説明

ヒト羊膜上皮由来の成体幹細胞の分離及び培養方法

本発明は高い収率にてヒトの羊膜由来成体幹細胞を分離及び培養する方法に係り、さらに詳しくは、ヒトの羊膜組織からジチオスレイトール(DTT:dithiothreitol)及び低濃度のトリプシン処理を通じて羊膜上皮細胞を高収率にて得、前記羊膜上皮細胞をROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において培養して多量の成体幹細胞を得る方法に関する。本発明に係るヒト羊膜上皮細胞由来幹細胞は、既存の臍帯血、骨髄などの治療用幹細胞よりも採取し易く、DTT処理、ROCK阻害剤添加または培地交換により収率及び増殖率を格段に増加させることにより、成体幹細胞を製造する上で有効な方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い収率にてヒトの羊膜由来成体幹細胞を分離及び培養する方法に係り、さらに詳しくは、ヒトの羊膜組織からジチオスレイトール(DTT:dithiothreitol)及び低濃度のトリプシン処理によって羊膜上皮細胞を高収率にて得、前記羊膜上皮細胞をROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において培養して多量の成体幹細胞を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀の生命工学は人間福祉を最終目標として食糧、環境、健康問題への新たな解決策の可能性を提示しており、最近、幹細胞の利用技術は難治病治療の新たな解決法として期待されている。これまで、ヒトの難治病治療のために臓器移植や遺伝子治療などが提示されたが、免疫拒絶と供給臓器不足、ベクター開発や疾患遺伝子についての知識不足のために効率的な実用化があまり進んでいなかった。
【0003】
この理由から、幹細胞研究に対する関心が高くなるにつれ、増殖と分化によって全ての器官を形成する能力を持つ万能幹細胞がほとんどの疾病治療はもとより、臓器毀損を根源的に解決可能なものであると認識されてきた。なお、多くの科学者が人体のほとんどの臓器再生はもとより、難治病であったパーキンソン病、各種の癌、糖尿病と脊髄損傷などの治療に至るまで種々な幹細胞の臨床適用可能性を提示してきた。
【0004】
幹細胞とは、自己複製能力を有し、且つ、2以上の細胞に分化する能力を有する細胞のことをいい、万能幹細胞(totipotent stem cells)、全分化能幹細胞(pluripotent stem cells)、及び多分化能幹細胞(multipotent stem cells)に分類することができる。
【0005】
万能幹細胞は一つの完全な個体に発生していける万能の性質を持った細胞であって、卵子と精子の受精後の8細胞期までの細胞がこのような性質を持ち、この細胞を分離して子宮に移植すると一つの完全な個体に発生していくことができる。全分化能幹細胞は外胚葉、中胚葉、内胚葉層由来の様々な細胞と組織に発生していく細胞であって、受精4〜5日後に現れる胚盤胞の内側に位置している内細胞塊から由来し、これを胚幹細胞といい、様々な他の組織細胞に分化するが、新たな生命体を形成することはできない。多分化能幹細胞はこの細胞が含まれている組織及び器官に特異的な細胞にしか分化することができない細胞であって、胎児期、新生児期及び成体期の各組織及び臓器の成長と発達はもとより、成体組織の恒常性維持と組織損傷時の再生を誘導する機能に関与しており、組織特異的多能性細胞を総称して成体幹細胞と称する。
【0006】
成体幹細胞は人体の各種の臓器に既に存在する細胞を採取、幹細胞を発展させたものであり、特定の組織にしか分化することができないという特徴がある。しかしながら、最近には成体幹細胞を用いて、肝細胞など各種の組織に分化させる実験が成功を収めており、注目されている。
【0007】
前記多分化能幹細胞は成体骨髄から最初に分離され(Jiang et al., Nature, 418:41, 2002)、その後、他の多くの成体組織からも確認された(Verfaillie, Trends Cell Biol., 12:502, 2002)。すなわち、骨髄は最も広く知られた幹細胞のソースであるが、多分化能幹細胞は皮膚、血管、筋肉及び脳からも確認された(Toma et al., Nat. Cell Biol., 3:778, 2001; Sampaolesi et al., Science, 301:487, 2003; Jiang et al., Exp. Hematol., 30:896, 2002)。しかしながら、骨髄などの成体組織内に幹細胞は極めて稀に存在し、これらの細胞は分化誘導せずには培養することが困難であるため、特異的に選択された培地がなければそれらの細胞を培養することが困難である。すなわち、幹細胞は分離して体外において保存することが極めて困難であるという欠点がある。
【0008】
一方、胎児組織からの間葉幹細胞の分離を研究した結果、豊富な間葉幹細胞があることが判明されたが、細胞治療剤の開発を目的とする胎児組織の使用は倫理的に制限があるため細胞治療剤として使用するには限界があった。胎児間葉幹細胞(fetal MSC)に対するソースとしての臍帯血(umblical cord blood:UCB)からも間葉幹細胞を分離したが、その数が極めて少量であり、増殖が上手く行われないという問題点があった。
【0009】
これに対し、最近、優れた分化能力と安全性を持つとして脚光を浴びている胎盤幹細胞は臍帯血に比べて100倍多い間葉幹細胞を抽出することができるだけではなく、使用可能回数の面においても臍帯血が1回に限定され、15歳以上になると他人の臍帯血を補充しなければならないが、胎盤幹細胞は多数回使用することができて成人になってからも使用可能である。なお、胎盤幹細胞はより様々な疾患に利用可能である。臍帯血の造血母細胞は主として血液疾患に使用されるが、胎盤幹細胞は細胞損傷疾患に用いて好適なものであるため、今後心臓麻痺、脳卒中、糖尿病、骨粗しょう症、退行性関節炎など多くの疾病に利用することができる。
【0010】
しかしながら、成体幹細胞のソースとして胎盤を利用するに当たって、分娩直後の胎盤組織を必要時に直ちに提供されることは困難であるのが現状であり、実際に胎盤組織の産業的利用(胎盤注射、胎盤化粧品類)は、分娩後の胎盤組織を冷蔵保管して使用している。未分化状態で存在する胎盤由来幹細胞は分娩直後の胎盤からしか多量に得ることができず、分娩後に数時間が経過したり、特に、長期間に亘って冷蔵保管されていた胎盤組織からは多量の成体幹細胞を得ることが極めて困難である。
【0011】
上記の理由から、現時点において胎盤由来成体幹細胞を産業的に利用できるためには何よりも、冷蔵保管されている胎盤組織などから成体幹細胞を大量に製造可能な方法が切望されている。中でも、胚幹細胞の特性と最も類似する特性を保有して種々の細胞に分化可能な能力を有しており、且つ、胚幹細胞とは異なり体内移植時に癌を発生させないことから臨床的に安定したものであると知られている羊膜上皮細胞由来成体幹細胞(Miki et al., Stem Cell, 23:1549, 2005)は、他の胎盤組織由来成体幹細胞とは異なり、単一細胞培養及び継代培養時にアポトーシス過程に進展することが一層容易になって既存の培養方法によっては未分化状態の羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を大量に増殖することが困難であった(http://www.cellapplications.com/HumanCells/HPlEpC.htm)。
【0012】
そこで、本発明者らは、羊膜上皮細胞由来の未分化状態の成体幹細胞を大量に製造して実用に至らせるために鋭意努力した結果、DTT及びROCK阻害剤を羊膜上皮細胞の分離及び培養に利用し、培養培地の組成を変えることにより羊膜上皮細胞由来幹細胞を冷蔵保管された胎盤組織から多量に得ることができるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の要約】
【0013】
本発明の目的は、ヒト羊膜組織から羊膜上皮細胞を高収率にて分離する方法及び前記分離された羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を製造する方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞及びこれを有効成分として含有する創傷治療用細胞治療剤を提供することにある。
【技術的解決方法】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明は、ヒト羊膜組織をジチオスレイトール(DTT)により処理するステップと、前記DTT処理されたヒト羊膜組織を0.025〜0.125%のトリプシンにより処理するステップと、を含む、羊膜上皮細胞の分離方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記方法により分離されたヒト羊膜上皮細胞をROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において培養するステップと、前記培養液から幹細胞を回収するステップと、を含む、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の製造方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、前記方法により製造されたヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を、ROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において継代培養することを特徴とする、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖及び維持方法を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、前記方法により得られたヒト羊膜上皮組織由来成体幹細胞及びこれを有効成分として含有する体内または体表面の創傷治療用細胞治療剤を提供する。
【0019】
本発明の他の特徴及び具現例は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲から一層明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ジチオスレイトール(DTT)処理による羊膜上皮細胞の収率を比較した結果を示すものである(A:DTT及びトリプシン処理により得られた羊膜上皮細胞、B:トリプシン処理だけで得られた単一細胞、C:Aの培養された成体幹細胞、D:Bの培養された成体幹細胞)。
【図2】ROCK阻害剤の存在下に培養した羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の培養結果を示す写真である。
【図3】ROCK阻害剤処理1日後、ROCK阻害剤の濃度別成体幹細胞増殖能の向上率を比較した写真である。
【図4】ROCK阻害剤処理4日後、ROCK阻害剤の濃度別成体幹細胞増殖能の向上率を比較した写真である。
【図5】ROCK阻害剤の添加による幹細胞増殖能を比較した結果を示すものである。
【図6】ROCK阻害剤の処理時期による羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖能比較写真である(対照群:ROCK阻害剤を処理せずに1日培養した結果、A:再接種前にのみROCK阻害剤を処理して1日培養した結果、B:再接種後にもROCK阻害剤を処理して1日培養した結果)。
【図7】DMEM培地とK−SFM培地において羊膜上皮細胞由来成体幹細胞をそれぞれ3日、6日及び8日間培養して増殖能を比較した結果を示すものである。
【図8】DMEM培地とK−SFM培地の置き換えによる羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖能の向上を比較した結果を示すものである。
【図9】羊膜上皮細胞由来成体幹細胞のフローサイトメトリー分析結果である。
【図10】羊膜上皮細胞由来成体幹細胞のフローサイトメトリー分析結果である。
【図11】羊膜上皮細胞由来成体幹細胞のSSEA4、Oct−4、サイトケラチン及びE−カドヘリンに対する反応結果を示す写真である。
【図12】羊膜羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の形態学的特性を確認可能な光学顕微鏡写真である。
【図13】羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の脂肪細胞への分化(脂質生成)、骨細胞への分化(骨形成)及び筋細胞への分化(筋形成)を示す写真である。
【図14】羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の神経細胞への分化(神経細胞新生)を示す写真である。
【図15】動物創傷モデルにおける創傷修復率を観察したグラフである。
【図16】羊膜上皮細胞由来成体幹細胞投与群の修復された創傷皮膚組織をH&E染色した写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、一観点において、ヒト羊膜組織をジチオスレイトール(DTT)及び低濃度のトリプシンにより処理してヒト羊膜上皮細胞を高収率にて分離し、製造する方法に関する。
【0022】
本発明においては、胎盤から分離した羊膜組織の全体から抽出される種々の細胞を使用するのではなく、羊膜上皮細胞だけを抽出して分離することを特徴とする。羊膜上皮細胞は胎盤を構成する羊膜上皮組織のうち胚形成前または受精後8日経過した外胚葉から発達したものであり、胚形成前の胚細胞の柔軟性を維持していることを特徴としている。
【0023】
このため、前記羊膜上皮細胞の表面マーカーは胚において発現されるのと同じものであることが確認され、免疫組織化学的分析及び遺伝学的分析によって羊膜上皮細胞由来成体幹細胞が内胚葉、中胚葉、外胚葉由来細胞にいずれも分化可能な能力を有しており、体内において癌発生を引き起こさないことが確認された(Miki et al., Stem Cell, 23:1549, 2005)。
【0024】
しかしながら、羊膜上皮細胞由来成体幹細胞は、他の胎盤由来成体幹細胞とは異なり、単一細胞培養及び継代培養時にアポトーシスに進展し易く、従来の培養方法によっては未分化状態の羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を大量に増殖することが困難であるという問題点があった。すなわち、未分化状態で存在する羊膜上皮細胞由来幹細胞は分娩直後の胎盤からしか多量に得ることができず、分娩後に数時間が経過したり、特に、長時間に亘って冷蔵保管されていた胎盤組織からは多量の成体幹細胞を得ることが極めて困難である。このため、前記問題点により羊膜上皮細胞を初期に大量に得たり、培養時にアポトーシスへの進展を抑えることが必要である。
【0025】
通常、胎盤から分離された羊膜は血液と粘液質などにより表面が取り囲まれることになる。このような粘液質などは羊膜から単一細胞を分離するのに障害となる要素であって、従来よりトリプシン処理による効果を減少させてきた。そこで、トリプシン処理前に粘液質などの不純物を除去して単一細胞の分離に使用されるトリプシンの効果を最大限生かすことのできる環境を創る必要性も求められている。
【0026】
本発明は羊膜上皮細胞を得る過程において、トリプシン処理前にジチオスレイトール(DTT)により処理することにより、羊膜上皮細胞を初期に大量に得、分離された細胞のアポトーシスを抑えて大量に培養可能な方法に関するものであり、前記問題点を解決している。
【0027】
DTTは下記の化学式1で表わされる物質であり、通常、タンパク質のジスルフィド結合除去及びDNAダイマー形成抑制、粘液質除去、残屑や結合組織除去などに使用する物質である。このDTTは多くの生物学実験組成物に添加される試薬であるが、これまで幹細胞抽出過程に使用されたことはなかった。
【0028】
【化1】

【0029】
本発明においては、単一細胞分離時の通常の手順であるトリプシン前処理をDTT処理に置き換えることにより過度な細胞破壊を防ぎ、その後に処理するトリプシン効果を妨げる粘液質を除去して単一細胞の収率を増加させる。
【0030】
このとき、処理するDTT濃度は5〜50mMであることが好ましく、最も好ましくは、8〜15mMである。本発明の一つの具体例においては、10mMを使用した。5mM未満の濃度にてDTTを処理する場合には高い収率にて単一細胞を得ることが困難であり、50mMを超える濃度にてDTTを処理する場合には過度なタンパク質分解に起因してアポトーシスが発生する恐れがある。
【0031】
ヒト羊膜組織に前記DTTを処理した後、羊膜上皮細胞を分離するために低濃度のトリプシンを処理する。好適なトリプシンの濃度は0.025〜0.125%であり、より好ましくは、0.05〜0.10%である。
【0032】
羊膜組織を構成する多種多様な細胞を分離していくためにはそれぞれこれに見合う適切な濃度のトリプシン処理が要求され、特に、羊膜上皮細胞は低濃度のトリプシン処理によって得られる。しかしながら、従来は羊膜組織を覆っている粘液質などの不純物に妨げられて低濃度のトリプシンによっては効果的に上皮細胞を分離することができなかったため、ほとんどの場合、高濃度のトリプシンやコラゲナーゼなどにより分離可能な間葉幹細胞(mesenchymal stem cells:MSC)を用いてきた。
【0033】
しかしながら、本発明は、ヒト羊膜組織に前記DTTを処理して粘液質などを除去することにより低濃度のトリプシンによっても効果的に羊膜上皮細胞を分離できるようにしている。すなわち、本発明においては、従来より使用されてきた高濃度の0.25〜0.5%トリプシンではなく、低濃度の0.025〜0.125%トリプシンを処理して羊膜上皮細胞を高収率にて分離する方法を提供する。
【0034】
このとき、トリプシン処理直後に2500〜3000rpmにて30〜60秒間さらにボルテックスすることにより物理的なせん断力を加えて細胞の収率を高めることができる。このような追加工程を通じて相対的にトリプシン処理時間を短縮させることによりトリプシンによる細胞損傷を低減するというメリットがある。
【0035】
羊膜組織に前記トリプシン処理及びボルテックス処理を施した後、得られる物質をろ過して目的とする羊膜上皮細胞を得る。このとき、好ましくは、先ず、1次的に1〜2mm網目にかけることにより、100μmろ過器を最初から使用した場合に比べて分離された細胞の体外露出時間を減らして細胞の生存能力を増加させ、細胞分離にかかる時間を一層節約することができ、100μm細胞ろ過器の使用量を低減することができ、費用節減にも役立つ。
【0036】
上記の方法により分離された羊膜上皮細胞をROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において培養すると、多量の成体幹細胞を得ることができる。
【0037】
このため、本発明は、他の観点において、前記分離された羊膜上皮単一細胞をROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において培養した後、幹細胞を回収するステップを含む、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の製造方法に関する。さらに、本発明は、前記得られたヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を、ROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において継代培養することを特徴とする、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖及び維持方法に関する。
【0038】
本発明の羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の培養に使用する培地としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM:dulbecco modified eagle medium)及びヒト角化細胞培養用無血清培地(K−SFM:keratinocyte serum free medium)をはじめとする通常の培地を使用することができる。そして、前記培地にはアスコルビン酸、上皮成長因子(EGF)、インシュリン、抗生剤及びウシ胎児血清(FBS:Fetal bovine serum)などを添加して使用することができる。前記抗生剤は公知の通常的なものを使用することができ、例えば、Antibiotic-Antimycotic(Gibco社製)がある。
【0039】
前記培養培地として、例えば、FBS(fetal bovine serum)、アスコルビン酸、上皮成長因子、非必須アミノ酸及び抗生剤を添加したDMEM(dulbecco modified eagle medium)培地を用いて、または、FBS、アスコルビン酸、ヒドロコルチゾン、NAC(N-acetyl-L-cysteine)、インシュリン及び抗生剤を添加したK−SFM(keratinocyte serum free medium)培地を用いて羊膜上皮幹細胞を培養することができる。このとき、DMEM培地において培養時に成体幹細胞の増殖が前記K−SFM培地における増殖の度合いよりもやや高く現れた(図7)。
【0040】
特に、前記培地と関連して、本発明者らは、DMEMとK−SFM培地の交換実験を通じて増殖能を確認した結果、DMEM培地からK−SFM培地に置き換えた場合の方がDMEMまたはK−SFM培地だけを使用し続けた(置き換えなかった)場合よりも成体幹細胞の増殖能が一層向上することを確認した(図8)。この過程において、DMEM培地からK−SFM培地への置き換えは成体幹細胞の1次継代培養時に行われることが好ましい。
【0041】
しかしながら、羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の培養培地として最適なのは、DMEMとF−12(nutrient mixture)を1:1にて混合した培地(Gibco社製)である。このときにも、前記混合培地にアスコルビン酸、上皮成長因子(EGF)、インシュリン、抗生剤及びFBS(Fetal bovine serum)を添加して使用することができる。本発明の一具体例においては、抗生剤としてantimycotic-antibiotics(Gibco社製)を使用した。
【0042】
分離された羊膜上皮単一細胞を、ROCK(Rho−associasted kinase)阻害剤を添加した前記培地において1次培養して成体幹細胞を回収し、次いで、継代培養時にもROCK阻害剤の存在下に培養し続けて成体幹細胞が未分化状態を維持するようにする。
【0043】
ROCK阻害剤(Rho−associasted kinase inhibitor)はアポトーシスを抑制する機能をする物質であって、神経突起の再生、ミオシンリン酸化及び平滑筋収縮時に作動薬誘導性Ca2+増減(agonist-induced Ca2+ sensitization)の抑制などの機能をすることが知られている。より具体的に、ROCK阻害剤は高血圧と喘息を引き起こす筋肉細胞の正常でない構造を軽減するものであることが知られており、視神経円板の血行を増加させ、眼圧を持続的に減少させる機能があることが知られている。また、生物学的にはアポトーシスを抑制し、未分化状態を維持する機能があることが知られており、最近にはROCK阻害剤を用いて分離されたヒト胚幹細胞の生存を増加させる研究がなされている(Watanabe et al., Nature Biotechnology, 25:681, 2007)。
【0044】
しかしながら、胚幹細胞と成体幹細胞ははっきりと区別される別個の幹細胞であって、それぞれのソース及び分化能が明確に異なる別個の固有な特徴があることが自明であり、これまでROCK阻害剤を用いて成体幹細胞の増殖率の増加を確認したことはなかったものであり、本発明においては成体幹細胞の分離培養時においてもROCK阻害剤により増殖能が増加するかどうかを確認し、羊膜上皮細胞由来幹細胞の増殖及び維持にあってもROCK阻害剤により一層効率が増加されることを確認した。
【0045】
前記Watanabeらの研究においては、胚幹細胞の培養に際して、継代培養時に培地を移して再接種する前にROCK阻害剤を処理する方法を使用している。すなわち、前記ROCK阻害剤が処理された胚幹細胞を新たな培地に再接種した後にはROCK阻害剤を処理しなかったままで培養した(Watanabe et al., Nature Biotechnology, 25:681, 2007)。
【0046】
これに対し、本願発明においては、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の培養に際して、継代培養時に培地を移して再接種した後にROCK阻害剤を処理して継代培養中にもROCK阻害剤が存在し続けるような環境を設定した。
【0047】
本発明において使用可能な代表的なROCK阻害剤としては、Y−27632、HA−1077、Y−39983、Wf−536などがあり、本発明の具体例においては、これらの中でY−27632(Calbiochem社製またはSigma社製)を使用した。前記Y−27632は下記の化学式2で表わされる。
【0048】
【化2】

【0049】
本発明において使用したROCK阻害剤の適正な処理濃度は10nM〜100μMである。10nM未満の濃度にてROCK阻害剤を処理する場合には成体幹細胞の未分化能が長期間維持され難く、100μMを超える濃度にてROCK阻害剤を処理する場合には細胞の変形が起こり、分化段階に入るといった現象が発生する恐れがある。
【0050】
さらに他の観点において、本発明は、前記方法により得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞に関する。前記方法によって得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の形態学的及び免疫学的特性を後述する。
【0051】
(1)形態学的特性
羊膜組織から分離した羊膜上皮単一細胞は直方体状またはサイコロ状のやや円形の典型的な上皮細胞の形状を有しており、培養時における細胞のサイズ(直径)は約5〜10μm程度である。通常、羊膜上皮細胞は培養条件に応じて細胞のサイズが大きくなるに伴いサイトゾルが拡張されて絨毛的に変形がなされたり、細胞の形状が間葉幹細胞(MSC)の形状に変形していく上皮間充織転換(EMT:epithelio-mesenchymal transition)現象を経るなどの変形が起こり易いが(図12)、本発明のDTT処理及びROCK阻害剤含有培地において正常的に培養された羊膜上皮細胞由来成体幹細胞は単層立方形態を維持し続けている(図12の一番下の写真)。
【0052】
(2)免疫学的特性
フローサイトメトリー分析機を用いて本発明の羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を分析した結果、CD9、CD29、CD49f、CD73、CD90、及びCD105に対して陽性の免疫学的特性を示し、CD31、CD34、CD45及びCD133に対して陰性の免疫学的特性を示した(図9及び図10)。
【0053】
(3)幹細胞能
本発明の羊膜上皮細胞由来成体幹細胞においては、上皮細胞の特性を示すサイトケラチン及び上皮カドヘリン(Eカドヘリン)が発現されることを確認し、全能性を帯びる幹細胞マーカーとして公知であるSSEA4、Oct−4、Tra−1−60及びTra−1−81も発現されることを確認した(図11)。
【0054】
また、幹細胞としての分化能と関連して、既に知られているように、羊膜上皮細胞は胎児の胚幹細胞と最も類似する特性を有しているため、前記羊膜上皮細胞由来の本発明の成体幹細胞もまた胚幹細胞と類似する分化能力、すなわち、内・中・外胚葉由来細胞への分化能力を有しており、実際に中胚葉由来の脂肪細胞、骨細胞及び筋細胞への分化及び外胚葉由来の神経細胞への分化能を実施例6において確認した。
【0055】
さらに他の観点において、本発明は、成体幹細胞を有効成分として含有する体内及び体表面の創傷治療用細胞治療剤に関する。
【0056】
創傷とは、外部からの物理的手段によって破裂された傷害を意味するものであり、特に、皮膚、粘膜、骨組織の破壊、切断または破裂された状態などをいずれも含む。
【0057】
本発明の成体幹細胞を有効成分として含有する創傷治療用細胞治療剤は、臨床投与時に筋肉または静脈注射剤形態の非経口投与だけではなく、直接的に疾患部位に投与することができる。本発明の細胞治療剤は経皮、皮下、静脈または筋肉をはじめとする様々な経路を通じて投与可能である。
【0058】
非経口投与のための製剤には滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤などが含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどが使用可能である。
【0059】
ヒトの場合、細胞治療剤の通常的な投与量は10〜1010cells/body、好ましくは、10〜10cells/bodyであり、1回または数回に分けて投与することができる。
【0060】
しかしながら、活性成分の実際の投与量は治療の対象となる疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、及び疾患の軽重などの各種の関連因子に照らして決定されなければならないものであると理解される必要があり、このため、前記投与量はいかなる方法によっても本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
創傷治癒などの組織修復において、本発明の成体幹細胞が有効に使用可能である。胚幹細胞と類似する特性を保有している本発明の羊膜上皮細胞由来成体幹細胞は内胚葉、中胚葉及び外胚葉への分化能をいずれも有しているため、創傷治癒と組織修復及び交替だけではなく、骨、軟骨、腱、靭帯及び/または神経組織への分化、増殖及び再生が可能であるため有用な細胞治療剤になりうる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業界において通常の知識を持った者にとって自明である。
【0063】
以下の実施例において使用した各種の培地及び試薬の入手先は下記表に示すとおりである。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1:ジチオスレイトール(DTT)及びトリプシン処理による羊膜組織からの羊膜上皮細胞の分離
羊膜は高麗大学病院臨床実験倫理委員会指針書によって高麗大学付属九老病院において正常分娩と早産分娩から収集されて研究用に使用した。実験に必要とされる羊膜組織は胎盤から分離されたものであり、分離された組織は抗生剤が含まれている生理食塩水またはDMEM培地に入れて保管した。
【0066】
羊膜組織を5g定量してHBSSにより洗浄した。羊膜上皮細胞の安定的な分離のために一般的なPBSよりはヒト生体構成成分と一層類似するHBSSバッファに代替して洗浄に使用した。洗浄された羊膜組織を50mLチューブに移して10mMDTTを添加した。30分間DTT処理後、上澄液を捨て、羊膜組織を細切し、細切した羊膜組織を新たな0.05%トリプシン−EDTAにおいて37℃において攪拌しながら42分間トリプシン処理して化学的分解作業を行った。化学的に分解された組織を1分間ボルテックスした後、1mm網目に1次ろ過し、100μm網目で2次ろ過して未分解組織を除去し、1800rpmにて10分間遠心分離した。底面にあるペレットを単一細胞に上手く懸濁させて羊膜上皮細胞を得ることができた。
【0067】
血球計を用いてトリパンブルー染色法により顕微鏡上において目視される生存細胞を計数し、分離直後の細胞数を確認した結果、3.72X10個であった(図1(A))。
【0068】
これに対し、DTTの添加なしにトリプシン処理だけで羊膜組織から羊膜上皮細胞を分離した場合には分離直後の細胞数が9.25X10個であった(図1(B))。
【0069】
要するに、図1に示すように、DTT及びトリプシンを処理して分離した羊膜上皮細胞の数(A)及びこれを培養した後の数(C)は、DTT処理なしにトリプシンだけを処理して分離した羊膜上皮細胞の数(B)及びこれを培養した後の数(D)よりも遥かに高かった。これより、羊膜組織にDTTを処理する場合、過度な細胞破壊を防ぐことができるだけではなく、その後処理するトリプシン効果を妨げる粘液質を除去して羊膜上皮細胞の収率を一層高めることができるということを確認し、初期収率が高くなった分だけこれを培養して得られる成体幹細胞の量も顕著に増加したことを確認した。
【0070】
実施例2:羊膜上皮細胞のROCK阻害剤存在下における培養
2−1:羊膜上皮細胞の培養
前記得られた羊膜上皮細胞を、DMEM(dulbecco modified eagle medium)及びF−12(nutrient mixture)が1:1にて混合された培地(Gibco社製)に表2に示す濃度のFBS、アスコルビン酸、上皮成長因子、インシュリン、抗生剤及び10μMのROCK阻害剤Y−27632を添加して培養した。
【0071】
【表2】

【0072】
3日後、培養された羊膜上皮細胞由来成体幹細胞をHBSSバッファにより洗浄した後、トリプルエクスプレス(Gibco社製)または0.25%トリプシン−EDTAを入れて37℃において10分間反応させた。FBS含有培地を入れてトリプシンを不活性化させた後、得られた羊膜上皮細胞由来幹細胞5×10個を新たな培地に接種して継代培養した。継代培養に際し、再接種する度にそれぞれの新たな培地に10μMのROCK阻害剤を添加した。
【0073】
前記過程による羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の培養の結果、図2に示すように、ROCK阻害剤の投与前には成体幹細胞数が減少したが、羊膜上皮細胞分離後4日目にROCK阻害剤を投与して培養した結果、成体幹細胞数が急激に増加することが分かる。
【0074】
2−2:ROCK阻害剤濃度別の幹細胞増殖能の比較
ROCK阻害剤の濃度による羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖能を確認するために、実施例1において得られた羊膜上皮細胞をFBS、アスコルビン酸、上皮成長因子、インシュリン及び抗生剤を添加したDMEM/F−12培地にROCK阻害剤Y−27632をそれぞれ100μM、10μM、1μM、100nM及び10nMにて添加して成体幹細胞を継代培養した。継代培養1日後及び4日後をそれぞれ確認して成体幹細胞の培養に最適化されたROCK阻害剤Y−27632の濃度を確認した。
【0075】
その結果、図3及び図4に示すように、10nM濃度のROCK阻害剤を処理した場合には、ROCK阻害剤を処理しなかった対照群と増殖の度合いの面において大差なく、100μMにおいては細胞の増殖が顕著に向上されることは確認されたものの、細胞変形が起きたり分化されたりする現象が現れた。このため、ROCK阻害剤の好適な濃度は10nM以上100μM以下であり、最適な濃度は約10μMであることが確認された。
【0076】
比較例1:ROCK阻害剤の添加による幹細胞増殖能の促進効果
ROCK阻害剤の効果を調べるために、実施例1において得られた羊膜上皮細胞を4x10個入れ、DMEM/F−12培地にFBS、アスコルビン酸、上皮成長因子、インシュリン及び抗生剤を添加して4日間継代培養した後、10μMのROCK阻害剤Y−27632を添加した培地及び添加しなかった培地にそれぞれ接種して1日、2日及び3日後に確認した。
【0077】
その結果、図5に示すように、得られた羊膜上皮細胞をROCK阻害剤なしに培養した場合にはアポトーシスにより成体幹細胞の増殖が極めて遅かったが、ROCK阻害剤を入れて培養した場合には羊膜上皮細胞のアポトーシスが抑制されながら成体幹細胞の増殖が顕著に増加することを確認することができた。
【0078】
継代培養時に通常的に使用するトリプシン処理はトリプシンによる毒性に起因して培養効率が低下するという問題点があったが、ROCK阻害剤を添加することによりトリプシン処理によるアポトーシスを防ぎ、且つ、分化を抑えることにより成体幹細胞の増殖を活性化させる一方、未分化成体幹細胞の安定的な増殖の一助となることを確認することができた。
【0079】
実施例3:ROCK阻害剤の添加時期による幹細胞増殖能の比較
実施例1において得られた羊膜上皮細胞の増殖能を一層向上させるために、胚幹細胞研究(Watanabe et al., Nature Biotechnology, 25:681, 2007)において使用した方法と培養時にROCK阻害剤を添加する方法とを比較した。すなわち、再接種前にのみ10μMのROCK阻害剤を処理して培養した場合と、再接種後にもROCK阻害剤を添加して培養した場合を比較した。
【0080】
その結果、図6に示すように、再接種前にのみROCK阻害剤を処理した場合(A)にはROCK阻害剤を使用しない対照群に比べて羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖能が明らかに増加した。一方、再接種培養過程において持続的にROCK阻害剤を処理した場合(B)には再接種前にのみROCK阻害剤を処理した場合(A)に比べて成体幹細胞の増殖能に一層優れているということを確認することができた。すなわち、再接種後の培養時にもROCK阻害剤を添加し続けて培養した場合(B)に羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖能が最も顕著に増加した。
【0081】
実施例4:羊膜上皮細胞培養時における培地交替による幹細胞増殖能の増加
実施例1において得られた羊膜上皮細胞を、DMEM培地及びK−SFM培地において3日、6日及び8日間それぞれ培養した。
【0082】
DMEM培地にはFBS、上皮成長因子、アスコルビン酸、非必須アミノ酸及び抗生剤を添加し、K−SFM培地にはFBS、上皮成長因子、アスコルビン酸、ヒドロコルチゾン、NAC、インシュリン及び抗生剤を添加した。その結果、図7に示すように、羊膜上皮細胞由来成体幹細胞がK−SFM培地よりもDMEM培地の方において一層高い増殖能を示すことを確認した。
【0083】
一方、羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の量産のために多様な実験を行った結果、図8に示すように、1次継代培養時にDMEM培地からK−SFM培地に置き換えた方が羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖を向上させることを確認することができた。さらに、4日間前記成体幹細胞をDMEM培地において培養して確認した結果、ほとんど同様の速度にて幹細胞が増殖し、1次継代培養を行った4日目にDMEM培地からK−SFM培地に交替して2日間培養後に確認した結果、培地の交替なしでDMEM培地においてのみ培養した成体幹細胞に比べて、K−SFM培地に交替した場合の成体幹細胞の方が一層高い増殖能を示していた。
【0084】
実施例5:羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の特性
5−1:表面抗原発現のフローサイトメトリー分析
実施例2において培養された羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を表面CDシリーズ抗原マーカーにより特徴付けした。CD9(上皮細胞、アドヘシン;Epithelial cell, adhesion)、CD29(単核球マーカー;mononuclear cell marker)、CD31(上皮細胞及び幹細胞マーカー;endothelial cell and stem cell marker)、CD34(造血幹細胞マーカー;hematopoietic stem cell marker)、CD45(PTPR, ASV, 白血球マーカー ;PTPR, ASV, Leukocyte marker)、CD49f(インテグリンα6マーカー;Integrin alpha 6 marker)、CD73、CD90(単核球幹細胞マーカー;mononuclear stem cell marker)、CD105(TGFβマーカー;TGF beta 1 marker)、CD133(造血幹細胞マーカー;hematopoietic stem marker)をFACS分析に適用した。
【0085】
実施例2において得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞をPBSにより洗浄し、トリプシン処理した後に細胞を回収して5分間1500rpmにて遠心分離した。上澄液を捨てた後、ブロッキングバッファ溶液(5%血清(正常ヤギ血清+正常馬血清)を入れて4℃において60分間反応させた後、1500rpmにて5分間遠心分離した。上澄液を捨てた後、細胞をPBSに浮遊させて陰性対照群及びCD抗原マーカー数に見合う分だけ1x10cellを分注した。各ウェルに抗体(R-phycoerythrin (PE)/FITC (fluorescein isothiocyanate)-conjugated mouse anti-human monoclonal antibody)を入れ、4℃において40分間インキュベーションした。インキュベーション後に1500rpmにて3分間遠心分離した。上澄液を除去した後にPBSにより洗浄し、1500rpmにて3分間遠心分離した。そして、前記上澄液の除去後にPBSによりさらに洗浄し、1500rpmにて3分間遠心分離する過程を繰り返し行った。上澄液を除去した後にフローサイトメトリー分析器(フローサイトメーター)を用いて分析した。
【0086】
細胞をFITC(fluorescein isothiocyanate)結合抗ヒトCD9(Becton-Dickinson)、CD34(Becton-Dickinson)、CD45(Becton-Dickinson)、CD105(Becton-Dickinson)及びPE(phycoerythrin)結合抗ヒトCD29(Becton-Dickinson)、CD31(Becton-Dickinson)、CD49f(Becton-Dickinson)、CD73(Becton-Dickinson)、CD90(Becton-Dickinson)、CD133(Miltenyibiotec)により染色した。特異性を調べるために、未染色対照群として複製サンプルを使用した。
【0087】
その結果、図9及び図10に示すように、羊膜上皮細胞由来成体幹細胞はCD9、CD29、CD49f、CD73、CD90及びCD105に対して陽性の免疫学的特性を示し、CD31、CD34、CD45及びCD133に対して陰性の免疫学的特性を示した。
【0088】
5−2:羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の幹細胞能
実施例2において得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞をPBSにより3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBSにより室温において30分間固定した。PBSにより3回(3分/回)洗浄した後、0.1%トリトン−X100を含有するPBSにより室温において10分間浸透した。PBSにより3回(3分/回)洗浄した後、ブロッキングバッファ(2.5%血清溶液、NSG+NHS)により室温において30分間反応させ、一次抗体を含有するPBSに室温において1時間かけて反応させた。PBSにより3回(5分/回)洗浄し、2次抗体により室温において30分間反応させた(暗室条件)。PBSにより3回洗浄した後にマウントした。このようにして得られた細胞に対して、SSEA4、Oct−4、Tra−1−60、Tra−1−81、サイトケラチン及びE−カドヘリンに対する特異性を調べてみた。
【0089】
その結果、図11に示すように、本発明に係る成体幹細胞は未分化状態の細胞マーカー、すなわち、幹細胞マーカーと言えるSSEA4、Oct−4、Tra−1−60及びTra−1−81に対して陽性反応を示し、上皮細胞マーカーといえるサイトケラチン及びE−カドヘリンに対しても陽性反応を示した。
【0090】
5−3:羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の形態学的特性
実施例2において得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を培養中の培養器から取り出してZeiss Axiovert 200蛍光顕微鏡を用いて100倍の倍率にて観察し、装着されているAxioCam MRm CCDを用いて撮影した。提供されたAxioVision ver.4.5プログラムを用いて細胞の直径を測定し、写真から細胞のサイズ及び核、細胞質のサイズを確認することにより羊膜上皮細胞由来幹細胞の形態を確認した。
【0091】
その結果、図12に示すように、本発明に係る成体幹細胞は直方体状またはサイコロ状のやや円形の典型的な上皮細胞の形状を維持し、培養時における細胞のサイズ(直径)は約5〜10μm程度であった。
【0092】
実施例6:羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の分化
6−1:脂肪細胞への分化
実施例2において得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を脂肪細胞分化誘導培地(Nonhematopoietic AdipoDiff Medium, Miltenyi Biotec)において3週間培養(37℃、5%CO、培地交換周期:3〜4日)して多能性幹細胞の脂肪細胞への分化を誘導し、培養開始後21日(3週)時にオイルレッドO染色法を用いて分析した。その結果、本発明に係る羊膜上皮細胞由来成体幹細胞が脂肪細胞に分化されたことを確認することができた(図13)。
【0093】
6−2:骨形成細胞への分化
実施例2において得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を骨形成誘導培地(nonhematopoietic osteoDiff medium, Miltenyi Biotec)において2週間培養(37℃、5%CO、培地交換周期:3〜4日)して多能性幹細胞の骨細胞への分化を誘導した。培養開始後14日(2週)時にアリザリンレッドS染色法を用いて羊膜上皮細胞由来成体幹細胞が骨形成細胞に分化されたことを確認した(図13)。
【0094】
6−3:筋肉細胞への分化
実施例2において得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を筋肉細胞分化培地(Skeletal Muscle Cell Medium、LONZA)を用いて3週間培養(37℃、5%CO、培地交換周期:3〜4日)した後、培養開始後21日(3週)時に免疫染色を実施した。
【0095】
その結果、本発明に係る羊膜上皮細胞由来成体幹細胞は筋肉細胞の特異抗原であるミオシンに対して陽性反応を示した。この結果から、本発明に係る羊膜上皮細胞由来成体幹細胞が筋肉細胞に分化されたことを確認することができた(図13)。
【0096】
6−4:神経細胞への分化
実施例2において得られた羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を神経細胞分化誘導培地(Neural Progenitor Media Systems、LONZA)において2週間培養(37℃、5%CO、培地交換周期:3〜4日)しながら神経細胞への分化を誘導した。培養開始後14日(2週)時に免疫染色を実施した。
【0097】
その結果、図14に示すように、本発明に係る羊膜上皮細胞由来成体幹細胞は神経系星状細胞の特異抗原であるGFAP(glial fibrillary acidic protein)、O1(oligodendrocyte marker)及びMAP2(microtubule associated protein)に対して陽性反応を示した。この結果から、本発明に係る羊膜上皮細胞由来成体幹細胞が神経細胞に分化されたことを確認することができた。その結果、図14に示すように、本発明に係る羊膜上皮細胞由来成体幹細胞は神経系星状細胞の特異抗原であるGFAP(glial fibrillary acidic protein)、O1(oligodendrocyte marker)及びMAP2(microtubule associated protein)に対して陽性反応を示した。この結果から、本発明に係る羊膜上皮細胞由来成体幹細胞が神経細胞に分化されたことを確認することができた。
【0098】
実施例7:創傷治癒効能評価
無胸腺ヌードマウス創傷モデルを用いて羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を皮内投与した後に創傷治癒能力を食塩水対照群と比較した。実験動物としては4、5週齢の雄性Bald/c-nu Slc((株)中央実験動物、韓国)無胸腺ヌードマウスを使用し、表3に示すように試験群を構成した。
【0099】
【表3】

【0100】
試験群を前記表3に示すように区分した後、飼育箱には個体識別カードを付着し、飼育箱別に1匹ずつ個別飼育して個体を識別した。試験物質は試験開始30分前にクリーンベンチ中においてそれぞれ生理食塩水50μL、2×10cells AEpSC50μLずつ29Gインシュリン注射器に準備した。
【0101】
手術1時間前に各試験動物の体重を測定し、抗生剤を投与して麻酔し、次いで、実験動物の背側中央部位をアルコール綿により消毒した後、直径5mmバイオプシーパンチを用いて全層創傷を誘発した。創傷を誘発した後に直ちに準備された試験物質を創傷近くの皮内部位に3箇所に分けて合計50μLを注入した。注入位置としては、創傷面を通じての試験物質の損失を最小化させるために創傷の周縁から約1cm程度離れた個所を選択した。
【0102】
創傷治療効果を確認するために毎日1回以上動物の状態を調査し、手術直後、3日、6日、7日、9日及び14日に創傷部位を写真撮影してその結果を示した(図15)。図15は、創傷のサイズと同じサイズの環状ろ過紙を創傷の隣に置いて一緒に撮影して参照ピクセル領域として活用して作成した。
【0103】
その結果、図15に示すように、羊膜上皮幹細胞を投与した群の創傷修復速度が食塩水を投与した群よりも速いことを確認することができた。
【0104】
さらに、創傷誘発部がいずれも修復された時点である施術後21日目に実験動物を剖検して皮膚組織検査を実施した。創傷誘発後に修復された皮膚を各群別に組織検査した結果、図16に示すように、対照群皮膚の場合、繊維性組織団塊だけが存在するのに対し、羊膜上皮幹細胞投与群においては修復された皮膚組織に毛包及び汗腺などの皮膚付属器が多量観察されることを確認することができた。
【0105】
これらの事実からみて、本発明に係る羊膜上皮幹細胞は皮膚組織の再上皮化を促進するだけではなく、皮膚付属器の再生の一助となる役割を果たすことを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上詳述したように、本発明に係るヒト羊膜上皮細胞由来幹細胞は、既存の臍帯血、骨髄などの治療用幹細胞よりも採取し易く、DTT処理による初期収率向上及びROCK阻害剤添加培地における培養により増殖率を格段に増加することにより細胞治療剤として用いて好適な成体幹細胞を効率的に製造する上で有用である。
【0107】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を持った者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定義されると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト羊膜組織をジチオスレイトール(DTT)により処理するステップと、前記DTT処理されたヒト羊膜組織を0.025〜0.125%のトリプシンにより処理するステップと、を含む、羊膜上皮細胞の分離方法。
【請求項2】
前記トリプシン処理されたヒト羊膜組織をボルテックス処理するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記ジチオスレイトール(DTT)の濃度は5〜50mMであることを特徴とする請求項1に記載の分離方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法により分離されたヒト羊膜上皮細胞をROCK阻害剤(Rho−associated kinase inhibitor)含有培地において培養するステップと、前記培養液から幹細胞を回収するステップと、を含む、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により製造されたヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を、ROCK阻害剤含有培地において継代培養することを特徴とする、ヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞の増殖及び維持方法。
【請求項6】
前記ROCK阻害剤の濃度は10nM〜100μMであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ROCK阻害剤は下記の化学式2で表わされる化合物であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の方法:
【化1】

【請求項8】
前記培地はDMEM(dulbecco modified eagle medium)又はK−SFM(keratinocyte serum free medium)培地であることを特徴とするとする請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記培地は、生体幹細胞の1次継代培養において、DMEM培地からK−SFM培地へ置き換えることを特徴とするとする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記培地はDMEM及びF−12を1:1にて混合して構成することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記培地はアスコルビン酸、上皮成長因子、インシュリン、抗生剤及びFBS(Fetal bovine serum)をさらに合有することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記継代培養時にヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞を培地に移して再接種する場合、ROCK阻害剤を添加することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項13】
請求項4に記載の方法により製造され、以下の特性を有するヒト羊膜上皮細胞由来成体幹細胞:
(a)円形、直方体状の形態学的特徴を現す;
(b)CD9、CD29、CD49f、CD73、CD90、及びCD105に対して陽性の免疫学的特性を示し、CD31、CD34、CD45及びCD133に対して陰性の免疫学的特性を有する;
(c)SSEA4、Oct−4、Tra−1−60及びTra−1−81が発現される;及び
(d)サイトケラチン及びE−カドヘリンが発現される。
【請求項14】
請求項13に記載のヒト羊膜上皮組織由来成体幹細胞を有効成分として含有する創傷治療用細胞治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−537663(P2010−537663A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523925(P2010−523925)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/KR2008/000172
【国際公開番号】WO2009/061024
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(508033465)アールエヌエル バイオ カンパニー リミテッド (12)
【Fターム(参考)】