説明

ヒドリンダンの製造方法及び溶剤

【課題】従来の方法に比べ方法的に容易で且つ安価に、効率良く生産することが可能なヒドリンダンの製造方法、並びにより安価なナフテン系溶剤あるいは洗浄剤用溶剤を提供すること。
【解決手段】本発明の製造方法は、ブタジエンとシクロペンタジエンのディールスアルダー反応によって得たテトラヒドロインデンを水素化してヒドリンダンを製造する。またその方法で得たヒドリンダンは、溶剤あるいは洗浄剤として利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドリンダンの製造方法ならびにその製造方法で得たヒドリンダンを含む溶剤に関する。該ヒドリンダンはナフテン系溶剤として重要である。
【背景技術】
【0002】
ヒドリンダンは下記式で示される、炭素数9のナフテン系炭化水素であり、その優れた溶解性のため、塗料溶剤あるいは洗浄剤として優れた性能を示す。
【化1】

ヒドリンダンは、インデンを完全水添することにより得られることが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。また当該インデンは、石炭乾留の際に得られるタール分、あるいは石油留分の熱分解により得られる、炭素数9の留分に含まれることは良く知られている。
然しながら、これら石炭乾留から得られるタール分あるいは、石油留分の熱分解により得られる炭素数9の留分は、インデンと近接する沸点を有する多数の炭化水素の混合物であり、これからヒドリンダンの原料となるインデンを高い純度で得るためには、多段数の蒸留を行う必要があるなど、困難を伴うものであった。また、インデンは熱的安定性が低く、蒸留の過程で熱重合して回収率を低下させたり、蒸留設備のファウリングを起こすなど様々な問題を有する。
さらに、インデンの完全水素化を行うためにはベンゼン環の核水素化が必要であり、水素化触媒を用いて高温高圧で反応させる必要があるなど、工業的に行うには高コストであるという問題もある。そこで、安価で効率的なヒドリンダンの製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Revue Roumaine de Chimie, 47(3-4) (2002) 353-362.
【非特許文献2】Bulletin of Electrochemistry, 16(12) (2000) 529-532.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、原料の調達が容易で、安価で効率的なヒドリンダンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記の工程(1)〜(3)を含むヒドリンダンの製造方法が提供される。
シクロペンタジエンと1,3−ブタジエン(以下、ブタジエンと略すことがある)をディールスアルダー反応させて3a,4,7,7a−テトラヒドロインデン(以下、テトラヒドロインデンと略すことがある)を含有する反応混合物を製造する工程(1)、
工程(1)で得られた反応混合物を蒸留し、3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを分離する工程(2)、
工程(2)で得られた3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを水素化触媒の存在下で水素化してヒドリンダンを製造する工程(3)。
また本発明によれば、工程(2)で得られる3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンの純度が97質量%以上であることを特徴とする、上記ヒドリンダンの製造方法が提供される。
更に本発明によれば、水素化触媒がニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウムの少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする上記ヒドリンダンの製造方法が提供される。
更にまた本発明によれば、上記いずれかに記載の製造方法で得られたヒドリンダンを含む溶剤が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法は、シクロペンタジエンとブタジエンをディールスアルダー反応させて得られるテトラヒドロインデンを水素化する方法を採用するので、従来のインデンを水素化する方法に比べ、原料の調達が容易であり、安価に効率的にヒドリンダンを製造することができる。得られるヒドリンダンは、洗浄剤用溶剤、金属加工油、潤滑油、切削油、圧延油、プレス油、インキ用溶剤、塗料用溶剤、クリーニング溶剤等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
(工程(1)について)
本発明の製造方法は、シクロペンタジエンと1,3−ブタジエンをディールスアルダー反応させて3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを含有する反応混合物を製造する工程(1)を含む。
シクロペンタジエンとブタジエンのディールスアルダー反応は、エチリデンノルボルネンを製造する際の中間体であるビニルノルボルネンの製造方法としても良く知られている。ビニルノルボルネンを製造する際には、シクロペンタジエンはジオレフィン化合物として、ブタジエンはジエノフィル化合物として作用する。一方、本発明の工程(1)においてシクロペンタジエンとブタジエンとからテトラヒドロインデンを製造する際には、シクロペンタジエンはジエノフィル化合物として、ブタジエンはジオレフィン化合物として作用する。
シクロペンタジエンとブタジエンのディールスアルダー反応において、テトラヒドロインデンの生成とビニルノルボルネンの生成は同時に生起する。そこで、工程(1)においては、テトラヒドロインデンの生成が有利に進む反応条件を選択することが肝要である。
シクロペンタジエンとブタジエンのディールスアルダー反応によりテトラヒドロインデンを製造するに際しては、例えば、「石油学会誌」(第13巻、第12号、p950〜954(1970))に記載される従来知られた方法を用いることができる。
【0008】
工程(1)のディールスアルダー反応において、シクロペンタジエンに対するブタジエンのモル比は、通常0.2〜10、好ましくはから0.5〜5の範囲である。モル比がこの範囲を超えて小さい場合にはシクロペンタジエン単独のディールスアルダー反応によるジシクロペンタジエンの生成或いは高重合体の生成により、シクロペンタジエン基準のテトラヒドロインデンの収率が低下するおそれがある。一方、モル比がこの範囲を超えて大きくなると、ジシクロペンタジエンの生成或いは高重合体の生成は抑えられるが、ブタジエン単独のディールスアルダー反応によるシクロオクタジエンの生成あるいはビニルノルボルネンの生成などにより、ブタジエン基準のテトラヒドロインデンの収率が低下するおそれがある。また、反応器内のブタジエンが過剰になるために、反応器容積あたりのテトラヒドロインデンの生成効率が低下するおそれもある。なお、シクロペンタジエンとしては、その前駆体であるジシクロペンタジエンを用いることも可能である。そのような場合には、ジシクロペンタジエン1モルがシクロペンタジエン2モルに相当する。
【0009】
上記反応は、ブタジエンとシクロペンタジエンとを無溶媒で反応させても良いが、溶剤共存下で反応させることも出来る。溶剤を用いることにより、高重合体の生成が抑制され、二量体の生成も抑制されるので好ましい。
溶剤としては、例えば、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の不活性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール;クロロベンゼン、ジクロルエタン等の有機ハロゲン化合物が好ましく使用される。
【0010】
工程(1)において上記反応の反応温度は、通常100〜250℃の範囲から適宜選択される。250℃を超える高温では、反応原料であるシクロペンタジエンやブタジエン、特にシクロペンタジエンの重合反応が起こり易く、高重合体が生成すると共にテトラヒドロインデンの収率が低下するおそれがある。加えて、反応器や熱交換器等の設備の閉塞や、装置内壁面への重合物の付着による伝熱不良やその他の障害が生ずる場合がある。また、高温においては逆ディールスアルダー反応による生成物の開裂などの逆反応が優勢になり、平衡収率が低下するおそれもある。一方、100℃を下回る温度では、ディールスアルダー反応の速度が小さく、実用的な反応率を達成するために大きな反応器が必要となる場合がある。
工程(1)において上記反応の反応圧力は、採用した反応温度において、反応器内が液相を保つ圧力を採用する。反応器内に気相部分が存在すると、気相部内壁面への重合物の沈着が起こり易くなり好ましくない。
工程(1)において上記反応の反応時間は、反応温度あるいは原料組成等により適宜設定されるが、好ましくは30分間〜4時間である。さらに好ましくは1〜3時間である。なお、撹拌槽型の連続反応装置あるいは管型の連続流通式反応器を用いる場合は、上記の反応時間に相当する滞留時間を実現できる液空間速度を採用することができる。
【0011】
工程(1)に用いるシクロペンタジエンは、通常は二量体、すなわちジシクロペンタジエンとして入手可能である。従って上記のディールスアルダー反応を行わせるためには、ジシクロペンタジエンが熱分解してシクロペンタジエンにならなくてはならない。この熱分解反応は、通常はディールスアルダー反応の前に行わせるが、採用するディールスアルダー反応条件によってはディールスアルダー反応器にジシクロペンタジエンを供給し、ジシクロペンタジエンの熱分解とそれにより生成するシクロペンタジエンとブタジエンのディールスアルダー反応とを並行して行わせることも可能である。なお、ディールスアルダー反応において高重合物の生成防止による反応器や熱交換器の汚れを防止する方法が種々提案されているがそのような方法を採用することも出来る(例えば、特開昭50−121250号公報、特開昭55−153727号公報)。
【0012】
(工程(2)について)
本発明の製造方法は、工程(1)で得られた反応混合物を蒸留し、3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを分離する工程(2)を含む。
工程(1)のディールスアルダー反応で得られた反応混合物は、次いで蒸留し、目的とするテトラヒドロインデンを分離する。
反応混合物は、主にブタジエンとシクロペンタジエン相互のディールスアルダー反応生成物であるテトラヒドロインデンとビニルノルボルネン、それにブタジエン単独のディールスアルダー反応生成物であるビニルシクロヘキセン、1,5−シクロオクタジエン、シクロペンタジエン単独のディールスアルダー反応生成物であるジシクロペンタジエン、さらには未反応のブタジエンとシクロペンタジエンおよび主としてシクロペンタジエンの多量体からなる重質物を含む。
これらディールスアルダー反応による反応混合物の常圧における沸点は、表1に示すとおりであり、蒸留工程を組み合わせて適宜分離することができる。ディールスアルダー反応生成物が熱で分解し易いことを考えると、高温部での滞留時間が短い連続蒸留方式が好ましい。また減圧蒸留を行って成るべく低い温度で蒸留することが好ましい。
【0013】
【表1】

【0014】
蒸留により回収されるテトラヒドロインデンの純度は適宜設定されるが、97質量%以上が望ましい。97質量%を下回ると、次の工程である水素化反応に於いて得られるヒドリンダンの純度が低下し、その結果臭気が強くなり好ましくない。臭気を改善するためには、更なる蒸留を行わなくてはならず、コスト高となる。また、テトラヒドロインデン以外の成分の水素化反応に水素が消費され、この点からもコスト高となり好ましくない。このように、テトラヒドロインデンの純度を高くするために、上記反応条件及び蒸留条件の範囲から適宜、その条件を選択することが好ましい。
【0015】
(工程(3)について)
本発明の製造方法は、工程(2)で得られた3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを水素化触媒の存在下で水素化してヒドリンダンを製造する工程(3)を含む。
工程(3)において水素化反応は、水素化触媒を用い、通常加圧下で行われる。
水素化触媒は、水素化反応が可能な触媒である限りいずれのものでもよく、特に制限されない。例えば、金属酸化物担体に、第VIII族に属する金属元素およびその酸化物や硫化物などの中から選ばれる少なくとも1種の成分を担持させたものを用いることができる。
金属酸化物担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、結晶性アルミノシリケート、ゼオライト、珪藻土が挙げられ、金属酸化物の他に活性炭なども担体として好ましく用いられる。
第VIII族金属としては、例えば、ニッケル、コバルト、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの混合物からなる群より選択される。この中ではニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウムが好ましく用いられるが、水素化活性およびコストの面からニッケルが特に好ましい。
【0016】
水素化反応の反応様式は、一般の様式が用いられる。すなわち撹拌機を備えた回分式反応容器を用いる方法、あるいは円筒型または多管式の反応器に触媒を充填して、連続的に反応原料を流通させる固定相連続流通型反応方式などが用いられる。
水素化の温度は、触媒の種類や温度以外の反応条件に応じて適宜選択でき、好ましくは100〜300℃、更に好ましくは150〜250℃である。反応温度が100℃を下回る場合には水素化反応の進行が遅く、ヒドリンダンが効率良く生成しないおそれがある。また300℃を上回る場合には、テトラヒドロインデンの脱水素によるインダンの生成のような副反応が起こる場合がある。
水素化反応における水素圧は、通常2〜6MPa、好ましくは3〜5MPaである。水素圧がこの範囲を下回ると水素化反応の進行が遅くなるばかりではなく、テトラヒドロインデンのシクロヘキセン環の脱水素反応が併発し、インダンが生成しやすくなる。インダンは芳香族環を有するために水素化され難く、このことも原因してヒドリンダンの生成が困難になる。水素圧がこの範囲を上回ると、反応器に高い耐圧性が要求され、水素化装置のコストが上昇し好ましくない。
【0017】
工程(3)においてテトラヒドロインデンに対する水素のモル比は、回分式反応器の場合、反応の進行に従って水素圧が低下し、上述の範囲を下回った場合は新たに水素を供給し上述の水素圧力内に収まるように制御して反応を完結させることができる。また水素化触媒を充填した固定相連続流通型反応方式の場合、テトラヒドロインデンに対する水素のモル比は、通常10〜100、好ましくは40〜70である。
回分式反応器の場合の反応時間は、反応器内のテトラヒドロインデンの反応率あるいはヒドリンダンの生成率を測定して適宜決定でき、通常1〜10時間、好ましくは3〜7時間である。また固定相連続流通型反応方式の場合、好ましい液空間速度(LHSV(テトラヒドロインデン供給速度/触媒層体積:L−feed/L−cat/Hr))は0.1〜5である。
【0018】
工程(3)において、水素化反応触媒あるいは水素化反応条件によっては、水素化反応の過程で中間体としてインダンが生成することがある。インダンは芳香族環を有するために、テトラヒドロインデンに比べて水素化反応が進行し難く、好ましくない中間体であり、インダンが生成し難い触媒を選択し、反応条件を選択することが好ましい。
またインダンは、臭気のうえで好ましくない成分であるので、これを完全に核水添してヒドリンダンに転換することが好ましい。得られるヒドリンダンに残存するインダン含有量は、0.5質量%以下であることが臭気の面から好ましい。
工程(3)において、得られる水素化反応生成物は、必要により蒸留にかけて軽質分と重質分を取り除いて目的とするヒドリンダンを得ることができる。
本発明の方法により得られるヒドリンダンは、洗浄用溶剤をはじめ、金属加工油、潤滑油、切削油、圧延油、プレス油、インキ用溶剤、塗料用溶剤、クリーニング溶剤等の各種用途に適する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
(工程(1):シクロペンタジエンとブタジエンのディールスアルダー反応)
モル比0.5:1で混合したジシクロペンタジエンとブタジエンの混合物(シクロペンタジエン対ブタジエン換算ではモル比1:1の混合物に相当)250gを、ステンレス製オートクレーブに入れ、230℃で3時間反応させた。反応終了後、オートクレーブ内の反応混合液を水素炎イオン検出器付ガスクロマトグラフィー(FID−GC)で分析したところ、オートクレーブ内ではジシクロペンタジエンの熱分解とそれにより生成したシクロペンタジエンとブタジエンのディールスアルダー反応が進行し、原料の質量に対して37%の収率でテトラヒドロインデンが生成していた。
【0020】
(工程(2):反応混合物を蒸留しテトラヒドロインデンを分離精製)
次いで、反応混合物を蒸留し、純度98質量%のテトラヒドロインデン57gを得た。蒸留におけるテトラヒドロインデンの回収率は、純テトラヒドロインデン換算で60質量%であった。用いた蒸留塔は回分式で理論段数は37段、塔頂圧力100mmHg、塔頂温度はテトラヒドロインデン留出時で95〜100℃であった。
【0021】
(工程(3):テトラヒドロインデンを水素化することによるヒドリンダンの製造)
100mlのステンレス製オートクレーブに、工程(2)で調製したテトラヒドロインデン30ml及びニッケル系水素化触媒として日揮触媒化成(株)製の「N112」(Ni含有量50質量%)0.84gを入れ、水素をオートクレーブ内に導入して4.0MPaに調整した。その後200℃まで昇温し、200℃到達後5時間反応を継続した。なお、反応で消費された水素を補給するために、30分毎に圧力が4.0MPaとなるまで水素を導入した。5時間後の反応液をFID−GCで分析したところ、テトラヒドロインデンは100%水素化され、仕込んだテトラヒドロインデンに対するヒドリンダンの収率は98mol%であった。なお、テトラヒドロインデンの脱水素生成物であるインダンの生成は認められなかった。
【0022】
実施例2〜4
実施例1の工程(2)と同じ条件で得られたテトラヒドロインデンを用い、水素化触媒を表2に示す触媒を用いたほかは実施例1と同じ条件で水素化反応を行った。結果を表2に示す。何れの触媒もインダンの生成は殆ど認められず、100mol%近い収率でヒドリンダンが得られた。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例5
実施例1の工程(2)と同じ条件で得られたテトラヒドロインデンを用い、水素化触媒としてアルミナ担持のパラジウム触媒(日揮触媒化成(株)製、「F10H」(Pd含有量0.05質量%))を用いたほかは実施例1と同じ条件で水素化反応を行った。テトラヒドロインデンは100%水素化され、仕込んだテトラヒドロインデンに対するヒドリンダンの収率は67mol%であった。なお、インダンの収率は31mol%であり、インダンをヒドリンダンに転換するためにはさらなる水素化が必要であった。
【0025】
実施例6
実施例1の工程(2)と同じ条件で得られたテトラヒドロインデンを用い、水素化触媒として活性炭担持の白金触媒(エヌ・イー ケムキャット(株)製、3%Pt−カーボン粉末)を用いたほかは実施例1と同じ条件で水素化反応を行った。テトラヒドロインデンは100%水素化され、仕込んだテトラヒドロインデンに対するヒドリンダンの収率は73mol%であった。なお、インダンの収率は23mol%であり、インダンをヒドリンダンに転換するためにはさらなる水素化が必要であった。
【0026】
比較例1
インデンを原料にして、実施例1と同じ触媒を用い、同じ条件で水素化反応を行った。なお、用いたインデンは東京化成工業(株)製で、純度96質量%である。
インデンの反応率は93.8%であったが、ヒドリンダンの選択率は0.1mol%であり、一方、インダンの選択率は90.3mol%であった。インデンは芳香族環を有するため、水素化されにくく、ヒドリンダンの製造には適しないことが明らかとなった。
【0027】
実施例7および比較例2〜4
実施例1で得られたヒドリンダンの溶剤としての特性を評価した。
(ヒドリンダンの物性)
実施例1で製造したヒドリンダンの物性を、市販の各種溶剤と以下の試験方法により比較して評価した。結果を表3に示す。
芳香族分は、1H−NMRでオレフィンのピーク面積比率から算出した。引火点は、JIS K 2265に準拠して測定した。沸点範囲は、ガスクロ蒸留分析法あるいは当該溶剤の成分とその成分の沸点から推算した。アニリン点は、JIS K 2256に準拠して測定した。
【0028】
【表3】

【0029】
表3の結果から、本発明の製造方法により得られるヒドリンダンは、従来の製造方法であるところの、インダンあるいはインデンを核水添して得たヒドリンダンと同等の物性を有し、本発明の製造方法は従来の製造方法に全く問題なく置き換えられること、さらには従来の製造条件よりも温和な製造条件でヒドリンダンを製造できることが分かった。
また本発明の製造方法により得られるヒドリンダンは、殆ど単一成分であるため、沸点範囲が狭く、特に蒸留試験の終点が低い。そのため同程度の引火点を有する他の溶剤に比べて乾燥性に優れている。またアニリン点も低く溶解力が大きいことが分かる。
以上のことより、本発明に係るヒドリンダンは、溶剤として優れた特性を有し、塗料或いはインキなどの溶剤として有用である。また金属加工や機械工業における洗浄剤として、更にゴムの伸展油としても有用である。更にまた塩化ビニル樹脂などの合成樹脂の可塑剤用途にも使用することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の製造方法は、従来の方法に比べて安価に、効率良く高純度のヒドリンダンを製造できる。本発明により製造されたヒドリンダンは、洗浄剤或いは溶剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)〜(3)を含むヒドリンダンの製造方法。
シクロペンタジエンと1,3−ブタジエンをディールスアルダー反応させて3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを含有する反応混合物を製造する工程(1)、
工程(1)で得られた反応混合物を蒸留し、3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを分離する工程(2)、
工程(2)で得られた3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンを水素化触媒の存在下で水素化してヒドリンダンを製造する工程(3)。
【請求項2】
工程(2)で得られる3a,4,7,7a−テトラヒドロインデンの純度が97質量%以上であることを特徴とする、請求項1記載のヒドリンダンの製造方法。
【請求項3】
水素化触媒がニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウムの少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする請求項1あるいは2記載のヒドリンダンの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法で得られたヒドリンダンを含む溶剤。

【公開番号】特開2011−51951(P2011−51951A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204106(P2009−204106)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】