説明

ヒドロクロロフルオロオレフィン−ベースの洗浄組成物

本発明は1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む液体組成物であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが組成物の少なくとも99重量%である液体組成物の、固体表面の洗浄での使用に関するものである。本発明はさらに1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、トランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む液体組成物であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが液体組成物の少なくとも99重量%であり、トランス−1,2−ジクロロエチレンに対する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの重量比が57:43〜65:35の間、好ましくは58:42〜63:37の間、特に好ましくは59:41〜61:39の間にある液体組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロクロロフルオロオレフィン-ベースの洗浄(クリーニング)組成物と、この組成物の洗浄プロセスでの使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(CFC−113)は不純物、特に有機不純物のないこと、あるいは、最低でも残存量が最少となることが要求される種々の固体表面(金属部品、ガラス、プラスチック、複合材料)の洗浄、脱脂において工業的に広く使われている。このCFC−113は使用する材料に対する攻撃性がない(nonaggressive)という特性で上記用途に特に適している。この化合物は例えば印刷回路の製造分野で接合部の品質を改良するために用いる物質(溶接フラックスといわれる)から残留物を除去するために使われる。この分野ではこの除去操作を脱フラックス(defluxing)といっている。
【0003】
しかし、CFC−113の使用にはオゾン層を破壊するという環境問題があり、その使用は今後禁止される。その多くの代替品溶液、特にフルオロオレフィン(HFOs)、特にヒドロクロロフルオロオレフィン(HFCOまたはHCFO)をベースにした溶液が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(米国特許第US2006/0141273号明細書)および特許文献2(米国特許第US2009/0318323号明細書)には清浄剤として各種のフルオロオレフィン、特に、1−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペン(HFCO−1233zd)の使用が記載されている。
【0005】
特許文献3(国際特許第WO2009/140231号公報)には固体表面の洗浄のため、特に脱フラックスのためのHFCO−1233zdの使用が記載されている。この文献には種々の共試薬、特に、トランス−1,2−ジクロロエチレン(TDCE)を含むリストの中から選択される共試薬の使用が記載されている。この文献でHFCO−1233zdとTDCEとを含む洗浄組成物の例は第3化合物が酢酸メチルである三成分混合物のみである。
【0006】
特許文献4(国際特許第WO2009/089511号公報)にはフルオロオレフィンをベースにした極めて一般的な組成物と、その種々の分野での洗浄での使用とが記載されている。HFCO−1233zdがフルオロオレフィンの一つとして記載されている。さらに、この文献には洗浄以外の用途、すなわち、発泡剤、シリコーン(溶剤としてのシリコーン油の使用)の塗布、香りの抽出分野で、HFCO−1233zdをTDCEと組み合わせることができると記載されている(特に、25:75、50:50および75:25の重量比)。洗浄分野に関してはたこの文献はHFCO−1233zd単独か、メタノールと一緒の使用を提案している。
【0007】
洗浄用途では233zdは効果的な化合物であり、環境に比較的無害であるという利点を有する。特に、GWPが低い。しかし、固体表面洗浄でのHFCO−1233zdの有効性すなわちそれを単独またはTDCEおよび酢酸メチルと組み合わせた三成分系で用いた場合の有効性は少なくともいくらかの用途では不満足なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第US2006/0141273号明細書
【特許文献2】米国特許第US2009/0318323号明細書
【特許文献3】国際特許第WO2009/140231号公報
【特許文献4】国際特許第WO2009/089511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、従来の洗浄浄方法を改良するというニーズ、特に、有利な生理化学的性質(特にGWPに関する性質)を有するより有効な(特に特定グリースに対してより有効な)洗浄剤を開発するというニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1発明の対象は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む液体組成物であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが組成物の少なくとも99重量%である液体組成物の、固体表面の洗浄での使用にある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の一実施例では、洗浄時に上記液体組成物を蒸発させる。
本発明の一実施例では、上記の使用が電子集積回路板の脱フラックス、または金属部品、ガラス、プラスチックまたは複合材料の脱脂、この脱脂が好ましくは充填剤を含む、または、含まない無機または有機のグリースまたはオイルの中から選択されるグリースまたはオイル、特に好ましくは充填剤としてのリチウム/カルシウムまたは複合リチウム(complex lithium)を含む無機グリースの中から選択されるグリースの洗浄での使用である。
【0012】
本発明の一実施例では、液体組成物中でのトランス−1,2−ジクロロエチレンに対する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの重量比が、
1:99〜99:1の間、または、
10:90〜90:10の間、または、
20:80〜80:20の間、または、
30:70〜70:30の間、または、
40:60〜60:40の間、または、
45:55〜55:45の間であり、好ましくは約50:50である。
【0013】
本発明の一実施例では、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの少なくとも80重量%がトランス形であり、好ましくは1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの全体の少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、理想的には少なくとも98重量%がトランス形である。
【0014】
本発明の他の対象は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、トランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む組成物と接触させて固体表面を洗浄する方法であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンが組成物の少なくとも99重量%であることを特徴とする固体表面を洗浄する方法にある。
【0015】
本発明の一実施例では、被洗浄固体表面が溶接剤で汚染された機械部品または電子部品またはグリースまたはオイルで汚染された金属部品、ガラス、プラスチックおよび/または複合材料であり、上記のグリースまたはオイルが充填剤を含む、または、含まない無機または有機のグリースまたはオイルであり、好ましくはリチウム/カルシウムまたは複合リチウムを含む無機グリースから選択される。
【0016】
本発明の一実施例では、上記方法は下記(1)と(2)を含む
(1)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含み、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが液体洗浄組成の少なくとも99重量%である液体洗浄組成を用意し、
(2)上記液体洗浄組成物を固体表面と接触させる。
【0017】
本発明の一実施例では、上記方法は下記(1)〜(4)を含む
(1)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含み、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが液体洗浄組成の少なくとも99重量%である液体洗浄組成を用意し、
(2)上記液体洗浄組成物を加熱して気体の洗浄組成物を作り、
(3)上記気体の洗浄組成物を固体表面と接触させる。
(4)必要に応じて、気体の洗浄組成物を回収し、凝縮する。
【0018】
本発明の一実施例では、トランス−1,2−ジクロロエチレンに対する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの重量比が、
1:99〜99:1の間、または、
10:90〜90:10の間、または、
20:80〜80:20の間、または、
30:70〜70:30の間、または、
40:60〜60:40の間、または、
45:55〜55:45の間であり、好ましくは約50:50である。
【0019】
本発明の一実施例では、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの少なくとも80重量%がトランス形であり、好ましくは1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの全体の少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、理想的には少なくとも98重量%がトランス形である。
【0020】
本発明の他の対象は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、トランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む液体組成物であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが液体組成物の少なくとも99重量%であり、トランス−1,2−ジクロロエチレンに対する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの重量比が57:43〜65:35の間、好ましくは58:42〜63:37の間、特に好ましくは59:41〜61:39の間にある液体組成物にある。
【0021】
本発明の一実施例では、液体組成物が上記で説明したものである。本発明の一実施例では液体洗浄組成物が記載のものである。
【0022】
本発明を用いることで従来法の上記欠点を無くすことができる。特に、本発明は効果的な清浄剤を使用した改良された洗浄方法、特に、ある種のグリースに対してより有効で、有利な生理化学的性質(特に、低GWP)を有する洗浄方法を提供する。これは洗浄剤としてHFCO−1233zdと、TDCEとを組合せた二元組成物を使用することで達成される。
【0023】
本発明の特定実施例は下記の利点の一つ、好ましくは複数を有する:
(1)本発明を用いることで従来技術よりもグリースに対する浄化特性を改良できる。特に、本発明組成物はHFCO−1233zdを単独で用い場合、あるいはHFCO−1233zdをTDCEおよび酢酸メチルと一緒に三成分混合物として使用した場合よりも効果的であり、特に、充填剤としてリチウム/カルシウムを含む無機グリース(耐高圧グリース)または充填剤として複合リチウムを含む無機グリース(耐高荷重、耐高速グリース)よりも効果的である。
【0024】
(2)本発明は特許文献4(国際特許第WO2009/089511号公報)に記載のHFCO−1233zd/メタノール洗浄組成洗浄より洗浄効率が改良され、しかも、使用する中毒性化合物が少ない。この点で、メタノールは環境中に放出するのが適切でない中毒性化合物であるということを強調しておかなければならない(蒸気洗浄)。
【0025】
(3)HFCO−1233zd:TDCEの重量比を57:43〜65:35の間、好ましくは58:42〜63:37の間、特に好ましくは59:41〜61:39の間にした時に、本発明組成物は洗浄剤として使用した時、特に蒸気洗浄で使用した時に、HFCO−1233zd:TDCEの重量比をそれより下げた(例えば約50:50にした)場合に比較して、燃焼の危険が少ない。さらに、HFCO−1233zdの配合比率を増やし、ある閾値を超えると、組成物の洗浄力は低下する傾向がある(少なくともある種のグリース、例えば充填剤としてのリチウム/カルシウムを含む無機グリースまたは複合リチウムを含むグリースの場合)。従って、HFCO−1233zd:TDCEの重量比を57:43〜65:35の間、好ましくは58:42〜63:37の間、特に好ましくは59:41〜61:39の間にしたHFCO−1233zdとTDCEの二成分組成物は燃焼の危険と洗浄効率の両方をバチンス(妥協)させたものとなる。すなわち、蒸気洗浄時の燃焼の危険が下がり、満足な洗浄特性が得られ、特に特定のグリース、例えば充填剤としてリチウム/カルシウムまたは充填剤として複合リチウムを含む無機グリースの場合に満足な洗浄特性が得られる。
【0026】
(4)本発明は、洗浄用途(特に蒸気洗浄)に関する規制、特に、ハンドリング時(容器への充填時)、輸送時(コンテナを膨潤または破壊させるリスク)、(気相の凝結に必要な冷凍ユニットの運転性能))に関する規制を満たすような沸点を有する洗浄組成物を提供する。特に、本発明洗浄組成物の沸点はHFCO−1233zd単独で使用したときより高く、約18℃である(この値に関しては重量の規制の問題を思い出されたい)。
【0027】
(5)本発明はGWPが低く、より一般的には環境に対する悪影響か比較的低い洗浄組成物を提供する。
【0028】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明が下記説明のものに限定されるものではない。特に断らない限り、全ての百分比は重量百分比である。
【0029】
洗浄操作
本発明は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HFCO−1233zd)と、トランス−1,2−ジクロロエチレン(TDCE)との二元組成物の固体表面の洗浄での使用を提供する。
【0030】
被洗浄固体表面は溶接剤で汚染された電子集積回路板にすることができる。この場合の洗浄操作は脱フラックス(defluxing)である。
【0031】
被洗浄固体表面はグリースまたはオイル(鉱油)で汚染された金属部品、ガラス、プラスチックおよび/または複合材料にすることもできる。この場合の洗浄操作は脱脂プロセスである。グリースまたは鉱油は無組成物または有機タイプの充填剤を含んでいてもよい。これには洗浄が難しい高粘度(40℃で85mm2/秒以上)のグリースが含まれる。それは特に充填剤としてリチウム/カルシウムを含む鉱物グリース(耐高圧グリース)または充填剤として複合リチウムを含む鉱物グリース(耐高荷重、高速グリース)である。本発明組成物はこれらのグリースを特に効果的に洗浄できる。
【0032】
洗浄操作はHFCO−1233zdとTDCEの二成分組成物と固体表面とを接触させて洗浄することを基本にする。この接触操作中、組成物は液相および/または気相にすることができる。洗浄効果を上げるために接触操作は蒸気相で行うのが好ましい。従って、本発明プロセスは下記段階を含む:
(1)液体の洗浄組成物を用意し、
(2)洗浄組成物を加熱して蒸気状態にし、
(3)固体表面を洗浄組成物と接触させ、
(4)洗浄組成を回収し、冷却して洗浄組成を液体に戻す。
【0033】
本発明プロセスは一般に少なくとも2つの容器すなわち蒸発容器と回収容器とを有するプラントで実行される。蒸発容器には液体の組成物を収容する。被洗浄固体表面を蒸発容器の上方に置く。蒸発容器の洗浄組成は加熱され、部分的に蒸発する。従って、蒸気形をした洗浄組成と被洗浄固体表面とが接触する。物質(グリース、その他)は洗浄中に運び去られ、蒸発容器中に落下し、沈殿し、回収される。
【0034】
冷却手段を被洗浄固体表面より上方に配置することで洗浄組成を凝縮することができる。凝縮した洗浄組成は回収容器集められ、それから蒸発容器へ送られる。一般には洗浄組成物(HFCO−1233zdとTDCE)の各化合物の補給装置または組成物自体の補給装置が設けられている。
【0035】
さらに、固体表面を同じ洗浄組成物(液相)または他の溶剤ですすぐ(rinsing) ことができる。
【0036】
洗浄組成物
二元組成物(binary composition)という用語は他を含まないまたは実質的に含まないHFCO−1233zdとTDCEのみから成る組成物を意味する。特に、本発明組成物は不純物または添加剤を1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、さらには0.1重量%以下しか含まない。
【0037】
HFCO−1233zdはトランス形であるのが好ましい。トランス形はシス形より有毒でないという利点がある。トランス形のHFCO−1233zdは少なくとも80重量%であるのが有利であり、好ましくは少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、さらには少なくとも9重量%にする。理想的にはHFCO−1233zdの基本的に全てをトランス形にする。
【0038】
本発明の洗浄方法で使用するHFCO−1233zdとTDCEの洗浄組成物は、液体の形で下記から成ることができる(値は重量百分比を表す):
(a)1%のHFCO−1233zd〜99%のHFCO−1233zdと、1%のTDCE〜99%のTDCE、
(b)10%のHFCO−1233zd〜90%のHFCO−1233zdと、10%のTDCE〜90%のTDCE、
(c)20%のHFCO−1233zd〜80%のHFCO−1233zdと、20%のTDCE〜80%のTDCE、
(d)30%のHFCO−1233zd〜70%のHFCO−1233zdと、30%のTDCE〜70%のTDCE、
(e)40%のHFCO−1233zd〜60%のHFCO−1233zdと、40%のTDCE〜60%のTDCE、
(f)45%のHFCO−1233zd〜55%のHFCO−1233zdと、45%のTDCE〜55%のTDCE、
(g)例えば約50%HFCO−1233zdと50%のTDCE。
【0039】
特に、約50%HFCO−1233zdと50%のTDCEから成る組成物は優れた洗浄性能を示し、特にある種のグリース、例えば充填剤としてリチウム/カルシウムを含む無機グリースまたは充填剤として複合リチウムを含む無機グリースに対して優れた洗浄性能を示す。さらに、その沸点は約30℃で、これは洗浄用途に関する実際の規制に対して満足なものである。
【0040】
HFCO−1233zdを約50%または50%以下含む組成物は、TDCEの高い洗浄力によって、固形金属表面の洗浄に特に有効である。さらに、洗浄用途に適した高い沸点を有する。一方、HFCO−1233zdを少なくとも75%含む組成物、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%含む組成物は、HFCO−1233zdがTDCEよりプラスチックに対する相溶性が高いので、固体のプラスチックまたは複合材料の洗浄に特に適している。
【0041】
引火性の観点からは、約50%のHFCO−1233zdと、50%のTDCEとから成る液体組成物は引火点を示さない。しかし、この組成物は共沸(azeotropic)でない。従って、洗浄プロセス(特に、上記の蒸気浄操作の場合)では、事故時(化合物のリーク、冷却手段の故障等)に液体組成物自体の量が変化すると、液体組成物中のHFCO−1233zdおよびTDCEの相対重量配合比が変化する。この場合には最終液体組成物が引火点を示すことになり、引火性ということになる。
【0042】
特に、50%のHFCO−1233zdと、50%のTDCEとから成る初期液体組成物の90重量%蒸発させた後に得られる最終液体組成物は引火性である。より一般的には、HFCO−1233zdの配合比率が56%以下である初期液体組成物の90重量%を蒸発させた後に得られる全ての最終液体組成物も同様である。
【0043】
一方、HFCO−1233zdの比率が57%以上であるHFCO−1233zdとTDCEの初期液体組成物。特に、下記の配合比率を有する液体組成物はそうではない:
(h)57%のHFCO−1233zd〜65%のHFCO−1233zdと、35%のTDCE〜43%のTDCE、
(i)58%のHFCO−1233zd〜63%のHFCO−1233zdと、37%のTDCE〜42%のTDCE、
(j)59%のHFCO−1233zd〜61%のHFCO−1233zdと、39%のTDCE〜41%のTDCE、
(k)例えば約60%のHFCO−1233zdと、約40%TDCE。
【0044】
従って、上記の(h)〜(k)のHFCO−1233zdとTDCEとの組成物は洗浄、特に蒸気洗浄で液体組成物のレベル(特に蒸発容器のレベル)が低下する事故が起こった場合に、より大きな安全性を得ることでき。さらに、上記(h)〜(k)の組成物は満足な洗浄特性を示し、HFCO−1233zdの濃度が高くなる(例えば、HFCO−1233zdの濃度が70%以上になる)と、組成物の洗浄性能が低下する(特に上記グリースの場合)ので、特に充填剤としてリチウム/カルシウムを含むミネラル・グリースまたは充填剤として複合リチウムを含むミネラル・グリースに対して満足な洗浄特性を示す。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記しレに限定されるものではない。
実施例1(洗浄特性)
種々の液体洗浄組成物を下記のプロトコルに従ってテストした:
(1)寸法が30×10mmの研磨、清浄化したステンレス鋼(316Lタイプ)製のテストサンプルを0.1mgの精度で秤量した。このテストサンプルの表面上に少量のグリースを付けた。グリースを付けたテストサンプルを秤量してグリースの重さを決定した。
【0046】
次いで、テストサンプルを20℃に維持された洗浄組成物を収容したビーカー中に5分間浸し、空気中で5分間乾燥する。この処理後、テストサンプルを秤量して洗浄組成物によって除去されたグリースの百分比を決定した。結果は3回のテストの平均値で表した。
【0047】
下記の各種タイプのグリースをテストした:
(1)グリースA:充填剤としてリチウム/カルシウムを含むミネラル・グリース、
(2)グリースB:充填剤としてリチウムを含むミネラル・グリース、
(3)グリースC:充填剤としてリチウムを含む耐水性のミネラルグリース。
【0048】
下記の複数の液体洗浄組成物をテストした:
(1)50/50組成物:50%のトランス−HFCO−1233zdと、50%のTDCE、
(2)60/40組成物:60%のトランス−HFCO−1233zdと、40%のTDCE、
(3)70/30組成物:70%のトランス−HFCO−1233zdと、30%のTDCE、
(4)80/20組成物:80%のトランス−HFCO−1233zdと、20%のTDCE、
(5)1233zd組成物:トランス−HFCO−1233zdが100%、
(6)三元組成物:67%のトランス−HFCO−1233zdと、17%のTDCEと、16%の酢酸メチル。
【0049】
得られた結果は[表1]にまとめた。
【表1】

【0050】
テストした全てのHFCO−1233zd/TDCEの2成分組成物はグリースA、グリースBおよびグリースCにおいてHFCO−1233zd単独のものより良い運転性能を示し、また、3成分のHFCO−1233zd/TDCE/酢酸メチル組成物より少なくともグリースAおよびCで良い運転性能を示すことが分かる。50%のHFCO−1233zdと50%のTDCEから成る2成分組成物はグリースA、B、Cで優れた洗浄特性を示すことで特徴づけられ、60%のHFCO−1233zdと40%のTDCEから成る2成分組成物は少なくともグリースBとCで優れた洗浄特性を有するという特徴がある。70%のHFCO−1233zdと30%のTDCEから成る2成分組成物または80%のHFCO−1233zdと20%のTDCEから成る2成分組成物は60%のHFCO−1233zdと40%のTDCEから成る二成分組成物に比べて全てのグリースで相対的に有効度が低いという特徴がある。
【0051】
実施例2(引火性)
各種のトランス−HFCO−1233zdとTDCEの2成分液体組成物の引火性を、組成物そのものおよび液体組成物の90重量%が蒸発した後に得られる組成物でASTM規格D−3828に従って求めた。得られた結果は[表2]にまとめて示した。
【0052】
【表2】

【0053】
HFCO−1233zdを少なくとも57%含むHFCO−1233zd/TDCE二成分組成物はその90重量%が蒸発した後で不燃性であることが分かる。従って、上記組成物はHFCO−1233zdを57%以下しか含まない組成物より洗浄操作、特に蒸発相での安全性が保証される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む液体組成物であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが組成物の少なくとも99重量%である液体組成物の、固体表面の洗浄での使用。
【請求項2】
洗浄時に上記液体組成物を蒸発させる請求項1に記載の使用。
【請求項3】
電子集積回路板の脱フラックス、または金属部品、ガラス、プラスチックまたは複合材料の脱脂、この脱脂が好ましくは充填剤を含む、または、含まない無機または有機のグリースまたはオイルの中から選択されるグリースまたはオイル、特に好ましくは充填剤としてのリチウム/カルシウムまたは複合リチウムを含む無機グリースの中から選択されるグリースの洗浄から成る請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
液体組成物中でのトランス−1,2−ジクロロエチレンに対する1クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの重量比が、
1:99〜99:1の間、または、
10:90〜90:10の間、または、
20:80〜80:20の間、または、
30:70〜70:30の間、または、
40:60〜60:40の間、または、
45:55〜55:45の間であり、好ましくは約50:50である請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの少なくとも80重量%がトランス形であり、好ましくは1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの全体の少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、理想的には少なくとも98重量%がトランス形である請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、トランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む組成物と接触させて固体表面を洗浄する方法であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンが組成物の少なくとも99重量%であることを特徴とする固体表面を洗浄する方法。
【請求項7】
被洗浄固体表面が溶接剤で汚染された機械部品または電子部品またはグリースまたはオイルで汚染された金属部品、ガラス、プラスチックおよび/または複合材料であり、上記のグリースまたはオイルが充填剤を含む、または、含まない無機または有機のグリースまたはオイルであり、好ましくはリチウム/カルシウムまたは複合リチウムを含む無機グリースから選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
下記(1)と(2)を含む請求項6または7に記載の方法:
(1)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含み、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが液体洗浄組成の少なくとも99重量%である液体洗浄組成を用意し、
(2)上記液体洗浄組成物を固体表面と接触させる。
【請求項9】
下記(1)〜(4)を含む請求項6または7に記載の方法:
(1)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含み、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが液体洗浄組成の少なくとも99重量%である液体洗浄組成を用意し、
(2)上記液体洗浄組成物を加熱して気体の洗浄組成物を作り、
(3)上記気体の洗浄組成物を固体表面と接触させる。
(4)必要に応じて、気体の洗浄組成物を回収し、凝縮する。
【請求項10】
トランス−1,2−ジクロロエチレンに対する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの重量比が、
1:99〜99:1の間、または、
10:90〜90:10の間、または、
20:80〜80:20の間、または、
30:70〜70:30の間、または、
40:60〜60:40の間、または、
45:55〜55:45の間であり、好ましくは約50:50である請求項請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの少なくとも80重量%がトランス形であり、好ましくは1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの全体の少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、理想的には少なくとも98重量%がトランス形である請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、トランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む液体組成物であって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンが液体組成物の少なくとも99重量%であり、トランス−1,2−ジクロロエチレンに対する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの重量比が57:43〜65:35の間、好ましくは58:42〜63:37の間、特に好ましくは59:41〜61:39の間にある液体組成物。
【請求項13】
液体組成物が請求項12に記載のものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
液体洗浄組成物が請求項12に記載のものである請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−518140(P2013−518140A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549396(P2012−549396)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/FR2011/050060
【国際公開番号】WO2011/089344
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】