説明

ヒトApoA−V蛋白質に対する抗体、及び、当該抗体を用いたヒトApoA−V蛋白質定量測定系

【課題】臨床的にも有望視されているヒトApo A−Vの検出手段を提供し、さらに、当該検出手段を用いた脂質代謝異常の検出を行うこと。
【解決手段】ヒトApo A−V蛋白質に対する抗体を作出し、当該抗体と既知の量のヒトApo A−V蛋白質とを接触させて決定された当該蛋白質の検量値と、当該抗体と検体とを接触させて得られた当該蛋白質の検量値を比較することによって、当該検体中のヒトApo A−V蛋白質を定量することを特徴とする、ヒトApo A−V蛋白質の検出方法を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト血清アポリポ蛋白質に対する抗体と、これを用いた脂質代謝異常の検出に用いることが可能な当該蛋白質の定量法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフスタイルの欧米化や年齢の高齢化に伴い脳血管障害や虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患が急速に増加し、社会的に大きな問題となっている。多くの疫学的研究により、血中の低密度リポ蛋白質(LDL)の上昇、及び高密度リポ蛋白質(HDL)の減少は冠動脈疾患の危険因子であり、加えて血中の中性脂肪(TG)は、近年、冠動脈疾患の独立した危険因子であることが報告されている(Austin MA,et al.,Am J,81:7B-12B,1998:Haim M,et al.,Circulation,100:475-482,1990)。さらに、高脂血症、高血圧、インスリン抵抗性が合併する動脈硬化疾患の易発症状である、いわゆるメタボリックシンドロームにおいては、血中コレステロールの上昇より、むしろ中性脂肪の上昇が危険因子となっている。したがって、血中TG濃度に影響を及ぼす調節因子について解析を行うことは高TG血症の成因、及びその治療法を確立する上で重要であり、ひいては動脈硬化症を予防し、冠動脈疾患の発症を軽減することになる。
【0003】
アポリポ蛋白質は、血中において難溶性である脂質の運搬を担うリポ蛋白質の主要な構造蛋白質であり、かつ細胞内へ運搬においては機能的に作用している。アポリポ蛋白質ファミリーのなかで、アポリポ蛋白質A−V(Apo A−V)は、近年、ヒト―マウス間の遺伝子配列比較解析により発見され、アポリポ蛋白質ファミリーの一員であることが同定された。Apo A−Vは肝臓で合成され、血中に分泌され、超低密度リポ蛋白質(VLDL)やHDLに結合して存在する。Apo A−V遺伝子ノックアウトマウスにおいては、血中TG濃度、VLDL蛋白質量がコントロールマウスと比較して上昇しており、逆に、Apo A−V遺伝子を過剰発現したトランスジェニックマウスにおいては血中TG濃度、及びVLDL蛋白質量がコントロールマウスと比較して大きく低値であることから、Apo A−Vが血中TGの代謝に密接に関連していることが示されている(Pennacchio LA,et al., Science,294:169-173,2001)。また、ヒトApo A−V遺伝子のコードする領域に存在する一塩基多型(SNPs)の解析から、当該遺伝子のSNPs1〜3は血中TG濃度、及びVLDL蛋白質量との強い相関が認められている(Baum L,et al.,Clin Genet,63:377-379,2003; Eichenbaum-Voline S,et al.,Arteroscler Thromb Vasc Biol,24:167-174,2004;Endo K, et al.,Hum Genet,111:570-572,2002;Pennacchio LA,Hum Mol Genet,11:3031-3038, 2002;Talmud PJ,et al.,Hum Mol Genet,11:3039-3046,2004)。特に、ヒトにおける解析では、血中TG濃度の高値である個人において、SNP3のヘテロ型が多く存在することが報告されており、Apo A−Vと血中TG濃度の関連性について注目されている。さらに、血中中性脂肪を低下させる薬剤であるPPAR−α活性化薬は、Apo A−VのmRNAを増加させることが知られている(Prieur X,et al.,J Biol Chem,2003;278:25468-25480)。よって、これらPPAR−α活性薬の薬効判定に対し、血中Apo A−V濃度の測定は有用である。
【非特許文献1】Pennacchio LA,et al.,Science,2001;294:169-173
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決すべき課題は、臨床的にも有望視されているヒトApo A−Vの検出手段を提供し、さらに、当該検出手段を用いた脂質代謝異常の検出を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、この課題の解決のために、ヒトApo A−Vに対する抗体を作出し、当該抗体を用いたヒトApo A−Vの検出方法を提供し、当該検出方法により脂質代謝異常を検出可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
第1に、本発明は、ヒトApo A−Vに対する抗体(以下、本抗体ともいう)を提供する発明である。本抗体は、モノクローナル抗体(以下、本モノクローナル抗体ともいう)とポリクローナル抗体(以下、本ポリクローナル抗体ともいう)のいずれかであり得る。
【0007】
第2に、本発明は、本抗体と既知の量のヒトApo A−Vとを接触させて決定された当該蛋白質の検量値と、当該抗体と検体とを接触させて得られた当該蛋白質の検量値を比較することによって、当該検体中のヒトApo A−Vを定量することを特徴とする、ヒトApo A−Vの検出方法(以下、本検出方法ともいう)を提供する発明である。本検出方法により得られた被験者のヒトApo A−Vの定量値と、当該蛋白質の定量値の標準とを比較して、当該定量値が当該標準と異なる場合に、これを脂質代謝異常として評価することが可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ヒトApo A−Vの検出手段の重要な要素として用いることができるヒトApo A−Vに対する抗体が提供され、実際に、当該抗体を用いたヒトApo A−Vの検出方法が提供される。当該検出方法により、検体提供者の脂質代謝異常を検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
A.本抗体
本抗体は、上述のように、ヒトApo A−Vに対する抗体、すなわち、ヒトApo A−Vに対するモノクローナル抗体、または、ポリクローナル抗体である。
【0010】
このような本抗体を製造するための前提条件として、免疫抗原として用いるヒトApo A−Vが必要である。
【0011】
Apo A−Vは、上述したように、ヒト―マウス間の遺伝子配列比較解析により発見され、アポリポ蛋白質ファミリーの一員であることが同定された(配列番号1、2:Pennacchio LA,et al.,Science,2001;294:169-173, Gene Bank Accession Number:NM_052968(cDNA))。
【0012】
ヒトApo A−Vは、天然物として、ヒト血漿から分離して調製することができる。すなわち、ヒト血漿より、常法、例えば、超遠心法や塩析等により得られる、含Apo A−V粗画分に、塩析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の通常公知の精製法を施して、精製ヒトApo A−Vを製造することができる(例えば、Choi et al.,J Immu Methods. 131, 1990, 159-163)。特に、本抗体を既に得ている場合には、このヒトApo A−Vの天然物のヒト血漿からの分離は容易となる。
【0013】
このようにして得た精製ヒトApo A−Vを、本抗体を製造するための免疫抗原とすることができる。
【0014】
また、遺伝子工学的な手法を用いて、ヒトApo A−Vの組み換え蛋白質を得て、これを、本抗体を製造するための免疫抗原とすることができる。この方法は、未だ本抗体を得ていない状態において、これを製造する場合に有利な方法である。
【0015】
当該組み換え蛋白質は、既知のヒトApo A−V遺伝子の塩基配列(例えば、Gene Bank Accession Number:NM_052968(cDNA))を参考にして、遺伝子増幅用プライマーを調製し、これを用いてRT−PCR法を行うことにより、ヒトApo A−V遺伝子を遺伝子増幅産物として得て、これをクローニングすることにより得たクローンより産生されるヒトApo A−Vの組み換え蛋白質を、上述した通常公知の精製法により精製することにより、本抗体を製造するための免疫抗原として用いることが可能なヒトApo A−V組み換え蛋白質とすることができる。また、上記のヒトApo A−V遺伝子の塩基配列を一部改変した、ヒトApo A−V一部改変遺伝子がコードする改変組み換え蛋白質も、ヒトApo A−Vに対する免疫抗原としての性質を失わない限り可能である。
【0016】
なお、ここで使用される免疫抗原としてのヒトApo A−Vは、必ずしもヒトApo A−Vの全部である必要はなく、その一部の断片ペプチドであってもよい。
【0017】
ヒトApo A−Vの一部の断片ペプチドは、ヒトApo A−V遺伝子の一部断片がコードするヒトApo A−V断片や、ヒトApo A−Vのプロテアーゼ処理物、ホスファイト−トリエステル法(Ikehara,M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,5956(1984)) 等を用いた固相法や液相法による化学合成ペプチド等として免疫抗原として用いることができる。
【0018】
このようにして得られる上記のヒトApo A−Vにおいて、特に、免疫抗原として用いるヒトApo A−Vが小分子の一部ペプチドである場合には、本抗体の免疫反応性を向上させるために、ハプテンを結合させることができる。
【0019】
このハプテンとしては、通常はハプテンとして用いられ得る物質を任意に選択することが可能であり、例えば、傘貝ヘモシアニン(KLH)、ニワトリ卵アルブミン(OVA)、牛血清アルブミン(BSA)等をハプテンとして選択することができる。
【0020】
上記のペプチドとハプテンを結合させるために、架橋剤を用いることができる。かかる架橋剤は、選択するハプテンの種類に応じて適宜選択することができる。例えば、ハプテンとして、傘貝ヘモシアニンを選択する場合には、m−マレイニミドベンジル−N−ハイドロキシサクシンイミドエステル(MBS)等を用いることができる。なお、選択する架橋剤の種類に応じて、必要な処理を、上記のペプチドに施すことができる。例えば、上記のMBSを架橋剤として用いる場合には、結合反応に必要なスルフィド結合を有するシステイン残基を、上記ペプチドの両末端のいずれかに付加することが必要である。また、選択したペプチドにおけるシステイン残基は、これを他のアミノ酸に置換するか、保護基を結合させることによって保護することが好ましい。
【0021】
本抗体を製造するために、上述のようにして得られる免疫抗原で免疫される動物も、特に限定されるものではなく、マウス、ラット等を広く用いることが可能であり、細胞融合に用いる骨髄腫細胞との適合性を考慮して選択することが望ましい。
【0022】
本抗体が、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であるにかかわらず、免疫は一般的方法により、例えば、上記免疫抗原を免疫の対象とする動物に静脈内、皮内、皮下、腹腔内等で投与することにより行うことができる。
【0023】
より、具体的には、上記免疫抗原を所望により通常のアジュバントと併用して、免疫の対象とする動物に、2週間程度毎に、上記手法により数回投与することにより免疫を行う。
【0024】
本ポリクローナル抗体は、このように、上記免疫抗原により免疫を行った動物の抗血清として得ることができる。
【0025】
モノクローナル抗体は、当該免疫動物の、例えば、脾臓細胞を免疫細胞として用い、この免疫細胞と骨髄腫細胞との細胞融合により得られる、本抗体をモノクローナル抗体として産生するハイブリドーマにより得ることができる。
【0026】
上記の骨髄腫細胞としては、既に公知のもの、例えば、
SP2/0-Ag14,P3-NS1-1-Ag4-1,MPC11-45,6.TG1.7(以上、マウス由来);210.RCY.Ag1.2.3(ラット由来);SKO-007,GM15006TG-A12(以上、ヒト由来)等を用いることができる。
【0027】
上記免疫細胞と骨髄腫細胞との細胞融合は、通常公知の方法、例えばケーラーとミルシュタインの方法(Kohler,G. and Milstein,C.,Nature,256,495(1975))等に準じて行うことができる。
【0028】
より具体的には、この細胞融合は、通常公知の融合促進剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)又はセンダイウイルス(HVJ)等の存在下において、融合効率を向上させるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を必要に応じて添加した通常の培養培地中で行い、ハイブリドーマを調製する。
【0029】
所望のハイブリドーマの分離は、通常の選別用培地、例えばHAT(ヒポキサンチン,アミノプテリン及びチミジン)培地で培養することにより行うことができる。すなわち、この選別用培地において目的とするハイブリドーマ以外の細胞が死滅するのに十分な時間をかけて培養することによりハイブリドーマの分離を行うことができる。このようにして得られるハイブリドーマは、通常の限界希釈法により目的とするモノクローナル抗体の検索及び単一クローン化に供することができる。
【0030】
目的とするモノクローナル抗体産生株の検索は、例えばELISA法,プラーク法,スポット法,凝集反応法,オクタロニー法,RIA法等の一般的な検索法に従い行うことができる。
【0031】
このようにして得られるヒトApo A−Vを認識するモノクローナル抗体である本抗体を産生する本発明のハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することが可能であり、さらに液体窒素中で長時間保存することもできる。
【0032】
このハイブリドーマからの本モノクローナル抗体の採取は、ハイブリドーマを常法に従って培養して、その培養上清として得る方法や、用いるハイブリドーマに適合性が認められる動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法等を用いることができる。
【0033】
なお、インビトロで免疫細胞をヒトApo A−V又はその一部の存在下で培養し、一定期間後に上記細胞融合手段を用いて、この免疫細胞と骨髄腫細胞とのハイブリドーマを調製し、抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることで、本モノクローナル抗体を得ることもできる(Reading,C.L.,J.Immunol.Meth.,53,261(1982);Pardue,R.L.,et al.,J.Cell Biol.,96,1149(1983))。
【0034】
さらに、動物細胞発現ベクターに対してヒトApo A−Vをコードする遺伝子を導入した、ヒトApo A−V発現ベクターを直接動物に投与することによっても、当該動物においてヒトApo A−Vにより免疫を行うことができる。この手法は、上述したヒトApo A−Vによる直接免疫に代えて行うことも、両手法を組み合わせて行うことも可能である。なお、ここで用いられる動物発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3.1(+)(インビトロシジェン社製)、pRc/CMV(インビトロシジェン社製)等のサイトメガロウイルスプロモーターを用いた発現ベクター等を挙げることができる。
【0035】
また、上記のようにして得られる本抗体(モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体)は、更に塩析,ゲル濾過法,アフィニティクロマトグラフィー等の通常の手段により精製することができる。本抗体は、ヒトApo A−Vに特異反応性を有する抗体である。なお、この「ヒトApo A−Vに特異反応性を有する」とは、本抗体は、少なくとも、ヒトApo A−Vに対しては交差反応性を示すという意味である。
【0036】
このような性質の本抗体は、後述するように、臨床において用い得ることは勿論のこと、ヒトApo A−V自体の分離・精製のための試薬としても極めて有用である。
【0037】
本抗体についてのさらに具体的な内容は、実施例において後述する。このようにして得られる本抗体を、必要に応じて標識物質で標識して、後述する本発明に係わる測定方法等において用いることができる。
【0038】
かかる標識物質は、その標識物質単独で又はその標識物質と他の物質とを反応させることにより、検出可能なシグナルをもたらす標識物質であり、具体的には、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β−D−ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ,アルコール脱水素酵素,リンゴ酸脱水素酵素,ペニシリナーゼ,カタラーゼ,アポグルコースオキシダーゼ,ウレアーゼ,ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート,フィコビリタンパク,希土類金属キレート,ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、125I,14C,3H等の放射性同位体、ビオチン,アビジン若しくはジゴケシゲニン等の化学物質、又は化学発光物質等を挙げることができる。
【0039】
これらの標識物質による、本抗体の標識方法は、選択すべき標識物質の種類に応じて、既に公知となっている標識方法を適宜用いることができる。
【0040】
また、本抗体(標識されたものを含む)を、不溶性担体に固定化した、固定化抗体として、後述する本発明に係わる測定方法等に用いることもできる。
【0041】
さらに、本抗体は、必要に応じて、不溶性担体に固定化して用いることができる。かかる不溶性担体としては、抗体の不溶性担体として既に用いられている各種の不溶性担体を用いることができる。具体的には、例えば、マイクロプレートに代表されるプレート、試験管、チューブ、ビーズ、ボール、フィルター、メンブレン、あるいはセルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体、あるいは多孔性シリカ系担体等のアフィニティークロマトグラフィーにおいて用いられる不溶性担体等が挙げられる。
【0042】
これらの不溶性担体における、本抗体の固定化方法は、各種の不溶性担体において既に確立している抗体の固定化方法を、選択すべき不溶性担体の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0043】
B.本検出方法
本検出方法は、上述したように、本抗体を用いて、検体中のApo A−Vを定量検出することが可能な検出方法である。すなわち、本検出方法は、本抗体と既知の量のヒトApo A−V蛋白質とを接触させて決定された当該蛋白質の検量値と、当該抗体と検体とを接触させて得られた当該蛋白質の検量値を比較することによって、当該検体中のヒトApo A−V蛋白質を定量することを特徴とする、ヒトApo A−V蛋白質の検出方法であり、本検出方法により、被験者の脂質代謝異常を検出することが可能である。
【0044】
このような本検出方法の様態としては、例えばエンザイムイムノアッセイ法、ラジオイムノアッセイ法、フルオロメトリーによる解析、ウエスタンブロット法等を挙げることができるが、一般的には、エンザイムイムノアッセイ法による解析による方法を選択することが望ましい。 エンザイムイムノアッセイ法は、酵素免疫定量法ともいい、標識イムノアッセイ法のうち、酵素を標識物質として用いる検出方法である。エンザイムイムノアッセイ法には、いわゆるB/F分離を必要とするheterogeneous enzyme immunoassay”と、このB/F分離を必要としないhomogeneous enzyme immunoassay”とに大別される。本検出方法においては、これらのうち、一般的に測定感度が高いといわれる、前者のheterogeneous enzyme immunoassay”を選択することが好ましく、イムノソルベントを用いる、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)”を選択することがさらに好ましい。
【0045】
より具体的な検出態様として、いわゆるサンドイッチ法によるエンザイムイムノアッセイ法(以下、サンドイッチ法ともいう)を例示することができる。かかるサンドイッチ法は、特に、操作上の簡便性、経済上の利便性、とりわけ臨床検査としての汎用性を考慮すると、特に好ましい検出態様の一つである。
【0046】
このサンドイッチ法を行うに際しては、本抗体が、96穴マイクロプレートに代表されるような、多数のウエルを有するマイクロプレートに固定化された固定化抗体と、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素又はビオチンにより標識された本抗体を用いることが好ましい。
【0047】
サンドイッチ法は、少なくとも、下記(a) 及び(b) の工程を含む、エンザイムイムノアッセイ法である。
【0048】
(a) 不溶性担体に本抗体を固定化した固定化抗体に、血液検体等の検体を反応させる工程。
【0049】
この工程(a) においては、通常は、反応後、用いたマイクロプレートを洗浄し、未反応の検体は、固定化抗体から除去される。
【0050】
(b) 固定化抗体と、試料中のヒトApo A−Vとの結合により形成される、抗原抗体複合体に、西洋ワサビペルオキシダーゼやビオチン等により標識された本抗体を反応させる工程。
【0051】
この工程(b) においては、通常は、反応後、用いたマイクロプレートを洗浄し、未反応の標識された本抗体は、固定化抗体から除去される。
【0052】
また、この工程(b) においては、反応させた第2抗体における標識物質の種類に応じた標識シグナルの発現手段を用いて、標識シグナルを顕在化させることができる。例えば、標識物質としてビオチンを選択した場合には、アビジンやストレプトアビジンを用いて、標識シグナルを顕在化させることができる。また、例えば、標識物質として、西洋ワサビペルオキシダーゼを選択した場合には、その基質を必要に応じて発色物質と共に添加して、標識シグナルを顕在化することができる。
【0053】
このようにして、顕在化した発色シグナルを、その発色シグナルの種類に応じた、シグナルの特定手段を用いて検出することで検体中のヒトApo A−Vの検出を行うことができる。
【0054】
なお、本検出方法において用いられる検体は、本来、ヒトApo A−Vが存在する検体であれば特に限定されないが、本検出方法が、血清脂質異常に関連する事項について判定する方法であることや、本発明の臨床検査としての適応等を考慮すると、血漿等の血液検体であることが好ましい。
【0055】
本検出方法の検出対象である、検体中のヒトApo A−V量は、動脈硬化等の原因となり得る脂質代謝異常の有力な指標となる。すなわち、本検出方法により検出された検体中のヒトApo A−Vの異常により、検体提供者の脂質代謝異常を判定することができる。
【0056】
本検出方法においては、脂質代謝が正常であれば、検体中のヒトApo A−V量が正常値(182ng/ml程度)であるが、脂質代謝異常である場合には、量的に低い値か高い値を示すことによって、脂質代謝異常の判定がなされる。
【0057】
すなわち、本検出方法により、血液検体等の検体中のヒトApo A−V量が、正常値よりも多ければ、血中TG濃度とVLDL蛋白質量が標準よりも少ないことが予測される。逆に、血液検体等の検体中のヒトApo A−V量が、正常値よりも少なければ、血中TG濃度とVLDL蛋白質量が標準よりも多いことが予測され、これは動脈硬化の原因となり得る可能性の強い脂質代謝異常である。よって、特に、本検出方法で検出されるヒトApo A−V量が標準よりも少ない場合に、検体提供者における注意が必要になる。
【0058】
本検出方法で、「脂質代謝異常」と判定された検体提供者に対して、具体的な症状、例えば、動脈硬化に伴って起こることが多い、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞等が現れる前に、適切な処置を行うことが可能であり、予防医学上、極めて有用な方法である。
【0059】
本発明においては、本抗体を、本検出方法において用いるための、本抗体を含む脂質代謝異常判定用キットも提供される(以下、本キットともいう)。
【0060】
本キットにおいては、本抗体を、検体中のヒトApo A−Vの検出のために供する要素、例えば、前記の標識された本抗体や固定化された本抗体等が含まれ得る。
【0061】
本キットは、本検出方法に対応して、サンドイッチ法やフルオロメトリーによる判定や検出を容易に行い得る構成のキットであることが好ましい。
【実施例】
【0062】
下記に本発明の実施例を記載するが、これにより本願発明の範囲が限定されるものではない。
【0063】
ヒトApo A−V cDNAの作製
HepG2細胞よりmRNAを精製し、プライマー1、プライマー2、及びプライマー3、プライマー4を用いてRT−PCR法によりヒトApo A−V cDNA−1、及びApo A−V cDNA−2を増幅した。
プライマー1(配列番号3):5’-gacggatccaaaggcttctgggactacttcagcc-3’(forward)
プライマー2(配列番号4):5’-gacgtcgactcaggggtcccccagatggctgtgg-3’(reverse)
プライマー3(配列番号5):5’-gacgaattcagcagataatggcaagcatggctgc-3’(forward)
プライマー4(配列番号6):5’-gacgaattctcagtgatggtgatggtgatgggggtcccccagatggctgtggccc-3’(reverse)
【0064】
Apo A−V cDNA−1はヒトApo A−Vアミノ酸配列の22から363番目に対応する領域である。Apo A−V cDNA−2はヒトApo A−Vアミノ酸配列の1から363番目に対応し、さらにC末端にヒスチジン6個(ヒスチジンタグ)が融合するように設定されている。得られたApo A−V cDNA−1、及びApo A−V cDNA−2はプラスミドpBluescriptIISK- (STRATAGENE)に組み込み、シーケンシングを行い、ヒトApo A−VcDNA(Gene Bank Accession Number:NM_052968)の塩基配列と相違ないことを確認した。
【0065】
大腸菌を宿主としたリコンビナントヒトApo A−V(rhApo A−V E.coli)の作成
Apo A−V cDNA−1を大腸菌発現ベクターpQE-30(Qiagen)に挿入し、ベクターpQE-30/Apo A−Vを得た。このベクターを大腸菌株JM109(東洋紡)に導入し、大腸菌JM109/Apo A−Vを得た。この組替え大腸菌株を50μg/mlアンピシリンを含むTB培地にて培養し、1mM IPTGによりrhApo A−V_E.coliを発現誘導した。発現誘導後、培養液を遠心(5000rpm,5min,4℃)し、rhApo A−V_E.coli発現大腸菌体を得た。沈殿した菌体は0.5M NaCl含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に懸濁した後、氷上にてソニケーションにより破砕した。さらに、遠心(15000rpm,30min,4℃)によりrhApo A−V_E.coliを含む沈殿を回収した。沈殿は7M Urea、10mM Imidazole、及び0.5M NaCl含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に懸濁した後、氷上にてソニケーション処理し、遠心(15000rpm,30min,4℃)によりrhApo A−Vを含む上清を回収した。上清は予め7M Urea, 10mM Imidazole、及び0.5M NaCl含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて平衡化したNi-NTA agarose(Qiagen)に結合し、7M Urea、及び0.5M NaCl含有50mM酢酸緩衝液(pH4.5)にて溶出し、溶出画分を精製rhApo A−V_E.coliとした。BCA法によりBSAを用いた検量線から蛋白濃度を測定した。また、SDS−PAGEにより精製の純度を確認した(図1)。
【0066】
CHO−K1、細胞を宿主としたリコンビナントヒトApo A−V(rhApo A−V CHO)の製造
Apo A−V cDNA−2を動物細胞発現ベクターpEF321(Kim DG et al,Gene,91:217-223,1990)に挿入し、ベクターpEF321/Apo A−Vを得た。FuGENE6 Transfection reagent(ラフマンラロッシュ社製)を用いてpEF321/Apo A−VとpSV2neo (CLONTECH)を同時にCHO細胞に導入し、ネオマイシンの一種であるゲネチシン耐性を指標に導入した遺伝子が安定に組み込まれた細胞を選別し、ヒトApo A−V発現CHO細胞株(rhApo A−V/CHO)を得た。rhApo A−Vの発現は培養上清をWestern Blottingにより、Tetra・His Antibody(キアゲン社製)を用いてrhApo A−V_CHOのC末端に融合させたヒスチジンタグを検出することにより確認した。rhApo A−V/CHO細胞をCHO-S-SFMII培地(Gibco)で培養し、rhApo A−Vを含む培養上清を得た。培養上清はPBSにて予め平衡化したTALON(R) Metal Affinity Resins(クロンテック社製)に結合(培養上清100ml対しResin 1ml)させ、250mM Imidazole、及び0.5M NaCl含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて溶出(Resin 1mlに対し溶出液2ml)し、溶出画分を粗精製rhApo A−V_CHOとした(図2)。
【0067】
抗ヒトApo A−V モノクローナル抗体の製造
Apo A−V cDNA−2を動物細胞発現ベクターpcDNA3.1(+)(インビトロシジェン社製)に挿入し、ベクターpcDNA/Apo A−Vを得た。さらに、QIAfilter Plasmid Maxi Kit(キアゲン社製)を用いてpcDNA/Apo A−Vを精製し、1mg/mLの濃度になるようにPBSに溶解した。このプラスミドベクターpcDNA/Apo A−V溶液50μLをBalb/cマウス(雌、7週齢、日本SLC社製)の皮下に投与し、さらに2週間ごとに同様のプラスミドベクターpcDNA/Apo A−V溶液50μLをマウス皮下に合計7回ないし8回投与した。DNA溶液の最終投与から2週間後に、粗精製rhApo A−V_CHO 50μLをlmmunEasyTM Mouse Adjuvant(キアゲン社製)を用いてマウス皮下に、粗精製rhApo A−V_CHO 250μLをフロイント不完全アジュバントを用いてマウス腹腔内に投与した。粗精製rhApo A−V_CHO投与から3日後にマウス脾細胞を摘出し、ポリエチレングリコール1500溶液を用いてマウス骨髄腫細胞(SP2/0-Ag14)と融合させた。融合した細胞(ハイブリドーマ)は10%ハイブリドーマクローニングファクターを添加したHAT培地で選択した。抗ヒトApo A−Vモノクローナル抗体の産生は、粗精製rhApo A−V_CHOを固相したマイクロプレートを用いたELISA法によって選別した。すなわち、各ウェル当たりにPBSにて10倍希釈した粗精製rhApo A−V_CHO 100μLを固相化(4℃、一晩)し、洗浄後、各ウェルを5%スキムミルク含有PBSでブロッキングした。各ウェルを洗浄後、100μLの各ハイブリドーマの培養上清を添加し、室温下で2時間反応した。反応後、各ウェルを洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)で洗浄し、4,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗マウスIgG抗体を加えて、室温下で1時間反応した。反応後、洗浄液にてウェルを5回洗浄し、100μLの発色溶液(0.012%過酸化水素、0.4mg/mL OPD(o-phenulenediamine dihydrochloride、シグマアルドリッチ社製)含有クエン酸リン酸緩衝液、pH5.0)を添加後、室温課で30分間反応させ、2N硫酸を添加し、反応を停止した。反応停止後、波長492nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。1.0以上の吸光度を示すハイブリドーマ培養上清を陽性とし、選別した。抗ヒトApo A−Vモノクローナル抗体産生ハイブリドーマはさらに限界希釈法によりクローニングした。また、陽性のハイブリドーマ培養上清はウエスタンブロット法にて粗精製rhApo A−V_CHOに対する反応性を確認し、両方法にて特異性が認められたクローンを最終的に選別した。これらのクローンのうち2クローンを、独立行政法人産業技術総合研究所 特許微生物寄託センターに寄託した[mouse hybridoma E8E(FERM AP-20357) 、mouse hybridoma B10E(FERM AP-20358)]。
【0068】
ウェスタンブロット法は、1レーンあたり10μLの粗精製rhApo A−V_CHOを12.5%ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。0.1% Tween20含有PBS(洗浄液)にて2回洗浄後、洗浄液にて10倍から100倍に希釈した各モノクローナル抗体を含む培養上清を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、0.05μg/mLの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した。
【0069】
最終的に、粗精製rhApo A−V_CHOを固相化したマイクロプレートを用いたELISA法、及び粗精製rhApo A−V_CHO、またはヒト血漿に対するウェスタンブロット法により選別し、ヒトApo A−Vに対して反応するモノクローナル抗体産生クローンを5クローン得た。
【0070】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞からの抗体製造及び精製
Balb/cマウス(雌)に一匹あたりハイブリドーマ細胞10〜10個/0.5mLを腹腔内に注入した。注入10日後、マウスを開腹し、腹水を採取した。得られた腹水は、遠心にて細胞成分を取り除き、上清に等量の氷冷した飽和硫酸アンモニウム溶液を加えて混和し、氷冷し2時間放置した。次いで、10,000xgで10分間遠心後、上清を捨て、沈殿を結合溶液(3M塩化ナトリウム含有1.5Mグリシン溶液、pH8.9)に溶解し、蛋白質Aセファロースと混和し、4℃で一晩転倒混和した。結合させた蛋白質Aセファロースをカラムに充填し、6倍量の結合溶液にて洗浄後、溶出溶液(0.1Mクエン酸溶液、pH4.0)で1mLずつ溶出した。溶出された画分は、0.1mLの2Mトリス溶液(pH10.0)で中和した。各溶出画分の吸光度(280nm)を測定し、モノクローナル抗体の溶出画分を回収した。回収したモノクローナル画分はPBSにて透析(4℃、一晩)し、精製モノクローナル抗体を得た。
【0071】
得られたモノクロナール抗体のアイソタイプは、マウスモノクロナール抗体アイソタイプ決定用キット(べーリンガー社製)を用い、キットに添付されている操作手順に準じて測定した。精製ヒトApo A−Vに対するモノクローナル抗体産生は、IgG1(3クローン)、及びIgG2a(2クローン)であった。これらのうち、上記mouse hybridoma E8Eとmouse hybridoma B10E由来のモノクローナル抗体[抗体E8E(IgG1)と抗体B10E(IgG2a)]について、下記のように抗体の特異性を確認した。
【0072】
抗体の特異性は、精製rhApo A−V_E.coli、rhApo A−V_CHO培養上清、及びヒト血漿に対するウェスタンブロット法にて(図3)、及び抗原(粗精製rhApo A−V_CHO)を固相化したプレートを用いたELISA法による希釈抗体による反応曲線により確認した(図4)
ビオチン標識モノクローナル抗体の作製
上述のようにして得た、精製抗ヒトApo A−Vモノクローナル抗体(E8E)1mgを、0.1M炭酸水素ナトリウム溶液(pH8.3)にて4℃、16時間透析を行った。60μgのNHS−biotin(ピアス社製)を、DMSOに溶解したものを加え、撹絆しながら室温にて4時間反応させた。反応後、5LのPBSにて透析(4℃、一晩)を行い、ビオチン化モノクローナル抗体を得た。
【0073】
ヒト血漿中Apo A−V 蛋白質定量測定系の構築
96穴マイクロプレートに、PBSにて希釈した各固相化抗体(B10E抗体)溶液(5μg/mL)を、各ウェルに100μLずつ加え、4℃、一晩静置し固相化した。各ウェルの溶液を捨て、ぺーパータオルなどでウェル壁面の液を完全に取り除いた。BSA(シグマアルドリッチ社製)をPBSに溶解したブロッキング溶液を、各ウェルに200μLずつ加えて、室温下、2時間静置した。各ウェルを洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)300μLで2回洗浄した。予めサンプル希釈液(0.5% CHAPS、及び0.3% BSA含有PBS)にて希釈した測定試料(精製rhApo A−V_E.coli,rhApo A−V_CHO培養上清、もしくはヒト血漿)を100μLずつ加えて、室温下、2時間静置した。洗浄液で各ウェルを5回洗浄し、抗体希釈液(0.1% Tween20、及び0.3%BSA含有PBS)で希釈したビオチン標識抗体溶液(0.5μg/mL)を各ウェルに100μLずつ加え、室温下、2時間静置した。洗浄液で各ウェルを5回洗浄後、抗体希釈液で希釈したペルオキシダーゼ標識アビジン溶液(0.05μg/mL)100μLを加えて、室温下、1時間反応させた。次いで、洗浄液で5回洗浄後、使用直前に調整した発色溶液(0.012% 過酸化水素、及び0.4mg/mL OPD(o-phenilendiamine dihydrochloride)含有クエン酸・リン酸緩衝液、pH5.0)を各ウェルに100μLずつ加え、室温下、30分問反応させた。反応後、50μLの反応停止液 2N硫酸溶液)を各ウェルに加え、反応を停止し、マイクロプレートリーダーにて吸光度(波長492nm)を測定した。
【0074】
精製rhApo A−V_E.coliを用いた検量線を図5に示した。また、精製rhApo A−V_E.coli、 rhApo A−V_CHO培養上清、及びヒト血漿に対するそれぞれの反応性を図6に示した。これらの結果より、本サンドイッチELISAにおける反応性は、精製rhApo A−V_E.coli、及びヒト血漿において同等であることが示された。
【0075】
Apo A−V遺伝子多型の解析
Apo A−V遺伝子多型T1131Cの解析は、インベーダーアッセイにより行った。すなわち、被検者血液よりDNA抽出キット(キアゲン社製)を用いてDNAを抽出した。384ウェルプレートにゲノムDNA(20ng/μl)、及び陰性、陽性コントロール用合成オリゴヌクレオチド(150ng/3.0μl/ウェル)を加える。
【0076】
インベーダーオリゴ(配列番号7):5‘-GTGGAGTTCAGCTTTTCCTCATGGGGCAAATCTA-3’
プローブオリゴ1(1131T)(配列番号8):5‘-ACGGACGCGGAGCACTTTCGCTCCAGTTV-3’(RED)
プローブオリゴ2(1131C)(配列番号9):5‘-CGCGCCGAGGTACTTTCGCTCCAGTTCV-3’(FAM)
【0077】
さらに各ウェルにミネラルオイルを6.0μl/ウェルで加え、プレートを95℃、10分聞インキュベートする。インキュベート後、3μlのプローブ/クリーべ一ス/塩化マグネシウム溶液(PPIミックス1.2μl+フレットバッファー1.4μl+クリーべース/塩化マグネシウム溶液0.4μl)を各ウェルに加え、サーマルサイクラーPTC−100(エムジェイジャパン株式会社製)で63℃、4時間反応させる。反応後、各ウェルの蛍光強度をサイトフロー4000(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてFAM(Excitation 485nm/Emission 530nm)、及びRED(Excitation 560nm/Emission 620nm)の蛍光強度を測定する。得られたFAM、及びREDの蛍光強度を下記の公式を用いてアレル比を求め、変異の有無を決定する。
【0078】
【数1】

【0079】
上記式にて得られた被検サンプルの遺伝子型は以下のように求められる。
【0080】
【表1】

【0081】
ヒト血漿Apo A−V蛋白質量と脂質代謝異常症との関連
健常者208名(平均年齢34.8±8.1歳(mean±SD))におけるApo A−V蛋白質量は182.0±77.0ng/mLであった。血中脂質パラメーター(総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、ApoA−I,ApoA−II,ApoB,ApoC−II,ApoC−III、及びApoE)との関連において、HDLコレステロール(r=0.227、P<0.001)、ApoA−I(r=0.183、P<0.001)、ApoE(r=0.244、P<0.0005)とは、正相関が認められたが、その他の脂質パラメーターとは相関が認められなかった。
【0082】
Apo A−VのSNP3(T1131C)において、TT型が108名、TC型が34名、CC型が17名であった。各T1131C多型におけるApo A−V濃度は、TT型が194.4±80.8ng/mL、TC型が173.8±69.6ng/mL、CC型が144.9±75.1ng/mLと、血中Apo A−V濃度は、CC型<TC型<TT型であり、TT型は、CC型(P<0.005)とTC型(P<0.05)と比較して有意に低値であった。
【0083】
さらに、高脂血症患者73例(血中中性脂肪濃度142.2±93.2mg/dL)、及び糖尿病患者87例(血中中性脂肪濃度172.1±128.0mg/dL)において、血中Apo A−V濃度は、それぞれ77.2±85.7ng/mL、70.8±46.6ng/mLと、健常者(Apo A−V濃度 182.0±77.0mg/dL、血中中性脂肪濃度 95.9mg/dL)と比較し有意に低値であった(P<0.01)。
【0084】
すなわち、血中Apo A−Vは、中性脂肪を加水分解する酵素であるリポ蛋白質リパーゼ(LPL)を活性化する作用を有していることから、中性脂肪代謝に密接に関与し、血中Apo A−V濃度は、血中中性脂肪代謝を知る一因子であることが示された。さらに、ApoC−IIIはLPL活性に対して阻害作用を、ApoC−IIは促進作用を示すことが知られている(Fruchart-Najib J,et al,Biochem Biophys Res Commun,319:397-404,2004;Schaap FG,et al,J Biol Chem,279:27941-27947,2004) 。血中中性脂肪濃度(TG)とlogTGに対して、Apo A−V/ApoC−III比は負の相関(TG:r=-0.319、P<0.0001;logTG:r=-0.449、P<0.0001)を示し、ApoC-II/ApoC-III比は正の相関(TG:r=0.425、P<0.0001;logTG:r=0.484、P<0.0001)を示すことから、LPL活性に関わる因子の濃度に依存してLPL活性を調節し、中性脂肪代謝に関与していることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】精製rhApo A−V_E.coliをSDS−PAGEにて電気泳動した図面である。
【図2】粗精製rhApo A−V_CHOをSDS−PAGEにて電気泳動した図、及び抗Apo A−V抗体にてApo A−V蛋白質を検出したウェスタンブロット図を表す図面である。
【図3】精製抗ヒトApo A−Vモノクローナル抗体E8E、及びB10EのrhApo A−V_E.coli, rhApo A−V_CHO、及びヒト血漿に対する特異性を検討したウェスタンブロット図を表す図面である。
【図4】粗精製rhApo A−V_CHOを固相化プレートにて抗体の反応性を検討した結果を示す図面である。
【図5】Apo A−VサンドイッチELISAの検量線を示す図面である。
【図6】サンドイッチELISAにおけるrhApo A−V_E.ooli、rhApo A−V_CHO、及びヒト血漿に対する反応性を検討した結果を示す図面である。
【図7】血中中性脂肪濃度と脂質パラメーターApo A−V/ApoC−III比との関係を示した図面である。
【図8】血中中性脂肪濃度と脂質パラメーターApoC−II/ApoC−III比との関係を示した図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトApo A−V蛋白質に対する抗体。
【請求項2】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の抗体と既知の量のヒトApo A−V蛋白質とを接触させて決定された当該蛋白質の検量値と、当該抗体と検体とを接触させて得られた当該蛋白質の検量値を比較することによって、当該検体中のヒトApo A−V蛋白質を定量することを特徴とする、ヒトApo A−V蛋白質の検出方法。
【請求項4】
前記検出方法により得られた被験者のヒトApo A−V蛋白質の定量値と、当該蛋白質の定量値の標準とを比較して、当該定量値が当該標準と異なる場合に、これを脂質代謝異常として評価することを特徴とする、請求項3記載のヒトApo A−V蛋白質の検出方法。
【請求項5】
前記被験者のヒトApo A−V蛋白質の定量値が、標準よりも小さいことを特徴とする、請求項4記載のヒトApo A−V蛋白質の検出方法。
【請求項6】
前記抗体を構成要素として含むことを特徴とする、請求項5又は6に記載の検出方法を行うための、脂質代謝異常判定用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−214765(P2006−214765A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25478(P2005−25478)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(591083336)株式会社ビー・エム・エル (31)
【Fターム(参考)】