説明

ヒトIVF由来胚のプロテオームフィンガープリンティング:発生能のバイオマーカーの同定法

本発明は、個々のIVF由来ヒト胚の発生能の予測因子としての予後的価値を有するバイオマーカーおよびバイオマーカーの組み合わせを開示する。特に、本発明のバイオマーカーは、子宮内移植後の着床能力または着床不能性を有する胚を分類するのに有用である。さらに、バイオマーカーは、発生中の胚を損傷しない非侵襲的方法によって検出することができる。発生能の確度の高い診断を行なうため複数の分類子を用いる方法のみならず、本発明のバイオマーカーを検出する発生能予測用のキットも開示される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
6組中1組までの夫婦が不妊で苦しんでいる。多くにとって、インビトロ受精(IVF)治療は唯一の最適な処置である。この治療は何十万もの夫婦が子供を有するのに役立ってきたが、成功率は比較的低いままであり、処置周期当たりの生存出生率は世界中でおよそ35%である。初期の成功した妊娠検査結果をもたらすIVF治療に続いて2〜3週間後に、新たな障害、すなわち多胎妊娠を示す超音波が非常に頻繁に生じる。
【0002】
単胎妊娠および生存出生が、患者および医師ともに究極の目標である一方で、多胎妊娠は不幸にも不妊治療に関連する病的状態の主な原因の1つであり、かつ健康管理システムにとっての主要な経済的負担も結果的にもたらす。介助生殖技術を利用する場合に多胎懐胎するリスクが高い一方で、わずか2〜3のセンターしか選択的減少(多胎妊娠内部での胎児の数の減少)を選択肢として夫婦に提案していない。多胎懐胎を出産まで維持しようと試みる妊婦は、妊娠性糖尿病、子癇前症(妊娠中毒症)、妊娠誘導高血圧、早期陣痛、膣/子宮出血、およびその他の合併症などの妊娠の合併症を発症するリスクの増大に直面する。胎児および子供へのリスクは、大抵は未熟分娩と関連し、および非常に重篤な合併症を引き起こし得る。単生児と比較して、双子は生後1年で死ぬ可能性が約5倍高い。三つ子については、このリスクが単生児のリスクの約13倍である。生涯にわたるハンディキャップ(例えば、脳性麻痺、精神遅滞)を有するリスクは、一つ子と比較して双子について約10倍増大し、かつこれらのリスクは三つ子について実質的により高い。四つ子およびその他の高次の妊娠は、はるかによりリスクを伴う。幸いなことに、現在の胚移植政策に従って、診療はより少ない胚を移植する方向へと向かい、三つ子を越える妊娠はIVFでは次第に稀になりつつある。
【0003】
これらの問題の解決策はIVF後に(最も良好な予後を有する患者において)ただ1つのまたは(平均を下回る予後を有する患者において)2つの胚を移植することであると考えられるという一般的な見解の一致がある。様々な予後群は、患者の年齢、胚が凍結用に入手可能であるかということ、および患者のIVF失敗の病歴などの因子によって決定される。全ての場合で1つの胚を移植するという究極の目的は近い将来において達成されない可能性が高いと考えられるが、不妊専門家は妊娠対非妊娠と単胎妊娠対多胎妊娠の間の理想的なバランスを有するために移植する胚の最も適切な数を得ようと努力し続けている。
【0004】
過去、胚移植の大多数は、胚が4〜8細胞を有する「卵割段階」の(採卵およびその後のインビトロ受精後)3日目に行なわれた。これに関する1つの問題は、3日胚は通例子宮ではなく、ファローピウス管で見出されるということである。着床過程は約3日後、胚盤胞形成(およそ100細胞段階胚)の後に始まる。健康な胚盤胞は、6日目の終わりまでに、透明帯と呼ばれる、その外殻からハッチし始めるはずである。ハッチ後約24時間以内に、それは母親の子宮の内膜中に着床し始めるはずである。3日目に移植することに関するその他の問題は、その段階の多くの胚が発生を続けかつ質の高い胚盤胞になる能力を有さないということである。最近の進歩によって、インビトロ培養系過程を延長しかつ着床前期間の全体を通じた胚発生を支持するよう設計された段階特異的な胚培養培地の製剤化が容易になったが、3日胚のわずか25%〜60%しか胚盤胞段階に到達しない。しかしながら、5日目の主な胚盤胞を選ぶことによって、最も高い発生能がある胚、すなわち生存し、子宮内移植後に首尾よく着床し、および満期妊娠に至る最も高い可能性がある生存可能な胚をさらに分化させる性質を与えることができる。ヒト胚盤胞の培養および移植で達成される結果として得られる着床率は、卵割段階胚の子宮への移植と関連する着床率よりも実際に高い。唯一の注意は、胚盤胞を産生する患者の能力に著しいばらつきがあり、および3日胚のどれが5日目に生存可能でかつ頑強であるかということを決定するための信頼できる方法が現在ないということである(Day 3 morphology is a poor predictor of blastocyst quality in extended culture. 2000. Graham et al., Fertil Steril. 74(3):495-7)。それゆえ、胚盤胞移植を試みるリスクとは、5日目に移植に利用可能な胚がないという可能性である。したがって、これらの後者の場合、良好な着床率を達成しようとして3日目により多くの胚を移植する傾向がある。
【0005】
着床前エクスビボ培養期間中に顕微鏡観察に基づいて子宮内移植用のヒトIVF由来胚を選択することは最先端技術である。そのような特色は、移植時に、胚の最初の分裂(卵割)および胚細胞形態スコアリングの時である、前核段階ならびに卵割段階での核小体並列(典型的には培養の2〜5日目に行なわれる)を含む。各胚の発生能についてのこれらの観察の予測的価値は非常に限定されている。18%の生化学的妊娠率および27%の自然中絶率を有するインビトロ受精後の早期妊娠損失の発生率は高いように思われる(Early pregnancy loss in in vitro fertilization(IVF)is a positive predictor of subsequent IVF success. 2002. Bates and Ginsburg. Fertil Steril. 77(2):337-41)。それゆえ、IVF技術における改良はあるものの、着床失敗が胚移植による多数の損失の原因である可能性があり、および発生能のこの着床能力面が最適化される必要がある領域の1つである。上の限界を克服するために、臨床設定では多数の胚が典型的に移植され、それはより高い妊娠率を結果的にもたらし得るが、 上で考察されたような多胎懐胎の主要な合併症も引き起こし得る。
【0006】
胚盤胞移植は現在、より高い満期妊娠率を達成することとその一方で多胎妊娠のリスクを最小化することの間の最良のバランスを提供するが、移植される5日胚の数の単なる減少によって多くの夫婦のための全体としての妊娠の機会を依然としてかなり減らし得るという重大な懸念が残る。1つの胚を移植しかつあらゆる処置周期にあらゆる夫婦のための1つの満期妊娠および生存出生を結果的にもたらすという目標は、最も高い発生能がある胚を選ぶことができる場合にのみ達成されることができると考えられる。
【0007】
これらの限界によって、IVF治療から結果的にもたらされる生存、着床能力、およびその後の満期妊娠と相関するバイオマーカーを同定するための進行中の検索が勢い付けられている。インターロイキン-(IL)18は、不十分な子宮内受容における予後因子としてのその使用が研究されている(Detectable levels of interleukin-18 in uterine luminal secretions at oocyte retrieval predict failure of the embryo transfer. 2004. Ledee-Bataille et al., Hum Reprod. 2004. 19(9):1968-73)。排卵前の卵胞液中のマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)のレベルは、ヒトIVFにおける成功した着床の診断前マーカーとしてのその使用が研究されている(The expression of matrix metalloproteinase-9 in human follicular fluid is associated with in vitro fertilization pregnancy. 2005. Lee et al., BJOG. 112(7):946-51)。米国特許第5,635,366号で、女性患者由来の生物学的試料中の11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β-HSD)のレベルが、IVFによって対象における妊娠を確立させる確率を決定することが示されている。米国特許第6,660,531号は、血清中で直接的にまたはIVF/ET手順の一部として、患者から抽出される顆粒膜黄体細胞を培養することによって間接的に、リラキシンのレベルを測定することによって、インビトロ受精(IVF)または胚移植(ET)が成功する確率を決定する方法を開示している。これらの非侵襲的方法は、不十分な子宮内受容を予測し、かつ各々の将来の母親のための、より正確な全体としての予後をもたらすのに役立ち得るが、それらは胚品質とは無関係であり、および胚の各コホートは、様々な程度の発生能、染色体異常、形態特徴などがある正常卵および変性卵の両方を含む不均一な集団を表し得る。
【0008】
ある研究によって、着床前胚におけるアポトーシスの調節を解析することは胚生存能力および発生能の両方を予測し得るが、これらの方法は侵襲的でありかつ胚を傷付け得るということが示唆されている(Apoptosis in mammalian pre-implantation embryos:regulation by survival factors. 2000. Brison. Hum Fertil (Camb). 3(1):36-47)。
【0009】
着床能力についての低い予測価値を示す、発生中のヒト胚の培養培地中の個々のタンパク質を検出する非侵襲的方法の報告がある(hCG;Analysis of chorionic gonadotrophin secreted by cultured human blastocysts. 1997. Lopata et al., Mol Hum Reprod. 3(6):517-21、可溶性HLA抗原;Expression of sHLA-G in supernatants of individually cultured 46-h embryos:a potentially valuable indicator of embryo competency and IVF outcome. 2004. Sher et al., Reprod Biomed Online. 9(1):74-8)。さらに、インビトロ培養中の炭水化物代謝およびアミノ酸回転を研究することによるヒトIVF胚の選択に関する刊行物がある(Identification of viable embryos in IVF by non-invasive measurement of amino acid turnover. 2004. Brison et al., Hum. Report. 19(10):2319-24およびNon-invasive assessment of human embryo nutrient consumption as a measure of developmental potential. 2001. Gardner et al., Fertil. Steril. 76(6):1175-80)。同様に、より最近の研究は、その他のIVF由来哺乳動物胚によるアミノ酸の混合物の枯渇および出現のパターンを見ている(Amino acid metabolism of the porcine blastocyst. 2005. Humpherson et al., Theriogenology. 64(8):1852-66)。
【0010】
任意の診断検査の有効性は、その特異性および選択性、または真陽性、真陰性、偽陽性、および偽陰性診断の相対的比率に依存する。任意の条件についての真陽性および真陰性診断のパーセンテージを増大させる方法は、望ましい医療目標である。全般に、胚の発生能を予測するのを支援し得る個々のバイオマーカーの同定にもかかわらず、現在のIVF実施を変化させるものはまだ出て来ていない。各々の発生中の胚で起こる遺伝子および分子改変の複雑さを考えれば、個々の分子変化そのものに加えて、これらの複雑な変化を反映する発現パターンも胚の発生能を診断する際の不可欠な情報を持つ可能性がある。
【0011】
したがって、複雑な試料中の多数のタンパク質の発現プロファイルを見る、プロテオーム調査は、前途有望な臨床的適用を有する。臨床的プロテオミクスの第一の狙いは、診断および治療的介入に用いることができる、異なる生理的状態のプロテオームプロファイルを比較することによって、差次的に発現したバイオマーカーを同定することである。免疫アッセイに加えて、プロテオーム調査は、群間の体液標本におけるタンパク質発現の差を検出するために2次元ゲル電気泳動を伝統的に伴ってきた(Srinivas, P.R., et al., Clin Chem. 47:1901-1911(2001);Adam, B.L., et al., Proteomics 1:1264-1270(2001))。2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)は、タンパク質発現の差の分離および検出のためのプロテオームを探索する際の古典的なアプローチであるが、それが面倒で、労働集約的で、再現性問題に苦しみ、かつ臨床設定で簡単には適用されないという点で、それはその限界を有する。
【0012】
複雑な生物学的混合物のタンパク質プロファイリングを容易にすることにおける最近の技術的進歩の1つは、質量分析(MS)である。質量分析に基づくプロテオミクスは、生物学的試料のプロテオーム全体を解析する一方で、個々のタンパク質および多数のタンパク質を同時に検出および定量することを可能にした。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)-飛行時間型(TOF)-MS法は、タンパク質溶液を典型的にはマトリックスと予め混合しおよび不活性表面上で乾燥させる場合、複雑な生物学的試料中に存在する各々の個々のタンパク質の直接的同定を提供することができる。生物学的試料中のタンパク質ピークを特徴付けた後、試料をさらに解析し、タンパク質プロファイルまたはタンパク質シグネチャーを作成することができる。
【0013】
同様に、表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(SELDI-TOF-MS)は、タンパク質チップアレイに結合したタンパク質を検出しおよびシグネチャータンパク質プロファイルの同定を容易にする(Kuwata, H., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 245:764-773(1998);Merchant, M., et al., Electrophoresis 21:1164-1177(2000))。MALDIおよびSELDI技術は、2D-PAGEより優れたたくさんの利点を有する:それらはずっとより速く、高スループット能力を有し、何桁もより低い量のタンパク質試料を必要とし、低い質量およびより高い質量のタンパク質(500〜100,000 Da)を効率的に分けることができ、ならびにアッセイ開発用に直接的に適用できる。
【0014】
質量分析に基づく定量的プロテオミクスの適用によって、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、ならびに頭部および頸部癌の早期検出への大きな潜在的可能性が示されている(Li,J., et al., Clin. Chem. 48:1296-1304(2002);Adam, B., et al., Cancer Res. 62:3609-3614(2002);Cazares, L.H., et al., Clin. Cancer Res. 8:2541-2552(2002);Petricoin, E.F., et al., Lancet 359:572-577(2002);Petricoin, E.F. et al., J. Natl. Cancer Inst. 94:1576-1578(2002);Vlahou, A., et al., Amer. J. Pathology 158:1491-1502(2001);Wadsworth, J.T., et al., Arch. Otolaryngol. Head Neck Surg. 130:98-104(2004))。
【0015】
臨床的に妥当な羊膜内炎症のバイオマーカーを抽出するために、SELDIプロテオミクス技術が用いられている。未熟児を分娩する羊膜内炎症を有する患者は、独特の羊膜液プロテオームプロファイルを有し、およびこの方法論はインユテロでの胎児損傷を防ぐための介入によって利益を多く受け得ると考えられる患者の亜群を同定する可能性がある(Proteomic biomarker analysis of amniotic fluid for identification of intra-amniotic inflammation. 2005. Buhimschi et al., BJOG. 112(2):173-81)。さらに、子宮内妊娠と子宮外妊娠を区別し得る幾つかのバイオマーカーが女性の血清試料中で同定された(A serum proteomics approach to the diagnosis of ectopic pregnancy. 2004. Gerton GL, Fan XJ, Chittams J, Sammel M, Hummel A, Strauss JF, Barnhart K. Ann N Y Acad Sci. 1022:306-16)。これらの研究は、再現可能でかつ一貫性のあるヒト試料の解析用のSELDIプラットフォームの潜在的可能性を証明し、およびこのアプローチをその他の生体液または検査試料の解析に利用し得るということを示している。
【0016】
しかしながら、現在まで、本発明者らが承知する限り、MALDIおよびSELDIの使用は、発生能力のあるIVF由来ヒト胚それ自体またはそれらがエクスビボで培養された培地の特有のバイオマーカーまたはタンパク質フィンガープリントを同定するために利用されていない。
【0017】
インビトロ培養の期間中に、最も高い発生能がある胚の選択を可能にすると考えられるバイオマーカーおよび/またはタンパク質プロファイルを同定することは、現在は単に顕微鏡による評価に基づいている、移植用の胚を選択するための現行の方法を相補すると考えられる。臨床的プロテオミクスは、IVFを専門とする医師が、増殖中の胚の所与のコホートから1つの胚を効率的かつ迅速に選択することを可能にすると考えられ、最適な発生能がある胚を移植することができるということを保証している。さらに、プロテオミクスは、現行の顕微鏡による評価で今のところ可能であるよりも早く胚を選択しおよび現在のインビトロでの延長培養期間を最小限にし、または究極的には避けることにつながるのに役立ち得る。その上、診断的タンパク質プロファイルまたはアルゴリズム内での特異的な予測バイオマーカーの同定を用いて、MALDIまたはSELDI技術を身に付けていない可能性がある平均的な医療テクニシャンによって利用されることができるELISA、抗体捕捉、マイクロチップ、またはキットなどのより迅速でかつ費用効率的な方法を開発することができる。それゆえ、そのようなプロテオミクスの臨床的適用は、それが多胎懐胎の発症を排除すると考えられるだけでなく、満期妊娠を結果的にもたらす各々のIVF周期の可能性を増大するとも考えられるので、介助生殖技術における劇的な影響を有すると考えられる。さらに、多胎妊娠が健康システムにとっての主要な経済的負担を表す一方で、ほとんどの場合、不妊夫婦の感情的投資によって度合いが強くなった、保険担保の欠如によって、IVF失敗後の反復周期は望ましくないものになっている。本発明は、これらおよびその他の重要な目標に取り組む。
【発明の開示】
【0018】
発明の簡単な概要
本発明は、ヒトIVF由来胚の発生能の予測因子としての予後的価値を有するバイオマーカーに対して向けられている。これらのバイオマーカーは、発生能を有するIVF由来ヒト胚のエクスビボ増殖を支持するために用いられる培養培地中と、発生能を有しないIVF由来ヒト胚のエクスビボ増殖を支持するために用いられる培養培地中とに差次的に存在する。本発明はまた、これらの新規マーカーを検出することによってIVF由来ヒト胚の発生能の診断の支援として用いることができる感度の良い方法およびキットを提供する。培養培地試料中での、単独でのまたは組み合わせた、これらのバイオマーカーの検出および測定によって、IVF由来ヒト胚の発生能の予後と関連付けることができる情報が提供される。バイオマーカーは全て、分子量によって特徴付けられる。例えば、質量分析と連結したクロマトグラフィーによる分離によって、または伝統的な免疫アッセイによって、バイオマーカーを試料中のその他のタンパク質から分けることができる。好ましい態様において、分解の方法はマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析または表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)質量分析を伴う。
【0019】
本発明のある形態において、発生能の診断を支援し、またはさもなければ、発生能の診断を行なうための方法は、IVF由来胚培養培地由来の検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを検出する工程を含む。
【0020】
バイオマーカーは、約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6、4093±8.2、37820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンからなる群より選択される分子量を有する。本方法には、検出を発生能の予後予測と関連付ける工程がさらに含まれる。
【0021】
本方法には、少なくとも1つのバイオマーカーの検出および測定を、新鮮胚または凍結胚の子宮内移植後の成功した着床およびその後の満期妊娠終点の予後予測と関連付ける工程がさらに含まれる。本発明の別の形態において、本方法は、どの凍結保存胚が最も高い(融解後)生存の可能性、それに続く移植後の最も高い着床能力、それに続く満期妊娠を産生する最も高い可能性を有すると考えられるかという予後予測を行なうことを容易にすると考えられる。
【0022】
ある態様において、相関によって、試料中の1つもしくは複数のマーカーの量および/または特徴付けされた対照中の同一の1つもしくは複数のマーカーの検出の頻度が考慮される。
【0023】
別の態様において、1つまたは複数のマーカーを検出するために気相イオンスペクトロメトリーを用いる。例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析を用いてもよい。
【0024】
ある態様において、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)を用いて生物学的試料中に存在する各々の個々のバイオマーカーの直接的同定を提供してもよい。生物学的試料中のタンパク質ピークを特徴付けした後、試料をさらに解析してタンパク質プロファイルまたはタンパク質シグネチャーを作成してもよい。
【0025】
別の態様において、マーカーを検出するために用いられるレーザー脱離/イオン化質量分析は:(a)付着させた吸着剤を含む基板を提供する工程;(b)試料を吸着剤と接触させる工程;ならびに(c)質量分析計により1つまたは複数のマーカーを脱離およびイオン化させる工程を含む。任意の好適な吸着剤を用いて1つまたは複数のマーカーを結合させてもよい。例えば、基板上の吸着剤は、陽イオン性吸着剤、抗体吸着剤などであってもよい。
【0026】
別の態様において、1つまたは複数のマーカーを検出するために免疫アッセイを用いることができる。
【0027】
別の態様において、試料中の1つまたは複数のマーカーを検出するためにNMR分光法を用いてもよい。
【0028】
本発明に従って、少なくとも1つのバイオマーカーを検出してもよい。同定されたバイオマーカーの幾つかまたは全てを含む、1つまたは複数のバイオマーカーを検出し、およびその後解析し得るということが理解されるべきであり、かつ本明細書において記載されている。さらに、本発明の1つもしくは複数のバイオマーカーを検出しないこと、または着床能力と相関し得るレベルもしくは量でのその検出は、移植するための最も良好な胚を選択する手段として有用でかつ望ましい場合があるということ、および同じことが本発明の企図された局面を形成するということが理解されるべきである。
【0029】
本発明のまた別の局面において、複数の分類子(classifier)を用いて着床能力の確からしい予測を行なう方法が提供される。本発明のある形態において、方法には、a)成功した着床およびその後の生存出生、生存出生を結果的にもたらさない成功した着床、ならびに失敗した着床試料由来の複数の試料からマススペクトルを得る工程;b)少なくとも一部のマススペクトルに決定木解析を適用してピーク強度値および関連閾値を含む複数の加重基本分類子を得る工程;ならびにc)複数の加重基本分類子(weighted base classifier)の直線的組み合わせに基づいて着床能力および満期妊娠の予後予測を行なう工程が含まれる。本発明のある種の形態において、本方法には、直線的組み合わせでピーク強度値および関連閾値を用いて確からしい予測または診断を行なう工程が含まれてもよい。
【0030】
約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6、4093±8.2、37820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンからなる群より選択される分子量を有する少なくとも1つのバイオマーカーを用いて発生能の予後診断を行なうための複数の分類子を開発および/または使用するためにコンピュータにより履行される過程を行なうようコンピュータに指示するためのコンピュータ指示をその中に保管するコンピュータプログラム媒体を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0031】
本発明の別の局面において、キットが提供され、ならびに本明細書において記載されたバイオマーカーの検出において利用されてもよく、およびさもなければ診断するのに用いられ、またはさもなければ発生能の診断を支援するのに用いられてもよい。ある態様において、キットは、生物学的試料中に存在する個々のバイオマーカーを検出するためにMALDIを利用してもよい。本発明のある形態において、キットには、約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6、4093±8.2、37820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンからなる群より選択される分子量を有する少なくとも1つのバイオマーカーを保持することができる、少なくとも1つの捕捉試薬をその中に含む吸着剤;ならびに吸着剤と検査試料を接触させかつ吸着剤によって保持されたバイオマーカーを検出することによってバイオマーカーを検出するための取扱説明書が含まれてもよい。本発明のある形態において、吸着剤は、SELDIプローブ、バイオマーカーに特異的に結合する抗体、陽イオン交換クロマトグラフィー吸着剤、陰イオン交換クロマトグラフィー吸着剤、または生体分子特異的吸着剤であってもよい。
【0032】
本発明のまた別の態様において、キットには、複数のバイオマーカーを検出するための吸着剤の使い方に関する取扱説明書が含まれてもよい。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明の原理の理解を促進する目的のために、好ましい態様に対してこれから言及し、および特定の言語を用いて同じことを記載する。それにもかかわらず、本発明の範囲の限界はそれによって意図されず、本明細書において例証されるような本発明の変更およびさらなる修正、ならびに本発明の原理のさらなる適用が、本発明が関連する技術分野の専門家に通例想起されると考えられるようなものとして企図されるということが理解されると考えられる。
【0034】
I、序論
本発明は、子宮に移植される前に個々のIVF由来ヒト胚を維持するために用いられる着床前胚培養培地中のバイオマーカーを検出する新規でかつ非侵襲的な手順を提供する。本方法には、これらのバイオマーカーの検出および測定を、胚生存で始まる発生、子宮内移植後の着床、および満期妊娠の任意のまたは全ての連続的段階を含むことができる、発生能の予後と関連付ける工程がさらに含まれる。良好な発生能があると診断されたIVF由来ヒト胚は、生存し、子宮内移植後に首尾よく着床し、および/または満期妊娠に至る高い可能性を有する。良好でない発生能があると診断されたIVF由来ヒト胚は、生存し、子宮内移植後に首尾よく着床し、または満期妊娠に至る低い可能性を有する。本発明の別の形態において、本方法は、どのIVF由来胚が成功した着床を産生する最も高い可能性を有すると考えられるかということの予後診断または予測を行なう工程を容易にする可能性がある。本発明の別の形態において、本方法は、どのIVF由来胚が成功した着床後の次の満期妊娠を結果的にもたらす最も高い可能性を有すると考えられるかということの予後診断または予測を行なう工程を容易にする可能性がある。
【0035】
個々のIVF由来ヒト胚は、前核形成の同定後すぐに選択され、または任意の日の着床前インビトロ培養より選択される新鮮胚であってもよい。個々のIVF由来ヒト胚はまた、以前に(前核形成後の任意の時期に、例えば、卵割および/または胚盤胞段階の間に)凍結され、ならびに融解および移植される凍結保存胚であってもよい。本発明の別の形態において、本方法は、どのIVF由来凍結保存胚が融解後の生存の最も高い可能性を有すると考えられるかということの予後診断または予測を行なう工程を容易にする可能性がある。本発明の別の形態において、本方法は、どのIVF由来凍結保存胚が成功した着床を産生する最も高い可能性を有すると考えられるかということの予後診断または予測を行なう工程を容易にする可能性がある。本発明の別の形態において、本方法は、どのIVF由来凍結保存胚が満期妊娠を産生する最も高い可能性を有すると考えられるかということの予後診断または予測を行なう工程を容易にする可能性がある。
【0036】
技術は、生体液または検査試料、すなわちヒト胚培養培地中の低濃度の差次的に発現したバイオマーカーを検出および同定するための極めて高い感度および特異性を有する分子プロファイリングアプローチを利用する。バイオマーカーは全て分子量によって特徴付けられる。バイオマーカーは、質量分析と連結したクロマトグラフィーによる分離によって試料中のその他のタンパク質から分けてもよい。好ましい態様において、分解の方法は、MALDI-TOF-TOFおよび/または質量分析プローブがバイオマーカーに結合する吸着剤を含む、表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)質量分析を伴う。本発明は、個々の胚の生存可能性、子宮への移植後に着床する能力、および満期妊娠を産生する能力を特徴付ける規定の分泌産物(タンパク質またはペプチド)の検討を利用する。SELDI、MALDI、ELISA、抗体捕捉、タンパク質チップ、または診断キットなどの方法によって、これらの予測タンパク質を同定することができる。
【0037】
バイオマーカーは、有機生体分子であり、試料中のその存在を用いて対象の表現型状態(例えば、高い発生能がある生存可能なIVF由来胚 対 低い発生能があるIVF由来胚)を決定する。好ましい態様において、バイオマーカーは、別の表現型状態(例えば、頑強そうでなくおよび/または着床能力がない)と比較した場合に、ある表現型状態(例えば、生存可能でかつ着床能力がある)の1つの発生中の胚を支持する培養培地から採取された試料中に差次的に存在する。異なる群におけるバイオマーカーの平均値または中央値の発現レベルが統計的に有意であるよう算出される場合、バイオマーカーは異なる表現型状態の間で差次的に存在する。統計的有意性についての一般的な検定には、とりわけ、t-検定、ANOVA、Kruskal-Wallis、Wilcoxon、Mann-Whitney、およびオッズ比が含まれる。1つのバイオマーカー、または特定のバイオマーカーの組み合わせは、対象がある表現型状態または別の表現型状態に属する相対的リスクまたは確率の測定を提供する。したがって、それらは、疾患(診断法)、薬物の治療効果(セラノスティックス(theranostics))、薬物毒性、ならびに本発明において、IVF由来ヒト胚の品質および妊娠能を同定することについてのマーカーとして有用である。
【0038】
II、胚発生能を予測するバイオマーカー
A、バイオマーカー
本発明は、高い発生能がある胚とあまり良好でない発生能がある胚とを区別するために用い得るバイオマーカーを提供する。
【0039】
バイオマーカーは、質量分析により決定されるような質量対電荷比によって、飛行時間型質量分析におけるそれらのスペクトルピークの形によって、および吸着剤表面に対するそれらの結合特徴によって特徴付けられる。これらの特徴によって、特定の検出された生体分子が本発明のバイオマーカーであるかどうかを決定するための方法が提供される。これらの特徴は、バイオマーカーの固有の特徴を表し、およびバイオマーカーが識別される様式における過程制限を表さない。
【0040】
バイオマーカーをMALDI技術および/またはSELDI技術を用いて発見および特徴付けした。陽性妊娠をもたらす子宮内移植用に選ばれた(または凍結保存およびその後の子宮内移植用に選択された)個々のIVF由来ヒト胚対象、移植されおよび陽性着床を結果的にもたらさなかった胚対象、ならびに子宮内移植(または凍結保存)用に選ばれなかった胚対象からのインビトロ培養培地試料に加えて、陰性対照培養培地(単独の)試料を回収した。イオン交換クロマトグラフィーによって、好ましくは銅がコーティングされた固定化金属親和性(IMAC-Cu)クロマトグラフィーまたはWCX磁気ビーズ分画によって、試料を分画した。分画した試料をMALDIバイオチップに適用し、および質量分析計による飛行時間型質量分析によって試料中のポリペプチドのスペクトルを作成した。結果として得られたスペクトルを適切な市販のソフトウェアで解析した。各群についてのマススペクトルを散布プロット解析に供した。Mann-Whitney検定解析を利用して、散布プロット中の各タンパク質クラスターについて、着床能力がある胚と着床能力がない胚群を比較し、ならびに2群の間で有意に(p<0.0001)異なるタンパク質を選択した。
【0041】
このように発見されたバイオマーカーを表1および2に提示する。表2の「ProteinChipアッセイ」欄は、実施例によって示されたような、バイオマーカーが結合するバイオチップの種類および洗浄条件を指す。
【0042】
本発明のバイオマーカーは、質量分析によって決定されるようなそれらの質量対電荷比によって特徴付けられる。各バイオマーカーの質量対電荷比は、表1で「M」の後に提供されている。それゆえ、例えば、M2454.00は、2454.00という測定された質量対電荷比を有する。質量対電荷比は、任意の適切な市販の質量分析計によって作成されるマススペクトルから決定される。好ましくは、装置は約+/-0.3パーセントの質量正確性を有すると考えられる。さらに、装置は好ましくは約400〜1000m/dmの質量分解能を有すると考えられ、この場合、mは質量およびdmは0.5ピーク高さにおけるマススペクトルピーク幅である。適切な市販のソフトウェアを用いて、バイオマーカーの質量対電荷比を決定した。好ましくは、ソフトウェアは、質量分析計によって決定されるような、解析された全てのスペクトルからの同じピークの質量対電荷比をクラスタリングし、クラスター中の最大および最小の質量対電荷比を取得し、ならびに2で割ることによって、質量対電荷比をバイオマーカーに割り当てると考えられる。したがって、提供された質量はこれらの仕様を反映すると考えられえる。
【0043】
【表1】

【0044】
飛行時間型質量分析におけるそれらのスペクトルピークの形によって、本発明のバイオマーカーをさらに特徴付ける。表1に掲載されたバイオマーカーを表すピークを示すマススペクトルを図1に提示する。
【0045】
【表2】

【0046】
クロマトグラフィー表面に対するそれらの結合特性によって、本発明のバイオマーカーをさらに特徴付けてもよい。バイオマーカーの大部分は、0.1%酢酸による洗浄後に弱陽イオン交換磁気ビーズに結合する。
【0047】
本発明のバイオマーカーは、質量対電荷比、結合特性、およびスペクトル形によって特徴付けられるので、それらの具体的同一性を知ることなく質量分析によってそれらを検出してもよい。しかしながら、望ましい場合、例えば、MALDI-TOF-TOFを用いてポリペプチドのアミノ酸配列を決定することによって、同一性が決定されてないバイオマーカーを同定してもよい。例えば、バイオマーカーを、トリプシンまたはV8プロテアーゼなどの、多数の酵素でペプチドマッピングしてもよく、および消化断片の分子量を用いて、様々な酵素によって生み出された消化断片の分子量と一致する配列についてデータベースを検索してもよい。あるいは、タンデムMS技術を用いて、タンパク質バイオマーカーを配列決定してもよい。この方法では、例えば、ゲル電気泳動によって、タンパク質を単離する。バイオマーカーを含むバンドを切り出し、およびタンパク質をプロテアーゼ消化に供する。個々のタンパク質断片を第一の質量分析計によって分離する。その後、ペプチドを断片化しおよびポリペプチドラダーを産生する、衝突誘導冷却に断片を供する。その後、タンデムMSの第二の質量分析計によって、ポリペプチドラダーを解析する。ポリペプチドラダーのメンバーの質量の差によって、配列中のアミノ酸が同定される。タンパク質全体をこのように配列決定してもよく、または配列断片をデータベースマイニングに供して同一物候補を見出してもよい。
【0048】
本明細書において用いられる場合の「バイオマーカー」は、本発明によるほとんどまたは全く発生能のないIVF由来胚と発生能のあるIVF由来胚を弁別する際に有用な任意の分子として定義される。本発明による現在好ましいバイオマーカーには、タンパク質、タンパク質断片、およびペプチドが含まれる。個々のIVF由来ヒト胚のエクスビボ増殖を支持するために用いられる、インビトロ胚培養培地の試料などの、検査試料からバイオマーカーを単離してもよい。商業的源から入手可能な、インビトロ胚培養培地が利用されてもよく、およびIrvine Scientific, Santa Ana, CAからの10% Serum Substitute Supplement(SSS(商標))を補充したP-1(登録商標)MEDIUM(Pre-implantation Stage One)を含んでもよい。別の態様において、インビトロ胚培養培地は、当技術分野において公知の任意の培地であってもよい(Gardner, D.K., Lane M. and Schoolcraft W.B. Physiology and culture of the human blastocyst. Journal of Reproductive Immunology. 55(1):85-100(2002);Gardner, D.K. and Schoolcraft W.B. Culture and transfer of human blastocysts. Current Opinion in Obstetrics & Gynecology. 11(3):307-311(1999))。胚培養培地を毎日変えるのは標準的な慣行であり、およびしたがって、それはさもなければ通例捨てられる。バイオマーカーの検出のための好ましい源は、胚培養培地である。しかしながら、別の態様において、模擬周期または移植周期における単なる経頸管的なピペッティング(またはカテーテル挿入)によって得られる子宮内分泌物中でバイオマーカーを検出してもよい。別の態様において、着床の期間の時間に、または着床の期間の後に、着床を予測するタンパク質またはタンパク質の群を患者の血液または血清中で同定してもよい。それらの質量およびそれらの結合特徴の両方に基づいて、当技術分野において公知の任意の方法によってバイオマーカーを単離してもよい。例えば、バイオマーカーを含む検査試料を、本明細書に記載されたような、クロマトグラフィーによる分画に供し、および例えば、アクリルアミドゲル電気泳動によるさらなる分離に供してもよい。バイオマーカーの同一性の知識もまた免疫親和性クロマトグラフィーによるそれらの単離を可能にする。本明細書において用いられる場合、「検出する」という用語には、バイオマーカーの存在、不在、量、またはその組み合わせを決定することが含まれる。例えば、質量分析によって同定されるようなピーク強度、またはバイオマーカーの濃度によって、バイオマーカーの量を表してもよい。
【0049】
バイオマーカーは典型的には、ほとんどまたは全く発生能のないIVF由来胚と比較した、良好な発生能のあるIVF由来胚からの検査試料中に差次的に存在する。しかしながら、幾つかのバイオマーカーは、2つの部類の間で差次的に発現していないものの、それでもやはり、それらが分類木における群のサブセットを正確に叙述するのに意味がある程度まで本発明によるバイオマーカーとして分類してもよい。
【0050】
ほとんどまたは全く発生能のないIVF由来陰性対照胚と比較した、選択されたバイオマーカーの、過剰発現または過少発現などの、差次的発現を発生能と関連付けてもよい。差次的に発現するによって、陰性対照と比較した検査試料中により多いもしくはより少ない量でバイオマーカーを見出し得るということ、または1つもしくは複数の検査試料中により高い頻度(例えば、強度)でそれを見出し得るということが本明細書において意味される。例えば、ほとんどまたは全く発生能がない対照胚と比較した、約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6、および4093±8.2ダルトンのバイオマーカーの過少発現、または約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、および2778±5.6ダルトンのバイオマーカーの過少発現を良好な発生能の診断と関連付けてもよい。さらに、ほとんどまたは全く発生能がない対照胚と比較した、約37820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンのマーカーの過剰発現を良好な発生能の診断と関連付けてもよい。対照によって、1つまたは複数の対照検査試料が、既知の発生能の結果と相関する特徴付けられた検査試料;良好な発生能がある試料(または陽性対照)および任意の段階でほとんどまたは全く発生能がない試料(陰性対照)、すなわち、着床失敗または満期妊娠失敗を伴う試料であるということが本明細書において意味される。ブランク対照によって、ブランク対照検査試料はIVF由来ヒト胚と接触するようにならない1つまたは複数の検査試料であるということが本明細書において意味される。
【0051】
B、バイオマーカーとしてのタンパク質の修飾形態
タンパク質は多くの場合、検出可能な程度に異なる質量によって特徴付けられる複数の異なる形態で試料中に存在するということが見出されている。これらの形態は、翻訳前修飾、翻訳後修飾、または両方から結果として生じる可能性がある。翻訳前修飾形態には、アレル変異体、スプライス変異体、およびRNA編集形態が含まれる。翻訳後修飾には、とりわけ、タンパク質分解による切断(例えば、親タンパク質の断片)、グリコシル化、リン酸化、脂質化、酸化、メチル化、シスチニル化、スルホン化、およびアセチル化から結果として生じる形態が含まれる。特異的タンパク質およびそれの全ての修飾形態を含むタンパク質の集まりは、本明細書において「タンパク質クラスター」と称される。特異的タンパク質そのものを除く、特異的タンパク質の全ての修飾形態の集まりは、本明細書において「修飾タンパク質クラスター」と称される。また、本発明の任意のバイオマーカーの修飾形態をそれ自体バイオマーカーとして用いてもよい。場合によって、修飾形態は、本明細書において示された特異的形態よりも優れた診断における識別力を発揮する可能性がある。
【0052】
バイオマーカーの修飾形態を検出および区別することができる任意の方法論によって、バイオマーカーの修飾形態を最初に検出してもよい。最初の検出のための好ましい方法は、例えば、生体分子特異的捕捉試薬で、まずバイオマーカーおよびそれの修飾形態を捕捉し、その後質量分析によって捕捉されたタンパク質を検出する工程を伴う。より具体的には、バイオマーカーおよびそれの修飾形態を認識する抗体、相互作用する融合タンパク質、またはアプタマーなどの、生体分子特異的捕捉試薬を用いてタンパク質を捕捉する。本方法は、タンパク質に結合し、またはさもなければ抗体によって認識され、かつそれ自体、バイオマーカーであることができるタンパク質相互作用因子の捕捉を結果的にもたらす可能性もある。好ましくは、生体分子特異的捕捉試薬は固体相に結合している。その後、MALDIもしくはSELDI質量分析によってまたはタンパク質を捕捉試薬から溶出しおよび溶出されたタンパク質を伝統的なMALDIによってもしくはSELDIによって検出することによって、捕捉されたタンパク質を検出してもよい。質量に基づいてかつ標識を必要とせずにタンパク質の修飾形態を区別および定量化することができるので、質量分析の使用は特に魅力的である。
【0053】
好ましくは、生体分子特異的捕捉試薬は、ビーズ、プレート、膜、またはチップなどの、固体相に結合している。抗体などの、生体分子を固体相に結合させるための方法は、当技術分野において周知である。それらは、例えば、二官能基を持つ連結薬剤を利用してもよく、または接触している分子を結合することができるエポキシドもしくはイミダゾールなどの、反応基で固体相を誘導体化することができる。異なる標的タンパク質に対する生体分子特異的捕捉試薬を同じ場所で混合してもよく、またはそれらを異なる物理的位置もしくはアドレス可能な位置で固体相に付着させてもよい。例えば、各々のカラムが1つのタンパク質クラスターを捕捉することができる、多数のカラムに誘導体化されたビーズを充填することができる。あるいは、1つのカラムに様々なタンパク質クラスターに対する捕捉試薬で誘導体化された異なるビーズを詰め、それによって1つの場所で全てのアナライトを捕捉することができる。したがって、抗体で誘導体化されたビーズに基づく技術を用いてタンパク質クラスターを検出してもよい。しかしながら、生体分子特異的捕捉試薬は、それらを弁別するためにクラスターのメンバーを特異的に指向しなければならない。
【0054】
また別の態様において、同じ位置かまたは物理的に異なるアドレス可能な位置かのいずれかで、タンパク質クラスターを指向する捕捉試薬によって、バイオチップの表面を誘導体化してもよい。異なるアドレス可能な位置で異なるクラスターを捕捉することの1つの利点は、解析がより単純になるということである。
【0055】
タンパク質の修飾形態の同定および関心対象の臨床的パラメーターとの関連付けの後、修飾形態を本発明の任意の方法におけるバイオマーカーとして用いてもよい。この点に関して、修飾形態の検出を、親和性捕捉、それに続く質量分析、または修飾形態を特異的に指向する伝統的免疫アッセイを含む任意の特異的検出方法論によって遂行してもよい。免疫アッセイは、アナライトを捕捉するために、抗体などの、生体分子特異的捕捉試薬を必要とする。さらに、本アッセイは、タンパク質およびタンパク質の修飾形態を特異的に区別するよう設計されなければならない。例えば、ある抗体が1つよりも多くの形態を捕捉し、かつ2つ目の、区別して標識された抗体が様々な形態に特異的に結合し、それによってそれらの別々の検出を提供するサンドイッチアッセイを利用することによって、これを行ってもよい。動物を生体分子で免疫することによって、抗体を産生してもよい。本発明は、例えば、ELISAまたは蛍光に基づく免疫アッセイを含むサンドイッチ免疫アッセイを含む伝統的な免疫アッセイだけでなく、その他の酵素免疫アッセイ、マイクロアレイなどの選択されたタンパク質のバイオチップ、および診断キットも企図している。
【0056】
III、胚発生能バイオマーカーの検出
本発明のバイオマーカーを任意の好適な方法によって検出してもよい。この目的のために利用され得る検出パラダイムには、光学的方法、電気化学的方法(ボルタメトリーおよびアンペロメトリー)、原子間力顕微鏡、ならびに高周波法、例えば、多重極共鳴分光法が含まれる。共焦点および非共焦点の両方の、顕微鏡に加えて、光学的方法の例証となるのは、蛍光、発光、化学発光、吸収、反射率、透過率、および複屈折または屈折率の検出(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共鳴ミラー法、グレーティングカプラウェーブガイド法または干渉解析法)である。
【0057】
ある態様において、試料をバイオチップによって解析する。バイオチップは通常、固体基板を含み、および捕捉試薬(吸着剤または親和性試薬とも呼ばれる)が付着している、通常は平らな表面を有する。多くの場合、バイオチップの表面は、複数のアドレス可能な位置を含み、その各々がそこに結合した捕捉試薬を有する。
【0058】
タンパク質バイオチップは、ポリペプチドの捕捉に適したバイオチップである。多くのタンパク質バイオチップが当技術分野において記載されている。好適なバイオチップには、例えば、Ciphergen Biosystems社(Fremont, CA)、Packard BioScience Company(Meriden CT)、Zyomyx(Hayward, CA)、Phylos(Lexington, MA)、およびBiacore(Uppsala, Sweden)によって産生されたタンパク質バイオチップが含まれる。そのようなタンパク質バイオチップの例は、以下の特許または刊行された特許出願に記載されている;米国特許第6,225,047号、PCT国際公開公報第99/51773号、米国特許第6,329,209号、PCT国際公開公報第00/56934号、および米国特許第5,242,828号。
【0059】
A、質量分析による検出
好ましい態様において、質量分析計を利用して気相イオンを検出する方法である、質量分析によって本発明のバイオマーカーを検出する。質量分析計の例は、飛行時間型、扇形磁場型、四重極フィルター型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン共鳴型、扇形静電解析器、およびこれらの混成物である。
【0060】
さらに好ましい態様において、質量分析計はレーザー脱離/イオン化質量分析計である。レーザー脱離/イオン化質量分析計では、イオン化および質量分析計への導入のために質量分析計のプローブインターフェースをかみ合わせおよびアナライトをイオン化エネルギーに提示するのに適した装置である、質量分析プローブの表面にアナライトを置く。レーザー脱離質量分析計は、アナライトを表面から脱着させ、それらを揮発およびイオン化させ、ならびにそれらを質量分析計のイオン光学に利用可能にするために、典型的には紫外レーザーからの、レーザーエネルギーを利用するが、赤外レーザーからのレーザーエネルギーも利用する。
【0061】
1、SELDI
本発明における使用のための好ましい質量分析の技術は、例えば、両方ともHutchensおよびYipに属する、米国特許第5,719,060号および第6,225,047号に記載されたような、「表面増強レーザー脱離およびイオン化」または「SELDI」である。これは、アナライト(ここでは、バイオマーカーのうちの1つまたは複数)をSELDI質量分析プローブの表面に捕捉する脱離/イオン化気相イオン解析(例えば、質量分析)の方法に言及している。幾つかのバージョンのSELDIがある。
【0062】
SELDIのあるバージョンは、「親和性捕捉質量分析」と呼ばれる。それは、「表面増強親和性捕捉」または「SEAC」とも呼ばれる。このバージョンは、物質とアナライトの間の非共有結合的な親和性相互作用(吸着)を介してアナライトを捕捉するプローブ表面上の物質を有するプローブの使用を伴う。物質は、「吸着剤」、「捕捉試薬」、「親和性試薬」、または「結合部分」と様々に呼ばれる。そのようなプローブは、「親和性捕捉プローブ」および「吸着表面」を有すると称することができる。捕捉試薬は、アナライトと結合することができる任意の物質であってもよい。捕捉試薬は選択的表面の基板に直接付着していてもよく、または基板は、例えば、共有結合もしくは配位共有結合を形成する反応を通じて、捕捉試薬に結合することができる反応部分を持つ反応表面を有してもよい。エポキシドおよびカルボジイミジゾールは、抗体または細胞性受容体などのポリペプチド捕捉試薬に共有結合するのに有用な反応部分である。ニトリロ酢酸およびイミノジ酢酸は、ヒスチジン含有ペプチドと非共有結合的に相互作用する金属イオンを結合させるためのキレート薬剤として機能する有用な反応部分である。吸着剤は通常、クロマトグラフィー吸着剤および生体分子特異的吸着剤として分類される。
【0063】
「クロマトグラフィー吸着剤」は、クロマトグラフィーで典型的に用いられる吸着性物質を指す。クロマトグラフィー吸着剤には、例えば、イオン交換物質、金属キレート剤(例えば、ニトリロ酢酸またはイミノジ酢酸)、固定化した金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、色素、単純生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単純糖、および脂肪酸)、ならびに混合様式の吸着剤(例えば、疎水性引力/静電反発吸着剤)が含まれる。
【0064】
「生体分子特異的吸着剤」は、生体分子、例えば、核酸分子(例えば、アプタマー)、ポリペプチド、多糖、脂質、ステロイド、またはこれらのコンジュゲート(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えば、DNA-タンパク質コンジュゲート))を含む吸着剤を指す。ある種の例において、生体分子特異的吸着剤は、多タンパク質複合体、生物学的膜、またはウイルスなどの巨大分子構造であってもよい。生体分子特異的吸着剤の例は、抗体、受容体タンパク質、および核酸である。生体分子特異的吸着剤は典型的には、クロマトグラフィー吸着剤よりも高い標的アナライトに対する特異性を有する。SELDIにおける使用のための吸着剤のさらなる例を米国特許第6,225,047号に見出すことができる。「生体分子選択的吸着剤」は、少なくとも10-8Mの親和性でアナライトに結合する吸着剤を指す。
【0065】
Ciphergen Biosystems社によって産生されたタンパク質バイオチップは、アドレス可能な位置で付着させたクロマトグラフィー吸着剤または生体分子特異的吸着剤を有する表面を含む。Ciphergen ProteinChip(登録商標)アレイには、NP20(親水性);H4およびH50(疎水性);SAX-2、Q-10、およびLSAX-30(陰イオン交換);WCX-2、CM-10、およびLWCX-30(陽イオン交換);IMAC-3、IMAC-30、およびIMAC 40(金属キレート);ならびにPS-10、PS-20(カルボイミジゾール、エポキシド付き反応表面)、およびPG-20(カルボイミジゾールを介して結合したプロテインG)が含まれる。疎水性ProteinChipアレイは、イソプロピルまたはノニルフェノキシ-ポリ(エチレングリコール)メトアクリレート官能性を有する。陰イオン交換ProteinChipアレイは、第四級アンモニウム官能性を有する。陽イオン交換ProteinChipアレイは、カルボン酸官能性を有する。固定化された金属キレートProteinChipアレイは、キレート化によって、銅、ニッケル、亜鉛、およびガリウムなどの、遷移金属イオンを吸着するニトリロ酢酸官能性を有する。予め活性化されたProteinChipアレイは、共有結合用にタンパク質上の基と反応することができるカルボイミジゾールまたはエポキシド官能基を有する。
【0066】
そのようなバイオチップは;米国特許第6,579,719号(Hutchens and Yip,「Retentate Chromatography」, 2003年6月17日)、PCT国際公開公報第00/66265号(Rich et al.,「Probes for a Gas Phase Ion Spectrometer」, 2000年11月9日);米国特許第6,555,813号(Beecher et al.,「Sample Holder with Hydrophobic Coating for Gas Phase Mass Spectrometer」, 2003年4月29日);米国特許出願第2003 0032043 Al号(Pohl and Papanu,「Latex Based Adsorbent Chip」, 2002年7月16日);およびPCT国際公開公報第03/040700号(Um et al.,「Hydrophobic Surface Chip」, 2003年5月15日);米国特許出願第2003/0218130 Al号(Boschetti et al.,「Biochips With Surfaces Coated With Polysaccharide-Based Hydrogels」, 2003年4月14日)、ならびに「Photocrosslinked Hydrogel Surface Coatings」と題された、米国特許出願第60/448,467号(Huang et al., 2003年2月21日に提出された)にさらに記載されている。
【0067】
一般に、吸着性表面のあるプローブは、試料中に存在し得る1つまたは複数のバイオマーカーが吸着剤に結合するのを可能にするのに十分な期間、試料と接触している。インキュベーション期間の後、基板を洗浄し、結合していない物質を除去する。任意の好適な洗浄溶液を用いてもよく;好ましくは、水性溶液を利用する。洗浄のストリンジェンシーを調整することによって、分子が結合したままである程度を操作してもよい。洗浄溶液の溶出特徴は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの程度、界面活性剤強度、および温度に依存することができる。プローブが(本明細書において記載されたような)SEACおよびSEND特性の両方を有するのでなければ、結合したバイオマーカーを伴う基板にエネルギー吸収分子を適用する。
【0068】
基板に結合したバイオマーカーを飛行時間型質量分析計などの気相イオンスペクトロメーターで検出する。レーザーなどのイオン化源によってバイオマーカーをイオン化し、イオン光学アセンブリによって発生したイオンを回収し、その後質量解析器が通過するイオンを分散させおよび解析する。その後、検出器は、検出されたイオンの情報を質量対電荷比に転換する。バイオマーカーの検出は典型的には、シグナル強度の検出を伴うと考えられる。それゆえ、バイオマーカーの量および質量の両方を決定することができる。
【0069】
SELDIの別のバージョンは、プローブ表面に化学的に結合しているエネルギー吸着分子を含むプローブ(「SENDプローブ」)の使用を伴う、表面増強ニート脱離(SEND)である。「エネルギー吸収分子」(EAM)という語句は、レーザー脱離/イオン化源からのエネルギーを吸収することができ、その後、それと接触したアナライト分子の脱離およびイオン化に寄与する分子を意味する。EAMカテゴリーは、多くの場合「マトリックス」と称される、MALDIで用いられる分子を含み、ならびに桂皮酸誘導体、シナピン酸(SPA)、シアノ-ヒドロキシ-桂皮酸(CHCA)およびジヒドロキシ安息香酸、フェルラ酸、ならびにヒドロキシアセト-フェノン誘導体によって例示される。ある種の態様において、エネルギー吸収分子を線状または架橋ポリマー、例えば、ポリメトアクリレートに取り込ませる。例えば、組成物は、シアノ-4-メトアクリロイルオキシ桂皮酸およびアクリレートのコポリマーであってもよい。別の態様において、組成物は、シアノ-4-メトアクリロイルオキシ桂皮酸、アクリレート、および3-(トリ-エトキシ)シリルプロピルメトアクリレートのコポリマーである。別の態様において、組成物は、シアノ-4-メトアクリロイルオキシ桂皮酸およびオクタデシルメトアクリレート(「C18 SEND」)のコポリマーである。SENDは米国特許第6,124,137号およびPCT国際公開公報第03/64594号(Kitagawa,「Monomers And Polymers Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes」, August 7, 2003にさらに記載されている).
【0070】
SEAC/SENDは、捕捉試薬およびエネルギー吸収分子の両方が試料提示表面に付着しているSELDIのバージョンである。したがって、SEAC/SENDプローブは、外部マトリックスを適用する必要なく、親和性捕捉およびイオン化/脱離によるアナライトの捕捉を可能にする。C18 SENDバイオチップは、捕捉試薬として機能するC18部分、およびエネルギー吸収部分として機能する、CHCA部分を含む、SEAC/SENDの1つのバージョンである。
【0071】
表面増強感光性付着および放出(SEPAR)と呼ばれる、SELDIの別のバージョンは、アナライトに共有結合し、その後例えば、レーザー光などの光への曝露の後に、部分における感光性の結合を壊すことによってアナライトを放出することができる、表面に付着させた部分を有するプローブの使用に関する(例えば、米国特許第5,719,060号参照)。SEPARおよびSELDIのその他の形態は、本発明に準じた、1つまたは複数のバイオマーカープロファイルを検出することに容易に適合させられる。
【0072】
2、その他の質量分析法
別の質量分析法において、バイオマーカーに結合するクロマトグラフィー特性を有するクロマトグラフィー樹脂にバイオマーカーを最初に捕捉してもよい。本例において、これは様々な方法を含むことができると考えられる。例えば、CM Ceramic HyperD F樹脂などの、陽イオン交換樹脂にバイオマーカーを捕捉し、樹脂を洗浄し、バイオマーカーを溶出し、およびMALDIで検出することができると考えられる。あるいは、陽イオン交換樹脂への適用の前に試料を陰イオン交換樹脂で分画する工程を本方法の前に置くことができると考えられる。別の代替物において、陰イオン交換樹脂で分画し、およびMALDIで直接検出することができると考えられる。また別の方法において、バイオマーカーに結合する抗体を含む免疫クロマトグラフィー樹脂にバイオマーカーを捕捉し、樹脂を洗浄して結合していない物質を除去し、バイオマーカーを樹脂から溶出し、およびMALDIでまたはSELDIで溶出されたバイオマーカーを検出することができると考えられる。
【0073】
3、データ解析
飛行時間型質量分析によるアナライトの解析によって、飛行時間スペクトルが作成される。最後に解析される飛行時間スペクトルは典型的には、試料に対するイオン化エネルギーの単一パルスからのシグナルではなく、むしろ多数のパルスからのシグナルの合計を表す。これによってノイズが減少しかつダイナミックレンジが増大する。その後、これらの飛行時間データをデータ処理に供する。データ処理には典型的には、マススペクトルを作成するTOFからM/Zへの転換、機器オフセットを排除するためのベースラインサブトラクション、および高頻度ノイズを低下させるための高頻度ノイズフィルタリングが含まれる。
【0074】
プログラム可能なデジタルコンピュータを使用して、バイオマーカーの脱離および検出によって作成されるデータを解析してもよい。コンピュータプログラムは、検出されたバイオマーカーの数、ならびに任意で各々の検出されたバイオマーカーについてのシグナルの強度および決定された分子質量を示すようデータを解析する。データ解析には、バイオマーカーのシグナル強度を決定する工程および所定の統計的分布から外れるデータを除去する工程が含まれてもよい。例えば、ある参照に対する各ピークの高さを算出することによって、観察されたピークを標準化してもよい。参照は、目盛りがゼロに設定される、機器およびエネルギー吸収分子などの化学物質によって発生したバックグラウンドノイズであってもよい。
【0075】
コンピュータは結果として得られるデータを表示用の様々なフォーマットに転換することができる。標準的なスペクトルを表示することができるが、ある有用なフォーマットにおいて、ピーク高さおよび質量情報のみをスペクトルビューから保持し、よりきれいな像を生み出し、ならびにほぼ同一の分子量を有するバイオマーカーがより簡単に見えるようにする。別の有用なフォーマットにおいて、2つまたはそれより多くのスペクトルを比較し、特有のバイオマーカーおよび試料間で上方調節または下方調節されているバイオマーカーを便宜的に際立たせる。任意のこれらのフォーマットを用いて、特定のバイオマーカーが試料中に存在するかどうかを容易に決定することができる。
【0076】
解析は通常、アナライトからのシグナルを表すスペクトル中のピークの同定を伴う。ピーク選択は目で行なってもよいが、ピークの検出を自動化することができるソフトウェアが市販されている。一般に、このソフトウェアは、選択された閾値を上回るシグナル対ノイズ比を有するシグナルを同定しおよびピークシグナルの質量中心におけるピークの質量を標識することによって機能する。ある有用な適用において、多くのスペクトルを比較し、幾つかの選択されたパーセンテージのマススペクトル中に存在する同一のピークを同定する。市販のソフトウェアの1つのバージョンである、CiphergenのProteinChip(登録商標)は、規定された質量範囲内の様々なスペクトル中に現れる全てのピークをクラスタリングし、および質量(M/Z)クラスターの中間点に近いピーク全てに質量(M/Z)を割り当てる。
【0077】
データを解析するために用いられるソフトウェアは、シグナルが本発明によるバイオマーカーに対応するシグナル中のピークを表すかどうかを決定するために、アルゴリズムをシグナルの解析に適用するコードを含んでもよい。ソフトウェアはまた、観察されたバイオマーカーピークに関するデータを分類木またはANN解析に供し、調査中の特定の臨床的パラメーターの状態を示すバイオマーカーピークまたはバイオマーカーピークの組み合わせが存在するかどうかを決定してもよい。試料の質量分析解析から、直接的にかまたは間接的にかのいずれかで、得られる様々なパラメーターにデータの解析を「入力」してもよい。これらのパラメーターには、1つまたは複数のピークの存在または不在、ピークまたはピークの群の形、1つまたは複数のピークの高さ、1つまたは複数のピークの高さの対数、およびピーク高さデータのその他の計算操作が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
4、胚発生能についてのバイオマーカーのSELDI検出のための一般的プロトコル
本発明のバイオマーカーの検出のための好ましいプロトコルは以下の通りである。検査すべき生物学的試料、例えば、胚培養培地のSELDIについて、得られたプロファイルがチップに特異的に結合する試料中に存在するタンパク質の画分を表すように、培地をチップの上に置きおよび非特異的なペプチド-タンパク質を洗い流す。試料の事前の前分画も遠心分離もない。
【0079】
本発明のバイオマーカーの検出のための別の好ましいプロトコルは以下の通りである:MALDIについて:MALDIの前に磁気ビーズで試料の前分画を行ない、その後ペプチドおよびタンパク質をビーズから溶出し、ならびに物質を標的MALDIプレートの上に置く。両方の方法について、流体を最初にマイナス80℃で保存し、その後遠心分離またはその他の介入なしでMALDIまたはSELDIに用いる。
【0080】
その後(好ましくは前分画された)検査すべき試料を陽イオン交換吸着剤(好ましくはWCX ProteinChipアレイ)またはIMAC吸着剤(好ましくはIMAC3 ProteinChipアレイ)を含む親和性捕捉チップと接触させる。結合していない分子を洗い流す一方でバイオマーカーを保持すると考えられる緩衝剤でチップを洗浄する。レーザー脱離/イオン化質量分析によって、バイオマーカーを検出する。
【0081】
あるいは、バイオマーカーを認識する抗体が利用可能である場合、これらを予め活性化されたPS10またはPS20 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems社)などの、プローブの表面に付着させることができる。これらの抗体は、試料由来のバイオマーカーをプローブ表面上に捕捉することができる。その後、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析によって、バイオマーカーを検出することができる。
【0082】
B、免疫アッセイによる検出
別の態様において、免疫アッセイによって本発明のバイオマーカーを測定してもよい。免疫アッセイは、バイオマーカーを捕捉するための、抗体などの、生体分子特異的捕捉試薬を必要とする。例えば、動物にバイオマーカーを免疫することによるなどの、当技術分野において周知の方法によって、抗体を産生することができる。それらの結合特徴に基づいて、バイオマーカーを試料から単離することができる。あるいは、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列が公知である場合、ポリペプチドを合成および使用し、当技術分野において周知の方法によって抗体を作製することができる。
【0083】
本発明は、例えば、ELISAまたは蛍光に基づく免疫アッセイを含むサンドイッチ免疫アッセイだけでなく、その他の酵素免疫アッセイも含む伝統的免疫アッセイを企図している。SELDIに基づく免疫アッセイにおいて、予め活性化されたProteinChipアレイなどの、MSプローブの表面にバイオマーカー用の生体分子特異的捕捉試薬を付着させる。その後、本試薬によってバイオチップ上でバイオマーカーを特異的に捕捉し、および捕捉されたバイオマーカーを質量分析によって検出する。
【0084】
IV、胚発生能の決定
A、単一のマーカー
例えば、成功した着床およびその後の子宮内移植後の生存出生の確率を決定するために、本発明のバイオマーカーを診断検査で用いて個々のヒト胚における発生能を評価してもよい。この状態に基づいて、付加的な診断検査または治療手順もしくは治療計画を含む、さらなる手順が示されてもよい。
【0085】
診断検査が発生能を正確に予測する力は一般に、アッセイの感度、アッセイの特異性、または受信者動作特性(「ROC」)曲線下の面積として測定される。感度は、検査によって陽性であると予測される真陽性(すなわち;成功した着床)のパーセンテージであり、一方特異性は検査によって陰性であると予測される真陰性(すなわち;失敗した着床)のパーセンテージである。ROC曲線は、検査の感度を1-特異性の関数として提供する。ROC曲線下の面積が大きければ大きいほど、検査の予測値が強大になる。検査の有用性のその他の有用な測定は、陽性予測値および陰性予測値である。陽性予測値は、陽性として検査を受け、かつ検査(単一のバイオマーカー、バイオマーカーの組み合わせ、またはタンパク質プロファイル)が所与の胚または胚の群(新鮮なまたは凍結融解した)の成功した着床を正確に決定する能力を表す実際の陽性のパーセンテージである。陰性予測値は、陰性として検査を受け、かつ検査が所与の胚または胚の群の成功した着床を正確に決定する能力を表す実際の陰性のパーセンテージである。
【0086】
表1に掲載された各々のバイオマーカーは、発生能の診断を支援する際に個々に有用である。本方法は、第一に、本明細書において記載された方法、例えば、SELDIバイオチップ上での捕捉、その後の質量分析による検出を用いて対象試料中の選択されたバイオマーカーを検出する工程、および、第二に、良好な発生能の診断をあまり良好でない発生能の診断と区別する診断量またはカットオフにより、測定を比較する工程を伴う。診断量は、対象がそれを上回ってまたはそれを下回って特定の発生能を有すると分類されるバイオマーカーの測定量を表す。例えば、成功した着床を産生しなかった胚と比較して、成功した着床を産生した胚について、バイオマーカーが上方調節または過剰発現されている場合、診断カットオフを上回る測定量は良好な着床能力または潜在能力の診断を提供する。あるいは、成功した着床を産生しなかった胚と比較して、成功した着床を産生した胚について、バイオマーカーが下方調節または過少発現されている場合、診断カットオフを下回る測定量は良好な着床能力または潜在能力の診断を提供する。当技術分野においてよく理解されているように、アッセイで用いられる特定の診断カットオフを調整することによって、診断専門医の好みに応じて診断アッセイの感度または特異性を増大させてもよい。例えば、異なる発生能の結果を有する対象からの統計的に有意な数の検査試料中のバイオマーカーの量を測定し、かつ診断専門医の所望のレベルの特異性および感度に適するようカットオフの線引きをすることによって、特定の診断カットオフを決定することができる。
【0087】
B、マーカーの組み合わせ
個々のバイオマーカーが有用な診断バイオマーカーである一方で、バイオマーカーの組み合わせが単一のマーカーのみよりも大きい特定の状態の予測値を提供することができるということが見出されている。具体的には、試料中の複数のバイオマーカーの検出は検査の感度および/または特異性を増大させることができる。
【0088】
下の実施例に記載されたプロトコルを用いて、702の培地試料から1404のマススペクトルが作成され、そのうちの157は移植されかつ陽性妊娠を産生するIVF由来胚であった。ピーク質量および高さを抽象化して発見データセットとした。このデータセットを用いて、遺伝的アルゴリズムを構築した。分類および回帰木解析(CART)を利用することによって、遺伝的アルゴリズムを作成することができる。各々のサブセットについて、CARTは最良のまたは最良に近い決定木を作成し、試料を着床能力があるまたは着床能力がないと分類すると考えられる。CARTによって作成される多くの決定木の中で、好ましい樹は、子宮内移植後に着床に失敗した胚に対して、最も高い妊娠能のある最も生存能力のある胚を区別する際に優れた感度および特異性を有すると考えられる。
【0089】
1、決定木
ある態様において、特定のバイオマーカーは、良好でない発生能のある胚に対して良好な発生能を分類するために、組み合わせて有用であってもよい。好ましくは、これらのグループ分けの組み合わせによって、良好な発生能または良好でない発生能の診断についての1つの分類木が作り上げられる。しかしながら、本発明は、発生能の診断の支援をするために、単独でまたはその他のグループ分けと組み合わせてこれらの個々のグループ分けを使用することを企図している。それゆえ、そのようなグループ分けの1つもしくは複数、好ましくは2つもしくはそれより多く、またはより好ましくは、これらのグループ分けの全てが診断の支援をする。
【0090】
2、SDSアルゴリズム
先に記載されたCART解析で使用し得る同じデータセットを多段階統計分類戦略(SCS)(Institute for Biodiagnostics, National Research Council Canada, Winnipeg, MB, Canada)と共に用いてもよい。SCSは、ラッパーアプローチを用いて、2段階の徹底的な調査による特色(質量ピーク)選択を伴う。ラッパーで用いられる分類子は、リーブワンアウト(leave-one-out)(LOO)クロスバリデーションを伴う簡単な線形識別子であってもよい。ひとたび最適に識別するピークを見出せば、ブートストラップに着想を得たアプローチによって最終的な分類子を得る可能性がある。
【0091】
C、対象管理
発生能の状態を定性化する方法のある種の態様において、本方法は、状態に基づいて対象処置を管理する工程を含む。そのような管理には、発生能の状態を決定する工程の後の医師または臨床医の行為が含まれる。例えば、医師が良好でない発生能の診断を付けた場合、異なる卵巣刺激プロトコル(医薬品の種類、投薬量、処置の期間)の使用、異なる培養条件(培養培地または培地補充物)の使用を含む将来の卵採取のためのある種の処置の計画が次に続く可能性があり;および修正後に問題が存続する場合、卵母細胞の使用もしくは精子寄贈またはその他の代わりのアプローチを考慮することが推奨されることができると考えられる。
【0092】
本発明のさらなる態様は、例えば、技師、医師、または患者へのアッセイ結果もしくは診断または両方の伝達に関する。ある種の態様において、コンピュータを用いて、アッセイ結果もしくは診断または両方を関心のある関係者、例えば、医師および彼らの患者に伝達してもよい。幾つかの態様において、ある国またはその国とは異なる管轄区もしくは結果もしくは診断が伝達される管轄区で、アッセイを行いまたはアッセイ結果を解析してもよい。
【0093】
本発明の好ましい態様において、任意のバイオマーカーの検査対象における存在または不在に基づく診断を、診断が得られた後できるだけ早く対象に伝達する。対象を処置している医師が対象に診断を伝達してもよい。あるいは、診断を電子メールで検査対象に送付してもよく、または電話で対象に伝達してもよい。コンピュータを用いて電子メールまたは電話で診断を伝達してもよい。ある種の態様において、テレコミュニケーションの専門家にはよく知られている、コンピュータハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせを用いて、診断検査の結果を含む伝言を自動的に作成しおよび対象に送達してもよい。健康管理向けのコミュニケーションシステムの1例は、米国特許第6,283,761号に記載されている;しかしながら、本発明は、この特定のコミュニケーションシステムを利用する方法に限定されない。本発明の方法のある種の態様において、試料をアッセイする工程、疾患を診断する工程、およびアッセイ結果または診断を伝達する工程を含む、方法工程の全てまたは幾つかを種々の(例えば、外国の)管轄区で実行してもよい。
【0094】
V、胚発生能を定性化するための分類アルゴリズムの作成
幾つかの態様において、その後「既知の試料」などの試料を用いて作成したスペクトル(例えば、マススペクトルまたは飛行時間スペクトル)から得られるデータを用いて、分類モデルを「トレーニング」することができる。「既知の試料」とは、予め分類されている試料である。スペクトルから得られかつ分類モデルを形成するのに用いられるデータを「トレーニングデータセット」と称することができる。ひとたびトレーニングを受けると、分類モデルは既知の試料を用いて作成されたスペクトルから得られるデータにおけるパターンを認識することができる。その後、分類モデルを用いて、未知試料をクラスに分類することができる。これは、例えば、特定の生物学的試料がある種の生物学的状況(例えば、着床能力あり対着床能力なし)と関連するか否かを予測する際に有用であることができる。
【0095】
分類モデルを形成するのに用いられるトレーニングデータセットは、生データまたは前処理データを含んでもよい。幾つかの態様において、生データを飛行時間スペクトルまたはマススペクトルから直接得ることができ、その後上記のように任意で「前処理」してもよい。
【0096】
データ中に存在する客観的なパラメーターに基づいてデータの集団をクラスに分離するよう試みる任意の好適な統計的分類(または「学習」)法を用いて、分類モデルを形成することができる。分類法は、監督されているかまたは監督されていないかのいずれかであってもよい。監督されたおよび監督されていない分類過程の例は、Jain,「Statistical Pattern Recognition:A Review」, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 22, No. 1, January 2000に記載され、その開示は参照により組み入れられる。
【0097】
監督された分類では、既知のクラスの各々を規定する1つまたは複数の組の関係性を学習する、学習機構に既知のカテゴリーの例を含むトレーニングデータを提示する。その後、新しいデータを学習機構に適用してもよく、その後それは学習された関係性を用いて新しいデータを分類する。監督された分類過程の例として、線形回帰過程(例えば、多重線形回帰(MLR)、部分最小二乗(PLS)回帰、および主成分回帰(PCR))、二分決定木(例えば、CART分類および回帰木などの再帰的分割過程)、バックプロパゲーションネットワークなどの人工神経ネットワーク、識別子解析(例えば、ベイズの分類子またはフィッシャー解析)、ロジスティック分類子、ならびにサポートベクター分類子(サポートベクターマシーン)が含まれる。
【0098】
好ましい監督された分類法は、再帰的分割過程である。再帰的分割過程は、再帰的分割木を用いて、未知試料から得られたスペクトルを分類する。再帰的分割過程に関するさらなる詳細は、Paulseらに属する、米国特許出願第2002 0138208 A1号、「Method for analyzing mass spectra」に提供されている。
【0099】
その他の態様において、監督されない学習法を用いて、創出される分類モデルを形成することができる。監督されない分類は、トレーニングデータセットが得られたスペクトルを予め分類することなく、トレーニングデータセットにおける類似性に基づいて分類を学習するよう試みる。監督されない学習法には、クラスター解析が含まれる。クラスター解析は、互いに非常に似ていて、かつその他のクラスターのメンバーと非常に似ていないメンバーを理想的には有するべきである「クラスター」または群にデータを分割するよう試みる。その後、データ項目間の距離を測定し、および互いにより近いデータ項目を一緒にクラスタリングする、幾つかの距離関数を用いて、類似性を測定する。クラスタリング技術には、MacQueenのK-meansアルゴリズムおよびKohonenの自己組織化マップアルゴリズムが含まれる。
【0100】
生物学的情報を分類する際に使用するために強く主張される学習アルゴリズムは、例えば、PCT国際公開公報第01/31580号(Barnhill et al.,「Methods and devices for identifying patterns in biological systems and methods of use thereof」)、米国特許出願第2002 0193950 Al号(Gavin et al.,「Method or analyzing mass spectra」)、米国特許出願第2003 0004402 Al号(Hitt et al.,「Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data」)、および米国特許出願第2003 0055615 Al号(Zhang and Zhang,「Systems and methods for processing biological expression data」)に記載されている。
【0101】
分類モデルを任意の好適なデジタルコンピュータで形成および使用することができる。好適なデジタルコンピュータには、Unix、Windows(商標)、またはLinux(商標)に基づくオペレーティングシステムなどの、任意の標準的なまたは特殊なオペレーティングシステムを用いるマイクロコンピュータ、小型コンピュータ、または大型コンピュータが含まれる。使用されるデジタルコンピュータは、関心対象のスペクトルを創出するのに用いられる質量分析計から物理的に離れていてもよく、またはそれは質量分析計に連結されていてもよい。
【0102】
デジタルコンピュータによって実行または使用されるコンピュータコードによって、本発明の態様によるトレーニングデータセットおよび分類モデルを具象化してもよい。コンピュータコードは、光もしくは磁気ディスク、スティック、テープなどを含む任意の好適なコンピュータ読み取り可能媒体で保存されてもよく、またはC、C++、ビジュアルベーシックなどを含む任意の好適なコンピュータプログラミング言語で書かれてもよい。
【0103】
上記の学習アルゴリズムは、既に発見されているバイオマーカーについての分類アルゴリズムを開発すること、および着床能力についての新しいバイオマーカーを見出すこと両方のために有用である。分類アルゴリズムは、今度は、単独でまたは組み合わせて用いられるバイオマーカーに診断値(例えば、カットオフ点)を提供することによって、診断検査のための基礎を形成する。
【0104】
VI、胚発生能についてのバイオマーカーの検出のためのキット
別の局面において、本発明は、胚着床状態を定性化するためのキットを提供し、キットは本発明によるバイオマーカーを検出するために用いられる。ある態様において、キットは、好ましくは本発明のバイオマーカーに結合する、その上に付着させた捕捉試薬を有する、チップ、マイクロタイタープレート、またはビーズもしくは樹脂などの、固体支持体を含む、1つまたは複数の容器手段を含む。それゆえ、例えば、本発明のキットは、ProteinChip(登録商標)アレイなどのMALDIまたはSELDI用の質量分析プローブを含むことができる。生体分子特異的捕捉試薬の場合;キットは反応表面のある固体支持体、および生体分子特異的捕捉試薬を含む容器を含むことができる。
【0105】
キットは、洗浄溶液または洗浄溶液を作るための取扱説明書を含むこともでき、その中で捕捉試薬および洗浄溶液の組み合わせによって、例えば、質量分析によるその後の検出のための固体支持体上での1つまたは複数のバイオマーカーの捕捉が可能になる。キットには、各々異なる固体支持体上に存在する、複数種類の吸着剤が含まれてもよい。
【0106】
さらなる態様において、そのようなキットは、ラベルまたは別々の挿入物の形態で好適な操作パラメーターについての取扱説明書も含むことができる。例えば、取扱説明書は、試料の回収の仕方、プローブまたは検出されるべき特定のバイオマーカーの洗浄の仕方について消費者に知らせてもよい。
【0107】
また別の態様において、キットは、較正用の標準として用いられるべき、バイオマーカー試料と共に、1つまたは複数の容器を含むことができる。
【0108】
また別の態様において、キットは、1つまたは複数の対照集団値または範囲を確立するための構成要素を含むことができる。
【0109】
VII、スクリーニングアッセイにおける胚発生能についてのバイオマーカーの使用
本発明の方法は、その他の適用も同様に有する。例えば、バイオマーカーを用いて、インビトロまたはインビボでバイオマーカーの発現を調整する化合物をスクリーニングしてもよく、その化合物が今度は胚における着床不能を処置または抑制する際に有用であり得る。別の例において、バイオマーカーを用いて、着床能力を得るための処置に対する反応をモニターしてもよい。新規の避妊戦略を開発するために、本適用において同定される予測バイオマーカーから得られる情報を潜在的に用いることができると考えられる。例えば、胚培養培地、患者の血液、または子宮内膜液中で見出されるタンパク質マーカーを全身的にまたは局所的に中和または排除することができると考えられる。
【0110】
それゆえ、例えば、本発明のキットは、タンパク質バイオチップ(例えば、Ciphergen H50 ProteinChipアレイ、例えば、ProteinChipアレイ)などの、疎水性機能を有する固体基板、ならびに基板を洗浄するための酢酸ナトリウム緩衝剤だけでなく、チップ上の本発明のバイオマーカーを測定するためのおよびこれらの測定を用いて着床不能を診断するためのプロトコルを提供する取扱説明書も含むことができると考えられる。
【0111】
表1に掲載された1つまたは複数のバイオマーカーと相互作用する化合物を同定することによって、治療検討に好適な化合物を最初にスクリーニングしてもよい。例として、スクリーニングには、表1に掲載された特定のバイオマーカーを組み換えで発現する工程、バイオマーカーを精製する工程、およびバイオマーカーを基板に固着させる工程が含まれてもよいと考えられる。その後、典型的には水性条件で、検査化合物を基板と接触させ、および例えば、溶出率を塩濃度の関数として測定することによって、検査化合物とバイオマーカーの間の相互作用を測定する。ある種のタンパク質は、表1に掲載された1つまたは複数のバイオマーカーを認識および切断してもよく、その場合、標準的アッセイで、例えば、タンパク質のゲル電気泳動によって、1つまたは複数のバイオマーカーの消化をモニタリングすることによって、タンパク質を検出してもよい。
【0112】
関連する態様において、検査化合物が表1の1つまたは複数のバイオマーカーの活性を阻害する能力を測定してもよい。当業者は、特定のバイオマーカーの活性を測定するために用いられる技術がバイオマーカーの機能および特性によって変わるということを認識すると考えられる。例えば、適当な基質が利用可能であるならば、および基質の濃度または反応産物の出現が容易に測定可能であるならば、バイオマーカーの酵素活性をアッセイしてもよい。検査化合物の存在または非存在下における触媒作用の速度を測定することによって、潜在的に治療的な検査化合物が所与のバイオマーカーの活性を阻害または増強する能力を決定してもよい。また、検査化合物が表1中のバイオマーカーのうちの1つの非酵素的(例えば、構造的)機能または活性を妨害する能力を測定してもよい。例えば、検査化合物の存在または非存在下でのスペクトロスコピーによって、表1のバイオマーカーのうちの1つを含む多タンパク質複合体の自己会合をモニターしてもよい。あるいは、バイオマーカーが転写の非酵素的エンハンサーである場合、検査化合物の存在および非存在下におけるインビボまたはインビトロでのバイオマーカー依存的転写のレベルを測定することによって、バイオマーカーが転写を増強する能力を妨害する検査化合物を同定してもよい。
【0113】
着床能力のない卵および/または精子;すなわち、着床能力のない胚を結果的に生じる卵および/または精子を発生させ得る患者に表1の任意のバイオマーカーの活性を調整することができる検査化合物を投与してもよい。さらに、胚のゲノムがヒトにおいて4〜8細胞段階で活性化されるので、この時に発現したタンパク質は卵もしくは精子に関連する可能性があり、または結果として生じる胚にそれぞれ関係する可能性がある。後者の場合、任意のバイオマーカーの活性を調整することができる検査化合物を胚に投与してもよい。例えば、特定のバイオマーカーのインビボでの活性が着床不能に関するタンパク質の蓄積を抑制する場合、特定のバイオマーカーの活性を増大させる、検査化合物の投与は、患者における着床能力のない卵および/または精子の発生のリスクを低下させる可能性がある。逆に、バイオマーカーの活性の増大が、少なくとも一部は、着床能力のない卵および/または精子の発症の原因である場合、特定のバイオマーカーの活性を低下させる検査化合物の投与は、患者における着床能力のない卵および/または精子を発生させるリスクを低下させる可能性がある。
【0114】
さらなる局面において、本発明は、表1の任意のバイオマーカーの修飾形態の特異的なレベルと関連する、着床能力のない卵および/または精子の処置に有用な化合物を同定するための方法を提供する可能性がある。例えば、ある態様において、全長のバイオマーカーの切断を触媒してバイオマーカーの切断された形態を形成する化合物について、細胞抽出液または発現ライブラリーをスクリーニングしてもよい。そのようなスクリーニングアッセイのある態様において、バイオマーカーが切断されていない時には消光されたままであるが、タンパク質が切断された時には蛍光を発する、フルオロフォアをバイオマーカーに付着させることによって、バイオマーカーの切断を検出してもよい。あるいは、アミノ酸xとyの間のアミド結合を切断不可能にするように修飾された全長のバイオマーカーのバージョンを用いて、インビボのその部位で全長のバイオマーカーを切断する細胞性プロテアーゼと選択的に結合させまたは該プロテアーゼを「トラップ」してもよい。プロテアーゼおよびそれらの標的をスクリーニングおよび同定するための方法は、科学的文献に、例えば、Lopez-Ottin et al.(Nature Reviews, 3:509-519(2002))に十分に引証されている。
【0115】
また別の態様において、本発明は、表1の任意のバイオマーカーのレベルの増大または低下と関連する、発生能力のない卵および/または精子を産生する発生率または可能性を処置しおよび減少させるための方法を提供する。例えば、バイオマーカーを阻害または活性化する1つまたは複数のタンパク質が同定された後、同定されたタンパク質を阻害または活性化する化合物について、コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングしてもよい。そのような化合物を求めて化学的ライブラリーをスクリーニングする方法は、当技術分野において周知である。例えば、Lopez-Otin et al.(2002)を参照されたい。あるいは、表1の任意のバイオマーカーの構造に基づいて、阻害的化合物を賢明に設計してもよい。
【0116】
切断されたバイオマーカーに全長のバイオマーカーの機能性を与える化合物は、バイオマーカーの切断された形態と関連する、着床能力のない卵および/または精子の産生などの、状況を処置する際に有用である可能性が高い。したがって、さらなる態様において、本発明は、表1の任意のバイオマーカーの切断された形態のその標的プロテアーゼに対する親和性を増大させる化合物を同定するための方法を提供する可能性がある。例えば、切断されたバイオマーカーに全長のバイオマーカーのプロテアーゼ阻害的活性を与えるそれらの能力について、化合物をスクリーニングしてもよい。その後、対象における着床能力のない卵および/または精子の産生の進行を遅らせるまたは停止させるそれらの能力について、バイオマーカーの阻害的活性またはバイオマーカーと相互作用する分子の活性を調整することができる検査化合物をインビボで検査してもよい。
【0117】
臨床的レベルで、検査化合物をスクリーニングする工程には、対象が検査化合物に曝露される前および後に検査対象から試料を得る工程が含まれる。表1に掲載されたバイオマーカーの1つまたは複数の試料中のレベルを測定および解析し、検査化合物への曝露後にバイオマーカーのレベルが変化するかどうかを決定してもよい。本明細書において記載されたような、質量分析によって試料を解析してもよく、または当業者に公知の任意の適当な手段によって試料を解析してもよい。例えば、バイオマーカーに特異的に結合する放射性または蛍光標識された抗体を用いるウェスタンブロットによって、表1に掲載されたバイオマーカーの1つまたは複数のレベルを直接測定してもよい。あるいは、1つまたは複数のバイオマーカーをコードするmRNAのレベルの変化を測定しおよび所与の検査化合物の対象への投与と関連付けてもよい。さらなる態様において、インビトロの方法および材料を用いて、バイオマーカーの1つまたは複数の発現のレベルの変化を測定してもよい。例えば、表1のバイオマーカーの1つもしくは複数を発現している、または発現することができる、ヒト組織培養細胞を検査化合物と接触させてもよい。処置から結果として得られ得る任意の生理学的効果について、検査化合物で処置されている対象を日常的に検討してもよい。特に、対象における失敗した妊娠の可能性を低下させるそれらの能力について、検査化合物を評価してもよい。あるいは、着床能力のない卵および/または精子の産生があると以前に診断されている対象に検査化合物を投与する場合、さらなる失敗した妊娠の発生を低下または停止させるそれらの能力について、検査化合物をスクリーニングしてもよい。
【0118】
本発明を具体的な実施例としてより具体的に記載する。実施例は、例証的目的のために提示され、および決して本発明を限定するよう意図されない。当業者は、本質的に同じ結果を生み出すよう変化させまたは修正することができる様々な重大でないパラメーターを容易に認識することができると考えられる。
【0119】
VII、実施例
実施例1、胚発生能を定性化するためのバイオマーカーの発見
胚培地試料
Jones Institute for Reproductive Medicine in Norfolk, Virginiaで診察された患者からIVF由来ヒト胚対象を作製した。全ての場合において、各施設のヒト対象保護のための規制に従って、患者の同意が得られた。個々のIVF由来ヒト胚を維持するために用いられる、インビトロ胚培養培地から胚培地試料(n=702)を得た。前核形成の同定(IVFに関する標準的な注意を払うべきこと)に続き、オイルを用いて微小液滴中でIVF由来胚を個々に培養した。胚の子宮内移植または潜在的な将来の子宮内移植のための胚の凍結保存の前に、インビトロ培養期間の2日目または3日目のいずれかに培地試料を採取した。子宮内移植用に選ばれたもの(n=250)または移植用に選択されなかったもの(n=106)を含む2日胚から胚培地試料(n=356)を得た。子宮内移植用に選ばれたもの(n=243)または移植用に選択されなかったもの(n=103)を含む3日胚から胚培地試料(n=346)を得た。IVF由来ヒト胚に一度も接触していない、同じ胚培養培地のみの試料を陰性対照として含めた。胚培地試料を分注しおよび特にMALDI解析のために融解されるまで-80℃で凍結した。
【0120】
胚培地試料のMALDI処理
10μlの各胚培養培地試料をWCX磁気ビーズ分画に供した。解析されたタンパク質の範囲は、500〜9000Daであった。成功した着床を予測するプロファイルを同定するために、新鮮胚移植(対凍結胚)を最初に解析した。結果として得られた捕捉ペプチドおよびタンパク質をBruker Daltonics Ultraflex TOF質量分析計に供した。各試料をMALDI標的の上に2通りでスポットした。スペクトルを解析し、2日目および3日目のインビトロ胚増殖からの、成功した着床に至った陽性対照胚と、成功した着床に至らなかった陰性対照の間で差次的に発現したタンパク質ピークを評価した。成功した妊娠を産生する胚を分類するために構築された遺伝的アルゴリズムを2日目培地試料(表3)および3日目培地試料(表4)について構築した。表3の分類アルゴリズムは、11のピークに基づき;認識能力:妊娠:69.29%、非妊娠:91.74%;クロスバリデーション:妊娠:39.22%、非妊娠:82.9%であった。
【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【0123】
表4の分類アルゴリズムは、11のピークに基づき;認識能力:妊娠:88.5%、非妊娠:100%;クロスバリデーション:妊娠:40.6%、非妊娠:72.1%であった。
【0124】
1つの陽性妊娠しか結果的にもたらさない多数の胚の移植はデータを混乱させ得るので、移植された胚の等しい数が、着床した胚または陽性妊娠の数と等しいサブセットを同定した。試料セット全体から開発された最良の性能の遺伝的アルゴリズムで2日目(n=20)および3日目(n=20)からのこのサブセットの試料を未知試料として検査した。合計23/40(57.5%)の2日目試料を首尾よく着床すると正確に分類する一方で、27/40の3日目試料を首尾よく着床すると正確に分類した。成功裏に着床した陽性対照胚についての分類率は、3日胚について67.5%および2日胚について57.5%まで改善された。
【0125】
図1〜5で示されたように、m/z 2454、2648、2665、2684、および2778におけるピークは全て、陽性妊娠を産生した陽性対照胚からの胚培地試料における発現の減少を示す。胚は、これらのペプチドまたはタンパク質を増殖培地から優先的に吸収する可能性がある。m/z 2454におけるピークは、潜在的に2つのタンパク質:LIFT-MSの直接的なポストソース断片化によるオピオメラノコルチン(図6)およびESI-MSで流出されたプール試料からの後期角化エンベロープタンパク質(Late cornified envelope protein)として同定された。LIFTシークエンシングによって確認されたように、LIFTスペクトルは同一であるので、2648および2684におけるピークは、1つの水分子(18Da)を損失または獲得したm/z 2665と同じタンパク質である(図7)。これらのピークは、アポリポタンパク質A1断片として同定された(図8〜10)。今日までのところ、2778におけるピークは同定されていない。
【0126】
陰性対照が除外された胚(胎生学者による顕微鏡での検討後に移植または凍結保存用に選ばれなかった胚)からの胚培地を用いたさらなるプロファイリング実験を行ない、移植された胚からの培地試料を用いた研究で識別的であることが見出された同じピークが、移植されたまたは極低温で保存された胚から除外された胚を識別する際にも重要であるかどうかを決定した。表5に示されたように、除外された胚と移植された胚を分類するようにアルゴリズムを開発した。表5の分類アルゴリズムは7つのピークに基づき;クロスバリデーション:除外されたもの:20%、繰り返しの数:10、全体;57.4%、クラス1:80.06%、クラス2:34.74%であった。これらのピークのうちの2つ(m/z 2646およびm/z 2662)は、初期のプロファイリング研究から以前に開発されたアルゴリズムにおいて統計的に有意であり、現在はアポリポタンパク質A1の断片として同定されている。
【0127】
【表5】

【0128】
陰性対照の除外された胚培地と凍結保存された胚培地を分類する別のアルゴリズム(表6)を開発した。次に述べるように、両方のプロファイリング研究間の;アポリポタンパク質A1の断片として同定された共通のピーク(2646+2Da、2662+3Da、2683+2Da)の発現の減少は、妊娠を産生する生存可能胚の分類のための重要なマーカーを表す。表6の分類アルゴリズムは8つのピークに基づき;クロスバリデーション:除外されたもの:20%、繰り返しの数:10、全体;59.18%、クラス1:82.2%、クラス2:36.17%であった。
【0129】
胚培養培地中に存在する高分子量のタンパク質の発見のためのさらなる研究によって、表1に示されたさらなるバイオマーカーのマーカー5〜8として;37820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンの同定がもたらされた。MS/MS結果を図11に示す。これらのタンパク質は、胚が凍結保存または子宮内移植用に選ばれた、胚培養培地試料中に存在し、かつ対照(ブランク)胚培養培地のみには存在せず、およびしたがって生存可能胚によって分泌された重要なタンパク質を表す可能性がある。
【0130】
【表6】

【0131】
m/z 37820におけるピークは、精子形成の間に精巣で特異的に発現する:MOS_HUMAN(卵母細胞成熟遺伝子)として同定された。それは胎盤でも発現する。最高の形質転換活性があるMOS遺伝子は、胚における有糸分裂中止を引き起こすことによって、卵母細胞における成熟を効率的に誘導し、および細胞分裂停止因子(CSF)を模倣する。卵母細胞成熟を誘導する能力は、ヒト卵母細胞および着床前胚の増殖および発生を支配する原因であり得ると考えられる。
【0132】
m/z 45873におけるピークは、卵母細胞特異的な母性効果マーカー遺伝子である、接合子停止(Zygote Arrest)1遺伝子(ZAR-1)として同定された。それは、卵母細胞から胚への移行において必須の役割を果たす。それは胚発生の開始に必要不可欠である(マウスで発見された)。それは、家畜動物およびヒトにおける成功した着床前発生の鍵となる調節因子のうちの1つであると考えられている。
【0133】
m/z 282390におけるピークは、「融合遺伝子」型の、角化膜前駆体タンパク質ファミリーの新規のメンバーである、ホルネリン(Hornerin)として同定された。それは胚の皮膚で特異的に発現する。高レベルの発現が成人の噴門洞で引証されている一方で、低レベルは舌および食道で見出されている。
【0134】
m/z 435170におけるピークは、フィラグリン(Filaggrin)として同定された。フィラグリンは、上皮細胞におけるケラチン繊維に結合するフィラメント関連タンパク質である。
【0135】
本発明は添付の図面および前述の説明で例証および記載されているが、これは例証的でかつ特徴が制限的でないものとみなされるべきであり、好ましい態様のみが示されおよび記載されているということ、ならびに本発明の精神の範囲内で生じる全ての変化および修正が保護されることが望ましいということが理解される。さらに、本明細書において引用された全ての参照および特許は当業者のレベルを示し、ならびにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】陽性の着床を産生するIVF由来胚からの培地試料中で過少発現している、約2454、2648、2665、2684、および2778ダルトンでの最も識別力のあるピークを示す、WCX磁気ビーズ分画を経た2日胚培養培地試料に対して行なわれた平均的なMALDIスペクトルを表す。スペクトルは、胚培養培地それ自体、胚によって吸収されたもの、または胚から分泌されたもののいずれかにおける、生物学的試料中の1つまたは複数のペプチドを表し;より濃い線は、移植されたIVF由来胚の成功した着床からの培地試料を表し;より薄い影付きの線は、移植されたIVF由来胚の失敗した着床からの培地試料を表し;X軸は電荷当たりの質量(m/z)であり;Y軸は相対強度である。
【図2】3日胚培地の2つの同じ群間のm/z 2454についてのピーク強度の分布の散布プロットを表す。妊娠を産生する、3日目の胚からの培地試料の70パーセントが、このピークについて妊娠を産生しない培地試料の平均を下回る。
【図3】3日胚培地の2つの同じ群間のm/z 2648についてのピーク強度の分布の散布プロットを表す。妊娠を産生する、3日目の胚からの培地試料の88パーセントが、このピークについて妊娠を産生しない培地試料の平均を下回る。
【図4】3日胚培地の2つの同じ群間のm/z 2684についてのピーク強度の分布の散布プロットを表す。妊娠を産生する、3日目の胚からの培地試料の68パーセントが、このピークについて妊娠を産生しない培地試料の平均を下回る。
【図5】3日胚培地の2つの同じ群間のm/z 2778についてのピーク強度の分布の散布プロットを表す。妊娠を産生する、3日目の胚からの培地試料の73パーセントが、このピークについて妊娠を産生しない培地試料の平均を下回る。
【図6】m/z 2454におけるピークをオピオメラノコルチンの断片と同定するMALDI MS/MS LIFTスペクトルMASCOT検索の結果を表す。上のパネルは、76という確率MOWSEスコアであり、この場合67を超えるスコアが有意である。下のパネルは、タンパク質配列全体のコンテクストにおいて同定されたペプチドを示す。
【図7】m/z 2684、2666、および2684における3つのピークのMALDI MS/MS Liftスペクトルを表す。断片化パターンは同一であり、これらのピークが同じペプチド配列に帰せられるということを示している。
【図8】m/z 2665.6におけるピークをアポリポタンパク質A1の断片と同定するMALDI MS/MS LIFTスペクトルMASCOT検索の結果を表す。上のパネルは、93という確率MOWSEスコアであり、この場合64を超えるスコアが有意である。下は、同定されたペプチド配列である。
【図9】タンパク質配列全体のコンテクストにおいて同定されたアポリポタンパク質A1のペプチド配列を表す。
【図10】bおよびyイオンを示すアポリポタンパク質A1ペプチドの断片化スペクトルを表す。
【図11】胚培地中に見出される高分子量タンパク質を同定するESI-MS/MSシークエンシングおよびデータベース検索のMASCOTの結果を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)IVF由来ヒト胚を胚培養培地中で培養する工程;
b)胚培養培地から検査試料を得る工程;
c)約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6、4093±8.2、37820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンの分子量を有するバイオマーカーからなる群より選択される、検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの量を検出する工程;
d)検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの量を、良好な発生能を欠くことが既知である対照試料中の同一の少なくとも1つのバイオマーカーの量と比較する工程
を含む、IVF由来ヒト胚における発生能の診断を支援するための方法であって、
e)対照試料と比較した、検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの差次的発現を、良好な発生能の診断と関連付ける、方法。
【請求項2】
a)IVF由来ヒト胚を胚培養培地中で培養する工程;
b)胚培養培地から検査試料を得る工程;
c)約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6、および4093±8.2ダルトンの分子量を有するバイオマーカーからなる群より選択される、検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの量を検出する工程;
d)検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの量を、良好な発生能を欠くことが既知である対照試料中の同一の少なくとも1つのバイオマーカーの量と比較する工程
を含む、IVF由来ヒト胚における発生能の診断を支援するための方法であって、
e)対照試料と比較した、検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの過少発現を、良好な発生能の診断と関連付ける、方法。
【請求項3】
a)IVF由来ヒト胚を胚培養培地中で培養する工程;
b)胚培養培地から検査試料を得る工程;
c)約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、および2778±5.6ダルトンの分子量を有するバイオマーカーからなる群より選択される、検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの量を検出する工程;
d)検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの量を、良好な発生能を欠くことが既知である対照試料中の同一の少なくとも1つのバイオマーカーの量と比較する工程
を含む、IVF由来ヒト胚における発生能の診断を支援するための方法であって、
e)対照試料と比較した、検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの過少発現を、良好な発生能の診断と関連付ける、方法。
【請求項4】
a)IVF由来ヒト胚を胚培養培地中で培養する工程;
b)胚培養培地から検査試料を得る工程;
c)約37820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンの分子量を有するバイオマーカーからなる群より選択される、検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの量を検出する工程
を含む、IVF由来ヒト胚における発生能の診断を支援するための方法であって、
d)検査試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの検出を、良好な発生能の診断と関連付ける、方法。
【請求項5】
診断される発生能が着床能である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
診断される発生能が満期妊娠能である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
IVF由来ヒト胚を凍結保存する、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
IVF由来ヒト胚を凍結保存しない、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
検査試料を培養2日目に得る、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
検査試料を培養3日目に得る、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
複数のバイオマーカーを検出する工程を含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのバイオマーカーを検出する工程を質量分析により行う、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
質量分析がレーザー脱離/イオン化質量分析である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
レーザー脱離/イオン化質量分析がマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
レーザー脱離/イオン化質量分析が表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
レーザー脱離/イオン化質量分析が、
(a)付着させた吸着剤を含む基板を提供する工程;
(b)検査試料を吸着剤と接触させる工程;
(c)基板から少なくとも1つの捕捉されたバイオマーカーを脱離およびイオン化させる工程;ならびに
(d)脱離/イオン化させたバイオマーカーを質量分析計により検出する工程
を含む、請求項13記載の方法。
【請求項17】
吸着剤が陽イオン交換吸着剤である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
吸着剤が陰イオン交換吸着剤である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
吸着剤が抗体吸着剤である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
吸着剤が生体分子特異的吸着剤である、請求項16記載の方法。
【請求項21】
吸着剤が生体分子選択的吸着剤である、請求項16記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つのバイオマーカーをNMR分光法によって測定する、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つのバイオマーカーを免疫アッセイによって測定する、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
免疫アッセイが酵素免疫アッセイである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
付着させた少なくとも1つの捕捉試薬を含む吸着剤を含む1つまたは複数の容器手段を含む、IVF由来ヒト胚における発生能の診断を支援するためのキットであって、
捕捉試薬が、約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6、4093±8.2、7820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンの分子量を有するバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーに結合する、キット。
【請求項26】
付着させた少なくとも1つの捕捉試薬を含む吸着剤を含む1つまたは複数の容器手段を含む、IVF由来ヒト胚における発生能の診断を支援するためのキットであって、
捕捉試薬が、約2454±5、2648±5.3、2665±5.3、2684±5.4、2778±5.6ダルトンの分子量を有するバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーに結合する、キット。
【請求項27】
付着させた少なくとも1つの捕捉試薬を含む吸着剤を含む1つまたは複数の容器手段を含む、IVF由来ヒト胚における発生能の診断を支援するためのキットであって、
捕捉試薬が、約7820±76、45873±92、282390±565、および435170±870ダルトンの分子量を有するバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーに結合する、キット。
【請求項28】
少なくとも1つの捕捉試薬を用いて少なくとも1つのバイオマーカーを検出するための取扱説明書をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項29】
1つもしくは複数の対照集団値または対照集団範囲を確立するための構成要素をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項30】
較正用の標準として用いられるバイオマーカー試料を伴う1つまたは複数の容器をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項31】
複数のバイオマーカーを検出するための取扱説明書をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項32】
捕捉試薬がSELDIプローブである、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項33】
捕捉試薬がMALDIプローブである、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項34】
捕捉試薬がバイオマーカーに特異的に結合する抗体である、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項35】
陽イオン交換クロマトグラフィー吸着剤をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項36】
陰イオン交換クロマトグラフィー吸着剤をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項37】
生体分子特異的吸着剤をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項38】
生体分子選択的吸着剤をさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項39】
容器手段が、チップ、マイクロタイタープレート、ビーズ、および樹脂からなる群より選択される固体支持体を含む、請求項25〜27のいずれか一項記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−524829(P2009−524829A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552490(P2008−552490)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/002456
【国際公開番号】WO2007/089734
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(508226159)イースタン バージニア メディカル スクール (1)
【Fターム(参考)】