説明

ヒト肝臓がん細胞HepG2に特異的な結合性を有するDNAアプタマー

【課題】ヒト肝臓がん細胞HepG2に特異的な結合性を示すDNAアプタマーの提供を目的とする。
【解決手段】ヒト肝臓がん細胞HepG2に対して、特異的な結合性を有するDNAアプタマーは、配列番号1〜12のいずれかで表される塩基配列を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト肝臓がん細胞HepG2に特異的な結合性を有するDNAアプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ターゲット(化学物質、タンパク質や細胞など)に結合する核酸リガンド(アプタマー)の選別と、PCRによる指数関数的な増幅をシステマテックに複数回繰り返すことにより,ターゲットに親和性をもつ核酸分子(一本鎖DNA;single strand DNA、以下、ssDNAと称する)を得るSELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment) 法が開発され、これまでに白血球がん細胞や肺がん細胞に対するDNAアプタマーが非特許文献1〜3に示されているもののヒト肝臓がん細胞に適用できるものではなく、その塩基配列も大きく相違すると推定された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sefah, K.; Tang, Z.; Shangguan, D.; Chen, H.; Lopez-Colon, D.; Li, Y.; Parekh, P.; Martin, J.; Meng, L.; Phillips, J. A.; Kim, Y. M.; Tan, W. Molecular Recognition of Acute Myeloid Leukemia Using Aptamers. Leukemia 2009, 23,235-244.
【非特許文献2】Chen, H.; Medley, C.; Sefah, K.; Shangguan, D.; Tang, Z.; Meng, L.; Smith, J.; Tan, W. Molecular Recognition of Small-Cell Lung Cancer Cells Using Aptamers. ChemMedChem. 2008, 3, 991-1001.
【非特許文献3】Tang, Z.; Shangguan, D.; Wang, K.; Shi, H.; Sefah, K.; Mallikratchy, P.; Chen, H.; Li, Y.; Tan, W. Selection of Aptamers for Molecular Recognition and Characterization of Cancer Cells. Anal. Chem. 2007, 79, 4900-4907.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ヒト肝臓がん細胞HepG2に特異的な結合性を示すDNAアプタマーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るヒト肝臓がん細胞HepG2に対して、特異的な結合性を有するDNAアプタマーは、下記配列番号1〜12のいずれかで表される塩基配列を有することを特徴とする。
なお、塩基配列は、5’末端から3’末端方向に左から右へ記載する。
<配列番号1>:アプタマーA―1
cagctcagaagcttgatcctgtgtaactcaataagctaggtgggtgggggacactacccgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号2>:アプタマーA―2
cagctcagaagcttgatcctgtgtaactcaataagctaggtgggtgggggacactgcccgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号3>:アプタマーA―3
cagctcagaagcttgatcctgtgcaactcaataagctaggtgggtgggggacactacccgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号4>:アプタマーA―4
cagctcagaagcttgatcctgtgcaactcaataagctaggtgggtgggggacactgcccgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号5>:アプタマーB―1
cagctcagaagcttgatcctgtgtaactcaataagctaggtgggtgggggacactatccgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号6>:アプタマーB―2
cagctcagaagcttgatcctgtgtaactcaataagctaggtgggtgggggacactactcgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号7>:アプタマーB―3
cagctcagaagcttgatcctgtgcaactcaataagctaggtgggtgggggacactactcgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号8>:アプタマーB―4
cagctcagaagcttgatcctgtgtaactcagtaagctaggtgggtgggggacactatccgggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号9>:アプタマーC―1
cagctcagaagcttgatcctgtgtaactcaataggctaggtgggtgggggacactaccagggggtggttgggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号10>:アプタマーD―1
cagctcagaagcttgatcctgtgcgatggcggtgggtgggggacaaatttggggggcgttgggtgtttgtggtcagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号11>:アプタマーE―1
cagctcagaagcttgatcctgtgggtggtggggagggggttgctgggtcgcgactaggaaactcatgcggtaacagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号12>:アプタマーF―1
cagctcagaagcttgatcctgtgttccgcaatggccctcgattactgtccctaccacatgagtttcccacatccagctcagaagcttgatcctgtg
【0006】
これらの塩基配列を有するDNAアプタマーのうち、図6に示すように、最も出現頻度が高いものはアプタマーA―1であり、これに対して1つ又は2つの塩基が置換されてもヒト肝臓がん細胞HepG2に特異的な結合性を示すもの(グループ1:配列番号1〜9)の他に部分的に他の塩基配列に置換されても同様にヒト肝臓がん細胞HepG2に特異的な結合性を示すもの(グループ2:配列番号10〜12)が有していることが分かる。
(図6の表にて、グループ1中、□で囲んだ塩基がアプタマーA―1と異なる塩基を示す。)
【0007】
そこで詳細は後述するが、ソフトウエアmfoldにより二次元構造を推定した結果、下記の6つのグループに分かれることが明らかになった。
<構造Aを示すグループ(配列番号1〜4)>
<構造A>

<構造Bを示すグループ(配列番号5〜8)>
<構造B>

<構造Cを示すグループ(配列番号9)>
<構造C>

<構造Dを示すグループ(配列番号10)>
<構造D>

<構造Eを示すグループ(配列番号11)>
<構造E>

<構造Fを示すグループ(配列番号12)>
<構造F>

【0008】
よって、本発明に係るDNAアプタマーは、構造A〜Fのいずれかに属する範囲において塩基配列の一部が他の塩基に置換されてもよい。
また、本発明には、これらの塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するDNAアプタマーも含まれる。
【0009】
本発明に係るヒト肝臓がん細胞に対して特異的な結合性を有するDNAアプタマーは、下記に示した配列番号13の塩基配列を含む第1プライマー領域と配列番号14の塩基配列を含む第2プライマー領域の間に4つの塩基のランダム配列領域Nを有するssDNAライブラリーに対して、ヒト肝臓由来がん細胞HepG2を用いたCell SELEX法にて得ることができる。
<配列番号13>:第1プライマー
cagctcagaagcttgatcctgtg
<配列番号14>:第2プライマー
gactcgaagtcgtgcatctgca
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るDNAアプタマーは、ヒト肝臓がん細胞に特異的に結合することから、蛍光標識等を施すことによりがんマーカーとして用いたり、ドラッグデリバリーシステムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1段階(1〜7round)のDNAアプタマーの選抜の流れを示す。
【図2】第2段階(8〜11round)のDNAアプタマーの選抜の流れを示す。
【図3】増幅したdsDNAからssDNAを回収する流れを示す。
【図4】初期ssDNA(0R)と11RoundのCell SELEX終了後(11R)の蛍光顕微鏡観察比較した例を示す。
【図5】3〜11Round後の各ssDNAにHepG2を添加して、回収した細胞の蛍光強度測定結果を示す。
【図6】本発明に係る配列番号1〜12のグループ分け表を示す。
【図7】本発明に係るDNAアプタマーの6つの構造を示す。
【図8】ヒト肝臓由来の正常細胞に対するDNAアプタマーの結合試験結果を示す。
【図9】ヒト肝臓由来のがん細胞HepG2に対するDNAアプタマーの結合試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るDNAアプタマーを選抜するための母集団となるssDNAライブラリーとして、両端に23bp,22bpの第1プライマー領域と第2プライマー領域をもち、このプライマー領域の間に50bpのランダム領域をもつ95bpのオリゴDNA(N50-ssDNA;5'-cagctcagaagcttgatcctgtg-N50-gactcgaagtcgtgcatctgca-3'、* N50は4種類(A・T・C・G)の混合塩基による50merのランダムな塩基配列)を用いた。
ターゲットとなるがん細胞としては、ヒト肝臓由来がん細胞HepG2(RIKEN Cell Bank・RCB1648)を用い、カウンタースクリーニングには、ヒト肝臓由来正常細胞(大日本住友製薬・CS-ABI-3716)を用いた。
【0013】
目的とするssDNAの選抜の流れを図1に示す第1段階(1〜7round)と図2に示す第2段階(8〜11round)に分けて実施した。
その操作ステップについて以下説明する。
1)ssDNAの増幅
1−1);PCRによるdsDNAとしての増幅
下記4)のステップで回収されたssDNAを鋳型にして、以下のプライマーとrTaq DNAポリメラーゼ(TOYOBO・TAP-201)を用いてPCR(TAKARA・PCR Thermal Cycler DiceR Gradient)によりdsDNAを複製した。
Forward primer:5'-FITC-cagctcagaagcttgatcctgtg-3'
Reverse primer:5'-Biotin-tgcagatgcacgacttcgagtc-3'
1−2);増幅したdsDNAからのssDNAの回収
上記のステップで得られたdsDNAを、図3に示すように、アビジン修飾セファロースビーズ充填カラム(Streptavidin HP SpinTrap 16カラム,GE healthcare・28-9031-30)にアプライし、ビーズ表面にdsDNAを固定化しその後、NaOH水溶液を加えdsDNA間の水素結合を切断しビオチン修飾されていない側のssDNAを分離溶出、回収した。
2)がん細胞へのssDNAの添加・結合
上記、1)で得られたssDNA溶液(400nM、500μl)を、コラーゲンタイプ1コートdish 35mm(IWAKI・4020-010)に培養したHepG2細胞に対して添加し37℃で45min反応させた。
3)がん細胞に未結合のssDNAの洗浄・除去
上記、2)の反応後、培地を除去し、ウシ血清アルブミン(BSA)とウシ胎児血清(FBS)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でコラーゲンコートdishに培養したHepG2細胞を洗浄した。
4)がん細胞に結合したssDNAの分離・回収
上記、3)の洗浄後、細胞剥離剤NO−ZYME (SAFC biosciences)を用いて細胞を回収した。ここで結合したssDNAを細胞から遊離させるため、95℃で10min heat shockを行なった。
0.45 mmフィルターおよび0.25mmフィルターで細胞と遊離したssDNAを分離し、ssDNAを回収した。
以上の1)〜4)の手順を1Roundとして、11Round繰り返したが、8〜11roundについては、上記1)と2)の操作の間に、図2に示すように、下記の操作a)およびb)を追加した作業を行なった。
a) 正常細胞へのssDNAの添加・結合
1)で得られたssDNA溶液(400nM、500μl)を、コラーゲンコートdishに培養した正常細胞に対して添加し37℃で45min 反応させる。
b) 正常細胞に未結合のssDNAの回収
a)の反応後、培地を除去し、BSAとFBSを含むPBSでコラーゲンコートdishに培養したHepG2細胞を洗浄する。
洗浄液中のssDNAをエタノール沈殿により回収した。
5)がん細胞に結合したssDNAの単離・解析
11Round終了後、得られたssDNAをMighty TA-cloning Kit(TAKARA・6028)を用いてTAクローニングし、シーケンシングを行った。
【0014】
<実験結果>
初期ssDNAライブラリーと、11RoundのCell SELEX終了後に得られたssDNAとを、それぞれHepG2細胞に添加し、洗浄後、蛍光顕微鏡観察を行なった。
図4に示すように、11RoundのCell SELEX終了後に得られたssDNAは、HepG2細胞への顕著な結合が観察された。
初期ssDNAライブラリーと、3〜11RoundのCell SELEX終了後に得られたssDNAとを、それぞれHepG2細胞に添加し、洗浄後、細胞を回収しサイトメーターで計測を行なった。
図5に示すように、round数の上昇とともにヒストグラムは蛍光強度の高い方へ移動し、11Roundで飽和していることが確認できた。
11RoundのCell SELEX終了後、得られたssDNAをTAクローニングにより単離し、45コロニーについてシーケンシングを行なった。
その結果、図6のように、得られたDNAアプタマーの塩基配列は12種類であることが分かった。
12種類のうち9種類までは、最も出現頻度の高かった配列(図6A−1)に対して、1もしくは2塩基の違いしかない相同性の高いものであった。
また、これらの12種類を、DNAアプタマーとしてとりうる構造でカテゴリー分けることとした。
この際、mfold(http://frontend.bioinfo.rpi.edu/applications/mfold/cgi-bin/dna-form1.cgi)というWeb上のソフトウエアにより、二次元構造を推定した。
二次元構造の推定の際には、以下17個のパラメータを入力した。
1.DNA sequence:図6の塩基配列
2.The DNA sequence is linear or circular:linearを選んだ
3.Folding temperature:37℃と入力した
4.Ionic conditions: Na+137mM,Mg+0.5mMと入力した
5.Enter the percent suboptimality number.:5と入力した
6.Enter an upper bound on the number of computed foldings.:50と入力した
7.Enter the window parameter if you wish.:defaultを選んだ
8.Enter the maximum distance between paired bases if you wish.: no limitを選んだ
9.Choose image width for png & jpg files:Largeを選んだ
10.Choose structure format:automaticを選んだ
11.Grid lines in energy dot plot: onを選んだ
12.Choose structure draw mode: Natural anglesを選んだ
13.Choose base numbering frequency:defaultと入力した
14.Choose sequence numbering offset:0と入力した
15.Choose regularization angle(in degrees):0と入力した
16.Choose structure rotation angle(in degrees):autoと入力した
17.Choose structure annotation:p-numを選んだ
これにより、図6の塩基配列は、図7に示すA−Fまでの6種類の二次元構造にカテゴリー分けされることが判った。
【0015】
次に、2次元構造A〜Eにおいて、各カテゴリーから1種類のDNAアプタマーを選び、正常細胞及びHepG2細胞に対する結合試験を実施した。
ヒト肝臓由来の正常細胞に対するDNAアプタマーの結合試験結果を図8に示し、
ヒト肝臓由来のがん細胞HepG2に対するDNAアプタマーの結合試験結果を図9に示す。
これらの蛍光強度分布を比較すると、いずれのDNAアプタマーも、正常細胞に対しては、0Roundの初期ssDNAライブラリーと同程度の低い結合性であった。
それに比較し、HepG2細胞に対しては、11RoundのCell SELEX終了後に得られたssDNAと同程度の高い結合性を示すことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト肝臓がん細胞HepG2に対して特異的な結合性を有する、配列番号1〜12のいずれかで表される塩基配列からなるDNAアプタマー。
【請求項2】
配列番号1〜12のいずれかで表される塩基配列のうち、1つ又は2つの塩基が置換されたものである請求項1記載のDNAアプタマー。
【請求項3】
配列番号1〜12のいずれかで表される塩基配列のうち、部分的に塩基配列が相違するが、当該DNAアプタマーの二次元構造が下記A〜Fのいずれかにて表される請求項1記載のDNAアプタマー。
<構造A>

<構造B>

<構造C>

<構造D>

<構造E>

<構造F>

【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの塩基配列部分を有するヒト肝臓がん細胞HepG2に対して特異的な結合性を有するDNAアプタマー。
【請求項5】
配列番号13の塩基配列を含む第1プライマー領域と配列番号14の塩基配列を含む第2プライマー領域の間にランダム配列領域Nを有するssDNAライブラリーに対して、ヒト肝臓由来がん細胞HepG2を用いたCell SELEX法にて選抜された、ヒト肝臓がん細胞HepG2に対して特異的な結合性を有するDNAアプタマー。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−160738(P2011−160738A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28012(P2010−28012)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】