ヒドロキシカルボン酸重合体
【課題】生分解性を示し、資源循環にも貢献できる新しいバイオベース素材であるグリセリン酸等のヒドロキシカルボン酸を原料モノマーとして使用し、新規かつ有用な重合体を提供する。
【解決手段】直鎖型ポリエステルを構成するモノマーとヒドロキシカルボン酸とを共重合することで、ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分を分岐鎖として有する分岐型ポリエステル共重合体を得る。該共重合体の柔軟性、可塑性は、ヒドロキシカルボン酸の仕込み量等により、制御可能であり、該共重合体は種々の用途に使用できる。
【解決手段】直鎖型ポリエステルを構成するモノマーとヒドロキシカルボン酸とを共重合することで、ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分を分岐鎖として有する分岐型ポリエステル共重合体を得る。該共重合体の柔軟性、可塑性は、ヒドロキシカルボン酸の仕込み量等により、制御可能であり、該共重合体は種々の用途に使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、または柔軟性に優れたポリエステル共重合体及びこれを製造するために用いる樹脂用添加剤を提供する方法に関するものである。詳細には、分子構造中にカルボキシル基と反応性の異なる水酸基を複数有するグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸を、分岐点として高分子鎖に導入した分岐型ポリエステル共重合体と、これからなるポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂用添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題、資源・エネルギー問題への関心の高まりから、種々の産業において石油資源から再生可能資源への原料転換が進んでいる。特に、近年のバイオディーゼル燃料生産量の飛躍的な増大など、植物油を原料とした化成品、エネルギー製造プロセスの開発が世界規模で展開している。しかし、これらの製造プロセスにおいて、副生物として必ず重量比で1割程度生成されるグリセリンの世界的な余剰が懸念されており、その有効利用法の開発がプロセス開発の鍵となっている。
【0003】
例えば、グリセリン酸は、上述のとおり廃棄物系バイオマスの一種と考えられるグリセリンを酸化することで合成される化合物である。これまで、化学触媒によるD,L−グリセリン酸及びその塩の製造方法(特許文献1〜3、非特許文献1)が報告されており、バイオベースの化成品原料としてその利用が期待されている。さらに、微生物プロセスを利用して光学活性なD−グリセリン酸及びその塩を製造する方法も開発されている(特許文献4、非特許文献2)。特にD−体については、L−セリン等のアミノ酸原料(特許文献5)として用いられるほか、アルコール代謝の促進効果(特許文献6)があることから医薬品や農薬製造の中間体として用いられるなど、産業上有用な化学物質である。さらに、グリセリン酸の重合体には生分解性が見込まれ、新しいバイオベースポリマーとして、資源循環(カーボンニュートラル)の観点からも、易分解性樹脂としてもその応用が期待される。特に、生化学の分野などで注目されており、その重合法の開発と、分子量や粘性、溶解性などについて検討され、ドラッグキャリアーへの応用なども検討されている(非特許文献3〜6)。
【0004】
同時に、グリセリン酸は、分子内にカルボキシル基と反応性の異なる2つの水酸基(1級、2級水酸基)を有する構造上の特徴から、「ABB’型モノマー」として高分子樹脂原料への利用も期待される。しかし、一般的な方法で重縮合を行うと、モノマー単位で分岐が進行し、固化してしまうため、樹脂としての利用が制限される。そこで、分岐度を制御する方法(特許文献7)や、別の誘導体を原料とするポリエーテル型の直鎖状高分子(特許文献8、9)、カルボン酸を保護した後に重合させる方法(特許文献10)などが報告されている。しかし、これらの方法を用いても、得られる高分子には生分解性以外に物性面で特徴が少なく、現状ではグリセリン酸を導入した樹脂は実用化に至っていない。
【0005】
一方で、ポリ乳酸に代表される、再生可能資源を出発原料とするバイオベースポリマーは、現在広く開発が進められている。実用化が検討されているこれらのポリマーは、多糖類を基本骨格とするもの以外のほとんどが、ヒドロキシ脂肪酸、またはジカルボン酸とジオールの組み合わせからなる直鎖状のポリエステル、あるいはアミノ酸を基とする直鎖状のポリアミド(ペプチド)である。しかし、モノマー構造の多様性に乏しく、強度、耐熱性の不足から用途の制約を余儀なくされているのが現状である。そのような中でも、ポリ乳酸は力学的強度が既存のプラスチックに近い性質を示すことから、既存の石油由来プラスチックの代替として注目されている。しかし、例えば結晶性が高く、脆いという欠点があり、単独で用いるには用途に制約がある。
【0006】
そこで、他のポリマーのブレンドや様々な改質剤が利用されている。しかし、ポリ乳酸の特性(カーボンニュートラル、易分解性)を最大に利用するには、これらの添加物にもバイオベースの原料を用いることが強く求められる。最近ではその解決策の1つとして、植物資源由来物質で構成されるポリグリセリン脂肪酸エステル誘導体をポリ乳酸に添加する方法(特許文献11)、同じく植物資源由来で多官能性であるヒマシ油誘導体などをポリ乳酸鎖に導入し、分岐構造にしたポリ乳酸系添加剤(特許文献12)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-331100号公報
【特許文献2】特表2004-529894号公報
【特許文献3】特開昭60-226842号公報
【特許文献4】特公平7-51069号公報
【特許文献5】特開平3-91489号公報
【特許文献6】特表2006-507268号公報
【特許文献7】特開2004-067725号公報
【特許文献8】特開2004-359876号公報
【特許文献9】特開2005-343992号公報
【特許文献10】特開2008-007533号公報
【特許文献11】特開2008-069299号公報
【特許文献12】特開2009-024058号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chem. Commun., 696-697 (2002).
【非特許文献2】Appl. Microbiol. Biotechnol., 81, 1033-1039 (2009).
【非特許文献3】J. Mol. Evol., 25, 191-196 (1987).
【非特許文献4】Olig. Life Evol. Bios., 19, 7-19 (1989).
【非特許文献5】J. Bioact. Compat. Polym., 5, 16-30 (1990).
【非特許文献6】J. Biomater. Sci. PolymerEdn., 7, 715-725 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生分解性を示し、資源循環にも貢献できる新しいバイオベース素材であるグリセリン酸等のヒドロキシカルボン酸を、重合体成分として積極的に利用する技術は、環境保護あるいは精製資源の活用から極めて重要であるが、例えば、グリセリン酸の重合物は、上述のとおり、重縮合反応の進行に伴い分岐が進むため、生成ポリマーは操作性に問題がある。樹脂としての用途を考えるには、分子量や分岐度を精密に制御する必要があるが、それを高効率、低コストで行うことは現在の技術では極めて困難である。
【0010】
このような状況下、本発明の課題は、反応性の異なる複数の官能基を有するグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸の分子構造上の利点を生かした、新規かつ有用な分岐型ポリエステルあるいはポリエステル樹脂の改質剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、乳酸やその誘導体のような直鎖型ポリエステルを構成するモノマーとグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸を共重合することで、仕込み比に応じて分岐度の異なる分岐型ポリエステルを簡便に合成できること、及びこのような分岐型ポリエステル樹脂は可塑性が付与され、特にポリ乳酸成分を含有していても結晶性が消失することなどを見いだし、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔13〕に示される。
〔1〕分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸成分と直鎖状ポリエステル成分とからなる、分岐構造を有するポリエステル共重合体であって、上記ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖を有することを特徴とする、分岐型ポリエステル共重合体。
〔2〕ヒドロキシカルボン酸が、分子内に不斉炭素を有する光学活性なヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする、上記〔1〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔3〕ヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔4〕グリセリン酸が、D−グリセリン酸であることを特徴とする、上記〔3〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔5〕グリセリン酸が、L−グリセリン酸であることを特徴とする、上記〔3〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔6〕直鎖状ポリエステル成分が、ポリ乳酸であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体からなることを特徴とする、ポリエステル樹脂用添加剤。
〔8〕ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする上記〔7〕に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
〔9〕ポリエステル樹脂に、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体を配合してなる樹脂組成物。
〔10〕ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする、上記〔9〕に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
〔11〕分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸と直鎖状ポリエステルの原料モノマーとを共重合させることを特徴とする、〔1〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
〔12〕分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、上記〔11〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
〔13〕直鎖状ポリエステルの原料モノマーが乳酸、またはラクチドであることを特徴とする、上記〔11〕または〔12〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、直鎖構造のポリエステル合成において、該ポリエステルの原料モノマーに加え、そのままグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸を原料モノマーとして使用するのみで、簡便にポリマー鎖上に分岐点を与え、得られる分岐型ポリエステル共重合体は柔軟性、可塑性等の有用な性質が付与されたものとなる。これらの性質は、多官能性ヒドロキシカルボン酸の使用割合により調節できる。
例えば、結晶化度が高く、固くて脆いポリ乳酸合成の際、多官能性ヒドロキシカルボン酸を加えれば、ポリ乳酸の結晶性が顕著に抑制され、柔軟性、可塑性が付与され、生分解性の農業用、食品包装用資材など広範囲な資材として使用できる多官能性ヒドロキシカルボン酸―ポリ乳酸共重合体を得ることができる。
【0014】
分岐構造を有するポリ乳酸に関する従来技術としては、例えば上記の特許文献12が挙げられる。ここでは、「水酸基」を複数有する植物油であるヒマシ油の誘導体を添加して分岐型ポリ乳酸を得ている。
しかし、例えば、グリセリン酸をモノマー原料モノマーとして用いる場合には、以下の(1)〜(3)の特性を有する点で有利である。
(1)グリセリン酸それ自体に高い重合反応性がある
(2)分子内に光学活性点があり、キラリティーの制御によって高機能を付与できる
(3)3つある官能基(カルボン酸、1級、2級水酸基)の性質がそれぞれ異なり、得られるポリマーの末端に異なる官能基を付与できる
【0015】
上記(1)の特性は、得られる分岐型ポリエステル共重合体の機械的物性の調節に利用できる。例えば、オリゴマー化したグリセリン酸を分子鎖に導入する場合、オリゴマー化しないグリセリン酸モノマーを導入したときと比べ分子中の分岐点の分布状態は、非均一になり、得られるポリエステル共重合体の柔軟性、可塑性は変化する。したがって、使用するオリゴマーの重合度、あるいはオリゴマー化しないグリセリン酸モノマーに対する使用割合を調節することにより、種々の機械的物性を有する分岐型ポリエステル共重合体を合成することが可能となる。
【0016】
また、上記(2)の特性によれば、例えば、微生物プロセスによって得られる光学活性なD−グリセリン酸あるいはL−グリセリン酸を使用して、得られる分岐型ポリエステル共重合体中の分岐点にキラリティーをもたらすことができる。さらにポリ乳酸などの光学活性な分岐鎖と併用することで、得られる樹脂の分岐鎖、分岐点のキラリティーを制御することができ、これらにより、本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、光学分割カラムなどへの応用が期待できる。
【0017】
さらに、上記(3)の特性によれば、末端にカルボキシル基と水酸基を多数有する分岐型ポリエステル共重合体を得ることができ、このような共重合体は、反応性オリゴマー、ポリマーとして利用できる。例えば、分子内で反応させれば環状のポリマーとなり、架橋剤、キレート化剤としての利用や、薬剤、毒性物質の包接・除去を行う薬剤送達(DDS)などへの応用も期待される。また、カルボキシル基末端にエステル結合やアミド結合、水酸基末端にエステル結合やウレタン結合を介して、簡便な操作で任意の化合物を付加することができる。蛍光タンパク質や蛍光色素を導入すれば、分子認識材料や分光測定のプローブとしても使用でき、また、上記官能基は、タンパク質あるいはDNAの固定に利用でき、本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、タンパク質アレイ基板あるいはDNAアレイ基板形成材料として使用できるので、分析ツールに利用することも可能である。
【0018】
上記(1)〜(3)の特性は、グリセリン酸のみならず、他の生物由来のヒドロキシカルボン酸の中にも有するものがあり、これらヒドロキシカルボン酸も、上記グリセリン酸と同様に、分岐型ポリエステル共重合体の原料モノマーとして使用でき、得られる分岐型ポリエステル共重合体も上記と同様の有用性を有する。
一方、本願発明の分岐型ポリエステル共重合体は、ポリエステル樹脂の性質を改質する添加剤として有用である。本発明の分岐型ポリエステル共重合体をポリエステル樹脂に配合し、溶融混合する場合、得られるポリエステル樹脂組成物は、分岐型ポリエステル共重合体を核として基本骨格となるポリエステルの結晶化を促進し、高い機械的強度、耐熱性を有する成型品を未処理の場合と比べて短時間で製造できる。
以上のように、本発明によれば、生物由来で、再生可能資源であるヒドロキシカルボン酸の有効利用が図られ、資源循環など環境問題の解決にも大きく貢献できる。特にグリセリン酸は、バイオディーゼル燃料等の製造時大量に副生するグリセリンからたやすく製造でき、廃棄物処理の上でも有効である
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例2において測定した、実施例1でD-グリセリン酸とL-乳酸の共重合によって得られた分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の1H NMRチャートである。
【図2】分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の構造モデル図である。
【図3】実施例3において、得られた生成物の形状を示す写真である。
【図4】実施例6において、測定を行ったDSCチャートである。
【図5】実施例8において、測定を行ったDSCチャートである。
【図6】実施例9において、測定を行ったDSCチャートである。
【図7】実施例10において、測定を行ったDSCチャートである。
【図8】実施例10において、T=90℃で測定を行ったポリ乳酸及びブレンドのDSCチャートの比較図である。
【図9】実施例11において、T=80℃で測定を行ったポリ乳酸及びグリセリン酸−乳酸共重合体25質量%ブレンドの測定を行ったDSCチャートである。
【図10】実施例12において、ポリ乳酸及びグリセリン酸−乳酸共重合体25質量%ブレンドの引張試験結果を示すグラフである。
【図11】実施例13において合成したグリセリン酸と無水コハク酸及び1,4-ブタンジオールの共重合によって得られたグリセリン酸導入分岐型ポリブチレンサクシネートの1H NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、多官能性ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖からなる分岐構造を複数有する。
本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、多官能性ヒドロキシカルボン酸と、上記直鎖ポリエステル成分を構成するための2官能性のヒドロキシカルボン酸あるいはジオール及びジカルボン酸とを共重合させることにより得られる。このような直鎖ポリエステル成分の構成モノマーは、上記多官能性ヒドロキシカルボン酸の、ヒドロキシ基及びカルボキシル基と反応し、それぞれ直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖を伸長させる。
【0021】
〈分岐点構成モノマー〉
本発明で使用する多官能性ヒドロキシカルボン酸は、分子内に水酸基及びカルボキシル基を有し、これら水酸基及びカルボキシル基が合計で少なくとも3個有するものであり、環境保護の観点あるいは再生資源の活用の観点からも、生物体由来の化合物が好ましい。このような化合物を例示すると、例えば、ヒドロキシ基を2個、カルボキシル基を1個分子内に有する化合物としてグリセリン酸、メバロン酸、パント酸が、ヒドロキシ基を3個カルボキシル基を1個分子内に有する化合物としてシキミ酸が、ヒドロキシ基を4個、カルボキシル基を1個分子内に有する化合物としてキナ酸が、ヒドロキシ基を1個、カルボキシル基を2個分子内に有する化合物としてリンゴ酸、シトラマル酸、タルトロン酸が、ヒドロキシ基を1個、カルボキシル基を3個分子内に有する化合物としてクエン酸、イソクエン酸が、ヒドロキシ基を2個、カルボキシル基を2個分子内に有する化合物として、酒石酸等がそれぞれ挙げられる。
一方、分岐鎖としては、乳酸以外に、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、リシノール酸などのポリマーを利用しても同様の効果が得られる。
【0022】
この中で、グリセリン酸(化学式(1))は、植物油の加水分解で生成するグリセリンを出発原料として、化学的に酸化する、あるいは酢酸菌などの微生物を用いて培養することによって、たやすく得られ、植物資源を基とする再生可能資源であり、安価に大量生産可能な点で有利である。
本発明に用いるグリセリン酸は、原料(グリセリンあるいは他の化学物質)、製造方法(化学的酸化、微生物プロセス)によらず利用できる。また、微生物プロセスから得られるグリセリン酸は、培養液をそのまま用いてもよく、培養液から単離したグリセリン酸を用いてもよい。あるいは市販のものを用いてもよい。さらに、培養液からグリセリン酸金属塩(例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム塩などアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)として単離されたものを用いてもよく、あるいはこれをイオン交換などによりグリセリン酸に変換して用いてもよい。以上のものは市販されているものを用いてもよい。
【化1】
【0023】
グリセリン酸は、D−体、L−体の2種類の光学異性体が知られている。本発明においては、D−体、L−体、あるいはD−体とL−体とを任意の割合で含む混合物、いずれのグリセリン酸でも利用できるが、得られる分岐型ポリマーの機能を一定に保つためには、光学純度が一定のものを用いるのが望ましく、D−体、あるいはL−体を単独で用いるのがより望ましい。特にD−グリセリン酸を用いる場合、透明性の高い分岐型ポリエステル共重合体が得られる点で有利である。
【0024】
〈直鎖状ポリエステルからなる分岐鎖構成モノマー〉
本発明の分岐型ポリエステル共重合体における、分岐鎖を構成させるため使用するモノマーとしては、ヒドロキシ基とカルボキシル基を分子内各1個ずつ有する2官能性ヒドロキシカルボン酸が挙げられ、これら2官能性ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、ラクチド、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、リシノール酸等が好ましい。これらモノマーと上記多官能性ヒドロキシカルボン酸との共重合により得られた、分岐型ポリエステル共重合体は、生分解性である。
また、本発明においては分岐鎖構成モノマーとして、ジカルボン酸とジアルコールも使用できる。使用するジカルボン酸とジアルコールとしては、得られる分岐型ポリエステル共重合体が生分解性を示すものがよく、これには、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などのジカルボン酸及びエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどのジアルコールが挙げられる。
本発明における、分岐型ポリエステル共重合体は、上記多官能性ヒドロキシカルボン酸を開始剤として、上記分岐再構成モノマーを重合させることにより合成され得る。
一方、別法として、予め重合した直鎖状ポリエステルあるいはそのプレポリマーと、多官能性ヒドロキシカルボン酸縮合反応させる方法が挙げられ、これによっても、本発明の分岐型ポリエステル共重合体を合成することができる。
【0025】
本発明の分岐型ポリエステル共重合体における、分岐鎖を構成する直鎖状ポリエステル構成成分として、もっとも効果的な成分はポリ乳酸であり、特に上記グリセリン酸と組み合わせることにより、ポリ乳酸の結晶性を消失させ、また、光学分割性能の増大が期待できる。
このような分岐型ポリエステル共重合体における、分岐鎖構成モノマーとしては、上記した乳酸、ラクチドが挙げられる。
乳酸(CH3CH(OH)COOH)は、グルコースなどの資化可能な炭素源を、乳酸菌などの微生物を用いて発酵させて得ることができる。グルコースはセルロースやデンプンなど多くの再生可能資源を加水分解することで得られるため、乳酸もまた再生可能資源である。本発明において用いる乳酸は、乳酸発酵液をそのまま用いてもよく、乳酸発酵液から単離した乳酸を用いてもよく、あるいは市販の乳酸を用いてもよい。
ラクチドとは、2分子の乳酸の脱水縮合によって得られる環状ジエステルをいう。したがって、ラクチドも再生可能資源である。本発明においては、市販のラクチドを用いることができる。
【0026】
本発明に用いられるポリ乳酸とは、乳酸をモノマー単位とし、複数の乳酸が連なって高分子量となった生分解性成分である。ポリ乳酸を製造するには、一般的に乳酸を環化してラクチドとし、これを開環重合してポリ乳酸とするが、本発明においては、ポリ乳酸の製造方法にはよらない。本発明においては、市販のポリ乳酸を用いてもよい。
【0027】
乳酸には、D−体、L−体の2種類の光学異性体が知られている。本発明においては、D−体、L−体、あるいはD−体とL−体とを任意の割合で含む混合物の、いずれの乳酸を用いてもよい。また、これを単位として製造されたラクチド、ポリ乳酸についてもD−体、L−体の含有比によらす利用できる。得られる分岐型ポリマーの機能を一定に保つためには、光学純度が一定のものを用いるのが望ましく、D−体、あるいはL−体のみで構成されるもの、あるいは比率が1対1のD,L−体(ラセミ体)を用いるのがより望ましい。
以下に、グリセリン酸を分岐点とし、ポリ乳酸を分岐鎖とする場合の分岐型ポリエステル共重合体の製造法について説明する。
【0028】
〈分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の製造方法〉
ポリ乳酸鎖を合成するには、1分子内に水酸基とカルボキシル基を有する乳酸を直接重縮合する方法、乳酸2分子が環化したラクチドを開環重合する方法、ポリ乳酸を熱溶融により結合させて鎖長を伸ばす方法などが挙げられる。これらは全て、グリセリン酸を縮合させる方法にも適用できるため、これらを混在させて同様の縮合反応を行えば、本発明に係る分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を合成できる。例えば、以下、乳酸を例に挙げるが、これはラクチド、ポリ乳酸あるいはそのプレポリマーに置き換えてもよい。
【0029】
グリセリン酸および乳酸を十分に乾燥した容器に入れ、必要に応じて触媒を投入して、加熱あるいは加熱減圧することによって、グリセリン酸を起点として乳酸が重縮合したポリ乳酸鎖を有する分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を製造することができる。重合により生成する水を反応系外に排出することによって、重合度をさらに上げることができる。
【0030】
上記重合反応は、常温下でも行い得るが、必要に応じて加熱する。好ましくは100℃〜180℃の範囲に、さらに好ましくは120℃〜160℃に加熱する。100℃未満では反応速度が小さくなるため好ましくない。一方、180℃より高い温度では、分解速度が大きくなることおよび低分子量体が気化してしまうことなどの欠点がある。
【0031】
加熱減圧重合の場合、乳酸重合の過程で、乳酸オリゴマーの解重合反応によって生成し、ラクチドが生じる可能性がある。ラクチドは、乳酸重合の場合は不純物となる。高温または高真空であるほどラクチドが生成しやすく、生じたラクチドは系内から昇華により消失し、これにより、ポリ乳酸鎖の収率が低下する。そのため、加熱温度は100℃〜180℃、減圧は670Pa〜13000Paであることが好ましい。13000Paより高いと、反応系内の水分率が高くなり、縮合が進みにくい。670Pa未満では、ラクチドの生成および昇華が起こりやすくなり、回収する生成物の収率が低下する。
【0032】
グリセリン酸及び乳酸を重合する際の触媒としては、当業者が通常用いるものが挙げられる。具体的には、二塩化スズ(SnCl2)、2−エチルヘキサン酸スズ、テトラフェニルスズ、酸化スズ、硫酸、スズ粉末、トルエンスルホン酸などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。その他、ラクチドの開環重合に通常用いられる、ポルフィリンアルミニウム錯体、(n−C4H9O)4Al2O2Zn、複合金属シアン化錯体、ジエチル亜鉛−水またはジエチルカドミウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、トリブチルスズメトキシド、酸化鉛、ステアリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸ビスマス、カリウムアルコラート、フッ化アンチモン触媒、工業的にはスタナスオクタノエート触媒が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。収率の点から、二塩化スズ(SnCl2)、2−エチルヘキサン酸スズが特に好ましい。
【0033】
触媒の使用量は特に限定されないが、100質量部のラクチドに対して、約0.0001〜5質量部が適切であり、約0.05〜1質量部が好ましい。なお、重合反応速度が小さくなるが、触媒を加えずに重合することも可能である。
【0034】
〈ポリエステル樹脂用添加剤としての使用〉
本発明の分岐型ポリエステル共重合体はポリエステル樹脂用添加剤として、該ポリエステル樹脂に配合して、該樹脂の改質に用いられる。例えば、同種のポリエステル樹脂に配合して、樹脂本来の性質に対して、その強度、耐熱性を高める、あるいは柔軟性や耐衝撃性を付与することができる。これらの性質は、本発明の分岐型ポリエステル共重合体の配合割合を適宜設定することによって調整可能である。
以下に、例として、上記分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体をポリ乳酸用改質剤として用いる場合について説明する。
このような改質の対象となるポリ乳酸は、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーである。
【0035】
本発明の分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体はポリ乳酸の結晶性の調節などにより、柔軟性の付与や、耐熱性、成型加工性を向上させることができる。
本発明において、特に高い耐熱性を有する樹脂組成物を得るためには、ポリ乳酸樹脂として乳酸成分の光学純度が高いものを用いることが好ましい。ポリ乳酸樹脂の総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることが特に好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることが更に好ましい。
【0036】
また、改質対象のポリ乳酸は、L−乳酸又はD−乳酸に由来しない、他のモノマー単位を含んでいても良い。例えば、他のヒドロキシカルボン酸を含むことができる。他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類などを挙げることができる。
【0037】
また、その他のモノマー単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸を挙げることができるが、ポリ乳酸であるポリエステル骨格中に縮重合反応により組み込まれ得るものであればこれらに限定されるものではない。
【0038】
上記他のモノマーの含有量は、全モノマー成分に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることが好ましい。
【0039】
本発明の改質対象のポリ乳酸は、公知法により得られたものでよく、ポリ乳酸の重合法としては、縮重合法、開環重合法、その他の公知の重合法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸或いはD−乳酸或いはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状二量体であるラクチドを必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。この際、ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、或いはL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成及び結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。
【0040】
本発明において使用するポリ乳酸の分子量は、目的とする用途、例えば射出成形品にした場合に、実質的に十分な機械物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。分子量が低いと得られる成形品の強度が低下し、分解速度が速くなる。逆に高いと加工性が低下し、成形が困難になる。本発明に使用するポリ乳酸の重量平均分子量の好ましい範囲は、1万から40万、より好ましくは3万から25万である。
【0041】
また、ポリ乳酸としては、公知の市販品でも、例えば、三井化学株式会社製、商品名レイシア、トヨタ自動車株式会社製、商品名エコプラスチック(U’z)、CargillDow Polymer LLC株式会社製、商品名NatureWorks、ユニチカ株式会社製、商品名テラマック等が挙げられる。
【0042】
本発明の上記分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の配合量は、ポリ乳酸100重量部に対して、例えば、0.1〜100.0重量部、好ましくは1.0〜70.0重量部、さらに好ましくは5.0〜40.0重量部であり、上記分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体とポリ乳酸とを溶融混合することにより、改質されたポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
溶融混合は、ポリ乳酸を融点以上に加熱して溶融させ、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を加えて攪拌あるいは混練などの手段により行い、混合後、冷却することで上記ポリ乳酸組成物を得ることができる。混練はせん断力を加えた分配により良好な混合とすることができ、ニーダ、回転ロール、押出機などを用いて製造することができる。例えば、二軸押出機等を用いてポリ乳酸を溶融させながら、分岐状ポリ乳酸を注入して溶融混練し、ストランド形状に押出して冷却後ペレタイザーによってペレットを作製するなどすればよい。このように作製したペレットは十分に乾燥して水分を除去した後、射出成形などに用いることができる。
【0044】
また、予めポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を粗く混ぜておいた上で、溶融混合することによって製造することもできる。
なお、溶融混合する温度は、ポリ乳酸の融点以上であって、250℃以下であることが好ましい。250℃を超えると、ポリ乳酸の解重合が起こり、分子量や物性の低下を招くことになる。
【0045】
なお、溶融混合に当たっては、予めポリ乳酸を十分に乾燥して水分を除去した後に混練することが好ましい。水を含有していると加熱時に、ポリ乳酸および分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の加水分解によって劣化することが懸念される。
【0046】
また、他の実施形態では、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を、溶媒を用いた溶解混合することにより製造することができる。
溶解溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら溶媒には室温で溶解することができる。
また、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの溶媒に加熱して溶解させることもできる。
例えば、ポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体をクロロホルムに溶解、混合した後、クロロホルムを留去することで、ポリ乳酸組成物を製造することができる。
【0047】
本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸に分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体が添加されることで、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体が、生成したポリ乳酸結晶を相互に遮蔽すると共にポリ乳酸分子鎖の間隔を広げて分子運動を容易にさせることで柔軟性が向上される。引張破断伸びにおいては、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を添加することで大幅に増大する。すなわち靭性、特に低速変形靭性が大きく改善される。このように本発明のポリ乳酸組成物は、従来のポリ乳酸に可塑性を加えることができる。分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体は、比較的高分子量であっても非晶性であるため、結晶性(樹脂全体の結晶化度)を高めることなく添加することが可能となり、ブリードを抑えることができる。またこのブレンドは、分子レベルでの相溶となり相溶安定であるため、表面への滲みだし(ブリード)を生じにくい。さらに結晶サイズが小さいうえに、構造が類似であるため屈折率も近く透明である。
【0048】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の可塑化向上の効果は、機械的特性の変化によって確認することができる。ポリ乳酸は、非常に硬い樹脂で単独で一軸伸張試験を行ったところ、20%程度のひずみで破断するのに対して、本発明のポリ乳酸樹脂組成物の場合は、100%〜700%の破断ひずみが観測される。このように、分子構造の異なるポリ乳酸と、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を混合することにより、ポリ乳酸の可塑性を向上させることができる。ポリ乳酸に可塑性を付与するための分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の配合割合は、例えば、樹脂全体に対し0.1%〜50%、好ましくは1%〜30%である。
【0049】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の熱的物性、及び結晶化促進効果の向上は、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定することで評価できる。ポリ乳酸を一度200℃まで加熱溶融して10分間保持した後、20℃まで毎分10℃の割合で降温したときの結晶化エンタルピーを測定すれば、結晶化度を求めることができる。また、一度熱溶融させた後、−100℃まで急冷し、さらに200℃まで毎分10℃の割合で昇温したときのガラス転移温度、融点を測定することで、熱的物性の比較を行うことができる。
【0050】
上記の方法で測定を行うと、ポリ乳酸は結晶化による発熱は殆ど観測されないのに対して、本発明のポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体との組成物の場合は、数%〜50%の結晶化度を観測した。ポリ乳酸は、結晶性ポリマーであるけれども非常に結晶化しにくく(結晶化速度が遅い)、通常の成形条件では高度な結晶化度を有するものは得られない。これに対して、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を核としてポリ乳酸の結晶化が促進されるため、非常に結晶化しやすく(結晶化速度が早い)、結晶化を含む成形工程の大幅な時間短縮が図れるとともに、実際の成型条件においては、ポリ乳酸に比べ優れた機械強度、耐熱性を有する成型品を製造することができる。
このような機械強度、耐熱性を付与するための分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の配合割合は、例えば、樹脂全体に対し0.1%〜50%、好ましくは1%〜30%である。
【0051】
なお、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を、成形時、又は成形後に何らかの方法で結晶化させることで、さらに結晶化度を高くすることができる。例えば、成形時に組成物の溶融物を金型内に充填し、高温金型内でそのまま結晶化させる方法、および該組成物の非晶性の成形品を乾熱処理又は湿熱処理する方法により、結晶性を向上させることができる。
【0052】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、溶融混練可能であることから、射出成形や押出成形などの方法によって、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、繊維、シートなどとして利用できる。またフィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸、インフレーションフィルムなどの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。また、これらの物品は、電気・電子部品、建築部材、自動車部品、日用品など各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0054】
実施例1
(D,L−グリセリン酸、D−グリセリン酸とL−乳酸の共重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥したD,L−グリセリン酸またはD−グリセリン酸53mg(0.5mmol)、L−乳酸900mg(10mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0055】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。グリセリン酸及びその重合物はクロロホルムに不溶であることから、ポリ乳酸鎖中にグリセリン酸が導入されたことが示唆された。クロロホルムを溶離液とし、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラム(東ソーTSKgelG4000HHR)を接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムで、生成物の分子量測定を行った結果、両者とも重量平均分子量Mwが約7000で、分子量分布Mw/Mnが約5.0の重合物であった。また、GPCチャート上では生成物と思われるブロードなピークが1つ検出されただけで、未反応物や各々のモノマーの単独重合物が存在しておらず、共重合が進行していることが示唆された。
【0056】
実施例2
(生成ポリマーの構造解析)
実施例1で得られたポリマーについて、重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解させ、NMR測定を行い、構造を確認した。1H NMR測定から、ポリマー鎖中にグリセリン酸が導入された共重合体であることが確認された(図1)。また、4.5〜4.7ppm付近に1級水酸基がエステル化されたグリセリン酸のβ位のプロトン由来のピーク(図中4)、5.45ppm付近に2級水酸基がエステル化されたグリセリン酸のα位のプロトン由来のピーク(図中3)が観察されたことから、得られたポリマーは分子鎖中のグリセリン酸部位で分岐が進んでいることが確認された。
【0057】
さらに、4.36ppm付近にポリ乳酸鎖の水酸基末端に位置する乳酸のα位プロトン由来のピーク、5.04ppm付近にポリ乳酸鎖のカルボキシル基末端に位置する乳酸のα位プロトン由来のピークがそれぞれ観察された。このことから、得られた共重合体にはカルボキシル基末端と水酸基末端が存在する特徴が示された。これはグリセリン酸が、ABB’型モノマーとしてポリ乳酸鎖に導入されたことを支持する結果である。得られた分岐型共重合体の構造モデル図を図2に示す。
【0058】
実施例3
(D,L−グリセリン酸、D−グリセリン酸とL,L−ラクチドの共重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥したD,L−グリセリン酸またはD−グリセリン酸53mg(0.5mmol)、L,L−ラクチド720mg(5mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0059】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果、D,L-グリセリン酸からは重量平均分子量Mwが約4300、分子量分布Mw/Mnが約4.1、D-グリセリン酸からは重量平均分子量Mwが約15000、分子量分布Mw/Mnが約5.2の重合物がそれぞれ得られた。また、実施例2と同様にして構造解析を行った結果、グリセリン酸が分岐点として導入されたグリセリン酸−乳酸共重合体が生成したことが確認された。
【0060】
上記で得られた生成物について、室温における反応容器中の生成物の写真でその形状を示す(図3)。D,L−グリセリン酸を導入した共重合体は濁度のある飴状の固体となったが、これに対してD−グリセリン酸を導入したものは透明性の高い飴状固体となった。フィルム等への利用を考える場合、透明性に優れた生成物が得られるD−体を用いることは極めて有利である。
【0061】
実施例4
ラクチドに対するグリセリン酸の仕込み比をモル比で2〜20(乳酸単位に換算して1〜10)まで変化させ、実施例3の条件で、反応を行った。いずれの場合からも、得られた生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であり、反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0062】
いずれの場合も、生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果をまとめて表1に示す(表1・Entry2〜7、10,11)。いずれの場合も、実施例2と同様の方法で生成物の構造が確認された。
【表1】
【0063】
比較例1
(D,L−グリセリン酸、D−グリセリン酸の単独重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥を行ったD,L−グリセリン酸またはD−グリセリン酸530mg(5mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。D,L−体、D−体とも反応中に固化した。
【0064】
生成物は、DMF、DMSOなどの高極性有機溶媒に一部溶解した以外は、ほとんどの有機溶媒及び水に不溶となった。0.1Mの塩化リチウムを含むDMFを溶離液とし、東ソーTSKgelα−4000カラムを接続したGPCシステムで可溶部のみ分子量測定を行った結果、両者とも重量平均分子量Mwが約6000で、分子量分布Mw/Mnが約5.3の重合物であった(表1・Entry9,12)。
【0065】
比較例2
(L,L−ラクチドの単独重合)
L,L−ラクチド720mg(5mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。反応中に反応物が直ちに固化した。
【0066】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果、重量平均分子量Mwが約40000で、分子量分布Mw/Mnが約2.4の重合物であった(表1・Entry1)。
【0067】
実施例5
(触媒非添加系でのD−グリセリン酸とL,L−ラクチドの共重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥したD−グリセリン酸106mg(1.0mmol)、L,L−ラクチド720mg(5mmol)を反応容器に秤取し、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0068】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果、重量平均分子量Mwが約4700、分子量分布Mw/Mnが約9.8の重合物であることが分かった。また、実施例2と同様にして構造解析を行った結果、グリセリン酸が分岐点として導入されたグリセリン酸−乳酸共重合体が生成したことが確認された。以上の結果より、グリセリン酸のカルボキシル基が酸触媒として作用し、これを開始剤として反応が進行したこと、触媒を添加しなくても共重合体が得られることが確認された。ポリマー中に触媒が混在することは、少量でも物性の低下や環境に対する負荷が懸念されることから、触媒非添加でポリマー製造ができる今回の系は極めて有用である。
【0069】
実施例6
(生成ポリマーの熱分析)
セイコーインスツル製の走査熱量測定装置(DSC)(DSC-6020システム)を用いて、実施例1〜3で得られた各ポリマーの熱的物性を測定した。ポリマーをアルミパンに約10mg秤取して測定ユニットに設置し、一度200℃まで毎分10℃の割合で昇温して加熱溶融し、次に−100℃まで毎分20℃の割合で降温、その後さらに200℃まで毎分10℃の割合で昇温した。2回目の昇温過程でのガラス転移温度、融点などを測定することで、熱的物性の比較を行った。DSCチャートの比較図を図4に示す。また得られたチャートから求めたガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)をまとめて表1に示す。
【0070】
同様の条件で合成されたポリ乳酸(表1・Entry1)に対して、グリセリン酸−乳酸共重合体では、Tgの低下が見られ、またグリセリン酸を3%以上添加した系ではTmが消失した。以上のようにグリセリン酸を少量導入することで、ポリ乳酸の熱物性が大きく変化することが示された。
【0071】
実施例7(微生物プロセスから得られたグリセリン酸と、L-乳酸及びL,L-ラクチドとの共重合)
出発原料として、微生物プロセスによりグリセリンを変換して得られたグリセリン酸を用い、実施例1、実施例3、及び実施例4と同様の方法で、L−乳酸及びL,L−ラクチドとの共重合を行った。用いたグリセリン酸は、酢酸菌グルコノバクター フラテウリ(Gluconobacter frateurii)を高濃度(20質量%以上)のグリセリンを含む培地で培養することで得られたもので、光学純度は73%eeのD−グリセリン酸豊富なD−、L−グリセリン酸混合物であった。重合結果をまとめて表2に示す。(クロロホルムを溶離液とするGPCシステムで測定)
【表2】
微生物プロセスから得られたグリセリン酸を用いても、グリセリン酸-乳酸共重合体が得られることが確認された。特に、グリセリン酸を5モル%以上添加した系では、ネットワーク化が進行し、得られたポリマーが不溶化(ゲル化)した。また、いずれの場合も実施例2と同様の方法で構造解析を行い、グリセリン酸が分岐点として乳酸鎖に導入された分岐型グリセリン酸-乳酸共重合体であることが確認された。
【0072】
実施例8
実施例7の表2中Entry7〜11で得られた共重合体の熱分析を、実施例6と同様の方法で行った。DSCチャートの比較図を図5に示す。
実施例6の結果と同様に、グリセリン酸−乳酸共重合体は、ポリ乳酸と比べてTgの低下が見られ、2モル%以上グリセリン酸を導入するとTmが消失した。グリセリン酸を少量導入することで、ポリ乳酸の熱物性が大きく変化することが確認された。
【0073】
実施例9(ポリ乳酸/グリセリン酸−乳酸共重合体ブレンドの熱分析)
ユニチカ株式会社製ポリ乳酸(テラマックTE-2000)と、実施例7の表2中Entry9で得られたグリセリン酸を3モル%導入したグリセリン酸−乳酸共重合体とを等量混合したブレンドフィルムを作製し、これの熱物性を測定した。ブレンドは、各ポリマーの5質量%クロロホルム溶液を調製し、これを等量ずつ混ぜ合わせて均一にした後、テフロン(登録商標)製の枠板内に流し込み、1週間静置してクロロホルムを蒸発気化させて除去することにより作製した。
得られたブレンドサンプル片の熱分析を、実施例6と同様の方法でDSCを用いて行った。DSCチャートの比較図を図6に示す。
グリセリン酸−乳酸共重合体をポリ乳酸に混合することで、ポリ乳酸のTgとTmが低下することが確認された。今回得られた共重合体は、ポリ乳酸に添加することで改質剤として作用することが示された。
【0074】
実施例10(結晶化速度の評価)
ポリ乳酸(テラマックTE-2000)と、実施例9で作製したポリ乳酸/グリセリン酸−乳酸共重合体ブレンドの結晶化速度を、DSC測定により比較した。以下の手順で評価を行った。サンプルを200℃で5分間加熱溶融し、その後T℃まで一気に急冷(-500℃/min)させ、T℃一定で30分間熱量の変化を測定した。検出された結晶化ピークの終点を結晶飽和時間とした。T=80〜120℃まで10℃ずつ温度を変え、測定を行った。結果のチャートをポリ乳酸、ブレンドそれぞれまとめて図7に示す。また、T=90℃における両者の比較図を図8に示す。
未改質のポリ乳酸に対して、ブレンドは低温から明確な結晶化ピークが検出され、また同一温度においてはピークがシャープである(図8)ことから、結晶化が短時間で進行していることが確認された。すなわち、今回得られたグリセリン酸−乳酸共重合体をポリ乳酸に改質剤として加えることで、ポリ乳酸の結晶化を促進させることができ、強度や成形性の向上をもたらすことが示された。
【0075】
実施例11(グリセリン酸−乳酸共重合体ブレンド比の影響)
実施例9と同様の方法で、添加するグリセリン酸−乳酸共重合体の割合を10〜50質量%まで変化させてブレンドフィルムを作製し、実施例6と同様の方法でDSC測定を行うとともに、実施例10と同様の方法で等温結晶化時間の評価を行った。
その結果、共重合体添加比20質量%以上でポリ乳酸のTgとTmの低下が見られ、また低温での等温結晶化促進が確認された。特に25質量%添加ブレンドサンプルの場合、再現性良く、良好なブレンド効果が現れることを確認した。例として、T=80℃における等温結晶化時間の比較を図9に示す。未改質ポリ乳酸は80℃でほとんど結晶化が進まないのに対し、グリセリン酸−乳酸共重合体を25質量%ブレンドしたサンプルでは迅速に結晶化が進むことが確認された。
【0076】
実施例12(ブレンドフィルムの強度評価)
実施例11で良好な効果が現れたポリ乳酸/グリセリン酸−乳酸共重合体25質量%ブレンドフィルム(実施例9と同様の方法で作成)について、静的強度評価装置(島津製作所製EZ-test EZ-L)を用いて引張試験を行った。フィルムは40 mm×20 mmの長方形状で、変位速度1 mm/minにてサンプル片に掛かる試験力を測定した。未改質ポリ乳酸とブレンドとの試験結果の比較を図10に示す。
ブレンドサンプルは未改質品に比べ、亀裂が入るまでに小さな試験力でよりよく伸びることが確認された。この結果より、グリセリン酸−乳酸共重合体をブレンドすることで、ポリ乳酸に柔軟性を付与できることが確認された。
【0077】
実施例13(グリセリン酸と無水コハク酸及び1,4-ブタンジオールとの共重合)
コハク酸と1,4-ブタンジオールを共重合することで、生分解性に優れるバイオプラスチックであるポリブチレンサクシネート(PBS)が得られることが知られている。この系にグリセリン酸を添加することで、上記ポリ乳酸と同様に、グリセリン酸を分岐点とする分岐型PBSの合成を行った。無水コハク酸500 mg(5 mmol)、1,4-ブタンジオール473 mg(5.25 mmol)を反応容器に秤取し、実施例7に記載の微生物プロセスにより得られたグリセリン酸を無水コハク酸に対して2〜10モル%(11〜53 mg;0.1〜0.5 mmol)添加して共重合を行った。反応混合物を大気下160℃で1時間撹拌後、触媒(Ti(OBu)4、5μmol)を添加し、100 hPaに減圧してさらに1時間撹拌。以後、200℃、50hPaで2時間撹拌、240℃、10hPaで4時間撹拌する合計8時間の反応を行った。
グリセリン酸をコハク酸ユニットに対して4モル%添加した系までは、生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。生成物の1H NMR測定の結果、グリセリン酸がポリマー鎖中に導入されていること、2つの水酸基がエステル化されていることが確認され、グリセリン酸を分岐点とする分岐型のPBSの生成が示唆された(図11)。上記ポリマーの分子量は、Mn = 15,800、Mw = 39,400 で、クロロホルムに可溶であった。
さらに、グリセリン酸を6モル%以上添加した系では、反応の進行とともにゲル化が起こり、生成物は不溶化した。この結果より、グリセリン酸を分岐点としてネットワーク化が進行したことが確認された。
一方、1,4-ブタンジオールの秤取量を抑え、反応系中の水酸基量を調整すると、グリセリン酸の導入量を増加させることも可能であった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、または柔軟性に優れたポリエステル共重合体及びこれを製造するために用いる樹脂用添加剤を提供する方法に関するものである。詳細には、分子構造中にカルボキシル基と反応性の異なる水酸基を複数有するグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸を、分岐点として高分子鎖に導入した分岐型ポリエステル共重合体と、これからなるポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂用添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題、資源・エネルギー問題への関心の高まりから、種々の産業において石油資源から再生可能資源への原料転換が進んでいる。特に、近年のバイオディーゼル燃料生産量の飛躍的な増大など、植物油を原料とした化成品、エネルギー製造プロセスの開発が世界規模で展開している。しかし、これらの製造プロセスにおいて、副生物として必ず重量比で1割程度生成されるグリセリンの世界的な余剰が懸念されており、その有効利用法の開発がプロセス開発の鍵となっている。
【0003】
例えば、グリセリン酸は、上述のとおり廃棄物系バイオマスの一種と考えられるグリセリンを酸化することで合成される化合物である。これまで、化学触媒によるD,L−グリセリン酸及びその塩の製造方法(特許文献1〜3、非特許文献1)が報告されており、バイオベースの化成品原料としてその利用が期待されている。さらに、微生物プロセスを利用して光学活性なD−グリセリン酸及びその塩を製造する方法も開発されている(特許文献4、非特許文献2)。特にD−体については、L−セリン等のアミノ酸原料(特許文献5)として用いられるほか、アルコール代謝の促進効果(特許文献6)があることから医薬品や農薬製造の中間体として用いられるなど、産業上有用な化学物質である。さらに、グリセリン酸の重合体には生分解性が見込まれ、新しいバイオベースポリマーとして、資源循環(カーボンニュートラル)の観点からも、易分解性樹脂としてもその応用が期待される。特に、生化学の分野などで注目されており、その重合法の開発と、分子量や粘性、溶解性などについて検討され、ドラッグキャリアーへの応用なども検討されている(非特許文献3〜6)。
【0004】
同時に、グリセリン酸は、分子内にカルボキシル基と反応性の異なる2つの水酸基(1級、2級水酸基)を有する構造上の特徴から、「ABB’型モノマー」として高分子樹脂原料への利用も期待される。しかし、一般的な方法で重縮合を行うと、モノマー単位で分岐が進行し、固化してしまうため、樹脂としての利用が制限される。そこで、分岐度を制御する方法(特許文献7)や、別の誘導体を原料とするポリエーテル型の直鎖状高分子(特許文献8、9)、カルボン酸を保護した後に重合させる方法(特許文献10)などが報告されている。しかし、これらの方法を用いても、得られる高分子には生分解性以外に物性面で特徴が少なく、現状ではグリセリン酸を導入した樹脂は実用化に至っていない。
【0005】
一方で、ポリ乳酸に代表される、再生可能資源を出発原料とするバイオベースポリマーは、現在広く開発が進められている。実用化が検討されているこれらのポリマーは、多糖類を基本骨格とするもの以外のほとんどが、ヒドロキシ脂肪酸、またはジカルボン酸とジオールの組み合わせからなる直鎖状のポリエステル、あるいはアミノ酸を基とする直鎖状のポリアミド(ペプチド)である。しかし、モノマー構造の多様性に乏しく、強度、耐熱性の不足から用途の制約を余儀なくされているのが現状である。そのような中でも、ポリ乳酸は力学的強度が既存のプラスチックに近い性質を示すことから、既存の石油由来プラスチックの代替として注目されている。しかし、例えば結晶性が高く、脆いという欠点があり、単独で用いるには用途に制約がある。
【0006】
そこで、他のポリマーのブレンドや様々な改質剤が利用されている。しかし、ポリ乳酸の特性(カーボンニュートラル、易分解性)を最大に利用するには、これらの添加物にもバイオベースの原料を用いることが強く求められる。最近ではその解決策の1つとして、植物資源由来物質で構成されるポリグリセリン脂肪酸エステル誘導体をポリ乳酸に添加する方法(特許文献11)、同じく植物資源由来で多官能性であるヒマシ油誘導体などをポリ乳酸鎖に導入し、分岐構造にしたポリ乳酸系添加剤(特許文献12)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-331100号公報
【特許文献2】特表2004-529894号公報
【特許文献3】特開昭60-226842号公報
【特許文献4】特公平7-51069号公報
【特許文献5】特開平3-91489号公報
【特許文献6】特表2006-507268号公報
【特許文献7】特開2004-067725号公報
【特許文献8】特開2004-359876号公報
【特許文献9】特開2005-343992号公報
【特許文献10】特開2008-007533号公報
【特許文献11】特開2008-069299号公報
【特許文献12】特開2009-024058号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chem. Commun., 696-697 (2002).
【非特許文献2】Appl. Microbiol. Biotechnol., 81, 1033-1039 (2009).
【非特許文献3】J. Mol. Evol., 25, 191-196 (1987).
【非特許文献4】Olig. Life Evol. Bios., 19, 7-19 (1989).
【非特許文献5】J. Bioact. Compat. Polym., 5, 16-30 (1990).
【非特許文献6】J. Biomater. Sci. PolymerEdn., 7, 715-725 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生分解性を示し、資源循環にも貢献できる新しいバイオベース素材であるグリセリン酸等のヒドロキシカルボン酸を、重合体成分として積極的に利用する技術は、環境保護あるいは精製資源の活用から極めて重要であるが、例えば、グリセリン酸の重合物は、上述のとおり、重縮合反応の進行に伴い分岐が進むため、生成ポリマーは操作性に問題がある。樹脂としての用途を考えるには、分子量や分岐度を精密に制御する必要があるが、それを高効率、低コストで行うことは現在の技術では極めて困難である。
【0010】
このような状況下、本発明の課題は、反応性の異なる複数の官能基を有するグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸の分子構造上の利点を生かした、新規かつ有用な分岐型ポリエステルあるいはポリエステル樹脂の改質剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、乳酸やその誘導体のような直鎖型ポリエステルを構成するモノマーとグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸を共重合することで、仕込み比に応じて分岐度の異なる分岐型ポリエステルを簡便に合成できること、及びこのような分岐型ポリエステル樹脂は可塑性が付与され、特にポリ乳酸成分を含有していても結晶性が消失することなどを見いだし、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔13〕に示される。
〔1〕分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸成分と直鎖状ポリエステル成分とからなる、分岐構造を有するポリエステル共重合体であって、上記ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖を有することを特徴とする、分岐型ポリエステル共重合体。
〔2〕ヒドロキシカルボン酸が、分子内に不斉炭素を有する光学活性なヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする、上記〔1〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔3〕ヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔4〕グリセリン酸が、D−グリセリン酸であることを特徴とする、上記〔3〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔5〕グリセリン酸が、L−グリセリン酸であることを特徴とする、上記〔3〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔6〕直鎖状ポリエステル成分が、ポリ乳酸であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体からなることを特徴とする、ポリエステル樹脂用添加剤。
〔8〕ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする上記〔7〕に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
〔9〕ポリエステル樹脂に、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体を配合してなる樹脂組成物。
〔10〕ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする、上記〔9〕に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
〔11〕分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸と直鎖状ポリエステルの原料モノマーとを共重合させることを特徴とする、〔1〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
〔12〕分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、上記〔11〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
〔13〕直鎖状ポリエステルの原料モノマーが乳酸、またはラクチドであることを特徴とする、上記〔11〕または〔12〕に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、直鎖構造のポリエステル合成において、該ポリエステルの原料モノマーに加え、そのままグリセリン酸等の多官能性ヒドロキシカルボン酸を原料モノマーとして使用するのみで、簡便にポリマー鎖上に分岐点を与え、得られる分岐型ポリエステル共重合体は柔軟性、可塑性等の有用な性質が付与されたものとなる。これらの性質は、多官能性ヒドロキシカルボン酸の使用割合により調節できる。
例えば、結晶化度が高く、固くて脆いポリ乳酸合成の際、多官能性ヒドロキシカルボン酸を加えれば、ポリ乳酸の結晶性が顕著に抑制され、柔軟性、可塑性が付与され、生分解性の農業用、食品包装用資材など広範囲な資材として使用できる多官能性ヒドロキシカルボン酸―ポリ乳酸共重合体を得ることができる。
【0014】
分岐構造を有するポリ乳酸に関する従来技術としては、例えば上記の特許文献12が挙げられる。ここでは、「水酸基」を複数有する植物油であるヒマシ油の誘導体を添加して分岐型ポリ乳酸を得ている。
しかし、例えば、グリセリン酸をモノマー原料モノマーとして用いる場合には、以下の(1)〜(3)の特性を有する点で有利である。
(1)グリセリン酸それ自体に高い重合反応性がある
(2)分子内に光学活性点があり、キラリティーの制御によって高機能を付与できる
(3)3つある官能基(カルボン酸、1級、2級水酸基)の性質がそれぞれ異なり、得られるポリマーの末端に異なる官能基を付与できる
【0015】
上記(1)の特性は、得られる分岐型ポリエステル共重合体の機械的物性の調節に利用できる。例えば、オリゴマー化したグリセリン酸を分子鎖に導入する場合、オリゴマー化しないグリセリン酸モノマーを導入したときと比べ分子中の分岐点の分布状態は、非均一になり、得られるポリエステル共重合体の柔軟性、可塑性は変化する。したがって、使用するオリゴマーの重合度、あるいはオリゴマー化しないグリセリン酸モノマーに対する使用割合を調節することにより、種々の機械的物性を有する分岐型ポリエステル共重合体を合成することが可能となる。
【0016】
また、上記(2)の特性によれば、例えば、微生物プロセスによって得られる光学活性なD−グリセリン酸あるいはL−グリセリン酸を使用して、得られる分岐型ポリエステル共重合体中の分岐点にキラリティーをもたらすことができる。さらにポリ乳酸などの光学活性な分岐鎖と併用することで、得られる樹脂の分岐鎖、分岐点のキラリティーを制御することができ、これらにより、本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、光学分割カラムなどへの応用が期待できる。
【0017】
さらに、上記(3)の特性によれば、末端にカルボキシル基と水酸基を多数有する分岐型ポリエステル共重合体を得ることができ、このような共重合体は、反応性オリゴマー、ポリマーとして利用できる。例えば、分子内で反応させれば環状のポリマーとなり、架橋剤、キレート化剤としての利用や、薬剤、毒性物質の包接・除去を行う薬剤送達(DDS)などへの応用も期待される。また、カルボキシル基末端にエステル結合やアミド結合、水酸基末端にエステル結合やウレタン結合を介して、簡便な操作で任意の化合物を付加することができる。蛍光タンパク質や蛍光色素を導入すれば、分子認識材料や分光測定のプローブとしても使用でき、また、上記官能基は、タンパク質あるいはDNAの固定に利用でき、本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、タンパク質アレイ基板あるいはDNAアレイ基板形成材料として使用できるので、分析ツールに利用することも可能である。
【0018】
上記(1)〜(3)の特性は、グリセリン酸のみならず、他の生物由来のヒドロキシカルボン酸の中にも有するものがあり、これらヒドロキシカルボン酸も、上記グリセリン酸と同様に、分岐型ポリエステル共重合体の原料モノマーとして使用でき、得られる分岐型ポリエステル共重合体も上記と同様の有用性を有する。
一方、本願発明の分岐型ポリエステル共重合体は、ポリエステル樹脂の性質を改質する添加剤として有用である。本発明の分岐型ポリエステル共重合体をポリエステル樹脂に配合し、溶融混合する場合、得られるポリエステル樹脂組成物は、分岐型ポリエステル共重合体を核として基本骨格となるポリエステルの結晶化を促進し、高い機械的強度、耐熱性を有する成型品を未処理の場合と比べて短時間で製造できる。
以上のように、本発明によれば、生物由来で、再生可能資源であるヒドロキシカルボン酸の有効利用が図られ、資源循環など環境問題の解決にも大きく貢献できる。特にグリセリン酸は、バイオディーゼル燃料等の製造時大量に副生するグリセリンからたやすく製造でき、廃棄物処理の上でも有効である
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例2において測定した、実施例1でD-グリセリン酸とL-乳酸の共重合によって得られた分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の1H NMRチャートである。
【図2】分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の構造モデル図である。
【図3】実施例3において、得られた生成物の形状を示す写真である。
【図4】実施例6において、測定を行ったDSCチャートである。
【図5】実施例8において、測定を行ったDSCチャートである。
【図6】実施例9において、測定を行ったDSCチャートである。
【図7】実施例10において、測定を行ったDSCチャートである。
【図8】実施例10において、T=90℃で測定を行ったポリ乳酸及びブレンドのDSCチャートの比較図である。
【図9】実施例11において、T=80℃で測定を行ったポリ乳酸及びグリセリン酸−乳酸共重合体25質量%ブレンドの測定を行ったDSCチャートである。
【図10】実施例12において、ポリ乳酸及びグリセリン酸−乳酸共重合体25質量%ブレンドの引張試験結果を示すグラフである。
【図11】実施例13において合成したグリセリン酸と無水コハク酸及び1,4-ブタンジオールの共重合によって得られたグリセリン酸導入分岐型ポリブチレンサクシネートの1H NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、多官能性ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖からなる分岐構造を複数有する。
本発明の分岐型ポリエステル共重合体は、多官能性ヒドロキシカルボン酸と、上記直鎖ポリエステル成分を構成するための2官能性のヒドロキシカルボン酸あるいはジオール及びジカルボン酸とを共重合させることにより得られる。このような直鎖ポリエステル成分の構成モノマーは、上記多官能性ヒドロキシカルボン酸の、ヒドロキシ基及びカルボキシル基と反応し、それぞれ直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖を伸長させる。
【0021】
〈分岐点構成モノマー〉
本発明で使用する多官能性ヒドロキシカルボン酸は、分子内に水酸基及びカルボキシル基を有し、これら水酸基及びカルボキシル基が合計で少なくとも3個有するものであり、環境保護の観点あるいは再生資源の活用の観点からも、生物体由来の化合物が好ましい。このような化合物を例示すると、例えば、ヒドロキシ基を2個、カルボキシル基を1個分子内に有する化合物としてグリセリン酸、メバロン酸、パント酸が、ヒドロキシ基を3個カルボキシル基を1個分子内に有する化合物としてシキミ酸が、ヒドロキシ基を4個、カルボキシル基を1個分子内に有する化合物としてキナ酸が、ヒドロキシ基を1個、カルボキシル基を2個分子内に有する化合物としてリンゴ酸、シトラマル酸、タルトロン酸が、ヒドロキシ基を1個、カルボキシル基を3個分子内に有する化合物としてクエン酸、イソクエン酸が、ヒドロキシ基を2個、カルボキシル基を2個分子内に有する化合物として、酒石酸等がそれぞれ挙げられる。
一方、分岐鎖としては、乳酸以外に、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、リシノール酸などのポリマーを利用しても同様の効果が得られる。
【0022】
この中で、グリセリン酸(化学式(1))は、植物油の加水分解で生成するグリセリンを出発原料として、化学的に酸化する、あるいは酢酸菌などの微生物を用いて培養することによって、たやすく得られ、植物資源を基とする再生可能資源であり、安価に大量生産可能な点で有利である。
本発明に用いるグリセリン酸は、原料(グリセリンあるいは他の化学物質)、製造方法(化学的酸化、微生物プロセス)によらず利用できる。また、微生物プロセスから得られるグリセリン酸は、培養液をそのまま用いてもよく、培養液から単離したグリセリン酸を用いてもよい。あるいは市販のものを用いてもよい。さらに、培養液からグリセリン酸金属塩(例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム塩などアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)として単離されたものを用いてもよく、あるいはこれをイオン交換などによりグリセリン酸に変換して用いてもよい。以上のものは市販されているものを用いてもよい。
【化1】
【0023】
グリセリン酸は、D−体、L−体の2種類の光学異性体が知られている。本発明においては、D−体、L−体、あるいはD−体とL−体とを任意の割合で含む混合物、いずれのグリセリン酸でも利用できるが、得られる分岐型ポリマーの機能を一定に保つためには、光学純度が一定のものを用いるのが望ましく、D−体、あるいはL−体を単独で用いるのがより望ましい。特にD−グリセリン酸を用いる場合、透明性の高い分岐型ポリエステル共重合体が得られる点で有利である。
【0024】
〈直鎖状ポリエステルからなる分岐鎖構成モノマー〉
本発明の分岐型ポリエステル共重合体における、分岐鎖を構成させるため使用するモノマーとしては、ヒドロキシ基とカルボキシル基を分子内各1個ずつ有する2官能性ヒドロキシカルボン酸が挙げられ、これら2官能性ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、ラクチド、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、リシノール酸等が好ましい。これらモノマーと上記多官能性ヒドロキシカルボン酸との共重合により得られた、分岐型ポリエステル共重合体は、生分解性である。
また、本発明においては分岐鎖構成モノマーとして、ジカルボン酸とジアルコールも使用できる。使用するジカルボン酸とジアルコールとしては、得られる分岐型ポリエステル共重合体が生分解性を示すものがよく、これには、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などのジカルボン酸及びエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどのジアルコールが挙げられる。
本発明における、分岐型ポリエステル共重合体は、上記多官能性ヒドロキシカルボン酸を開始剤として、上記分岐再構成モノマーを重合させることにより合成され得る。
一方、別法として、予め重合した直鎖状ポリエステルあるいはそのプレポリマーと、多官能性ヒドロキシカルボン酸縮合反応させる方法が挙げられ、これによっても、本発明の分岐型ポリエステル共重合体を合成することができる。
【0025】
本発明の分岐型ポリエステル共重合体における、分岐鎖を構成する直鎖状ポリエステル構成成分として、もっとも効果的な成分はポリ乳酸であり、特に上記グリセリン酸と組み合わせることにより、ポリ乳酸の結晶性を消失させ、また、光学分割性能の増大が期待できる。
このような分岐型ポリエステル共重合体における、分岐鎖構成モノマーとしては、上記した乳酸、ラクチドが挙げられる。
乳酸(CH3CH(OH)COOH)は、グルコースなどの資化可能な炭素源を、乳酸菌などの微生物を用いて発酵させて得ることができる。グルコースはセルロースやデンプンなど多くの再生可能資源を加水分解することで得られるため、乳酸もまた再生可能資源である。本発明において用いる乳酸は、乳酸発酵液をそのまま用いてもよく、乳酸発酵液から単離した乳酸を用いてもよく、あるいは市販の乳酸を用いてもよい。
ラクチドとは、2分子の乳酸の脱水縮合によって得られる環状ジエステルをいう。したがって、ラクチドも再生可能資源である。本発明においては、市販のラクチドを用いることができる。
【0026】
本発明に用いられるポリ乳酸とは、乳酸をモノマー単位とし、複数の乳酸が連なって高分子量となった生分解性成分である。ポリ乳酸を製造するには、一般的に乳酸を環化してラクチドとし、これを開環重合してポリ乳酸とするが、本発明においては、ポリ乳酸の製造方法にはよらない。本発明においては、市販のポリ乳酸を用いてもよい。
【0027】
乳酸には、D−体、L−体の2種類の光学異性体が知られている。本発明においては、D−体、L−体、あるいはD−体とL−体とを任意の割合で含む混合物の、いずれの乳酸を用いてもよい。また、これを単位として製造されたラクチド、ポリ乳酸についてもD−体、L−体の含有比によらす利用できる。得られる分岐型ポリマーの機能を一定に保つためには、光学純度が一定のものを用いるのが望ましく、D−体、あるいはL−体のみで構成されるもの、あるいは比率が1対1のD,L−体(ラセミ体)を用いるのがより望ましい。
以下に、グリセリン酸を分岐点とし、ポリ乳酸を分岐鎖とする場合の分岐型ポリエステル共重合体の製造法について説明する。
【0028】
〈分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の製造方法〉
ポリ乳酸鎖を合成するには、1分子内に水酸基とカルボキシル基を有する乳酸を直接重縮合する方法、乳酸2分子が環化したラクチドを開環重合する方法、ポリ乳酸を熱溶融により結合させて鎖長を伸ばす方法などが挙げられる。これらは全て、グリセリン酸を縮合させる方法にも適用できるため、これらを混在させて同様の縮合反応を行えば、本発明に係る分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を合成できる。例えば、以下、乳酸を例に挙げるが、これはラクチド、ポリ乳酸あるいはそのプレポリマーに置き換えてもよい。
【0029】
グリセリン酸および乳酸を十分に乾燥した容器に入れ、必要に応じて触媒を投入して、加熱あるいは加熱減圧することによって、グリセリン酸を起点として乳酸が重縮合したポリ乳酸鎖を有する分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を製造することができる。重合により生成する水を反応系外に排出することによって、重合度をさらに上げることができる。
【0030】
上記重合反応は、常温下でも行い得るが、必要に応じて加熱する。好ましくは100℃〜180℃の範囲に、さらに好ましくは120℃〜160℃に加熱する。100℃未満では反応速度が小さくなるため好ましくない。一方、180℃より高い温度では、分解速度が大きくなることおよび低分子量体が気化してしまうことなどの欠点がある。
【0031】
加熱減圧重合の場合、乳酸重合の過程で、乳酸オリゴマーの解重合反応によって生成し、ラクチドが生じる可能性がある。ラクチドは、乳酸重合の場合は不純物となる。高温または高真空であるほどラクチドが生成しやすく、生じたラクチドは系内から昇華により消失し、これにより、ポリ乳酸鎖の収率が低下する。そのため、加熱温度は100℃〜180℃、減圧は670Pa〜13000Paであることが好ましい。13000Paより高いと、反応系内の水分率が高くなり、縮合が進みにくい。670Pa未満では、ラクチドの生成および昇華が起こりやすくなり、回収する生成物の収率が低下する。
【0032】
グリセリン酸及び乳酸を重合する際の触媒としては、当業者が通常用いるものが挙げられる。具体的には、二塩化スズ(SnCl2)、2−エチルヘキサン酸スズ、テトラフェニルスズ、酸化スズ、硫酸、スズ粉末、トルエンスルホン酸などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。その他、ラクチドの開環重合に通常用いられる、ポルフィリンアルミニウム錯体、(n−C4H9O)4Al2O2Zn、複合金属シアン化錯体、ジエチル亜鉛−水またはジエチルカドミウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、トリブチルスズメトキシド、酸化鉛、ステアリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸ビスマス、カリウムアルコラート、フッ化アンチモン触媒、工業的にはスタナスオクタノエート触媒が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。収率の点から、二塩化スズ(SnCl2)、2−エチルヘキサン酸スズが特に好ましい。
【0033】
触媒の使用量は特に限定されないが、100質量部のラクチドに対して、約0.0001〜5質量部が適切であり、約0.05〜1質量部が好ましい。なお、重合反応速度が小さくなるが、触媒を加えずに重合することも可能である。
【0034】
〈ポリエステル樹脂用添加剤としての使用〉
本発明の分岐型ポリエステル共重合体はポリエステル樹脂用添加剤として、該ポリエステル樹脂に配合して、該樹脂の改質に用いられる。例えば、同種のポリエステル樹脂に配合して、樹脂本来の性質に対して、その強度、耐熱性を高める、あるいは柔軟性や耐衝撃性を付与することができる。これらの性質は、本発明の分岐型ポリエステル共重合体の配合割合を適宜設定することによって調整可能である。
以下に、例として、上記分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体をポリ乳酸用改質剤として用いる場合について説明する。
このような改質の対象となるポリ乳酸は、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーである。
【0035】
本発明の分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体はポリ乳酸の結晶性の調節などにより、柔軟性の付与や、耐熱性、成型加工性を向上させることができる。
本発明において、特に高い耐熱性を有する樹脂組成物を得るためには、ポリ乳酸樹脂として乳酸成分の光学純度が高いものを用いることが好ましい。ポリ乳酸樹脂の総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることが特に好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることが更に好ましい。
【0036】
また、改質対象のポリ乳酸は、L−乳酸又はD−乳酸に由来しない、他のモノマー単位を含んでいても良い。例えば、他のヒドロキシカルボン酸を含むことができる。他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類などを挙げることができる。
【0037】
また、その他のモノマー単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸を挙げることができるが、ポリ乳酸であるポリエステル骨格中に縮重合反応により組み込まれ得るものであればこれらに限定されるものではない。
【0038】
上記他のモノマーの含有量は、全モノマー成分に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることが好ましい。
【0039】
本発明の改質対象のポリ乳酸は、公知法により得られたものでよく、ポリ乳酸の重合法としては、縮重合法、開環重合法、その他の公知の重合法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸或いはD−乳酸或いはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状二量体であるラクチドを必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。この際、ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、或いはL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成及び結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。
【0040】
本発明において使用するポリ乳酸の分子量は、目的とする用途、例えば射出成形品にした場合に、実質的に十分な機械物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。分子量が低いと得られる成形品の強度が低下し、分解速度が速くなる。逆に高いと加工性が低下し、成形が困難になる。本発明に使用するポリ乳酸の重量平均分子量の好ましい範囲は、1万から40万、より好ましくは3万から25万である。
【0041】
また、ポリ乳酸としては、公知の市販品でも、例えば、三井化学株式会社製、商品名レイシア、トヨタ自動車株式会社製、商品名エコプラスチック(U’z)、CargillDow Polymer LLC株式会社製、商品名NatureWorks、ユニチカ株式会社製、商品名テラマック等が挙げられる。
【0042】
本発明の上記分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の配合量は、ポリ乳酸100重量部に対して、例えば、0.1〜100.0重量部、好ましくは1.0〜70.0重量部、さらに好ましくは5.0〜40.0重量部であり、上記分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体とポリ乳酸とを溶融混合することにより、改質されたポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
溶融混合は、ポリ乳酸を融点以上に加熱して溶融させ、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を加えて攪拌あるいは混練などの手段により行い、混合後、冷却することで上記ポリ乳酸組成物を得ることができる。混練はせん断力を加えた分配により良好な混合とすることができ、ニーダ、回転ロール、押出機などを用いて製造することができる。例えば、二軸押出機等を用いてポリ乳酸を溶融させながら、分岐状ポリ乳酸を注入して溶融混練し、ストランド形状に押出して冷却後ペレタイザーによってペレットを作製するなどすればよい。このように作製したペレットは十分に乾燥して水分を除去した後、射出成形などに用いることができる。
【0044】
また、予めポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を粗く混ぜておいた上で、溶融混合することによって製造することもできる。
なお、溶融混合する温度は、ポリ乳酸の融点以上であって、250℃以下であることが好ましい。250℃を超えると、ポリ乳酸の解重合が起こり、分子量や物性の低下を招くことになる。
【0045】
なお、溶融混合に当たっては、予めポリ乳酸を十分に乾燥して水分を除去した後に混練することが好ましい。水を含有していると加熱時に、ポリ乳酸および分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の加水分解によって劣化することが懸念される。
【0046】
また、他の実施形態では、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を、溶媒を用いた溶解混合することにより製造することができる。
溶解溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら溶媒には室温で溶解することができる。
また、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの溶媒に加熱して溶解させることもできる。
例えば、ポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体をクロロホルムに溶解、混合した後、クロロホルムを留去することで、ポリ乳酸組成物を製造することができる。
【0047】
本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸に分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体が添加されることで、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体が、生成したポリ乳酸結晶を相互に遮蔽すると共にポリ乳酸分子鎖の間隔を広げて分子運動を容易にさせることで柔軟性が向上される。引張破断伸びにおいては、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を添加することで大幅に増大する。すなわち靭性、特に低速変形靭性が大きく改善される。このように本発明のポリ乳酸組成物は、従来のポリ乳酸に可塑性を加えることができる。分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体は、比較的高分子量であっても非晶性であるため、結晶性(樹脂全体の結晶化度)を高めることなく添加することが可能となり、ブリードを抑えることができる。またこのブレンドは、分子レベルでの相溶となり相溶安定であるため、表面への滲みだし(ブリード)を生じにくい。さらに結晶サイズが小さいうえに、構造が類似であるため屈折率も近く透明である。
【0048】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の可塑化向上の効果は、機械的特性の変化によって確認することができる。ポリ乳酸は、非常に硬い樹脂で単独で一軸伸張試験を行ったところ、20%程度のひずみで破断するのに対して、本発明のポリ乳酸樹脂組成物の場合は、100%〜700%の破断ひずみが観測される。このように、分子構造の異なるポリ乳酸と、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を混合することにより、ポリ乳酸の可塑性を向上させることができる。ポリ乳酸に可塑性を付与するための分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の配合割合は、例えば、樹脂全体に対し0.1%〜50%、好ましくは1%〜30%である。
【0049】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の熱的物性、及び結晶化促進効果の向上は、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定することで評価できる。ポリ乳酸を一度200℃まで加熱溶融して10分間保持した後、20℃まで毎分10℃の割合で降温したときの結晶化エンタルピーを測定すれば、結晶化度を求めることができる。また、一度熱溶融させた後、−100℃まで急冷し、さらに200℃まで毎分10℃の割合で昇温したときのガラス転移温度、融点を測定することで、熱的物性の比較を行うことができる。
【0050】
上記の方法で測定を行うと、ポリ乳酸は結晶化による発熱は殆ど観測されないのに対して、本発明のポリ乳酸と分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体との組成物の場合は、数%〜50%の結晶化度を観測した。ポリ乳酸は、結晶性ポリマーであるけれども非常に結晶化しにくく(結晶化速度が遅い)、通常の成形条件では高度な結晶化度を有するものは得られない。これに対して、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体を核としてポリ乳酸の結晶化が促進されるため、非常に結晶化しやすく(結晶化速度が早い)、結晶化を含む成形工程の大幅な時間短縮が図れるとともに、実際の成型条件においては、ポリ乳酸に比べ優れた機械強度、耐熱性を有する成型品を製造することができる。
このような機械強度、耐熱性を付与するための分岐型グリセリン酸−乳酸共重合体の配合割合は、例えば、樹脂全体に対し0.1%〜50%、好ましくは1%〜30%である。
【0051】
なお、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を、成形時、又は成形後に何らかの方法で結晶化させることで、さらに結晶化度を高くすることができる。例えば、成形時に組成物の溶融物を金型内に充填し、高温金型内でそのまま結晶化させる方法、および該組成物の非晶性の成形品を乾熱処理又は湿熱処理する方法により、結晶性を向上させることができる。
【0052】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、溶融混練可能であることから、射出成形や押出成形などの方法によって、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、繊維、シートなどとして利用できる。またフィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸、インフレーションフィルムなどの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。また、これらの物品は、電気・電子部品、建築部材、自動車部品、日用品など各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0054】
実施例1
(D,L−グリセリン酸、D−グリセリン酸とL−乳酸の共重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥したD,L−グリセリン酸またはD−グリセリン酸53mg(0.5mmol)、L−乳酸900mg(10mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0055】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。グリセリン酸及びその重合物はクロロホルムに不溶であることから、ポリ乳酸鎖中にグリセリン酸が導入されたことが示唆された。クロロホルムを溶離液とし、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラム(東ソーTSKgelG4000HHR)を接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムで、生成物の分子量測定を行った結果、両者とも重量平均分子量Mwが約7000で、分子量分布Mw/Mnが約5.0の重合物であった。また、GPCチャート上では生成物と思われるブロードなピークが1つ検出されただけで、未反応物や各々のモノマーの単独重合物が存在しておらず、共重合が進行していることが示唆された。
【0056】
実施例2
(生成ポリマーの構造解析)
実施例1で得られたポリマーについて、重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解させ、NMR測定を行い、構造を確認した。1H NMR測定から、ポリマー鎖中にグリセリン酸が導入された共重合体であることが確認された(図1)。また、4.5〜4.7ppm付近に1級水酸基がエステル化されたグリセリン酸のβ位のプロトン由来のピーク(図中4)、5.45ppm付近に2級水酸基がエステル化されたグリセリン酸のα位のプロトン由来のピーク(図中3)が観察されたことから、得られたポリマーは分子鎖中のグリセリン酸部位で分岐が進んでいることが確認された。
【0057】
さらに、4.36ppm付近にポリ乳酸鎖の水酸基末端に位置する乳酸のα位プロトン由来のピーク、5.04ppm付近にポリ乳酸鎖のカルボキシル基末端に位置する乳酸のα位プロトン由来のピークがそれぞれ観察された。このことから、得られた共重合体にはカルボキシル基末端と水酸基末端が存在する特徴が示された。これはグリセリン酸が、ABB’型モノマーとしてポリ乳酸鎖に導入されたことを支持する結果である。得られた分岐型共重合体の構造モデル図を図2に示す。
【0058】
実施例3
(D,L−グリセリン酸、D−グリセリン酸とL,L−ラクチドの共重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥したD,L−グリセリン酸またはD−グリセリン酸53mg(0.5mmol)、L,L−ラクチド720mg(5mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0059】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果、D,L-グリセリン酸からは重量平均分子量Mwが約4300、分子量分布Mw/Mnが約4.1、D-グリセリン酸からは重量平均分子量Mwが約15000、分子量分布Mw/Mnが約5.2の重合物がそれぞれ得られた。また、実施例2と同様にして構造解析を行った結果、グリセリン酸が分岐点として導入されたグリセリン酸−乳酸共重合体が生成したことが確認された。
【0060】
上記で得られた生成物について、室温における反応容器中の生成物の写真でその形状を示す(図3)。D,L−グリセリン酸を導入した共重合体は濁度のある飴状の固体となったが、これに対してD−グリセリン酸を導入したものは透明性の高い飴状固体となった。フィルム等への利用を考える場合、透明性に優れた生成物が得られるD−体を用いることは極めて有利である。
【0061】
実施例4
ラクチドに対するグリセリン酸の仕込み比をモル比で2〜20(乳酸単位に換算して1〜10)まで変化させ、実施例3の条件で、反応を行った。いずれの場合からも、得られた生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であり、反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0062】
いずれの場合も、生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果をまとめて表1に示す(表1・Entry2〜7、10,11)。いずれの場合も、実施例2と同様の方法で生成物の構造が確認された。
【表1】
【0063】
比較例1
(D,L−グリセリン酸、D−グリセリン酸の単独重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥を行ったD,L−グリセリン酸またはD−グリセリン酸530mg(5mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。D,L−体、D−体とも反応中に固化した。
【0064】
生成物は、DMF、DMSOなどの高極性有機溶媒に一部溶解した以外は、ほとんどの有機溶媒及び水に不溶となった。0.1Mの塩化リチウムを含むDMFを溶離液とし、東ソーTSKgelα−4000カラムを接続したGPCシステムで可溶部のみ分子量測定を行った結果、両者とも重量平均分子量Mwが約6000で、分子量分布Mw/Mnが約5.3の重合物であった(表1・Entry9,12)。
【0065】
比較例2
(L,L−ラクチドの単独重合)
L,L−ラクチド720mg(5mmol)を反応容器に秤取し、2−エチルヘキサン酸スズ2μL(約5μmol)を添加して、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。反応中に反応物が直ちに固化した。
【0066】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果、重量平均分子量Mwが約40000で、分子量分布Mw/Mnが約2.4の重合物であった(表1・Entry1)。
【0067】
実施例5
(触媒非添加系でのD−グリセリン酸とL,L−ラクチドの共重合)
デシケータ内で十分に減圧乾燥したD−グリセリン酸106mg(1.0mmol)、L,L−ラクチド720mg(5mmol)を反応容器に秤取し、大気下、140℃で2時間撹拌することで反応を開始した。さらに、減圧して133hPa、140℃で2時間、40hPa、140℃で2時間撹拌した後、13hPa、160℃で18時間撹拌して反応を終了させた。生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。
【0068】
生成物は、ジクロロメタン、クロロホルム、など非極性有機溶媒に可溶であったが、アルコール、アセトンなど、ほとんどの極性有機溶媒及び水に不溶となった。クロロホルムを溶離液とし、東ソーTSKgelG4000HHRカラムを接続したGPCシステムで生成物の分子量測定を行った結果、重量平均分子量Mwが約4700、分子量分布Mw/Mnが約9.8の重合物であることが分かった。また、実施例2と同様にして構造解析を行った結果、グリセリン酸が分岐点として導入されたグリセリン酸−乳酸共重合体が生成したことが確認された。以上の結果より、グリセリン酸のカルボキシル基が酸触媒として作用し、これを開始剤として反応が進行したこと、触媒を添加しなくても共重合体が得られることが確認された。ポリマー中に触媒が混在することは、少量でも物性の低下や環境に対する負荷が懸念されることから、触媒非添加でポリマー製造ができる今回の系は極めて有用である。
【0069】
実施例6
(生成ポリマーの熱分析)
セイコーインスツル製の走査熱量測定装置(DSC)(DSC-6020システム)を用いて、実施例1〜3で得られた各ポリマーの熱的物性を測定した。ポリマーをアルミパンに約10mg秤取して測定ユニットに設置し、一度200℃まで毎分10℃の割合で昇温して加熱溶融し、次に−100℃まで毎分20℃の割合で降温、その後さらに200℃まで毎分10℃の割合で昇温した。2回目の昇温過程でのガラス転移温度、融点などを測定することで、熱的物性の比較を行った。DSCチャートの比較図を図4に示す。また得られたチャートから求めたガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)をまとめて表1に示す。
【0070】
同様の条件で合成されたポリ乳酸(表1・Entry1)に対して、グリセリン酸−乳酸共重合体では、Tgの低下が見られ、またグリセリン酸を3%以上添加した系ではTmが消失した。以上のようにグリセリン酸を少量導入することで、ポリ乳酸の熱物性が大きく変化することが示された。
【0071】
実施例7(微生物プロセスから得られたグリセリン酸と、L-乳酸及びL,L-ラクチドとの共重合)
出発原料として、微生物プロセスによりグリセリンを変換して得られたグリセリン酸を用い、実施例1、実施例3、及び実施例4と同様の方法で、L−乳酸及びL,L−ラクチドとの共重合を行った。用いたグリセリン酸は、酢酸菌グルコノバクター フラテウリ(Gluconobacter frateurii)を高濃度(20質量%以上)のグリセリンを含む培地で培養することで得られたもので、光学純度は73%eeのD−グリセリン酸豊富なD−、L−グリセリン酸混合物であった。重合結果をまとめて表2に示す。(クロロホルムを溶離液とするGPCシステムで測定)
【表2】
微生物プロセスから得られたグリセリン酸を用いても、グリセリン酸-乳酸共重合体が得られることが確認された。特に、グリセリン酸を5モル%以上添加した系では、ネットワーク化が進行し、得られたポリマーが不溶化(ゲル化)した。また、いずれの場合も実施例2と同様の方法で構造解析を行い、グリセリン酸が分岐点として乳酸鎖に導入された分岐型グリセリン酸-乳酸共重合体であることが確認された。
【0072】
実施例8
実施例7の表2中Entry7〜11で得られた共重合体の熱分析を、実施例6と同様の方法で行った。DSCチャートの比較図を図5に示す。
実施例6の結果と同様に、グリセリン酸−乳酸共重合体は、ポリ乳酸と比べてTgの低下が見られ、2モル%以上グリセリン酸を導入するとTmが消失した。グリセリン酸を少量導入することで、ポリ乳酸の熱物性が大きく変化することが確認された。
【0073】
実施例9(ポリ乳酸/グリセリン酸−乳酸共重合体ブレンドの熱分析)
ユニチカ株式会社製ポリ乳酸(テラマックTE-2000)と、実施例7の表2中Entry9で得られたグリセリン酸を3モル%導入したグリセリン酸−乳酸共重合体とを等量混合したブレンドフィルムを作製し、これの熱物性を測定した。ブレンドは、各ポリマーの5質量%クロロホルム溶液を調製し、これを等量ずつ混ぜ合わせて均一にした後、テフロン(登録商標)製の枠板内に流し込み、1週間静置してクロロホルムを蒸発気化させて除去することにより作製した。
得られたブレンドサンプル片の熱分析を、実施例6と同様の方法でDSCを用いて行った。DSCチャートの比較図を図6に示す。
グリセリン酸−乳酸共重合体をポリ乳酸に混合することで、ポリ乳酸のTgとTmが低下することが確認された。今回得られた共重合体は、ポリ乳酸に添加することで改質剤として作用することが示された。
【0074】
実施例10(結晶化速度の評価)
ポリ乳酸(テラマックTE-2000)と、実施例9で作製したポリ乳酸/グリセリン酸−乳酸共重合体ブレンドの結晶化速度を、DSC測定により比較した。以下の手順で評価を行った。サンプルを200℃で5分間加熱溶融し、その後T℃まで一気に急冷(-500℃/min)させ、T℃一定で30分間熱量の変化を測定した。検出された結晶化ピークの終点を結晶飽和時間とした。T=80〜120℃まで10℃ずつ温度を変え、測定を行った。結果のチャートをポリ乳酸、ブレンドそれぞれまとめて図7に示す。また、T=90℃における両者の比較図を図8に示す。
未改質のポリ乳酸に対して、ブレンドは低温から明確な結晶化ピークが検出され、また同一温度においてはピークがシャープである(図8)ことから、結晶化が短時間で進行していることが確認された。すなわち、今回得られたグリセリン酸−乳酸共重合体をポリ乳酸に改質剤として加えることで、ポリ乳酸の結晶化を促進させることができ、強度や成形性の向上をもたらすことが示された。
【0075】
実施例11(グリセリン酸−乳酸共重合体ブレンド比の影響)
実施例9と同様の方法で、添加するグリセリン酸−乳酸共重合体の割合を10〜50質量%まで変化させてブレンドフィルムを作製し、実施例6と同様の方法でDSC測定を行うとともに、実施例10と同様の方法で等温結晶化時間の評価を行った。
その結果、共重合体添加比20質量%以上でポリ乳酸のTgとTmの低下が見られ、また低温での等温結晶化促進が確認された。特に25質量%添加ブレンドサンプルの場合、再現性良く、良好なブレンド効果が現れることを確認した。例として、T=80℃における等温結晶化時間の比較を図9に示す。未改質ポリ乳酸は80℃でほとんど結晶化が進まないのに対し、グリセリン酸−乳酸共重合体を25質量%ブレンドしたサンプルでは迅速に結晶化が進むことが確認された。
【0076】
実施例12(ブレンドフィルムの強度評価)
実施例11で良好な効果が現れたポリ乳酸/グリセリン酸−乳酸共重合体25質量%ブレンドフィルム(実施例9と同様の方法で作成)について、静的強度評価装置(島津製作所製EZ-test EZ-L)を用いて引張試験を行った。フィルムは40 mm×20 mmの長方形状で、変位速度1 mm/minにてサンプル片に掛かる試験力を測定した。未改質ポリ乳酸とブレンドとの試験結果の比較を図10に示す。
ブレンドサンプルは未改質品に比べ、亀裂が入るまでに小さな試験力でよりよく伸びることが確認された。この結果より、グリセリン酸−乳酸共重合体をブレンドすることで、ポリ乳酸に柔軟性を付与できることが確認された。
【0077】
実施例13(グリセリン酸と無水コハク酸及び1,4-ブタンジオールとの共重合)
コハク酸と1,4-ブタンジオールを共重合することで、生分解性に優れるバイオプラスチックであるポリブチレンサクシネート(PBS)が得られることが知られている。この系にグリセリン酸を添加することで、上記ポリ乳酸と同様に、グリセリン酸を分岐点とする分岐型PBSの合成を行った。無水コハク酸500 mg(5 mmol)、1,4-ブタンジオール473 mg(5.25 mmol)を反応容器に秤取し、実施例7に記載の微生物プロセスにより得られたグリセリン酸を無水コハク酸に対して2〜10モル%(11〜53 mg;0.1〜0.5 mmol)添加して共重合を行った。反応混合物を大気下160℃で1時間撹拌後、触媒(Ti(OBu)4、5μmol)を添加し、100 hPaに減圧してさらに1時間撹拌。以後、200℃、50hPaで2時間撹拌、240℃、10hPaで4時間撹拌する合計8時間の反応を行った。
グリセリン酸をコハク酸ユニットに対して4モル%添加した系までは、生成物は反応中、流動性を保ち、液体状であった。反応後放冷するとそのまま固化したが、加熱すると再び液体状になった。生成物の1H NMR測定の結果、グリセリン酸がポリマー鎖中に導入されていること、2つの水酸基がエステル化されていることが確認され、グリセリン酸を分岐点とする分岐型のPBSの生成が示唆された(図11)。上記ポリマーの分子量は、Mn = 15,800、Mw = 39,400 で、クロロホルムに可溶であった。
さらに、グリセリン酸を6モル%以上添加した系では、反応の進行とともにゲル化が起こり、生成物は不溶化した。この結果より、グリセリン酸を分岐点としてネットワーク化が進行したことが確認された。
一方、1,4-ブタンジオールの秤取量を抑え、反応系中の水酸基量を調整すると、グリセリン酸の導入量を増加させることも可能であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸成分と直鎖状ポリエステル成分とからなる、分岐構造を有するポリエステル共重合体であって、上記ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖を有することを特徴とする、分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸が、分子内に不斉炭素を有する光学活性なヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項3】
ヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、請求項1または2に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項4】
グリセリン酸が、D−グリセリン酸であることを特徴とする、請求項3に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項5】
グリセリン酸が、L−グリセリン酸であることを特徴とする、請求項3に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項6】
直鎖状ポリエステル成分が、ポリ乳酸であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体からなることを特徴とする、ポリエステル樹脂用添加剤。
【請求項8】
ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項7に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
【請求項9】
ポリエステル樹脂に、請求項1〜6のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体を配合してなる樹脂組成物。
【請求項10】
ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする、請求項9に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
【請求項11】
分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸と直鎖状ポリエステルの原料モノマーとを共重合させることを特徴とする、請求項1に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【請求項12】
分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、請求項11に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【請求項13】
直鎖状ポリエステルの原料モノマーが乳酸、またはラクチドであることを特徴とする、請求項11または12に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【請求項1】
分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸成分と直鎖状ポリエステル成分とからなる、分岐構造を有するポリエステル共重合体であって、上記ヒドロキシカルボン酸成分を分岐点とし、直鎖状ポリエステル成分からなる分岐鎖を有することを特徴とする、分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸が、分子内に不斉炭素を有する光学活性なヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項3】
ヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、請求項1または2に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項4】
グリセリン酸が、D−グリセリン酸であることを特徴とする、請求項3に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項5】
グリセリン酸が、L−グリセリン酸であることを特徴とする、請求項3に記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項6】
直鎖状ポリエステル成分が、ポリ乳酸であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体からなることを特徴とする、ポリエステル樹脂用添加剤。
【請求項8】
ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項7に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
【請求項9】
ポリエステル樹脂に、請求項1〜6のいずれかに記載の分岐型ポリエステル共重合体を配合してなる樹脂組成物。
【請求項10】
ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸であることを特徴とする、請求項9に記載のポリエステル樹脂用添加剤。
【請求項11】
分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸と直鎖状ポリエステルの原料モノマーとを共重合させることを特徴とする、請求項1に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【請求項12】
分子内に水酸基及びカルボキシル基を合計で少なくとも3個有するヒドロキシカルボン酸がグリセリン酸であることを特徴とする、請求項11に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【請求項13】
直鎖状ポリエステルの原料モノマーが乳酸、またはラクチドであることを特徴とする、請求項11または12に記載の分岐型ポリエステル共重合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−80030(P2011−80030A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65437(P2010−65437)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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