説明

ヒト造血細胞の培養方法

【課題】移植の際に安全性が高いヒト造血幹細胞を簡単かつ適時に増幅することができるヒト造血幹細胞の増幅培養方法の提供
【解決手段】 臍帯血からヒト造血細胞を取得し、当該ヒト造血細胞を取得した臍帯血を用いてストローマ細胞を生成し、取得したヒト造血細胞を生成したストローマ細胞の共存下で培養する。これにより、移植が必要なときに臍帯血からプライマリ・ストローマ細胞を容易に得ることができる。よって、プライマリ・ストローマ細胞を用いて増幅したヒト造血細胞を用いた移植では、安全性が担保される。また、現在、移植に必要とされるヒト造血細胞が少ないために破棄されている臍帯血であっても、当該臍帯血から容易にヒト造血細胞を増幅することができる。これにより、現在破棄されている臍帯血を、臍帯血バンクにおけるコレクションとして利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト造血細胞を培養する方法に関し、特にヒト造血細胞と同種同系から取得した血液由来のストローマ細胞を用いて、ヒト造血細胞を増幅培養するものに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、急性白血病をはじめとする腫瘍性血液疾患や、重症免疫不全、アデノシンデアミナーゼ欠損症、再生不良性貧血等の難治性血液疾患に対し、骨髄移植治療が施されている。骨髄移植治療では、一生涯にわたり各種血球細胞を産生する造血幹細胞を提供者(ドナー)から取得し、取得した造血幹細胞を受容者(レシピエント)の骨髄に定着させる。この骨髄移植治療では、大量の骨髄細胞をドナーから取得する必要があるため、ドナーの心身への負担が大きいという問題がある。また、骨髄移植治療においては、ドナー由来のT細胞の混入による急性移植片対宿主病(GVHD)の発症や、自己移植の際のがん細胞の混入による再発という問題もある。
【0003】
このような状況の中、最近になって、臍帯血が骨髄と同程度の造血幹細胞を含むことが明らかにされ、移植治療に有用であることが明らかにされた。臍帯血を用いた造血幹細胞の移植治療では、骨髄や末梢血と比べて重症のGVHDの発生率が低いという利点がある。しかし、臍帯血を用いた造血幹細胞の移植治療には、臍帯から取得できる臍帯血の採取量が少ないという問題がある。このため、1個体に由来する臍帯血では体重40kg程度までのレシピエントに移植可能とされている。
【0004】
そこで、取得した臍帯血に含まれる造血幹細胞を効率的に増幅培養する試みが行われている。
【0005】
このような造血幹細胞の増幅培養方法の一つに、胎盤組織および臍帯組織由来のストローマ細胞を、造血幹細胞を含むヒトCD34陽性細胞の増幅培養に応用する造血幹細胞の培養方法(以下、組織由来増幅培養方法とする。)がある。組織由来増幅培養方法は、以下のように行われる。
【0006】
1.ヒト胎盤からの造血ストローマ細胞の分離回収
臍帯血採取後の胎盤から臍帯と羊膜を除去した後、母体側からハサミで組織を採取し、血液を可及的に取り除く。このようにして1個の胎盤より200g〜300gの胎盤の組織切片を採取する。そして、これら組織切片を、培養皿に張り付け、所定の条件で10日〜14日培養した後、回収する。
【0007】
2.ヒト臍帯血からのCD34陽性細胞の採取及び調製
採取したヒト臍帯血から単核細胞を回収する。回収した臍帯血単核細胞からCD34陽性細胞を分画する。
【0008】
3.臍帯血CD34陽性細胞と胎盤由来造血ストローマ細胞との共培養
回収した組織切片と分画して得られた臍帯血由来のCD34陽性細胞とを、所定のサイトカインの存在下、所定条件で、10日間、共培養する。なお、共培養の際に用いる組織切片は、ヒト胎盤由来の造血ストローマ細胞として機能する。
【0009】
このような組織由来増幅培養方法により、ヒトCD34陽性幹細胞を簡便にしかも安全に増幅することが可能となる。よって、少量の臍帯血であっても、任意の成人患者に移植できる上に、数回にわたる継続投与が可能となる。
【0010】
また、臍帯血を一度採取しておけば必要なときに必要な量だけ造血幹細胞を供給することが可能となる。
【0011】
さらに、骨髄移植においても大量の骨髄細胞を必要としない。よって、骨髄の採取に伴うドナーの心身への負担を低減することができる。
【0012】
さらに、出産に伴って世界中で廃棄されている臍帯血を有効に活用することができる。現在、廃棄されている臍帯血を保有することによって、幅の広い移植抗原を有する造血幹細胞を保有することが可能となり、結果的に、移植抗原の適合する移植が可能となる。よって、重症のGVHDが発症するリスクを低減することが可能となる。
【0013】
さらに、臍帯血由来の造血幹細胞を増幅する際に、同一の胎盤から単離したヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen、HLA)が適合したストローマ細胞を用いれば、造血幹細胞の増幅後もストローマ細胞を分離する必要がなく、極めて容易に増幅した細胞を採取することができ、増幅させた細胞を、直接、輸注することができる。
【0014】
【特許文献1】特開平2004−222502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の組織由来増幅培養方法には、次のような問題点がある。組織由来増幅培養方法では、胎盤から組織切片を取得し、造血幹細胞に対するストローマ細胞として、造血幹細胞と共培養している。一方、造血幹細胞は、臍帯から取得している。つまり、造血幹細胞を取得する臍帯とは異なる組織である胎盤を必ず必要とする。このため、取得した胎盤を保存しなければならないという問題がある。
【0016】
また、胎盤自体を保存せずに胎盤から取得したストローマ細胞を保存するとしても、当該ストローマ細胞をセル・ライン化(株化)しなければならないという問題がある。セルライン化に際しては新たに遺伝子を導入等する必要があることから、遺伝子の選択や導入する遺伝子が幹細胞の増幅能や造血能等に与える影響を考えなければならないという新たな問題が発生する。
【0017】
さらに、胎盤若しくは当該胎盤から取得したストローマ細胞を保存せずに、臍帯血の造血幹細胞を増幅させる必要が生じた時、つまり造血幹細胞の移植が必用となった時に取得できた胎盤を用いる場合には、造血幹細胞に対して同種異系のストローマ細胞と共培養し、得られた造血幹細胞を移植することとなる。よって、ストローマ細胞の生成の際に取り除けなかった病原菌や知られていないアレルゲンをも移植してしまう可能性があるという安全性の問題がある。
【0018】
さらに、造血幹細胞を同種異系のストローマ細胞と共培養する場合、共培養結果得られた造血幹細胞とストローマ細胞との混合細胞から、ストローマ細胞の取り除かなければならない。このため、臍帯血由来の造血幹細胞の増幅の際に、同一の胎盤から単離したヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen, HLA)が適合したストローマ細胞を用いる方法が考えられるが、造血幹細胞の増幅の際、つまり、造血幹細胞の移植の際に、HLAが適合するストローマ細胞を生成できる胎盤を必ず得られるかという問題がある。
【0019】
さらに、同種異系のストローマ細胞を生成する胎盤が得られない場合に、異種のストローマ細胞を生成する組織を用いるとなれば、前述の安全性の問題がさらにクローズ・アップされることになる。
【0020】
そこで、本発明は、移植の際に安全性が高いヒト造血幹細胞を簡単かつ適時に増幅することができるヒト造血幹細胞の増幅培養方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は以下の内容から構成される。
【0022】
(1)ヒト造血細胞を、前記ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液由来のストローマ細胞の共存下で培養することを特徴とするヒト造血細胞の培養方法。
【0023】
(2)前記ストローマ細胞は、前記血液から抽出した有核細胞由来のものである前記(1)に記載のヒト造血幹細胞の培養方法。
【0024】
(3)前記ストローマ細胞を、前記有核細胞を培養することによって得る前記(2)に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【0025】
(4)前記ストローマ細胞を、前記有核細胞をセミ・コンフルエントな状態に培養することによって得る前記(3)に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【0026】
(5)前記有核細胞を10日〜14日間培養してセミ・コンフルエントな状態とする前記(4)に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【0027】
(6)前記ヒト造血細胞は、前記ストローマ細胞のもととなった血液と同一の血液から抽出されたものである前記(1)〜前記(5)に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【0028】
(7)前記ヒト造血細胞を、前記血液から抽出されてから前記ストローマ細胞の共存下での培養が開始されるまでの間、凍結保存する前記(6)に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【0029】
(8)前記ヒト造血細胞は、少なくともCD34+若しくはCD133+である前記(1)〜前記(7)に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【0030】
(9)前記ヒト造血細胞と同種同形由来の血液は、ヒト臍帯血、ヒト骨髄由来血液又はヒト末梢血である前記(1)〜前記(8)に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【0031】
(10)前記ヒト造血細胞がヒト造血幹細胞である前記(1)〜前記(9)に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【0032】
(11)前記ヒト造血細胞がヒト造血前駆細胞である前記(1)〜前記(9)に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【0033】
(12)前記(1)〜前記(11)に記載のいずれかの方法により得られる培養物。
【0034】
(13)前記(1)〜前記(11)に記載のいずれかの方法により得られるヒト造血幹細胞培養物。
【0035】
(14)ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液からストローマ細胞を生成するストローマ細胞の生成方法。
【0036】
(15)前記ストローマ細胞を、前記血液から抽出した有核細胞から生成する(14)に記載のストローマ細胞の生成方法。
【0037】
(16)前記ストローマ細胞を、前記有核細胞を培養することによって得る(15)に記載のストローマ細胞の生成方法。
【0038】
(17)前記ストローマ細胞を、前記有核細胞をセミ・コンフルエントな状態に培養することによって得る(16)に記載のストローマ細胞の生成方法。
【0039】
(18)前記有核細胞を10日〜14日間培養してセミ・コンフルエントな状態とする(17)に記載のストローマ細胞の生成方法。
【0040】
(19)前記ヒト造血細胞と同種同形由来の血液は、ヒト臍帯血、ヒト骨髄由来血液又はヒト末梢血である(14)〜(18)に記載のいずれかのストローマ細胞の生成方法。
【0041】
(20)(14)〜(19)に記載のいずれかの方法により得られるストローマ細胞を含む造血細胞造血用の補助剤。
【0042】
本発明の詳細については、以下の「発明を実施するための最良の形態」において説明する。
【発明の効果】
【0043】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、ヒト造血細胞を、前記ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液由来のストローマ細胞の共存下で培養する。これにより、血液からストローマ細胞を取得するので、プライマリ・ストローマ細胞を容易に得ることができる。よって、プライマリ・ストローマ細胞を用いてヒト造血細胞を増幅することができるので、増幅したヒト造血細胞を用いた移植では、安全性が担保される。また、血液は容易に保存することができるので、ストローマ細胞のセル・ライン化(株化)といった問題が生じないことから、安全性が高いヒト造血細胞の移植が可能となる。
【0044】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ストローマ細胞は、前記血液から抽出した有核細胞由来のものである。よって、有核細胞は血液から容易に得ることができるので、容易にストローマ細胞を得ることができる。
【0045】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ストローマ細胞を、前記有核細胞を培養することによって得る。よって、有核細胞からストローマ細胞を培養するので、ストローマ細胞を樹立するまでの培養期間を短縮することができる。一般的に、血液のどの分画(有核・単核・CD34+単核)からストローマ細胞を培養するにしても、ストローマ細胞の培養に細胞株でないプライマリ細胞を使う限り、培養開始から培養終了、さらに培養したストローマ細胞が壊死する若しくは使用できなくなるまでの期間は、約1ヶ月と推定されている。このため、ストローマ細胞を樹立するまでの培養期間が短ければ、それだけストローマ細胞とヒト造血細胞との共培養の期間を長く確保することができる。
【0046】
例えば、単核球やCD34+単核球を使うと、ストローマ細胞の培養に約3週間の時間を必用とし、結果的に約1週間ぐらいしか共培養の期間を確保できない。このため、共培養による十分な造血幹細胞の増幅が見込めない。一方、有核細胞を使うと諸条件により約2週間でのストローマ細胞の培養が可能であり、結果的に、共培養の期間も2週間確保することが可能となる。
【0047】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ストローマ細胞を、前記有核細胞をセミ・コンフルエントな状態に培養することによって得る。これにより、ヒト造血細胞の培養に際して、ヒト臍帯静脈内皮細胞と同様の機能を有すると考えられるストローマ細胞を用いることができる。よって、ヒト造血細胞とストローマ細胞と共培養する際に、ヒト造血細胞を臍帯内と類似する微環境におくことができる。結果として、ヒト造血細胞の自己増幅力及び多分化能力を含む造血能力を向上させることができる。
【0048】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記有核細胞を10日〜14日間培養する。これにより、セミ・コンフルエントな状態に培養された有核細胞を容易に得ることができる。
【0049】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ヒト造血細胞を、前記ストローマ細胞の由来元の血液と同一の血液から抽出する。よって、ヒト造血細胞を増幅に際して、血液以外の組織を必要としない。血液の保存は容易に行えることから、結果的に、必要なときに保存された血液を用いてヒト造血細胞を増幅することができる。
【0050】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ヒト造血細胞を、前記血液から抽出されてから前記ストローマ細胞の共存下での培養が開始されるまでの間、凍結保存する。これにより、ストローマ細胞を得るために有核細胞を培養している間、ヒト造血細胞の分化を止めることができる。よって、培養に時間を必要とするストローマ細胞との共培養を容易に行うことができる。
【0051】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ヒト造血細胞は、少なくともCD34+若しくはCD133+である。これにより、ヒト造血細胞マーカーであるCD34及びCD133を用いて、容易にヒト造血細胞を得ることができる。
【0052】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ヒト造血細胞と同種同形由来の血液は、ヒト臍帯血、ヒト骨髄由来血液又はヒト末梢血である。これにより、例えば臍帯血からヒト造血細胞及びストローマ細胞を取得することとすれば、臍帯血以外の組織を必要としない。臍帯血の保存は、現在、既に臍帯血バンクとして行われていることから、結果的に、必要なときに保存された臍帯血を用いてヒト造血細胞を増幅することができる。
【0053】
さらに、臍帯血からストローマ細胞を取得することとすれば、現在、移植に必要とされるヒト造血細胞が少ないために破棄されている臍帯血であっても、当該臍帯血から容易にヒト造血細胞を増幅することができる。これにより、現在破棄されている臍帯血を、臍帯血バンクにおけるコレクションとして利用することができる。よって、臍帯血バンクにおけるコレクションの数が多くなるので、 移植を必要とするレシピエントとHLAが適合する臍帯血が見つかる可能性を高めることができ、移植の成功率を向上させることができる。
【0054】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ヒト造血細胞がヒト造血幹細胞である。これにより、容易にヒト造血幹細胞を増幅培養することができる。
【0055】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法、培養物及びヒト造血細胞では、前記ヒト造血細胞がヒト造血前駆細胞である。これにより、容易にヒト造血前駆細胞を培養することができる。
【0056】
本発明にかかるストローマ細胞の培養方法及びストローマ細胞では、ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液からストローマ細胞を生成する。これにより、プライマリ・ストローマ細胞を容易に得ることができる。よって、プライマリ・ストローマ細胞を用いたヒト造血細胞の増幅が可能となるので、増幅したヒト造血細胞を用いた移植では、安全性が担保される。また、血液は容易に保存することができるので、ストローマ細胞のセル・ライン化(株化)といった問題が生じないことから、当該ストローマ細胞を用いたて増幅したヒト造血細胞を用いれば、安全性が高いヒト造血細胞の移植が可能となる。
【0057】
本発明にかかるストローマ細胞の培養方法及びストローマ細胞では、前記ストローマ細胞を、前記血液から抽出した有核細胞から生成する。よって、有核細胞は血液から容易に得ることができるので、容易にストローマ細胞を得ることができる。
【0058】
本発明にかかるストローマ細胞の培養方法及びストローマ細胞を含む造血細胞造血用の補助剤では、前記ストローマ細胞を、前記有核細胞を培養するよって得る。よって、有核細胞からストローマ細胞を培養するので、ストローマ細胞を樹立するまでの培養期間を短縮することができる。一般的に、血液のどの分画(有核・単核・CD34+単核)からストローマ細胞を培養するにしても、ストローマ細胞の培養に細胞株でないプライマリ細胞を使う限り、培養開始から培養終了、さらに培養したストローマ細胞が壊死する若しくは使用できなくなるまでの期間は、約1ヶ月と推定されている。このため、ストローマ細胞を樹立するまでの培養期間が短ければ、それだけストローマ細胞とヒト造血細胞との共培養の期間を長く確保することができる。
【0059】
例えば、単核球やCD34+単核球を使うと、ストローマ細胞の培養に約3週間の時間を必用とし、結果的に約1週間ぐらいしか共培養の期間を確保できない。このため、共培養による十分な造血幹細胞の増幅が見込めない。一方、有核細胞を使うと諸条件により約2週間でのストローマ細胞の培養が可能であり、結果的に、共培養の期間も2週間確保することが可能となる。
【0060】
本発明にかかるストローマ細胞の培養方法及びストローマ細胞を含む造血細胞造血用の補助剤では、前記ストローマ細胞を、前記有核細胞をセミ・コンフルエントな状態に培養することによって得る。これにより、ヒト造血細胞の培養に際して、ヒト臍帯静脈内皮細胞と同様の機能を有すると考えられるストローマ細胞を用いることができる。よって、ヒト造血細胞とストローマ細胞と共培養する際に、ヒト造血細胞を臍帯内と類似する微環境におくことができる。結果として、ヒト造血細胞の自己増幅力及び多分化能力を含む造血能力を向上させることができる。
【0061】
本発明にかかるストローマ細胞の培養方法及びストローマ細胞を含む造血細胞造血用の補助剤では、前記有核細胞を10日〜14日間培養してセミ・コンフルエントな状態とする。これにより、セミ・コンフルエントな状態に培養された有核細胞を容易に得ることができる。
【0062】
本発明にかかるストローマ細胞の培養方法及びストローマ細胞を含む造血細胞造血用の補助剤では、前記ヒト造血細胞と同種同形由来の血液は、ヒト臍帯血、ヒト骨髄由来血液又はヒト末梢血である。これにより、例えば臍帯血からストローマ細胞を取得することとすれば、臍帯血からヒト造血細胞を取得することができるので、ヒト造血細胞の培養に際して、臍帯血以外の組織を必要としない。臍帯血の保存は、現在、既に臍帯血バンクとして行われていることから、結果的に、必要なときに保存された臍帯血を用いてヒト造血細胞を増幅することができる。
【0063】
さらに、臍帯血からストローマ細胞を取得することとすれば、現在、移植に必要とされるヒト造血細胞が少ないために破棄されている臍帯血であっても、当該臍帯血から容易にヒト造血細胞を増幅することができる。これにより、現在破棄されている臍帯血を、臍帯血バンクにおけるコレクションとして利用することができる。よって、臍帯血バンクにおけるコレクションの数が多くなるので、 移植を必要とするレシピエントとHLAが適合する臍帯血が見つかる可能性を高めることができ、移植の成功率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒト造血細胞を、前記ヒト造血細胞と同種同系由来のストローマ細胞の共存下で培養することにより、移植の際に安全性が高いヒト造血幹細胞を簡単かつ適時に増幅することができることをみいだし、本発明を完成するに至った。
【0065】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0066】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法は、ヒト造血細胞を、前記ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液由来のストローマ細胞の共存下で培養することを特徴とする方法である。
【0067】
「ヒト造血細胞」とは、あらゆる種類若しくは系統の血液成分に分化しうる能力を有する未分化なヒトの血液細胞をいう。ヒト造血細胞には、ヒト造血幹細胞、ヒト造血前駆細胞が含まれる。一方、分化した血液細胞、例えば、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球、マクロファージ、リンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞)など、または、分化した血液細胞由来産物である赤血球、血小板などは、「ヒト造血細胞」の概念に含まれない。
【0068】
「分化」とは、細胞の表面に現れる表面抗原分子が変化して、次の成熟段階の細胞になることをいう。前記分化には、例えば、ヒト造血幹細胞(CD34+)からリンパ系幹細胞または骨髄系幹細胞または赤芽球になること、リンパ系幹細胞からT前駆細胞またはB前駆細胞になること、骨髄系幹細胞からマスト細胞、好塩基球、好酸球、好中球、マクロファージ、巨核球、単球、好中球等になること、赤芽球から赤血球になること、T前駆細胞からT細胞になること、B前駆細胞からB細胞になること等が含まれる。
【0069】
「ヒト造血幹細胞」とは、あらゆる種類若しくは系統の血液成分に分化する多分化能力を有するとともに自己を複製する自己複製能力を有する細胞をいう。ヒト造血幹細胞は、例えば、ヒト骨髄、ヒト臍帯血、ヒト末梢血に存在する。
【0070】
「ヒト造血前駆細胞」とは、限定的な一又は複数種類若しくは系統のヒトの血液成分に分化する分化能力を有するヒトの細胞をいう。ヒト造血前駆細胞は、2〜3種類若しくは系統の血球に分化できる寡能性造血前駆細胞、1種類若しくは系統の血球に分化が限定される単能性造血前駆細胞に分類することができる。
【0071】
ヒト前駆細胞は、特定の細胞マーカーを判別する公知の方法により分類することができる。例えば、骨髄系細胞のマーカーとしてCD13、単球及びマクロファージ系のマーカーとしてCD14、巨核球系マーカーとしてCD41、赤血球系マーカーとしてグリコホリン、B細胞系マーカーとしてCD19、T細胞系マーカーとしてCD3が知られている。
【0072】
ヒト造血前駆細胞を判別する公知の方法としては、例えば、コロニーアッセイ法(in vitro コロニー法)がある。
【0073】
ヒト造血幹細胞及びヒト造血前駆細胞は、特定の抗原表現型を発現している細胞である。よって、臍帯血、または臍帯血から抽出した有核細胞から、特定の抗原表現型を発現している細胞を抽出することによって、結果的にヒト造血幹細胞、ヒト造血前駆細胞を得ることができる。
【0074】
特定の抗原表現型としては、例えば、CD34がある。したがって、ヒト造血幹細胞及びヒト造血前駆細胞は、CD34+細胞といえる。
【0075】
CD34+細胞は、例えば、臍帯血から分離抽出することによって得ることができる。具体的には、(1) 臍帯血から有核細胞を分離抽出する工程、(2) 抽出した有核細胞からマイクロビーズをコンジュゲート(conjugate)した抗CD34抗体を用いて CD34+細胞を分離抽出する工程からなる。マイクロビーズをコンジュゲート(conjugate)した抗CD34抗体としてCD34MACSビーズ(Miltenyi Biotec社製、ベルギッシュ・グラッドバッハ、ドイツ)を用い、マイクロビーズを用いてCD34+幹細胞を採取する装置として自動MACS装置(Miltenyi Biotec社製)及び自動MACSプログラムPOSSELD2を用いる。
【0076】
なお、特定の抗原表現型としては、CD34の他に、他の造血細胞マーカーを使用することも、若しくはCD34に加えて複数併用することも可能である。他の造血細胞マーカーとしては、例えば、CD38、DR、CD45、CD90、CD117、CD123、CD133があり、好ましくはCD133である。
【0077】
ヒト造血細胞が、いずれの幹細胞マーカーを発現しているかは、FACSを用いる方法等、公知の方法により測定することができる。
【0078】
「有核細胞」とは、核を有する細胞をいう。臍帯血から抽出できる有核細胞には、例えば、総ての系列に分化しうるヒト造血幹細胞、リンパ系幹細胞、T前駆細胞、B前駆細胞、T細胞、B細胞、骨髄系幹細胞、マスト細胞、好塩基球、好酸球、好中球、マクロファージ、巨核球、単球、好中球、または赤芽球などが含まれる。
【0079】
臍帯血からの有核細胞の抽出は、例えば、HES40(ニプロ社製 #89−120−5)を用いることによって実現できる。
【0080】
ストローマ細胞とは、基質細胞または間質細胞をいう。ストローマ細胞及びストローマ細胞を含むヒト造血細胞造血用の補助剤は、例えば、ヒト造血幹細胞と同種同系から取得した血液から生成することが可能である。
【0081】
ヒト造血幹細胞と同種同系から取得した血液とは、ヒト造血細胞の由来元の個体と同一の個体から取得する血液をいい、好ましくは、ヒト臍帯血、ヒト骨髄由来血液、若しくはヒト末梢血であり、さらに好ましくはヒト臍帯血である。
【0082】
ストローマ細胞及びストローマ細胞を含むヒト造血細胞造血用の補助剤の生成は、例えば(1) 臍帯血から、HES40(ニプロ社製 #89−120−5)を用いて有核細胞を分離抽出する工程、(2) 有核細胞を平皿で培養し、付着細胞を選択的に増殖させセミ・コンフルエントな状態まで育成させる工程、により行われる。
【0083】
なお、ストローマ細胞を含むヒト造血細胞造血用の補助剤とは、ヒト造血細胞を造血するために用いられる材料であって、ストローマ細胞を含むものであればよい。
【0084】
有核細胞のセミ・コンフルエントな状態での培養とは、所定の領域において、有核細胞若しくは有核細胞から分化した細胞若しくはそれらの細胞群の全部若しくは一部が、所定の領域内で固定され、かつ、固定された有核細胞若しくは有核細胞から分化した細胞若しくはそれらの細胞群が、平皿で増殖期の細胞分裂頻度を保ちながら増殖している状態をさす。具体的には、有核細胞を24ウェル細胞培養プレートに播種し、5%CO濃度、37℃の湿潤雰囲気中で10日〜12日間培養することによって、24ウェル細胞培養プレートにおいてセミ・コンフルエントな状態となったストローマ細胞を得ることができる。
【0085】
「ヒト造血幹細胞をストローマ細胞の共存下で培養する」とは、ストローマ細胞の存在がヒト造血幹細胞の培養に影響が及ぶ状況で培養することをいう。
【0086】
ストローマ細胞の存在がヒト造血幹細胞の培養に影響が及ぶとは、ヒト造血幹細胞の造血能力をストローマ細胞がサポートする状況という。例えば、臍帯血由来のヒト造血幹細胞やストローマ細胞、若しくはサイトカインやケモカイン等に存在する共通の接着分子が、ヒト造血幹細胞の自己再生能力をサポートし、増幅の仲立ちをし得る状況や、臍帯血由来のストローマ細胞が、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Venus Endothelial Cell:HUVEC)類似の性質を示し、臍帯血中のヒト造血細胞が臍帯中に存在するときの微環境をex vivoにおいても模倣し得る状況がある。
【0087】
「凍結保存」とは、ヒト造血幹細胞の性質を変化させるものでなければ、いかなる方法も用いることができる。凍結保存の方法としては、例えば、保存しようとする細胞を培地と共に保存容器に納め、必要に応じて、グリセリン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、蔗糖、グルコース、ポリビニルピロリドン(PVP)などの凍結防御剤を加えて、プログラムフリーザーなどを用い緩速凍結を行い、その後液体窒素などの中に保存する方法を用いることができる。なお、培地(培養液)には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素などの無機物、アミノ酸、ビタミン、ホルモン、抗生物質、サイトカイン、脂肪酸、糖または目的に応じてその他の化学成分もしくは血清のような生体成分を含めてもよい。
【0088】
「ヒト臍帯血」とは、ヒトの臍帯から取得できる血液のことをいう。ヒト臍帯血は、例えば、兵庫臍帯血バンク等の臍帯血バンクから取得することができる。
【0089】
「ヒト骨髄由来血液」とは、ヒトの骨髄中に存在する髄液に含まれる血液をいう。ヒトの骨髄は、一般的な、骨髄バンクから取得することができる。
【0090】
「培養」とは、常法に従って、例えば、以下のように実施することができる。培養容器中で、必要に応じてナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、アミノ酸、ビタミン、ホルモン、抗生物質、脂肪酸、糖または目的に応じてその他の化学成分もしくは血清のような生体成分を含有したα−MEM培地、RPMI−1640培地またはMEM基本培地などの培地中に、あるいは、X−VIVO10やX−VIVO15などの培地中に、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、 IL−18、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、G−CSF、GM−CSF、SCF、FL、EPO、TPOなどのサイトカイン の存在下、ストローマ細胞及びCD34+細胞を加えて、30℃〜40℃、好ましくは37℃で培養する。培養期間は、数時間レベルの短期間のものから、おおよそ1年間にわたって行うような長期間のものまでを挙げることができる。長期間の場合は、定期的な培地交換を行い、温度、湿度、二酸化炭素濃度等をモニタリングして培養維持することにより、CD34+細胞を含む造血幹細胞および前駆細胞を増幅可能である。なお、培養は、開放条件下で行うことも可能であるし、閉鎖(密閉)条件下で行うことも可能である。
【0091】
培地(培養液)については、ストローマ細胞の維持・生存、及び、CD34+細胞を含む造血幹細胞および前駆細胞の維持・生存・分化・成熟・自己複製を阻害するものでなければいかなる培地を用いてもよい。培養するにあたり、温度、浸透圧、光などの物理的環境条件、酸素、炭酸ガス、pH、酸化還元電位などの化学的環境条件としては、ストローマ細胞の維持・生存、及び、CD34+細胞の維持・生存・分化・成熟・自己複製を阻害するものでなければいかなる環境条件を選択してもよい。なお、物理的条件における温度については、具体的には、30℃〜40℃であり、好ましくは37℃である。
【0092】
サイトカインとは、細胞から放出され、細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子で、免疫応答の制御作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増幅・分化の調節作用などを示す物質をいう。サイトカインには、具体的には、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17, IL−18インターフェロンα(IFN−α)、インターフェロンβ(IFN−β)、インターフェロンγ(IFN−γ)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、SCF(幹細胞因子)、FL(Flt‐3/4リガンド)、EPO(エリスロポエチン)、TPO(トロンボポエチン)等が含まれる。ヒト造血細胞を増幅する際に用いられるサイトカインとしては、例えば、hu−SCF、hu−Flt−3/4リガンド、hu−TPO等がある。
【0093】
細胞培養に用いる培養容器には、CD34+細胞を含む造血幹細胞および前駆細胞が維持・生存・分化・成熟・自己複製することを阻害するものでなければいかなる素材・形状のものを用いることができる。例えば、支持台の素材としては、ガラス、合成樹脂、天然樹脂または金属等がある。また、培養容器は、ストローマ細胞が維持・生存でき、CD34+細胞を含む造血幹細胞および前駆細胞が維持・生存・分化・成熟・自己複製することを阻害するものでなければいかなる素材、形状のものを用いることができる。例えば、培養容器の素材としては、ガラス、不織布を含む合成樹脂や天然樹脂、または金属等がある。また、培養容器の形状としては、三角柱、立方体、直方体などの多角柱、三角錐、四角錐などの多角錘、ひょうたんのような任意の形状、球形、半球形、円形、楕円形、半円形等がある。
【0094】
本発明にかかるヒト造血細胞の培養方法は、ヒト造血細胞を、前記ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液由来のストローマ細胞の共存下で培養することを特徴とする方法である。
【0095】
「培養物」とは、所定の細胞を培養した結果、得られるものであればよい。例えば、CD34+細胞を所定のストローマ細胞の存在下において培養する方法であれば、培養物に当該ストローマ細胞が含まれていてもよい。また、サイトカイン存在下において培養する方法の場合も同様に、培養物に当該サイトカインが含まれていてもよい。
【実施例1】
【0096】
以下に、実施例により、本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を具体的に説明のためのものであり、本発明を実施例に限定するものではない。
【0097】
1.臍帯血の取得
研究使用目的に対するインフォームド・コンセントが得られた臍帯血を、兵庫臍帯血バンクから取得した。なお、ヒト材料を用いる全ての実験手続については、実験を行う前に、財団法人先端医療振興財団の倫理委員会による審査及び承認を得た。
【0098】
2.臍帯血からのストローマ細胞の生成
(1) 50ml〜100mlの臍帯血から、有核細胞を分離抽出する。有核細胞の分離抽出に際しては、HES40(ニプロ社製 #89−120−5)を使用した。HES40を臍帯血と、容量にして5対1の割合で混合した。混合の後、約1時間放置し赤血球を沈殿させた。有核細胞は上精中に存在しているので、有核細胞を含むHES40混合液(以下、HES40ソリューションとする。)を上清液として回収した。
【0099】
(2) 分離抽出の結果得られたHES40ソリューションから、500μlのHES40ソリューションを、7分間、400G、10℃で遠心分離器にかけた。遠心分離の結果、上清のHES40を取り除き、有核細胞を得た。ウシ血清を10%容量添加した500μlの培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)を有核細胞に加えて再懸濁する。
【0100】
(3) その後、有核細胞を、24ウェル細胞培養プレートに播種する。有核細胞を5%CO濃度、37℃の湿潤雰囲気中で12日間培養し、セミ・コンフルエントなストローマ細胞を生成する。
【0101】
3.臍帯血由来有核細胞からのCD34+細胞の抽出
(1) 上記2.(2)で得た有核細胞を7分間、400G,10℃で遠心しHES40ソリューションを除き、サリンへス液(杏林製薬社製 #873319)に1×10個/mlとなるように再懸濁した。
【0102】
(2) 1×10個/mlに調整した有核細胞に対して1ml当たり、100μlのFcBlock(Miltenyi Biotec #277603)、200mlの牛血清、100μlのCD34マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製、#277603)を添加し、ローテータを用いて、10℃、30分間で攪拌させた。
【0103】
(3) 有核細胞からCD34+細胞の抽出については、自動MACS装置(Miltenyi Biotec社製)、及び自動MACSプログラムPOSSELD2を用いて行った。
【0104】
(4) 分離したCD34+細胞の純度を、FACSキャリブバー(BD Bioscience社製、サン・ホセ、US)を用いて測定し、純度95%以上であることを確認した。
【0105】
(5)抽出したCD34+細胞を、再びセルバンカー液(日本全薬工業社製 #BCL−1)に1.5×10個/mlの濃度で再懸濁させ、―80℃、−150℃の冷凍庫または液体窒素下で冷凍保存した。
【0106】
4.臍帯血由来CD34+細胞とストローマ細胞との共培養
(1) 冷凍保存したCD34+細胞を、37℃のウオーターバスに漬け解凍した。
【0107】
(2) 解凍したCD34+細胞を5×10個/500μlのCD34+細胞となるように調整した。このときの培養溶液は、X−VIVO10培地(CAMBREX社製、#04−380Q、ボルチモア、US)である。
【0108】
(3) セミ・コンフルエントなストローマ細胞を有する24ウェル細胞培養プレートを、DPBS(GIBCO社製 #14190)で3回洗浄し、24ウェル細胞培養プレートに付着したストローマ細胞のみ得た。
【0109】
(4)500μlに調整したCD34+細胞を、上記(3)で得たストローマ細胞が付着した24ウェル細胞培養プレートに加えて共培養する。さらに50ng/mlのhu−SCF(Peprotech社製、ロンドン、UK)、20ng/mlのhu−Flt−3/4リガンド(Peprotech社製)、及び10ng/mlのhu−TPO(Peprotech社製)(以下、サイトカイン混合液とする。)を加えて、37℃、5%CO濃度雰囲気下で培養した。
【0110】
(5) 培地及びサイトカイン混合液を、共培養の間、3日に一度追加しながら、14日間、共培養した。
【実施例2】
【0111】
間葉系細胞由来の臍帯血細胞にヒトTERT遺伝子を導入することによって得られるH−tertセルラインUCBTERT−21を、ヒューマンサイエンス研究資源バンク(HSRRB、大阪)から取得する。取得したUCBTERT−21に対して、実施例1における1〜4の処理を実行し、臍帯血由来のCD34+細胞を、UCBTERT−21との共存下で培養した。
【実施例3】
【0112】
前記実施例1によって得られた培養物(以下、培養物1とする。)及び前記実施例2によって得られた培養物(以下、培養物2とする。)を用いて、CD34、CD133の発現を確認するためのフロー・サイトメトリック解析(FACS解析)を行った。フロー・サイトメトリック解析にあたっては、FACS Aria(BD Bioscience社製)を用いた。
【0113】
比較例1として、実施例1と同様に、実施例1の3で抽出した5×10個のCD34+細胞を、ストローマ細胞を用いずに、ミニマム・サイトカイン(10ng/mlのhu−TPO、50ng/mのhu−SCF、20ng/mlのhu−Flt−3/4リガンド)の存在下で、14日間、液体培養を行った。また、比較例2として、実施例1と同様に、5×10個のCD34+細胞を、ストローマ細胞を用いず、フル・サイトカイン(10ng/mlのhu−TPO、50ng/mのhu−SCF、20ng/mlのhu−Flt−3/4リガンド、50ng/mlのhu−IL−6(Peprotech社製)、50ng/mlのhu−solIL−6レセプター(Peprotech社製)の存在下で、14日間、液体培養を行った。比較例1によって得られた培養物(以下、培養物3とする。)、及び、比較例4によって得られた培養物(以下、培養物4とする。)用いて、同様にFACS解析を行った。
【0114】
FACS解析の結果を図1a〜図1eに示す。図1aは培養物1について、図1bは培養物2について、図1cは培養物3について、図1dは培養物4について、図1Eは培養前について、それぞれのFACS解析の結果を示している。さらに、図1a〜図1dの解析結果のまとめを表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
表1に示すように、CD34及びCD133が共に発現している細胞の培養物の総細胞数に対する割合は、培養物1、培養物2で、それぞれ約14%であった。一方、培養物3で、約9.4%であった。また、培養物4で、約6.6%であった。
【0117】
これらの結果から、臍帯血由来のストローマ細胞上でCD34+細胞を培養することによって、CD34+細胞の自己複製能力が、サイトカイン存在下における液体培養に比べて、上昇すること、つまり、ヒト造血幹細胞の自己複製能力が上昇することが確認された。
【実施例4】
【0118】
実施例3と同じ培養物1〜培養物4を用いて、培養物中における総細胞数、CD34+細胞の絶対総数、及びCD34/CD133が共に発現している細胞の絶対総数を、それぞれ計数した。なお、培養にあたっては、当初5×10個のCD34+細胞を培養しているため、培養0日目の総細胞数、CD34+細胞の絶対総数、及びCD34/CD133が共に発現している細胞の絶対総数は、5×10個である。
【0119】
総細胞数の計数には、多項目自動血液計数装置(シスメック社製 KX−21)を用いた。
【0120】
培養物1〜培養物4中における、総細胞数を計数した結果を図2aに、CD34+細胞の絶対総数を計数した結果を図2bに、及びCD34/CD133が共に発現している細胞の絶対総数を計数した結果を図2cに、それぞれ示す。なお、CD34+細胞の絶対総数及びCD34/CD133が共に発現している細胞の絶対総数については、総細胞数にFACS解析の結果得られた発現比の割合(表1参照)を乗じて計算した。
【0121】
図2a、図2b、及び図2cから明らかなように、ヒト造血細胞を臍帯血由来のストローマ細胞と共培養することによって、CD34+細胞及びCD34/CD133が共に発現している細胞の絶対総数が増加している。つまり、CD34+細胞及びCD34/CD133が共に発現している細胞の絶対総数という観点では、ヒト造血細胞を臍帯血由来のストローマ細胞と共培養する方法は、ストローマ細胞を用いなでサイトカインを用いてヒト造血細胞を培養する方法に対して、顕著な優位性を示すことは明らかである。
【実施例5】
【0122】
実施例3と同じ培養物1〜培養物4を用いて、培養物の増幅能力を評価するためにメチルセルロース・アッセイを行った。メチルセルロース・アッセイは以下の方法により行った。
【0123】
(1)各培養物におけるCD34+細胞の絶対数を計数する。
【0124】
(2)各培養物から3×10個のCD34+細胞を取得する。
【0125】
(3)取得したCD34+細胞を、1.2mlのMETHOCULT(H4330、Stem Cell Technologie社製、バンクーバ、カナダ)培地に播種する。なお、METHOCULTは、3unit/mlのEPO、30%のFCS、1%のBSA、50ng/mlのmSCF、20ng/mlのhu−IL−6、20ng/mlのhu−IL−3、20ng/mlのhu−G−SCF、20ng/mlのhu−GM−SCFを含む。
【0126】
(4)METHOCULT培地に播種した培養物を14日間、37℃、5%二酸化炭素雰囲気下で、培養(二次培養)する。
【0127】
(5)培養の後、培地中に形成された各系統のコロニー数をカウントする。
【0128】
図3aにメチルセルロース・アッセイを用いて計数した各系統のコロニー数を示す。
【0129】
なお、培養後のコントロールとして実施例1の3で抽出したCD34+細胞から100個の細胞を取得し、培養せずにメチルセルロースに播種した時の各コロニーの性状を顕微鏡下の目視によって調べておいた。未培養のCD34+細胞からは、70個弱のコロニーが当アッセイで得られた。このことから、未培養の細胞集団では、約7割弱の細胞が、CFU−GEMM、BFU−E、CFU−GM、CFU−G、CFU−Mなどのコロニーを形成する造血幹細胞・前駆細胞であったと考えられる。この100個の未培養のCD34+細胞の構成を図3Aの右端「day0」に示す。
【0130】
図3aには、培養物1〜培養物4のそれぞれから採取した3×10個の細胞をメチルセルロース・アッセイを用いて14日間二次培養して得られたそれぞれのコロニー数を示している。ここで留意すべきことは、メチルセルロース・アッセイを行う時に用いた3×10個の細胞の母集団(培養物1〜培養物4)の総細胞数は、同じではないということである。これは、各培養物を得るまでの培養条件が異なることに起因する。そこで、培養物1〜培養物4で得られた全ての細胞をメチルセルロースに播種したと想定した時に得られる総コロニー数を、図3bに記す。なお、総コロニー数は、図2aの培養14日目での細胞数を3×10で除して得られた商に、図3aの各コロニー数を乗ずることによって得た。
【0131】
図3bから明らかなように、CD34+細胞を同種同系臍帯血有核細胞由来のストローマ細胞と共培養することによって、CFU−GEMMコロニーとして計数された多分化能を有するヒト造血幹細胞の数が、未培養CD34+細胞と比べて約6倍に拡大している。このことより、CD34+細胞を当該CD34+細胞を抽出した臍帯血由来のストローマ細胞と共培養する方法は、CD34+細胞の増幅能力を高めること、つまり、ヒト造血幹細胞の自己複製能力が上昇することが確認された。
【0132】
[産業上の利用可能性]
本発明では、未分化のヒト造血細胞を簡単かつ安全に増幅培養できるため、増幅培養したヒト造血細胞を再生医療、細胞移植へ応用することができる。また、本発明では、例えば、臍帯血さえあればヒト造血細胞の増幅培養が可能であり、培養したヒト造血細胞を移植する際に病原菌や未知のアレルゲンを同時に移植してしまうことがないので、増幅培養したヒト造血細胞を安全に再生医療、細胞移植へ応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1a】ヒト造血細胞の培養方法によって得られた培養物1(プライマリ・ストローマ細胞と供培養)に関するFACS解析の結果を示した図である。
【図1b】ヒト造血細胞の培養方法によって得られた培養物2(セルラインUCBTERT−21と供培養)に関するFACS解析の結果を示した図である。
【図1c】ヒト造血細胞の培養方法によって得られた培養物3(ミニマム・サイトカイン存在下で液体培養)に関するFACS解析の結果を示した図である。
【図1d】ヒト造血細胞の培養方法によって得られた培養物4(フル・サイトカインで液体培養)に関するFACS解析の結果を示した図である。
【図1e】培養前のFACS解析の結果を示した図である。
【図2a】培養物1〜培養物4中の総細胞数を培養前と培養14日目で計数した結果を示した図である。
【図2b】培養物1〜培養物4中のCD34+細胞の絶対総数を培養前と培養14日目で計数した結果を示した図である。
【図2c】培養物1〜培養物4中のD34/CD133が共に発現している細胞の絶対総数を培養前と培養14日目で計数した結果を示した図である。
【図3a】メチルセルロース・アッセイを用いて計数した各系統のコロニー数を示した図である。一番右は未培養で細胞を100個播いたときのコロニー数を、それ以外は培養14日目で細胞を300個播いたときのコロニー数を示す。
【図3b】それぞれの方法で14日間培養した時の細胞総てを、メチルセルロースに播種したと想定した時の総コロニー数を示した図である。一番右は未培養のコントロール。多分化能を持つCFU−GEMMコロニーの数をもって、培養系中の造血幹細胞数を推定している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト造血細胞を、前記ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液由来のストローマ細胞の共存下で培養するヒト造血細胞の培養方法。
【請求項2】
前記ストローマ細胞は、前記血液から抽出した有核細胞由来のものである請求項1に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【請求項3】
前記ストローマ細胞を、前記有核細胞を培養することによって得る請求項2に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【請求項4】
前記ストローマ細胞を、前記有核細胞をセミ・コンフルエントな状態に培養することによって得る請求項3に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【請求項5】
前記有核細胞を10日〜14日間培養してセミ・コンフルエントな状態とする請求項4に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【請求項6】
前記ヒト造血細胞を、前記ストローマ細胞の由来元である血液と同一の血液から抽出する請求項1〜請求項5に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【請求項7】
前記ヒト造血細胞を、前記血液から抽出されてから前記ストローマ細胞の共存下での培養が開始されるまでの間、凍結保存する請求項6に記載のヒト造血細胞の培養方法。
【請求項8】
前記ヒト造血細胞は、少なくともCD34+若しくはCD133+である請求項1〜請求項7に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【請求項9】
前記ヒト造血細胞と同種同形由来の血液は、ヒト臍帯血、ヒト骨髄由来血液又はヒト末梢血である請求項1〜請求項8に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【請求項10】
前記ヒト造血細胞がヒト造血幹細胞である請求項1〜請求項9に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【請求項11】
前記ヒト造血細胞がヒト造血前駆細胞である請求項1〜請求項9に記載のいずれかのヒト造血細胞の培養方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項11に記載のいずれかの方法により得られる培養物。
【請求項13】
請求項1〜請求項11に記載のいずれかの方法により得られるヒト造血幹細胞培養物。
【請求項14】
ヒト造血細胞と同種同系から取得した血液からストローマ細胞を生成するストローマ細胞の生成方法。
【請求項15】
前記ストローマ細胞を、前記血液から抽出した有核細胞から生成する請求項14に記載のストローマ細胞の生成方法。
【請求項16】
前記ストローマ細胞を、前記有核細胞を培養することによって得る請求項15に記載のストローマ細胞の生成方法。
【請求項17】
前記ストローマ細胞を、前記有核細胞をセミ・コンフルエントな状態に培養することによって得る請求項16に記載のストローマ細胞の生成方法。
【請求項18】
前記有核細胞を10日〜14日間培養してセミ・コンフルエントな状態とする請求項17に記載のストローマ細胞の生成方法。
【請求項19】
前記ヒト造血細胞と同種同形由来の血液は、ヒト臍帯血、ヒト骨髄由来血液又はヒト末梢血である請求項14〜請求項18に記載のいずれかのストローマ細胞の生成方法。
【請求項20】
請求項14〜請求項19に記載のいずれかの方法により得られるストローマ細胞を含む造血細胞造血用の補助剤。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【公開番号】特開2008−237136(P2008−237136A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83953(P2007−83953)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(300061835)財団法人先端医療振興財団 (28)
【Fターム(参考)】