説明

ヒト永久細胞株

本発明は、アデノウイルスの遺伝子機能E1AおよびE1Bの核酸配列、ならびにSV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の核酸配列を含む永久ヒト細胞株に関する。本発明はさらに、この永久ヒト細胞株における、組換えポリペプチドおよび蛋白質の一過性発現方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノウイルス遺伝子機能E1AおよびE1Bの核酸配列、ならびにSV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の核酸配列を含む、永久ヒト細胞株に関する。本発明はさらに、この永久ヒト細胞株における、組換えポリペプチドおよび蛋白質の一過性発現に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、酵母および植物細胞に加えて、特に動物細胞が、組換えポリペプチドまたは蛋白質の産生に使用される。今日では、全治療用蛋白質の約60〜70%が哺乳動物細胞で産生される(Wurm, Nat. Biotechnology, 22, 1393-1398, 2004(非特許文献1))。細胞培養、即ち、治療用、診断用または技術的用途のためのインビトロにおける組換えポリペプチドまたは蛋白質の産生は基本的に、2つの異なる方法によって行い得る。永続的または永久的に構築された安定な細胞株において、所望のポリペプチドまたは蛋白質をコードする核酸が少なくとも1コピー、細胞の染色体DNA中に挿入され、細胞の全染色体と共に、細胞分裂時に娘細胞へ受け継がれる(いわゆる生産細胞株における安定発現)。この安定な産生細胞株の作製には、細胞培養時の生育中に、形質移入によって細胞に導入された核酸が選択上の利点を細胞に付与する、少なくとも一つの遺伝子機能を有することが必須である。このような遺伝子機能を有する核酸は、所望のポリペプチドまたは蛋白質のための発現カセットと同じ分子上に必ずしも存在する必要はない。この遺伝子機能は、培地中の抗生物質または化学治療薬に対する耐性(例えば、哺乳動物細胞で頻繁に使用される;Wurm, Nat. Biotechnology 22, 1393-1398, 2004(非特許文献1))、その遺伝子産物が欠損する代謝経路を補う遺伝子(例えば、酵母細胞で使用される)、または、形質転換させる遺伝子機能(ヒト羊膜細胞について示される;Schiednerら, BMC Biotechnology 8, 13, 2008(非特許文献2))のいずれかである。この方法によって、細胞の染色体DNA中に形質移入された核酸の安定挿入が実現し、かつ遺伝子産物が産生される細胞が、このような挿入のない他の細胞よりも生育し、選択され得ることが保証される。産生細胞の獲得においては、いわゆる宿主細胞株への形質移入によって、第一に、組換えポリペプチドをコードする核酸(いわゆる導入遺伝子)が必要な転写制御因子と共に移入され、かつ別に、選択マーカーをコードしその遺伝子産物が細胞に特定の選択上の利点を付与する遺伝子を持つ第二の発現カセットが移入される。例えば、遺伝子導入から数日間、選択試薬なしの培養培地中で細胞が培養され、培地に適当な選択試薬が加えられる。選択試薬存在時、形質移入に使用した核酸が組込まれ、かつ選択マーカーを発現した細胞のみが生存し、生育する。頻繁に使用される選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、およびジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)(Wurm, Nat. Biotechnology 22, 1393-1398, 2004(非特許文献1);WurmおよびJordan, Makrides編, Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells, Elsevier, Amsterdam, 2003中の第309-333頁(非特許文献3))である。したがって、選択は、抗生物質ネオマイシンもしくはハイグロマイシン、または、合成グルココルチコイドのメトトレキサートのような選択試薬の入った培養培地で行われる。選択の工程で生存しかつ増殖する、選択マーカーおよび導入遺伝子を持つ細胞(いわゆる形質転換体)についてその後、培養中の全ての細胞が遺伝的に単一であることを確認し、最も良い産生率の所望の産生細胞株を、より産生の劣る細胞株と分離するために個別化(クローン化)する。
【0003】
それに対し一過性発現では、形質移入によって細胞中に導入された所望のポリペプチドまたは蛋白質をコードする核酸は、細胞の染色体DNAに組込まれず、その結果選択されない。導入された核酸は通例、培養中、生育の間の細胞分裂に従って薄められ、失われる。これはこの発現方法の一時的、一過性の特性を引き起こす。発現効率の良い安定な産生細胞株の選択は、何ヶ月かを要し相当な費用を生ずる。それに対し一過性発現では、所望のポリペプチドまたは蛋白質をミリグラムの量で数日以内に産生することができる。速さおよび費用は、生物医薬および診断用産物の産業開発の必須要因である。より少量の蛋白質、または、異なる蛋白質の変異体の一過性発現は、早期の探究的かつ前臨床的開発のための基礎研究、例えば、毒性学、ならびに薬動学的および薬力学的研究のための標的同定、分析開発、遺伝子産物の生化学的特性決定において特に行われる(Baldiら, Biotechnol. Lett., 29, 677-684, 2007(非特許文献4); Phamら, Molecular Biotechnology, 34, 225-237, 2006(非特許文献5))。それに対して、より大きな臨床研究の実施および市場供給のためのグラム〜キログラム規模での蛋白質の工業的製造は、安定な産生細胞株の助けによって実現される。
【0004】
例えばEP1948789号(特許文献1)では、選択マーカーを用いない、細胞形質転換因子の形質移入による永久ヒト羊膜細胞株の作製方法が記載されている。
【0005】
分泌性蛋白質、膜結合性蛋白質、および細胞内蛋白質はこれまで、一過性の遺伝子発現によって製造することができた。原核細胞系および下位の真核細胞系(例えば、酵母)は、転写後修飾の点で明らかに劣っているため、多くの複雑な蛋白質について、特に蛋白質が治療用途である場合には、哺乳動物細胞が目下使用可能な発現系である。これまで一過性の蛋白質発現には、主に4つの哺乳動物細胞株が使用されてきた:CV-1アフリカオナガザルのサル腎臓細胞株由来のCOS-1およびCOS-7細胞;新生児ハムスター腎臓細胞由来のBHK細胞;チャイニーズハムスターの卵巣細胞由来のCHO細胞;およびニューロンの特徴を示すヒト胎児腎臓細胞HEK293細胞(Phamら, Molecular Biotechnology, 34, 225-237, 2006(非特許文献5); WurmおよびBernard, Current Opinion in Biotechnology, 10, 156-159, 1999(非特許文献6))。効率的ではあるが、費用がかかり、かつ高い安全性が要求あれるためあまり普及してはいないセムリキ森林ウイルスまたはアデノウイルスのようなウイルス発現ベクターの使用に加えて、これらの哺乳動物細胞株中の一過性発現は、主に所望の遺伝子産物のためのコード配列を有する発現カセットを含むプラスミドベクターの形質移入に基づく。培養哺乳動物細胞中へのDNA導入のため、多数の物理的および化学的方法が開発された。物理的遺伝子導入法には、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクションおよびマイクロインジェクションが含まれる。化学的形質移入法には、無機物(例えば、リン酸カルシウム/DNA共沈)、カチオンポリマー(例えば、ポリエチレンイミン、DEAE/デキストラン法)、または、カチオン性脂質(いわゆるリポフェクション)を用いる。リン酸カルシウムおよびポリエチレンイミンが、より大きなスケール(最大数リットル)での核酸移入で最も頻繁に使用される形質移入試薬である(Baldiら, Biotechnol. Lett., 29, 677-684, 2007(非特許文献4))。
【0006】
ポリペプチドおよび蛋白質の一過性発現のための、長きに亘って公知である細胞株に基づく方法は様々な観点から欠点を有する。一過性の方法に関する問題点は、そのわずかな発現能力である。導入された核酸の細胞当りの遺伝子コピーの総数をエピソーム複製によって高め、細胞の発現収量を改善するために種々の遺伝子系が使われている。COS細胞は、SV40複製起点(SV40ori)を持つプラスミドのエピソーム複製を高いコピー数へと引き上げる複製因子であるシミアンウイルス40(SV40)ラージT抗原を発現する。この複製における最初の事象は、T抗原のSV40-複製起点(SV40 ori)への結合であり、それによって細胞性複製因子がDNA/T抗原複合体にリクルートされ、細胞性DNA-ポリメラーゼを介した複製が開始される。約30年前にヒト胎生腎細胞の平滑アデノウイルス5型DNAでの形質転換によって産生され、かつ容易に形質移入できるHEK293細胞株では同様に、SV40ラージT抗原(HEK293-T)またはエプスタイン-バー-ウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)(HEK293Eまたは293EBNA-1)を発現する2つの遺伝的変異体が記述されている。これらの細胞株は、SV40-oriまたはEBV-oriPを有するプラスミドからのエピソーム複製もしくは増幅を提供する。後者の場合、複製因子EBNA-1はEBV-複製起点oriPと相互作用する。少なくともHEK293E細胞では、oriPを含む発現プラスミドの使用によって発現収量の増加が立証されている。EBNA-1の複製起点oriPと組み合わせた使用とは対照的に、HEK293-T細胞中ではSV40 oriを有するプラスミドからは強力な複製が起こらないことがいくつかの研究で示されている(Durocherら、Nucleic Acid Research, 30, e9, 2002(非特許文献7))。CHO細胞からは、ラージT抗原(LT)をポリオーマウイルスから発現し(Epi-CHO)ポリオーマウイルス複製起点(PyOri)を持つプラスミドを一緒に組込める安定な変異体が一株産生された(Kunaparajuら, Biotechnology and Bioenfineering, 91, 670-677, 2005(非特許文献8))。このような哺乳動物細胞系では、一過性発現の組換え蛋白質が、平均して収量約10〜20mg/リットルで達成される(Baldiら, Biotechnol. Lett., 29, 677-684, 2007(非特許文献4))。それに対して安定な永久産生細胞では、上述のように、1リットル当り、より多いグラム範囲での収量が全く普通であるものの、有意に長い時間と高い支出を伴う。
【0007】
組換え蛋白質発現にこれまで使用されてきた細胞系のさらなる欠点は、幾つかの細胞株が、その形質移入の容易性およびエピソーム性プラスミドの増幅の能力から一過性発現に適する(例えば、HEK293-TまたはHEK293-E細胞)一方で、他の細胞株は、その培養特性および収量のため、安定細胞株の作製に好んで使用される(例えば、CHO細胞)ことにある。翻訳後修飾の種々の態様について細胞系は互いに異なっていることから、一過性発現後(大抵、蛋白質治療用産物の開発段階初期)の特異的な細胞系で得られた遺伝子産物の構造および機能について得られたデータは、他の細胞システム(大抵、臨床研究および市場供給のための開発段階のより後期)の安定細胞株におけるこの遺伝子産物の発現後の構造および機能に限定的にしか当てはめることができない。多くの治療産物候補において、例えば、グリコシル化、リン酸化、カルボキシル化、パルミチル化または特異的切断等の翻訳後修飾は、発現産物のいろいろな特性のため大きな意味を持つ。それらは、活性、溶解度、半減期、安定性または免疫原性に不可欠の影響を持ち得る。そのためヒト細胞系は、治療用蛋白質の製造において、より大きな役割を果たしている;産生の場としては、ヒト細胞のみが発現産物の本来のヒト特有の修飾を保証し、それによって、産物の品質が損なわれるリスクを減少させるかまたは望ましくない副作用のリスクを減少させる。このように、例えば、ヒト治療に応用される組換えエリスロポエチンでは、CHO細胞で産生された蛋白質(エポエチンアルファ)がN-グリコリルノイラミン酸残基をその炭化水素側鎖中に示すのに対して、ヒト細胞で産生された蛋白質(エポエチンデルタ)では、天然のヒトエリスロポエチンと全く同様に、そのような糖残基を含まないことが知られている。ヒトがこの「外来」糖構造に対し、血中抗体を作るという背景から、ヒト発現系の使用は有利に思われる(Varki, Am. J. Phys. Anthropol., 33, 54-69, 2001(非特許文献9))。現在のところ、一過性発現、および安定産生細胞株の作製に同じように良く適し、それによって蛋白質に基づく治療薬の総合的開発の全体について再生産可能な産物プロファイルを提供するヒト細胞株は現在のところ存在しない。
【0008】
他の哺乳動物細胞または動物細胞と比較して、ヒト細胞は複雑なポリペプチドを本来の翻訳後修飾パターンで発現するが故に、ヒト生物治療薬の産生に特に適している。複雑な組換え蛋白質のグリコシル化パターン、即ち、分子中の糖残基の構造および配列は、非ヒト産生系中での産生よりもヒト細胞中での産生の方が断然良く、本来のヒトポリペプチドのパターンを再生する。このグリコシル化パターンは、活性、安定性、溶解性および免疫原性等のポリペプチドの重要な特性にとって、しばしば重大な意味を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP1948789号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wurm, Nat. Biotechnology, 22, 1393-1398, 2004
【非特許文献2】Schiednerら, BMC Biotechnology 8, 13, 2008
【非特許文献3】WurmおよびJordan, Makrides編, Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells, Elsevier, Amsterdam, 2003中の第309-333頁
【非特許文献4】Baldiら, Biotechnol. Lett., 29, 677-684, 2007
【非特許文献5】Phamら, Molecular Biotechnology, 34, 225-237, 2006
【非特許文献6】WurmおよびBernard, Current Opinion in Biotechnology, 10, 156-159, 1999
【非特許文献7】Durocherら、Nucleic Acid Research, 30, e9, 2002
【非特許文献8】Kunaparajuら, Biotechnology and Bioenfineering, 91, 670-677, 2005
【非特許文献9】Varki, Am. J. Phys. Anthropol., 33, 54-69, 2001
【発明の概要】
【0011】
そこで、本発明の目的は、ポリペプチドの一過性発現および安定産生細胞株の作製のどちらにも同様に良く適するヒト細胞系を提供することである。
【0012】
この目的は、特許請求の範囲において定義される主題によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下の図は、発明に説明を加えるものである。
【0014】
【図1a】図1は、T抗原の永久発現のためのプラスミドの構造を図式的に示す。pGS158(図1a)では、T抗原は、ヒトCAGプロモーター(ヒトサイトメガロウイルスの最初期エンハンサー、および最初のイントロンを含む修飾されたニワトリβアクチンプロモーターからなるハイブリッドプロモーター)(Niwaら, Gene, 108, 193-199, 1991)の制御下で発現される。
【図1b】図1は、T抗原の永久発現のためのプラスミドの構造を図式的に示す。pGS159(図1b)では、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター(Makrides(編), 哺乳動物細胞中の遺伝子導入および発現(Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells), Elsevier, アムステルダム, 2003中のMakrides, 9-26)の制御下で発現される。
【図1c】図1は、T抗原の永久発現のためのプラスミドの構造を図式的に示す。pGS161(図1c)では、ヒトCMV(サイトメガロウイルス)プロモーター(Makrides(編), 哺乳動物細胞中の遺伝子導入および発現(Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells), Elsevier, アムステルダム, 2003中のMakrides, 9-26)の制御下で発現される。
【図2a】図2は、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)またはヒトエリスロポエチン(Epo)の各々の、ヒトCMVプロモーターの制御下での一過性発現のためのプラスミドの構造を図式的に示す。プラスミドpGS116(図2a)は、同一のhAATのための発現カセットを有する。
【図2b】図2は、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)またはヒトエリスロポエチン(Epo)の各々のヒトCMVプロモーターの制御下での一過性発現のためのプラスミドの構造を図式的に示す。プラスミドpGS151(図2b)は、同一のhAATのための発現カセットを有し、pGS151はシミアンウイルス40のDNA複製の開始点(SV40 ori)を追加で有する。
【図2c】図2は、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)またはヒトエリスロポエチン(Epo)の各々のヒトCMVプロモーターの制御下での一過性発現のためのプラスミドの構造を図式的に示す。pGS177は同様にSV40 oriをEpo発現カセットに含む。
【図3】種々のT抗原発現羊膜細胞株(CAP-T Z582、Z583およびZ597)の培養上清に一過性に発現されたhAATの、T抗原発現なしの親羊膜細胞株(CAP)に対する量を図式的に示す。T抗原は、Z582ではCAGプロモーター(Niwaら, Gene, 108: 193-199, 1991)の制御下で発現され、Z583ではRSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター(Makrides(編), Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells, Elsevier, アムステルダム, 2003中のMakrides, 9-26)の制御下、およびZ597ではCMV(サイトメガロウイルス)プロモーター(Makrides(編), Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells, Elsevier, アムステルダム, 2003中のMakrides, 9-26)の制御下で発現される。
【図4】SV40oriなし(hAAT/細胞数−ori, プラスミドpGS116)またはSV40oriを含む(hAAT/細胞数+ori, プラスミドpGS151)プラスミドの形質移入後の異なる時点において培養上清に一過性で発現されたhAATの量(棒)および生存細胞数(線)を図式的に示す。
【図5】CAP-TおよびHEK293-T細胞への、pGS151(SV40oriを含む)の形質移入後の異なる時点において培養上清に一過性で発現されたhAAT量(棒)および生存細胞数(線)を図式的に示す。
【図6】CAP-TおよびHEK293-T細胞への形質移入後の異なる時点における、プラスミドpGS116(SV40ori無し)、または、pGS151(SV40oriを含む)の細胞内コピー数を図式的に示す。
【図7】ポリエチレンイミン(PEI)を形質移入試薬として、CAP-TへpGS151(SV40oriを含む)を形質移入した後の異なる時点における、培養上清中の一過性発現のhAAT量(棒)および生存細胞数(線)を図式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願で使用される「羊膜細胞」という用語は、広義に、羊水中に存在し、かつ羊水穿刺によって獲得し得る全ての細胞を指す。細胞は、羊膜、または羊膜液と接触している胎児組織に由来する。形態的基準を根拠として分類される、3つの主要な羊膜細胞についての分類が記述されている:線維芽細胞様細胞(F細胞)、上皮細胞様細胞(E細胞)、および羊膜液細胞(羊水細胞、AF細胞)(Hohnら, Pediat. Res., 8, 746-754, 1974)。AF細胞が支配的な細胞型である。
【0016】
「発現カセット」という用語は、コード領域の前に並ぶ制御因子またはプロモーター、コード領域またはオープンリーディングフレーム、ならびにコード領域の後ろに並ぶ転写終結因子を含む、核酸分子または核酸分子の領域を特に指す。コード領域の前に並ぶ制御因子またはプロモーターは恒常的、即ち、永久的に転写を活性化するプロモーター(例えば、CMVプロモーター)、または、制御可能、即ち、スイッチを入れるおよび/もしくは切ることができるプロモーター(例えば、テトラサイクリン制御プロモーター)であり得る。発現カセットのコード領域は、5’末端に開始コドンおよび3’末端に終止コドンを持つcDNAの場合のように、連続したオープンリーディングフレームであり得る。コード領域は、翻訳領域であるエキソンおよびその間に並ぶ非翻訳領域であるイントロンの、ゲノム配列または新たに組み合わされた配列からなり得る。発現カセットのコード領域はまた、いわゆるIRES(内部リボソーム進入部位)によって分けられた多くのオープンリーディングフレームから構成されていてもよい。
【0017】
本願で使用される「永久細胞株」という用語は、適する培養条件下、細胞培養中で永久的に育ち続けることができるように遺伝的に改変された細胞を指す。このような細胞はまた不死化細胞とも呼ばれる。
【0018】
本願で使用される「ポリペプチド」または「組換えポリペプチド」という用語は、少なくとも2個のアミノ酸からなるペプチドを指す。ポリペプチドは、転写と同時および/または転写後に、例えば、糖残基の付加、または、アミノ酸残基の修飾によって修飾され得る。ポリペプチドは、線状、環状または分枝状であり得る。さらに、ポリペプチドは、鎖が分子内および/または分子間結合によって、より複雑またはより複雑でない空間構造となるよう(例えば、二次、三次、四次構造)、二つ以上のアミノ酸鎖からなり得る。ポリペプチドが一つのアミノ酸鎖からなる場合、分子内結合によって、より複雑またはより複雑でない空間構造となり得る。ポリペプチドは、薬学的もしくは免疫学的に活性なポリペプチド、または診断目的で使用されるポリペプチドであり得る。
【0019】
本願で使用される「初代細胞」という用語は、ある種の生物または組織から直接的採取によって得られ、培養される細胞を指す。初代細胞は、非常に限られた寿命しか有さない。
【0020】
本願で使用される「産生細胞株」という用語は、産生される所望のポリペプチドをコードする導入遺伝子の導入によって、遺伝的に安定に変化した永久細胞株を指す。
【0021】
本願で使用される「CAP」という用語は、初代ヒト羊膜細胞の、アデノウイルス遺伝子機能E1AおよびE1Bによる不死化によって産生された、永久ヒト羊膜細胞株を指す。
【0022】
本願で使用される「CAP-T」という用語は、SV40ラージT抗原を含む核酸分子によってさらに安定に形質移入されたCAP細胞を指す。
【0023】
本願で使用される「形質移入」という用語は、記述したような核酸の細胞への導入に適する全ての方法を指す。例としては、古典的なカルシウムリン酸法、エレクトロポレーション、種々の方式のリポソーム系、およびこれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0024】
本願で使用される「一過性発現」という用語は、適した選択方法によって細胞培養中で長い間培養できる安定細胞株を選択することなしに、形質移入によって核酸が細胞中に導入される全ての方法を指す。
【0025】
本願で使用される「安定発現」という用語は、導入遺伝子の産生細胞株における発現を指す。
【0026】
本願で使用される「導入遺伝子」という用語は、組換えポリペプチドをコードする核酸配列を指す。
【0027】
本発明の対象は、以下の工程を含む、永久ヒト細胞株の作製方法に関する:
(a)アデノウイルスの遺伝子機能E1AおよびE1Bをコードする核酸配列を含む核酸分子を初代ヒト細胞に形質移入する工程;いわゆる第一の形質移入の工程、ならびに
(b)続いて、SV40ラージT抗原をコードする核酸配列を含む核酸分子を永久ヒト細胞株に形質移入する工程;いわゆる第二の形質移入の工程。
【0028】
好ましくは、本発明に係る永久ヒト細胞株の作製方法の工程(b)の核酸分子は、非分泌型のSV40ラージT抗原をコードする核酸配列を含む。
【0029】
本発明に係る方法の工程(b)の形質移入では、永久ヒト細胞株は代替的にエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)をコードする核酸配列を含む核酸分子を形質移入される(いわゆる第二の形質移入)。好ましくは、核酸分子は、非分泌型のエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)をコードする核酸配列を含む。
【0030】
本発明の方法によって行われる形質移入により、初代ヒト細胞は、好ましくは安定に形質移入される。即ち、形質移入されたDNAは細胞のゲノム中に挿入される。
【0031】
E1AおよびE1Bをコードする核酸配列を含む核酸分子の、初代ヒト細胞への形質移入によって、細胞は不死化される。初代ヒト細胞の不死化に使用された核酸分子は、好ましくはヒトアデノウイルス由来、特に好ましくは、血清型5のヒトアデノウイルス由来のE1AおよびE1B核酸配列を含む。好ましい実施形態では、不死化のために使用された核酸分子は、E1AおよびE1Bをコードする核酸配列に加えて、アデノウイルスのpIX遺伝子機能をコードする核酸配列を含む。ウイルス構造蛋白質であるpIXポリペプチドは、種々のウイルス性および細胞性プロモーター、例えばチミジンキナーゼおよびベータ-グロブリンプロモーターに対する転写活性化因子として働く。
【0032】
例となる配列は、GenBank Acc. No. X02996に見られる。特に核酸分子は、ヒトアデノウイルスの血清型5の、ヌクレオチド1〜4344(配列番号:1はE1A、E1BおよびpIXをコードする核酸配列を含む)、505〜3522(配列番号:2はE1AおよびE1Bをコードする核酸配列を含む)、または505〜4079(配列番号:3はE1A、E1BおよびpIXをコードする核酸配列を含む)を含む。
【0033】
特にヒト細胞は、発現されるべき所望の遺伝子機能をコードする核酸配列を発現カセットの形で形質移入される。この発現カセットは、コード領域の前に並ぶ制御因子またはプロモーター、コード領域またはオープンリーディングフレーム、およびコード領域の後に並ぶ転写終結因子を有する核酸分子を含む。
【0034】
発現カセットまたは核酸分子は、ある実施形態において、特にラージT抗原(配列番号:4)の核酸配列、CMVプロモーター(配列番号:5)、CAGプロモーター(Niwaら, Gene, 108, 193-199, 1991)およびRSVプロモーター(GenBank Acc. No. DQ075935)からなる群より選択されるプロモーターの核酸配列、SV40 SD/SA(イントロン)(配列番号:6)の配列、ならびにSV40ポリA(配列番号:7)の核酸配列を含む。
【0035】
発現カセットまたは核酸分子は、さらなる実施形態において、特にエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原1(EBNA-1)(配列番号:8)の核酸配列、CMVプロモーター(配列番号:5)、CAGプロモーター(Niwaら, Gene, 108, 193-199, 1991)およびRSVプロモーター(GenBank Acc. No. DQ075935)からなる群より選択されるプロモーターの核酸配列、SV40 SD/SA(イントロン)(配列番号:6)の配列、ならびにSV40ポリA(配列番号:7)の核酸配列を含む。
【0036】
初代ヒト細胞は、臓器、または臓器より採取された組織からの直接的な採取によって得られ、培養に用いられる。アデノウイルスE1AおよびE1Bの発現によって、うまく永久ヒト細胞株に変化できるような初代ヒト細胞、特に羊膜細胞、胎生網膜細胞、およびニューロン起源の胎生細胞が好ましい。
【0037】
好ましくは、本発明の方法によって永久ヒト羊膜細胞株が作製される。
【0038】
本発明の方法は、工程(a)に代えて、アデノウイルス遺伝子機能E1AおよびE1Bの核酸配列がそのゲノム中にある、既に存在する不死化されたヒト細胞株、特に既に存在する不死化されたヒト羊膜細胞株によって実施され得る。好ましくは、不死化されたヒト細胞株は、そのゲノム中に、アデノウイルスの遺伝子機能E1A、E1BおよびpIXの核酸配列を含む。存在する不死化されたヒト細胞株、特に不死化されたヒト羊膜細胞株は、必要に応じ、先に記載された核酸分子を含む、SV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)をコードする発現カセットによって形質移入される。当業者であれば時間の点で、第二の形質移入は、初代ヒト細胞の第一の形質移入にのみ依存して、第一の形質移入の後で行われなければならないことを認識する。第二の形質移入が第一の形質移入の直後である必要はない。E1Aおよび/またはE1Bによって不死化された、数年前に確立された不死化ヒト細胞株を、必要に応じて先の核酸分子で第二の形質移入によって形質転換しても良い。好ましくはこのために、不死化ヒト羊膜細胞、不死化ヒト胎生網膜細胞、特にPER.C6細胞、またはニューロン起源の不死化ヒト胎生細胞、特にHEK293細胞を使用することができる。
【0039】
本発明の対象は、アデノウイルスの遺伝子機能E1AおよびE1Bの核酸配列、ならびにSV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の核酸配列を含む永久ヒト細胞株である。好ましくは、本発明は、アデノウイルスの遺伝子機能E1A、E1BおよびpIXの核酸配列、ならびにSV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の核酸配列を含む永久ヒト細胞株に関する。特に好ましくは、本発明は、アデノウイルスの遺伝子機能E1AおよびE1Bの核酸配列、ならびにSV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の核酸配列を含む永久ヒト羊膜細胞株に関する。最も好ましくは、本発明は、アデノウイルスの遺伝子機能E1A、E1BおよびpIXの核酸配列、ならびにSV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の核酸配列を含む永久ヒト羊膜細胞株に関する。
【0040】
特に本発明のさらなる対象は、本発明の方法の使用によって得られる永久ヒト細胞株、好ましくは永久ヒト羊膜細胞株に関連する。
【0041】
本発明のさらなる対象は、以下の工程を含む、本発明の永久ヒト細胞株を使用した、組換えポリペプチドまたは蛋白質の一過性発現方法である:
(a)所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質をコードする核酸配列、およびSV40ラージT抗原もしくはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の認識または結合部位を含む核酸分子を、永久ヒト細胞株へ形質移入する工程;
(b)工程(a)で得られた形質移入された永久ヒト細胞株を、所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質の発現を許容する条件下で培養する工程;および、続いて
(c)所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質を、細胞または培養上清から単離する工程。
【0042】
本発明の好ましい実施形態は、以下の工程を含む、本発明の永久ヒト羊膜細胞株を使用した、組換えポリペプチドまたは蛋白質の一過性発現の方法である:
(a)所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質をコードする核酸配列、およびSV40ラージT抗原もしくはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)の認識または結合部位を含む、核酸分子による永久ヒト羊膜細胞株の形質移入;
(b)工程(a)で得られた形質移入された永久ヒト羊膜細胞株の、所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質の発現を許容する条件下での培養;および、続いて
(c)所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質の、細胞または培養上清からの単離。
【0043】
本発明の永久ヒト細胞株が、SV40 ラージT抗原をコードする核酸配列を含む核酸分子を有する場合、細胞株は例えば、発現すべき導入遺伝子をコードする核酸配列およびSV40複製起点(SV40ori)を有する、発現カセットまたは核酸分子を含む発現プラスミドを形質移入される。細胞株の細胞内で安定に発現するSV40ラージT抗原は、形質移入によって細胞株に導入された発現プラスミドのSV40複製起点に結合して発現プラスミドのエピソーム複製を惹起し、それによって発現すべき導入遺伝子のコピー数の増幅が起こる。導入遺伝子にコードされた所望の遺伝子産物は、細胞の培養から数日後、細胞または培養上清から獲得できる。導入遺伝子はこのように一過性に発現される。
【0044】
本発明の永久ヒト細胞株が、エプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)をコードする核酸配列を含む核酸分子を有する場合、細胞株は、例えば、発現すべき導入遺伝子をコードする核酸配列およびEBV複製起点(EBV oriP)(Durocherら、Nucleic Acids Research, 第30巻, 第2e9号, 2002年;Tuvessonら, Cytotechnology, 56, 123-136, 2008)を有する、発現カセットまたは核酸分子を含む発現プラスミドで形質転換される。細胞株の細胞内で安定に発現するEBVのEBNA-1は、形質移入によって細胞株に導入された発現プラスミドのoriP複製起点に結合して発現プラスミドのエピソーム複製を惹起し、それによって発現すべき導入遺伝子のコピー数の増幅が起こる。導入遺伝子にコードされる所望の遺伝子産物は、細胞の培養から数日後、細胞または培養上清より獲得できる。導入遺伝子はこのように一過性に発現される。
【0045】
本発明の細胞は、真核細胞の培養の通常の条件下、約37℃、湿度95%、および8%CO2で培養され得る。本発明の細胞は、血清含有培地または無血清培地中、付着培養または懸濁培養で培養され得る。懸濁液での培養は、種々の培養容器、例えば、攪拌タンク反応器、「ウェーブ」リアクター、振とうもしくは遠心容器、または、いわゆる「ローラーボトル」で実現され得る。これにより細胞は工業的スケールへのスケールアッププロセスに適する。一過性発現のための細胞への形質移入は、先に記載された種々の形質移入法によって実現され得る。形質移入および一過性発現は、「ハイスループット」方式またはスクリーニング、例えば、96もしくは384ウェル方式によって実行され得る。
【0046】
シミアンウイルス40(SV40)T抗原は、ウイルス複製だけでなく感染後の細胞機能も制御する多機能性リン酸蛋白質である。T抗原は形質転換の作用因子であり、腫瘍抑制蛋白質p53との相互作用によって細胞サイクルに干渉する。ウイルスゲノムの複製の間、T抗原は、二重のゲノムをほどくためのDNAへリカーゼとして必要とされる。T抗原は、複製に必要とされる唯一のウイルス蛋白質である。その他の機能は細胞蛋白質によって遂行される。DNA複製の第一段階では、12個のT抗原分子が二重ヘキサマーとして、SV40ゲノムのDNA複製開始点(ori)に結合する。次にこのヘリカーゼ複合体に、DNAポリメラーゼのような必要な細胞蛋白質が結合し、DNAをほどき複製する。いわゆる「最小ori」は63bpの長さの「コア」配列より成る。標的細胞への環状プラスミドの一過性の形質移入では宿主ゲノムへの挿入は起こらず、細胞分裂後のプラスミド濃度は絶えず減り続け、プラスミド上に並ぶコード遺伝子の発現は一過性である。発現プラスミドへのSV40ori断片の導入、および産生細胞中でのSV40 T抗原の発現は、プラスミドのコピー数の増加、従って、発現効率の増加をもたらす。
【0047】
本発明のポリペプチドおよび蛋白質の一過性発現方法は、これまで使用されてきた方法よりも、組換え遺伝子産物の量および品質に関して効率が良く、従って蛋白質に基づく治療薬の産業開発の全プロセスにおいて、費用対効果が高いという長所を有する。
【0048】
第一に非ヒト哺乳動物細胞または非哺乳動物細胞と比べ、ヒト蛋白質を本来の形に翻訳後修飾し、第二に工業的製造工程において、安定な産生細胞株の確立に同様に良く適する、ヒト細胞株に基づく効率の良い一過性発現系が提供されることに、特に利点がある。このような方法により、診断または治療用産物の開発の流れにおいて、開発段階の初期における一過性発現後、ならびに後期および工業的製造における永久産生細胞株での安定した発現後の、遺伝子産物の品質上の特徴が、特に細胞系の性質に起因する特徴の差異に関して、できる限り同一性を示すことが保障される。
【0049】
本発明のさらなる長所は、本発明の永久ヒト細胞株が、一過性発現において高い発現収量を示すことにある。所望の遺伝子産物をコードする配列に加えてSV40複製起点(SV40ori)を持つプラスミドベクターを形質移入した後のSV40 T抗原産生羊膜細胞株中での一過性発現において、予期せぬことに、培養上清中に最大60mg/リットルもの非常に高い産物収量がみられた。産物収量は、T抗原を発現しない羊膜細胞株中での一過性発現よりも70倍以上高かった。
【0050】
本発明の永久ヒト細胞株のさらなる長所は、蛋白質の一過性発現に加えて、永久産生細胞株中の蛋白質の安定発現にも適する、好ましくは不死化されたヒト羊膜細胞に基づくヒト細胞系が提供されることである(Schiednerら, BMC Biotechnology, 8, 13, 2008(非特許文献2))。一過性発現(例えば、HEK293またはHEK293変異体)および安定発現(例えば、CHO)のための種々の細胞系の使用と比較して、発現系の特質に基づく一過性および安定産生による発現産物の構造的または機能的特性により、リスクが最小限に抑えられる。これによって開発プロセスはより計画しやすく、より少ない時間で済み、かつコストが安くなる。
【0051】
少なくとも一つの組換えポリペプチドの発現のための核酸配列が、少なくとも一つの発現カセット中に含まれる。発現カセットはプロモーターおよび転写終結配列を含む。プロモーターとしては、例えば、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター(Makrides(編), Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells, Elsevier, アムステルダム, 2003中のMakrides, 9-26)、EF-1αプロモーター(Kimら, Gene, 91, 217-223, 1990)、CAGプロモーター(ヒトサイトメガロウイルスの極初期エンハンサー、および最初のイントロンを含む修飾されたニワトリβアクチンプロモーターからのハイブリッドプロモーター)(Niwaら, Gene, 108, 193-199, 1991)、ヒトもしくはマウスpgk(ホスホグリセレートキナーゼ)プロモーター(Adraら, Gene, 60, 65-74, 1987)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター(Makrides(編), Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells, Elsevier, アムステルダム, 2003中のMakrides, 9-26)、または、SV40(シミアンウイルス40)プロモーター(Makrides(編), Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells, Elsevier, アムステルダム, 2003中のMakrides, 9-26)が使用され得る。ポリアデニル化部位としては、例えば、SV40ラージT抗原(GenBank Acc. No. J02400)またはヒトG-CSF(顆粒細胞コロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子)遺伝子(MizushimaおよびNagata, Nucl. Acids Res., 18, 5322, 1990)が使用され得る。
【0052】
本発明のさらなる対象は、本発明の方法の使用によって得られるポリペプチドまたは蛋白質に関する。
【0053】
本発明の方法の組換えポリペプチドは、例えば、ヒトα1-アンチトリプシン、または、エリスロポエチンもしくはインターロイキン-2等の成長因子のような治療用蛋白質であり得る。ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)は、エラスターゼおよびその他のプロテイナーゼを阻害するプロテイナーゼ阻害剤であり、肺および肝臓の損傷に関連する遺伝性のhAAT欠損には治療効果がある。エリスロポエチンは、貧血と同様に移植患者において造血作用を有し、赤血球(赤い血球)のための重要な成長因子である。インターロイキン-2(IL-2)は免疫系の細胞性神経伝達物質の一つであり、細胞の免疫応答の活性化、例えば腫瘍疾病において大きな意味を持つ。治療効果のあるポリペプチドにはまた、例えば、凝固障害のある血友病患者に使用される、第VIII因子および第IX因子のような血液凝固因子がある。本発明の方法の組換えポリペプチドはホルモンであっても良い。生物工学的に製造されたホルモンはホルモン障害のある患者の補充療法において使用される。例として、多くの真性糖尿病患者に処方される血糖値を減らすホルモンであるインスリン、矮小発育症を処置するためのソマトトロピン(成長ホルモン)、および受胎障害を処置するための濾胞刺激ホルモン(FSH)または黄体形成ホルモン(LH)のような性腺刺激ホルモン分泌細胞因子がある。組換えポリペプチドはさらに、細胞内または培養上清中に同時に発現された他の組換えポリペプチドを翻訳後修飾する酵素、例えば、グリコシル化に関与する酵素であっても良い。本発明の永久ヒト細胞株で発現された遺伝子産物E1A、E1BおよびpIX、ならびにSV40ラージT抗原およびエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原-1(EBNA-1)は、産生される所望のポリペプチドのうちには数えられない。
【0054】
本発明の方法の組換えポリペプチドは、治療または診断目的で使用され得る組換え抗体であり得る。腫瘍壊死因子α(TNFα)に対する抗体はリウマチ性関節炎の患者、細胞性上皮成長因子受容体(EGFR)に対する抗体は癌患者に対して使用される。診断目的で使用される抗体は、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)またはラジオイムノアッセイ(RIA)のような方法に基づく、商業的な診断キットの構成要素であり得る。これらの試験方法において抗体は、例えば、ヒトB型肝炎ウイルスのような病原体の抗原の検出に役立つ。
【0055】
抗体または免疫グロブリン(Ig)は、各々、可変および定常の領域またはドメインより成る、重鎖および軽鎖によって構成される。抗体の発現のために形質移入された核酸分子の核酸配列は、一方が免疫グロブリン分子の軽鎖を、他方が重鎖をコードする2つの分断された発現カセットを有してもよい。本発明の細胞中での両鎖の発現後、これらは会合して活性な抗体分子を形成する。両鎖の発現カセットは、別々のまたは同じ核酸分子上にあっても良い。軽鎖および重鎖のコード配列はまた、同一の発現カセット内に並べられ、重鎖と同様に軽鎖の発現を保証するIRES配列(内部リボソーム進入部位)によって分けられても良い。軽鎖および重鎖のコード配列は原則的には同一の発現カセット内にあってもよく、かつ細胞中で同時に発現して軽鎖および重鎖の配列から成る前駆ポリペプチドを活性な軽鎖および重鎖に分断するプロテイナーゼ(例えば、トロンビン)用の酵素切断部位をコードする一つの配列によって分けられていても良い。
【0056】
本発明の細胞中の核酸配列にコードされる組換え抗体はまた、完全な軽鎖および重鎖の代わりに、抗体の断片からなっていても良い。いわゆる一本鎖抗体(scFv、一本鎖可変断片)は、両可変ドメインの自由な可動性を保証する一つのアミノ酸配列(いわゆるリンカー)によって連結される、一つの重鎖および一つの軽鎖の可変ドメインより構成される。両ドメインの分子内会合によって、免疫グロブリン分子の可変領域に相当する抗原結合構造が生じる。二重特異性一本鎖抗体(bis-scFv)はそのような一本鎖アセンブリ二つからなり、順に連結配列で結合し互いに可動性である、一つの重鎖および一つの軽鎖の可変ドメインで構成される;このような分子は、二つの抗原結合部位(エピトープ)に同時に結合することができ、それによって、二つの分子構造を共有結合によることなく連結できる。二重特異性ダイアボディは、非常に短いリンカーを介して分けられるかまたは全くリンカーなしで分けられる、二つの一本鎖からなり、この二つの一本鎖は別々に発現し、それぞれの一本鎖は、一つの軽鎖および一つの重鎖の可変ドメインからなる。短いリンカーであること、またはリンカーがないことによって分子内での会合が妨げられ、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインの分子間会合によって、再度、二つの結合価を有する活性な分子が形成される。
【0057】
先の方法によって形質移入された核酸分子にコードされる組換えポリペプチドは、予防用または治療用ワクチンとしての使用用に産生される、ウイルス、細菌または寄生虫の蛋白質であり得る。その場合、ウイルス、細菌または寄生虫由来の構造ポリペプチドと同様に、制御もしくは酵素的に活性なポリペプチドであっても良い。ウイルス蛋白質は、例えば、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBV表面抗原)またはヒトパピローマウイルスの構造蛋白質L1であり得る。ワクチン製造のための産生細胞株での発現で問題となる細菌蛋白質は、例えば、腸管毒素原性大腸菌(Escherichia coli)(ETEC)由来のエンテロトキシンのサブユニット、または、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)由来のトランスフェリン結合蛋白質(トランスフェリン結合蛋白質TbpAおよびB)である。前述の方法によって形質移入される核酸分子にコードされ得る寄生虫のポリペプチドは、例えば、マラリア病原体熱帯性マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のメロゾイト表面蛋白質(メロゾイトの表面蛋白質、MSP)、または、日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)のグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)であり得る。
【0058】
前述の方法によって形質移入される核酸分子にコードされる組換えポリペプチドはまた、細胞株中において、組換えウイルス遺伝子導入ベクターの産生を可能にするウイルス蛋白質であり得る。このウイルス性蛋白質、補体因子とも呼ばれる蛋白質は、細胞株中で発現し、遺伝子導入ベクターの核酸分子上にはコードされない、遺伝子導入ベクターの産生に必要な酵素的または構造的な成分である。このような遺伝子導入ベクターでは、安全上の理由から、通常、特定のウイルス遺伝子機能を欠失させている。前述の方法によって導入された導入遺伝子によってその補体因子がコードされ得る遺伝子導入ベクターには、例えば、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、レトロもしくはレンチウイルス、またはヘルペスウイルスに基づくベクターが属する。細胞株中に発現した補体因子はまた、移入用の遺伝子を持たないため遺伝子導入ベクターとしては機能せず、例えば、ワクチンとして使用され、欠失または組換えウイルスの生産を補うことができる。
【0059】
前述の方法によって一過性に発現されたポリペプチドはさらに、特に細胞の表面に局在化し、細胞のウイルスによる感染、より詳細にはウイルス遺伝子導入ベクターによる細胞の形質導入に関与する受容体ポリペプチドであっても良い。殆どの従来のアデノウイルスベクターの由来である、アデノウイルス血清型2または5による、細胞感染の初期段階のためのウイルス受容体として、いわゆるコクサッキーおよびアデノウイルス受容体、CARが同定された(Bergelsonら, Science, 275, 1320-1323, 1997)。表面でのCARの十分な発現は、ある種の細胞がアデノウイルス遺伝子導入ベクターのための産生細胞に適することの必要条件である。好ましい実施形態では、組換えポリペプチドはコクサッキーおよびアデノウイルス受容体(CAR)である。受容体ポリペプチドの過剰発現は、アデノウイルスベクターに関して、感染しやすさ、およびそれによってこの細胞の産生効率を有意に改善できる。さらに、核酸分子はCARの他に、ウイルスおよび遺伝子導入ベクターの細胞中への取込みを仲介し、産生細胞の作製におけるその追加の発現がアデノウイルスベクターにとって意味のある、第二の受容体または内部移行用の受容体、例えば特定のインテグリン、をコードしても良い。
【0060】
前述の方法はとりわけ、治療用ポリペプチド、血液凝固および成長因子、ホルモンならびに抗体に加えて、ワクチンとして使用されるウイルス、細菌または寄生虫のポリペプチドの製造に使用することができる。さらには、本発明の細胞は、例えば、ウイルス、細菌もしくは寄生虫抗原、または該当する特異的抗体のような、診断に関連する蛋白質の製造に使用できる。さらには、本発明の細胞は、工業または産業に関連する蛋白質、例えば工業的合成工程または有害物質の分解の触媒作用のための酵素の製造に使用できる。本発明の細胞は、一種、または多くの異なる組換えポリペプチドをも発現し得る。発現できるポリペプチドの種類は、組換えポリペプチドをコードするどれだけ多くの異なる核酸配列が、本発明の方法によって細胞に一過性に形質移入されるかに依存する。
【0061】
本発明はさらに、本発明の方法によって作製された永久ヒト細胞株、特に永久ヒト羊膜細胞株の、ポリペプチドまたは蛋白質の製造における使用に関する。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は、発明に説明を加えるものであって、減縮するものと解されるべきでない。その他の記述がない限り、例えば、Sambrookら, 1989, 分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning: A Laboratory Manual)第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されるような、分子生物学的な標準的方法が使用された。
【0063】
1.クローニング
a.初代羊膜細胞を形質転換するためのプラスミド:pSTK146、pGS119、pGS122
プラスミドpSTK146はEP1230354B1に詳述され、マウスホスホグリセレートキナーゼ(pgk)プロモーター、アデノウイルス血清型5(Ad5)配列のヌクレオチド(nt.)505〜3522、ならびにSV40のスプライシングおよびポリアデニル化シグナルを含む。pSTK146中のアデノウイルス配列は、E1AおよびE1Bをコードする領域を含み、E1Aの発現はpgkプロモーターによって制御される。
【0064】
プラスミドpGS119はWO2007/056994に詳述され、マウスpgkプロモーター、Ad5配列ヌクレオチド505〜3522(E1AおよびE1B領域を含む)、SV40のスプライシングおよびポリアデニル化シグナルに続くAd5ヌクレオチド3485〜4079のpIX領域を有する。
【0065】
プラスミドpGS122 はWO2007/056994に詳述され、それぞれの制御プロモーターおよびポリアデニル化配列を包含するE1A、E1BおよびpIX領域を含むアデノウイルス配列ヌクレオチド1〜4344を有する。pGS122中のアデノウイルス配列は、PmeI切断部位が隣接している。
【0066】
b.T抗原発現プラスミド:pGS158、pGS159、pGS161
プラスミドpGS158、pGS159およびpGS161は全て、SV40のイントロン(配列番号:6)およびポリアデニル化部位(配列番号:7)が隣接するSV40T抗原(配列番号:4)を有する。さらに、pGS158はCAGプロモーター(CMVエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターからなるハイブリッドプロモーター)(Niwaら, Gene, 108, 193-199, 1991)、pGS159はRSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルスのプロモーター)(GenBank Acc. No. DQ075935)、pGS161はCMVプロモーター(ヒトサイトメガロウイルスの初期プロモーター)(配列番号:5)を有する。安定な細胞株の産生のためプラスミドpGS158、pGS159およびpGS161は、ユビキチンプロモーターを持つブラスチシジン発現カセット(pUB/Bsd, Invitrogen #V512-20)を有する。
【0067】
第一の段階において、T抗原コード配列を有する2.6kb断片をプラスミドpGS140に導入した。プラスミドpGS140はヒトCMVプロモーター(配列番号:5)、スプライスドナー/スプライスアクセプター部位を持つSV40イントロン領域(配列番号:6)、単一のNotI制限切断部位、およびSV40ポリA配列(配列番号:7)を含む。T抗原断片の導入のため、pGS140をNotIで線状化し、5’突出部分を埋め、単離された断片と連結した。このようにして作製したプラスミドをpGS149と名付けた。
【0068】
プラスミドpGS158のために、pGS149をXbaIで消化し、イントロン配列、T抗原およびポリA配列を有する3kb断片を単離した。この断片をpGS152のNotI切断部位(5’突出部分は埋められている)に導入した。pGS152はpUB/BsdのEcoRV切断部位への1.1kbの大きさのCAGプロモーター断片(Niwaら, Gene, 108, 193-199, 1991)の導入によって作製した。
【0069】
プラスミドpGS159のために、pGS149のT抗原を含む3kbの大きさのXbaI断片を、pGS153の埋められたNotI切断部位に導入した。pGS153は、pUB/BsdのEcoRV切断部位に導入された約0.6kbの大きさのRSVプロモーター断片を有する。
【0070】
プラスミドpGS161のために、pGS149をSphIで消化し、3’突出部分を埋め、CMVプロモーター、SV40イントロン、T抗原配列およびポリAを含む3.6kb断片を単離し、pUB/BsdのEcoRV切断部位に導入した。
【0071】
c.hAAT発現プラスミド:pGS116、pGS151
プラスミドpGS116はEP1948789に詳述され、SV40スプライスドナー/スプライス受容体部位、hAAT-cDNA(配列番号:12)およびSV40ポリアデニル化部位が後に続く、ヒトCMVプロモーターを有する。
【0072】
プラスミドpGS151(図2b)は、このhAAT発現カセットおよびSV40DNA複製開始点(複製起点、ori)を含む。SV40DNA、ならびにプライマーori1

およびori2

を用いて、SV40配列をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅し、EcoRIで消化して(プライマー中に、各々、一つのEcoRI切断部位が配置されている)、pGS116のEcoRI切断部位へ導入した。
【0073】
d.Epo発現プラスミド:pGS177
プラスミドpGS127はEP1948789に詳述され、SV40スプライスドナー/スプライス受容体部位、ヒトエリスロポエチン(Epo)のcDNA、およびSV40ポリアデニル化部位が後に続く、ヒトCMVプロモーターを有する。
【0074】
プラスミドpGS177のために、SV40 ori断片を、上述のようにプライマーori1およびori2で増幅し、pGS127へ導入した。
【0075】
2.構築物の検証
a.配列分析
上述の全プラスミドの完成度を制限消化によって試験した。さらに、pGS151およびpGS177中のSV40ori断片の正しい配列ならびに向きを、配列分析によって確認した。pSTK146、pGS119およびpGS122中のアデノウイルス配列を、配列分析で確かめたところ、Ad5野生型配列と完全に一致していた。
【0076】
b.一過性発現の試験
プラスミドpSTK146、pGS119およびpGS122を、HeLa細胞に形質移入し、E1AおよびE1B蛋白質の発現をモノクローナル抗体(Merck Bioscience)を用いたウェスタンブロットによって分析した。プラスミドpGS158、pGS159、pGS161をHEK293細胞に形質移入し、T抗原の発現をウェスタンブロットおよびモノクローナル抗体(Abcam、ケンブリッジ、UK)によって証明した。プラスミドpGS116およびpGS151をCAP細胞に形質移入し、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)の培養上清中の発現および分泌をELISA(6.参照)によって証明した。
【0077】
同様に、プラスミドpGS127およびpGS177をCAP細胞中に形質移入し、ヒトEpoの発現をELISA(6.参照)によって証明した。
【0078】
3.細胞培養
a.細胞株
形質転換された羊膜細胞(CAPおよびCAP-T)は、293SFMII培地(Invitrogen#11686-029)、0.5%抗真菌/抗生物質(Invitrogen#15240-062)、4mM L-グルタミン(Invitrogen#25030-024)中、37℃、95%湿度、8%CO2で培養した。CAP-T細胞の培養培地には5μg/mlブラストシジン(Invitrogen#R210-01)をさらに追加した。細胞を通常、2〜4×105細胞/mlの開始密度、12mlの容量で攪拌瓶中に接種し、振盪培養器中100rpmで3〜4日培養した。1〜2×106細胞/mlの密度に達すると細胞を遠心によって回収し、上記の開始密度で、新しい培地でさらに培養した。
【0079】
HEK293、HEK293-T(ATCC#CRL-11268)およびHeLa細胞は、10%ウシ胎仔血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(アドバンストD-MEM, Invitrogen#12491-015)中、細胞培養シャーレに付着させて培養した。HEK293-T細胞は293-SFMII培地中で、無血清懸濁増殖に徐々に適応させ、攪拌瓶中、100rpm、37℃、95%湿度および8%CO2で培養した。
【0080】
b.初代羊膜細胞
初代羊膜細胞を以下の定型的な方法に従って羊水穿刺より獲得した。この穿刺物から1〜2mlを、5mlハムF10培地(Invitrogen#31550-023)、10%ウシ胎仔血清、2%Ultroser G(CytoGen GmbH)、1×抗真菌/抗生物質(Invitrogen#15240-062)中、37℃、95%湿度、および5%CO2で、6cmプライマリア細胞培養シャーレ(Falcon)で培養した。4〜6日後、羊膜細胞は付着性になり始め、3mlの新しい培地と添加物(前述を参照)を加えた。細胞が完全に付着したら培地を取除き、5mlの新しい培地と添加物で置き換えた。続いての継代ではコンフルエントな細胞はPBSで洗浄し、トリプシン(TrypleSelect、Invitrogen#12563011)で剥離し、10および25mlの新しい培地および添加物の中でそれぞれ10cmおよび15cmのシャーレへ移した。
【0081】
4.初代羊膜細胞の形質転換
a.形質移入
培養した初代羊膜細胞(3b参照)を、プラスミドpSTK146、pGS119またはpGS122、いずれかの形質移入によって形質転換した。各プラスミドを予め適する制限酵素(pSTK146、pGS119:ScaI;pGS122:PmeI)によって線状化した。形質移入前、羊膜細胞を徐々に2%Ultroser入りのOpti-Pro培地(Invitrogen#12309-019)に順応させた。そのために、細胞を2〜3日毎、新しいハムF10培地(添加物あり、3b参照)にOpti-Pro培地(2%Ultroser入り)を、75:25%、50:50%、25:75%および0:100%の割合で加えたもので置き換えた。形質移入のために、15cmシャーレで約80%コンフルエントな細胞を6個の6cmシャーレに分けた。これは細胞数が各シャーレ当たり5〜7×105細胞に相当する。翌日、形質移入試薬エフェクテン(Effectene、Qiagen)を製造者の指示に従って使用して、5個のシャーレ上の細胞にそれぞれ2μgの線状化されたpSTK146、pGS119またはpGS122を形質移入した。形質移入しなかった一つのシャーレはコントロールとして引き続き培養した。翌日、細胞をPBSで洗浄してTrypleSelectで剥離し、それぞれ15cmのシャーレへ移した。3〜4日毎に培地を新しい培地に置き換えながら、細胞をさらに10〜15日培養した。この間、Ultroserの添加は1%に下げた。約10〜15日後、細胞はコンフルエントになったため、上記のようにそれぞれ15cmシャーレに移した。
【0082】
b.形質転換された細胞クローンの単離
形質移入から数週間後、全ての形質移入について、形質転換されていない羊膜細胞と形態的にはっきりと区別されるクローン細胞の島が観察された。これらの細胞島を採取し、24ウェルシャーレへ移した(継代1に該当)。細胞を引き続き増殖し、まず6cmシャーレへ、その後15cmのシャーレへ移した。それぞれのクローン細胞株中のE1蛋白質の発現は、モノクローナル抗体を使用したウェスタンブロット分析で検出した(2b参照)。
【0083】
形質転換された羊膜細胞株に基づくT抗原発現細胞株の作製を、以下に、pGS119の形質移入によって成立された細胞株(以下、CAP細胞株と呼ぶ)を例として記載する。クローン細胞島の単離および増殖の後、「限界希釈法」による単一細胞クローニングによって、細胞クローンから遺伝的に均一な株を作製した。要約すると、クローン化すべきクローンの細胞を96ウェルプレートの窪みにプレーティングし、続いての日々の間、一つの細胞のみからの実際の増殖を顕微鏡によって確認した。個々の細胞から成立した株は徐々に15cmシャーレにまで増殖させた。293SFMII培地を加えた培養培地Opti-Pro/1%Ultroserの段階的な希釈によって、細胞を無血清培地中、懸濁状態で適応させた。個々の細胞株を、安定な蛋白質発現および一過性の蛋白質発現、ならびに高い成長密度について分析し、最も良い性質のクローンを選択し、その後更に使用した。
【0084】
5.T抗原を発現する細胞プールの作製
1×107CAP細胞(初代羊膜細胞のプラスミドpGS119による形質移入で得て、無血清培地に適用および懸濁成長した細胞)に、5μgの線状化されたpGS158、pGS159およびpGS161プラスミドDNAそれぞれを形質移入し、上述の条件下、攪拌フラスコ中で培養した。安定に形質移入された細胞の選択のため、形質移入から48時間後、5μg/mlブラスチジンを加え、約3〜4週間後に安定に生育する細胞プールが成立するまで細胞をさらに培養した。細胞プールをZ582(pGS158を形質移入、T抗原をCAGプロモーターより発現)、Z583(pGS159を形質移入、T抗原をRSVプロモーターより発現)、およびZ597(pGS161を形質移入、T抗原をCMVプロモーターより発現)と名付けた。増加したT抗原濃度がCAP細胞に場合によっては毒性であるかどうか不明であるため、異なる強さのプロモーターによってT抗原を発現させることを試みた。参照蛋白質のCAP細胞中での発現がCMVプロモーターの使用によって最も高くなり、CAGプロモーターでは僅かに弱く、RSVプロモーターでは明らかに弱くなるという結果が示された。3つのプロモーターのどれでも安定に成長する細胞プールを作製することができ、3つの細胞プールは全て細胞内T抗原を発現した。
【0085】
6.CAPおよびCAP-T細胞における一過性の蛋白質発現
ここで使用された359bpのori断片は、63bpの長さの最小oriと比べ、この「コア」配列に加えてさらに21bpおよび72bpの繰り返し配列(配列番号:11)を含む。これらの繰り返し配列は両方とも、oriと重複するプロモーターの機能に実はとりわけ重要であるが、SV40DNA複製も強化するという指摘もある(ChandrasekharappaおよびSubramanian, J. Virol., 61, 2973-2980, 1987)。
【0086】
細胞中のT抗原の濃度が、参照蛋白質の発現に影響するかを試験するため、異なる強度のプロモーター下でT抗原を発現する3つの細胞プールZ582、Z583およびZ597を試験し、T抗原を発現しないCAP細胞中の一過性発現と比較した。そのために、環状プラスミドpGS151を、1×107細胞にNucleofector Technologie(Amaxa/Lonza、Programm X-001、PufferV)を用いて形質移入し、12mlの開始容量で培養した。形質移入から3および6日後、培地を交換し、また6日目には容量を15mlに増加した。形質移入後3日目から7日目まで、また形質移入後9日目に、それぞれ一定量を採取して細胞数を決定し、ポリクローナル抗hAAT抗体(未結合およびHRP結合;ICN Biomedicals)を使用したELISA(酵素結合イムノソルベント分析)法を用いてhAATの発現を決定した。コントロールとして、ヒト血漿より精製されたhAAT(ICN Biomedicals)を使用した。
【0087】
この実験の結果は図3に図示される。全てのCAP-T細胞プールで、CAP細胞と比べて、より高い一過性発現が達成された。Z582中の一過性発現はCAP細胞の8倍、Z583は25倍、Z597は70倍であった。CMVプロモーターからのT抗原発現を示す第二のCAP-T細胞プールも、Z597に匹敵する高い発現を示した。
【0088】
これらのデータは、CAP細胞中での永久的T抗原発現とT抗原発現の高さの両方が、一過性発現の高さに影響することを示す。
【0089】
さらなる実験で、プラスミドpGS116またはpGS151の一過性の形質移入後の細胞プールZ597中でのhAATの一過性発現の高さを決定した。これら二つのプラスミドは互いにpGS151中のSV40ori断片の存在を通してのみ区別される。hAATの形質移入および容量分析を上述のように実施し、hAATの発現の高さと同様に、9日間の実験期間中の生存細胞数の動向を決定した。この実験の結果は図4に図示されている。発現プラスミド中のSV40ori断片の存在によって一過性発現が30倍に増加した。1×107 CAP-T細胞は形質移入によって、9日以内で、約60mg/Lおよび最大40pg/細胞/日の発現効率に該当する、40ml容量中に2.5mgのhAATを発現することが可能だった。形質移入から約3日後に細胞増殖が始まり、細胞の生命力は全実験期間を通して80%以上のままである。
【0090】
これらの一過性発現効率がhAAT特異的でないことを示すため、さらに高度にグリコシル化された蛋白質エリスロポエチン(Epo)をCAP-T細胞で一過性に発現させた。hAATについて記載したように、Z597細胞プールの1×107 CAP-T細胞にプラスミドpGS177(Epo発現カセットおよびSV40ori断片を含む)を形質移入し、ELISA(R&D Systems、Quantikine IVD、ヒトEpo免疫分析、DEP00)によって細胞培養上清中のEpoを定量した。7日間の実験期間で、0.73mgのEpoが、32mg/Lの発現効率で発現され得た。
【0091】
7.他の細胞系での一過性発現との比較
既に以前記載されているヒト細胞株、いわゆるHEK293-T細胞株は、SV40 T抗原を安定に発現し、アデノウイルスで形質転換されたヒトHEK293細胞株に基づく(DuBridgeら, Mol. Cell. Biol., 7, 379-387, 1987)。Z597と比較できるよう、1×107 HEK293-T細胞(無血清培地、懸濁培養)に、製造者の指示に従ってAmaxa-Nucleofector-Technology(Programm X-001, Puffer V)を用いて、5μgの環状プラスミドpGS151を形質移入し、培養した。この実験の結果は図5に図示される。9日目の293-Tの細胞数は明らかにCAP-Tよりも多いにも拘わらず、293-Tに対するCAP-T中の一過性発現は約40倍高い。
【0092】
8.複製能分析
複製能分析では、CAP-T細胞中のT抗原の発現が、oriを含有する発現プラスミドの増加されたコピー数をもたらし、従って、一過性の蛋白質発現が明らかに高いことを説明しうるかが示されるべきである。そのため、Z597またはHEK293-T細胞にプラスミドpGS116もしくはpGS151を形質移入し、上記のように培養した。6、12、24、48、72および96時間後、それぞれ1×105細胞を採取して遠心分離し、PBSに入れて同量の0.8N NaOHの添加によって溶解した。細胞溶解物は、スロットブロット装置中、陽性に荷電されたナイロン膜(GE Healthcare、Hybond-N+)上にブロットした。コントロールとしては、1×105のZ597細胞に増加したプラスミド量のpGS116およびpGS151を加え、上記のように溶解し、ブロットした。この標準は、細胞当たり1000、2500、5000、10000および15000コピーに当たる。120℃、30分の膜のインキュベーションによってDNAを固定し、非放射性マーカーで標識されたhAAT-cDNAからのPCRプローブを用いて製造者の指示に従って(AlkPhos直接標識および検出系、GE Healthcare, RPN3680および3682)可視化した。pGS116およびpGS151形質移入細胞中のコピー数は標準プラスミドの既知の濃度を手がかりに定量化した。この複製能分析の結果は図6に図示されている。予想されたように、CAP-T Z597ではpGS116 は複製されず、pGS151のみが複製された。同じ細胞数のままで、pGS151のコピー数は、形質移入6時間後の約1500コピー/細胞から、形質移入72時間後にはおよそ7000コピー/細胞に増加する。それに対して、HEK293-Tでは96時間に亘ってpGS151のコピー数は一定なままである。この期間、293-T細胞数は倍になっているため、これらの細胞中でpGS151の弱い複製が起っているようだが、それはZ597での複製率より明らかに低い。
【0093】
羊膜細胞株およびHEK293-T細胞中のT抗原発現の検出はウェスタンブロット分析によって行った。3つのCAP-T細胞プールおよびHEK293-T細胞から各々1×106細胞を50μlの50mM Tris/HCl(pH8)、140mM NaCl、0.5%NP40、4mM EDTA、2mM EGTA、0.5mM PMSF、5%グリセロールに加え、氷上で30分間インキュベートした。蛋白質混合物を13000rpmで10分間遠心し、蛋白質決定キット(クーマシー、ブラッドフォード、Thermo Life Science#23200)を用いて、上清中の蛋白質濃度を決定した。12%のSDS-ポリアクリルアミドゲル上、各10μgの蛋白質を分離し、ニトロセルロース膜(Hybond ECL, Amersham Pharmacia Biotech)上に移し、T抗原特異的抗体(Abcam、抗SV40 T抗原抗体16879)を用いて可視化した。この実験によって、Z597中で、二つの別のプールおよびHEK293-T細胞よりも多くのT抗原が発現されることが示された。
【0094】
9.ポリエチレンイミンを用いた形質移入
上記の形質移入方法は、限定的にしかスケールアップできないので、さらなる形質移入試薬として、とりわけ大スケールでの形質移入が記載されるポリエチレンイミン(PEI、Polysciences、#23966)を試験した。リニアPEI(MW=25,000)を製造者の指示に従って1mg/mlの濃度で溶解し、DNA:PEI=1:3の割合で使用した。形質移入のために10μg pGS151を30μg PEIと混合して10分間室温でインキュベートし、6mlのFreeStyle培地(Invitrogen#12338-018)中の1×107 CAP-T Z597細胞に加えた。5時間後、6mlの293-SFMII培地を追加し、細胞を7日間インキュベートした。形質移入から3日後、培地を293-SFMIIと交換し、細胞の旺盛な増殖に基づき容量を30mlに上げた。この実験の結果は図7に示される。PEIによる形質移入によってCAP-Tで高い一過性の蛋白質発現が達成された。但し、最大蛋白質収量はヌクレオフェクションによって達成された発現の約2倍下回っていた。注目すべき点は、PEIによる形質移入後の細胞が明らかに早くかつ旺盛に増殖し、7日後に、ヌクレオフェクションと比べて約10倍の細胞数が達成される点である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、永久ヒト羊膜細胞株の作製方法:
(a)アデノウイルス遺伝子機能E1AおよびE1Bをコードする核酸配列を含む核酸分子を、初代ヒト羊膜細胞に形質移入する工程、および
(b)続いて、SV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原1(EBNA-1)をコードする核酸配列を含む核酸分子を、工程(a)で得られた永久ヒト羊膜細胞株に形質移入する工程。
【請求項2】
アデノウイルス遺伝子機能E1AおよびE1Bをコードする核酸配列が、ヒトアデノウイルス、特にヒトアデノウイルス血清型5由来である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アデノウイルス遺伝子機能E1AおよびE1Bをコードする核酸配列が、ヒトアデノウイルス血清型5の、ヌクレオチド1〜4344、505〜3522または505〜4079を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
SV40ラージT抗原をコードする核酸配列がさらに、CMVプロモーター、CAGプロモーターおよびRSVプロモーターの群より選択されるプロモーターの核酸配列、SV40 SD/SA(イントロン)の核酸配列、ならびにSV40ポリAの核酸配列を含み、かつ、エプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原1(EBNA-1)の核酸配列がさらに、CMVプロモーター、CAGプロモーターおよびRSVプロモーターからなる群より選択されるプロモーターの核酸配列、SV40 SD/SA(イントロン)の核酸配列、ならびにSV40ポリAの核酸配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程(a)に代えて、既に不死化されたヒト羊膜細胞が使用される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の方法によって得られる、永久ヒト羊膜細胞株。
【請求項7】
請求項6記載のヒト羊膜細胞株を使用する、組換えポリペプチドおよび蛋白質の一過性発現の方法であって、
(a)所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質をコードする核酸配列、およびSV40ラージT抗原またはエプスタイン-バーウイルス(EBV)核抗原1(EBNA-1)の認識部位もしくは結合部位を含む核酸分子を、永久ヒト羊膜細胞株に形質移入する工程、
(b)該所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質の発現を可能にする条件下で、工程(a)で得られた形質移入された永久ヒト羊膜細胞株を培養する工程、および、続いて、
(c)該所望の組換えポリペプチドまたは蛋白質を、細胞または培養上清から単離する工程
を含む、方法。
【請求項8】
組換えポリペプチドまたは蛋白質が、ホルモン、血漿因子、血液凝固因子、成長因子、細胞受容体、融合蛋白質、コクサッキーおよびアデノウイルス受容体(CAR)、抗体、ウイルス、細菌もしくは寄生虫抗原、または、組換えウイルス作製のための補助因子である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ポリペプチドまたは蛋白質の製造のための請求項6記載の細胞の使用。
【請求項10】
請求項7または8記載の方法によって得られる、ポリペプチドまたは蛋白質。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−516690(P2012−516690A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548530(P2011−548530)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/DE2010/075012
【国際公開番号】WO2010/094280
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(508146204)ツェヴェック ファーマソイティカルス ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】