説明

ヒト由来の量依存的プロモーター

基本配列(配列番号2)の1個を有する配列番号1に記載の塩基配列からなる新規DNAがイニシエーターやプロモーターとしての機能を有することを見出した。そして、配列番号1に記載の塩基配列からなる新規DNA、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAの5´末端が、基本配列(配列番号2)の1個または2個以上からなるDNAの3´末端に付加されてなるDNA、さらに構造遺伝子を含む前記DNA、前記DNAを挿入してなるベクター、該ベクターを導入されてなる形質転換体、前記DNAおよびベクターおよび形質転換体のうちのいずれかを用いる遺伝子発現調節方法または蛋白質製造方法、前記DNAおよびベクターおよび形質転換体のうちのいずれか1つを含んでなる試薬キットを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写活性能を有するヒト由来DNAおよびその利用に関する。より詳しくは、特定の配列の1個または複数個が結合した結合体からなり該配列の結合数に依存的に転写活性能を促進し得るヒト由来DNAおよび該DNAを含むDNA構築物等に関する。また、上記DNAまたは上記DNA構築物を含むベクターおよび該ベクターを導入されてなる形質転換体に関する。さらに上記DNAの調製方法に関する。また、上記DNA、上記DNA構築物または上記ベクターを用いることを特徴とする遺伝子発現量の調節方法に関する。さらに、上記DNA、上記DNA構築物、上記ベクターまたは上記形質転換体を用いる蛋白質の製造方法に関する。また、上記DNA、上記DNA構築物、上記ベクターおよび上記形質転換体のうちの少なくとも1つを含んでなる試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAのもつ遺伝子情報は、通常RNAポリメラーゼによりメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、次いでmRNAの情報にしたがって蛋白質のアミノ酸配列に翻訳される。原核生物ではRNAポリメラーゼ単独で基本的な転写を行うことができる。一方、真核生物では、転写反応の開始にRNAポリメラーゼに加えて転写因子と呼ばれる一群の蛋白質が必要である。
【0003】
転写因子は、プロモーターと呼ばれる遺伝子上の領域に順に集合してRNAポリメラーゼと共に転写開始複合体を形成し、転写反応を開始させる。転写反応は、プロモーターやエンハンサーあるいはサプレッサー等の転写調節要素により調節されている。
【0004】
遺伝子発現調節用装置であるイニシエーターやプロモーターは、遺伝子の転写開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節する機能を有する。殆どの構造遺伝子のプロモーターには、基本エレメントであるTATAボックス、CCAATボックスおよびGCに富む領域が存在する。また、TATAボックスの代わりにイニシエーター配列を転写開始点にもつものもある。イニシエーター配列は、配列YYAN(A/T)YYで表され、ここでYはCまたはTを意味し、NはAまたはTまたはCまたはGを意味する。
【0005】
プロモーターは、遺伝子工学的手法により有用蛋白質をコードする遺伝子を発現させる場合、発現効率を促進するために重要な要素である。特に、動物由来のかかる遺伝子を宿主細胞として動物細胞を用いて発現させる場合、プロモーターの選択が発現効率に大きな影響を与える。従来、頻繁に用いられてきた動物細胞用プロモーターとして、SV40プロモーター、LTRプロモーター、SRαプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーターおよびアクチンプロモーター等が知られている。
【0006】
以下に本明細書において引用した文献を列記する。
【非特許文献1】サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー。
【非特許文献2】「エンボ ジャーナル(EMBO Journal)」、1982年、第1巻、p.841−
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、遺伝子発現調節用装置であるイニシエーターやプロモーターとしての機能を有する新規DNAを見出し、これを遺伝子発現に利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意努力し、シナプトタグミンXIと称されている遺伝子の転写開始点と考えられる部位の近傍に存在し、さらにイニシエーターやプロモーター領域の特徴であるTATAボックス、イニシエーター配列および転写因子SP−1の結合部位を有する33merのDNAが反復している領域をインシリコの解析等により見出した。そして、該33merのDNAまたはその複数個が順次結合されてなるDNAの3´末端にTCCからなるDNAが付加されてなるDNAが転写活性能を有すること、さらにその転写活性能は該33merのDNAの結合数に依存的に促進することを明らかにして本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAに関する。
【0010】
また本発明は、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAの5´末端が、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAの1個または2個以上が連結されてなるDNAの3´末端に付加されてなるDNA(ここで、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAの1個または2個以上が連結されてなるDNAは、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAの3´末端とその3´末端側に位置するDNAの5´末端とが隣接するように連結されてなる)に関する。
【0011】
さらに本発明は、配列番号3から6のいずれか1に記載の塩基配列からなるDNAに関する。
【0012】
さらにまた本発明は、前記いずれかのDNAであって、転写活性能を有し、該転写活性能が該DNAに含まれる配列番号2に記載の塩基配列を基本配列として基本配列数に依存的に促進することを特徴とするDNAに関する。
【0013】
また本発明は、前記いずれかのDNAであって、転写活性能を有し、該転写活性能が該DNAに含まれる配列番号2に記載の塩基配列を基本配列として1から7の基本配列数に依存的に促進することを特徴とするDNAに関する。
【0014】
さらに本発明は、前記いずれかのDNAからなる遺伝子発現調節用装置に関する。
【0015】
さらにまた本発明は、前記いずれかのDNAと構造遺伝子とを含み、該DNAは該構造遺伝子を発現可能に配置されてなるDNAに関する。
【0016】
また本発明は、前記いずれかのDNAを含むベクターに関する。
【0017】
さらに本発明は、前記いずれかのDNAとエンハンサー機能を有するDNAを含むベクターに関する。
【0018】
さらにまた本発明は、構造遺伝子をさらに含むベクターであって、前記いずれかのDNAが該構造遺伝子を発現可能に配置されてなる前記ベクターに関する。
【0019】
また本発明は、ベクターが哺乳動物発現ベクターである前記いずれかのベクターに関する。
【0020】
さらに本発明は、ベクターがウイルスベクターである前記いずれかのベクターに関する。
【0021】
さらにまた本発明は、遺伝子治療に用いる前記いずれかのベクターに関する。
【0022】
また本発明は、前記いずれかのベクターを導入されてなる形質転換体に関する。
【0023】
さらに本発明は、ベクターが哺乳動物細胞に導入されてなる前記形質転換体に関する。
【0024】
さらにまた本発明は、前記いずれかのDNAの調製方法であって、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAと配列番号7に記載の塩基配列からなるDNAとを反応させて二本鎖DNAを形成させ、次いで、作製した二本鎖DNAを結合させて結合体を作製し、その後、該結合体を鋳型として用いてポリメラーゼ連鎖反応を行うことを特徴とするDNAの調製方法に関する。
【0025】
また本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応を配列番号8および9に記載の各塩基配列からなるDNAを用いて行うことを特徴とする前記DNAの調製方法に関する。
【0026】
さらに本発明は、前記いずれかのDNAまたは前記いずれかのベクターを用いることを特徴とする遺伝子発現量の調節方法に関する。
【0027】
さらにまた本発明は、前記DNA、前記ベクター、前記形質転換体を用いることを特徴とする蛋白質の製造方法に関する。
【0028】
また本発明は、前記DNA、前記ベクター、前記形質転換体のうち少なくとも1つを含んでなる試薬キットに関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明において見出した33merのDNA(配列番号2)またはその複数個が順次結合されてなるDNAの3´末端にTCCからなるDNAが付加されてなるDNAは、転写活性能を有し、さらに該転写活性能は該DNAに含まれる33merのDNA(配列番号2)の数に依存的に促進する。
【0030】
したがって、33merのDNA(配列番号2)またはその複数個が順次結合されてなるDNAの3´末端にTCCからなるDNAが付加されてなるDNAは、遺伝子発現方法に好適に使用できる。さらに、33merのDNA(配列番号2)の結合数を増減することで、蛋白質の発現量を人為的に調節することが可能になる。ひいては本発明により、生活習慣病等の多因子によって引き起こされる疾患の解明に有効な手段を提供し得る。すなわち、複数の病態関連の候補蛋白質の微妙な量的変動を33merのDNA(配列番号2)という基本構造をもつ同一のベクターで調節することができるため、該蛋白質の異常に起因する病態の解明に1つの有効な手段を提供できる。また本発明は、有用蛋白質の製造あるいは遺伝子治療用の発現ベクター等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6の各塩基配列からなるDNA(基本配列(配列番号2)の結合数はそれぞれ1、2、3、4および8である)と、その下流にルシフェラーゼ遺伝子と、SV40エンハンサーとを含む発現ベクターでトランスフェクションしたCOS1細胞の細胞ライセートにおいて、ルシフェラーゼ活性が基本配列(配列番号2)の結合数に比例して定量的に増加したことを説明する図である。図中SV40プロモーターとは、上記DNAの代わりにSV40プロモーターを含む発現ベクターでトランスフェクションしたCOS1細胞の細胞ライセートを示す。(実施例1)
【図2】配列番号3、配列番号13および配列番号14の各塩基配列からなるDNA(基本配列(配列番号2)の結合数はそれぞれ2、2および3である)と、その下流にルシフェラーゼ遺伝子とを含み、SV40エンハンサーは含まない発現ベクターでトランスフェクションしたCOS1細胞の細胞ライセートにおいて、ルシフェラーゼ活性が基本配列(配列番号2)の結合数に比例して定量的に増加したことを説明する図である。図中、ベクターに挿入したDNAの1はpGL−Basic Vectorのみ、2は配列番号13に記載の塩基配列からなるDNAを挿入したベクター、3は配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAを挿入したベクター、4は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAを挿入したベクターを用いた結果を示す。(実施例2)
【図3】本発明に係るDNAの転写活性能が基本配列(配列番号2)の結合数に依存的に促進するメカニズムは、結合体の結合部位に出現する、RNAポリメラーゼ等の転写開始関連因子が結合するイニシエーター配列やTATAボックスの数が、結合数にしたがって増加することによると考えられることを説明する模式図である。本DNAには転写因子SP−1が結合するコンセンサスGCボックスが存在し、結合数にしたがってSP−1の結合部位も同様に増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、シナプトタグミンXIと称されている遺伝子の転写開始点と考えられる部位の近傍に存在し、イニシエーターやプロモーター領域の特徴であるTATAボックス、イニシエーター配列および転写因子SP−1の結合部位を有する33merのDNAが反復している領域を見出し、該DNAの機能を明らかにしたことに基づいて達成した。
【0033】
本明細書において、上記33merのDNA(配列番号2)を基本配列と称することがある。また、基本配列からなるDNAの複数個がそれぞれの末端において順次接するように連結されてなるDNAを結合体、そして結合体を構成する基本配列の数を結合数と称することがある。
【0034】
本発明の一態様は、基本配列(配列番号2)の1個または複数個を含むDNAに関する。基本配列(配列番号2)の1個を含むDNAとして好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAが挙げられる。
【0035】
基本配列(配列番号2)を複数個含むDNAとして好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAの5´末端が、基本配列(配列番号2)の1個または2個以上からなるDNAの3´末端に付加されてなるDNAが挙げられる。配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAに付加される基本配列(配列番号2)の数は、好ましくは1個乃至7個である。2個以上の基本配列(配列番号2)が付加される場合は、好ましくは順次連結される基本配列(配列番号2)のそれぞれの3´末端が該DNAの下流に隣接するDNAの5´末端に連結されていることが好ましい。基本配列(配列番号2)を複数個含むDNAとして、具体的には配列番号3から6に記載の各塩基配列からなるDNAを挙げられる。
【0036】
配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAは、上記33merのDNA(配列番号2)の3´末端にTCCからなるDNAが付加されてなるものであり、すなわち本明細書でいう基本配列を1個有する。配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAに1個の基本配列(配列番号2)が上記のように付加されてなるDNAは、基本配列(配列番号2)を2個有することになり、このDNAにおいて結合数は2である。このように、本明細書においては、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAにn個の基本配列(配列番号2)が上記のように付加されてなるDNAは、基本配列(配列番号2)を「n+1」個有することになり、このDNAにおいて結合数は「n+1」である。
【0037】
本発明に係るDNAは、転写活性能を有し、さらに該転写活性能は基本配列(配列番号2)の結合数に依存的に増加することを特徴とする。例えば、配列番号1、3、4、5および6に記載の各塩基配列からなるDNA(それぞれ結合数は1、2、3、4および8である)と、その下流にルシフェラーゼ遺伝子と、さらにその下流にSV40エンハンサーとを含む発現ベクターでトランスフェクションしたCOS1細胞の細胞ライセートにおいて、ルシフェラーゼ活性が当該DNAに含まれる基本配列の結合数に比例して定量的に増加した(実施例1および図1を参照)。また、結合数が3であるDNAの転写活性能は、SV40プロモーターの転写活性能と比較して同じかまたはそれ以上であった(実施例1および図1を参照)。一方、SV40エンハンサーを含まない発現ベクターを用いて同様に検討した結果、本DNAの転写活性能はSV40エンハンサーを含む発現ベクターを用いた結果と比較して低かったが、転写活性能は基本配列(配列番号2)の結合数に比例して促進した(実施例2および図2を参照)。これらから、本発明に係るDNAが、SV40プロモーターと同じかそれ以上の転写活性能を有すること、該転写活性能が基本配列(配列番号2)の結合数に依存的に促進すること、本DNAはSV40エンハンサーの影響によりその転写活性能がさらに著しく増加することが判明した。
【0038】
本発明に係るDNAの転写活性能が、基本配列(配列番号2)の結合数に依存的に促進するメカニズムは明らかではないが、結合により結合部位にポリメラーゼ等の転写開始関連因子が結合するイニシエーター配列やTATAボックスと考えられるCCATTCからなる配列が出現し、結合数にしたがってかかるイニシエーター配列やTATAボックスの数が増加することにより転写反応が次々に開始されるために、下流の遺伝子の転写が促進されると考える(図3)。
【0039】
本発明に係るDNAは、転写活性能、いわゆるイニシエーター/プロモーター活性を有することから、本DNAはイニシエーターやプロモーター等の遺伝子発現調節用装置として使用できる。従来知られているイニシエーターやプロモーターには、本DNAのように特定の配列の結合構造を有し且つイニシエーター/プロモーター活性が該特定の配列の結合数に依存的に増加するようなものは殆ど報告されていない。本明細書においてイニシエーター/プロモーター活性とは、イニシエーターやプロモーターの下流に構造遺伝子を連結して宿主に導入したときに、宿主内でまたは宿主外に該遺伝子の遺伝子産物を生産させる能力および機能をいう。かかる活性を有することから、本DNAは遺伝子発現調節に使用することができる。イニシエーター/プロモーター活性の評価は一般的に、イニシエーターやプロモーターの下流に、レポーター遺伝子を発現可能な状態で連結させて宿主に導入し、該遺伝子の発現量を測定することで実施できる。レポーター遺伝子は、定量が容易に行える蛋白質をコードする遺伝子、例えばルシフェラーゼ遺伝子等の酵素蛋白質をコードする遺伝子等が好適に用いられる。かかる評価において、レポーター遺伝子の発現の強弱により、イニシエーター/プロモーター活性の強弱を決定することができる。
【0040】
本発明に係るDNAの調製は、自体公知の核酸合成法を用いて化学合成により実施できる。
【0041】
配列番号1または2に記載の塩基配列からなるDNAの調製は、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて実施できる。例えばゲノムDNAライブラリーを作製して鋳型とし、当該DNAを増幅することのできるプライマーを配列番号1または2に記載の塩基配列に基づいて作製して用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して該DNAを調製できる。
【0042】
本発明に係るDNAはまた、i)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAと、配列番号7に記載の塩基配列からなるDNAとを適当な条件下で反応させて二本鎖DNA(以下、アダプターと称することもある)を形成させ、ii)次いで、作製したアダプターの複数個を公知のライゲーション法により結合させてアダプター結合体を作製し、iii)その後、該アダプター結合体を鋳型として用い、配列番号1に記載の塩基配列に基づいて作製したプライマーを使用してPCRを行い、iv)得られたPCR増幅産物を適当なベクターに挿入し、大腸菌等の宿主を用いてクローニングした後に所望の結合体数を有するクローンを選択して、該クローンから調製することができる。
【0043】
アダプターを形成させる条件として、例えば90℃にて1分間;70℃から40℃まで1時間かけて冷却;40℃で15分間インキュベーション;さらに4℃まで1時間かけて冷却するといった条件が挙げられる。またアダプターの結合は簡便には、市販のDNAライゲーションキット等を用いて実施可能である。
【0044】
PCRに用いるプライマーは、配列番号1に記載の塩基配列に基づいて、所望のDNAを増幅できるものを設計し、自体公知の方法で化学合成して得ることができる。本発明に係るDNAのベクターへの導入を容易にするために、例えばこれらDNAの5´および3´末端に制限酵素サイトを付加するようなときには、上記プライマーに所望の制限酵素サイトが付加されるように設計して化学合成したプライマーを用いてPCRを行うことができる。具体的には例えば、制限酵素サイトとして5´末端にMluIサイトおよび3´末端にBglIIサイトが付加されたDNAの調製は、プライマーとして配列番号8に記載の塩基配列からなるDNAおよび配列番号9に記載の塩基配列からなるDNAを用いてPCRを行うことにより実施できる。このようにして調製した制限酵素サイトを有する本DNAは、適当な制限酵素により処理した後に、同じ制限酵素により処理したベクターのマルチクローニングサイトに導入することが可能である。
【0045】
本発明に係るDNAの調製方法は、これらの例に制限されず、慣用の遺伝子工学的手法あるいは化学合成法等の公知の手法をいずれも利用できる。
【0046】
本発明の一態様はまた、本発明に係るDNAと構造遺伝子とを含み、該DNAが該構造遺伝子を発現可能にその上流に配置されてなるDNA構築物に関する。ここで、構造遺伝子が発現可能とは、該遺伝子が該DNAにより発揮されるイニシエーター/プロモーター活性の制御下にあること、を意味する。かかるDNA構築物は、本DNAと所望の構造遺伝子とを用いて公知の遺伝子工学的手法により作製することができる。構造遺伝子は、例えばヒト由来の構造遺伝子を用いるときにはヒト由来cDNAライブラリーを作製し、所望の遺伝子を増幅することのできるプライマーを該遺伝子の塩基配列に基づいて設計して合成し、PCR等の遺伝子工学的手法により得ることができる。
【0047】
本発明の一態様はさらに、本発明に係るDNAを含むベクターに関する。本発明に係るベクターは、適当なベクターに本DNAを挿入することにより得られる。ベクターは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、目的により公知のベクターから所望のものを選択して使用することができる。本DNAはヒト由来のDNAであることから、該DNAの転写活性能を利用して構造遺伝子の発現調節を行うためには哺乳動物発現ベクターを用いることが好ましい。遺伝子治療等に用いる場合にはレトロウイルスまたはワクシニアウイルス等の動物ウイルスベクター等が好適に使用できる。その他、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)等の植物ウイルスベクターを含め、他のウイルスベクターを本発明に係るベクターとして用い得る。本DNAをベクターに挿入する方法としては、まず、挿入するDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素サイトまたはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに組込む方法等が利用できるが、この方法に限定されず、公知の遺伝子工学的方法をいずれも利用できる。
【0048】
本発明に係るベクターは、本発明に係るDNAと構造遺伝子とを含むものであることができる。このとき本DNAは構造遺伝子の上流に該遺伝子を発現可能に配置されることが好ましい。本DNAを構造遺伝子の上流に連結するには、DNAリガーゼやホモポリマー法を利用することができる。DNAリガーゼにより連結する場合、例えば本DNAと構造遺伝子とが同一の制限酵素部位を有するときはこの制限酵素で消化した後、例えば文献(非特許文献1)に記載の方法に準じて、DNAリガーゼを加えることにより、本DNAと構造遺伝子とを連結することができる。また両者が同一の制限酵素部位を有しないときは末端をT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化した後、同様にDNAリガーゼで処理することによりDNAと構造遺伝子とを連結することができる。
【0049】
構造遺伝子は、本発明に係るDNAあるいはベクターを用いて発現させることができるものであればいずれも用いることができる。例えば哺乳動物由来の遺伝子、細菌類、酵母類、放線菌類、糸状菌類、子嚢菌類、担子菌類等の微生物由来の遺伝子、あるいは植物、昆虫等の生物由来の遺伝子等が含まれるが、好ましくは哺乳動物由来の遺伝子である。
【0050】
本発明に係るDNAの転写活性能はエンハンサーの影響によりその能力がさらに促進されたため、上記ベクターにエンハンサーとしての機能を有するDNAを連結することにより構造遺伝子の発現をさらに促進することができる。エンハンサーとはイニシエーターやプロモーターからの転写を著しく促進する配列をいう。エンハンサーとしての機能を有するDNAは、本DNAあるいは構造遺伝子の5´上流側または3´下流側のいずれの位置に配置してもよい。かかるDNAとして、好ましくはSV40エンハンサーが挙げられる。ベクターにはその他、所望によりポリA付加シグナル、選択マーカーまたはターミネーター等の機能を有するDNAを連結することができる。さらに、必要により複製起点を有していても良い。選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0051】
本発明の一態様はまた、本発明に係るDNAまたはDNA構築物が導入されてなる形質転換体に関する。本DNAまたは本DNA構築物の導入は、本DNAを含むベクターあるいは本DNA構築物を用いて実施できる。ベクターを用いて実施する方法は、周知の遺伝子工学的手法がいずれも使用できる。例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等の方法が例示できる。ベクターを使用せずに実施する方法は、例えば公知文献(非特許文献2)に記載された方法等を用いることができる。
【0052】
宿主細胞として、好ましくは哺乳動物由来細胞、さらに好ましくは哺乳動物由来の培養細胞を用いることができる。例えば、ヒトの培養細胞としてはFL細胞やHeLa細胞等、非ヒト哺乳動物細胞としてはサル由来のCOS細胞やVero細胞等、ハムスター由来のCHO細胞やBHK細胞等、ラット由来のGH3細胞等、マウス由来のL細胞等が挙げられるがこれらに限らず、構造遺伝子の発現や蛋白質の製造に使用されている周知の宿主細胞を使用できる。
【0053】
本発明の一態様はさらに、本発明に係るDNA、DNA構築物またはベクターを用いることを特徴とする遺伝子発現量の調節方法に関する。本DNAは転写活性能を有し、該転写活性能はその特徴として本DNAに含まれる基本配列(配列番号2)の結合数に依存的して促進する。かかるDNAを用いることにより、所望の遺伝子の発現量調節が可能になる。すなわち、本DNAに含まれる基本配列(配列番号2)の結合数を増減することにより、遺伝子発現量を人為的に調節することが可能である。例えば、基本配列(配列番号2)の結合数の多いものはより高い転写活性能を有するため、このようなDNAを用いて構造遺伝子の発現を実施すると該遺伝子の発現量が増加し、蛋白質の生産量が増加する。一方、基本配列(配列番号2)の結合数の少ないものはより転写活性能が低いため、遺伝子の発現は低くなると考えられる。遺伝子の発現量調節は、本発明に係るDNA構築物またはベクターを用いて同様に実施可能である。
【0054】
本発明に係る遺伝子発現量の調節方法により、例えば生活習慣病等の多因子によって引き起こされる疾患の解明が可能になる。すなわち、複数の病態関連の候補蛋白質の微妙な量的変動を、例えば基本配列(配列番号2)をもつ同一のベクターで調節可能になるため、該蛋白質の異常に起因する病態の解明に有効な手段となり得る。
【0055】
本発明に係るDNA、DNA構築物、ベクターまたは形質転換体は蛋白質の製造方法に利用することができる。例えば、本DNAの下流に所望の構造遺伝子を配置したDNA構築物または本ベクターを、自体公知の方法で宿主細胞に導入した形質転換体を常法に従って培養し、得られた培養物から該構造遺伝子にコードされる蛋白質を採取することにより、蛋白質の生産が可能である。培養に用いられる培地としては、ベクターを導入した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択して利用でき、培養も該宿主細胞の成育に適した条件下で実施できる。所望の蛋白質が、該形質転換体の細胞内で生産される場合は、細胞を破砕することにより目的蛋白質を抽出する。また、所望の蛋白質が細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により細胞を除去して蛋白質を得ることができる。
【0056】
本発明に係るDNA、DNA構築物またはベクターにより所望の遺伝子の発現調節が可能であるため、これらは遺伝子治療に用いることができる。例えば、特定の遺伝子の発現が不足または欠如していることに起因する疾患の遺伝子治療に適用できる。また、これらを導入した動物由来細胞、好ましくはヒト由来細胞を遺伝子治療に用いることもできる。
【0057】
遺伝子治療に用いる場合、本発明に係るDNA、DNA構築物、ベクターまたは形質転換体は、直接体内に導入するインビボ法と、患者の体内より標的とする細胞を一旦取り出して体外で遺伝子を導入して、その後、該細胞を体内に戻すエクスビボ法の両方の方法に適用できる。インビボ法がより好ましい。遺伝子を導入する標的組織および標的細胞は、遺伝子治療(処置)の対象により適宜選択することができる。例えば、標的細胞として、リンパ球、線維芽細胞、肝細胞、造血幹細胞等の細胞を挙げられるが、これらに制限されない。
【0058】
遺伝子の体内または細胞内への導入法は、非ウイルス性のトランスフェクション法、あるいはウイルスベクターを利用したトランスフェクション方法のいずれも適用できる。非ウイルス性のトランスフェクション法は、ウイルスベクターを利用した方法と比較して、安全性および簡便性の点で優れておりかつ安価であるためより好ましい。いずれのトランスフェクション法も、遺伝子治療に用いられている各種の方法に従って実施できる。
【0059】
遺伝子治療に用いる場合は、一般的には、注射剤、点滴剤、あるいはリポソーム製剤として調製することが好ましい。また、プロタミン等の遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。投与は、1日に1回または数回に分けて行うことができ、1日から数週間の間隔で間歇的に投与することもできる。
【0060】
本発明に係るDNA、DNA構築物、ベクターおよび形質転換体はいずれも、それ自体を単独で、試薬等として使用できる。また、これらから選ばれる少なくとも1つを含んでなる試薬キットも、本発明の範囲に含まれる。試薬または試薬キットであるとき、これらは緩衝液、塩、安定化剤および/または防腐剤等の物質を含んでいてもよい。
【0061】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0062】
(33mer DNA結合体の作製)
シナプトタグミンXIと称されている遺伝子の転写開始点と考えられる部位の近傍には、イニシエーターやプロモーター領域の特徴であるTATAボックス、イニシエーター配列および転写因子SP−1の結合部位を有する33merのDNA(配列番号2)が反復している領域が存在している。この領域に着目し、33merのDNA(配列番号2)の1つ以上を有する結合体を作製した。以下、33merのDNA(配列番号2)を基本配列と称することがある。
【0063】
合成オリゴヌクレオチド、33mer Uni.(配列番号2)および33mer Rev.(配列番号7)を用い、これらを次に示す条件下で反応させて2本鎖DNAフラグメント(以下、アダプターと称する)を作製した:90℃にて1分間加熱;70℃から40℃まで1時間かけて冷却;40℃で15分間インキュベーション;さらに4℃まで1時間かけて冷却。アダプターは、5´末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼ(TAKARA社)によりリン酸化し、次いで2つ以上の該アダプターをDNA Ligation Kit(TAKARA社)により結合させてアダプター結合体を作製した。
【0064】
33mer Uni.:5´−TTC GGA AGA GGC GGA GTC TTC TTC CGA GGA CCA3´(配列番号2)
33mer Rev.:5´−GAA TGG TCC TCG GAA GAA GAC TCC GCC TCT TCC3´(配列番号7)
【0065】
アダプター結合体は、ベクター(PGL3−Enhancer Vector、Promega社)に挿入するために、制限酵素サイトを付加した。具体的には、作製したアダプター結合体を鋳型とし、プライマーとしてMluI 33mer Uni.(配列番号8)、BglII R3 Long(配列番号9)を用いてPCRを実施することにより、アダプター結合体に制限酵素サイトを付加した。制限酵素サイトを付加したアダプター結合体は、MluI(TAKARA社)およびBglII(TAKARA社)を用いて37℃にて1時間制限酵素処理し、ベクターへの挿入に供した。
【0066】
MluI 33mer Uni.:5´−CGA CGC GTT TCG GAA GAG GCG GAG TC3´(配列番号8)
BglII R3 Long:5´−GGA GAT CTG AAT GGT CCT CGG AAG AAG AC3´(配列番号9)
【0067】
(33mer DNA結合体を含むベクターの調製)
ベクターは、PGL3−Enhancer Vector(Promega社)を用いた。PGL3−Enhancer Vectorは、MluI(TAKARA社)およびBglII(TAKARA社)を用いて37℃にて1時間制限酵素処理し、次いでアルカリホスファターゼ(TAKARA社)を用いて56℃で1時間の脱リン酸化処理を3回実施した。アダプター結合体は、上記のように制限酵素処理した後にDNA Ligation kitを用いてPGL3−Enhancer Vector/MluI/BglII/BAPx3に挿入し、大腸菌(DH5α、Invitrogen社)にトランスフォーメーションした。ベクターに挿入された33mer DNA結合体の配列と該結合体に含まれる基本配列(配列番号2)の結合数を、ABI PRISM 377 DNA Sequencer(Applied Biosystems社)により検討した。最終的にpGL3−Enhacer Vectorのルシフェラーゼ遺伝子の上流に基本配列(配列番号2)を1、2、3、4または8個有する結合体が配置されてなるベクターが調製できた。各ベクターに挿入された結合数1、2、3、4または8の基本配列(配列番号2)を有するDNAを、それぞれ配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示した。
【0068】
(33mer DNA結合体の転写活性能の測定)
33mer DNA結合体の転写活性能の測定は、レポーター酵素としてホタルルシフェラーゼを有するDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用い、ルシフェラーゼ活性を指標にして行った。
【0069】
被検試料として、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6の各塩基配列からなるDNAを有する上記pGL3−Enhacer Vectorを用いた。配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6の各塩基配列からなるDNAはそれぞれ、結合数1、2、3、4または8の基本配列(配列番号2)を有する。ネガティブコントロールとして何も挿入していないpGL3−Enhacer Vectorを、ポジティブコントロールとしてSV40プロモーターおよびSV40エンハンサーを有するpGL3−Control Vector(Promega社)を用いた。同時に、トランスフェクション効率の差異を補正するためにウミシイタケルシフェラーゼの遺伝子をレポーター酵素として有するphRL−TK Vectorを内部コントロールベクターとして使用した。
【0070】
ベクターをトランスフェクションする細胞としてCOS−1細胞を用い、10%牛胎仔血清(FBS、GIBCO社)を含むDMEM(GIBCO社)にて培養した。トランスフェクションはTransFast Reagent(Promega社)を用いて定法に従い実施した。まず、COS−1細胞をNUNCLON Surface(Nunc社)24wellに播種した(細胞数5×10/ml、1ml/well)。翌日、被検試料500ng/well、phRL−TK Vector 500pg/wellをFBSを含まない新鮮培地200μl/wellに添加して混和し、さらにTransFast Reagent 1.5μl/wellを添加してよく混和した後、室温にて10分間放置した。前日播種した細胞の培地を取り除いた後のwellに上記混和液を加えて37℃で1時間培養し、さらにFBSを含む新鮮培地を1ml加えて37℃にて24時間培養した。その後、培養上清を取り除き、Passive Lysis Buffer(kitに添付)を用いて細胞ライセートを調製した。被験試料の代わりに、ネガティブコントロールまたはポジティブコントロールを用いて、同様に細胞ライセートを調製した。
【0071】
各細胞ライセートのルシフェラーゼ活性の測定を、Micro Lumat Plus(perkin Elmer社)を使用して行った。ルシフェラーゼ活性は、得られた測定値から、以下の式を用いて算出した値で表示した。
【0072】
【数1】

【0073】
図1に示したように、基本配列(配列番号2)の結合数に比例して、ルシフェラーゼ活性が定量的に増加した。このことから、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6の各塩基配列からなるDNAは、該DNAの下流に配置された遺伝子を発現させ得る転写活性能を有し、該転写活性能は基本配列の結合数に依存的に促進することが明らかになった。また、配列番号4、配列番号5および配列番号6の各塩基配列からなるDNAによるルシフェラーゼ発現量は、SV40プロモーターと同等またはそれ以上であったことから、これらDNAはイニシエーターやプロモーターとして十分な機能を有することが判明した。
【実施例2】
【0074】
(シナプトタグミンXI遺伝子の上流域の調製)
ヒトゲノムDNA10ngを鋳型DNAとし、プライマー1(配列番号10)およびプライマー2(配列番号11)を用いてLA PCR kit(TAKARA社)によりPCRを行い、シナプトタグミンXI遺伝子の転写調節領域のDNA(以下、転写調節領域のDNAと称する)を得た。転写調節領域のDNAは、ベクター(PGL−Basic Vector、Promega社)に挿入するため、さらにプライマー3(配列番号12)およびBglII R3 Long(配列番号9)を用いてPCRを実施し、制限酵素サイトを付加した。制限酵素サイトを付加した転写調節領域のDNAは、MluI(TAKARA社)およびBglII(TAKARA社)を用いて37℃にて1時間制限酵素処理し、ベクターへの挿入に供した。PGL−Basic Vectorは、実施例1で用いたPGL3−Enhancer Vectorと比較して、SV40エンハンサー部位が欠如している他は、全く同じ構成要素を有するベクターである。
【0075】
プライマー1:5´−GGC AGT CGA TAC TGA AAT CCA GGC−3´(配列番号10)
プライマー2:5´−GAA TGG TCC TCG GAA GAA GAC TCC−3´(配列番号11)
プライマー3:5´−CGA CGC GTG GCA GTC GAT ACT GAA ATC CAG−3´(配列番号12)
【0076】
(シナプトタグミンXI遺伝子の転写調節領域のDNAを含むPGL3−Basic Vectorの調製)
ベクターは、PGL3−Basic Vector(Promega社)を用いた。PGL3−Basic Vectorは、MluI(TAKAR社)およびBglII(TAKARA社)を用いて37℃にて1時間制限酵素処理し、次いでアルカリホスファターゼ(TAKARA社)を用いて56℃にて1時間の脱リン酸化処理を3回実施した。転写調節領域のDNAは、上記のように制限酵素処理した後、Ligation kit(TAKARA社)を用いてPGL3−Basic Vector/MluI/BglII/BAPx3に挿入し、大腸菌(DH5α;Invitrogen社)にトランスフォーメーションした。ベクターに挿入された転写調節領域のDNAの塩基配列をABI PRISM 377 DNA Sequencer(Applied Biosystems社)により確認した後、該ベクターをレポーターアッセイに供した。ベクターに挿入された転写調節領域の塩基配列を、配列番号13または配列番号14に示す。配列番号13および配列番号14に記載の各塩基配列からなるDNAは、それぞれ基本配列(配列番号2)の結合数が2および3であるDNAを含むことが判明した。また、配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA(基本配列(配列番号2)の結合数が2である)を転写調節領域のDNAの代わりに用いて同様の方法でPGL3−Basic Vectorに挿入し、得たベクターをレポーターアッセイに供した。
【0077】
レポーターアッセイは、レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を用い実施例1と同じ方法により実施した。図2に示すように、上記各ベクターを導入された形質転換体において発現されたルシフェラーゼの活性は、挿入された配列番号13または配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAに含まれる基本配列(配列番号2)の結合数に比例して定量的に増加した。一方、配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAを挿入したベクターを導入された形質転換体において発現されたルシフェラーゼ活性は、配列番号13または配列番号14に記載の塩基配列からなるDNAを導入された形質転換体と比較して低かったが、コントロールベクターを導入した形質転換体と比較して明らかに高かった。
【0078】
これらから、SV40エンハンサーの影響がない条件下においても、基本配列(配列番号2)を有するDNA自体が転写活性能を示すこと、また該転写活性能は基本配列(配列番号2)の結合数に依存的に促進することが明らかになった。
【0079】
さらに、基本配列(配列番号2)の結合数が2であるDNAを含むベクターを導入された形質転換体のルシフェラーゼ活性が、SV40エンハンサーを有さないベクター(図2)に比べて、SV40エンハンサーを有するベクター(図1)では著しく高いことから、該DNAの転写活性能はSV40エンハンサーの影響によりさらに著しく増加することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、遺伝子発現量の人為的な調節や有用蛋白質の製造等のために利用可能であり、基礎科学研究から医薬開発まで広い分野で非常に有用性が高い。
【配列表フリーテキスト】
【0081】
配列番号1:イニシエーター/プロモーターとして機能し得る設計されたDNA。
配列番号2:配列番号1のDNAの5´末端に付加したときに該DNAのイニシエーター/プロモーター活性を促進し得る設計されたDNA。
配列番号3:イニシエーター/プロモーターとして機能し得るDNA。
配列番号4:イニシエーター/プロモーターとして機能し得るDNA。
配列番号5:イニシエーター/プロモーターとして機能し得るDNA。
配列番号6:イニシエーター/プロモーターとして機能し得るDNA。
配列番号7:配列番号2のDNAと二本鎖DNAを形成するDNA。
配列番号8:プライマーとして機能し得るDNA。
配列番号9:プライマーとして機能し得るDNA。
配列番号10:プライマーとして機能し得るDNA。
配列番号11:プライマーとして機能し得るDNA。
配列番号12:プライマーとして機能し得るDNA。
配列番号13:シナプトタグミンXI遺伝子の転写調節領域の塩基配列。
配列番号14:シナプトタグミンXI遺伝子の転写調節領域の塩基配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA。
【請求項2】
配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAの5´末端が、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAの1個または2個以上が連結されてなるDNAの3´末端に付加されてなるDNA:ここで、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAの1個または2個以上が連結されてなるDNAは、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAの3´末端とその3´末端側に位置するDNAの5´末端とが隣接するように連結されてなる。
【請求項3】
配列番号3から6のいずれか1に記載の塩基配列からなるDNA。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のDNAであって、転写活性能を有し、該転写活性能が該DNAに含まれる配列番号2に記載の塩基配列を基本配列として基本配列数に依存的に促進することを特徴とするDNA。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のDNAであって、転写活性能を有し、該転写活性能が該DNAに含まれる配列番号2に記載の塩基配列を基本配列として1から7の基本配列数に依存的に促進することを特徴とするDNA。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNAからなる遺伝子発現調節用装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNAと構造遺伝子とを含み、該DNAは該構造遺伝子を発現可能に配置されてなるDNA。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNAを含むベクター。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNAとエンハンサー機能を有するDNAを含むベクター。
【請求項10】
構造遺伝子を含むベクターであって、請求項1から5のいずれか1項に記載のDNAが該構造遺伝子を発現可能に配置されてなる請求項8または9に記載のベクター。
【請求項11】
ベクターが哺乳動物発現ベクターである請求項8から10のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項12】
ベクターがウイルスベクターである請求項8から10のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
遺伝子治療に用いる請求項8から12のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか1項に記載のベクターを導入されてなる形質転換体。
【請求項15】
ベクターが哺乳動物細胞に導入されてなる請求項14に記載の形質転換体。
【請求項16】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNAの調製方法であって、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAと配列番号7に記載の塩基配列からなるDNAとを反応させて二本鎖DNAを形成させ、次いで、作製した二本鎖DNAを結合させて結合体を作製し、その後、該結合体を鋳型として用いてポリメラーゼ連鎖反応を行うことを特徴とするDNAの調製方法。
【請求項17】
ポリメラーゼ連鎖反応を配列番号8および9に記載の各塩基配列からなるDNAを用いて行うことを特徴とする請求項16に記載のDNAの調製方法。
【請求項18】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNA、請求項7に記載のDNAまたは請求項8から13のいずれか1項に記載のベクターを用いることを特徴とする遺伝子発現量の調節方法。
【請求項19】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNA、請求項7に記載のDNA、請求項8から13のいずれか1項に記載のベクターまたは請求項14若しくは15に記載の形質転換体を用いることを特徴とする蛋白質の製造方法。
【請求項20】
請求項1から5のいずれか1項に記載のDNA、請求項7に記載のDNA、請求項8から13のいずれか1項に記載のベクターおよび請求項14または15に記載の形質転換体のうち少なくとも1つを含んでなる試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/042738
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515169(P2005−515169)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016100
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】