説明

ヒドロキシ硫酸塩による表面処理

本発明の目的は、亜鉛メッキ鋼シートがひび割れする間のコーティングの劣化を低減し、前記シートの一時的防食を向上させるために、亜鉛メッキ鋼シートの表面を処理するのに硫酸イオン含有溶液を使用することである。また、前記コーティングされたシートを潤滑するための方法も、開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛またはこの合金をベースとする金属コーティングによりコーティングされた鋼シートの表面を処理するための処理溶液の使用に関する。また、本発明は、このようなコーティングされたシートを潤滑する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛またはこの合金によってコーティングされた鋼シートは、優れた耐腐食性を示すため、自動車分野および一般の産業界において広く使用されている。しかし、このような亜鉛メッキ鋼シートは、部品を製作するために、例えば絞りによって成形される場合には、いくつかの問題を抱えている。
【0003】
通常、より良好なトライボロジー特性を亜鉛メッキ鋼シートに付与するために、潤滑油の膜を亜鉛メッキ鋼シートの表面に塗布して、成形操作を容易にする。
【0004】
しかし、適切な潤滑油膜を塗布したにもかかわらず、シートの表面上で成形工具によって加えられる非常に大きな摩擦により、シートの表面においてコーティングの劣化により発生する、亜鉛またはこの合金をベースとする粉末または粒子がもたらされる。成形工具においてこれらの粒子またはこの粉末が付着および/または凝集すると、かかりおよび/またはくびれが形成され、成形された部品を損傷させうる。
【0005】
さらに、成形工具の表面と接触している、亜鉛メッキされた表面のすべりを特徴付ける摩擦係数が大きいために、成形工具のギャップにおいてシートのすべりが不十分な場合は、シートが破壊する危険がある。そのような破壊が生じうるのは、十分な重量、すなわち1g/mを超える重量の油膜がシートの表面に塗布されている場合でさえ、シートの表面上で均一に分布した油膜を維持することができないからである。これは、油の欠乏している領域の存在に対応する、脱濡れ現象のせいである。
【0006】
しかし、シートの表面上に比較的厚い油膜を付着させると、作業場および絞り工具が汚染されるという問題を引き起こし、シートを洗浄するために大量の脱脂剤を使用することおよび洗浄操作から発生する流出液を処理するためにかなりの資金を使用することが必要となる。
【0007】
さらに、脱濡れ効果により、油膜の一定領域において油が欠乏していることは、鋼シートが貯蔵されている間に、鋼シートの一時的防食が低下する原因ともなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、処理溶液を提案することであり、この処理溶液は、亜鉛またはこの合金をベースとする金属層によってコーティングされた鋼シートの表面に塗布された場合、この鋼シートが成形される間の鋼シートの亜鉛メッキされた表面の劣化を低減させること、鋼シートが成形される前に鋼シート上に付着される潤滑油の量を低減すること、および鋼シートの一時的防食を向上させることを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、本発明の主題は、鋼シートが成形される間にコーティングが劣化することにより生じる、亜鉛およびこの合金をベースとする金属粉末または粒子の形成を低減させることを目的とする、両面のうちの少なくとも1つの面上が、亜鉛またはこの合金をベースとする金属コーティングによって処理された鋼シート表面を処理するための0.01mol/l以上の濃度を有する硫酸イオンSO2−を含有する水性処理溶液の使用である。
【0010】
「亜鉛合金をベースとする金属コーティング」という表現は、例えば、これらに限らないが、鉄、アルミニウム、ケイ素、マグネシウムおよびニッケルなどの、1種または複数の合金元素を含む亜鉛コーティングを意味すると理解される。
【0011】
本発明によれば、ほぼ純亜鉛コーティングによりコーティングされた鋼シートを使用することが好ましい。
【0012】
亜鉛またはこの合金をベースとする金属コーティングによってコーティングされた鋼シートの表面を本発明による水性処理溶液によって処理する場合は、ヒドロキシ硫酸亜鉛および硫酸亜鉛をベースとする、十分な厚さと十分な付着性を有する層がシートの表面上に形成される。しかし、SO2−の濃度が0.01mol/l未満の場合は、このような層は形成され得ず、濃度が高すぎると付着速度を実質的に向上させることはなく、速度を若干低減させる場合すらあることも分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態においては、処理溶液は従来の方法、例えば、ディッピング、スプレー、またはコーティングにより、電気分解亜鉛メッキ板および溶融亜鉛メッキ板上にともに塗布する。
【0014】
好ましい実施形態においては、水性処理溶液は、より均一な付着を得ることを可能にする0.01mol/l以上の濃度を有するZn2+イオンをさらに含有する。
【0015】
例えば、処理溶液は、硫酸亜鉛を純水に溶解させることにより調製する。例えば、硫酸亜鉛の七水和物(ZnSO・7HO)を使用し、その場合はZn2+イオン濃度はSO2−アニオンの濃度に等しい。
【0016】
好ましくは、処理溶液のpHは、塩基または酸のいずれも添加されていない溶液の自然のpHに相当し、このpHの値は一般に5から7の間である。
【0017】
シートが成形される間に、シート上のコーティングが劣化することから生じる亜鉛またはこの合金の粉末または粒子の形成を最小にするために、処理溶液がシートの表面に塗布される条件、すなわち温度、溶液が亜鉛メッキされた表面に接触している時間、SO2−イオン濃度およびZn2+イオン濃度は、ヒドロキシ硫酸亜鉛および硫酸亜鉛をベースとする層を形成するように調節され、層の硫黄含有量は0.5mg/m以上である。これは、硫黄含有量が0.5mg/m未満の場合は、コーティングの劣化の低減があまり十分でなくなるからである。
【0018】
したがって、処理溶液が亜鉛メッキされた表面と接触している時間は2秒から2分の間であり、処理溶液の温度は20から60℃の間である。
【0019】
好ましくは、使用される処理溶液は、硫酸亜鉛の七水和物を20から160g/l含有しており、これは0.07から0.55mol/lの間のZn2+イオン濃度およびSO2−イオン濃度に相当する。実際、この濃度範囲においては、付着速度は濃度にほとんど影響されないことが分かった。
【0020】
有利には、処理溶液が塗布される条件、すなわち温度、溶液が亜鉛メッキされた表面と接触している時間ならびにSO2−イオンおよびZn2+イオン濃度は、3.7から27mg/mの間の硫黄含有量を有する、ヒドロキシ硫酸塩/硫酸塩をベースとする層を形成するように調節される。
【0021】
本発明の変形形態によれば、処理溶液は、過酸化水素などの亜鉛に対する酸化剤を含有する。この酸化剤は、低濃度で非常に顕著な硫酸化/ヒドロキシ硫酸化促進剤効果を有しうる。この溶液に、過酸化水素をわずか0.03%、すなわち、8×10−3mol/l、または過マンガン酸カリウムを2×10−4mol/l添加するだけで、付着速度が(ほぼ)2倍にされうることが分かった。しかし、100倍高い濃度では、付着速度のこれだけの改善がもはや得られないことが分かった。
【0022】
処理溶液を塗布した後の、乾燥させる前の段階では、シート上に付着された層は付着性である。乾燥は、残留液体水が付着物から除去されるように調節する。
【0023】
塗布段階と乾燥段階との間で、好ましくは、シートをすすぎ洗いし、得られた付着物の可溶性部分を除去するようにする。すすぎ洗いをしないことおよび水に一部が溶解する結果として生じる付着物形成は、シートを成形する操作の間の亜鉛メッキコーティングの劣化を低減させることにあまり悪影響を及ぼすものではない。得られた付着物は、シートと接触している水に不溶性のヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層を備えているからである。
【0024】
本発明の第2の実施形態によれば、0.01mol/l以上のSO2−イオン濃度を有する水性処理溶液を、陽極分極下で塗布し、処理溶液のpHは、12以上であるが13未満である。
【0025】
溶液のpHが12未満の場合は、付着性のヒドロキシ硫酸塩は、処理されるべき表面上で形成されない。溶液のpHが13以上になると、ヒドロキシ硫酸塩は水酸化亜鉛中に再溶解および/または分解する。
【0026】
硫酸ナトリウムを処理溶液中で使用する場合は、硫酸ナトリウム濃度が溶液中で1.4g/l未満であれば、表面上のヒドロキシ硫酸塩の形成はほとんど認められない。したがって、より一般的には、SO2−イオン濃度は0.01mol/l以上、好ましくは0.07mol/l以上であることが重要である。
【0027】
さらに、硫酸イオン濃度は、好ましくは1mol/l以下である。硫酸ナトリウムを使用する場合は、142g/l(SO2−イオンの1mol/lと等価)を超える濃度、例えば、180g/lにおいて、ヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層の形成効率の低減が観測される。
【0028】
亜鉛メッキコーティングされたシートが形成される間のシートの亜鉛メッキコーティングの劣化は、付着されたヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層の厚さが、0.5mg/mを超える硫黄当量、好ましくは、少なくとも3.5mg/mの硫黄当量に相当する場合にのみ、低減されることが分かった。
【0029】
しかし、付着されたヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層の硫黄の量が30mg/mを大きく超える場合は、恐らく、この層の付着性が悪化するために、亜鉛メッキコーティングの劣化を低減させる度合いは小さくなることが分かった。
【0030】
したがって、亜鉛メッキコーティングの劣化を大幅に低減させるためには、ヒドロキシ硫酸塩および硫酸塩の全付着量が0.5mg/m以上で30mg/mを超えない硫黄当量、好ましくは、3.5から27mg/mの間の硫黄当量であることが必要である。
【0031】
ヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする析出物を形成するために必要な亜鉛は、亜鉛メッキされた表面の分極の影響を受けて、亜鉛が陽極溶解することから生じる。
【0032】
したがって、処理中にシートの表面を通って流れる電荷密度を調節し、0.5mg/m以上の硫黄含有量を有する、ヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層を形成するようにすることが必要である。
【0033】
したがって、印加される電荷密度は、好ましくは、処理されるべき表面で10から100C/dmの間にある。
【0034】
電荷密度が100C/dmを超えた場合は、表面上に析出された硫黄の量はもはや増大せず、減少さえすることが分かった。
【0035】
処理されるべき亜鉛メッキされた表面の陽極分極により、亜鉛メッキされた表面のごく近傍に存在する亜鉛が急速に溶解し、この表面上に亜鉛塩が沈析するのを促進する。
【0036】
したがって、満足すべきクーロン効率を有する、できる限り生産的な方法でこの処理を実行するためには、ヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層が、高い分極電流密度、特に20A/dmを超える、例えば200A/dmの下で付着されることが必要である。
【0037】
20A/dm以下の電流密度においては、析出効率は非常に低く、析出層内の硫黄のこの量では、成形される間のシート上の亜鉛コーティングの劣化を大幅に低減させることはできない。
【0038】
対向電極として、チタンの陰極を使用することができる。
【0039】
処理溶液の温度は、一般に20℃から60℃の間である。好ましくは、処理は40℃以上の温度で実行され、溶液の導電率を増大させ、抵抗損を減少させるようにする。
【0040】
シートの表面における溶液の流量は、ここでは、本発明による処理に重大な影響を及ぼさない。
【0041】
ヒドロキシ硫酸塩/硫酸塩をベースとする層が表面上に形成された後で、コーティングされた表面は、脱塩水により完全にすすぎ洗いされる。このすすぎ洗い段階は、腐食問題を引き起こしうる反応物である、析出物の表面のアルカリ性の反応物を除去するために重要である。
【0042】
本発明の主題は、また、亜鉛またはこの合金をベースとする金属コーティングからなる層によってコーティングされた鋼シートを潤滑する方法であり、
前記シートを、本発明による処理溶液を使用することによって得られた、ヒドロキシ硫酸亜鉛および硫酸亜鉛をベースとする上層によりコーティングし、次いで
潤滑油膜を、1g/m未満の重量で、上層に塗布する。
【0043】
塗布する潤滑油膜の重量は、好ましくは0.9g/m未満、より特に、0.2から0.5g/mの間であり、優れた一時的防食を得るために、および作業場および成形工具が汚染される危険を避けるためには、この重量で十分である。
【0044】
最後に、本発明の主題は、亜鉛およびこの合金をベースとする金属層によってコーティングされた鋼シートの一時的防食を改善するための、0.01mol/l以上の濃度を有する硫酸イオンを含む水性処理溶液の使用である。
【0045】
この水性処理溶液は、シートが成形される間の亜鉛コーティングの劣化を低減させることを目的として亜鉛メッキ鋼シートを処理するために、硫酸イオンを含む水性処理溶液を使用することに関連したパラグラフに記載されている実施形態に従って、鋼シートに塗布する。このために、読者は、これに関連したパラグラフを参照することができる。
【0046】
本発明を例示する実施例において見られるように、発明者らは、本発明による処理溶液により最初に処理し、次いで油膜によりコーティングした亜鉛メッキ鋼シートの一時的防食は、予め処理していない亜鉛メッキ鋼シートの一時的防食より遥かに良好であることを示した。
【0047】
本発明は、非限定的提示を意図して与えられた実施例により、添付図を参照して次に記述されることになる。
【実施例1】
【0048】
1.亜鉛メッキ板を絞り加工する際の、コーティング粉末または粒子の形成の低減
「アルミキルド鋼」級で、亜鉛メッキなし(ES quality)で、厚さ0.7mmであり、亜鉛浴中で溶融メッキすることにより作製した亜鉛コーティングによって両面のそれぞれをコーティングした鋼シートから試験片を切り取った。
【0049】
硫酸亜鉛七水和物、ZnSO・7HO、125g/lから得た、本発明による水性処理溶液を調製した。
【0050】
次に、処理溶液を40℃の温度で噴霧することにより、この処理溶液を試験片のいくつかに塗布した。シートを3から4秒の間この溶液と接触させた後、処理したシートを引き上げ、次いで乾燥した。
【0051】
次いで、潤滑油膜を亜鉛メッキ鋼シートの試験片の表面上に形成されたヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層に塗布した。前記油は、QUAKER 6130油(Quakerから)またはFUCHS 4107S油(Fuchsから)のいずれかであり、潤滑油膜は1.5g/mの膜重量を有していた。
【0052】
本発明による処理溶液によって前処理していないその他の試験片に、QUAKER 6130油またはFUCHS 4107S油のいずれかによって油を塗布した。油膜はこれも1.5g/mの膜重量を有していた。
【0053】
次いで、2つのシリーズの試験片について、絞り操作の間に、具体的には絞り工具に装備されているダイラジアスおよび/または止め輪内で、シートが受ける応力を実験室で再現する、ポンチ、ダイおよびブランクホルダを備えているプレスを用いた、制御された変形試験を実施した。試験を実施中の試験片に、ブランクホルダのさまざまな締め付け力を印加した。
【0054】
2つのシリーズの試験片のそれぞれを、油を塗布する操作の前に、次いで、脱油の後の試験の終わりに、正確さが0.0001グラムである天秤により秤量した。測定した重量の差を、試験片のそれぞれに対して同一である、試験片を絞り加工するシミュレーションを実施する間に摩擦の影響を受ける領域を考慮して、1平方メートル当たりの重量減に正規化した。
【0055】
さらに、ある1つの試験片を成形した後、次の試験片が成形される前に、プレスを拭き、プレス内で試験片によって失われる亜鉛コーティング粉末または粒子を確認するようにした。
【0056】
絞り加工後の試験片の重量減の結果およびコーティングから生じた亜鉛粉末および/または粒子の確認を表1に示す。粒子および/または粉末を1から4の範囲の尺度によって、以下の方法で格付けすることにより確認した:
格付け1:粒子または粉末がほとんどない;
格付け2:わずかな数の粒子またはわずかな量の粉末;
格付け3:多数の粒子または大量の粉末;および
格付け4:非常に高水準の粒子または粉末。
【0057】
【表1】

【0058】
測定された重量減および工具を拭いた際に観測された粉末および粒子の量から、ポンチの上を通過する亜鉛メッキ鋼シートにより亜鉛コーティングから生じる材料の減量は、油を塗布する前に本発明による処理溶液によってシートを処理すれば、大幅に低減することが分かる。
【実施例2】
【0059】
2.脱濡れ効果の低減−トライボロジー挙動への影響−摩擦試験
「アルミキルド鋼」級で、亜鉛メッキなし(ES quality)の、厚さ0.7mmであり、両面のそれぞれが、亜鉛浴中で溶融メッキすることにより作製した亜鉛コーティングによってコーティングされている鋼シートから、面積が1cmの試験片を切り取った。
【0060】
試験片のいくつかを、実施例1において示したのと同じ条件で、本発明による処理溶液によって処理し、ヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層を形成するようにした。次いで、潤滑油膜(QUAKER 6130油)を0.25から2.5g/mの範囲の量でこの層に塗布した。
【0061】
その他の試験片は、前と同じやり方で油を塗布したが、本発明による処理溶液によって前処理されていなかった。
【0062】
次いで、試験片のそれぞれの摩擦挙動を、以下の方法でトライボロジー試験器を用いて特徴付けた。
【0063】
試験器は、それ自体、知られているフラットオンフラットトライボメータであった。試験されるべき試験片を、試験片に対してベアリング(bearing)(または滑り(sliding))表面を提供する2枚の高速度鋼プレートの間で、締め付け力Fで締め付けた。鋼シートに対して試験片を、180mmの全移動距離Dにわたって、10mm/sの速度で移動させながら、締め付け力Fを徐々に増大させつつ、摩擦係数Nを測定した。
【0064】
次いで、さまざまな潤滑油膜重量の締め付け力Fの関数として、摩擦係数の変化を示す曲線をプロットする(図1を参照)。
【0065】
さまざまな曲線を、以下の記号により識別している:
+:本発明によって処理し、次いで、1面当たり0.25g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングしたシート;
×:本発明によって処理し、次いで、1面当たり1.0g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングしたシート;
●:本発明によって処理し、次いで、1面当たり2.5g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングしたシート;
■:1面当たり0.25g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングした未処理のシート;
▲:1面当たり1.0g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングした未処理のシート;および
◆:1面当たり2.5g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングした未処理のシート。
【0066】
試験した試験片のそれぞれについて、所与の締め付け力Fに関する摩擦係数の平均値を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
得られた結果から、油膜を塗布する前に本発明による処理溶液を塗布しない場合は、油の重量を減少させると、摩擦係数の大幅な上昇をもたらすことが分かる。
【0069】
しかし、潤滑油膜を塗布する前に本発明による処理溶液を亜鉛メッキ鋼シートに塗布した場合に、油の重量が0.5g/m未満の場合でさえ得られた摩擦係数は非常に小さい。
【実施例3】
【0070】
3.脱濡れ効果の低減−一時的防食に及ぼす効果
「アルミキルド鋼」級、亜鉛メッキなし(ES quality)の、厚さ0.7mmの鋼シートであり、亜鉛浴中で溶融メッキすることにより作製した亜鉛コーティングによって両面のそれぞれをコーティングした鋼シートから、試験片を切り取った。
【0071】
試験片のいくつかを、実施例1において示したのと同じ条件で、本発明による処理溶液によって処理し、ヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層を形成するようにした。次いで、潤滑油膜(QUAKER 6130油)を、0.25から1.0g/mの範囲の重量で、この層に塗布した。
【0072】
その他の試験片は、前と同じやり方で油を塗布したが、本発明による処理溶液によって前処理されていなかった。
【0073】
亜鉛をベースとする金属コーティングによってコーティングした鋼シートに潤滑油を塗布することにより、シートの製造から、例えば、絞りによる加工の間に経過する期間における防食を保証した。
【0074】
この時点までに配送された製品の適合性を、高温/湿潤腐食加速試験の結果により確かめた。
【0075】
具体的には、一巻きのシートで外側に巻かれているシートまたは個々の切り取られたシートが、保管中に腐食する条件をシミュレートした、ドイツ工業規格(DIN)50017に対応する環境室内に、試験するべき試験片を配置した。
【0076】
高温/湿潤サイクル(1サイクル=24時間)の詳細を以下に示す。
【0077】
40℃および95〜100%RH(相対湿度)で8時間;
20℃および75%RHで16時間。
【0078】
個々の試験片を垂直に吊した。
【0079】
表3に示した試験結果を、腐食の何らかの痕跡が試験片に出現するまでの連続サイクルの数を測定することによって得た。
【0080】
次いで、試験した試験片のそれぞれのサイクル数の関数として、パーセントで示した白錆含有量の変化を示す曲線をプロットする(図2を参照)。
【0081】
さまざまな曲線を以下の記号で識別している:
+:本発明によって処理し、次いで、1面当たり0.25g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングしたシート;
*:本発明によって処理し、次いで、1面当たり0.5g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングしたシート;
▲:本発明によって処理し、次いで、1面当たり1.0g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングしたシート;
◆:1面当たり0.25g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングした未処理のシート;
■:1面当たり0.5g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングした未処理のシート;および
●:1面当たり1.0g/mのQUAKER 6130油膜によってコーティングした未処理のシート。
【0082】
【表3】

【0083】
潤滑油膜を塗布する前に本発明による処理溶液を塗布した亜鉛メッキ鋼シートの一時的な防食を著しく改善でき、油の重量が1g/m未満の場合でも改善することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例2を参照して、本発明により処理したまたは処理していない、さまざまなシートの試験片について実施した摩擦試験の結果を示す図である。
【図2】実施例3を参照して、本発明により処理したまたは処理していない、さまざまなシートの試験片について実施した高温/湿潤腐食試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼シートが成形される間にコーティングの劣化によって生じる亜鉛またはこの合金をベースとする金属粉末または粒子の形成を低減することを目的とする、両面のうちの少なくとも1つの面が、亜鉛またはこの合金をベースとする金属コーティングによって処理された鋼シートの表面を処理するための、硫酸イオンSO2−を0.01mol/l以上の濃度で含有する水性処理溶液の使用。
【請求項2】
水性処理溶液が、さらにZn2+イオンを0.01mol/l以上の濃度で含有する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
処理溶液がシートの表面に塗布される条件、すなわち温度、前記溶液が亜鉛メッキされた表面に接触している時間、SO2−イオン濃度およびZn2+イオン濃度が、ヒドロキシ硫酸亜鉛および硫酸亜鉛をベースとする層を形成するように調節され、前記層の硫黄含有量は0.5mg/m以上である請求項1および2のいずれかに記載の使用。
【請求項4】
Zn2+イオン濃度およびSO2−イオン濃度が0.07から0.55mol/lの間にある請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
処理溶液のpHが5から7の間にある請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
処理溶液が塗布される条件、すなわち温度、前記溶液が亜鉛メッキされた表面に接触している時間、ならびにSO2−イオンおよびZn2+イオン濃度が、ヒドロキシ硫酸塩/硫酸塩をベースとする、3.7から27mg/mの間の硫黄含有量を有する層を形成するように調節される請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
処理溶液をシートに塗布した後に、前記シートをヒドロキシ硫酸塩/硫酸塩層の可溶性部分を除去するために場合により水洗いした後に乾燥させる請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
処理溶液が陽極分極下で塗布され、および前記処理溶液のpHが、12以上であるが13未満である請求項1に記載の使用。
【請求項9】
処理中にシートの表面を通って流れる電荷密度が、硫黄含有量が0.5mg/m以上のヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層を形成するために調節される請求項8に記載の使用。
【請求項10】
SO2−イオン濃度が、0.07mol/lを超える請求項8および9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
電荷密度が、硫黄の量が3.7から27mg/mの間にあるヒドロキシ硫酸亜鉛/硫酸亜鉛をベースとする層を形成するために調節される請求項8から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
処理中に印加される分極電流密度が、20A/dmを超える請求項8から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
処理溶液をシートに塗布した後に、前記シートをすすぎ洗いする請求項8から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
鋼シートを、請求項1から13のいずれか一項に記載の処理溶液を使用することによって得られた、ヒドロキシ硫酸亜鉛および硫酸亜鉛をベースとする上層によりコーティングするステップと;次いで
1g/m未満の重量を有する潤滑油膜を前記上層に塗布するステップとを含む、
亜鉛またはこの合金をベースとする金属コーティングからなる層によってコーティングされた鋼シートを潤滑するための方法。
【請求項15】
油膜の重量が、0.9g/m未満であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
油膜の重量が、0.2から0.5g/mの間にあることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
鋼シートの一時的防食を改善することを目的とする、両面のうちの少なくとも1つの面上が、亜鉛またはこの合金をベースとする金属コーティングによってコーティングされた鋼シートの表面を処理するための、硫酸イオンSO2−を0.01mol/l以上の濃度で含有する水性処理溶液の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−517135(P2007−517135A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546227(P2006−546227)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【国際出願番号】PCT/FR2004/003208
【国際公開番号】WO2005/071140
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506166491)アルセロール・フランス (43)
【Fターム(参考)】