ヒト抗上皮成長因子受容体抗体
本発明は、IMC-C225以上の親和性を有するヒトEGFRに結合し、EGFRの活性を失くす完全ヒト抗体を提供する。抗体は完全免疫グロブリン、一価Fab及び単鎖抗体、多価単鎖抗体、ダイアボディー、トリアボディー及び単一ドメイン抗体を含む。本発明は、これらの抗体をコードしかつ発現する核酸、宿主細胞及び動物を更に提供する。本発明は、抗体のみ又は他の薬剤と組み合わせて使用して、EGFRの活性を失くすための方法、新生物腫瘍及び非癌性過剰増殖性疾患の哺乳類を治療する方法を更に提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)特異的なモノクローナル抗体に関する。これらの抗体は新生物性疾患、とりわけ過剰増殖障害の治療に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
正常な細胞は成長因子受容体チロシンキナーゼ(RTK)のそれぞれのリガンドによるそれらRTKの高度に制御された活性化によって増殖するが、癌細胞もまた成長因子受容体の活性化によって増殖する。しかし、癌細胞の場合は正常な増殖の慎重な制御を失う。この制御の喪失は、成長因子および/または受容体の過剰発現や、成長因子により調節される生化学的経路の自己活性化などの無数の要因により引き起こされる可能性がある。腫瘍形成に関与するRTKの幾つかの例は、上皮成長因子受容体(EGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、インスリン様成長因子受容体(IGFR)、神経成長因子受容体(NGFR)、および線維芽細胞成長因子(FGF)受容体である。これらの成長因子がそれらの細胞表面の受容体と結合すると受容体の活性化を誘発し、それが情報伝達経路を起動、修飾し、細胞の増殖および分化を引き起こす。
【0003】
上皮成長因子(EGF)の受容体ファミリーのメンバーは、上皮細胞の腫瘍形成に関連する特に重要な成長因子受容体チロシンキナーゼである。発見されることになるEGF受容体ファミリーの一番目のメンバーは、多くの種類の腫瘍細胞上で発現するEGFRであった。EGFRは、腫瘍細胞の分裂と成長、修復と生存、脈管形成、浸襲、および腫瘍転移の制御に関与していることが分かっている。
【0004】
EGFRは、細胞外リガンド結合ドメイン、トランスメンブラン領域、および細胞質タンパク質チロシンキナーゼドメインを有する170 kDの膜貫通糖タンパク質である。EGFRを刺激するリガンドの例には、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子α(TGR-α)、ヘパリン結合成長因子(HBGF)、βセルリン(β-cellulin)、およびクリプト−1(Cripto-1)が挙げられる。特異的リガンドの結合は、EGFR自己リン酸化、受容体の細胞質チロシンキナーゼドメインの活性化、および腫瘍の成長と生存を制御する複数情報伝達経路の起動を引き起こす。このEGFR経路はまた、腫瘍におけるVEGFおよび塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの様々な他の脈管新生促進因子の産生に影響を及ぼす。
【0005】
EGFRを活性化する成長因子はまた、腫瘍脈管形成の役割を演じると考えられる。胚および成人の生体中の既存の脈管から毛細血管を形成することを意味する脈管形成は、腫瘍の成長、生存、および転移における重要な要素であることが知られている。腫瘍細胞のEGFR仲介性の刺激が、脈管新生促進因子、すなわち脈管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン-8(IL-8)、および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の発現の増加につながることが報告されており、これが腫瘍伴性脈管内皮細胞の活性化につながる可能性がある。腫瘍伴性脈管内皮細胞の刺激はまた、TGF-αおよびEGFなどの腫瘍が産生する成長因子によるそれら自体のEGF受容体の活性化によって起こることもある。
【0006】
多くのヒトの腫瘍がEGFRを発現または過剰発現することが報告されている。EGFRの発現は、不満足な予後、低い生き残り、および/または転移の増加と相関がある。この腫瘍形成への関わりのためにEGFRは、特に抗癌療法の目標とされてきた。これらの療法は、リガンドが受容体の細胞外ドメインと結合するのを遮断するモノクローナル抗体か、または情報伝達を妨げるように細胞内領域に直接作用する合成チロシンキナーゼ阻害剤のどちらかを主に含んでいた。
【0007】
例えばセツキシマブMAb(ERBITUX(登録商標))は、ヒトEGFRの細胞外ドメインと特異的に結合する組換えヒト/マウスキメラモノクローナル抗体である。セツキシマブは、リガンドがEGFRと結合するのを遮断し、受容体活性化を妨げ、EGFRを発現させる腫瘍細胞の成長を阻害するEGFR拮抗薬である。セツキシマブは、難治性であるかまたはイリノテカンによる化学療法に耐えることができない、上皮成長因子受容体発現性の転移性結腸直腸癌を有する患者の治療において場合によってはイリノテカンと組み合わせた使用を認可されている。セツキシマブはまた、乾癬の治療に効果があることが示されている。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、EGFR、好ましくはEGFRの細胞外領域に対して特異的な、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号12、および配列番号14からなる群から選択される1個から6個の相補性決定領域(CDR)をどこかに含むモノクローナル抗体またはその断片を提供する。好ましくは、これら抗体はヒトのものである。より好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6を含む。あるいは、好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号10、配列番号12、および配列番号14を含む。より好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号8の重鎖可変領域および/または配列番号16の軽鎖可変領域を含む。本発明のこのような抗体またはその断片は、EGFRを中和する能力およびEGFRのリガンドがその受容体と結合するのを妨げる能力を含めた様々な特性を有する。
【0009】
さらに本発明は、本発明の抗体またはその断片をコードする単離ポリヌクレオチドと、発現配列と作動的に連結したこれらのポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターとを提供する。その発現ベクターを含む組換え宿主細胞またはその後代であって、本発明の抗体またはその断片を発現させる細胞もまた提供する。この抗体またはその断片の発現を可能にする条件下でこれらの細胞を培養することを含む抗体またはその断片の産生方法もまた提供する。次いでその細胞または細胞の培地からこれらの抗体またはその断片を精製することができる。
【0010】
また本発明は、本発明の抗体の有効量を哺乳動物に投与することを含む、その哺乳動物における腫瘍成長を処置する方法を提供する。本発明の抗体は、他のRTKと結合する抗体と同時投与することができる。これらの方法はまた、例えば化学療法薬および/または放射線を含めた抗悪性腫瘍薬または治療法を哺乳動物に施すことを含むことができる。幾つかの実施形態では腫瘍の成長が抑制される。好ましい実施形態では治療が腫瘍の退縮をもたらす。
【0011】
本発明はまた、哺乳動物に本発明の抗体の有効量を投与することを含む、その哺乳動物中の非癌性過剰増殖性疾患、例えば乾癬の治療方法を提供する。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、EGFRに対して特異的なモノクローナル抗体とその断片、およびこれら抗体をコードする単離または精製ポリヌクレオチド配列を提供する。本発明の抗体は、好ましくはヒトのものであり、充実性および非充実性腫瘍を含めた新生物性疾患の治療、および過剰増殖性障害の治療に用いることができる。
【0013】
天然に存在する抗体は一般に2つの同一の重鎖と2つの同一の軽鎖を有し、各軽鎖は分子内ジスルフィド結合により重鎖と共有結合で連結し、かつ複数ジスルフィド結合がさらにそれら2つの重鎖を互いに連結している。個々の鎖は、似た大きさ(アミノ酸110〜125個)と構造だが、異なる機能を有するドメインに折りたたむことができる。この軽鎖は、1個の可変ドメイン(VL)および/または1個の不変ドメイン(CL)を含むことができる。この重鎖はまた、1個の可変ドメイン(VH)、および/または抗体の綱またはアイソタイプに応じて3または4個の不変ドメイン(CH1、CH2、CH3、およびCH4)を含むことができる。ヒトではこれらアイソタイプはIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMであり、IgAおよびIgGはさらに亜綱または亜型(IgA1~2およびIgG1~4)に再分される。
【0014】
一般にこれら可変ドメインは抗体ごとに、特に抗原結合部位の場所でかなりのアミノ酸配列の変異性を示す。超可変領域または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの領域はVLおよびVHのそれぞれに見出され、フレームワーク可変領域と呼ばれるより少数の可変領域によって支えられている。
【0015】
VLおよびVHドメインからなる抗体の部分は、FV(断片可変部)を意味し、抗原結合部位を構成する。単鎖FV(scFV)は、1つのポリペプチド鎖上のVLドメインとVHドメインを含有する抗体断片であり、その一方のドメインのN末端と他方のドメインのC末端がフレキシブルリンカーによって結合されている(例えば、米国特許第4,946,778号(Ladner他)、国際公開第WO88/09344号(Huston他)を参照されたい)。国際公開第WO92/01047号(McCafferty他)は、バクテリオファージなどの可溶性組換え遺伝子ディスプレイパッケージの表面へのscFV断片の表示について記載している。
【0016】
これらの単鎖抗体を産生するために用いられるペプチドリンカーは、VLおよびVHドメインの適正な三次元的折りたたみが起こることを確実なものにするように選択されたフレキシブルペプチドであることができる。このリンカーは、一般に10個から50個のアミノ酸残基である。好ましくはこのリンカーは10個から30個のアミノ酸残基である。より好ましくはこのリンカーは12個から30個のアミノ酸残基である。最も好ましくはこのリンカーは15個から25個のアミノ酸残基である。このようなリンカーペプチドの例には、(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)3(配列番号19)が挙げられる。
【0017】
単鎖抗体は、それらが得られる抗体全体のうちの不変ドメインの一部または全部を欠いている。したがって単鎖抗体は、抗体全体の使用に伴う問題の一部を克服することができる。例えば単鎖抗体は、重鎖不変領域と他の生体分子の間の幾つかの望ましくない相互作用を免れる傾向がある。これに加えて単鎖抗体は抗体全体よりもかなり小さく、抗体全体よりも大きな浸透性を有することができる結果、単鎖抗体を局在化させ、標的抗原部位とより効率的に結合させることが可能になる。さらに単鎖抗体のこの比較的小さなサイズは、単鎖抗体が抗体全体よりもレシピエントにおいて不必要な免疫応答を多分より引き起こさなくするであろう。
【0018】
それぞれの単鎖が第一のペプチドリンカーによって共有結合で連結した1個のVHと1個のVLのドメインを有する多数の単鎖抗体は、単一特異性または多重特異性であることができる多価単鎖抗体を形成するように少なくとも1個または複数のペプチドリンカーにより共有結合で連結することができる。多価単鎖抗体の各鎖は、可変軽鎖断片と可変重鎖断片を含み、ペプチドリンカーにより少なくとも1個の他の鎖と連結する。このペプチドリンカーは少なくとも15個のアミノ酸残基から構成される。アミノ酸残基の最大数は約100個である。
【0019】
2個の単鎖抗体を組み合わせて、二価二量体としても知られるダイアボディーを形成することができる。ダイアボディーは2個の鎖と2個の結合部位を有し、単一特異性または二重特異性であることができる。ダイアボディーの各鎖は、VLドメインと繋がったVHドメインを含む。これらのドメインは、同一鎖上のドメイン間の対合を妨げるのに十分な短かさのリンカーにより繋がれ、こうして異なる鎖上の相補的ドメイン間の対合にその2個の抗原結合部位を再現させる。
【0020】
3個の単鎖抗体を組み合わせて、三価三量体としても知られるトリアボディーを形成することができる。トリアボディーは、VLまたはVHドメインのカルボキシル末端と直接に結合した、すなわちどのようなリンカー配列も含まないVLまたはVHドメインのアミノ酸末端により構築される。このトリアボディーは、それらのポリペプチドが環状の頭−尾の様式で配置された3個のFV頭部を有する。トリアボディーの起こり得るコンホメーションは、その3個の結合部位が互いに角度120度で平面内に位置している二次元である。トリアボディーは単一特異性、二重特異性、または三重特異性であることができる。
【0021】
Fab(断片、抗原結合性)は、VL、CL、VH、およびCH1ドメインからなる抗体の断片を指す。パパイン消化に引き続いて簡単に生成されるものはFabと呼ばれ、重鎖ヒンジ領域を保持しない。パパイン消化に引き続いて重鎖ヒンジを保持する様々なFabが生成される。分子内ジスルフィド結合が完全な状態のこれら二価断片はF (ab′)2と呼ばれ、一方、一価Fab′はジスルフィド結合が保持されない場合に生じる。F (ab′)2断片は、一価Fab断片よりも抗原に対して高い結合活性を有する。
【0022】
Fc(断片、結晶化)は、対合した重鎖不変ドメインを含む抗体の一部または断片の呼称である。例えばIgG抗体では、そのFcはCH2およびCH3ドメインを含む。IgAまたはIgM抗体のFcは、さらにCH4ドメインを含む。このFcは、Fc受容体の結合、補体媒介細胞障害作用の活性化、および抗体依存性細胞障害(ADCC)と関連がある。多重IgG様タンパク質の複合体であるIgAやIgMなどの抗体の場合、複合体形成はFc不変ドメインを必要とする。
最終的にはそのヒンジ領域が抗体のFabおよびFc部分を分離し、その結果これらFab互いに対するまたFcに対するFabの易動性を与え、またそれら2個の重鎖の共有結合による連結のための多重ジスルフィド結合を囲い込む。
【0023】
したがって本発明抗体には、これらには限定されないが、天然に存在する抗体、F (ab′)2などの二価断片、Fabなどの一価断片、単鎖抗体、単鎖Fv(scFv)、単一ドメイン抗体、多価単鎖抗体、ダイアボディー、トリアボディー、および抗原と特異的に結合するものが挙げられる。
【0024】
本発明の抗体またはその断片は、EGFRに対して特異的である。抗体の特異性は、抗原の或る特定のエピトープに対するその抗体の選択的認識を指す。本発明の抗体またはその断片は、例えば単一特異性または二重特異性であることができる。二重特異性抗体(BsAb)は、2つの異なる抗原結合特異性または部位を有する抗体である。抗体が2つ以上の特異性を有する場合、それらの認識されるエピトープは単一の抗原または2種類以上の抗原と関連している可能性がある。したがって本発明は、EGFRに対する少なくとも1つの特異性を有する2種類の異なる抗原と結合する二重特異性抗体またはそれらの断片を提供する。
【0025】
EGFRに対する本発明の抗体またはそれらの断片の特異性は、親和力および/または結合力に基づいて決定することができる。抗体と抗原の解離の平衡定数(Kd)によって表される親和力は、抗原決定基と抗体結合部位の間の結合の強さの尺度となる。アビディティーは、抗体とその抗原の間の結合の強さの尺度である。アビディティーは、エピトープと抗体上のその抗原結合部位の間の親和力と、或る特定のエピトープの抗原結合部位の数を意味するその抗体の結合価との両方に関係がある。抗体は、一般に10-5〜10-11 L/molの平衡定数(Kd)で結合する。一般に10-4 L/mol未満の任意のKdは非特異的結合を示すと考えられる。Kdの値が小さいほど抗原決定基とその抗体結合部位の間の結合強度は大きい。
【0026】
本明細書中で用いる「抗体」および「抗体断片」には、EGF受容体に対する特異性を保持する修飾が含まれる。このような修飾には、これらに限定されないが、化学療法薬(例えばシスプラチン、タクソル、ドキソルビシン)または細胞毒(例えばタンパク質、または非タンパク質有機質化学療法薬)などのエフェクター分子との結合が挙げられる。これら抗体は、検出可能な受容体の部分と結合することにより修飾することができる。半減期などの非結合特性に影響する改変箇所(例えばペグ化)を有する抗体もまた含まれる。
【0027】
これらタンパク質および非タンパク質薬は、当業界で周知の方法により抗体に結合することができる。これら結合方法には、直接の連結、共有結合で結びついた複数リンカーを介した連結、および特異的に結合するペアメンバー(例えばアビジン−ビオチン)が挙げられる。このような方法には、例えばドキソルビシンの結合についてGreenfield等、Cancer Research 50, 6600〜6607 (1990)が述べているもの、ならびに白金化合物の結合についてArnon等、Adv. Exp. Med. Biol. 303, 79〜90 (1991)およびKiseleva等、Mol. Biol. (USSR) 25, 508〜514 (1991)が述べているものが挙げられる。
【0028】
本発明の抗体およびその断片の同等物にはまた、本明細書中で開示した完全長の抗EGFR抗体の可変または超可変領域のアミノ酸配列とほぼ同じアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。本明細書中ではこのほぼ同じアミノ酸配列は、PearsonおよびLipman(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 2444〜8 (1988))によるFASTA探索法によって求められる少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の相同性を有する配列と定義され、これらには少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%同一の配列が含まれる。
【0029】
このような抗体は、配列番号8および16を含む本発明の抗体と同じまたは似た結合、リガンド遮断、および受容体中和活性を有するはずであり、特にこの場合、保存的アミノ酸置換が存在する。保存的アミノ酸置換は、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質、あるいはそれらの断片の1個または複数個のアミノ酸を変えることによるアミノ酸組成の変化として定義される。この置換は、それら置換が、重要なペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の特徴(例えば電荷、等電点、親和力、アビディティー、コンホメーション、溶解度)または活性度を実質上変えないようなほぼ似た特性(例えば酸性、塩基性、芳香族、大きさ、正または負の帯電、極性、非極性)を有するアミノ酸のものである。一般的な保存的置換はアミノ酸の複数の群中から選択され、それら群には
(1)疎水性のメチオニン(M)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、
(2)親水性のシステイン(C)、セリン(S)、スレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、
(3)酸性のアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、
(4)塩基性のヒスチジン(H)、リシン(K)、アルギニン(R)、
(5)芳香族のフェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)、
(6)鎖の配向に影響を及ぼす残基のGly、Pro、
が挙げられるが、これらには限定されない。
【0030】
本発明の抗体には、さらにその結合特性が直接突然変異、親和性成熟の各種方法、ファージディスプレイ、またはチェーンシャフリングによって改変されているものが挙げられる。親和性および特異性はCDRを突然変異させ、望ましい特徴を有する抗原結合部位について選別することによって修飾または改変することができる(Yang等の論文J. Mol. Biol., 254: 392〜403 (1995) 参照)。CDRは種々様々な方法で突然変異される。一方法は、他の点では同一の抗原結合部位の集団において全20種類のアミノ酸が特定の場所で見出されるように個々の残基または残基の組合せをランダム化することである。あるいは、誤りを起こしがちなPCR法により或る範囲のCDR残基にわたって突然変異を誘発させる(例えばHawkins等の論文J. Mol. Biol., 226: 889〜896 (1992) 参照)。例えば、重鎖および軽鎖可変領域遺伝子を含有するファージディスプレイベクターをE. coliの突然変異誘発株中で増殖させることができる(例えばLow等の論文J. Mol. Biol., 250: 359〜368 (1996) 参照)。これらの突然変異誘発の方法は、当業者に知られている多くの方法の実例である。
【0031】
本発明のこれら抗体の各ドメインは、完全な免疫グロブリンドメイン(例えば、重鎖または軽鎖の可変または不変ドメイン)であってもよく、また天然に存在するドメインの機能同等物または突然変異体もしくは誘導体、あるいは例えば国際公開第WO93/11236号(Griffiths他)に記載のものなどの手法を用いてin vitroで構築した合成ドメインであってもよい。例えば、少なくとも1個のアミノ酸を欠いた抗体可変ドメインに相当するドメインを互いに連結させることができる。この抗体を特色づける重要な特徴は、抗原結合部位の存在である。可変重および軽鎖断片の用語は、特異性に及ぼす物質効果を有しない変異型を除外するものと解釈すべきではない。
【0032】
本発明の抗体またはその断片は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号12、および配列番号14からなる群から選択される1個、2個、3個、4個、5個、および/または6個の相補性決定領域(CDR)を有するヒト抗体である。好ましくは本発明の抗体(またはその断片)は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6のCDRを有する。あるいは、また好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号10、配列番号12、および配列番号14のCDRを有する。CDRのこれらアミノ酸配列を下記に表1で示す。
【0033】
【表1】
【0034】
別の実施形態では本発明の抗体は、配列番号8の重鎖可変領域および/または配列番号16の軽鎖可変領域を有することができる。IMC-11F8は、本発明の特に好ましい抗体である。この抗体は、ヒトVHおよびVLフレームワーク領域(FW)とCDRとを有する。このIMC-11F8のVH可変ドメイン(配列番号8)は3つのCDR(配列番号2、4、および6)と4つのFWを有し、またVLドメイン(配列番号16)は3つのCDR (配列番号10、12、および14)と4つのFWを有する。
【0035】
好ましくは本発明の抗体またはその断片はEGFRを中和する。EGFRの外部細胞外ドメインとのリガンド、例えばEGFまたはTGF-αのEGFRの結合は、受容体の二量体化、EGFRの自己リン酸化、受容体内部の細胞質チロシンキナーゼドメインの活性化、およびDNA合成(遺伝子活性化)と細胞周期の進行または分裂の調節に関与する複数の情報伝達とトランス活性化の経路の起動を刺激する。また好ましくは本発明の抗EGFR抗体(またはその断片)は、EGFRの細胞外領域に対して特異的である。本発明の抗体またはその断片は、さらに好ましくはEGFRのリガンドのその受容体との結合を妨げる。この実施形態では本発明の抗体またはその断片は、EGFRの天然のリガンド(EGFまたはTGF-α)と少なくとも同じ程度の強さでEGFRと結合する。
【0036】
EGFRの中和には、正常では情報伝達と関連しているこれら活性の1つまたは複数の阻害、減少、不活性化、および/または崩壊が含まれる。したがってEGFRの中和は、成長(増殖および分化)、脈管形成(血管補充、侵襲、および転移)、および細胞の運動性と転移(細胞接着および侵襲力)の阻害、減少、不活性化、および/または崩壊を含めた様々な効果を有する。
【0037】
EGFR中和の一つの尺度は、その受容体のチロシンキナーゼ活性の阻害である。チロシンキナーゼの阻害はよく知られている方法を用いて、例えば組換えキナーゼ受容体の自己リン酸化レベルおよび/または天然もしくは合成基質のリン酸化を測定することによって求めることができる。したがってリン酸化検定は、本発明の文脈における抗体の中和を定量するのに有用である。リン酸化は、例えばホスホチロシンに対して特異的な抗体を用いてELISA検定により、またはウェスタンブロット上で検出することができる。チロシンキナーゼ活性の幾つかの検定法は、Panek等の論文J. Pharmacol. Exp. Thera. 283: 1433〜44 (1997)およびBatley等の論文Life Sci. 62: 143〜50 (1998)に記載されている。
【0038】
さらにタンパク質発現の検出方法を利用してEGFR中和を定量することができ、そこでは測定されるタンパク質群もしくはタンパク質の活性または活性状態はEGFRのチロシンキナーゼ活性により調節される。これらの方法には、タンパク質発現検出用の免疫組織化学(IHC)、遺伝子増幅検出用の蛍光in situハイブリッド形成法(FISH)、競合放射リガンド結合検定、ノーザンおよびサザンブロットなどの固形マトリックスブロッティング法、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(TT-PCR)、およびELISAが挙げられる。Grandis等の論文Cancer, 78: 1284〜92 (1996)、Shimizu等の論文Japan J. Cancer Res., 85: 567〜71 (1994)、Sauter等の論文Am. J. Path., 148: 1047〜53 (1996)、Collinsの論文Glia, 15: 289〜96 (1995)、Radinsky等の論文Clin. Cancer Res., 1: 19〜31 (1995)、Petrides等の論文Cancer Res., 50: 3934〜39 (1990)、Hoffmann等の論文Anticancer Res., 17: 4419〜26 (1997)、Wikstrand等の論文Cancer Res., 55: 3140〜48 (1995)を参照されたい。
【0039】
in vivo検定法もまたEGFR中和を定量するために利用することができる。例えば受容体チロシンキナーゼの阻害は、阻害剤の存在および不在下で受容体リガンドで刺激した細胞株を用いたマイトジェン検定により観察することができる。例えばEGFで刺激したA431細胞(米国基準菌株保有機構(ATCC)、Rockville、MD)を用いてEGFRの阻害を検定することができる。別の方法は、例えばマウスに注入したヒト腫瘍細胞を用いてEGFR発現腫瘍細胞の成長の阻害を試験することを含む。例えば米国特許第6,365,157号(Rockwell他)を参照されたい。
【0040】
本発明は、EGFR中和のどのような特定のメカニズムによっても制限されない。本発明の抗EGFR抗体は、EGF細胞表面受容体と外側で結合し、リガンド(例えばEGFまたはTGF-α)の結合およびそれに続く受容体関連チロシンキナーゼが仲介する情報伝達を遮断し、また情報伝達カスケードにおいてEGFRおよび他の下流タンパク質のリン酸化を妨げることができる。またこの受容体−抗体複合体を取り込み分解し、結果として受容体細胞表面のダウンレギュレーションを引き起こすことができる。腫瘍細胞の侵襲および転移において機能するマトリックスメタロプロテイナーゼもまた本発明の抗体によってダウンレギュレートすることができる。さらに本発明の抗体は、成長因子の産生および脈管形成の阻害を示す可能性もある。
【0041】
抗体断片は、完全な抗体を切断することにより、またはその断片をコードするDNAを発現させることにより生成することができる。抗体の断片は、Lamoyi等の論文J. Immunol. Method, 56: 235〜243 (1983)で、またParhamの論文J. Immunol. 131: 2895〜2902 (1983)で述べられている方法によって調製することができる。このような断片は、Fab断片またはF (ab′)2断片の一方または両方を含有することができる。このような断片はまた単鎖断片可変領域の抗体、すなわちscFv、ダイアボディー、または他の抗体断片を含有することができる。このような機能的同等物を産生する方法は、国際特許出願第93/21319号、欧州特許出願第239400号、国際特許出願第89/09622号、欧州特許出願第338745号、および欧州特許出願第332424号に開示されている。
【0042】
本発明のベクターの形質転換および受容体拮抗物質の発現用の好ましい宿主細胞は、哺乳動物細胞、例えばCOS-7細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにリンパ腫、骨髄腫(例えばNSO)、またはハイブリドーマ細胞などのリンパ系起源の細胞株である。酵母などの他の真核宿主をその代わりに用いることもできる。
【0043】
酵母中で遺伝子構築体を発現させることが望ましい場合、酵母用の好適な選択遺伝子は、その酵母プラスミドYRp7中に存在するtrp 1遺伝子である(Stinchcomb等の論文Nature, 282: 39 (1979)およびKingsman等の論文Gene, 7: 141 (1979))。このtrp 1遺伝子は、トリプトファン中での成長能力を欠く酵母の突然変異株、例えばATCC No.44076またはPEP4-1用の選択マーカーを提供する(Jonesの論文Genetics, 85: 12 (1977))。次いでこの酵母宿主細胞ゲノム中のtrp 1の障害の存在は、トリプトファンの不在下での成長による形質転換を検出するための効果的な環境を提供する。同様にLeu 2欠失酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu 2遺伝子を持つ既知のプラスミドによって補完される。
【0044】
この形質転換宿主細胞は、炭素(グルコースまたはラクトースなどの炭水化物)、窒素(アミノ酸、ペプチド、タンパク質、またはそれらの分解生成物、例えばペプトン、アンモニウム塩など)、無機塩(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムの硫酸塩、リン酸塩、および/または炭酸塩)の同化可能な供給源を含有する液体培地中で当業界で知られている方法により培養される。この培地は、さらに微量元素、例えば鉄、亜鉛、マンガンなどの例えば成長促進物質を含有する。
【0045】
下記の実施例中で述べるように本発明による高親和性抗EGFR抗体は、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子から構築されるファージディスプレイライブラリーから単離することができる。例えば本発明の可変ドメインは、再配列可変領域遺伝子を含有する末梢血リンパ球から得ることができる。あるいは、CDRおよびFW領域などの可変ドメイン部分を様々なヒト配列から得ることもできる。3回選択後に回収されるクローンの90%以上がEGFRに特異的である。この選別されたFabのEGFRに対する結合親和力はnMの範囲であり、ハイブリドーマ技術を用いて産生される幾つかの二価の抗EGFRモノクローナル抗体のものと同じ程度の高さである。
【0046】
本発明の抗体および抗体断片は、例えば天然に存在する抗体、あるいはFabまたはscFvファージディスプレイライブラリーから得ることができる。VHおよびVLドメインを含む抗体から単一ドメイン抗体を作るにはCDRの外側の若干のアミノ酸の置換により結合、発現、または溶解度を高めることが望ましい場合があることが分かる。例えば普通ならVH−VL界面に隠されているはずのアミノ酸残基を修飾することが望ましい場合がある。
【0047】
さらに本発明の抗体および抗体断片は、ヒト免疫グロブリンγ重鎖およびκ軽鎖を産生するトランスジェニックマウス(例えばMedarex, San Jose, Calif.から入手できるKMマウス)を用いて標準的なハイブリドーマ技術(HarlowおよびLane編、Antibodies: A Laboratory manual, Cold Spring Harbor, 211〜213 (1998)、これは参照により本明細書中に組み込まれる)によって得ることができる。好ましい実施形態ではヒト抗体を産生するゲノムの実質的な部分をこのマウスのゲノム中に挿入し、内因性マウス抗体の産生をなくさせる。このようなマウスは、完全フロインドアジュバント中でKDR(VEGFR-2)により皮下に(s.c.)免疫することができる。
【0048】
本発明のEGFR結合抗体を識別するために使用するタンパク質は好ましくはEGFRであり、より好ましくはEGFRの細胞外ドメインである。このEGFR細胞外ドメインは、別の分子を含まなくても、またそれに結合してもよい。
【0049】
本発明はまた、さきに述べた抗体またはそれらの断片をコードする単離ポリペプチドを提供する。本発明には、1個、2個、3個、4個、5個、および/または6個すべてのCDRをコードする配列を有する核酸が含まれる。
【0050】
【表2】
【0051】
ヒト抗体をコードするDNAは、これらCDR以外の、その対応するヒト抗体領域から大体においてまたはそれに限って得られるヒト不変領域および可変領域をコードするDNAを組み換えることによって、またヒトから得られるCDR(その重鎖可変ドメインCDRの配列番号1、3、および5とその軽鎖可変ドメインCDRの配列番号9、11、および13)をコードするDNAを組み換えることによって調製することができる。
【0052】
抗体の断片をコードするDNAの好適な供給源には、ハイブリドーマおよび脾臓細胞などの完全長の抗体を発現させる任意の細胞が挙げられる。これらの断片は、上記のように抗体同等物としてそれら単独で用いることもでき、また組み換えて同等物にすることもできる。この項で述べたDNAの欠失および組換えは、抗体の同等物に関して上記で列挙した刊行物に記載のものなどの周知の方法、および/または下記に記載のものなどの他の標準的な組換えDNA技術により行うことができる。DNAの別の供給源は、当業界で知られているようにファージディスプレイライブラリーから産生される単鎖抗体である。
【0053】
さらに本発明は、発現配列、プロモーター、およびエンハンサー配列と作動的に連結したさきに述べたポリヌクレオチド配列を含有する発現ベクターを提供する。これらには限定されないが酵母および哺乳動物細胞培養系を含めた細菌および真核系などの原核系中での抗体ポリペプチドの効率的な合成のための様々な発現ベクターが開発されている。本発明のベクターは、染色体、非染色体、および合成DNA配列のセグメントを含むことができる。
【0054】
任意の適切な発現ベクターを用いることができる。例えば原核クローニングベクターには、colE1、pCR1、pBR322、pMB9、pUC、pKSM、およびRP4などのE. coli由来のプラスミドが挙げられる。原核ベクターにはまた、M13などのファージDNAおよび他の繊維状一本鎖DNAファージの誘導体が挙げられる。酵母で有用なベクターの例は、2μプラスミドである。哺乳動物細胞中での発現に適したベクターには、よく知られているSV40の誘導体、アデノウィルス、レトロウィルス由来のDNA配列、および上記のものなどの機能性哺乳動物ベクターと機能性プラスミドの組合せから得られるシャトルベクター、およびファージDNAが挙げられる。
【0055】
さらに原核発現ベクターが当業界で知られている(例えばP. J. SouthernおよびP. Bergの論文J. Mol. Appl. Genet., 1, 437〜341 (1982)、Subramani等の論文Mol. Cell. Biol., 1: 854〜864 (1981)、KaufmannおよびSharpの論文「モジュラージヒドロ葉酸リダクターゼ相補的DNA遺伝子をコトランスフェクトした配列の増幅および発現(Amplification and Expression of Sequences Cotransfected with a Modular Dihydrofolate Reductase Complementary DNA Gene)」、J. Mol. Biol. 159, 601〜621 (1982)、KaufmannおよびSharpの論文Mol. Cell. Biol. 159, 601〜664 (1982)、Scahill等の論文「チャイニーズハムスター卵巣細胞中でのヒト免疫インターフェロンDNA遺伝子の発現およびその産物の特徴描写(Expression and Characterization of the Product of a Human Immune Interferon DNA Gene in Chinese Hamster Ovary Cells)」、Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 80, 4654〜4659 (1983)、UrlaubおよびChasinの論文Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 77, 4216〜422, (1980))。
【0056】
本発明で有用な発現ベクターは、発現するためにそのDNA配列または断片と作動的に連結する少なくとも1つの発現制御配列を含有する。この制御配列は、そのクローン化DNA配列の発現を制御し調節するためにベクターに挿入される。有用な発現制御配列の例は、lac系、trp系、tac系、trc系、ファージλの主要オペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、酵母の解糖プロモーター(例えば3−ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター)、酵母の酸性ホスファターゼのプロモーター(例えばPho5)、酵母のα接合因子のプロモーター、ならびにポリオーマ、アデノウィルス、レトロウィルス、およびサルウィルス由来のプロモーター(例えば初期および後期プロモーターまたはSV40)、ならびに原核または真核細胞およびそれらのウィルスの遺伝子の発現を制御することが知られている他の配列、あるいはそれらの組合せである。
【0057】
本発明はまた、さきに述べた発現ベクターを含有する組換え宿主細胞を提供する。本発明の抗体は、ハイブリドーマ以外の細胞株中で発現することができる。本発明によるポリペプチドをコードする配列を含む核酸を、好適な哺乳動物宿主細胞の形質転換のために用いることができる。
【0058】
特に好ましい細胞株は、高レベルの発現、興味の対象のタンパク質の構成性発現、および宿主タンパク質由来の最小限の汚染に基準にして選択される。発現用の宿主として利用できる哺乳動物宿主細胞株は当業界でよく知られており、これらには限定されないがチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、および多くの他の細胞など、多くの不死化細胞株が挙げられる。好適なさらなる真核細胞には、酵母および他の真菌類が挙げられる。有用な原核宿主には、例えばE. coli SG-936、E. coli HB 101、E. coli W3110、E. coli X1776、E. coli X2282、E. coli DHI、E. coli MRClなどのE. coliや、Pseudomonasや、Bacillus subtilisなどのBacillusや、Streptomycesが挙げられる。
【0059】
これらの本発明の組換え宿主細胞は、その抗体またはその断片の発現を可能にする条件下でそれら細胞を培養し、その宿主細胞または宿主細胞を囲む培地からその抗体またはその断片を精製することにより、抗体またはその断片の産生に用いることができる。この発現した抗体またはその断片を組換え宿主細胞中での分泌に向けるのは、シグナルまたは分泌リーダーペプチドのコード化配列(Shokri等の論文Appl. Microbiol. Biotechnol. 60 (6): 654〜64 (2003)、Nielson等の論文Prot. Eng. 10: 1〜6 (1997)、およびvon Heinje等の論文Nucl. Acids Res. 14: 4683〜4690 (1986) 参照)を、興味の対象の抗体コード化遺伝子の5’末端に挿入することによって助長することができる。これらの分泌リーダーペプチド要素は、原核または真核配列のどちらかから得ることができる。したがって好適には分泌リーダーペプチドが用いられ、これはポリペプチドのN末端の端部と結合してそのポリペプチドの運動を宿主細胞サイトゾルの外側へ方向づけ、かつ分泌を培地中へ方向づけるアミノ酸である。
【0060】
本発明の抗体は追加のアミノ酸残基と融合することができる。このようなアミノ酸残基は多分、単離を容易にするためのペプチド標識であることができる。抗体を特定の器官または組織に誘導するための他のアミノ酸残基もまた考えられる。
【0061】
別の実施形態では本発明の抗体は、その抗体を発現させ、回収することができるようなトランスジェニック動物中でその抗体をコードする核酸を発現させることによって作られる。例えばこの抗体は、回収および精製を容易にする組織特異的なやり方で発現させることができる。このような一実施形態では本発明の抗体を、授乳中に分泌するように乳腺中で発現させる。トランスジェニック動物には、これらには限定されないがマウス、ヤギ、およびウサギが挙げられる。
【0062】
さきに述べた抗体の有効量を哺乳動物に投与することによってその哺乳動物中の腫瘍成長を治療する方法がまた、本発明によって提供される。本発明に従って治療するのに適した腫瘍は、好ましくはEGFRを発現させる。どのような特定の仕組みと結び付けるつもりはないが、本発明の方法により治療または予防することができる疾患および状態には、例えばその腫瘍成長または病原性脈管形成がEGFRのパラクリンおよび/またはオートクリンのループを通じて刺激されるものが挙げられる。すなわちEGFR発現性腫瘍は、それらの環境中に存在するEGFに特徴的に敏感に反応し、オートクリン刺激ループ中でEGFおよび/またはTGF-αによってさらに生成し、また刺激される可能性がある。本発明によるこのような腫瘍の治療には、腫瘍成長の部分的または完全な阻害が含まれる。特に幾つかの実施形態では阻害にはさらに腫瘍退縮が含まれる。
【0063】
EGFR発現は様々なヒト腫瘍中にin vitroおよびin vivoの両方で観察されており、そのEGFR発現のレベルは腫瘍の種類により広範囲に変わる。EGFRは、結腸直腸、頭部と頸部(扁平上皮細胞)、膵臓、肺、乳房、腎臓の細胞の癌腫、および神経膠芽腫などのかなりの割合のヒト腫瘍においてその細胞表面に異なるレベルで発現する。或る腫瘍の種類ではEGFR発現はきわめて普通である(例えば卵巣癌の35から70%、また結腸直腸癌の約25から77%)。高レベルのEGFR発現は、受容体リガンド(例えばEGFおよびTGF-α)の産生と相互に関係して起こる可能性がある。EGFR発現はまた、ある種の化学療法薬および放射線療法に対する耐性の増加と相互に関係していた。EGFR発現はまた、それが低い生き残り、不満足な予後、および/または転移の危険性の増加と関連しているので腫瘍の幾つかの種類では予後徴候因子として働く。さらにEGFR発現の増加は、多発性腫瘍の種類にも存在する。
【0064】
治療することができる腫瘍には、原発性腫瘍および転移性腫瘍、ならびに難治性腫瘍が含まれる。難治性腫瘍には、化学療法薬単独、抗体単独、放射線単独、またはこれらの併用による治療に対して好ましい反応を示すことができないかまたは耐性がある腫瘍が含まれる。難治性腫瘍はまた、このような薬剤による治療によって抑制されているように見えるが、治療の中止後5年まで、時には10年以上まで再発する腫瘍を包含する。
【0065】
本発明の抗体により治療することができる腫瘍には、脈管化していない、またはまだ実質上脈管化していない腫瘍、および脈管化した腫瘍が含まれる。したがって治療することが可能な充実性腫瘍の例には、乳房の癌腫、肺の癌腫、結腸直腸の癌腫、膵臓の癌腫、神経膠腫、およびリンパ腫が挙げられる。このような腫瘍の幾つかの例には、類表皮腫、頭部と頸部の腫瘍などの扁平上皮腫、結腸直腸の腫瘍、前立腺の腫瘍、乳房の腫瘍、小細胞および非小細胞肺腫瘍を含めた肺の腫瘍、膵臓の腫瘍、甲状腺の腫瘍、卵巣の腫瘍、および肝臓の腫瘍が挙げられる。他の例には、カポジ肉腫、CNS新生物、神経芽細胞腫、毛管芽細胞腫、髄膜腫と脳転移、黒色腫、胃腸および腎臓の癌腫と肉腫、横紋筋肉腫、神経膠芽腫、望ましくは多形神経膠芽腫、および平滑筋肉腫が挙げられる。
【0066】
本発明の別の態様においてはこれら抗EGFR抗体は、腫瘍性脈管新生を抑制する。脈管内皮のEGFR刺激は腫瘍の脈管化と関係している。一般には脈管内皮は、例えば他の供給源(例えば腫瘍細胞)由来のEGFおよび/またはTGF-αによりパラクリンの形で刺激される。
【0067】
したがってこのヒト抗EGFR抗体は、脈管化した腫瘍または新生物、あるいは脈管形成性疾患を有する患者の治療に効果的である。このような腫瘍および新生物には、例えば芽細胞腫、癌腫、または肉腫などの悪性腫瘍と新生物、および重大な脈管性腫瘍と新生物が挙げられる。本発明の方法により治療することができる癌には、例えば脳、尿生殖路、リンパ系、胃、腎臓、結腸、咽頭と肺、および骨の癌が含まれる。非限定的な例には、さらに類表皮腫、頭部と頸部の腫瘍などの扁平上皮腫、結腸直腸の腫瘍、前立腺の腫瘍、乳房の腫瘍、肺腺癌と小細胞および非小細胞肺腫瘍を含めた肺の腫瘍、膵臓の腫瘍、甲状腺の腫瘍、卵巣の腫瘍、および肝臓の腫瘍が挙げられる。この方法はまた、鱗状細胞の癌腫、基底細胞の癌腫、およびヒト悪性角化細胞などの悪性角化細胞の成長を抑制することによって治療することができる皮膚癌を含めた脈管化皮膚癌の治療に用いられる。治療することができる他の癌には、カポジ肉腫、CNS新生物(神経芽細胞腫、毛管芽細胞腫、髄膜腫、および脳転移)、黒色腫、胃腸および腎臓の癌腫と肉腫、横紋筋肉腫、多形神経膠芽腫を含めた神経膠芽腫、および平滑筋肉腫が挙げられる。
【0068】
本発明はまた、本発明の抗体の有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物における非癌過剰増殖性疾患の治療方法を提供する。本明細書中で開示する「過剰増殖性疾患」は、受容体のEGFRファミリーのメンバーを発現させる非癌細胞の過剰な成長により引き起こされる状態として定義される。過剰増殖性疾患により生ずる過剰細胞は、正常レベルでEGFRを発現させるか、またはEGFRを過剰発現させる恐れがある。
【0069】
本発明により治療することができる過剰増殖性疾患の種類は、EGFRのリガンドまたはそのようなリガンドの突然変異体によって刺激される任意の過剰増殖性疾患である。過剰増殖性疾患の例には、乾癬、光線性角化症と脂漏性角化症、疣贅、ケロイド瘢痕、および湿疹が挙げられる。また乳頭腫ウィルス感染症などのウィルス感染によって引き起こされる過剰増殖性疾患が挙げられる。例えば乾癬は、多くの異なる変種および重症の度合いがある。様々な種類の乾癬は、膿状の疱(膿疱性乾癬)、皮膚のひどい腐肉形成(紅皮性乾癬)、滴状の斑点(滴状乾癬)、および平滑炎症性病変(逆乾癬(inverse psoriasis))などの特徴を表す。あらゆる種類の乾癬の治療(例えば尋常性乾癬、膿疱性乾癬、紅皮性乾癬、関節性乾癬、類乾癬、掌蹠膿疱症)が本発明によって検討されている。
【0070】
本発明の方法では本発明の抗体の治療有効量が、それを必要とする哺乳動物に投与される。本明細書中で用いられる投与という用語は、求める結果を達成することができる任意の方法によって本発明の抗体を哺乳動物に送達することを意味する。これらは、例えば静脈内または筋肉内に投与することができる。本発明のヒト抗体はヒトに投与するのに特に有用だが、これらはまた他の哺乳動物に投与することもできる。本明細書中で用いられる哺乳動物という用語には、これらには限定されないがヒト、実験動物、家庭内愛玩動物、および飼育動物を含めることを意図している。「治療有効量」とは、哺乳動物に投与した場合、キナーゼ活性の阻害または腫瘍成長の阻害などの所望の治療効果を生じるのに有効な本発明の抗体の量を意味する。
【0071】
このような疾患の確認については、十分に当業者の能力および知識の範囲内にある。例えば臨床的に重大な新生物性または脈管形成性疾患に罹っているか、または臨床的に重大な症状を発現させる危険があるヒト個体は、本発明のEGFR抗体の投与に適している。当業界の熟達した臨床医は、或る個体がこのような治療の候補であるかどうかを、例えば臨床試験、身体検査、および医療/家族歴を使用することによって容易に決めることができる。
【0072】
本発明の抗EGFR抗体は、腫瘍または脈管形成が関係する病的状態を患っている患者に療法上の処置のためにその腫瘍または病的状態の進行を防止し、抑制し、または低減するのに有効な量で投与することができる。進行には、例えばその腫瘍または病的状態の成長、侵襲、転移、および/または再発が含まれる。これを達成するのに十分な量は、治療上有効な用量として定義される。この使用に有効な量は、その疾患の重症度およびその患者自体の免疫系の全般的状況に左右されるはずである。投与計画もまた、その疾患の状況および患者の状況により変わることになり、一般には単回の巨丸剤の投薬または連続した点滴から、1日当たり複数回の投与(例えば4〜6時間ごと)または治療する医師および患者の状態によって必要が示される複数回の投与までの範囲に及ぶことになる。しかし本発明はどのような特定の用量にも限定されないことに注目すべきである。
【0073】
EGFR拮抗薬、例えばモノクローナル抗体のカクテルは、腫瘍細胞の成長を阻害するための特に有効な治療法を提供する。このカクテルは非抗体EGFR拮抗薬を含むことができ、わずか2種類、3種類、または4種類の少数の、また6種類、 8種類、または10種類もの多数の受容体拮抗薬を有することができる。
【0074】
本発明の実施形態においてこれら抗EGFR抗体は、1種類または複数種類の抗悪性腫瘍薬と併用して投与することができる。併用療法の例については、例えば米国特許第6,217,866号(Schlessinger他)(抗悪性腫瘍薬と併用した抗EGFR抗体)、および国際公開第WO99/60023号(Waksal他)(放射線と併用した抗EGFR抗体)を参照されたい。化学療法薬、放射線、またはそれらの組合せなどの任意の適切な抗悪性腫瘍薬を用いることができる。この抗悪性腫瘍薬は、アルキル化剤または抗代謝剤であることができる。アルキル化剤の例には、これらには限定されないがシスプラチン、シクロホスファミド、メルファラン、およびダカルバジンが挙げられる。抗代謝剤の例には、これらには限定されないがドキソルビシン、ダウノルビシン、パクリタキセル、イリノテカン(CPT-11)、およびトポテカンが挙げられる。この抗悪性腫瘍薬が放射線の場合、その放射線の線源は、治療される患者にとって外部(外部ビーム放射療法−EBRT)または内部(近接照射療法−BT)のいずれであってもよい。投与される抗悪性腫瘍薬の用量は、例えばその薬剤の種類、治療される腫瘍の種類と重症度、およびその薬剤の投与経路を含めた多数の要因に左右される。しかし本発明はどのような特定の用量にも限定されないことが強調されるべきである。
【0075】
過剰増殖性疾患の治療の場合、上記の本発明の抗体の投与は任意の従来の治療薬の投与と併用することができる。例えばその過剰増殖性疾患が乾癬の場合、利用可能な様々な従来の全身薬または局所薬が存在する。乾癬用の全身薬には、メトトレキサート、ならびにアシトレシン、エトレチナート、およびイソトレチノインなどの経口レチノイドが挙げられる。乾癬の他の全身治療薬には、ヒドロキシ尿素、NSAIDS、スルファサラジン、および6−チオグアニンが挙げられる。抗生物質および殺菌剤を用いて、乾癬を発赤または悪化させる恐れのある感染を治療または予防することができる。乾癬用の局所薬には、アントラリン、カルシポトリエン、コールタール、コルチコステロイド類、レチノイド類、角質溶解薬、およびタザロテンが挙げられる。局所用ステロイドは、軽度ないし中等度の乾癬に対して処方される最も一般的な療法の一つである。局所用ステロイドは、皮膚表面に塗布されるが、乾癬病変部に注入されるものもある。
【0076】
さらに過剰増殖性疾患の治療法には、光線療法と併用した抗EGFR抗体の投与が挙げられる。光線療法には、この過剰増殖性疾患の症状を低減させる任意の波長の光の投与、および化学療法薬の光活性化(光化学療法)が挙げられる。過剰増殖性障害の治療のさらなる考察については国際公開第WO02/11677号(Teufel他)(上皮成長因子受容体拮抗物質による過剰増殖性疾患の治療)を参照されたい。
【0077】
本発明の抗EGFR抗体は、EGFR拮抗物質、および/またはRTKリガンドを遮断もしくはそれらRTKを中和する抗体などの他のRTKの拮抗物質と共に投与することができる。EGFRのリガンドには、例えばEGF、TGF-αアンフィリグリン(amphiregulin)、ヘパリン結合性EGF(HB-EGF)、およびベタセルリンが挙げられる。TGF-αは脈管形成を促進する点でより有力であることが示されているけれども、EGFおよびTGF-αはEGFR仲介性の刺激をもたらす主要な内因性リガンドであると考えられる。したがってEGFR拮抗薬には、そのようなリガンドと結合することによってEGFRとの結合およびEGFRの活性化を遮断する抗体が含まれる。
【0078】
このようなRTKの別の例はVEGFRである。本発明の実施形態において抗EGFR抗体は、VEGFR拮抗薬と組み合わせて用いられる。本発明の一実施形態では抗EGFR抗体は、VEGFR-2/KDR受容体と特異的に結合する受容体拮抗物質と組み合わせて用いられる(1992年2月20日出願の国際出願PCT/US92/01300号およびTerman等の論文Oncogene 6: 1677〜1683 (1991))。別の実施形態では抗EGFR抗体は、VEGFR-1/Flt-1受容体と特異的に結合する受容体拮抗物質と組み合わせて用いられる(Shibuya M. 等の論文Oncogene 5: 519〜524 (1990))。VEGFR-1またはVEGFR-2の細胞外ドメインと結合し、リガンド(VEGFRまたはP1GF)による結合を遮断する、および/またはVEGFR由来またはP1GF由来の活性化を中和する抗原結合性タンパク質が特に好ましい。例えば、Mab IMC-1121は、細胞表面で発現した可溶性のKDRと結合する。Mab IMC-1121は、ヒトFabファージディスプレイライブラリーから得られるVHおよびVLドメインを含む(国際公開第WO03/075840号参照)。別の実施例ではScFv 6.12は、細胞表面で発現した可溶性のFlt-1と結合する。ScFv 6.12は、マウスモノクローナル抗体Mab 6.12のVHおよびVLドメインを含む。Mab 6.12を産生するハイブリドーマ細胞株は、ATCC番号 PTA-3344として寄託されている。
【0079】
このようなRTKの別の例は、インスリン様成長因子受容体(IGFR)である。ある種の腫瘍細胞ではEGFR機能の阻害は、他の成長因子受容体シグナル経路のアップレギュレーションによって、また特にIGFR刺激によって補うことができる。さらにIGFRシグナルの阻害は、ある種の治療薬に対する腫瘍細胞の感受性の増大をもたらす。EGFRまたはIGFRのいずれかの刺激は、程度は様々であるけれどもAktおよびp44/42を含めた共通下流情報伝達分子のリン酸化を引き起こす。したがって本発明の実施形態ではIGFR拮抗物質(例えばIGFまたはIGFRと結合し、その受容体を中和する抗体)を本発明の抗体と同時投与し、それによって第二インプットがその共通下流シグナル経路に入るのを遮断する(例えばAktおよびp44/42の活性化を阻害する)。IGFRに対して特異的なヒト抗体の例は、IMC-A12である(国際公開第WO2005/016970号参照)。
【0080】
腫瘍形成に関与する成長因子受容体の他の例は、血小板由来増殖因子受容体(PDGF)、神経成長因子(NGF)、および繊維芽細胞増殖因子(FGF)に対する受容体である。
【0081】
これら抗EGFR抗体はまた、RTKの活性を阻害する、あるいは腫瘍成長または腫瘍伴性脈管形成に関与するそれらの関連下流シグナル要素を阻害する細胞内RTK拮抗物質と共に投与することもできる。これら細胞内RTK拮抗物質は、好ましくは小分子である。小分子の幾つかの例には、有機化合物、有機金属化合物、有機化合物および有機金属化合物の塩、および無機化合物である。小分子中の原子は共有結合およびイオン結合を介して互いに連結しており、前者は小分子チロシンキナーゼ阻害剤などの小型有機化合物では一般的であり、また後者は無機化合物に特有である。小分子中の原子の配列は鎖、例えば炭素−炭素鎖または炭素−ヘテロ原子鎖を表すこともあり、また炭素原子を含有する環、例えばベンゼンまたは多環系、あるいは炭素とヘテロ原子の組合せ、例えばピリミジンまたはキナゾリンなどのヘテロ環を表すこともある。小分子は任意の分子量を有することができるが、一般にはそれらには、それらの分子量が650 D以下であることを除いて普通なら生体分子と考えられる分子が含まれる。これら小分子には、ホルモン、神経伝達物質、ヌクレオチド、アミノ酸、糖類、脂質、およびこれらの誘導体などの自然界に見出される化合物と、在来の有機合成、生物が介在する合成、またはこれらの組合せのいずれかにより合成的に作られる化合物との両方が含まれる。例えば、Ganesanの論文Drug Discov. Today, 7(1): 47〜55 (Jan. 2002) およびLouの論文Drug Discov. Today, 6(24): 1288〜1294 (Dec. 2001) を参照されたい。
【0082】
より好ましくは本発明により細胞内RTK拮抗物質として使用される小分子は、キナーゼドメインを有するEGFRの細胞内結合領域との結合を得るために、またはEGFR活性化の情報伝達経路に関与するタンパク質との結合を得るためにATPと競合する細胞内EGFR拮抗物質である。このような情報伝達経路の例には、ras分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路、ホスファチジルイノシトール−3キナーゼ(PI3K)−Akt経路、ストレス活性化タンパク質キナーゼ(SAPK)経路、ならびに転写情報伝達性活性化因子(signal transducers and activators of transcription)(STAT)経路が挙げられる。このような経路に関与する(また本発明による小分子EGFR拮抗物質が結合することができる)タンパク質の非限定的な例には、GRB-2、SOS、Ras、Raf、MEK、MAPK、およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)が挙げられる。
【0083】
小分子EGFR拮抗薬の一例はIRESSA(商標)(ZD1939)であり、これはEGFRを阻害するようにATP擬似物質として働くキノザリン誘導体である。米国特許第5,616,582号(Zeneca Limited)、および国際公開第WO96/33980号(Zeneca Limited)の4頁を参照されたい。またRowinsky等の第37版 Annual Meeting of ASCO, San Francisco, CA, 12〜15 May 2001で発表したAbstract 5、およびAnido等の第37版 Annual Meeting of ASCO, San Francisco, CA, 12〜15 May 2001で発表したAbstract 1712も参照されたい。小分子EGFR拮抗薬の別の例はTARCEVA(商標)(OSI-774)であり、これは4−(置換フェニルアミノ)キノザリン誘導体[6,7−ビス(2−メトキシ−エトキシ)−キナゾリン−4−イル]−(3−エチニル−フェニル)アミン塩酸塩であるEGFR阻害剤である。国際公開第WO96/30347(Pfizer Inc.)の例えば2頁12行から4頁34行および19頁14〜17行を参照されたい。またMoyer等の論文Cancer Res., 57: 4838〜48 (1997)、およびPollack等の論文J. Pharmacol, 291: 739〜48 (1998)も参照されたい。TARCEVA(商標)は、EGFRおよびその下流PI3/Aktのリン酸化と、p27が仲介する細胞周期の停止を引き起こすMAP(分裂促進因子活性化タンパク質)キナーゼの情報伝達経路とを阻害することによって機能を果たすことができる。Hidalgo等の第37版 Annual Meeting of ASCO, San Francisco, CA, 12〜15 May 2001で発表したAbstract 281を参照されたい。
【0084】
他の小分子もまたEGFRを阻害することが報告されており、それらの多くはEGFRのチロシンキナーゼドメインに向けられると考えられる。このような小分子EGFR拮抗物質の幾つかの例は、国際公開第WO91/116051号、国際公開第WO96/30347号、国際公開第WO96/33980号、国際公開第WO97/27199号(Zeneca Limited)、国際公開第WO97/30034号(Zeneca Limited)、国際公開第WO97/42187号(Zeneca Limited)、国際公開第WO97/49688号(Pfizer Inc.)、国際公開第WO98/33798号(Warner Lambert Company)、国際公開第WO00/18761号(American Cyanamid Company)、および国際公開第WO00/31048号(Warner Lambert Company)に記載されている。特定の小分子EGFR拮抗薬の例には、Cl-1033(Pfizer)(これはチロシンキナーゼ、特にEGFRの阻害剤キノザリン(N−[4−(3−クロロ−4−フルオロ−フェニルアミノ)−7−(3−モルホリン−4−イル−プロポキシ)−キナザリン−6−イル]−アクリルアミド)であり、国際公開第WO00/31048号の8頁22〜6行に記載されている)、PKI166(Novartis)(これはEGFRの阻害剤ピロロピリミジンであり、国際公開第WO97/27199号の10〜12頁に記載されている)、GW2016(GlaxoSmithKline)(これはEGFRおよびHER2の阻害剤である)、EKB569(Wyeth)(これはin vitroおよびin vivoでEGFRおよびHER2を過剰発現させる腫瘍細胞の成長を阻害することが報告されている)、AG-1478(Tryphostin)(これはEGFRおよびerB-2の両者由来のシグナルを阻害するキナゾリン小分子である)、AG-1478(Sugan)(これはタンパク質キナーゼCK2もまた阻害する二基質阻害剤である)、PD153035(Parke-Davis)(これはEGFRキナーゼ活性および腫瘍成長を阻害し、培養で細胞中にアポプトシスを誘発させ、また細胞毒性の化学療法薬の細胞障害作用を高めることが報告されている)、SPM-924(Schwarz Pharma)(これは前立腺癌の治療を目的とするチロシンキナーゼ阻害剤である)、CP-546,989(OSI Pharmaceuticals)(これは報じられているところでは充実性腫瘍の治療のための脈管形成の阻害剤である)、ADL-681(これは癌の治療を目的とするEGFR キナーゼ阻害剤である)、PD158780(これはマウスにおいてA4431異種移植片の腫瘍成長速度を抑制することが報告されているピリドピリミジンである)、CP-358,774(これはマウスにおいてHN5異種移植片中の自己リン酸化を抑制することが報告されているキンゾリン(quinzoline)である)、ZD1839(これは陰門、NSCLC、前立腺、卵巣、および結腸直腸の癌を含むマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を有することが報告されているキンゾリン(quinzoline)である)、CGP59326A(これはマウスにおいてEGFR陽性異種移植片の成長を抑制することが報告されているピロロピリミジンである)、PD165557(Pfizer)、CGP54211とCGP53353(Novartis)(これら2つはジアニルノフタルイミドである)が挙げられる。天然由来のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤には、ゲニステイン、ハービマイシン、ケルセチンA、ケルセチン、およびアーブスタインが挙げられる。
【0085】
EGFRを阻害することが報告されている、したがって本発明の範囲内にあるさらなる小分子は、米国特許第5,679,683号に記載の化合物のような三環式化合物、米国特許第5,616,582号に記載の誘導体のようなキナゾリン誘導体、および米国特許第5,196,446号に記載の化合物のようなインドール化合物である。
【0086】
別の実施形態ではこのEGFR拮抗薬を、例えばサイトカイン(例えばIL-10およびIL-13)またはこれらには限定されないがケモカイン、腫瘍関連抗原、およびペプチド等の他の免疫刺激物質などの1種類または複数種類の適切なアジュバントと組み合わせて投与することができる。例えばLarrivee等の論文(上記)を参照されたい。しかし抗EGFR抗体のみの投与が、治療に効果的なやり方で腫瘍の進行を予防、阻害、または緩和するのに十分であることを認めるべきである。
【0087】
併用療法ではこの抗EGFR抗体は、別の薬剤およびその任意の組合せによる療法を開始する前、間または後、すなわちその抗悪性腫瘍薬療法を開始する前と間、前と後、間と後、または前、間、後に投与される。例えばこの抗EGFR抗体は、放射線療法を開始する前、1日から30日の間、好ましくは3日から20日の間、より好ましくは5日から12日の間投与することができる。本発明の好ましい実施形態では化学療法は、抗体療法と同時に、またはより好ましくは抗体療法に続けて施される。
【0088】
本発明では任意の適切な方法または経路を用いて本発明の抗EGFR抗体を投与することができ、また任意選択で抗悪性腫瘍薬および/または他の受容体の拮抗薬を同時投与することもできる。本発明により利用される抗悪性腫瘍薬養生法には、患者の新生物形成状態の治療に最も適していると考えられる任意の養生法が含まれる。様々な悪性腫瘍が、特定の抗腫瘍抗体および特定の抗悪性腫瘍薬の使用を必要とする場合があり、患者ごとに決められることになる。投与の経路には、例えば経口、静脈内、腹膜内、皮下、または筋内の投与が挙げられる。投与される拮抗薬の用量は、例えば拮抗薬の種類、治療される腫瘍の種類と重症度、およびその拮抗薬の投与経路を含めた非常に多くの要因に左右される。しかし本発明は投与のどのような特定の方法または経路にも限定されないことは強調されるべきである。
【0089】
本発明の抗EGFR抗体は複合体として投与することができることは注目される。これはその受容体と特異的に結合し、リガンド−毒素のインターナリゼーション後に毒素の致死有効搭載量を送達する。抗体−薬物/小分子の複合体は互いに直接に連結することもでき、またリンカー、ペプチド、または非ペプチドを介して連結することもできる。
【0090】
本発明の別の態様において本発明の抗EGFR抗体は、1種類または複数種類の抗悪性腫瘍薬または抗脈管形成薬と化学的または生合成的に連結することができる。
【0091】
本発明はさらに、標的部分またはリポーター部分が連結する抗EGFR抗体について検討する。例えば抗悪性腫瘍薬は、そのようなペアの第二メンバーと結合することによって、その抗EGFR抗体が連結する部位に向けて送られる。このような結合ペアの一般的な例は、アビジンおよびビオチンである。好ましい実施形態ではビオチンは、抗EGFR抗体と結合し、またそれによってアビジンまたはストレプトアビジンと結合する抗悪性腫瘍薬または他の部分に標的を与える。あるいはビオチンまたはこのような他の部分は本発明の抗EGFR抗体と連結し、例えば検出可能な信号を発生する薬品をアビジンまたはストレプトアビジンと結合させる診断システムにおいてリポーターとして用いられる。
【0092】
本発明の抗EGFR抗体は、予防または治療の目的で哺乳動物に使用する場合、薬学的に許容される担体をさらに含む組成物の形態で投与されることになることが分かる。薬学的に許容される好適な担体には、例えば水、生理食塩水、リン酸塩緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどのうちの1種類または複数種類、およびこれらの組合せが挙げられる。薬学的に許容される担体は、湿潤剤または乳化剤、あるいは結合タンパク質の貯蔵寿命または有効性を高める保存剤または緩衝液などの少量の補助的な物質をさらに含むことができる。その注射液の組成は、当業界で知られているように哺乳動物に投与した後に活性成分の迅速な、持続性の、または遅延性の放出を可能にするように処方することができる。
【0093】
本発明にはまた、治療有効量のヒト抗EGFR抗体を含む、腫瘍成長および/または腫瘍伴性脈管形成を阻害するためのキッドが含まれる。これらのキッドは、例えば腫瘍形成または脈管形成に関与する別の成長因子受容体(例えば上記のVEGFR-1/Flt-1、VEGFR-2、PDGFR、IGFR、NGFR、FGFRなど)の任意の適切な拮抗物質をさらに含有することができる。あるいは、またはこれに加えて本発明のキッドは、抗悪性腫瘍薬をさらに含むことができる。本発明の文脈における好適な抗悪性腫瘍薬の例は本明細書中に記述されている。本発明のキッドはアジュバントをさらに含むことができ、その例は本明細書中に記述されている。
【0094】
さらに、本発明の範囲内には当業界でよく知られている研究または診断の方法のためのin vivoおよびin vitroでの本発明の抗体の使用が含まれる。これらの診断方法には、本発明の抗体を含有するキッドが含まれる。
【0095】
したがって上記のように本発明の受容体拮抗薬を当業界でよく知られている研究、診断、予防、または治療の方法のためにin vivoおよびin vitroで用いることができる。本明細書中で開示した本発明の原理の変形形態が当業技術者によってなされうることはもちろん理解し予想しているつもりであり、またこのような修正形態は本発明の範囲内に包含されることを意図している。
【0096】
高いEGFR活性化は、時には本発明に従って治療される状態と関連がある。無秩序な受容体シグナルを引き起こす高レベルのリガンド、EGFR遺伝子増幅、受容体の転写の増加、または突然変異が、高いEGFR活性化を招く可能性がある。EGFRをコードする遺伝子の増幅もまた、そのEGFRと結合するリガンドの数の増加を招き、それが細胞増殖をさらに刺激する可能性がある。EGFRは、遺伝子増殖の不在下では、恐らくEGFR転写、mRNA翻訳、またはタンパク質の安定性を増大させる突然変異を介して過剰発現する可能性がある。EGFR突然変異体は、構成要素となる活性チロシンキナーゼを有する神経膠腫、非小細胞性の肺の癌腫、卵巣の癌腫、および前立腺の癌腫中で確認されており、これはそれらの癌中のEGFR過剰発現ではなく、高レベルEGFR活性の役割を示唆する。例えば、Pedersen等の論文Ann. Oncol., 12 (6): 745〜60 (2001)を参照されたい(III型EGFR突然変異(EGFRvIII、de2〜7 EGFR、またはAEGFRと様々な名前で呼ばれている)は、エキソン2〜7がコードする細胞外リガンド結合ドメインの部分が欠けている)。また、Wikstrand等の論文Cancer Res., 55: 3140〜3148 (1995)も参照されたい。
【実施例】
【0097】
下記の実施例は、本発明をさらに例示するが、本発明の範囲を少しでも限定するものと解釈されるべきではない。ベクターおよびプラスミドの構築、このようなベクターおよびプラスミド中への遺伝子をコードするポリペプチドの挿入、宿主細胞中へのプラスミドの導入、ならびに遺伝子および遺伝子産物の発現とその定量に使用されているものなど、従来の方法の詳細な説明は、Sambrook, J.等著のMolecular Cloning: A laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)を含めた非常に多くの刊行物から得ることができる。本明細書中で言及されるすべての参考文献はそれらの全体が組み込まれる。
【0098】
実施例1:ヒト抗EGFR抗体の単離
手短に言えば、これらのヒト抗体は、EGFR陽性腫瘍から単離した可溶性ヒトEGFRに対するバイオパンニングによって、Dyax, Cambridge, MAから得られるヒトのナイーブFabバクテリオファージライブラリーから単離された。ヒトの抗体産生細胞(末梢Bリンパ球)の重鎖および軽鎖可変領域を含有するこのナイーブFabバクテリオファージライブラリーは、V遺伝子特異的フォワードおよびリバーズプライマーを用いて一次PCR反応で増幅し、これらの個々のVHおよびVL遺伝子を別々のベクター中にクローン化することによって、未感作の免疫していないヒトと、胃の癌腫を有する患者由来の腫瘍のない脾臓細胞とから構築された(国際公開第WO00/70023号)。
【0099】
このFabライブラリー株を、対数増殖期まで成長させ、M13K07ヘルパーファージで救出し、2YTAK培地(アンピシリン100μg/mLおよびカナマイシン50μg/mLを含有する2YT)中で30℃で一晩増幅させた。このファージ調製物を4%PEG/0.5M NaCl中で沈殿させ、3%脱脂乳/PBS中に再懸濁して非特異的結合を遮断した。
【0100】
約1×1012 pfuの予め遮断したファージを106個のEGFR過剰発現A431細胞と共に単純DMEM培地1 mL中で4 ℃において1時間インキュベートした後、細胞をPBSで15回洗浄した。この結合したファージを、IMC-C225を0.5 mg/mL含有する1 mLのPBSを用いてRTで30分間インキュベートすることにより溶離した。この溶離ファージを対数増殖期中間部のTG1細胞10 mLと共に37℃において静止30分間および振とう30分間インキュベートした。この感染TG1細胞をペレットにし、数個の大型2YTAGペトリ皿に塗布し、30℃で一晩インキュベートした。ペトリ皿上で成長したすべてのコロニーを削って3から5 mLの2YTA培地中に入れ、グリセロールと混ぜ(最終濃度10%)、等分し、−70℃で保管した。次回の選択の場合、このファージ株100μLを2YTAG培地25 mLに加え、対数増殖期中間部まで成長させた。この培養物をM13K07ヘルパーファージで救出し、増殖し、沈殿させ、上記手順に引き続く選択のために用いた。
【0101】
各回の選択後に回収した個々のTG1クローンを無作為に抜き取り、96ウェルプレート中で37℃において成長させ、上記と同様にM13K07ヘルパーファージで救出した。このファージ調製物を1/6体積の18%乳/PBSでRTにおいて1時間遮断し、組換えEGFRの膜(1μg/mL×100μL)で覆ったMaxi-sorp96ウェルマイクロタイタプレート(Nunc)に加えた。RTで1時間インキュベートした後、これらのプレートをPBSTで3回洗浄し、マウス抗M13ファージ−HRP複合体(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)と共にインキュベートした。これらのプレートを5回洗浄し、TMBペルオキシダーゼ基質(KPL, Gaithersburg, MD)を加え、マイクロプレートリーダ(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて450 nmにおける吸光度を読み取った。
【0102】
同定したクローンを、さらにEGF結合の阻害について試験した。クローンのDNA指紋法を用いてユニーククローンを区別した。各消化パターンについて代表的なクローンを抜き取り、DNA塩基配列決定にかけた。
【0103】
実施例2−可溶性Fab断片の発現および精製
11F8 Fabをコードする遺伝子を含有するプラスミドを用いて非サプレッサーE. coli宿主HB2151を形質転換した。HB2151中でのFab断片の発現は、1 mMイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG, Sigma)を含有する2YTA培地中で30℃で細胞を培養することによって誘発した。細胞の周辺抽出液は、20%(w/v)スクロース、200 mM NaCl、1 mM EDTA、および1 mM PMSFを含有する25 mMトリス(pH 7.5)中にこの細胞ペレットを再懸濁し、続いて1時間静かに振とうしながら4℃でインキュベートすることによって調製した。遠心分離後、可溶性Fabタンパク質を、製造業者の実験計画案(Amersham Pharmacia Biotech)に従ってタンパク質Gカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより上澄みから精製した。
【0104】
実施例3−ヒト抗EGFR IgG1抗体の構築
ヒト抗EGFR Fabを遺伝子工学的に完全ヒトIgG1に作り変えた。選択されたFab候補C11F8は、ヒトEGFR(ErbB)との高い親和性結合およびそのリガンド遮断活性に関してヒトのナイーブFabファージディスプレイライブラリーから特定された。そのC11F8 Fab軽鎖の可変領域(配列番号15)および重鎖遺伝子(配列番号7)をコードするDNA配列はPCR増幅によって得られ、Lonza Biologics, Inc.から入手したグルタミンシンターゼ発現系を用いてヒトIgG1不変ドメインを含有する発現ベクター中にクローン化した。
【0105】
PCR増幅は、製造業者の仕様書および表3に列挙したプライマーによりExpand PCRキット(Boehringer Mannheim, Inc.)を使用して2段階で行った。
【0106】
【表3】
【0107】
手短に言えばこの重鎖および軽鎖のPCR産物は、表4の下記サイクル条件下で50μLのExpand Buffer System#3反応液中で、鋳型として25 ngのC11F8 FabプラスミドDNAと、重鎖(C11F8HFおよびC11F8HR)および軽鎖(C11F8LFおよびC11F8LR)用のフォワードおよびリバーズプライマーの対とを使用して増幅した。
【0108】
【表4】
【0109】
得られたPCR産物は、効率的な免疫グロブリンのプロセッシングおよび分泌を可能にするアミノ酸19個のマウス重鎖遺伝子シグナル配列(MGWSCIILFLVATATGVHS、配列番号25)をコードする免疫グロブリン遺伝子の5’末端に、57塩基対配列を付加する。哺乳動物細胞中の遺伝子の翻訳の効率的な開始のためにコンセンサス「Kozak」配列(J. Mol. Biol. 196:947)が、二次PCR反応中にその重鎖および軽鎖をC11F8HRまたはC11F8LRとそれぞれ組み合わせたフォワードプライマーOSIFを用いて増幅することによって加えられた。このPCR産物はまた、適切な発現ベクター中にその増幅した産物をクローン化するための5’Hind III制限エンドヌクレアーゼを提供する。
【0110】
アガロースゲル精製Hind III−Nhe I重鎖断片を、CMVプロモーターで駆動されるベクターpDFc中にクローン化して可変および不変領域DNA配列の隣接cDNAコード領域を生成した(図1A)。Hind III-Xba I軽鎖断片を、第二のCMVプロモーターで駆動されるベクターp12.1L中にクローン化した(図1B)。得られた構築物は、可変軽領域とκ不変領域を分離する単一イントロンを含有し、これは新生RNA転写物から事実上スプライスされる。この組換えプラスミドをコンピテントE. Coliに形質転換し、選択されたプラスミド分離株をCOS細胞中の重鎖および軽鎖の一過性同時発現に関してスクリーニングした。
【0111】
実施例4−ヒト抗EGFR IgG1抗体の発現
安定なトランスフェクションのために単一プラスミドベクターを、軽鎖含有p12.1Lベクター中にCMVプロモーター含有重鎖発現カセットのNot I−Sal I断片をクローン化することによって生成させた。得られたプラスミドベクターpGS−11F8の制限地図を作成した(図1C参照)。その制限消化分析結果を図2に示した。
【0112】
11F8モノクローナル抗体の産生用に使用した組換え細胞株は、非分泌性マウス骨髄腫細胞株NS0から得られる(Barnes等の論文Cytotechnology 32:109 (2000)中で言及されている)。このNS0細胞株はLonza Biologics, Inc.(Slough, Berkshire, UK)から得た。
【0113】
プラスミドpGS−11F8を、キャパシタンス400μFdおよび観測による時定数9.0 msecを有し、電圧250Vに設定したBioRad Gene Pulser IIを用いて電気穿孔法によりこの骨髄腫細胞株NS0にトランスフェクトした。この電気穿孔した細胞を、10%透析ウシ胎児血清、dFCS(HyClone, Logan, UT)、および2 mMグルタミン(InVitrogen/Life Technologies, Paisley, PA)を含有するDMEM(JRH Biosciences, Inc., Lenexa, KS)中に再懸濁した。この再懸濁した細胞50μLを1ウェル当たり5,000〜10,000細胞の密度で96ウェルのプレートに播種した。トランスフェクションから24時間後にこれらグルタミンシンセターゼ(GS)陽性トランスフェクタントを、1×GSを補った10%dFCSを含有する、グルタミンを含まないDMEM培地(JRH Biosciences, Inc.)の添加により選択した。抗体発現クローンについてスクリーニングするのに先立ってコロニーの成長および拡大を可能にするために、細胞を37℃、5%のCO2で2〜4週間培養した。
【0114】
抗EGFR抗体を発現させるクローンを、ワサビダイコンペルオキシダーゼ抗ヒト Fc(γ)によるELISAを用いてスクリーニングし、A450nmで検出を行った。陽性クローンを展開させ、3〜5日の培養期間のあいだ再試験を行った。強い陽性体(25μL/mg以上の抗体産生)をさらなる分析のために展開させた。249μg/mLの抗体バッチ生産の結果に基づいてClone #34を限界希釈サブクローニング用に選択し、再判定した。親細胞株に匹敵またはそれよりすぐれたClone 34-5を、均一な生産レベルに基づいて選択した(バッチ生産=310μg/mL、供給バッチ=0.75〜0.8 g/L)。Clone #34-5-3を2回目のサブクローニング後に単離し、分析結果はClone #34-5-3が高レベルの抗体を産生することを示した(バッチ生産=324μg/mL、供給バッチ=1.0〜1.2 g/L)。このクローンのさらなる特徴の記述を下記の各実施例において行った。
【0115】
実施例5−EGFRとの抗体のin vitro結合
これら抗体をIMC−11F8とIMC−C225の結合特性を比較する固相ELISAでスクリーニングした。96ウェルマイクロタイタプレートを、4℃の炭酸緩衝液に溶かした1μg/mLの膜で一晩覆った。それらプレートを、10%の新生ウシ血清を補ったリン酸緩衝塩類溶液(PBS)により37℃で1時間遮断した。様々な量のIMC−11F8またはIMC−C225をそれらプレートに加え、室温でさらに60分間インキュベートし、次いでPBSで洗浄した。マウス抗ヒトFc抗体−ワサビダイコンペルオキシダーゼ(HRP)複合体を加え、室温でさらに60分間インキュベートし、次いでPBSで徹底的に洗浄した。次いでこのプレートをHRP基質と共に30秒〜2分間インキュベートし、反応を0.1M H2SO4で停止させた。これらプレートをELISAリーダを用いてOD450nmで読み取った。
【0116】
図3は、IMC−11F8およびIMC−C225抗体のEGFRとの結合を示す。IMC−11F8とIMC−C225の両方ともEGFRに対して似た結合を示している。
【0117】
実施例6−これら抗EGFR抗体の結合速度動態
IMC−11F8とIMC−C225 IgG抗体、およびそれらそれぞれのFab断片の結合速度動態を、BIAコアセンサー(Pharmacia Biosensor)を用いて測定した。EGFR−AP融合タンパク質をセンサーチップ上に固定化し、可溶性のIMC−11F8およびIMC−C225抗体を1.5 nMから100 nMの範囲にわたる濃度で注入した。センサーグラムが各濃度で得られ、これを速度定数konおよびkoffを求めるためのプログラムであるBIA Evaluation 2.0により分析した。親和性定数Kdを速度定数の比koff/konから計算した。
【0118】
本発明の抗EGFR抗体の結合速度動態を表5に例示する。これらは、これら両抗EGFR抗体がEGFRに対して似た結合速度動態を有することを示している。
【0119】
【表5】
【0120】
実施例7−EGFRに対するこれら抗体の特異性
EGFRとの抗体の結合を125I-EGF競合検定により評価した。24ウェルCOSTAR(Fisher Scientific, U.S.A.)で1ウェル当たりHT29細胞2×104個を、1.5 mM L‐グルタミン、10%CS、および抗生物質を補った37℃のMcCoyの5a培地中に播種した。次いでこの細胞の単層を、様々な量の125Iで標識したEGFと混合した様々な濃度の標識していないEGF、11F8、またはIMC−C225と共に室温で1時間インキュベートした。これら細胞を冷PBS で洗浄し、細胞に随伴する放射能をガンマカウンタで測定した。
【0121】
図4は、HT29細胞上でのEGFRの125I−EGFとの結合の阻害を示す。10から100 nMの間の濃度でIMC−11F8は、HT29細胞上での125I−EGFのEGFRとの結合の阻害においてIMC−C225と同じ程度の効率である。これら両抗体は、結合に関しての競合においてEGFRの天然のリガンドであるEGFよりもすぐれている。同様の結果が、A431細胞上での125I−EGFのEGFRとの結合の阻害についても観察された。
【0122】
実施例8−EGFR活性化
手短に言えばキナーゼ受容体活性化検定(KIRA検定)、すなわちリン酸化検定を、BxPC3またはA431細胞を用いて行った。細胞を、まず重炭酸ナトリウム1.5 g/Lおよびグルコース4.5 g/L を含有するように調整した4 mM L‐グルタミンおよび10%CSを補ったDME中で37℃で集密度90%まで成長させた。実験に先立って細胞を、0.5%CSを補ったDME中で24時間絶食させた。EGFが誘発するEGFRの活性化に及ぼす抗体、IMC−11F8、IMC−C225、およびIMC−1C11の効果を評価するために、様々な濃度の抗体を30分間、室温で事前に結合させ、続いて8 ng/mLのEGFでさらに15分間刺激した。刺激後、これら細胞の単層を1 mMオルトバナジン酸ナトリウムを含有する冷PBSで洗浄した。細胞を溶菌緩衝液(20 mMトリスHCl(pH 7.4)、1%トリトンX-100、137 mM NaCl、10%グリセロール、10 mM EDTA、2 mMオルトバナジン酸ナトリウム、100 mM NaF、100 mMピロリン酸ナトリウム、5 mM PEFABLOC(登録商標)SC(Boehringer Mannheim Biochemicals, Indianapolis, IN)、アプロチニン100μg、およびロイペプチン100μg/mL)中で溶解し、14,000 x gで10分間遠心分離した。透明になった細胞ライゼートを、ポリクローナル抗EGFR抗体の膜で覆った96ウェルプレートの各プレートに加えた。プレートを洗浄して非特異的に結合したタンパク質を除去し、EGFRリン酸化のレベルを抗ホスホチロシン抗体の添加によって判定した。徹底的に洗浄した状態で、結合した抗ホスホチロシン抗体の量をELISAリーダを用いてOD450nmで測定した。
【0123】
これらの結果は、試験したBxPC3(図5)およびA431(図6)細胞の両方において対照抗体IMC−1C11と比べて、IMC−11F8によるEGFRのリン酸化が顕著に減少することを示している。
【0124】
EGF刺激EGFRリン酸化の阻害を、さらに免疫沈降EGFRのウェスタンブロット分析により評価した。A431細胞を抗体と事前に結合させ、続いて上記のようにEGFで刺激した。EGFRと結合するがEGFRリン酸化を阻害しない対照抗体を使用した。タンパク質(EGFR)を、ポリクローナル抗EGFR抗体、続いてタンパク質Aセファロースビーズを用いて透明なライゼートから免疫沈降させた。次いでこの結合したビーズを0.2%トリトンX-100、10 mMトリスHCl(pH 8.0)、150 mM NaCl、2 mM EDTA(緩衝液A)で1回、500 mM NaClを含有する緩衝液Aで2回、およびトリスHCl(pH 8.0)で2回洗浄した。排出ビーズを2×SDS負荷緩衝液30μLと混合し、沸騰させ、上澄みをSDS-PAGEにかけた。電気泳動によるタンパク質の分離後、そのタンパク質のバンドを、ウェスタンブロット分析用のニトロセルロースフィルター上に移した。このフィルターを、50 mMトリスHCl(pH7.4)、5%ウシ血清アルブミンを含有する150 mM NaCl(TBS)、および10%脱脂粉乳の遮断緩衝液中で一晩遮断した。リン酸化した受容体を検出するためにこれらブロットを遮断緩衝液中で抗ホスホチロシン抗体により室温において1時間プローブした。次いでこれらブロットを、0.1%トゥイーン−20を含有する0.5×TBS(TBS-T)で徹底的に洗浄し、HRPと結合させたヤギ抗マウスIg(Amersham, Little Chalfont, U.K.)と共にインキュベートした。ブロットをTBSで洗浄し、ケミルミネッセンス試薬(ECL, Amersham, Little Chalfont, U.K.)とともに1分間インキュベートした。リン酸化タンパク質と反応する抗ホスホチロシンを、高性能ルミネッセンス検出フィルム(Hyperfilm-ECL, Amersham, Little Chalfont, U.K.)に0.5から10分間露光させることによって検出した。
【0125】
図7Aのウェスタンブロット分析結果は、IMC−C225と同様にIMC−11F8がEGFRのリン酸化を阻害することを示す。EGF抗体も対照抗体で処理した細胞もどちらも完全にはEGFRのリン酸化を阻害しないことを示している。図7Bは、EGFRの合成が細胞に抗体を加えることにより阻害されないことを示している。図8は、EGFRのリン酸化がIMC−11F8によって阻害されることを示している。70%を超える阻害が、試験した最も低い抗体濃度(0.8 nM)において異なる起源の3種類の腫瘍細胞株(A431、BxPC3、HT-29)について観察された。
【0126】
EGFRの主要な下流シグナル分子であるMAPキナーゼp44/p42の一方に及ぼすIMC−11F8の効果もまた調査した。IMC−11F8は、A431、BxPC3、およびHT-29細胞中でのEGF刺激に続くp44/p42 MAPキナーゼのリン酸化を用量に依存する仕方で遮断した(図4)。
【0127】
実施例9−細胞増殖の阻害
MTT細胞増殖検定は、代謝活性細胞による黄色テトラゾリウムMTT(臭化3−(4, 5−ジメチルチアゾリル−2)−2, 5−フェニルテトラゾリウム)の細胞内紫色ホルマザン生成物への還元の結果として色を計量的に測定する。この生成物は、可溶化し、分光光度的手段により定量することができる。手短に言えば、DiFi細胞をDMEM−10%CS中で一晩培養した。抗体、IMC−11F8、IMC−C225、またはIMC−1C11を3部分からなるウェルに加え、5%CO2で37℃においてさらに72時間インキュベートした。細胞成長を測定するために各ウェルにテトラゾリウム染料のアリコート20μLを加え、細胞を37℃で3時間インキュベートした。顕微鏡で紫色の沈殿がはっきり認識できたとき、細胞を界面活性剤試薬100μLの添加により溶解した。増殖の定量値としてこのホルマザン生成物の吸光度をOD570nmにおいて測定した。
【0128】
図9に示すように対照抗体IMC−1C11とは違って、IMC−11F8はIMC−C225と同じ程度の効力の細胞増殖阻害剤である。
【0129】
実施例10−抗体依存性細胞障害(ADCC)活性
細胞死を判定する一方法は、抗体依存性細胞障害検定すなわちADCCによるものであり、一般には放射性同位元素を使用する。51Crで標識した標的細胞を抗体と混合し、死滅の度合いを51Crの放出により判定する。手短に言えばDiFi細胞約3×106個を培養液0.5μL中に懸濁し、0.5 mCiのNa51CrO4を加えた。この混合物を時折振とうしながら37℃で1時間インキュベートした。次いでこの細胞を冷培養液で3回洗浄した。次いでこの標識した細胞を様々な濃度の抗EGFR抗体(IMC−11F8またはIMC−C225)を含有する培養液100μL中に懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。次いでこの細胞を遠心分離によって培養液で3回洗浄した。ウサギの補体を加え、その処理細胞を37℃で1時間さらにインキュベートした。次いで冷培地50μLを加え遠心分離した。次いで上澄みを取り出し、その上澄み中に細胞によって放出された放射能をガンマカウンタによって測定した。放射能の最大放出はその標的細胞に1%トリトンXを加えることによって得られた。細胞障害パーセントは、実験に基づく放出cpmからバックグラウンドcpmを引いたものに100%を掛け、次にそれを最大放出cpmからバックグラウンドcpmを引いたもので割る方法で計算した。
【0130】
図10は、IMC−11F8およびIMC−C225(すなわちERBITUX(登録商標))が抗体依存性細胞障害の活性化(すなわちADCC活性)を介して細胞死の仲介をすることを示す。
【0131】
実施例11−マウスにおける腫瘍細胞成長のin vivoでの阻害
IMC−11F8が異種移植モデルにおいて腫瘍細胞の成長を遮断するかどうかを判定するためにin vivoでの抗腫瘍調査を計画した。無胸腺マウス(nu/nu、Charles River Lab, Wilmington, MA)の脾腹に1〜2百万個のA431またはBxPC-3細胞を皮下注射した。抗EGFR抗体(IMC−11F8およびIMC−C225)または対照抗体を1用量当たり1 mgまたは0.3 mgのいずれかで週3回腹膜内に投与した。腫瘍の大きさを少なくとも週3回カリパスで測定し、腫瘍体積を計算した(例えばBaselga等の論文J. Natl. Cancer Inst. (1993) 85:1327〜1333参照)。
【0132】
図11は、A431異種移植モデルにおけるIMC−11F8の抗腫瘍活性を示す。1 mgの用量(図11、右側パネル)ではIMC−11F8は、腫瘍成長を抑制または阻害において対照動物と比較してIMC−C225(CETUXIMAB)と同じ程度の効果である。0.3 mgのより低い用量で腫瘍成長の進行が遅れる。同様に図12は、第二腫瘍モデル(BxPC3異種移植)におけるIMC−11F8およびIMC−C225の効果を示す。BxPC3腫瘍成長の速度動態は、A431腫瘍モデルで観察されたものに似ている。注射1用量当たり1マウス当たり1.0 mgのレベルではIMC−11F8は、A431を持った8匹の動物のうち6匹の腫瘍退縮をもたらし、またBxPC-3を持った8匹のマウスのうち5匹の腫瘍退縮をもたらした。
【0133】
A431とBxPC-3の両方の異種移植切片の免疫組織化学染色の結果は、IMC−11F8処理が腫瘍細胞密度を顕著に減少させ、腫瘍内の壊死性無細胞デブリの面積を増加させたことを示した(図13)。さらにIMC−11F8は腫瘍切片全体にわたってKi-67陽性細胞の割合を減少させ、これは腫瘍内の細胞増殖の減少を示している(図13)。
【0134】
実施例12−IMC−11F8併用療法
約200〜300 mm3のヒト結腸直腸腫瘍異種移植片GEO、DLD-1、またはHT-29を持ったヌードマウスを、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgのIMC−11F8を単独、またはイリノテカン(CPT−11)の週1回、100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理した。腫瘍の大きさを週2回測定した。
【0135】
マウス当たり1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mg のどちらかによる処理は、3種類すべての結腸直腸異種移植片の成長を有意に阻害した(GEO、DLD-1、またはHT-29、図14A〜C)。GEO異種移植片を持ったマウスにCPT−11と併用して投与した場合、IMC−11F8は、CPT−11単独の場合に観察される腫瘍成長の阻害を有意に増進させた(図14A、IMC−11F8の両用量に対してp<0.01)。さらにCPT−11単独ではこのモデルで腫瘍退縮を少しも引き起こさなかったが、CPT−11をマウス当たり1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgのIMC−11F8と併用した場合、それぞれ10個のうち4個および10個のうち9個の腫瘍退縮が達成された(それぞれp=0.004およびp<0.0001)。同様の併用抗腫瘍効果は、2種類の他の異種移植片DLD-1(図14B)およびHT-29(図14C)においても、高い方の抗体用量(1.0 mg)の群の腫瘍退縮が同等の統計的有意性で観察された。図14Dは、これら3種類の結腸直腸癌異種移植片モデルにおいてCPT−11をIMC−11F8と併用した場合に観察された腫瘍退縮数の著しい増加を示す。
【0136】
実施例13−IMC−11F8の薬物動態
IMC−11F8の薬物動態をカニクイザルで検討し、IMC−C225の薬物動態と比較した。20.5 mg/kgの125I標識IMC−11F8およびIMC−C225の単回投与による薬物動態の検討の場合、サルに別個に静脈内注射し、血液を日中に引き抜いてその動物の血漿中に保持されている抗体量を求めた。表6は、カニクイザルにおけるIMC−11F8およびIMC−C225の薬物動態比較を提供する。
【0137】
【表6】
【0138】
本明細書で開示した発明の原理の変形形態を当業者が行うことがあり得ることは理解されまた予想され、そのような修正形態は本発明の範囲内に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1Aおよび1Bは免疫グロブリン遺伝子pDFCおよびpEE12.1Lの発現用クローニングベクターを示す図であり、また図1Cはその得られる単一完全ヒト抗EGFR抗体含有ベクタープラスミドpGS-11F8を示す図である。
【図2】図2は、pGS-11F8の制限消化プロフィールを示す図であり、DNAサイズマーカーをキロベースペアとしてDNAラダー中に示す。
【図3】図3は、ELISAで測定したIMC-C11F8およびIMC-C225のEGFRとのin vitroでの結合を示す図である。
【図4】図4は、EGFRの結合に関して125I標識EGFを含むIMC-11F8およびIMC-C225のin vitroでの競合結果を示す図である。
【図5】図5は、BxPC3細胞中でのEGFRのリン酸化に及ぼすIMC-11F8およびIMC-C225の効果を示す図であり、使用した対照抗体はIMC-1C11である。
【図6】図6は、A431細胞中でのIMC-11F8およびIMC-C225によるEGFRのリン酸化の阻害を示す図である。
【図7】図7は、非刺激対照細胞(レーン1)、EGF(レーン2)、IMC-C225(レーン3)、IMC-11F8(レーン4)、および対照抗体(レーン5)の存在下でのEGFRリン酸化のウェスタンブロット分析結果を示す図であり、図5Aは抗ホスホチロシン抗体を用いたリン酸化EGFRを示し、また図5Bは刺激細胞中の全EGFRを示す。
【図8】図8は、様々な濃度のIMC-11F8によるEGF刺激EGFRのリン酸化の阻害を示す図であり、図8Aは、非刺激対照細胞(レーン1)、IMC-11F8F抗体で処理していない刺激細胞(レーン2)、15μg/mLのIMC-11F8で処理した刺激細胞(レーン3)、3μg/mLのIMC-11F8で処理した刺激細胞(レーン4)、および0.6μg/mLのIMC-11F8で処理した刺激細胞(レーン3)中でのEGFRの抗ホスホチロシン抗体ウェスタンブロット分析結果を示す。図8Bは、総EGFRを示す。
【図9】図9は、MTT検定で判定されるIMC-11F8、IMC-C225、および対照抗体IMC-1C11によるDiFi細胞増殖の阻害を示す図である。
【図10】図10は、IMC-11F8またはIMC-C225(ERBITUX(登録商標))で処理した51Cr標識DiFi細胞の特異的溶菌を示す図である。
【図11】図11は、IMC-11F8またはIMC-C225(セツキシマブ)のどちらかで処理したマウス中のA431腫瘍細胞の成長を示す図であり、処理していない動物は腫瘍成長に対する対照の役割を果たしている。
【図12】図12は、IMC-11F8またはIMC-C225(セツキシマブ)のどちらかで処理したマウス中のBxPC3腫瘍細胞の成長を示す図であり、処理していない動物は腫瘍成長に対する対照の役割を果たしている。
【図13】図13は、生理的食塩水またはIMC-11F8で処理したヌードマウス由来の異種移植ヒト腫瘍の免疫組織化学的染色を示す図であり、パネルAおよびBは生理的食塩水(A)またはIMC-11F8(B)で処理したヌードマウス由来のA431異種移植片であり、パネルCおよびDは生理的食塩水(C)またはIMC-11F8(D)で処理したヌードマウス由来のBxPC3異種移植片であり、またパネルEおよびFは生理的食塩水(E)またはIMC-11F8(F)で処理したヌードマウス由来のA431異種移植片のKi-67染色である。
【図14A】図14Aは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【図14B】図14Bは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【図14C】図14Cは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【図14D】図14Dは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)特異的なモノクローナル抗体に関する。これらの抗体は新生物性疾患、とりわけ過剰増殖障害の治療に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
正常な細胞は成長因子受容体チロシンキナーゼ(RTK)のそれぞれのリガンドによるそれらRTKの高度に制御された活性化によって増殖するが、癌細胞もまた成長因子受容体の活性化によって増殖する。しかし、癌細胞の場合は正常な増殖の慎重な制御を失う。この制御の喪失は、成長因子および/または受容体の過剰発現や、成長因子により調節される生化学的経路の自己活性化などの無数の要因により引き起こされる可能性がある。腫瘍形成に関与するRTKの幾つかの例は、上皮成長因子受容体(EGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、インスリン様成長因子受容体(IGFR)、神経成長因子受容体(NGFR)、および線維芽細胞成長因子(FGF)受容体である。これらの成長因子がそれらの細胞表面の受容体と結合すると受容体の活性化を誘発し、それが情報伝達経路を起動、修飾し、細胞の増殖および分化を引き起こす。
【0003】
上皮成長因子(EGF)の受容体ファミリーのメンバーは、上皮細胞の腫瘍形成に関連する特に重要な成長因子受容体チロシンキナーゼである。発見されることになるEGF受容体ファミリーの一番目のメンバーは、多くの種類の腫瘍細胞上で発現するEGFRであった。EGFRは、腫瘍細胞の分裂と成長、修復と生存、脈管形成、浸襲、および腫瘍転移の制御に関与していることが分かっている。
【0004】
EGFRは、細胞外リガンド結合ドメイン、トランスメンブラン領域、および細胞質タンパク質チロシンキナーゼドメインを有する170 kDの膜貫通糖タンパク質である。EGFRを刺激するリガンドの例には、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子α(TGR-α)、ヘパリン結合成長因子(HBGF)、βセルリン(β-cellulin)、およびクリプト−1(Cripto-1)が挙げられる。特異的リガンドの結合は、EGFR自己リン酸化、受容体の細胞質チロシンキナーゼドメインの活性化、および腫瘍の成長と生存を制御する複数情報伝達経路の起動を引き起こす。このEGFR経路はまた、腫瘍におけるVEGFおよび塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの様々な他の脈管新生促進因子の産生に影響を及ぼす。
【0005】
EGFRを活性化する成長因子はまた、腫瘍脈管形成の役割を演じると考えられる。胚および成人の生体中の既存の脈管から毛細血管を形成することを意味する脈管形成は、腫瘍の成長、生存、および転移における重要な要素であることが知られている。腫瘍細胞のEGFR仲介性の刺激が、脈管新生促進因子、すなわち脈管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン-8(IL-8)、および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の発現の増加につながることが報告されており、これが腫瘍伴性脈管内皮細胞の活性化につながる可能性がある。腫瘍伴性脈管内皮細胞の刺激はまた、TGF-αおよびEGFなどの腫瘍が産生する成長因子によるそれら自体のEGF受容体の活性化によって起こることもある。
【0006】
多くのヒトの腫瘍がEGFRを発現または過剰発現することが報告されている。EGFRの発現は、不満足な予後、低い生き残り、および/または転移の増加と相関がある。この腫瘍形成への関わりのためにEGFRは、特に抗癌療法の目標とされてきた。これらの療法は、リガンドが受容体の細胞外ドメインと結合するのを遮断するモノクローナル抗体か、または情報伝達を妨げるように細胞内領域に直接作用する合成チロシンキナーゼ阻害剤のどちらかを主に含んでいた。
【0007】
例えばセツキシマブMAb(ERBITUX(登録商標))は、ヒトEGFRの細胞外ドメインと特異的に結合する組換えヒト/マウスキメラモノクローナル抗体である。セツキシマブは、リガンドがEGFRと結合するのを遮断し、受容体活性化を妨げ、EGFRを発現させる腫瘍細胞の成長を阻害するEGFR拮抗薬である。セツキシマブは、難治性であるかまたはイリノテカンによる化学療法に耐えることができない、上皮成長因子受容体発現性の転移性結腸直腸癌を有する患者の治療において場合によってはイリノテカンと組み合わせた使用を認可されている。セツキシマブはまた、乾癬の治療に効果があることが示されている。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、EGFR、好ましくはEGFRの細胞外領域に対して特異的な、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号12、および配列番号14からなる群から選択される1個から6個の相補性決定領域(CDR)をどこかに含むモノクローナル抗体またはその断片を提供する。好ましくは、これら抗体はヒトのものである。より好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6を含む。あるいは、好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号10、配列番号12、および配列番号14を含む。より好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号8の重鎖可変領域および/または配列番号16の軽鎖可変領域を含む。本発明のこのような抗体またはその断片は、EGFRを中和する能力およびEGFRのリガンドがその受容体と結合するのを妨げる能力を含めた様々な特性を有する。
【0009】
さらに本発明は、本発明の抗体またはその断片をコードする単離ポリヌクレオチドと、発現配列と作動的に連結したこれらのポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターとを提供する。その発現ベクターを含む組換え宿主細胞またはその後代であって、本発明の抗体またはその断片を発現させる細胞もまた提供する。この抗体またはその断片の発現を可能にする条件下でこれらの細胞を培養することを含む抗体またはその断片の産生方法もまた提供する。次いでその細胞または細胞の培地からこれらの抗体またはその断片を精製することができる。
【0010】
また本発明は、本発明の抗体の有効量を哺乳動物に投与することを含む、その哺乳動物における腫瘍成長を処置する方法を提供する。本発明の抗体は、他のRTKと結合する抗体と同時投与することができる。これらの方法はまた、例えば化学療法薬および/または放射線を含めた抗悪性腫瘍薬または治療法を哺乳動物に施すことを含むことができる。幾つかの実施形態では腫瘍の成長が抑制される。好ましい実施形態では治療が腫瘍の退縮をもたらす。
【0011】
本発明はまた、哺乳動物に本発明の抗体の有効量を投与することを含む、その哺乳動物中の非癌性過剰増殖性疾患、例えば乾癬の治療方法を提供する。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、EGFRに対して特異的なモノクローナル抗体とその断片、およびこれら抗体をコードする単離または精製ポリヌクレオチド配列を提供する。本発明の抗体は、好ましくはヒトのものであり、充実性および非充実性腫瘍を含めた新生物性疾患の治療、および過剰増殖性障害の治療に用いることができる。
【0013】
天然に存在する抗体は一般に2つの同一の重鎖と2つの同一の軽鎖を有し、各軽鎖は分子内ジスルフィド結合により重鎖と共有結合で連結し、かつ複数ジスルフィド結合がさらにそれら2つの重鎖を互いに連結している。個々の鎖は、似た大きさ(アミノ酸110〜125個)と構造だが、異なる機能を有するドメインに折りたたむことができる。この軽鎖は、1個の可変ドメイン(VL)および/または1個の不変ドメイン(CL)を含むことができる。この重鎖はまた、1個の可変ドメイン(VH)、および/または抗体の綱またはアイソタイプに応じて3または4個の不変ドメイン(CH1、CH2、CH3、およびCH4)を含むことができる。ヒトではこれらアイソタイプはIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMであり、IgAおよびIgGはさらに亜綱または亜型(IgA1~2およびIgG1~4)に再分される。
【0014】
一般にこれら可変ドメインは抗体ごとに、特に抗原結合部位の場所でかなりのアミノ酸配列の変異性を示す。超可変領域または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの領域はVLおよびVHのそれぞれに見出され、フレームワーク可変領域と呼ばれるより少数の可変領域によって支えられている。
【0015】
VLおよびVHドメインからなる抗体の部分は、FV(断片可変部)を意味し、抗原結合部位を構成する。単鎖FV(scFV)は、1つのポリペプチド鎖上のVLドメインとVHドメインを含有する抗体断片であり、その一方のドメインのN末端と他方のドメインのC末端がフレキシブルリンカーによって結合されている(例えば、米国特許第4,946,778号(Ladner他)、国際公開第WO88/09344号(Huston他)を参照されたい)。国際公開第WO92/01047号(McCafferty他)は、バクテリオファージなどの可溶性組換え遺伝子ディスプレイパッケージの表面へのscFV断片の表示について記載している。
【0016】
これらの単鎖抗体を産生するために用いられるペプチドリンカーは、VLおよびVHドメインの適正な三次元的折りたたみが起こることを確実なものにするように選択されたフレキシブルペプチドであることができる。このリンカーは、一般に10個から50個のアミノ酸残基である。好ましくはこのリンカーは10個から30個のアミノ酸残基である。より好ましくはこのリンカーは12個から30個のアミノ酸残基である。最も好ましくはこのリンカーは15個から25個のアミノ酸残基である。このようなリンカーペプチドの例には、(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)3(配列番号19)が挙げられる。
【0017】
単鎖抗体は、それらが得られる抗体全体のうちの不変ドメインの一部または全部を欠いている。したがって単鎖抗体は、抗体全体の使用に伴う問題の一部を克服することができる。例えば単鎖抗体は、重鎖不変領域と他の生体分子の間の幾つかの望ましくない相互作用を免れる傾向がある。これに加えて単鎖抗体は抗体全体よりもかなり小さく、抗体全体よりも大きな浸透性を有することができる結果、単鎖抗体を局在化させ、標的抗原部位とより効率的に結合させることが可能になる。さらに単鎖抗体のこの比較的小さなサイズは、単鎖抗体が抗体全体よりもレシピエントにおいて不必要な免疫応答を多分より引き起こさなくするであろう。
【0018】
それぞれの単鎖が第一のペプチドリンカーによって共有結合で連結した1個のVHと1個のVLのドメインを有する多数の単鎖抗体は、単一特異性または多重特異性であることができる多価単鎖抗体を形成するように少なくとも1個または複数のペプチドリンカーにより共有結合で連結することができる。多価単鎖抗体の各鎖は、可変軽鎖断片と可変重鎖断片を含み、ペプチドリンカーにより少なくとも1個の他の鎖と連結する。このペプチドリンカーは少なくとも15個のアミノ酸残基から構成される。アミノ酸残基の最大数は約100個である。
【0019】
2個の単鎖抗体を組み合わせて、二価二量体としても知られるダイアボディーを形成することができる。ダイアボディーは2個の鎖と2個の結合部位を有し、単一特異性または二重特異性であることができる。ダイアボディーの各鎖は、VLドメインと繋がったVHドメインを含む。これらのドメインは、同一鎖上のドメイン間の対合を妨げるのに十分な短かさのリンカーにより繋がれ、こうして異なる鎖上の相補的ドメイン間の対合にその2個の抗原結合部位を再現させる。
【0020】
3個の単鎖抗体を組み合わせて、三価三量体としても知られるトリアボディーを形成することができる。トリアボディーは、VLまたはVHドメインのカルボキシル末端と直接に結合した、すなわちどのようなリンカー配列も含まないVLまたはVHドメインのアミノ酸末端により構築される。このトリアボディーは、それらのポリペプチドが環状の頭−尾の様式で配置された3個のFV頭部を有する。トリアボディーの起こり得るコンホメーションは、その3個の結合部位が互いに角度120度で平面内に位置している二次元である。トリアボディーは単一特異性、二重特異性、または三重特異性であることができる。
【0021】
Fab(断片、抗原結合性)は、VL、CL、VH、およびCH1ドメインからなる抗体の断片を指す。パパイン消化に引き続いて簡単に生成されるものはFabと呼ばれ、重鎖ヒンジ領域を保持しない。パパイン消化に引き続いて重鎖ヒンジを保持する様々なFabが生成される。分子内ジスルフィド結合が完全な状態のこれら二価断片はF (ab′)2と呼ばれ、一方、一価Fab′はジスルフィド結合が保持されない場合に生じる。F (ab′)2断片は、一価Fab断片よりも抗原に対して高い結合活性を有する。
【0022】
Fc(断片、結晶化)は、対合した重鎖不変ドメインを含む抗体の一部または断片の呼称である。例えばIgG抗体では、そのFcはCH2およびCH3ドメインを含む。IgAまたはIgM抗体のFcは、さらにCH4ドメインを含む。このFcは、Fc受容体の結合、補体媒介細胞障害作用の活性化、および抗体依存性細胞障害(ADCC)と関連がある。多重IgG様タンパク質の複合体であるIgAやIgMなどの抗体の場合、複合体形成はFc不変ドメインを必要とする。
最終的にはそのヒンジ領域が抗体のFabおよびFc部分を分離し、その結果これらFab互いに対するまたFcに対するFabの易動性を与え、またそれら2個の重鎖の共有結合による連結のための多重ジスルフィド結合を囲い込む。
【0023】
したがって本発明抗体には、これらには限定されないが、天然に存在する抗体、F (ab′)2などの二価断片、Fabなどの一価断片、単鎖抗体、単鎖Fv(scFv)、単一ドメイン抗体、多価単鎖抗体、ダイアボディー、トリアボディー、および抗原と特異的に結合するものが挙げられる。
【0024】
本発明の抗体またはその断片は、EGFRに対して特異的である。抗体の特異性は、抗原の或る特定のエピトープに対するその抗体の選択的認識を指す。本発明の抗体またはその断片は、例えば単一特異性または二重特異性であることができる。二重特異性抗体(BsAb)は、2つの異なる抗原結合特異性または部位を有する抗体である。抗体が2つ以上の特異性を有する場合、それらの認識されるエピトープは単一の抗原または2種類以上の抗原と関連している可能性がある。したがって本発明は、EGFRに対する少なくとも1つの特異性を有する2種類の異なる抗原と結合する二重特異性抗体またはそれらの断片を提供する。
【0025】
EGFRに対する本発明の抗体またはそれらの断片の特異性は、親和力および/または結合力に基づいて決定することができる。抗体と抗原の解離の平衡定数(Kd)によって表される親和力は、抗原決定基と抗体結合部位の間の結合の強さの尺度となる。アビディティーは、抗体とその抗原の間の結合の強さの尺度である。アビディティーは、エピトープと抗体上のその抗原結合部位の間の親和力と、或る特定のエピトープの抗原結合部位の数を意味するその抗体の結合価との両方に関係がある。抗体は、一般に10-5〜10-11 L/molの平衡定数(Kd)で結合する。一般に10-4 L/mol未満の任意のKdは非特異的結合を示すと考えられる。Kdの値が小さいほど抗原決定基とその抗体結合部位の間の結合強度は大きい。
【0026】
本明細書中で用いる「抗体」および「抗体断片」には、EGF受容体に対する特異性を保持する修飾が含まれる。このような修飾には、これらに限定されないが、化学療法薬(例えばシスプラチン、タクソル、ドキソルビシン)または細胞毒(例えばタンパク質、または非タンパク質有機質化学療法薬)などのエフェクター分子との結合が挙げられる。これら抗体は、検出可能な受容体の部分と結合することにより修飾することができる。半減期などの非結合特性に影響する改変箇所(例えばペグ化)を有する抗体もまた含まれる。
【0027】
これらタンパク質および非タンパク質薬は、当業界で周知の方法により抗体に結合することができる。これら結合方法には、直接の連結、共有結合で結びついた複数リンカーを介した連結、および特異的に結合するペアメンバー(例えばアビジン−ビオチン)が挙げられる。このような方法には、例えばドキソルビシンの結合についてGreenfield等、Cancer Research 50, 6600〜6607 (1990)が述べているもの、ならびに白金化合物の結合についてArnon等、Adv. Exp. Med. Biol. 303, 79〜90 (1991)およびKiseleva等、Mol. Biol. (USSR) 25, 508〜514 (1991)が述べているものが挙げられる。
【0028】
本発明の抗体およびその断片の同等物にはまた、本明細書中で開示した完全長の抗EGFR抗体の可変または超可変領域のアミノ酸配列とほぼ同じアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。本明細書中ではこのほぼ同じアミノ酸配列は、PearsonおよびLipman(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 2444〜8 (1988))によるFASTA探索法によって求められる少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の相同性を有する配列と定義され、これらには少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%同一の配列が含まれる。
【0029】
このような抗体は、配列番号8および16を含む本発明の抗体と同じまたは似た結合、リガンド遮断、および受容体中和活性を有するはずであり、特にこの場合、保存的アミノ酸置換が存在する。保存的アミノ酸置換は、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質、あるいはそれらの断片の1個または複数個のアミノ酸を変えることによるアミノ酸組成の変化として定義される。この置換は、それら置換が、重要なペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の特徴(例えば電荷、等電点、親和力、アビディティー、コンホメーション、溶解度)または活性度を実質上変えないようなほぼ似た特性(例えば酸性、塩基性、芳香族、大きさ、正または負の帯電、極性、非極性)を有するアミノ酸のものである。一般的な保存的置換はアミノ酸の複数の群中から選択され、それら群には
(1)疎水性のメチオニン(M)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、
(2)親水性のシステイン(C)、セリン(S)、スレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、
(3)酸性のアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、
(4)塩基性のヒスチジン(H)、リシン(K)、アルギニン(R)、
(5)芳香族のフェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)、
(6)鎖の配向に影響を及ぼす残基のGly、Pro、
が挙げられるが、これらには限定されない。
【0030】
本発明の抗体には、さらにその結合特性が直接突然変異、親和性成熟の各種方法、ファージディスプレイ、またはチェーンシャフリングによって改変されているものが挙げられる。親和性および特異性はCDRを突然変異させ、望ましい特徴を有する抗原結合部位について選別することによって修飾または改変することができる(Yang等の論文J. Mol. Biol., 254: 392〜403 (1995) 参照)。CDRは種々様々な方法で突然変異される。一方法は、他の点では同一の抗原結合部位の集団において全20種類のアミノ酸が特定の場所で見出されるように個々の残基または残基の組合せをランダム化することである。あるいは、誤りを起こしがちなPCR法により或る範囲のCDR残基にわたって突然変異を誘発させる(例えばHawkins等の論文J. Mol. Biol., 226: 889〜896 (1992) 参照)。例えば、重鎖および軽鎖可変領域遺伝子を含有するファージディスプレイベクターをE. coliの突然変異誘発株中で増殖させることができる(例えばLow等の論文J. Mol. Biol., 250: 359〜368 (1996) 参照)。これらの突然変異誘発の方法は、当業者に知られている多くの方法の実例である。
【0031】
本発明のこれら抗体の各ドメインは、完全な免疫グロブリンドメイン(例えば、重鎖または軽鎖の可変または不変ドメイン)であってもよく、また天然に存在するドメインの機能同等物または突然変異体もしくは誘導体、あるいは例えば国際公開第WO93/11236号(Griffiths他)に記載のものなどの手法を用いてin vitroで構築した合成ドメインであってもよい。例えば、少なくとも1個のアミノ酸を欠いた抗体可変ドメインに相当するドメインを互いに連結させることができる。この抗体を特色づける重要な特徴は、抗原結合部位の存在である。可変重および軽鎖断片の用語は、特異性に及ぼす物質効果を有しない変異型を除外するものと解釈すべきではない。
【0032】
本発明の抗体またはその断片は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号12、および配列番号14からなる群から選択される1個、2個、3個、4個、5個、および/または6個の相補性決定領域(CDR)を有するヒト抗体である。好ましくは本発明の抗体(またはその断片)は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6のCDRを有する。あるいは、また好ましくは本発明の抗体またはその断片は、配列番号10、配列番号12、および配列番号14のCDRを有する。CDRのこれらアミノ酸配列を下記に表1で示す。
【0033】
【表1】
【0034】
別の実施形態では本発明の抗体は、配列番号8の重鎖可変領域および/または配列番号16の軽鎖可変領域を有することができる。IMC-11F8は、本発明の特に好ましい抗体である。この抗体は、ヒトVHおよびVLフレームワーク領域(FW)とCDRとを有する。このIMC-11F8のVH可変ドメイン(配列番号8)は3つのCDR(配列番号2、4、および6)と4つのFWを有し、またVLドメイン(配列番号16)は3つのCDR (配列番号10、12、および14)と4つのFWを有する。
【0035】
好ましくは本発明の抗体またはその断片はEGFRを中和する。EGFRの外部細胞外ドメインとのリガンド、例えばEGFまたはTGF-αのEGFRの結合は、受容体の二量体化、EGFRの自己リン酸化、受容体内部の細胞質チロシンキナーゼドメインの活性化、およびDNA合成(遺伝子活性化)と細胞周期の進行または分裂の調節に関与する複数の情報伝達とトランス活性化の経路の起動を刺激する。また好ましくは本発明の抗EGFR抗体(またはその断片)は、EGFRの細胞外領域に対して特異的である。本発明の抗体またはその断片は、さらに好ましくはEGFRのリガンドのその受容体との結合を妨げる。この実施形態では本発明の抗体またはその断片は、EGFRの天然のリガンド(EGFまたはTGF-α)と少なくとも同じ程度の強さでEGFRと結合する。
【0036】
EGFRの中和には、正常では情報伝達と関連しているこれら活性の1つまたは複数の阻害、減少、不活性化、および/または崩壊が含まれる。したがってEGFRの中和は、成長(増殖および分化)、脈管形成(血管補充、侵襲、および転移)、および細胞の運動性と転移(細胞接着および侵襲力)の阻害、減少、不活性化、および/または崩壊を含めた様々な効果を有する。
【0037】
EGFR中和の一つの尺度は、その受容体のチロシンキナーゼ活性の阻害である。チロシンキナーゼの阻害はよく知られている方法を用いて、例えば組換えキナーゼ受容体の自己リン酸化レベルおよび/または天然もしくは合成基質のリン酸化を測定することによって求めることができる。したがってリン酸化検定は、本発明の文脈における抗体の中和を定量するのに有用である。リン酸化は、例えばホスホチロシンに対して特異的な抗体を用いてELISA検定により、またはウェスタンブロット上で検出することができる。チロシンキナーゼ活性の幾つかの検定法は、Panek等の論文J. Pharmacol. Exp. Thera. 283: 1433〜44 (1997)およびBatley等の論文Life Sci. 62: 143〜50 (1998)に記載されている。
【0038】
さらにタンパク質発現の検出方法を利用してEGFR中和を定量することができ、そこでは測定されるタンパク質群もしくはタンパク質の活性または活性状態はEGFRのチロシンキナーゼ活性により調節される。これらの方法には、タンパク質発現検出用の免疫組織化学(IHC)、遺伝子増幅検出用の蛍光in situハイブリッド形成法(FISH)、競合放射リガンド結合検定、ノーザンおよびサザンブロットなどの固形マトリックスブロッティング法、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(TT-PCR)、およびELISAが挙げられる。Grandis等の論文Cancer, 78: 1284〜92 (1996)、Shimizu等の論文Japan J. Cancer Res., 85: 567〜71 (1994)、Sauter等の論文Am. J. Path., 148: 1047〜53 (1996)、Collinsの論文Glia, 15: 289〜96 (1995)、Radinsky等の論文Clin. Cancer Res., 1: 19〜31 (1995)、Petrides等の論文Cancer Res., 50: 3934〜39 (1990)、Hoffmann等の論文Anticancer Res., 17: 4419〜26 (1997)、Wikstrand等の論文Cancer Res., 55: 3140〜48 (1995)を参照されたい。
【0039】
in vivo検定法もまたEGFR中和を定量するために利用することができる。例えば受容体チロシンキナーゼの阻害は、阻害剤の存在および不在下で受容体リガンドで刺激した細胞株を用いたマイトジェン検定により観察することができる。例えばEGFで刺激したA431細胞(米国基準菌株保有機構(ATCC)、Rockville、MD)を用いてEGFRの阻害を検定することができる。別の方法は、例えばマウスに注入したヒト腫瘍細胞を用いてEGFR発現腫瘍細胞の成長の阻害を試験することを含む。例えば米国特許第6,365,157号(Rockwell他)を参照されたい。
【0040】
本発明は、EGFR中和のどのような特定のメカニズムによっても制限されない。本発明の抗EGFR抗体は、EGF細胞表面受容体と外側で結合し、リガンド(例えばEGFまたはTGF-α)の結合およびそれに続く受容体関連チロシンキナーゼが仲介する情報伝達を遮断し、また情報伝達カスケードにおいてEGFRおよび他の下流タンパク質のリン酸化を妨げることができる。またこの受容体−抗体複合体を取り込み分解し、結果として受容体細胞表面のダウンレギュレーションを引き起こすことができる。腫瘍細胞の侵襲および転移において機能するマトリックスメタロプロテイナーゼもまた本発明の抗体によってダウンレギュレートすることができる。さらに本発明の抗体は、成長因子の産生および脈管形成の阻害を示す可能性もある。
【0041】
抗体断片は、完全な抗体を切断することにより、またはその断片をコードするDNAを発現させることにより生成することができる。抗体の断片は、Lamoyi等の論文J. Immunol. Method, 56: 235〜243 (1983)で、またParhamの論文J. Immunol. 131: 2895〜2902 (1983)で述べられている方法によって調製することができる。このような断片は、Fab断片またはF (ab′)2断片の一方または両方を含有することができる。このような断片はまた単鎖断片可変領域の抗体、すなわちscFv、ダイアボディー、または他の抗体断片を含有することができる。このような機能的同等物を産生する方法は、国際特許出願第93/21319号、欧州特許出願第239400号、国際特許出願第89/09622号、欧州特許出願第338745号、および欧州特許出願第332424号に開示されている。
【0042】
本発明のベクターの形質転換および受容体拮抗物質の発現用の好ましい宿主細胞は、哺乳動物細胞、例えばCOS-7細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにリンパ腫、骨髄腫(例えばNSO)、またはハイブリドーマ細胞などのリンパ系起源の細胞株である。酵母などの他の真核宿主をその代わりに用いることもできる。
【0043】
酵母中で遺伝子構築体を発現させることが望ましい場合、酵母用の好適な選択遺伝子は、その酵母プラスミドYRp7中に存在するtrp 1遺伝子である(Stinchcomb等の論文Nature, 282: 39 (1979)およびKingsman等の論文Gene, 7: 141 (1979))。このtrp 1遺伝子は、トリプトファン中での成長能力を欠く酵母の突然変異株、例えばATCC No.44076またはPEP4-1用の選択マーカーを提供する(Jonesの論文Genetics, 85: 12 (1977))。次いでこの酵母宿主細胞ゲノム中のtrp 1の障害の存在は、トリプトファンの不在下での成長による形質転換を検出するための効果的な環境を提供する。同様にLeu 2欠失酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu 2遺伝子を持つ既知のプラスミドによって補完される。
【0044】
この形質転換宿主細胞は、炭素(グルコースまたはラクトースなどの炭水化物)、窒素(アミノ酸、ペプチド、タンパク質、またはそれらの分解生成物、例えばペプトン、アンモニウム塩など)、無機塩(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムの硫酸塩、リン酸塩、および/または炭酸塩)の同化可能な供給源を含有する液体培地中で当業界で知られている方法により培養される。この培地は、さらに微量元素、例えば鉄、亜鉛、マンガンなどの例えば成長促進物質を含有する。
【0045】
下記の実施例中で述べるように本発明による高親和性抗EGFR抗体は、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子から構築されるファージディスプレイライブラリーから単離することができる。例えば本発明の可変ドメインは、再配列可変領域遺伝子を含有する末梢血リンパ球から得ることができる。あるいは、CDRおよびFW領域などの可変ドメイン部分を様々なヒト配列から得ることもできる。3回選択後に回収されるクローンの90%以上がEGFRに特異的である。この選別されたFabのEGFRに対する結合親和力はnMの範囲であり、ハイブリドーマ技術を用いて産生される幾つかの二価の抗EGFRモノクローナル抗体のものと同じ程度の高さである。
【0046】
本発明の抗体および抗体断片は、例えば天然に存在する抗体、あるいはFabまたはscFvファージディスプレイライブラリーから得ることができる。VHおよびVLドメインを含む抗体から単一ドメイン抗体を作るにはCDRの外側の若干のアミノ酸の置換により結合、発現、または溶解度を高めることが望ましい場合があることが分かる。例えば普通ならVH−VL界面に隠されているはずのアミノ酸残基を修飾することが望ましい場合がある。
【0047】
さらに本発明の抗体および抗体断片は、ヒト免疫グロブリンγ重鎖およびκ軽鎖を産生するトランスジェニックマウス(例えばMedarex, San Jose, Calif.から入手できるKMマウス)を用いて標準的なハイブリドーマ技術(HarlowおよびLane編、Antibodies: A Laboratory manual, Cold Spring Harbor, 211〜213 (1998)、これは参照により本明細書中に組み込まれる)によって得ることができる。好ましい実施形態ではヒト抗体を産生するゲノムの実質的な部分をこのマウスのゲノム中に挿入し、内因性マウス抗体の産生をなくさせる。このようなマウスは、完全フロインドアジュバント中でKDR(VEGFR-2)により皮下に(s.c.)免疫することができる。
【0048】
本発明のEGFR結合抗体を識別するために使用するタンパク質は好ましくはEGFRであり、より好ましくはEGFRの細胞外ドメインである。このEGFR細胞外ドメインは、別の分子を含まなくても、またそれに結合してもよい。
【0049】
本発明はまた、さきに述べた抗体またはそれらの断片をコードする単離ポリペプチドを提供する。本発明には、1個、2個、3個、4個、5個、および/または6個すべてのCDRをコードする配列を有する核酸が含まれる。
【0050】
【表2】
【0051】
ヒト抗体をコードするDNAは、これらCDR以外の、その対応するヒト抗体領域から大体においてまたはそれに限って得られるヒト不変領域および可変領域をコードするDNAを組み換えることによって、またヒトから得られるCDR(その重鎖可変ドメインCDRの配列番号1、3、および5とその軽鎖可変ドメインCDRの配列番号9、11、および13)をコードするDNAを組み換えることによって調製することができる。
【0052】
抗体の断片をコードするDNAの好適な供給源には、ハイブリドーマおよび脾臓細胞などの完全長の抗体を発現させる任意の細胞が挙げられる。これらの断片は、上記のように抗体同等物としてそれら単独で用いることもでき、また組み換えて同等物にすることもできる。この項で述べたDNAの欠失および組換えは、抗体の同等物に関して上記で列挙した刊行物に記載のものなどの周知の方法、および/または下記に記載のものなどの他の標準的な組換えDNA技術により行うことができる。DNAの別の供給源は、当業界で知られているようにファージディスプレイライブラリーから産生される単鎖抗体である。
【0053】
さらに本発明は、発現配列、プロモーター、およびエンハンサー配列と作動的に連結したさきに述べたポリヌクレオチド配列を含有する発現ベクターを提供する。これらには限定されないが酵母および哺乳動物細胞培養系を含めた細菌および真核系などの原核系中での抗体ポリペプチドの効率的な合成のための様々な発現ベクターが開発されている。本発明のベクターは、染色体、非染色体、および合成DNA配列のセグメントを含むことができる。
【0054】
任意の適切な発現ベクターを用いることができる。例えば原核クローニングベクターには、colE1、pCR1、pBR322、pMB9、pUC、pKSM、およびRP4などのE. coli由来のプラスミドが挙げられる。原核ベクターにはまた、M13などのファージDNAおよび他の繊維状一本鎖DNAファージの誘導体が挙げられる。酵母で有用なベクターの例は、2μプラスミドである。哺乳動物細胞中での発現に適したベクターには、よく知られているSV40の誘導体、アデノウィルス、レトロウィルス由来のDNA配列、および上記のものなどの機能性哺乳動物ベクターと機能性プラスミドの組合せから得られるシャトルベクター、およびファージDNAが挙げられる。
【0055】
さらに原核発現ベクターが当業界で知られている(例えばP. J. SouthernおよびP. Bergの論文J. Mol. Appl. Genet., 1, 437〜341 (1982)、Subramani等の論文Mol. Cell. Biol., 1: 854〜864 (1981)、KaufmannおよびSharpの論文「モジュラージヒドロ葉酸リダクターゼ相補的DNA遺伝子をコトランスフェクトした配列の増幅および発現(Amplification and Expression of Sequences Cotransfected with a Modular Dihydrofolate Reductase Complementary DNA Gene)」、J. Mol. Biol. 159, 601〜621 (1982)、KaufmannおよびSharpの論文Mol. Cell. Biol. 159, 601〜664 (1982)、Scahill等の論文「チャイニーズハムスター卵巣細胞中でのヒト免疫インターフェロンDNA遺伝子の発現およびその産物の特徴描写(Expression and Characterization of the Product of a Human Immune Interferon DNA Gene in Chinese Hamster Ovary Cells)」、Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 80, 4654〜4659 (1983)、UrlaubおよびChasinの論文Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 77, 4216〜422, (1980))。
【0056】
本発明で有用な発現ベクターは、発現するためにそのDNA配列または断片と作動的に連結する少なくとも1つの発現制御配列を含有する。この制御配列は、そのクローン化DNA配列の発現を制御し調節するためにベクターに挿入される。有用な発現制御配列の例は、lac系、trp系、tac系、trc系、ファージλの主要オペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、酵母の解糖プロモーター(例えば3−ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター)、酵母の酸性ホスファターゼのプロモーター(例えばPho5)、酵母のα接合因子のプロモーター、ならびにポリオーマ、アデノウィルス、レトロウィルス、およびサルウィルス由来のプロモーター(例えば初期および後期プロモーターまたはSV40)、ならびに原核または真核細胞およびそれらのウィルスの遺伝子の発現を制御することが知られている他の配列、あるいはそれらの組合せである。
【0057】
本発明はまた、さきに述べた発現ベクターを含有する組換え宿主細胞を提供する。本発明の抗体は、ハイブリドーマ以外の細胞株中で発現することができる。本発明によるポリペプチドをコードする配列を含む核酸を、好適な哺乳動物宿主細胞の形質転換のために用いることができる。
【0058】
特に好ましい細胞株は、高レベルの発現、興味の対象のタンパク質の構成性発現、および宿主タンパク質由来の最小限の汚染に基準にして選択される。発現用の宿主として利用できる哺乳動物宿主細胞株は当業界でよく知られており、これらには限定されないがチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、および多くの他の細胞など、多くの不死化細胞株が挙げられる。好適なさらなる真核細胞には、酵母および他の真菌類が挙げられる。有用な原核宿主には、例えばE. coli SG-936、E. coli HB 101、E. coli W3110、E. coli X1776、E. coli X2282、E. coli DHI、E. coli MRClなどのE. coliや、Pseudomonasや、Bacillus subtilisなどのBacillusや、Streptomycesが挙げられる。
【0059】
これらの本発明の組換え宿主細胞は、その抗体またはその断片の発現を可能にする条件下でそれら細胞を培養し、その宿主細胞または宿主細胞を囲む培地からその抗体またはその断片を精製することにより、抗体またはその断片の産生に用いることができる。この発現した抗体またはその断片を組換え宿主細胞中での分泌に向けるのは、シグナルまたは分泌リーダーペプチドのコード化配列(Shokri等の論文Appl. Microbiol. Biotechnol. 60 (6): 654〜64 (2003)、Nielson等の論文Prot. Eng. 10: 1〜6 (1997)、およびvon Heinje等の論文Nucl. Acids Res. 14: 4683〜4690 (1986) 参照)を、興味の対象の抗体コード化遺伝子の5’末端に挿入することによって助長することができる。これらの分泌リーダーペプチド要素は、原核または真核配列のどちらかから得ることができる。したがって好適には分泌リーダーペプチドが用いられ、これはポリペプチドのN末端の端部と結合してそのポリペプチドの運動を宿主細胞サイトゾルの外側へ方向づけ、かつ分泌を培地中へ方向づけるアミノ酸である。
【0060】
本発明の抗体は追加のアミノ酸残基と融合することができる。このようなアミノ酸残基は多分、単離を容易にするためのペプチド標識であることができる。抗体を特定の器官または組織に誘導するための他のアミノ酸残基もまた考えられる。
【0061】
別の実施形態では本発明の抗体は、その抗体を発現させ、回収することができるようなトランスジェニック動物中でその抗体をコードする核酸を発現させることによって作られる。例えばこの抗体は、回収および精製を容易にする組織特異的なやり方で発現させることができる。このような一実施形態では本発明の抗体を、授乳中に分泌するように乳腺中で発現させる。トランスジェニック動物には、これらには限定されないがマウス、ヤギ、およびウサギが挙げられる。
【0062】
さきに述べた抗体の有効量を哺乳動物に投与することによってその哺乳動物中の腫瘍成長を治療する方法がまた、本発明によって提供される。本発明に従って治療するのに適した腫瘍は、好ましくはEGFRを発現させる。どのような特定の仕組みと結び付けるつもりはないが、本発明の方法により治療または予防することができる疾患および状態には、例えばその腫瘍成長または病原性脈管形成がEGFRのパラクリンおよび/またはオートクリンのループを通じて刺激されるものが挙げられる。すなわちEGFR発現性腫瘍は、それらの環境中に存在するEGFに特徴的に敏感に反応し、オートクリン刺激ループ中でEGFおよび/またはTGF-αによってさらに生成し、また刺激される可能性がある。本発明によるこのような腫瘍の治療には、腫瘍成長の部分的または完全な阻害が含まれる。特に幾つかの実施形態では阻害にはさらに腫瘍退縮が含まれる。
【0063】
EGFR発現は様々なヒト腫瘍中にin vitroおよびin vivoの両方で観察されており、そのEGFR発現のレベルは腫瘍の種類により広範囲に変わる。EGFRは、結腸直腸、頭部と頸部(扁平上皮細胞)、膵臓、肺、乳房、腎臓の細胞の癌腫、および神経膠芽腫などのかなりの割合のヒト腫瘍においてその細胞表面に異なるレベルで発現する。或る腫瘍の種類ではEGFR発現はきわめて普通である(例えば卵巣癌の35から70%、また結腸直腸癌の約25から77%)。高レベルのEGFR発現は、受容体リガンド(例えばEGFおよびTGF-α)の産生と相互に関係して起こる可能性がある。EGFR発現はまた、ある種の化学療法薬および放射線療法に対する耐性の増加と相互に関係していた。EGFR発現はまた、それが低い生き残り、不満足な予後、および/または転移の危険性の増加と関連しているので腫瘍の幾つかの種類では予後徴候因子として働く。さらにEGFR発現の増加は、多発性腫瘍の種類にも存在する。
【0064】
治療することができる腫瘍には、原発性腫瘍および転移性腫瘍、ならびに難治性腫瘍が含まれる。難治性腫瘍には、化学療法薬単独、抗体単独、放射線単独、またはこれらの併用による治療に対して好ましい反応を示すことができないかまたは耐性がある腫瘍が含まれる。難治性腫瘍はまた、このような薬剤による治療によって抑制されているように見えるが、治療の中止後5年まで、時には10年以上まで再発する腫瘍を包含する。
【0065】
本発明の抗体により治療することができる腫瘍には、脈管化していない、またはまだ実質上脈管化していない腫瘍、および脈管化した腫瘍が含まれる。したがって治療することが可能な充実性腫瘍の例には、乳房の癌腫、肺の癌腫、結腸直腸の癌腫、膵臓の癌腫、神経膠腫、およびリンパ腫が挙げられる。このような腫瘍の幾つかの例には、類表皮腫、頭部と頸部の腫瘍などの扁平上皮腫、結腸直腸の腫瘍、前立腺の腫瘍、乳房の腫瘍、小細胞および非小細胞肺腫瘍を含めた肺の腫瘍、膵臓の腫瘍、甲状腺の腫瘍、卵巣の腫瘍、および肝臓の腫瘍が挙げられる。他の例には、カポジ肉腫、CNS新生物、神経芽細胞腫、毛管芽細胞腫、髄膜腫と脳転移、黒色腫、胃腸および腎臓の癌腫と肉腫、横紋筋肉腫、神経膠芽腫、望ましくは多形神経膠芽腫、および平滑筋肉腫が挙げられる。
【0066】
本発明の別の態様においてはこれら抗EGFR抗体は、腫瘍性脈管新生を抑制する。脈管内皮のEGFR刺激は腫瘍の脈管化と関係している。一般には脈管内皮は、例えば他の供給源(例えば腫瘍細胞)由来のEGFおよび/またはTGF-αによりパラクリンの形で刺激される。
【0067】
したがってこのヒト抗EGFR抗体は、脈管化した腫瘍または新生物、あるいは脈管形成性疾患を有する患者の治療に効果的である。このような腫瘍および新生物には、例えば芽細胞腫、癌腫、または肉腫などの悪性腫瘍と新生物、および重大な脈管性腫瘍と新生物が挙げられる。本発明の方法により治療することができる癌には、例えば脳、尿生殖路、リンパ系、胃、腎臓、結腸、咽頭と肺、および骨の癌が含まれる。非限定的な例には、さらに類表皮腫、頭部と頸部の腫瘍などの扁平上皮腫、結腸直腸の腫瘍、前立腺の腫瘍、乳房の腫瘍、肺腺癌と小細胞および非小細胞肺腫瘍を含めた肺の腫瘍、膵臓の腫瘍、甲状腺の腫瘍、卵巣の腫瘍、および肝臓の腫瘍が挙げられる。この方法はまた、鱗状細胞の癌腫、基底細胞の癌腫、およびヒト悪性角化細胞などの悪性角化細胞の成長を抑制することによって治療することができる皮膚癌を含めた脈管化皮膚癌の治療に用いられる。治療することができる他の癌には、カポジ肉腫、CNS新生物(神経芽細胞腫、毛管芽細胞腫、髄膜腫、および脳転移)、黒色腫、胃腸および腎臓の癌腫と肉腫、横紋筋肉腫、多形神経膠芽腫を含めた神経膠芽腫、および平滑筋肉腫が挙げられる。
【0068】
本発明はまた、本発明の抗体の有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物における非癌過剰増殖性疾患の治療方法を提供する。本明細書中で開示する「過剰増殖性疾患」は、受容体のEGFRファミリーのメンバーを発現させる非癌細胞の過剰な成長により引き起こされる状態として定義される。過剰増殖性疾患により生ずる過剰細胞は、正常レベルでEGFRを発現させるか、またはEGFRを過剰発現させる恐れがある。
【0069】
本発明により治療することができる過剰増殖性疾患の種類は、EGFRのリガンドまたはそのようなリガンドの突然変異体によって刺激される任意の過剰増殖性疾患である。過剰増殖性疾患の例には、乾癬、光線性角化症と脂漏性角化症、疣贅、ケロイド瘢痕、および湿疹が挙げられる。また乳頭腫ウィルス感染症などのウィルス感染によって引き起こされる過剰増殖性疾患が挙げられる。例えば乾癬は、多くの異なる変種および重症の度合いがある。様々な種類の乾癬は、膿状の疱(膿疱性乾癬)、皮膚のひどい腐肉形成(紅皮性乾癬)、滴状の斑点(滴状乾癬)、および平滑炎症性病変(逆乾癬(inverse psoriasis))などの特徴を表す。あらゆる種類の乾癬の治療(例えば尋常性乾癬、膿疱性乾癬、紅皮性乾癬、関節性乾癬、類乾癬、掌蹠膿疱症)が本発明によって検討されている。
【0070】
本発明の方法では本発明の抗体の治療有効量が、それを必要とする哺乳動物に投与される。本明細書中で用いられる投与という用語は、求める結果を達成することができる任意の方法によって本発明の抗体を哺乳動物に送達することを意味する。これらは、例えば静脈内または筋肉内に投与することができる。本発明のヒト抗体はヒトに投与するのに特に有用だが、これらはまた他の哺乳動物に投与することもできる。本明細書中で用いられる哺乳動物という用語には、これらには限定されないがヒト、実験動物、家庭内愛玩動物、および飼育動物を含めることを意図している。「治療有効量」とは、哺乳動物に投与した場合、キナーゼ活性の阻害または腫瘍成長の阻害などの所望の治療効果を生じるのに有効な本発明の抗体の量を意味する。
【0071】
このような疾患の確認については、十分に当業者の能力および知識の範囲内にある。例えば臨床的に重大な新生物性または脈管形成性疾患に罹っているか、または臨床的に重大な症状を発現させる危険があるヒト個体は、本発明のEGFR抗体の投与に適している。当業界の熟達した臨床医は、或る個体がこのような治療の候補であるかどうかを、例えば臨床試験、身体検査、および医療/家族歴を使用することによって容易に決めることができる。
【0072】
本発明の抗EGFR抗体は、腫瘍または脈管形成が関係する病的状態を患っている患者に療法上の処置のためにその腫瘍または病的状態の進行を防止し、抑制し、または低減するのに有効な量で投与することができる。進行には、例えばその腫瘍または病的状態の成長、侵襲、転移、および/または再発が含まれる。これを達成するのに十分な量は、治療上有効な用量として定義される。この使用に有効な量は、その疾患の重症度およびその患者自体の免疫系の全般的状況に左右されるはずである。投与計画もまた、その疾患の状況および患者の状況により変わることになり、一般には単回の巨丸剤の投薬または連続した点滴から、1日当たり複数回の投与(例えば4〜6時間ごと)または治療する医師および患者の状態によって必要が示される複数回の投与までの範囲に及ぶことになる。しかし本発明はどのような特定の用量にも限定されないことに注目すべきである。
【0073】
EGFR拮抗薬、例えばモノクローナル抗体のカクテルは、腫瘍細胞の成長を阻害するための特に有効な治療法を提供する。このカクテルは非抗体EGFR拮抗薬を含むことができ、わずか2種類、3種類、または4種類の少数の、また6種類、 8種類、または10種類もの多数の受容体拮抗薬を有することができる。
【0074】
本発明の実施形態においてこれら抗EGFR抗体は、1種類または複数種類の抗悪性腫瘍薬と併用して投与することができる。併用療法の例については、例えば米国特許第6,217,866号(Schlessinger他)(抗悪性腫瘍薬と併用した抗EGFR抗体)、および国際公開第WO99/60023号(Waksal他)(放射線と併用した抗EGFR抗体)を参照されたい。化学療法薬、放射線、またはそれらの組合せなどの任意の適切な抗悪性腫瘍薬を用いることができる。この抗悪性腫瘍薬は、アルキル化剤または抗代謝剤であることができる。アルキル化剤の例には、これらには限定されないがシスプラチン、シクロホスファミド、メルファラン、およびダカルバジンが挙げられる。抗代謝剤の例には、これらには限定されないがドキソルビシン、ダウノルビシン、パクリタキセル、イリノテカン(CPT-11)、およびトポテカンが挙げられる。この抗悪性腫瘍薬が放射線の場合、その放射線の線源は、治療される患者にとって外部(外部ビーム放射療法−EBRT)または内部(近接照射療法−BT)のいずれであってもよい。投与される抗悪性腫瘍薬の用量は、例えばその薬剤の種類、治療される腫瘍の種類と重症度、およびその薬剤の投与経路を含めた多数の要因に左右される。しかし本発明はどのような特定の用量にも限定されないことが強調されるべきである。
【0075】
過剰増殖性疾患の治療の場合、上記の本発明の抗体の投与は任意の従来の治療薬の投与と併用することができる。例えばその過剰増殖性疾患が乾癬の場合、利用可能な様々な従来の全身薬または局所薬が存在する。乾癬用の全身薬には、メトトレキサート、ならびにアシトレシン、エトレチナート、およびイソトレチノインなどの経口レチノイドが挙げられる。乾癬の他の全身治療薬には、ヒドロキシ尿素、NSAIDS、スルファサラジン、および6−チオグアニンが挙げられる。抗生物質および殺菌剤を用いて、乾癬を発赤または悪化させる恐れのある感染を治療または予防することができる。乾癬用の局所薬には、アントラリン、カルシポトリエン、コールタール、コルチコステロイド類、レチノイド類、角質溶解薬、およびタザロテンが挙げられる。局所用ステロイドは、軽度ないし中等度の乾癬に対して処方される最も一般的な療法の一つである。局所用ステロイドは、皮膚表面に塗布されるが、乾癬病変部に注入されるものもある。
【0076】
さらに過剰増殖性疾患の治療法には、光線療法と併用した抗EGFR抗体の投与が挙げられる。光線療法には、この過剰増殖性疾患の症状を低減させる任意の波長の光の投与、および化学療法薬の光活性化(光化学療法)が挙げられる。過剰増殖性障害の治療のさらなる考察については国際公開第WO02/11677号(Teufel他)(上皮成長因子受容体拮抗物質による過剰増殖性疾患の治療)を参照されたい。
【0077】
本発明の抗EGFR抗体は、EGFR拮抗物質、および/またはRTKリガンドを遮断もしくはそれらRTKを中和する抗体などの他のRTKの拮抗物質と共に投与することができる。EGFRのリガンドには、例えばEGF、TGF-αアンフィリグリン(amphiregulin)、ヘパリン結合性EGF(HB-EGF)、およびベタセルリンが挙げられる。TGF-αは脈管形成を促進する点でより有力であることが示されているけれども、EGFおよびTGF-αはEGFR仲介性の刺激をもたらす主要な内因性リガンドであると考えられる。したがってEGFR拮抗薬には、そのようなリガンドと結合することによってEGFRとの結合およびEGFRの活性化を遮断する抗体が含まれる。
【0078】
このようなRTKの別の例はVEGFRである。本発明の実施形態において抗EGFR抗体は、VEGFR拮抗薬と組み合わせて用いられる。本発明の一実施形態では抗EGFR抗体は、VEGFR-2/KDR受容体と特異的に結合する受容体拮抗物質と組み合わせて用いられる(1992年2月20日出願の国際出願PCT/US92/01300号およびTerman等の論文Oncogene 6: 1677〜1683 (1991))。別の実施形態では抗EGFR抗体は、VEGFR-1/Flt-1受容体と特異的に結合する受容体拮抗物質と組み合わせて用いられる(Shibuya M. 等の論文Oncogene 5: 519〜524 (1990))。VEGFR-1またはVEGFR-2の細胞外ドメインと結合し、リガンド(VEGFRまたはP1GF)による結合を遮断する、および/またはVEGFR由来またはP1GF由来の活性化を中和する抗原結合性タンパク質が特に好ましい。例えば、Mab IMC-1121は、細胞表面で発現した可溶性のKDRと結合する。Mab IMC-1121は、ヒトFabファージディスプレイライブラリーから得られるVHおよびVLドメインを含む(国際公開第WO03/075840号参照)。別の実施例ではScFv 6.12は、細胞表面で発現した可溶性のFlt-1と結合する。ScFv 6.12は、マウスモノクローナル抗体Mab 6.12のVHおよびVLドメインを含む。Mab 6.12を産生するハイブリドーマ細胞株は、ATCC番号 PTA-3344として寄託されている。
【0079】
このようなRTKの別の例は、インスリン様成長因子受容体(IGFR)である。ある種の腫瘍細胞ではEGFR機能の阻害は、他の成長因子受容体シグナル経路のアップレギュレーションによって、また特にIGFR刺激によって補うことができる。さらにIGFRシグナルの阻害は、ある種の治療薬に対する腫瘍細胞の感受性の増大をもたらす。EGFRまたはIGFRのいずれかの刺激は、程度は様々であるけれどもAktおよびp44/42を含めた共通下流情報伝達分子のリン酸化を引き起こす。したがって本発明の実施形態ではIGFR拮抗物質(例えばIGFまたはIGFRと結合し、その受容体を中和する抗体)を本発明の抗体と同時投与し、それによって第二インプットがその共通下流シグナル経路に入るのを遮断する(例えばAktおよびp44/42の活性化を阻害する)。IGFRに対して特異的なヒト抗体の例は、IMC-A12である(国際公開第WO2005/016970号参照)。
【0080】
腫瘍形成に関与する成長因子受容体の他の例は、血小板由来増殖因子受容体(PDGF)、神経成長因子(NGF)、および繊維芽細胞増殖因子(FGF)に対する受容体である。
【0081】
これら抗EGFR抗体はまた、RTKの活性を阻害する、あるいは腫瘍成長または腫瘍伴性脈管形成に関与するそれらの関連下流シグナル要素を阻害する細胞内RTK拮抗物質と共に投与することもできる。これら細胞内RTK拮抗物質は、好ましくは小分子である。小分子の幾つかの例には、有機化合物、有機金属化合物、有機化合物および有機金属化合物の塩、および無機化合物である。小分子中の原子は共有結合およびイオン結合を介して互いに連結しており、前者は小分子チロシンキナーゼ阻害剤などの小型有機化合物では一般的であり、また後者は無機化合物に特有である。小分子中の原子の配列は鎖、例えば炭素−炭素鎖または炭素−ヘテロ原子鎖を表すこともあり、また炭素原子を含有する環、例えばベンゼンまたは多環系、あるいは炭素とヘテロ原子の組合せ、例えばピリミジンまたはキナゾリンなどのヘテロ環を表すこともある。小分子は任意の分子量を有することができるが、一般にはそれらには、それらの分子量が650 D以下であることを除いて普通なら生体分子と考えられる分子が含まれる。これら小分子には、ホルモン、神経伝達物質、ヌクレオチド、アミノ酸、糖類、脂質、およびこれらの誘導体などの自然界に見出される化合物と、在来の有機合成、生物が介在する合成、またはこれらの組合せのいずれかにより合成的に作られる化合物との両方が含まれる。例えば、Ganesanの論文Drug Discov. Today, 7(1): 47〜55 (Jan. 2002) およびLouの論文Drug Discov. Today, 6(24): 1288〜1294 (Dec. 2001) を参照されたい。
【0082】
より好ましくは本発明により細胞内RTK拮抗物質として使用される小分子は、キナーゼドメインを有するEGFRの細胞内結合領域との結合を得るために、またはEGFR活性化の情報伝達経路に関与するタンパク質との結合を得るためにATPと競合する細胞内EGFR拮抗物質である。このような情報伝達経路の例には、ras分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路、ホスファチジルイノシトール−3キナーゼ(PI3K)−Akt経路、ストレス活性化タンパク質キナーゼ(SAPK)経路、ならびに転写情報伝達性活性化因子(signal transducers and activators of transcription)(STAT)経路が挙げられる。このような経路に関与する(また本発明による小分子EGFR拮抗物質が結合することができる)タンパク質の非限定的な例には、GRB-2、SOS、Ras、Raf、MEK、MAPK、およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)が挙げられる。
【0083】
小分子EGFR拮抗薬の一例はIRESSA(商標)(ZD1939)であり、これはEGFRを阻害するようにATP擬似物質として働くキノザリン誘導体である。米国特許第5,616,582号(Zeneca Limited)、および国際公開第WO96/33980号(Zeneca Limited)の4頁を参照されたい。またRowinsky等の第37版 Annual Meeting of ASCO, San Francisco, CA, 12〜15 May 2001で発表したAbstract 5、およびAnido等の第37版 Annual Meeting of ASCO, San Francisco, CA, 12〜15 May 2001で発表したAbstract 1712も参照されたい。小分子EGFR拮抗薬の別の例はTARCEVA(商標)(OSI-774)であり、これは4−(置換フェニルアミノ)キノザリン誘導体[6,7−ビス(2−メトキシ−エトキシ)−キナゾリン−4−イル]−(3−エチニル−フェニル)アミン塩酸塩であるEGFR阻害剤である。国際公開第WO96/30347(Pfizer Inc.)の例えば2頁12行から4頁34行および19頁14〜17行を参照されたい。またMoyer等の論文Cancer Res., 57: 4838〜48 (1997)、およびPollack等の論文J. Pharmacol, 291: 739〜48 (1998)も参照されたい。TARCEVA(商標)は、EGFRおよびその下流PI3/Aktのリン酸化と、p27が仲介する細胞周期の停止を引き起こすMAP(分裂促進因子活性化タンパク質)キナーゼの情報伝達経路とを阻害することによって機能を果たすことができる。Hidalgo等の第37版 Annual Meeting of ASCO, San Francisco, CA, 12〜15 May 2001で発表したAbstract 281を参照されたい。
【0084】
他の小分子もまたEGFRを阻害することが報告されており、それらの多くはEGFRのチロシンキナーゼドメインに向けられると考えられる。このような小分子EGFR拮抗物質の幾つかの例は、国際公開第WO91/116051号、国際公開第WO96/30347号、国際公開第WO96/33980号、国際公開第WO97/27199号(Zeneca Limited)、国際公開第WO97/30034号(Zeneca Limited)、国際公開第WO97/42187号(Zeneca Limited)、国際公開第WO97/49688号(Pfizer Inc.)、国際公開第WO98/33798号(Warner Lambert Company)、国際公開第WO00/18761号(American Cyanamid Company)、および国際公開第WO00/31048号(Warner Lambert Company)に記載されている。特定の小分子EGFR拮抗薬の例には、Cl-1033(Pfizer)(これはチロシンキナーゼ、特にEGFRの阻害剤キノザリン(N−[4−(3−クロロ−4−フルオロ−フェニルアミノ)−7−(3−モルホリン−4−イル−プロポキシ)−キナザリン−6−イル]−アクリルアミド)であり、国際公開第WO00/31048号の8頁22〜6行に記載されている)、PKI166(Novartis)(これはEGFRの阻害剤ピロロピリミジンであり、国際公開第WO97/27199号の10〜12頁に記載されている)、GW2016(GlaxoSmithKline)(これはEGFRおよびHER2の阻害剤である)、EKB569(Wyeth)(これはin vitroおよびin vivoでEGFRおよびHER2を過剰発現させる腫瘍細胞の成長を阻害することが報告されている)、AG-1478(Tryphostin)(これはEGFRおよびerB-2の両者由来のシグナルを阻害するキナゾリン小分子である)、AG-1478(Sugan)(これはタンパク質キナーゼCK2もまた阻害する二基質阻害剤である)、PD153035(Parke-Davis)(これはEGFRキナーゼ活性および腫瘍成長を阻害し、培養で細胞中にアポプトシスを誘発させ、また細胞毒性の化学療法薬の細胞障害作用を高めることが報告されている)、SPM-924(Schwarz Pharma)(これは前立腺癌の治療を目的とするチロシンキナーゼ阻害剤である)、CP-546,989(OSI Pharmaceuticals)(これは報じられているところでは充実性腫瘍の治療のための脈管形成の阻害剤である)、ADL-681(これは癌の治療を目的とするEGFR キナーゼ阻害剤である)、PD158780(これはマウスにおいてA4431異種移植片の腫瘍成長速度を抑制することが報告されているピリドピリミジンである)、CP-358,774(これはマウスにおいてHN5異種移植片中の自己リン酸化を抑制することが報告されているキンゾリン(quinzoline)である)、ZD1839(これは陰門、NSCLC、前立腺、卵巣、および結腸直腸の癌を含むマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を有することが報告されているキンゾリン(quinzoline)である)、CGP59326A(これはマウスにおいてEGFR陽性異種移植片の成長を抑制することが報告されているピロロピリミジンである)、PD165557(Pfizer)、CGP54211とCGP53353(Novartis)(これら2つはジアニルノフタルイミドである)が挙げられる。天然由来のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤には、ゲニステイン、ハービマイシン、ケルセチンA、ケルセチン、およびアーブスタインが挙げられる。
【0085】
EGFRを阻害することが報告されている、したがって本発明の範囲内にあるさらなる小分子は、米国特許第5,679,683号に記載の化合物のような三環式化合物、米国特許第5,616,582号に記載の誘導体のようなキナゾリン誘導体、および米国特許第5,196,446号に記載の化合物のようなインドール化合物である。
【0086】
別の実施形態ではこのEGFR拮抗薬を、例えばサイトカイン(例えばIL-10およびIL-13)またはこれらには限定されないがケモカイン、腫瘍関連抗原、およびペプチド等の他の免疫刺激物質などの1種類または複数種類の適切なアジュバントと組み合わせて投与することができる。例えばLarrivee等の論文(上記)を参照されたい。しかし抗EGFR抗体のみの投与が、治療に効果的なやり方で腫瘍の進行を予防、阻害、または緩和するのに十分であることを認めるべきである。
【0087】
併用療法ではこの抗EGFR抗体は、別の薬剤およびその任意の組合せによる療法を開始する前、間または後、すなわちその抗悪性腫瘍薬療法を開始する前と間、前と後、間と後、または前、間、後に投与される。例えばこの抗EGFR抗体は、放射線療法を開始する前、1日から30日の間、好ましくは3日から20日の間、より好ましくは5日から12日の間投与することができる。本発明の好ましい実施形態では化学療法は、抗体療法と同時に、またはより好ましくは抗体療法に続けて施される。
【0088】
本発明では任意の適切な方法または経路を用いて本発明の抗EGFR抗体を投与することができ、また任意選択で抗悪性腫瘍薬および/または他の受容体の拮抗薬を同時投与することもできる。本発明により利用される抗悪性腫瘍薬養生法には、患者の新生物形成状態の治療に最も適していると考えられる任意の養生法が含まれる。様々な悪性腫瘍が、特定の抗腫瘍抗体および特定の抗悪性腫瘍薬の使用を必要とする場合があり、患者ごとに決められることになる。投与の経路には、例えば経口、静脈内、腹膜内、皮下、または筋内の投与が挙げられる。投与される拮抗薬の用量は、例えば拮抗薬の種類、治療される腫瘍の種類と重症度、およびその拮抗薬の投与経路を含めた非常に多くの要因に左右される。しかし本発明は投与のどのような特定の方法または経路にも限定されないことは強調されるべきである。
【0089】
本発明の抗EGFR抗体は複合体として投与することができることは注目される。これはその受容体と特異的に結合し、リガンド−毒素のインターナリゼーション後に毒素の致死有効搭載量を送達する。抗体−薬物/小分子の複合体は互いに直接に連結することもでき、またリンカー、ペプチド、または非ペプチドを介して連結することもできる。
【0090】
本発明の別の態様において本発明の抗EGFR抗体は、1種類または複数種類の抗悪性腫瘍薬または抗脈管形成薬と化学的または生合成的に連結することができる。
【0091】
本発明はさらに、標的部分またはリポーター部分が連結する抗EGFR抗体について検討する。例えば抗悪性腫瘍薬は、そのようなペアの第二メンバーと結合することによって、その抗EGFR抗体が連結する部位に向けて送られる。このような結合ペアの一般的な例は、アビジンおよびビオチンである。好ましい実施形態ではビオチンは、抗EGFR抗体と結合し、またそれによってアビジンまたはストレプトアビジンと結合する抗悪性腫瘍薬または他の部分に標的を与える。あるいはビオチンまたはこのような他の部分は本発明の抗EGFR抗体と連結し、例えば検出可能な信号を発生する薬品をアビジンまたはストレプトアビジンと結合させる診断システムにおいてリポーターとして用いられる。
【0092】
本発明の抗EGFR抗体は、予防または治療の目的で哺乳動物に使用する場合、薬学的に許容される担体をさらに含む組成物の形態で投与されることになることが分かる。薬学的に許容される好適な担体には、例えば水、生理食塩水、リン酸塩緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどのうちの1種類または複数種類、およびこれらの組合せが挙げられる。薬学的に許容される担体は、湿潤剤または乳化剤、あるいは結合タンパク質の貯蔵寿命または有効性を高める保存剤または緩衝液などの少量の補助的な物質をさらに含むことができる。その注射液の組成は、当業界で知られているように哺乳動物に投与した後に活性成分の迅速な、持続性の、または遅延性の放出を可能にするように処方することができる。
【0093】
本発明にはまた、治療有効量のヒト抗EGFR抗体を含む、腫瘍成長および/または腫瘍伴性脈管形成を阻害するためのキッドが含まれる。これらのキッドは、例えば腫瘍形成または脈管形成に関与する別の成長因子受容体(例えば上記のVEGFR-1/Flt-1、VEGFR-2、PDGFR、IGFR、NGFR、FGFRなど)の任意の適切な拮抗物質をさらに含有することができる。あるいは、またはこれに加えて本発明のキッドは、抗悪性腫瘍薬をさらに含むことができる。本発明の文脈における好適な抗悪性腫瘍薬の例は本明細書中に記述されている。本発明のキッドはアジュバントをさらに含むことができ、その例は本明細書中に記述されている。
【0094】
さらに、本発明の範囲内には当業界でよく知られている研究または診断の方法のためのin vivoおよびin vitroでの本発明の抗体の使用が含まれる。これらの診断方法には、本発明の抗体を含有するキッドが含まれる。
【0095】
したがって上記のように本発明の受容体拮抗薬を当業界でよく知られている研究、診断、予防、または治療の方法のためにin vivoおよびin vitroで用いることができる。本明細書中で開示した本発明の原理の変形形態が当業技術者によってなされうることはもちろん理解し予想しているつもりであり、またこのような修正形態は本発明の範囲内に包含されることを意図している。
【0096】
高いEGFR活性化は、時には本発明に従って治療される状態と関連がある。無秩序な受容体シグナルを引き起こす高レベルのリガンド、EGFR遺伝子増幅、受容体の転写の増加、または突然変異が、高いEGFR活性化を招く可能性がある。EGFRをコードする遺伝子の増幅もまた、そのEGFRと結合するリガンドの数の増加を招き、それが細胞増殖をさらに刺激する可能性がある。EGFRは、遺伝子増殖の不在下では、恐らくEGFR転写、mRNA翻訳、またはタンパク質の安定性を増大させる突然変異を介して過剰発現する可能性がある。EGFR突然変異体は、構成要素となる活性チロシンキナーゼを有する神経膠腫、非小細胞性の肺の癌腫、卵巣の癌腫、および前立腺の癌腫中で確認されており、これはそれらの癌中のEGFR過剰発現ではなく、高レベルEGFR活性の役割を示唆する。例えば、Pedersen等の論文Ann. Oncol., 12 (6): 745〜60 (2001)を参照されたい(III型EGFR突然変異(EGFRvIII、de2〜7 EGFR、またはAEGFRと様々な名前で呼ばれている)は、エキソン2〜7がコードする細胞外リガンド結合ドメインの部分が欠けている)。また、Wikstrand等の論文Cancer Res., 55: 3140〜3148 (1995)も参照されたい。
【実施例】
【0097】
下記の実施例は、本発明をさらに例示するが、本発明の範囲を少しでも限定するものと解釈されるべきではない。ベクターおよびプラスミドの構築、このようなベクターおよびプラスミド中への遺伝子をコードするポリペプチドの挿入、宿主細胞中へのプラスミドの導入、ならびに遺伝子および遺伝子産物の発現とその定量に使用されているものなど、従来の方法の詳細な説明は、Sambrook, J.等著のMolecular Cloning: A laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)を含めた非常に多くの刊行物から得ることができる。本明細書中で言及されるすべての参考文献はそれらの全体が組み込まれる。
【0098】
実施例1:ヒト抗EGFR抗体の単離
手短に言えば、これらのヒト抗体は、EGFR陽性腫瘍から単離した可溶性ヒトEGFRに対するバイオパンニングによって、Dyax, Cambridge, MAから得られるヒトのナイーブFabバクテリオファージライブラリーから単離された。ヒトの抗体産生細胞(末梢Bリンパ球)の重鎖および軽鎖可変領域を含有するこのナイーブFabバクテリオファージライブラリーは、V遺伝子特異的フォワードおよびリバーズプライマーを用いて一次PCR反応で増幅し、これらの個々のVHおよびVL遺伝子を別々のベクター中にクローン化することによって、未感作の免疫していないヒトと、胃の癌腫を有する患者由来の腫瘍のない脾臓細胞とから構築された(国際公開第WO00/70023号)。
【0099】
このFabライブラリー株を、対数増殖期まで成長させ、M13K07ヘルパーファージで救出し、2YTAK培地(アンピシリン100μg/mLおよびカナマイシン50μg/mLを含有する2YT)中で30℃で一晩増幅させた。このファージ調製物を4%PEG/0.5M NaCl中で沈殿させ、3%脱脂乳/PBS中に再懸濁して非特異的結合を遮断した。
【0100】
約1×1012 pfuの予め遮断したファージを106個のEGFR過剰発現A431細胞と共に単純DMEM培地1 mL中で4 ℃において1時間インキュベートした後、細胞をPBSで15回洗浄した。この結合したファージを、IMC-C225を0.5 mg/mL含有する1 mLのPBSを用いてRTで30分間インキュベートすることにより溶離した。この溶離ファージを対数増殖期中間部のTG1細胞10 mLと共に37℃において静止30分間および振とう30分間インキュベートした。この感染TG1細胞をペレットにし、数個の大型2YTAGペトリ皿に塗布し、30℃で一晩インキュベートした。ペトリ皿上で成長したすべてのコロニーを削って3から5 mLの2YTA培地中に入れ、グリセロールと混ぜ(最終濃度10%)、等分し、−70℃で保管した。次回の選択の場合、このファージ株100μLを2YTAG培地25 mLに加え、対数増殖期中間部まで成長させた。この培養物をM13K07ヘルパーファージで救出し、増殖し、沈殿させ、上記手順に引き続く選択のために用いた。
【0101】
各回の選択後に回収した個々のTG1クローンを無作為に抜き取り、96ウェルプレート中で37℃において成長させ、上記と同様にM13K07ヘルパーファージで救出した。このファージ調製物を1/6体積の18%乳/PBSでRTにおいて1時間遮断し、組換えEGFRの膜(1μg/mL×100μL)で覆ったMaxi-sorp96ウェルマイクロタイタプレート(Nunc)に加えた。RTで1時間インキュベートした後、これらのプレートをPBSTで3回洗浄し、マウス抗M13ファージ−HRP複合体(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)と共にインキュベートした。これらのプレートを5回洗浄し、TMBペルオキシダーゼ基質(KPL, Gaithersburg, MD)を加え、マイクロプレートリーダ(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて450 nmにおける吸光度を読み取った。
【0102】
同定したクローンを、さらにEGF結合の阻害について試験した。クローンのDNA指紋法を用いてユニーククローンを区別した。各消化パターンについて代表的なクローンを抜き取り、DNA塩基配列決定にかけた。
【0103】
実施例2−可溶性Fab断片の発現および精製
11F8 Fabをコードする遺伝子を含有するプラスミドを用いて非サプレッサーE. coli宿主HB2151を形質転換した。HB2151中でのFab断片の発現は、1 mMイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG, Sigma)を含有する2YTA培地中で30℃で細胞を培養することによって誘発した。細胞の周辺抽出液は、20%(w/v)スクロース、200 mM NaCl、1 mM EDTA、および1 mM PMSFを含有する25 mMトリス(pH 7.5)中にこの細胞ペレットを再懸濁し、続いて1時間静かに振とうしながら4℃でインキュベートすることによって調製した。遠心分離後、可溶性Fabタンパク質を、製造業者の実験計画案(Amersham Pharmacia Biotech)に従ってタンパク質Gカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより上澄みから精製した。
【0104】
実施例3−ヒト抗EGFR IgG1抗体の構築
ヒト抗EGFR Fabを遺伝子工学的に完全ヒトIgG1に作り変えた。選択されたFab候補C11F8は、ヒトEGFR(ErbB)との高い親和性結合およびそのリガンド遮断活性に関してヒトのナイーブFabファージディスプレイライブラリーから特定された。そのC11F8 Fab軽鎖の可変領域(配列番号15)および重鎖遺伝子(配列番号7)をコードするDNA配列はPCR増幅によって得られ、Lonza Biologics, Inc.から入手したグルタミンシンターゼ発現系を用いてヒトIgG1不変ドメインを含有する発現ベクター中にクローン化した。
【0105】
PCR増幅は、製造業者の仕様書および表3に列挙したプライマーによりExpand PCRキット(Boehringer Mannheim, Inc.)を使用して2段階で行った。
【0106】
【表3】
【0107】
手短に言えばこの重鎖および軽鎖のPCR産物は、表4の下記サイクル条件下で50μLのExpand Buffer System#3反応液中で、鋳型として25 ngのC11F8 FabプラスミドDNAと、重鎖(C11F8HFおよびC11F8HR)および軽鎖(C11F8LFおよびC11F8LR)用のフォワードおよびリバーズプライマーの対とを使用して増幅した。
【0108】
【表4】
【0109】
得られたPCR産物は、効率的な免疫グロブリンのプロセッシングおよび分泌を可能にするアミノ酸19個のマウス重鎖遺伝子シグナル配列(MGWSCIILFLVATATGVHS、配列番号25)をコードする免疫グロブリン遺伝子の5’末端に、57塩基対配列を付加する。哺乳動物細胞中の遺伝子の翻訳の効率的な開始のためにコンセンサス「Kozak」配列(J. Mol. Biol. 196:947)が、二次PCR反応中にその重鎖および軽鎖をC11F8HRまたはC11F8LRとそれぞれ組み合わせたフォワードプライマーOSIFを用いて増幅することによって加えられた。このPCR産物はまた、適切な発現ベクター中にその増幅した産物をクローン化するための5’Hind III制限エンドヌクレアーゼを提供する。
【0110】
アガロースゲル精製Hind III−Nhe I重鎖断片を、CMVプロモーターで駆動されるベクターpDFc中にクローン化して可変および不変領域DNA配列の隣接cDNAコード領域を生成した(図1A)。Hind III-Xba I軽鎖断片を、第二のCMVプロモーターで駆動されるベクターp12.1L中にクローン化した(図1B)。得られた構築物は、可変軽領域とκ不変領域を分離する単一イントロンを含有し、これは新生RNA転写物から事実上スプライスされる。この組換えプラスミドをコンピテントE. Coliに形質転換し、選択されたプラスミド分離株をCOS細胞中の重鎖および軽鎖の一過性同時発現に関してスクリーニングした。
【0111】
実施例4−ヒト抗EGFR IgG1抗体の発現
安定なトランスフェクションのために単一プラスミドベクターを、軽鎖含有p12.1Lベクター中にCMVプロモーター含有重鎖発現カセットのNot I−Sal I断片をクローン化することによって生成させた。得られたプラスミドベクターpGS−11F8の制限地図を作成した(図1C参照)。その制限消化分析結果を図2に示した。
【0112】
11F8モノクローナル抗体の産生用に使用した組換え細胞株は、非分泌性マウス骨髄腫細胞株NS0から得られる(Barnes等の論文Cytotechnology 32:109 (2000)中で言及されている)。このNS0細胞株はLonza Biologics, Inc.(Slough, Berkshire, UK)から得た。
【0113】
プラスミドpGS−11F8を、キャパシタンス400μFdおよび観測による時定数9.0 msecを有し、電圧250Vに設定したBioRad Gene Pulser IIを用いて電気穿孔法によりこの骨髄腫細胞株NS0にトランスフェクトした。この電気穿孔した細胞を、10%透析ウシ胎児血清、dFCS(HyClone, Logan, UT)、および2 mMグルタミン(InVitrogen/Life Technologies, Paisley, PA)を含有するDMEM(JRH Biosciences, Inc., Lenexa, KS)中に再懸濁した。この再懸濁した細胞50μLを1ウェル当たり5,000〜10,000細胞の密度で96ウェルのプレートに播種した。トランスフェクションから24時間後にこれらグルタミンシンセターゼ(GS)陽性トランスフェクタントを、1×GSを補った10%dFCSを含有する、グルタミンを含まないDMEM培地(JRH Biosciences, Inc.)の添加により選択した。抗体発現クローンについてスクリーニングするのに先立ってコロニーの成長および拡大を可能にするために、細胞を37℃、5%のCO2で2〜4週間培養した。
【0114】
抗EGFR抗体を発現させるクローンを、ワサビダイコンペルオキシダーゼ抗ヒト Fc(γ)によるELISAを用いてスクリーニングし、A450nmで検出を行った。陽性クローンを展開させ、3〜5日の培養期間のあいだ再試験を行った。強い陽性体(25μL/mg以上の抗体産生)をさらなる分析のために展開させた。249μg/mLの抗体バッチ生産の結果に基づいてClone #34を限界希釈サブクローニング用に選択し、再判定した。親細胞株に匹敵またはそれよりすぐれたClone 34-5を、均一な生産レベルに基づいて選択した(バッチ生産=310μg/mL、供給バッチ=0.75〜0.8 g/L)。Clone #34-5-3を2回目のサブクローニング後に単離し、分析結果はClone #34-5-3が高レベルの抗体を産生することを示した(バッチ生産=324μg/mL、供給バッチ=1.0〜1.2 g/L)。このクローンのさらなる特徴の記述を下記の各実施例において行った。
【0115】
実施例5−EGFRとの抗体のin vitro結合
これら抗体をIMC−11F8とIMC−C225の結合特性を比較する固相ELISAでスクリーニングした。96ウェルマイクロタイタプレートを、4℃の炭酸緩衝液に溶かした1μg/mLの膜で一晩覆った。それらプレートを、10%の新生ウシ血清を補ったリン酸緩衝塩類溶液(PBS)により37℃で1時間遮断した。様々な量のIMC−11F8またはIMC−C225をそれらプレートに加え、室温でさらに60分間インキュベートし、次いでPBSで洗浄した。マウス抗ヒトFc抗体−ワサビダイコンペルオキシダーゼ(HRP)複合体を加え、室温でさらに60分間インキュベートし、次いでPBSで徹底的に洗浄した。次いでこのプレートをHRP基質と共に30秒〜2分間インキュベートし、反応を0.1M H2SO4で停止させた。これらプレートをELISAリーダを用いてOD450nmで読み取った。
【0116】
図3は、IMC−11F8およびIMC−C225抗体のEGFRとの結合を示す。IMC−11F8とIMC−C225の両方ともEGFRに対して似た結合を示している。
【0117】
実施例6−これら抗EGFR抗体の結合速度動態
IMC−11F8とIMC−C225 IgG抗体、およびそれらそれぞれのFab断片の結合速度動態を、BIAコアセンサー(Pharmacia Biosensor)を用いて測定した。EGFR−AP融合タンパク質をセンサーチップ上に固定化し、可溶性のIMC−11F8およびIMC−C225抗体を1.5 nMから100 nMの範囲にわたる濃度で注入した。センサーグラムが各濃度で得られ、これを速度定数konおよびkoffを求めるためのプログラムであるBIA Evaluation 2.0により分析した。親和性定数Kdを速度定数の比koff/konから計算した。
【0118】
本発明の抗EGFR抗体の結合速度動態を表5に例示する。これらは、これら両抗EGFR抗体がEGFRに対して似た結合速度動態を有することを示している。
【0119】
【表5】
【0120】
実施例7−EGFRに対するこれら抗体の特異性
EGFRとの抗体の結合を125I-EGF競合検定により評価した。24ウェルCOSTAR(Fisher Scientific, U.S.A.)で1ウェル当たりHT29細胞2×104個を、1.5 mM L‐グルタミン、10%CS、および抗生物質を補った37℃のMcCoyの5a培地中に播種した。次いでこの細胞の単層を、様々な量の125Iで標識したEGFと混合した様々な濃度の標識していないEGF、11F8、またはIMC−C225と共に室温で1時間インキュベートした。これら細胞を冷PBS で洗浄し、細胞に随伴する放射能をガンマカウンタで測定した。
【0121】
図4は、HT29細胞上でのEGFRの125I−EGFとの結合の阻害を示す。10から100 nMの間の濃度でIMC−11F8は、HT29細胞上での125I−EGFのEGFRとの結合の阻害においてIMC−C225と同じ程度の効率である。これら両抗体は、結合に関しての競合においてEGFRの天然のリガンドであるEGFよりもすぐれている。同様の結果が、A431細胞上での125I−EGFのEGFRとの結合の阻害についても観察された。
【0122】
実施例8−EGFR活性化
手短に言えばキナーゼ受容体活性化検定(KIRA検定)、すなわちリン酸化検定を、BxPC3またはA431細胞を用いて行った。細胞を、まず重炭酸ナトリウム1.5 g/Lおよびグルコース4.5 g/L を含有するように調整した4 mM L‐グルタミンおよび10%CSを補ったDME中で37℃で集密度90%まで成長させた。実験に先立って細胞を、0.5%CSを補ったDME中で24時間絶食させた。EGFが誘発するEGFRの活性化に及ぼす抗体、IMC−11F8、IMC−C225、およびIMC−1C11の効果を評価するために、様々な濃度の抗体を30分間、室温で事前に結合させ、続いて8 ng/mLのEGFでさらに15分間刺激した。刺激後、これら細胞の単層を1 mMオルトバナジン酸ナトリウムを含有する冷PBSで洗浄した。細胞を溶菌緩衝液(20 mMトリスHCl(pH 7.4)、1%トリトンX-100、137 mM NaCl、10%グリセロール、10 mM EDTA、2 mMオルトバナジン酸ナトリウム、100 mM NaF、100 mMピロリン酸ナトリウム、5 mM PEFABLOC(登録商標)SC(Boehringer Mannheim Biochemicals, Indianapolis, IN)、アプロチニン100μg、およびロイペプチン100μg/mL)中で溶解し、14,000 x gで10分間遠心分離した。透明になった細胞ライゼートを、ポリクローナル抗EGFR抗体の膜で覆った96ウェルプレートの各プレートに加えた。プレートを洗浄して非特異的に結合したタンパク質を除去し、EGFRリン酸化のレベルを抗ホスホチロシン抗体の添加によって判定した。徹底的に洗浄した状態で、結合した抗ホスホチロシン抗体の量をELISAリーダを用いてOD450nmで測定した。
【0123】
これらの結果は、試験したBxPC3(図5)およびA431(図6)細胞の両方において対照抗体IMC−1C11と比べて、IMC−11F8によるEGFRのリン酸化が顕著に減少することを示している。
【0124】
EGF刺激EGFRリン酸化の阻害を、さらに免疫沈降EGFRのウェスタンブロット分析により評価した。A431細胞を抗体と事前に結合させ、続いて上記のようにEGFで刺激した。EGFRと結合するがEGFRリン酸化を阻害しない対照抗体を使用した。タンパク質(EGFR)を、ポリクローナル抗EGFR抗体、続いてタンパク質Aセファロースビーズを用いて透明なライゼートから免疫沈降させた。次いでこの結合したビーズを0.2%トリトンX-100、10 mMトリスHCl(pH 8.0)、150 mM NaCl、2 mM EDTA(緩衝液A)で1回、500 mM NaClを含有する緩衝液Aで2回、およびトリスHCl(pH 8.0)で2回洗浄した。排出ビーズを2×SDS負荷緩衝液30μLと混合し、沸騰させ、上澄みをSDS-PAGEにかけた。電気泳動によるタンパク質の分離後、そのタンパク質のバンドを、ウェスタンブロット分析用のニトロセルロースフィルター上に移した。このフィルターを、50 mMトリスHCl(pH7.4)、5%ウシ血清アルブミンを含有する150 mM NaCl(TBS)、および10%脱脂粉乳の遮断緩衝液中で一晩遮断した。リン酸化した受容体を検出するためにこれらブロットを遮断緩衝液中で抗ホスホチロシン抗体により室温において1時間プローブした。次いでこれらブロットを、0.1%トゥイーン−20を含有する0.5×TBS(TBS-T)で徹底的に洗浄し、HRPと結合させたヤギ抗マウスIg(Amersham, Little Chalfont, U.K.)と共にインキュベートした。ブロットをTBSで洗浄し、ケミルミネッセンス試薬(ECL, Amersham, Little Chalfont, U.K.)とともに1分間インキュベートした。リン酸化タンパク質と反応する抗ホスホチロシンを、高性能ルミネッセンス検出フィルム(Hyperfilm-ECL, Amersham, Little Chalfont, U.K.)に0.5から10分間露光させることによって検出した。
【0125】
図7Aのウェスタンブロット分析結果は、IMC−C225と同様にIMC−11F8がEGFRのリン酸化を阻害することを示す。EGF抗体も対照抗体で処理した細胞もどちらも完全にはEGFRのリン酸化を阻害しないことを示している。図7Bは、EGFRの合成が細胞に抗体を加えることにより阻害されないことを示している。図8は、EGFRのリン酸化がIMC−11F8によって阻害されることを示している。70%を超える阻害が、試験した最も低い抗体濃度(0.8 nM)において異なる起源の3種類の腫瘍細胞株(A431、BxPC3、HT-29)について観察された。
【0126】
EGFRの主要な下流シグナル分子であるMAPキナーゼp44/p42の一方に及ぼすIMC−11F8の効果もまた調査した。IMC−11F8は、A431、BxPC3、およびHT-29細胞中でのEGF刺激に続くp44/p42 MAPキナーゼのリン酸化を用量に依存する仕方で遮断した(図4)。
【0127】
実施例9−細胞増殖の阻害
MTT細胞増殖検定は、代謝活性細胞による黄色テトラゾリウムMTT(臭化3−(4, 5−ジメチルチアゾリル−2)−2, 5−フェニルテトラゾリウム)の細胞内紫色ホルマザン生成物への還元の結果として色を計量的に測定する。この生成物は、可溶化し、分光光度的手段により定量することができる。手短に言えば、DiFi細胞をDMEM−10%CS中で一晩培養した。抗体、IMC−11F8、IMC−C225、またはIMC−1C11を3部分からなるウェルに加え、5%CO2で37℃においてさらに72時間インキュベートした。細胞成長を測定するために各ウェルにテトラゾリウム染料のアリコート20μLを加え、細胞を37℃で3時間インキュベートした。顕微鏡で紫色の沈殿がはっきり認識できたとき、細胞を界面活性剤試薬100μLの添加により溶解した。増殖の定量値としてこのホルマザン生成物の吸光度をOD570nmにおいて測定した。
【0128】
図9に示すように対照抗体IMC−1C11とは違って、IMC−11F8はIMC−C225と同じ程度の効力の細胞増殖阻害剤である。
【0129】
実施例10−抗体依存性細胞障害(ADCC)活性
細胞死を判定する一方法は、抗体依存性細胞障害検定すなわちADCCによるものであり、一般には放射性同位元素を使用する。51Crで標識した標的細胞を抗体と混合し、死滅の度合いを51Crの放出により判定する。手短に言えばDiFi細胞約3×106個を培養液0.5μL中に懸濁し、0.5 mCiのNa51CrO4を加えた。この混合物を時折振とうしながら37℃で1時間インキュベートした。次いでこの細胞を冷培養液で3回洗浄した。次いでこの標識した細胞を様々な濃度の抗EGFR抗体(IMC−11F8またはIMC−C225)を含有する培養液100μL中に懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。次いでこの細胞を遠心分離によって培養液で3回洗浄した。ウサギの補体を加え、その処理細胞を37℃で1時間さらにインキュベートした。次いで冷培地50μLを加え遠心分離した。次いで上澄みを取り出し、その上澄み中に細胞によって放出された放射能をガンマカウンタによって測定した。放射能の最大放出はその標的細胞に1%トリトンXを加えることによって得られた。細胞障害パーセントは、実験に基づく放出cpmからバックグラウンドcpmを引いたものに100%を掛け、次にそれを最大放出cpmからバックグラウンドcpmを引いたもので割る方法で計算した。
【0130】
図10は、IMC−11F8およびIMC−C225(すなわちERBITUX(登録商標))が抗体依存性細胞障害の活性化(すなわちADCC活性)を介して細胞死の仲介をすることを示す。
【0131】
実施例11−マウスにおける腫瘍細胞成長のin vivoでの阻害
IMC−11F8が異種移植モデルにおいて腫瘍細胞の成長を遮断するかどうかを判定するためにin vivoでの抗腫瘍調査を計画した。無胸腺マウス(nu/nu、Charles River Lab, Wilmington, MA)の脾腹に1〜2百万個のA431またはBxPC-3細胞を皮下注射した。抗EGFR抗体(IMC−11F8およびIMC−C225)または対照抗体を1用量当たり1 mgまたは0.3 mgのいずれかで週3回腹膜内に投与した。腫瘍の大きさを少なくとも週3回カリパスで測定し、腫瘍体積を計算した(例えばBaselga等の論文J. Natl. Cancer Inst. (1993) 85:1327〜1333参照)。
【0132】
図11は、A431異種移植モデルにおけるIMC−11F8の抗腫瘍活性を示す。1 mgの用量(図11、右側パネル)ではIMC−11F8は、腫瘍成長を抑制または阻害において対照動物と比較してIMC−C225(CETUXIMAB)と同じ程度の効果である。0.3 mgのより低い用量で腫瘍成長の進行が遅れる。同様に図12は、第二腫瘍モデル(BxPC3異種移植)におけるIMC−11F8およびIMC−C225の効果を示す。BxPC3腫瘍成長の速度動態は、A431腫瘍モデルで観察されたものに似ている。注射1用量当たり1マウス当たり1.0 mgのレベルではIMC−11F8は、A431を持った8匹の動物のうち6匹の腫瘍退縮をもたらし、またBxPC-3を持った8匹のマウスのうち5匹の腫瘍退縮をもたらした。
【0133】
A431とBxPC-3の両方の異種移植切片の免疫組織化学染色の結果は、IMC−11F8処理が腫瘍細胞密度を顕著に減少させ、腫瘍内の壊死性無細胞デブリの面積を増加させたことを示した(図13)。さらにIMC−11F8は腫瘍切片全体にわたってKi-67陽性細胞の割合を減少させ、これは腫瘍内の細胞増殖の減少を示している(図13)。
【0134】
実施例12−IMC−11F8併用療法
約200〜300 mm3のヒト結腸直腸腫瘍異種移植片GEO、DLD-1、またはHT-29を持ったヌードマウスを、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgのIMC−11F8を単独、またはイリノテカン(CPT−11)の週1回、100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理した。腫瘍の大きさを週2回測定した。
【0135】
マウス当たり1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mg のどちらかによる処理は、3種類すべての結腸直腸異種移植片の成長を有意に阻害した(GEO、DLD-1、またはHT-29、図14A〜C)。GEO異種移植片を持ったマウスにCPT−11と併用して投与した場合、IMC−11F8は、CPT−11単独の場合に観察される腫瘍成長の阻害を有意に増進させた(図14A、IMC−11F8の両用量に対してp<0.01)。さらにCPT−11単独ではこのモデルで腫瘍退縮を少しも引き起こさなかったが、CPT−11をマウス当たり1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgのIMC−11F8と併用した場合、それぞれ10個のうち4個および10個のうち9個の腫瘍退縮が達成された(それぞれp=0.004およびp<0.0001)。同様の併用抗腫瘍効果は、2種類の他の異種移植片DLD-1(図14B)およびHT-29(図14C)においても、高い方の抗体用量(1.0 mg)の群の腫瘍退縮が同等の統計的有意性で観察された。図14Dは、これら3種類の結腸直腸癌異種移植片モデルにおいてCPT−11をIMC−11F8と併用した場合に観察された腫瘍退縮数の著しい増加を示す。
【0136】
実施例13−IMC−11F8の薬物動態
IMC−11F8の薬物動態をカニクイザルで検討し、IMC−C225の薬物動態と比較した。20.5 mg/kgの125I標識IMC−11F8およびIMC−C225の単回投与による薬物動態の検討の場合、サルに別個に静脈内注射し、血液を日中に引き抜いてその動物の血漿中に保持されている抗体量を求めた。表6は、カニクイザルにおけるIMC−11F8およびIMC−C225の薬物動態比較を提供する。
【0137】
【表6】
【0138】
本明細書で開示した発明の原理の変形形態を当業者が行うことがあり得ることは理解されまた予想され、そのような修正形態は本発明の範囲内に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1Aおよび1Bは免疫グロブリン遺伝子pDFCおよびpEE12.1Lの発現用クローニングベクターを示す図であり、また図1Cはその得られる単一完全ヒト抗EGFR抗体含有ベクタープラスミドpGS-11F8を示す図である。
【図2】図2は、pGS-11F8の制限消化プロフィールを示す図であり、DNAサイズマーカーをキロベースペアとしてDNAラダー中に示す。
【図3】図3は、ELISAで測定したIMC-C11F8およびIMC-C225のEGFRとのin vitroでの結合を示す図である。
【図4】図4は、EGFRの結合に関して125I標識EGFを含むIMC-11F8およびIMC-C225のin vitroでの競合結果を示す図である。
【図5】図5は、BxPC3細胞中でのEGFRのリン酸化に及ぼすIMC-11F8およびIMC-C225の効果を示す図であり、使用した対照抗体はIMC-1C11である。
【図6】図6は、A431細胞中でのIMC-11F8およびIMC-C225によるEGFRのリン酸化の阻害を示す図である。
【図7】図7は、非刺激対照細胞(レーン1)、EGF(レーン2)、IMC-C225(レーン3)、IMC-11F8(レーン4)、および対照抗体(レーン5)の存在下でのEGFRリン酸化のウェスタンブロット分析結果を示す図であり、図5Aは抗ホスホチロシン抗体を用いたリン酸化EGFRを示し、また図5Bは刺激細胞中の全EGFRを示す。
【図8】図8は、様々な濃度のIMC-11F8によるEGF刺激EGFRのリン酸化の阻害を示す図であり、図8Aは、非刺激対照細胞(レーン1)、IMC-11F8F抗体で処理していない刺激細胞(レーン2)、15μg/mLのIMC-11F8で処理した刺激細胞(レーン3)、3μg/mLのIMC-11F8で処理した刺激細胞(レーン4)、および0.6μg/mLのIMC-11F8で処理した刺激細胞(レーン3)中でのEGFRの抗ホスホチロシン抗体ウェスタンブロット分析結果を示す。図8Bは、総EGFRを示す。
【図9】図9は、MTT検定で判定されるIMC-11F8、IMC-C225、および対照抗体IMC-1C11によるDiFi細胞増殖の阻害を示す図である。
【図10】図10は、IMC-11F8またはIMC-C225(ERBITUX(登録商標))で処理した51Cr標識DiFi細胞の特異的溶菌を示す図である。
【図11】図11は、IMC-11F8またはIMC-C225(セツキシマブ)のどちらかで処理したマウス中のA431腫瘍細胞の成長を示す図であり、処理していない動物は腫瘍成長に対する対照の役割を果たしている。
【図12】図12は、IMC-11F8またはIMC-C225(セツキシマブ)のどちらかで処理したマウス中のBxPC3腫瘍細胞の成長を示す図であり、処理していない動物は腫瘍成長に対する対照の役割を果たしている。
【図13】図13は、生理的食塩水またはIMC-11F8で処理したヌードマウス由来の異種移植ヒト腫瘍の免疫組織化学的染色を示す図であり、パネルAおよびBは生理的食塩水(A)またはIMC-11F8(B)で処理したヌードマウス由来のA431異種移植片であり、パネルCおよびDは生理的食塩水(C)またはIMC-11F8(D)で処理したヌードマウス由来のBxPC3異種移植片であり、またパネルEおよびFは生理的食塩水(E)またはIMC-11F8(F)で処理したヌードマウス由来のA431異種移植片のKi-67染色である。
【図14A】図14Aは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【図14B】図14Bは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【図14C】図14Cは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【図14D】図14Dは、CPT-11と併用したIMC-11F8によるヌードマウス中の異種移植ヒト結腸直腸癌の阻害を示す図であり、ヌードマウスは、週2回、1回の注射当たり0.3 mgまたは1.0 mgの生理的食塩水またはIMC−11F8を単独、またはCPT−11の週1回の100 mg/kgの用量と併用して腹膜内注射により処理したヒト結腸直腸腫瘍の異種移植片GEO(パネルA)、DLD-1(パネルB)、またはHT-29(パネルC)を持つ。腫瘍の大きさは週2回測定され、データは各群中の動物10匹から得た腫瘍測定値の平均±SEを表す。(D)は、単独またはCPT-11と併用したIMC-11F8で処理した場合の腫瘍の退縮である。各処理群は10個の腫瘍を持つ動物からなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDRH1に配列番号2、CDRH2に配列番号4、CDRH3に配列番号6、CDRL1に配列番号10、CDRL2に配列番号12、およびCDRL3に配列番号14からなる群から選択される、1個または複数個の相補性決定領域を含む単離ヒト抗体または抗体断片。
【請求項2】
CDRH1に配列番号2、CDRH2に配列番号4、およびCDRH3に配列番号6を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項3】
配列番号8を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項4】
CDRL1に配列番号10、CDRL2に配列番号12、およびCDRL3に配列番号14を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項5】
配列番号16を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項6】
CDRH1に配列番号2、CDRH2に配列番号4、CDRH3に配列番号6、CDRL1に配列番号10、CDRL2に配列番号12、およびCDRL3に配列番号14を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項7】
配列番号8および配列番号16を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項8】
EGFRと選択的に結合する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項9】
EGFRがEGFRのリガンドと結合するのを阻害する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項10】
EGFRを中和する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項11】
単鎖抗体、Fab、単鎖Fv、ダイアボディー、およびトリアボディーからなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の前記抗体または抗体断片の複合体。
【請求項13】
抗悪性腫瘍薬、標的部分、またはリポーター部分を含む、請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
抗体または抗体断片をコードし、かつCDRH1に配列番号1、CDRH2に配列番号3、CDRH3に配列番号5、CDRL1に配列番号9、CDRL2に配列番号11、およびCDRL3に配列番号13からなる群から選択される、1個または複数個のヌクレオチド配列を含む単離ポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号7を含む、請求項14に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15を含む、請求項14に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項に記載の前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項18】
請求項17に記載の前記発現ベクターを含む組換え宿主細胞。
【請求項19】
配列番号8を含むポリペプチドと配列番号16を含むポリペプチドとを産生する、請求項18に記載の組換え宿主細胞。
【請求項20】
配列番号8および配列番号16を含むポリペプチドを産生する、請求項18に記載の組換え宿主細胞。
【請求項21】
治療有効量の、請求項1〜11のいずれか1項に記載の前記抗体を投与することを含む、哺乳動物中の腫瘍細胞を阻害する方法。
【請求項22】
前記腫瘍がEGFRを発現する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍がEGFRを過剰発現する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記腫瘍が原発性腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記腫瘍が転移性腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記腫瘍が難治性腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記腫瘍が脈管化腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記腫瘍が、結腸直腸の腫瘍、頭部および頸部の腫瘍、膵臓の腫瘍、肺の腫瘍、乳房の腫瘍、腎臓細胞の癌腫、および神経膠芽腫からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体または抗体断片が抗悪性腫瘍薬と併用して投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記抗悪性腫瘍薬が化学療法薬である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記抗悪性腫瘍薬がイリノテカン(CPT-11)である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記抗悪性腫瘍薬が放射線である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記抗体または抗体断片がEGFR拮抗薬と共に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
前記EGFR拮抗薬が細胞内EGFR拮抗薬である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
治療有効量の脈管内皮因子受容体(VEGFR)拮抗薬の投与をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
治療有効量のインスリン様成長因子受容体(IGFR)拮抗薬の投与をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
治療有効量の、請求項1から11のいずれか1項に記載の抗体を投与することを含む、過剰増殖性疾患の治療方法。
【請求項38】
前記過剰増殖性疾患が乾癬である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記抗体または抗体断片が乾癬用の局所または全身薬と併用して投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体または抗体断片がコルチコステロイドと併用して投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体または抗体断片がレチノイドと併用して投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項1】
CDRH1に配列番号2、CDRH2に配列番号4、CDRH3に配列番号6、CDRL1に配列番号10、CDRL2に配列番号12、およびCDRL3に配列番号14からなる群から選択される、1個または複数個の相補性決定領域を含む単離ヒト抗体または抗体断片。
【請求項2】
CDRH1に配列番号2、CDRH2に配列番号4、およびCDRH3に配列番号6を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項3】
配列番号8を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項4】
CDRL1に配列番号10、CDRL2に配列番号12、およびCDRL3に配列番号14を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項5】
配列番号16を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項6】
CDRH1に配列番号2、CDRH2に配列番号4、CDRH3に配列番号6、CDRL1に配列番号10、CDRL2に配列番号12、およびCDRL3に配列番号14を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項7】
配列番号8および配列番号16を含む、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項8】
EGFRと選択的に結合する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項9】
EGFRがEGFRのリガンドと結合するのを阻害する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項10】
EGFRを中和する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項11】
単鎖抗体、Fab、単鎖Fv、ダイアボディー、およびトリアボディーからなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の前記抗体または抗体断片の複合体。
【請求項13】
抗悪性腫瘍薬、標的部分、またはリポーター部分を含む、請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
抗体または抗体断片をコードし、かつCDRH1に配列番号1、CDRH2に配列番号3、CDRH3に配列番号5、CDRL1に配列番号9、CDRL2に配列番号11、およびCDRL3に配列番号13からなる群から選択される、1個または複数個のヌクレオチド配列を含む単離ポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号7を含む、請求項14に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15を含む、請求項14に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項に記載の前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項18】
請求項17に記載の前記発現ベクターを含む組換え宿主細胞。
【請求項19】
配列番号8を含むポリペプチドと配列番号16を含むポリペプチドとを産生する、請求項18に記載の組換え宿主細胞。
【請求項20】
配列番号8および配列番号16を含むポリペプチドを産生する、請求項18に記載の組換え宿主細胞。
【請求項21】
治療有効量の、請求項1〜11のいずれか1項に記載の前記抗体を投与することを含む、哺乳動物中の腫瘍細胞を阻害する方法。
【請求項22】
前記腫瘍がEGFRを発現する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍がEGFRを過剰発現する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記腫瘍が原発性腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記腫瘍が転移性腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記腫瘍が難治性腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記腫瘍が脈管化腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記腫瘍が、結腸直腸の腫瘍、頭部および頸部の腫瘍、膵臓の腫瘍、肺の腫瘍、乳房の腫瘍、腎臓細胞の癌腫、および神経膠芽腫からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体または抗体断片が抗悪性腫瘍薬と併用して投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記抗悪性腫瘍薬が化学療法薬である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記抗悪性腫瘍薬がイリノテカン(CPT-11)である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記抗悪性腫瘍薬が放射線である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記抗体または抗体断片がEGFR拮抗薬と共に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
前記EGFR拮抗薬が細胞内EGFR拮抗薬である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
治療有効量の脈管内皮因子受容体(VEGFR)拮抗薬の投与をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
治療有効量のインスリン様成長因子受容体(IGFR)拮抗薬の投与をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
治療有効量の、請求項1から11のいずれか1項に記載の抗体を投与することを含む、過剰増殖性疾患の治療方法。
【請求項38】
前記過剰増殖性疾患が乾癬である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記抗体または抗体断片が乾癬用の局所または全身薬と併用して投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体または抗体断片がコルチコステロイドと併用して投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体または抗体断片がレチノイドと併用して投与される、請求項38に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【公表番号】特表2008−500815(P2008−500815A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504185(P2007−504185)
【出願日】平成17年3月21日(2005.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/009583
【国際公開番号】WO2005/090407
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(500581021)イムクローン システムズ インコーポレイティド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月21日(2005.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/009583
【国際公開番号】WO2005/090407
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(500581021)イムクローン システムズ インコーポレイティド (7)
【Fターム(参考)】
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