説明

ヒータ断線検出装置

【課題】ヒータ定格の電圧より低い電圧で運転されている場合でも、複数並列ヒータのうち、1本のヒータの断線を確実に検出し、各種のヒータに対応する汎用性を持つヒータ断線検出装置
【解決手段】電気ヒータ回路に、変圧器と電流検出器を接続し、ヒータに印加される電圧を該変圧器で検出してヒータ電圧信号として入力し、ヒータに流れる電流を該電流検出器で検出してヒータ電流信号として入力して、両信号の関係が予め設定した範囲を外れた場合に、警報を出力するようにしたヒータ断線検出装置において、ヒータ電圧信号、およびヒータ電流信号の最大値信号を保持する回路を設け、信号処理部が該最大値信号の取込み処理を終了するに続き、最大値信号を保持する回路をリセットする動作を繰り返すように構成し、ヒータ電圧信号の最大値とヒータ電流信号の最大値の関係からヒータの状態を判別してヒータの断線判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気ヒータを用いて加熱や保温するための電気炉や加熱処理装置のヒータの断線を検出し、警報を発するヒータ断線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉や加熱処理装置(以下、単に加熱装置と称する)は、半導体製造工程など、種々な生産工程で使用されている。これら、加熱装置に使用する電気ヒータ(以下、単にヒータと称する)は、運転効率を高めるために、急速加熱に対応する高容量のヒーターを使用して、定常運転では定格電圧より格段と低い電圧で運転する方法が一般化している。これらヒータの電力制御は、サイリスタによる位相制御電源が多く用いられる。
【0003】
また、ヒータは複数を並列接続して構成していることが多く、10本以上も並列接続されている場合も少なくない。
このような加熱装置の構成、運転状況において、使用ヒータのうち、一本のヒータが断線すると、加熱装置内の温度分布がみだれ、加工中の製品に不良が発生して多くの損害をもたらす。
【0004】
使用しているヒーターが1本の場合は、ヒータが断線すると、電流が流れなくなるので検出も単純で高い検出精度を必要としない。
しかし、仮に10本のヒータが並列接続されていて、1本のヒータが断線した場合、ヒータ電流の変化量は10%しか生じない。このような場合の断線を誤動作なく信頼性高く確実に検出するには、少なくとも変化量の1/2以下、5%以内の検出感度と精度を有するヒータ断線検出装置でヒータを監視する必要がある。
【0005】
このようなヒータ断線検出装置にはヒータを運転中に、ヒータに印加する電圧とヒータに流れる電流を、ヒータ電圧信号とヒータ電流信号として入力して、それぞれの信号(交流)を整流した後、両者を比較処理、あるいは電圧÷電流などの計算処理を施し、これらの処理の結果、ヒータ断線と判定した場合、警報信号出力を行うリレーをを配置しているものがある。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、参照)
【0006】
従来のヒータ断線検出装置は、前記参照文献で示されたようにして、ヒータの断線検出を行い、監視をしている。
ヒータへ印加する電圧は、温度制御のために制御され、時々刻々と変化する交流電圧であり、ヒーター監視のために、取込まれるヒータ電圧信号とヒータ電流信号は整流して信号処理をしている。交流の電圧、電流は一般的には実効値で表現されるが、測定器などで、整流して入力される場合、その値は実効値ではなく、回路構成上本質的に平均値となる。前記いずれの参照文献においても、ヒータ電圧信号とヒータ電流信号は平均値で信号が処理される。
【特許文献1】特開平06−290854号公報(第4頁、図1)
【特許文献2】特開平04−223086(第3頁、図1)
【特許文献16】特開平03−53484(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般の測定器などの感度や精度は、定格入力(フルスケール)に対する値(%)で示されるが、ヒータ断線検出装置に要求される感度や精度は、本質的に現在の測定値に対する値(%)が要求される。
【0008】
10本の並列接続ヒータのうち、1本のヒータ断線を検出する場合、ヒータ断線検出装置は5%以内の検出感度と精度が必要と背景技術の項で述べたが、実際のヒータは定常運転では定格電圧より低い電圧で運転され、たとえば定格電圧の20%程度で運転することもある。
【0009】
さらに汎用性を持つヒータ断線検出装置は、各種のヒータに対応することを求められ、装置の最大定格電流より小さい電流のヒータを監視することがある。たとえば定格電流10Aのヒータに対応するように製作されたヒータ断線検出装置で、定格電流2Aのヒータを監視することもあり、この場合の電流入力は、ヒータ断線検出装置定格電流の20%が最大入力電流となる。このような場合、ヒータ断線検出装置の電流入力は、20%×20%となり、定格電流の4%しか入力されないことになる。
【0010】
さらに、不都合なことにこれらの値は、交流の実効値で示しているが、この種の装置で実際に扱われる信号は平均値で入力され、入力はさらに小さくなる。
AC100Vの電圧を位相制御で実効値20V(20%)にすると、平均値は約7.5Vにしかならない。実効値100Vのとき、平均値は約90Vであるから7.5Vの場合、その割合は8.5%となる。
【0011】
従って上記、実効値で計算して4%としたヒータ断線検出装置の電流入力は、実際には20%×8.5%、即ち1.7%になってしまう。
この入力に対しても、検出感度と精度が5%以内の値でないと、ヒータの断線を検出できなかったり、誤警報を出力するなどの不具合を生じる。定格入力の1.7%の入力で、精度5%を保つことは、一般の測定器のように、定格入力に対する値に換算すると、精度0.085%となり、精密計器と同等以上の検出感度と精度が必要となり、製造現場などで使用する実用装置としての製作実現が困難である、との課題があった。
本発明は、このような課題を解決したヒータ断線検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
電気ヒータ回路に、変圧器と電流検出器を接続し、ヒータに印加される電圧を該変圧器で検出してヒータ電圧信号として入力し、ヒータに流れる電流を該電流検出器で検出してヒータ電流信号として入力して、両信号の関係が予め設定した範囲を外れた場合に、警報を出力するようにしたヒータ断線検出装置において、ヒータ電圧信号、およびヒータ電流信号の最大値信号を保持する回路を設け、信号処理部が該最大値信号の取込み処理を終了するに続き、最大値信号を保持する回路をリセットする動作を繰り返すように構成し、ヒータ電圧信号の最大値とヒータ電流信号の最大値の関係からヒータの状態を判別してヒータの断線判定行うことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、サイリスタによる位相制御によってヒータの電圧、および電流の実効値が低くなったヒータ運転状態、たとえば実効電圧が20%に低下した場合においても、ヒータ電圧の最大値は56%までしか低下しない。同様に電流の最大値の低下も56%である。
また、監視ヒータが装置定格電流の20%のものであるとき、両者あわせた入力の低減率は、56%×20%≒11.2%で、この入力において必要とされる検出感度と精度5%以内とされる値は、定格入力換算で0.56%となる。この値は平均値入力で処理している従来装置の0.085%に比べ、実用装置の製作をはるかに容易にする。
以上は入力が小さい極端な例であるが、通常の使用においても、平均値入力処理より入力低減率が低いため、精度良くヒータの断線を検出することができる。
以上のように精度向上が図れるので、複数並列ヒータの、1本のヒータ断線を確実に検出することが可能で、また広範囲のヒータ電流に対応することが出来る効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ヒータに印加される電圧を、変圧器を介してヒータ電圧信号として入力、ヒータに流れる電流を、電流検出器を介してヒータ電流信号として入力して、この両信号をそれぞれ整流した後、信号の最大値を保持するようにして、信号処理部がこの最大値信号の取込み処理を終了すると、最大値信号のリセットを行い、信号処理部は、取込んだ最大ヒータ電圧信号と最大ヒータ電流信号を比較、あるいは計算処理を行って、ヒータ断線判定を行うようにする。
【実施例】
【0015】
図1は本発明のヒータ断線検出装置の実施例1を示す回路構成図で、監視対象のヒータ5を備えた加熱装置1と、このヒータ5の断線を検出するように接続したヒータ断線検出部2を示している。
加熱装置1の交流電源3は、位相制御を行うサイリスタ電源4を介して、複数のヒータが並列接続されているヒータ5に接続され、ヒーター電力の制御を行って、加熱温度を制御している。
この加熱装置1のヒータ回路には、ヒータ断線検出部2がヒータ電流を入力するための電流検出器6が直列に接続され、またヒータ断線検出装置2がヒータ電圧を入力するための変圧器7が、ヒータに並列に接続されている。
【0016】
ヒータ断線検出部2に入力された、ヒータ電流信号と、ヒータ電圧信号は、それぞれ整流回路8a、8bによって、全波整流波形、すなわち元の交流波形を0Vで折り返した波形の脈流に変換して、最大値信号を保持する回路9a、9bに入力する。
なお、整流後の信号は平滑しないで、最大値信号を保持する回路9a、9bに入力する。また図1では整流回路8a、8bは全波整流回路で示したが、この整流回路は半波整流回路でもよい。
【0017】
最大値信号を保持する回路9a、9bは、いわゆるピークホールド回路と同等で、リセット信号が与えられるまで、入力した信号の最大値を保持する。
このようにして保持された、ヒータ電流信号とヒータ電圧信号の最大値は、信号処理部12のADC(アナログ/デジタル変換器)13a、13bに取込まれる。
【0018】
信号処理部12はヒータ電流信号とヒータ電圧信号の取込みを終了すると、デジタル出力14a、14bからリセット信号を出力して、最大値信号を保持する回路9a、9bで保持した最大値信号をリセットする。リセットはアナログSW10a、10bをONすることで行う。図1でこのアナログSWはFETを使用しているが、IC化したアナログSWを使用してもよい。
【0019】
図2は、信号と処理タイミングを示した波形図で、図1交流電源3の波形20は、図1サイリスタ電源4で位相制御され、例えば波形21のような位相制御波形として、ヒータに印加される。
この電圧(または電流)の波形21は、図1ヒータ断線検出部2に入力され、それぞれ整流して整流波形22を得る。この整流波形22は最大値信号を保持する回路で波形23のように最大値が保持され、信号処理部12に入力処理タイミング24で取込まれる。その後リセット信号25を出力して、最大値信号をリセットしている。
【0020】
位相制御された交流電圧の、導通角と、実効値、平均値、最大値との関係は、位相制御の導通角0°〜180°をθ、元の交流電圧の最大値をVm、平方根をSQRとすると、
実効値は、R=Vm×SQR((θ−sin2θ/2)/2π)
平均値は、A=Vm×(1−cosθ)/π
位相制御された後の最大値Pは、P=Vm×sinθ
で示される。
ただし、最大値Pについては、導通角θが90°以上の場合、90°の値と同じ値となる。
【0021】
図3は、これらの関係を示すグラフで、導通角180°のときの電圧を電圧比率100%として、比較している。
実際の電圧は元の交流電圧値を100V(実効値)とすると、180°で実効値100V、最大値は約141V、平均値は約90Vであるが、これらの値をそれぞれ100%として図3で示している。
【0022】
導通角約34°で、実効値が20%(20V)になったとき、最大値の電圧比率は約56%であるのに対して、平均値の電圧比率は約8.5%に低下していることがわかり、発明が解決しようとする課題の項で説明した内容が明確になっている。
このグラフからも導通角の変化による最大値と平均値の低下率の違いが明白で、最大値処理によって装置の検出感度と精度がよくなることが判る。
【0023】
再び説明を図1に戻し、このようにして検出したヒータ電流信号とヒータ電圧信号の最大値は、計算部16で処理し、警報設定器18で設定した値の範囲から外れた場合に、デジタル出力17からヒータが断線した旨の信号を出力し、警報出力回路19のリレーをONして断線警報を出力する。
【0024】
計算部16では、ヒータ抵抗=ヒータ電圧信号÷ヒータ電流信号、
あるいは、ヒータ導電率=ヒータ電流信号÷ヒータ電圧信号、としてヒータ固有の特性値を計算し、警報設定器18の設定値を、デジタル入力15を介して与えられた値と比較して、正常、異常の判定をおこなう。
【0025】
例えば、正常時のヒータ電圧を100V、ヒータ電流を10Aとしたとき、ヒータ導電率は0.1であるが、ヒータが10本並列接続されていて、1本断線しヒータ電流を9Aになると、ヒータ導電率は0.09となる。
設定値の値を0.095としておき、ヒータ導電率がこの値以下になった場合にヒータ断線の警報を出力するようにしておけば、この例の場合、警報が出力される。
ヒータ電圧が位相制御されて低くなった場合でも、ヒータ導電率=ヒータ電流信号÷ヒータ電圧信号は一定で、正常に検出される。
これは、ヒータ抵抗=ヒータ電圧信号÷ヒータ電流信号としたときでも同様である。
【0026】
このように本発明ヒータ断線検出装置を構成、実施することにより、平均値処理を行っていた従来のヒータ断線検出装置と異なり、最大値処理を行っていることで、検出感度と精度がすぐれたを装置を実現することができる。
【0027】
なお、これまでの説明はヒータの電力制御を位相制御として説明してが、電圧を1サイクル毎に制御するサイクル制御や、時分割制御の場合でも本発明のヒータ断線検出装置を使用することができる。
この場合、ヒータ電圧の実効値や平均値が低くなっても、本発明のヒータ断線検出装置では、電圧比率100%のままで、電流がヒータの状態に応じた値として検出するので、精度低下をすることなくヒータの断線検出をおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のヒータ断線検出装置の実施例1を示す回路構成図
【図2】信号と処理タイミングを示した波形図
【図3】位相制御された交流電圧の、導通角と、実効値、平均値、最大値との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0029】
1 加熱装置
2 ヒータ断線検出部
3 交流電源
4 サイリスタ電源
5 ヒータ
6 電流検出器
7 変圧器
8a、8b 整流回路
9a、9b 最大値信号を保持する回路
10a、10b アナログSW
12 信号処理部
13a、13b ADC
14a、14b デジタル出力
15 デジタル入力
16 計算部
17 デジタル出力
18 警報設定器
19 警報出力回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気ヒータ回路に、変圧器と電流検出器を接続し、ヒータに印加される電圧を該変圧器で検出してヒータ電圧信号として入力し、ヒータに流れる電流を該電流検出器で検出してヒータ電流信号として入力して、両信号の関係が予め設定した範囲を外れた場合に、警報を出力するようにしたヒータ断線検出装置において、ヒータ電圧信号、およびヒータ電流信号の最大値信号を保持する回路を設け、信号処理部が該最大値信号の取込み処理を終了するに続き、最大値信号を保持する回路をリセットする動作を繰り返すように構成し、ヒータ電圧信号の最大値とヒータ電流信号の最大値の関係からヒータの状態を判別してヒータの断線判定行うことを特徴としたヒータ断線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−12578(P2007−12578A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219555(P2005−219555)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(391005008)株式会社フォレスト (1)
【Fターム(参考)】