ラドγ-照射)。0.5%ゼラチンで培養プレートを一晩コーティングし、ウェル当たり375,000個の照射mEFをプレーティングし、プレーティングしてから5時間〜4日後に使用する。pPS細胞をプレーティングする直前に、新鮮なhES培地で培地を交換する。
【0063】
Geron Corporationは、本質的にフィーダー細胞を含まない環境下において、多能性幹細胞の連続的な増殖を可能にする新規な組織培養環境を開発した。豪州特許第AU729377号、および国際公開公報第01/51616号を参照されたい。細胞は、フィーダー細胞により馴化した培地またはFGFおよびSCF等の増殖因子を添加した培地中において、マトリゲル(Matrigel)(登録商標)またはラミニンの細胞外基質上で培養され得る。フィーダーを含まない環境において幹細胞を培養できることにより、ヒトの治療の規制基準に応じた細胞組成物が容易に産生され得る系が提供される。本出願および米国において本明細書に優先権を主張する任意の出願の実行のために、国際公開公報第01/51616号は、本明細書によって完全に参照として本明細書に組み入れられる。
【0064】
フィーダーを含まない培養環境には、適切な培養基層、特にマトリゲル(登録商標)またはラミニン等の細胞外基質が含まれる。pPS細胞は、>15,000細胞cm-2(選択的には90,000 cm-2〜170,000 cm-2)でプレーティングする。典型的には、細胞が完全に分散される前に酵素消化を停止する(例えば、コラゲナーゼIVで〜5〜20分)。約10〜2000細胞の凝集塊を、さらに分散させることなく基層上に直接プレーティングする。フィーダーを含まない培養物は、典型的には照射した初代マウス胚線維芽細胞、テロメル化したマウス線維芽細胞、またはpPS細胞由来の線維芽細胞様細胞を培養することにより馴化した栄養培地により支持する。フィーダーを20% 血清代替品および4 ng/mL bFGFを添加したKO DMEM等の無血清培地で約5〜6 x 104 cm-2の密度でプレーティングすることにより、培地を馴化することが可能である。24時間馴化した培地を0.2μmメンブレンでろ過し、さらに約8 ng/mL bFGFを添加し、これを用いてpPS細胞培養液を1〜2日間支持する。
【0065】
顕微鏡下で、ES細胞は、高い核/細胞質比、顕著な核小体、細胞の接合部がほとんど識別できない小型のコロニー形成を伴って見える。霊長動物ES細胞は、時期特異的胚抗原(SSEA)3および4、ならびにTra-1-60およびTra-1-81と称する抗体を用いて検出可能なマーカーの1つまたは複数を発現する可能性がある(Thomsonら、Science 282:1145、1998)。未分化hES細胞はまた、典型的に、RT-PCRで検出されるようにOct-4およびTERT、ならびに酵素アッセイ法で検出されるアルカリホスファターゼを発現する。インビトロにおけるhES細胞の分化では、典型的にこれらのマーカー(存在するならば)が消失し、SSEA-1の発現が増加する。
【0066】
心筋細胞を調製する手順
本発明の細胞は、所望の表現型を有する細胞を濃縮する特殊な増殖環境において、幹細胞を培養するまたは分化させることにより(所望の細胞の増殖によるか、または他の細胞種の阻害もしくは死滅により)得られ得る。これらの方法は、幹細胞の多くの種類、特に前項に記載した霊長動物多能性幹(pPS)細胞に適用できる。
【0067】
分化は、典型的に胚様体または凝集塊の形成により開始され得る。例えば、ドナーpPS細胞培養物の増殖、またはEB形成を可能にする低付着性の基層を有する培養容器でpPS細胞を懸濁液中で培養することによる。短時間コラゲナーゼ消化によりpPS細胞を回収し、塊に解離し、非付着性の細胞培養プレートにプレーティングする。数日おきに凝集塊に培地を与え、適切な期間、典型的には4〜8日間後に回収する。次に回収された凝集塊を固相基層上にプレーティングし、凝集塊内の細胞が心筋細胞表現型を獲得し得るまでの期間培養する。典型的には、全分化期間の長さは少なくとも8日間であり、少なくとも10日間ないし12日間であってもよい。
【0068】
代替的にまたはさらに、分化過程は、分化パラダイムにおいて細胞を培養することにより開始され得る。hES細胞の不均一な集団への分化を誘導する条件には、培地にレチノイン酸(RA)もしくはジメチルスルホキシド(DMSO)を添加すること、またはこれらの細胞をそれらが培養されている通常の細胞外基質から引き揚げることが含まれる。米国特許出願第60/213,740号および国際公開公報第01/51616号を参照されたい。しかし、一部の状況においてはこれらの薬剤により、得られる心筋細胞の比率が減少する(実施例6)ので、注意されたい。
【0069】
ある状況においては、培地中に1つまたは複数の「カーディオトロピック因子」を含むことが有益である。これは、単に、単独でまたは組み合わせで、心筋細胞種の増殖もしくは生存を増強するか、または他の細胞種の増殖を阻害する因子である。その効果は、細胞自身に対する直接的効果、または次に心筋細胞形成を増強する他の細胞種に対する効果に起因し得る。例えば、胚盤葉下層もしくは胚盤葉上層等価細胞の形成を誘導する、またはこれらの細胞に自身の心臓促進エレメントの産生を引き起こす因子はすべて、カーディオトロピック因子の注釈内に入る。
【0070】
pPS細胞の中胚葉層の細胞への分化を誘導する、または心筋細胞系譜の細胞へのさらなる分化を促進と考えられる因子には、以下のものが含まれる。
・DNAメチル化に影響を及ぼし、かつ心筋細胞関連遺伝子の発現を変化させるヌクレオチド類似体
・(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、および以下に説明するTGF-βスーパーファミリーの他のメンバーに例証される)TGF-βリガンド。TGF-β受容体に結合するリガンドはI型およびII型セリンキナーゼを活性化し、Smadエフェクターのリン酸化を引き起こす。
・アクチビンAおよびアクチビンBのようなモルフォゲン(TGF-βスーパーファミリーの他のメンバー)
・インスリン様増殖因子(IGF II等)
・骨形成タンパク質(TGF-βスーパーファミリーのメンバー、BMB-2およびBMP-4に例証される)
・(bFGF、FGF-4、およびFGF-8に例証される)線維芽細胞増殖因子、ならびに細胞質キナーゼraf-1およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を活性化する他のリガンド
・(PDGFβに例証される)血小板由来増殖因子
・(心房性ナトリウム利尿因子(ANF)、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)に例証される)ナトリウム利尿因子
・インスリン、白血病抑制因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、TGFα、およびクリプト(cripto)遺伝子の産物等の関連因子
・同受容体のアゴニスト活性を有する特異的抗体
【0071】
代替的にまたはさらに、細胞を、心筋細胞の分化を増強する因子を分泌する(様々な種類の内皮細胞等の)細胞と共培養することができる。
【0072】
実施例6において説明するように、DNAメチル化に影響を及ぼす(その結果遺伝子発現に影響を及ぼす)ヌクレオチド類似体を効率的に使用し、初期分化後に現れる心筋細胞系譜細胞の集団を増加させることが可能である。例えば、培地に5-アザ-デオキシ-シチジンを含むことにより、集団内の収縮細胞の頻度および心筋αMHCの発現が増加することが見出した。ある状況下においては、この段階単独での濃縮により、収縮心筋細胞が集団内の約1%から約3%を上回るまで増加し得る。
【0073】
カーディオトロピック剤の評価を、実施例7においてさらに説明する。カーディオトロピック剤の特に効果的な組み合わせには、初期拘束段階における、選択的には1つまたは複数の線維芽細胞増殖因子、骨形成タンパク質、および血小板由来増殖因子等のさらなるカーディオトロピン(cardiotropin)を添加した、アクチビンAのようなモルフォゲンならびにTGF-βおよびIGFファミリーに含まれるような多数の増殖因子の使用が含まれる。
【0074】
本発明の作成中に、インスリン様増殖因子II(IGF II)および関連分子をインビトロ分化の最終段階から除去することにより、心臓の遺伝子の発現レベルが実際に増加することを見出した。非関連の研究において、IGF IIは、線維芽細胞においてGSK3βのレベルを減少させることが見出された(Scaliaら、J. Cell. Biochem. 82:640、2000)。したがって、IGF IIは、培地中に存在するまたは細胞により分泌されるWntタンパク質の効果を増強させるの可能性がある。Wntタンパク質は通常、転写因子TCFの一部を含む細胞質分子βカテニンの核転座を安定化し、かつ引き起こす。これにより、多数の遺伝子の転写活性が変化する。Wnt非存在下においては、βカテニンは、βカテニンを不安定化しかつ細胞質内に保つGSK3βによりリン酸化される。
【0075】
IL IIのようなWnt活性化因子は明らかに心筋細胞分化を制限するため、Wntアンタゴニストと共に培養することにより、hES細胞の心筋細胞分化の程度または割合を増加させ得ることが考えられる。Wntシグナル伝達は、(Wntに結合しこれを不活性化する分泌タンパク質である)DKK-1もしくはクレセント(Crescent)のどちらかをコードする合成mRNAの注射により(Schneiderら、Genes Dev. 15:304、2001)
、またはDKK-1をコードするレトロウイルスを感染させることにより(Marvinら、Genes Dev. 15:316、2001)、阻害され得る。または、Wnt経路は、例えば細胞をIL-6またはグルココルチコイド等の因子と共に培養することによって、キナーゼGSK3βの活性を増加させることにより、阻害され得る。
【0076】
当然のことながら、通常は、本発明による分化パラダイムにおいてカーディオトロピック因子を使用するために、その作用機序を理解する必要はない。心筋細胞産生を濃縮するために効果的なこのような化合物の組み合わせおよび量は、このような因子を取り込んだ培養環境において未分化hES細胞もしくは初期分化hES細胞またはそれらの子孫を培養し、次に、以下に挙げる表現型マーカーによって化合物が集団内の心筋細胞系譜細胞の数を増加させ得たか否かを判定することにより、実験的に決定され得る。
【0077】
pPS由来心筋細胞は、再プレーティングおよび増殖、濃縮、クローニング、および表現型の特徴決定のために、単一細胞懸濁液に分離され得ることを見出した。実施例2では、コラゲナーゼB溶液を用いた単一単離心筋細胞の調製を説明する。同様に適切であるのは、コラゲナーゼII、またはブレンドザイム(Blendzyme)IV(Roche)等のコラゲナーゼの混合液である。解離後、細胞をチャンバースライドに播種し、分化培地で培養する。再培養された単一心筋細胞は生存し、かつ拍動し続けた。
【0078】
機械的分離または細胞ソーティング等により、pPS由来細胞の懸濁液を、所望の特徴を有する細胞についてさらに濃縮することができる。収縮細胞の割合は、適切な技術を用いた密度分離により、約20倍濃縮することができることを見出した。等密度遠心分離法による濃縮された心筋細胞集団の単離を、実施例4および9に示す。少なくとも約5%、約20%、約60%、および可能性として約90%を上回る心筋細胞系譜の細胞を含む集団が、取得され得る。本開示内で言及される多くの研究および治療応用は、心筋細胞の比率の濃縮から本開示の恩恵を受けるものであるが、完全な均一性が必要とされない場合も多い。
【0079】
初期分化後(かつ、用いる場合には、分離段階の前または後に)、「心筋細胞濃縮剤」を含む環境において培養することにより、心筋細胞系譜の細胞の割合を増加させることが可能である。これは、単に、心筋細胞系譜の細胞の増殖を促進することによるか、または他の組織種の細胞の増殖を阻害することによるか(またはアポトーシスを起こすことによるか)のどちらかにより、所望の細胞種の増殖を促進する、培地中または表面基質上の因子である。上記のカーディオトロピック因子のいくつかが、この目的に適切である。同様に適切であるものは、インビボにおいて心筋細胞に有益であることが知られている一部の化合物、またはその類似体である。これには、高エネルギーリン酸結合を形成可能な(クレアチン等の)化合物;(カルニチン等の)アシル基担体分子;および(タウリン等の)心筋細胞カルシウムチャネル修飾因子が含まれる。
【0080】
心筋細胞系譜細胞の特徴づけ
本発明の技術により得られる細胞は、多数の表現型基準にしたがって特徴づけられ得る。pPS細胞系統由来の心筋細胞および前駆細胞は、他の供給源由来の心筋細胞の形態的特徴を有することが多い。これらは、筋節構造に特有の、免疫染色により検出可能な横紋を有する、紡錘形、円形、三角形、または多角形であってよい(実施例3)。これらは、筋管様構造を形成し得り、電子顕微鏡により試験した場合には典型的な筋節および心房顆粒を示し得る。
【0081】
pPS由来心筋細胞およびその前駆細胞は、典型的に以下の心筋細胞特異的マーカーの少なくとも1つを有する。
・横紋筋収縮の制御に対するカルシウム感受性分子スイッチを提供するトロポニン複合体のサブユニットである、心臓トロポニンI(cTnI)。
・心臓トロポニンT(cTnT)。
・発達中の心臓および胎児心筋細胞において発現されるが、成体では下方制御されるホルモンである、心房性ナトリウム利尿因子(ANF)。これは心臓細胞において非常に特異的な様式で発現されるが、骨格筋細胞では発現されないため、心筋細胞の優れたマーカーと考えられている。
【0082】
細胞はまた、典型的に以下のマーカーのうちの少なくとも1つ(少なくとも3つ、5つ、またはそれ以上の場合も多い)を発現する:
・筋節ミオシン重鎖(MHC)
・タイチン、トロポミオシン、α-アクチニン、およびデスミン
・心臓中胚葉において高度に発現され、発達中の心臓において持続する転写因子である、GATA-4。これは多くの心臓遺伝子を制御し、心発生において重要な役割を果たす。
・初期のマウス胚発生中に心臓中胚葉において発現され、発達中の心臓において持続する心臓転写因子である、Nkx2.5
・心臓中胚葉において発現され、発達中の心臓において持続する転写因子である、MEF-2A、MEF-2B、MEF-2C、MEF-2D
・心臓細胞間の接着を媒介するN-カドヘリン
・心筋細胞間のギャップ結合を形成するコネキシン43
・β1-アドレナリン受容体(β1-AR)
・心筋梗塞後に血清中に増加する、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)およびミオグロビン
【0083】
心筋細胞およびその前駆細胞において陽性となり得る他のマーカーには、心筋α-アクチン、初期増殖応答-I(early growth response-I)、およびサイクリンD2が含まれる。
【0084】
組織特異的マーカーは、細胞表面マーカーへのフロー免疫細胞化学法またはアフィニティー吸着法、(例えば、固定化細胞または組織切片の)細胞内または細胞表面マーカーへの免疫細胞化学法、細胞抽出物のウェスタンブロット解析法、および細胞抽出物または培地に分泌された産物の酵素免疫測定法等の任意の適切な免疫学的技術を用いて検出し得る。選択的に細胞を固定化した後、かつ標識を増幅するため選択的に標識二次抗体または他のコンジュゲート(ビオチン‐アビジンコンジュゲート等)を使用し、標準の免疫細胞化学アッセイ法またはフローサイトメトリーアッセイ法で有意に検出可能な量の抗体が抗原に結合する場合、細胞による抗原の発現は「抗体検出可能である」と称される。
【0085】
組織特異的遺伝子産物の発現はまた、ノーザンブロット解析法、ドットブロットハイブリダイゼーション解析法、または標準の増幅法における配列特異的プライマーを用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)により、mRNAレベルで検出することが可能である。一般的な技術の詳細については米国特許第5,843,780号を参照されたい。本開示で挙げる他のマーカーの配列データは、GenBank(URL www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez)等の公的データベースから入手可能である。典型的な制御された実験において標準の手順に従い細胞試料についてアッセイ法を実行した結果、はっきりと識別可能なハイブリダイゼーション産物または増幅産物が生じる場合、mRNAレベルでの発現は本開示に記載するアッセイ法の1つにより「検出可能である」と称される。タンパク質またはmRNAレベルで検出されるような組織特異的マーカーの発現は、そのレベルが未分化pPS細胞または他の非関連細胞種等の対照細胞のレベルの少なくとも2倍、好ましくは10倍または50倍を超える場合、陽性であるとみなされる。
【0086】
所望の表現型の細胞表面上にマーカーが検出されたなら、これを免疫選択に使用し、イムノパニングまたは抗体による蛍光活性化セルソーティング等の技術によりその集団をさらに濃縮することが可能である。
【0087】
適切な状況下においては、pPS由来心筋細胞は、自発的な周期的収縮活性を示すことが多い。このことは、細胞が適切なCa++濃度および電解質バランスを有する適切な組織培養環境で培養される場合、培地にさらなる成分を何も添加する必要なく、細胞の1つの軸を横切って収縮し、その後収縮から開放されることが観察され得ることを意味する。収縮は周期的であり、これは、1分当たり約6回から200回の間の収縮頻度で、またしばしば1分当たり約20回から約90の収縮頻度で、定期的にまたは不規則に繰り返すことを意味する(図5)。個々の細胞は独立して自発的な収縮活性を示してもよいし、または組織、細胞凝集塊、もしくは培養された細胞集団内の隣接する細胞と協力して自発的な収縮活性を示してもよい。
【0088】
細胞の収縮活性は、収縮の性質および頻度に対する培養条件の影響に従って、特徴づけされ得る。使用可能なCa++濃度を減少させるか、またはさもなければCa++の膜貫通輸送を妨げる化合物は、収縮活性に影響を及ぼすことが多い。例えば、L型カルシウムチャネル遮断薬であるジルチアゼムは、用量依存的な様式で収縮活性を阻害する(図5)。一方、イソプレナリンおよびフェニレフリンのようなアドレナリン受容体アゴニストは、正の変時効果を有する。細胞の機能的性質のさらなる特徴づけには、Na+、K+、およびCa++のチャネルの特徴づけが関与する。パッチクランプ解析法により、心筋細胞について、活動電位のような電気生理が研究され得る。Igelmundら、Pflugers Arch. 437:669、1999;Wobusら、Ann. N.Y. Acad. Sci. 27:752、1995;およびDoevendansら、J. Mol. Cell Cardiol. 32:839、2000を参照されたい。
【0089】
機能的特性により、インビトロにおいて細胞およびその前駆細胞を特徴づける方法が提供されるが、本開示において言及される応用の一部に対してこの特性が必要でないこともあり得る。例えば、上記マーカーのいくつかを有するが、機能的または電気生理学的特性のすべてを有するとは限らない細胞について濃縮された混合細胞集団は、障害のある心臓組織に移植され得り、かつ心臓機能を補うために必要とされる機能的特性をインビボにおいて獲得し得る場合には、重要な治療的利点となり得る。
【0090】
本発明の細胞集団および単離細胞がpPS細胞の樹立株由来である場合、これらの細胞は、元となった株と同じゲノムを有すると特徴づけられ得る。これは、pPS細胞と心臓細胞間で、染色体DNAが90%を上回って同一であることを意味し、心臓細胞が未分化株から通常の有糸分裂の過程を通じて得られることが推論され得る。(TERT等の)導入遺伝子を導入するために組換え法により処理された、または内因性遺伝子をノックアウトされた細胞は、未操作の遺伝子エレメントはすべて保存されているため、依然として、元となった株と同じゲノムを有すると見なされる。2つの細胞集団は、DNAフィンガープリント法等の標準的な技術により、本質的に同じゲノムを有することが示され得る。または、細胞の派生中につけた記録を再検討することにより、関係が確立され得る。心筋細胞系譜の細胞が親細胞集団に由来するという特徴は、いくつか点で重要である。特に、共有されるゲノムを有するさらなる細胞、つまり、心臓細胞のさらなる1回分、または治療に有用であると思われる他の細胞種のどちらか、例えば心臓同種移植片の組織適合型に対して患者を予め寛容化し得る集団等、を産生するために、未分化細胞集団を使用することができる。
【0091】
治療用途には、多くの場合、本発明の分化細胞集団が未分化pPS細胞を実質的に含まないことが望ましい。集団から未分化幹細胞を減少させる1つの方法は、エフェクター遺伝子が、未分化細胞において優先的な発現を引き起こすプロモーターの制御下にあるベクターを、その集団にトランスフェクションすることである。適切なプロモーターには、TERTプロモーターおよびOCT-4プロモーターが含まれる。エフェクター遺伝子は、(例えば、毒素またはアポトーシスの介在物質をコードする)細胞に対する直接溶解性であってよい。または、エフェクター遺伝子は、抗体またはプロドラッグ等の外部薬剤の毒素効果に対して、細胞を感受性にさせてもよい。例示的には、発現される細胞をガンシクロビルに対して感受性にさせる、単純ヘルペスチミジンキナーゼ(tk)遺伝子である。適切なpTERT-tk構築物は、国際公開公報第98/14593号(Morinら)において提供されている。
【0092】
現在、心筋細胞および心筋前駆細胞がpPS細胞から産生可能であることを明らかにしているが、独自の目的に適するように本開示で説明する分化パラダイムを適応させることは十分に当業者の範囲内である。当業者は、例えば本開示の説明に従って得られる細胞および他の対照細胞種(初期ヒト心筋細胞、肝細胞、または線維芽細胞等)と平行してpPS細胞またはその派生物を試験条件で培養し、上記のマーカーに従って得られる細胞の表現型を比較することにより、ある培養条件の適合性を容易に試験することが可能である。特定の成分を改変する培養および細胞分離条件の調整は、通常この種の培養法に求められる日常的な最適化の問題であり、請求する本発明の精神から逸脱するものではない。
【0093】
分化細胞の遺伝的改変
細胞は、ある種の医薬スクリーニングおよび治療的応用において複製する能力、ならびに心筋細胞および心筋前駆細胞産生の蓄積を提供する能力を有することが望ましい場合もある。本発明の細胞が限定した発生系譜の細胞もしくは最終分化細胞まで発達する以前またはその後に、この細胞を選択的にテロメル化し、複製能を増加させることが可能である。テロメル化したpPS細胞は先に記載した分化経路を降りることができ、または分化細胞を直接テロメル化することも可能である。
【0094】
適切なベクターによるトランスフェクションもしくは形質導入、相同組換え、または他の適切な技術により細胞を遺伝的に改変してテロメル化すると、典型的には内在性プロモーター下で起こる発現を上回りテロメラーゼの発現を増加させる異種性プロモーター下で、テロメラーゼ触媒コンポーネントを発現する。特に適しているのは、国際公開公報第98/14592号で提供されるヒトテロメラーゼの触媒コンポーネント(hTERT)である。ある種の応用においては、マウスTERT(国際公開公報第99/27113号)のような種相同体も使用可能である。ヒト細胞におけるテロメラーゼのトランスフェクションおよび発現は、Bodnarら、Science 279:349、1998およびJiangら、Nat. Genet. 21:111、1999に記載されている。他の例では、hTERTクローン(国際公開公報第98/14592号)をhTERTコード配列源として使用し、MPSVプロモーターの制御下にあるPBBS212ベクターのEcoRI部位、またはLTRプロモーターの制御下にある市販のpBABEレトロウイルスベクターのEcoRI部位に接合する。
【0095】
分化pPS細胞または未分化pPS細胞は、ベクターを含む上清を用いて8〜16時間を上回る期間遺伝的に改変し、1〜2日間増殖培地に交換する。ピューロマイシン、G418、またはブラストサイジンを用いて遺伝的に改変した細胞を選択し、その後さらに培養する。その後この細胞を、RT-PCR法によるhTERT発現、テロメラーゼ活性(TRAPアッセイ法)、hTERTの免疫細胞化学的染色、または複製能について評価することができる。以下のアッセイキットが研究の目的で市販されている:トラペーゼ(TRAPeze)(登録商標)XLテロメラーゼ検出キット(XL Telomerase Detection Kit)(カタログ番号s7707; Intergen Co.、ニューヨーク州パーチェス);およびTeloTAGGGテロメラーゼPCR ELISAプラス(TeloTAGGG Telomerase PCR ELISAplus)(カタログ番号2,013,89; Roche Diagnostics、インディアナ州インディアナポリス)。TERT発現は、RT-PCR法によりmRNAレベルで評価することも可能である。研究目的で市販されている物に、ライトサイクラーTeloTAGGG hTERT定量キット(LightCycler TeloTAGGG hTERT quantification kit)(カタログ番号3,012,344;Roche Diagnostics)がある。増殖を支持する条件下で連続して複製するコロニーをさらに培養して濃縮し、選択的に所望の表現型を有する細胞を限界希釈によりクローニングすることが可能である。
【0096】
本発明のある態様においては、pPS細胞を心筋前駆細胞に分化し、その後遺伝的に改変してTERTを発現させる。本発明の他の態様においては、TERTを発現するようにpPS細胞を遺伝的に改変し、その後心筋細胞または最終的分化細胞に分化させる。TERT発現を増加させる修飾の成否は、TRAPアッセイ法または細胞の複製能が改善されたか否かを測定することにより判断することができる。
【0097】
意図される細胞の用途によっては、myc、SV40ラージT抗原、またはMOT-2をコードするDNAで細胞を形質転換するなどして(米国特許第5,869,243号、国際公開公報第97/32972号、および国際公開公報第01/23555号)、他の不死化方法も許容可能である。細胞を治療目的で使用する場合には、発癌遺伝子または腫瘍ウイルス産物によるトランスフェクションはあまり適していない。テロメル化した細胞は、増殖可能でありかつその核型の維持が可能である細胞を得ることが好都合な本発明の応用において、例えば医薬品スクリーニングおよび心臓機能を増大させるために分化細胞を個人に投与する治療手順において、特に関心がもたれる。
【0098】
本発明の細胞はまた、組織再生に関与する能力、または投与部位に治療遺伝子を送達する能力を増強するために、遺伝的に改変することも可能である。所望の遺伝子をコードする既知の配列を用いてベクターを設計し、全特異的または分化した細胞種で特異的に活性のあるプロモーターに機能的に連結させる。特に関心対象となるのは、心房性ナトリウム利尿因子等のカーディオトロピック因子、クリプト、ならびにGATA-4、Nkx2.5、およびMEF2-C等の心臓転写制御因子などである様々な種類の1つまたは複数の増殖因子を発現するように遺伝的に改変された細胞である。投与部位においてこれらの因子を産生することにより、機能的表現型の獲得が容易になり、投与細胞の薬効が増強し、または治療部位に隣接した宿主細胞の増殖もしくは活性が増加する可能性がある。
【0099】
心筋細胞、および心筋前駆細胞
本発明は、多数の心筋細胞系統の細胞を産生する方法を提供する。これらの細胞集団は、多くの重要な研究、開発、および商業目的に使用することが可能である。
【0100】
本発明の細胞を用いて、他の系譜の細胞で優先的に発現されるcDNAに比較的汚染されないcDNAライブラリーを調製することが可能である。例えば、心筋細胞を1000 rpmで5分間遠心分離して回収し、標準的な技術(Sambrookら、前記)によりペレットからmRNAを調製する。cDNAに逆転写した後、未分化pPS細胞、他の前駆細胞、または心筋細胞もしくはその他の発生経路による最終段階の細胞のcDNAをこの調製物から差し引くことができる。
【0101】
本発明の分化細胞を用いて、心筋細胞、および心筋前駆細胞のマーカーに特異的な抗体を調製することも可能である。脊椎動物に免疫原性型の本発明の細胞を注射し、ポリクローナル抗体を調製することが可能である。モノクローナル抗体の産生は、米国特許第4,491,632号、米国特許第4,472,500号、および米国特許第4,444,887号、ならびにMethods in Enzymology 73B:3 (1981)等の標準的な参照に記載されている。特異的抗体分子は、免疫担当細胞またはウイルス粒子のライブラリーを標的抗原に接触させ、陽性選択したクローンを増殖させることによっても産生可能である。Marks ら、New Eng. J. Med. 335:730、1996およびMcGuinessら、Nature Biotechnol. 14:1449、1996を参照されたい。さらなる変法は、欧州特許出願第1,094,108A号に記載されるような、ランダムDNA断片の抗体コード領域への再構築である。
【0102】
本発明の特定の細胞を用いた陽性選択、およびより広範に分布した抗原を有する細胞(他の表現型を持つ胚細胞子孫等)または成人由来心筋細胞を用いた陰性選択により、所望の特異性を取得することが可能である。次にこの抗体を用いて、組織試料を用いた免疫診断において共染色したり、最終分化心筋細胞や他の系譜の細胞から前駆細胞を単離する等の目的で、混合細胞集団から所望の表現型の心臓細胞を同定し回収することが可能である。
【0103】
本発明の細胞は、転写産物の発現パターンおよび心筋細胞に特徴的な新たに合成されるタンパク質を同定する上での関心対象でもあり、分化経路の方向づけまたは細胞間の相互作用の促進を支援する可能性がある。分化細胞の発現パターンを取得し、未分化pPS細胞、拘束された他種の前駆細胞(他の系譜に分化したpPS細胞等)、または最終分化細胞等の対照細胞株と比較する。
【0104】
遺伝子発現の解析におけるマイクロアレイの使用は、Fritzら、Science 288:316、2000;「Microarray Biochip Technology」、L Shi, www.Gene-Chips.comにより一般的に総説されている。代表的な方法は、ジェネティックマイクロシステムズアレイ作製装置(Genetic Microsystems array generator)およびアキソン(Axon)ジーンピックス(GenePix)(商標)スキャナーを用いて行う。マイクロアレイは、まず解析するマーカー配列をコードするcDNA断片を増幅し、スライドガラスに直接スポットして調製する。関心対象である2種類の細胞のmRNA調製物を比較するためには、一方の調製物をCy3標識cDNAに変換し、もう一方の調製物をCy5標識cDNAに変換する。2つのcDNA調製物をマイクロアレイスライドに同時にハイブリダイズさせた後、洗浄して非特異的結合を除去する。それぞれの標識に適した波長でスライドをスキャンして生じた蛍光を定量化し、結果の型式を定めアレイ上の各マーカーのmRNA相対量の指標にする。
【0105】
薬剤スクリーニング
本発明の心筋細胞を用いて、このような細胞およびその多様な子孫の特徴に影響を及ぼす因子(溶媒、小分子薬剤、ペプチド、オリゴヌクレオチド等)または環境条件(培養条件または操作)をスクリーニングすることが可能である。
【0106】
ある応用においては、pPS細胞(未分化または分化)を用いて、後期心筋前駆細胞または最終分化細胞への成熟を促進する因子、または長期培養におけるこのような細胞の増殖および維持を促進する因子をスクリーニングする。例えば、様々なウェル内の細胞に候補成熟因子または増殖因子を添加し、さらなる培養および細胞用途の所望基準に従って生じる任意の表現型変化を判断することにより、それら因子を試験する。
【0107】
本発明の他のスクリーニング応用は、心筋組織の維持および修復への効果についての薬学的化合物の試験に関する。細胞に対して薬理学的効果を有するように化合物を設計するため、または他所で効果を有するよう設計した化合物がこの組織種の細胞に意図されない副作用をもたらすかもしれないため、スクリーニングを行うこともある。本発明の任意の前駆細胞または最終分化細胞を用いて、スクリーニングを行うことも可能である。
【0108】
当業者は一般に、標準的な教科書「In Vitro Methods in Pharmaceutical Research」、Academic Press、1997および米国特許第5,030,015号を参照する。候補薬学的化合物の活性の評価は、一般に本発明の分化細胞を、単独または他の薬剤と組み合わせた候補化合物と混合することを伴う。研究者は、化合物に起因する細胞の形態、マーカー表現型、または機能的活性における任意の変化を判断し(未処理細胞または不活性化合物で処理した細胞と比較して)、化合物の効果を観察された変化と関連づける。
【0109】
まず細胞生存度、残存、形態、ならびに特定のマーカーおよび受容体の発現に及ぼす影響により、細胞毒性を判断することが可能である。染色体DNAに及ぼす薬剤の影響は、DNA合成または修復を測定することにより判断し得る。特に細胞周期の不定期における[3H]-チミジンまたはBrdUの取り込み、または細胞複製に必要なレベルを上回る取り込みが、薬剤の影響と一致する。望まれない効果には、中期の拡散によって判断される姉妹染色分体交換の異常な比率も含まれる。さらなる詳細については、当業者はA. Vickers(「In vitro Methods in Pharmaceutical Reseach」、Academic Press、1997の375〜410ページ)を参照されたい。
【0110】
細胞機能の影響は、マーカー発現、受容体結合、収縮活性、または電気生理等の心筋細胞の表現型または活性を、細胞培養物またはインビボのどちらかにおいて観察する標準的な任意のアッセイ法を用いて、評価され得る。薬理学的候補物質はまた、これが収縮の程度または頻度を増加または減少させるか否か等の、収縮活性に及ぼす影響についても試験することができる。影響が観察される場合、化合物の濃度を力価測定し、半有効量(ED50)を決定することができる。
【0111】
治療用途
本発明はまた、代謝機能における先天性異常、病状の影響、または顕著な外傷の結果等の任意の明らかな必要性に対する心筋の組織維持または修復を増強する、心筋細胞およびその前駆細胞の使用法も提供する。
【0112】
細胞組成物の治療的投与への適合性を判断するために、まず細胞を適切な動物モデルで試験することができる。1つのレベルでは、細胞がインビボで生存する能力およびその表現型を維持する能力について細胞を評価する。細胞組成物を免疫不全動物(ヌードマウス、または化学的もしくは照射により免疫不全にした動物等)に投与する。再増殖の期間後に組織を回収し、pPS由来細胞がまだ存在しているか否かについて評価する。
【0113】
これは、(緑色蛍光タンパク質またはβ-ガラクトシダーゼ等の)検出可能な標識を発現し;(例えば、BrdUまたは[3H]チミジンで)前標識した細胞を投与することにより、またはその後の(例えば、ヒト特異的抗体を用いて)構成的な細胞マーカーの検出により、実施可能である。投与細胞の存在および表現型は、ヒト特異的抗体を用いた免疫組織化学法もしくELISA法により、または公開された配列データに基づいたヒトポリヌクレオチドに特異的な増幅を生じるプライマーおよびハイブリダイゼーション条件を用いたRT-PCR解析法により評価できる。
【0114】
適合性は、pPS由来心筋細胞の細胞集団による治療後の、心臓回復の程度を評価することによっても判断できる。このような試験には、数多くの動物モデルが使用可能である。例えば、予冷したアルミニウム棒を前方左心室壁の表面に接触して置くことにより、心臓を凍結損傷させることができる(Murryら、J. Clin Invest. 98:2209、1996;Reineckeら、Circulation 100:193、1999;米国特許第6,099,832号)。より大きな動物においては、液体窒素中で氷冷した30〜50 mm銅ディスクプローブを左心室の前方壁上に約20分間置くことにより、凍結損傷を起こすことができる(Chiuら、Ann. Thorac. Surg. 60:12、1995)。左主冠動脈を結紮することにより、梗塞を誘導することができる(Liら、J. Clin. Invest. 100:1991、1997)。損傷部位を本発明の細胞調製物で処理し、損傷部位における細胞の存在についての組織学法により、心臓組織を試験する。左心室拡張末期圧、発生圧、血圧上昇率、および血圧下降率等のパラメータを測定することにより、心機能をモニタリングすることができる。
【0115】
適切な試験の後、本発明の分化細胞を、このような治療を必要とするヒト患者もしくは他の対象において組織再構成または再生のために使用することができる。細胞は、目的とする組織部位への移植または移動を可能にし、機能的に欠損した部位の再構成または再生を可能にする方法で、投与される。心機能を再構成し得る細胞を、所望の位置において心室、心膜、または心筋内部に直接投与するのに適した特殊な装置が、使用可能である。
【0116】
このような治療の医療適用には、冠動脈心疾患、心筋症、心内膜炎、先天性心血管異常、およびうっ血性心不全等の、様々な種類の急性および慢性心疾患の治療が含まれる。治療の有効性は、損傷組織もしくは損傷組織の血管再生に占有される部位、ならびに狭心症の頻度および重症度の減少;または発生圧、収縮期圧、拡張末期圧、Δ圧力/Δ時間、患者の可動性、および生活の質の改善等の、臨床的に許容される基準によりモニタリングされ得る。
【0117】
本発明の心筋細胞は、ヒト投与のために十分な無菌条件下で調製される、等張賦形剤を含む薬学的組成物の形態で供給され得る。医薬品製剤の一般的な原理について、当業者はG. Morstyn およびW. Sheridan 編によるCell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy、Cambridge University Press、1996;ならびにHematopoietic Stem Cell Therapy、E.D. Ball、J. Lister、およびP. Law、Churchill Livingstone、2000を参照されたい。組成物の細胞賦形剤および任意の添加成分の選択は、投与に用いられる経路および装置に従って適合化される。組成物はまた、心筋細胞の移植または機能的可動化を促進する1つまたは複数の他の成分を含むか、または添加されてもよい。適切な成分には、心筋細胞の接着を支持もしくは促進する基質タンパク質、または補足的な細胞種、特に内皮細胞が含まれる。
【0118】
本組成物は、選択的に、いくらかの心筋異常を改善するための心筋細胞機能の再構成等の、所望の目的に対する取扱説明書を添付した適切な容器に包装してもよい。
【0119】
本発明の特定の態様の限定されないさらなる例示として、以下の実施例を提供する。
【実施例】
【0120】
実施例1:胚幹細胞のフィーダーを含まない増殖
未分化ヒト胚幹(hES)細胞の樹立株は、基本的にフィーダー細胞を含まない培養環境で維持した。
【0121】
フィーダーを含まない培養物は、標準的な手順に従い単離した初期マウス胚線維芽細胞を用いて調製した馴化培地により維持した(国際公開公報第01/51616)。線維芽細胞は、Ca++/Mg++を含まないPBSで1度洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco)1.5〜2 mL中で約5分間インキュベートすることによりT150フラスコから回収した。線維芽細胞がフラスコからはがれた後、細胞をmEF培地(DMEM + 10% FBS)に回収した。細胞を4000ラドで照射してカウントし、mEF培地中に約55,000細胞cm-2で播種した(525,000細胞/6ウェルプレートのウェル)。
【0122】
少なくとも4時間後、SRを含むES培地(4 ng/mL組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Gibco)を添加した80%ノックアウトDMEM(Gibco BRL、メリーランド州ロックビル)、20%ノックアウト血清代替品(Gibco)、1%非必須アミノ酸(Gibco)、1 mM L-グルタミン(Gibco)、0.1 mMβ-メルカプトエタノール(Sigma、ミズーリ州セントルイス))で培地を交換した。プレートの表面積cm2当たり約0.3〜0.4 mLの培地を馴化した。hES培養液に添加する前に、馴化培地を4 ng/mLのヒトFGFを添加した。
【0123】
hES細胞を培養するプレートは、マトリゲル(登録商標)(Becton-Dickinson、マサチューセッツ州ベッドフォード)の原液を冷KO DMEMで約1:30に希釈し、9.6 cm2ウェル当たり 0.75〜1.0 mLずつ分注し、室温で1〜4時間または4℃で一晩インキュベートすることによりコーティングした。
【0124】
hES培養液は、約200 U/mLコラゲナーゼIV中で37℃で約5〜10分間インキュベートすることにより継代した。こすって剥がすことにより細胞を回収し、馴化培地中で小さな塊になるよう穏やかに解離し、マトリゲル(登録商標)でコーティングしたプレートに播種した。播種してから約1週間後、培養物はコンフルエントになり継代可能となった。これらの条件下で180日を超えて維持した培養物は、ES用の形態を示し続けた。
【0125】
試料を、ノックアウトDMEMで希釈したSSEA-4 (1:20)、Tra-1-60(1:40)、およびTra-1-81 (1:80)に対する一次抗体と37℃で30分間インキュベートすることにより、免疫細胞化学法を行った。細胞を温めたノックアウトDMEMで洗浄し、2%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、その後、PBSで洗浄した。細胞をPBS中の5%ヤギ血清と室温で30分間インキュベートし、その後FITCコンジュゲートヤギ抗マウスIgG (1:125)(Sigma)と30分間インキュベートした。細胞を洗浄後、DAPIで染色し、封入した。
【0126】
細胞は、未分化ES細胞のマーカーであるアルカリホスファターゼの発現についても試験した。これは、チャンバースライド上で細胞を培養し、4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した後にPBSで洗浄することにより行った。次に、細胞をアルカリホスファターゼ基質(Vector Laboratories Inc.、カリフォルニア州バーリンゲーム)と室温暗所で1時間インキュベートした。封入前に、スライドを100%エタノール中で2〜5分間すすいだ。
【0127】
図1は、組織化学法で検出したhES細胞上のマーカーの発現を示す。SSEA-4、Tra-1-60、Tra-1-81、およびアルカリホスファターゼは、フィーダー上の細胞で見られるようにhESコロニーによって発現されていたが、コロニー間の分化細胞では発現されていなかった。
【0128】
hES細胞マーカーの発現は、逆転写PCR増幅法によってアッセイした。個々の遺伝子産物の放射性相対定量化には、クァンタムRNA(QuantumRNA)(商標)オルタネート 18S内部標準プライマー(Alternate 18S Internal Standard primer)(Ambion、テキサス州オースティン)を製造業者の説明に従って使用した。簡潔に説明すると、特定のプライマー対の増幅が比例する範囲を決定し、適切なオルタネート18sプライマー:競合物混合物と同時に増幅し、同時に比例範囲を有するPCR産物を生じた。アンプリタック(AmpliTaq)(商標)(Roche)をPCR反応液に添加する前に、製造業者の説明に従いこの酵素をタックスタート(TaqStart)(商標)抗体(Promega)と予めインキュベートした。 放射性PCR反応液は5%非変性ポリアクリルアミドゲルで解析し、乾燥させ、ホスフォイメージスクリーン(Molecular Dynamics)に1時間露光した。モレキュラーストーム860(Molecular Dynamics Storm 860)でスクリーンをスキャンし、イメージクァント(Image Quant)(商標)ソフトウェアでバンド強度を定量した。結果は、18sのバンドに取り込まれた放射能で標準化した、hTERTまたはOct-4バンドに取り込まれた放射能の比で表す。本実験に使用したプライマーの配列は、国際公開公報第01/51616号に見出し得る。
【0129】
転写因子Oct-4は通常は未分化hES細胞で発現され、分化に伴い下方制御される。馴化培地中マトリゲル(登録商標)上で維持した細胞は、hTERTおよびOct-4を発現した。テロメラーゼ活性は、TRAPアッセイ法(Kim ら、Science 266:2011、1997;Weinrichら、Nature Genetics 17:498、1997)により測定した。フィーダーを含まない培養環境で維持した細胞は、180日間を超えて培養した後も、陽性テロメラーゼ活性を示した。
【0130】
フィーダーなしで培養した未分化細胞の多能性は、懸濁培養液中で4日間胚様体を形成させた後、ポリオルニチンコーティングしたプレートで7日間培養することにより判断した。免疫細胞化学法により、染色パターンが神経細胞および心筋細胞の系譜の細胞と一致し、細胞が内胚葉系譜のマーカーであるα-フェトプロテインについて染色されたことが示された。未分化細胞は、SCIDマウスへの筋肉内投与により奇形腫を形成する能力についても調べた。生じた腫瘍は、78〜84日後に切除した。組織学的解析により、全3胚葉由来の細胞種が同定された。
【0131】
実施例2:hES細胞の心筋細胞への分化
hES細胞株、H1、H7、H9、およびH9.2(H9由来のクローン株)は、始めはフィーダー細胞上で維持し、後には実施例1のようにフィーダーを含まない条件下で維持した。培養物は、200 U/mLコラゲナーゼIV中で37℃で約5〜10分間インキュベートすることにより週に1度継代し、解離し、次にマトリゲル(登録商標)コーティングしたプレートに1:3〜1:6の比率、約90,000〜約170,000細胞/cm2で播種して、初代マウス胚性線維芽細胞により馴化した培地中で維持した。
【0132】
図2(上のパネル)は、hES細胞が心筋細胞に分化するスキームを示す。分化は、胚様体を形成するために懸濁液中でhES細胞を培養することにより、開始される。1 mg/mLコラゲナーゼIV中で37℃で約5〜10分間インキュベートすることにより、hES細胞を小さな凝集塊に解離し、続いて凝集塊を形成させるために分化培地中の懸濁液中で培養した。分化培地は、20%ウシ胎仔血清を添加した80%ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO-DEME)(Gibco BRL、メリーランド州ロックビル)、1 mM L-グルタミン、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、および1%非必須アミノ酸保存液(Gibco BRL、メリーランド州ロックビル)を含んだ。
【0133】
懸濁培養液中で4日後、ゼラチンコーティングしたプレートまたはチャンバースライドに胚様体を移した。播種後、EBは表面に付着し、増殖し、不均一な細胞集団に分化した。分化8日目に、培養物の様々な領域において自発的に収縮する細胞が観察された。
【0134】
図2(下のパネル)は、細胞が分化し続けるにつれて、拍動する細胞を含む、プレーティングした胚様体の比率が増加することを示す。収縮する細胞は、32日目までの長期培養において検出され得た。
【0135】
分化11〜14日目に、EB派生物から拍動する心筋細胞を機械的に単離し、低カルシウム培地またはPBSを含む15mLチューブに回収して、その後洗浄した。トリプシン、EDTA、コラゲナーゼIV、またはコラゲナーゼBを含む様々な薬剤を、生心筋細胞の単一細胞懸濁液を生じる能力について試験した。収縮する単一の生心筋細胞は、コラゲナーゼB溶液中で37℃で、コラゲナーゼ活性に応じて60〜120分間インキュベートした細胞を用いて得られた。次に、細胞をKB培地(pH 7.2に緩衝した85 mM KCl、30 mM K2HPO4、5 mM MgSO4、1 mM EGTA、5 mMクレアチン、20 mMグルコース、2 mM Na2ATP、5 mMピルビン酸、および20 mMタウリン)(Maltsevら、Circ. Res. 75:233、1994)中に再懸濁した。細胞を培地中で37℃で15〜30分間インキュベートし、解離した後、チャンバースライドに播種して分化培地中で培養した。継代培養により、単一心筋細胞は生存し、拍動を続けた。
【0136】
H1、H7、H9、H9.1、およびH9.2を含む試験したhES細胞株はすべて、50継代(約260集団倍加)を超えて維持した後でさえも、拍動する心筋細胞を生じる可能性を有する。
【0137】
実施例3:心筋細胞の特徴づけ
実施例2のように調製したhES由来細胞を、心筋細胞特有の表現型マーカーの存在について解析した。
【0138】
EB派生培養物または解離した心筋細胞の免疫染色は、以下のようにして行った。分化した培養物を、メタノール/アセトン(3:1)中で-20℃で20分間固定した。次に細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中の5%標準ヤギ血清(NGS)で4℃で一晩ブロッキングし、その後一次抗体希釈緩衝液(Biomeda Corp. カリフォルニア州フォスターシティー)またはPBS中の1% NGSで1:20〜1:800に希釈した一次抗体と共に室温で2時間インキュベートした。洗浄後、細胞を、PBS中の1% NGSに希釈した対応するFITCまたはテキサスレッド(Texas Red)(商標)コンジュゲート二次抗体と共に、室温で30〜60分間インキュベートした。細胞を再度洗浄し、DAPIで染色してベクタシールド(Vectashield)(商標)(Vector Laboratories Inc.、カリフォルニア州バーリンゲーム)で封入した。顕微鏡写真撮影は、エピフルオレッセンス(epifluorescence)およびSPOT CCD冷却カメラを装備したニコンラボフォト(Nikon labphot)(商標)で行った。
【0139】
培養物を固定する前に収縮部位を記録するため、15日目に、H9.2細胞の分化培養物中の個々の収縮焦点を撮影した。次に培養物を心臓トロポニンI(cTnI)について染色し、cTnI染色に陽性である収縮部位の割合を測定するため、光学顕微鏡写真に合わせた。収縮部位の100%がcTnIについて陽性に染色されたが、拍動しない細胞においては染色はほとんど観察されなかった。
【0140】
cTnI発現についてのウェスタンブロッティングは、以下のように行った。未分化細胞および分化細胞を溶解緩衝液中に溶解し、10% SDS-PAGEにより分離した後、ニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell)に転写した。0.05% ツィーン(Tween)(商標)20を添加したPBS(PBST)中の5%脱脂乳で膜を室温で1時間ブロッキングし、PBST中の1%脱脂乳で1:2000に希釈したcTnIに対するモノクローナル抗体と共に、4℃で一晩インキュベートした。次にブロットを、PBST中の1%脱脂乳で1:8000に希釈した、西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートしたウマ抗マウスIgG (H+L) (Vector Laboratories Inc.、カリフォルニア州バーリンゲーム)と共に、室温で1.5時間インキュベートした。抗体の結合シグナルは、スーパーシグナル(SuperSignal)(商標)ウェストピコ化学発光システム(West Pico chemiluminescence system)(Pierce、インディアナ州ロックフォード)により検出した。対照として、β-アクチンを以下のようにして同じブロット上でプロービングした:始めのECL検出後、ブロットをPBS中で洗浄し、ベクター(Vector)(商標)-SG基質(Vector Laboratories Inc.、カリフォルニア州バーリンゲーム)に約5分間曝露した後、β-アクチン(Sigma)に対するモノクローナル抗体で再度プロービングした。
【0141】
図3(上のパネル)は、ウェスタンブロット解析の結果を示す。収縮細胞を含むウェル(レーン2および3)には(ヒトcTnIの大きさに一致する)約31 kDのバンドが存在するが、未分化hES細胞(レーン1)および非収縮細胞を含むウェル(レーン4)には存在しない。全レーンとも、β-アクチン(タンパク質回収率の標準物質)の存在について染色された。
【0142】
ライトサイクラーを用いて、リアルタイム逆転写PCRを行った。αMHCの相対定量には、キットの使用法に従い、RNA試料およびプライマーをRT-PCR反応混合液(ライトサイクラーRNA増幅キットハイブリダイゼーションプローブ(LightCycler RNA Amplification Kit-Hybridization Probes)、Roche Molecular Biochemicals)と共に混合した。反応条件は以下の通りである:55℃で10分間のRT;95℃で30秒間の変性;95℃で0秒間、60℃で15秒間、および72℃で13秒間の45サイクルの増幅。反応液は、LightCycler 3プログラムを用いて解析した。相対MHCレベルは、各試料について3回行った反応によるMHCと28Sの比で表した。
【0143】
図3(下のパネル)に結果を示す。αMHCのレベルは分化7日目後に有意に増加したが、未分化hES細胞または分化細胞の初期段階では検出不可能であった。発現レベルは、その後になっても、拍動する細胞の出現と平行して増加し続けた。hTERTの発現は、分化中に減少することが見出された。
【0144】
コラゲナーゼBを用いて、実施例2に記載したように、hES由来心筋細胞を単一細胞に解離した。解離された心筋細胞を、筋節ミオシン重鎖(MHC)、タイチン、トロポミオシン、α-アクチニン、デスミン、cTnI、および心臓トロポニンT(cTnT)の発現について試験した。
【0145】
図4に結果を示す。単一細胞および凝集塊は、これらの全マーカーについて陽性に染色された。染色された単一心筋細胞は、紡錘形、円形、三角形、または多角形をしていた。筋機能に必要な収縮器に呼応して、筋節構造に特有の横紋も見られる。
【0146】
GATA-4は、心臓中胚葉において高度に発現される転写因子である。cTnI陽性細胞のすべての核において、強力なGATA-4免疫反応性が観察された。ウェスタンブロットにより、GATA-4は収縮細胞を含む分化hES細胞において強く発現されるが(図1、レーン2および3)、収縮細胞の形跡のない分化培養物においては検出不可能である(図1、レーン4)ことが示された。未分化細胞においては、弱いシグナルも検出された(レーン1)。これは、やはりGATA-4を発現する内臓内胚葉への自発的分化、または未分化細胞自身によるGATA-4の低レベルな発現によるものである可能性がある。
【0147】
cTnI陽性細胞のすべての核において、免疫細胞化学法により、MEF2心臓転写因子が検出された。心臓転写因子Nkx2.5についての半定量的RT-PCR(Xuら、Dev Biol. 196:237、1998)により、Nkx2.5は拍動する心筋細胞を含む培養物においては高度に発現されるが、未分化細胞においては検出不可能であることが示された。接着マーカーN-カドヘリンおよびギャップ結合マーカーコネキシン43についての陽性シグナルは、cTnIまたはMHC発現により同定される心臓細胞間に検出されたが、周囲の非心臓細胞には検出されなかった。さらに、本発明者らは、部分的に解離した細胞を、β1-アドレナリン受容体(β1-AR)およびcTnIに対する抗体で染色した。表面マーカーの特異的染色から、これらのマーカーに基づいたソーティング技術により、細胞がさらに濃縮され得ることを示唆する。
【0148】
クレアチンキナーゼMB(CK-MB)およびミオグロビンもまた、hES由来心筋細胞の免疫染色により、MHCと共染されて検出された。CK-MBは高エネルギー貯蔵を担うと考えられており、主に筋細胞系譜の細胞に限定されている。ミオグロビンは、筋細胞内でO2の貯蔵および拡散を担う、細胞質酸素結合タンパク質である。CK-MBおよびミオグロビンの両方は、一般に急性心筋梗塞を治療するために用いられている。β1-アドレナリン受容体(β1-AR)についての強力な免疫反応性が、cTnI陽性細胞で観察された。
【0149】
心房性ナトリウム利尿因子(ANF)は、半定量的得RT-PCRにより検出されるように、hES細胞の心臓分化中に上方制御された。cTnI陽性細胞の18%が、Ki67、つまり、活発に分裂する細胞に存在するが、静止G0期細胞には存在しないタンパク質について二重染色され、このことから細胞が依然として増殖する能力を有することが示された。
【0150】
まとめて考えると、これらのデータから、hES由来心筋細胞は、初期段階の(胎児)心筋細胞の表現型と一致した、適切な遺伝子発現パターンを有することが示される。
【0151】
実施例4:密度遠心分離法による心筋細胞の濃縮
パーコール(Percoll)(商標)(コロイド性のPVPコーティングしたシリカを含む密度分離媒体)の不連続勾配上での密度分離により、心筋細胞をさらに濃縮した。心筋細胞は、懸濁液中における4日間のhES分化の誘導により産生され、ゼラチンコーティングしたプレート上で15日間さらに分化された。コラゲナーゼBで、細胞を37℃で2時間解離した。細胞を洗浄し、分化培地中に再懸濁した。5分間安定させた後、細胞懸濁液を40.5%パーコール(商標)(Pharmacia)(約1.05 g/mL)層に重層し、58.5%パーコール(商標)(約1.075 g/mL)層をさらに重層した。次に、細胞を1500 gで30分間遠心分離した。遠心分離後、パーコール(商標)の上の細胞(画分I)およびパーコール(商標)の2層の界面内の細胞層(画分II)を回収した。回収された細胞を洗浄し、分化培地中に再懸濁し、ウェル当たり104個でチャンバースライドに播種した。
【0152】
1週間後、細胞を固定し、ミオシン重鎖(MHC)の発現について染色した(実施例3)。各画分について3連ウェルの30像において細胞を数えることにより、MHC陽性細胞の割合を測定し、3ウェルの細胞の平均値±標準偏差として表した。拍動する細胞は両方の画分において観察されたが、画分IIの方がより多く含んでいた。結果を表1に示す。画分IIで達成された濃縮は、はじめの細胞集団よりも少なくとも約20倍高かった。
【0153】
(表1)hES由来心筋細胞のパーコール(商標)分離

【0154】
実施例5:薬理学的反応
心筋細胞が心臓作用性薬剤の変時性効果に適切に反応するか否かを判定することにより、hES由来心筋細胞の機能を試験した。
【0155】
ゼラチンコーティングした24ウェルプレートにEBを播種し、実施例2のように分化させた。分化15〜21日目の収縮心筋細胞を、薬理学的反応を試験するために用いた。自発的拍動の頻度は、倒立顕微鏡の37℃に加熱したチャンバー内の分化培地中で維持される拍動部位の収縮速度を計測することにより測定した。次に、細胞を試験化合物と共にインキュベーター内で20〜30分インキュベートし、収縮速度を観察した。各基質を濃度を増加させながら累積的に添加することにより、用量依存的効果を判定した。データは、拍動部位10〜20箇所で測定された平均値の、平均脈動速度±標準誤差を表す。
【0156】
これらの細胞が、心収縮機能において重要な役割を果たす機能的L型カルシウムチャネルを発現することを実証するため、hES由来心筋細胞の拍動に対するL型カルシウムチャネル遮断薬ジルチアゼムの効果を試験した。分化細胞を様々な濃度の薬剤と共にインキュベートし、1分当たりの拍動数を計測した。次に細胞を培地で洗浄し、分化培地中で24時間維持し、収縮性を回復するのに要する時間を観察した。
【0157】
図5(パネルA)は、拍動速度がジルチアゼムにより濃度依存的な様式で阻害されたことを示す。細胞を10-5 Mジルチアゼムで処理した場合、100%の拍動部位が収縮を停止した。収縮は、薬剤除去から24〜48時間後に通常レベルに回復した。各データポイントは、平均脈動速度の平均値±標準誤差を表す。統計的有意性は、FisherのPLSD試験により試験した:*p<.05、**p<.005、***p<.0005。この観察結果から、hES由来心筋細胞が機能的L型カルシウムチャネルを有することが示される。別の実験において、クレンブテロールが72日目の細胞の拍動速度を、約72拍動/分から約98拍動/分に増加させることが見出された(1〜10 nM、p<.0005)。
【0158】
パネルBおよびCは、イソプレナリン(β-アドレナリン受容体アゴニスト)およびフェニレフリン(α-アドレナリン受容体アゴニスト)による正の変時効果が存在することを示す。パネルDおよびEは、ホスホジエステラーゼ阻害剤であるIBMXおよびβ2-アドレナリン受容体アゴニストであるクレンブテロールが、同様の効果を有することを示す。このように、hES細胞由来細胞は、心筋細胞系譜の細胞に適した様式で心臓作用性薬剤に反応する。
【0159】
実施例6:分化誘導剤としてのカーディオトロピック因子
胚様体として培養されたH1またはH9系統のhES細胞を、分化1〜4日目、4〜6日目、6〜8日目に、DNAメチル化に影響を及ぼしそのため遺伝子発現を活性化する、シトシン類似体である5-アザ-デオキシ-シチジンで処理した。15日目に細胞を回収し、リアルタイムRT-PCR法により心筋α-MHCについて解析した。
【0160】
実施例3のRT-PCR法を、同じプライマーを使用してタックマン(Taqman)(商標)7700配列検出システムに適合化させ、95℃で15秒間および60℃で1分間の40サイクルで増幅した。対照には、タックマン(商標)リボソームRNA対照試薬のキット(Applied Biosystems)を用いて、18SリボソームRNAを増幅した。反応物は、ABIプリズム(ABI Prism)(商標)7700配列検出システムにより解析した。
【0161】
図6は、分化誘導剤として5-アザ-デオキシ-シチジンを用いた結果を示す(平均値± S.D.、3通りの測定のαMHCと18S RNAの比率)。データから、6〜8日目において、1〜10μMの5-アザ-デオキシ-シチジンが、培養物内の拍動部位の比率の増加と相関して、心筋α-MHCの発現を有意に増加させることが示される。
【0162】
心筋細胞分化を誘導する能力について試験した他の試薬には、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびオールトランス型レチノイン酸(RA)が含まれる。0.5% DMSOで処理された0〜4日目の胚様体は、未処理の培養物よりも少ない拍動部位を生じた。0.8 %または1% DMSOで処理された培養物には拍動細胞は存在せず、1.5% DMSOは実際に細胞に対して毒性があった。DMSO処理はまた、未処理培養物と比較して、α-MHC発現において有意な減少を引き起こした。
【0163】
レチノイン酸を10-9 M〜10-5 M間の用量で、分化しているhES培養物に添加した。4〜8日目、8〜15日目、または4〜15日目では、未処理培養物と比較して拍動細胞の増加が見られなかったが、0〜4日目ではRAは細胞に対して毒性があった。
【0164】
このように、5-アザ-デオキシ-シチジンは、集団内の心筋細胞の比率を増加させ、心筋細胞分化の効果的な誘導物質である。一方、DMSOおよびレチノイン酸は、たとえこれらの化合物が胚性癌腫または胚幹細胞から心筋細胞を生じるとしても(Wobusら、J. Mol. Cell Cardiol. 29:1525、1997;McBurneyら、Nature 299:165、1982)、心筋細胞分化を阻害する。
【0165】
心筋細胞分化はまた、直接的分化パラダイムにおいても達成される。H7系統の未分化hES細胞を解離し、胚様体段階を経ることなく、ゼラチンコーティングしたプレートに直接プレーティングした。プレーティングした細胞を、分化培地(80% KO-DEME、1 mM L-グルタミン、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、1%アミノ酸、および20%ウシ胎仔血清)中で培養した。10〜12日目または12〜14日目に10μM 5-アザ-デオキシ-シチジンで処理した培養物において、18日目に収縮心筋細胞が見出され、全培養物においてその後に検出された。
【0166】
実施例7:カーディオトロピック因子の効果的な組み合わせ
本実施例は、ヒトES細胞の心筋細胞分化に影響を及ぼす、添加される増殖因子および5-アザ-デオキシ-シチジンの組み合わせ効果の研究である。
【0167】
H1と命名されたヒトES細胞株は、標準の胚様体手順の後、常にH7またはH9株よりも少ない拍動心筋細胞を生じる。心筋細胞の産生量を増加させるため、分化しているH1培養物に、5-アザ-デオキシ-シチジンと同時に一連の増殖因子を添加した。
【0168】
理論的根拠は以下の通りであった。I群因子は、初期拘束中に胚盤葉下層の機能を供給し得るとして選択された。II群因子は、I群因子との組み合わせにおいて、次の発達中に内胚葉の機能を供給し得るとして選択された。III群因子は、長時間培養における心筋細胞の生存因子として選択された。典型的な作業濃度を「中」レベルと定義し、その4倍低いレベルおよび4倍高いレベルを「低」レベルおよび「高」レベルと定義した。以下に濃度を示す。
【0169】
(表2)例示的なカーディオトロピック因子

【0170】
図7(上のパネル)は、これら因子の使用のスキームを示す。胚様体を産生するために、48継代のH1細胞をコラゲナーゼ処理し、5 mLピペットを用いてこすり剥がしディッシュから機械的に回収して使用した。細胞の10 cm2ウェルの内容物を低付着プレートの単一の10 cm2ウェルに移し、20% FBS を添加したDMEM 4 ml中でさらなる因子の存在下または非存在下で4日間培養した。4日後、胚様体の各懸濁液を2分割し、ゼラチンコーティングした付着性6ウェル組織培養プレート(10 cm2/ウェル)の2ウェルにプレーティングした。付着胚様体および増殖産物を、20% FBS を添加したDMEM 4 ml中でさらなる因子の存在下または非存在下で11日間培養し、その後各ウェル内の拍動部位の数を光学顕微鏡により観察し、次の定量的PCR解析のために各ウェルからRNAを回収した。
【0171】
I群因子は0日目(胚様体を産生するため、未分化細胞を懸濁培養液に移した日)に添加され、8日目(胚様体をゼラチンコーティングしたウェルにプレーティングしてから4日後)まで続けて存在した。II群因子は4日目(プレーティング時)に添加され、8日目まで続けて存在した。III群因子は8日目に添加され、本実験の最後(15日目)まで続けて存在した。培養物の一部を、48時間(6〜8日目)5-アザ-デオキシ-シチジンに曝露した。6日目、8日目、11日目、および13日目に、因子を添加したまたは添加しない新鮮な培地を培養物に添加した。
【0172】
(補充因子/5-アザ-デオキシ-シチジンの非存在下で維持された)対照培養物、または増殖因子存在下5-アザ-デオキシ-シチジン非存在下で維持された培養物においては、拍動部位が観察されないのに対して、増殖因子と5-アザ-デオキシ-シチジンの組み合わせを添加した全ウェルにおいては、拍動部位が観察されることが認められた。
【0173】
図7(下のパネル)は、通常の心臓RNAにおけるレベルと比較した、心臓遺伝子αミオシン重鎖(αMHC)の発現についての定量的PCR解析(タックマン(商標))を示す。発現レベルは、増殖因子(GF)および5-アザ-デオキシ-シチジンに曝露した細胞において、有意に他よりも高かった。試験したうち最も低い濃度でも、より高い(対照で見られるレベルよりも30倍高い)αMHC発現を達成するのに十分であった。
【0174】
次の実験において、これらの結果を詳細に調べた。H1細胞(38継代)を、以下の点以外は以前と同様に培養した。a) 前回の実験において用いられた因子の最も低い濃度のみを使用し;およびb) 1組の試料において、III群処理を省略した。次に、マーカー発現を、リアルタイムPCRアッセイ法により未分化細胞と比較して測定した。
【0175】
図8は、手順からIII群を省略することにより、αMHC mRNA発現の量がさらに3倍増加したことを示す。初期心筋細胞関連遺伝子GATA-4の発現における増加も、検出された。これに対して、内胚葉関連遺伝子HNF3bは、これらの条件下で特に誘導されなかった。どの増殖因子の組み合わせを使用しても増加するが5-アザ-デオキシ-シチジンとの組み合わせでは増加しない内胚葉関連遺伝子HNF3bと比較して、αMHCおよびGATA-4に対する効果は選択的であった。
【0176】
これらの結果から、I群およびII群内の因子は、心筋細胞の特徴を有する細胞の比率を増加させることが実証される。
【0177】
実施例8:濃縮剤を含む培地中における培養
懸濁液中で5日間胚様体を形成させることによりhES細胞のH9株を分化させ、マトリゲル(登録商標)コーティングしたプレート上で分化培地中で12日間さらに分化させた。PBS中に200 U/mLコラゲナーゼII(Worthington)、0.2 %トリプシン(Irvine Scientific)、および0.02 %グルコースを含む溶液を用いて、細胞を解離した。細胞を分化培地中、マトリゲル(登録商標)コーティングしたプレートにプレーティングし、さらに14日間培養した。
【0178】
次に細胞を、Gibco(登録商標)培地199中に10-7 Mインスリン(Sigma)、0.2%ウシアルブミン(Sigma)、5 mMクレアチン(Sigma)、2 mMカルニチン(Sigma)、および5 mMタウリン(Sigma)を含む「CCT」培地に切り替えた。Volzら、J. Mol. Cell Cardiol. 23:161、1991;およびLiら、J. Tiss. Cult. Meth. 15:147、1993を参照されたい。比較のため、20% FBSを含む標準の培地中で、対照培養物を維持した。
【0179】
図9は、CCT培地に切り替えた後の拍動部位数を示す(個々の線は、研究過程で個々に追跡された個々のウェルでの観測結果を示す)。CCT培地中で増殖した細胞は、7〜14日後に拍動部位数における増加を示した。これは、薬剤クレアチン、カルニチン、およびタウリンが、個々にまたは共同して、培養物中の心筋細胞系譜細胞の比率を濃縮するように働くことを示す。
【0180】
実施例9:4相遠心分離法
4日間胚様体を形成させることにより、H7系統のhES細胞から心筋細胞を産生させ、ゼラチンコーティングしたプレート上で17日間増殖させた(5-アザ-デオキシ-シチジンおよび増殖因子は用いなかった)。次にコラゲナーゼBを用いて細胞を解離し、分化培地中に再懸濁して静置した。続いて、細胞懸濁液をパーコール(商標)の不連続勾配上に重層し、1500 gで30分間遠心分離した。4画分を回収した:I. 上の界面;II. 40.5%層;III. 下の界面;IV. 58.5 %層。細胞を洗浄し、分化培地中に再懸濁した。免疫染色用の細胞を、ウェル当たり104細胞でチャンバースライドに播種し、2日間または7日間培養した後、固定して染色した。
【0181】
結果を表3に示す。各画分について3通りのウェルの30像において細胞を数えることにより、MHC陽性細胞の割合を測定し、3ウェルの細胞の平均値±標準偏差として表した。
【0182】
(表3)パーコール(商標)分離

拍動細胞は全画分において観察されたが、画分IIIおよび画分IVが最も高い割合を含んでいた。
【0183】
図10は、H1系統のhES細胞を用いて同様の手順を行った結果を示す。細胞は、分化22日目にパーコール(商標)を用いて分離した。リアルタイムRT-PCR解析により検出された心筋MHCレベルは、分離前の細胞よりも有意に高かった。データから、画分IIIおよび画分IVが、標準物質として18S RNAを用いた全転写の割合として、最も高いMHC発現レベルを有することが示される。
【0184】
間接的免疫細胞化学的法により判定された細胞の表現型を、表4に示す。
【0185】
(表4)分離された細胞集団の特徴

【0186】
密度勾配遠心分離法により分離された心筋細胞集団は、cTnIおよびMHCについての染色により識別され得た。ミオゲニン、α-フェトプロテイン、またはβ-チューブリンIII についての染色の欠如は、骨格筋、内胚葉細胞腫、および神経細胞の欠如を示した。SSEA-4およびTra-1-81についての染色の欠如により、未分化hES細胞の非存在が確認される。
【0187】
報告によると、α-平滑筋アクチン(SMA)は、胚性および胎児性心筋細胞には存在するが、成体心筋細胞には存在しない(Leorら、Circulation 97:I1332、1996;Etzionら、Mol. Cell Cardiol. 33:1321、2001)。実質的に、心筋細胞分化手順により得られた全TnI陽性細胞およびTnI陰性細胞の一部は、SMAについて陽性であり、このことから、これらの細胞が初期段階にあり、かつ増殖可能であることが示唆された。
【0188】
画分IIIおよび画分IV中の細胞を再度プレーティングし、さらに2日間培養した。sMHC陽性細胞の43 ± 4 %がBrdUを発現し、このことから、これらの細胞が細胞周期のS期にあることが示唆された。他の実験において、cTnI陽性細胞の一が部Ki-67を発現することが見出された。これらの結果は、集団中の約20 %ないし40 %の心筋細胞が、活発な増殖を起こしていることを示す。
【0189】
本記載中で提供される組成物および手順は、特許請求項において具体化される本発明の精神から逸脱することなく、当業者によって効率的に変更され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集団内の少なくとも約5%の細胞が霊長動物多能性幹(pPS)細胞の系統と同じゲノムを有し、かつ内因性遺伝子から以下のマーカー:
心臓トロポニンI(cTnI)、心臓トロポニンT(cTnT)、または心房性ナトリウム利尿因子(ANF)
のうち少なくとも1つを発現することを特徴とする、単離された細胞集団。
【請求項2】
集団内の少なくとも約5%の細胞が霊長動物多能性幹(pPS)細胞の系統と同じゲノムを有し、かつ自発的な周期的収縮活性を有することを特徴とする、単離された細胞集団。
【請求項3】
少なくとも約20%の細胞が:
cTnI、cTNT、筋節ミオシン重鎖(MHC)、GATA-4、Nkx2.5、N-カドヘリン、β1-アドレナリン受容体(β1-AR)、MEF-2A、MEF-2B、MEF-2C、MEF-2D、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)、ミオグロビン、および心房性ナトリウム利尿因子(ANF)
から選択される少なくとも3つのマーカーを発現する、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項4】
増殖細胞の少なくとも約60%が心臓特異的ミオシン重鎖を発現する、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
特徴を維持すると同時に、インビトロ培養において増殖可能な、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項6】
テロメラーゼ逆転写酵素を発現するように遺伝的に改変された細胞を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】
前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団およびその取得の元となった未分化pPS細胞株からなる、2つの細胞集団のセット。
【請求項8】
請求項7記載の細胞集団のセットに属する、請求項1〜6のいずれか一項記載の細胞集団。
【請求項9】
適切な増殖環境において、pPS細胞またはその子孫を分化させることを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団を産生する方法。
【請求項10】
a) 本質的にフィーダー細胞を含まない環境において、pPS細胞を培養すること、
b) 培養された細胞を、心筋細胞または心筋細胞前駆細胞に分化させること、
を含む、霊長動物心筋細胞または心筋細胞前駆細胞を含む細胞組成物を産生する方法。
【請求項11】
懸濁培養においてpPS細胞の分化を開始することを含む、請求項9〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
懸濁培養において形成された凝集塊を適切な基質上にプレーティングした後、分化を継続させることをさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
カーディオトロピック因子を含む増殖環境においてpPS細胞を分化させることを含む、請求項9〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
カーディオトロピック因子が、DNAメチル化に影響を及ぼすヌクレオチド類似体である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
カーディオトロピック因子が5-アザ-デオキシ-シチジンである、請求項13〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
モルフォゲンおよび少なくとも2つの増殖因子を含む増殖環境において、pPS細胞を分化させることを含む、請求項9〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
モルフォゲンがアクチビンであり、かつ増殖因子がインスリン様増殖因子およびTGFβファミリーのメンバーを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
MHCを発現する細胞または自発的に収縮する細胞を、集団内の他の細胞から物理的に分離することをさらに含む、請求項9〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
分離が、密度に基づいて集団内の細胞を分配し、かつ約1.05 g/mL〜約1.075 g/mLの間の密度において細胞を回収することを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
高エネルギーリン酸結合、アシル基担体分子、および心筋細胞カルシウムチャネル修飾因子を形成し得る化合物を含む培地中において、少なくとも1週間細胞を培養することをさらに含む、請求項9〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
クレアチン、カルニチン、またはタウリンを含む培地中において、少なくとも1週間細胞を培養することをさらに含む、請求項9〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
化合物を請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞集団と混合し、化合物に起因する心筋細胞の任意の毒性または変調を判定することを含む、心筋細胞の毒性または変調についての化合物のスクリーニング方法。
【請求項23】
集団内の細胞の収縮活性に及ぼす化合物の任意の影響をモニタリングすることを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞集団、または請求項9〜21のいずれか一項記載の方法により産生される細胞集団、およびヒト投与に適した薬理学的賦形剤を含む薬剤。
【請求項25】
心臓の疾患を治療するための薬剤の調製における、請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞集団、または請求項9〜21のいずれか一項記載の方法により産生される細胞集団の使用。
【請求項26】
心臓の筋系内または周囲に細胞集団を投与するために適合化された装置内に、請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞集団または請求項9〜21のいずれか一項記載の方法により産生される細胞集団を含む、心臓の疾患を治療するための生成物。
【請求項27】
請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞集団または請求項9〜21のいずれか一項記載の方法により産生される細胞集団に組織を接触させることを含む、心臓組織において収縮活性を再構成するまたは補う方法。
【請求項28】
請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞集団または請求項9〜21のいずれか一項記載の方法により産生される細胞集団を個人に投与することを含む、個人の心疾患を治療するための方法。
【請求項29】
pPS細胞がヒト胚盤胞から単離されたかまたはこのような細胞の子孫である、前記請求項のいずれか一項に記載の生成物、方法、または使用。
【請求項30】
pPS細胞がヒト胚幹細胞である、前記請求項のいずれか一項に記載の生成物、方法、または使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−50385(P2011−50385A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219095(P2010−219095)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【分割の表示】特願2003−512669(P2003−512669)の分割
【原出願日】平成14年7月12日(2002.7.12)
【出願人】(595161223)ジェロン・コーポレーション (32)
【氏名又は名称原語表記】GERON CORPORATION
【Fターム(参考)】