説明

ヒューズ

【課題】低融点金属チップを加締めるための加締め片を不要とし、溶解した低融点金属がスムーズに溶断部に向けて流れるようにする。
【解決手段】端子1、2間を繋ぐ可溶部3が、溶断部4aを一部に有した連結基板部4と、過電流により溶融し連結基板部上の溶断部に拡散して合金相を形成する低融点金属チップ10とで構成され、低融点金属チップが溶断部に近接するチップ搭載板部5上に溶着されたヒューズにおいて、チップ搭載板部の表面にひょうたん形の凹部6が設けられ、該凹部の内底面の溶断部に近い領域に溶断部に向けて登り傾斜する傾斜面6bが設けられると共に、傾斜面の両側の凹部の内側面6tの間隔が溶断部に向けて徐々に窄まることで傾斜面の幅が溶断部に向けて徐々に細くなっており、凹部に一部が挿入された状態で低融点金属チップが溶着により固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電流から電線や機器等を保護するためのヒューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の電気回路には、過電流から電線や機器等を保護するためのヒューズが用いられている。
この種のヒューズは、例えば、図3(a)に示すように、過電流が流れた時に溶断するように一対の端子101、102間を導通接続する可溶部103が、前記一対の端子101、102と同一の可溶金属導体で前記一対の端子101、102と一体に形成された帯板状の連結基板部104と、この連結基板部104の溶断部104aの近傍に溶着された低融点金属チップ110とを備えた構成となっている。
【0003】
この場合、端子101、102や連結基板部104を構成する可溶金属導体(母材)は、導電線と同じ銅合金よりなり、溶断部104aは、断面積を他の部分より小さくすることで大電流の流れた際に瞬断するように設定されている。一方、低融点金属チップ110は、銅(Cu)よりも融点の低いスズ(Sn)よりなり、通電による温度上昇で溶融し溶断部104a内に拡散して合金相を形成するようになっている。よって、中乃至小電流域では、母材の銅合金より抵抗の高いスズとの合金相で溶断することになる。このように、スズあるいはスズを主成分とする合金等の低融点金属を有するヒューズは、スズの質量により通電電流に対する溶断時間を変動させることができ、中実の低融点金属チップの寸法を変えることで溶断特性の調整を行なっている。
【0004】
また、この種のヒューズでは、図3(a)及び図3(b)に示すように、低融点金属チップ110を、連結基板部104の両側縁に一体形成した一対の加締め片105を円筒状に巻いて加締めることにより保持し、その状態で、低融点金属チップ110を一旦加熱して溶融させることにより、連結基板部104に溶着している。このように溶着することによって、連結基板部104と低融点金属チップ110との間に広い接触面を確保することができ、この広い接触面を介して電流及び熱を低融点金属チップ110に有効に伝導させることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−18638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の従来例のヒューズにおいては、低融点金属チップ110を保持するために、連結基板部104の両側縁に、低融点金属チップ110の加締めに必要な長さだけ張り出した一対の加締め片105を一体に形成しているので、それだけプレスで打ち抜く材料の面積が増大し、1枚の金属板から複数のヒューズ本体を打ち抜く際のプレスピッチが拡大して、材料の歩留まりが悪くなる上、加締め片105を円筒状に巻いて加締めるための加締め工程や加締め装置が余分に必要になり、コストアップになるという問題があった。また、加締め片105から不要な放熱が行われることになり、溶断遅延を起こす要因となるという問題もあった。また、溶解した低融点金属が拡散する際に、低融点金属チップ110と加締め片105の接触面に沿って拡散するため、意図しない方向への拡散が発生することで溶断特性不良を生じる可能性もあった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低融点金属チップを加締めるための加締め片を不要とし、より簡便な構造で、溶着前と溶着後の低融点金属チップを確実に保持することができ、それによりコストダウンを図ることができると共に、余分な放熱を防止して溶断特性の向上を図ることができ、しかも、溶解した低融点金属がスムーズに溶断部に向けて流れるようにして溶断特性不良を低減することのできるヒューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 過電流が流れた時に溶断するように一対の端子間を導通接続する可溶部が、過電流による温度上昇で溶融切断する溶断部を一部に有して前記一対の端子と同一の可溶金属導体で前記一対の端子と一体に形成された連結基板部と、前記可溶金属導体より融点が低く過電流により溶融し前記連結基板部上の溶断部に拡散して合金相を形成する低融点金属チップとで構成され、前記低融点金属チップが、前記溶断部に近接するように前記連結基板部に設けられたチップ搭載板部上に溶着されているヒューズにおいて、
前記チップ搭載板部の表面に凹部が設けられ、該凹部の内底面の前記溶断部に近い領域に、前記溶断部に向けて登り傾斜する傾斜面が設けられると共に、該傾斜面の幅方向両側の前記凹部の内側面の間隔が前記溶断部に向けて徐々に窄まることで前記傾斜面の幅が溶断部に向けて徐々に細くなっており、前記凹部に一部が挿入された状態で前記低融点金属チップが溶着により固定されていることを特徴とするヒューズ。
【0009】
(2) 前記凹部の内側面に内方に突出した角部が設けられ、該角部を、前記低融点金属チップに食い込んでチップを保持するチップ係止部として、前記凹部に前記低融点金属チップの一部が挿入され、その状態で、前記低融点金属チップが溶着により前記チップ搭載板部に固定されていることを特徴とする上記(1)に記載のヒューズ。
【0010】
(3) 前記凹部が、互いに対向する内側面上に一対の前記角部を有する平面視ひょうたん形に形成され、該ひょうたん形の凹部の先端を合流点として、傾斜面の両側の前記凹部の内側面の間隔が前記溶断部に向けて徐々に窄まっていることを特徴とする上記(2)に記載のヒューズ。
【0011】
上記(1)の構成のヒューズによれば、凹部に低融点金属チップの一部を挿入することにより、凹部によって低融点金属チップを位置決めして保持することができるので、低融点金属チップの溶着時に、脱落することがなく安定して低融点金属チップを凹部の形状に沿って定位置に溶着することができる。
【0012】
また、使用状態において過電流が流れてヒューズが加熱された時には、凹部によって保持された低融点金属チップが溶融することで溶断部へと流れ込むことになるので、スムーズに低融点金属による合金相を形成することができる。その際、凹部の内底面に存在する傾斜面によって、溶解した低融点金属の進行方向が溶断部へ向かう方向に決められる上、傾斜面の幅が溶断部に向かうに従い細くなっているので、溶解した低融点金属がスムーズに溶断部へと誘導され、意図しない部位への低融点金属の拡散が抑制され、溶断特性不良を低減することができる。
【0013】
従って、チップ搭載板部に凹部を形成するだけの簡単な構造であり、従来例のような加締め片が不要であるから、簡便なプレス加工で実施可能であり、プレスピッチの大幅な縮小を実現できて材料の歩留まり向上を図ることができると共に、加締め工程が不要となるから、工数や設備の軽減が図れてコストダウンが可能となる。
【0014】
また、加締め片がないので、余計な放熱が行われなくなり、溶断遅延が防止されて溶断特性が向上する。
【0015】
また、溶解した低融点金属の溶断部への流れを凹部の内底面の傾斜面により誘導できるので、溶断特性不良を低減することができる。
【0016】
上記(2)の構成のヒューズによれば、凹部に低融点金属チップの一部を挿入した際、凹部の内側面に設けられた角部が低融点金属チップに食い込むことによって低融点金属チップを確実に保持することができるので、より安定して低融点金属チップをチップ搭載板部に溶着することができる。
【0017】
上記(3)の構成のヒューズによれば、角部が互いに対向して一対設けられているので、低融点金属チップに対する保持力が更に強くなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、チップ搭載板部に凹部を形成するだけの簡単な構造であり、従来例のような加締め片が不要であるから、簡便なプレス加工で実施可能であり、プレスピッチの大幅な縮小を実現できて材料の歩留まり向上を図ることができると共に、加締め工程が不要となるから、工数や設備の軽減が図れてコストダウンが可能となる。
また、加締め片がないので、余計な放熱が行われなくなり、溶断遅延が防止されて溶断特性が向上する。また、溶解した低融点金属の溶断部への流れを凹部の内底面に形成した傾斜面により誘導できるので、溶断特性不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態のヒューズの低融点金属チップ溶着前の図で、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のIb部の拡大図、図1(c)は図1(b)のIc−Ic矢視断面図である。
【図2】同ヒューズの要部拡大構成図で、図2(a)は低融点金属チップ溶着前の構成を示す斜視図、図2(b)は低融点金属チップを溶着した後の構成を示す斜視図、図2(c)は図2(b)のIIc−IIc矢視断面図、図2(d)は図2(b)のIId−IId矢視断面図である。
【図3】従来のヒューズの構成図で、図3(a)は低融点金属チップ溶着前の状態を示す平面図、図3(b)は加締め片により低融点金属チップを加締めた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は実施形態のヒューズの低融点金属チップ溶着前の図で、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のIb部の拡大図、図1(c)は図1(b)のIc−Ic矢視断面図、図2は同ヒューズの要部拡大構成図で、図2(a)は低融点金属チップ溶着前の構成を示す斜視図、図2(b)は低融点金属チップを溶着した後の構成を示す斜視図、図2(c)は図2(b)のIIc−IIc矢視断面図、図2(d)は図2(b)のIId−IId矢視断面図である。
【0021】
このヒューズにおいては、図1(a)に示すように、過電流が流れた時に溶断するように一対の端子1、2間を導通接続する可溶部3が、過電流による温度上昇で溶融切断する溶断部4aを長手方向の一部に有して一対の端子1、2と同一の可溶金属導体で一対の端子1、2と一体に形成された帯板状の連結基板部4と、図2(a)〜図2(d)に示すように、前記可溶金属導体より融点が低く過電流により溶融し連結基板部4上の溶断部4aに拡散して合金相を形成する低融点金属チップ10とで構成されており、低融点金属チップ10が、溶断部4aに近接するように連結基板部4に設けられたチップ搭載板部5上に溶着されている。
【0022】
この場合、第1の特徴的なことは、チップ搭載板部5の表面に、内側面6t上に幅方向内方に突出した一対の角部6c、6cを有する平面視ひょうたん形(楕円形の中央が括れたような略8の字状の形)の凹部6が設けられており、それら一対の角部6c、6cを、低融点金属チップ10に食い込んでチップ10を保持するチップ係止部として、凹部6に低融点金属チップ10の一部が挿入され、その状態で、低融点金属チップ10が溶着によりチップ搭載板部5に固定されていることである。
【0023】
また、第2の特徴的なことは、ひょうたん形の凹部6の内底面のうち、溶断部4aから遠い略1/2〜2/3の領域がチップ搭載板部5の表面に平行なフラットな底面6aとして形成され、溶断部4aに近い残りの領域が溶断部4aに向けて登り傾斜する傾斜面6bとして形成され、傾斜面6bの両側の凹部6の内側面6tの間隔が溶断部4aに向けて徐々に窄まって1点の合流点6d(ひょうたん形状の先端)に合流し、傾斜面6bの幅が溶断部4aに向けて徐々に細くなっていることである。なお、ひょうたん形の凹部6の縦の中心線は溶断部4aの長手方向に平行に設定され、一対の角部6c、6cは溶断部4aの長手方向に直交するチップ搭載板部5の幅方向に対向配置されている。また、フラットな底面6aと傾斜面6bの接続部6eは、一対の角部6c、6cよりも溶断部4aに近い位置に位置している。
【0024】
次に上記構成のヒューズの製造方法を説明する。
まず、1枚の金属板(可溶金属導体)をプレス加工して、図1に示すような、一対の端子1、2と、それらを繋ぐ連結基板部4とを有する形状のヒューズ本体20を形成し、チップ搭載板部5に凹部6を形成する。次に、図2に示すように、その凹部6に一部を挿入してチップ搭載板部5の上面に低融点金属チップ10を載せる。この段階で、低融点金属チップ10に凹部6の角部6cが食い込むことで、低融点金属チップ10が保持される。次に、その状態で加熱して低融点金属チップ10を溶融させた後、凝固させる。そうすることで、低融点金属チップ10が凹部6の形状に沿って溶着され、チップ搭載板部5上に固定される。
【0025】
このように、凹部6に低融点金属チップ10の一部を挿入した際、凹部6の内側面6tに設けられた角部6c、6cが低融点金属チップ10に食い込むことによって低融点金属チップ10が確実に保持されるので、低融点金属チップ10の溶着時に、脱落することがなく安定して低融点金属チップ10を凹部6の形状に沿って定位置に溶着することができる。特に、凹部6がひょうたん形であり一対の角部6c、6cによって低融点金属チップ10が確実に強く保持されるので、安定した溶着作業が可能となる。
【0026】
そして、使用状態において過電流が流れてヒューズが加熱された時には、一対の角部6c、6cによって保持された低融点金属チップ10が溶融することで、角部6c、6cより解放されて溶断部4へと図2(a)中矢印Aのように流れ込むことになるので、スムーズに低融点金属による合金相を形成することができる。その際、凹部6の内底面に存在する傾斜面6bによって、溶解した低融点金属の進行方向が溶断部4へ向かう方向に決められる上、傾斜面6bの幅が溶断部4に向かうに従い細くなっているので、溶解した低融点金属がスムーズに溶断部4へと誘導され、意図しない部位への低融点金属の拡散が抑制され、溶断特性不良を低減し、安定した溶断特性を発揮することができるようになる。
【0027】
以上のように、この実施形態のヒューズによれば、チップ搭載板部5に凹部6を形成するだけの簡単な構造であり、従来例のような加締め片が不要であるから、簡便なプレス加工で実施可能であり、プレスピッチの大幅な縮小を実現できて材料の歩留まり向上を図ることができると共に、加締め工程が不要となるから、工数や設備の軽減が図れてコストダウンが可能となる。
【0028】
また、加締め片がないので、余計な放熱が行われなくなり、溶断遅延が防止されて溶断特性が向上する。また、溶断部4aへの低融点金属の進行をスムーズに行なわせることができるので、安定した溶断特性を発揮することができるようになる。また、溶解した低融点金属の溶断部4への流れを凹部6の内底面の傾斜面6bにより誘導できるので、溶断特性不良を低減することができる。
【0029】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0030】
1,2 端子
3 可溶部
4 連結基板部
4a 溶断部
5 チップ搭載板部
6 凹部
6b 傾斜面
6c 角部
6t 内側面
10 低融点金属チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過電流が流れた時に溶断するように一対の端子間を導通接続する可溶部が、過電流による温度上昇で溶融切断する溶断部を一部に有して前記一対の端子と同一の可溶金属導体で前記一対の端子と一体に形成された連結基板部と、前記可溶金属導体より融点が低く過電流により溶融し前記連結基板部上の溶断部に拡散して合金相を形成する低融点金属チップとで構成され、前記低融点金属チップが、前記溶断部に近接するように前記連結基板部に設けられたチップ搭載板部上に溶着されているヒューズにおいて、
前記チップ搭載板部の表面に凹部が設けられ、該凹部の内底面の前記溶断部に近い領域に、前記溶断部に向けて登り傾斜する傾斜面が設けられると共に、該傾斜面の幅方向両側の前記凹部の内側面の間隔が前記溶断部に向けて徐々に窄まることで前記傾斜面の幅が溶断部に向けて徐々に細くなっており、前記凹部に一部が挿入された状態で前記低融点金属チップが溶着により固定されていることを特徴とするヒューズ。
【請求項2】
前記凹部の内側面に内方に突出した角部が設けられ、該角部を、前記低融点金属チップに食い込んでチップを保持するチップ係止部として、前記凹部に前記低融点金属チップの一部が挿入され、その状態で、前記低融点金属チップが溶着により前記チップ搭載板部に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のヒューズ。
【請求項3】
前記凹部が、互いに対向する内側面上に一対の前記角部を有する平面視ひょうたん形に形成され、該ひょうたん形の凹部の先端を合流点として、傾斜面の両側の前記凹部の内側面の間隔が前記溶断部に向けて徐々に窄まっていることを特徴とする請求項2に記載のヒューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−73675(P2013−73675A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209426(P2011−209426)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】