説明

ヒト検知装置

【課題】固有の送信機を用いることなく、屋内へのヒトの侵入、移動を高精度で検知することができるヒト検知装置を提供する。
【解決手段】屋内及び屋外に、テレビ放送波を受信するアンテナをそれぞれ設置し、この受信信号をADコンバータにてAD変換し、その信号に基き、屋内におけるヒトの存在を検知するヒト検知装置であって、屋内アンテナの受信信号が所定の閾値を越えて変動するとともに屋外アンテナの受信信号が前記閾値以下の範囲で変動したとき屋内にヒトが居ると判断し、屋内アンテナ及び屋外アンテナが共に前記閾値を越えて変動したとき、屋内にヒトが居ないと判断する構成としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト検知装置、特に室内におけるヒトの存在を正確に検知するためのヒト検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安心で安全な社会の実現への需要が高まっており、特に一戸建ての家屋およびマンションなどの住居への不正侵入に対する防犯意識が高まりつつある。これらの状況の下、主として、熱を感知する赤外線やドップラー効果を検知するマイクロ波方式等、数多くのセキュリティシステムが開発され、実用化されている。
【0003】
また、ヒトの屋内への侵入や異常の検知を目的とし、これまでのシステムと検知原理の異なる新たなセキュリティシステムとして、UHF帯テレビ放送波を用いたヒト検知システムが提案されている(特許文献1)。
【0004】
このヒト検知システムでは、屋内において必然的に生じる電波のマルチパス環境を利用している。すなわち、屋内にヒトが居ない場合、マルチパス環境は変化しないためテレビ放送波の受信レベルも変動せず、一方、屋内にヒトが居る場合、ヒトの動きによりマルチパス環境が変化するため受信レベルも変動する。この検知システムは、屋内のヒトの動きに伴い受信レベルが変動する特性を利用してヒトを検知している。またマルチパス環境を利用することで、屋内全体を検知エリアとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−190053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のヒト検知装置は、図12に示すように、テレビ放送波を受信するアンテナ1を建物の屋内2に設置し、ヒトが屋内2に侵入したとき、それに伴う受信レベルの変動を検知して「屋内2にヒトが居る」と判定するものである(なお図示の例は、ヒトが屋内に侵入していない状態を示す)。
【0007】
図2は前記検知装置における動作のフローチャートを示し、屋内アンテナ1における変動レベルが所定のモニタ時間内に1サンプルでも閾値を超えた場合に検知と判定する。すなわち、屋内2へのヒトが侵入しあるいはその移動に伴う受信信号の変動レベルにより検知することができる。しかしながら、屋内アンテナ1の受信レベルは屋内2に侵入したヒトだけではなく、屋外4に居るヒト3の動きや道路を走る車6などの外乱によっても変動する。すなわち、図8に示すように、閾値を1dBとすれば、従来装置では屋内2へのヒト3の侵入及びその移動を100%で検知できるが、ヒト3が屋内2に居ないときでも車6が道路を通ると検知率100%(誤検知)を示すことになる。
【0008】
検知に要するモニタ時間についてみると、図10に示すように、従来の検知装置では、モニタ時間を長くすれば(4〜5秒)、ヒト3が屋内2に侵入又は移動するときの検知確率を増加させることができるが、同時に車6の移動による誤検知確率も増加させてしまうことがわかる。このように、従来のヒト検知装置では、屋内2にヒト3が居なくても外乱によりヒト3の侵入と誤判定する場合を生じ、十分な検知精度が得られないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような問題を解決し、より検知精度の高いヒト検知装置を提供するものである。
【0010】
請求項1に係るヒト検知装置は、屋内及び屋外にそれぞれ設置され、デジタルテレビ放送波を受信する屋内アンテナ及び屋外アンテナよりなるアンテナ部と、前記アンテナ部が受信した信号をAD変換するADコンバータと、前記ADコンバータに入力した前記屋内アンテナ及び屋外アンテナからの信号に基き、屋内におけるヒトの存在を検知する検知部とを備え、前記検知部は、前記屋内アンテナの受信信号が所定の閾値を越えて変動するとともに前記屋外アンテナの受信信号が前記閾値以下の範囲で変動したとき前記屋内にヒトが居ると判断し、前記屋内アンテナ及び屋外アンテナが共に前記閾値を越えて変動したとき、前記屋内にヒトが居ないと判断する機能を有することを特徴とするものである。
【0011】
また請求項2に係るヒト検知装置は、前記閾値が約1dBないし2dBに設定されるものである。
【0012】
また請求項3に係るヒト検知装置は、前記検知部において、前記アンテナ部の受信信号のモニタ時間が約3秒ないし5秒の範囲で設定されるものである。
【0013】
また請求項4に係るヒト検知装置は、前記屋外アンテナが、被検知室を含む家屋が木造建物である場合は、その建物の周囲に約90度隔てて、4個設置され、前記家屋が鉄筋コンクリート建物である場合は、前記家屋の窓が形成されている方向に設置されてなるものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係るヒト検知装置によれば、受信アンテナが屋内だけでなく屋外にも設置され、屋内外の受信レベルが同時にモニタされる。屋内アンテナにおける受信レベル変動の要因は、屋内のヒトおよび外乱であり、一方、屋外アンテナにおける受信レベル変動の要因は、外乱のみである。したがって、屋内アンテナの受信レベルが所定の閾値を超えて変動し、かつ屋外アンテナの受信レベルが閾値以下の変動であれば、屋内にヒトが居ると判定し、屋外アンテナの受信レベルも閾値以上変動すれば外乱と判定することができる。
【0015】
また請求項2に係るヒト検知装置によれば、屋内アンテナでの変動レベルが、屋内にヒトが居る場合または外乱がある場合に2dBを超え、また屋外アンテナにおける変動レベルが、外乱がある場合のみ2dBを超えることから、外乱による誤検知を正確に回避できる。
【0016】
また請求項3に係るヒト検知装置によれば、モニタ時間を約3ないし5秒の範囲に設定することにより、誤検知の確率を減少させ、検知精度を上げることができる。すなわち、従来装置では屋内のヒトの検知確率のみならず外乱による誤検知確率も100%となるのに対し、本装置では、屋内のヒトの検知確率のみ100%に、かつ外乱による誤検知確率を0%にすることができる。
【0017】
また請求項4に係るヒト検知装置によれば、被検知室を含む家屋が木造建物である場合は、屋外アンテナを、その建物の周囲に約90度隔てて、4個設置して、窓あるいは壁を通して進入するテレビ電波を受信させることにより、また家屋が鉄筋コンクリート建物である場合は、テレビ放送波が進入しやすい窓のある方向に屋外アンテナを設置(コンクリート壁は電波を通しにくいため、この方向には屋外アンテナは不要)することにより、外乱に対する誤検知をほぼ確実になくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施の形態に係るヒト検知装置の概略図である。
【図2】従来の検知装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】前記実施の形態に係る検知装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】同装置による測定状態を示す概略図である。
【図5】同装置の回路構成図である。
【図6】屋内アンテナの受信信号レベルの変動例を示す波形図である。
【図7】北西位置に配置した屋外アンテナの受信信号レベルの変動例を示す波形図である。
【図8】従来の検知装置における閾値―検知確率の関係を示す波形図である。
【図9】本発明実施の形態に係るヒト検知装置における閾値―検知確率の関係を示す波形図である。
【図10】従来の検知装置におけるモニタ時間―検知確率の関係を示す波形図である。
【図11】本発明実施の形態に係るヒト検知装置におけるモニタ時間―検知確率の関係を示す波形図である。
【図12】屋内アンテナのみにて検知する従来の検知装置を説明するための平面図である。
【図13】本発明実施の形態に係るヒト検知装置において、屋外アンテナを北西方面に配置した例を示す平面図である。
【図14】本発明実施の形態に係るヒト検知装置において、屋外アンテナを北東方面に配置した例を示す平面図である。
【図15】本発明実施の形態に係るヒト検知装置において、屋外アンテナを南東方面に配置した例を示す平面図である。
【図16】本発明実施の形態に係るヒト検知装置において、屋外アンテナを南西方面に配置した例を示す平面図である。
【図17】本発明実施の形態に係るヒト検知装置において、屋外アンテナを北西、北東、南東及び南西方面の4方向に配置した例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(ヒト検知装置の原理)
以下、本実施の形態に係るテレビ放送波を用いたヒト検知装置(以下本装置という)の原理を説明する。図1に示すように、屋内2(被検知室)と屋外4にそれぞれ屋内アンテナ1及び屋外アンテナ7を設置してテレビ放送波の受信レベルを同時にモニタできる構成とする(協調検知構成)。テレビ放送波Pは屋内2及び屋外4において地面や床、壁に反射することで、複数の伝搬経路からなるマルチパス環境を形成する。ヒト3が屋内2に居ない場合、マルチパス環境は変化せず、そのため受信レベルも変動しない(A)。また、屋内2にヒト3が居る場合、ヒト3の動きに伴い屋内マルチパス環境が乱され、屋内アンテナ1による受信レベルは変動する。しかし、屋外マルチパス環境には影響を与えにくいため、屋外アンテナ7における受信レベルはほとんど変動しない(B)。
【0020】
一方、屋外4にヒト5が居る場合、ヒト5の動きに伴い屋外マルチパス環境が乱され、屋外アンテナ7における受信レベルが変動し、さらに屋内マルチパス環境にも影響を与えるため、屋内アンテナ1における受信レベルも変動する(C)。したがって、屋内アンテナ1の受信レベルが変動したとき、屋外アンテナ7の受信レベルが変動しなければ屋内2にヒト3が居ると判定し(B)、変動すれば外乱と判定することができる(C)。
【0021】
このように本装置は、屋内アンテナ1と屋外アンテナ7における受信レベル変動特性の違いを利用し、屋内2のヒト3のみを検知し、外乱による誤検知の低減を図るものである。
【0022】
(ヒト検知装置の動作)
本装置においては、受信レベルの1秒前との差分を「変動レベル」と定義する。また、検知または非検知と判定するまで変動レベルをモニタする時間(以下、モニタ時間という)を設定し、従来装置及び本装置に適用した。
【0023】
図3に示すように、本装置における動作では、屋内アンテナ1における変動レベルがモニタ時間内に1サンプル以上閾値を超えて、なおかつ屋外アンテナ7における変動レベルがモニタ時間内に1サンプルも閾値を超えなかった場合に検知と判定する。したがって、外乱に伴い屋内アンテナ1における変動レベルが閾値を超えた場合でも、誤検知を低減することができる。
【0024】
これに対し図2に比較例として示す従来装置の動作では、屋内アンテナ1における変動レベルがモニタ時間内に1サンプルでも閾値を超えた場合に検知と判定する。したがって、屋内のヒト3をその動きに伴う変動レベルにより検知することができるが、外乱に伴う変動レベルにより誤検知を生じることがある。
【0025】
(性能評価)
本装置の性能評価を、テレビ放送波の測定結果に基づいて行った。図4に測定環境を示す。評価測定は木造一戸建家屋で行った。この家屋においては、南東方面からテレビ放送波Pが到来し、北西方面は道路に面している。また、北東方面および南西方面には別の木造住宅が建っている(図示せず)。測定では、受信アンテナは、1個の屋内アンテナ1と4個の屋外アンテナ7a、7b、7c、7dを使用した。屋内アンテナ1は、南東方面から到来するテレビ放送波Pに対して外乱の影響を受けやすい北西方面に近い場所に設置し、屋外アンテナ7a、7b、7c、7dは、北西、北東、南東、南西方面にそれぞれ壁と接して設置した。これら屋外アンテナ7a、7b、7c、7dは、建物に対しそれぞれ約90度隔てて配置されている。木造建築の場合、テレビ電波Pは壁を通って屋内に進入する。
【0026】
以下、それぞれの屋外アンテナを、北西アンテナ13a、北東アンテナ13b、南東アンテナ13c、南西アンテナ13dと呼ぶ。まず、マルチパス環境を変化させる要因が何もない場合の受信レベル変動を確認するために、屋内2にヒト3が居ない場合にて測定を行った。次に、検知対象としてヒト3が屋内を移動する場合の測定を行った。誤検知対象の外乱として、図4に示すように、道路の左側を車6が往復移動する場合にて測定を行った。また、他の外乱としてヒト5が屋外敷地内を移動する場合にて実験を行った。
【0027】
本実験においては、図4に示すように、各方向での外乱の影響を検証できるように、敷地内の移動可能な場所(家屋壁面の外側)に沿って所定の広さ(例えば1m×1m)のエリア8、8、8、‥‥を設け、その中をヒト5が周回して移動する状況(各エリア8、8、…内に円形矢印にて示す)にて測定を行った。測定時間は、それぞれ500ms間隔で1分間(120サンプル)、移動するヒト5の人数は1人、車6は1台とし、移動速度は1m/sとした。
【0028】
図5に測定回路の概略を、表1にその諸元を示す。測定周波数は広島放送局から送信されるデジタルテレビ放送波Ch19の中心周波数(509MHz)とした。屋内アンテナ1及び屋外アンテナ7a〜7dには長さが波長lの4分の1となるモノポールアンテナを用いた。これらのアンテナ1、7a〜7dにてアンテナ部が構成される。アンテナ1、7a〜7dよって受信された電波は、それぞれチューナー9、9、‥によって検波され、その受信レベルはADコンバータ10を介してディジタルデータに変換後、PC11に連続記録される。測定に用いたチューナー9、9、‥の3dB帯域幅は230kHzである。なお、アンテナとして、モノポールアンテナを使用したが、これに代えてダイポールアンテナを使用することもできる。
【表1】

【0029】
(変動レベルの測定結果)
本装置の基本性能を、図6及び図7を参照して説明する。図6は、屋内2にヒト3が居ない場合、屋内2にヒト3が侵入又は移動した場合及び屋外4を車6が通った場合の3つのケースにおける屋内アンテナ1の変動レベル変化を、図7は、同様のケースにおける北西アンテナ7aの変動レベル変化を示す。
【0030】
屋内2にヒト3が居ない場合、屋内2および屋外4のマルチパス環境を変化させる要因がなく、両方のアンテナ1、7aともに、変動レベルは1dBを超えないことが分かった。図6に示すように、ヒト3が屋内2に侵入又は屋内2移動した場合、屋内2のマルチパス環境が変化するため、屋内アンテナ1における変動レベルが1dBを超える例が多く見られた。また、車6が移動した場合も屋内2に進入する電波に遮蔽や反射が生じて屋内マルチパス環境が変化するため、屋内アンテナ1における変動レベルが1dBを超える例があった。これより、屋内アンテナ1の変動レベルだけでは屋内2のヒト3によるものか又は外乱によるものかを判定することは困難であることが分かる。
【0031】
一方、図7に示すように、車6が道路を移動する場合は、屋外4のマルチパス環境が変化するため、北西アンテナ7aの受信信号の変動レベルが1dBを超える例が多く見られた。これに対してヒト3が屋内2を移動する場合、一度屋内2に進入した電波が屋外4のマルチパス環境に与える影響がほとんどないため、北西アンテナ7aの受信信号の変動レベルが1dBを超えることはなかった。
【0032】
ここで本装置の性能を評価するため、閾値を1dB、モニタ時間を5秒とし、図3に示す動作を行った場合の例を示す。なお比較のため、図2に示す従来装置の動作例も合わせて説明する。この動作では、モニタ時間5秒間において変動レベルが閾値1dBを1サンプル以上超えるか否かを検出する。
【0033】
以下、実測データの最初の5秒間のデータに適用した結果を述べる。車6が移動する場合、従来装置では、屋内アンテナ1の受信信号変動レベルがモニタ時間内に閾値を超えているため、ヒト3が屋内2に居ないにもかかわらず、居ると誤検知してしまう。しかし、本装置では、屋内アンテナ1の受信信号変動レベルが閾値を超えてはいるが、北西アンテナ7aの受信信号変動レベルも同時に閾値を超えているためヒト検知せずと判断し、誤検知を回避することができる。
【0034】
また、ヒト3が屋内2を移動する場合、本装置では、屋内アンテナ1の受信信号変動レベルが閾値を超えるが、北西アンテナ7aの受信信号変動レベルは閾値を超えない。それゆえ、屋内2にヒト3がいることを正確に検知することができる。
【0035】
(閾値と検知確率の関係)
屋内2のヒト3を正しく検知する確率と外乱により誤検知を生じる確率を実測結果より求め、閾値を変化させた場合の確率を示す。ここでは,検知(誤検知)確率を、変動レベルの測定データ全体に対して本装置が「ヒト検知」と判定したデータの割合としてもとめた。
【0036】
図9は、ヒト3が屋内2に居ない場合、ヒト3が屋内2を移動する場合及び車6が移動する場合の3つのケースにおいて、モニタ時間を5秒間として閾値を変化させた場合の検知(誤検知)確率を示す。なお比較のため従来装置による同様の場合の確率を図8に示す。
【0037】
閾値が1dBより小さい場合、従来装置では、屋内2を移動するヒト3を100%で検知できるが、ヒト3が屋内2に居ない場合及び車6が移動する場合に、誤検知(ヒトが居ると検知)を生じる。一方、同様に閾値が1dBより小さい場合、本装置では車6が移動する場合の誤検知確率を0%にできる。また、ヒト3が屋内2に居ない場合の検知確率も従来装置に比べて小さくでき、かつ屋内2をヒト3が移動する場合の検知確率も減少することがわかる。
【0038】
閾値が1dBより大きい場合、従来装置では屋内2にヒト3が居ない場合の誤検知確率を0%にできるが、屋内2を移動するヒト3の検知確率が減少するうえ、車6が移動する場合の誤検知確率も0%にすることができない。一方、本装置では車6が移動する場合の誤検知確率は閾値を大きくするほど上昇するが(4〜6dB)、従来装置と比べると低減する結果となった。
【0039】
本装置において、閾値を小さくした場合に屋内2のヒト3の検知確率が減少するのは、屋外アンテナ7aにおけるわずかな変動レベルが閾値を越えやすくなり、その結果、ヒト検知と判定されない場合が増加するためである。また、閾値を大きくした場合に車6が移動する場合の誤検知確率が徐々に上昇するのは、屋外アンテナ7aにおいて車6の動きによる変動レベルを検知しにくくなることが原因である。
【0040】
図9に示すように、上記測定条件において、本装置の閾値を例えば1dBないし2dBに設定すれば、屋内2を移動するヒト3を100%検知し、屋内2にヒト3が居ない場合及び車6が移動する場合の誤検知確率を0%にできることがわかる。2dBを越えると、車6による誤検知確率が約10%発生する。
【0041】
(検知に要するモニタ時間について)
図11に、ヒト3が屋内2を移動する場合及び車6が移動する場合において、閾値を1dBとしてモニタ時間を変化させた場合の検知(誤検知)確率を示す。なお比較例として従来装置における同様の検知確率を図10に示す。
【0042】
本装置では、ヒト3が屋内2を移動する場合の検知確率は増大し、逆に、車6が移動する場合の誤検知確率は減少する。モニタ時間約3〜5秒で検知確率は、前者においては略100%に達し、後者においては略0%となる。モニタ時間が長くなるにしたがって(約3秒以上)、ヒト3が屋内2を移動した場合の検知確率が増大する理由は、変動レベルのサンプルがモニタ時間に応じて増えたためであり、屋内アンテナ1における変動レベルが閾値を超える機会が多くなったためである。
【0043】
また、モニタ時間が増加するにしたがって、車6が移動する場合は、屋内アンテナ1における変動レベルが閾値を超える機会が増えるが、同時に屋外アンテナ7aにおける変動レベルが閾値を超える機会も増えるため、検知と判定されにくくなり誤検知確率が減少する。
【0044】
さらに、本装置において、ヒト3が屋内2を移動する場合の検知確率が従来装置と同様に増加する理由は、屋外アンテナ7aにおける変動レベルがほとんど変動せず、閾値を超えなかったためである。屋内2を移動するヒト3を100%検知しつつ車6が移動する外乱による誤検知確率を0%にするためには、モニタ時間は3〜5秒(5秒の場合、500msのサンプリング間隔の場合10サンプル)あれば十分であることが分かった。
【0045】
一方、従来装置では、モニタ時間を長くするほど、ヒト3が屋内2を移動する場合の検知確率を増大させることができるが、同時に車6が移動する場合の誤検知確率も増大させてしまう。また、屋内アンテナ1のみで得られた変動レベルから検知判定を行うため、車6が移動した場合においても同様の理由により誤検知確率がモニタ時間の増加にともない増大すると考えられる。
【0046】
(外乱による誤検知確率の低減効果)
木造一戸建て家屋の各方向での外乱による誤検知低減効果を調べるため、敷地内を移動するヒト5および道路を移動する車6による誤検知確率を測定データより求めた。その結果を図13ないし図17に示す。なお比較のため、従来装置における同様の例を図12に示す。ここでは、閾値を1dB、モニタ時間を5秒に設定して、誤検知確率を求めた。各エリア8、8、…内をヒト5が移動した場合における誤検知確率(%)を、各エリア8、8、…に数値で示す。
【0047】
図12に示すように、屋内2のみにアンテナ1を設置した従来装置では、全方向の外乱に対して誤検知を生じることが分かった。一方、図13ないし図15に示すように、屋内アンテナ1と屋外アンテナ(それぞれ北西アンテナ7a(図13)、北東アンテナ7b(図14)、南東アンテナ7c(図15))を用いた本装置では、それぞれ北西,北東,南東方面の外乱による誤検知確率を全て0%にすることができた。例外として、図16に示すように、屋内アンテナ1および南西アンテナ7dによる本装置では、南西方面の1箇所のみ誤検知確率を0%にできない部分があったが、その誤検知確率は1%であった。
【0048】
これらのことから屋外4に設置するアンテナ7の本数に制限がある場合には、外乱の影響を回避したい場所に屋外アンテナ7を優先的に設置すればよいことが分かる。また、図17に示すように、各屋外アンテナ7a〜7dを同時に用いて検知した場合には、全ての方向における外乱に対して誤検知確率を0%にできた。
【0049】
なお,この測定においてはテレビ放送波が南東方面から到来する環境としたが(図4)、高々4本の屋外アンテナを用いることで北西、北東、南東、,南西全ての方面の外乱に対して誤検知確率を0%にできる。したがって本装置は、テレビ放送波の到来方向にかかわらず適用できると考えられる。
【0050】
また、家屋には、上記例で述べた木造家屋だけでなく鉄筋コンクリート造も多く存在する。鉄筋コンクリート造の場合、コンクリート壁はテレビ電波をほとんど遮断するから、外乱による屋内アンテナでの変動レベルは、木造に比べて小さくなることが確認されている。したがって、鉄筋コンクリート造りの建物では、窓が形成された壁面側にのみに屋外アンテナを設置すればよい。
【符号の説明】
【0051】
1 屋内アンテナ
2 屋内
3、5 ヒト
4 屋外
6 車
7、7a、7b、7c、7d
屋外アンテナ
8 エリア
9 チューナー
10 ADコンバーター
11 PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内及び屋外にそれぞれ設置され、デジタルテレビ放送波を受信する屋内アンテナ及び屋外アンテナよりなるアンテナ部と、
前記アンテナ部が受信した信号をAD変換するADコンバータと、
前記ADコンバータに入力した前記屋内アンテナ及び屋外アンテナからの信号に基き、屋内におけるヒトの存在を検知する検知部とを備え、
前記検知部は、前記屋内アンテナの受信信号が所定の閾値を越えて変動するとともに前記屋外アンテナの受信信号が前記閾値以下の範囲で変動したとき前記屋内にヒトが居ると判断し、前記屋内アンテナ及び屋外アンテナが共に前記閾値を越えて変動したとき、前記屋内にヒトが居ないと判断する機能を有することを特徴とするヒト検知装置
【請求項2】
前記閾値が、約1dBないし2dBであることを特徴とする請求項1記載のヒト検知装置
【請求項3】
前記検知部において、前記アンテナ部の受信信号のモニタ時間が、約3秒ないし5秒の範囲で設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のヒト検知装置
【請求項4】
前記屋外アンテナが、被検知室を含む家屋が木造建物である場合は、その建物の周囲に約90度隔てて、4個設置され、前記家屋が鉄筋コンクリート建物である場合は、前記家屋の窓が形成されている方向に設置されてなることを特徴とする請求項1、2又は3記載のヒト検知装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−24661(P2013−24661A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158417(P2011−158417)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(510108951)公立大学法人広島市立大学 (11)
【Fターム(参考)】