説明

ヒドラジン含有排水の処理方法

【課題】ヒドラジン含有水溶液から硫酸ヒドラジンを容易に回収することができる方法を提供する。
【解決手段】ヒドラジン含有排水に硫酸を添加して、ヒドラジンを難溶性の硫酸ヒドラジンとして析出・沈殿分離し、分離液とヒドラジン含有排水とをアニオン交換膜介して接触させて硫酸イオンなどを移行させることにより、硫酸添加量、および分離液中和用のアルカリ量を削減する。好ましくは、分離液とヒドラジン含有排水とをアニオン交換膜介して向流方式で接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドラジン含有排水の処理方法に係り、好適には、原子力発電所の復水脱塩装置の再生廃液や金属微粒子製造排水、ヒドラジン製造排水など、比較的高濃度のヒドラジンを含む排水から硫酸ヒドラジンを効率よく回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の復水脱塩装置の再生廃液や金属微粒子製造排水、ヒドラジン製造排水などの排水は、ヒドラジンを比較的高濃度に含有している。例えば、発電所の休転中のボイラー等の機器類の腐食を防ぐために高濃度ヒドラジン水(通常ヒドラジン濃度100〜500mg/l程度)を保管水として機器類に張っておくことが行われている。この保管水は、発電所の運転再開に伴い排出する必要があるが、ヒドラジンが要因で化学的酸素消費量(COD)が高く、そのまま排出することはできない。
【0003】
従来、ヒドラジン含有排水の処理方法としては、酸化剤として塩素ガスや次亜塩素酸ナトリウムなどを用い酸化分解処理する方法が行われている(例えば、特開平5−115885号公報)。しかしながら、この方法でヒドラジンを分解するには、塩素ガスや次亜塩素酸ナトリウムを、ヒドラジンを分解するのに必要な量(当量)以上に添加する必要があり、余剰の残留塩素が残存することとなり、したがって、この残留塩素を処理するための付加的処理が必要となる。
【0004】
このような欠点を解消するために、酸化剤として過酸化水素を添加する方法が試みられている。しかしながら、この方法においては、ヒドラジンの分解速度が極めて遅いので、反応時間を長くしたり、温度を高めたりすることが必要であり、さらに大過剰の過酸化水素を使用することも必要であった。
【0005】
過酸化水素によるヒドラジンの分解速度を高めるために、例えばヒドラジン含有排水に、過酸化水素と銅化合物を添加し、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤によってpHを調整しながら、反応させる方法が提案されている(特開平9−234473号公報)。しかしながら、この方法においては、ヒドラジンの分解の最適pHは10〜11.5の範囲であり、このpHを維持するためには、アルカリ剤の添加量を制御する必要があり、装置が複雑化するのを免れない。また、水酸化ナトリウムは強アルカリであるため、過不足によるpH変動が大きくなるという問題もある。なお、前記次亜塩素酸ナトリウムは、海洋汚染防止法(第1有害液体物質)、危険則(危険物:腐食性物質)、労働安全衛生法(危険物:酸化性の物)に該当する。一方、過酸化水素は、毒・劇物取締法(劇物)、消防法(第2条危険物第6類過酸化水素)、労働安全衛生法(危険物:酸化性の物)に該当する。したがって、次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素を用いる方法においては、取り扱い性の問題及び安全性の改良が必要であった。
【0006】
特開昭57−19087号公報には、ヒドラジン含有排水に、過酸化水素発生源として過ホウ酸ナトリウムを添加してヒドラジンを分解する方法が記載されているが、この方法においては、処理水にホウ素が残留する。特公平5−54931号公報には、ヒドラジンを含む写真廃液に、過炭酸塩を添加する方法が記載されている。
【0007】
上記のいずれの方法においても、有用物であるヒドラジンを分解処分しており、ヒドラジンを回収して再利用することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−115885号公報
【特許文献2】特開平9−234473号公報
【特許文献3】特開昭57−19087号公報
【特許文献4】特公平5−54931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の問題点および資源の無駄使いを解決するためになされたものであり、その目的は、ヒドラジン含有水溶液から硫酸ヒドラジンを容易に回収することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)のヒドラジン含有排水の処理方法は、ヒドラジン含有排水に硫酸を添加して酸性下で硫酸ヒドラジンを析出させ、析出した硫酸ヒドラジンを固液分離して回収することを特徴とするものである。
【0011】
請求項2のヒドラジン含有排水の処理方法は、請求項1において、ヒドラジン含有排水に対しpHが1以下となるように硫酸を添加することを特徴とするものである。
【0012】
請求項3のヒドラジン含有排水の処理方法は、請求項1又は2において、硫酸ヒドラジンを固液分離した後の分離液とヒドラジン含有排水とをアニオン交換膜を介して接触させ、分離液中の硫酸イオンをヒドラジン含有排水側へ移行させることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4のヒドラジン含有排水の処理方法は、請求項3において、アニオン交換膜が、第4級アンモニウム基を有するアニオン交換膜であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5のヒドラジン含有排水の処理方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、硫酸を添加した液を10℃以下に冷却して硫酸ヒドラジンを析出させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ヒドラジン含有排水に硫酸を添加し、硫酸酸性下で硫酸ヒドラジンを析出させ、固液分離して硫酸ヒドラジンを回収する。なお、硫酸の添加により、2N+HSO→(NSO(硫酸第一ヒドラジン、硫酸ヒドラジニウム(1+))あるいはN+HSO→(N)HSO(硫酸第二ヒドラジン、硫酸ヒドラジニウム(2+))の反応に従って硫酸ヒドラジンが生成する。
【0016】
固液分離後の分離液をアニオン交換膜を介してヒドラジン含有排水と接触させることにより、過剰の硫酸を分離液からヒドラジン含有排水へ移行させることにより、ヒドラジン含有排水に添加する硫酸の使用量や、酸性処理廃液の中和用のアルカリ(NaOH等)の使用量を減少させることができる。
【0017】
なお、硫酸ヒドラジンの溶解度を低くするために、析出部の液温を低くするのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態に係るヒドラジン含有排水の処理方法の一例を示すフロー図である。
【図2】実験結果を示すグラフである。
【図3】実験結果を示すグラフである。
【図4】実施例における拡散透析槽への通水方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0020】
[ヒドラジン含有排水]
本発明において、処理対象となるヒドラジン含有排水としては、原子力発電所の復水脱塩装置の再生廃液や金属微粒子製造排水、ヒドラジン製造排水、医薬・農薬製造排水などが例示されるが、これに限定されない。
【0021】
ヒドラジン含有排水中のヒドラジン濃度は1,000〜50,000mg/L程度、特に10,000〜30,000mg/L程度が好適であるが、これに限定されない。
【0022】
ヒドラジン含有排水のpHなどその他の性状は特に限定されない。
【0023】
このヒドラジン含有排水を本発明方法に従って処理する場合、まずこのヒドラジン含有排水を濾過等の固液分離処理して微粒子その他の異物を除去するのが好ましい。
【0024】
このヒドラジン含有排水に濃度1.0〜10重量%程度の濃度になるように硫酸を添加し、好ましくはpHを1以下、特に0.01〜1とし、前記反応式に従って硫酸ヒドラジンを析出させる。硫酸ヒドラジンの溶解度は、低温になるほど小さくなるので、硫酸ヒドラジンの析出反応を10℃以下、特に0〜5℃程度の低温度で行うのが好ましい。析出反応時間は、通常は60分〜14日、特に2〜5時間程度が好適である。
【0025】
この硫酸ヒドラジン析出反応を行う場合、反応槽内にヒドラジン含有排水を導入し、この反応槽内に硫酸を添加するか、又はこの反応槽に連なる排水導入ラインにて硫酸を添加するのが好ましい。このラインにラインミキサを設けてもよい。反応槽に撹拌機を設け、緩く攪拌するのが好ましい。上記のように低温下で硫酸ヒドラジンを析出させるためには、この反応槽に冷却コイル等の冷却手段を設ければよい。
【0026】
析出した硫酸ヒドラジンを固液分離するための手段としては、沈降分離、遠心分離、ろ布濾過、膜濾過などが好適である。
【0027】
分離した硫酸ヒドラジンからは、これを温水に溶解した後、OH形アニオン交換樹脂と接触させることによりヒドラジンを回収することができる。
【0028】
固液分離後の分離液中には、過剰に添加した硫酸が残留しているので、この分離液と、未処理のヒドラジン含有排水とをアニオン交換膜を介して接触させ、分離液中の硫酸イオンを未処理ヒドラジン含有排水側に移行させるのが好ましい。これにより、ヒドラジン含有排水に添加すべき硫酸量を低減すると共に、硫酸含有分離液のpHを高くし、後の中和処理のためのアルカリの使用量を減少させることができる。
【0029】
このようなイオン交換膜としては、例えばIONICS製NEPTON AR103PZL、トクヤマ製NEOSEPTA AHA、旭硝子製Selemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。
【0030】
この硫酸イオンの未処理排水側への移行処理を行うためには、槽体内をアニオン交換膜で分離液流通用の1次室と、未処理排水流通用の2次室とに区間した拡散透析槽を用い、1次室に分離液を流通させ、2次室に未処理排水を流通させるのが好ましい。特に、この際、分離液と未処理排水とが向流となるように流通させることにより、硫酸イオンの未処理排水側への移行効率を向上させることができる。
【0031】
第1図は、上記の一連の処理方法を実施するヒドラジン含有排水処理システムの一例を示すフロー図である。ヒドラジン含有排水を濾過器1によって濾過した後、まず拡散透析槽2の1次室2aに流通させる。この拡散透析槽2内は、アニオン交換膜2iによって、1次室2aと2次室2bとに区画されている。2次室2bには、後述の硫酸を添加した排水を流通させ、この排水中の硫酸イオンをアニオン交換膜2iを拡散させて、1次室2a中のヒドラジン含有排水中に移行させる。
【0032】
1次室2aから流出する排水に対し硫酸を添加した後、反応槽3に導入し、硫酸ヒドラジンを析出させる。この反応槽3内にて沈降した硫酸ヒドラジンを反応槽3の底部から取り出す。反応槽3内の上澄液を濾過器4で濾過した後、拡散透析槽2の2次室2bに未処理排水と向流にて流通させる。2次室2bから流出した液に対しアルカリ(苛性ソーダ水溶液)を添加して中和槽5に導入し、中和する。なお、苛性ソーダ水溶液は中和槽5に添加されてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例について説明する。なお、以下の実施例及び比較例で用いたヒドラジン含有排水は、硫酸ニッケル・六水和物(品位22.2質量%)44.8kgを純水80Lに溶解して得た水溶液を、水酸化ナトリウム濃度200g/Lの水溶液100Lにその液温を60℃に維持しながらゆっくりと滴下して、ニッケルの水酸化物を析出させて懸濁液とし、この懸濁液にその液温を60℃に維持しながらヒドラジン・一水和物30kgを30分間にわたって添加し、ニッケルの水酸化物をニッケルに還元して調製したものである。このヒドラジン含有排水の組成を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[比較例1]
容積2.0Lの容器に、上記ヒドラジン含有排水1.0Lを収容し、濃度75wt%の硫酸を添加し、pH1以下の硫酸酸性とし、汎用撹拌機「スリーワンモータBL300」(新東科学(株)製)によって20分緩く攪拌して硫酸ヒドラジンを析出させ、次いで5時間静置し、硫酸ヒドラジンを沈降させた。なお、溶解度を低くするため液を10℃に冷却した。
【0036】
ヒドラジン含有排水に75%硫酸を滴下した時の添加量と、pH及び5時間経過後の上澄み液のヒドラジン濃度との関係を第2図に示す。
【0037】
第2図の通り、ヒドラジン濃度を2000mg/L以下にするには、75%硫酸を100mL/L−排水の割合で添加することが必要であった。
【0038】
75%硫酸を100mL/L−添加した液を濾別することにより、18g−N/L−排水の割合で硫酸ヒドラジンが回収された。また、このときの濾液を中和するためには、25%苛性ソーダが220mL/L必要であった。
【0039】
[実施例1]
第4図のように、アニオン交換膜2iとしてアサヒエンジニアリング製アニオン交換膜DSV2.1dmを隔膜とした拡散透析槽2を製作した。この拡散透析槽2の2次室2bに比較例1で得られたろ過水500mLを収容し、ポンプ(図示略)により10mL/minにて循環通水した。また、1次室2aには、上記のヒドラジン含有排水(未処理のもの)500mLを収容し、ポンプ(図示略)により流量10mL/minにて循環通水した。この時の各液のpHの経時変化を以下に示す。
【0040】
20Hr循環通水後のヒドラジン含有排水のヒドラジン濃度の変化はなかった。このヒドラジン含有排水に、75%硫酸を比較例1と同様にして添加して20分間反応させ、硫酸ヒドラジンを析出させた。この場合、ヒドラジン濃度が2000mg/L以下になるまでの75%硫酸の添加量は50mL/Lであり、比較例1に比べて半減することが認められた。
【0041】
また、20Hr拡散透析後の濾過水に25%苛性ソーダを添加して中和したところ、中和に要する添加量は100mL/Lと半減することが認められる。
【0042】
この実施例1及び比較例1より、本発明によると、硫酸ヒドラジンを回収するに当たり、硫酸使用量および中和用アルカリ量が削減できることが認められた。
【符号の説明】
【0043】
1,4 濾過器
2 拡散透析槽
2a 1次室
2b 2次室
2i アニオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドラジン含有排水に硫酸を添加して酸性下で硫酸ヒドラジンを析出させ、析出した硫酸ヒドラジンを固液分離して回収することを特徴とするヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、ヒドラジン含有排水に対しpHが1以下となるように硫酸を添加することを特徴とするヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、硫酸ヒドラジンを固液分離した後の分離液とヒドラジン含有排水とをアニオン交換膜を介して接触させ、分離液中の硫酸イオンをヒドラジン含有排水側へ移行させることを特徴とするヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項4】
請求項3において、アニオン交換膜が、第4級アンモニウム基を有するアニオン交換膜であることを特徴とするヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、硫酸を添加した液を10℃以下に冷却して硫酸ヒドラジンを析出させることを特徴とするヒドラジン含有排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−161365(P2011−161365A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26627(P2010−26627)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】