ヒト癌の治療に有用なキメラ免疫受容体
【課題】本発明は、細胞表面に細胞外ドメインをつなぐことができる支持領域に連結した可溶性受容体を含む細胞外ドメイン、膜貫通領域及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、「ゼータカイン(zetakines)」というキメラ膜貫通免疫受容体に関する。
【解決手段】ゼータカインは、Tリンパ球の表面上で発現すると、可溶性受容体リガンドが特異的である受容体を発現する特異的細胞へとT細胞活性を指向させる。ゼータカインキメラ免疫受容体は、特にヒト悪性疾患に用いられる自己分泌/パラ分泌サイトカイン系による様々な癌の治療への適用を含む、T細胞の抗原特異性を再指向させるための抗体基材免疫受容体の新規な進展である。好ましい態様では、IgGのFc領域に連結したIL−13Rα2特異的IL−13突然変異体IL−13(E13Y)の細胞外標的指向ドメイン、ヒトCD4の膜貫通ドメイン及びヒトCD3ζ鎖を含むグリオーマ特異的免疫受容体である。
【解決手段】ゼータカインは、Tリンパ球の表面上で発現すると、可溶性受容体リガンドが特異的である受容体を発現する特異的細胞へとT細胞活性を指向させる。ゼータカインキメラ免疫受容体は、特にヒト悪性疾患に用いられる自己分泌/パラ分泌サイトカイン系による様々な癌の治療への適用を含む、T細胞の抗原特異性を再指向させるための抗体基材免疫受容体の新規な進展である。好ましい態様では、IgGのFc領域に連結したIL−13Rα2特異的IL−13突然変異体IL−13(E13Y)の細胞外標的指向ドメイン、ヒトCD4の膜貫通ドメイン及びヒトCD3ζ鎖を含むグリオーマ特異的免疫受容体である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌療法及びヒト脳腫瘍及び他の癌の治療におけるキメラ免疫受容体を発現する遺伝子組換えTリンパ球の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性脳腫瘍は、青少年の癌に関連した死亡率の3番目の主因であり、小児では2番目の主因であり、そして小児及び老人の集団共に発生率が増加していると考えられる1−4。グリオーマは、原発性脳腫瘍の最も一般的なタイプであり、米国では、年に20,000症例が診断され、グリオーマに関連した死亡は14,000件にのぼる5−8。グリオーマの悪性挙動は不均一であり、そのうち最も一般的かつ悪性の形態である、未分化星状細胞腫(AA−III度)及び多形性グリア芽細胞腫(GBM−IV度)では、急性進行性かつほぼ一様に致死性である9;10。現在適用可能な治療方法は、当該高悪性度の腫瘍を最低限治療しうるが、中枢神経系内に局在することにより、既に重症の罹病状態がさらに悪化する場合が多い。したがって、悪性グリオーマに罹患した患者は、人生の最も生産的な時期を損なわれることが多く、様々な知的能力の低下及び高い致命率により、当該腫瘍固有の個人的及び社会的影響力の原因となる場合が多い。
【0003】
悪性グリオーマの腫瘍学的管理の基本は切除及び放射線療法である11−16。最新の外科手術及び放射線療法の技術で、平均生存期間は、多形性グリア芽細胞腫では82週間及び未分化星状細胞腫では275週間に延びたが、5年の生存率は、多形性グリア芽細胞腫で3〜6%及び未分化星状細胞腫で12.1%増加しただけであった6−8。長期生存の主な予後指標は、より若い年齢(<40歳)及び一般状態(KPSスコア>70)である17。巨大腫瘍の>90%の切除は、通常は、致命的機能性解剖が容認される場合に試みられる。術後放射線療法と共に用いられる場合、生存期間への切除程度の影響力は明らかではない18;19。切除及び放射線化学療法を加えても、未分化星状細胞腫又は多形性グリア芽細胞腫の患者に最低限の生存効果を与えるにすぎない20−23。ニトロソ尿素類は、単独又はプロカルバジン及びビンクリスチンとの組合せで、社会で用いられる慣用的な薬物であり、全生存期間中央値に影響を与えずに、1年及び2年の生存率を15%改善すると考えられる24;25。白金基材薬物及びトポイソメラーゼ阻害剤を組み入れた、より攻撃的な治療方法が研究されている26。幹細胞救出を伴う高用量化学療法の役割はこれまで示されてこなかった27−29。
【0004】
再発性腫瘍の約80%は、完全に切除されなかった元の腫瘍がX線で促進された残部に由来する10;30;31。再発が一点でありかつその場所で攻撃的再切除に適する場合、本アプローチは、特に、未分化星状細胞腫の患者、及びKPS>70の多形性グリア芽細胞腫の患者の生存期間を延ばすことができる70。再切除で処置された再発性多形性グリア芽細胞腫患者の生存期間中央値は36週間である10;30;31。近接照射療法か又は定位放射線手術法の形態の放射線療法は、再切除された再発性多形性グリア芽細胞腫患者の生存期間を10〜12週間だけ延ばすことができる32。再発性疾患で化学療法を用いることは、本患者集団での効力が未だ示されていないが、適用可能な臨床試験に関連しているはずである。
【0005】
悪性グリオーマの悪化が持続する予後により、遺伝子治療(TK自殺、腫瘍増殖因子受容体のアンチセンス阻害、条件致死ウイルスベクター)、免疫療法(抗体、腫瘍細胞ワクチン、イムノトキシン、活性リンパ球の養子免疫細胞移入)及び抗血管新生のアプローチが含まれるがこれらに限定されない新規な治療物質の臨床研究が促進された33−40。悪性グリオーマに有効なアジュバント療法の開発での多数の課題としては、正常な脳実質中への腫瘍細胞の広範な浸潤性増殖;当該腫瘍から産生される可溶性因子が免疫応答の発生を減衰する機能;及び中枢神経系(CNS)に治療薬を投与する場合の臨床的に有意な治療上の比率決定が困難であることがあげられる。新規な治療薬の早期臨床評価は、本患者集団で明らかに示される。
【0006】
最近は、トランスフェリン及び増殖因子の受容体は、毒素又は放射性ヌクレオチドに共役した当該受容体のリガンドを送達系として利用した実験的グリオーマ治療薬の課題であった41。本アプローチの特異性は、正常脳と比較して、グリオーマ細胞上の標的受容体固有の発現又は過発現に依存する。興味深いことに、免疫系で用いられるインターロイキンの受容体複合体のいくつかは、グリオーマ、特に高親和性IL−13受容体で発現される42−48。免疫系で用いられる、IL−13Rα1、IL−4Rβ及びγcからなるIL−13受容体三分子複合体とは異なり、グリオーマ細胞は、IL−4Rβ又はγcの要件とは関係なくIL−13を結合できる固有のIL−13Rα2を過発現する44;49;50。その相同IL−4のように、IL−13にはCNS外の多面発現性免疫調節活性がある51−53。双方のサイトカインは、Bリンパ球によるIgE生産を刺激してマクロファージによる前炎症性サイトカイン生産を抑制する。CNS内のIL−13の免疫生物学はほとんど知られていない。
【0007】
放射性標識されたIL−13によるオートラジオグラフィーを用いたDebinskiらの詳細な研究は、試験したほとんど全ての悪性グリオーマ組織上で多量のIL−13が結合を示した42;45;46;48。さらに、当該結合は、腫瘍部分内の単細胞分析で極めて均一である46;48。ヒトグリオーマ細胞系へ結合するIL−13のスキャッチャード分析は、平均して17,000〜28,000結合部位/細胞を示す45。IL−13Rα2mRNAに特異的なプローブを用いた分子分析は、全てのCNS解剖学的位置での正常脳の要素によるグリオーマ特異的受容体の発現を示すことができない42;43。さらに、放射性標識IL−13でのオートラジオグラフィーは、CNS内の検出可能な特異的IL−13結合を示すことができなかったので、共有するIL−13Rα1/IL−4β/γcも、CNS内において検出可能なレベルで発現されないことが示唆された。当該知見は、独立して、非病理学的脳部分で免疫組織化学的技法を用いて、IL−13Rα1及びIL−4βに特異的な抗体で証明された54。したがって、IL−13Rα2は、これまでに報告されたグリオーマについて最も特異的かつ遍在的に発現される細胞表面標的である。
【0008】
CNS内のIL−13Rα2のグリオーマ特異的発現を有効利用する戦略として、様々な細胞毒素(シュードモナス属外毒素及びジフテリア毒素)をカルボキシル末端に融合するIL−13サイトカインの分子構築体が報告されている55−58。IL−13受容体への結合時の当該毒素の内在化は当該融合タンパク質の選択的毒性に基づく。当該毒素は、インビトロのグリオーマ細胞に対してピコモル濃度で強力な細胞傷害性を示す55。免疫欠損マウスへのヒト頭蓋内グリオーマ異種移植片は、毒素なしに、IL−13−毒素融合タンパク質の腫瘍内注入により排除することができる55。当該研究は、IL−13標的抗毒素を悪性グリオーマについて所々局部的に(loco-regionally)利用した臨床研究の開始をサポートする。
【0009】
しかしながら、IL−13基材細胞毒素が広範に発現するIL−13Rα1/IL−4β/γc受容体複合体へ結合する場合、CNS外の正常組織へ有害な傷害性を媒介する可能性があるため、当該物質の全身投与が制限される。IL−13は、分子レベルで十分に研究されており、個々の受容体サブユニットと会合するのに重要な本サイトカインの構造ドメインはマッピングされている55;58。結果として、IL−13で選択されたアミノ酸置換には、本サイトカインがその受容体サブユニットと会合する場合に予測可能な効果がある。IL−13のαヘリックスA、具体的には、アミノ酸13のアミノ酸置換は、IL−4βと会合するその機能を阻害して、IL−13Rα1/IL−4β/γc受容体に対するIL−13の親和性を選択的に5倍低下させる55;57;58。驚くべきことに、突然変異体IL−13(E13Y)のIL−13Rα2への結合は保存されただけでなく、野生型IL−13に対して50倍高まった。したがって、置換を最小限にしたIL−13類似体は、IL−13Rα1/IL−4β/γc受容体がある正常組織に対して、IL−13Rα2へ選択的に結合することによるグリオーマ細胞へのIL−13の特異性及び親和性を同時に高めることができる。
【0010】
悪性グリオーマは免疫療法治療に極めて魅力的な臨床物質であるが、それは、(1)切除及び放射線療法を行っている大部分の患者の疾患負荷状態が最小限になること及び(2)CNS範囲内の当該腫瘍の解剖学的位置により、エフェクター細胞を直接所々局部的投与できるという理由からである。少なくとも二つの病理学的研究により、悪性グリオーマ中の血管周囲リンパ球浸潤の程度が、予後の改善と相関することが示された59−61。動物モデル系により、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞ではないグリオーマ特異的T細胞が、大脳内に移植したグリオーマの退行を介在できることが示された62−71。T細胞は、LAK細胞とは異なり、脳実質中に浸潤する機能があるため、原発性腫瘍から離れている浸潤性腫瘍細胞でも標的とすることができる。当該知見にもかかわらず、グリオーマが、主として、グリオーマ反応性T細胞応答の誘導/増幅を阻害する免疫抑制サイトカイン(TGF−β2)及びプロスタグランジンの生成により、免疫破壊を活発に阻害するという証拠が多数存在する72−74。当該知見により、生体内反応がおきる腫瘍が介在する制限を克服する戦略としての養子免疫療法のための生体外での拡大抗グリオーマエフェクター細胞の評価が促進された。
【0011】
これまで、悪性グリオーマ切除腔への生体外活性化リンパ球の投与を伴う少なくとも10件の試験的研究が報告された75−85。様々なエフェクター細胞タイプ(LAK、TIL、同種抗原反応性CTL);患者毎の不均一組成/組成変動;及びグリオーマ標的に対する当該エフェクター細胞のインビトロ反応性が低いことが多いにもかかわらず、当該研究は、全体として、逸話的長期生存者を含む再発性/難治性疾患患者で約50%の反応率を報告している。当該研究は、グリオーマの細胞免疫療法の優れた臨床作用が、均一の極めて強力なエフェクター細胞で期待されるという前提を支持する。
【0012】
当該試験的研究は、悪性グリオーマ患者の切除腔中へ、T細胞増殖因子であるインターロイキン−2(IL−2)及び生体外活性化リンパ球を直接投与する場合の安全性及び寛容性についても報告している75;76;78;82;86−92。個々の細胞用量(>109個/用量)が多い場合でも、累積細胞用量(>27x109個)が高い場合でも、傷害性はわずかであり、典型的には、II度又はそれ未満の一過性頭痛、悪心、嘔吐及び熱が含まれる。上記のように、当該研究では、さらに、rhIL−2を共投与により、転移リンパ球の生体内生存が支持された。リンパ球と同時又はリンパ球投与後に逐次的に与えられる多数回用量は、48時間ごとに送達されるIL−2の12用量過程について1.2x106IU/用量と同程度の高い用量で許容された。
【0013】
上記で概要された知見に基づき、グリオーマ免疫療法で用いられるリンパ球エフェクター細胞の抗腫瘍力価を改善する戦略が開発されている。1のアプローチとしては、上皮増殖因子受容体(EGFR)結合ドメインを用いたグリオーマ標的を含む抗CD3ドメインによりTリンパ球を共局在化かつ活性化することができる二重特異性抗体を用いる93−96。自己リンパ球と組み合わせた当該二重特異性抗体での予備的臨床実験では、T細胞が切除腔中で活性化されることを示唆する。しかしながら、脳実質内の浸潤性腫瘍細胞を標的とすることが本アプローチの潜在的に重大な限界である。T細胞が、グリオーマにより発現される標的抗原に特異的である場合、抗グリオーマ活性が有意に高まることがありうると考えられる。増加する、SART−1遺伝子を含む、Tリンパ球が反応性である腫瘍抗原をコードするヒト遺伝子をクローニングしたが、それは、高悪性度グリオーマのほぼ75%で発現されると考えられる97。樹状細胞基材インビトロ細胞培養技術や四量体基材T細胞選択技術により、養子免疫療法のための抗原特異的T細胞の単離が可能になった。SART−1等の抗原は、制限性HLA対立遺伝子の場合にT細胞で認識されるため、抗原特異的アプローチでは、一般的なグリオーマ患者集団に広く適用できる当該抗原を提示できる制限性HLA対立遺伝子及び抗原の数を実質的に増やす必要があるだろう。
【0014】
T細胞抗原受容体複合体ζ鎖(scFvFc:ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインに融合した細胞外一本鎖抗体(scFvFc)からなるように遺伝子操作されたキメラ抗体受容体がT細胞中で発現された場合、単クローン性抗体の特異性に基づく抗原認識を再指向させる機能がある98。腫瘍細胞表面エピトープへ標的特異性があるscFvFc:ζ受容体の設計は、存在する抗腫瘍免疫に依存しないため、養子免疫療法の抗腫瘍免疫エフェクター細胞を生成する概念的に魅力的な戦略である。当該受容体は、MHC非依存態様で抗原を結合する点で「普遍的」であり、1の受容体構築体を用いて、抗原陽性腫瘍患者集団を治療することができる。Her2/Neu、CEA、ERRB−2、CD44v6に特異性がある受容体及び腎細胞癌で選択的に発現するエピトープを含めた、ヒト腫瘍を標的とする構築体が参考文献に報告されている98−104。当該エピトープは全て、キメラT細胞受容体によるscFv結合に用いられる細胞表面部分であるという共通の特徴がある。インビトロ研究により、CD4+及びCD8+双方のT細胞エフェクター機能が、当該受容体により惹起されうることが示された。さらに、動物モデルにより、養子免疫細胞に導入されたscFvFc:ζ発現性T細胞に樹立された腫瘍を除去する機能があることが示された105。腫瘍特異的scFvFc:ζ受容体を発現する一次ヒトT細胞の機能をインビトロで評価したが、当該細胞は腫瘍標的を特異的に溶解してIL−2、TNF、IFN−γ及びGM−CSFを含む一連の前炎症性サイトカインを分泌する104。第1相試験的養子免疫療法研究が、HIV感染個体のHIVgp120に特異的な自己scFvFc:ζ発現性T細胞と、乳房及び結腸直腸の腺癌を含む多様な腺癌で発現するTAG−72に特異性がある自己scFvFc:ζ発現性T細胞を用いて進行している。
【0015】
City of Hopeの研究者は、CD20+B細胞悪性疾患を標的とする目的のCD20特異的scFvFc:ζ受容体構築体と、神経芽細胞腫を標的とするL1−CAM特異的キメラ免疫受容体を作製した106。前臨床実験室研究により、再編成されていない染色体に組込まれたベクターDNAの単一コピーを含有しかつCD20特異的scFvFc:ζ受容体を発現するCD8+CTLクローンを、健康な個体及びリンパ腫患者から単離しかつ増やすことができることが示された107。本課題を達成するために、CMV前/初期プロモーターの転写制御下のキメラ受容体配列と、SV40初期プロモーターの転写制御下のNeoR遺伝子とを含有する精製直鎖状プラスミドDNAを、エレクトロポレーションという手順であって、細胞及びDNAを短時間電流へ暴露することにより、活性化ヒト末梢血単核細胞中に導入した。Fred Hutchinson Cancer Research Center, Seattle, Washinton のFDA認可臨床試験で現在用いられている選択、クローニング及び増量の方法を用いて、CD20特異的細胞溶解活性がある遺伝子組換えCD8+CTLクローンを、6人の健康な志願者から、15回の別々のエレクトロポレーション手順で作製した。当該クローンは、ヒトCD20+リンパ腫細胞系パネルと共培養した場合に増殖し、標的細胞を特異的に溶解して刺激をして、サイトカインを生成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、細胞外ドメインであって、細胞表面に細胞外ドメインをつなぐことができる支持領域に連結した可溶性受容体、膜貫通領域及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、「ゼータカイン(zetakines)」というキメラ膜貫通免疫受容体に関する。ゼータカインは、Tリンパ球の表面上で発現すると、可溶性受容体リガンドが特異的である受容体を発現する細胞へT細胞活性を指向させる。ゼータカインキメラ免疫受容体は、特に、ヒト悪性疾患に用いられる自己分泌/パラ分泌サイトカイン系を介在する、様々な癌の治療へ適用を含む、T細胞の抗原特異性を再指向させる抗体基材免疫受容体の新規な進展を示す。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1の好ましい態様では、悪性グリオーマ及び腎細胞癌によるIL−13Rα2の腫瘍限定発現を細胞免疫療法の標的として用いて、IL−13Rα2へ選択的高親和性で結合するIL−13サイトカイン突然変異体IL−13(E13Y)を、IL−13Rα2発現性腫瘍細胞へT細胞抗原特異性を再指向できるI型膜貫通キメラ免疫受容体へ変換した。ゼータカインの本態様は、ヒトIgG4 Fcに融合した細胞外IL−13(E13Y),
膜貫通CD4及び細胞内T細胞抗原受容体CD3複合体ζ鎖からなる。細胞表面上で受容体を選択的に発現する様々な癌細胞タイプのいずれにも特異的である類似の免疫受容体を生じうるが、その選択的リガンドは公知又は遺伝子組換えで作製することができる。
【発明の効果】
【0018】
当該免疫受容体を発現するように安定に形質転換されたヒトT細胞の大量系(bulk lines)及びクローンは特異的な癌細胞系に再指向された細胞を溶解するが、同時に、非標的細胞に対する傷害性は無視できる。当該遺伝子組換えT細胞は、グリオーマ等の治療が困難な癌を含む悪性疾患の強力かつ選択的な治療法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
遺伝子組換えにより再指向されたT細胞で腫瘍を標的とするのに理想的な細胞表面エピトープとは、腫瘍細胞上で均一な態様で予後が同じ患者集団内の全ての腫瘍で単独で発現するものである。腫瘍細胞膜からの標的分子の調節及び/又は流出は、再指向されたT細胞認識のための具体的な標的エピトープの有用性にも影響を与えることがありうる。これまで、「理想的な」腫瘍特異的エピトープはあまり明確でなかったが、二次エピトープは、臨界的正常組織で発現しないこと又は腫瘍で相対的に過発現することに基づいて標的とされた。悪性グリオーマの場合、この癌の治療のためにT細胞を腔内投与すると、CNS外の他の組織による発現にさほど厳密にならず、正常CNSではない腫瘍細胞上で発現される場合に標的エピトープ量が増加しうる。腔内投与経路、及び(b)典型的に全身投与される細胞用量と比較して細胞の投与数が低い場合に基づく、交差反応性による傷害性に関する問題がある。
【0020】
IL−13Rα2受容体は、悪性グリオーマの最も遍在的で特異的な細胞表面標的として存在する47。感受性オートラジオグラフィー及び免疫組織化学的研究ではCNS内のIL−13受容体を検出することができない46;48。さらに、グリオーマに限定されたIL−13Rα2受容体を選択的に結合するIL−13サイトカインの突然変異は、CNS外のIL−13Rα1/IL−4β+正常組織に対するIL−13で指向された治療薬の有害な反応性に対するもう一つの防御手段である55;57。グリオーマIL−13Rα2を標的とすることの潜在的有用性、CD4TM、及びCD3ζの細胞質尾部へと順次融合するヒトIgG4 Fcにより原形質膜に結合した細胞外IL−13突然変異サイトカイン(E13Y)からなるT細胞の特異性を再指向させるための新規な遺伝子組換えキメラ免疫受容体の設計及び試験。本キメラ免疫受容体は、「IL−13ゼータカイン」とした。IL−13Rα2受容体/IL−13(E13Y)受容体−リガンド対は、一般的にゼータカインで用いる受容体−リガンド対の適合性を理解しかつ評価するための優れた指針である。理想的なゼータカインは、IL−13(E13Y)の性質(独特の癌細胞表面受容体への特異性;天然に存在する可溶性細胞シグナル分子に由来する生体内安定性;同様の理由による免疫原性が低いこと)である細胞外可溶性受容体リガンドを含む。可溶性受容体リガンドは、細胞外環境で安定であり、非抗原性であり、より選択的であると考えられる点で、抗体断片(scFvFc免疫受容体等)又は細胞接着分子の先行技術を用いるより明確に有利であるとして可溶性受容体リガンドを用いることができる。
【0021】
本発明のキメラ免疫受容体は、細胞内受容体シグナル伝達ドメインへ順次連結した膜貫通ドメインを介して細胞表面にリガンドを結合する細胞外支持領域に連結した可溶性受容体リガンドを含む細胞外ドメインを含む。所望の可溶性受容体リガンドの例としては、自己分泌及びパラ分泌増殖因子、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン及び相当な特異性を示す遺伝子組換え人工低分子リガンドがあげられる。天然リガンド配列も、特定の標的細胞への特異性を高めるように遺伝子操作することができる。特定のゼータカインで用いるための可溶性受容体リガンドの選択は、グリオーマに用いるのに好ましいリガンドであるIL−13(E13Y)分子に関する上記の品質及び標的細胞の性状に依存する。所望の支持領域の例としては、免疫グロブリンの定常(Fc)領域;ヒトCD8∝;及び標的細胞上の受容体結合へより接近させるために細胞表面から離れて標的指向部分を移動させるのに有用な人工リンカーがあげられる。好ましい支持領域は、IgG(IgG4等)のFc領域である。適する膜貫通ドメインの例としては、白血球CDマーカー、好ましくは、CD8の膜貫通ドメインがあげられる。細胞内受容体シグナル伝達ドメインの例としては、T細胞抗原受容体複合体、好ましくは、CD3のζ鎖、さらには、単独で又はCD3ζと連続した、FcγRIII共刺激シグナル伝達ドメイン、CD28、DAP10、CD2のものがあげられる。
【0022】
IL−13ゼータカイン態様では、E13Yアミノ酸置換があるヒトIL−13cDNAを、PCRスプライスオーバーラップ伸長で合成した。完全長IL−13ゼータカイン構築体を、PCRスプライスオーバーラップ伸長により構築したが、これは、ヒトGM−CSF受容体α鎖リーダーペプチド;IL−13(E13Y)−Gly−Gly−Gly;ヒトIgG4 Fc;ヒトCD4TM及びヒト細胞質ζ鎖からなる。本cDNA構築体を、ヒト伸長因子−1αプロモーター(Invivogen, San Diego)の転写制御下で修飾pMGプラスミドのマルチクローニングサイトで連結した。本発現ベクターは、単一分子内で、形質転換体のインビトロ選択のためのハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ活性及び細胞の生体内除去のためのHSVチミジンキナーゼ活性と、CMV前/初期プロモーターからのガンシクロビルとを組み合わせる融合タンパク質HyTKをコードするHyTKcDNAを共発現する。グリコシル化の阻害剤であるツニカマイシンと共にプレインキュベートした全細胞Jurkat溶解産物を抗ζ抗体プローブでウェスタンブロットすると、予想した無傷の56−kDaキメラ受容体タンパク質が発現されるということが示された。本受容体は、天然IL−13サイトカインの翻訳後修飾と一致し、激しくグリコシル化される108。抗ヒトIL−13及び抗ヒトFc特異的抗体でのIL−13ゼータカイン+Jurkat細胞のフローサイトメトリー分析により、IL−13ゼータカインがI型膜貫通タンパク質として細胞表面で発現されたことが確認された。
【0023】
City of Hopeで開発された樹立ヒトT細胞遺伝子修飾法を用いて107、IL−13ゼータカインキメラ免疫受容体を発現する一次ヒトT細胞クローンを、前臨床機能性特性決定のために生成した。IL−13ゼータカイン+CD8+CTLクローンは、生体外増幅培養物で強い増殖活性を示す。増幅したクローンは、4時間クロム放出検定で、ヒトIL−13Rα2+グリア芽細胞腫細胞系に対して、再指向された細胞溶解活性を示す。その細胞溶解活性レベルは、T細胞上のゼータカイン発現レベル及びグリオーマ標的細胞上のIL−13Rα2受容体密度レベルと相関する。死滅に加え、IL−13ゼータカイン+クローンは、サイトカイン分泌(IFN−γ、TNF−α、GM−CSF)で活性化される。無関係なキメラ免疫受容体を発現するCTLクローンは、グリオーマ細胞に応答せず、活性化はT細胞形質転換体上のIL−13及びグリオーマ標的細胞上のIL−13Rα2に対する遮断抗体又は可溶性IL−13を培養物へ添加することにより用量依存態様で阻害されうるため、活性化はグリオーマ細胞上のIL−13Rα2受容体とIL−13ゼータカインの相互作用により特異的に媒介された。最後に、IL−13ゼータカイン発現性CD8+CTLクローンは、培養物中でグリオーマ細胞により刺激された場合に増殖する。強力な抗グリオーマエフェクター活性があるIL−13ゼータカイン+CTLクローンは、正常CNSへの限られた側副損傷を伴う悪性グリオーマに対して有意に臨床活性があるであろう。
【0024】
本発明の免疫受容体は、当該技術分野で公知のいかなる手段でも作製できるが、好ましくは、組換えDNA技術を用いて作製する。キメラ受容体のある領域をコードする核酸配列は、標準的な分子クローニング技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマー補助連結反応、部位特異的突然変異誘発等)で製造しかつ完全なコード配列を構築することができる。得られたコード領域を、好ましくは、発現ベクター中に挿入し、適当な発現宿主細胞系、好ましくは、Tリンパ球細胞系、最も好ましくは、自己Tリンパ球細胞系に形質転換するのに用いる。第三部分は、免疫受容体の発現のために、形質転換した体液又は異種(xerogenic)免疫エフェクター細胞系であるT細胞系/クローンをもたらした。NK細胞、マクロファージ、好中球、LAK細胞、LIK細胞、及び当該細胞へ分化する幹細胞も用いることができる。好ましい態様では、リンパ球は白血球搬出(leukopharesis)で患者から入手し、当該自己T細胞をゼータカインを発現するように形質導入し、いずれか臨床的に許容しうる手段で投与して患者に戻し、抗癌療法を達成する。
【0025】
治療効果に適する用量は、好ましくは、一投薬サイクルで約106〜109個細胞/用量であると考えられる。好ましい投薬方式は、0日目に約107個細胞で始めて5日目までに約108個細胞の標的用量まで漸増させる、4回の用量を徐々に増やす1週間投薬サイクルである。適当な投与様式としては、静脈内、皮下、腔内(例えば、貯蔵アクセス装置(reservoir-access device))、腹腔内及び腫瘍塊中への直接注入があげられる。
【0026】
以下の実施例は、本発明の1の態様を詳しく説明するためのものにほかならない。
【実施例】
【0027】
実施例1:免疫受容体コード配列の構築
本発明による免疫受容体のコード配列は、IL13(E13Y)コード配列の de novo合成で、以下のプライマーを用いて構築した(免疫受容体コード配列及び発現ベクターの構築を示すフローチャートは、図8を参照されたい)。
【0028】
【化1】
【0029】
最終配列(417bp)を、EcoRI−BamHIで末端消化してプラスミドpSK(Stratagene, LaJolla, CA)で連結312#3として連結した。連結312#3を突然変異誘発して(stratagene kit、製造者の使用説明書による)、
プライマー5’:IL13 312#3mut5−3
【0030】
【化2】
【0031】
及び3’:IL13 312#3mut3−5
【0032】
【化3】
【0033】
と、鋳型として連結312#3を用いて、欠失したヌクレオチドを固定して、連結348#1(IL13ゼータカイン/pSK)を作製した。
コーディングヒトGM−CSFRα鎖シグナルペプチド(hsp)コード配列を、標準的PCRスプライスオーバーラップ伸長でIL13(E13Y)の5’末端に融合した。hsp配列(101bp)は、鋳型連結310#10(hsp/pSK)(ヒトT細胞cDNAのヒトGCSF受容体α鎖リーダー配列)から、
プライマー5’:19hsp5’
【0034】
【化4】
【0035】
(XbaI部位を太字で強調する)
及び3’:hsp−IL13FR
【0036】
【化5】
【0037】
を用いて獲得した。IL−13配列(371bp)は、
プライマー5’:hsp−IL13FF
【0038】
【化6】
【0039】
及び3’:IL13−IgG4FR
【0040】
【化7】
【0041】
と、鋳型として連結312#3を用いて獲得した。このようにして得られた101bpのhsp配列及び371bpのIL13配列と、プライマー5’:19hsp5’及び3’:IL13−IgG4FRを用いて融合して438bpの融合hsp−IL13配列を作製した。
【0042】
IgG4 Fc領域IgG4m:ζをコードする配列を、同様の方法を用いて、hsp−IL13融合配列の3’末端に融合した。IgG4m:ζ配列(1119bp)は、
プライマー5’:IL13−IgG4FF
【0043】
【化8】
【0044】
及び3’:ZetaN3’
【0045】
【化9】
【0046】
(NotI部位を太字で強調する)
を用い、鋳型として配列R9.10(IgG4mZeta/pSK)を用いて得た。その1119bpのIgG4m:ζ配列を、鋳型として各配列と、プライマー5’:19hsp5’及び3’:ZetaN3’を用いて、hsp−IL13融合配列に融合して、1522bpのhsp−IL13−IgG4m:ζ融合配列を作製した。当該末端を、XbaI−NotIで消化してpSK中に連結351#7として連結して、プラスミドIL13ゼータカイン/pSK(4464bp)を作製した。
【0047】
実施例2:発現ベクターの構築
IL13ゼータカインコード配列を含有する発現ベクターは、実施例1のIL13ゼータカイン/pSKをXbaI−NotIで消化し、Klenowで平滑末端を作り、得られた断片をプラスミドpMG^Pac(Invitrogen)(SgrAIで開環し、Klenowで平滑にしてSAPでの脱リン酸で最初に作製する)中に連結して、プラスミドIL13ゼータカイン/pMGをつくることにより作製した。図8を参照されたい。IL13ゼータカイン/pMGのハイグロマイシン耐性領域を、NotI−NheIで消化して除去し、NotI−NheIで消化してプラスミドCE7R/Hy−pMG(Jensen, City of Hope)から獲得した選択/自殺融合HyTKで置換して、発現ベクターIL13ゼータカイン/HyTK−pMG(6785bp)を作製した。本プラスミドは、ヒト伸長因子−1αプロモーター(hEF1p)を塩基6〜549に、IL13ゼータカインコード配列を塩基692〜2185に、Simian Virus 40後期ポリアデニル化シグナル(Late SV40pAN)を塩基2232〜2500に、最小の大腸菌(E. coli)複製起点(OriColE1)を塩基2501〜3247に、合成ポリA及びポーズ部位(SpAN)を塩基3248〜3434に、Immeate early CMVエンハンサー/プロモーター(hCMV−1Aprom)を塩基3455〜4077に、ハイグロマイシン耐性−チミジンキナーゼコード領域融合(HyTK)を塩基4259〜6334に及びウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル及び転写ポーズ(BGh pAn)を塩基6335〜6633に含む。当該プラスミドは、塩基3235〜3242にPacI線状化部位がある。hEF1p及びIL13ゼータカイン要素は、IL13ゼータカイン/pMGに由来し、残りの要素は、CE7R/HyTk−pMGに(HyTK要素を除き、最終的には、親プラスミドpMG^Pacに)由来した。要すれば、IL13ゼータカイン/HyTk−pMGは、修飾pMG主鎖であり、IL13ゼータカイン遺伝子をhEF1プロモーターから、HyTK融合をhCMV−1Aプロモーターから発現する。プラスミドIL13ゼータカイン/HyTk−pMGのマップは、図9より明らかである。当該プラスミドの完全核酸配列は図10に示されている。IL13ゼータカイン挿入配列を、下の配列番号15として示す。
【0048】
【化10】
【0049】
実施例3:免疫受容体の発現
発現した構築体の完全性の評価を、最初に、グリコシル化阻害剤であるツニカマイシンの存在下又は不存在下で共培養したJurkatT細胞安定形質転換体107に由来する全細胞溶解産物の抗ζ抗体でプローブしたウェスタンブロットで示した(図1)。JurkatT細胞安定形質転換体(Jurkat−IL13−pMG大量系)は、JurkatT細胞をIL13ゼータカイン/HyTk−pMG発現ベクターでエレクトロポレーション後、陽性形質転換体の選択及び増幅により獲得した。Jurkat−IL13−pMG大量系から、24穴プレート中に、2×106個/穴の細胞を、5μg/ml、10μg/ml又は20μg/mlのツニカマイシンを含むか又は含まずにプレーティングした。当該プレートを37℃で22時間インキュベートした。細胞を各穴から採取し、各試料をPBSで洗浄して1錠/10mlの 完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(Boehringer Mannheim, Indianapolis, IN)含有の50μlのRIPA緩衝液(PBS、1%NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)中に再懸濁させた。試料を氷上で30分間インキュベート後、21ゲージ針のシリンジで吸引して破壊後、氷上でさらに30分間インキュベートし、4℃で14,000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離された溶解産物上澄みの試料を採取し、等容量の試料緩衝液で減圧条件で沸騰後、12%アクリルアミドゲルでSDS−PAGE電気泳動を行った。ニトロセルロースへの転移後、膜を4℃で一晩乾燥させた。翌日、膜を、T−TBS(Tris緩衝化生理食塩水pH8.0中の0.02%Tween)中に0.04g/mlの脱脂粉乳を含有する Blotto 溶液中で1時間ブロッキングした。次に、膜を、1μg/mlの濃度の一次マウス抗ヒトCD3ζ単クローン性抗体(Pharmingen, San Diego, CA)と共に2時間インキュベートし、洗浄後、ヤギ抗マウスIgGアルカリ性ホスファターゼ共役二次抗体(Bio-Rad ImmunoStar Kit, Hercules, CA)の1:3000希釈(Blotto 溶液中)と共に1時間インキュベートした。展開する前に、膜をT−TBSでさらに4回洗浄後、3mlのリン酸基質溶液(BioRad ImmunoStar Kit, Hercules, CA)と共に室温で5分間インキュベートした。次に、膜をプラスチックで覆い、X線フィルムに感光した。野生型ヒトIL−13の既知のグリコシル化パターンと一致し、発現したIL−13(E13Y)ゼータカインの電気泳動移動度は、ツニカマイシンの存在下で発現した場合に約54kDaのアミノ酸主鎖に低減した著しくグリコシル化したタンパク質を示す。
【0050】
IL−13(E13Y)ゼータカインは、フィコエリトリン(PE)共役抗ヒトIL13単クローン性抗体及びフルオレセインイソチオシアネート(FITC)共役マウス抗ヒトFc(γ)断片特異的F(ab’)2抗体での形質転換体のフローサイトメトリー分析で示されるように、ホモ二量体I型膜貫通タンパク質として細胞表面へと移行する(図2)。Jurkat IL13ゼータカイン−pMG形質転換体を、細胞表面キメラ受容体発現の分析のため、抗ヒトFc(FITC)抗体(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)、組換えヒトIL13Rα2/ヒトIgG1キメラ(R&D Systems, Minneapolis, MN)、その後、FITC共役抗ヒトIgG1単クローン性抗体(Sigma, St. Louis, MO)及び抗IL13(PE)抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色した。健康なドナー一次細胞も、FITCに共役した抗CD4、抗CD8、抗TCR及びイソ型対照単クローン性抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色して、細胞表面表現型を評価した。各染色した106個細胞を洗浄して2%FCS、0.2mg/mlのNaN3及び5μlのストック抗体を含有する100μlのPBS中で再懸濁させた。4℃で30分インキュベーション後、細胞を2回洗浄して二次抗体で染色するか又は1%パラホルムアルデヒドを含有するPBS中に再懸濁させ、FACSCaliber サイトメーターで分析した。
【0051】
実施例4:IL13(E13Y)ゼータカインのIL13Rα2受容体への結合
ヒトIgG4Fcで細胞膜に結合したIL13(E13Y)(すなわち、IL13(E13Y)ゼータカイン)は、可溶性IL13Rα2−Fc融合タンパク質を用いたフローサイトメトリー分析で評価されるように、標的IL13Rα2受容体に結合しうる(図3)。クローン化ヒトPBMC IL13ゼータカイン−pMG形質転換体は、IL13ゼータカイン/HyTK−pMG発現ベクターでPBMCをエレクトロポレーションした後、陽性の形質転換体の選択及び増幅を行って獲得した107。IL13ゼータカイン+CTLクローン細胞を、細胞表面キメラ受容体発現の分析のため、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)共役マウス抗ヒトFc(γ)断片特異的F(ab’)2(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)、組換えヒトIL13Rα2/ヒトIgG1キメラ(R&D Systems, Minneapolis, MN)、その後、FITC共役抗ヒトIgG1単クローン性抗体(Sigma, St. Louis, MO)及びフィコエリトリン(PE)共役抗ヒトIL13単クローン性抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色した。健康なドナー一次細胞も、FITCに共役した抗CD4、抗CD8、抗TCR及びイソ型対照単クローン性抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色して、細胞表面表現型を評価した。各染色のうち106個細胞を洗浄して2%FCS、0.2mg/mlのNaN3及び5μlの抗体を含有する100μlのPBS中に再懸濁させた。4℃で30分インキュベーション後、細胞を2回洗浄して二次抗体で染色するか又は1%パラホルムアルデヒドを含有するPBS中に再懸濁させ、FACSCaliber サイトメーターで分析した。
【0052】
次に、一次ヒトT細胞のための代理抗原受容体としてのIL−13(E13Y)ゼータカインの免疫生物学を評価した。一次ヒトT細胞を、プラスミド発現ベクターでエレクトロポレーションした。陽性形質転換細胞をハイグロマイシンで選択し、限界希釈中でクローン化後、OKT3、IL−2及び照射支持細胞での反復刺激サイクルで増加させた。次に、ウェスタンブロット及びFACSでIL13ゼータカイン発現を示すクローンを、様々なIL−13Rα2+/CD20−グリオーマ細胞系(U251、SN−B19、U138)及びIL−13Rα−/CD20+B細胞リンパ球系 Daudi)に対して、4時間クロム放出検定で機能性評価を行った。当該試験により、IL13ゼータカインが、グリオーマ細胞に特異的である細胞溶解活性をもたらしたこと(図4a)及び本特異的細胞溶解活性が、クラスとしてのグリオーマ細胞に存在するということ(図b)が示された。MJ−IL13−pMGクローンの細胞溶解活性は、51Cr標識されたSN−B19、U251及びU138グリオーマ細胞系(IL13Rα2+/CD20−)及びDaudi(CD20+/IL13Rα2−)を標的として用いて検定した。MJ−IL13エフェクターは、刺激後8〜12日に検定した。エフェクターを採取し、洗浄して検定培地中に再懸濁させた。2.5×105個、1.25×105個、2.5×104個及び5×103個のエフェクターを、96穴V底微量滴定プレートで、5×103個の標的細胞と共に、三重反復試験で37℃で4時間で培養した。インキュベーション後、細胞不含上澄みの100μlアリコートを採取し、上澄み中の51Crをγカウンターで検定した。特異的細胞溶解比率を、次のように計算した。
【0053】
【数1】
【0054】
標的細胞を含有する対照穴を標的細胞単独でインキュベートした。最大51Cr放出は、2%SDSの存在下で標識標的細胞から放出される51Crを測定して決定した。約40%のIL−13(E13Y)ゼータカイン+TCRα/β+リンパ球からなる安定なトランスフェクションしたヒトT細胞の大量系は、4時間クロム放出検定で、13Rα2+グリオーマ標的に特異的で再指向された細胞溶解を示し(25:1のE:T比で>50%の特異的溶解)、IL−13Rα2−標的に対する活性は無視できる程度であった(25:1のE:T比で<8%の特異的溶解)。抗IL−13抗体への高レベル結合基準で選択されたIL−13(E13Y)ゼータカイン+CD8+TCRα/β+CTLクローンも、再指向されたIL13Rα2特異的グリオーマ細胞死滅を示す(図4b)。
【0055】
IL−13ゼータカイン発現性CD8+CTLクローンは、培養物中のグリオーマ細胞で刺激されると活性化されて増殖する(図5〜7)。IL−13ゼータカインを発現するMJ−IL13−pMG Cl.F2応答細胞を、インビトロのIFNγ、GM−CSF及びTNFα生産の受容体を介するトリガーリング(triggering)について評価した。2×106個の応答細胞を、24穴組織培養プレートで、全2ml中に2×105個の照射刺激細胞(Daudi、線維芽細胞、神経芽細胞腫10HTB及びグリア芽細胞腫U251)と共培養した。遮断性ラット抗ヒトIL13単クローン性抗体抗体(Pharmingen, San Diego, CA)、組換えヒトIL13(R&D Systems, Minneapolis, MN)及びIL13Rα2特異的ヤギIgG(R&D Systems, Minneapolis, MN)を、応答細胞を加える30分前に、U251刺激細胞のアリコート(2×105/ml)に、1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml及び1μg/mlの濃度で加えた。プレートを、37℃で72時間インキュベートし、各時間後、培養物上澄みを採取し、小分けして−70℃で貯蔵した。IFNγ、GM−CSF及びTNFαのELISA検定は、R&D Systems(Minneapolis, MN)キットを製造者の使用説明書を用いて行った。試料は、未希釈又は1:5又は1:10に希釈した二重反復試験穴で調べた。展開さしELISAプレートを、マイクロプレートリーダーで評価してサイトカイン濃度は、標準曲線からの外挿により決定した。結果は、ピコグラム/mlとして報告されているが、グリオーマ刺激細胞によるサイトカイン生産について強い活性化を示す(図5、図6)。
【0056】
最後に、IL13ゼータカイン+CD8+CTLのIL−2非依存増殖を、IL13Rα2刺激物ではないグリオーマ刺激物との共培養時に観察した(図7a)。rhIL−13抗体を添加して増殖を阻害し(図7b)、増殖が確認され、その増殖はIL−13Rα2グリオーマ細胞特異的受容体へのゼータカインの結合に依存することが示された。
【0057】
実施例5:治療的使用に適するIL−13ゼータカイン+T細胞の製造
単核細胞を、ヘパリン処理した全血から、臨床レベル以上のFicoll(Pharmcia, Uppsula, Sweden)で遠心分離して分離する。PBMCを、滅菌リン酸緩衝化生理食塩水(Irvine Scientific)で2回洗浄してRPMI1640HEPES、10%熱失活FCS及び4mM L−グルタミンからなる培地中に懸濁させる。患者PBMC中に存在するT細胞を、オルソクローンOKT3(30ng/ml)の培養物へ添加してポリクローナルに活性化させる。次に、細胞培養物を、研究対象者の指定インキュベーターでベント式T75組織培養フラスコでインキュベートする。培養開始から24時間後に25U/mlのrhIL−2を加える。
【0058】
培養開始から3日後、PBMCを採取し、遠心分離して低張エレクトロポレーション緩衝液(Eppendorf)に20×106個細胞/mlで再懸濁させる。実施例3の25μgのプラスミドIL13ゼータカイン/HyTK−pMGを、400μlの細胞懸濁液と共に、滅菌済0.2cmエレクトロポレーションキュベットに加える。各キュベットを、250V/40μsの単一電気パルスに供し、再度、RTで10分間インキュベートする。生存細胞をキュベットから採取し、プールして25U/mlのrhIL−2を含有する培地に再懸濁させる。フラスコを患者の指定組織培養インキュベーター中に入れる。エレクトロポレーション後3日目に、ハイグロマイシンを0.2mg/mlの最終濃度で細胞に加える。エレクトロポレーション後のPBMCを、48時間ごとに培地及びIL−2を補充しながら全14日間培養する。
【0059】
エレクトロポレーション後のOKT3活性化患者PBMCのハイグロマイシン耐性CD8+CTLのクローニングを培養14日目に開始する。端的には、生存可能な患者PBMCを、30ng/mlのOKT3及び50U/mlのrhIL−2を含有する200ml容量の培地中の100×106個の低温保存(cyropreserved)照射支持PBMC及び20×106個の照射TM−LCLの混合物に加える。本マスターミックスを、各穴に10個の96穴クローニング用プレート中に0.2mlプレーティングする。プレートをアルミニウム箔中に包み、蒸発減量を減少させて患者の指定組織培養インキュベーター中に入れる。培養19日目に、各穴に0.2mg/mlの最終濃度のハイグロマイシンを入れる。30日目に穴の細胞増殖を倒立顕微鏡での目視で調べて再刺激用に陽性穴に印を付ける。
【0060】
細胞増殖する各々のクローニング穴の内容物を、個々に、25mlの組織培地中に5×106個の照射PBMC、10×106個の照射LCL及び30ng/mlのOKT3があるT25フラスコに移す。再刺激から1日、3日、5日、7日、9日、11日及び13日後に、50U/mlのrhIL−2及び15mlの新鮮培地をフラスコに入れる。刺激サイクルの5日目に、さらに、0.2mg/mlのハイグロマイシンをフラスコに補充する。播種から14日後、細胞を採取し、計数して50mlの組織培地中に150×106個の照射PBMC、30×106個の照射TM−LCL及び30ng/mlのOKT3があるT75フラスコ中で再刺激する。フラスコに、上記したrhIL−2及びハイグロマイシンの培養物への添加物を加える。
【0061】
治療に用い得る程度に増殖するため選択されたCTLを、CRB−3006に格納されたFACSCalibur で免疫蛍光し、FITC共役単クローン性抗体WT/31(aβTCR)、Leu2a(CD8)及びOKT4(CD4)を用いて分析し、必要なクローン表現型(αβTCR+、CD4−、CD8+及びIL13+)を確認する。臨床使用のためのクローンの選択判定基準としては、イソ型対照FITC/PE共役抗体と比較して一様なTCRαβ+、CD4−、CD8+及びIL13+があげられる。プラスミドベクター染色体組込み単一部位はサザンブロット分析で確認する。遺伝子組換えT細胞クローンのDNAは、当該プラスミドベクターに特異的なDNAプローブでスクリーニングされるであろう。プラスミドベクターのHyTKに特異的なプローブDNAは、フルオレセイン(florescein)共役dUTPでの製造者の使用説明書(Amersham, Arlington Hts, IL)によるランダムプライミングで合成する。T細胞ゲノムDNAを、標準的な技法で単離する。T細胞クローンからの10マイクログラムのゲノムDNAを、37℃で一晩消化後、0.85%アガロースゲルで電気泳動により分離する。次に、DNAを、アルカリキャピラリー転移法を用いてナイロンフィルター(BioRad, Hercules, CA)に移す。フィルターを、10μg/mlのサケ精子DNA(Sigma)を含有する0.5M Na2PO4、pH7.2、7%SDS中のプローブで、65℃一晩ハイブリッド形成させる。次に、フィルターを、40mM Na2PO4、pH7.2、1%SDSで65℃で4回洗浄後、化学発光AP共役抗フルオレセイン(florescein)抗体(Amersham, Arlington Hts, IL)を用いて可視化する。クローン選択判定基準は、単一バンド特有ベクターバンドである。
【0062】
IL−13ゼータカインの発現は、キメラ受容体タンパク質を抗ζ抗体で検出するウェスタンブロット手順で確認する。トランスフェクションしたT細胞クローンの全細胞溶解産物は、1錠/10mlのComplete Protease Inhibitor Cocktail(Boehringer Mannheim)を含有する1mlのRIPA緩衝液(PBS、1%NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)で2×107個の洗浄した細胞を溶解させることにより生成する。氷上で8分インキュベーション後、遠心分離した全細胞溶解産物上澄みのアリコートを採取して等容量のローディング緩衝液中において還元条件下で沸騰後、プレキャスト12%アクリルアミドゲル(BioRad)上のSDS−PAGE電気泳動を行う。ニトロセルロースへの転移後、0.07gm/mlの脱脂粉乳を含有するブロット(blotto)溶液中で膜を2時間ブロックする。膜を、T−TBS(Tris 緩衝化生理食塩水pH8.0中の0.05% Tween)中で洗浄後、1μg/mlの濃度の一次マウス抗ヒトCD3ζ単クローン性抗体8D3(Pharmingen, San Diego, CA)と共に2時間インキュベートする。T−TBS中でさらに4回洗浄後、膜を、ヤギ抗マウスIgGアルカリ性ホスファターゼ共役二次抗体の1:500希釈と共に1時間インキュベートする。展開する前に、膜をT−TBS中ですすぎ洗浄後、30mlの「AKP」溶液(Promega, Madison, WI)で製造者の使用説明書で展開させる。クローン選択判定基準は、キメラζバンドの存在である。
【0063】
IL−13ゼータカインキメラ免疫受容体を発現するCD8+細胞傷害性T細胞クローンは、細胞表面標的エピトープとキメラ受容体の相互作用後に、ヒトグリア芽細胞腫標的細胞を、HLAに制限されない態様で認識しかつ溶解する。標的IL−13Rα2エピトープ発現及びクラスI MHC非依存認識のための必要条件は、IL−13Rα2+Daudi細胞形質転換体及びIL−13Rα2−Daudi細胞に対するaβTCR+、CD8+、CD4−、IL−13ゼータカイン+CTLクローンを各々検定して確認できるであろう。T細胞エフェクターを、OKT3での刺激後12〜14日に検定する。エフェクターを採取し、洗浄して検定培地;及びIL−13Rα2を発現するDaudi細胞形質転換体中に再懸濁させる。2.5×105個、1.25×105個、2.5×105個及び0.05×105個のエフェクターを、V底微量滴定プレート(Costar, Cambridge, MA)中において5×103個の標的細胞と共に、三重反復試験で37℃で4時間プレーティングする。遠心分離及びインキュベーション後、細胞不含上澄みの100μlアリコートを採取し、計数する。特異的細胞溶解比率を、次のように計算する。
【0064】
【数2】
【0065】
対照穴は、検定培地中でインキュベートされた標的細胞を含有する。最大51Cr放出は、2%SDSで溶解した標的細胞の51Cr含有量を測定して決定する。クローン選択判定基準は、5:1のE:T比でIL−13Rα2+Daudi形質転換体の>25%の特異的溶解及び同一のE:T比で親Daudiの<10%の溶解である。
【0066】
実施例6:IL−13ゼータカイン発現性T細胞を用いたヒトグリオーマの治療
IL−13Rゼータカインキメラ免疫受容体及びHyTKを発現するように実施例5の遺伝子組換えT細胞クローンを、以下について選択する:
a.フローサイトメトリーで決定されるTCRα/β+、CD4−、CD8+、IL−13+細胞表面表現型;
b.サザンブロットで示される染色体組込みプラスミドベクターDNAの単一コピーの存在;
c.ウェスタンブロットで検出されるIL−13ゼータカインタンパク質の発現;
d.4時間クロム放出検定でのヒトIL−13Rα2+標的の特異的溶解;
e.インビトロ増殖での外因性IL−2への依存;
f.<5EU/mlのマイコプラズマ、真菌、細菌の無菌レベル及び内毒素レベル;
g.ガンシクロビルへのクローンのインビトロ感受性。
【0067】
末梢血単核細胞を、白血球搬出で患者から、好ましくは、最初の切除手術の回復後及びステロイドの漸減除去及び/又は最近の全身化学療法から少なくとも3週間の時点で入手する。標的白血球搬出単核細胞収量は5×109個であり、ハイグロマイシン耐性細胞傷害性T細胞クローンの標的数は、生体外増加のための全ての品質対照パラメーターを満たす少なくとも5種類のクローンが識別されることを期待して25である。クローンを低温保存して患者を、連続ラジオグラフィー及び臨床検査で監視する。疾患進行が再発した場合、患者は、再切除及び/又は腫瘍切除腔へT細胞を送達するためのレザバーアクセスデバイス(Oyama reservoir)を配置される。外科手術及びステロイドの漸減による回復後、適用可能ならば、患者にT細胞療法を開始する。
【0068】
患者は少なくとも4回の1週サイクル標的の療法を受ける。最初のサイクルで、細胞用量の段階的上昇は、107個の0日目初期用量後、3日目の5×107個〜5日目の108個の標的細胞用量へと進行する。サイクル2は、サイクル1の開始から1週間程度先に開始する。残遺疾患がある腫瘍退行をMRIで示された患者は、サイクル3及びサイクル4の反復後、1週間の休止/再度の病期分類からなる7週目以降に開始する他の治療プロセスを受けることができるが、当該治療は、疾患進行又はCRが、ラジオグラフィー評価に基づき達する時間まで十分に許容される(<3度の最大傷害性)という条件付きである。
【0069】
細胞用量は、少なくとも、類似の患者集団へ送達されるLAK細胞(109個までの個々の細胞用量及び2.75×1010個程度に高い累積細胞数は、安全投与された)、生体外増量TIL(最小限の傷害性で報告された109個細胞/用量まで)及び同種抗原反応性リンパ球(108個の出発細胞用量で、51.5×108個までの累積細胞用量)を腔内に用いた研究で与えられる用量未満の対数である75−85。提案された細胞用量が少ない本プロトコールの根拠は、以前用いたエフェクター細胞集団の穏当な反応性プロフィールと比較して増加した、IL−13ゼータカイン+CTLクローンのインビトロ反応性/抗腫瘍力価に基づく。低用量反復投薬は、1回に多細胞数を滴下して起こりうると考えられる潜在的に危険な炎症性反応を回避するのに好都合である。注入は各々単一T細胞クローンからなるであろう。患者の治療過程中には同一のクローンを投与するであろう。T細胞投与の当日に、増加したクローンを、50ccのPBSで2回洗浄して無菌処理後、患者に送達するための細胞用量を形成する2mlの容量で医薬保存剤不含規定生理食塩水中に再懸濁させる。T細胞を5〜10分にわたって滴下する。T細胞の後、2mlのPFNSフラッシュを5分にわたり投与するであろう。当該療法への応答は、脳MRI+/−ガンドリニウム(gandolinium)により、分光法で評価する。
【0070】
グリオーマ切除腔へT細胞を投与する場合に考えられる副作用は、典型的には、自己限定性悪心嘔吐、熱、及び既存の神経欠損の一過性悪化からなる。当該傷害性は、分泌されたサイトカインの作用との組合せでのT細胞を介する腫瘍床中の局所炎症/浮腫双方に依存し得る。当該副作用は、典型的には、一過性で重症度はII度未満である。患者の傷害性がより重症であれば、単独又はガンシクロビルとの組合せで、デカドロン(decadron)は、炎症性過程を減衰し、注入した細胞を除去することが期待される。細菌又は真菌で汚染された細胞生産物を不注意にも注入すると、重症又は生命を危うくする傷害性引き起こす可能性がある。細胞生産物を注入前に十分培養して、汚染された組織培養フラスコを識別し、当該可能性を最小限にする。再注入の当日に、培養液や内毒素レベルのグラム染色を行う。
【0071】
IL−13Rα2の発現の十分な分子分析は、本分子が、CNSの場合に腫瘍特異的であることを示した44;46;48;54。さらに、明白なにIL−13Rα2発現する唯一のヒト組織は精巣であると考えられる42。本腫瘍・精巣限定的な発現パターンは、様々なヒト癌、最も顕著には、黒色腫及び腎細胞癌により発現される腫瘍抗原(すなわち、MAGE、BAGE、GAGE)の増加数を暗示する109−111。ワクチン及び養子T細胞療法での臨床経験は、抗原の本クラスが、精巣で同時自己免疫攻撃をせずに、全身腫瘍免疫療法に利用されうることを示した112−114。おそらくは、これは、無傷の血液・精巣関門及び免疫学的に免除される精巣内環境の作用に選択的に反映される。突然変異体IL−13標的指向部分の鋭敏な特異性にもかかわらず、細胞が、体循環中へと十分な数で放出されてIL−13Rα1/IL−4β受容体を発現する組織を認識する場合、理論的には傷害性の可能性がある。このかけ離れた危険、さらには、ある患者に滴下されたT細胞が、腫瘍床で過度の炎症性反応を引き起こす可能性に照らして、クローンには、ガンシクロビルでの生体内除去にT細胞を感受性にするHyTK遺伝子が含まれる115−118。患者内T細胞用量の段階的上昇戦略との組合せでのガンシクロビル自殺は、潜在的危険を最小限にし、関与する対象を研究するのに役立つ。
【0072】
療法に関連した副作用(頭痛、熱、悪寒、悪心等)は、その状態に適当な確立された治療を用いて管理する。治療する医師の見解で、患者が有意の医学的危険状態になるいかなる新たな3度又はいかなる4度の治療関連傷害性でも認められれば、患者にガンシクロビルを与える。非経口投与したガンシクロビルは12時間ごとに10mg/kg/日で投与する。14日過程が処方されるが、当該時間間隔で症状が消散できなければ延長できる。ガンシクロビルの治療はIL−13ゼータカイン+HyTK+CD8+CTLクローンを除去する。患者は、監視目的のため、ガンシクロビル療法の最初の72時間入院すべきである。症状が48時間以内にガンシクロビルに応答しない場合、コルチコステロイド及びシクロスポリンが含まれるがこれに制限されない他の免疫抑制剤を、治療する医師の裁量で追加することができる。傷害性が重症である場合、治療する医師の裁量で、デカドロン及び/又は他の免疫抑制薬を、ガンシクロビルと共に早期に用いる。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
【表9】
【0082】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】IL13ゼータカインキメラ免疫受容体は、JurkatT細胞中で無傷のグリコシル化タンパク質として発現されることを示すウェスタンブロットの結果である。
【図2】発現したIL13ゼータカインキメラ免疫受容体は、I型膜貫通タンパク質として細胞表面へ移行することを示すフローサイトメトリー分析の結果である。
【図3】代表的な一次ヒトIL13ゼータカイン+CTLクローンの細胞表面表現型を示すフローサイトメトリー分析の結果である。
【図4A】IL13ゼータカイン+CTLクローンは、グリオーマ特異的な再指向された細胞溶解活性を獲得したことを示すクロム放出検定の結果である。
【図4B】一次ヒトIL13ゼータカイン+CD8+CTLクローンによる抗グリオーマ細胞溶解活性のプロフィールがグリオーマ細胞中で一般的に観察されたことを示すクロム放出検定の結果である。
【図5】IL13ゼータカイン+CTLクローンはグリオーマ刺激細胞によるサイトカイン生産で活性化されることを示すサイトカイン生産のインビトロ刺激の結果である。
【図6】A、B及びC共に、抗IL13R Mab及びrhIL13によるサイトカイン生産でIL13ゼータカイン+CTL活性化の特異的阻害を示すサイトカイン生産のインビトロ刺激の結果である。
【図7A】IL13ゼータカイン+CD8+CTL細胞は、グリオーマ刺激物との共培養時に増殖することを示す増殖研究の結果である。
【図7B】IL13ゼータカイン+CD8+CTL細胞のグリオーマに刺激された増殖の、rhIL−13による阻害を示す増殖試験の結果である。
【図8A】IL13ゼータカイン/HyTK−pMG構築のフローチャートである。
【図8B】IL13ゼータカイン/HyTK−pMG構築のフローチャートである。
【図8C】IL13ゼータカイン/HyTK−pMG構築のフローチャートである。
【図9】IL13ゼータカイン/HyTK−pMGのプラスミド地図である。
【図10】プラスミドDNAベクターの核酸配列(上:配列番号14;下:配列番号16)及びIL13ゼータカイン(配列番号17)及びHyTK(配列番号18)の該当するアミノ酸配列である。
【図11】IL13ゼータカインインサートの配列を示している略図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌療法及びヒト脳腫瘍及び他の癌の治療におけるキメラ免疫受容体を発現する遺伝子組換えTリンパ球の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性脳腫瘍は、青少年の癌に関連した死亡率の3番目の主因であり、小児では2番目の主因であり、そして小児及び老人の集団共に発生率が増加していると考えられる1−4。グリオーマは、原発性脳腫瘍の最も一般的なタイプであり、米国では、年に20,000症例が診断され、グリオーマに関連した死亡は14,000件にのぼる5−8。グリオーマの悪性挙動は不均一であり、そのうち最も一般的かつ悪性の形態である、未分化星状細胞腫(AA−III度)及び多形性グリア芽細胞腫(GBM−IV度)では、急性進行性かつほぼ一様に致死性である9;10。現在適用可能な治療方法は、当該高悪性度の腫瘍を最低限治療しうるが、中枢神経系内に局在することにより、既に重症の罹病状態がさらに悪化する場合が多い。したがって、悪性グリオーマに罹患した患者は、人生の最も生産的な時期を損なわれることが多く、様々な知的能力の低下及び高い致命率により、当該腫瘍固有の個人的及び社会的影響力の原因となる場合が多い。
【0003】
悪性グリオーマの腫瘍学的管理の基本は切除及び放射線療法である11−16。最新の外科手術及び放射線療法の技術で、平均生存期間は、多形性グリア芽細胞腫では82週間及び未分化星状細胞腫では275週間に延びたが、5年の生存率は、多形性グリア芽細胞腫で3〜6%及び未分化星状細胞腫で12.1%増加しただけであった6−8。長期生存の主な予後指標は、より若い年齢(<40歳)及び一般状態(KPSスコア>70)である17。巨大腫瘍の>90%の切除は、通常は、致命的機能性解剖が容認される場合に試みられる。術後放射線療法と共に用いられる場合、生存期間への切除程度の影響力は明らかではない18;19。切除及び放射線化学療法を加えても、未分化星状細胞腫又は多形性グリア芽細胞腫の患者に最低限の生存効果を与えるにすぎない20−23。ニトロソ尿素類は、単独又はプロカルバジン及びビンクリスチンとの組合せで、社会で用いられる慣用的な薬物であり、全生存期間中央値に影響を与えずに、1年及び2年の生存率を15%改善すると考えられる24;25。白金基材薬物及びトポイソメラーゼ阻害剤を組み入れた、より攻撃的な治療方法が研究されている26。幹細胞救出を伴う高用量化学療法の役割はこれまで示されてこなかった27−29。
【0004】
再発性腫瘍の約80%は、完全に切除されなかった元の腫瘍がX線で促進された残部に由来する10;30;31。再発が一点でありかつその場所で攻撃的再切除に適する場合、本アプローチは、特に、未分化星状細胞腫の患者、及びKPS>70の多形性グリア芽細胞腫の患者の生存期間を延ばすことができる70。再切除で処置された再発性多形性グリア芽細胞腫患者の生存期間中央値は36週間である10;30;31。近接照射療法か又は定位放射線手術法の形態の放射線療法は、再切除された再発性多形性グリア芽細胞腫患者の生存期間を10〜12週間だけ延ばすことができる32。再発性疾患で化学療法を用いることは、本患者集団での効力が未だ示されていないが、適用可能な臨床試験に関連しているはずである。
【0005】
悪性グリオーマの悪化が持続する予後により、遺伝子治療(TK自殺、腫瘍増殖因子受容体のアンチセンス阻害、条件致死ウイルスベクター)、免疫療法(抗体、腫瘍細胞ワクチン、イムノトキシン、活性リンパ球の養子免疫細胞移入)及び抗血管新生のアプローチが含まれるがこれらに限定されない新規な治療物質の臨床研究が促進された33−40。悪性グリオーマに有効なアジュバント療法の開発での多数の課題としては、正常な脳実質中への腫瘍細胞の広範な浸潤性増殖;当該腫瘍から産生される可溶性因子が免疫応答の発生を減衰する機能;及び中枢神経系(CNS)に治療薬を投与する場合の臨床的に有意な治療上の比率決定が困難であることがあげられる。新規な治療薬の早期臨床評価は、本患者集団で明らかに示される。
【0006】
最近は、トランスフェリン及び増殖因子の受容体は、毒素又は放射性ヌクレオチドに共役した当該受容体のリガンドを送達系として利用した実験的グリオーマ治療薬の課題であった41。本アプローチの特異性は、正常脳と比較して、グリオーマ細胞上の標的受容体固有の発現又は過発現に依存する。興味深いことに、免疫系で用いられるインターロイキンの受容体複合体のいくつかは、グリオーマ、特に高親和性IL−13受容体で発現される42−48。免疫系で用いられる、IL−13Rα1、IL−4Rβ及びγcからなるIL−13受容体三分子複合体とは異なり、グリオーマ細胞は、IL−4Rβ又はγcの要件とは関係なくIL−13を結合できる固有のIL−13Rα2を過発現する44;49;50。その相同IL−4のように、IL−13にはCNS外の多面発現性免疫調節活性がある51−53。双方のサイトカインは、Bリンパ球によるIgE生産を刺激してマクロファージによる前炎症性サイトカイン生産を抑制する。CNS内のIL−13の免疫生物学はほとんど知られていない。
【0007】
放射性標識されたIL−13によるオートラジオグラフィーを用いたDebinskiらの詳細な研究は、試験したほとんど全ての悪性グリオーマ組織上で多量のIL−13が結合を示した42;45;46;48。さらに、当該結合は、腫瘍部分内の単細胞分析で極めて均一である46;48。ヒトグリオーマ細胞系へ結合するIL−13のスキャッチャード分析は、平均して17,000〜28,000結合部位/細胞を示す45。IL−13Rα2mRNAに特異的なプローブを用いた分子分析は、全てのCNS解剖学的位置での正常脳の要素によるグリオーマ特異的受容体の発現を示すことができない42;43。さらに、放射性標識IL−13でのオートラジオグラフィーは、CNS内の検出可能な特異的IL−13結合を示すことができなかったので、共有するIL−13Rα1/IL−4β/γcも、CNS内において検出可能なレベルで発現されないことが示唆された。当該知見は、独立して、非病理学的脳部分で免疫組織化学的技法を用いて、IL−13Rα1及びIL−4βに特異的な抗体で証明された54。したがって、IL−13Rα2は、これまでに報告されたグリオーマについて最も特異的かつ遍在的に発現される細胞表面標的である。
【0008】
CNS内のIL−13Rα2のグリオーマ特異的発現を有効利用する戦略として、様々な細胞毒素(シュードモナス属外毒素及びジフテリア毒素)をカルボキシル末端に融合するIL−13サイトカインの分子構築体が報告されている55−58。IL−13受容体への結合時の当該毒素の内在化は当該融合タンパク質の選択的毒性に基づく。当該毒素は、インビトロのグリオーマ細胞に対してピコモル濃度で強力な細胞傷害性を示す55。免疫欠損マウスへのヒト頭蓋内グリオーマ異種移植片は、毒素なしに、IL−13−毒素融合タンパク質の腫瘍内注入により排除することができる55。当該研究は、IL−13標的抗毒素を悪性グリオーマについて所々局部的に(loco-regionally)利用した臨床研究の開始をサポートする。
【0009】
しかしながら、IL−13基材細胞毒素が広範に発現するIL−13Rα1/IL−4β/γc受容体複合体へ結合する場合、CNS外の正常組織へ有害な傷害性を媒介する可能性があるため、当該物質の全身投与が制限される。IL−13は、分子レベルで十分に研究されており、個々の受容体サブユニットと会合するのに重要な本サイトカインの構造ドメインはマッピングされている55;58。結果として、IL−13で選択されたアミノ酸置換には、本サイトカインがその受容体サブユニットと会合する場合に予測可能な効果がある。IL−13のαヘリックスA、具体的には、アミノ酸13のアミノ酸置換は、IL−4βと会合するその機能を阻害して、IL−13Rα1/IL−4β/γc受容体に対するIL−13の親和性を選択的に5倍低下させる55;57;58。驚くべきことに、突然変異体IL−13(E13Y)のIL−13Rα2への結合は保存されただけでなく、野生型IL−13に対して50倍高まった。したがって、置換を最小限にしたIL−13類似体は、IL−13Rα1/IL−4β/γc受容体がある正常組織に対して、IL−13Rα2へ選択的に結合することによるグリオーマ細胞へのIL−13の特異性及び親和性を同時に高めることができる。
【0010】
悪性グリオーマは免疫療法治療に極めて魅力的な臨床物質であるが、それは、(1)切除及び放射線療法を行っている大部分の患者の疾患負荷状態が最小限になること及び(2)CNS範囲内の当該腫瘍の解剖学的位置により、エフェクター細胞を直接所々局部的投与できるという理由からである。少なくとも二つの病理学的研究により、悪性グリオーマ中の血管周囲リンパ球浸潤の程度が、予後の改善と相関することが示された59−61。動物モデル系により、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞ではないグリオーマ特異的T細胞が、大脳内に移植したグリオーマの退行を介在できることが示された62−71。T細胞は、LAK細胞とは異なり、脳実質中に浸潤する機能があるため、原発性腫瘍から離れている浸潤性腫瘍細胞でも標的とすることができる。当該知見にもかかわらず、グリオーマが、主として、グリオーマ反応性T細胞応答の誘導/増幅を阻害する免疫抑制サイトカイン(TGF−β2)及びプロスタグランジンの生成により、免疫破壊を活発に阻害するという証拠が多数存在する72−74。当該知見により、生体内反応がおきる腫瘍が介在する制限を克服する戦略としての養子免疫療法のための生体外での拡大抗グリオーマエフェクター細胞の評価が促進された。
【0011】
これまで、悪性グリオーマ切除腔への生体外活性化リンパ球の投与を伴う少なくとも10件の試験的研究が報告された75−85。様々なエフェクター細胞タイプ(LAK、TIL、同種抗原反応性CTL);患者毎の不均一組成/組成変動;及びグリオーマ標的に対する当該エフェクター細胞のインビトロ反応性が低いことが多いにもかかわらず、当該研究は、全体として、逸話的長期生存者を含む再発性/難治性疾患患者で約50%の反応率を報告している。当該研究は、グリオーマの細胞免疫療法の優れた臨床作用が、均一の極めて強力なエフェクター細胞で期待されるという前提を支持する。
【0012】
当該試験的研究は、悪性グリオーマ患者の切除腔中へ、T細胞増殖因子であるインターロイキン−2(IL−2)及び生体外活性化リンパ球を直接投与する場合の安全性及び寛容性についても報告している75;76;78;82;86−92。個々の細胞用量(>109個/用量)が多い場合でも、累積細胞用量(>27x109個)が高い場合でも、傷害性はわずかであり、典型的には、II度又はそれ未満の一過性頭痛、悪心、嘔吐及び熱が含まれる。上記のように、当該研究では、さらに、rhIL−2を共投与により、転移リンパ球の生体内生存が支持された。リンパ球と同時又はリンパ球投与後に逐次的に与えられる多数回用量は、48時間ごとに送達されるIL−2の12用量過程について1.2x106IU/用量と同程度の高い用量で許容された。
【0013】
上記で概要された知見に基づき、グリオーマ免疫療法で用いられるリンパ球エフェクター細胞の抗腫瘍力価を改善する戦略が開発されている。1のアプローチとしては、上皮増殖因子受容体(EGFR)結合ドメインを用いたグリオーマ標的を含む抗CD3ドメインによりTリンパ球を共局在化かつ活性化することができる二重特異性抗体を用いる93−96。自己リンパ球と組み合わせた当該二重特異性抗体での予備的臨床実験では、T細胞が切除腔中で活性化されることを示唆する。しかしながら、脳実質内の浸潤性腫瘍細胞を標的とすることが本アプローチの潜在的に重大な限界である。T細胞が、グリオーマにより発現される標的抗原に特異的である場合、抗グリオーマ活性が有意に高まることがありうると考えられる。増加する、SART−1遺伝子を含む、Tリンパ球が反応性である腫瘍抗原をコードするヒト遺伝子をクローニングしたが、それは、高悪性度グリオーマのほぼ75%で発現されると考えられる97。樹状細胞基材インビトロ細胞培養技術や四量体基材T細胞選択技術により、養子免疫療法のための抗原特異的T細胞の単離が可能になった。SART−1等の抗原は、制限性HLA対立遺伝子の場合にT細胞で認識されるため、抗原特異的アプローチでは、一般的なグリオーマ患者集団に広く適用できる当該抗原を提示できる制限性HLA対立遺伝子及び抗原の数を実質的に増やす必要があるだろう。
【0014】
T細胞抗原受容体複合体ζ鎖(scFvFc:ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインに融合した細胞外一本鎖抗体(scFvFc)からなるように遺伝子操作されたキメラ抗体受容体がT細胞中で発現された場合、単クローン性抗体の特異性に基づく抗原認識を再指向させる機能がある98。腫瘍細胞表面エピトープへ標的特異性があるscFvFc:ζ受容体の設計は、存在する抗腫瘍免疫に依存しないため、養子免疫療法の抗腫瘍免疫エフェクター細胞を生成する概念的に魅力的な戦略である。当該受容体は、MHC非依存態様で抗原を結合する点で「普遍的」であり、1の受容体構築体を用いて、抗原陽性腫瘍患者集団を治療することができる。Her2/Neu、CEA、ERRB−2、CD44v6に特異性がある受容体及び腎細胞癌で選択的に発現するエピトープを含めた、ヒト腫瘍を標的とする構築体が参考文献に報告されている98−104。当該エピトープは全て、キメラT細胞受容体によるscFv結合に用いられる細胞表面部分であるという共通の特徴がある。インビトロ研究により、CD4+及びCD8+双方のT細胞エフェクター機能が、当該受容体により惹起されうることが示された。さらに、動物モデルにより、養子免疫細胞に導入されたscFvFc:ζ発現性T細胞に樹立された腫瘍を除去する機能があることが示された105。腫瘍特異的scFvFc:ζ受容体を発現する一次ヒトT細胞の機能をインビトロで評価したが、当該細胞は腫瘍標的を特異的に溶解してIL−2、TNF、IFN−γ及びGM−CSFを含む一連の前炎症性サイトカインを分泌する104。第1相試験的養子免疫療法研究が、HIV感染個体のHIVgp120に特異的な自己scFvFc:ζ発現性T細胞と、乳房及び結腸直腸の腺癌を含む多様な腺癌で発現するTAG−72に特異性がある自己scFvFc:ζ発現性T細胞を用いて進行している。
【0015】
City of Hopeの研究者は、CD20+B細胞悪性疾患を標的とする目的のCD20特異的scFvFc:ζ受容体構築体と、神経芽細胞腫を標的とするL1−CAM特異的キメラ免疫受容体を作製した106。前臨床実験室研究により、再編成されていない染色体に組込まれたベクターDNAの単一コピーを含有しかつCD20特異的scFvFc:ζ受容体を発現するCD8+CTLクローンを、健康な個体及びリンパ腫患者から単離しかつ増やすことができることが示された107。本課題を達成するために、CMV前/初期プロモーターの転写制御下のキメラ受容体配列と、SV40初期プロモーターの転写制御下のNeoR遺伝子とを含有する精製直鎖状プラスミドDNAを、エレクトロポレーションという手順であって、細胞及びDNAを短時間電流へ暴露することにより、活性化ヒト末梢血単核細胞中に導入した。Fred Hutchinson Cancer Research Center, Seattle, Washinton のFDA認可臨床試験で現在用いられている選択、クローニング及び増量の方法を用いて、CD20特異的細胞溶解活性がある遺伝子組換えCD8+CTLクローンを、6人の健康な志願者から、15回の別々のエレクトロポレーション手順で作製した。当該クローンは、ヒトCD20+リンパ腫細胞系パネルと共培養した場合に増殖し、標的細胞を特異的に溶解して刺激をして、サイトカインを生成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、細胞外ドメインであって、細胞表面に細胞外ドメインをつなぐことができる支持領域に連結した可溶性受容体、膜貫通領域及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、「ゼータカイン(zetakines)」というキメラ膜貫通免疫受容体に関する。ゼータカインは、Tリンパ球の表面上で発現すると、可溶性受容体リガンドが特異的である受容体を発現する細胞へT細胞活性を指向させる。ゼータカインキメラ免疫受容体は、特に、ヒト悪性疾患に用いられる自己分泌/パラ分泌サイトカイン系を介在する、様々な癌の治療へ適用を含む、T細胞の抗原特異性を再指向させる抗体基材免疫受容体の新規な進展を示す。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1の好ましい態様では、悪性グリオーマ及び腎細胞癌によるIL−13Rα2の腫瘍限定発現を細胞免疫療法の標的として用いて、IL−13Rα2へ選択的高親和性で結合するIL−13サイトカイン突然変異体IL−13(E13Y)を、IL−13Rα2発現性腫瘍細胞へT細胞抗原特異性を再指向できるI型膜貫通キメラ免疫受容体へ変換した。ゼータカインの本態様は、ヒトIgG4 Fcに融合した細胞外IL−13(E13Y),
膜貫通CD4及び細胞内T細胞抗原受容体CD3複合体ζ鎖からなる。細胞表面上で受容体を選択的に発現する様々な癌細胞タイプのいずれにも特異的である類似の免疫受容体を生じうるが、その選択的リガンドは公知又は遺伝子組換えで作製することができる。
【発明の効果】
【0018】
当該免疫受容体を発現するように安定に形質転換されたヒトT細胞の大量系(bulk lines)及びクローンは特異的な癌細胞系に再指向された細胞を溶解するが、同時に、非標的細胞に対する傷害性は無視できる。当該遺伝子組換えT細胞は、グリオーマ等の治療が困難な癌を含む悪性疾患の強力かつ選択的な治療法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
遺伝子組換えにより再指向されたT細胞で腫瘍を標的とするのに理想的な細胞表面エピトープとは、腫瘍細胞上で均一な態様で予後が同じ患者集団内の全ての腫瘍で単独で発現するものである。腫瘍細胞膜からの標的分子の調節及び/又は流出は、再指向されたT細胞認識のための具体的な標的エピトープの有用性にも影響を与えることがありうる。これまで、「理想的な」腫瘍特異的エピトープはあまり明確でなかったが、二次エピトープは、臨界的正常組織で発現しないこと又は腫瘍で相対的に過発現することに基づいて標的とされた。悪性グリオーマの場合、この癌の治療のためにT細胞を腔内投与すると、CNS外の他の組織による発現にさほど厳密にならず、正常CNSではない腫瘍細胞上で発現される場合に標的エピトープ量が増加しうる。腔内投与経路、及び(b)典型的に全身投与される細胞用量と比較して細胞の投与数が低い場合に基づく、交差反応性による傷害性に関する問題がある。
【0020】
IL−13Rα2受容体は、悪性グリオーマの最も遍在的で特異的な細胞表面標的として存在する47。感受性オートラジオグラフィー及び免疫組織化学的研究ではCNS内のIL−13受容体を検出することができない46;48。さらに、グリオーマに限定されたIL−13Rα2受容体を選択的に結合するIL−13サイトカインの突然変異は、CNS外のIL−13Rα1/IL−4β+正常組織に対するIL−13で指向された治療薬の有害な反応性に対するもう一つの防御手段である55;57。グリオーマIL−13Rα2を標的とすることの潜在的有用性、CD4TM、及びCD3ζの細胞質尾部へと順次融合するヒトIgG4 Fcにより原形質膜に結合した細胞外IL−13突然変異サイトカイン(E13Y)からなるT細胞の特異性を再指向させるための新規な遺伝子組換えキメラ免疫受容体の設計及び試験。本キメラ免疫受容体は、「IL−13ゼータカイン」とした。IL−13Rα2受容体/IL−13(E13Y)受容体−リガンド対は、一般的にゼータカインで用いる受容体−リガンド対の適合性を理解しかつ評価するための優れた指針である。理想的なゼータカインは、IL−13(E13Y)の性質(独特の癌細胞表面受容体への特異性;天然に存在する可溶性細胞シグナル分子に由来する生体内安定性;同様の理由による免疫原性が低いこと)である細胞外可溶性受容体リガンドを含む。可溶性受容体リガンドは、細胞外環境で安定であり、非抗原性であり、より選択的であると考えられる点で、抗体断片(scFvFc免疫受容体等)又は細胞接着分子の先行技術を用いるより明確に有利であるとして可溶性受容体リガンドを用いることができる。
【0021】
本発明のキメラ免疫受容体は、細胞内受容体シグナル伝達ドメインへ順次連結した膜貫通ドメインを介して細胞表面にリガンドを結合する細胞外支持領域に連結した可溶性受容体リガンドを含む細胞外ドメインを含む。所望の可溶性受容体リガンドの例としては、自己分泌及びパラ分泌増殖因子、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン及び相当な特異性を示す遺伝子組換え人工低分子リガンドがあげられる。天然リガンド配列も、特定の標的細胞への特異性を高めるように遺伝子操作することができる。特定のゼータカインで用いるための可溶性受容体リガンドの選択は、グリオーマに用いるのに好ましいリガンドであるIL−13(E13Y)分子に関する上記の品質及び標的細胞の性状に依存する。所望の支持領域の例としては、免疫グロブリンの定常(Fc)領域;ヒトCD8∝;及び標的細胞上の受容体結合へより接近させるために細胞表面から離れて標的指向部分を移動させるのに有用な人工リンカーがあげられる。好ましい支持領域は、IgG(IgG4等)のFc領域である。適する膜貫通ドメインの例としては、白血球CDマーカー、好ましくは、CD8の膜貫通ドメインがあげられる。細胞内受容体シグナル伝達ドメインの例としては、T細胞抗原受容体複合体、好ましくは、CD3のζ鎖、さらには、単独で又はCD3ζと連続した、FcγRIII共刺激シグナル伝達ドメイン、CD28、DAP10、CD2のものがあげられる。
【0022】
IL−13ゼータカイン態様では、E13Yアミノ酸置換があるヒトIL−13cDNAを、PCRスプライスオーバーラップ伸長で合成した。完全長IL−13ゼータカイン構築体を、PCRスプライスオーバーラップ伸長により構築したが、これは、ヒトGM−CSF受容体α鎖リーダーペプチド;IL−13(E13Y)−Gly−Gly−Gly;ヒトIgG4 Fc;ヒトCD4TM及びヒト細胞質ζ鎖からなる。本cDNA構築体を、ヒト伸長因子−1αプロモーター(Invivogen, San Diego)の転写制御下で修飾pMGプラスミドのマルチクローニングサイトで連結した。本発現ベクターは、単一分子内で、形質転換体のインビトロ選択のためのハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ活性及び細胞の生体内除去のためのHSVチミジンキナーゼ活性と、CMV前/初期プロモーターからのガンシクロビルとを組み合わせる融合タンパク質HyTKをコードするHyTKcDNAを共発現する。グリコシル化の阻害剤であるツニカマイシンと共にプレインキュベートした全細胞Jurkat溶解産物を抗ζ抗体プローブでウェスタンブロットすると、予想した無傷の56−kDaキメラ受容体タンパク質が発現されるということが示された。本受容体は、天然IL−13サイトカインの翻訳後修飾と一致し、激しくグリコシル化される108。抗ヒトIL−13及び抗ヒトFc特異的抗体でのIL−13ゼータカイン+Jurkat細胞のフローサイトメトリー分析により、IL−13ゼータカインがI型膜貫通タンパク質として細胞表面で発現されたことが確認された。
【0023】
City of Hopeで開発された樹立ヒトT細胞遺伝子修飾法を用いて107、IL−13ゼータカインキメラ免疫受容体を発現する一次ヒトT細胞クローンを、前臨床機能性特性決定のために生成した。IL−13ゼータカイン+CD8+CTLクローンは、生体外増幅培養物で強い増殖活性を示す。増幅したクローンは、4時間クロム放出検定で、ヒトIL−13Rα2+グリア芽細胞腫細胞系に対して、再指向された細胞溶解活性を示す。その細胞溶解活性レベルは、T細胞上のゼータカイン発現レベル及びグリオーマ標的細胞上のIL−13Rα2受容体密度レベルと相関する。死滅に加え、IL−13ゼータカイン+クローンは、サイトカイン分泌(IFN−γ、TNF−α、GM−CSF)で活性化される。無関係なキメラ免疫受容体を発現するCTLクローンは、グリオーマ細胞に応答せず、活性化はT細胞形質転換体上のIL−13及びグリオーマ標的細胞上のIL−13Rα2に対する遮断抗体又は可溶性IL−13を培養物へ添加することにより用量依存態様で阻害されうるため、活性化はグリオーマ細胞上のIL−13Rα2受容体とIL−13ゼータカインの相互作用により特異的に媒介された。最後に、IL−13ゼータカイン発現性CD8+CTLクローンは、培養物中でグリオーマ細胞により刺激された場合に増殖する。強力な抗グリオーマエフェクター活性があるIL−13ゼータカイン+CTLクローンは、正常CNSへの限られた側副損傷を伴う悪性グリオーマに対して有意に臨床活性があるであろう。
【0024】
本発明の免疫受容体は、当該技術分野で公知のいかなる手段でも作製できるが、好ましくは、組換えDNA技術を用いて作製する。キメラ受容体のある領域をコードする核酸配列は、標準的な分子クローニング技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマー補助連結反応、部位特異的突然変異誘発等)で製造しかつ完全なコード配列を構築することができる。得られたコード領域を、好ましくは、発現ベクター中に挿入し、適当な発現宿主細胞系、好ましくは、Tリンパ球細胞系、最も好ましくは、自己Tリンパ球細胞系に形質転換するのに用いる。第三部分は、免疫受容体の発現のために、形質転換した体液又は異種(xerogenic)免疫エフェクター細胞系であるT細胞系/クローンをもたらした。NK細胞、マクロファージ、好中球、LAK細胞、LIK細胞、及び当該細胞へ分化する幹細胞も用いることができる。好ましい態様では、リンパ球は白血球搬出(leukopharesis)で患者から入手し、当該自己T細胞をゼータカインを発現するように形質導入し、いずれか臨床的に許容しうる手段で投与して患者に戻し、抗癌療法を達成する。
【0025】
治療効果に適する用量は、好ましくは、一投薬サイクルで約106〜109個細胞/用量であると考えられる。好ましい投薬方式は、0日目に約107個細胞で始めて5日目までに約108個細胞の標的用量まで漸増させる、4回の用量を徐々に増やす1週間投薬サイクルである。適当な投与様式としては、静脈内、皮下、腔内(例えば、貯蔵アクセス装置(reservoir-access device))、腹腔内及び腫瘍塊中への直接注入があげられる。
【0026】
以下の実施例は、本発明の1の態様を詳しく説明するためのものにほかならない。
【実施例】
【0027】
実施例1:免疫受容体コード配列の構築
本発明による免疫受容体のコード配列は、IL13(E13Y)コード配列の de novo合成で、以下のプライマーを用いて構築した(免疫受容体コード配列及び発現ベクターの構築を示すフローチャートは、図8を参照されたい)。
【0028】
【化1】
【0029】
最終配列(417bp)を、EcoRI−BamHIで末端消化してプラスミドpSK(Stratagene, LaJolla, CA)で連結312#3として連結した。連結312#3を突然変異誘発して(stratagene kit、製造者の使用説明書による)、
プライマー5’:IL13 312#3mut5−3
【0030】
【化2】
【0031】
及び3’:IL13 312#3mut3−5
【0032】
【化3】
【0033】
と、鋳型として連結312#3を用いて、欠失したヌクレオチドを固定して、連結348#1(IL13ゼータカイン/pSK)を作製した。
コーディングヒトGM−CSFRα鎖シグナルペプチド(hsp)コード配列を、標準的PCRスプライスオーバーラップ伸長でIL13(E13Y)の5’末端に融合した。hsp配列(101bp)は、鋳型連結310#10(hsp/pSK)(ヒトT細胞cDNAのヒトGCSF受容体α鎖リーダー配列)から、
プライマー5’:19hsp5’
【0034】
【化4】
【0035】
(XbaI部位を太字で強調する)
及び3’:hsp−IL13FR
【0036】
【化5】
【0037】
を用いて獲得した。IL−13配列(371bp)は、
プライマー5’:hsp−IL13FF
【0038】
【化6】
【0039】
及び3’:IL13−IgG4FR
【0040】
【化7】
【0041】
と、鋳型として連結312#3を用いて獲得した。このようにして得られた101bpのhsp配列及び371bpのIL13配列と、プライマー5’:19hsp5’及び3’:IL13−IgG4FRを用いて融合して438bpの融合hsp−IL13配列を作製した。
【0042】
IgG4 Fc領域IgG4m:ζをコードする配列を、同様の方法を用いて、hsp−IL13融合配列の3’末端に融合した。IgG4m:ζ配列(1119bp)は、
プライマー5’:IL13−IgG4FF
【0043】
【化8】
【0044】
及び3’:ZetaN3’
【0045】
【化9】
【0046】
(NotI部位を太字で強調する)
を用い、鋳型として配列R9.10(IgG4mZeta/pSK)を用いて得た。その1119bpのIgG4m:ζ配列を、鋳型として各配列と、プライマー5’:19hsp5’及び3’:ZetaN3’を用いて、hsp−IL13融合配列に融合して、1522bpのhsp−IL13−IgG4m:ζ融合配列を作製した。当該末端を、XbaI−NotIで消化してpSK中に連結351#7として連結して、プラスミドIL13ゼータカイン/pSK(4464bp)を作製した。
【0047】
実施例2:発現ベクターの構築
IL13ゼータカインコード配列を含有する発現ベクターは、実施例1のIL13ゼータカイン/pSKをXbaI−NotIで消化し、Klenowで平滑末端を作り、得られた断片をプラスミドpMG^Pac(Invitrogen)(SgrAIで開環し、Klenowで平滑にしてSAPでの脱リン酸で最初に作製する)中に連結して、プラスミドIL13ゼータカイン/pMGをつくることにより作製した。図8を参照されたい。IL13ゼータカイン/pMGのハイグロマイシン耐性領域を、NotI−NheIで消化して除去し、NotI−NheIで消化してプラスミドCE7R/Hy−pMG(Jensen, City of Hope)から獲得した選択/自殺融合HyTKで置換して、発現ベクターIL13ゼータカイン/HyTK−pMG(6785bp)を作製した。本プラスミドは、ヒト伸長因子−1αプロモーター(hEF1p)を塩基6〜549に、IL13ゼータカインコード配列を塩基692〜2185に、Simian Virus 40後期ポリアデニル化シグナル(Late SV40pAN)を塩基2232〜2500に、最小の大腸菌(E. coli)複製起点(OriColE1)を塩基2501〜3247に、合成ポリA及びポーズ部位(SpAN)を塩基3248〜3434に、Immeate early CMVエンハンサー/プロモーター(hCMV−1Aprom)を塩基3455〜4077に、ハイグロマイシン耐性−チミジンキナーゼコード領域融合(HyTK)を塩基4259〜6334に及びウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル及び転写ポーズ(BGh pAn)を塩基6335〜6633に含む。当該プラスミドは、塩基3235〜3242にPacI線状化部位がある。hEF1p及びIL13ゼータカイン要素は、IL13ゼータカイン/pMGに由来し、残りの要素は、CE7R/HyTk−pMGに(HyTK要素を除き、最終的には、親プラスミドpMG^Pacに)由来した。要すれば、IL13ゼータカイン/HyTk−pMGは、修飾pMG主鎖であり、IL13ゼータカイン遺伝子をhEF1プロモーターから、HyTK融合をhCMV−1Aプロモーターから発現する。プラスミドIL13ゼータカイン/HyTk−pMGのマップは、図9より明らかである。当該プラスミドの完全核酸配列は図10に示されている。IL13ゼータカイン挿入配列を、下の配列番号15として示す。
【0048】
【化10】
【0049】
実施例3:免疫受容体の発現
発現した構築体の完全性の評価を、最初に、グリコシル化阻害剤であるツニカマイシンの存在下又は不存在下で共培養したJurkatT細胞安定形質転換体107に由来する全細胞溶解産物の抗ζ抗体でプローブしたウェスタンブロットで示した(図1)。JurkatT細胞安定形質転換体(Jurkat−IL13−pMG大量系)は、JurkatT細胞をIL13ゼータカイン/HyTk−pMG発現ベクターでエレクトロポレーション後、陽性形質転換体の選択及び増幅により獲得した。Jurkat−IL13−pMG大量系から、24穴プレート中に、2×106個/穴の細胞を、5μg/ml、10μg/ml又は20μg/mlのツニカマイシンを含むか又は含まずにプレーティングした。当該プレートを37℃で22時間インキュベートした。細胞を各穴から採取し、各試料をPBSで洗浄して1錠/10mlの 完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(Boehringer Mannheim, Indianapolis, IN)含有の50μlのRIPA緩衝液(PBS、1%NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)中に再懸濁させた。試料を氷上で30分間インキュベート後、21ゲージ針のシリンジで吸引して破壊後、氷上でさらに30分間インキュベートし、4℃で14,000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離された溶解産物上澄みの試料を採取し、等容量の試料緩衝液で減圧条件で沸騰後、12%アクリルアミドゲルでSDS−PAGE電気泳動を行った。ニトロセルロースへの転移後、膜を4℃で一晩乾燥させた。翌日、膜を、T−TBS(Tris緩衝化生理食塩水pH8.0中の0.02%Tween)中に0.04g/mlの脱脂粉乳を含有する Blotto 溶液中で1時間ブロッキングした。次に、膜を、1μg/mlの濃度の一次マウス抗ヒトCD3ζ単クローン性抗体(Pharmingen, San Diego, CA)と共に2時間インキュベートし、洗浄後、ヤギ抗マウスIgGアルカリ性ホスファターゼ共役二次抗体(Bio-Rad ImmunoStar Kit, Hercules, CA)の1:3000希釈(Blotto 溶液中)と共に1時間インキュベートした。展開する前に、膜をT−TBSでさらに4回洗浄後、3mlのリン酸基質溶液(BioRad ImmunoStar Kit, Hercules, CA)と共に室温で5分間インキュベートした。次に、膜をプラスチックで覆い、X線フィルムに感光した。野生型ヒトIL−13の既知のグリコシル化パターンと一致し、発現したIL−13(E13Y)ゼータカインの電気泳動移動度は、ツニカマイシンの存在下で発現した場合に約54kDaのアミノ酸主鎖に低減した著しくグリコシル化したタンパク質を示す。
【0050】
IL−13(E13Y)ゼータカインは、フィコエリトリン(PE)共役抗ヒトIL13単クローン性抗体及びフルオレセインイソチオシアネート(FITC)共役マウス抗ヒトFc(γ)断片特異的F(ab’)2抗体での形質転換体のフローサイトメトリー分析で示されるように、ホモ二量体I型膜貫通タンパク質として細胞表面へと移行する(図2)。Jurkat IL13ゼータカイン−pMG形質転換体を、細胞表面キメラ受容体発現の分析のため、抗ヒトFc(FITC)抗体(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)、組換えヒトIL13Rα2/ヒトIgG1キメラ(R&D Systems, Minneapolis, MN)、その後、FITC共役抗ヒトIgG1単クローン性抗体(Sigma, St. Louis, MO)及び抗IL13(PE)抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色した。健康なドナー一次細胞も、FITCに共役した抗CD4、抗CD8、抗TCR及びイソ型対照単クローン性抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色して、細胞表面表現型を評価した。各染色した106個細胞を洗浄して2%FCS、0.2mg/mlのNaN3及び5μlのストック抗体を含有する100μlのPBS中で再懸濁させた。4℃で30分インキュベーション後、細胞を2回洗浄して二次抗体で染色するか又は1%パラホルムアルデヒドを含有するPBS中に再懸濁させ、FACSCaliber サイトメーターで分析した。
【0051】
実施例4:IL13(E13Y)ゼータカインのIL13Rα2受容体への結合
ヒトIgG4Fcで細胞膜に結合したIL13(E13Y)(すなわち、IL13(E13Y)ゼータカイン)は、可溶性IL13Rα2−Fc融合タンパク質を用いたフローサイトメトリー分析で評価されるように、標的IL13Rα2受容体に結合しうる(図3)。クローン化ヒトPBMC IL13ゼータカイン−pMG形質転換体は、IL13ゼータカイン/HyTK−pMG発現ベクターでPBMCをエレクトロポレーションした後、陽性の形質転換体の選択及び増幅を行って獲得した107。IL13ゼータカイン+CTLクローン細胞を、細胞表面キメラ受容体発現の分析のため、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)共役マウス抗ヒトFc(γ)断片特異的F(ab’)2(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)、組換えヒトIL13Rα2/ヒトIgG1キメラ(R&D Systems, Minneapolis, MN)、その後、FITC共役抗ヒトIgG1単クローン性抗体(Sigma, St. Louis, MO)及びフィコエリトリン(PE)共役抗ヒトIL13単クローン性抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色した。健康なドナー一次細胞も、FITCに共役した抗CD4、抗CD8、抗TCR及びイソ型対照単クローン性抗体(Becton, Dickinson, San Jose, CA)で染色して、細胞表面表現型を評価した。各染色のうち106個細胞を洗浄して2%FCS、0.2mg/mlのNaN3及び5μlの抗体を含有する100μlのPBS中に再懸濁させた。4℃で30分インキュベーション後、細胞を2回洗浄して二次抗体で染色するか又は1%パラホルムアルデヒドを含有するPBS中に再懸濁させ、FACSCaliber サイトメーターで分析した。
【0052】
次に、一次ヒトT細胞のための代理抗原受容体としてのIL−13(E13Y)ゼータカインの免疫生物学を評価した。一次ヒトT細胞を、プラスミド発現ベクターでエレクトロポレーションした。陽性形質転換細胞をハイグロマイシンで選択し、限界希釈中でクローン化後、OKT3、IL−2及び照射支持細胞での反復刺激サイクルで増加させた。次に、ウェスタンブロット及びFACSでIL13ゼータカイン発現を示すクローンを、様々なIL−13Rα2+/CD20−グリオーマ細胞系(U251、SN−B19、U138)及びIL−13Rα−/CD20+B細胞リンパ球系 Daudi)に対して、4時間クロム放出検定で機能性評価を行った。当該試験により、IL13ゼータカインが、グリオーマ細胞に特異的である細胞溶解活性をもたらしたこと(図4a)及び本特異的細胞溶解活性が、クラスとしてのグリオーマ細胞に存在するということ(図b)が示された。MJ−IL13−pMGクローンの細胞溶解活性は、51Cr標識されたSN−B19、U251及びU138グリオーマ細胞系(IL13Rα2+/CD20−)及びDaudi(CD20+/IL13Rα2−)を標的として用いて検定した。MJ−IL13エフェクターは、刺激後8〜12日に検定した。エフェクターを採取し、洗浄して検定培地中に再懸濁させた。2.5×105個、1.25×105個、2.5×104個及び5×103個のエフェクターを、96穴V底微量滴定プレートで、5×103個の標的細胞と共に、三重反復試験で37℃で4時間で培養した。インキュベーション後、細胞不含上澄みの100μlアリコートを採取し、上澄み中の51Crをγカウンターで検定した。特異的細胞溶解比率を、次のように計算した。
【0053】
【数1】
【0054】
標的細胞を含有する対照穴を標的細胞単独でインキュベートした。最大51Cr放出は、2%SDSの存在下で標識標的細胞から放出される51Crを測定して決定した。約40%のIL−13(E13Y)ゼータカイン+TCRα/β+リンパ球からなる安定なトランスフェクションしたヒトT細胞の大量系は、4時間クロム放出検定で、13Rα2+グリオーマ標的に特異的で再指向された細胞溶解を示し(25:1のE:T比で>50%の特異的溶解)、IL−13Rα2−標的に対する活性は無視できる程度であった(25:1のE:T比で<8%の特異的溶解)。抗IL−13抗体への高レベル結合基準で選択されたIL−13(E13Y)ゼータカイン+CD8+TCRα/β+CTLクローンも、再指向されたIL13Rα2特異的グリオーマ細胞死滅を示す(図4b)。
【0055】
IL−13ゼータカイン発現性CD8+CTLクローンは、培養物中のグリオーマ細胞で刺激されると活性化されて増殖する(図5〜7)。IL−13ゼータカインを発現するMJ−IL13−pMG Cl.F2応答細胞を、インビトロのIFNγ、GM−CSF及びTNFα生産の受容体を介するトリガーリング(triggering)について評価した。2×106個の応答細胞を、24穴組織培養プレートで、全2ml中に2×105個の照射刺激細胞(Daudi、線維芽細胞、神経芽細胞腫10HTB及びグリア芽細胞腫U251)と共培養した。遮断性ラット抗ヒトIL13単クローン性抗体抗体(Pharmingen, San Diego, CA)、組換えヒトIL13(R&D Systems, Minneapolis, MN)及びIL13Rα2特異的ヤギIgG(R&D Systems, Minneapolis, MN)を、応答細胞を加える30分前に、U251刺激細胞のアリコート(2×105/ml)に、1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml及び1μg/mlの濃度で加えた。プレートを、37℃で72時間インキュベートし、各時間後、培養物上澄みを採取し、小分けして−70℃で貯蔵した。IFNγ、GM−CSF及びTNFαのELISA検定は、R&D Systems(Minneapolis, MN)キットを製造者の使用説明書を用いて行った。試料は、未希釈又は1:5又は1:10に希釈した二重反復試験穴で調べた。展開さしELISAプレートを、マイクロプレートリーダーで評価してサイトカイン濃度は、標準曲線からの外挿により決定した。結果は、ピコグラム/mlとして報告されているが、グリオーマ刺激細胞によるサイトカイン生産について強い活性化を示す(図5、図6)。
【0056】
最後に、IL13ゼータカイン+CD8+CTLのIL−2非依存増殖を、IL13Rα2刺激物ではないグリオーマ刺激物との共培養時に観察した(図7a)。rhIL−13抗体を添加して増殖を阻害し(図7b)、増殖が確認され、その増殖はIL−13Rα2グリオーマ細胞特異的受容体へのゼータカインの結合に依存することが示された。
【0057】
実施例5:治療的使用に適するIL−13ゼータカイン+T細胞の製造
単核細胞を、ヘパリン処理した全血から、臨床レベル以上のFicoll(Pharmcia, Uppsula, Sweden)で遠心分離して分離する。PBMCを、滅菌リン酸緩衝化生理食塩水(Irvine Scientific)で2回洗浄してRPMI1640HEPES、10%熱失活FCS及び4mM L−グルタミンからなる培地中に懸濁させる。患者PBMC中に存在するT細胞を、オルソクローンOKT3(30ng/ml)の培養物へ添加してポリクローナルに活性化させる。次に、細胞培養物を、研究対象者の指定インキュベーターでベント式T75組織培養フラスコでインキュベートする。培養開始から24時間後に25U/mlのrhIL−2を加える。
【0058】
培養開始から3日後、PBMCを採取し、遠心分離して低張エレクトロポレーション緩衝液(Eppendorf)に20×106個細胞/mlで再懸濁させる。実施例3の25μgのプラスミドIL13ゼータカイン/HyTK−pMGを、400μlの細胞懸濁液と共に、滅菌済0.2cmエレクトロポレーションキュベットに加える。各キュベットを、250V/40μsの単一電気パルスに供し、再度、RTで10分間インキュベートする。生存細胞をキュベットから採取し、プールして25U/mlのrhIL−2を含有する培地に再懸濁させる。フラスコを患者の指定組織培養インキュベーター中に入れる。エレクトロポレーション後3日目に、ハイグロマイシンを0.2mg/mlの最終濃度で細胞に加える。エレクトロポレーション後のPBMCを、48時間ごとに培地及びIL−2を補充しながら全14日間培養する。
【0059】
エレクトロポレーション後のOKT3活性化患者PBMCのハイグロマイシン耐性CD8+CTLのクローニングを培養14日目に開始する。端的には、生存可能な患者PBMCを、30ng/mlのOKT3及び50U/mlのrhIL−2を含有する200ml容量の培地中の100×106個の低温保存(cyropreserved)照射支持PBMC及び20×106個の照射TM−LCLの混合物に加える。本マスターミックスを、各穴に10個の96穴クローニング用プレート中に0.2mlプレーティングする。プレートをアルミニウム箔中に包み、蒸発減量を減少させて患者の指定組織培養インキュベーター中に入れる。培養19日目に、各穴に0.2mg/mlの最終濃度のハイグロマイシンを入れる。30日目に穴の細胞増殖を倒立顕微鏡での目視で調べて再刺激用に陽性穴に印を付ける。
【0060】
細胞増殖する各々のクローニング穴の内容物を、個々に、25mlの組織培地中に5×106個の照射PBMC、10×106個の照射LCL及び30ng/mlのOKT3があるT25フラスコに移す。再刺激から1日、3日、5日、7日、9日、11日及び13日後に、50U/mlのrhIL−2及び15mlの新鮮培地をフラスコに入れる。刺激サイクルの5日目に、さらに、0.2mg/mlのハイグロマイシンをフラスコに補充する。播種から14日後、細胞を採取し、計数して50mlの組織培地中に150×106個の照射PBMC、30×106個の照射TM−LCL及び30ng/mlのOKT3があるT75フラスコ中で再刺激する。フラスコに、上記したrhIL−2及びハイグロマイシンの培養物への添加物を加える。
【0061】
治療に用い得る程度に増殖するため選択されたCTLを、CRB−3006に格納されたFACSCalibur で免疫蛍光し、FITC共役単クローン性抗体WT/31(aβTCR)、Leu2a(CD8)及びOKT4(CD4)を用いて分析し、必要なクローン表現型(αβTCR+、CD4−、CD8+及びIL13+)を確認する。臨床使用のためのクローンの選択判定基準としては、イソ型対照FITC/PE共役抗体と比較して一様なTCRαβ+、CD4−、CD8+及びIL13+があげられる。プラスミドベクター染色体組込み単一部位はサザンブロット分析で確認する。遺伝子組換えT細胞クローンのDNAは、当該プラスミドベクターに特異的なDNAプローブでスクリーニングされるであろう。プラスミドベクターのHyTKに特異的なプローブDNAは、フルオレセイン(florescein)共役dUTPでの製造者の使用説明書(Amersham, Arlington Hts, IL)によるランダムプライミングで合成する。T細胞ゲノムDNAを、標準的な技法で単離する。T細胞クローンからの10マイクログラムのゲノムDNAを、37℃で一晩消化後、0.85%アガロースゲルで電気泳動により分離する。次に、DNAを、アルカリキャピラリー転移法を用いてナイロンフィルター(BioRad, Hercules, CA)に移す。フィルターを、10μg/mlのサケ精子DNA(Sigma)を含有する0.5M Na2PO4、pH7.2、7%SDS中のプローブで、65℃一晩ハイブリッド形成させる。次に、フィルターを、40mM Na2PO4、pH7.2、1%SDSで65℃で4回洗浄後、化学発光AP共役抗フルオレセイン(florescein)抗体(Amersham, Arlington Hts, IL)を用いて可視化する。クローン選択判定基準は、単一バンド特有ベクターバンドである。
【0062】
IL−13ゼータカインの発現は、キメラ受容体タンパク質を抗ζ抗体で検出するウェスタンブロット手順で確認する。トランスフェクションしたT細胞クローンの全細胞溶解産物は、1錠/10mlのComplete Protease Inhibitor Cocktail(Boehringer Mannheim)を含有する1mlのRIPA緩衝液(PBS、1%NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)で2×107個の洗浄した細胞を溶解させることにより生成する。氷上で8分インキュベーション後、遠心分離した全細胞溶解産物上澄みのアリコートを採取して等容量のローディング緩衝液中において還元条件下で沸騰後、プレキャスト12%アクリルアミドゲル(BioRad)上のSDS−PAGE電気泳動を行う。ニトロセルロースへの転移後、0.07gm/mlの脱脂粉乳を含有するブロット(blotto)溶液中で膜を2時間ブロックする。膜を、T−TBS(Tris 緩衝化生理食塩水pH8.0中の0.05% Tween)中で洗浄後、1μg/mlの濃度の一次マウス抗ヒトCD3ζ単クローン性抗体8D3(Pharmingen, San Diego, CA)と共に2時間インキュベートする。T−TBS中でさらに4回洗浄後、膜を、ヤギ抗マウスIgGアルカリ性ホスファターゼ共役二次抗体の1:500希釈と共に1時間インキュベートする。展開する前に、膜をT−TBS中ですすぎ洗浄後、30mlの「AKP」溶液(Promega, Madison, WI)で製造者の使用説明書で展開させる。クローン選択判定基準は、キメラζバンドの存在である。
【0063】
IL−13ゼータカインキメラ免疫受容体を発現するCD8+細胞傷害性T細胞クローンは、細胞表面標的エピトープとキメラ受容体の相互作用後に、ヒトグリア芽細胞腫標的細胞を、HLAに制限されない態様で認識しかつ溶解する。標的IL−13Rα2エピトープ発現及びクラスI MHC非依存認識のための必要条件は、IL−13Rα2+Daudi細胞形質転換体及びIL−13Rα2−Daudi細胞に対するaβTCR+、CD8+、CD4−、IL−13ゼータカイン+CTLクローンを各々検定して確認できるであろう。T細胞エフェクターを、OKT3での刺激後12〜14日に検定する。エフェクターを採取し、洗浄して検定培地;及びIL−13Rα2を発現するDaudi細胞形質転換体中に再懸濁させる。2.5×105個、1.25×105個、2.5×105個及び0.05×105個のエフェクターを、V底微量滴定プレート(Costar, Cambridge, MA)中において5×103個の標的細胞と共に、三重反復試験で37℃で4時間プレーティングする。遠心分離及びインキュベーション後、細胞不含上澄みの100μlアリコートを採取し、計数する。特異的細胞溶解比率を、次のように計算する。
【0064】
【数2】
【0065】
対照穴は、検定培地中でインキュベートされた標的細胞を含有する。最大51Cr放出は、2%SDSで溶解した標的細胞の51Cr含有量を測定して決定する。クローン選択判定基準は、5:1のE:T比でIL−13Rα2+Daudi形質転換体の>25%の特異的溶解及び同一のE:T比で親Daudiの<10%の溶解である。
【0066】
実施例6:IL−13ゼータカイン発現性T細胞を用いたヒトグリオーマの治療
IL−13Rゼータカインキメラ免疫受容体及びHyTKを発現するように実施例5の遺伝子組換えT細胞クローンを、以下について選択する:
a.フローサイトメトリーで決定されるTCRα/β+、CD4−、CD8+、IL−13+細胞表面表現型;
b.サザンブロットで示される染色体組込みプラスミドベクターDNAの単一コピーの存在;
c.ウェスタンブロットで検出されるIL−13ゼータカインタンパク質の発現;
d.4時間クロム放出検定でのヒトIL−13Rα2+標的の特異的溶解;
e.インビトロ増殖での外因性IL−2への依存;
f.<5EU/mlのマイコプラズマ、真菌、細菌の無菌レベル及び内毒素レベル;
g.ガンシクロビルへのクローンのインビトロ感受性。
【0067】
末梢血単核細胞を、白血球搬出で患者から、好ましくは、最初の切除手術の回復後及びステロイドの漸減除去及び/又は最近の全身化学療法から少なくとも3週間の時点で入手する。標的白血球搬出単核細胞収量は5×109個であり、ハイグロマイシン耐性細胞傷害性T細胞クローンの標的数は、生体外増加のための全ての品質対照パラメーターを満たす少なくとも5種類のクローンが識別されることを期待して25である。クローンを低温保存して患者を、連続ラジオグラフィー及び臨床検査で監視する。疾患進行が再発した場合、患者は、再切除及び/又は腫瘍切除腔へT細胞を送達するためのレザバーアクセスデバイス(Oyama reservoir)を配置される。外科手術及びステロイドの漸減による回復後、適用可能ならば、患者にT細胞療法を開始する。
【0068】
患者は少なくとも4回の1週サイクル標的の療法を受ける。最初のサイクルで、細胞用量の段階的上昇は、107個の0日目初期用量後、3日目の5×107個〜5日目の108個の標的細胞用量へと進行する。サイクル2は、サイクル1の開始から1週間程度先に開始する。残遺疾患がある腫瘍退行をMRIで示された患者は、サイクル3及びサイクル4の反復後、1週間の休止/再度の病期分類からなる7週目以降に開始する他の治療プロセスを受けることができるが、当該治療は、疾患進行又はCRが、ラジオグラフィー評価に基づき達する時間まで十分に許容される(<3度の最大傷害性)という条件付きである。
【0069】
細胞用量は、少なくとも、類似の患者集団へ送達されるLAK細胞(109個までの個々の細胞用量及び2.75×1010個程度に高い累積細胞数は、安全投与された)、生体外増量TIL(最小限の傷害性で報告された109個細胞/用量まで)及び同種抗原反応性リンパ球(108個の出発細胞用量で、51.5×108個までの累積細胞用量)を腔内に用いた研究で与えられる用量未満の対数である75−85。提案された細胞用量が少ない本プロトコールの根拠は、以前用いたエフェクター細胞集団の穏当な反応性プロフィールと比較して増加した、IL−13ゼータカイン+CTLクローンのインビトロ反応性/抗腫瘍力価に基づく。低用量反復投薬は、1回に多細胞数を滴下して起こりうると考えられる潜在的に危険な炎症性反応を回避するのに好都合である。注入は各々単一T細胞クローンからなるであろう。患者の治療過程中には同一のクローンを投与するであろう。T細胞投与の当日に、増加したクローンを、50ccのPBSで2回洗浄して無菌処理後、患者に送達するための細胞用量を形成する2mlの容量で医薬保存剤不含規定生理食塩水中に再懸濁させる。T細胞を5〜10分にわたって滴下する。T細胞の後、2mlのPFNSフラッシュを5分にわたり投与するであろう。当該療法への応答は、脳MRI+/−ガンドリニウム(gandolinium)により、分光法で評価する。
【0070】
グリオーマ切除腔へT細胞を投与する場合に考えられる副作用は、典型的には、自己限定性悪心嘔吐、熱、及び既存の神経欠損の一過性悪化からなる。当該傷害性は、分泌されたサイトカインの作用との組合せでのT細胞を介する腫瘍床中の局所炎症/浮腫双方に依存し得る。当該副作用は、典型的には、一過性で重症度はII度未満である。患者の傷害性がより重症であれば、単独又はガンシクロビルとの組合せで、デカドロン(decadron)は、炎症性過程を減衰し、注入した細胞を除去することが期待される。細菌又は真菌で汚染された細胞生産物を不注意にも注入すると、重症又は生命を危うくする傷害性引き起こす可能性がある。細胞生産物を注入前に十分培養して、汚染された組織培養フラスコを識別し、当該可能性を最小限にする。再注入の当日に、培養液や内毒素レベルのグラム染色を行う。
【0071】
IL−13Rα2の発現の十分な分子分析は、本分子が、CNSの場合に腫瘍特異的であることを示した44;46;48;54。さらに、明白なにIL−13Rα2発現する唯一のヒト組織は精巣であると考えられる42。本腫瘍・精巣限定的な発現パターンは、様々なヒト癌、最も顕著には、黒色腫及び腎細胞癌により発現される腫瘍抗原(すなわち、MAGE、BAGE、GAGE)の増加数を暗示する109−111。ワクチン及び養子T細胞療法での臨床経験は、抗原の本クラスが、精巣で同時自己免疫攻撃をせずに、全身腫瘍免疫療法に利用されうることを示した112−114。おそらくは、これは、無傷の血液・精巣関門及び免疫学的に免除される精巣内環境の作用に選択的に反映される。突然変異体IL−13標的指向部分の鋭敏な特異性にもかかわらず、細胞が、体循環中へと十分な数で放出されてIL−13Rα1/IL−4β受容体を発現する組織を認識する場合、理論的には傷害性の可能性がある。このかけ離れた危険、さらには、ある患者に滴下されたT細胞が、腫瘍床で過度の炎症性反応を引き起こす可能性に照らして、クローンには、ガンシクロビルでの生体内除去にT細胞を感受性にするHyTK遺伝子が含まれる115−118。患者内T細胞用量の段階的上昇戦略との組合せでのガンシクロビル自殺は、潜在的危険を最小限にし、関与する対象を研究するのに役立つ。
【0072】
療法に関連した副作用(頭痛、熱、悪寒、悪心等)は、その状態に適当な確立された治療を用いて管理する。治療する医師の見解で、患者が有意の医学的危険状態になるいかなる新たな3度又はいかなる4度の治療関連傷害性でも認められれば、患者にガンシクロビルを与える。非経口投与したガンシクロビルは12時間ごとに10mg/kg/日で投与する。14日過程が処方されるが、当該時間間隔で症状が消散できなければ延長できる。ガンシクロビルの治療はIL−13ゼータカイン+HyTK+CD8+CTLクローンを除去する。患者は、監視目的のため、ガンシクロビル療法の最初の72時間入院すべきである。症状が48時間以内にガンシクロビルに応答しない場合、コルチコステロイド及びシクロスポリンが含まれるがこれに制限されない他の免疫抑制剤を、治療する医師の裁量で追加することができる。傷害性が重症である場合、治療する医師の裁量で、デカドロン及び/又は他の免疫抑制薬を、ガンシクロビルと共に早期に用いる。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
【表9】
【0082】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】IL13ゼータカインキメラ免疫受容体は、JurkatT細胞中で無傷のグリコシル化タンパク質として発現されることを示すウェスタンブロットの結果である。
【図2】発現したIL13ゼータカインキメラ免疫受容体は、I型膜貫通タンパク質として細胞表面へ移行することを示すフローサイトメトリー分析の結果である。
【図3】代表的な一次ヒトIL13ゼータカイン+CTLクローンの細胞表面表現型を示すフローサイトメトリー分析の結果である。
【図4A】IL13ゼータカイン+CTLクローンは、グリオーマ特異的な再指向された細胞溶解活性を獲得したことを示すクロム放出検定の結果である。
【図4B】一次ヒトIL13ゼータカイン+CD8+CTLクローンによる抗グリオーマ細胞溶解活性のプロフィールがグリオーマ細胞中で一般的に観察されたことを示すクロム放出検定の結果である。
【図5】IL13ゼータカイン+CTLクローンはグリオーマ刺激細胞によるサイトカイン生産で活性化されることを示すサイトカイン生産のインビトロ刺激の結果である。
【図6】A、B及びC共に、抗IL13R Mab及びrhIL13によるサイトカイン生産でIL13ゼータカイン+CTL活性化の特異的阻害を示すサイトカイン生産のインビトロ刺激の結果である。
【図7A】IL13ゼータカイン+CD8+CTL細胞は、グリオーマ刺激物との共培養時に増殖することを示す増殖研究の結果である。
【図7B】IL13ゼータカイン+CD8+CTL細胞のグリオーマに刺激された増殖の、rhIL−13による阻害を示す増殖試験の結果である。
【図8A】IL13ゼータカイン/HyTK−pMG構築のフローチャートである。
【図8B】IL13ゼータカイン/HyTK−pMG構築のフローチャートである。
【図8C】IL13ゼータカイン/HyTK−pMG構築のフローチャートである。
【図9】IL13ゼータカイン/HyTK−pMGのプラスミド地図である。
【図10】プラスミドDNAベクターの核酸配列(上:配列番号14;下:配列番号16)及びIL13ゼータカイン(配列番号17)及びHyTK(配列番号18)の該当するアミノ酸配列である。
【図11】IL13ゼータカインインサートの配列を示している略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号15を含むキメラ免疫受容体。
【請求項2】
ヒト癌を治療する方法であって、癌に罹患しているヒトに、請求項1記載の免疫受容体を発現する複数の細胞を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
請求項1記載のキメラ免疫受容体を含む、ベクター。
【請求項4】
配列番号14である、請求項3記載のベクター。
【請求項1】
配列番号15を含むキメラ免疫受容体。
【請求項2】
ヒト癌を治療する方法であって、癌に罹患しているヒトに、請求項1記載の免疫受容体を発現する複数の細胞を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
請求項1記載のキメラ免疫受容体を含む、ベクター。
【請求項4】
配列番号14である、請求項3記載のベクター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図10−2】
【図10−3】
【図10−4】
【図10−5】
【図10−6】
【図10−7】
【図10−8】
【図10−9】
【図10−10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図10−2】
【図10−3】
【図10−4】
【図10−5】
【図10−6】
【図10−7】
【図10−8】
【図10−9】
【図10−10】
【図11】
【公表番号】特表2009−515555(P2009−515555A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541362(P2008−541362)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/044635
【国際公開番号】WO2007/059298
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(598004424)シティ・オブ・ホープ (15)
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
【住所又は居所原語表記】1500 East,Duarte Road,Duarte,California 91010−0269,United States of America
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/044635
【国際公開番号】WO2007/059298
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(598004424)シティ・オブ・ホープ (15)
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
【住所又は居所原語表記】1500 East,Duarte Road,Duarte,California 91010−0269,United States of America
【Fターム(参考)】
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